(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106734
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20240801BHJP
H01L 21/225 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/337 20060101ALI20240801BHJP
H01L 29/201 20060101ALI20240801BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240801BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20240801BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 E
H01L21/225 C
H01L21/324 C
H01L21/20
H01L29/80 C
H01L29/201
H01L29/06 601N
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/91 A
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011149
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
(72)【発明者】
【氏名】王 嘉
【テーマコード(参考)】
5F045
5F102
5F152
【Fターム(参考)】
5F045AA05
5F045AB14
5F102GA03
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD04
5F102GJ03
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5F102GK08
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5F102GL08
5F102GM04
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5F102GQ03
5F102GQ09
5F102GR01
5F102GR09
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5F102HC11
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5F152NN13
5F152NP09
5F152NQ09
5F152NQ17
(57)【要約】
【課題】2次元金属がインターカレーションされた半導体装置を提供する。
【解決手段】六方晶ウルツ鉱構造のGaNを備えた半導体装置である。GaNの少なくとも一部に、特定領域を備えている。特定領域には、GaNのc面に平行なMgシートが、複数配置されている。複数のMgシートは、GaNのc軸方向に互いに離間して配置されている。互いに隣接するMgシートの間には、1層以上のGaNの原子層が配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶ウルツ鉱構造のGaNを備えた半導体装置であって、
前記GaNの少なくとも一部に、特定領域を備えており、
前記特定領域には、前記GaNのc面に平行なMgシートが、複数配置されており、
複数の前記Mgシートは、前記GaNのc軸方向に互いに離間して配置されており、
互いに隣接する前記Mgシートの間には、1層以上の前記GaNの原子層が配置されている、
半導体装置。
【請求項2】
前記GaNは、c軸方向にABABで表される周期積層構造を有しており、
前記Mgシートは、隣接するAB構造の間の格子間サイトにインターカレーションされている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
c軸方向に隣接する前記Mgシートの間には、c軸方向の一軸圧縮歪みが発生している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
隣接する前記Mgシートに挟まれている前記GaNの領域内部には、c面内の二軸引張歪みが発生している、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記特定領域において、前記Mgシートを挟んで互いに逆側に位置するとともに前記Mgシートに最も近い層である少なくとも2つのGaN原子層は、逆極性を有しており、
前記逆極性は、+c(金属極性)型と-c(窒素極性)型を備えている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記特定領域は、前記GaNの一方面近傍に配置されており、
前記Mgシートのc面と平行な方向の幅は、c面に垂直な方向に進むにつれて小さくなっている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記GaNは、p型化しているp型領域を備えており、
