(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106766
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】スピンドルモーター
(51)【国際特許分類】
G11B 33/12 20060101AFI20240801BHJP
G11B 33/14 20060101ALI20240801BHJP
G11B 19/20 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G11B33/12 313T
G11B33/14 501A
G11B33/14 501D
G11B33/12 313C
G11B19/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011199
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】長南 真理
(57)【要約】
【課題】熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置において、装置内部の酸素の消費を抑制できる、ベース部材を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が塗膜で覆われたベース部材であって、前記塗膜は、オーバーベークされたエポキシ樹脂含有電着塗装膜である、熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材、前記ベース部材を備えたスピンドルモーター、並びに前記ベース部材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が塗膜で覆われたベース部材であって、
前記塗膜は、オーバーベークされたエポキシ樹脂含有電着塗装膜である、
熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材。
【請求項2】
前記塗膜は、5H以上の鉛筆硬度を有することを特徴とする、
請求項1に記載の熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材。
【請求項3】
前記塗膜は、60°の入射角に対する光沢度が10以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材。
【請求項4】
前記塗膜は、ベンゼン環含有エポキシ樹脂とケイ酸アルミニウム成分を含む顔料とを含み、
前記塗膜のフーリエ型赤外分光測定により得られた吸光スペクトルにおいて、下記式(1)を用いて算出されるピーク強度の比x:
x=Ipolymer/Ipigment (1)
の値が0.8以下である(ここでIpolymerはベンゼン環由来の吸光度に該当する波数のピーク強度の値、Ipigmentはケイ酸アルミニウム成分を含む顔料由来の吸光度に該当する波数のピーク強度の値を表す。)、
請求項1に記載の熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のベース部材を備えたスピンドルモーター。
【請求項6】
請求項5に記載のスピンドルモーターを備えた熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置。
【請求項7】
熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材の製造方法であって、
エポキシ樹脂含有塗料の電着塗装によりベース部材の少なくとも一部を塗装し、オーバーベークにより加熱硬化して塗膜とする、成膜・加熱工程を含む、
熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材の製造方法。
【請求項8】
前記成膜・加熱工程におけるオーバーベークが、250℃以上の温度で実施される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材の製造方法であって、
エポキシ樹脂含有塗料の電着塗装によりベース部材の少なくとも一部を塗装し、加熱硬化して塗膜とする、成膜・第一加熱工程と、
前記塗膜を前記第一加熱工程よりも高い温度でオーバーベークにより加熱する、第二加熱工程とを含む、
熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材の製造方法。
【請求項10】
