(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010671
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ポーラログラフ法を用いた残留塩素計
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240117BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240117BHJP
G01N 27/48 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01N27/416 316Z
G01N27/26 381A
G01N27/26 371F
G01N27/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113595
(22)【出願日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2022111730
(32)【優先日】2022-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【弁理士】
【氏名又は名称】久米 輝代
(74)【代理人】
【識別番号】100175064
【弁理士】
【氏名又は名称】相澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】三橋 信幸
(72)【発明者】
【氏名】大森 茂
(57)【要約】
【課題】残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも精度よく計測することが可能な、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計を提供する。
【解決手段】対極と作用極(検知極)を含む2つ以上の極を用いた1組の電極を使用し、その対極と作用極(検知極)との間に流れる電極電流と水中の残留塩素濃度との関係を一次式で表す検量線に基づいて、水中の残留塩素濃度を測定する、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計において、残留塩素濃度が所定の濃度である切替点を境目として、その切替点以下の濃度の領域における検量線の傾きと、切替点より濃度が高い領域における検量線の傾きとが異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いることにより、残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも、精度よく水中の残留塩素濃度を計測することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対極と作用極を含む2つ以上の極を用いた1組の電極を使用し、前記対極と前記作用極との間に流れる電極電流と水中の残留塩素濃度との関係を一次式で表す検量線に基づいて、前記水中の残留塩素濃度を測定する、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計において、
前記残留塩素濃度が所定の濃度である切替点を境目として、前記切替点以下の濃度の領域における前記検量線の傾きと、前記切替点より濃度が高い領域における前記検量線の傾きとが異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いる
ことを特徴とする残留塩素計。
【請求項2】
前記切替点は固定であり、前記所定の濃度が0.50mg/Lである
ことを特徴とする請求項1記載の残留塩素計。
【請求項3】
前記切替点は可変であり、0.50mg/L付近の残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間測定した際の前記残留塩素濃度の最大値を前記所定の濃度とすることにより前記切替点を決定する
ことを特徴とする請求項1記載の残留塩素計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対極と作用極(検知極)を含む2つ以上の極を用いた1組の電極によって構成されたポーラログラフ法を用いた残留塩素計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川への一般放流水としては、一定の残留塩素濃度を保った水でないと放流できない。これは「残留塩素値≒殺菌された水」の関係によるものである。すなわち、「残留塩素濃度が濃い水≒殺菌力の高い水」(「残留塩素濃度が薄い水≒殺菌力の低い水」)と言うこともできる。そして、殺菌されていない水は、河川の汚染を引き起こし、また、殺菌力の高い水は、河川の生物繁殖に影響が大きいことから、「殺菌されている水ではあるが殺菌力の高くない水」を河川に放流する必要があり、その残留塩素濃度を細かく管理する必要がある。近年、この残留塩素濃度が、より細かく低濃度の方向に移行しているため、低濃度において精度の高い残留塩素計が求められてきた。
【0003】
