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特開2024-106792水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106792
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/60 20220101AFI20240801BHJP
【FI】
B09B3/60 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011230
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 潤
(72)【発明者】
【氏名】赤司 昭
(72)【発明者】
【氏名】李 玉友
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA12
4D004CA18
4D004CA20
4D004CC07
(57)【要約】
【課題】難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵を行い、水素ガス等のバイオガスを効率的に製造するための水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法を提供する。
【解決手段】ルーメン液及び培養槽40で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留する貯留槽10と、前記貯留槽10から供給された前記混合液を分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽から供給された前記混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理システム。
【請求項2】
有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵槽をさらに備え、
前記第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに供給することを特徴とする請求項1に記載の水素発酵処理システム。
【請求項3】
前記分解・水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵槽をさらに備え、
前記第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに返送することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素発酵処理システム。
【請求項4】
ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽から供給された前記混合液を分解処理する前処理槽と、
前記前処理槽内の前処理液を水素発酵処理する水素発酵槽と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理システム。
【請求項5】
有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵槽をさらに備え、
前記第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに供給することを特徴とする請求項4に記載の水素発酵処理システム。
【請求項6】
前記水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵槽をさらに備え、
前記第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに返送することを特徴とする請求項4又は5に記載の水素発酵処理システム。
【請求項7】
ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留槽に貯留する貯留工程と、
前記貯留工程から供給された前記混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵工程と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理方法。
【請求項8】
有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵工程をさらに備え、
前記第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに供給することを特徴とする請求項7に記載の水素発酵処理方法。
【請求項9】
前記分解・水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵工程をさらに備え、
前記第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに返送することを特徴とする請求項7又は8に記載の水素発酵処理方法。
【請求項10】
ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留槽に貯留する貯留工程と、
前記貯留工程から供給された前記混合液を前処理槽で分解処理する前処理工程と、
前記前処理工程で得られた前処理液を水素発酵槽で水素発酵処理する水素発酵工程と、
を備えることを特徴とする水素発酵処理方法。
【請求項11】
有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵工程をさらに備え、
前記第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに供給することを特徴とする請求項10に記載の水素発酵処理方法。
【請求項12】
前記水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵工程をさらに備え、
前記第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに返送することを特徴とする請求項10又は11に記載の水素発酵処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース系バイオマスは、植物細胞の細胞壁、即ち植物繊維の主成分を構成する、地球上に多く存在する有機炭素源であることから、石油などの化石燃料に代わるエネルギー資源として注目されている。また、リグノセルロース系バイオマスは、セルロースが、ヘミセルロース、リグニンと呼ばれる高分子化合物と複雑に絡み合ったリグノセルロース構造を形成しており、難分解性の有機性廃棄物であることから、分解の段階において多大なエネルギー、コスト、及び時間を要する。そのため、エネルギー資源としての利用の拡大が滞っているのが実情である。
【0003】
