(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106791
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20240801BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B09B3/65 ZAB
C12P1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011229
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 潤
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】李 玉友
【テーマコード(参考)】
4B064
4D004
【Fターム(参考)】
4B064AA03
4B064CA02
4B064CC06
4B064CD24
4B064DA16
4D004AA12
4D004BA03
4D004CA18
4D004CB01
4D004CB04
4D004DA03
4D004DA06
(57)【要約】
【課題】難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵を行い、水素ガス等のバイオガスを効率的に製造するための水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法を提供する。
【解決手段】ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽10を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽を備えることを特徴とする水素発酵処理システム。
【請求項2】
前記分解・水素発酵槽において、50~60℃で前記分解処理及び前記水素発酵処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の水素発酵処理システム。
【請求項3】
前記分解・水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵槽をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素発酵処理システム。
【請求項4】
ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を分解処理する前処理槽と、
前記前処理槽内の前処理液を水素発酵処理する水素発酵槽と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理システム。
【請求項5】
前記前処理槽において、50~60℃で前記分解処理を行い、
前記水素発酵槽において、50~60℃で前記水素発酵処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の水素発酵処理システム。
【請求項6】
前記水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵槽をさらに備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の水素発酵処理システム。
【請求項7】
ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵工程を備えることを特徴とする水素発酵処理方法。
【請求項8】
前記分解・水素発酵工程において、50~60℃で前記分解処理及び前記水素発酵処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の水素発酵処理方法。
【請求項9】
前記分解・水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵工程をさらに備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の水素発酵処理方法。
【請求項10】
ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を分解処理する前処理工程と、
前記前処理工程から供給された前処理液を水素発酵処理する水素発酵工程と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理方法。
【請求項11】
前記前処理工程において、50~60℃で前記分解処理を行い、
前記水素発酵工程において、50~60℃で前記水素発酵処理を行うことを特徴とする請求項10に記載の水素発酵処理方法。
【請求項12】
前記水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵工程をさらに備えることを特徴とする請求項10又は11に記載の水素発酵処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース系バイオマスは、植物細胞の細胞壁、即ち植物繊維の主成分を構成する、地球上に多く存在する有機炭素源であることから、石油などの化石燃料に代わるエネルギー資源として注目されている。また、リグノセルロース系バイオマスは、セルロースが、ヘミセルロース、リグニンと呼ばれる高分子化合物と複雑に絡み合ったリグノセルロース構造を形成しており、難分解性の有機性廃棄物であることから、分解の段階において多大なエネルギー、コスト、及び時間を要する。そのため、エネルギー資源としての利用の拡大が滞っているのが実情である。
【0003】
