(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106689
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/24 20060101AFI20240801BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240801BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240801BHJP
G01R 33/032 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G01R33/24
G01N24/00 P
G01N21/64 Z
G01R33/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011084
(22)【出願日】2023-01-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】佐光 暁史
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】竹村 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】中村 将也
【テーマコード(参考)】
2G017
2G043
【Fターム(参考)】
2G017AA03
2G017AA14
2G017AA15
2G017AC09
2G017AD15
2G017BA03
2G017BA05
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA01
2G043NA01
(57)【要約】
【課題】 ノイズ成分を抑制して測定精度を高くする測定装置および測定方法を得る。
【解決手段】 被測定場が測定用磁気共鳴部材1には印加されるが参照用磁気共鳴部材1Rには印加されない。高周波磁場発生器2,2Rは、測定用マイクロ波および参照用マイクロ波で測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rの電子スピン量子操作をそれぞれ行う。パワーディバイダー11aは、高周波電源11からの高周波電流を高周波磁場発生器2,2Rに分配する。光分配器21は、発光装置12からの励起光を測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに分配する。受光装置13,13Rは、測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rからの蛍光をそれぞれ受光して蛍光センサー信号をそれぞれ生成する。演算処理部30は、それらの蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、被測定場が印加される測定用磁気共鳴部材と、
所定の測定シーケンスに従って前記測定用マイクロ波で前記測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う測定用高周波磁場発生器と、
参照用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、前記被測定場が印加されない参照用磁気共鳴部材と、
前記所定の測定シーケンスに従って前記参照用マイクロ波で前記参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う参照用高周波磁場発生器と、
前記測定用マイクロ波および前記参照用マイクロ波のための高周波電流を生成する高周波電源と、
前記高周波電流を前記測定用高周波磁場発生器および前記参照用高周波磁場発生器に分配するパワーディバイダーと、
前記測定用磁気共鳴部材および前記参照用磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、
前記励起光を前記測定用磁気共鳴部材および前記参照用磁気共鳴部材に分配する光分配器と、
前記測定用磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した前記蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号を生成する測定用受光装置と、
前記参照用磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した前記蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号を生成する参照用受光装置と、
前記第1蛍光センサー信号および前記第2蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出する演算処理部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
参照用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な参照用磁気共鳴部材に被測定場を印加せずに、測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な測定用磁気共鳴部材に前記被測定場を印加した状態とし、
高周波電流を測定用高周波磁場発生器および参照用高周波磁場発生器に分配して前記測定用マイクロ波および前記参照用マイクロ波をそれぞれ発生させて、前記状態において、所定の測定シーケンスに従って、前記測定用マイクロ波で前記測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに前記参照用マイクロ波で前記参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行い、
前記状態において、励起光を前記測定用磁気共鳴部材および前記参照用磁気共鳴部材に分配して前記測定用磁気共鳴部材および前記参照用磁気共鳴部材に照射し、
前記測定用磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した前記蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号を生成するとともに、前記参照用磁気共鳴部材により前記励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した前記蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号を生成し、
前記第1蛍光センサー信号および前記第2蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出すること、
を特徴とする測定方法。
【請求項3】
前記第1蛍光センサー信号に対して、前記第2蛍光センサー信号に基づくコモンモードリジェクションを行うことで得られるコモンモードリジェクション信号に基づいて前記測定値を導出することを特徴とする請求項2記載の測定方法。