従来、生ごみ系有機性廃棄物を可溶化し、水素・メタン二段発酵を行うことで、水素ガスやメタンガスのようなバイオガスを作り出す技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、糖質系廃棄物が主体の生ごみ系有機性廃棄物やセルロース固形物が主体の生ごみ系有機性廃棄物を嫌気性可溶化により低分子化する嫌気性可溶化と水素発酵とを併せ持つ工程、続く後段に完全混合型のメタン発酵工程からなる二段発酵法を行い、水素とメタンを回収する嫌気性処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-13896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の嫌気性処理方法においては、糖質系廃棄物が主体の生ごみ系有機性廃棄物やセルロース固形物が主体の生ごみ系有機性廃棄物を嫌気性可溶化により低分子化し、水素発酵とメタン発酵による二段発酵法でバイオガスが得られているものの、難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを嫌気性可溶化して、水素発酵の基質である還元糖にまで分解するには、分解反応時間(水理学的滞留時間)を長く設定する必要があり、容量の大きい発酵槽の設置が必要となる。また、含水率の低いリグノセルロース系バイオマスを水素発酵槽へ供給する場合、ポンプ等で移送できる濃度まで加水して希釈する必要があり、使用可能な水量に制限がある場所では、十分に希釈することができないといった問題があった。さらに、希釈のために水道水を使用する場合は、水道コストが高額になるといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、難分解性の有機性廃棄物であるリグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵を行い、水素ガス等のバイオガスを効率的に製造するための水素発酵処理システムおよび水素発酵処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理システムは、ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から供給された前記混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵槽と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、貯留槽内でリグノセルロース系バイオマスとルーメン液やルーメン微生物培養液とを混合することで分解処理が進み、後段の分解・水素発酵槽の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵槽をさらに備え、前記第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに供給するように構成されていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を貯留槽及び培養槽の少なくとも一つに供給することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、分解・水素発酵槽内でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。また、活性汚泥法等の生物学的排水処理によって発生する汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の有機性廃棄物の処理を消化槽(第1メタン発酵槽)で行う場合、消化汚泥(メタン発酵液)は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0012】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記分解・水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵槽をさらに備え、前記第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに返送するように構成されていてもよい。
【0013】
上記構成によれば、第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を貯留槽及び培養槽の少なくとも一つに返送することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、分解・水素発酵槽内でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理システムは、ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から供給された前記混合液を分解処理する前処理槽と、前記前処理槽内の前処理液を水素発酵処理する水素発酵槽と、を備える。
【0015】
上記構成によれば、貯留槽内でリグノセルロース系バイオマスとルーメン液やルーメン微生物培養液とを混合することで分解処理が進み、後段の前処理槽や水素発酵槽の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。また、貯留槽の後段に設置される前処理槽は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、水素発酵槽と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0016】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵槽をさらに備え、前記第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに供給するように構成されていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、第1メタン発酵槽内のメタン発酵液を貯留槽、培養槽、及び前処理槽の少なくとも一つに供給することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、前処理槽内でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。さらに、活性汚泥法等の生物学的排水処理によって発生する汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の有機性廃棄物の処理を消化槽(第1メタン発酵槽)で行う場合、消化汚泥(メタン発酵液)は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0018】
また、本発明の水素発酵処理システムにおいて、前記水素発酵槽内の水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵槽をさらに備え、前記第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに返送するように構成されていてもよい。
【0019】
上記構成によれば、第2メタン発酵槽内のメタン発酵液を貯留槽、培養槽、及び前処理槽の少なくとも一つに返送することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、前処理槽内でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理方法は、ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留槽に貯留する貯留工程と、前記貯留工程から供給された前記混合液の分解処理及び水素発酵処理を行う分解・水素発酵工程と、を備える。
【0021】
上記構成によれば、貯留工程において、貯留槽内でリグノセルロース系バイオマスとルーメン液やルーメン微生物培養液とを混合することで分解処理が進み、後段の分解・水素発酵槽の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。
【0022】
また、本発明の水素発酵処理方法において、有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵工程をさらに備え、前記第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに供給するように構成されていてもよい。