従来、生ごみ系有機性廃棄物を可溶化し、水素・メタン二段発酵を行うことで、水素ガスやメタンガスのようなバイオガスを作り出す技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、糖質系廃棄物が主体の生ごみ系有機性廃棄物やセルロース固形物が主体の生ごみ系有機性廃棄物を嫌気性可溶化により低分子化する嫌気性可溶化と水素発酵とを併せ持つ工程、続く後段に完全混合型のメタン発酵工程からなる二段発酵法を行い、水素とメタンを回収する嫌気性処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の嫌気性処理方法においては、糖質系廃棄物が主体の生ごみ系有機性廃棄物やセルロース固形物が主体の生ごみ系有機性廃棄物を嫌気性可溶化により低分子化し、水素発酵とメタン発酵による二段発酵法でバイオガスが得られているものの、難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを嫌気性可溶化して、水素発酵の基質である還元糖にまで分解するには、分解反応時間(水理学的滞留時間)を長く設定する必要があり、容量の大きい発酵槽の設置が必要となる。一方、別の方法として、薬品や酵素を用いて、リグノセルロース系バイオマスを前処理することにより還元糖を生成させ、水素発酵の基質として利用することとも考えられるが、この方法においては、処理工程が煩雑であることに加えて、薬品や酵素を使用するための試薬コストや設備コストが高額になるといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵を行い、水素ガス等のバイオガスを効率的に製造するための水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理システムは、ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽を備える。
【0009】
上記構成によれば、分解・水素発酵槽で、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液と混合して分解処理し、水素発酵となる還元糖を生成させることで、次に続く、水素発酵反応が効率的に進行するため、水素ガスの生成量を向上させることができる。また、リグノセルロース系バイオマスを還元糖に分解するための反応処理時間を短縮することができるため、分解・水素発酵槽の容積を小さくすることができる。
【0010】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記分解・水素発酵槽において、50~60℃で前記分解処理と前記水素発酵処理とを行うように構成されていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、リグノセルロース系バイオマスの分解処理がより効率的に行われ、水素発酵の基質となる還元糖の生産量が向上するとともに、次に続く、水素発酵反応がより効率的に進行するため、水素ガスの生成量をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記分解・水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵槽をさらに備えるように構成されていてもよい。
【0013】
上記構成によれば、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理システムは、ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を分解処理する前処理槽と、前記前処理槽内の前処理液を水素発酵処理する水素発酵槽と、を備える。
【0015】
上記構成によれば、前処理槽で、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液と混合して予め分解処理し、水素発酵の基質となる還元糖を生成させておくことで、後段の水素発酵槽での水素発酵反応が効率的に進行するため、水素ガスの生成量を向上させることができる。また、リグノセルロース系バイオマスを還元糖に分解するための反応処理時間を短縮することができるため、水素発酵槽の容積を小さくすることができる。さらに、水素発酵槽と役割が分かれているため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0016】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記前処理槽において、50~60℃で前記分解処理を行い、前記水素発酵槽において、50~60℃で前記水素発酵処理を行うように構成されていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、前処理槽でのリグノセルロース系バイオマスの分解処理がより効率的に行われ、水素発酵の基質となる還元糖の生産量が向上するとともに、後段の水素発酵槽での水素発酵反応がより効率的に進行するため、水素ガスの生成量をさらに向上させることができる。
【0018】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵槽をさらに備えるように構成されていてもよい。
【0019】
上記構成によれば、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理方法は、ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵工程を備える。
【0021】
上記構成によれば、分解・水素発酵工程で、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液と混合して分解処理し、水素発酵となる還元糖を生成させることで、次に続く、水素発酵反応が効率的に進行するため、水素ガスの生成量を向上させることができる。また、リグノセルロース系バイオマスを還元糖に分解するための反応処理時間を短縮することができるため、分解・水素発酵工程が行われる分解・水素発酵槽の容積を小さくすることができる。
【0022】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記分解・水素発酵工程において、50~60℃で前記分解処理及び前記水素発酵処理を行うように構成されていてもよい。
【0023】
上記構成によれば、リグノセルロース系バイオマスの分解処理がより効率的に行われ、水素発酵の基質となる還元糖の生産量が向上するとともに、次に続く、水素発酵反応がより効率的に進行するため、水素ガスの生成量をさらに向上させることができる。
【0024】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記分解・水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵工程をさらに備えるように構成されていてもよい。