一般的に、もっとも普及している残留塩素計は、手動式ではDPD法を用いた残留塩素計、自動式ではポーラログラフ法を用いた残留塩素計である。例えば、特許文献1には、精度よく残留塩素濃度を計測することが可能な、ポーラログラフ法を用いた残留塩素測定装置(残留塩素計)が開示されている。また、特許文献2には、作用極の感度低下を自動的に校正する、ポーラログラフ法を用いた残留塩素センサ(残留塩素計)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-313481号公報
【特許文献2】特開2013-134207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年の社会インフラの問題の一つに、ゲリラ豪雨対策がある。ゲリラ豪雨発生により大量の排水が一気に河川に放流されるが、この時の放流水にも残留塩素濃度管理が必要である。ただし、低濃度での管理が難しいため、通常よりも濃い残留塩素値としたまま河川に放流することになる。この場合、管理放流以外に河川へ流れ込む水量も大変多いため、放流水の残留塩素濃度がある程度濃くても、全体としてはあっという間に薄められることになるので、河川の残留塩素濃度自体に問題はなかった。
【0006】
しかし、仮にそのゲリラ豪雨後に大量の魚が死ぬような事態が発生した場合に、高濃度の残留塩素排水がその原因ではないことを証明するためなど、放流水の残留塩素濃度を明確に管理したいという需要が増えてきており、残留塩素値がいくつの水を放流したか、という明確な記録が必要とされるようになってきた。
【0007】
そこで、近年では、河川への放流水の残留塩素濃度について、平常時に低濃度で精度よく濃度を管理するだけでなく、緊急時には比較的濃度が高めでも構わないが、数値の信頼性(高濃度でも精度よく濃度を管理すること)が要求されるようになってきたが、従来の残留塩素計は、低濃度で精度よく濃度を計測することを前提とするものが多く、河川への放流水の残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも精度よく計測することができる残留塩素計がない、という課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも精度よく計測することが可能な、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明は、対極と作用極を含む2つ以上の極を用いた1組の電極を使用し、前記対極と前記作用極との間に流れる電極電流と水中の残留塩素濃度との関係を一次式で表す検量線に基づいて、前記水中の残留塩素濃度を測定する、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計において、前記残留塩素濃度が所定の濃度である切替点を境目として、前記切替点以下の濃度の領域における前記検量線の傾きと、前記切替点より濃度が高い領域における前記検量線の傾きとが異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の残留塩素計によれば、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい所定の濃度(0.50mg/L付近の低濃度)の切替点を境目として、その切替点以下の濃度の領域における検量線とそれより濃度が高い領域における検量線という傾きの異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いることにより、残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも、精度よく水中の残留塩素濃度を計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ポーラログラフ法を用いた残留塩素計の概略構成を示す図である。
【
図2】一般的なポーラログラフ法を用いた残留塩素測定における電極出力特性を示す図である。
【
図3】従来の残留塩素計で使用されている検量線を示す説明図である。
【
図4】この発明の実施の形態1における残留塩素計で使用する傾きの異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を示す説明図である。
【
図5】従来の残留塩素計における測定誤差(ふらつき)を示す説明図である。
【
図6】この発明の実施の形態2において、0.50mg/L付近の残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間測定した際の残留塩素濃度のふらつきを示す図である。
【
図7】この発明の実施の形態2における残留塩素計の測定結果を、従来の残留塩素計の測定結果、実施の形態1における残留塩素計の測定結果、DPD法(手分析)による測定結果と比較した表である。
【
図8】
図7に示した測定結果をそれぞれの検量線として示した説明図である。
【
