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特開2024-106737溶接構造体の製造方法及び溶接構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106737
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】溶接構造体の製造方法及び溶接構造体
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20240801BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011154
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】泊 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA37
4E168BA56
4E168BA87
4E168CB03
4E168CB08
4E168DA28
(57)【要約】
【課題】ハット形状の板材を接合相手に重ねてレーザー溶接する場合でも、接合部の周囲で応力集中、及び隙間腐食の発生を抑制でき、高い接合強度が得られるようにする。
【解決手段】溶接構造体の製造方法では、ハット形状である第一板材11と、第一板材11の鍔部15に対向して板厚方向に重なり合う第二板材13とを溶接する。第一板材11は、鍔部15と側壁部17とが湾曲して接続された曲げ角部を有する。曲げ角部と第二板材13との間に形成される狭隘部41に向けて第一板材11側からレーザー光LBを照射するとともに、レーザー光LBの照射領域に溶加材を供給するレーザー溶接を、長手方向に沿って実施する。これにより、少なくとも狭隘部41の隙間の寸法Dが1mm以下の領域に、溶加材の溶融凝固体を含むフィレットを長手方向に沿って形成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接構造体の製造方法であって、
前記第一板材は、前記鍔部と前記側壁部とが湾曲して接続された曲げ角部を有しており、
前記曲げ角部と前記第二板材との間に形成される狭隘部に向けて前記第一板材側からレーザー光を照射するとともに、前記レーザー光の照射領域に溶加材を供給するレーザー溶接を、前記長手方向に沿って実施して、
少なくとも前記狭隘部の隙間が1mm以下の領域に、前記溶加材の溶融凝固体を含むフィレットを前記長手方向に沿って形成する、
溶接構造体の製造方法。
【請求項2】
前記フィレットを前記長手方向に連続して形成する、
請求項1に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項3】
前記狭隘部の前記隙間の寸法をD[mm]、前記第一板材の前記垂直断面における前記側壁部と前記鍔部との交差角のうち前記ハット形状の内側の交差角をθ[deg]、前記曲げ角部の湾曲の曲率半径をR[mm]としたとき、
D=R{1/cos(θ/2)-1)≦1
の関係を有する、
請求項1に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第一板材の前記鍔部の法線方向に対する前記レーザー光の照射方向を、前記法線方向からθ/2傾斜した方向までの範囲にする、
請求項3に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項5】
前記法線方向に対する前記レーザー光の照射方向を、前記法線方向から45°までの範囲にする、
請求項4に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項6】
前記フィレットを、前記第一板材の一対の前記鍔部と前記第二板材との間の前記狭隘部にそれぞれ形成して、前記ハット形状の内側に中空空間を画成する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第一板材と前記第二板材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、
請求項6に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第一板材と前記第二板材は、銅又は銅合金である、
請求項6に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項9】
長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接継手であって、
前記第一板材は、前記鍔部が前記側壁部に接続された曲げ角部を有し、
前記曲げ角部から前記第二板材にかけてレーザー溶接部が形成され、
前記レーザー溶接部には、溶接金属からなるフィレットが、前記ハット形状の内側空間に向けて膨出し、前記長手方向に沿って連続して形成されている、