【請求項4】
前記励起光を分岐して得られる参照光を受光して参照光センサー信号を生成し、
前記コモンモードリジェクション信号および前記参照光センサー信号に基づいて前記測定値を導出すること、
を特徴とする請求項3記載の測定方法。
【請求項5】
前記測定用マイクロ波のノイズ成分に起因する前記第1蛍光センサー信号のノイズ成分の強度と前記参照用マイクロ波のノイズ成分に起因する前記第2蛍光センサー信号のノイズ成分の強度とが互いに一致するように、前記測定用磁気共鳴部材に印加する第1静磁場および前記参照用磁気共鳴部材に印加する第2静磁場が設定されていることを特徴とする請求項3記載の測定方法。
【請求項6】
前記測定用マイクロ波のノイズ成分に起因する前記第1蛍光センサー信号のノイズ成分の強度と前記参照用マイクロ波のノイズ成分に起因する前記第2蛍光センサー信号のノイズ成分の強度とが互いに一致するように、前記測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作のための前記測定用マイクロ波のパルス幅および前記参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作のための前記参照用マイクロ波のパルス幅が設定されていることを特徴とする請求項3記載の測定方法。
【請求項7】
前記参照用磁気共鳴部材は、前記測定用磁気共鳴部材に入射する外来電磁波が入射する位置に配置され、
前記測定用磁気共鳴部材および前記参照用磁気共鳴部材は、それぞれ、不純物および欠陥を含む同一種別のカラーセンターの磁気共鳴部材であって、前記不純物および前記欠陥の配列方向が互いに同一になるように配置されていること、
を特徴とする請求項2記載の測定方法。
【請求項8】
前記被測定場は、磁場であって、フラックストランスフォーマーの2次コイルによって前記測定用磁気共鳴部材に印加されていることを特徴とする請求項2記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁場測定装置は、窒素と格子欠陥(NVセンター:Nitrogen Vacancy Center)を有するダイヤモンド構造などといったセンシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている。ODMRでは、このようなNVセンターを有するダイヤモンドといった磁気共鳴部材に対して、被測定磁場とは別に静磁場が印加されるとともに、所定の測定シーケンスでレーザー光(初期化および測定のための励起光)並びにマイクロ波が印加され、その磁気共鳴部材から出射する蛍光の光量が検出されその光量に基づいて被測定磁場の磁束密度が導出される。
【0003】
例えば、ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVセンターに印加し、(d)励起光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。また、スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVセンターに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVセンターに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVセンターに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVセンターに印加し、(e)励起光をNVセンターに照射してNVセンターの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を導出する。
【0004】
あるセンサー装置は、上述のようなNVセンターを含むダイヤモンドセンサーを使用した核磁気共鳴で磁場測定を行っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
センシング部材の電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴においては、蛍光から得られる検出信号が微弱であるため、ノイズの影響を受けやすく測定精度が低くなってしまう。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ノイズ成分を抑制して測定精度を高くする測定装置および測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る測定装置は、測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、被測定場が印加される測定用磁気共鳴部材と、所定の測定シーケンスに従って測定用マイクロ波で測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う測定用高周波磁場発生器と、参照用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、上述の被測定場が印加されない参照用磁気共鳴部材と、上述の所定の測定シーケンスに従って参照用マイクロ波で参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う参照用高周波磁場発生器と、測定用マイクロ波および参照用マイクロ波のための高周波電流を生成する高周波電源と、高周波電流を測定用高周波磁場発生器および参照用高周波磁場発生器に分配するパワーディバイダーと、測定用磁気共鳴部材および参照用磁気共鳴部材に照射すべき励起光を出射する発光装置と、励起光を測定用磁気共鳴部材および参照用磁気共鳴部材に分配する光分配器と、測定用磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号を生成する測定用受光装置と、参照用磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号を生成する参照用受光装置と、第1蛍光センサー信号および第2蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出する演算処理部とを備える。
【0009】
