(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106631
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】電動制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20240801BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240801BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
B60T13/74 H
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011001
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 伸一郎
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
5H501
【Fターム(参考)】
3D048BB21
3D048CC49
3D048CC54
3D048HH18
3D048RR11
3D246BA08
3D246DA01
3D246GA22
3D246GB37
3D246GC14
3D246HA02A
3D246HC01
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3D246JB11
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3D246JB31
3D246JB47
3D246KA13
3D246LA15A
5H501DD01
5H501GG02
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501LL32
5H501LL35
5H501LL48
5H501PP02
(57)【要約】
【課題】目標制動力が増大から減少に転じた場合における制動力の制御性を向上できる電動制動装置を提供すること。
【解決手段】電動制動装置の処理回路81は、目標制動力FbpTrに応じた値をピストン推力基礎値PptBとして導出する基礎値導出部M12と、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値とピストン推力基礎値PptBとの演算結果が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値とピストン推力基礎値PptBとの演算結果よりも大きくなるように、ピストン推力基礎値PptBを補正する第1加算部M15と、第1加算部M15による演算結果に基づいた電力を電気モータ31に供給することにより、電気モータ31を制御するモータ制御部M20とを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動力の目標である目標制動力に応じた電力を電気モータに供給することにより、当該電気モータの回転運動が直線運動に変換されて摩擦材に伝達され、車両の車輪と一体回転する回転体に前記摩擦材が押し付けられて制動力を発生する電動制動装置であって、
前記電気モータの駆動パラメータの基礎値である駆動パラメータ基礎値として、前記目標制動力に応じた値を導出する基礎値導出部と、
前記目標制動力が減少して当該目標制動力が所定制動力になる場合における前記駆動パラメータの補正値と前記駆動パラメータ基礎値との演算結果が、前記目標制動力が増大して当該目標制動力が前記所定制動力になる場合における前記補正値と前記駆動パラメータ基礎値との演算結果よりも大きくなるように、前記駆動パラメータ基礎値を補正する補正部と、
前記補正部による演算結果に基づいた電力を前記電気モータに供給することにより、当該電気モータを制御するモータ制御部と、を備える
ことを特徴とする電動制動装置。
【請求項2】
前記目標制動力が増大する際における当該目標制動力と前記補正値との関係、及び、前記目標制動力が減少する際における当該目標制動力と前記補正値との関係を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記関係に基づいて前記補正値を導出する補正値導出部と、を備える
請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項3】
前記目標制動力が増大から減少に転じた場合、前記目標制動力の減少に応じて前記補正値を増大させ、当該補正値が所定の反転値に達すると、前記目標制動力の減少に応じて前記補正値を減少させる補正値導出部を備える
請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項4】
前記補正値導出部は、前記目標制動力が増大から減少に転じた時点の前記目標制動力が大きいほど大きい値を前記反転値として設定する
請求項3に記載の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として電気モータを備える電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電気モータを動力源とするブースタを備えた制動装置を開示している。ブースタは、シリンダとシリンダ内で進退移動するピストンとを備えている。ブースタは、電気モータの駆動によってピストンを移動させることによって、ピストンの位置に応じた液圧を発生する。これにより、当該制動装置は、ブースタが発生した液圧が高いほど大きい制動力を発生できる。
【0003】
当該制動装置の制御装置は、運転者の制動操作量に基づいてピストンの目標位置を設定する。そして、制御装置は、当該目標位置に基づいてピストンの位置をフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにピストンの目標位置に基づいて電気モータを駆動させる装置においては、制動力が増大から減少に転じた際の制動力の制御性を向上させる点で改善の余地がある。なお、こうした課題は、電気モータを制御するのに必要なパラメータのうち、ピストンの位置以外のパラメータの目標値を設定する場合であっても同様に生じうる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための電動制動装置は、制動力の目標である目標制動力に応じた電力を電気モータに供給することにより、当該電気モータの回転運動が直線運動に変換されて摩擦材に伝達され、車両の車輪と一体回転する回転体に前記摩擦材が押し付けられて制動力を発生する装置である。当該電動制動装置は、前記電気モータの駆動パラメータの基礎値である駆動パラメータ基礎値として、前記目標制動力に応じた値を導出する基礎値導出部と、前記目標制動力が減少して当該目標制動力が所定制動力になる場合における前記駆動パラメータの補正値と前記駆動パラメータ基礎値との演算結果が、前記目標制動力が増大して当該目標制動力が前記所定制動力になる場合における前記補正値と前記駆動パラメータ基礎値との演算結果よりも大きくなるように、前記駆動パラメータ基礎値を補正する補正部と、前記補正部による演算結果に基づいた電力を前記電気モータに供給することにより、当該電気モータを制御するモータ制御部と、を備えている。
