(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106739
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/16 20060101AFI20240801BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20240801BHJP
F16H 59/44 20060101ALI20240801BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20240801BHJP
F16H 61/68 20060101ALI20240801BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
F16H61/16
A01C11/02 313A
F16H59/44
F16H61/66
F16H61/68
B60T7/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011157
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187562
【弁理士】
【氏名又は名称】沼田 義成
(72)【発明者】
【氏名】大西 健太
(72)【発明者】
【氏名】石田 博康
(72)【発明者】
【氏名】黒田 智之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康司
【テーマコード(参考)】
2B062
3D246
3J552
【Fターム(参考)】
2B062AA02
2B062AA03
2B062AB01
2B062BA06
3D246AA15
3D246EA11
3D246GC14
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA25A
3D246HA34A
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3D246JB02
3J552MA01
3J552MA10
3J552NA07
3J552NB01
3J552PA37
3J552RA19
3J552SB02
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3J552SB33
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3J552VA32W
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3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VD11W
(57)【要約】
【課題】有段変速時の安全性や操作性を向上することができる作業車両を提供する。
【解決手段】
田植機1は、複数の変速位置の何れかに切り替えられて、エンジン11(動力源)から前輪13や後輪14である走行部へと伝達する動力を変速する有段変速装置40と、有段変速装置40の切替操作を受け付ける変速レバー18(有段変速操作部)と、変速レバー18による切替操作の検出結果に基づいて有段変速装置40の切替駆動を制御する変速制御部70とを備える。変速制御部70は、変速レバー18による切替操作に応じて走行部の減速を開始し、走行部の走行速度が所定の速度閾値以下になるまでは、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を待機する一方、走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になることを切替条件として、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を許容する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変速位置の何れかに切り替えられて、動力源から走行部へと伝達する動力を変速する有段変速装置と、
前記有段変速装置の切替操作を受け付ける有段変速操作部と、
前記有段変速操作部による切替操作の検出結果に基づいて前記有段変速装置の切替駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作に応じて前記走行部の減速を開始し、前記走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるまでは、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を待機する一方、前記走行部の駆動速度が前記所定の速度閾値以下になることを切替条件として、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記有段変速装置の切替駆動を許容した後、前記有段変速装置の切替駆動の完了を発進条件として、前記走行部の発進を許容することを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記速度閾値を、前記有段変速装置の現在の前記変速位置及び/又は目標の前記変速位置に応じて設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記有段変速装置は、前記変速位置として前記走行部への動力を非伝達状態にする中立位置を有し、
前記制御部は、前記有段変速装置を現在の前記変速位置から前記中立位置を経て目標の前記変速位置へと切り替えるために前記有段変速操作部による切替操作が行われた場合、前記速度閾値として前記走行部の駆動速度が第1速度閾値以下になることを前記切替条件として、現在の前記変速位置から前記中立位置への前記有段変速装置の切替駆動を許容し、前記速度閾値として前記走行部の駆動速度が前記第1速度閾値よりも小さい第2速度閾値以下になることを前記切替条件として、前記中立位置から目標の前記変速位置への前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行部へ伝達される動力を調節する無段変速装置と、
前記無段変速装置の調節操作を受け付ける無段変速操作部と、を更に備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作の検出結果に基づいて前記無段変速装置により前記走行部へ伝達される動力を減速させることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項6】
前記走行部を制動するためのブレーキと、
前記ブレーキを作動させるためのブレーキ駆動部材と、を更に備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作が行われた後、前記走行部の駆動速度が所定の制動速度以下になることを制動条件として、前記ブレーキ駆動部材によって前記ブレーキを作動させることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項7】
