(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106608
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】振動板およびそれを用いた電子機器
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010965
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 巧真
(57)【要約】
【課題】振動発電素子の所望の振動方向が、振動発電素子の長軸方向である場合、この振動発電素子を安定して保持できる保持手段を備える振動板とそれを有する振動発電器を提供する。
【解決手段】同一平面上に延在する本体と、前記本体の中央部分に、前記本体に対して垂直方向に窪む凹部を有する、振動発電素子の保持手段と、を有する、振動板を提供する。本発明はまた、当該振動板と、前記振動板に設置された振動発電素子と、前記振動板を接合する筐体とを有する電子機器を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に延在する本体と、
前記本体の中央部分に、前記本体に対して垂直方向に窪む凹部を有する、振動発電素子の保持手段と、
を有する、振動板。
【請求項2】
前記凹部の深さは、前記凹部の深さ方向に一致する前記振動発電素子の長さの1/5以上である、請求項1に記載の振動板。
【請求項3】
前記振動板の重心は、前記振動発電素子の重心の近傍に配置される、請求項1に記載の振動板。
【請求項4】
前記凹部の深さは、前記凹部の深さ方向に一致する前記振動発電素子の長さの1/2以下である、請求項1に記載の振動板。
【請求項5】
前記保持手段は、前記本体に対して、前記凹部とは反対側の垂直方向に、前記凹部に連続する内周面を有するように形成され、垂直方向からみて、前記本体の中央部分に対して対称に形成される少なくとも一対の支持部をさらに有する、請求項1に記載の振動板。
【請求項6】
前記少なくとも一対の支持部は、垂直方向からみて、前記本体の中央部分に対して対称に形成される二対の支持部からなる、請求項5に記載の振動板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の振動板と、前記振動板の前記保持手段に設置された振動発電素子と、前記振動板を振動可能に接合する筐体とを有する電子機器。
【請求項8】
前記振動板は、前記筐体よりも剛性が低い、請求項7に記載の電子機器。
【請求項9】
前記接合は、接着、溶着またはねじ留めにより行われる請求項7に記載の電子機器。
【請求項10】
前記電子機器が、センサ、スイッチ、または振動発電器である請求項7に記載の電子機器。
【請求項11】
前記振動発電素子の可動子は所定の方向に振動するように設計され、前記可動子の所定の振動方向が、前記振動板の振動方向と実質的に一致する、請求項7に記載の電子機器。
【請求項12】
請求項7に記載の電子機器を有する製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持手段を備える振動板およびそれを用いた電子機器、特に振動発電器に関する。
【背景技術】
【0002】
振動エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電素子は、センサ等の電子機器に用いられている。振動発電素子は、振動の大きさが大きいほど、発電量が大きくなる。そのため、音に対応する振動発電素子では、音の振動を大きくすることで、発電量を増やすことができる。
【0003】
音の振動を大きくする方法の一つに、ヘルムホルツ共鳴器が知られている。ヘルムホルツ共鳴器は、空洞と、当該空洞に連通し、一つの側面に開口部を有するネック部とを備えた箱体からなり、この箱体の空洞部に、ネック部を介して、音波を導入し、特定の周波数の振動に対して共鳴させるものである。
【0004】
ヘルムホルツ共鳴器を用いて音エネルギーを増幅する方法が特許文献1に記載されている。特許文献1では、ヘルムホルツ共鳴器の開口部に対向するように発電装置が設置され、発電装置のコイルを振動させて発電を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、ヘルムホルツ共鳴器の開口部に対向するように発電装置が設置されているため、ヘルムホルツ共鳴器で共鳴され増幅された音が、ヘルムホルツ共鳴器を出るまでに、またヘルムホルツ共鳴器から出てコイルに到達する前に減衰するおそれがあった。
【0007】
そこで、ヘルムホルツ共鳴器の筐体の一部に振動板を設け、当該振動板に振動発電素子を設置することにより、増幅された音振動を減衰させることなく発電に利用できると考えられる。
【0008】