【0007】
電気モータが駆動すると、電気モータの回転運動が直線運動に変換されて摩擦材に伝達される。そして、車輪と一体回転する回転体に当該摩擦材が押し付けられると、その力に応じた制動力が発生する。制動力が増大する場合では、摩擦材が圧縮されるため、僅かではあるが摩擦材が薄くなる。そのため、電気モータへの電力供給量は同じであっても、目標制動力が増大から減少に転じると、制動力の実値が、目標制動力が増大していた場合よりも小さくなる。
【0008】
上記電動制動装置では、目標制動力が同じであっても、目標制動力を減少させる場合と目標制動力を増大させる場合とで駆動パラメータの補正値が変更される。すなわち、目標制動力を減少させる場合の補正値と駆動パラメータ基礎値との演算結果が、目標制動力を増大させる場合の補正値との演算結果よりも大きくなる。そして、当該演算結果に基づいた電力が電気モータに供給される。これにより、上記電動制動装置は、目標制動力が増大から減少に転じた場合における制動力の制御性を向上できる。
【0009】
なお、上述した大小関係は、あくまで補正部による演算結果である。そのため、補正部による駆動パラメータ基礎値の補正に対して更に別の補正が行われた場合、電気モータへの供給量の大小関係が逆転している可能性はある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の電動制動装置の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、
図1の電動制動装置において、目標制動力を増大させる場合のピストン推力とモータ回転角との関係である増大時特性と、目標制動力を減少させる場合のピストン推力とモータ回転角との関係である減少時特性とを示すグラフである。
【
図3】
図3は、
図1の電動制動装置が備える処理回路の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、ピストン推力が増大した後、ピストン推力が減少に転じた場合におけるピストン推力と補正値との関係の実験結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ピストン推力が増大した後にピストン推力が減少に転じ、その後にピストン推力が再増大した場合におけるピストン推力と補正値との関係の実験結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、補正値を設定する際に用いられるマップを示す図である。
【
図7】
図7は、補正値を設定する際に用いられるマップの変更例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の電動制動装置において、上記増大時特性と、上記減少時特性と、第1特性と、第2特性とを示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図8の第1特性に基づいてピストン推力基礎値が導出される際に用いられるマップを示す図である。
【
図10】
図10は、
図8の第2特性に基づいてピストン推力基礎値が導出される際に用いられるマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、電動制動装置の一実施形態を
図1から
図6に従って説明する。
図1に示すように、電動制動装置10は、複数の電動ブレーキ20と、複数の電動ブレーキ20を制御する制御装置80とを備えている。電動制動装置10では、車両の複数の車輪100に対して電動ブレーキ20が設けられている。
図1は、複数の車輪100及び複数の電動ブレーキ20のうち、1つの車輪100と1つの電動ブレーキ20とのみを図示している。
【0012】
<電動ブレーキ>
電動ブレーキ20は、電気モータ31を動力源とするブレーキ機構である。電動ブレーキ20は、電動シリンダ30と、液路21と、ホイールシリンダ22と、回転体23と、摩擦材24とを備えている。
【0013】
電動シリンダ30は、電気モータ31に加え、伝達機構32とシリンダ36とピストン37とを備えている。伝達機構32は、電気モータ31の回転運動が入力されると、その回転運動を直線運動に変換して出力する。例えば、伝達機構32はネジ機構を有している。ネジ機構は、送りネジ機構であってもよいし、ボールネジ機構であってもよい。伝達機構32は、電気モータ31と同期して回転する回転部33と、回転部33に同軸配置されている直動部34とを有している。直動部34は、回転部33の回転に同期して直線移動する。すなわち、回転部33は電気モータ31の回転方向に準じた方向に回転するとともに、直動部34は電気モータ31の回転方向に準じた方向に直線移動する。
図1に示す例では、ネジが回転部33に対応し、ネジに螺合しているナットが直動部34に対応している。なお、伝達機構として、ナットが回転部として機能し、ネジが直動部として機能する機構を採用してもよい。
【0014】
ピストン37はシリンダ36内に配置されている。ピストン37は、シリンダ36の周壁に沿って往復動可能である。ピストン37は、伝達機構32の直動部34に連結されているため、直動部34と一体に直線運動する。そのため、ピストン37は、電気モータ31の回転方向に準じた方向に直線移動する。
【0015】
シリンダ36内には、ピストン37によって液室38が区画されている。液室38にはブレーキ液が充填されている。液室38は、液路21を介してホイールシリンダ22に常時接続されている。そのため、液室38の容積を小さくする方向にピストン37が直線移動すると、液室38のブレーキ液が液路21を介してホイールシリンダ22に供給される。一方、液室38の容積を大きくする方向にピストン37が直線移動すると、ホイールシリンダ22のブレーキ液が液路21を介して液室38に流入する。なお、液室38の容積を小さくするピストン37の移動方向を「前進方向Z1」といい、前進方向Z1の反対方向を「後退方向Z2」という。後退方向Z2は、液室38の容積を大きくするピストン37の移動方向でもある。
【0016】
回転体23は車輪100と一体回転する。そのため、回転体23に摩擦材24を押し付けることにより、車輪100で制動力が発生する。ホイールシリンダ22に液圧が発生していない場合、摩擦材24は回転体23から離間している。ホイールシリンダ22にブレーキ液が供給されると、摩擦材24が回転体23に当接する。そして、ホイールシリンダ22の液圧が高くなると、摩擦材24を回転体23に押し付ける力が大きくなるため、制動力が大きくなる。
【0017】
すなわち、電動ブレーキ20では、電気モータ31に電力が供給されると、電気モータ31の回転運動が直線運動に変換されて摩擦材24に伝達される。そして、回転体23に摩擦材24が押し付けられることにより、車輪100で制動力が発生する。