図9】演算式で使用している記号がどの値のものであるかを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明は、対極と作用極(検知極)を含む2つ以上の極を用いた1組の電極によって構成されたポーラログラフ法を用いた残留塩素計に関するものである。この発明におけるポーラログラフ法を用いた残留塩素計は、対極と作用極(検知極)を含む2つ以上の極を用いた1組の電極を使用し、その対極と作用極(検知極)との間に流れる電極電流と水中の残留塩素濃度との関係を示す一次式に基づいて、電極電流を測定することにより、水中の残留塩素濃度を計測するものである。
【0013】
なお、以下の実施の形態では、対極と作用極(検知極)を含む2つの極を用いた1組の電極を使用するものとして説明するが、対極と作用極(検知極)と基準極(比較電極)の3つの極を用いた1組の電極を使用するタイプであってもよいので、「対極と作用極(検知極)を含む2つ以上の極を用いた1組の電極」と表現しているものである。すなわち、「1組の電極」とは、対極と作用極(検知極)という2つ以上の極を含むものであり、対極と作用極(検知極)と基準極(比較電極)という3つの極を含むこともある。また、1本に対極と作用極(検知極)がついているような複合電極であっても、対極単体の電極と作用極(検知極)単体の電極からなる2本電極構成であっても、本願発明の「1組の電極」に含まれるものである。
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、ポーラログラフ法を用いた残留塩素計の概略構成を示す図である。この発明の実施の形態1および後述する実施の形態2においても、この
図1に示すような残留塩素計を用いており、センサ部1と本体部20とから概略構成されている。
【0015】
センサ部1は、試料液10が導入される測定セル11、下部が試料液10に浸漬される作用極支持体(検知極支持体)12、作用極支持体(検知極支持体)12の先端面に取り付けられた作用極(検知極)13、下部が試料液10に浸漬された対極支持体14、対極支持体14の下端側外周面に取り付けられた対極15を有している。また、作用極(検知極)13は金または白金製、対極15は白金または銀製である。ただし、通常、作用極と対極は同時に同じ金属は用いない。
【0016】
本体部20は、演算制御部21、加電圧機構22、電流計23、表示装置24を有している。作用極(検知極)13と演算制御部21との間は配線31で、対極15と演算制御部21との間は配線32で各々接続されている。また、電流計23は配線31の途中に、加電圧機構22は配線32の途中に、各々設けられている。
【0017】
加電圧機構22は、作用極(検知極)13と対極15との間に異なる複数の印加電圧を順次与えるようになっている。また、電流計23は、作用極(検知極)13と対極15との間に、加電圧機構22が印加電圧を与えた際に、作用極(検知極)13と対極15との間に流れる電極電流を測定するようになっている。そして、その電極電流に基づいて、演算制御部21が残留塩素濃度を求め、その濃度が表示装置24に表示されるとともに、外部の機器等に伝達されるようになっている。
【0018】
図2は、一般的なポーラログラフ法を用いた残留塩素測定における電極出力特性を示す図であり、横軸は水中の残留塩素濃度(図中、右の方へ行くほど濃度が高く、左の方へ行くほど濃度が低い)を、縦軸は電極電流の出力を示している。通常、
図2に示すように、残留塩素濃度がある値まで(図中のAまで)の領域(一般濃度の領域)と、それ以上(図中のA以上)の領域とで、電極特性が大きく変わる。
【0019】
また、前述のとおり、近年では、河川への放流水の残留塩素濃度が、より細かく低濃度の方向に移行しているため、低濃度において精度の高い残留塩素計が求められてきた。また、水道法により残留塩素濃度を1mg/L以下で管理することが規定されているため、一般的には、
図2における低濃度領域のみを対象とすればよく、その場合、その一般濃度の領域(残留塩素濃度が約3mg/Lまでの領域)での残留塩素電極の測定検量線は、ほぼ直線の特性を持つこととなる(後述する
図3(a)参照)。
【0020】
そして、一般濃度の領域での残留塩素測定では、通常は0.50mg/L付近の低濃度領域を詳細に測定しており、公定法として残留塩素濃度0.50mg/L付近の試料水を手分析(DPD法を用いた手動式残留塩素計)にて測定し、得られた値に監視用測定器を合わせこんで校正する方法がとられている。これは、上位標準器で校正した手分析計を2次基準器として使用しているためである。
【0021】
図2における電極出力特性にて直線性を失うポイント(図中、Aの位置)は残留塩素濃度が約3mg/Lのところである。そのため、一般濃度測定用の残留塩素計では最大フルスケール値も3mg/Lに設定されている。工場出荷の段階では標準液濃度をゼロ側のゼロ点(0mg/L)とフルスケール側のスパン点(3mg/L)とで値を設定して出荷される。その後、通常は現場調整や運用上、残留塩素濃度0.50mg/L付近の試料水を手分析(DPD法を用いた手動式残留塩素計)にて測定し、合わせこみ(校正)を行う。
【0022】
図3は、従来の残留塩素計で使用されている検量線を示す説明図であり、
図3(a)は残留塩素計における出荷時の検量線を示しており、
図3(b)は現場にて合わせこみ(校正)を行った後の検量線を示している。また、