【0025】
上記構成によれば、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理方法は、ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を分解処理する前処理工程と、前記前処理工程において得られた前処理液を水素発酵処理する水素発酵工程と、を備える。
【0027】
上記構成によれば、前処理工程で、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液と混合して予め分解処理し、還元糖を生成させておくことで、後段の水素発酵工程での水素発酵反応が効率的に進行するため、水素ガスの生成量を向上させることができる。また、リグノセルロース系バイオマスを還元糖に分解するための反応処理時間を短縮することができるため、水素発酵工程が行われる水素発酵槽の容積を小さくすることができる。さらに、前処理工程は、水素発酵工程と役割が分かれているため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0028】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記前処理工程において、50~60℃で前記分解処理を行い、前記水素発酵工程において、50~60℃で前記水素発酵処理を行うように構成されていてもよい。
【0029】
上記構成によれば、前処理工程でのリグノセルロース系バイオマスの分解処理がより効率的に行われ、水素発酵の基質となる還元糖の生産量が向上するとともに、後段の水素発酵工程での水素発酵反応がより効率的に進行するため、水素ガスの生成量をさらに向上させることができる。
【0030】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵工程をさらに備えるように構成されていてもよい。
【0031】
上記構成によれば、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液と混合して分解処理し、水素発酵の基質となる還元糖を生成させることで、次に続く、水素発酵反応が効率的に進行するため、水素ガスの生成量を向上させることができる。また、リグノセルロース系バイオマスを還元糖に分解するための反応処理時間を短縮することができるため、水素発酵槽の容積を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】第1実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第2実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
【
図3】第3実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
【
図4】第4実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
【
図5】ルーメン微生物によるセルロース分解活性測定試験の結果を示す図である。
【
図6】ルーメン微生物によるセルロース分解活性測定試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法に関する実施形態や図面について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載されている構成に限定されることを意図しない。
【0035】
以下、
図1~4を用いて、各実施形態に係る水素発酵処理システム及び水素発酵処理方法を説明する。
【0036】
(第1実施形態)
図1(a)(b)は、第1実施形態に係る水素発酵処理システム101、102の概略構成を示す図である。
図1に示す水素発酵処理システム101、102は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行い、バイオ水素ガスを製造するシステムである。
図1に示す水素発酵処理システム101、102は、主に、分解・水素発酵槽10から構成されており、リグノセルロース系バイオマスは、必要に応じて粉砕機50などによって破砕・粉砕されて、分解・水素発酵槽10に供給される。
【0037】
(分解・水素発酵槽)
図1(a)の分解・水素発酵槽10には、牛などの反芻動物から採取されたルーメン液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。
図1(b)の分解・水素発酵槽10には、培養槽40で培養されたルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。分解・水素発酵槽10において、ルーメン液やルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスを含む混合液の固形物濃度(TS:Total Solids)が3.0~20.0%となるように調整されることが好ましい。固形物濃度を測定する濃度計として、超音波式濃度計、マイクロ波式濃度計、近赤外光式濃度計などが用いられるが、濃度計を用いずに例えば、手動(混合液を採取して秤量し、乾燥前後の質量差から固形物濃度を計算するなど)で混合液の固形物濃度を測定するようにしてもよい。また、分解・水素発酵槽10において、槽内の混合液の温度管理のための温度計を設けることが好ましい。さらに、混合液のpH調整のためのpH計を設けることが好ましい。また、分解・水素発酵槽10には、混合液を攪拌するための攪拌機が設けられていてもよい(不図示)。なお、分解・水素発酵槽10の前段に、ルーメン液やルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスとを混合して貯留しておく、貯留槽を設置してもよい(不図示)。また、分解・水素発酵槽10には、リグノセルロース系バイオマスの分解処理や水素発酵のための薬品や酵素を添加する必要はないが、添加を妨げるものではなく、適宜薬品や酵素を添加してもよい。
【0038】