【0018】
<検出系>
制御装置80には検出系から信号が入力される。検出系は複数種類のセンサを有している。複数種類のセンサは、モータ角センサ51と、ブレーキセンサ52とを含んでいる。モータ角センサ51は、電動ブレーキ20の電気モータ31の回転角、詳しくは電気モータ31の機械角を検出する。モータ角センサ51の出力信号に基づいた電気モータ31の回転角を「モータ回転角θmt」という。シリンダ36の液室38の容積を小さくするために電気モータ31が駆動すると、モータ回転角θmtが大きくなる。反対に、液室38の容積を大きくするために電気モータ31が駆動すると、モータ回転角θmtが小さくなる。
【0019】
ブレーキセンサ52は、運転者の制動操作部材101の操作に関する情報を検出する。ブレーキセンサ52としては、例えば、制動操作部材101の操作量を検出するセンサ、及び、運転者から制動操作部材101に入力される操作力又はその相関値を検出するセンサを挙げることができる。制動操作部材101としては、例えば、ブレーキペダル及びブレーキレバーを挙げることができる。
【0020】
<摩擦材に起因する電動ブレーキのヒステリシス特性>
図2には、制動力を増大させる場合のモータ回転角θmtとピストン推力Pptとの関係である増大時特性CHIと、制動力を減少させる場合のモータ回転角θmtとピストン推力Pptとの関係である減少時特性CHDとが図示されている。
図2において、実線が増大時特性CHIであり、破線が減少時特性CHDである。ピストン推力Pptとはピストン37の推力である。このピストン推力Pptは、摩擦材24を回転体23に押し付ける力、及び、車輪100で発生する制動力の双方と相関する。
【0021】
図2で示すように、制動力を増大させる場合及び制動力を減少させる場合の何れにおいても、モータ回転角θmtが大きいほどピストン推力Pptが大きい。しかし、ピストン推力Pptを増大させてピストン推力Pptを第1ピストン推力Ppt1とする場合と、ピストン推力Pptを減少させてピストン推力Pptを第1ピストン推力Ppt1とする場合とでは、モータ回転角θmtが相違する。具体的には、ピストン推力Pptを減少させてピストン推力Pptを第1ピストン推力Ppt1とする場合のモータ回転角θmt(=θmt1)は、ピストン推力Pptを増大させてピストン推力Pptを第1ピストン推力Ppt1とする場合のモータ回転角θmt(=θmt2)よりも大きい。言い換えると、モータ回転角θmtを小さくしてモータ回転角θmtを第1回転角θmt1にする場合のピストン推力Ppt(=Ppt1)は、モータ回転角θmtを大きくしてモータ回転角θmtを第1回転角θmt1にする場合のピストン推力Ppt(=Ppt2)よりも小さい。
【0022】
図2に示したように増大時特性CHIと減少時特性CHDとが相違する原因は、以下の理由によるものと考えられる。モータ回転角θmtを大きくして摩擦材24を回転体23に押し付けていると、ホイールシリンダ22のピストンと回転体23とによって摩擦材24が強く挟まれることにより、僅かではあるが摩擦材24が薄くなる。このように摩擦材24が薄くなった状態で制動力の減少が要求されると、摩擦材24が薄くなっている分、モータ回転角θmtが同じであっても、ピストン推力Pptが小さくなる。
【0023】
したがって、目標制動力FbpTrに従って電動ブレーキ20を作動させる場合、電気モータ31への電力供給量は同じであっても、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じると、制動力の実値が、目標制動力FbpTrが増大していた場合よりも大幅に減少する。また、電気モータ31への電力供給量は同じであっても、目標制動力FbpTrが減少から増大に転じると、制動力の実値が、目標制動力FbpTrが減少していた場合よりも大幅に増大する。すなわち、電動ブレーキ20は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合におけるモータ回転角θmt(すなわち、ピストン37の位置)が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合におけるモータ回転角θmt(すなわち、ピストン37の位置)よりも大きくなるヒステリシス特性を有している。
【0024】
<制御装置>
図1に示すように、制御装置80は処理回路81を備えている。例えば、処理回路81は電子制御装置である。この場合、処理回路81は、CPU82とメモリ83とメモリ84とを有している。メモリ83は、CPU82によって実行される制御プログラムを記憶している。当該制御プログラムをCPU82が実行することにより、処理回路81は電動ブレーキ20を作動させる。メモリ84には、電動ブレーキ20を作動させる際に参照される各種のマップや関数などが記憶されている。
【0025】
<機能部>
図3に示すように、処理回路81は、CPU82が制御プログラムを実行することにより、複数の機能部として機能する。すなわち、処理回路81は、目標制動力設定部M11、基礎値導出部M12、負荷トルク導出部M13、補正値導出部M14、第1加算部M15及び要求値導出部M16として機能する。また処理回路81は、ピストン位置導出部M17、補償トルク導出部M18、第2加算部M19及びモータ制御部M20としても機能する。また、メモリ84における一部の記憶領域が、記憶部M25として機能する。
【0026】
目標制動力設定部M11は、制動力の目標である目標制動力FbpTrを設定する。運転者が制動操作部材101を操作している場合、目標制動力設定部M11は、ブレーキセンサ52の検出値に応じた値を、目標制動力FbpTrとして設定する。アンチロックブレーキ制御などのような制動制御が開始されると、目標制動力設定部M11は、当該制動制御に従って目標制動力FbpTrを設定する。
【0027】
なお、自動制動によって車両を減速させる場合、制御装置80には、他の制御装置から制動力の要求値FbpRqが入力される。この場合、目標制動力設定部M11は、他の制御装置から入力された上記要求値FbpRq又は当該要求値FbpRqに応じた値を、目標制動力FbpTrとして設定する。
【0028】
基礎値導出部M12は、電気モータ31の駆動パラメータの基礎値である駆動パラメータ基礎値として、目標制動力FbpTrに応じた値を導出する。ここでいう「駆動パラメータ」とは、電気モータ31を駆動させるために必要なパラメータである。駆動パラメータが変わると、電気モータ31の回転角や出力トルクが変わる。本実施形態では、ピストン推力が「駆動パラメータ」に対応する。そこで、基礎値導出部M12は、ピストン推力の基礎値であるピストン推力基礎値PptBを、駆動パラメータ基礎値として導出する。ピストン推力Pptは制動力の実値と対応している。そのため、基礎値導出部M12は、目標制動力FbpTrをピストン推力に変換した値をピストン推力基礎値PptBとして導出する。なお、本実施形態では、基礎値導出部M12は、
図2に示した増大時特性CHIを基に、ピストン推力基礎値PptBを導出する。
【0029】