【0023】
上記構成によれば、第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を貯留槽及び培養槽の少なくとも一つに供給することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、分解・水素発酵工程でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。また、活性汚泥法等の生物学的排水処理によって発生する汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の有機性廃棄物の処理を消化槽(第1メタン発酵槽)で行う場合、消化汚泥(メタン発酵液)は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0024】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記分解・水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵工程をさらに備え、前記第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽及び前記培養槽の少なくとも一つに返送するように構成されていてもよい。
【0025】
上記構成によれば、第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を貯留槽及び培養槽の少なくとも一つに返送することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、分解・水素発酵工程でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の水素発酵処理方法は、ルーメン液及び培養槽で培養されるルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合液を貯留槽に貯留する貯留工程と、前記貯留工程から供給された前記混合液を前処理槽で分解処理する前処理工程と、前記前処理工程で得られた前処理液を水素発酵槽で水素発酵処理する水素発酵工程と、を備える。
【0027】
上記構成によれば、貯留工程において、貯留槽内でリグノセルロース系バイオマスとルーメン液やルーメン微生物培養液とを混合することで分解処理が進み、後段の前処理槽や水素発酵槽の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。また、貯留工程の後に実施される前処理工程は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、後段の水素発酵槽で行われる水素発酵工程と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0028】
また、本発明の水素発酵処理方法において、有機性廃棄物をメタン発酵処理する第1メタン発酵工程をさらに備え、前記第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに供給するように構成されていてもよい。
【0029】
上記構成によれば、第1メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を貯留槽、培養槽、及び前処理槽の少なくとも一つに供給することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、前処理工程でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。また、活性汚泥法等の生物学的排水処理によって発生する汚泥や家畜糞尿、生ごみ等の有機性廃棄物の処理を消化槽(第1メタン発酵槽)で行う場合、消化汚泥(メタン発酵液)は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0030】
また、本発明の水素発酵処理方法において、前記水素発酵工程で得られた水素発酵液を原料としてメタン発酵を行う第2メタン発酵工程をさらに備え、前記第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を前記貯留槽、前記培養槽、及び前記前処理槽の少なくとも一つに返送するように構成されていてもよい。
【0031】
上記構成によれば、第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液を貯留槽、培養槽、及び前処理槽の少なくとも一つに返送することで、ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物に窒素源を供給することができる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、前処理工程でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費するため、予め貯留槽等に窒素源を多く含むメタン発酵液を供給しておくことで、リグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、貯留槽内でリグノセルロース系バイオマスとルーメン液やルーメン微生物培養液とを混合することで分解処理が進み、後段の水素発酵槽等の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
図2】第2実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
図3】第3実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
図4】第4実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
図5】第5実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
図6】第6実施形態に係る水素発酵処理システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法に関する実施形態や図面について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載されている構成に限定されることを意図しない。
【0035】
以下、図1~6を用いて、各実施形態に係る水素発酵処理システム及び水素発酵処理方法を説明する
【0036】
(第1実施形態)
図1(a)(b)は、第1実施形態に係る水素発酵処理システム101、102の概略構成を示す図である。図1に示す水素発酵処理システム101、102は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行い、バイオ水素ガスを製造するシステムである。図1に示す水素発酵処理システム101、102は、主に、貯留槽10と、分解・水素発酵槽20とから構成されており、リグノセルロース系バイオマスは、必要に応じて粉砕機50などによって破砕・粉砕されて、貯留槽10に供給される。
【0037】
(貯留槽)