前記半導体装置は、前記p型領域に接触している電極を備えており、
前記p型領域における前記電極との界面には、前記Mgシートが存在している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記GaNによって構成されている第1半導体層と、
前記第1半導体層の下面に接触して配置されており、前記GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層と、
前記第1半導体層の上方に設けられている第1ソース電極と、
前記第1半導体層の上方に設けられており、前記第1ソース電極から離れて配置されている第1ドレイン電極と、
前記第1ソース電極と前記第1ドレイン電極との間であって前記第1半導体層の上方に設けられている、または、前記第2半導体層の上面に接触して配置されている第1ゲート電極と、
を備えており、
前記第1半導体層の全体が前記特定領域を備えている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記GaNによって構成されている第1半導体層と、
前記第1半導体層の下面に接触して配置されており、前記GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層と、
前記第2半導体層の下面に接触して配置されており、前記GaNで構成されている第3半導体層と、
前記第2半導体層の上面に配置されている第2ソース電極と、
前記第2半導体層の上面に配置されており、前記第2ソース電極から離れて配置されている第2ドレイン電極と、
前記第1半導体層の上方に設けられており、前記第2ソース電極と前記第2ドレイン電極との間に設けられている第2ゲート電極と、
を備えており、
前記第1半導体層の全体が前記特定領域を備えている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記GaNによって構成されている第1半導体層と、
前記第1半導体層の下面に接触して配置されており、前記GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層と、
前記第2半導体層の下面に接触して配置されており、前記GaNで構成されている第3半導体層と、
前記第1半導体層の上方に設けられている第1ソース電極と、
前記第1半導体層の上方に設けられており、前記第1ソース電極から離れて配置されている第1ドレイン電極と、
前記第1ソース電極と前記第1ドレイン電極との間であって前記第1半導体層の上方に設けられている、または、前記第2半導体層の上面に接触して配置されている第1ゲート電極と、
前記第2半導体層の上面に配置されている第2ソース電極と、
前記第2半導体層の上面に配置されており、前記第2ソース電極から離れて配置されている第2ドレイン電極と、
前記第1半導体層の上方に設けられており、前記第2ソース電極と前記第2ドレイン電極との間に設けられている第2ゲート電極と、
を備えており、
前記第1半導体層の全体が前記特定領域を備えている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記GaNによって構成されている第1半導体層と、
前記第1半導体層の上面に接触して配置されており、InGaNで構成されている第4半導体層と、
を備え、
前記第1半導体層の全体が前記特定領域を備えている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項12】
六方晶ウルツ鉱構造のGaN層を準備する第1工程と、
前記GaN層の一方面にMg薄膜を成膜する第2工程と、
を備え、
前記第2工程の期間中または前記第2工程の後に、500℃よりも高く1050℃よりも低い温度で前記GaN層を加熱する、
半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1工程は、前記GaN層をエピタキシャル成長により成膜する工程を含んでおり、
前記第1工程と前記第2工程とが交互に行われ、
前記第2工程の後に行われる前記第1工程では、前記Mg薄膜の一方面に前記GaN層が成膜され、
前記第2工程で成膜される前記Mg薄膜の厚さは、前記第1工程で成膜される前記GaN層の厚さよりも小さい、
請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1工程および前記第2工程では、分子線エピタキシー法によって成膜が行われる、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記分子線エピタキシー法における成膜温度が、600-700℃の範囲である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
GaNによって構成されている第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の上面に接触して配置されており、前記GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層を形成する工程と、