本発明に係る測定方法は、(a)参照用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な参照用磁気共鳴部材に被測定場を印加せずに、測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な測定用磁気共鳴部材に上述の被測定場を印加した状態とし、(b)高周波電流を測定用高周波磁場発生器および参照用高周波磁場発生器に分配して測定用マイクロ波および参照用マイクロ波をそれぞれ発生させて、上述の状態において、所定の測定シーケンスに従って、測定用マイクロ波で測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行うとともに参照用マイクロ波で参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行い、(c)上述の状態において、励起光を測定用磁気共鳴部材および参照用磁気共鳴部材に分配して測定用磁気共鳴部材および参照用磁気共鳴部材に照射し、測定用磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号を生成するとともに、参照用磁気共鳴部材により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号を生成し、(d)第1蛍光センサー信号および第2蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノイズ成分を抑制して測定精度を高くする測定装置および測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、測定シーケンスの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、励起光、第1蛍光センサー信号PL(t)およびCMR信号CMR_SIG(t)について説明する図である。
【
図4】
図4は、窓関数の周波数特性の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係る測定装置の動作について説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態2に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、励起光、第1蛍光センサー信号PL(t)、CMR信号CMR_SIG(t)、および検出信号SD(t)について説明する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係る測定装置の動作について説明するフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施の形態4における測定用マイクロ波のパルス幅および参照用マイクロ波のパルス幅の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
実施の形態1.
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す測定装置は、測定用センサー部10と、参照用センサー部10Rと、高周波電源11と、パワーディバイダー11aと、発光装置12と、測定用受光装置13と、参照用受光装置13Rと、光分配器21と、演算処理部30とを備える。
【0015】
測定用センサー部10は、所定の位置(例えば、検査対象物体の表面上または表面上方や、後述のフラックストランスフォーマーの2次コイルに面した位置など)において、被測定場(例えば磁場の強度、向きなどといった磁場や、電場など)を検出する。なお、被測定場は、単一周波数の交流場でもよいし、複数の周波数成分を有する所定周期の交流場でもよいし、直流場でもよい。
【0016】
この実施の形態では、測定用センサー部10は、ODMRに基づく、測定用磁気共鳴部材1、測定用高周波磁場発生器2、および測定用静磁場発生装置3を備える。
【0017】
測定用磁気共鳴部材1は、結晶構造を有し、被測定場(ここでは、磁場)に対応して電子スピン量子状態が変化するとともに、結晶格子における欠陥および不純物の配列方向に応じた周波数のマイクロ波で(ラビ振動に基づく)電子スピン量子操作の可能な部材である。つまり、被測定場が印加される測定位置に、測定用磁気共鳴部材1が配置される。
【0018】
この実施の形態では、測定用磁気共鳴部材1は、複数(つまり、アンサンブル)の特定カラーセンターを有する光検出磁気共鳴部材である。この特定カラーセンターは、ゼーマン分裂可能なエネルギー準位を有し、かつ、ゼーマン分裂時のエネルギー準位のシフト幅が互いに異なる複数の向きを取り得る。
【0019】
ここでは、測定用磁気共鳴部材1は、単一種別の特定カラーセンターとして複数のNV(Nitrogen Vacancy)センターを含むダイヤモンドなどの部材である。NVセンターの場合、基底状態がms=0,+1,-1の三重項状態であり、ms=+1の準位およびms=-1の準位がゼーマン分裂する。NVセンターが、ms=+1およびms=-1の準位の励起状態から基底状態へ遷移する際に、所定の割合で蛍光を伴い、残りの割合のNVセンターは、励起状態(ms=+1またはms=-1)から基底状態(ms=0)へ無輻射で遷移する。
【0020】
なお、測定用磁気共鳴部材1に含まれるカラーセンターは、NVセンター以外のカラーセンターでもよい。
【0021】
測定用高周波磁場発生器2は、マイクロ波(測定用マイクロ波という)を測定用磁気共鳴部材1に印加して、測定用磁気共鳴部材1の電子スピン量子操作を行う。例えば、測定用高周波磁場発生器2は、板状コイルであって、マイクロ波を放出する略円形状のコイル部と、そのコイル部の両端から延び基板に固定される端子部とを備える。
【0022】
また、測定用静磁場発生装置3は、測定用磁気共鳴部材1に静磁場(直流磁場)(測定用静磁場という)を印加し、測定用磁気共鳴部材1内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンター)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。ここでは、測定用静磁場発生装置3は、永久磁石であり、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマコバ磁石などである。なお、測定用静磁場発生装置3は電磁石でもよい。
【0023】
この実施の形態では、上述の静磁場の印加方向は、上述の被測定磁場の印加方向と同一となり、上述の静磁場の印加によって、上述のディップ周波数での蛍光強度変化が増強され、感度が高くなる。
【0024】
さらに、この実施の形態では、測定用磁気共鳴部材1は、上述の測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能な複数のカラーセンター(ここでは、NVセンター)を備え、測定用静磁場発生装置3は、測定用磁気共鳴部材1の所定領域(励起光の照射領域)に対して略均一な静磁場を印加する。例えば、その所定領域における静磁場の強度についての最大値と最低値との差分や比率が所定値以下となるように静磁場が印加される。
【0025】
また、測定用磁気共鳴部材1において、上述の欠陥および不純物の配列方向が、上述の静磁場の向き(および印加磁場の向き)に略一致するように、測定用磁気共鳴部材1の結晶が形成され、測定用磁気共鳴部材1の向きが設定され、測定用静磁場発生装置3が配置される。
【0026】
他方、参照用センサー部10Rは、測定用センサー部10と同様の構成を有するが、被測定場が(参照用磁気共鳴部材1Rに)印加されない位置に配置されている。必要に応じて、被測定場が参照用センサー部10Rに印加されないように磁気シールドを設けてもよい。
