(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106709
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】風力発電装置の運転制御方法および運転制御装置
(51)【国際特許分類】
F03D 7/04 20060101AFI20240801BHJP
F03D 17/00 20160101ALI20240801BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20240801BHJP
H02P 101/15 20150101ALN20240801BHJP
【FI】
F03D7/04
F03D17/00
H02P9/00 F
H02P101:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011114
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亮
(72)【発明者】
【氏名】吉水 謙司
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏雅
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和真
【テーマコード(参考)】
3H178
5H590
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB05
3H178BB06
3H178BB56
3H178DD12X
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE02
3H178EE17
3H178EE23
3H178EE40
5H590CA14
5H590EA07
5H590EB11
5H590HA06
5H590HA28
5H590JA02
(57)【要約】
【課題】風力発電装置に設置された発電機の損傷リスクを抑えることが可能な風力発電装置の運転制御方法を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る風力発電装置の運転制御方法は、風力で発電する発電機を備える風力発電装置の運転制御方法である。この運転制御方法は、発電機のトルクデータと風力発電装置の運転時の風況データとの少なくとも一方を取得し、トルクデータに基づくトルク指標と風況データに基づく風況指標の少なくとも一方を算出し、トルク指標と風況指標の少なくとも一方が閾値を超えていると、発電機の出力を抑制する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力で発電する発電機を備える風力発電装置の運転制御方法であって、
前記発電機のトルクデータと前記風力発電装置の運転時の風況データとの少なくとも一方を取得し、
前記トルクデータに基づくトルク指標と前記風況データに基づく風況指標の少なくとも一方を算出し、
前記トルク指標と前記風況指標の少なくとも一方が閾値を超えていると、前記発電機の出力を抑制する、
風力発電装置の運転制御方法。
【請求項2】
前記トルクデータを用いてトルクの変化量を算出し、
評価時間幅において前記変化量が予め設定された基準値を超えた回数を示すトルクの突変回数を、前記トルク指標として算出する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項3】
前記風況指標が、前記発電機のトルクに基づいて設定された閾値を超えたときに、前記発電機の出力を抑制する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項4】
風速の標準偏差または乱流強度を、前記風況指標として算出する、請求項3に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項5】
評価時間幅における風速の最大値と最小値との差を、前記風況指標として算出する、請求項3に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項6】
評価時間幅における平均風速と、前記風力発電装置の定格風速との差を、前記風況指標として算出する、請求項3に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項7】
前記トルク指標または前記風況指標に応じて予め設定された出力指令値に基づいて、前記発電機の出力を抑制する、請求項1または3に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項8】
異なる複数の評価時間幅でそれぞれ算出された複数の風況指標を用いて、前記発電機の出力を抑制するか否かを判定する、請求項3に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項9】
前記トルク指標または前記風況指標について、前記発電機のトルク値が異なる第1運転モードおよび第2運転モードでそれぞれ異なる閾値を設定する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項10】
前記トルク指標の第1閾値を設定するともに、前記風況指標の第2閾値を設定し、
前記トルク指標が前記第1閾値を超え、かつ前記前記風況指標が前記第2閾値を超えている場合に、前記出力を抑制する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項11】
前記トルク指標の閾値または前記風況指標の閾値を、風向毎に設定する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項12】
前記風力発電装置の設置エリアにおける風況を解析した風況解析データを取得し、
前記風況解析データに基づいて前記風況指標を算出する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項13】
前記出力を抑制した場合の発電電力量の損失量を算出し、
前記損失量が、予め設定された許容範囲内に収まるように、前記閾値、または前記出力を抑制する出力指令値を変更する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項14】
複数の風力発電装置の全てに対して1つの閾値を設定する、請求項1に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項15】
風力で発電する発電機を備える風力発電装置の運転制御装置であって、
前記発電機のトルクデータと前記風力発電装置の運転時の風況データとの少なくとも一方を取得するデータ取得部と、
