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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106649
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】構造物保護シート
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20240801BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20240801BHJP
   E04D 5/10 20060101ALI20240801BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240801BHJP
   C04B 41/71 20060101ALI20240801BHJP
   B32B 13/12 20060101ALI20240801BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
E04B1/62 Z
E04B1/92
E04D5/10 Z
E04G23/02 A
C04B41/71
B32B13/12
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011021
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】保野 宏介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】松野 有希
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝弘
【テーマコード(参考)】
2E001
2E176
4F100
4G028
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DB01
2E001DD05
2E001DH00
2E001EA01
2E001FA16
2E001GA24
2E001HA01
2E001HD11
2E001JD02
2E001KA01
2E001LA04
2E176AA23
2E176BB03
2E176BB25
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25
4F100AK52
4F100AK52B
4F100AR00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA41B
4F100DD01B
4F100GB07
4F100JB12B
4F100JD05
4F100JK06
4F100JK14
4F100JK14B
4F100JL09
4F100JL09B
4F100JL11A
4F100JN21
4F100JN21B
4F100YY00B
4G028FA01
4G028FA04
(57)【要約】
【課題】構造物の屋根を長期間保護が可能で、かつ、使用可能限度を目視で判断が容易な構造物保護シートを提供する。
【解決手段】構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、上記樹脂層は、耐候性の異なる2種以上の樹脂を含有することを特徴とする本発明に係る構造物保護シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
前記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、
前記樹脂層は、耐候性の異なる2種以上の樹脂を含有する
ことを特徴とする構造物保護シート。
【請求項2】
耐候性の異なる2種以上の樹脂は、シロキサン骨格を有する樹脂と、シロキサン骨格を有さない樹脂とを含有する請求項1記載の構造物保護シート。
【請求項3】
シロキサン骨格を有する樹脂は、(メタ)アクリルシリコーン樹脂であり、シロキサン骨格を有さない樹脂は、(メタ)アクリル樹脂及び(メタ)アクリルスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項2記載の構造物保護シート。
【請求項4】
構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
前記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、
メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、前記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験を行った際に、前記紫外線の照射後500時間以上1500時間以下の間にチョーキングが発生することを特徴とする構造物保護シート。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
【請求項5】
構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
前記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、
前記樹脂層の前記ポリマーセメント硬化層側と反対側表面に凹凸形状を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、前記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験前の前記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(1)と前記耐候性試験後の前記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(2)との比(Ra(1)/Ra(2))が2.0以上であり、
前記耐候性試験前の前記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(1)と前記耐候性試験後の前記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(2)との比(Sa(1)/Sa(2))が2.0以上であることを特徴とする構造物保護シート。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
【請求項6】
構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、
前記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、
メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、前記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験前のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(1)に対する前記耐候性試験後のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(2)の比(光沢度(2)/光沢度(1))が3.0以上であることを特徴とする構造物保護シート。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
【請求項7】
ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、前記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている請求項1、4、5又は6記載の構造物保護シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物保護シートに関する。さらに詳しくは、構造物の屋根の表面に貼り付けることで、構造物の屋根を長期にわたって保護することができるとともに、その使用可能限度を外観の目視により判断が容易な構造物保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や商業ビルなどの構造物の屋根は、スレート屋根、金属製の屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、陸屋根(「りくやね」もしくは「ろくやね」)と呼ばれるものを含む、コンクリート製の屋根等様々知られているが、長期間風雨に曝されることによる劣化や台風等の災害による破損が生じると雨漏りの原因となることがあった。
構造物の屋根の劣化や破損が生じたときには応急処置されることがあるが、現在構造物の屋根の応急処置としては、例えば、図4に示したように、屋根30の破損個所を被うようにブルーシート31を置き、重りとして複数の土嚢32をブルーシート31の上に配置する方法が一般的である。