【0027】
この実施の形態では、参照用センサー部10Rは、ODMRに基づく、測定用磁気共鳴部材1と同様の参照用磁気共鳴部材1R、測定用高周波磁場発生器2と同様の参照用高周波磁場発生器2R、および測定用静磁場発生装置3と同様の参照用静磁場発生装置3Rを備える。
【0028】
つまり、参照用高周波磁場発生器2Rは、マイクロ波(参照用マイクロ波という)を参照用磁気共鳴部材1Rに印加して、参照用磁気共鳴部材1Rの電子スピン量子操作を行う。また、参照用静磁場発生装置3Rは、参照用磁気共鳴部材1Rに静磁場(直流磁場)(参照用静磁場という)を印加し、参照用磁気共鳴部材1R内の複数の特定カラーセンター(ここでは、複数のNVセンター)のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。
【0029】
ここでは、測定用磁気共鳴部材1は、NVCを有するダイヤモンド部材であり、参照用磁気共鳴部材1Rは、測定用磁気共鳴部材1と同等の物性を有し、同等の、ODMRにおけるNV軸の共鳴周波数条件を有するダイヤモンド部材である。また、参照用高周波磁場発生器2Rは、入力される高周波電流に対して、測定用高周波磁場発生器2と同等の磁場強度を発生するマイクロ波コイルである。また、参照用静磁場発生装置3Rは、測定用静磁場発生装置3と同等の静磁場強度を発生する静磁場磁石である。
【0030】
また、高周波電源11は、上述の測定用マイクロ波および参照用マイクロ波のための高周波電流を生成する。パワーディバイダー11aは、その高周波電流を測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rに分配する。ここでは、パワーディバイダー11aは、0度パワーディバイダーであって、高周波電流を測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rに均等に(1:1で)分配する。
【0031】
例えば、測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rは、コイル部をそれぞれ備え、そのコイル部は、その両端面部分において、磁気共鳴部材1,1Rを挟むように所定の間隔で互いに平行な2つの電流を導通させ、上述のマイクロ波を放出する。ここでは、コイル部は板状コイルであるが、表皮効果により、コイル部の端面部分をマイクロ波の電流が流れるため、2つの電流が形成される。
【0032】
NVセンターの場合、ダイヤモンド結晶において、欠陥(空孔)(V)および不純物としての窒素(N)によってカラーセンターが形成されており、ダイヤモンド結晶内の欠陥(空孔)(V)に対して、隣接する窒素(N)の取り得る位置(つまり空孔と窒素との対の配列方向)は4種類あり、それらの配列方向のそれぞれに対応するゼーマン分裂後のサブ準位(つまり、基底からのエネルギー準位)が互いに異なる。したがって、マイクロ波の周波数に対する静磁場によるゼーマン分裂後の蛍光強度の特性において、それぞれの向きi(i=1,2,3,4)に対応して、互いに異なる4つのディップ周波数対(fi+,fi-)が現れる。ここでは、この4つのディップ周波数対のうちのいずれかのディップ周波数に対応して、上述のマイクロ波の周波数(波長)が設定される。
【0033】
さらに、この実施の形態では、励起光を測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに照射するために、発光装置12から測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rまでの光学系が設けられており、また、測定用磁気共鳴部材1からの蛍光を検出するために測定用磁気共鳴部材1から測定用受光装置13までの光学系が設けられ、参照用磁気共鳴部材1Rからの蛍光を検出するために参照用磁気共鳴部材1Rから参照用受光装置13Rまでの光学系が設けられている。
【0034】
発光装置12は、レーザーダイオードなどといった光源12aと、光変調器12bとを備える。光源12aは、測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに照射すべき励起光として所定波長のレーザー光を出射する。光変調器12bは、電気光学変調器(EOM)、音響光学変調器(AOM)などであって、所定の測定シーケンスに従って、光源12aからの励起光を周期的にオン/オフ(透過/遮断)させる。
【0035】
また、測定用受光装置13は、受光素子としてのフォトダイオードやフォトトランジスターなどを備え、測定用磁気共鳴部材1により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、その蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号PLを生成する。参照用受光装置13Rは、受光素子としてのフォトダイオードやフォトトランジスターなどを備え、参照用磁気共鳴部材1Rにより励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、その蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号ref1を生成する。これらの蛍光は、例えば複合放物面型集光器(CPC)などの光学系によって測定用受光装置13および参照用受光装置13Rへ向けてそれぞれ集光される。
【0036】
ここで、測定原理について説明する。
【0037】
上述の励起光の強度Iは、次式のように、本来の強度Ilaserとノイズ成分の強度Inoiseとの和となっている。なお、この励起光のノイズ成分は、発光装置12の電源電圧のふらつきや光源の発光量のふらつきなどに起因して発生し、例えばkHzオーダー程度から100kHzオーダー程度の範囲の周波数を有する。
【0038】
I=Ilaser+Inoise
【0039】
また、第1蛍光センサー信号PLのレベルは、基本的には励起光の強度Iに比例する。ただし、被測定場による電子スピン量子状態の変化に起因して、測定時の励起光照射開始時点の蛍光強度が小さくなっており、その後、被測定場による電子スピン量子状態の変化の影響がなくなるまで、蛍光強度が徐々に大きくなっていく。そのため、第1蛍光センサー信号PLのレベル変動分αcont(t)が、被測定場を示す信号として導出される。第1蛍光センサー信号PLは、次式で表される。
【0040】
PL(t)=α(t)×I=(αinit+αcont(t))×I=(αinit+αcont(t))×(Ilaser+Inoise)
【0041】
ここで、αinitは、励起光の強度Iに対して比例する部分(被測定場による電子スピン量子状態の変化に影響を受けない部分)を示す係数である。
【0042】
さらに、このレベル変動分αcont(t)には、測定用マイクロ波に起因するノイズ成分αMW(t)が含まれているため、上述のPL(t)は、次式で表される。
【0043】