負荷トルク導出部M13は、駆動パラメータ基礎値が大きいほど大きい値を電気モータ31の負荷トルクTqLとして導出する。本実施形態では、負荷トルク導出部M13は、ピストン推力基礎値PptBが大きいほど大きい値を負荷トルクTqLとして導出する。
【0030】
補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrと相関する駆動パラメータ基礎値の推移を基に、駆動パラメータの補正値を導出する。本実施形態では、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBの推移を基に、ピストン推力の補正値ΔPptを導出する。この際、補正値導出部M14は、記憶部M25に記憶されている関係に基づいて補正値ΔPptを導出する。記憶部M25の記憶内容も含め、補正値導出部M14による補正値ΔPptの導出処理については後述する。
【0031】
第1加算部M15は、駆動パラメータ基礎値と駆動パラメータの補正値との和を、駆動パラメータの要求値として導出する。本実施形態では、第1加算部M15は、ピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの和を、ピストン推力要求値PptRqとして導出する。この場合、ピストン推力要求値PptRqが「駆動パラメータの要求値」に対応する。また、ピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの和が、ピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの演算結果であるため、第1加算部M15が、駆動パラメータ基礎値を補正する「補正部」に対応する。
【0032】
要求値導出部M16は、駆動パラメータの要求値を基に、ピストン37の位置の要求値である要求ピストン位置PSRqを導出する。本実施形態では、要求値導出部M16は、ピストン推力要求値PptRqが大きいほど前進方向Z1の位置を、要求ピストン位置PSRqとして導出する。
【0033】
ピストン位置導出部M17は、現在のピストン37の位置であるピストン位置PSを導出する。ピストン37の位置は、モータ回転角θmtと相関する。そのため、ピストン位置導出部M17は、モータ回転角θmtに基づいてピストン位置PSを導出する。例えば、ピストン位置導出部M17は、モータ回転角θmtが大きいほど前進方向Z1の位置をピストン位置PSとして導出する。
【0034】
補償トルク導出部M18は、要求ピストン位置PSRqとピストン位置PSとの偏差を基に、補償トルクTqCを導出する。この際、補償トルク導出部M18は、要求ピストン位置PSRqとピストン位置PSとの乖離を是正できる電気モータ31のトルクを補償トルクTqCとして導出する。例えば、補償トルク導出部M18は、要求ピストン位置PSRqとピストン位置PSとの偏差を入力とするフィードバック制御によって補償トルクTqCを導出する。
【0035】
第2加算部M19は、負荷トルクTqLと補償トルクTqCとの和を、指令トルクTq*として出力する。
モータ制御部M20は、指令トルクTq*に基づいて、電気モータ31を制御する。このとき、モータ制御部M20は、指令トルクTq*に応じた電力を電気モータ31に供給することにより、電気モータ31を駆動させる。上述したように、指令トルクTq*は、駆動パラメータ基礎値と駆動パラメータの補正値とに基づいたトルクである。そのため、モータ制御部M20は、第1加算部M15(補正部)による演算結果に基づいた電力を電気モータ31に供給することにより、電気モータ31を制御する。
【0036】
なお、補正値ΔPptとピストン推力要求値PptRqとの演算結果であるピストン推力要求値PptRqに対してさらに別の補正が行われることもあり得る。この場合、別の補正によって、ピストン推力要求値PptRqが大きい場合の電気モータ31への供給電力が、ピストン推力要求値PptRqが小さい場合の電気モータ31への供給電力よりも小さくなることもあり得る。
【0037】
<補正値の設定処理>
補正値導出部M14について詳述する。
始めに、
図4及び
図5を参照し、ピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係の実験結果について説明する。ここでいう「実験」とは、目標制動力FbpTrを変更した際に、制動力の実値が目標制動力FbpTrに追随する補正値ΔPptを求めるための実験である。ちなみに、ピストン推力Pptは制動力の実値と相関している。
【0038】
図4及び
図5は、実験によって得られたピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係を示している。
図4は、目標制動力FbpTrが0(零)から増大した後、目標制動力FbpTrが0(零)まで減少した際におけるピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係を示している。ピストン推力Pptが増大から減少に転じた時点のピストン推力Pptを「規定ピストン推力PptF」とする。このとき、
図4には、規定ピストン推力PptFが異なる複数のピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係が図示されている。
【0039】
図4に矢印Y11で示すように、目標制動力FbpTrの増大に従ってピストン推力Pptが0(零)から増大する場合、ピストン推力Pptとモータ回転角θmtとの関係は、
図2に示した増大時特性CHIとほぼ同じとなる。そのため、この場合では補正値ΔPptがほぼ0(零)となる。
【0040】
目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた場合、
図2に示した増大時特性CHIと減少時特性CHDとの乖離を埋めるように補正値ΔPptが調整される。すなわち、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた直後では、
図4に矢印Y12で示すように、ピストン推力Pptの減少に対して補正値ΔPptがほぼ一定勾配で増大する。これにより、目標制動力FbpTrと制動力の実値とのずれが大きくなりにくい。そして、補正値ΔPptがある程度大きくなると、上記のピストン推力要求値PptRqとモータ回転角θmtとの関係が、
図2に示した減少時特性CHDとほぼ同じになる。そのため、ピストン推力要求値PptRqとモータ回転角θmtとの関係が減少時特性CHDとほぼ同じ状態を維持するために、ピストン推力Pptの減少に応じて補正値ΔPptが減少する。そして、目標制動力FbpTrが0(零)となってピストン推力Pptが0(零)になると、補正値ΔPptもまた0(零)になる。
【0041】
補正値ΔPptが増大から減少に転じた時点の補正値ΔPptを「反転値ΔPptR」とする。このとき、反転値ΔPptRは、ピストン推力Pptが増大から減少に転じた時点のピストン推力Ppt、すなわち目標制動力FbpTrによって変わる。具体的には、反転値ΔPptRは、規定ピストン推力PptFが大きいほど大きい。これは、ピストン推力Pptが大きいほど、増大時特性CHIから定まるピストン推力Pptと、減少時特性CHDから定まるピストン推力Pptとの乖離が大きいためである。