さらに、振動発電素子が可動子を有する場合、振動源の振動方向と可動子の振動方向が一致するほど、振動による発電効率が高くなる。そのため、振動発電素子は振動源の振動方向に対し、より効率よく発電できる方向に設置されることが望ましい。
【0009】
ここで、振動発電素子の所望の振動方向が、振動発電素子の短軸方向である場合には、振動板に対する実装高さが比較的低くなるため、振動源の振動方向と振動発電素子の振動方向を一致させて取り付けることはあまり問題にならない。一方、振動発電素子の所望の振動方向が、振動発電素子の長軸方向である場合には、振動板に対する実装が比較的高くなってしまう。このため、効率よく発電を行うためには、この比較的高い実装を有する振動発電素子を、振動板の振動方向に対して、振動発電素子の所望の振動方向、つまり、振動発電素子の長軸方向を一致させて固定する必要があった。
【0010】
しかしながら、実際には、振動板の剛性は比較的低いため、振動板の振動方向と、振動発電素子の長軸方向を一致させて固定させることは非常に困難であった。なお、振動板の厚みを増加させることにより、剛性を高め、振動発電素子の長軸方向を一致させて固定させることも考えられるが、このような振動板では、ヘルムホルツ共鳴器で増幅された音振動を減衰させてしまい、発電効率を向上させることができなくなるおそれがあった。
【0011】
これらを鑑み、本発明は、振動発電素子の所望の振動方向が、振動発電素子の長軸方向である場合、この振動発電素子を安定して保持できる保持手段を備える振動板とそれを有する振動発電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る一実施態様の振動板は、同一平面上に延在する本体と、前記本体の中央部分に、前記本体に対して垂直方向に窪む凹部を有する、振動発電素子の保持手段と、を有する。
【0013】
また、本発明に係る他の実施形態では、当該振動板と、前記振動板に設置された振動発電素子と、前記振動板を接合する筐体とを有する電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、振動発電素子の所望の振動方向が、振動発電素子の長軸方向である場合、この振動発電素子を安定して保持できる保持手段を備える振動板とそれを有する振動発電器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)本発明の第1の実施形態に係る振動板の斜視図である。(b)(a)の振動板に振動発電素子を実装した際の斜視図である。(c)(b)におけるIc-Ic線に沿った断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態における振動板の斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る振動板を有する振動発電器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<用語について>
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「振動発電素子の長軸方向」とは、「振動発電素子の所望の振動方向」及び「振動板の振動方向」を示す。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。なお、本明細書では、振動板100及び振動発電器1000等を説明するための方向軸として、X軸、Y軸、及びZ軸が適宜用いられる。X軸およびY軸は、互いに水平面上で直交し、振動板100が戴置される面を構築する。Z軸はX軸及びY軸と直交する鉛直軸であって、後述するように、凹部20の深さ方向と一致し、振動板100の振動方向と一致する。
【0018】
1.振動板
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る振動板の斜視図であり、
図1(b)はその振動板に振動発電素子を実装した際の斜視図であり、
図1(c)は
図1(b)におけるIc-Ic線に沿った断面図である。
図1(a)~(c)に示されるように、振動板100は、本体10と、本体10に設けられ、振動発電素子70を設置するための保持手段20,30とを有する。以下、振動板100の各構成を順に説明する。
【0019】
なお、詳細は後述するが、本実施形態においては、振動板100に設けた凹部(保持手段)20及び支持部(保持手段)30に振動発電素子70を設置することにより、振動板100が振動発電素子70を安定して保持することができるものである。なお、本実施形態において、振動板100に設けた支持部(保持手段)30は、必須のものではなく、必要に応じて省略することができる。
【0020】