また、土嚢32のような重りを用いてブルーシート31を配置する方法以外に、例えば、特許文献1や特許文献2等には、水を入れた袋を用いてブルーシートを固定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-144360号公報
【特許文献2】特開2000-16886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のブルーシート31を用いた屋根の補修では、ブルーシート31のシワを防ぐことは難しく、また、屋根の表面は平坦でないことが通常であるので、ブルーシート31と屋根との間に隙間存在し、この隙間からの水の侵入を防止できないという問題があった。
また、通常、ブルーシートの耐候性は余り高くないため1年ほどで劣化して張り替えをする必要があった。
【0005】
このようなブルーシートを用いた屋根の補修に代えて、例えば、樹脂フィルムを基材として他の層が積層された構造の補修シートを補修箇所に貼り付ける屋根の補修方法も従来から種々検討されている。
しかしながら、従来のコンクリート補修シートは、基材と他の層(例えば接着剤層や補強部材)との接着力の違い、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違い、接着剤層と屋根との接着強度の問題等、解決すべき課題があった。
具体的には、基材と補強部材とは接着剤層で貼り合わされているが、補修シートの施工時や施工後の補修シートに応力が加わった場合、基材、接着剤層及び補強部材等の伸びの違いは、基材と接着剤層との接着力と接着剤層と補強部材との接着力との相違に基づいた層界面の剥離の原因になり得る。
【0006】
このような従来の問題点に鑑み本願出願人は、先に国際公開第2021/010456に開示のようにポリマーセメント層と樹脂層とを備えた構造物保護シートを開発し、該構造物保護シートは、接着剤を介して構造物に貼り合せることができ、本願出願人が先に開発した構造物保護シートによると、構造物の屋根の表面に保護シートを設ける際の工期を大幅に削減できるとともに、構造物を長期にわたって保護することができ、強度にも優れたものとなる。
【0007】
このような本願出願人らが先に開発した構造物保護シートは、最表面に耐候性の良好な樹脂層が形成されており極めて耐候性に優れたものであるため、屋外で使用した際に想定される環境負荷(太陽光、水、温度変化等)に対して変化が起こり難かった。
そのため、構造物保護シートの使用可能限度(張替時期)の判断が外観からは難しく、外観変化がないまま構造物の表面に対する密着性の低下が生じたり構造物保護シートの内部の劣化が生じたりする可能性があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、構造物の屋根を長期間保護が可能で、かつ、使用可能限度を目視で判断が容易な構造物保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、構造物の屋根を長期間保護が可能で、かつ、使用可能限度を目視で判断が容易な構造物保護シートについて研究した結果、構造物保護シートとして粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造とし、構造物の屋根の表面と反対側に配置される樹脂層を耐候性の異なる2種以上の樹脂を含むものとすることで、構造物の屋根の表面に貼り付けて長期間使用し使用可能限度となるタイミングで上記樹脂層の外観を変化させることができ、構造物の屋根を長期間保護が可能で、かつ、使用可能限度を目視で判断が容易となることを見出し、本発明を完成させた。そして、この技術思想は、構造物の屋根以外の部材、例えば、構造物の壁、軒、塀、門柱、門扉、門屋根等に対して施工する構造物保護シートとして応用可能である。
【0010】
本開示(1)は、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、上記樹脂層は、耐候性の異なる2種以上の樹脂を含有することを特徴とする本発明に係る構造物保護シートである。
【0011】
この発明によれば、構造物の屋根の表面に粘着層を介して貼り付けることで、該構造物の屋根の表面を長期にわたって保護することができ、また、構造物の屋根の表面と反対側の樹脂層の外観を適切なタイミング、具体的には構造物保護シートの想定された使用可能限度となるタイミング、で変化させることができるため、構造物保護シートの使用可能限度を目視により容易に判断することができる。
なお、本願発明において「使用可能限度」とは、本発明に係る構造物保護シートを構造物の屋根の表面に貼り付けた後、保護シートとしての機能が維持される期間であり、具体的には上記構造物の屋根の表面に対する密着性及び構造物保護シートを構成する各層の層間密着性のいずれか又は両方が損なわれるまでの期間を意味し、例えば、少なくとも30年であることが好ましい。
また、本発明に係る構造物保護シートは、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
【0012】
本開示(2)は、上記耐候性の異なる2種以上の樹脂は、シロキサン骨格を有する樹脂と、シロキサン骨格を有さない樹脂とを含有する本開示(1)に記載の構造物保護シートである。
【0013】
この発明によると、構造物保護シートの耐候性を長期にわたり維持することができる一方で、構造物保護シートの使用可能限度となるタイミングで樹脂層の表面形状を変化するように制御できるため、構造物保護シートの使用可能限度となるタイミングを該構造物保護シートの外観変化により容易に判断できる。
【0014】
本開示(3)は、上記シロキサン骨格を有する樹脂は、(メタ)アクリルシリコーン樹脂であり、上記シロキサン骨格を有さない樹脂は、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である本開示(2)に記載の構造物保護シートである。
【0015】
この発明によると、構造物保護シートの耐候性を長期にわたり維持することができる一方で、構造物保護シートの使用可能限度となるタイミングで樹脂層の表面形状を変化するように制御できるため、構造物保護シートの使用可能限度となるタイミングを該構造物保護シートの外観変化により容易に判断できる。
【0016】
本開示(4)は、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験を行った際に、上記紫外線の照射後500時間以上1500時間以下の間にチョーキングが発生することを特徴とする構造物保護シートである。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
【0017】
この発明によれば、所定の条件での耐候性試験後の構造物保護シートの表面側に設けられた樹脂層に発生するチョーキングを目視で観察できる。このため、本発明に係る構造物保護シートを構造物の屋根の表面に粘着層を介して貼り付けることで、該構造物の屋根の表面を長期にわたって保護することができ、また、使用可能限度となるタイミングで樹脂層にチョーキングが発生するため、構造物保護シートの使用可能限度を目視により容易に判断することができる。
また、本発明に係る構造物保護シートは、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
【0018】
本開示(5)は、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、上記樹脂層の上記ポリマーセメント硬化層側と反対側表面に凹凸形状を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、上記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験前の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(2)との比(Ra(1)/Ra(2))が2.0以上であり、上記耐候性試験前の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(2)との比(Sa(1)/Sa(2))が2.0以上であることを特徴とする構造物保護シートである。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
【0019】
この発明によると、構造物保護シートは、樹脂層表面に形成された凹凸形状が耐候性試験により均されてより平坦な面となるため、樹脂層に発生するチョーキングを目視で容易に観察でき、本発明に係る構造物保護シートの使用可能限度の判断をより容易に行うことができるようになる。
【0020】
本開示(6)は、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、上記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する上記耐候性試験前のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(1)に対する上記耐候性試験後のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(2)の比(光沢度(2)/光沢度(1))が3.0以上であることを特徴とする構造物保護シートである。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