【0042】
また、規定ピストン推力PptFに拘わらず、ピストン推力Pptが増大から減少に転じた時点からの補正値ΔPptの増大勾配はほぼ同じである。ここでいう「補正値ΔPptの増大勾配」とは、ピストン推力Pptの変化に対する補正値ΔPptの増大量である。そして、規定ピストン推力PptFが大きいほど、補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した時点のピストン推力Pptが大きい。
【0043】
図5は、目標制動力FbpTrが0(零)から増大した後に目標制動力FbpTrが減少し、目標制動力FbpTrの減少途中に目標制動力FbpTrが再増大する際におけるピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係も示している。目標制動力FbpTrが減少から再増大に転じた時点のピストン推力Pptを「切替ピストン推力PptH」とする。このとき、
図5には、切替ピストン推力PptHが異なる複数のピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係が図示されている。
【0044】
ピストン推力Pptが減少することによって補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降でピストン推力Pptが再増大するようになった場合、
図5に矢印Y13で示すようにピストン推力Pptの増大に従って補正値ΔPptが徐々に小さくなる。このときの補正値ΔPptの減少勾配は、切替ピストン推力PptHが小さいほど小さい。
【0045】
図4及び
図5に示す実験の結果から、目標制動力FbpTr(すなわち、ピストン推力Ppt)と補正値ΔPptとの関係について、以下の結果が得られた。
(A1)目標制動力FbpTrが減少する場合、目標制動力FbpTrが増大する場合よりも補正値ΔPptが大きくなる。
【0046】
(A2)目標制動力FbpTrが増大から減少に転じると、目標制動力FbpTrの減少に応じて補正値ΔPptが大きくなる。ただし、補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降でも目標制動力FbpTrが減少される場合では、目標制動力FbpTrの減少に応じて補正値ΔPptが小さくなる。
【0047】
(A3)反転値ΔPptRは、規定ピストン推力PptFが大きいほど大きい。
(A4)目標制動力FbpTrが減少から再増大に移行すると、目標制動力FbpTrの増大に応じて補正値ΔPptが小さくなる。この際の補正値ΔPptの減少勾配は、切替ピストン推力PptHが大きいほど大きい。
【0048】
そこで、本実施形態では、
図6に示すようなマップが、記憶部M25に記憶されている。増大時マップMP11は、目標制動力FbpTrを0(零)から増大させた際におけるピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係を示している。増大時マップMP11によれば、
図6に矢印Y21で示すようにピストン推力Pptが大きくなっても補正値ΔPptが0(零)で保持される。
【0049】
減少時マップMP12は、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた場合におけるピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係を示している。減少時マップMP12によれば、ピストン推力Pptが増大から減少に転じた直後では、
図6に矢印Y22で示すようにピストン推力Pptが減少するにつれて補正値ΔPptが大きくなる。この際のピストン推力Pptの減少に対する補正値ΔPptの増大量である補正値ΔPptの増大勾配を「第1勾配」ともいう。
【0050】
また、減少時マップMP12では、規定ピストン推力PptFが大きいほど大きい値が反転値ΔPptRとして設定されている。そして、減少時マップMP12では、ピストン推力Pptの減少によって補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達すると、
図6に矢印Y23で示すようにピストン推力Pptが減少するにつれて補正値ΔPptが0(零)に向けて小さくなる。本実施形態では、ピストン推力Pptの減少に対する補正値ΔPptの減少量である補正値ΔPptの減少勾配が一定である。この際の補正値ΔPptの減少勾配を「第2勾配」ともいう。
【0051】
再増大時マップMP13は、目標制動力FbpTrが減少から再増大に転じた場合におけるピストン推力Pptと補正値ΔPptとの関係を示している。再増大時マップMP13によれば、
図6に矢印Y24で示すようにピストン推力Pptが増大するにつれて補正値ΔPptが0(零)に向けて小さくなる。具体的には、ピストン推力Pptが規定ピストン推力PptFになったときに補正値ΔPptが0(零)となるように、ピストン推力Pptの増大に応じて補正値ΔPptが小さくなる。この際のピストン推力Pptの増大に対する補正値ΔPptの減少量である補正値ΔPptの変化勾配が一定である。
【0052】
なお、記憶部M25には、
図3に示すように複数のマップが予め記憶されている。例えば、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた時点の規定ピストン推力PptF毎のマップが記憶部M25に記憶されている。
【0053】
補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた時点のピストン推力基礎値PptBを規定ピストン推力PptFとして取得する。補正値導出部M14は、規定ピストン推力PptFに応じた減少時マップMP12を選択する。そして、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが減少する場合、選択した減少時マップMP12を基に、そのときのピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。
【0054】
また、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが減少から再増大に転じた場合、その時点のピストン推力基礎値PptBを切替ピストン推力PptHとして取得する。補正値導出部M14は、切替ピストン推力PptHに応じた再増大時マップMP13を選択する。そして、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが再増大する場合、選択した再増大時マップMP13を基に、そのときのピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。
【0055】