分解・水素発酵槽10では、混合液中のリグノセルロース系バイオマスを原料としてバイオ水素ガスが生成される。具体的には、分解・水素発酵槽10内において、混合液を、50~60℃、pH5.5~6.0の条件下、水理学的滞留時間(HRT)48~120時間、より好ましくは96時間程度、分解処理及び水素発酵処理することで、リグノセルロース分解細菌によるリグノセルロース分解および還元糖の生成、次いで、水素生成細菌による水素発酵が行われ、水素ガスが生成される。水素発酵後の処理液(水素発酵液)には、酢酸等の揮発性脂肪酸が含まれる。分解・水素発酵槽10において、リグノセルロース系バイオマスの分解処理と水素発酵処理が一つの槽内で行われるため、設備コストを削減することができる。分解処理及び水素発酵処理に寄与する、リグノセルロース分解細菌および水素生成細菌は、ルーメン液やルーメン微生物培養液に含まれているものであり、50~60℃、より好ましくは55℃、pH5.5~6.0、より好ましくはpH5.7の条件下で優占化される。
【0039】
分解・水素発酵槽10として、国内外で多く普及する固形(スラリー状)廃棄物の処理を行う完全混合型の発酵(嫌気性消化)方式の発酵槽を採用することができる。つまり、分解・水素発酵槽10に使用する槽は、一般的なメタン発酵槽と同等の材質、形状、構造でよい。完全混合型の発酵方式の発酵槽は、懸濁液についても処理することができるため、希釈水や人工培地(人工だ液)などの液体培地の使用量を低減することができる。分解・水素発酵槽10は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。分解・水素発酵槽10には、混合液を攪拌するために、攪拌機が取付けられていてもよい(不図示)。なお、分解・水素発酵槽10から排出される水素発酵後汚泥は固液分離機30により固液分離され、濃縮されてもよい。固液分離後の濃縮汚泥は、肥料や建築資材等として利用することができる。また、固液分離脱離液は、液体肥料として利用することができる。
【0040】
水素発酵が進行すると、分解・水素発酵槽10の中でバイオ水素ガスが発生する。バイオ水素ガスは、水素ガスが約50容量%、二酸化炭素が約50容量%のガスである。発生したバイオ水素ガスは、分解・水素発酵槽10の中から取り出され、分解・水素発酵槽10や培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、リグノセルロース系バイオマスを水素発酵処理することで、リグノセルロース系バイオマスが有するエネルギーをバイオ水素ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0041】
図1(b)に示す水素発酵処理システム102は、
図1(a)と同様に、分解・水素発酵槽10、必要に応じて粉砕機50を備えるが、さらに、培養槽40を備える点で、
図1(a)と異なる。
【0042】
培養槽40では、牛などの反芻動物から採取されたルーメン液に存在するルーメン微生物が培養されている。培養槽40に、人工培地(人工だ液)などの液体培地とリグノセルロース系バイオマスが供給されると、ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)がリグノセルロース系バイオマスを分解代謝することにより増殖するとともに、リグノセルロースの部分分解物や、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)が生産される。また、培養槽40内のリグノセルロース分解細菌の培養液は、連続培養又は半連続培養することにより、分解・水素発酵槽10に安定供給される。
【0043】
培養槽40は、牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)の生理状態を模擬した条件とすることが好ましい。また、リグノセルロース分解細菌の増殖が十分となるように、固液分離手段(不図示)により水理学的滞留時間(HRT)と固形物滞留時間(SRT)が任意に制御されることが好ましい。リグノセルロース分解細菌は、培養液中の固形物の表面に付着して増殖するため、HRTよりもSRTが長くなるように運転制御されることが好ましい。
【0044】
(第2実施形態)
図2(a)(b)は、第2実施形態に係る水素発酵処理システム103、104の概略構成を示す図である。
図2に示す水素発酵処理システム103、104は、リグノセルロース系バイオマスを原料として、水素発酵処理およびメタン発酵処理を行い、バイオ水素ガスおよびバイオメタンガスを製造するシステムである。第2実施形態は、
図1に示す水素発酵処理システム101、102と同様に、主に、分解・水素発酵槽10から構成されているが、分解・水素発酵槽10の後段にメタン発酵槽20を備え、水素・メタン二段発酵を行う点で、第1実施形態とは異なる。
【0045】
(メタン発酵槽)
図2(a)(b)に示すメタン発酵槽20は、前段の分解・水素発酵槽10から供給された水素発酵液に含まれる酢酸等の揮発性脂肪酸を基質として、メタン発酵を行うタンクである。メタン発酵槽20は、中温メタン発酵、高温メタン発酵の何れで運転されても良い。中温発酵の場合、20~30日間、より好ましくは20~25日間、さらに好ましくは20日間程度、高温発酵の場合、15~25日間、より好ましくは15~20日間、さらに好ましくは15日間程度処理が行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。なお、メタン発酵槽20は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。なお、メタン発酵槽20には、分解・水素発酵槽10から供給された水素発酵液を攪拌するために、攪拌機が取付けられていてもよい(不図示)。また、メタン発酵槽20に供給される水素発酵液は、分解・水素発酵槽10から排出された水素発酵液をそのまま供給してよいが、水素発酵液と、下水汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の易分解性の有機性廃棄物とを混合して供給してもよい。メタン発酵槽20に供給される水素発酵液、または水素発酵液と有機性廃棄物との混合物の固形物濃度は特に限定されないが、3.0~10.0%とするのが好ましい。さらに、メタン発酵槽20から排出されたメタン発酵液、またはメタン発酵液を固液分離機30で固液分離して得られた固液分離脱離液を、リグノセルロース分解微生物の窒素源として培養槽40へ供給してもよい。