前記制御部は、前記ブレーキ駆動部材によって前記ブレーキが作動していることを前記切替条件として、前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする請求項6に記載の作業車両。
【請求項8】
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作に応じて、前記無段変速操作部による調節操作を無効状態にし、前記有段変速装置の切替駆動が完了した後、前記無段変速操作部の所定の操作に応じて、前記無段変速操作部による調節操作を有効状態にすることを特徴とする請求項5に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変速位置を有する有段変速装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、田植機等の作業車両は、動力源から走行部へと伝達する動力を無段階に変速する無段変速装置や、複数の変速位置を有して有段階に変速する有段変速装置を備える。有段変速装置には、例えば、複数の変速位置として、前進位置、中立位置、後進位置等を有して前後進を切り替えるものや、低速位置、中速位置、高速位置等を有して速度段を切り替えるものがある。作業車両は、有段変速装置を何れかの変速位置に切り替える切替駆動を行うアクチュエータ(変速駆動部材)や、有段変速装置の切換操作を受け付ける変速レバー(有段変速操作部)を備える。作業車両は、変速レバーの操作位置を検出し、その検出結果に応じてアクチュエータを駆動することで、有段変速装置の切替駆動を行う。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される走行車体は、駆動輪への駆動を入り切りする主クラッチと、駆動輪を制動するブレーキ装置と、駆動輪への駆動を変速すると共に駆動を停止する変速装置を変速操作する変速レバーとを設けていて、変速レバーの操作によりアクチュエータを作動させて変速装置を変速操作する。走行車体は、変速レバーを、駆動を停止する中立位置に操作したときに、アクチュエータの作動により主クラッチを切りブレーキ装置を制動作動する連繋機構を設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業車両では、アクチュエータを用いて有段変速装置の切替駆動を行うところ、有段変速装置による前後進や速度段の切り替えは速度差が大きくなるので、走行中に有段変速装置の切替駆動を行うと、駆動系へのダメージや急加減速が発生して安全性が低下してしまう。
【0006】
また、特許文献1のような従来の作業車両では、有段変速装置によって、駆動輪に駆動を伝達しない中立位置へと変速するとき、ブレーキ装置で制動して停止してから中立位置への変速駆動を行う。そのため、作業車両が減速してから停止するまでの間は、中立位置の次の変速位置へ変速操作することができないので、操作性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、有段変速時の安全性や操作性を向上することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の作業車両は、複数の変速位置の何れかに切り替えられて、動力源から走行部へと伝達する動力を変速する有段変速装置と、前記有段変速装置の切替操作を受け付ける有段変速操作部と、前記有段変速操作部による切替操作の検出結果に基づいて前記有段変速装置の切替駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作に応じて前記走行部の減速を開始し、前記走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるまでは、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を待機する一方、前記走行部の駆動速度が前記所定の速度閾値以下になることを切替条件として、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を許容する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有段変速時の安全性や操作性を向上することができる作業車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る田植機を示す左側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る田植機の変速レバーを示す上面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る田植機のトランスミッションを上方から示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る田植機のトランスミッションを下方から示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る田植機のトランスミッションを示す上面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る田植機のトランスミッションを示す伝動機構図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る田植機のトランスミッションにおける主変速部材を側方から示す断面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る田植機を示すブロック図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る田植機の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図10】本発明の実施形態に係る田植機の動作例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の他の例に係る有段変速装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【
図12】本発明の他の例に係る有段変速装置の動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の作業車両の実施形態である田植機1について図面を参照して説明する。
図1に示すように、田植機1は、車体部2と、植付部3とを備え、車体部2によって走行しながら植付部3によって苗の植付作業を行うように構成される。また、田植機1は、
図8に示すように、車体部2や植付部3を制御するための制御装置4を備えている。
【0012】