溶接構造体。
【請求項10】
前記フィレットは、前記ハット形状の内側空間に向けて1mm以上突出している、
請求項9に記載の溶接構造体。
【請求項11】
前記第二板材は、前記長手方向の垂直断面が前記ハット形状である、
請求項9に記載の溶接構造体。
【請求項12】
前記第一板材と前記第二板材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、
請求項9から11のいずれか1項に記載の溶接構造体。
【請求項13】
前記第一板材と前記第二板材は、銅又は銅合金である、
請求項9から11のいずれか1項に記載の溶接構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造体の製造方法及び溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
ところで、COの排出の少ないEV自動車用の電池パックに使用される冷却パネル、ヒートシンク等のアルミ製薄型冷却器の構造の一つに、プレスなどで流路形状を形成した板と、この板と対になる板を重ね合わせて接合し、水密性を確保するものがある。
【0003】
上記した構造の接合は、ロウ付けが主流であるが、熱処理工程が必要なロウ付けに代わる接合方法の一つに高速溶接可能なレーザー溶接がある。レーザー溶接を本構造の製造工程に適用できれば生産性を向上すること、COの排出量を低減することが可能になる。例えば、特許文献1には、二以上の部材が重ね溶接により接合される溶接構造物に対し、各部材をレーザー溶接で接合するにあたり、溶接方向を変更することで溶接欠陥の影響を低減する技術が記載されている。特許文献2には、冷却媒体を貫流させる冷却通路を有した凹凸体と平板とをレーザー溶接する際に、高い機械的強度と高い熱伝導率を維持する技術が記載されている。特許文献3には、複数枚重ねのワークのエッジに沿ってレーザー光を走査して溶接を行うに際し、ワーク板面に対し斜めにレーザー光を照射して溶接を行い、レーザー光の走査方向に直交する断面内でビードを傾斜させることで、溶接割れの発生を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-290951号公報
【特許文献2】特開2001-274297号公報
【特許文献3】特開2008-296236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2のように、折り曲げられたハット形状の板材を重ねてレーザー溶接する場合、狙い位置や板間ギャップ等の施工上の都合により、板材同士が密着する平面部にレーザー光を照射するのが一般的だが、接合部の周囲における板材同士の間には狭隘部が生じてしまう。この狭隘部では、応力集中、及び隙間腐食が生じやすくなり、接合強度が低下する問題がある。また、特許文献3のようにレーザー光を斜めに照射する場合も、板間ギャップのない平面部を狙って照射しており、上記と同様の問題が生じる。
【0006】
そこで本発明は、ハット形状の板材を接合相手に重ねてレーザー溶接する場合でも、接合部の周囲で応力集中、及び隙間腐食の発生を抑制でき、高い接合強度が得られる溶接構造体の製造方法及び溶接構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接構造体の製造方法であって、
前記第一板材は、前記鍔部と前記側壁部とが湾曲して接続された曲げ角部を有しており、
前記曲げ角部と前記第二板材との間に形成される狭隘部に向けて前記第一板材側からレーザー光を照射するとともに、前記レーザー光の照射領域に溶加材を供給するレーザー溶接を、前記長手方向に沿って実施して、
少なくとも前記狭隘部の隙間が1mm以下の領域に、前記溶加材の溶融凝固体を含むフィレットを前記長手方向に沿って形成する、
溶接構造体の製造方法。
(2) 長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接継手であって、
前記第一板材は、前記鍔部が前記側壁部に接続された曲げ角部を有し、
前記曲げ角部と前記第二板材との間にレーザー溶接部が形成され、
前記レーザー溶接部には、溶接金属からなるフィレットが前記ハット形状の内側空間に向けて膨出し、前記長手方向に沿って連続して形成されている、
溶接構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハット形状の板材を重ねてレーザー溶接する場合でも、接合部の周囲で応力集中、及び隙間腐食の発生を抑制でき、高い接合強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一方向に延びる溶接構造体の長手方向の垂直断面図である。
図2図2は、図1に示すA1部の拡大図である。
図3図3は、レーザー溶接装置の模式的な構成図である。
図4図4は、溶接前の曲げ角部の拡大断面図であってレーザー光の照射方向を示す説明図である。