図1(a)の貯留槽10には、牛などの反芻動物から採取されたルーメン液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。図1(b)の貯留槽10には、培養槽40で培養されたルーメン微生物培養液とリグノセルロース系バイオマスが投入される。ルーメン液及びルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとを含む混合物を貯留槽10内に貯留しておくことで、リグノセルロース系バイオマスの分解処理が進み、後段の分解・水素発酵槽20の水理学的滞留時間、または槽容量を低減することが可能となる。また、貯留槽10において、リグノセルロース系バイオマスは、固形物濃度(TS:Total Solids)が3.0~20.0%となるように調整される。固形物濃度が3.0%以下となると、後段の水素発酵の基質となる還元糖の生産が低下する虞がある。一方で、20.0%を超えると、混合液をポンプによって排出することが困難となる虞がある。また、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液によりポンプ等で移送できる固形物濃度となるように予め希釈して、貯留槽10に貯留しておくことにより、リグノセルロース系バイオマスに加水して希釈する必要がなくなるため、使用可能な水量に制限がある施設においても、処理液を適切な固形物濃度に調整することができる。さらに、希釈のために水道水を使用する必要もないため、水道コストを削減することができる。固形物濃度を測定する濃度計として、超音波式濃度計、マイクロ波式濃度計、近赤外光式濃度計などが用いられる。また、濃度計を使用せず、リグノセルロース系バイオマスを直接採取し、乾燥前後の質量を測定し、質量差から固形物濃度を算出する方法、即ち手分析で固形物濃度を測定してもよい。貯留槽10には、混合液を混合するための攪拌機が設けられていてもよい(不図示)。なお、貯留槽10においては、固形物濃度が上記の範囲内となるように調整されればよいため、温度管理やpHの調整等のための計器の設置は必須ではない。
【0038】
(分解・水素発酵槽)
分解・水素発酵槽20では、混合液中のリグノセルロース系バイオマスを原料として水素ガスが生成される。具体的には、貯留槽10内の混合液が、分解・水素発酵槽20に供給され、50~60℃、pH5.5~6.0の条件下、水理学的滞留時間(HRT)24~168時間、より好ましくは72時間程度とすることで、リグノセルロース分解細菌によるリグノセルロース分解および還元糖の生成、次いで、水素生成細菌による水素発酵が行われる。水素発酵後の処理液には、酢酸等の揮発性脂肪酸が含まれる。分解・水素発酵槽20において、リグノセルロース系バイオマスの分解処理と水素発酵処理が一つの槽内で行われるため、設備コストを削減することができる。分解・水素発酵槽20内のリグノセルロース分解細菌および水素生成細菌は、ルーメン液やルーメン微生物培養液に含まれているものであり、50~60℃、より好ましくは55℃、pH5.5~6.0、より好ましくはpH5.7の条件下で優占化される。
【0039】
分解・水素発酵槽20として、国内外で多く普及する固形(スラリー状)廃棄物の処理を行う完全混合型の発酵(嫌気性消化)方式の発酵槽を採用することができる。つまり、分解・水素発酵槽20に使用する槽は、一般的なメタン発酵槽と同等の材質、形状、構造でよい。完全混合型の発酵方式の発酵槽は、懸濁液についても処理することができるため、希釈水や人工培地(人工だ液)などの液体培地の使用量を低減することができる。分解・水素発酵槽20は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。分解・水素発酵槽20には、貯留槽10から供給された混合液を攪拌するために、攪拌機が取付けられていてもよい(不図示)。なお、分解・水素発酵槽20から排出される水素発酵後汚泥は濃縮され、肥料や建築資材等として利用することができる。
【0040】
水素発酵が進行すると、分解・水素発酵槽20の中でバイオ水素ガスが発生する。バイオ水素ガスは、水素ガスが約50容量%、二酸化炭素が約50容量%のガスである。発生したバイオ水素ガスは、分解・水素発酵槽20の中から取り出され、分解・水素発酵槽20や培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、リグノセルロース系バイオマスを水素発酵処理することで、リグノセルロース系バイオマスが有するエネルギーをバイオ水素ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0041】
図1(b)に示す水素発酵処理システム102は、図1(a)と同様に、貯留槽10と分解・水素発酵槽20、必要に応じて粉砕機50を備えるが、さらに、培養槽40を備える点で、図1(a)と異なる。
【0042】
(培養槽)
培養槽40では、牛などの反芻動物から採取されたルーメン液に存在するルーメン微生物が培養されている。培養槽40に、人工培地(人工だ液)などの液体培地とリグノセルロース系バイオマスが供給されると、ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)がリグノセルロース系バイオマスを分解代謝することにより増殖するとともに、リグノセルロースの部分分解物や、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)が生産される。また、培養槽40内のリグノセルロース分解細菌の培養液は、連続培養又は半連続培養することにより、貯留槽10に安定供給される。
【0043】
培養槽40は、牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)の生理状態を模擬した条件とすることが好ましい。また、リグノセルロース分解細菌の増殖が十分となるように、固液分離手段(不図示)により水理学的滞留時間(HRT)と固形物滞留時間(SRT)が任意に制御されることが好ましい。リグノセルロース分解細菌は、培養液中の固形物の表面に付着して増殖するため、HRTよりもSRTが長くなるように運転制御されることが好ましい。
【0044】
(第2実施形態)
図2(a)(b)は、第2実施形態に係る水素発酵処理システム103、104の概略構成を示す図である。図2に示す水素発酵処理システム103、104は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行ってバイオ水素ガスを製造し、また、下水汚泥を原料として消化処理を行って消化ガスを製造するシステムである。第2実施形態は、図1に示す水素発酵処理システム101、102と同様に、主に、貯留槽10と、分解・水素発酵槽20とから構成されているが、別系統で第1メタン発酵(消化)槽30を備える点で、第1実施形態とは異なる。
【0045】
(第1メタン発酵(消化)槽)
図2(a)(b)に示す第1メタン発酵(消化)槽30は、例えば、下水汚泥などの有機性廃棄物を嫌気性発酵処理するタンクである。消化槽30に投入される有機性廃棄物は、下水汚泥のほか、家畜糞尿、汚泥、生ごみ等の易分解性の有機性廃棄物が挙げられる。消化槽30に供給される原料汚泥の固形物濃度(TS:Total Solids)は、例えば、3.0~10.0%が好ましい。消化槽30は、中温メタン発酵、高温メタン発酵の何れで運転されても良い。中温発酵の場合、20~30日間、より好ましくは23~27日間、さらに好ましくは25日間程度、高温発酵の場合、10~20日間、より好ましくは13~17日間、さらに好ましくは15日間程度行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。消化槽30として、国内外で多く普及する固形(スラリー状)廃棄物の処理を行う完全混合型の発酵(嫌気性消化)方式の発酵槽を採用することができる。なお、消化槽30は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。消化槽30には、投入された下水汚泥を攪拌するために、攪拌機が取付けられていてもよい(不図示)。
【0046】