車体部2は、機体フレーム10と、左右方向中央付近で機体フレーム10の前部に取り付けられる動力源であるエンジン11(動力源)及びトランスミッション12(変速装置)とを備える。車体部2は、走行部として、左右方向両端で機体フレーム10の前部に回転可能に取り付けられる一対の前輪13と、左右方向両端で機体フレーム10の後部に回転可能に取り付けられる一対の後輪14とを備える。
【0013】
車体部2は、機体フレーム10上の中央付近に運転席15を備えていて、運転席15の周囲に、操向ハンドル16や変速ペダル17、変速レバー18等の運転操作具を備えている。車体部2は、機体フレーム10上に複数の予備苗台19を備えている。
【0014】
エンジン11は、各部を駆動する回転動力を発生させるもので、ボンネット20によって上方から覆われている。トランスミッション12は、エンジン11に接続されていて、エンジン11の動力を変速して一対の前輪13及び一対の後輪14からなる走行部へと伝達する。トランスミッション12は、
図3~
図6に示すように、エンジン11からの動力を無段階に変速する無段変速装置30と、複数の変速位置を有して有段階に変速する有段変速装置40とを備える。また、トランスミッション12は、車体部2の後部に設けられたパワーテイクオフ軸(PTO軸)21に接続されていて、エンジン11の動力を、PTO軸21を介して植付部3へと伝達する。トランスミッション12の詳細は後述する。
【0015】
一対の前輪13及び一対の後輪14は、エンジン11及びトランスミッション12から伝達される動力に応じて回転駆動して車体部2を前方又は後方へ走行させる。また、一対の前輪13は、操向ハンドル16の操作に応じて操舵駆動して車体部2の操向を行う。
【0016】
操向ハンドル16は、運転席15の前方でボンネット20の後方に配置され、作業者による操向ハンドル16の回転操作に応じて一対の前輪13へ伝達される操舵が調節される。変速ペダル17は、トランスミッション12の無段変速装置30の調節操作を受け付ける無段変速操作部であり、運転席15の前方下部に配置される。変速ペダル17に対して、作業者による踏み込み等の調節操作を検出する無段操作検出部17a(
図8参照)が設けられ、制御装置4が無段操作検出部17aの検出結果に基づいて無段変速装置30を制御することで、一対の前輪13及び一対の後輪14からなる走行部へ伝達される動力が無段階に調節される。無段操作検出部17aは、変速ペダル17の開度を検出可能に構成される。なお、変速ペダル17は、踏み込みがないとき、開度が0%であり、踏み込みが最大(MAX)になるとき、開度が全開(100%)であるものとする。
【0017】
変速レバー18は、トランスミッション12の有段変速装置40の切替操作を受け付ける有段変速操作部であり、操向ハンドル16の左側に配置される。変速レバー18に対して、作業者による変速操作を検出する有段操作検出部18a(
図8参照)が設けられ、制御装置4が有段操作検出部18aの検出結果に基づいて有段変速装置40を制御することで、有段変速装置40が複数の変速位置の何れかに切り替えられる。有段操作検出部18aは、例えば、変速レバー18の支点に設けられるレバーポジションセンサで構成される。変速レバー18は、有段変速装置40の切替操作として、田植機1の前進走行、後進走行及び停止を切り換える主変速操作や、植付走行及び移動走行を切り換える副変速操作を受け付ける。なお、変速レバー18が移動走行に切り換えられた場合、トランスミッション12によって、田植機1の走行方向は植付走行と同じ方向となるが、ギア比を変えることで、植付走行よりも速い駆動力を走行部へ伝達可能となる。
【0018】
変速レバー18は、複数の操作位置を有していて、例えば、
図2に示すように、主変速操作の操作位置として、前進操作18b、中立操作18c及び後進操作18dを有し、副変速操作の操作位置として、植付操作18e及び移動操作18fを有する。なお、前進走行に対応する前進操作18bと、植付走行に対応する植付操作18eとは、同じ操作位置でよい。また、変速レバー18は、副変速操作の操作位置として、苗つぎ操作18gを有してもよい。
【0019】
植付部3は、車体部2の後方に配置され、昇降リンク機構22を介して車体部2に連結されていて、昇降リンク機構22は、車体部2に対して植付部3を昇降可能にしている。植付部3は、植付入力ケース部23と、複数(例えば、3つ)の植付ユニット24と、苗載台25と、複数のフロート26とを備える。植付部3は、苗を苗載台25から各植付ユニット24へと順次供給して、複数の植付ユニット24によって複数の条列の植付作業を行うように構成される。植付入力ケース部23は、トランスミッション12からPTO軸21を介して伝達される動力を複数の植付ユニット24へと伝達するように構成される。
【0020】
複数の植付ユニット24は、左右方向に間隔をおいて配置され、各植付ユニット24は、植付伝動ケース部27と回転ケース部28とを備えている。植付伝動ケース部27は、前部が植付入力ケース部23に連結されていて、植付入力ケース部23を介して動力が伝達される。回転ケース部28は、植付伝動ケース部27の左右両側に設けられ、植付伝動ケース部27の後部に回転可能に取り付けられる。各回転ケース部28の左右方向外側(植付伝動ケース部27側とは反対側)には、2つの植付爪29が取り付けられている。
【0021】
2つの植付爪29は、植付伝動ケース部27に対する回転ケース部28の回転軸から離間した回転ケース部28の両端側で、回転ケース部28に対して回転可能に取り付けられる。回転ケース部28が植付伝動ケース部27に対して回転することで、2つの植付爪29が回転ケース部28の回転軸の周りを回動する。このとき、各植付爪29は、苗載台25の苗マットから苗を掻き取る掻取位置と、圃場に対して苗を植え付ける植付位置とを通過しながら回動する。
【0022】
苗載台25は、複数の植付ユニット24の前上方に配置され、苗マットを載置可能に構成されている。フロート26は、植付部3の下部に揺動可能に設けられ、フロート26の下面が圃場表面に接触することにより、植付部3の植付姿勢が圃場表面に対して安定する。
【0023】
次に、トランスミッション12について
図3~
図7を参照して説明する。
【0024】
トランスミッション12において、無段変速装置30は、エンジン11からの動力を無段階に変速して有段変速装置40へと伝達するものである。例えば、無段変速装置30は、
図3~
図6に示すように、油圧式無段変速機31(HST)と、遊星歯車機構32とを備えて、油圧機械式変速機(HMT)として構成される。油圧式無段変速機31は、遊星歯車機構32に接続されていて、エンジン11からの動力を無段階に変速して遊星歯車機構32へと伝達する。遊星歯車機構32は、遊星ギア等で構成され、有段変速装置40に設けられた主変速軸41に接続されていて、油圧式無段変速機31からの動力を主変速軸41へと伝達し、主変速軸41を回転させる。
【0025】
無段変速装置30は、油圧式無段変速機31の調節駆動を行うアクチュエータ等の無段変速駆動部材33(
図8参照)を備え、無段変速駆動部材33は、制御装置4によって制御されて油圧式無段変速機31の調節駆動を行って動力を変速する。