【0046】
分解・水素発酵槽10から供給された水素発酵液をメタン発酵槽20の中でメタン発酵処理することにより、バイオメタンガスが発生する。バイオメタンガスは、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。発生したバイオメタンガスは、メタン発酵槽20の中から取り出され、メタン発酵槽20や分解・水素発酵槽10、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0047】
(第3実施形態)
図3(a)(b)は、第3実施形態に係る水素発酵処理システム105、106の概略構成を示す図である。
図3に示す水素発酵処理システム105、106は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行い、バイオ水素ガスを製造するシステムである。
図3に示す水素発酵処理システム105、106は、主に、前処理槽11と、水素発酵槽12とから構成されており、リグノセルロース系バイオマスは、必要に応じて粉砕機50などによって破砕・粉砕されて、前処理槽11に供給される。
【0048】
(前処理槽)
図1(a)の前処理槽11には、牛などの反芻動物から採取されたルーメン液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。
図1(b)の前処理槽11には、培養槽40で培養されたルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。前処理槽11において、ルーメン液やルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスを含む混合液の固形物濃度(TS:Total Solids)が3.0~20.0%となるように調整されることが好ましい。固形物濃度を測定する濃度計として、超音波式濃度計、マイクロ波式濃度計、近赤外光式濃度計などが用いられるが、濃度計を用いずに例えば、手動(混合液を採取して秤量し、乾燥前後の質量差から固形物濃度を計算するなど)で混合液の固形物濃度を測定するようにしてもよい。また、前処理槽11において、槽内の混合液の温度管理のための温度計を設けることが好ましい。さらに、混合液のpH調整のためのpH計を設けることが好ましい。また、前処理槽11には、混合液を攪拌するための攪拌機が設けられていてもよい(不図示)。なお、前処理槽11の前段に、ルーメン液やルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスとを混合して貯留しておく、貯留槽を設置してもよい(不図示)。
【0049】
前処理槽11内において、混合液を、50~60℃、pH5.5~6.0の条件下、水理学的滞留時間(HRT)4~36時間、より好ましくは24時間程度、分解処理することで、リグノセルロース分解細菌によるリグノセルロース分解および還元糖の生成が行われる。還元糖を多く含む前処理液は、後段の水素発酵槽12に供給され、水素発酵処理が行われる。前処理槽11では、リグノセルロース系バイオマスがリグノセルロース分解細菌のはたらきにより分解され、低分子化されたリグノセルロース系バイオマスの分解物(リグノセルロースの部分分解物等の易分解性有機性廃棄物やグルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))が生産される。50~60℃の条件下とすることで菌の活性が低下し、還元糖が更に分解されて有機酸になる反応は抑制される。前処理槽11は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、後段の水素発酵槽12と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。また、前処理槽11には、リグノセルロース系バイオマスの分解処理のための薬品や酵素を添加する必要はないが、添加を妨げるものではなく、適宜薬品や酵素を添加してもよい。
【0050】
(水素発酵槽)
水素発酵槽12では、前処理槽11から供給された前処理液を、50~60℃、pH5.5~6.0の条件下、水理学的滞留時間(HRT)24~120時間、より好ましくは96時間程度、水素発酵処理することで、水素ガスが生成される。具体的には、水素発酵槽12に、前処理槽11から易分解性有機性廃棄物や還元糖を多く含む前処理液が供給されると、易分解性有機性廃棄物や還元糖を基質(原料)とする水素発酵反応が進行し、バイオ水素ガスが生成する。水素発酵槽12に供給される基質としては、易分解性有機性廃棄物及び還元糖から選択される少なくとも一つが含まれていればよい。なお、水素発酵槽12から排出される水素発酵後汚泥は固液分離機30により固液分離され、濃縮されてもよい。固液分離後の濃縮汚泥は、肥料や建築資材等として利用することができる。また、固液分離脱離液は、液体肥料として利用することができる。また、水素発酵槽12には、水素発酵のための薬品や酵素を添加する必要はないが、添加を妨げるものではなく、適宜薬品や酵素を添加してもよい。
【0051】
水素発酵が進行すると、水素発酵槽12の中でバイオ水素ガスが発生する。バイオ水素ガスは、水素ガスが約50容量%、二酸化炭素が約50容量%のガスである。発生したバイオ水素ガスは、水素発酵槽12の中から取り出され、前処理槽11や水素発酵槽12、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、リグノセルロース系バイオマスを水素発酵処理することで、リグノセルロース系バイオマスが有するエネルギーをバイオ水素ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0052】
(第4実施形態)
図4(a)(b)は、第4実施形態に係る水素発酵処理システム107、108の概略構成を示す図である。
図4に示す水素発酵処理システム107、108は、リグノセルロース系バイオマスを原料として、水素発酵処理およびメタン発酵処理を行い、バイオ水素ガスおよびバイオメタンガスを製造するシステムである。第4実施形態は、