本体10は、剛性の低い材料で形成された板状部材である。本体10が剛性の低い材料で形成されているため、後述するように、振動板100が振動発電器1000などの電子機器に設置された際、振動板100は当該電子機器の他の部分よりも可撓性が高く、音などの振動を受けると減衰することなく振動することができる。本体10は任意の形状であってもよい。例えば、円盤状であってもよく、また多角形盤状であってもよい。電子機器に設置するために、本体10の外周部の厚さは内部の厚さよりも薄くてもよい。
【0021】
保持手段20,30は、本体10に設けられ、振動発電素子70が設置される。この保持手段20,30は、凹部20と、支持部30と、を備える。
【0022】
(凹部について)
凹部20は、本体10の中央部分に、本体10に対して垂直方向に窪んで形成される。この凹部20により、凹部を有さない振動板に比べ、振動板100と振動発電素子70との固定面の面積が大きくなり、振動発電素子70が傾くような揺れを減少することができる。
【0023】
凹部20はH
2の深さで振動板100の裏面に突き出た形状を有する。凹部20の深さH
2は、振動発電素子70を保持できる深さであればよい。例えば、振動発電素子70の長手方向長さ(Z軸方向長さ)H
1に対し、深さH
2はその1/5以上であることが好ましい。より好ましくは、振動板100と振動発電素子70の重心とが一致する深さであり、深さH
2は長手方向長さH
1の1/2であってもよい。凹部20の形状は設置する振動発電素子70の形状に対応する形状であればよい。
図1に記載の第1の実施形態では振動発電素子70の形状が矩形であるため、凹部20も矩形となっている。これに対し、
図2に記載の第2の実施形態では、円筒形の振動発電素子のために円筒形の窪みである。
【0024】
(支持部について)
支持部30は、本体10に対して、凹部20とは反対側の垂直方向に、凹部20に連続する内周面を有するように形成され、垂直方向からみて、本体10の中央部分に対して対称に形成される、2対の支持部31,32からなる。この支持部30は、振動発電素子70が凹部20に実装された際に、振動発電素子70の側面の一部を挟持することができる。この支持部30により、振動発電素子70が振動板100に保持される際における、垂直方向の保持長さをより大きくすることができるため、振動発電素子70の取付時および振動時のY軸方向の傾きをより抑制できる。
【0025】
第2の実施形態のように、凹部20が円筒形である場合には、支持部30も凹部20に連続して円筒形の内周面を有するように形成される(
図2参照)。
【0026】
2.電子機器
図3は、本発明の電子機器の一例として、本発明の第1の実施形態に係る振動板100を有する振動発電器1000を示す斜視図である。振動発電器1000は、振動板100と、振動板100の保持手段20,30に実装された振動発電素子70と、振動板100を接合した筐体200とを有する。振動板100の接合方法は、これに限定されないが、例えば、接着、溶着、およびねじ留めなどを用いることができる。
【0027】
(振動発電素子)
振動発電素子70は、振動板100の保持手段20,30に実装され、音波の到達で振動板100が振動することにより、振動して発電を行う素子である。振動発電素子70により発電された電気エネルギーは、配線(不図示)により外部に伝達され、センサ信号などに利用することができる。
【0028】
振動発電素子70は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であれば任意の素子を用いることができる。例えば、振動発電素子として、櫛歯型電極を有する静電誘導型振動発電素子を用いてもよい。また、振動発電素子70はエレクトレット型発電素子、ピエゾ型発電素子、電磁誘導型、または磁歪型の発電素子を用いてもよい。
【0029】
(振動発電素子の実装)
振動発電素子70として、櫛歯型電極を有する静電誘導型振動発電素子を用いた場合、振動発電素子70の可動電極の振動方向は、振動板100の振動方向と実質的に一致することが好ましい。振動発電素子が所定の方向に振動する可動子を有する場合に、振動源の振動方向と可動子の所定の振動方向が一致するほど、振動による発電効率が高くなるためである。
図3に記載の振動発電器1000において、振動板100は両矢印Aの方向(Z軸方向)に振動するため、振動発電素子70の可動電極の振動方向も実質的にZ軸方向であるように実装されることが好ましい。
【0030】
ここで、振動発電素子70の可動電極の振動方向を振動板100の振動方向と実質的に一致させる、すなわち、振動発電素子70をZ軸方向に振動させるためには、振動発電素子70がX軸方向またはY軸方向に傾くことを抑制する必要がある。
【0031】
上述したように、振動発電素子70を保持手段である凹部20に実装することにより、平面状の振動板に振動発電素子70を実装した場合に比べ、X軸方向およびY軸方向の揺れが抑制される。Y軸方向の揺れおよび傾きは、保持手段である支持部30により、さらに抑制され、回転モーメントの影響を抑制することができる。