【0026】
トランスミッション12において、有段変速装置40は、主変速軸41と、副変速軸42と、後進変速軸43と、ブレーキ44とを備えている。主変速軸41には、主変速部材45と、第1PTOギア46とが設けられ、副変速軸42には、副変速部材47と、第1伝達ギア48と、第2伝達ギア49と、第2PTOギア50とが設けられる。後進変速軸43には、後進ギア51が設けられる。
【0027】
主変速部材45は、複数の変速位置として前進位置、中立位置、後進位置を有していて、何れかの変速位置に切り替えられて、主変速軸41から伝達される動力を変速する。主変速部材45は、例えば、ボールクラッチやスライドギア等の何れの変速手段によって構成されてもよいが、本実施形態では、
図7に示すように、ボールクラッチで構成される例を示す。
【0028】
主変速部材45が、前進位置に切り替えられると、主変速軸41は主変速軸前進ギア66と接続され、動力を主変速軸前進ギア66から副変速部材47を介して副変速軸42へと伝達する。主変速部材45が、後進位置に切り替えられると、主変速軸41は主変速軸後進ギア67と接続され、動力を主変速軸後進ギア67から後進ギア51を介して後進変速軸43へと伝達する。また、後進ギア51は、副変速軸42の第1伝達ギア48に接続(噛合)され、動力を第1伝達ギア48を介して副変速軸42へと伝達する。主変速部材45が、中立位置に切り替えられると、主変速軸41は主変速軸前進ギア66と主変速軸後進ギア67との何れにも接続されず、動力を非伝達状態にする。
【0029】
主変速部材45には、切替駆動を行うアクチュエータ等の主変速駆動部材52が取り付けられ、主変速駆動部材52は、制御装置4によって制御されて主変速部材45の切替駆動を行う。例えば、ボールクラッチからなる主変速部材45は、
図7に示すように、主変速軸前進ギア66及び主変速軸後進ギア67のそれぞれに対応する2つのボール45aと、主変速駆動部材52の駆動に応じてシフトするシフタ45bと、ボール係合部材45cとを有して構成される。
【0030】
ボール係合部材45cは、主変速軸41の外周面に設けられた環状の部材である。ボール係合部材45cの外周面には、ボール45aが収容される複数の凹部を周方向に並べた凹部列45dが軸方向の2箇所に設けられている。なお、一方の凹部列45dと他方の凹部列45dとは、周方向において異なる位置に凹部を有する。
【0031】
また、主変速部材45は、主変速軸前進ギア66を有する第1スリーブ66aと、主変速軸後進ギア67を有する第2スリーブ67aとを有し、第1スリーブ66a及び第2スリーブ67aは、主変速軸41を包囲するように設けられる。主変速軸前進ギア66に対応するボール45aは、第1スリーブ66aに形成された貫通孔66bに保持され、主変速軸後進ギア67に対応するボール45aは、第2スリーブ67aに形成された貫通孔67bに保持される。
【0032】
シフタ45bは、第1スリーブ66a及び第2スリーブ67aを包囲する環状に形成され、第1スリーブ66aと第2スリーブ67aとに跨って軸方向にスライド可能に構成される。シフタ45bの内周面には、軸方向の中央に環状の空洞45eが形成されている。
【0033】
シフタ45bが中立シフト位置にシフトされると、
図7に示すように、シフタ45bの空洞45eが、第1スリーブ66aの貫通孔66bと第2スリーブ67aの貫通孔67bとに跨って配置され、各ボール45aが空洞45eに放出されるため、第1スリーブ66a及び第2スリーブ67aの何れも主変速軸41に対して固定されないので、主変速軸前進ギア66及び主変速軸後進ギア67の何れも主変速軸41に対して固定(接続)されず、主変速軸41からの動力伝達が不能となる。
【0034】
シフタ45bが中立シフト位置よりも第2スリーブ67a側の前進シフト位置にシフトされると、シフタ45bの第1スリーブ66a側の端部が第1スリーブ66aの貫通孔66bに対応して配置され、貫通孔66b内のボール45aを凹部列45dに押し込むことで、第1スリーブ66aが主変速軸41に対して固定され、主変速軸前進ギア66が主変速軸41に対して固定(接続)され、主変速軸41から副変速軸42への動力伝達が可能となる。なお、第2スリーブ67aの貫通孔67bはシフタ45bの空洞45eに対応して配置され、貫通孔67b内のボール45aは空洞45eに放出されるため、第2スリーブ67aは主変速軸41に対して固定されないので、主変速軸後進ギア67は主変速軸41に対して固定(接続)されない。
【0035】
シフタ45bが中立シフト位置よりも第1スリーブ66a側の後進シフト位置にシフトされると、シフタ45bの第2スリーブ67a側の端部が第2スリーブ67aの貫通孔67bに対応して配置され、貫通孔67b内のボール45aを凹部列45dに押し込むことで、第2スリーブ67aが主変速軸41に対して固定され、主変速軸後進ギア67が主変速軸41に対して固定(接続)され、主変速軸41から副変速軸42への動力伝達が可能となる。なお、第1スリーブ66aの貫通孔66bはシフタ45bの空洞45eに対応して配置され、貫通孔66b内のボール45aは空洞45eに放出されるため、第1スリーブ66aは主変速軸41に対して固定されないので、主変速軸前進ギア66は主変速軸41に対して固定(接続)されない。
【0036】
副変速部材47は、複数の変速位置として植付位置、移動位置を有していて、何れかの変速位置に切り替えられて、副変速軸42に伝達される動力を変速する。副変速部材47は、例えば、スライドギア等の何れの変速手段によって構成されてもよいが、本実施形態では、スライドギアで構成される例を示す。
【0037】
副変速部材47は、植付位置に対応する比較的大径の植付ギア47aと、移動位置に対応する比較的小径の移動ギア47bとを有するスライドギアで構成される。副変速部材47は、植付位置に切り替えられると、大径の植付ギア47aが主変速軸前進ギア66に接続(噛合)され、動力を比較的低速にして副変速軸42へと伝達する。副変速部材47は、移動位置に切り替えられると、小径の移動ギア47bが主変速軸前進ギア66に接続(噛合)され、動力を比較的高速にして副変速軸42へと伝達する。副変速部材47には、切替駆動を行うアクチュエータ等の副変速駆動部材53が取り付けられ、副変速駆動部材53は、制御装置4によって制御されて副変速部材47の切替駆動を行う。
【0038】
副変速軸42の第2伝達ギア49は、前輪出力軸54に設けられた前輪出力ギア55に接続(噛合)されていて、副変速軸42に伝達された動力を前輪出力ギア55を介して前輪出力軸54へと伝達する。また、副変速軸42の第1伝達ギア48は、第3伝達ギア56、第4伝達ギア57、第5伝達ギア58等を介して、後輪出力軸59に設けられた後輪出力ギア60に接続(噛合)されていて、副変速軸42に伝達された動力を後輪出力ギア60を介して後輪出力軸59へと伝達する。
【0039】
