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  • 特開-アークレーザハイブリッド溶接方法 図1
  • 特開-アークレーザハイブリッド溶接方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106663
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】アークレーザハイブリッド溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20240801BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20240801BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K9/073 545
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011048
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】浅山 智也
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
4E168
【Fターム(参考)】
4E001BB08
4E082AB01
4E082CA01
4E082DA01
4E082EF16
4E168BA41
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】アークレーザハイブリッド溶接方法において、アーク溶接の溶滴移行状態を安定化すること。
【解決手段】溶接ワイヤを送給してアーク期間と短絡期間とを繰り返すアーク溶接と、アーク溶接の発生部にレーザを照射するレーザ溶接とを併用して溶接するアークレーザハイブリッド溶接方法において、アーク溶接の短絡期間中はそれ以外の期間中よりも、レーザの出力値Lwを高出力にする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給してアーク期間と短絡期間とを繰り返すアーク溶接と、前記アーク溶接の発生部にレーザを照射するレーザ溶接とを併用して溶接するアークレーザハイブリッド溶接方法において、
前記アーク溶接の前記短絡期間中はそれ以外の期間中よりも、前記レーザを高出力にする、
ことを特徴とするアークレーザハイブリッド溶接方法。
【請求項2】
前記アーク溶接の前記短絡期間が基準時間以上になったときはそれ以外の期間中よりも、前記レーザを高出力にする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークレーザハイブリッド溶接方法。
【請求項3】
前記レーザを高出力にする期間以外の期間中は前記レーザの出力を0にする、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアークレーザハイブリッド溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接するアークレーザハイブリッド溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接するアークレーザハイブリッド溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のアーク溶接では、溶接ワイヤを定速送給又は正逆送給して溶接が行われる。
【0004】
上記のレーザとしては、半導体レーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ等が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-93292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アーク期間と短絡期間とを交互に繰り返すアーク溶接では、アーク期間中に形成された溶滴が短絡期間中に溶融池へと移行する。しかし、溶滴の形成状態のばらつき、溶融池の不規則な運動、送給速度の変動等の種々な外乱に影響を受けて、短絡期間中の溶滴の移行が円滑に行われない場合が発生する。このような状態が多く発生すると、溶接品質が悪くなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、アーク溶接の溶滴移行状態を安定化することができるアークレーザハイブリッド溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給してアーク期間と短絡期間とを繰り返すアーク溶接と、前記アーク溶接の発生部にレーザを照射するレーザ溶接とを併用して溶接するアークレーザハイブリッド溶接方法において、
前記アーク溶接の前記短絡期間中はそれ以外の期間中よりも、前記レーザを高出力にする、
ことを特徴とするアークレーザハイブリッド溶接方法である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記アーク溶接の前記短絡期間が基準時間以上になったときはそれ以外の期間中よりも、前記レーザを高出力にする、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークレーザハイブリッド溶接方法である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記レーザを高出力にする期間以外の期間中は前記レーザの出力を0にする、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアークレーザハイブリッド溶接方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアークレーザハイブリッド溶接方法によれば、アーク溶接の溶滴移行状態を安定化することができるので、高品質の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係るアークレーザハイブリッド溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
図2】本発明の実施の形態に係るアークレーザハイブリッド溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るアークレーザハイブリッド溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。溶接装置は、アーク溶接装置及びレーザ溶接装置を備えている。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0015】