第1メタン発酵(消化)槽30内のメタン発酵液(消化汚泥)には、窒素源となる物質が含まれているため、メタン発酵液(消化汚泥)を貯留槽10や培養槽40に供給することで、混合液や培養液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、分解・水素発酵槽20内でのさらなる加水分解により、還元糖や分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。また、消化汚泥は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0047】
下水汚泥の消化処理により消化槽30の中で消化ガスが発生する。消化ガスは、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。発生した消化ガスは、消化槽30の中から取り出され、消化槽30や分解・水素発酵槽20、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、下水汚泥をメタン発酵処理することで、下水汚泥が有するエネルギーを消化ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0048】
(第3実施形態)
図3(a)(b)は、第3実施形態に係る水素発酵処理システム105、106の概略構成を示す図である。図3に示す水素発酵処理システム105、106は、リグノセルロース系バイオマスを原料として、水素発酵処理およびメタン発酵処理を行い、バイオ水素ガスおよびバイオメタンガスを製造するシステムである。第3実施形態は、図1に示す水素発酵処理システム101、102と同様に、主に、貯留槽10と、分解・水素発酵槽20とから構成されているが、分解・水素発酵槽20の後段に第2メタン発酵槽31を備え、水素・メタン二段発酵を行う点で、第1実施形態とは異なる。
【0049】
(第2メタン発酵槽)
図3(a)(b)に示す第2メタン発酵槽31は、前段の分解・水素発酵槽20から供給された水素発酵液に含まれる酢酸等の揮発性脂肪酸を基質として、メタン発酵を行うタンクである。第2メタン発酵槽31は、中温メタン発酵、高温メタン発酵の何れで運転されても良い。中温発酵の場合、15~30日間、より好ましくは15~25日間、さらに好ましくは20日間程度、高温発酵の場合、10~20日間、より好ましくは15~20日間、さらに好ましくは15日間程度処理が行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。なお、第2メタン発酵槽31は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。なお、第2メタン発酵槽31には、分解・水素発酵槽20から供給された水素発酵液を攪拌するために、攪拌機が取付けられていてもよい(不図示)。
【0050】
第2メタン発酵槽31内のメタン発酵液には、窒素源となる物質が含まれているため、貯留槽10や培養槽40に供給することで、混合液や培養液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、分解・水素発酵槽20内でのさらなる加水分解により、還元糖や分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。さらに、メタン発酵液中に含まれる未反応の有機性廃棄物を再度水素発酵やメタン発酵の基質として利用できるため、エネルギーの回収効率が向上する。
【0051】
分解・水素発酵槽20から供給された水素発酵液を第2メタン発酵槽31の中でメタン発酵処理することにより、バイオメタンガスが発生する。バイオメタンガスは、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%のガス(バイオガス)である。発生したバイオメタンガスは、第2メタン発酵槽31の中から取り出され、第2メタン発酵槽31や分解・水素発酵槽20、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、水素発酵液をメタン発酵処理することで、水素発酵液が有するエネルギーをバイオメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0052】
(第4実施形態)
図4(a)(b)は、第4実施形態に係る水素発酵処理システム107、108の概略構成を示す図である。図4に示す水素発酵処理システム107、108は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行い、バイオ水素ガスを製造するシステムである。図4に示す水素発酵処理システム107、108は、主に、貯留槽10と、前処理槽21と、水素発酵槽22とから構成されており、リグノセルロース系バイオマスは、必要に応じて粉砕機50などによって破砕・粉砕されて、貯留槽10に供給される。
【0053】
(前処理槽)
前処理槽21は、貯留槽10の後段に設けられている。前処理槽21内において、貯留槽10から供給された混合液に含まれるリグノセルロース系バイオマスが分解処理されることにより、水素発酵処理の基質となる還元糖が生成される。還元糖を多く含む前処理液は、後段の水素発酵槽22に供給され、水素発酵処理が行われる。また、図4に示すように、前処理槽21には、ルーメン液やルーメン微生物培養液が供給されてもよい。前処理槽21では、リグノセルロース系バイオマスがリグノセルロース分解細菌のはたらきにより分解され、低分子化されたリグノセルロース系バイオマスの分解物(リグノセルロースの部分分解物等の易分解性有機性廃棄物やグルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))が生産される。前処理槽21は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、後段の水素発酵槽22と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0054】
(水素発酵槽)
水素発酵槽22に、前処理槽21から易分解性有機性廃棄物や還元糖を多く含む前処理液が供給されると、易分解性有機性廃棄物や還元糖を基質(原料)とする水素発酵反応が進行し、バイオ水素ガスが生成する。水素発酵槽22に供給される基質としては、易分解性有機性廃棄物及び還元糖から選択される少なくとも一つが含まれていればよい。なお、水素発酵槽22から排出される水素発酵後汚泥は濃縮され、肥料や建築資材等として利用することができる。
【0055】
水素発酵が進行すると、水素発酵槽22の中でバイオ水素ガスが発生する。バイオ水素ガスは、水素ガスが約50容量%、二酸化炭素が約50容量%のガスである。発生したバイオ水素ガスは、水素発酵槽22の中から取り出され、前処理槽21や水素発酵槽22、培養槽40の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、リグノセルロース系バイオマスを水素発酵処理することで、リグノセルロース系バイオマスが有するエネルギーをバイオ水素ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0056】
(第5実施形態)
図5(a)(b)は、第5実施形態に係る水素発酵処理システム109、110の概略構成を示す図である。図5に示す水素発酵処理システム109、110は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理を行ってバイオ水素ガスを製造し、また、下水汚泥を原料として消化処理を行って消化ガスを製造するシステムである。第5実施形態は、図4に示す水素発酵処理システム107、108と同様に、主に、貯留槽10と、前処理槽21と、水素発酵槽22とから構成されているが、別系統で第1メタン発酵(消化)槽30を備える点で、第4実施形態とは異なる。