補正値導出部M14が上記のように補正値ΔPptを導出すると、補正部に対応する第1加算部M15が、当該補正値ΔPptを用いてピストン推力基礎値PptBを補正する。具体的には、第1加算部M15は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果よりも大きくなるように、ピストン推力基礎値PptBを補正する。
【0056】
<本実施形態の作用>
図6を参照し、電動制動装置10の作用について説明する。
処理回路81は、目標制動力設定部M11として機能することにより、目標制動力FbpTrを設定する。続いて、処理回路81は、基礎値導出部M12として機能することにより、目標制動力FbpTrに応じた値をピストン推力基礎値PptBとして導出する。処理回路81は、負荷トルク導出部M13として機能することにより、ピストン推力基礎値PptBに応じた値を負荷トルクTqLとして導出する。
【0057】
また、処理回路81は、補正値導出部M14として機能することにより、補正値ΔPptを導出する。この際、処理回路81は、メモリ84に記憶されているマップ(すなわち、モータ回転角θmtとピストン推力Pptとの関係)を用い、補正値ΔPptを導出する。
【0058】
具体的には、
図6に示すように、処理回路81は、目標制動力FbpTrと相関するピストン推力基礎値PptBが0(零)から増大している場合、増大時マップMP11を基に、ピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。本実施形態では、処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBが0(零)から増大している場合、
図6に矢印Y21で示すようにピストン推力基礎値PptBが増大しても補正値ΔPptを0(零)で保持する。
【0059】
処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じた場合、減少時マップMP12を基に、ピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。この際、処理回路81は、上記規定ピストン推力PptFに応じた減少時マップMP12を用いることにより、
図6に矢印Y22に示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを増大させる。
【0060】
処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBが減少している状況下で補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達すると、
図6に矢印Y23に示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを減少させる。
【0061】
なお、処理回路81が選択する減少時マップMP12、すなわち規定ピストン推力PptFによって反転値ΔPptRは異なる。そのため、処理回路81は、補正値導出部M14として機能することにより、上記規定ピストン推力PptFが大きいほど大きい値を反転値ΔPptRとして設定していると云える。
【0062】
処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBが減少から再増大に転じた場合、再増大時マップMP13を基に、ピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。この際、処理回路81は、切替ピストン推力PptHに応じた再増大時マップMP13を選択する。そして、処理回路81は、当該再増大時マップMP13を用いることにより、
図6に矢印Y24に示すようにピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを減少させる。
【0063】
なお、処理回路81は、再増大時マップMP13を用いて設定した補正値ΔPptが0(零)になると、マップを再増大時マップMP13から増大時マップMP11に切り替える。そして、処理回路81は、増大時マップMP11を用いて補正値ΔPptを導出する。
【0064】
ここで、減少時マップMP12に従って補正値ΔPptが設定されている状況下で、補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達する前に、ピストン推力基礎値PptBが減少から再増大に転じることがある。この場合、処理回路81は、減少時マップMP12を用い、そのときのピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして導出する。これにより、処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを大きくできる。
【0065】
処理回路81は、第1加算部M15として機能することにより、ピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの和を、ピストン推力要求値PptRqとして導出する。すなわち、処理回路81は、補正値ΔPptを用いてピストン推力基礎値PptBを補正する。このとき、目標制動力FbpTrが同じであっても、処理回路81は、目標制動力FbpTrが減少する場合には、補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果であるピストン推力要求値PptRqを目標制動力FbpTrが増大する場合よりも大きくする。
【0066】
続いて、処理回路81は、ピストン位置導出部M17として機能することにより、現在のピストン位置PSを導出する。そして、処理回路81は、補償トルク導出部M18として機能することにより、要求ピストン位置PSRqとピストン位置PSとの偏差を基に、補償トルクTqCを導出する。
【0067】
処理回路81は、第2加算部M19として機能することにより、負荷トルクTqLと補償トルクTqCとの和を、指令トルクTq*として出力する。そして、処理回路81は、モータ制御部M20として機能することにより、指令トルクTq*に基づいて電気モータ31を制御する。このとき、処理回路81は、指令トルクTq*に基づいた電力を電気モータ31に供給することにより、モータ回転角θmtを調整する。
【0068】
ここで、電気モータ31への供給電力は、指令トルクTq*が大きいほど大きくなる。また、指令トルクTq*は、上記補正値ΔPptを反映した値である。そのため、電気モータ31への供給電力は、補正値ΔPptが大きいほど大きくなる。したがって、処理回路81は、ピストン推力基礎値PptBが減少してピストン推力基礎値PptBが所定値になる場合における供給電力の補正量を、ピストン推力基礎値PptBが増大してピストン推力基礎値PptBが所定値になる場合における当該補正量よりも大きくする。
【0069】