前記第二加熱工程におけるオーバーベークが、250℃以上の温度で実施される、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置などの電子機器のベース部材に関し、また上記ベース部材を用いたスピンドルモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク駆動装置のベース部材(ベースプレートとも称する)は、一般にアルミニウムをダイカスト鋳造して製造され、またベース部材の表面から塵埃等が発生するのを防止するために、ベース部材の表面には電着塗装が施されている。
ベース部材の電着塗装は、従来のディスク駆動措置のみならず、例えば装置内部にヘリウムガスなどの低密度の気体を封入してなる密封型のディスク駆動装置や、次世代記録技術である熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたディスク駆動装置等にも施される(特許文献1、非特許文献1等)。
また非特許文献1には、HAMR方式のように読み書きヘッドの先端温度が数百℃となるディスク駆動装置において、読み書きエラーの一因となり得る記録ディスク上の有機不純物(例えば上記の揮発した成分等)の分解に酸素の存在が有用である旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Smear and Decomposition Mechanism of Magnetic Disk PFPE Lubricant film by Laser Heating in Air and Helium Conditions(Tribology online Vol. 15, No. 3 (2020) 186-193.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に示されるように、HAMR方式のディスク駆動装置において装置内の酸素の存在によって有機不純物の分解が期待できるものの、高温下では不純物の分解前に装置内に存在する有機化合物の酸化が起こり得、これがディスク内に存在する酸素を先に消費する可能性は否めない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、特に熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置において、装置内部の酸素の消費を抑制できる、ベース部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、少なくとも一部が塗膜で覆われたベース部材であって、前記塗膜がオーバーベークされたエポキシ樹脂含有電着塗装膜であることを特徴とする、熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材に関する。
また本発明は、前記ベース部材を備えたスピンドルモーター及び該スピンドルモータを備えた熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置に関する。
さらに本発明は、前記ベース部材の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るベース部材の一例を説明する模式図であり、(a)平面図、(b)斜視図をそれぞれ示す。
【
図2】本発明のスピンドルモーターの要部構造の一例を説明する概念図である。
【
図3】本発明のスピンドルモーターを搭載した駆動装置(ディスク駆動装置)の構造の一例を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、実施例において測定した、フーリエ変換型赤外分光測定による、ベース部材の塗膜の吸光スペクトルを示す図である(
図4(A):オーバーベーク前、
図4(B):オーバーベーク後(285℃、60分間))。
【発明を実施するための形態】
【0009】
HDD(ハードディスクドライブ)の読み書きエラーの発生原因として、ディスク駆動装置のスピンドルモーターに内蔵される軸受に封入された潤滑剤成分、例えば基油の揮発が挙げられる。揮発した基油が冷却されて磁気ディスク表面や磁気ヘッド上で凝結し、液体又は固体としてこれらに付着した場合、磁気ディスクと磁気ヘッドが吸着を起こすなどして正常な読み書きができなくなり、これが読み書きエラーの一原因になると考えられている。そのため、これまでにもHDDのアクチュエータやスピンドルモーターに使用される潤滑剤においては、HDDの読み書きエラーの一要因と考えられている潤滑剤成分の揮発(アウトガス発生等)の抑制を図った提案がなされてきた。