【0021】
この発明によると、耐候性試験前後での樹脂層の外観変化の判断を容易に行うことができ、本発明に係る構造物保護シートの使用可能限度の判断をより容易に行うことができるようになる。
【0022】
本開示(7)は、上記ポリマーセメント硬化層は、セメント成分及び樹脂を含有する層であって、上記樹脂が10重量%以上、40重量%以下含有されている本開示(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)記載の構造物保護シートである。
【0023】
この発明によれば、セメント成分と樹脂成分との比率を制御することでポリマーセメント硬化層を形成しやすくなると共に、ポリマーセメント硬化層は追従性に優れた相溶性のよい層となりやすいので、層自体の密着性が改善される傾向となる。さらに、構造物側のポリマーセメント硬化層が含有するセメント成分はコンクリート等の構造物との密着性を高めるように作用する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構造物の屋根の表面に貼り付けて長期間使用し使用可能限度となるタイミングで上記樹脂層の外観を変化させることができ、構造物の屋根を長期間保護が可能で、かつ、使用可能限度を目視で判断が容易となる構造物保護シートを提供することができる。また、本発明に係る構造物保護シートは、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので、低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)、(b)は、構造物保護シートの断面構成図である。
図2】(A)及び(B)は、本発明に係る構造物保護シートを構造物に貼り付ける様子を示す模式図である。
図3】(A)及び(B)は、本発発明に係る構造物保護シートの補強層の一例を示す模式図である。
図4】従来の屋根の補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の施工方法及びそれに用いる構造物保護シートについて図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0027】
[構造物保護シート]
本発明において、構造物保護シート10は、図1に示すように、粘着層11、ポリマーセメント硬化層12及び樹脂層13がこの順に設けられている。このポリマーセメント硬化層12と樹脂層13の両層が、図1(a)に示したように、それぞれ単層で形成されてもよいし、図1(b)に示したように積層として形成されてもよい。また、求められる性能によっては、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との間に別の層を設けてもよい。
【0028】
本発明に係る構造物保護シート10は、構造物の屋根に粘着層11を介して貼り付けれられた後、長期にわたり上記構造物の屋根を保護することができるが、構造物保護シート10の使用可能限度を過ぎると樹脂層13の外観が変化し、構造物保護シート10が使用可能限度を迎えたことを目視で容易に判断できる。
本発明において、「樹脂層13の外観の変化」とは、例えば、本発明に係る構造物保護シート10の長期の使用により樹脂層13の表面を構成する材料が雨や紫外線により分解されて顔料が樹脂層13の表面に析出するチョーキング(白亜化)が生じている状態が挙げられる。
なお、本発明に係る構造物保護シート10は、上述したチョーキングが生じた場合であっても直ちに貼り替えることができない場合もあるため、耐水性や構造物の屋根の表面に対する接着性等の性能は維持された状態であることが好ましい。
【0029】
上述した構造物保護シート10の使用可能限度を過ぎると樹脂層13の外観が変化するかどうかは、所定の耐候性試験を施すことで確認することができる。このような所定の耐候性試験を施してチョーキングが発生する構造物保護シートもまた、別の態様に係る本発明の一つである。
すなわち、別の態様に係る本発明の構造物保護シートは、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験を行った際に、上記紫外線の照射後500時間以上1500時間以下の間にチョーキングが発生することを特徴とする。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
このような別の態様に係る本発明の構造物保護シートは、所定の条件で紫外線を照射する耐候性試験を行った際に、構造物保護シートの表面側に設けられた樹脂層に紫外線の照射後500時間以上1500時間以下の間に発生するチョーキングを目視で観察できる。このため、別の態様に係る本発明に係る構造物保護シートを構造物の屋根の表面に粘着層を介して貼り付けることで、該構造物の屋根の表面を長期にわたって保護することができ、また、使用可能限度となるタイミングで樹脂層にチョーキングが発生するため、構造物保護シートの使用可能限度を目視により容易に判断することができる。
なお、以下の説明では上述した本発明に係る構造物保護シートと別の態様に係る構造物保護シートとを特に区別しないときは単に「本発明に係る構造物保護シート」と称して説明する。
【0030】
本発明において、構造物保護シート10は、水蒸気透過率が10~50g/m.dayであることが好ましい。ポリマーセメント硬化層12はセメント成分を含有しているので、一定程度の水蒸気透過率を有することが期待できるが、ポリマーセメント硬化層12上に設けられる樹脂層13は水蒸気透過率が劣る結果になると推測されるところ、構造物保護シート10全体で水蒸気透過率が所定の範囲にあることで、コンクリート等の構造物に貼り付けた後内部の水蒸気を好適に透過させて外部に排出できるため、膨れの発生を好適に防止でき、更には接着性の低下も防止できる。水蒸気透過率が所定の範囲にあるメリットは、蒸気を逃がしやすい構造ゆえ、構造物中の金属(例えば鉄筋)の腐食の抑制ができる傾向になることが挙げられる。また、雨の日に構造物保護シート10を構造物に施工する場合には、構造物の表面が濡れると共に、構造物自体が水分を含んだ状態での施工となるが、構造物保護シート10が上記水蒸気透過率を有することで、施工後(補強された構造物の製造後)に構造物にしみこんだ水分が外部へと抜けやすくなる。さらに、硬化直後のコンクリートは内部に多くの水分を含むが、このようなコンクリートに対しても構造物保護シート10は好適に使用できる。
本発明において、構造物保護シート10のもう一つの利点は、その水蒸気透過率を制御できるので、例えば構造物のセメントが硬化していないような状態でも当該構造物の表面に貼り付けることができる点にある。すなわち、セメントを成型して硬化させる際に急激に水分が抜けるとセメントがポーラスになって構造物の強度が落ちる傾向となるが、構造物保護シート10を硬化前のセメントに貼り付けることで、セメントの硬化時の水分除去のスピード等をコントロールでき、上記ポーラス構造になるのを避けやすくなるメリットもある。
上記水蒸気透過率が10g/m.day未満であると、構造物保護シート10が十分に水蒸気を透過させることができず、構造物に貼り付けたあとの膨れ現象等を防止できず接着性が不十分となることがある。50g/m.dayを超えると、セメントの硬化時の水分除去のスピードが過剰に早くなり、セメントの硬化物がポーラスになる不具合が生じる可能性がある。上記水蒸気透過率の好ましい範囲は20~50g/m.dayである。
このような水蒸気透過率を有する構造物保護シート10は、例えば、後述するポリマーセメント硬化層12と、所定の水蒸気透過率を有する樹脂を樹脂層13に用いることにより得ることができる。
本発明における水蒸気透過率は、後述する方法で測定することができる。
【0031】
本発明において、構造物保護シート10は、厚さ分布が±100μm以内であることが好ましい。この構造物保護シート10は、厚さ分布が上記範囲内であることで、熟練した作業者でなくても厚さバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設けることができる。また、厚さ分布を上記範囲内に制御することによって、構造物の補強を均一に行いやすくなる。
構造物側に設けられたポリマーセメント硬化層12は、構造物との密着性等に優れ、ポリマーセメント硬化層12上に設けられた樹脂層13は、防水性、遮塩性、中性化阻止性等に優れた性質を容易に付与できる。
また、構造物保護シート10は、工場の生産ラインでの塗工工程と乾燥工程により量産できるので低コスト化、現場での作業工期の大幅削減、構造物の長期保護を実現することができる。
また、本発明において、構造物保護シート10は、粘着層11が設けられているので、作業現場で接着剤を塗布して接着剤層を形成する必要がなく、熟練の職人でなくても均一な厚さの接着層を介して構造物の表面への貼り付けが容易となる。その結果、構造物の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物を長期にわたって保護することができる。