PL(t)=(αinit+αMW(t)+αAC(t))×(Ilaser+Inoise)
【0044】
ここで、αAC(t)は、(αcont(t)からノイズ成分αMW(t)を除去した)その被測定場による電子スピン量子状態の変化に起因する成分である。
【0045】
他方、上述の第2蛍光センサー信号のレベルref1は、次式のように表される。なお、参照用磁気共鳴部材1Rには被測定場が印加されていないため、被測定場に起因するαAC(t)は含まれていない。
【0046】
ref1=β×(αinit+αMW(t))×(Ilaser+Inoise)
【0047】
ここで、βは、定数である。
【0048】
そして、PL(t)に対してコモンモードリジェクションが実行され、コモンモードリジェクション信号(CMR信号)が生成される。CMR信号CMR_SIG(t)は、次式のようになる。これにより、Inoiseの影響およびαMW(t)の影響が除去される。
【0049】
CMR_SIG(t)=PL(t)-ref1/β=αAC(t)×(Ilaser+Inoise)
【0050】
CMR信号CMR_SIG(t)のピーク値(t=0の値)や時間積分値が被測定場の強度と相関があるため、CMR信号CMR_SIG(t)のピーク値や時間積分値と被測定場の強度との対応関係を予め実験などで特定しておき、その対応関係を示す計算式やテーブルを使用して、CMR信号CMR_SIG(t)のピーク値や時間積分値から被測定場の強度が導出される。
【0051】
このような測定原理に基づき、以下に述べる構成が設けられている。
【0052】
図1に示す測定装置は、さらに、発光装置12から磁気共鳴部材1までの励起光の光路上に、ビームスプリッター、光サンプラーなどといった光学素子としての光分配器21を備える。光分配器21は、励起光の一部を、励起光から分岐させ、参照光として別の方向に出射する。例えば、光分配器21は、偏向無依存型のビームスプリッターである。
【0053】
また、上述のように、受光装置13,13Rによって、第1蛍光センサー信号PLおよび第2蛍光センサー信号ref1が生成される。
【0054】
さらに、
図1に示す測定装置において、演算処理部30は、アナログ演算回路としてのCMR演算部31、アナログデジタル変換器32、および演算処理装置33を備える。
【0055】
CMR演算部31は、第1蛍光センサー信号PLに対して、第2蛍光センサー信号ref1に基づくコモンモードリジェクションを行い、そのコモンモードリジェクションに基づくCMR信号CMR_SIGを生成する。具体的には、CMR演算部31は、係数部31aと、差動アンプ31bとを備えており、係数部31aは、第2蛍光センサー信号ref1に対して、係数(1/β)(既知の定数)を乗算し(あるいは、係数βで除算し)、差動アンプ31bは、第1蛍光センサー信号PLから、第2蛍光センサー信号に対して係数(1/β)を乗算して(あるいは係数βで除算して)得られる信号を減算し、これにより、CMR信号CMR_SIGを生成している。
【0056】
なお、回路としての係数部31aを設けてもよいし、係数部31aを設けずに、受光装置13Rのゲインを調整して、係数(1/β)を乗算した強度の(あるいは、係数βで除算した強度の)第2蛍光センサー信号を出力するようにしてもよい。
【0057】
アナログデジタル変換器32は、所定のビット数かつ所定のサンプリング周期(速度)で、CMR信号CMR_SIGをデジタイズし、デジタイズしたCMR信号CMR_SIGを演算処理装置33に出力する。
【0058】
演算処理装置33は、例えばコンピューターを備え、信号処理プログラムをコンピューターで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置33は、そのコンピューターを測定制御部41および演算部42として動作させ、また、不揮発性の記憶装置43を備える。
【0059】
記憶装置43には、信号処理プログラムが記憶されており、そのコンピューターは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備え、信号処理プログラをRAMにロードしてCPUで実行することで、測定制御部41および演算部42として動作する。
【0060】
測定制御部41は、所定の測定シーケンスに従って、(a)高周波電源11および発光装置12を制御し、(b)上述のようにデジタイズされたCMR信号CMR_SIGを取得してRAMや記憶装置43に記憶し、演算部42に、被測定場の測定値を導出させる。
【0061】
この測定シーケンスは、被測定場の周波数などに従って設定される。例えば、被測定場が比較的高周波数の交流場である場合には、この測定シーケンスには、スピンエコーパルスシーケンス(ハーンエコーシーケンスなど)が適用される。ただし、測定シーケンスは、これに限定されるものではない。また、例えば、被測定場が比較的低周波数の交流場である場合、被測定場の1周期において、複数回、ラムゼイパルスシーケンス(つまり、直流場の測定シーケンス)で、その物理場の測定を行い、それらの測定結果に基づいて、被測定場(強度、波形など)を特定するようにしてもよい。
【0062】
図2は、測定シーケンスの一例を示す図である。
図2は、スピンエコーパルスシーケンスの場合の、被測定磁場に対するマイクロ波パルスのタイミング、および励起光の照射タイミング(初期化と測定の2回)を示している。
図2に示すように、励起光の照射期間において、蛍光が検出される。
【0063】
図3は、励起光、第1蛍光センサー信号PL(t)およびCMR信号CMR_SIG(t)について説明する図である。
図3に示すように、励起光は、照射期間の矩形パルス状の強度を有し、第1蛍光センサー信号PL(t)は、照射期間において徐々に立ち上がり一定レベルに収束するパルス信号となる。そして、コモンモードリジェクションによって、CMR信号CMR_SIG(t)が得られる。
【0064】
そして、演算部42は、デジタイズされたCMR信号CMR_SIG(t)に基づいて、被測定場の測定値(ここでは、磁束密度や磁場の波形など)を導出する。
【0065】
また、演算部42は、デジタイズされたCMR信号CMR_SIG(t)に対して、ノイズ除去用のデジタルフィルター処理を実行する。この実施の形態では、演算部42は、このデジタルフィルター処理において、デジタイズされたCMR信号CMR_SIG(t)に対して窓関数を適用し、その信号の高周波成分(高周波数のノイズ成分)を減衰させる。窓関数は、FIR(Finite Impulse Response)フィルターである。
【0066】
図4は、窓関数の周波数特性の一例を示す図である。上述の窓関数は、例えば
図4に示すような周波数特性を有し、高周波ノイズ成分(この場合、約10kHz以上の成分を減衰させる。
【0067】
上述のFIRフィルターは、例えば、(a)励起光の照射期間の前半部分および後半部分において、それぞれ、複数回得られる(所定サンプリング数の)、デジタイズされたCMR信号の値を積算し、(b)その前半部分についてのCMR信号の積算値(総和や平均)とその後半部分についてのCMR信号の積算値(総和や平均)との差分を計算してCMR信号におけるノイズ成分を除去する。