しかしながら、一般的に用いられる潤滑剤成分の揮発を抑制しても、揮発それ自体を無くすことはできない。特に近年の記録密度の向上に伴い、フライハイト(磁気ヘッドとディスクとの距離)は数nm程度まで小さくなっている。この場合、磁気ヘッドとディスクとの間が負圧状態となり、周囲の気体が磁気ヘッドとディスクとの間に向かい、圧縮されることが考えられる。そして圧縮された気体が凝縮され、微量な揮発成分も液化する可能性がある。また近年HDD1台当たりの記録容量の増大に伴い、装置内のディスク枚数が増え、3.5インチ径のディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置も発売されるようになっている。このような装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。このように空間容積が小さく、さらにはフライハイトが数nmオーダーの環境下では、微量のコンタミネーションでさえ読み書きエラーにつながる可能性がある。
また、空気よりも密度の小さい気体(例えばヘリウム等)で内部空間が満たされているディスク駆動装置も普及し始めている。このようなディスク駆動装置では、装置内部の気圧が1気圧よりも小さいことがある。その場合は、潤滑剤成分の揮発の抑制がより難しくなる。
特に、次世代記録技術である熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたHDDの場合、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。これにより、HDD内部温度が上昇し、低揮発性の基油を用いた場合でも潤滑剤成分の揮発量を低減できない可能性がある。
【0010】
本発明者らは、前述の知見、すなわちHAMR方式のディスク駆動装置では装置内部に存在する酸素によって有機不純物が分解され得、読み書きエラーの抑制につながることが期待できる点に着目した。そして、HAMR方式のように400℃もの高温下となる環境下では、有機不純物の分解のみならず、装置内に存在する他の有機化合物が酸化されて酸素を消費し得、結果として有機不純物の分解が不十分となり、ディスク上への付着が避けられなくなる可能性について検討した。
さらに本発明者らは、酸素を消費する他の有機化合物の一候補として、塵埃防止のために施されるベース部材の塗装(塗膜)に着目し、ベース部材の塗膜が酸素を消費しない(酸素の取り込み防止)という着想に基づき、塗膜の構成を再検討した。
そして、化学的に塗膜の構造を変化させる態様として、オーバーベークされた塗膜、例えばオーバーベークされた電着塗装膜の態様がこの着想を実現し得る可能性に至り、このとき、所定以上の鉛筆硬度や所定以下の光沢度を有してなる態様、さらに、該塗膜をフーリエ型赤外分光測定に供した際に該塗膜に含まれる樹脂由来のピーク強度と顔料由来のピーク強度の比が特定の範囲にある態様を想到するに至った。
【0011】
電着塗装膜のオーバーベークと、酸素取り込み量抑制のメカニズム、また膜の硬度や光沢度、赤外分光測定より得られる膜を構成する樹脂と顔料のピーク強度比との関連については種々の要因が考えられる。
例えば、樹脂等を含有する膜のオーバーベークは、所定のベークに比べ、より多くの架橋(結合)が形成される可能性がある。そしてオーバーベークによって(架橋が形成され)架橋形成可能な箇所が減少する結果、例えば架橋形成に寄与する酸素原子の取り込みの抑制につながると考えられる。こうしたオーバーベークによる架橋(結合)の形成は、塗膜の硬度上昇につながると考えられる。
またオーバーベークは、塗膜を構成する分子間に存在していた架橋(結合)を再び断裂(切断)させる可能性がある。この結合の切断位置によって、塗膜の光吸収波長や吸収光量に変化が生じ得る。結果、オーバーベーク前と比べて塗膜の色度に変化が生じ得、また光沢度が減少する、あるいはまた、吸光度スペクトルに変化が生じると考えられる。
本発明者らは、電着塗装膜を施したベース部材を高温でオーバーベーク処理した結果、膜の硬度が上昇し、また光沢度が減少する現象、そして、フーリエ型赤外分光分析において樹脂由来のピーク強度と顔料由来のピーク強度の比に変化が生じる現象を確認し、これら事象の関連性に着目した。そして塗膜を施したベース部材において、塗膜の硬度・光沢度、あるいはまた前記ピーク強度比が所定範囲となった場合にオーバーベークされた塗膜との判断が可能となると想定した。そして上述したようにオーバーベーク後の膜は酸素取り込み量(酸素の消費量)が抑制され得ることから、上記のHMAR方式のディスク駆動装置における有機不純物の分解への影響が抑制され、最終的に読み書きエラーの抑制を実現できる可能性に思い至った。
以下、本発明に係るベース部材について詳述する。
【0012】
本発明に係るベース部材(ベースプレート、ベース基体とも称する)は、熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材を対象とし、その少なくとも一部が塗膜で覆われてなる。
【0013】
前記塗膜は、オーバーベークされた電着塗装膜であり、このとき該電着塗装膜はエポキシ樹脂を含む膜である。