図3(a)(b)ともに横軸が電極電流、縦軸が水中の残留塩素濃度を示している。ポーラログラフ法を用いた残留塩素計では、残留塩素計に設置された対極と作用極(検知極)との間に流れる電極電流を測定することにより、
図3に示すような電極電流と水中の残留塩素濃度との関係を一次式で表す検量線に基づいて、水中の残留塩素濃度を計測することができる。
【0023】
例えば、工場出荷時には、標準液濃度がゼロ側で0mg/Lのときに電極電流0μA(これを「ゼロ点」とよぶ)、フルスケール側で3.0mg/Lのときに電極電流2.5μA(これを「スパン点」とよぶ)に設定されていたとすると、
図3(a)に示すとおり、このゼロ点とスパン点を通る傾き1.2の検量線(直線)を使用して測定を行うことになる。なお、このゼロ点とスパン点の値は、工場においてしっかりと合わせこみを行った値であるため、正しい値であると考えて問題はない。
【0024】
しかし、実際にもっとも精度よく残留塩素濃度を測定したいのは、0.50mg/L付近の低濃度領域であるので、この濃度付近については適度に現場で校正(合わせこみ)を行うことが望ましい。そこで、残留塩素濃度0.50mg/L付近の試料水を手分析(DPD法を用いた手動式残留塩素計)にて測定したところ、0.50mg/Lのときに電極電流は0.5μAであった(図中のB点)。また、ゼロ点についても現場での合わせこみを行ったところ、工場出荷時と同じく0mg/Lのときに電極電流0μAであった。
【0025】
このように、現場にて合わせこみを行った値を検量線として反映させると、
図3(b)に示すようなゼロ点とB点とを通る傾き1.0の検量線に校正されることになる。また、
図3(b)における一点鎖線は、
図3(a)の検量線を示しており、この2本の検量線の差から、工場出荷時からの校正度合(ずれ具合)を把握することができる。
【0026】
この結果、
図3(b)の検量線に基づいて水中の残留塩素濃度を計測(算出)するようにすれば、0.50mg/L付近の低濃度領域では精度よく残留塩素濃度を計測することができるため、従来では、この
図3(b)に示す校正後の検量線を用いて、測定を行ってきた。しかし、このような校正を行うと、
図3(b)における両方向矢印C(測定誤差を示す両方向矢印C)が示すとおり、比較的濃度が高い領域(フルスケール側)での誤差が大きくなってしまう、という問題があったが、もっとも精度よく測定したいのは0.50mg/L付近の低濃度領域であるため、フルスケール側の高濃度領域での誤差が大きくなることは見過ごされてきた、という現状がある。
【0027】
そこで、この発明の実施の形態1における残留塩素計は、B点における濃度以下の領域(一般的な低濃度領域)では、ゼロ点(0mg/Lのときに電極電流0μA)とB点(0.50mg/Lのときの電極電流0.5μA)とを結んだ検量線を用い、比較的濃度が高い領域(B点より高い濃度のフルスケール側の高濃度領域)では、B点とスパン点(3.0mg/Lのときに電極電流2.5μA)とを結んだ検量線を用いることにする。
【0028】
図4は、この発明の実施の形態1における残留塩素計で使用する傾きの異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を示す説明図であり、2本の検量線を合体させてB点において(B点を境目として)傾きが変わる折れ線状の検量線を示している。すなわち、B点は2本の検量線の切替点(固定切替点)である。また、
図4における一点鎖線は、
図3(a)の検量線を示しており、この2本の検量線の差から、工場出荷時からの校正度合(ずれ具合)を把握することができる。
【0029】
図4に示すとおり、切替点であるB点以下の濃度の領域(一般的な低濃度領域)では、ゼロ点(0mg/Lのときに電極電流0μA)とB点(0.50mg/Lのときの電極電流0.5μA)とを結んだ傾き1の検量線となり、比較的濃度が高い領域(B点より高い濃度のフルスケール側の高濃度領域)では、B点とスパン点(3.0mg/Lのときに電極電流2.5μA)とを結んだ傾き1.25の検量線となっており、B点において傾きが変わる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線となっている。この結果、低濃度領域であっても、高濃度領域であっても、より精度の高い測定が可能となる。
【0030】
ここで、ゼロ点からB点(切替点)まで(切替点以下)の濃度が低い領域における検量線の傾き(
図4においては傾き1)をSPLOW、B点(切替点)からスパン点までの切替点より濃度が高い領域における検量線の傾き(
図4においては傾き1.25)をSPHIGH、測定時の25°C換算電極電流をI(25)[μA]、B点(切替点)における電流値をIx[μA]とすると、ゼロ点からB点までの濃度が低い領域における残留塩素測定値CLL[mg/L]、すなわち、I(25)≦Ixのときの残留塩素測定値CLL[mg/L]は(1)式で表すことができ、B点からスパン点までの濃度が高い領域における残留塩素測定値CLH[mg/L]、すなわち、I(25)>Ixのときの残留塩素測定値CLH[mg/L]は(2)式で表すことができる。
【0031】
CLL=I(25)×SPLOW ・・・ (1)
CLH=(I(25)-Ix)×SPHIGH+Ix×SPLOW ・・・ (2)