前記トルクデータに基づくトルク指標と前記風況データに基づく風況指標の少なくとも一方を算出するデータ処理部と、
前記トルク指標と前記風況指標の少なくとも一方が閾値を超えていると、前記発電機の出力を抑制する制御部と、
を備える風力発電装置の運転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、風力発電装置の運転制御方法および運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置では、風の乱れによる風速変動によりブレードに作用する荷重が増大し、機器の損傷リスクが高まる懸念がある。このため、ブレード周囲の風の乱れを示す指標が閾値を超える場合には、ローター回転数や発電出力を低下させた、通常時よりも低出力の運転状態への切り替えを行う運転制御方法が幾つか提案されている。このような出力抑制を伴う運転制御方法では、発電電力量の損失が生じるものの、機器に対する負荷が低減でき、機器の故障によるダウンタイムを回避できることから、トータルでの発電電力量確保に繋がると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5318454号公報
【特許文献2】特許第6421134号公報
【特許文献3】特開2021-88972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の運転制御方法では、主にブレードに作用する荷重の低減を目的としているが、風力発電装置内の機器損傷の要因は、多岐に渡るため、ブレードの荷重に限定されない。例えば、ブレードの回転力で発電する発電機は、風の変動により運転中のトルクが急激に変動(以下、トルクの突変と称する)する場合が散見される。このトルクの突変は、発電機の損傷リスクを高める一つの要因と考えられる。そのため、トルクの突変に基づく指標を風力発電装置の運転制御に取り込むことは重要である。
【0005】
しかし、従来の運転制御は、主にブレードに作用する荷重に着目しているため、トルクの突変に基づいて発電機の出力を抑制することについては考慮されていない。
【0006】
本発明が解決しようする課題は、風力発電装置に設置された発電機の損傷リスクを抑えることが可能な風力発電装置の運転制御方法および運転制御装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る風力発電装置の運転制御方法は、風力で発電する発電機を備える風力発電装置の運転制御方法である。この運転制御方法は、発電機のトルクデータと風力発電装置の運転時の風況データとの少なくとも一方を取得し、トルクデータに基づくトルク指標と風況データに基づく風況指標の少なくとも一方を算出し、トルク指標と風況指標の少なくとも一方が閾値を超えていると、発電機の出力を抑制する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、風力発電装置に設置された発電機の損傷リスクを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る風力発電装置の概略的な構成を示す模式図である。
【
図2】運転制御装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図4】トルク変化量の時系列データの一例を示すグラフである。
【
図5】トルクの突変回数と発電機7の運転モードとの関係を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図7】風況とトルクの突変回数との関係の一例を示す図である。
【
図8】風速の時系列の変化の一例を示すグラフである。
【
図9】風力発電装置における風速と発電機のトルクとの関係の一例を示す曲線である。
【
図10】トルクの突変回数と風速との関係の一例を示す図である。
【
図11】乱流強度と発電機の出力指令値との対応関係を示すデータテーブルの一例を示す図である。
【
図12】第6実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図13】第7実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図14】第8実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図15】風向と指標の閾値との対応関係を示すデータテーブルの一例を示す図である。
【
図16】第9実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【
図17】第10実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る風力発電装置の概略的な構成を示す模式図である。本実施形態に係る風力発電装置10は、筐体であるナセル1と、ナセル1を下方から支持する支柱であるタワー2と、複数のブレード3と、複数のブレード3を支持するハブ4と、を備える。
【0012】
ナセル1には、回転軸5、変速機構6、発電機7、および運転制御装置9が内蔵されている。回転軸5の一端は、ハブ4に固定されている。回転軸5の他端は、変速機構6と連結されている。
【0013】
変速機構6は、適宜のカップリング機構などを介して発電機7と連結されている。本実施形態では、3つのブレード3の基端部が、回転方向に120度の間隔をおいてハブ4に固定されている。
【0014】
風力発電装置10の運転中において、ハブ4および回転軸5と共に一体となって回転する複数のブレード3は、風力から得た流体エネルギを回転エネルギに変換する。また、回転軸5の回転エネルギ(駆動力)は、変速機構6により減速又は増速されて発電機7へ伝達される。発電機7は、伝達されたこの回転エネルギを用いて発電を行う。
【0015】
風況計測器8は、ナセル1の外周部に設置されている。風況計測器8は、風向を計測可能な風速計や風向を計測可能な風向計として機能する風速センサの一例である。風況計測器8は、風力発電装置10が設置された設置エリアで、例えば風速の平均および風速の変化を示す風況データを計測し、計測した風況データ果を計測結果として運転制御装置9へ出力する。なお、風況計測器8は、単に、風速や風向を計測し、この計測結果を、計測した時刻情報と共に運転制御装置9へ出力してもよい。また、風況計測器8の設置エリアは、ナセル1に限定されず、風力発電設備10の周辺エリアに設置されてもよい。
【0016】
運転制御装置9は、発電機7の回転数、発電機7のトルク、発電機7の出力電力、ブレード3のピッチ角など風力発電装置10の運転状況を制御および計測する。ここで、
図2を参照して、運転制御装置9の概略的な構成を説明する。