ここでオーバーベークとは、所望の架橋(すなわち硬化)のために必要とされるエネルギーよりも高いエネルギーを供給することによって、塗膜形成材料(コーティング材料)を焼付けることと理解することができる。オーバーベークは、過度の加熱(焼付け)時間及び/又は加熱(焼付け)温度によって引き起こされ得る。
例えばエポキシ樹脂を含む膜では、コーティング材料に要求される加熱(焼付け)温度が5℃、より特には10℃以上超えた場合、及び/又は、加熱(焼付け)時間が20%以上超えた場合、オーバーベークが起こると推定される。オーバーベークの条件として加熱(焼付け)温度を採用することでオーバーベークが早く進行することが期待できるため、工業的には有利と言える。
【0014】
前記塗膜は5H以上、より好ましくは6H以上の鉛筆硬度を有するか、或いはまた、前記塗膜は60°の入射角に対する光沢度が10以下、より好ましくは6以下であるものとすることができる。
【0015】
ベース部材の塗膜は、電着塗装にて形成され、ここで用いる塗膜形成材料は、例えばエポキシ樹脂を含有する樹脂を含む塗膜形成材料(塗料)を使用できる。一実施態様において、エポキシ系樹脂やエポキシ-ポリアミド系樹脂を含む塗料を用いることができる。例えばエポキシ樹脂を含むカチオン電着塗料を用い、ベース部材の製造に一般に用いられる電着塗装法を採用して、塗膜を形成できる。
これら塗料には、着色顔料や体質顔料、防錆顔料等の顔料が含まれ得る。前記着色顔料
として、黒色顔料としてはカーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラック等が、白色顔料としてはチタン白、亜鉛華、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白等が用いられる。また前記体質顔料として、例えば、クレー、マイカ、バリタ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、アルミナホワイト、ケイ酸アルミニウム等が用いられる。また前記防錆顔料として、例えば、リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、亜鉛華などが挙げられる。
【0016】
本発明にあっては、特に前記オーバーベークされた電着塗装膜がベンゼン環含有のエポキシ樹脂とケイ酸アルミニウム成分を含む顔料を含む塗膜であって、該塗膜をフーリエ型赤外分光測定により吸光スペクトルを測定した際、得られた吸光スペクトルから下記式(1)を用いて算出されるピーク強度の比xの値が0.8以下、より好ましくは0.6以下であることが望ましい。
x=Ipolymer/Ipigment (1)
ここでIpolymerは前記樹脂のベンゼン環由来の吸光度に該当する波数のピーク強度の値、Ipigmentはケイ酸アルミニウム成分を含む顔料由来の吸光度に該当する波数のピーク強度の値を表す。
Ipolymerは、例えば、樹脂として、ベンゼン環を含むエポキシ樹脂を使用した場合には波数1490cm-1~1520cm-1付近におけるピーク強度(例えば波数1500cm-1における強度はI1500とも称する、以下同じ)を採用できる。
またIpigmentは、例えば、顔料としてケイ酸アルミニウム成分を含む顔料を用いた場合には波数995cm-1~1010cm-1付近におけるピーク強度(例えば波数1000cm-1における強度はI1000と称する)を採用できる。
なお吸光スペクトルは、ダイヤモンドクリスタル(プリズム)を用いたAttenuated Total Reflection(ATR、減衰全反射)法により、ベース部材に形成した塗膜の赤外分光(IR)吸光スペクトルを直接測定する。ATR法では試料とプリズムの屈折率の差によってスペクトルの形状が変更され、透過法で測定したデータと比較する場合には特に、ATR補正を行うことが一般的である。また赤外分光法(IR法)による測定では試料測定の直前にバックグラウンド(試料無し)測定を行い、大気によるバックグラウンドの影響を排除することが一般的である。
【0017】
本発明に係る熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材は、一例として以下の工程を含みて製造することができる。
(A)エポキシ樹脂含有塗料の電着塗装によりベース部材の少なくとも一部を塗装し、オーバーベークにより加熱硬化して塗膜とする、成膜・加熱工程。
【0018】
(A)成膜・加熱工程は、ベース部材の少なくとも一部を電着塗装により塗装し、塗装した膜をオーバーベークにより加熱硬化させる工程である。
前記塗装は、エポキシ樹脂を含む塗料で実施される。エポキシ樹脂を含む塗料として、例えばエポキシ系樹脂やエポキシ-ポリアミド系樹脂を含む塗料を用いることができるが、これらに限定されない。また該塗料には、前述した着色顔料や体質顔料、防錆顔料等の顔料が含まれ得る。