【0032】
本発明において、構造物保護シート10は、ヤング率の好ましい下限が20MPa、好ましい上限が300MPaである。ヤング率が20MPa未満であると、構造物保護シート10を構造物に貼り付ける際、位置決め後シワを伸ばす目的等で引っ張ったときに破れたり永久変形したりすることがある。ヤング率が300MPaを超えると構造物保護シート10が強直に過ぎ、構造物保護シート10を構造物に貼り付ける際、位置決め後に十分に引っ張りができないことがある。構造物保護シート10のヤング率のより好ましい下限は30MPa、より好ましい上限は280MPaである。
上記ヤング率は、例えば、公知の引張試験機を用いて測定することができる。
【0033】
本発明に係る構造物保護シート10は、例えば、その構造中に補強層を設けることで、ヤング率を上述した範囲に調整することができる。上記補強層は、例えば、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13と間に設けられてもよいし、ポリマーセメント硬化層12の内部に埋設された状態で設けられてもよい。なお、補強層については後述する。
【0034】
本発明において、構造物保護シート10は、構造物に貼り付ける際の位置決め後の引っ張り時に弾性変形することが好ましい。構造物保護シート10が弾性変形することで引っ張りによる破れや永久変形を防止できる。
具体的には、構造物保護シート10は、応力が2.0MPa以下、伸度が5%以下の範囲で弾性変形することが好ましく、この範囲におけるヤング率が20~300MPaであることが好ましい。
【0035】
また、本発明に係る構造物保護シート10は、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。本発明に係る構造物保護シート10で保護した構造物の屋根に対し、更に重ねて保護を行うことができるため、例えば、2枚の本発明に係る構造物保護シート10を並べて貼り付けた場合、これらの構造物保護シート10同士の境目を覆うように別の本発明に係る構造物保護シート10を貼り付けることができる。
本発明に係る構造物保護シート10は、ポリマーセメント硬化層12がセメントと樹脂成分とを含有するものであるため、先に構造物の屋根に貼り付けた本発明に係る構造物保護シート10の樹脂層13に対しても好適な接着性を示す。そのため、重ねた状態で本発明に係る構造物保護シート10は好適に使用できる。
【0036】
また、本発明に係る構造物保護シート10は、構造物の屋根の表面と粘着層11を介して貼り付けられる。粘着層11が設けられていることで、作業現場で粘着剤を塗布して粘着層を形成する必要がなく、熟練の職人でなくても均一な厚さの粘着層を介して構造物の屋根の表面への貼り付けが容易となる。その結果、構造物の屋根の表面に貼り合わせる際の工期を大幅に削減できるとともに構造物の屋根を長期にわたって保護することができる。
【0037】
以下、各構成要素の具体例について詳しく説明する。
【0038】
(構造物)
本発明に係る構造物保護シートを貼り付ける対象の屋根を有する構造物としては特に限定されず、一般家屋や、体育館、病院、公共施設等の大型構造物等が挙げられる。
上記構造物の屋根の形状も特に限定されず、切り妻、寄棟、方形、陸屋根、片流れ、招き屋根、かまぼこ屋根等任意の形状が挙げられる。
また、上記構造物の屋根としては、具体的には、例えば、スレート屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、トタン屋根(亜鉛メッキ鋼板製屋根)、鉄に塗料を塗布した金属製の屋根、陸屋根(「りくやね」もしくは「ろくやね」)と呼ばれるものを含む、コンクリート製の屋根等が挙げられる。
なお、スレートとは、セメント層上に設けられた無機化粧(セメント)層上に無機彩石層を介して無機系塗料が塗布された構成を有し、シンプルな見た目と豊富な色を有し、軽く安価であることから広く一般家屋の屋根材として使用されている。しかし、スレート屋根は、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根等と比較して割れやすく耐久性や防水性が他の材料からなる屋根と比較して低く破損等の問題が生じやすいため、特に本発明に係る構造物保護シートを貼り付ける屋根として好適である。
以下の説明では構造物の屋根のことを「スレート屋根等」ともいう。
上記構造物の屋根の表面は平坦であってもよく、一般的なスレート屋根等が有する程度の凹凸を有するものであってもよい。なかでも、本発明では、特定の構成の構造物保護シートを構造物の屋根に施工するため、該構造物の屋根がスレート屋根等の表面が凹凸を有するものであっても隙間が形成されることがない。
また、構造物の屋根に本発明に係る構造物保護シートを適用することで、構造物の屋根に生じたひび割れや膨張に追従でき、構造物の屋根の内部に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、構造物の屋根の中の水分を水蒸気として排出できる、という格別の利点がある。特にスレート屋根や前記した陸屋根においては、雨水を蓄積しやすい素材であるため、水蒸気の排出能は材料の劣化防止に対する効果が大きい。
【0039】
(ポリマーセメント硬化層)
ポリマーセメント硬化層12は、構造物の屋根側に配置される層である。このポリマーセメント硬化層12は、図1(a)に示したように単層であっても図1(b)に示したように積層であってもよいが、単層とするか積層とするかは、全体厚さ、付与機能(追従性、構造物への接着性等)、工場の製造ライン、生産コスト等を考慮して任意に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、例えば2層の重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を形成する。
また、ポリマーセメント硬化層12は、性質の異なるもの同士が積層された構成であってもよい。例えば、樹脂層13側に樹脂成分の割合をより高めた層とすることで、樹脂成分の高い層が樹脂層13と接着し、セメント成分の高い層がコンクリート等からなる構造物の屋根と粘着層11を介して接着することとなり両者に対する接着性が極めて優れたものとなる。
【0040】
ポリマーセメント硬化層12は、セメント成分を含有する樹脂(樹脂成分)を塗料状にし、この塗料を塗工して得られる。
上記セメント成分としては、各種のセメント、酸化カルシウムからなる成分を含む石灰石類、二酸化ケイ素を含む粘土類等を挙げることができる。なかでもセメントが好ましく、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメント、早強セメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。いずれのセメントを選択するかは、ポリマーセメント硬化層12が備えるべき特性に応じて選択され、例えば、コンクリート製の構造物への追従性の程度を考慮して選択される。特に、JIS R5210に規定されるポルトランドセメントを好ましく挙げることができる。
【0041】
上記樹脂成分としては、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂系、ポリブタジエンゴム系、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)等を挙げることができる。こうした樹脂成分は、後述の樹脂層13を構成する樹脂の成分と同じものであることが、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との密着性を高める観点から好ましい。
また、上記樹脂成分は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれを使用してもよい。ポリマーセメント硬化層12の「硬化」の文言は、樹脂成分を熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等、硬化して重合する樹脂に限定されるという意味ではなく、最終的な層となった場合に硬化するような材料を用いればよいという意味で用いている。
【0042】
上記樹脂成分の含有量としては、使用する材料等に応じて適宜調整されるが、好ましくはセメント成分と樹脂成分との合計量に対して10以上、40質量%以下とする。10重量%未満であると、樹脂層13に対する接着性の低下やポリマーセメント硬化層12を層として維持することが難しくなる傾向となることがあり、40重量%を超えると、構造物に対する接着性が不十分となることがある。上記観点から上記樹脂成分の含有量のより好ましい範囲は15重量%以上、35重量%以下であるが、さらに好ましくは20重量%以上、30重量%以下である。
【0043】
ポリマーセメント硬化層12を形成するための塗料は、セメント成分と樹脂成分とを溶媒で混合した塗工液である。樹脂成分については、エマルションであることが好ましい。例えば、アクリル系エマルションは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子であり、一例としては、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの一種以上を含有する単量体又は単量体混合物を、界面活性剤を配合した水中で重合してなるアクリル酸系重合物エマルジョンを好ましく挙げることができる。