前記第1工程と前記第2工程とを交互に繰り返すことで、前記第2半導体層の上面に接触して配置されている第3半導体層を形成する工程と、
前記第3半導体層の上方にソース電極およびドレイン電極を形成する工程と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間であって前記第3半導体層の上方の位置に、または、前記第2半導体層の上面の位置に、ゲート電極を形成する工程と、
を備える、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターカレーション技術は、人工層状構造を作製するための重要な技術である。なお、関連する技術が非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. Rajapakse, B. Karki, U. O. Abu et al. Intercalation as a versatile tool for fabrication, property tuning, and phase transitions in 2D materials. npj 2D Mater Appl 5, 30 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、半導体への2次元金属のインターカレーションを用いた、半導体装置および半導体装置の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する半導体装置の一態様は、六方晶ウルツ鉱構造のGaNを備えた半導体装置である。GaNの少なくとも一部に、特定領域を備えている。特定領域には、GaNのc面に平行なMgシートが、複数配置されている。複数のMgシートは、GaNのc軸方向に互いに離間して配置されている。互いに隣接するMgシートの間には、1層以上のGaNの原子層が配置されている。
【0006】
上記の半導体装置は、MgシートがGaN原子層の数層ごとにインターカレーションされた、ナノ構造を備えている。この新規なナノ構造により、半導体の各種の特性を向上させることや、2次元材料の剥離、エネルギー貯蔵、超伝導、熱伝導度制御など、幅広い応用可能性を得ることができる。
【0007】
GaNは、c軸方向にABABで表される周期積層構造を有している。Mgシートは、隣接するAB構造の間の格子間サイトにインターカレーションされていてもよい。
【0008】
c軸方向に隣接するMgシートの間には、c軸方向の一軸圧縮歪みが発生していてもよい。
【0009】
隣接するMgシートに挟まれているGaNの領域内部には、c面内の二軸引張歪みが発生していてもよい。
【0010】
特定領域において、Mgシートを挟んで互いに逆側に位置するとともにMgシートに最も近い層である少なくとも2つのGaN原子層は、逆極性を有していてもよい。逆極性は、+c(金属極性)型と-c(窒素極性)型を備えていてもよい。
【0011】
特定領域は、GaNの一方面近傍に配置されていてもよい。Mgシートのc面と平行な方向の幅はc面に垂直な方向に進むにつれて小さくなっていてもよい。
【0012】
GaNは、p型化しているp型領域を備えていてもよい。半導体装置は、p型領域に接触している電極を備えていてもよい。p型領域における電極との界面には、Mgシートが存在していてもよい。
【0013】
GaNによって構成されている第1半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の下面に接触して配置されており、GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられている第1ソース電極を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられており、第1ソース電極から離れて配置されている第1ドレイン電極を備えていてもよい。第1ソース電極と第1ドレイン電極との間であって第1半導体層の上方に設けられている、または、第2半導体層の上面に接触して配置されている第1ゲート電極を備えていてもよい。第1半導体層の全体が特定領域を備えていてもよい。
【0014】
GaNによって構成されている第1半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の下面に接触して配置されており、GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層を備えていてもよい。第2半導体層の下面に接触して配置されており、GaNで構成されている第3半導体層を備えていてもよい。第2半導体層の上面に配置されている第2ソース電極を備えていてもよい。第2半導体層の上面に配置されており、第2ソース電極から離れて配置されている第2ドレイン電極を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられており、第2ソース電極と第2ドレイン電極との間に設けられている第2ゲート電極を備えていてもよい。第1半導体層の全体が特定領域を備えていてもよい。
【0015】