すなわち、電動制動装置10では、目標制動力FbpTrが同じであっても、目標制動力FbpTrを減少させる場合と目標制動力FbpTrを増大させる場合とで電気モータ31に供給する電力の補正量が変更される。すなわち、目標制動力FbpTrを減少させる場合の補正量が、目標制動力FbpTrを増大させる場合の補正量よりも大きくなる。これにより、電動制動装置10は、目標制動力FbpTrが増大から減少に転じた後における制動力の制御性を向上できる。
【0070】
本実施形態によれば、以下の効果をさらに得ることができる。
(1)目標制動力FbpTrが減少から再増大に転じると、処理回路81は、減少時マップMP12から再増大時マップMP13に切り替え、再増大時マップMP13を用いて補正値ΔPptを導出するようになる。これにより、目標制動力FbpTrが再増大される際における電気モータ31への供給電力が適切に補正される。したがって、電動制動装置10では、目標制動力FbpTrが減少から再増大に転じた場合における制動力の制御性を向上できる。
【0071】
(2)処理回路81は、記憶部M25に記憶されているマップを用いて補正値ΔPptを導出する。これにより、処理回路81は、計算によって補正値ΔPptを導出する場合と比較して補正値ΔPptを早期に導出できる。したがって、電動制動装置10では、制動力の制御性を高くできる。
【0072】
(3)処理回路81は、上記規定ピストン推力PptFに応じた減少時マップMP12を用いて、ピストン推力基礎値PptBが減少する場合の補正値ΔPptを導出している。これにより、電動制動装置10は、補正値ΔPptを精度良く導出できるため、制動力の制御性を向上できる。
【0073】
(4)処理回路81は、上記規定ピストン推力PptF応じた減少時マップMP12を選択するため、規定ピストン推力PptFに応じた値を反転値ΔPptRとして設定できる。このように反転値ΔPptRを適切に設定できることにより、電動制動装置10では、目標制動力FbpTrを減少させる際における制動力の制御性を向上できる。
【0074】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0075】
・減少時マップとして、
図7に示す減少時マップMP22を採用してもよい。この場合、ピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降では、補正値ΔPptの減少勾配が、ピストン推力基礎値PptBが小さくなるにつれて次第に大きくなる。補正値ΔPptの減少勾配とは、ピストン推力基礎値PptBの減少に対する補正値ΔPptの減少量である。こうした減少時マップMP22を用いることにより、電動制動装置10は、ピストン推力要求値PptRqを精度良く設定できる。その結果、電動制動装置10は、目標制動力FbpTrを減少させる際における制動力の制御性を高くできる。
【0076】
・上記実施形態では、基礎値導出部M12は、
図2に示した増大時特性CHIを基にピストン推力基礎値PptBを導出しているが、これに限らない。
(B1)基礎値導出部M12は、例えば
図8に示す第1特性CHAを基にピストン推力基礎値PptBを導出してもよい。第1特性CHAを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtは、増大時特性CHIを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtよりも小さい。そのため、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが増大される場合であっても正の値を補正値ΔPptとして導出することになる。
【0077】
例えば、補正値導出部M14は、
図9に示すように補正値ΔPptを導出するとよい。すなわち、補正値導出部M14は、
図9に矢印Y31で示すようにピストン推力基礎値PptBが増大する場合、ピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを大きくする。補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じた場合、
図9に矢印Y32で示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを大きくする。補正値導出部M14は、補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降では、
図9に矢印Y33で示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを小さくする。補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが減少から再増大に転じた場合、
図9に矢印Y34で示すようにピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを小さくする。
【0078】
この場合であっても、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値よりも大きくなるように、補正値ΔPptを導出できる。その結果、第1加算部M15は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果よりも大きくなるように、ピストン推力基礎値PptBを補正できる。
【0079】
(B2)基礎値導出部M12は、例えば
図8に示す第2特性CHBを基にピストン推力基礎値PptBを導出してもよい。第2特性CHBを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtは、増大時特性CHIを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtよりも大きい。一方、第2特性CHBを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtは、減少時特性CHDを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtよりも小さい。そのため、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが増大される場合には負の値を補正値ΔPptとして導出する一方、目標制動力FbpTrが減少される場合には正の値を補正値ΔPptとして導出することになる。
【0080】
例えば、補正値導出部M14は、
図10に示すように補正値ΔPptを導出するとよい。すなわち、補正値導出部M14は、
図10に矢印Y41で示すようにピストン推力基礎値PptBが増大する場合、ピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを小さくする。これにより、補正値導出部M14は、負の値を補正値ΔPptとして設定できる。補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じた場合、