上記アクリル系エマルションを構成するアクリル酸エステル等の含有量は特に限定されないが、20~100質量%の範囲内から選択される。また、界面活性剤も必要に応じた量が配合され量も特に限定されないが、エマルションとなる程度の界面活性剤が配合される。
【0044】
ポリマーセメント硬化層12は、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒(好ましくは水)を乾燥除去することで形成することができる。例えば、セメント成分とアクリル系エマルションとの混合組成物を塗工液として使用し、ポリマーセメント硬化層12を形成することができる。なお、上記離型シート上には、ポリマーセメント硬化層12を形成した後に樹脂層13を形成してもよいが、離型シート上に樹脂層13を形成した後にポリマーセメント硬化層12を形成してもよい。
具体的には、例えば、離型シートとしての工程紙上に後述する樹脂層組成物をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント硬化層用の塗工液を塗工し乾燥させ、その後粘着層11をポリマーセメント硬化層12の表面に形成することで本発明に係る構造物保護シート10を製造できる。
また、離型シートとしての工程紙上に樹脂層組成物をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント硬化層用の塗工液を塗工し、粘着層11を形成した後全体を乾燥させることでポリマーセメント硬化層に補強層が存在する構造物保護シートを得ることも可能である。
【0045】
本発明に係る構造物保護シート10が補強層を有する場合、例えば、離型シートとしての工程紙上に後述する樹脂層組成物をコーティングし、乾燥後ポリマーセメント硬化層用の塗工液を塗工し、乾燥前のウエットの状態で補強層を貼り合わせた後乾燥させ、その後粘着層11を補強層の表面に形成することで、ポリマーセメント硬化層12と粘着層11との間に補強層が設けられた本発明に係る構造物保護シート10を製造できる。
なお、本発明に係る構造物保護シート10は、上述した補強層を貼り合わせた面に更にポリマーセメント硬化層12を形成するための塗工液を塗工し、乾燥させることでポリマーセメント硬化層12の内部に補強層が存在する構造であってもよい。
【0046】
本発明において、ポリマーセメント硬化層12の厚さとしては特に限定されず適宜調整されるが、その内部に後述する補強層を含む場合、該補強層の厚みとの関係が後述関係を満たすよう適宜調整されるが、例えば、360~500μmであることが好ましい。360μm未満であると上記補強層のポリマーセメント硬化層12への埋設状態にムラが生じ、また、上記補強層が粘着層11との界面となって粘着層11のポリマーセメント硬化層12への貼り付きが不十分となることがある。更に、ポリマーセメント硬化層12の表面から上記補強層が露出して該補強層が後述する寒冷紗である場合、該寒冷紗の凹凸形状が粘着層11の表面に出て隙間が露出し、該隙間に毛細管現象により水分が侵入するという問題が生じることがある。一方、500μmを超えると上記補強層をポリマーセメント硬化層12中に埋設させる際に巻き込んだ空気を排出できずポリマーセメント硬化層12と樹脂層13との間に空隙が形成されてしまうことがある。
ポリマーセメント硬化層12の厚さのより好ましい下限は400μm、より好ましい上限は450μmである。
【0047】
このポリマーセメント硬化層12は、セメント成分の存在により、後述の樹脂層13に比べて水蒸気が容易に透過する。このときの水蒸気透過率は、例えば20~60g/m・day程度である。さらに、セメント成分は、例えばコンクリートを構成するセメント成分との相溶性がよく、コンクリート表面との密着性に優れたものとすることができる。また、構造物保護シート10が粘着層11を有するので、セメント成分を含有するポリマーセメント硬化層12が粘着層11に密着性よく接着する。また、このポリマーセメント硬化層12は、延伸性があるので、構造物の屋根にひび割れや膨張が生じた場合であっても、コンクリートの変化に追従することができる。
【0048】
(樹脂層)
樹脂層13は、構造物の屋根とは反対側に配置されて表面に現れる層である。この樹脂層13は、例えば、図1(a)に示すように単層であってもよいし、図1(b)に示すように少なくとも2層からなる積層であってもよい。単層とするか多層とするかは、全体厚さ、付与機能(防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定され、例えば製造ラインが短くて単層では所定の厚さにならない場合は、2層以上重ね塗りして形成することができる。なお、重ね塗りは、1層目の層を乾燥した後に2層目の層を塗工する。2層目の層は、その後乾燥される。
【0049】
樹脂層13は、柔軟性を有し、構造物の屋根に発生したひび割れや亀裂に追従できるとともに防水性、遮塩性、中性化阻止性及び水蒸気透過性に優れた樹脂層13を形成できる塗料を塗工して得られる。
本発明において、樹脂層13は、耐候性の異なる2種以上の樹脂を含有する。このような耐候性の異なる2種以上の樹脂を含有することで、本発明に係る構造物保護シート10の使用可能限度で樹脂層13の外観が変化するよう制御できる。
上記耐候性の異なる2種以上の樹脂としては、例えば、本発明に係る構造物保護シート10の使用可能限度を超えて耐候性を維持できる優れた耐候性を備えた樹脂と、本発明に係る構造物保護シート10の使用可能限度よりも短い期間で耐候性が低下する耐候性に劣る樹脂との組み合わせが挙げられる。このような樹脂の組み合わせとすることで適切なタイミングで樹脂層13の外観を変化するよう制御できる。
【0050】
上記耐候性の異なる2種以上の樹脂は、シロキサン骨格を有する樹脂と、シロキサン骨格を有さない樹脂とを含有することが好ましい。上記シロキサン骨格を有する樹脂は極めて耐候性に優れた樹脂である一方で、上記シロキサン骨格を有する樹脂に比べて上記シロキサン骨格を有さない樹脂は耐候性に劣る樹脂であるため、これらの樹脂を含有することで、本発明に係る構造物保護シート10の使用可能限度で樹脂層13の外観が変化するよう好適に制御できる。
【0051】
上記シロキサン骨格を有する樹脂は、(メタ)アクリルシリコーン樹脂であり、上記シロキサン骨格を有さない樹脂は、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記シロキサン骨格を有する樹脂とシロキサン骨格を有さない樹脂との配合比としては本発明に係る構造物保護シート10を構造物の屋根の表面に貼り付けた場合の使用可能限度で樹脂層13の外観が変化する程度の耐候性となるように、使用する樹脂に応じて適宜調整されるが、例えば、上記シロキサン骨格を有する樹脂が(メタ)アクリルシリコーン樹脂であり、上記シロキサン骨格を有さない樹脂が(メタ)アクリル樹脂である場合、重量比で(メタ)アクリルシリコーン樹脂/(メタ)アクリル樹脂が0/100~70/30であることが好ましい。
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。本発明では、上述した樹脂層13の耐候性を阻害しない範囲でその他の任意の樹脂を含んでいてもよい。
【0052】
このような樹脂層13を有する本発明に係る構造物保護シート10は、上記樹脂層のポリマーセメント硬化層側と反対側表面に凹凸形状を有し、上述した耐候性試験前の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(2)との比(Ra(1)/Ra(2))が2.0以上であり、上記耐候性試験前の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(2)との比(Sa(1)/Sa(2))が2.0以上であることが好ましい。
上記(Ra(1)/Ra(2))が2.0以上であり、(Sa(1)/Sa(2))が2.0以上であることで、上述した耐候性試験後に樹脂層13の表面凹凸形状が均されて平坦な面となっており、その結果、樹脂層13に発生するチョーキングを目視で容易に観察でき、本発明に係る構造物保護シート10の使用可能限度の判断をより容易に行うことができるようになる。
なお、上記(Ra(1)/Ra(2))及び(Sa(1)/Sa(2))が所定の値となる構造物保護シートもまた、第二の別の態様に係る本発明の一つである。