アーク溶接装置は、主に、溶接電源PS、送給機WF及び溶接トーチWTを備えている。
【0016】
溶接電源PSは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、インバータ制御等の出力制御を行い、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。また、溶接電源PSは、送給機WFに送給制御信号Fcを出力し、レーザ発振器LSに溶接ワイヤ1と母材とが短絡期間にあるときはHighレベルとなりアーク期間にあるときはLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0017】
送給機WFは、溶接電源PSからの送給制御信号Fcを入力として、送給制御信号Fcに従って溶接ワイヤ1を送給速度Fwで定速送給又は正逆送給する。
【0018】
溶接トーチWTは、装着された給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に給電し、溶接ワイヤ1を母材2の被溶接部に送出する。溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。給電チップと母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。溶接状態は、溶接ワイヤ1と母材2との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返す短絡移行アーク溶接状態となる。
【0019】
レーザ溶接装置は、主に、レーザ発振器LS、光ファイバーLF及び加工ヘッドLHを備えている。
【0020】
レーザ発振器LSは、レーザ溶接を行うためのレーザ光4を出力する。また、レーザ発振器LSは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の1)~3)のいずれかの処理によって設定されるレーザ出力値Lw[kW]のレーザ光4を出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは、それ以外の期間中よりもレーザ出力値Lwを高出力にする。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)である時間長さが基準時間以上であるときは、それ以外の期間中よりもレーザ出力値Lwを高出力にする。
3)上記の1)又は2)において、高出力にする期間以外の期間中は、レーザ出力値Lwを0にする。
【0021】
光ファイバーLFは、レーザ光4を加工ヘッドLHに導く。
【0022】
加工ヘッドLHは、内蔵された種々の光学系(図示は省略)によって集光し、レーザ光4をアーク溶接の被溶接部に照射する。同図では、アーク3よりも前方からレーザ光4を照射しているが、後方から照射する場合もある。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係るアークレーザハイブリッド溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(D)はレーザ出力値Lwの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0024】
同図は、溶接ワイヤ1を定速送給している場合であり、送給速度Fwについては図示を省略している。溶接ワイヤ1を短絡期間中は母材2から離反する方向に逆送し、アーク期間中は母材2に近づく方向に正送する正逆送給しても良い。
【0025】
同図に示すように、アーク溶接は短絡期間とアーク期間とを繰り返している。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは短絡期間中は数Vの短絡電圧値となり、アーク期間中は数十Vのアーク電圧値となる。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は次第に増加し、アーク期間中は次第に減少する波形となっている。同図(C)に示すように、短絡判別信号Sdは、短絡期間中はHighレベルとなり、アーク期間中はLowレベルとなっている。
【0026】
同図(D)に示すように、レーザ出力値Lwは、短絡期間中は予め定めた高出力値となり、それ以外の期間中は予め定めた低出力値となっている。高出力値は、低出力値の120~150%程度に設定される。このようにすると、溶接ワイヤ1が溶融池と短絡状態にあるときに、高出力値のレーザ光4が溶接ワイヤ1及び溶融池に照射されるので、溶滴移行状態を安定化することができる。短絡期間中のみにレーザ出力値Lwを高出力値としているのは、全期間中を高出力値にすると入熱が過大となり、溶接状態が不安定になるためである。さらに、このようにすると、レーザ出力値Lwの平均値を低く抑えることができるので、低消費電力化を図ることができる。さらに、溶滴移行状態が円滑になるために、短絡期間中の溶接電流Iwの最大値を小さくすることができるので、スパッタの発生を削減することができる。
【0027】
同図では図示を省略しているが、さらに好ましくは、レーザ出力値Lwを以下のようにしても良い。レーザ出力値Lwを、短絡期間の時間長さが基準時間以上である期間中は予め定めた高出力値にし、それ以外の期間中は予め定めた低出力値にする。基準時間は5ms程度に設定される。短絡期間が基準時間未満の場合は溶滴移行状態はそもそも円滑である場合が多い。短絡期間が基準時間以上と長くなると、溶滴移行状態は円滑でない状態となる。そこで、短絡期間が基準時間以上の期間中に高出力値のレーザ光4を照射することによって、溶滴移行状態を円滑にしている。このようにすると、レーザ出力値Lwの平均値をさらに低く抑えることができるので、さらなる低消費電力化を図ることができる。
【0028】
同図では図示を省略しているが、さらに好ましくは、レーザ出力値Lwを以下のようにしても良い。レーザ出力値Lwを、短絡期間中又は短絡期間の時間長さが基準時間以上である期間中は、予め定めた高出力値にし、それ以外の期間中は予め定めた低出力値にし、低出力値を0kWとする。低出力値を0とすることによって、溶滴移行状態を円滑にすると共に、より薄板の溶接が可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 レーザ光
Fc 送給制御信号
Fw 送給速度
Iw 溶接電流
LF 光ファイバー
LH 加工ヘッド
LS レーザ発振器
Lw レーザ出力値
PS 溶接電源
Sd 短絡判別信号
Vw 溶接電圧
WF 送給機
WT 溶接トーチ
図1
図2