主変速軸41の第1PTOギア46は、副変速軸42の第2PTOギア50に接続(噛合)されていて、主変速軸41に伝達された動力を第2PTOギア50を介して副変速軸42へと伝達する。また、副変速軸42の第2PTOギア50は、第6伝達ギア61、第7伝達ギア62等を介して、PTO出力軸63に設けられたPTO出力ギア64に接続(噛合)されていて、副変速軸42に伝達された動力をPTO出力ギア64を介してPTO出力軸63へと伝達する。
【0040】
ブレーキ44は、副変速軸42に取り付けられ、作動することで副変速軸42の回転を制動して動力の伝達を規制する。ブレーキ44には、作動(ON)状態と非作動(OFF)状態との切替駆動を行うアクチュエータ等のブレーキ駆動部材65が取り付けられ、ブレーキ駆動部材65は、ブレーキ操作部材(図示せず)の操作に応じて、あるいは、有段変速装置40の中立位置への切替駆動に応じて、制御装置4によって制御されてブレーキ44の作動状態と非作動状態とを切り替える。
【0041】
次に、制御装置4について説明する。
図8に示すように、制御装置4は、CPU等のコンピュータで構成され、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等の記憶部5等に接続されている。
【0042】
記憶部5は、田植機1の各種構成要素及び各種機能を制御するためのプログラムやデータを記憶し、制御装置4が、記憶部5に記憶されたプログラムやデータに基づいて演算処理を実行することにより、各種構成要素及び各種機能を制御する。
【0043】
制御装置4は、記憶部5に記憶されたプログラムを実行することにより、変速制御部70(制御部)として動作する。変速制御部70は、無段変速装置30による変速や、有段変速装置40による変速を制御するものである。なお、変速制御部70は、本発明に係る変速制御方法の変速制御工程を実現する。
【0044】
変速制御部70は、無段変速装置30の変速制御として、基本的には、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作の操作状態を無段操作検出部17aによって検出し、その検出結果に基づいて無段変速駆動部材33を調節駆動して無段変速装置30を制御する。これにより、変速制御部70は、エンジン11から一対の前輪13及び一対の後輪14の走行部に向けて伝達される動力を無段階に調節する。例えば、変速制御部70は、無段操作検出部17aによって変速ペダル17の開度を検出し、変速ペダル17の開度に応じて無段変速装置30の動力を変速するように制御する。
【0045】
また、変速制御部70は、変速レバー18による有段変速装置40の切替操作が行われたことを有段操作検出部18aによって検出した場合には、走行部へ伝達される動力を減速させるように無段変速装置30を制御する。例えば、変速制御部70は、田植機1が走行している際に変速レバー18による切替操作が行われ、具体的には、変速レバー18によって前進操作18bや後進操作18dから他の操作位置への切替操作が行われたことを検出した場合に、無段変速装置30の動力を減速させることで走行部へ伝達される動力を減速させる。このとき、変速制御部70は、田植機1の走行速度に関する設定速度や、無段変速装置30の駆動速度(回転数)に関する設定速度を徐々に下げることにより、無段変速装置30の動力を徐々に減速させるとよい。
【0046】
更に、変速制御部70は、変速レバー18による有段変速装置40の切替操作が行われたことを有段操作検出部18aによって検出した場合には、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作を無効状態にする。即ち、変速制御部70は、変速ペダル17の操作状態に拘わらず、動力を減速させるように無段変速装置30を自動で制御する。
【0047】
その後、変速レバー18による切替操作に対応して、有段変速装置40の変速位置の切替駆動が完了した場合には、変速制御部70は、変速完了をディスプレイ(図示せず)等による表示やスピーカ(図示せず)等による音声出力によって作業者に報知する。更にこの場合、変速制御部70は、変速ペダル17の所定の操作に応じて、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作を有効状態にする。例えば、変速制御部70は、変速ペダル17による操作状態を無段操作検出部17aによって検出し、所定の操作として、変速ペダル17が規定値以下に戻される操作(変速ペダル17の開度が全開の30%以下になる操作)が行われた場合に、変速ペダル17を有効状態にする。
【0048】
変速制御部70は、有段変速装置40の変速制御として、基本的には、変速レバー18による有段変速装置40の切替操作の操作状態を有段操作検出部18aによって検出し、その検出結果に基づいて主変速駆動部材52や副変速駆動部材53を切替駆動して有段変速装置40を制御する。これにより、変速制御部70は、エンジン11から一対の前輪13及び一対の後輪14の走行部に向けて伝達される動力を複数の変速位置の何れかに変速する。
【0049】
例えば、変速制御部70は、変速レバー18が前進操作18b、中立操作18c、後進操作18dの何れかに切り替えられると、主変速駆動部材52によって主変速部材45を対応する前進位置、中立位置、後進位置の何れかに切り替えて有段変速装置40の動力を変速するように制御する。また、変速制御部70は、変速レバー18が植付操作18e、移動操作18fの何れかに切り替えられると、副変速駆動部材53によって副変速部材47を対応する植付位置、移動位置の何れかに切り替えて有段変速装置40の動力を変速するように制御する。なお、変速制御部70は、変速レバー18が苗つぎ操作18gに切り替えられると、主変速駆動部材52によって主変速部材45を中立位置に切り替えると共に、副変速駆動部材53によって副変速部材47を移動位置に切り替えて有段変速装置40の動力を変速するように制御する。
【0050】
本実施形態では特に、変速制御部70は、変速レバー18による有段変速装置40の切替操作が行われたことを有段操作検出部18aによって検出した場合には、田植機1の走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるまでは、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を行わずに待機する。そして、変速制御部70は、走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になることを切替条件として、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を許容する。変速制御部70は、走行部の駆動速度として、無段変速装置30が出力する動力の駆動速度を取得し、例えば、無段変速装置30の操作モータ(図示せず)の回転位置をポテンショメータ(図示せず)で検出して、その検出結果に基づいて駆動速度を取得する。なお、速度閾値として、変速に起因して駆動系へのダメージや急加減速が発生しないような速度を設定するとよい。なお、速度閾値は、0より大きい値に設定される。
【0051】