すなわち、第二の別の態様に係る本発明の構造物保護シートは、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、上記樹脂層の上記ポリマーセメント硬化層側と反対側表面に凹凸形状を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、上記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する耐候性試験前の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(2)との比(Ra(1)/Ra(2))が2.0以上であり、上記耐候性試験前の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(1)と上記耐候性試験後の上記凹凸形状のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(2)との比(Sa(1)/Sa(2))が2.0以上であることを特徴とする構造物保護シートである。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
なお、以下の説明では上述した本発明に係る構造物保護シートと第二の別の態様に係る構造物保護シートとを特に区別しないときは単に「本発明に係る構造物保護シート」と称して説明する。
【0053】
また、本発明に係る構造物保護シート10は、上述し耐候性試験前のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(1)に対する上記耐候性試験後のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(2)の比(光沢度(2)/光沢度(1))が3.0以上であることが好ましい。上記(光沢度(2)/光沢度(1))が3.0以上であることで、上述した耐候性試験前後での樹脂層の外観変化の判断を容易に行うことができ、本発明に係る構造物保護シートの使用可能限度の判断をより容易に行うことができるようになる。
なお、上記(光沢度(2)/光沢度(1))が所定の値となる構造物保護シートもまた、第三の別の態様に係る本発明の一つである。
すなわち、第三の別の態様に係る本発明の構造物保護シートは、構造物の屋根に貼り合せて用いられる構造物保護シートであって、上記構造物の屋根に貼り合せる側から、粘着層、ポリマーセメント硬化層及び樹脂層がこの順に設けられた構造を有し、メタルハライドランプ式耐候性試験機を用いて、上記樹脂層面を試験面とし、以下の条件で紫外線を照射する上記耐候性試験前のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(1)に対する上記耐候性試験後のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(2)の比(光沢度(2)/光沢度(1))が3.0以上であることを特徴とする構造物保護シートである。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH、
紫外線サイクル:4時間照射後4時間結露
試験時間:1000時間
なお、以下の説明では上述した本発明に係る構造物保護シートと第三の別の態様に係る構造物保護シートとを特に区別しないときは単に「本発明に係る構造物保護シート」と称して説明する。
【0054】
樹脂層13を形成する方法としては、例えば、上述した樹脂と溶媒との混合塗工液を作製し、その塗工液を離型シート上に塗布し、その後に溶媒を乾燥除去する方法が挙げられる。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。なお、離型シート上に形成される層の順番は制限されず、例えば、上記のとおり樹脂層13、ポリマーセメント硬化層12の順番であってもよいし、ポリマーセメント硬化層12、樹脂層13の順番であってもよい。
【0055】
樹脂層13の厚さは、構造物の屋根の使用形態、経年度合い、形状等によって任意に設定される。一例としては、50~200μmの範囲内のいずれかの厚さとし、その厚さバラツキは、±50μm以内とすることが好ましい。こうした精度の厚さは、現場での塗工ではとうてい実現できないものであり、工場の製造ラインで安定して実現することができる。
【0056】
この樹脂層13は、高い防水性、遮塩性、中性化阻止性を有するが、水蒸気は透過することが好ましい。このときの水蒸気透過率としては、例えば、10~50g/m・day程度とすることが望ましい。こうすることにより、構造物保護シート10に高い防水性、遮塩性、中性化阻止性と所定の水蒸気透過性を持たせることができる。さらに、ポリマーセメント硬化層12と同種の樹脂成分で構成されることにより、ポリマーセメント硬化層12との相溶性がよく、密着性に優れたものとすることができる。水蒸気透過性は、JIS Z0208「防湿包装材料の透湿度試験方法」に準拠して測定できる。
【0057】
また、樹脂層13は、構造物保護シート10のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。
また、樹脂層13は、無機物を含有していてもよい。無機物を含有することで樹脂層13に耐擦傷性を付与することができる。上記無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料が挙げられる。
更に、樹脂層13は、公知の防汚剤を含有していてもよい。構造物保護シート10は、通常屋外に設置されるコンクリート構造物の補修に用いられるため、樹脂層13は汚染されることが多いが、防汚剤を含有することで構造物保護シート10が汚染されることを好適に防止できる。上記防汚剤としては特に限定されず従来公知の材料が挙げられる。
また、樹脂層13は様々な機能を付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、増粘剤もしくは膜強度向上剤として機能するセルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0058】
(粘着層)
本発明において、構造物保護シート10は、ポリマーセメント硬化層12の樹脂層13と反対側面(構造物の屋根側の面)に粘着層11が設けられている。
粘着層11がポリマーセメント硬化層12の表面に設けられていることで、構造物保護シート10を構造物の屋根に貼り付ける際に、作業現場で粘着剤を塗布して粘着層11を形成する必要がないため極めて作業効率に優れ、また、熟練の職人によらずに均一な厚みの粘着層11を介して構造物保護シート10を構造物の屋根に貼り付けることができる。また、粘着層11が設けられていることで、構造物の屋根に段差が形成されている場合であっても、該段差に粘着層11を沿わせることで構造物保護シート10の屋根の表面との密着性を高めることができる。
【0059】
粘着層11を構成する粘着剤としては特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等公知のものが挙げられるが、本発明において粘着層11は、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、構造物の屋根に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れているため、構造物保護シート10による構造物の屋根の保護をより好適に行うことができる。
上記アクリル系粘着剤としては特に限定されず市販品を使用するとことができ、例えば、オリバイン(登録商標)BPS6574(トーヨーケム社製)等が挙げられる。
【0060】
上記アクリル系粘着剤からなる粘着層11の厚み及び積層量としては、構造物の屋根の表面への十分な付着力を発揮できることから、厚みは80~120μmが好ましく積層量は20g/m以上250g/m以下が好ましい。
また、粘着層11を介して構造物の屋根の表面に貼り付けた時の付着力が0.5N/mm以上あることが好ましい。0.5N/mm未満であると構造物保護シート10の構造物の屋根に対する密着性が不十分となることがある。
【0061】
(離型シート)
構造物保護シート10は、上記粘着層11の表面保護のために、上記粘着層11のポリマーセメント硬化層12と反対側面に離型シートが貼り付けられていることが好ましい。このような離型シートは、図2(A)、(B)に示すように構造物21の屋根への貼り付けに際して剥離される。そして図2(B)に示したように、粘着層11を露出させた後、構造物保護シート10は、粘着層11から構造物21の屋根に貼り付けられる。
このような離型シート16としては特に限定されず、例えば、基材層と離型層とを有するシートが挙げられる。
上記基材層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネートなどの合成樹脂が挙げられる。また、上記基材層は、紙を主成分として形成されてもよい。さらに、上記基材層は、2層以上の積層体であってもよい。
【0062】
上記離型層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等が挙げられる。上記離型層は、上記離型層を構成する材料及び有機溶剤を含む塗工液を上記基材層上にグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の方法によって塗布し、乾燥及び硬化させる塗工法によって形成することができる。また、上記離型層の形成に当たっては、基材層の積層面にコロナ処理や易接着処理を施してもよい。
【0063】
(補強層)
本発明に係る構造物保護シート10は、その構造中に補強層を有することが好ましい。