【0032】
また、ここでは説明を簡単にするために、ゼロ点は濃度0mg/Lのときに電極電流0μA、すなわち、ゼロ校正時の25°C換算電極電流を0μAとして説明したが、ゼロ校正時の25°C換算電極電流をIz(25)[μA]とすれば、(1)式、(2)式はさらに(3)式、(4)式で表すことができる。
【0033】
CLL=(I(25)-Iz(25))×SPLOW ・・・ (3)
CLH=(I(25)-Ix)×SPHIGH+(Ix-Iz(25))×SPLOW ・・・ (4)
【0034】
すなわち、従来の残留塩素計では、
図3(a)または
図3(b)に示すように、一定の傾きの1本の検量線(直線)を用いて測定を行っていたが、この実施の形態1における残留塩素計は、測定範囲における誤差をできる限り小さくするために、残留塩素濃度0.50mg/LのB点(切替点)において傾きを変えた2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いるようにすることにより、高い精度が求められる0.50mg/L付近の低濃度領域であっても、フルスケール側の高濃度領域であっても、より精度の高い測定ができる、というものである。
【0035】
なお、この実施の形態1では、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したいのは、0.50mg/Lという濃度のB点であるものとして説明したが、必ずしも0.50mg/Lでなければいけないわけではなく、もっとも精度よく測定したい所定の濃度である切替点を境目として、残留塩素濃度が所定の濃度である切替点を境目として、その切替点以下の濃度の領域における検量線の傾きと、切替点より濃度が高い領域における検量線の傾きとが異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いるようにすればよい。
【0036】
また、この実施の形態1では、B点(切替点)以下の濃度の領域における検量線の傾きSPLOW(
図4ではSPLOW=1)の方が、B点より濃度が高い領域における検量線の傾きSPHIGH(
図4ではSPHIGH=1.25)よりも小さい場合を例に説明したが、SPLOWがSPHIGHより大きい場合であっても、同様である。
【0037】
以上のように、この発明の実施の形態1の残留塩素計によれば、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい所定の濃度(0.50mg/L付近の低濃度)の切替点を境目として、その切替点以下の濃度の領域における検量線とそれより濃度が高い領域における検量線という傾きの異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いることにより、残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも、精度よく水中の残留塩素濃度を計測することが可能となる。
【0038】
実施の形態2.
実施の形態1における残留塩素計は、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい残留塩素濃度0.50mg/LのB点(固定点)において傾きを変えた2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線、すなわち、B点において折れ曲がる折れ線状の検量線を用いて、水中の残留塩素濃度を測定するものであったが、この発明の実施の形態2における残留塩素計は、折れ線の境目となる点(2本の検量線の切替点)がB点のように固定の切替点ではなく、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい濃度0.50mg/L付近の可変切替点(後述するD点)である点において、実施の形態1とは異なるものである。
【0039】
図5は、従来の残留塩素計における測定誤差(ふらつき)を示す説明図であり、横軸が電極電流、縦軸が水中の残留塩素濃度を示している。
実試料における残留塩素濃度の測定では、測定値は一定の範囲内でふらついており、常に同じ値ではないことが多い。実際に現場で合わせこみを行った際の実試料における測定点は、測定するたびに微妙に異なり、
図5に示す網掛部の範囲でふらつくことが確認できた。
【0040】
そこで、現場で一定時間残留塩素濃度を測定して、このふらつきの範囲を把握し、ふらつき範囲の最大点を切替点とすることにより、通常の低濃度領域における残留塩素濃度の測定精度を保ちつつ、高濃度領域における測定精度も保つことができると考え、この実施の形態2における残留塩素計は、実施の形態1における残留塩素計で使用する2本の検量線の境目である切替点を可変として、さらに精度の高い残留塩素濃度の測定を可能とするものである。
【0041】
すなわち、可変切替点であるD点は、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい0.50mg/Lの残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間測定を繰り返した際の残留塩素濃度の最大値を、所定の濃度(D点の濃度)とすることにより決定する。