【0057】
図5(a)(b)に示す本実施形態の第1メタン発酵(消化)槽30として、図2(a)(b)に示す消化槽30と同様のタンクを使用し、同様の条件で消化処理を行うことができる。第1メタン発酵(消化)槽30内のメタン発酵液(消化汚泥)には、窒素源となる物質が含まれているため、貯留槽10や培養槽40、前処理槽21に供給することで、混合液や培養液中、前処理液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、前処理槽21内でのさらなる加水分解により、還元糖や分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。また、消化汚泥は、液肥や堆肥としての利用が普及していないため、排水処理する場合は排水処理施設が必要となるが、リグノセルロース分解微生物の窒素源として利用することで、設備コストを削減することができる。
【0058】
(第6実施形態)
図6(a)(b)は、第6実施形態に係る水素発酵処理システム111、112の概略構成を示す図である。図6に示す水素発酵処理システム111、112は、リグノセルロース系バイオマスを原料として水素発酵処理およびメタン発酵処理を行い、バイオ水素ガスおよびバイオメタンガスを製造するシステムである。第6実施形態は、図4に示す水素発酵処理システム107、108と同様に、主に、貯留槽10と、前処理槽21と、水素発酵槽22とから構成されているが、水素発酵槽22の後段に第2メタン発酵槽31を備え、水素・メタン二段発酵を行う点で、第4実施形態とは異なる。
【0059】
図6(a)(b)に示す本実施形態の第2メタン発酵槽31として、図3(a)(b)に示す第2メタン発酵槽31と同様のタンクを使用し、同様の条件でメタン発酵処理を行うことができる。第2メタン発酵槽31内のメタン発酵液には、窒素源となる物質が含まれているため、貯留槽10や培養槽40、前処理槽21に供給することで、混合液や培養液中、前処理液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、前処理槽21内でのさらなる加水分解により、還元糖や分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。さらに、メタン発酵液中に含まれる未反応の有機性廃棄物を再度水素発酵やメタン発酵の基質として利用できるため、エネルギーの回収効率が向上する。
【0060】
次に、本発明における水素発酵処理方法について、以下、詳細に説明する。
【0061】
(リグノセルロース系バイオマス)
バイオ水素ガスやバイオメタンガスの原料となるリグノセルロース系バイオマスとしては、森林間伐材、稲藁、籾殻、バガス、茅、水草等の未利用農林産廃棄物のほか、野菜屑、茶殻、コーヒー滓、おから、焼酎滓、建築廃材、古紙・廃紙、都市ゴミ等のリグノセルロース系産業廃棄物、またはエリアンサスやジャイアントミスカンサス等のバイオマス資源作物が挙げられる。また、シュレッダーにより裁断化された紙は、繊維が壊れ、リサイクルし難いものとして焼却されているが、このような裁断化された紙についても原料として利用することができる。さらに、上記に挙げた有機性廃棄物は1種類のみを原料として使用してもよいし、複数種類を混合して原料としてもよい。
【0062】
植物細胞の細胞壁の主成分であるリグノセルロースは、ヘミセルロース、セルロース、及びリグニンが強固に結合されることにより構成されている。牛などの反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在するルーメン液には、リグノセルロースを分解する酵素を産生するルーメン微生物が多数存在する。
【0063】
(ルーメン微生物)
ルーメン微生物は、反芻動物の第一胃(ルーメン)に存在する消化液であるルーメン液に存在する嫌気性細菌である。反芻動物としては、牛、羊、山羊、鹿、ラクダ、ラマ等が挙げられる。例えば、成牛の第一胃は、150~200Lの容量があり、ルーメン液にはリグノセルロース分解細菌、ヘミセルロース分解細菌、リグニン分解細菌、デンプン分解細菌、メタン生成細菌、水素生成細菌等が多く生息している。リグノセルロース分解細菌は、リグノセルロース(繊維質)を分解するセルラーゼ等の酵素を産生することができる。そのため、反芻動物により、草などの繊維質が摂取されると、リグノセルロース分解細菌がリグノセルロースをオリゴ糖、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))に分解し、さらに分解が進むと、反芻動物にとってのエネルギー源となる酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA:Volatile Fatty Acid)が生産される。水素生成細菌は、リグノセルロース分解細菌によって生産された還元糖、プロピオン酸、酪酸、及び吉草酸等を基質として、酢酸と水素を生産する。また、メタン生成細菌は、リグノセルロース分解細菌や水素生成細菌によって生産された酢酸、あるいは水素と二酸化炭素を基質としてメタンを生成する。
【0064】
(ルーメン微生物培養液)
ルーメン微生物を培養する培養槽40では、リグノセルロース分解活性の高いルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)培養液が得られる。ルーメン微生物の培養において、例えば、フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)、及びプレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)の3種類の少なくとも一種以上のリグノセルロース分解細菌の存在数量を指標として、温度、酸化還元電位(ORP:Oxidation‐Reduction Potential)、水理学的滞留時間(HRT)又は固形物滞留時間(SRT)、及び培地のアンモニウム態窒素濃度を調整することにより、高いリグノセルロース分解活性を有するルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)の培養液を得ることができる。これらの細菌の菌数の定量は、特に限定されないが、特定の細菌の菌数を迅速かつ正確に測定することが可能な、定量PCR法により行うことが好ましい。定量PCR法を用いてリグノセルロース分解細菌の菌数の定量を行う場合、培養液からゲノムDNAを抽出して精製したものを使用する。ルーメン微生物の培養液は、大量に培養したり、継代培養したりすることもできるため、細菌の菌数を調整したルーメン微生物の培養液を、必要に応じてリグノセルロース分解に利用することができる。
【0065】
ルーメン微生物の培養液に使用する培地としては、培地の基材が天然物に由来する天然培地を使用してもよく、ルーメン微生物の増殖に必要な各種栄養素がすべて化学薬品で構成されている合成培地を使用してもよい。特に、ルーメン微生物にとって有用な栄養源であるアンモニウム塩のような窒素源、リン酸塩のようなリン源等の他、セルロース、ヘミセルロース等の炭素源を含むことが好ましい。また、pHの変化や浸透圧の上昇を和らげるために、培地に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、反芻動物のだ液は緩衝能力が高いので、それを模した人工培地(人工だ液)などの液体培地を使用することが好ましい。緩衝剤としては、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸塩、及び塩化カリウム等が挙げられる。培地のpHは、6.0~7.5、より好ましくは6.5~7.0となるように、必要に応じて、酸・アルカリを添加して調整する。また、培地に使用する水は、水道水や地下水を使用することが好ましい。また、培地のアンモニウム態窒素濃度は、50~2,000mg/L、より好ましくは60~500mg/Lとなるように、加水して制御する。