(A)工程において、加熱温度や時間の条件は、塗装した塗料がオーバーベークにより加熱硬化する温度、すなわち前述したように、所望の硬化のために必要とされるエネルギーよりも高いエネルギーを供給できる温度や時間の条件であればよく、塗料の種類によって適宜選択され得る。例えば200℃以上、あるいはまた、250℃以上の温度でオーバーベークを実施することができる。
一実施態様において、エポキシ樹脂を含むカチオン電着塗料:エポキシ系樹脂やエポキシ-ポリアミド系樹脂を溶解した液(電着塗料)中にベース部材を浸漬し、電流を流してベース部材に樹脂を付着させた後に乾燥し、例えば250℃以上の温度による加熱にてオーバーベークし、樹脂を熱硬化させることができる。ただし塗膜の構成材料によって、例
えばエポキシ樹脂を含む塗膜の場合、300℃以上となると塗膜が熱分解を起こし得る可能性があるため、注意を要する。
オーバーベークを経ることにより、塗膜の硬度が上昇し、或いは塗膜の光沢度が減少する。すなわち5H以上の鉛筆硬度、或いは、60°の入射角に対する光沢度が10以下である塗膜を得ることができる。またオーバーベークを経ることにより、前記塗膜のフーリエ型赤外分光測定により得られた吸光スペクトルにおいて、ピーク強度の前記比x(=Ipolymer/Ipigment)の値が0.8以下である塗膜を得ることができる。なお、オーバーベークの条件をより高温及び/またはより長時間とすることで、6H以上の鉛筆硬度、或いは、60°の入射角に対する光沢度が6以下である塗膜を得ることもでき、ピーク強度の前記比x(=Ipolymer/Ipigment)の値が0.6以下である塗膜を得ることもできる。
【0019】
本発明に係る熱アシスト磁気記録方式のディスク駆動装置用のベース部材はまた、一例として以下の工程を含みて製造することができる。
(1)エポキシ樹脂含有塗料の電着塗装によりベース部材の少なくとも一部を塗装し加熱硬化して塗膜とする、成膜・第一加熱工程、及び
(2)前記塗膜を前記第一加熱工程よりも高い温度でオーバーベークにより加熱する、第二加熱工程。
【0020】
(1)成膜・第一加熱工程はベース部材の少なくとも一部を電着塗装により塗装し、塗装した膜を加熱硬化させる工程である。
前記塗装は、例えば前述の(A)工程で言及した塗料を用いて実施され得る。
(1)工程において、加熱温度や時間の条件は、塗装した塗料が硬化する温度・時間であればよく、塗料の種類によって適宜選択され得る。例えば200℃程度の温度で塗膜の加熱を実施することができるが本条件に限定されない。
一実施態様において、エポキシ樹脂を含むカチオン電着塗料:エポキシ系樹脂やエポキシ-ポリアミド系樹脂を溶解した液(電着塗料)中にベース部材を浸漬し、電流を流してベース部材に樹脂を付着させた後に乾燥し、加熱して樹脂を熱硬化させることができる。
【0021】
(2)第二加熱工程は、第一加熱工程よりも高い温度で塗膜を加熱する、すなわちオーバーベーク工程である。
本工程は、例えば250℃以上の温度で実施することができる。ただし塗膜の構成材料によって、例えばエポキシ樹脂を含む塗膜の場合、300℃以上となると塗膜が熱分解を起こし得る可能性があるため、注意を要する。
本工程により、オーバーベークされた塗膜が得られ、前述の鉛筆硬度、光沢度、また特定の強度比xを有する塗膜を得ることができる。
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明のベース部材、またスピンドルモーター及びスピンドルモーターを搭載したディスク駆動装置の好ましい実施形態について説明する。なお下記に示す種々の実施形態は本発明の例示的な実施形態であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
[ベース部材]
図1は本発明の一実施形態であるベース部材の構成を説明するための模式図であり、
図1(a)が平面図、
図1(b)が斜視図を示す。
図1に示すように、ベース部材10は略矩形箱状を有し、すなわち短辺と長辺とを有する長方形板状の底部11と、底部11の周囲に底部11と直交する方向に延びる側壁部12が形成されて構成されてなる。ベース部材10は、一般にアルミニウムのダイカスト鋳造により製造され、本発明にあっては前述の所定の塗膜が設けられている。
前記側壁部12は、ハードディスクの形状に沿った内周面形状を有する円形部13と、
ハードディスクに対するデータの書込みと読取りを行う機構を収容する矩形状をなす矩形部14とを備えている。なおダイカスト鋳造したままの状態では、円形部13と矩形部14の内周面には、金型の抜き勾配に対応して上方に向け僅かに拡開するように傾斜が付けられている。そのうちの円形部13の内周面(ディスク対向面)には機械加工が施され、底部11と直交する加工面(加工部)13aとされている。加工面13aは、ハードディスクの外周端から所定の一様な距離を有している。
【0024】