GaNによって構成されている第1半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の下面に接触して配置されており、GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層を備えていてもよい。第2半導体層の下面に接触して配置されており、GaNで構成されている第3半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられている第1ソース電極を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられており、第1ソース電極から離れて配置されている第1ドレイン電極を備えていてもよい。第1ソース電極と第1ドレイン電極との間であって第1半導体層の上方に設けられている、または、第2半導体層の上面に接触して配置されている第1ゲート電極を備えていてもよい。第2半導体層の上面に配置されている第2ソース電極を備えていてもよい。第2半導体層の上面に配置されており、第2ソース電極から離れて配置されている第2ドレイン電極を備えていてもよい。第1半導体層の上方に設けられており、第2ソース電極と第2ドレイン電極との間に設けられている第2ゲート電極を備えていてもよい。第1半導体層の全体が特定領域を備えていてもよい。
【0016】
GaNによって構成されている第1半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の上面に接触して配置されており、InGaNで構成されている第4半導体層を備えていてもよい。第1半導体層の全体が特定領域を備えていてもよい。
【0017】
本明細書に開示する半導体装置の製造方法の一態様は、六方晶ウルツ鉱構造のGaN層を準備する第1工程を備える。製造方法は、GaN層の一方面にMg薄膜を成膜する第2工程を備える。第2工程の期間中または第2工程の後に、500℃よりも高く1050℃よりも低い温度でGaN層を加熱する。
【0018】
第1工程は、GaN層をエピタキシャル成長により成膜する工程を含んでいてもよい。第1工程と第2工程とが交互に行われてもよい。第2工程の後に行われる第1工程では、Mg薄膜の一方面にGaN層が成膜されてもよい。第2工程で成膜されるMg薄膜の厚さは、第1工程で成膜されるGaN層の厚さよりも小さくてもよい。
【0019】
第1工程および第2工程では、分子線エピタキシー法によって成膜が行われてもよい。
【0020】
分子線エピタキシー法における成膜温度が、600-700℃の範囲であってもよい。
【0021】
GaNによって構成されている第1半導体層を形成する工程を備えていてもよい。第1半導体層の上面に接触して配置されており、GaNとは異なるバンドギャップを有する第2半導体層を形成する工程を備えていてもよい。第1工程と第2工程とを交互に繰り返すことで、第2半導体層の上面に接触して配置されている第3半導体層を形成する工程を備えていてもよい。第3半導体層の上方にソース電極およびドレイン電極を形成する工程を備えていてもよい。ソース電極とドレイン電極との間であって第3半導体層の上方の位置に、または、第2半導体層の上面の位置に、ゲート電極を形成する工程を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】MiGsナノ構造のEDSスペクトルである。
【
図4】c面にMiGsナノ構造を形成する過程を説明する断面模式図である。
【
図5】c面に形成されたMiGsナノ構造のSTEM像である。
【
図6】m面にMiGsナノ構造を形成する過程を説明する断面模式図である。
【
図7】m面に形成されたMiGsナノ構造のSTEM像である。
【
図8】トップダウン法で作成したMiGsナノ構造の概略断面図である。
【
図9】ボトムアップ法で作成したMiGsナノ構造の概略断面図である。
【
図10】GaNとMgの基本的な材料構成を示す表である。
【
図12】STEM像に対して行った弾性ひずみマッピングである。
【
図13】MiGsナノ構造の端部領域の画像である。
【
図15】MiGsナノ構造を備えたpn接合ダイオード1の概略断面図である。
【
図16】pn接合ダイオード1のI-V特性グラフである。
【
図17】pn接合ダイオード1における、電流密度-電圧(J-V)特性およびオン抵抗を示すグラフである。
【
図18】実施例4に係る半導体装置2の断面概略図である。
【
図19】実施例5に係る基板40の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0023】
(MiGsナノ構造の概要)
図1-
図3を用いて、MgインターカレーションGaN超格子ナノ構造の概要を説明する。以下、「MgインターカレーションGaN超格子」を、MiGs(Mg intercalated GaN superlattices)と略記する場合がある。
図1(a)-
図1(e)において、紙面上方向が、六方晶ウルツ鉱構造のGaNのc軸方向である。
図1(a)-
図1(c)は、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)による、異なる倍率での像である。
図1(a)-