【0066】
培養槽40内をルーメン内の環境と同様、嫌気性状態とするために、培養液の酸化還元電位(ORP)は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため、所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入したり、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入したり、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施してもよい。また、ルーメン微生物の培養を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0067】
培養槽40におけるルーメン微生物の培養は、固形物滞留時間(SRT)が水理学的滞留時間(HRT)より長いことが重要とされる。即ち、リグノセルロース分解細菌は、固形物の表面に付着して増殖するため、SRTが短いと固形物と共に系外に排出される。一方、HRTが必要以上に長いと、生産された揮発性脂肪酸(VFA)によるpHの低下や微生物の増殖の阻害などの負の要因となる。具体的には、HRTは8~36時間、好ましくは10~24時間、SRTは24時間以上、好ましくは、48~168時間、更に好ましくは72~168時間に調節する。また、ルーメン微生物の培養における反応系の温度は、35~42℃、より好ましくは37~40℃になるよう温度センサー等を利用して制御する。なお、培養槽40に投入されるリグノセルロース系バイオマスは、培養液中の固形物濃度(TS)が、1.0~20.0%、より好ましくは3.0~10.0%となるように調整する。固形物濃度(TS)が1.0%以下となると、リグノセルロース分解細菌の生育・増殖が促進されない虞がある。一方で、20.0%を超えると、培養液の固液分離が適切に行われない虞がある。
【0068】
(貯留工程)
貯留工程において、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスとの混合物が貯留槽10に貯留される。前記混合物を貯留槽10内に貯留しておくことで、リグノセルロース系バイオマスの分解処理が進み、後段の分解・水素発酵槽20、前処理槽21や水素発酵槽22の水理学的滞留時間、またはこれらの槽容量を低減することが可能となる。また、貯留工程において、混合液の固形物濃度が3.0~20.0%となるように調整される。固形物濃度(TS)が3.0%以下となると、後段の水素発酵の基質となる還元糖の生産が低下する虞がある。一方で、20.0%を超えると、混合液をポンプによって排出することが困難となる虞がある。また、リグノセルロース系バイオマスをルーメン液やルーメン微生物培養液によりポンプ等で移送できる固形物濃度となるように予め希釈して、貯留槽10に貯留しておくことにより、リグノセルロース系バイオマスに加水して希釈する必要がなくなるため、使用可能な水量に制限がある施設においても、処理液を適切な固形物濃度に調整することができる。さらに、希釈のために水道水を使用する必要もないため、水道コストを削減することができる。貯留工程は、静置して行っても、攪拌して行ってもよいが、混合液の固形物濃度の調整をより適切に行うために、攪拌して行うことが好ましい。固形物濃度が調整された混合液は、分解・水素発酵槽20または前処理槽21に供給される。なお、貯留工程においては、固形物濃度が上記の範囲内となるように調整されればよいため、貯留槽10内の温度管理やpHの調整等は必須ではない。リグノセルロース系バイオマスと、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つとの混合方法については特に限定されないが、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つを貯留槽10に供給してもよく、リグノセルロース系バイオマスを貯留槽10へ供給する経路に供給してもよい。また、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つを貯留槽10内の気相部から供給してもよく、底部から供給してもよく、シャワー状にリグノセルロース系バイオマスに噴霧してもよい。ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つを貯留槽10に気相部や底部から供給する場合は、装置構成を簡素化することができる。また、ルーメン液およびルーメン微生物培養液のうち少なくとも一つを、リグノセルロース系バイオマスを貯留槽10へ供給する経路に供給する場合やシャワー状にリグノセルロース系バイオマスに噴霧する場合は、リグノセルロース系バイオマスとルーメン液およびルーメン微生物培養液の少なくとも一つとリグノセルロース系バイオマスを均一に混合することができる。
【0069】
(前処理(分解)工程)
前処理工程において、リグノセルロース系バイオマスに含まれるリグノセルロースは、リグノセルロース分解細菌が生産するリグニン分解酵素により、リグニンの一部が分解されリグノセルロースの強固な構造が緩んだ後、エンドグルカナーゼやエキソグルカナーゼ、あるいはキシラナーゼ等により、それぞれセルロースやヘミセルロースに分解され、グルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))に変換される。
【0070】
前処理工程を、嫌気性状態とするために、前処理液の酸化還元電位(ORP)は、-100mv以下、より好ましくは-200mv以下、さらに好ましくは-250mv程度に調整する。ルーメン微生物(リグノセルロース分解細菌)は嫌気性細菌であるため所定のORPより高くなった場合(好気状態に近づいた場合)は、窒素ガスや二酸化炭素ガスなどの不活性ガスを注入する、システインやL-アスコルビン酸、硫化ナトリウム、アスコルビン酸、メチオニン、チオグリコール、DTTなどの還元物質を投入する、あるいは有機物を投入して通性嫌気性菌の作用により酸素を消費させる等の処置を施す。前処理工程を窒素又は二酸化炭素雰囲気下での閉鎖系で行ってもよい。
【0071】
前処理工程は、完全混合系で前処理(加水分解、還元糖生成)が行われる。また、前処理工程における反応系の温度は、50~60℃、より好ましくは55℃程度になるよう温度センサー等を利用して制御する。50~60℃の条件下とすることで菌の活性が低下し、還元糖が更に分解されて有機酸になる反応は抑制される。混合液のpHは、5.5~6.0、より好ましくは5.7に調整する。水理学的滞留時間は、4~36時間、より好ましくは24時間程度である。前処理工程における反応は、静置して行っても、攪拌して行ってもよいが、前処理工程の進行をより早めるためには、攪拌して行うことが好ましい。
【0072】
前処理工程は、リグノセルロース系バイオマスを分解処理し、水素発酵処理の基質となる還元糖を生成する機能に特化されており、水素発酵工程と役割が分かれている。そのため、運転制御や管理が行いやすいという利点がある。
【0073】
(水素発酵工程)