図中、軸15はベース部材10をハードディスク駆動装置に用いるときに使用する軸であり、支柱18はハードディスク駆動装置のデータの読み書き機構を固定する支柱である。
これら軸15および支柱18は、一例として、ベース部材10の底部11にネジ孔を形成し、軸15および支柱18をネジ孔に取り付け、ベース部10の底部11に形成した凹部や貫通孔に軸15および支柱18を圧入固定する構成とすることができる。
あるいはまたベース部材10が、内部にヘリウムガスなどの低密度気体を封入するハードディスク駆動装置に用いられる場合、軸15および支柱18は、ガス漏洩防止のためにベース部材10と一体的にダイカスト鋳造することができる。
【0025】
[スピンドルモーター]
図2は本発明の一実施形態であるスピンドルモーターを説明するための模式図である。
図2に示すように、スピンドルモーター20は、コンピュータに使用される磁気ディスクや光ディスク等を備えたデータ記憶装置を駆動するためのモータとして使用される。全体的には、ステータアッシー21とロータアッシー22とから構成されている。なお、
図2のスピンドルモーター20は軸回転型のモータであるが、本発明は軸固定型のモータにも適用可能である。
【0026】
ステータアッシー21は、データ記憶装置の筐体を構成するハウジング:すなわちべース部材10に上方に向けて突出するように設けられた円筒部23に固定されている。円筒部23の外周部には、ステータコイル27が捲回されたステータコア26が嵌着されて取り付けられている。
【0027】
ロータアッシー22は、ロータハブ28を有し、このロータハブ28は、軸部29の上端部に固定されており、軸部29と共に回転する。軸部29は、軸受部材であるスリーブ25内に挿入され、このスリーブ25により回転可能に支承されている。スリーブ25は、円筒部23の内部に嵌入されて固定されている。ロータハブ28の下方円筒部28aは、ハウジングであるベース部材10の内側で回転するが、この下方円筒部28aの内周面には、バックヨーク31が装着されており、さらにこのバックヨーク31の内側にはロータマグネット32が嵌入固定されていて、N極及びS極の複数極に着磁されている。
【0028】
ステータコイル27に通電すると、ステータコア26により磁場が形成され、この磁場が、該磁場内に配置されたロータマグネット32に作用して、ロータアッシー22が回転することとなる。ロータアッシー22のロータハブ28の中間円筒部33の外周面には、データ記憶装置の記憶部をなす記録ディスク、例えば磁気ディスク(図示されず)が装着され、スピンドルモーター20の作動により回転、あるいは停止して、(図示されない)記録用ヘッドにより情報の書き込み・データ処理が行われる。
【0029】
このような実施態様のスピンドルモーター20において、スリーブ25が軸部29を回転可能に支承する部分には、流体動圧軸受24が提供されている。
スリーブ25の下端部には、下方に向けて開口する大径の第1の凹部34が形成されており、さらにこの第1の凹部34の頂面には、小径の第2の凹部35が形成されている。大径の第1の凹部34には、カウンタープレート(スラスト受板)36が嵌合され、溶着
・接着等の手段によりそこに固着されており、スリーブ25内が気密状態となるようにされている。
【0030】
軸部29の下端部には、スラストワッシャ37が嵌合、圧入されて固定されており、このスラストワッシャ37は、スリーブ25の第2の凹部35内で、カウンタープレート36及び第2の凹部35の頂面と対向して、軸部29とともに回転するように配置されている。
【0031】
スリーブ25と軸部29との間の隙間、スラストワッシャ37と第2の凹部35との間の隙間、スラストワッシャ37及び軸部29とカウンタープレート36との隙間は互いに連通しており、この連通隙間には、流体動圧軸受油30が封入されている。流体動圧軸受油30はスリーブ25と軸部29との間から注入される。
【0032】
軸部29に対向するスリーブ25の内周面には、動圧を発生させる第1のラジアル動圧溝38および第2のラジアル動圧溝39が軸方向に離間して形成されている。このラジアル動圧溝38および39は、軸部29の回転により、軸部29とスリーブ25がラジアル方向に非接触状態となる動圧を発生させる。また、スラストワッシャ37の上端面と対向する第2の凹部35の頂面およびスラストワッシャ37の下端面と対向するカウンタープレート36の上端面にはそれぞれ第1のスラスト動圧溝40および第2のスラスト動圧溝41が形成されている。このスラスト動圧溝40および41は、軸部29の回転により、スラスト方向に軸部29を安定的に浮上させるための動圧を発生させる。これら動圧溝の作用により、軸部29はスリーブ25に対して非接触状態で安定的に高速回転することができる。動圧溝としてはヘリングボーン溝、スパイラル溝などの公知のパターンを用いることができる。
【0033】
[ディスク駆動装置]