【0017】
図2は、運転制御装置9の概略的な構成を示すブロック図である。
図9に示す運転制御装置9は、データ取得部90と、データ処理部91と、制御部92と、記憶部93と、を有する。以下、各部について説明する。
【0018】
データ取得部90は、風況計測器8の風況データや発電機7の運転データ等の種々のデータを取得する。データ取得部90は、これらのデータを有線で取得してもよいし、通信ネットワークを介して無線で取得してもよい。
【0019】
データ処理部91は、データ取得部90に取得されたデータを用いて、トルクの突変の頻度を表す指標を算出する。また、データ処理部91は、算出した指標が閾値を超えているか否かを判定する。
【0020】
制御部92は、データ処理部91の判定結果に応じて、発電機7を通常運転モード(第1運転モード)または低出力運転モード(第2運転モード)に設定する。通常運転モードでは、発電機7が第1トルク値に設定される。一方、低出力運転モードでは、発電機7は、発電出力を抑えた運転状態となる。そのため、低出力運転モードにおける発電機7の第2トルク値は、通常運転モードの第1トルク値よりも低く設定される。
【0021】
記憶部93は、上記しきい値や、風況計測器8の風況データ等の種々のデータを記憶する。なお、データ処理部91が、例えばコンピュータプログラムに基づいて演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)で構成される場合、記憶部93は、そのコンピュータプログラムも記憶する。
【0022】
以下、運転制御装置9による風力発電装置10の運転制御方法について説明する。
【0023】
図3は、第1実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部90が、発電機7のトルクの時系列な変化を示すトルクデータを取得する(ステップS11)。ステップS11では、データ取得部90は、運転データからトルクデータを抽出してもよいし、発電機7に設置された計測器(不図示)で直接的に計測された値をトルクデータとして周期的に取得してもよい。
【0024】
次に、データ処理部91が、データ取得部90によって取得されたトルクデータに基づいて、トルクの突変の頻度を表す指標を算出する(ステップS12)。例えば、データ処理部91は、トルクの突変回数を上記指標として算出する。ここで、
図4を参照して、本実施形態におけるトルクの突変回数の算出方法を説明する。
【0025】
図4は、トルク変化量の時系列データの一例を示すグラフである。
図4では、横軸は時刻を示す。一方、縦軸は、トルク変化量を示す。ステップS12では、まず、データ処理部91は、データ取得部90によって取得されたトルクデータを用いて、例えば時刻t2のトルク値から一つ前の時刻t1のトルク値を差し引いた値を、時刻t2のトルク変化量として算出する。
【0026】
続いて、データ処理部91は、例えば10分間のように、時刻t1から時刻tnまでの一定の期間である評価時間幅において、トルク変化量が、予め設定された基準値Sを超えた回数をカウントする。そして、データ処理部91は、カウント値をトルクの突変回数として算出する。なお、評価時間幅は、例えば10分間などのように、運転制御に適した値が適宜設定されている。
【0027】
次に、データ処理部91は、ステップS12で算出した指標が予め設定された閾値を超えているか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、データ処理部91は、トルクの突変回数が閾値を超えているか否かを判定する。
【0028】
次に、制御部92が、データ処理部91の判定結果に応じて発電機7の運転モードを設定する。ここで、
図5を参照して、トルクの突変回数と発電機7の運転モードとの関係について説明する。
【0029】
図5は、トルクの突変回数と発電機7の運転モードとの関係を示す図である。
図5では、横軸は時刻を示す。一方、縦軸は、トルクの突変回数を示す。
【0030】
図5に示すように、評価時間幅におけるトルクの突変回数が閾値TH1以下である場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する(ステップS14)。この場合、制御部92は、通常運転モードに対応する発電機7の出力電力を示す出力指令値を生成して出力する。
【0031】
一方、評価時間幅におけるトルクの突変回数が閾値TH1を超えると、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS15)。この場合、制御部92は、低出力運転モードに対応する発電機7の出力電力を示す出力指令値を生成して出力する。これ以降、場合により、低出力運転モードへ移行させることを出力抑制と記載する。
【0032】
低出力運転モードは、発電出力を抑えた運転状態となるため、発電機7のトルク値は通常運転モードのトルク値よりも低くなる。これにより、トルク変動量も通常運転モードよりも小さくなる。よって、必然的にトルクの突変回数が低減される。
【0033】
以上説明した本実施形態によれば、発電機7のトルクの突変が発生して、その頻度を表す指標が閾値を超えた場合には、運転制御装置9が発電機7の発電出力を抑える。これにより、発電機7に作用する負荷が低減される。したがって、発電機7の損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0034】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、運転制御装置9が、運転データに含まれている発電機7のトルク値から算出される指標を用いて、発電機7の出力抑制の要否を判定している。このような運転制御方法を発電機7の出力抑制に適用することによって、トルクの突変の頻度は低下することが予想される。
【0035】
ただし、発電機7が低出力運転モードに移行すると、データ取得部90は、通常運転モードを続けた場合のトルクの突変回数のデータを取得できなくなる。そのため、データ処理部91は、一度適用した出力抑制をどのタイミングで解除すべきか判断することが難しくなる。データ処理部91は、例えば一定時間で低出力運転モードを解除することも考えられるが、より適切な方法として運転データによる指標とは異なる指標での判定が考えられる。風力発電装置10の特性上、トルクの突変の発生頻度は風況に大きく依存すると考えられる。そこで、第2実施形態では、運転制御装置9は、発電機7の出力抑制の要否を判定するために、風況計測器8で計測された風況データに基づいて算出した指標を新たに取り入れる。以下、本実施形態に係る運転制御装置9による風力発電装置10の運転制御方法について説明する。
【0036】