図5図5は、変形例の溶接構造体の長手方向の垂直断面図である。
図6図6は、図5に示すA2部の溶接前の状態を示す拡大図である。
図7図7は、供試片として使用した第一板材のハット形状を示す説明図である。
図8図8は、レーザー溶接後の供試片の断面観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す溶接構造体の形状、寸法等は一例であって、本発明を特に限定するものではない。
<溶接継手の構造>
図1は、一方向に延びる溶接構造体の長手方向の垂直断面図である。溶接構造体100は、第一板材11と第二板材13とを有する。第一板材11は、その長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部15、及び鍔部15にそれぞれ接続される側壁部17を有するハット形状である。第二板材13は、全体が平坦な板材であり、第一板材11の鍔部15と板厚方向に重なり合って配置される。第一板材11の一対の鍔部15は、第二板材13の板面に平行な平坦状に形成される。
【0011】
第一板材11の鍔部15と側壁部17とが接続される曲げ角部21から第二板材13にかけて、レーザー溶接部19が形成される。レーザー溶接部19は、溶接構造体100の長手方向(図1の奥行き方向)に連続して延び、第一板材11と第二板材13とを互いに接合している。このレーザー溶接部19によって、溶接構造体100のハット形状の内側には、密閉された中空空間Sが画成される。中空空間Sは、例えば溶接構造体100を一対の板材と、板材同士の間に画成された熱交換媒体収用部とを備えるヒートシンクとして使用する場合に、冷媒等の熱交換媒体が充填される空間となる。
【0012】
以下の説明では、第一板材11の延びる方向をX方向(図1の奥行き方向)、第一板材11と第二板材13との重なり方向をZ方向(図1の高さ方向)、X方向とZ方向に直交する方向をY方向(幅方向)とする。
【0013】
第一板材11の垂直断面における側壁部17と鍔部15との交差角のうち、ハット形状の内側(中空空間S側)の交差角をθとする。交差角θは10°以上90°以下であることが好ましい。交差角θによる側壁部17の傾斜によって、中空空間Sを所望の形状、体積に設定できる。
【0014】
第一板材11の板厚は、2mm以下が好ましい。第二板材13の板厚は、第一板材11の板厚以上で、3mm以下が好ましい。第一板材11の板厚が2mm以下であることで、後述するレーザー溶接時に、レーザー光が第一板材11を貫通するためのレーザー出力強度を抑えられる。第二板材13の板厚が3mm以下であることで、レーザー光が照射された第二板材13の抜け落ちが生じにくくなる。
【0015】
第一板材11及び第二板材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、例えば、5000系、6000系(JIS H 4000)等のアルミニウム板材の折り曲げ加工材又は押出材により構成できる。また、材質はアルミニウム又はアルミニウム合金に限らず、銅又は銅合金であってもよい。アルミニウム系、銅系の金属は、加工性に優れ、熱伝導性及び耐食性が高く、例えばヒートシンクの材料として好適となる。
【0016】
図2は、図1に示すA1部の拡大図である。曲げ角部21は、鍔部15と側壁部17とを接続する所定の曲率半径の湾曲部を有する。この曲げ角部21から曲げ角部21を貫通して第二板材13にかけて形成されたレーザー溶接部19には、溶接金属からなるフィレット19aが形成される。フィレット19aは、ハット形状の内側(中空空間S側)に向けて膨出するとともに、第一板材11の延び方向である長手方向に沿って連続して延びている。
【0017】
図2に示す側壁部17の内側面17aを延長した線をLa、第二板材13の第一板材11側の対向面13a(第一板材11の鍔部15における第二板材13側の対向面15a)との交差点をP1とする。交差点P1からY方向に沿ったフィレット19aの突出長さLtは、1mm以上が好ましく、より好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは2mm以上である。フィレット19aが上記の寸法で中空空間S側に突出することで、後述する狭隘部が埋められて、第一板材11の曲げ角部21と第二板材13との接合部分が補強される。この構成により、溶接による熱応力、及び溶接後の外力による応力集中が抑制される。特に、溶接構造体100がヒートシンクである場合には、冷却水循環の水圧やポンプ脈動による応力集中を抑制する効果が得られる。また、狭隘部の隙間が埋められるため、隙間腐食の発生を抑制できる。さらに、フィレット19aが第一板材11の長手方向に沿って連続して形成されることで、中空空間Sが密閉される。これらのことから、第一板材11と第二板材13との接合強度が大きく向上する。
【0018】