【0032】
また、振動板100に振動発電素子70を実装する場合においても、あらかじめ凹部20が形成されていることで、固定時に支えることなく、振動発電素子70を振動板100に適切な角度で実装することができる。さらに凹部20に隣接する支持部30は、振動発電素子70の実装の際のガイドとして機能し、振動発電素子70の実装をより簡便にすることができる。
【0033】
このように、本発明の振動板100を有する振動発電器1000は、振動板100に設けられた保持手段20,30により、振動発電素子70を適切な角度で振動板100に取り付けることができ、さらにX軸方向およびY軸方向の揺れを抑制することができる。これにより、振動発電器1000の発電効率を向上させることができる。なお、本実施形態では、振動板100を有する電子機器として振動発電器1000を例示したが、振動板100を有する電子機器として、振動発電素子70を組み込んだセンサやスイッチ等に用いることもできる。
【0034】
以上説明した実施の形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0035】
(1)振動板が、同一平面上に延在する本体と、前記本体の中央部分に、前記本体に対して垂直方向に窪む凹部を有する、振動発電素子の保持手段と、を有する。
【0036】
このように構成したので、振動板と設置される振動発電素子との固定面の面積が大きくなり、振動発電素子が傾くような揺れを減少することができる。
【0037】
(2)前記凹部の深さは、前記凹部の深さ方向に一致する前記振動発電素子の長さの1/5以上である。
【0038】
このように構成したので、振動板は振動発電素子を安定して保持することができる。
【0039】
(3)前記振動板の重心は、前記振動発電素子の重心の近傍に配置される。
【0040】
このように構成したので、振動板は振動発電素子を安定して保持することができる。
【0041】
(4)前記凹部の深さは、前記凹部の深さ方向に一致する前記振動発電素子の長さの1/2以下である。
【0042】
このように構成したので、振動板は振動発電素子を安定して保持することができる。
【0043】
(5)前記保持手段は、前記本体に対して、前記凹部とは反対側の垂直方向に、前記凹部に連続する内周面を有するように形成され、垂直方向からみて、前記本体の中央部分に対して対称に形成される少なくとも一対の支持部をさらに有する。
【0044】
このように構成したので、振動発電素子の取付時および振動時のY軸方向の傾きを抑制できる。
【0045】
(6)前記少なくとも一対の支持部は、垂直方向からみて、前記本体の中央部分に対して対称に形成される二対の支持部からなる。
【0046】
このように構成したので、振動発電素子の取付時および振動時のY軸方向の傾きを抑制できる。
【0047】
(7)電子機器は、(1)~(7)のいずれか一項に記載の振動板と、前記振動板に設置された振動発電素子と、前記振動板を接合する筐体とを有する。
【0048】
このように構成したので、振動発電素子を適切な角度で振動板に取り付けることができ、さらにX軸方向およびY軸方向の揺れを抑制することができる。これにより、振動発電器1000の発電効率を向上させることができる。
【0049】
(8)前記振動板は、前記筐体よりも剛性が低い。
【0050】
このように構成したので、振動板が音圧により振動することができる。
【0051】
(9)前記接合は、接着、溶着またはねじ留めにより行われる。
【0052】
このように構成したので、電子機器を製造する際に、振動板を筐体に強固に接合する方法を提供することができる。
【0053】
(10)前記電子機器が、センサ、スイッチ、または振動発電器である・
【0054】
このように構成したので、当該電子機器を種々の用途で利用することができる。
【0055】
(11)前記振動発電素子の可動子は所定の方向に振動するように設計され、前記可動子の所定の振動方向が、前記振動板の振動方向と実質的に一致する。
【0056】
このように構成したので、振動発電素子が効率よく発電を行うことができる。
【0057】
(12)製品は、(1)~(11)のいずれか一項に記載の電子機器を有する。
【0058】
このように構成したので、効率よく発電を行う振動発電素子を製品に組みことができる。
【0059】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0060】
また、上述の各実施の形態および変形例の一つもしくは複数を、適宜組合せてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 本体
20 凹部
30 支持部
31 支持部
32 支持部
70 振動発電素子
100 振動板
120 振動板
200 筐体
1000 振動発電器