本発明に係る構造物保護シート10が補強層を有することで、本発明に係る構造物保護シート10は、十分な強度と適度な伸び率とを備えることができ、ヤング率を上述した範囲に調整することができる。
【0064】
上記補強層は、例えば、ポリマーセメント硬化層12と樹脂層13と間に設けられてもよいし、ポリマーセメント硬化層12の内部に埋設された状態で設けられてもよい。上記補強層がポリマーセメント硬化層12の内部に埋設された状態で設けられている場合、ポリマーセメント硬化層12の厚み方向の粘着層11側に偏在していることが好ましい。上記補強層がポリマーセメント硬化層12中で粘着層11側に偏在していることで、ポリマーセメント硬化層12の粘着層11側の表面に適度な凹凸形状が形成され、粘着層11に十分な粘着性が担保され構造物の屋根に対する付着力が優れたものとなる。
なお、本明細書において「ポリマーセメント硬化層の厚み方向の粘着層側に偏在している」とは、補強層の厚みの中間部分がポリマーセメント硬化層12の厚みの中間よりも粘着層11側に存在している状態を意味する。
【0065】
本発明において、ポリマーセメント硬化層12の粘着層11側の表面に凹凸形状を有することが好ましい。上記凹凸形状を有することでポリマーセメント硬化層12と粘着層11との密着性を良好にすることができる。なお、上記凹凸形状はポリマーセメント硬化層12に埋設された補強層に由来した凹凸形状であることが好ましい。なお、上記補強層がポリマーセメント硬化層12中に完全に埋設された状態であると上記補強層に由来した上記凹凸形状は殆ど形成されないが、上記補強層がポリマーセメント硬化層12の粘着層11側の表面付近に埋設されてる場合や、ポリマーセメント硬化層12の粘着層11側の表面から上記補強層の一部が露出してる場合に上記補強層に由来した上記凹凸形状が形成される。
【0066】
ポリマーセメント硬化層12に形成された上記凹凸形状は具体的に、JIS B0601(2013)に規定する算術平均粗さRaが5.0~8.5μm、最大高さ粗さRzが45~80μmであることが好ましい。上述したRa及びRzを満たすような凹凸形状を有することでポリマーセメント硬化層12と粘着層11との密着性を良好にすることができ、構造物に対する付着力を優れたものとすることができる。
【0067】
上記補強層は、図3に示した補強層15のように、経糸、緯糸の繊維を格子状にした構造が挙げられる。
上記繊維としては、例えば、ポリプロピレン系繊維、ビニロン系繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維及びアクリル繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維から構成されたものである好ましく、なかでも、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維を好適に使用することができる。
またその形状は、特に限定されず、図3に示したような二軸組布のほか、例えば、三軸組布等任意の補強層15を用いることができる。
なお、補強層15には、土木用の高強度ビニロンメッシュや、農業用のビニロン、ポリエステルなどの寒冷紗などを用いることができる。
【0068】
補強層15は、線ピッチ50mm~1.2mm(線密度0.2本~8.0本/cm)であることが望ましい。ピッチが1.2mm未満であると、補強層15がポリマーセメント硬化層12の内部に埋設された状態で設けられた場合、補強層15を構成する繊維間にポリマーセメント硬化層12を構成する材料が充填された状態が不十分になり、構造物保護シート10の表面強度が不十分となることがある。また、線ピッチが50mmを超えると、構造物保護シート10の表面強度に悪影響はないが、引張強度が弱くなることがある。
本発明に係る構造物保護シート10において、引張強度と表面強度はトレードオフの関係にあり、本発明に適用するに適した補強層15は、線ピッチ50mm~1.2mmの範囲にあるものである。
【0069】
補強層15は、ポリマーセメント硬化層12の上面側から見たときに、ポリマーセメント硬化層12の全面をカバーする大きさであってもよく、ポリマーセメント硬化層12よりも小さくてもよい。
すなわち、補強層15の平面視したときの面積は、ポリマーセメント硬化層12の平面視したときの面積と同じであってもよく、小さくてもよいが、補強層15の平面視面積は、ポリマーセメント硬化層12の平面視面積に対し60%以上、95%以下であることが好ましい。60%未満であると本発明に係る構造物保護シート10の引張強度が不十分となったり、伸び率が大きくなったりすることがあり、また、強度のバラツキが生じることもある。95%を超えると、補強層15を介してポリマーセメント硬化層12が積層された構成の場合、ポリマーセメント硬化層12同士の接着強度が劣ることがあり、本発明に係る構造物保護シート10を構造物の屋根に施工したときに、ポリマーセメント硬化層12部分に剥離が生じる危険性が高まる。なお、上記補強層15等の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0070】
本発明に係る構造物保護シート10は、補強層15の厚さが、ポリマーセメント硬化層12の厚さに対して42~62%であることが好ましい。補強層15の厚さとポリマーセメント硬化層12の厚さとが上記関係を有することで、本発明に係る構造物保護シート10は、粘着層11とポリマーセメント硬化層12との密着性に優れ、適切な引張強さと伸び率とを有するものにでき、構造物の屋根に貼り合せる際の取り扱い性に優れ、シワの発生や構造物の屋根との隙間を形成することなく構造物を長期にわたって保護することができる。ポリマーセメント硬化層12の厚さに対する補強層15の厚さの範囲の下限は45%が好ましく、上限は55%が好ましい。
【0071】
本発明に係る構造物保護シートの施工方法は、上述した本発明に係る構造物保護シートを構造物の屋根に貼り付けるものであるため、構造物の屋根との間に隙間無く本発明に係る構造物保護シートを貼り合せることができる。
また、コンクリート等の構造物中の水分も排出でき、コンクリート製の構造物を長期にわたって保護することができる。特に、構造物保護シートに構造物の特性に応じた性能を付与し、構造物の屋根に生じたひび割れや膨張に追従させること、構造物の屋根に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させないようにすること、構造物の屋根中の劣化因子を排出できる透過性を持たせることもできる。
そして、こうした構造物保護シートは、工場で製造できるので、特性の安定した高品質のものを量産することができる。その結果、職人の技術に依らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0072】
本発明に係る構造物保護シートの施工方法では、構造物の屋根の表面には、硬化性樹脂材料を含有するプライマー層が形成されていてもよい。
上記硬化性樹脂材料としては、熱硬化、光硬化その他の方法で硬化して樹脂となるような性質を有する材料であれば特に制限はないが、好ましくは、エポキシ化合物が挙げられる。この場合、上記プライマー層が硬化することで形成される硬化プライマー層は、エポキシ硬化物となる。エポキシ硬化物は、一般には、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を硬化剤により硬化させたものである。以下、エポキシ硬化物をプライマー層に用いる場合を例にとって説明する。
【0073】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物等が挙げられる。
また、硬化剤としては、多官能フェノール類、アミン類、ポリアミン類、メルカプタン類、イミダゾール類、酸無水物、含リン化合物等が挙げられる。これらのうち、多官能フェノール類としては、単環二官能フェノールであるヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、多環二官能フェノールであるビスフェノールA、ビスフェノールF、ナフタレンジオール類、ビフェノール類、及び、これらのハロゲン化物、アルキル基置換体等が挙げられる。更に、これらのフェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック、レゾールを用いることができる。アミン類としては、脂肪族又は芳香族の第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム塩及び脂肪族環状アミン類、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられる。
上記例示のうち、プライマー層の材料(硬化性樹脂材料を含む。)としては、エポキシ樹脂系プライマーとして、例えば、ビスフェノールA型エポキシ又はビスフェノールF型エポキシの主剤と、ポリアミン類又はメルカプタン類の硬化剤とを用いるもの等が挙げられる。また、上記エポキシ樹脂系プライマーは、上記主剤と硬化剤以外に、例えば、カップリング剤、粘度調整剤及び硬化促進剤等を含んでもよい。このようなプライマー層として、例えば、東亞合成社製2液反応硬化形水系エポキシ樹脂エマルション「アロンブルコートP-300」(商品名、なお「アロンブルコート」は東亞合成社の登録商標である。)を用いることができる。