図1(c)において、c面に平行な方向(紙面左右方向)に延びている暗い線が、Mgシートである。またMgシートの間に存在している、6原子程度の厚さの明るい帯状の部分が、GaNである。
図1(d)は、原子分解能統合微分位相コントラスト(iDPC)STEM像であり、N、Ga、Mg原子の相対位置を示している。
図1(e)は、MiGsナノ構造の繰返し単位の模式図である。
【0024】
また
図2(a)に、Mgシートの間に7単層のGaNが配置されている超格子の拡大像を示す。紙面右側が[0001]方向(c軸方向)である。またスケールバーは500pmである。
図2(b)に、
図2(a)の矢印部分における原子分解EDSスペクトルを示す。強度ピークの位置は、Ga、N、Mgの各元素の原子面の相対位置を示している。
図3(a)-
図3(c)は、
図2と同一領域における原子分解能のEDSマップである。
図3(a)はGa、
図3(b)はN、
図3(c)はMgの分布を示している。
【0025】
図1-
図3から分かるように、MiGsナノ構造は、六方晶ウルツ鉱構造のGaNの少なくとも一部の特定領域に形成することができる。特定領域には、GaNのc面に平行なMgシートが、複数配置されている。複数のMgシートは、GaNのc軸方向に互いに離間して配置されている。互いに隣接するMgシートの間には、1層以上のGaNの原子層が配置されている。
【0026】
Mgシートについて説明する。
図1(e)に示すように、GaNは、c軸方向にABABで表される周期積層構造を有している。Mgシートは、隣接するAB構造の間のCの位置(格子間サイト)にインターカレーションされている。また
図1-
図3より、Mgシートは、厚さが原子1層分であることが分かる。すなわちMgシートは、2次元形状を有している。Mgシートは、格子間に侵入しているため、Ga原子と置換していない。従って、Mgシートを構成するMgは、アクセプタとしては機能しない。またMiGsナノ構造では、MgシートよりもGaN層が支配的に振舞う。従ってMiGsナノ構造は、半導体として機能する。
【0027】
(MiGsナノ構造の製造方法(トップダウン法))
トップダウン法によるMiGsナノ構造の形成方法を説明する。トップダウン法は、GaN結晶の表面からMgを熱拡散させる方法である。まず、六方晶ウルツ鉱構造のGaN層を準備する。そして、GaN層の一方面に、アモルファスのMg薄膜を成膜する。その後、500℃よりも高く1050℃よりも低い温度で、GaN層を加熱する。これにより、高温・大気圧下において、GaNへのMgの自発的な相互拡散を発生させることができる。その結果、2次元金属の半導体へのインターカレーションを発生させることができる。
【0028】
図4の断面模式図を用いて、c面にMiGsナノ構造を形成する過程を説明する。GaN層31のc面上に、Mgソース32を配置する。この状態でアニールを開始すると、初期の段階では、MgがGaN層31の表面から内部へ拡散する(
図4(a)参照)。
図4(a)では、Mg原子を点で示している。GaN層31の表面から内部側に行くほど、Mg濃度は低くなる。
【0029】
さらにアニールを続けることによって、複数のMgシート33が、c軸方向に互いに離間して自己組織化される(
図4(b)参照)。これにより、MiGsナノ構造が完成する。このとき、MiGsナノ構造が形成される領域は、典型的にはピラミッド形状となる。ピラミッド形状は、GaN層31の表面に垂直かつ内部に向かう方向(すなわちc面に垂直な方向)に進むにつれてMgシート33のc面と平行な方向の幅が狭くなる形状である。またピラミッド形状は、複数のMgシート33が、中心軸CAに対して略対称に配置されている形状である。
【0030】
ピラミッド形状が自己組織化されるメカニズムを説明する。Mgシートは、正電荷の有限な平面として扱うことができる。Mgシートによって誘発されるクーロン場は、有限なMgシートのエッジ周辺で弱く、中心に行くほど強くなる。またMg濃度は、GaN層31の表面から内部側へ行くほど低くなるため、内部側へ行くほどMgシートの幅が狭くなる。その結果、トータルエネルギーを減少させるように、ピラミッド形状が自己組織化される。
【0031】
図5に、c面に形成されたMiGsナノ構造のSTEM像を示す。紙面上側がc軸方向である。
図5(a)は、ADF-STEM像である。
図5(a)の左側の四角は、
図4(b)に示す典型的なピラミッド構造を示している。
図5(b)は、
図5(a)の右側の四角部分を拡大した、HAADF-STEM像である。
図5(b)では、複数のMgシートが、暗い線として観察されている。これにより、MiGsナノ構造が形成されていることが確認できた。
【0032】
また
図6の断面模式図を用いて、m面にMiGsナノ構造を形成する過程を説明する。GaN層31のm面上に、Mgソース32を配置する。この状態でアニールを開始すると、初期の段階では、MgがGaN層31の表面から内部へ拡散する(
図6(a)参照)。さらにアニールを続けることによって、複数のMgシート33が、c軸方向に互いに離間して自己組織化される(
図6(b)参照)。
図6(b)においても、c面に垂直な方向に進むにつれて、Mgシート33のc面と平行な方向の幅が狭くなっている部分がある。