水素発酵工程は、リグノセルロース分解細菌による前処理工程と同様に、嫌気性条件下で行われる。発酵工程では、前処理工程で生成されたグルコース、フルクトース等の還元糖(ヘキソース(六単糖))を基質として、水素発酵処理が行われる。水素発酵反応が進むと、還元糖が分解されてピルビン酸等が生成され、さらに反応が進むと酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の揮発性脂肪酸(VFA)が生産される。また、代謝過程でバイオ水素ガスと二酸化炭素が約1:1で生産され、酢酸等の有機酸や水素と二酸化炭素が生産される。
【0074】
水素発酵は50~60℃、より好ましくは55℃程度で行われる。また、水素発酵は、pH5.5~6.0、より好ましくは5.7程度で行われる。水理学的滞留時間は、24~168時間、より好ましくは120時間程度である。
【0075】
(分解・水素発酵工程)
分解・水素発酵工程は、上記の前処理(分解)工程と水素発酵工程を一つの槽(分解・水素発酵槽20)内で行う工程である。分解・水素発酵工程は50~60℃、より好ましくは55℃程度で行われる。また、分解・水素発酵工程は、pH5.5~6.0、より好ましくは5.7程度で行われる。水理学的滞留時間は、24~168時間、より好ましくは72時間程度である。分解・水素発酵工程は、リグノセルロース系バイオマスの分解処理と水素発酵処理が一つの槽で行われるため、設備コストを削減することができる。
【0076】
(第1メタン発酵(汚泥消化)工程)
第2、5実施形態における第1メタン発酵(汚泥消化)工程では、下水汚泥を原料として、メタン発酵(消化)処理が行われる。第1メタン発酵(汚泥消化)工程は、水素発酵工程と同様に、嫌気性条件下で行われる。第1メタン発酵(汚泥消化)工程において生成する消化ガスの組成はメタンが60~70容量%、二酸化炭素が30~40容量%、その他微量の窒素、酸素、硫化水素、及び水等が含まれる。消化ガスは、メタン約60容量%、二酸化炭素約40容量%で構成されるが、そのまま燃料として使用されてもよいし、二酸化炭素を除去して高濃度のメタンガスとして使用されてもよい。
【0077】
下水汚泥(有機性廃棄物)の消化処理は、湿式メタン発酵、乾式メタン発酵何れでも構わない。また、中温メタン発酵、高温メタン発酵何れでも良い。中温発酵の場合、20~30日間、より好ましくは23~27日間、さらに好ましくは25日間程度、高温発酵の場合、10~20日間、より好ましくは13~17日間、さらに好ましくは15日間程度行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。
【0078】
(第2メタン発酵工程)
第3、6実施形態における第2メタン発酵工程では、水素発酵液に含まれる酢酸等の揮発性脂肪酸や水素と二酸化炭素を基質として、メタン発酵が行われる。第2メタン発酵工程は、水素発酵工程と同様に、嫌気性条件下で行われる。第2メタン発酵工程において生成するバイオガスの組成はメタンが60~70容量%、二酸化炭素が30~40容量%、その他微量の窒素、酸素、硫化水素、及び水等が含まれる。バイオメタンガスは、メタン約60容量%、二酸化炭素約40容量%で構成されるが、そのまま燃料として使用されてもよいし、二酸化炭素を除去して高濃度のメタンガスとして使用されてもよい。
【0079】
第2メタン発酵工程は、湿式メタン発酵、乾式メタン発酵何れでも構わない。また、中温メタン発酵、高温メタン発酵何れでも良い。中温発酵の場合、15~30日間、より好ましくは15~25日間、さらに好ましくは20日間程度、高温発酵の場合、10~20日間、より好ましくは15~20日間、さらに好ましくは15日間程度処理が行われる。メタン発酵は、中温発酵の場合、20~45℃、より好ましくは30~37℃以下、さらに好ましくは37℃程度で行われ、高温発酵の場合、40~60℃、より好ましくは50~60℃、さらに好ましくは55℃程度で行われる。また、メタン発酵は、pH6.5~8.5、より好ましくはpH6.8~7.6で行われる。
【0080】
上記の第1メタン発酵工程及び第2メタン発酵工程で得られたメタン発酵液には、窒素源が多く含まれる。ルーメン微生物に含まれるリグノセルロース分解微生物は、分解・水素発酵槽20または前処理槽21内でリグノセルロース系バイオマスを分解して還元糖を生成させる過程において、窒素を消費する。そのため、メタン発酵液を、予め貯留槽10や培養槽40、前処理槽21に供給しておくことで、分解・水素発酵槽20または前処理槽21内でのリグノセルロース分解活性を維持または向上させることができる。また、別途窒素源を添加する必要がないため、コストを削減することができる。
【0081】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態の各構成を適宜組み合わせたり、上記の実施形態に種々の変更を加えたりすることが可能である。例えば、上記の実施形態は、次のように変更可能である。
【0082】
上記実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを破砕・粉砕する粉砕機50を備える例を説明したが、粉砕機50は必須ではない。
【0083】
上記実施形態では、水素発酵処理システム101、102、107、108、第1メタン発酵(消化)槽30を備えた水素発酵処理システム103、104、109、110、及び第2メタン発酵槽31を備えた水素・メタン二段発酵を行う水素発酵処理システム105、106、111、112について説明したが、第1メタン発酵(消化)槽30と第2メタン発酵槽31とを備えた水素発酵処理システムとしてもよい。
【0084】
上記実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを貯留槽10、培養槽40に供給する例を説明したが、リグノセルロース系バイオマスを前処理槽21に直接供給してもよい。リグノセルロース系バイオマスを前処理槽21に直接供給することで、還元糖や分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量をさらに向上させることができる。この場合、前処理槽21内の前処理液の固形物濃度(TS)が3.0~20.0%、より好ましくは5.0~10.0%となるように調整する。
【0085】
上記実施形態では、メタン発酵液を培養槽40に供給する例を説明したが、前処理槽21内で得られた前処理液を培養槽40に供給してもよい。前処理液にはリグノセルロースの未分解物もしくは部分分解物や、窒素源やリン源となる物質が含まれるため、培養槽40に供給することで、培養液中のリグノセルロース分解細菌の生育・増殖がより促進されるとともに、さらなる加水分解により、還元糖や、分子量の小さい易分解性有機性廃棄物の生産量が向上する。
【0086】
上記実施形態では、水素発酵液を第2メタン発酵槽31に供給する例を説明したが、水素発酵液を第2メタン発酵槽31の有無にかかわらず下水汚泥等の有機性廃棄物と混合して第1メタン発酵(消化)槽30へ供給してもよい。水素発酵液には、メタン発酵の基質となる揮発性脂肪酸が含まれるため、水素発酵液が有するエネルギーをメタンガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水素発酵処理システム、及び水素発酵処理方法は、古紙や廃紙等の都市ゴミ等の産業廃棄物、食品廃棄物、農林産廃棄物、建築廃材等のリグノセルロース系産業廃棄物を含む有機性廃棄物を分解処理し、その分解処理物を原料としてバイオ水素ガスやバイオメタンガスを生成する用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
10:貯留槽
20:分解・水素発酵槽
21:前処理槽
22:水素発酵槽
30:第1メタン発酵(消化)槽
31:第2メタン発酵槽
40:培養槽
101~112:水素発酵処理システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6