【0042】
例えば、0.50mg/Lの残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間測定した際の残留塩素濃度が0.40mg/L以上0.60mg/L以下の範囲内でふらつくことが確認できた場合には、最大値である0.60mg/Lを可変切替点(D点)とする。また、残留塩素濃度が0.45mg/L以上0.55mg/L以下の範囲内でふらつくことが確認できた場合には、最大値である0.55mg/Lを可変切替点(D点)とする。
【0043】
図6は、この発明の実施の形態2において、0.50mg/L付近の残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間測定した際の残留塩素濃度のふらつきを示す図であり、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい0.50mg/L付近の残留塩素濃度の試料水について、現場で一定時間、繰り返し濃度を測定したところ、
図6(a)に示すとおり、0.40mg/L~0.60mg/Lの範囲で値がふらつくことが確認できた。
【0044】
すなわち、
図6(a)は、0.50mg/L付近の残留塩素濃度の試料水についての測定結果が、残留塩素濃度0.4~0.6mg/Lの範囲でふらつく場合を示しており、横軸が時間、縦軸が残留塩素濃度を示している。そして、時間が0のとき(図の一番左側)というのは、前回の校正日時であり、このとき、0.50mg/Lで校正したものである。このような試料水について、前回の校正日時から今回の校正日時(図の一番右側の破線の時点)までの一定時間、繰り返し濃度を測定したところ、0.40~0.60mg/Lの範囲でふらついていることは図からも明らかであるが、この結果、可変切替点であるD点の濃度(所定の濃度)は、ふらつきの範囲の最大値である0.60mg/Lに決定する。また、今回の校正時(図の一番右側の破線の時点)には0.55mg/Lで校正することとなった。
【0045】
また、
図6(b)は、突発的な測定異常やゲリラ豪雨発生等により、残留塩素濃度のふらつきの範囲が、
図6(a)における今回の校正値0.55mg/Lの120%(=0.66mg/L)を超えた場合を示している。この場合、今回の校正値である0.55mg/L付近の濃度を精度良く測定するために、D点における値(濃度)をふらつきの最大値ではなく、今回の校正値0.55mg/Lの120%、すなわち、0.66mg/Lに決定する。このようにすることにより、今回の校正値である0.55mg/L付近の濃度を精度良く測定することができるだけではなく、突発的な測定異常やゲリラ豪雨発生時などにも、臨機応変にD点を適切な値に設定することができる。なお、ここでは適切な値にするために今回の校正値の「120%」という設定にしたが、この何%に設定するかという値も変更可能であることは言うまでもない。
【0046】
図7は、この発明の実施の形態2における残留塩素計の測定結果を、従来の残留塩素計の測定結果、実施の形態1における残留塩素計の測定結果、DPD法(手分析)による測定結果と比較した表であり、表の一番左側の(a)測定値は、DPD法(手分析)による測定結果(DPD値)を示している。また、(b)電流→濃度[mg/L]換算値は、従来の残留塩素計の測定結果、実施の形態1(実施例1)における残留塩素計の測定結果、この実施の形態2(実施例2)における残留塩素計の測定結果を示しており、(c)DPD値との差[mg/L]および(d)誤差[%]は、(b)の測定値それぞれについて、一番左のDPD値との濃度の差[mg/L]と誤差[%]を示している。
【0047】
図8は、
図7に示した測定結果をそれぞれの検量線として示した説明図である。
図8において、破線Pが残留塩素計の工場出荷時の検量線(実施の形態1において説明した
図3(a)と同じ検量線)、破線Qが従来の残留塩素計における検量線(
図3(b)と同じ検量線)、一点鎖線Rが実施の形態1の残留塩素計における検量線(
図4と同じ検量線)、破線SがDPD法(手分析)による実測データを接続した検量線を示しており、実線Tがこの発明の実施の形態2の残留塩素計における検量線を示している。
【0048】
この
図7、
図8の測定結果から、この実施の形態2における検量線(実線T)は、実施の形態1における検量線(一点鎖線R)と比較した場合、DPD法(手分析)による実測データを示す検量線(破線S)に、より近い値となっていることがわかる。すなわち、この実施の形態2の残留塩素計によれば、実施の形態1の残留塩素計による測定値よりも、さらに精度の高い計測を行うことができる、と言うことができる。
【0049】
ここで、ゼロ点からD点(切替点)までの濃度が低い領域における検量線の傾きをSPLOW、D点(切替点)からスパン点までの切替点より濃度が高い領域における検量線の傾きをSPHIGH、測定時の25°C換算電極電流をI(25)[μA]、D点(切替点)における電流値をIx[μA]とすると、ゼロ点からD点までの濃度が低い領域における残留塩素測定値CLL[mg/L]、すなわち、I(25)≦Ixのときの残留塩素測定値CLL[mg/L]は(1)式で表すことができ、DPD法点からスパン点までの濃度が高い領域における残留塩素測定値CLH[mg/L]、すなわち、I(25)>Ixのときの残留塩素測定値CLH[mg/L]は(2)式で表すことができる。