【0033】
図7に、m面に形成されたMiGsナノ構造のSTEM像を示す。紙面上側がm軸方向であり、紙面左側がc軸方向である。
図7(a)は、ADF-STEM像である。
図7(b)は、
図7(a)の右側の四角部分を拡大した、HAADF-STEM像である。
図7(b)では、複数のMgシートが、暗い線として観察されている。これにより、MiGsナノ構造が形成されていることが確認できた。
【0034】
以上より、c面およびm面の何れからMgを拡散させた場合においても、複数のMgシートが、GaNのc面((0001)面)に平行に形成されることが分かる。理由を説明する。(0001)面は、GaNおよびMgの両方にとって、原子密度が最も高い面である。そして最密面は、より高い結合エネルギーを有しているため、より低い表面エネルギーを有している。これにより、GaNの(0001)面に沿ってMg原子がインターカレーションされる強力な傾向が生じていると考えられる。
【0035】
(MiGsナノ構造の製造方法(ボトムアップ法))
ボトムアップ法によるMiGsナノ構造の形成方法を説明する。ボトムアップ法は、GaN層とMg層とを交互に積層させる方法である。ボトムアップ法では、分子線エピタキシー法(MBE)によって、第1工程と第2工程とが交互に行われる。
【0036】
第1工程は、GaN層をエピタキシャル成長により成膜する工程である。具体的には、Gaシャッターおよび窒素シャッターを開くとともに、Mgシャッターを閉じる。GaNの1原子層の積層数は、成膜時間によって制御することができる。すなわち、Mgシート間に配置されているGaNの1原子層の平均数を、時間で制御可能である。
【0037】
第2工程は、Mg層を成膜する工程である。具体的には、Gaシャッターおよび窒素シャッターを閉じるとともに、Mgシャッターを開く。これにより、Mgの1原子層を成膜することができる。すなわち、第2工程で成膜されるMg層の厚さは、第1工程で成膜されるGaN層の厚さよりも小さい。
【0038】
第2工程の後に行われる第1工程では、Mg薄膜の表面にGaN層が成膜される。以後、第1工程と第2工程とを交互に繰り返すことによって、数原子層のGaNに対して1原子層のMgを堆積させることができる。そして、分子線エピタキシー法の成膜温度(500-900℃)により、GaNへのMgの自発的な相互拡散を発生させることができる。従って、GaN層およびMg層の成膜と、MiGsナノ構造の自己組織化とを、同時に進行させることが可能となる。またMiGsナノ構造のトータル厚さは、第1工程および第2工程の繰り返し数によって制御することができる。
【0039】
分子線エピタキシー法で成膜する理由を説明する。1050℃よりも高い温度でアニールすると、Mg原子がGaN格子内に置換拡散し始めるため、MiGsナノ構造が分解してしまう。例えばMOVPEで成膜する場合には、成膜温度(1000-1100℃)が高すぎるため、MiGsナノ構造が分解してしまう。そこで分子線エピタキシー法を用いることにより、MiGsナノ構造の形成に熱力学的に好ましい範囲(500-900℃)で成膜することができる。よって、MiGsナノ構造の分解を防止できるとともに、MiGsナノ構造を自己組織化するためのアニールを成膜中に行うことが可能となる。
【0040】
図8および
図9の各々に、トップダウン法およびボトムアップ法で作成したMiGsナノ構造の概略断面図を示す。
図8および
図9では、Mgシートを黒線で示している。トップダウン法で形成されたMiGsナノ構造(
図8)は、GaN層表面の近傍にのみ形成される。またMiGsナノ構造の深さ方向の分布が不均一になるとともに、表面粗さが大きくなる特徴がある。これは、MiGsナノ構造の形成時に、アモルファスMg薄膜とバルクGaNとがランダムかつ初歩的な反応を起こすことが一因と考えられる。一方、ボトムアップ法で作成されたMiGsナノ構造(
図9)は、深さ方向の分布を均一にすることができるとともに、表面粗さを小さくすることができる。またMiGsナノ構造の厚さを、成膜の繰り返し数により任意に設定できるため、深さ方向に大規模なMiGsナノ構造を形成することが可能である。
【0041】
(MiGsナノ構造を自発的に形成するための重要な要素)
図10の表に、GaNとMgの基本的な材料構成を示す。GaNとMgとは、同一の結晶構造(HCP)を有している。またほぼ同一の格子定数を有しており、格子不整合が0.2%と誤差の範囲にある。この格子不整合が小さいことにより、上述するように、欠陥の無い超格子構造を自発的に形成することが可能となる。
【0042】
またMiGsナノ構造は、高温・大気圧下でのGaNへのMgの自発的な相互拡散によって形成されている。よってMiGsナノ構造は、広い条件下で熱力学的に安定である。
【0043】
(MiGsナノ構造による歪み制御)
2次元Mgシート間のGaN単層の平均数を変化させることにより、MiGsナノ構造中にGaNへの歪み制御を適用することができる。
図11に、MiGsナノ構造の模式図を示す。丸はGa原子を示し、三角はMg原子を示している。