図6は、第2実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ処理部91が、過去の風況データと風力発電装置10の運転データを用いて、風況とトルクの突変回数との相関性を分析する(ステップS21)。風況を表す指標として、例えば、風速や乱流強度等が該当する。
【0037】
図7は、風況とトルクの突変回数との関係の一例を示す図である。
図7では、横軸は、乱流強度を示す。乱流強度は、風速の標準偏差を平均風速で除した値である。一方、縦軸はトルクの突変回数を示す。
図7に示すように、乱流強度とトルクの突変回数との間には、相関性がある。具体的には、乱流強度の値が大きくなるにつれて、トルクの突変回数が多くなる。データ処理部91は、例えば、
図7に示す分布図から得られる乱流強度とトルクの突変回数との相関性を示す近似式を求める。なお、乱流強度とトルクの突変回数との相関性を分析する方法は、近似式に限定されず、例えば統計処理によって行う場合もある。
【0038】
次に、データ処理部91は、乱流強度の閾値TH2を設定する(ステップS22)。閾値TH2は、第1実施形態で説明したトルクの突変回数の閾値TH1と対応する。そのため、データ処理部91は、例えばステップS21で求めた近似式を用いて閾値TH1に対応する乱流強度の閾値TH2を求める。このように、本実施形態では、乱流強度とトルクの突変回数との相関性の分析と、分析結果に基づく乱流強度の閾値の設定と、を事前に行っている。なお、本実施形態では、乱流強度の代わりに、風速の標準偏差をトルクの突変回数に相関する指標として用いてもよい。
【0039】
次に、データ取得部90が、風況計測器8で計測された風力発電装置10の運転時の最新の風況データを取得する(ステップS23)。
【0040】
次に、データ処理部91が、風況計測器8によって計測された最新の風況データに基づく指標を算出する(ステップS24)。本実施形態では、この指標は、乱流強度である。
【0041】
次に、データ処理部91は、ステップS24で算出した指標、すなわち乱流強度がステップS22で設定した閾値TH2を超えているか否かを判定する(ステップS25)。
【0042】
乱流強度が閾値TH2以下である場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する(ステップS26)。この場合、制御部92は、第1実施形態と同様に通常運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0043】
乱流強度が閾値TH2を超えている場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS27)。この場合も、制御部92は、第1実施形態と同様に低出力運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、データ処理部91が、トルクの突変回数に対応する乱流強度の閾値TH2を予め設定し、設定した閾値TH2に基づいて発電機7の出力抑制の要否を判定する。乱流強度は、風力発電装置10の運転状態の切り替え(出力抑制)には影響されないパラメータである。そのため、この乱流強度を用いることによって、発電機7の出力抑制の要否をより適切に判定することが可能となる。
【0045】
(第3実施形態)
本実施形態では、風況データに基づく指標が第2実施形態と異なる。具体的には、評価時間幅における風速の最大値と最小値との差を用いる。この差は、風速の変動幅を示す。この変動幅は、風の乱れを表す指標の1つであり、乱流強度と同様にトルクの突変回数と相関性を有する。
【0046】
図8は、風速の時系列の変化の一例を示すグラフである。
図8では、横軸は時刻を示す。一方、縦軸は風況計測器8で計測された風速を示す。風況データに基づく指標、すなわち風速の変動幅は、評価時間幅における風速最大値V
maxから風速最小値V
minを差し引いた値である。本実施形態では、運転制御装置9が、第2実施形態で説明したフローチャートに従って、発電機7の出力を制御する。以下、フローチャートの各ステップについて説明する。
【0047】
本実施形態のステップS21では、データ処理部91は、過去の風況データと風力発電装置10の運転データを用いて、風速の変動幅とトルクの突変回数との相関性を分析する。例えばデータ処理部91は、この相関性を示す近似式を求める。
【0048】
次に、本実施形態のステップS22では、データ処理部91は、例えば上記近似式を用いて閾値TH1に対応する風速の変動幅の閾値TH3を求める。
【0049】
次に、本実施形態のステップS23では、データ取得部90が、風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する。
【0050】
次に、本実施形態のステップS24では、データ処理部91が、風況計測器8によって計測された最新の風況データに基づく指標を算出する。本実施形態では、この指標は、風速の変動幅(Vmax-Vmin)である。
【0051】
次に、本実施形態のステップS25では、データ処理部91は、ステップS24で算出した風速の変動幅がステップS22で設定した閾値TH3を超えているか否かを判定する。
【0052】
風速の変動幅が閾値TH3以下である場合、本実施形態のステップS26では、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する。この場合、制御部92は、第2実施形態と同様に通常運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0053】
反対に、風速の変動幅が閾値TH3を超えている場合、本実施形態のステップS27では、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する。この場合も、制御部92は、第2実施形態と同様に低出力運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、データ処理部91が、トルクの突変回数に対応する風速の変動幅の閾値TH3を予め設定し、設定した閾値TH3に基づいて発電機7の出力抑制の要否を判定する。風速の変動幅は、風力発電装置10の運転状態の切り替え(出力抑制)には影響されないパラメータである。そのため、この変動幅を用いることによって、第2実施形態と同様に発電機7の出力抑制の要否をより適切に判定することが可能となる。
【0055】
(第4実施形態)
トルクの突変が起きる主な要因の1つは、風の乱れによる風速変動である。しかし、トルクの突変の発生頻度は、乱流強度のような風の乱れを表す指標だけに依存するだけでなく、風速のレベルにも依存する。
【0056】
図9は、風力発電装置10における風速と発電機7のトルクとの関係の一例を示す曲線である。