そして、レーザー溶接部19の形成条件によっては、フィレット19aの両端部P2,P3にて、フィレット19aの表面に対して第一板材11と第二板材13とが鈍角又は鈍角に近い角度で接合されることも期待できる。その場合、第一板材11と第二板材13との接合部に深い谷形状が発生することが抑制され、応力集中と隙間腐食の抑制効果がより高められる。
【0019】
<溶接継手の溶接方法>
次に、上記した構成の溶接構造体100の製造方法について説明する。ここでは、ワイヤー状の溶加材を用いるレーザー溶接を例示するが、粉末の溶加材を用いる方式等、他の溶接方法であってもよい。
【0020】
図3は、レーザー溶接装置の模式的な構成図である。レーザー溶接装置31は、レーザー光LBを出射するレーザー照射部33、及びレーザー光LBの照射領域に溶加材Mを送給する溶加材供給部35が一体に搭載されたヘッド部37と、ヘッド部37をX,Y,Z方向に移動自在に支持する多軸ロボット又はステージ等の移動機構(不図示)とを含んで構成される。また、溶加材供給部35には、図示しないリールに巻かれた溶加材Mが連続供給される。レーザー照射部33は、例えばファイバーレーザ、YAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを出射する。
【0021】
ヘッド部37は、レーザー照射部33と溶加材供給部35を一体に支持しつつ溶接方向WDに移動しながら、レーザー照射部33からレーザー光LBを溶接部に照射するとともに、レーザー光LBの照射領域に溶加材Mを供給する。これにより、ヘッド部37の進行方向の後方には、溶接方向WD(X方向)に連続するレーザー溶接部19が形成される。なお、ヘッド部37を固定して、第一板材11と第二板材13とを移動させることでもよい。
【0022】
こうして、第一板材11の一対の曲げ角部21と第二板材13とが、第一板材11の長手方向に沿ってそれぞれレーザー溶接され、中空空間Sが密封された溶接構造体100が得られる。レーザー溶接を用いることで、施工時間を短縮でき、自動化が容易であるため生産性を向上できる。
【0023】
図4は、溶接前の曲げ角部21の拡大断面図であってレーザー光の照射方向を示す説明図である。曲げ角部21と第二板材13との間には、狭隘部41が形成される。上記したレーザー溶接装置31のレーザー照射部33は、この狭隘部41に向けて第一板材11側からレーザー光LBを照射する。レーザー光LBは、第一板材11への照射領域、その光路先方の第二板材13及び溶加材供給部35により供給された溶加材Mを加熱して、溶け込み部を生成する。
【0024】
このような溶け込み部がヘッド部37の移動に伴って第一板材11の長手方向(X方向)に沿って連続して生成され、冷却により凝固すると、図2に示す第一板材11と第二板材13とを相互に接合するレーザー溶接部19が形成される。このレーザー溶接部19は、少なくとも狭隘部41の隙間が1mm以下となる領域に、第一板材11と第二板材13との隙間を埋めるように形成される。その結果、隙間に充填されたレーザー溶接部19には、前述したフィレット19aが中空空間S側に膨出して形成され、且つ、第一板材11の長手方向に連続して形成される。
【0025】
フィレット19aを安定して形成するためには、レーザー光LBの照射方向を、第一板材11の側壁部17と第二板材13の板面との交差角θに対応して設定するのが好ましい。図4に示すように、第一板材11の鍔部15の法線方向Lvに対するレーザー光LBの照射方向を、法線方向Lvからθ/2傾斜した方向までの角度範囲αに設定するのが好ましい。その場合、交差角θによらずに適切な範囲にフィレットを形成できる。
【0026】
上記した狭隘部41の隙間の寸法D[mm]は、第一板材11の側壁部17と鍔部15との交差角θを[deg]、曲げ角部21の湾曲中心Oからの曲率半径をR[mm]としたとき、式1で表される。
【0027】
D=R{1/cos(θ/2)-1)}≦1 ・・・(式1)
【0028】
狭隘部41の隙間の寸法Dを交差角θに応じて定義することで、レーザー溶接の狙い位置を適正に設定できる。また、少なくとも式1の関係を満たす隙間Dが1mm以下となる領域にレーザー溶接部19を形成することで、フィレット19aを適切な位置に形成できる。これによれば、前述した第一板材11と第二板材13との剥離強度、せん断強度等の接合強度が向上し、溶接構造体100の剛性が高められる。また、狭隘部41の隙間が消滅するため、隙間腐食の発生を抑制できる。
【0029】
また、第一板材11の鍔部15の法線方向Lvに対するレーザー光LBの照射方向は、法線方向Lvから45°までの範囲にするのが好ましい。その場合、レーザー光LBが第一板材11を貫通して第二板材13に到達しやすくなり、第二板材13への入熱不足が生じることを抑制できる。
【0030】
上記したように、フィレット19aを有するレーザー溶接部19を、第一板材11の一対の鍔部15と第二板材13との間の各狭隘部にそれぞれ線状に形成して、ハット形状の内側の中空空間Sを密閉できる。密閉された中空空間Sを、例えば、ヒートシンクの熱交換媒体である冷媒等の流路として使用する場合には、流路からの液漏れを確実に防止できる。