図11に示すように、一対の2次元MgシートをK原子層(Kは2以上の自然数)のGaNにインターカレーションし、c軸方向の原子層間の間隔を狭くすることが可能である。Kが小さいほど、反比例して、c軸方向の一軸圧縮歪みを大きくすることができる。Kが5または6になると、c軸方向の一軸圧縮歪みを-10%以上にすることができる。
【0044】
図12に、原子分解能HAADF-STEM像に対して行った弾性ひずみマッピングを示す。MiGsナノ構造の面外歪み(一軸性歪み)を示している。色の濃い1原子層がMgシートである。Mgシート間には、GaNの6原子層が配置されている。弾性ひずみマッピングは、色が濃いほど圧縮歪みが大きいことを示している。
図12から確認できるように、c軸方向の一軸圧縮歪みを発生させることができることが分かる。
【0045】
歪み制御によって解決可能な課題を説明する。GaNなどのIII族窒化物では、窒素原子の強い電子親和力と弱いスピン軌道相互作用により、正孔の有効質量が非常に大きい。そのため、デバイス内での正孔移動度と正孔輸送が制限される問題があった。一方、ウルツ鉱型GaN格子にc軸方向の一軸圧縮歪みを発生させると、価電子帯構造が反転し(結晶場分裂エネルギーが負になり)、軽い正孔有効質量を持つ分裂正孔帯が価電子帯最大(VBM)にまで持ち上げられるようになる。このスプリットオフ・ホールバンドに正孔が多く存在することで、正孔移動度が向上する。具体的には、ウルツ鉱型GaNのc軸方向に-4.3%の一軸圧縮歪みを与えると、室温で従来よりも一桁高い200cm2/(V・s)程度の正孔移動度が得られることが、厳密な第一原理計算により理論的に計算されている。しかし、GaN格子に高い歪みを導入することが非常に困難であったため、結晶場分裂エネルギーの反転による正孔移動度の向上は、長い間実現が待ち望まれてきた。
【0046】
本明細書の技術では、MiGsナノ構造により、ウルツ鉱型GaN格子にc軸方向の一軸圧縮歪みを発生させることができる。高い正孔移動度と高い正孔濃度を同時に実現することが可能となる。また、前述したボトムアップ法を用いることにより、大規模で均一なMiGsナノ構造を形成できる。よって広範囲かつ均一に、正孔移動度の高いp型GaNを形成することが可能となる。
【0047】
(MiGsナノ構造による極性反転)
MiGsナノ構造により、GaNを極性反転することができる。
図13に、MiGsナノ構造の端部領域の画像を示す。
図13(A)は、HAADF-STEM像である。
図13(B)は、
図13(A)と同一領域のiDPC-STEM像である。
図13(C)は、iDPC-STEM像の部分拡大図および原子配列の模式図である。iDPCイメージングにより、通常では見えない窒素原子を分解することができる。従って
図13(C)に示すようにGaとNの相対的な原子位置を直接明らかにすることができる。
【0048】
GaNに挿入された2次元Mgシートは、正電荷の一様な平面として扱うことができる。その結果生じるクーロン場は、Mgシート近傍のGaNの極性を反転させることで周囲に影響を与える。
図13(C)に示すように、2次元Mgシートの端から横方向(c面に平行な方向)に数原子分離れた領域A0を中心として、N極からGa極への極性反転が発生している。
【0049】
また
図14に、2次元Mgシートに挟まれたGaNの原子配列の模式図を示す。Mgシートに挟まれたGaNの中間領域IRにおいて、c面に垂直な方向で極性反転が発生している。この極性反転は、数原子程度の距離で発生させることができる。このような偏光場の空間的な変化によって、中間領域IRでは、正孔のバルクドーピングが余分に誘起される。これにより、正孔濃度をより高めることが可能となる。
【0050】
ここで、Mgシートを挟んで互いに逆側に位置するとともにMgシートに最も近い層である、2つのGaN原子層AL1およびAL2に着目する。GaN原子層AL1は+c(金属極性)型であり、GaN原子層AL2は-c(窒素極性)型である。すなわちGaN原子層AL1とAL2とは、逆極性を有している。
低温条件のサンプルでは、ノンオーミックコンタクト特性が得られた。一方、高温条件のサンプルでは、完全にリニアなI-V特性を有する、良好なオーミックコンタクト特性が得られた。また、コンタクト抵抗は、10-5Ω・cm-2のオーダーであり、非常に低かった。以上より、MiGsナノ構造を介して金属電極を配置することにより、オーミックコンタクトが実現できるとともに、コンタクト抵抗を非常に低くできることが分かる。また、オーミックコンタクトを可能にするためのアニール温度には、500℃と550℃の間にしきい値があることが分かる。すなわち、MiGsナノ構造を用いたオーミックコンタクトを実現するためには、500℃よりも高い温度でのアニールが必要である。
MiGsナノ構造層14は、前述したトップダウン法で作成した。具体的には、p-GaN層13の表面にMgを成膜した。そして500-1050℃の範囲内でアニールすることで、p-GaN層13の表面に、MiGsナノ構造層14を形成した。
これらの特性向上は、コンタクト抵抗の低減と正孔密度および正孔移動度の改善とのコンビネーションにより、正孔の縦方向(c軸方向)の輸送が強化されたためと考えられる。また、c軸方向(すなわち複数のMgシートに垂直な方向)の正孔輸送を強化できることから、Mgシートの存在が、GaNのキャリア輸送を阻害しないことが分かる。