図10に矢印Y42で示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを大きくする。これにより、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが減少に転じる以前よりも補正値ΔPptを大きくできる。補正値導出部M14は、補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降では、
図10に矢印Y43で示すようにピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを小さくする。補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが減少から再増大に転じた場合、
図10に矢印Y44で示すようにピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを小さくする。
【0081】
この場合であっても、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値よりも大きくなるように、補正値ΔPptを導出できる。その結果、第1加算部M15は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果よりも大きくなるように、ピストン推力基礎値PptBを補正できる。
【0082】
(B3)基礎値導出部M12は、
図2に示した減少時特性CHDを基にピストン推力基礎値PptBを導出してもよい。減少時特性CHDを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtは、増大時特性CHIを用いて導出できるピストン推力Pptに応じたモータ回転角θmtよりも大きい。そのため、補正値導出部M14は、補正値ΔPptとして0(零)以下の値を導出することになる。
【0083】
例えば、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが増大する場合、負の値を補正値ΔPptとして導出する。具体的には、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBの増大に応じて補正値ΔPptを小さくする。ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じると、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptを大きくする。そして、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBの減少に応じて補正値ΔPptが反転値ΔPptRに達した以降では、ピストン推力基礎値PptBの減少に対する補正値ΔPptの変更量である補正値ΔPptの変更勾配を小さくする。この場合であっても、補正値導出部M14は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値よりも大きくなるように、補正値ΔPptを導出できる。その結果、第1加算部M15は、目標制動力FbpTrが減少して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果が、目標制動力FbpTrが増大して目標制動力FbpTrが所定制動力になる場合における補正値ΔPptとピストン推力基礎値PptBとの演算結果よりも大きくなるように、ピストン推力基礎値PptBを補正できる。
【0084】
(B4)基礎値導出部M12は、ピストン推力基礎値PptBが増大する場合には電気モータ31への供給電力を増大し、ピストン推力基礎値PptBが減少する場合への上記供給電力を減少するように、ピストン推力基礎値PptBを導出するようにしてもよい。
【0085】
・処理回路81は、ピストン推力Ppt以外の電気モータ31の駆動パラメータを、目標制動力FbpTrの推移に応じて補正するようにしてもよい。ピストン推力Ppt以外の他の駆動パラメータとしては、例えば、目標制動力FbpTr、ピストン位置PS及び補償トルクTqCを挙げることができる。
【0086】
・記憶部M25は、目標制動力FbpTrが増大する際におけるピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの関係として、当該関係を計算式で示す関数を記憶してもよい。当該関数は、そのときのピストン推力基礎値PptBを変数とする計算式である。この場合、補正値導出部M14は、そのときのピストン推力基礎値PptBを当該関数に代入することにより、当該ピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして算出できる。
【0087】
・記憶部M25は、目標制動力FbpTrが減少する際におけるピストン推力基礎値PptBと補正値ΔPptとの関係として、当該関係を計算式で示す関数を記憶してもよい。当該関数は、ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じた時点のピストン推力基礎値PptBと、そのときのピストン推力基礎値PptBとを変数とする計算式である。この場合、補正値導出部M14は、ピストン推力基礎値PptBが増大から減少に転じた時点のピストン推力基礎値PptBと、そのときのピストン推力基礎値PptBとを当該関数に代入する。これにより、補正値導出部M14は、当該ピストン推力基礎値PptBに応じた値を補正値ΔPptとして算出できる。
【0088】
・処理回路81は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0089】
・電動ブレーキは、モータ回転角θmtを制御することによって制動力を調整できるブレーキ機構であれば、
図1に示したような電動シリンダを備えたブレーキ機構ではなくてもよい。例えば、電動ブレーキは、ピストンを摩擦材に直接押し付けることのできる乾式の電動ブレーキであってもよい。
【0090】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記補正値導出部は、前記目標制動力が増大から減少に転じた後において、当該目標制動力が減少から再増大に転じた場合、前記目標制動力の増大に応じて前記補正値を減少させることが好ましい。
【0091】
(ロ)前記摩擦材は、前記目標制動力が減少して当該目標制動力が所定制動力になったときの制動力の実値が、前記目標制動力が増大して当該目標制動力が前記所定制動力になったときの制動力の実値よりも小さくなるヒステリシス特性を有している。
【0092】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0093】
10…電動制動装置
20…電動ブレーキ
23…回転体
24…摩擦材
31…電気モータ
80…制御装置
81…処理回路
100…車輪
M12…基礎値導出部
M14…補正値導出部
M15…第1加算部(補正部)
M20…モータ制御部
M25…記憶部