図3は、本実施形態に係るスピンドルモーターを用いたディスク駆動装置40の全体構成を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態であるディスク駆動装置40は、前述した略矩形箱状のベース部材10(基台(ベースプレート))と、このベース部材10に載置されたスピンドルモーター20と、このスピンドルモーター20により回転する磁気ディスク41と、磁気ディスク41の所定の位置に情報を書き込むと共に、任意の位置から情報を読み出す磁気ヘッド43を有するスイングアーム42と、スイングアーム42を揺動可能に支持するピボットアッシー軸受装置44と、スイングアーム42を駆動するアクチュエータ45と、これらの機器を制御する制御部46とを備えている。
【0034】
本発明に係るディスク駆動装置は、記録方式として、熱アシスト磁気記録(HAMR)方式を採用したものを対象とする。熱アシスト磁気記録(HAMR)方式が採用されたディスク駆動装置では、アクチュエータのヘッド部の温度が局所的に400℃もの高温となり得る。
また前記ディスク装置は、例えば、3.5インチ径の磁気ディスクを9枚以上備えたディスク駆動装置とすることができる。このようなディスク枚数の大きい装置では、装置内の空間容積がさらに小さくなっている。
【0035】
本発明は、本明細書に記載された実施形態や具体的な実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
[ベース部材の評価]
ベース部材の材料であるアルミニウムにエポキシ樹脂とケイ酸アルミニウム成分を含む塗料にて電着塗装を施し、加熱硬化し塗膜を得た。
この塗膜を、(a)285℃で40分間、或いは、(b)285℃で60分間の加熱を施すことでオーバーベークした。
【0038】
(1)光沢度
前述のベース部材に関し、オーバーベーク前・オーバーベーク後のそれぞれにおいて、60°入射角に対する光沢度を、グロスチェッカ IG-320[(株)堀場製作所製]を用いて測定した(各10箇所)。
得られた結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1に示すように、オーバーベーク後の塗膜は光沢度が減少し、10以下の光沢度を有していた。オーバーベークにより、該塗膜は酸素取り込み量(酸素の消費量)が抑制されることが期待できる。
【0041】
(2)鉛筆硬度
また、オーバーベーク後((a)285℃、40分間および(b)285℃、60分間)の塗膜について、JIS K 5600に準拠し鉛筆硬度を測定した。
オーバーベーク後の塗膜の鉛筆硬度はいずれも6Hであった。
【0042】
(3)フーリエ型赤外分光(FTIR)測定
オーバーベーク前、並びにオーバーベーク後((b)285℃、60分間)の夫々の塗膜について、ダイヤモンドクリスタルを用いたATR法により、該塗膜のIR吸光スペク
トルを直接測定した。得られた吸光スペクトルを
図4(
図4(A):オーバーベーク前、
図4(B):オーバーベーク後(285℃、60分間))に示す。
図4において、波数1490cm
-1~1520cm
-1におけるピークがエポキシ樹脂由来のピーク、波数995cm
-1~1010cm
-1におけるピークが顔料由来のピークと同定できる。
図4に示すように、オーバーベーク前(
図4(A))とオーバーベーク後(
図4(B))とを比較すると、エポキシ樹脂由来のピーク強度が顔料由来のピーク強度と比べて顕著に低くなっていることが確認できる。
上記エポキシ樹脂由来のピークと顔料由来のピークの強度よりオーバーベーク前後のピーク強度の比(x=I
polymer/I
pigment)を算出したところ、オーバーベーク前(
図4(A))ではx=0.90、オーバーベーク後(
図4(B))ではx=0.41であった。
【0043】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。
10…ベース部材(ベース本体)、11…底部、12…側壁部、13…円形部、13a…加工面(加工部)、14…矩形部、15…軸、17…カバー、17a…溶接ビード、18…支柱、
20…スピンドルモーター、21…ステータアッシー、22…ロータアッシー、23…円筒部、24…流体動圧軸受、25…スリーブ、26…ステータコア、27…ステータコイル、28…ロータハブ、28a…下方円筒部、29…軸部、30…流体動圧軸受油、31…バックヨーク、32…ロータマグネット、33…中間円筒部、34…第1の凹部、35…第2の凹部、36…カウンタープレート、37…スラストワッシャ、38…第1のラジアル動圧溝、39…第2のラジアル動圧溝、40…第1のスラスト動圧溝、41…第2のスラスト動圧溝、
40…ディスク駆動装置、41…磁気ディスク、42…スイングアーム、43…磁気ヘッド、44…ピボットアッシー軸受装置、45…アクチュエータ、46…制御部