図3に示す水素発酵処理システム105、106と同様に、主に、前処理槽11と、水素発酵槽12とから構成されているが、水素発酵槽12の後段にメタン発酵槽20を備え、水素・メタン二段発酵を行う点で、第3実施形態とは異なる。
【0053】
図4(a)(b)に示す本実施形態のメタン発酵槽20として、
図2(a)(b)に示すメタン発酵槽20と同様のタンクを使用し、同様の条件でメタン発酵処理を行うことができる。加えてメタン、発酵槽20から排出されたメタン発酵液、またはメタン発酵液を固液分離機30で固液分離して得られた固液分離脱離液を、リグノセルロース分解微生物の窒素源として培養槽40だけでなく前処理槽11へ供給してもよい。水素発酵後の処理液(水素発酵液)には、メタン発酵の基質となる酢酸等の揮発性脂肪酸が含まれる。そのため、水素発酵槽12から供給された水素発酵液をメタン発酵槽20の中でメタン発酵処理すると、バイオメタンガスが発生する。バイオメタンガスは、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。発生したバイオメタンガスは、メタン発酵槽20の中から取り出され、メタン発酵槽20や前処理槽11、水素発酵槽12、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0054】
次に、本発明における水素発酵処理方法について、以下、詳細に説明する。
【0055】
(リグノセルロース系バイオマス)
バイオ水素ガスやバイオメタンガスの原料となるリグノセルロース系バイオマスとしては、森林間伐材、稲藁、籾殻、バガス、茅、水草等の未利用農林産廃棄物のほか、野菜屑、茶殻、コーヒー滓、おから、焼酎滓、建築廃材、古紙・廃紙、都市ゴミ等のリグノセルロース系産業廃棄物、またはエリアンサスやジャイアントミスカンサス等のバイオマス資源作物が挙げられる。また、シュレッダーにより裁断化された紙は、繊維が壊れ、リサイクルし難いものとして焼却されているが、このような裁断化された紙についても原料として利用することができる。さらに、上記に挙げた有機性廃棄物は1種類のみを原料として使用してもよいし、複数種類を混合して原料としてもよい。
【0056】
植物細胞の細胞壁の主成分であるリグノセルロースは、ヘミセルロース、セルロース、及びリグニンが強固に結合されることにより構成されている。牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在するルーメン液には、リグノセルロースを分解する酵素を産生するルーメン微生物が多数存在する。
【0057】
(ルーメン微生物)
ルーメン微生物は、反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在する消化液であるルーメン液に存在する嫌気性細菌である。反芻動物としては、牛、羊、山羊、鹿、ラクダ、ラマ等が挙げられる。例えば、成牛の第一胃は、150~200Lの容量があり、ルーメン液にはリグノセルロース分解細菌、ヘミセルロース分解細菌、リグニン分解細菌、デンプン分解細菌、メタン生成細菌、水素生成細菌等が多く生息している。リグノセルロース分解細菌は、リグノセルロース(繊維質)を分解するセルラーゼ等の酵素を産生することができる。そのため、反芻動物により、草などの繊維質が摂取されると、リグノセルロース分解細菌がリグノセルロースをオリゴ糖、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))に分解し、さらに分解が進むと、反芻動物にとってのエネルギー源となる酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)が生産される。水素生成細菌は、リグノセルロース分解細菌によって生産された還元糖、プロピオン酸、酪酸、及び吉草酸等を基質として、酢酸と水素を生産する。また、メタン生成細菌は、リグノセルロース分解細菌や水素生成細菌によって生産された酢酸、あるいは水素と二酸化炭素を基質としてメタンを生成する。
【0058】
(ルーメン微生物培養液)
ルーメン微生物を培養する培養槽40では、リグノセルロース分解活性の高いルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)培養液が得られる。ルーメン微生物の培養において、例えば、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の少なくとも一種以上のリグノセルロース分解細菌の存在数量を指標として、温度、酸化還元電位(ORP:Oxidation‐Reduction Potential)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を調整することにより、高いリグノセルロース分解活性を有するルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)の培養液を得ることができる。これらの細菌の菌数の定量は、特に限定されないが、特定の細菌の菌数を迅速かつ正確に測定することが可能な、定量PCR法により行うことが好ましい。定量PCR法を用いてリグノセルロース分解細菌の菌数の定量を行う場合、培養液からゲノムDNAを抽出して精製したものを使用する。ルーメン微生物の培養液は、大量に培養したり、継代培養したりすることもできるため、細菌の菌数を調整したルーメン微生物の培養液を、必要に応じてリグノセルロース分解に利用することができる。
【0059】
ルーメン微生物の培養液に使用する培地としては、培地の基材が天然物に由来する天然培地を使用してもよく、ルーメン微生物の増殖に必要な各種栄養素がすべて化学薬品で構成されている合成培地を使用してもよい。特に、ルーメン微生物にとって有用な栄養源であるアンモニウム塩のような窒素源、リン酸塩のようなリン源等の他、セルロース、ヘミセルロース等の炭素源を含むことが好ましい。また、pHの変化や浸透圧の上昇を和らげるために、培地に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、反芻動物のだ液は緩衝能力が高いので、それを模した人工培地(人工だ液)などの液体培地を使用することが好ましい。緩衝剤としては、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸塩、及び塩化カリウム等が挙げられる。培地のpHは、6.0~7.5、より好ましくは6.5~7.0となるように、必要に応じて、酸・アルカリを添加して調整する。また、培地に使用する水は、水道水や地下水を使用することが好ましい。また、培地のアンモニウム態窒素濃度は、50~2,000mg/L、より好ましくは60~500mg/Lとなるように、加水して制御する。