【0068】
例えば
図3に示すように、前半部分における期間P1(照射開始時刻(t=0)から所定時間長の期間)において、所定サンプリング数のCMR信号の値が取得され、後半部分における期間P2(照射終了時刻(t=te)まで所定時間長の期間)において、所定サンプリング数のCMR信号の値が取得され、前半部分の積算値から後半部分の積算値を減算して、その減算結果の値をCMR信号の値とすることで、CMR信号のノイズ成分が抑制される。
【0069】
次に、実施の形態1に係る測定装置の動作について説明する。
図5は、実施の形態1に係る測定装置の動作について説明するフローチャートである。
【0070】
被測定場が印加される位置に測定用センサー部10(測定用磁気共鳴部材1)が配置され、被測定場が印加されない位置に参照用センサー部10R(参照用磁気共鳴部材1R)が配置される。これにより、参照用磁気共鳴部材1Rに被測定場が印加されずに、測定用磁気共鳴部材1に被測定場が印加された状態となる。
【0071】
次に、測定制御部41は、この状態で、所定の測定シーケンスを開始し(ステップS1)、その測定シーケンスに従って、発光装置12に励起光を発光させたり、測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rにマイクロ波を送出させたりする。
【0072】
この単一の励起光が測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに分配されるとともに、単一の高周波電流が測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rに分配されることで、測定用センサー部10(測定用磁気共鳴部材1)および参照用センサー部10R(参照用磁気共鳴部材1R)において所定の測定シーケンスが並行して実行される。
【0073】
測定時の励起光の照射期間において、測定用受光装置13から第1蛍光センサー信号PL(アナログ信号)が出力され、参照用受光装置13Rから参照光センサー信号ref1(アナログ信号)が出力される(ステップS2)。
【0074】
そして、CMR演算部31により、第2蛍光センサー信号ref1(t)に基づき、第1蛍光センサー信号PL(t)に対するコモンモードリジェクションが実行され、これにより、CMR信号CMR_SIG(t)が生成される(ステップS3)。そして、アナログデジタル変換器15により、CMR信号CMR_SIG(t)がデジタイズされる(ステップS4)。
【0075】
演算処理装置33では、測定制御部41が、このCMR信号CMR_SIG(t)(デジタル信号)を取得し、演算部42は、CMR信号に対して窓関数を適用してCMR信号CMR_SIG(t)の高周波ノイズ成分(例えば10kHz以上の成分)を除去する(ステップS5)。なお、演算部42は、さらに、複数回(例えば1000回)サンプリングされたCMR信号CMR_SIG(t)の複数の値に対して積算および差分を行い、比較的低周波のノイズ成分(例えば数kHz~10kHzの成分)を除去するようにしてもよい。
【0076】
そして、演算部42は、このようにしてノイズ除去して得られたCMR信号CMR_SIG(t)の値から、その測定位置、その測定タイミング(測定シーケンスの実行タイミング)での、被測定場の測定値(磁束密度など)を導出する(ステップS6)。
【0077】
以上のように、上記実施の形態1によれば、測定用磁気共鳴部材1は、測定用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、被測定場が印加される。測定用高周波磁場発生器2は、所定の測定シーケンスに従って測定用マイクロ波で測定用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う。参照用磁気共鳴部材1Rは、参照用マイクロ波で電子スピン量子操作の可能であって、上述の被測定場が印加されない。参照用高周波磁場発生器2Rは、上述の所定の測定シーケンスに従って参照用マイクロ波で参照用磁気共鳴部材の電子スピン量子操作を行う。高周波電源11は、測定用マイクロ波および参照用マイクロ波のための高周波電流を生成する。パワーディバイダー11a、その高周波電流を測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rに分配する。発光装置12は、測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに照射すべき励起光を出射する。光分配器21は、その励起光を測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rに分配する。測定用受光装置13は、測定用磁気共鳴部材1により励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第1蛍光センサー信号を生成する。参照用受光装置13Rは、参照用磁気共鳴部材1Rにより励起光に対応して発せられる蛍光を受光し、受光した蛍光の強度に対応する第2蛍光センサー信号を生成する。演算処理部30は、第1蛍光センサー信号および第2蛍光センサー信号に基づいて測定値を導出する。
【0078】
これにより、測定値に対する、高周波電流(測定用マイクロ波および参照用マイクロ波)のノイズ成分の影響が抑制されるため、良好な精度で被測定場の測定値が導出される。
【0079】
実施の形態2.
【0080】
図6は、本発明の実施の形態2に係る測定装置の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、実施の形態2に係る測定装置は、光分配器51、受光装置52、およびアナログデジタル変換器53をさらに備える。
【0081】
光分配器51は、光分配器21と同様の光学素子であって、光分配器51は、励起光の一部を、励起光から分岐させ、参照光として別の方向に出射する。ここでは、光分配器51は、光分配器21と発光装置12との間に設けられているが、その代わりに、光分配器21の後段(光分配器21と測定用センサー部10との間、または光分配器21と参照用センサー部10Rとの間)に設けられていてもよい。
【0082】
受光装置52は、受光装置13,13Rと同様の受光装置であって、光分配器51で分岐した参照光を受光し、参照光の強度に対応する参照光センサー信号ref2を出力する。
【0083】
アナログデジタル変換器53は、所定のビット数かつ所定のサンプリング周期(速度)で、参照光センサー信号ref2をそれぞれデジタイズし、デジタイズした参照光センサー信号ref2を演算処理装置33に出力する。
【0084】
実施の形態2では、演算部42は、CMR信号CMR_SIG(t)および参照光センサー信号ref2に基づいて検出信号SD(t)を生成し、(実施の形態1におけるCMR信号CMR_SIG(t)の代わりに検出信号SD(t)を使用して)同様にして検出信号SD(t)から被測定場の測定値を導出する。
【0085】