図9に示すように、風力発電装置10の定格風速V
rat以下では風速の増加に伴い発電機7のトルクが上昇する。風速が定格風速V
rat域に達すると、運転制御装置9によってトルクは一定となるよう制御されている。曲線は、定格風速V
ratに近い風速域でより急峻なカーブとなっており、この風速域において発電機トルクの風速に対する感度が大きい。このため、定格風速V
ratに近い風速域で風力発電装置10が運転している場合には、風速変動に対して発電機7のトルクの変化量が大きい傾向となる。
【0057】
図10は、トルクの突変回数と風速との関係の一例を示す図である。
図10では、横軸は風速を示す。一方、縦軸はトルクの突変回数を示す。
図10に示すように、定格風速V
ratに近い風速域でトルクの突変回数が大きい傾向となる。
【0058】
そこで、本実施形態では、評価時間幅における平均風速Vaveと定格風速Vratとの風速差を風況データに基づく指標とし、この指標が予め設定された範囲内にある場合に出力抑制を適用する。本実施形態でも、運転制御装置9が、第2実施形態で説明したフローチャートに従って、発電機7の出力を制御する。以下、フローチャートの各ステップについて説明する。
【0059】
本実施形態のステップS21では、データ処理部91は、過去の風況データと風力発電装置10の運転データを用いて、平均風速Vaveと定格風速Vratとの風速差とトルクの突変回数との相関性を分析する。
【0060】
次に、本実施形態のステップS22では、データ処理部91は、閾値TH1に基づいて、上記風速差の範囲を求める。風速差の範囲は、例えば、平均風速Vaveが定格風速Vratと等しい0を中央値として、風速差の下限値V0-Vratから風速差の上限値V1-Vratまでの範囲で設定される。下限値V0-Vratおよび上限値V1-Vratは、閾値TH1に応じて適宜決定される。
【0061】
次に、本実施形態のステップS23では、データ取得部90が、風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する。
【0062】
次に、本実施形態のステップS24では、データ処理部91が、風況計測器8によって計測された最新の風況データに基づく指標を算出する。本実施形態では、この指標は、平均風速Vaveと定格風速Vratとの風速差(Vave-Vrat)である。
【0063】
次に、本実施形態のステップS25では、データ処理部91は、ステップS24で算出した風速差がステップS22で設定した範囲内であるか否かを判定する。
【0064】
風速差が範囲外である場合、本実施形態のステップS26では、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する。この場合、制御部92は、第2実施形態と同様に通常運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0065】
反対に、風速差が範囲内である場合、本実施形態のステップS27では、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する。この場合も、制御部92は、第2実施形態と同様に低出力運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0066】
以上説明した本実施形態によれば、データ処理部91が、トルクの突変回数に対応する平均風速Vaveと定格風速Vratとの風速差の範囲を予め設定し、設定した範囲に基づいて発電機7の出力抑制の要否を判定する。この風速差も、風力発電装置10の運転状態の切り替え(出力抑制)には影響されないパラメータである。そのため、この風速差を用いることによって、第2実施形態と同様に発電機7の出力抑制の要否をより適切に判定することが可能となる。
【0067】
(第5実施形態)
運転制御装置9が発電機7の出力を抑制する時、低出力運転モードにおける出力指令値は、トルクの突変回数や風況データに基づく指標の値によって変えてもよい。例えば、風況データに基づく指標の1つである乱流強度が大きいほど、トルクの突変がより起きやすい。
【0068】
そこで、本実施形態では、運転制御装置9は、
図11に示すデータテーブルに基づいて、発電機7の出力指令値を設定する。
【0069】
図11は、乱流強度と発電機7の出力指令値との対応関係を示すデータテーブルの一例を示す図である。
図11に示すデータテーブル100は、記憶部93に格納されている。データテーブル100では、発電機7の出力指令値が、乱流強度の範囲に応じて設定されている。具体的には、乱流強度の値が大きくなるにつれて、出力指令値が段階的に小さくなっている。なお、出力指令値は、乱流強度の値に応じて連続的に設定されていてもよい。すなわち、1つの乱流強度の値に対して1つの出力指令値が設定されていてもよい。
【0070】
本実施形態でも、運転制御装置9が、第2実施形態で説明したフローチャートに従って、発電機7の出力を制御する。ただし、本実施形態のステップS27では、制御部92は、記憶部93に格納されたデータテーブル100を用いて、発電機7の出力指令値を設定する。例えば、ステップS24においてデータ処理部91によって算出された乱流強度の値がケース3に該当する場合、制御部92は、データテーブル100から出力指令値W3を選定する。
【0071】
本実施形態によれば、発電機7が低出力運転モードで運転する場合、出力指令値が一律ではなく乱流強度の値に応じて設定される。これにより、発電機7の出力が必要以上に抑制されなくなる。よって、発電機7の出力抑制を最適化することが可能となる。
【0072】
なお、本実施形態では、データテーブル100において、出力指令値が、乱流強度の代わりにトルクの突変回数に対応付けて設定されていてもよい。この場合、データ取得部90は、風況データの代わりにトルクデータを取得する。また、データ処理部91は、第1実施形態で説明したトルクの突変回数をトルク指標として算出する。このトルク指標が閾値TH1を超えている場合に、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに移行させる。この場合も、発電機7の出力が必要以上に抑制されなくなるため、発電機7の出力抑制を最適化することが可能となる。
【0073】
(第6実施形態)
発電機7の出力抑制の要否を判定する指標として風況データに基づく指標を用いる場合、平均風速、標準偏差、および乱流強度などの統計量を算出する際には評価時間幅を設定する必要がある。これらの指標は、評価時間幅が短ければ短期の傾向を表し、長ければ長期の傾向を表す。風が急に乱れ始めた場合などに出力抑制の追従性を良くする場合には、評価時間幅を短く設定することが望ましい。ただし、評価時間幅が短いほど指標の増減が大きくなるため、閾値を上回る場合と下回る場合の回数が増える。その結果、発電機7の運転モードの切り替え頻度が高くなることが予想される。