このとき、変速制御部70は、所定の速度閾値を、有段変速装置40の現在(切替前)の変速位置に応じて設定する。例えば、作業者は、有段変速装置40を現在の変速位置(例えば、前進位置又は後進位置)から中立位置を経て目標の変速位置(例えば、後進位置又は前進位置)へと切り替えるために、変速レバー18によって中立操作18cを経由する切替操作(例えば、前進操作18bから中立操作18cを経て後進操作18dに切り替える操作、又は後進操作18dから中立操作18cを経て前進操作18bに切り替える操作)を行うことがある。この場合、変速制御部70は、所定の速度閾値として走行部の駆動速度が第1速度閾値V1(例えば、0.4m/s)以下になることを切替条件として、現在の変速位置から中立位置への有段変速装置40の切替駆動を許容し、また、所定の速度閾値として走行部の駆動速度が第1速度閾値V1よりも小さい第2速度閾値V2(例えば、0.2m/s)以下になることを切替条件として、中立位置から目標の変速位置への有段変速装置40の切替駆動を許容する。あるいは、変速制御部70は、無段変速装置30の操作量(例えば、無段変速駆動部材33等のHMT操作アクチュエータの操作量)に基づいて上記と同様の切替条件を設定して、現在の変速位置から中立位置への有段変速装置40の切替駆動を許容し、また、中立位置から目標の変速位置への有段変速装置40の切替駆動を許容してもよい。
【0052】
また、変速制御部70は、変速レバー18による有段変速装置40の切替操作が行われたことを有段操作検出部18aによって検出した場合には、田植機1の走行部の駆動速度が所定の制動速度V3以下になることを制動条件として、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44を作動させるように自動で制御する。このとき、変速制御部70は、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を許容する切替条件として、走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるという上記した条件に加えて、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44が作動していることを条件とする。
【0053】
例えば、ブレーキ44に対して、ブレーキ44の作動を検出するブレーキ作動検出部44a(
図8参照)が設けられていて、変速制御部70は、ブレーキ作動検出部44aの検出結果によって、ブレーキ44が作動していることを判断する。変速制御部70は、ブレーキ44を作動させるように制御した後、有段変速装置40が変速完了すると共に、変速ペダル17の所定の操作が行われた場合に、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44の作動を解除して非作動状態にするように自動で制御する。なお、有段変速装置40が変速完了する前に、変速ペダル17の所定の操作が行われていた場合には、変速制御部70は、有段変速装置40が変速完了したときに、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44の作動を解除して非作動状態にするように制御してよい。制動速度V3は、第1速度閾値V1と同じ値でよいが、あるいは、第1速度閾値V1よりも僅かに大きい値でもよい。
【0054】
次に、田植機1において有段変速装置40の変速を行う動作例を
図9のタイミングチャート及び
図10のフローチャートを参照して説明する。
図9のタイミングチャートでは、田植機1の走行速度と、無段変速装置30の駆動速度とを対応させて重ねて示し、走行速度を一点鎖線で示す一方、駆動速度を実線で示す。また、
図9のタイミングチャートでは、変速ペダル17の開度と、変速レバー18の操作状態と、ブレーキ44の作動状態とを示す。更に、
図9のタイミングチャートでは、有段変速装置40の主変速駆動部材52の動作状態と、主変速部材45の動作状態とを対応させて重ねて示し、主変速駆動部材52の動作状態を実線で示す一方、主変速部材45の動作状態を一点鎖線で示す。
【0055】
先ず、田植機1が変速レバー18を前進操作18bにして前進走行を行っている間に(
図10のS1)、作業者が、変速レバー18を前進操作18bから中立操作18cへと切り替え(
図9のT1)、更に、後進操作18dへと切り替える(
図9のT2、
図10のS2)。
【0056】
このような変速レバー18の切替操作に応じて、変速制御部70は、変速ペダル17の操作状態に拘わらず、有段変速装置40へ伝達する動力を減速させるように無段変速装置30を自動で制御すると共に、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作を無効状態にする(
図9のT1、
図10のS3)。
【0057】
その後、走行部の駆動速度が所定の制動速度V3以下になると(
図9のT3、
図10のS4:Yes)、変速制御部70は、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44を作動させるように自動で制御する(
図10のS5)。
【0058】
更に、走行部の駆動速度が第1速度閾値V1以下になると共に(
図9のT4、
図10のS6:Yes)、ブレーキ44の作動を検出すると、変速制御部70は、現在の変速位置である前進位置から中立位置への有段変速装置40の切替駆動を許容して、主変速駆動部材52を切替駆動して主変速部材45を前進位置から中立位置へと変速する(
図10のS7)。
【0059】
また更に、走行部の駆動速度が第2速度閾値V2以下になると共に(
図9のT5、
図10のS8:Yes)、ブレーキ44の作動を検出すると、変速制御部70は、中立位置から後進位置への有段変速装置40の切替駆動を許容して、主変速駆動部材52を切替駆動して主変速部材45を中立位置から後進位置へと変速する(
図10のS9)。
【0060】
そして、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動が完了して変速完了すると、変速制御部70は、変速完了を作業者に報知する(
図9のT6、
図10のS10)。
【0061】
また、変速完了した後、開度が規定値以下になるように変速ペダル17が操作されると(
図9のT7、
図10のS11:Yes)、変速制御部70は、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作を有効状態にすると共に、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44の作動を解除して非作動状態にするように自動で制御する(
図10のS12)。あるいは、変速制御部70は、変速ペダル17による無段変速装置30の調節操作を有効状態にした後で、変速ペダル17の加速操作量や無段変速駆動部材33等のHMT操作アクチュエータの操作量が所定の閾値以上となることをブレーキ44の解除条件としてもよい。