【0060】
培養槽40内をルーメン内の環境と同様、嫌気性状態とするために、培養液の酸化還元電位(ORP)は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため、所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入したり、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入したり、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施してもよい。また、ルーメン微生物の培養を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0061】
培養槽40におけるルーメン微生物の培養は、固形物滞留時間(SRT)が水理学的滞留時間(HRT)より長いことが重要とされる。即ち、リグノセルロース分解細菌は、固形物の表面に付着して増殖するため、SRTが短いと固形物と共に系外に排出される。一方、HRTが必要以上に長いと、生産された揮発性脂肪酸(VFA)によるpHの低下や微生物の増殖の阻害などの負の要因となる。具体的には、HRTは8~36時間、好ましくは10~24時間、SRTは24時間以上、好ましくは、48~168時間、更に好ましくは72~168時間に調節する。また、ルーメン微生物の培養における反応系の温度は、35~42℃、より好ましくは37~40℃になるよう温度センサー等を利用して制御する。なお、培養槽40に投入されるリグノセルロース系バイオマスは、培養液中の固形物濃度(TS)が、3.0~20.0%、より好ましくは10.0~15.0%となるように調整する。固形物濃度(TS)が3.0%以下となると、リグノセルロース分解細菌の生育・増殖が促進されない虞がある。一方で、20.0%を超えると、培養液の固液分離が適切に行われない虞がある。
【0062】
(前処理(分解)工程)
前処理(分解)工程において、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液の分解処理が行われる。前処理(分解)工程において、混合液の固形物濃度が3.0~20.0%となるように調整されることが好ましい。
【0063】
前処理工程において、リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグノセルロースは、リグノセルロース分解細菌が生産するリグニン分解酵素により、リグニンの一部が分解されリグノセルロースの強固な構造が緩んだ後、エンドグルカナーゼやエキソグルカナーゼ、あるいはキシラナーゼ等により、それぞれセルロースやヘミセルロースに分解され、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))に変換される。50~60℃の条件下とすることで菌の活性が低下し、還元糖が更に分解されて有機酸になる反応は抑制される。
【0064】
前処理工程を、嫌気性状態とするために、前処理液の酸化還元電位(ORP)は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入する、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入する、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施す。前処理工程を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0065】
前処理工程は、完全混合系で前処理(加水分解、還元糖生成)が行われる。また、前処理工程における反応系の温度は、50~60℃、より好ましくは55℃程度になるよう温度センサー等を利用して制御する。混合液のpHは、5.5~6.0、より好ましくは5.7に調整する。水理学的滞留時間は、4~36時間、より好ましくは24時間程度である。前処理工程における反応は、静置して行っても、攪拌して行ってもよいが、前処理工程の進行をより早めるためには、攪拌して行うことが好ましい。
【0066】
前処理工程は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、水素発酵工程と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0067】
(水素発酵工程)
水素発酵工程は、リグノセルロース分解細菌による前処理工程と同様に、嫌気性条件下で行われる。発酵工程では、前処理工程で生成されたグルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))を基質として、水素発酵処理が行われる。水素発酵反応が進むと、還元糖が分解されてピルビン酸等が生成され、さらに反応が進むと酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA)が生産される。また、代謝過程でバイオ水素ガスと二酸化炭素が約1:1で生産され、酢酸等の有機酸や水素と二酸化炭素が生産される。
【0068】
水素発酵は50~60℃、より好ましくは55℃程度で行われる。また、水素発酵は、pH5.5~6.0、より好ましくは5.7程度で行われる。水理学的滞留時間は、24~120時間、より好ましくは96時間程度である。
【0069】
(分解・水素発酵工程)
分解・水素発酵工程は、上記の前処理(分解)工程と水素発酵工程を一つの槽(分解・水素発酵槽10)内で行う工程である。分解・水素発酵工程は50~60℃、より好ましくは55℃程度で行われる。また、分解・水素発酵工程は、pH5.5~6.0、より好ましくは5.7程度で行われる。水理学的滞留時間は、48~120時間、より好ましくは96時間程度である。分解・水素発酵工程は、リグノセルロース系バイオマスの分解処理と水素発酵処理が一つの槽で行われるため、設備コストを削減することができる。