【0074】
一般的に、風の乱れは、風速の増減を伴いつつ一定期間継続することが多い。そのため、短期的な指標が瞬間的に閾値を下回ったことにより出力抑制を解除しても、次の瞬間には再度指標が閾値を上回るというケースが予想される。短期的な指標のみで発電機7の運手モードを判定すると、通常運転モードと低出力運転モードとの切り替えが多くなる。その結果、発電機7のトルクの突変を十分に回避できないことが懸念される。
【0075】
そこで、本実施形態では、運転制御装置9は、短期的な指標と長期的な指標とを組み合わせて発電機7の出力抑制の要否を判定する。以下、
図12を参照して本実施形態に係る運転制御装置9による運転制御方法を説明する。
【0076】
図12は、第6実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部90が風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する(ステップS61)。
【0077】
次に、データ処理部91が、データ取得部90によって取得された最新の風況データに基づく短期指標と長期指標とをそれぞれ算出する(ステップS62)。例えば、短期指標は、短評価時間幅で算出された乱流強度である。一方、長期指標は、短期指標よりも長い長評価時間幅で算出された乱流強度である。
【0078】
次に、データ処理部91は、ステップS62で算出した短期指標が閾値TH2aを超えているか否かを判定する(ステップS63)。閾値TH2aは、過去の短評価時間幅の乱流強度とトルクの突変回数との相関性(
図7参照)に基づいて予め設定され、記憶部93に格納されている。
【0079】
短期指標が閾値TH2aを超えている場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS64)。この場合、制御部92は、第1実施形態と同様に低出力運転モードに対応する出力指令値を生成して出力する。
【0080】
短期指標が閾値TH2a以下である場合、データ処理部91は、ステップS62で算出した長期指標が閾値TH2bを超えているか否かを判定する(ステップS65)。閾値TH2bは、過去の長評価時間幅の乱流強度とトルクの突変回数との相関性(
図7参照)に基づいて予め設定され、記憶部93に格納されている。
【0081】
長期指標が閾値TH2bを超えている場合、制御部92は、低出力運転モードを維持する。
【0082】
長期指標が閾値TH2b以下である場合、制御部92は、低出力運転モードを解除して通常運転モードに戻す(ステップS66)。このように、本実施形態では、運転制御装置9は、低出力運転モードから通常運転モードに戻すか否かを判定する際、短期指標が閾値TH2a以下であり、かつ長期指標が閾値TH2b以下である場合にのみ低出力運転モード(出力抑制)を解除する。
【0083】
以上説明した本実施形態によれば、短期指標が瞬間的に閾値TH2a以下になったとしても、長期指標が閾値TH2bを超えていれば低出力運転モードが維持される。そのため、発電機7について、無駄な出力抑制の解除が回避される。これにより、発電機7のトルクの突変回数を低減して損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0084】
(第7実施形態)
上記第6実施形態で述べたように、一般的に風の乱れは、一定期間継続する傾向にある。そのため、短期的な指標のみで発電機7の運転モードを判定すると、通常運転モードと低出力運転モードとの切り替えが多くなって、発電機7のトルクの突変を十分に回避できないことが懸念される。
【0085】
そこで、第7実施形態では、通常運転モードと低出力運転モードとの間で異なる閾値を設定する。以下、
図13を参照して本実施形態に係る運転制御装置9による運転制御方法を説明する。
【0086】
図13は、第7実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部90が風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する(ステップS71)。
【0087】
次に、データ処理部91が、データ取得部90によって取得された最新の風況データに基づく指標を算出する(ステップS72)。例えば、この指標は、予め設定された評価時間幅における乱流強度である。
【0088】
次に、データ処理部91が、発電機7の現在の運転状態が、通常運転モードまたは低出力運転モードのどちらであるかを判定する(ステップS73)。
【0089】
発電機7の現在の運転状態が、通常運転モードである場合、データ処理部91は、ステップS72で算出した指標が閾値TH2cを超えているか否かを判定する(ステップS74)。閾値TH2cは、過去の通常運転モードにおける乱流強度とトルクの突変回数との相関性(
図7参照)に基づいて予め設定され、記憶部93に格納されている。
【0090】
発電機7の現在の運転状態が、低出力運転モードである場合、データ処理部91は、ステップS72で算出した指標が閾値TH2dを超えているか否かを判定する(ステップS75)。閾値TH2dは、過去の低出力運転モードにおける乱流強度とトルクの突変回数との相関性(
図7参照)に基づいて予め設定され、記憶部93に格納されている。閾値TH2dは、閾値TH2cよりも小さい。
【0091】
指標が閾値TH2cを超えている場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードから低出力運転モードへ移行させる(ステップS76)。反対に、指標が閾値TH2c以下である場合、制御部92は、発電機7の運転状態を通常運転モードに維持する(ステップS77)。
【0092】
指標が閾値TH2dを超えている場合、制御部92は、発電機7の運転状態を低出力運転モードに維持する(ステップS78)。反対に、指標が閾値TH2d以下である場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードから通常運転モードに移行させる(ステップS79)。
【0093】
以上説明した本実施形態によれば、低出力運転モードの閾値が、通常運転モードの閾値よりも低く設定されている。これにより、発電機7が、一度低出力運転モードになると、低出力運転モードが維持され易くなる。そのため、発電機7について、低出力運転モードと通常運転モードとの間における頻繁な運転モードの切替が回避される。これにより、発電機7のトルクの突変回数を低減して損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0094】