【0074】
上記プライマー層は、一般的には構造物の屋根の下塗材として使用される。その塗布は、例えば、下塗材としては溶剤タイプのエポキシ樹脂溶剤溶液、又はエポキシ樹脂エマルション及びその他一般のエマルション、又は、粘着剤等を構造物の表面に塗布すればよい。この場合、下塗材は通常の方法で施工することができ、例えば、劣化防止すべき構造物の表面に、刷毛又はローラー等により塗布したり、又は、スプレーガン等で吹き付ける一般的な方法により塗布し、塗膜を形成させる。
上記プライマー層の厚さは特に限定されないが、好ましくはウエットの状態で50μm以上、300μm以下の範囲内とすることができる。50μm以上とすることでプライマー層の材料のコンクリート等の構造物へのしみ込みを考慮した上でプライマー層の厚さを均一にしやすくなると共に、構造物の屋根と構造物保護シートとの接着性を確保しやすくなる。プライマー層の厚さの上限は特に制限はされないが、塗布のしやすさや接着時の両層のずれを最小化する意味、また材料の使用料の最適化から、300μm以下とすることが好ましい。構造物の屋根の下塗り層として設けるプライマー層、構造物の屋根と構造物保護シートとの相互の密着を高めるように作用するので、プライマー層を上記厚さにすれば、構造物保護シートは長期間安定して構造物の屋根を補強し保護しやすくなる。
なお、構造物の屋根にひび割れや欠損が生じている場合には、プライマー層を塗布する前に、上記ひび割れや欠損を補修した後にプライマー層を設けることが好ましい。補修の方法は特に限定されないが、通常セメントモルタルやエポキシ樹脂等が使って補修が行われる。
【実施例0075】
実施例と比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0076】
(実施例1)
アクリル樹脂(A1)、アクリルシリコーン樹脂(B)、顔料及び増粘剤を、脱泡コンディショニングミキサー(あわとり練太郎AR-250、シンキー社製)にて混合して混合液を得た。各材料の詳細及び混合条件は以下の通りである。
アクリル樹脂(A1):トークリルW-168、東洋インキ社製、重量比58%
アクリルシリコーン樹脂(B):ユーダブルEF-008、日本触媒社製、重量比38%
顔料:MF-5630 Black、大日精化工業社製、重量比2%
増粘剤:チクゾールK-1000、共栄社化学社製、重量比2%
(混合条件)
攪拌温度:25℃
攪拌時間:2min
攪拌条件:公転速度2000rpm、自転速度800rpm
脱泡時間:3min
脱泡条件:2200rpm、60rpm
【0077】
(実施例2)
アクリル樹脂(A2)、アクリルシリコーン樹脂(B)、顔料及び増粘剤を、脱泡コンディショニングミキサー(あわとり練太郎AR-250、シンキー社製)にて混合して実施例1と同条件で混合液を得た。各材料の詳細は以下の通りである。
アクリル樹脂(A2):アクリセットEMN-325E、日本触媒社製、重量比48%
アクリルシリコーン樹脂(B):ユーダブルEF-008、日本触媒社製、重量比48%
顔料:MF-5630 Black、大日精化工業社製、重量比2%
増粘剤:チクゾールK-1000、共栄社化学社製、重量比2%
【0078】
(実施例3)
アクリル樹脂(A3)、アクリルシリコーン樹脂(B)、顔料及び増粘剤を、脱泡コンディショニングミキサー(あわとり練太郎AR-250、シンキー社製)にて混合して実施例1と同条件で混合液を得た。各材料の詳細は以下の通りである。
アクリル樹脂(A3):アクリセットEMN-325E、日本触媒社製、重量比48%
アクリルシリコーン樹脂(B):ユーダブルEF-023、日本触媒社製、重量比48%
顔料:MF-5630 Black、大日精化工業社製、重量比2%
増粘剤:チクゾールK-1000、共栄社化学社製、重量比2%
【0079】
(実施例4)
アクリル樹脂(A4)、アクリルシリコーン樹脂(B)、顔料及び増粘剤を、脱泡コンディショニングミキサー(あわとり練太郎AR-250、シンキー社製)にて混合して実施例1と同条件で混合液を得た。各材料の詳細は以下の通りである。
アクリル樹脂(A4):トークリルW-168、東洋インキ社製、重量比58%
アクリルシリコーン樹脂(B):ユーダブルEF-015、日本触媒社製、重量比38%
顔料:MF-5630 Black、大日精化工業社製、重量比2%
増粘剤:チクゾールK-1000、共栄社化学社製、重量比2%
【0080】
得られた混合液を、エンボス工程紙(EV160TPD R-102、リンテック社製)のPPラミネート面にアプリケーター(YBA-5型、ヨシミツ精機社製)にてDry膜厚110μmで塗工し、オーブン(LC-114、エスペック社製)で80℃40min乾燥させ、樹脂層を作製した。
続けてポリマーセメント硬化層用樹脂(アクリル系及びビニロン繊維)を約400μm、粘着層樹脂(アクリル系)を約100μmで塗工し、樹脂層、ポリマーセメント硬化層及び粘着層が積層された実施例1~4に係る構造物保護シートを作製した。
【0081】
(比較例1)
混合液としてアクリル樹脂(A1)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして比較例1に係る構造物保護シートを作製した。
【0082】
(評価)
得られた実施例及び比較例に係る構造物保護シートについて、樹脂層を試験面とし、メタルハライドランプ式耐候試験機(アイ スーパーUVテスターSUV-W161)にて下記条件で紫外線を照射して耐候試験を実施した。
照度:120mW/cm
照射温度:63℃
照射湿度:50%RH
サイクル:4h光照射と4h結露の繰り返し
【0083】
耐候試験後の実施例及び比較例に係る構造物保護シートについて、下記評価を実施した。
【0084】
(チョーキング確認)
目視にて耐候性試験後の樹脂層表面のチョーキングの有無を確認したところ、実施例1~4に係る構造物保護シートは、紫外線照射開始後1000時間でチョーキングが確認されたが、比較例1に係る構造物保護シートは、紫外線照射開始後1500時間経過してもチョーキングが確認できなかった。
【0085】
(樹脂層の表面凹凸分析)
実施例及び比較例に係る構造物保護シートの耐候性試験前の樹脂層表面のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(1)に対する上記耐候性試験後1000時間における樹脂層表面のJIS B0601(2013)に基づいた算術平均粗さRa(2)の比(Ra(1)/Ra(2))を求めた。
また、実施例及び比較例に係る構造物保護シートの耐候性試験前の樹脂層表面のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(1)に対する上記耐候性試験後の樹脂層表面のISO25178に基づいた算術平均粗さSa(2)の比(Sa(1)/Sa(2))を求めた。
その結果、実施例1、2、3、4に係る構造物保護シートは(Ra(1)/Ra(2))がそれぞれ2.0、2.1、2.5、2.0であり、(Sa(1)/Sa(2))がそれぞれ、3.0、3.7、4.2、3.1であったが、比較例1に係る構造物保護シートは(Ra(1)/Ra(2))が1.2、(Sa(1)/Sa(2))が1.2であった。
【0086】
(光沢度測定)
実施例及び比較例に係る構造物保護シートの耐候性試験前のJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(1)に対する上記耐候性試験後1000時間におけるJIS Z 8741(1997)鏡面光沢度-測定方法に基づいて測定した60°光沢度(2)の比(光沢度(2)/光沢度(1))を求めた。
その結果、実施例1、2、3、4に係る構造物保護シートはそれぞれ3.2、4.0、5.0、3.3であり、比較例1に係る構造物保護シートは1.5であった。
【0087】
(簡易透水性試験(防水性))
耐候試験後1000時間における実施例及び比較例に係る構造物保護シートを100mm×100mmのフレキシブルボード(JIS A 5430)の片側に貼りつけ、シート側に塩ビ管をクランプで取り付けて、塩ビ管内にシート面から30cmの高さまで注水した。1日経過後にフレキシブルボードの側面やシート側と反対の面の水漏れがないかを目視で確認した。前述の水頭圧を利用した透水試験を行ったところ、いずれの構造物保護シートにも透水はなかった。
【0088】
(180°ピール試験(接着性))
耐候試験後1000時間における実施例及び比較例に係る構造物保護シートの上に同シートを重ねて貼りつけたものに対し、JIS Z 0237に基づく180°ピール試験を行ったところ、実施例1、2、3、4に係るピール強度はそれぞれ21.2N/25mm、27.0N/25mm、37.6N/25mm、19.1N/25mmであり、比較例1に係るピール強度は28.1N/25mmであった。
【符号の説明】
【0089】
10 構造物保護シート
11 粘着層
12 ポリマーセメント硬化層
13 樹脂層
15 補強層
16 離型シート
21 構造物
30 屋根
31 ブルーシート
32 土嚢

図1
図2
図3
図4