具体的には、参照光センサー信号ref2(t)は、次式で表される。
【0086】
ref2(t)=γ×I=γ×(Ilaser+Inoise)
【0087】
ここで、γは、既知の定数である。
【0088】
そして、上述の検出信号SD(t)は、次式のように導出される。
【0089】
SD(t)=αAC(t)/γ(=CMR_SIG(t)/ref2(t))
【0090】
図7は、励起光、第1蛍光センサー信号PL(t)、CMR信号CMR_SIG(t)、および検出信号SD(t)について説明する図である。
【0091】
検出信号SD(t)のピーク値(t=0の値)や時間積分値が被測定場の強度と相関があるため、検出信号SD(t)のピーク値や時間積分値と被測定場の強度との対応関係を予め実験などで特定しておき、その対応関係を示す計算式やテーブルを使用して、
図7に示すような検出信号SD(t)のピーク値や時間積分値から被測定場の強度が導出される。
【0092】
なお、この実施の形態では、アナログデジタル変換器32は、アナログデジタル変換器53に比べ高速に動作し、アナログデジタル変換器53は、アナログデジタル変換器32に比べ高精度のデジタイズを行う。
【0093】
例えば、アナログデジタル変換器32は、例えば200Mサンプル/秒で、入力アナログ信号を20ビットのデジタル信号へ変換し、アナログデジタル変換器53は、例えば100kサンプル/秒で、入力アナログ信号を24ビットのデジタル信号へ変換する。
【0094】
なお、CMR信号は、比較的早く変化するため、高速なアナログデジタル変換器32でサンプリングされ、上述のように、複数サンプリングに基づくノイズ除去が行われる。他方、上述のように、参照光センター信号ref2は、CMR信号における、励起光のノイズ成分Inoiseの影響を理論上消すための除算に使用され、検出される第1蛍光センサー信号PLにおけるレベル変動分αAC(t)とノイズ成分強度Inoiseとの積の項の、第1蛍光センサー信号PLの電圧レベルに対する相対的な電圧レベルに応じた精度で除算する必要があるため、比較的高精度のアナログデジタル変換器53でサンプリングされる。
【0095】
次に、実施の形態2に係る測定装置の動作について説明する。
図8は、実施の形態2に係る測定装置の動作について説明するフローチャートである。
【0096】
実施の形態1と同様に、参照用磁気共鳴部材1Rに被測定場が印加されずに、測定用磁気共鳴部材1に被測定場が印加された状態とされる。
【0097】
次に、実施の形態1と同様に、測定制御部41は、この状態で、所定の測定シーケンスを開始し(ステップS11)、その測定シーケンスに従って、発光装置12に励起光を発光させたり、測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rにマイクロ波を送出させたりする。
【0098】
これにより、測定時の励起光の照射期間において、測定用受光装置13から第1蛍光センサー信号PL(アナログ信号)が出力され、参照用受光装置13Rから参照光センサー信号ref1(アナログ信号)が出力され、受光装置52から参照光センサー信号ref2が出力される(ステップS12)。
【0099】
そして、実施の形態1と同様に、CMR信号CMR_SIG(t)が生成され(ステップS13)、デジタイズされる(ステップS14)。また、参照光センサー信号ref2もデジタイズされる(ステップS14)。
【0100】
演算処理装置33では、測定制御部41が、このCMR信号CMR_SIG(t)(デジタル信号)および参照光センサー信号ref2(t)(デジタル信号)を取得し、演算部42は、実施の形態1と同様に、CMR信号CMR_SIG(t)のノイズ除去を行う(ステップS15)。
【0101】
そして、演算部42は、ノイズ除去後のCMR信号CMR_SIG(t)および参照光センサー信号ref2(t)から検出信号SD(t)を導出し(ステップS16)、検出信号SD(t)の値から、その測定位置、その測定タイミング(測定シーケンスの実行タイミング)での、被測定場の測定値を導出する(ステップS17)。
【0102】
なお、ここでは、CMR信号CMR_SIG(t)に対してノイズ除去が行われているが、その代わりに、同様の手法で検出信号SD(t)に対してノイズ除去を行うようにしてもよい。
【0103】
なお、実施の形態2に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0104】
以上のように、上記実施の形態2によれば、励起光を分岐して得られる参照光を受光して参照光センサー信号ref2が生成され、CMR信号とともに参照光センサー信号ref2に基づいて測定値が導出される。
【0105】
これにより、測定値に対する、励起光のノイズ成分の影響がより抑制されるため、より良好な精度で被測定場の測定値が導出される。
【0106】
実施の形態3.
【0107】
実施の形態3では、パワーディバイダー11aの特性、測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rの形状や特性の違いなどに起因して、測定用マイクロ波の強度と参照用マイクロ波の強度が異なる場合、測定用マイクロ波のノイズ成分に起因する第1蛍光センサー信号PLのノイズ成分αMW1の強度と参照用マイクロ波のノイズ成分に起因する第2蛍光センサー信号ref1のノイズ成分αMW2の強度も異なる。そのような場合において、ノイズ成分αMW1の強度とノイズ成分αMW2の強度とが互いに一致するように、測定用磁気共鳴部材1に印加する第1静磁場および参照用磁気共鳴部材1Rに印加する第2静磁場が設定されている。
【0108】
実施の形態3では、例えば、参照用静磁場発生装置3Rが電磁石とされ、参照用静磁場発生装置3Rによる第2静磁場の強度が調整される。
【0109】
上述の場合の第1蛍光センサー信号PL(t)および第2蛍光センサー信号ref1(t)は以下のようになる。
【0110】
PL(t)=(αinit+αMW1(t)+αAC(t))×(Ilaser+Inoise)
【0111】
ref1=β×(αinit+αMW2(t))×(Ilaser+Inoise)
【0112】
したがって、この場合におけるCMR信号CMR_SIG(t)は、次式のようになる。
【0113】
CMR_SIG(t)=PL(t)-ref1/β=(αMW1(t)-αMW2(t))×αAC(t)×(Ilaser+Inoise)
【0114】
そして、αMW1(t)-αMW2(t)=0となるように、参照用静磁場発生装置3Rによる第2静磁場の強度が調整される。なお、その代わりに、同様に第1静磁場の強度を調整するようにしてもよい。
【0115】
なお、実施の形態3に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。
【0116】
以上のように、上記実施の形態3によれば、測定用マイクロ波の強度と参照用マイクロ波の強度が異なる場合でも、良好にマイクロ波のノイズ成分に起因する測定値のノイズ成分を抑制して測定精度が高くなる。
【0117】
実施の形態4.