【0050】
また、この実施の形態2においても、説明を簡単にするために、ゼロ点は濃度0mg/Lのときに電極電流0μA、すなわち、ゼロ校正時の25°C換算電極電流を0μAとして説明したが、ゼロ校正時の25°C換算電極電流をIz(25)[μA]とすれば、(1)式、(2)式はさらに(3)式、(4)式で表すことができる。
図9は、これらの演算式で使用している記号がどの値のものであるかを示す説明図である。
【0051】
すなわち、この実施の形態2においても、使用する演算式そのものは実施の形態1における演算式と同じであるが、
図9において、2本の検量線の切替点となっているD点は、実施の形態1では固定のB点(固定切替点)であったが、このD点が可変(可変切替点)となることにより、D点まで(D点以下)の濃度が低い領域における検量線の傾きSPLOWと、D点からスパン点までの濃度が高い領域における検量線の傾きSPHIGHも可変となる点が、実施の形態1とは異なる。
【0052】
つまり、
図9に示す可変切替点であるD点における電極電流Ix[μA]と残留塩素濃度KCONK[mg/L]が、現場での合わせこみによって変動するため、(3)式および(4)式におけるSPLOWおよびSPHIGHも変動し、さらに精度の高い残留塩素濃度の測定が可能となる。なお、検量線(一次式)の傾きSPLOWおよびSPHIGHの求め方については公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0053】
すなわち、この実施の形態2における残留塩素計は、測定範囲における誤差をできる限り小さくするために、残留塩素濃度0.50mg/L付近の切替点であるD点において傾きを変えた2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いるとともに、その切替点となるD点を可変にすることにより、実施の形態1における残留塩素計と同様に、高い精度が求められる0.50mg/L付近の低濃度領域であっても、フルスケール側の高濃度領域であっても、より精度の高い測定ができる、というものである。また、もっとも高い精度が求められる残留塩素濃度0.50mg/L付近において、さらに精度の高い測定が可能となる。
【0054】
なお、この実施の形態2でも、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい所定の濃度として、切替点であるD点を0.50mg/L付近の濃度の点であるものとして説明したが、必ずしも0.50mg/L付近でなければいけないわけではない点は、実施の形態1において説明したのと同様である。
【0055】
また、この実施の形態2においても、D点(切替点)以下の濃度の領域における検量線の傾きSPLOWの方が、D点より濃度が高い領域における検量線の傾きSPHIGHよりも小さい場合(
図5、
図8、
図9等参照)を例に説明したが、SPLOWがSPHIGHより大きい場合であっても、同様である。
【0056】
以上のように、この発明の実施の形態2の残留塩素計によれば、もっとも精度よく残留塩素濃度を測定したい所定の濃度(0.50mg/L付近)の切替点を境目としつつ、その境目となる切替点を可変にして、その切替点以下の濃度の領域における検量線とそれより濃度が高い領域における検量線という傾きの異なる2本の検量線を合体させた折れ線状の検量線を用いることにより、残留塩素濃度が低い場合でも高い場合でも、精度よく水中の残留塩素濃度を計測することが可能となる。また、もっとも高い精度が求められる所定の濃度(0.50mg/L付近)において、さらに精度の高い測定が可能となる。
【0057】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 センサ部
10 試料液
11 測定セル
12 作用極支持体(検知極支持体)
13 作用極(検知極)
14 対極支持体
15 対極
20 本体部
21 演算制御部
22 加電圧機構
23 電流計
24 表示装置
31,32 配線
A 残留塩素濃度=約3mg/Lの位置
B 残留塩素濃度:0.50mg/Lの点(2本の検量線の固定切替点)
C 測定誤差を示す両方向矢印
D 残留塩素濃度=約0.50mg/L付近の可変点(2本の検量線の可変切替点)
P 残留塩素計の工場出荷時の検量線を示す破線
Q 従来の残留塩素計における検量線を示す破線
R 実施の形態1の残留塩素計における検量線を示す一点鎖線
S DPD法(手分析)による実測データを接続した検量線を示す破線
T 実施の形態2の残留塩素計における検量線を示す実線
SPLOW 濃度が低い領域における検量線の傾き
SPHIGH 濃度が高い領域における検量線の傾き
I(25) 測定時の25°C換算電極電流[μA]
Iz(25) ゼロ校正時の25°C換算電極電流[μA]
Ix 切替点における電極電流[μA]
KCONK 切替点における残留塩素濃度[mg/L]
CLL 濃度が低い領域における残留塩素測定値[mg/L]
CLH 濃度が高い領域における残留塩素測定値[mg/L]