【0062】
変速制御部70は、有段変速装置40の切替駆動を許容した後、有段変速装置40の切替駆動の完了を発進条件として、走行部の発進を許容する(
図9のT8)。ここで、有段変速装置40の切替駆動の完了とは、主変速部材45の目標位置(後進位置)への切替駆動が完了した場合、例えば、ボールクラッチである主変速部材45のシフタ45bを、目標変速ギア(主変速軸後進ギア67)に対応するボール45aを主変速軸41に固定する目標シフト位置(後進シフト位置)へのシフトを完了することで、目標変速ギア(主変速軸後進ギア67)を主変速軸41に対して固定して、主変速軸41から目標変速軸(後進変速軸43)への動力伝達が可能なった場合でよい。
【0063】
あるいは、他の例として、有段変速装置40の切替駆動の完了とは、主変速駆動部材52によって主変速部材45を目標位置(後進位置)に駆動するための主変速駆動部材52の目標切替位置(後進切替位置)への切り換えが完了した場合でもよい(
図11のT6’)。
図11では、
図9と同様に、田植機1において有段変速装置40の変速を行う動作例を示すタイミングチャートであって、有段変速装置40の動作例のみを示す。この場合、主変速駆動部材52のアクチュエータを構成する操作ロッドのたわみ等により、主変速部材45の目標位置(後進位置)への切替駆動は完了していなくてもよく、例えば、ボールクラッチである主変速部材45のシフタ45bが、目標シフト位置(後進シフト位置)へのシフトを完了していなくてもよい。
【0064】
若しくは、有段変速装置40の切替駆動の完了とは、主変速部材45の目標位置(後進位置)への駆動をスムーズに行うために、主変速駆動部材52を正規の目標切替位置(後進切替位置)よりも多めに操作して、主変速部材45の目標位置(後進位置)への駆動が完了した後で、主変速駆動部材52を正規の目標切替位置(後進切替位置)へと戻すようなときには、主変速駆動部材52が一度目に正規の目標切替位置(後進切替位置)に停止する場合でもよい(
図12のT6’’)。
図12では、
図9と同様に、田植機1において有段変速装置40の変速を行う動作例を示すタイミングチャートであって、有段変速装置40の動作例のみを示す。
【0065】
また、変速制御部70は、走行部の発進条件として、有段変速装置40の切替駆動の完了と共に、他の条件を加えてもよい。例えば、変速制御部70は、他の条件として、走行部の停止を発進条件に加えてもよい。あるいは、変速制御部70は、他の条件として、所定の速度閾値からさらに減速することを発進条件に加えてもよい。
【0066】
上記のように、本実施形態によれば、作業車両の例である田植機1は、複数の変速位置の何れかに切り替えられて、エンジン11(動力源)から前輪13や後輪14である走行部へと伝達する動力を変速する有段変速装置40と、有段変速装置40の切替操作を受け付ける変速レバー18(有段変速操作部)と、変速レバー18による切替操作の検出結果に基づいて有段変速装置40の切替駆動を制御する変速制御部70とを備える。変速制御部70は、変速レバー18による切替操作に応じて走行部の減速を開始し、走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるまでは、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を待機する一方、走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になることを切替条件として、変速レバー18による切替操作に対応した有段変速装置40の切替駆動を許容する。
【0067】
これにより、田植機1は、有段変速装置40の切替操作を行っても、減速してから切替駆動を行うことで、駆動系へのダメージや急加減速を抑制することができ、有段変速時の安全性を向上することができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、田植機1において、変速制御部70は、有段変速装置40の切替駆動を許容した後、有段変速装置40の切替駆動の完了を発進条件として、走行部の発進を許容する。
【0069】
これにより、田植機1では、有段変速装置40の変速を行った場合に、安全に走行を開始することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、田植機1において、変速制御部70は、速度閾値を、有段変速装置40の現在の変速位置及び/又は目標の変速位置に応じて設定する。
【0071】
これにより、田植機1では、有段変速装置40がスムーズに変速可能な駆動速度は、変速位置によって異なるところ、有段変速装置40は、変速位置毎に最適なタイミングで切替駆動を開始することで変速時間を短縮することができる。また、有段変速装置40は、変速位置に応じて駆動速度に対応する速度閾値を異ならせることで、有段変速時の操作性を向上することができる。
【0072】
例えば、本実施形態では、有段変速装置40は、変速位置として走行部への動力を非伝達状態にする中立位置を有し、変速制御部70は、有段変速装置40を現在の変速位置から中立位置を経て目標の変速位置へと切り替えるために変速レバー18による切替操作が行われた場合、速度閾値として走行部の駆動速度が第1速度閾値V1以下になることを切替条件として、現在の変速位置から中立位置への有段変速装置40の切替駆動を許容し、速度閾値として走行部の駆動速度が第1速度閾値V1よりも小さい第2速度閾値V2以下になることを切替条件として、中立位置から目標の変速位置への有段変速装置40の切替駆動を許容する。
【0073】
田植機1では、有段変速装置40の切替駆動において、駆動速度が略0になっていないと主変速部材45の接続やその他のギアの噛合に起因して問題が生じる可能性があるが、中立位置に切替駆動する場合にはこのような問題が発生しないため、本実施形態によれば、駆動速度が0になる前に中立位置に切替駆動することで、変速時間を短縮することができる。また、中立位置を経て目標の変速位置へと切替駆動する場合には、駆動速度が0になる前に中立位置に切替駆動して目標の変速位置に近づいておくことで、駆動速度が0になる前に目標の変速位置へと切替駆動することができ、変速時間を更に短縮することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、田植機1は、走行部へ伝達される動力を調節する無段変速装置30と、無段変速装置30の調節操作を受け付ける変速ペダル17(無段変速操作部)とを更に備える。変速制御部70は、変速レバー18による切替操作の検出結果に基づいて無段変速装置30により走行部へ伝達される動力を減速させる。
【0075】