【0118】
実施の形態4では、パワーディバイダー11aの特性、測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rの形状や特性の違いなどに起因して、測定用マイクロ波の強度と参照用マイクロ波の強度が異なる場合、測定用マイクロ波のノイズ成分に起因する第1蛍光センサー信号PLのノイズ成分αMW1の強度と参照用マイクロ波のノイズ成分に起因する第2蛍光センサー信号ref1のノイズ成分αMW2の強度も異なる。そのような場合において、ノイズ成分αMW1の強度とノイズ成分αMW2の強度とが互いに一致するように、測定用磁気共鳴部材1の電子スピン量子操作のための測定用マイクロ波のパルス幅および参照用磁気共鳴部材1Rの電子スピン量子操作のための参照用マイクロ波のパルス幅が設定されている。
【0119】
つまり、実施の形態3の場合と同様にαMW1(t)-αMW2(t)=0となるように、参照用マイクロ波のパルス幅が調整される。なお、その代わりに、同様に測定用マイクロ波のパルス幅を調整するようにしてもよい。
【0120】
図9は、実施の形態4における測定用マイクロ波のパルス幅および参照用マイクロ波のパルス幅の一例を示す図である。測定用マイクロ波に比べて参照用マイクロ波の強度が低い場合には、例えば
図9に示すように、参照用マイクロ波のパルス幅が測定用マイクロ波のパルス幅より広くなるように設定される。一方、測定用マイクロ波に比べて参照用マイクロ波の強度が高い場合には、参照用マイクロ波のパルス幅が測定用マイクロ波のパルス幅より狭くなるように設定される。
【0121】
具体的には、実施の形態4では、高周波電源11が連続的に高周波電流を出力し、パワーディバイダー11aと測定用高周波磁場発生器2および参照用高周波磁場発生器2Rとの間にそれぞれスイッチ回路が設けられ、各スイッチ回路がオンになる期間(つまり、上述のパルス幅)が測定制御部41によって調整される。
【0122】
なお、実施の形態4に係る測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1または2と同様であるので、その説明を省略する。
【0123】
以上のように、上記実施の形態4によれば、測定用マイクロ波の強度と参照用マイクロ波の強度が異なる場合でも、良好にマイクロ波のノイズ成分に起因する測定値のノイズ成分を抑制して測定精度が高くなる。
【0124】
実施の形態5.
【0125】
実施の形態5では、参照用磁気共鳴部材1R(つまり、参照用センサー部10R)は、測定用磁気共鳴部材1に入射する外来電磁波が入射する位置に(測定用磁気共鳴部材1に隣接して)配置され、測定用磁気共鳴部材1および参照用磁気共鳴部材1Rは、それぞれ、不純物および欠陥を含む同一種別のカラーセンターの磁気共鳴部材(例えばNVセンターのダイヤモンド部材など)であって、不純物および欠陥の配列方向が互いに同一になるように配置されている。これにより、測定用センサー部10および参照用センサー部10Rが外来電磁波に対して同様の感度を有する。
【0126】
なお、実施の形態5に係る測定装置のその他の構成および動作については他の実施の形態のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0127】
以上のように、上記実施の形態5によれば、測定値に対する、外来電磁波の影響が抑制されるため、より良好な精度で被測定場の測定値が導出される。
【0128】
実施の形態6.
【0129】
実施の形態6に係る測定装置は、フラックストランスフォーマーを備える。そして、上述の被測定場は、磁場であって、そのフラックストランスフォーマーの2次コイルによって(参照用磁気共鳴部材1Rに印加されないようにしつつ)測定用磁気共鳴部材1に印加されている。
【0130】
具体的には、フラックストランスフォーマーの1次コイルによって、1次コイルの位置(つまり、本来の測定位置)の磁場を感受し、1次コイルから離間した2次コイルの位置において、測定用センサー部10で2次コイルにより誘起される磁場が測定される。
【0131】
なお、実施の形態6に係る測定装置のその他の構成および動作については他の実施の形態のいずれかと同様であるので、その説明を省略する。
【0132】
以上のように、上記実施の形態6によれば、本来の測定位置(1次コイルの位置)から測定用センサー部10とともに参照用センサー部10Rを離間させることができ、また、2次コイルで、測定用センサー部10および参照用センサー部10Rのうちの測定用センサー部10のみに被測定磁場を容易に印加させることができる。したがって、参照用センサー部10Rを磁気的に測定用センサー部10から分離でき、良好な精度で測定値が導出される。
【0133】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0134】
例えば、上記実施の形態1~6のいずれかにおいて、必要に応じて、高周波電源11とパワーディバイダー11aとの間に増幅器を設けるようにしてもよい。
【0135】
また、上記実施の形態1~6のいずれかにおいて、係数部31aの代わりに、光分配器21と参照用センサー部10Rとの間に光調整器(NDフィルター、アイリスなど)を設け、参照用センサー部10Rへの入射光量を調整して、第2蛍光センサー信号ref1の強度が1/βになるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、例えば、光検出磁気共鳴を利用した測定装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0137】
1 測定用磁気共鳴部材
1R 参照用磁気共鳴部材
2 測定用高周波磁場発生器
2R 参照用高周波磁場発生器
3 測定用静磁場発生装置
3R 参照用静磁場発生装置
11 高周波電源
11a パワーディバイダー
12 発光装置
13 測定用受光装置
13R 参照用受光装置
15 アナログデジタル変換器
21 光分配器
30 演算処理部
51 光分配器
52 受光装置