【0031】
<変形例>
図5は、変形例の溶接構造体200の長手方向の垂直断面図である。変形例の溶接構造体200は、前述した溶接構造体100の第二板材13を、断面形状がハット形の第二板材13Aにした以外は溶接構造体100と同様の構成である。この場合も、第一板材11と第二板材13Aの鍔部15同士を板厚方向(Z方向)に重ね合わせ、それぞれの曲げ角部21に前述したレーザー溶接を施す。これにより、双方を接合するレーザー溶接部19が形成される。ここで示す第二板材13Aは、第一板材11と同一の形状であるが、第一板材11と第二板材13Aとは互いに異なる形状であってもよい。
【0032】
図6は、図5に示すA2部の溶接前の状態を示す拡大図である。第一板材11と第二板材13Aとの曲げ角部21同士の間には、狭隘部41が形成される。前述したように、この狭隘部41の隙間の寸法Dが1mm以下となる領域を少なくとも含むように、レーザー光LBを照射し、溶加材Mを含む溶け込み部を生成することで、レーザー溶接部19が狭隘部41の隙間を埋めるように形成される。レーザー溶接部19にはフィレットが形成され、第一板材11と第二板材13Aとを高い接合強度で隙間なく接合する。
【0033】
本構成の溶接構造体200の場合、第一板材11と第二板材13Aの側壁部17同士のなす角(図6に示す場合は2θ)は、レーザー光LBの照射位置を適正にするため、120°以下にするのが好ましい。この場合も、第一板材11の鍔部15の法線方向Lvに対するレーザー光LBの照射方向を、法線方向Lvからθ/2傾斜した方向までの角度範囲αに設定するのが好ましい。
【0034】
本構成の溶接構造体200によれば、ハット形状の中空空間Sの体積を簡単に増大できる。そのため、例えば溶接構造体200を用いてヒートシンクを構成する場合に、熱交換媒体の充填量を増加させ、ヒートシンクの熱交換能力を高められる。
【実施例0035】
次に、ハット形状の第一板材と平坦状の第二板材とを重ね合わせ、第一板材の曲げ角部に上記したレーザー溶接によりレーザー溶接部を形成した結果を説明する。
ここで、使用した供試片は、第一板材が板厚1.0mmの5000系アルミニウム合金材、第二板材が板厚2.0mmの5000系アルミニウム合金材である。
図7は、供試片として使用した第一板材のハット形状を示す説明図である。第一板材の各部の寸法は次の通りである。
鍔部幅W:20mm
頂部幅T:20mm
鍔部から頂部までの高さH:10mm
交差角θ:60°
曲げ角部の曲率半径R:2mm
【0036】
レーザー光の照射位置(狙い位置)は、曲率半径Rの曲げ角部とし、鉛直方向から30°(図4の角度範囲α)傾斜させて照射した。その他のレーザー溶接条件は次の通りである。
レーザー:マルチモードファイバーレーザ(ファイバー径φ0.2mm)
レーザー出力:2.5kW
光学倍率:2倍
溶接速度:4m/min
溶加材送給速度:4m/min
溶加材:φ1.2mm 4000系アルミニウム合金製ワイヤー
【0037】
図8は、レーザー溶接後の供試片の断面観察画像である。上記の条件でレーザー溶接した結果、第一板材の側壁部と鍔部との間の曲げ角部から第二板材に及ぶ範囲にレーザー溶接部が形成され、中空空間側に膨出したフィレットの形成を確認できた。この供試片によれば、中空空間に水圧を付与した場合に、応力集中の緩和と隙間腐食の防止効果が得られる。
【0038】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0039】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接構造体の製造方法であって、
前記第一板材は、前記鍔部と前記側壁部とが湾曲して接続された曲げ角部を有しており、
前記曲げ角部と前記第二板材との間に形成される狭隘部に向けて前記第一板材側からレーザー光を照射するとともに、前記レーザー光の照射領域に溶加材を供給するレーザー溶接を、前記長手方向に沿って実施して、
少なくとも前記狭隘部の隙間が1mm以下の領域に、前記溶加材の溶融凝固体を含むフィレットを前記長手方向に沿って形成する、
溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、断面がハット形状の第一板材と第二板材とを重ね合わせ、重ね合わせにより生じる狭隘部をレーザー溶接することで、双方の接合部の周囲に応力集中、及び隙間腐食が発生することを抑制でき、高い接合強度が得られる。
【0040】
(2) 前記フィレットを前記長手方向に連続して形成する、(1)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、フィレットが第一板材の長手方向に沿って連続して形成され、第一板材と第二板材との接合強度を向上できる。