なお、本実施形態では、各運転モードの閾値が、乱流強度の代わりにトルク突変回数に対して設定されていてもよい。この場合、データ取得部90は、トルクデータを取得する。また、データ処理部91は、乱流強度の代わりにトルク突変回数を算出する。さらに、データ処理部91は、このトルク突変回数が通常運転モードの閾値または低出力運転モードの閾値を超えている場合に、発電機7を低出力運転モードに設定する。この場合も、低出力運転モードの閾値を通常運転モードの閾値よりも低く設定することによって、頻繁な運転モードの切替を回避し、発電機7のトルクの突変回数を低減することが可能となる。
【0095】
(第8実施形態)
運転制御装置9が、風況データに基づく指標を用いて発電機7の出力抑制を行う場合、乱流強度等の指標が閾値を超えたときに必ずしもトルクの突変が発生するとは限らない。場合によっては、風が乱れていてもトルクの突変が発生しないケースも存在し得る。この場合、運転制御装置9が風況データに基づく指標に従って発電機7の出力を抑制すると、無駄な発電電力量の損失を生むことになり好ましくない。
【0096】
そこで、本実施形態では、運転制御装置9は、風況データに基づく風況指標とトルクデータに基づくトルク指標とを合わせて発電機7の出力抑制の要否を判定する。以下、
図14を参照して本実施形態に係る運転制御装置9による運転制御方法を説明する。
【0097】
図14は、第8実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部90がトルクデータを取得する(ステップS81)。ステップS81では、データ取得部90は、運転データからトルクデータを抽出してもよいし、発電機7に設置された計測器(不図示)で直接的に計測された値をトルクデータとして周期的に取得してもよい。
【0098】
ステップS81に続いて、またはステップS81と並行して、データ取得部90は、風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する(ステップS82)。
【0099】
次に、データ処理部91は、データ取得部90によって取得されたトルクデータに基づくトルク指標を算出する(ステップS83)。このトルク指標は、例えば第1実施形態で説明したトルクの突変回数である。
【0100】
次に、データ処理部91は、データ取得部90によって取得された風況データに基づく風況指標を算出する(ステップS84)。この風況指標は、例えば第2実施形態で説明した乱流強度である。
【0101】
次に、データ処理部91は、風況指標が閾値TH21(第2閾値)を超えているか否かを判定する(ステップS85)。この閾値TH21は、例えば発電機7のトルクの突変が発生する可能性が高い乱流強度値であり、記憶部93に格納されている。
【0102】
風況指標が閾値TH21を超えている場合、データ処理部91は、トルク指標が閾値TH11を超えているか否かを判定する(ステップS86)。この閾値TH11(第1閾値)は、例えばトルクの突変回数の閾値であり、記憶部93に格納されている。
【0103】
トルク指標が閾値TH11を超えている場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS87)。
【0104】
風況指標が閾値TH22以下であるか、またはトルク指標が閾値TH11以下である場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する(ステップS88)。
【0105】
以上説明した本実施形態によれば、風況指標が閾値TH21を超え、かつトルク指標が閾値TH11を超えている場合にのみ、運転制御装置9は、発電機7の出力抑制を適用する。これにより、トルクの突変が生じていないにも関わらず低出力運転モードへ移行することを回避することが可能となる。
【0106】
(第9実施形態)
風力発電装置10は、設置エリアの周囲の地形の影響などにより、風向毎に作用する風の特徴が異なる場合が多い。このため、運転制御装置9が発電機7の出力抑制の要否を判定する際、風向別に異なる指標の閾値を設定することが好ましい。例えば、過去のデータから、特定の風向でトルクの突変に対する低減効果が十分でないことが判明した場合には、その風向における指標の閾値を低めに設定する。これにより、発電機7の出力抑制が適用され易くなる。
【0107】
そこで、本実施形態では、運転制御装置9は、
図15に示すデータテーブルに登録された閾値THαを用いて、発電機7の出力抑制の要否を判定する。
【0108】
図15は、風向と指標の閾値との対応関係を示すデータテーブルの一例を示す図である。
図15に示すデータテーブル200は、記憶部93に格納されている。データテーブル200では、乱流強度の閾値THαが、風向ごとに設定されている。なお、データテーブル200では、8方位の風向について閾値THαが設定されているが、風向の方位数は、8方位に限定されず、例えば4方位または16方位であってもよい。ここで、
図16を参照して本実施形態に係る運転制御装置9による運転制御方法を説明する。
【0109】
図16は、第9実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ取得部90が風況計測器8で計測された最新の風況データを取得する(ステップS91)。
【0110】
次に、データ処理部91が、データ取得部90によって取得された最新の風況データに基づく指標を算出する(ステップS92)。例えば、この指標は、予め設定された評価時間幅における乱流強度である。
【0111】
次に、データ処理部91が、記憶部93に格納されているデータテーブル200を用いて指標が閾値THαを超えているか否かを判定する(ステップS93)。ステップS93では、データ処理部91は、風況データから風向を特定する。続いて、データ処理部91は、特定した風向に対応する閾値THαをデータテーブル200から読み出す。このとき、特定した風向がデータテーブル200に登録されていない場合には、データ処理部91は、最も近い風向に対応する閾値THαを読み出す。続いて、データ処理部91は、ステップS92で算出した指標(乱流強度)を、読み出した閾値THαと比較する。
【0112】
指標が閾値THα以下である場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する(ステップS94)。
【0113】
指標が閾値THαを超えている場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS95)。
【0114】
本実施形態によれば、風況データに基づく指標の閾値が、風向別に最適化されている。そのため、風向に関わらずトルクの突変を低減して発電機7の損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0115】