【0070】
(メタン発酵工程)
メタン発酵工程では、前段の水素発酵工程で得られた水素発酵液に含まれる酢酸等の揮発性脂肪酸や水素と二酸化炭素を基質として、メタン発酵が行われる。メタン発酵工程は、水素発酵工程と同様に、嫌気性条件下で行われる。メタン発酵工程において生成するバイオガスの組成はメタンが60~70容量%、二酸化炭素が30~40容量%、その他微量の窒素、酸素、硫化水素、及び水等が含まれる。バイオメタンガスは、メタン約60容量%、二酸化炭素約40容量%で構成されるが、そのまま燃料として使用されてもよいし、二酸化炭素を除去して高濃度のメタンガスとして使用されてもよい。
【0071】
メタン発酵工程は、湿式メタン発酵、乾式メタン発酵何れでも構わない。また、中温メタン発酵、高温メタン発酵何れでも良い。中温発酵の場合、20~30日間、より好ましくは20~25日間、さらに好ましくは20日間程度、高温発酵の場合、15~25日間、より好ましくは15~20日間、さらに好ましくは15日間程度行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。また、メタン発酵工程に供給される水素発酵液は、分解・水素発酵工程から排出された水素発酵液をそのまま供給してよいが、水素発酵液と、下水汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の易分解性の有機性廃棄物とを混合して供給する混合工程を設けてもよい。メタン発酵工程に供給される水素発酵液、または水素発酵液と有機性廃棄物との混合物の固形物濃度は特に限定されないが、3.0~10.0%とするのが好ましい。さらに、メタン発酵工程から排出されたメタン発酵液、またはメタン発酵液を固液分離工程で固液分離して得られた固液分離脱離液を、リグノセルロース分解微生物の窒素源として培養工程や前処理工程へ供給してもよい。
【実施例0072】
ルーメン微生物によるセルロース分解活性測定試験を行った。
【0073】
(試験例1)
基質として、カルボキシメチルセルロース(水溶性セルロース)(シグマ・アルドリッチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩・低粘度、カタログ番号:C5678)を、牛の第一胃から採取したルーメン液(pH6.8)と混合し、固形物濃度1%の混合液を得た。混合液を150mL容バイアル瓶に収容し、ゴム栓で密閉した後、気相部分を窒素ガスで置換し、嫌気条件下で72時間、39℃で振とう培養した。培養開始直後(0時間培養)と72時間培養後の処理液中の還元糖濃度および揮発性脂肪酸濃度を測定した。各処理液中の還元糖濃度は、ソモギ・ネルソン法により分析した。また、各処理液中の揮発性脂肪酸濃度は、公益社団法人日本下水道協会下水試験方法に記載の試験方法に準拠して測定した。
【0074】
(試験例2)
牛の第一胃から採取したルーメン液のpHを5.7とし、55℃で振とう培養したこと以外は、試験例1と同様の条件で混合液を培養し、培養開始直後(0時間培養)と培養開始から72時間後の処理液中の還元糖濃度および揮発脂肪酸濃度を測定した。
【0075】
図5に各処理液中の還元糖濃度の分析結果、
図6に各処理液中の揮発性脂肪酸濃度の分析結果を示す。
図5に示されるように、試験例1、2において、培養開始から72時間後の各処理液中の還元糖濃度は、培養開始直後(0時間)の各処理液中の還元糖濃度と比較して、試験例1では約8倍増加しており、試験例2では、約17倍増加していた。また、
図6に示されるように、試験例1、2において、培養開始から72時間後の各処理液中の揮発性脂肪酸濃度は、培養開始直後(0時間)の各処理液中の揮発性脂肪酸濃度と比較して、試験例1では約1.2倍に増加しており、試験例2ではほとんど増加していないことが確認された。
【0076】
これらの分析結果において、試験例2の条件(55℃、pH5.7)で混合液を処理した場合、試験例1の条件(39℃、pH6.8)で混合液を処理した場合よりも、培養開始から72時間後の処理液中の還元糖濃度が大幅に高くなった理由として、試験例2の条件(55℃、pH5.7)では、還元糖が消費されずに処理液中に蓄積されていることが推測される。つまり、試験例2の条件(55℃、pH5.7)において、ルーメン液によってセルロースは還元糖に分解される一方で、還元糖から揮発性脂肪酸への変換は抑制されることが明らかとなった。
【0077】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態の各構成を適宜組み合わせたり、上記の実施形態に種々の変更を加えたりすることが可能である。例えば、上記の実施形態は、次のように変更可能である。
【0078】
上記実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを破砕・粉砕する粉砕機50を備える例を説明したが、粉砕機50は必須ではない。また、ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つは、リグノセルロース系バイオマスの供給ラインに直接供給してもよい。
【0079】
上記実施形態では、発酵汚泥を固液分離する固液分離機30を備える例を説明したが、固液分離機30は必須ではない。
【0080】
上記実施形態では、前処理槽11内で得られた前処理液を後段の水素発酵槽12に供給する例を説明したが、前処理槽11内で得られた前処理液を培養槽40に供給してもよい。前処理液にはリグノセルロースの未分解物もしくは部分分解物や、窒素源やリン源となる物質が含まれるため、培養槽40に供給することで、培養液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、さらなる加水分解により、還元糖や、分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。
本発明の水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法は、古紙や廃紙等の都市ゴミ等の産業廃棄物、食品廃棄物、農林産廃棄物、建築廃材等のリグノセルロース系産業廃棄物を含む有機性廃棄物を分解処理し、その分解処理物を原料としてバイオ水素ガスやバイオメタンガスを生成する用途において利用可能である。