【0041】
(3) 前記狭隘部の前記隙間の寸法をD[mm]、前記第一板材の前記垂直断面における前記側壁部と前記鍔部との交差角のうち前記ハット形状の内側の交差角をθ[deg]、前記曲げ角部の湾曲の曲率半径をR[mm]としたとき、
D=R{1/cos(θ/2)-1)≦1
の関係を有する、(1)又は(2)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、隙間の寸法を交差角θに応じた方向にでき、レーザー溶接の狙い位置を適正に設定できる。
【0042】
(4) 前記第一板材の前記鍔部の法線方向に対する前記レーザー光の照射方向を、前記法線方向からθ/2傾斜した方向までの範囲にする、(3)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、交差角θによらずに適切な範囲にフィレットを形成できる。
【0043】
(5) 前記法線方向に対する前記レーザー光の照射方向を、前記法線方向から45°までの範囲にする、(4)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、レーザー光により形成されるキーホールが第一板材を貫通して第二板材に到達しやすくなり、第二板材への入熱不足が生じることを抑制できる。
【0044】
(6) 前記フィレットを、前記第一板材の一対の前記鍔部と前記第二板材との間の前記狭隘部にそれぞれ形成して、前記ハット形状の内側に中空空間を画成する、(1)から(5)のいずれか1つに記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、中空空間が線状のフィレットにより密閉される。
【0045】
(7) 前記第一板材と前記第二板材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、(6)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、良好な加工性で、熱伝導性及び耐食性に優れた構成にできる。
【0046】
(8) 前記第一板材と前記第二板材は、銅又は銅合金である、(6)に記載の溶接構造体の製造方法。
この溶接構造体の製造方法によれば、良好な加工性で、熱伝導性及び耐食性に優れた構成にできる。
【0047】
(9) 長手方向の垂直断面の形状が、一対の鍔部及び該鍔部にそれぞれ接続される側壁部を有するハット形状である第一板材と、前記第一板材の前記鍔部に対向して板厚方向に重なり合う第二板材とが溶接された溶接継手であって、
前記第一板材は、前記鍔部が前記側壁部に接続された曲げ角部を有し、
前記曲げ角部から前記第二板材にかけてレーザー溶接部が形成され、
前記レーザー溶接部には、溶接金属からなるフィレットが、前記ハット形状の内側空間に向けて膨出し、前記長手方向に沿って連続して形成されている、
溶接構造体。
この溶接構造体によれば、第一板材の曲げ角部から第二板材にかけて形成されたレーザー溶接部に、内側空間へ向けて膨出するフィレットが形成され、このフィレットが第一板材の長手方向に沿って形成される。これにより、第一板材と第二板材とは、応力集中及び隙間腐食の発生を抑制しつつ、高い接合強度で接合した構造となる。
【0048】
(10) 前記フィレットは、前記ハット形状の内側空間に向けて1mm以上突出している、(9)に記載の溶接構造体。
この溶接構造体によれば、フィレットの突出により、接合部分が補強されて高い接合強度が得られる。
【0049】
(11) 前記第二板材は、前記長手方向の垂直断面が前記ハット形状である、(9)に記載の溶接構造体。
この溶接構造体によれば、中空空間の体積を簡単に増大できる。
【0050】
(12) 前記第一板材と前記第二板材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、(9)から(11)のいずれか1つに記載の溶接構造体。
この溶接構造体によれば、良好な加工性で、熱伝導性及び耐食性に優れた構成にできる。
【0051】
(13) 前記第一板材と前記第二板材は、銅又は銅合金である、(9)から(11)のいずれか1つに記載の溶接構造体。
この溶接構造体によれば、良好な加工性で、熱伝導性及び耐食性に優れた構成にできる。
【符号の説明】
【0052】
11 第一板材
13,13A 第二板材
13a 対向面
15 鍔部
15a 対向面
17 側壁部
17a 内側面
19 レーザー溶接部
19a フィレット
21 曲げ角部
31 レーザー溶接装置
33 レーザー照射部
35 溶加材供給部
37 ヘッド部
41 狭隘部
100,200 溶接構造体
LB レーザー光
Lv 法線方向
M 溶加材
P2,P3 端部
R 曲率半径
T 頂部幅
W 鍔部幅
WD 溶接方向
θ 交差角
α 角度範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8