なお、本実施形態では、データテーブル200には、トルクの突変回数の閾値が、風向別に設定されていてもよい。この場合、データ取得部90は、トルクデータを取得する。また、データ処理部91は、トルクの突変回数を算出する。続いて、データ処理部91は、トルクの突変回数と比較する閾値を、データテーブル200から選定する。このようにトルクデータに基づく指標の閾値が風向別に最適化されていても、風向に関わらずトルクの突変を低減して発電機7の損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0116】
(第10実施形態)
第2実施形態から第9実施形態で説明した運転制御方法では、風況データに基づく指標は、風力発電装置10に設置された風況計測器8で計測された風況データに基づいて算出される。風況データは、空間的に特定の位置における値であるため、情報量が限定的である。これに対し、風力発電装置10の設置エリア周辺の風の流れを数値シミュレーションにより求める風況解析では、ブレード3周りの空間的な風速分布が得られる。
【0117】
そこで、本実施形態では、この風況解析結果を示す風況解析データを取得することによって、より詳細な指標の設定が可能となる。例えば、複数の位置における風況指標(乱流強度など)を提供することが可能となる。ここで、
図17を参照して本実施形態に係る運転制御装置9による運転制御方法を説明する。
【0118】
図17は、第10実施形態に係る運転制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートでは、まず、データ処理部91が、第2実施形態のステップS21と同様に、過去の風況データと風力発電装置10の運転データを用いて、風況とトルクの突変回数との相関性を分析する(ステップS101)。
【0119】
次に、データ処理部91は、第2実施形態のステップS22と同様に、乱流強度の閾値TH2を設定する(ステップS102)。閾値TH2は、第1実施形態で説明したトルクの突変回数の閾値TH1と対応する。
【0120】
次に、データ取得部90が、風況解析データを取得する(ステップS103)。この風況解析データは、風力発電装置10の設置エリアにおける複数の位置の風況指標、例えば乱流強度を示している。この風況解析データは、例えば風況解析装置(不図示)で予め作成され、データ取得部90は、この風況解析装置から取得する。なお、風況解析データは、記憶部93に予め格納されていてもよい。また、ステップS103では、データ取得部90は、風力発電装置10の設置エリアの気象予報データを取得してもよい。気象予報データには、例えば気象庁から提供されるMSM(Meso Scale Model)やLFM(Local Forecast Model)といった気象解析モデルが含まれている。
【0121】
次に、データ処理部91が、風況解析データを用いて風況指標を算出する(ステップS104)。ステップS104では、データ処理部91は、風況解析データに示された複数の位置の乱流強度の最大値や平均値などを求めて、求めた値を風況指標として算出する。
【0122】
次に、データ処理部91は、ステップS104で算出した指標、すなわち乱流強度がステップS102で設定した閾値TH2を超えているか否かを判定する(ステップS105)。
【0123】
乱流強度が閾値TH2以下である場合、制御部92は、発電機7を通常運転モードに設定する(ステップS106)。一方、乱流強度が閾値TH2を超えている場合、制御部92は、発電機7を低出力運転モードに設定する(ステップS107)。
【0124】
以上説明した本実施形態によれば、風況指標の演算処理に風況解析データが用いられている。風況解析データには、風力発電装置10の設置エリアの複数の位置における風況指標が示されている。このように、多くの位置の風況指標に基づいて発電機7の運転制御を行うことによって、トルクの突変に対する低減効果を向上させることが可能となる。
【0125】
(第11実施形態)
上述した各実施形態に係る運転制御装置9の運転制御方法では、トルクの突変を低減するために発電機7の出力を抑制する。この出力抑制に伴って、発電電力量の損失が生じることになる。発電機7の損傷リスクを抑えることは重要であるが、一方で発電電力量の損失を許容できるレベルに抑えることも同様に重要である。
【0126】
そこで、本実施形態では、データ処理部91が、低出力運転モードの適用期間が終了すると、下記の式(1)、(2)に基づいて低出力運転モードに伴う発電電力量の損失量Lを算出する。
P1=P2×Cv1/Cv2 (1)
L=P1-P2 (2)
【0127】
上記式(1)において、P2は、低出力運転モードの適用期間における発電機7の実際の発電電力量である。Cv1は、通常運転モードの出力指令値である。Cv2は、低出力運転モードの出力指令値である。P1は低出力運転モードの発電電力量から換算された、通常運転モードの発電電力量である。損失量LはP1とP2の差に相当する。
【0128】
損失量Lが、予め設定された許容範囲外である場合、データ処理部91は、損失量Lが許容範囲内に収まるように低出力運転モードの出力指令値、または出力抑制の要否判定に用いる指標の閾値を変更する。例えば、データ処理部91は、低出力運転モードの出力指令値を大きくするかまたは指標の閾値を高くする。なお、この許容範囲は、発電機7のトルクの突変を抑制しつつ、発電電力量の損失を必要最小限に抑えることができる範囲である。
【0129】
以上説明した本実施形態によれば、運転制御装置9が発電機7の発電電力量の損失量を評価指標として取り入れて運転制御する。これにより、より実用的に発電機7を運転制御することが可能となる。
【0130】
(第12実施形態)
複数の風力発電装置10が設置されるウィンドファームでは、トルク指標の閾値TH1や風況指標の閾値TH2は、風力発電装置毎に個別に設定する方法がある。これに対し、本実施形態では、ウィンドファーム内の風力発電装置に対して1つの閾値を設定する。例えば、個々の風力発電装置のデータに基づいて設定した閾値のうち、最も小さい値を、ウィンドファーム内の全ての風力発電装置10に適用する。このように設定することで、より保守的な閾値設定となり、損傷リスクを抑えることが可能となる。
【0131】
以上、実施形態を幾つか説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0132】
1:ナセル
2:タワー
3:ブレード
4:ハブ
5:回転軸
6:変速機構
7:発電機
8:風況計測器
9:運転制御装置
10:風力発電装置
90:データ取得部
91:データ処理部
92:制御部
93:記憶部