これにより、田植機1では、有段変速装置40の切替駆動が可能になる駆動速度の速度閾値まで無段変速装置30によって減速させることで作業者の操作負担を軽減することができ、有段変速時の操作性を向上することができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、田植機1は、走行部を制動するためのブレーキ44と、ブレーキ44を作動させるためのブレーキ駆動部材65とを更に備える。変速制御部70は、変速レバー18による切替操作が行われた後、走行部の駆動速度が所定の制動速度V3以下になることを制動条件として、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44を作動させる。
【0077】
更に、変速制御部70は、ブレーキ駆動部材65によってブレーキ44が作動していることを切替条件として、有段変速装置40の切替駆動を許容する。
【0078】
これにより、田植機1では、目標の変速位置に変速駆動した瞬間に、具体的には、坂道において中立位置から目標の変速位置に変速駆動した瞬間に、車両が動き始めることを抑制することができ、有段変速時の安全性を向上することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、田植機1において、変速制御部70は、変速レバー18による切替操作に応じて、変速ペダル17による調節操作を無効状態にし、有段変速装置40の切替駆動が完了した後、変速ペダル17の所定の操作に応じて、変速ペダル17による調節操作を有効状態にする。
【0080】
これにより、田植機1では、変速ペダル17を操作したまま有段変速装置40の切替駆動を完了したときでも、変速ペダル17が無効状態であるため、走行部の急激な発進を抑制することができ、有段変速時の安全性を向上することができる。また、有段変速装置40の切替駆動を完了したときには、変速ペダル17の所定の操作を要するため、作業者の意図に応じて走行部を発進させることができ、有段変速時の操作性を向上することができる。
【0081】
なお、上記した実施形態では、田植機1において、有段変速装置40が複数の変速位置として、前進位置、中立位置、後進位置を有する例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。他の例として、有段変速装置40は、複数の変速位置として、低速位置、中速位置、高速位置等を有して構成されてもよい。
【0082】
上記した実施形態では、本発明の作業車両が、田植機1で構成される例を説明したが、本発明はこの例に限定されず、本発明の作業車両は、トラクタ、コンバイン、草刈機等の他の農作業機や、農作業機以外の他の作業車両で構成されてもよい。
【0083】
なお、本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う作業車両もまた本発明の技術思想に含まれる。
【0084】
〔発明の付記〕
以下、上述の実施形態から抽出される発明の概要について付記する。なお、以下の付記で説明する各構成及び各処理機能は取捨選択して任意に組み合わせることが可能である。
【0085】
<付記1>
複数の変速位置の何れかに切り替えられて、動力源から走行部へと伝達する動力を変速する有段変速装置と、
前記有段変速装置の切替操作を受け付ける有段変速操作部と、
前記有段変速操作部による切替操作の検出結果に基づいて前記有段変速装置の切替駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作に応じて前記走行部の減速を開始し、前記走行部の駆動速度が所定の速度閾値以下になるまでは、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を待機する一方、前記走行部の駆動速度が前記所定の速度閾値以下になることを切替条件として、前記有段変速操作部による切替操作に対応した前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする作業車両。
【0086】
<付記2>
前記制御部は、前記有段変速装置の切替駆動を許容した後、前記有段変速装置の切替駆動の完了を発進条件として、前記走行部の発進を許容することを特徴とする付記1に記載の作業車両。
【0087】
<付記3>
前記制御部は、前記速度閾値を、前記有段変速装置の現在の前記変速位置及び/又は目標の前記変速位置に応じて設定することを特徴とする付記1又は2に記載の作業車両。
【0088】
<付記4>
前記有段変速装置は、前記変速位置として前記走行部への動力を非伝達状態にする中立位置を有し、
前記制御部は、前記有段変速装置を現在の前記変速位置から前記中立位置を経て目標の前記変速位置へと切り替えるために前記有段変速操作部による切替操作が行われた場合、前記速度閾値として前記走行部の駆動速度が第1速度閾値以下になることを前記切替条件として、現在の前記変速位置から前記中立位置への前記有段変速装置の切替駆動を許容し、前記速度閾値として前記走行部の駆動速度が前記第1速度閾値よりも小さい第2速度閾値以下になることを前記切替条件として、前記中立位置から目標の前記変速位置への前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする付記3に記載の作業車両。
【0089】
<付記5>
前記走行部へ伝達される動力を調節する無段変速装置と、
前記無段変速装置の調節操作を受け付ける無段変速操作部と、を更に備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作の検出結果に基づいて前記無段変速装置により前記走行部へ伝達される動力を減速させることを特徴とする付記1~4の何れかに記載の作業車両。
【0090】
<付記6>
前記走行部を制動するためのブレーキと、
前記ブレーキを作動させるためのブレーキ駆動部材と、を更に備え、
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作が行われた後、前記走行部の駆動速度が所定の制動速度以下になることを制動条件として、前記ブレーキ駆動部材によって前記ブレーキを作動させることを特徴とする付記1~5の何れかに記載の作業車両。
【0091】
<付記7>
前記制御部は、前記ブレーキ駆動部材によって前記ブレーキが作動していることを前記切替条件として、前記有段変速装置の切替駆動を許容することを特徴とする付記6に記載の作業車両。
【0092】
<付記8>
前記制御部は、前記有段変速操作部による切替操作に応じて、前記無段変速操作部による調節操作を無効状態にし、前記有段変速装置の切替駆動が完了した後、前記無段変速操作部の所定の操作に応じて、前記無段変速操作部による調節操作を有効状態にすることを特徴とする付記5に記載の作業車両。
【符号の説明】
【0093】
1 田植機(作業車両)
2 車体部
3 植付部
4 制御装置
11 エンジン(動力源)
12 トランスミッション
13 前輪(走行部)
14 後輪(走行部)
17 変速ペダル(無段変速操作部)
18 変速レバー(有段変速操作部)
30 無段変速装置
33 無段変速駆動部材
40 有段変速装置
44 ブレーキ
45 主変速部材
47 副変速部材
52 主変速駆動部材
53 副変速駆動部材
65 ブレーキ駆動部材
70 変速制御部(制御部)