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特開2024-106807遺伝子工学、細胞工学、および細胞医薬に適した細胞およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106807
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】遺伝子工学、細胞工学、および細胞医薬に適した細胞およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240801BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61P35/00
A61K35/12
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011255
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】520121603
【氏名又は名称】株式会社Logomix
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】相澤 康則
(72)【発明者】
【氏名】大野 知幸
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA10
4C087BB65
4C087NA20
4C087ZB26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遺伝子工学、細胞工学、および細胞医薬に適した細胞およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、MHCの特定領域の配列解読が困難な繰り返し配列を含む大きな領域を欠失させ、または解読可能な領域に置き換えると同時に、MHCの特定遺伝子を欠失させた細胞を提供する。本発明ではまた、2個以上のアレルを効率よく改変することができ、且つ比較的大きな領域の改変が可能な、ゲノム改変方法を用いて、当該細胞を製造する方法を提供する。得られた細胞は、移植用途に適しているか、更なる細胞工学への応用に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含み、
欠失を有する領域のいずれかは、第1のアレルと第2のアレルを有し、前記第1のアレルと第2のアレルはそれぞれ、ネガティブ選択用選択マーカー遺伝子を含む1以上の選択マーカー遺伝子の塩基配列を含むカセット(それぞれ第1のカセットおよび第2のカセットという)を当該欠失部位に有し、第1のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子と第2のカセットに含まれる1以上のネガティブ選択用選択マーカー遺伝子は、相互に区別可能に異なり、これにより、第1のカセットまたは第2のカセットをさらに除去または他の配列と置き換える改変に供した後で前記第1のカセットまたは第2のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子の非発現を指標として前記第1のカセットまたは第2のカセットにおいて改変を有する細胞を選択できる、
細胞。
【請求項2】
細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含み、
欠失を有する領域のいずれかは、第1のアレルと第2のアレルを有し、前記第1のアレルは、外来の目的遺伝子を有し、第2のアレルは、ネガティブ選択用選択マーカー遺伝子を含む1以上の選択マーカー遺伝子の塩基配列を含むカセット(第2のカセットという)を当該欠失部位に有し、これにより、第2のカセットをさらに除去または他の配列と置き換える改変に供した後で前記第2のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子の非発現を指標として前記第2のカセットにおいて改変を有する細胞を選択できる、
細胞。
【請求項3】
細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含み、
欠失を有する領域のいずれかは、第1のアレルと第2のアレルを有し、かつ、
(1)前記第1のアレルおよび第2のアレルの欠失部位はそれぞれ、外来の目的遺伝子を有する、または、
(2)第1のアレルおよび第2のアレルの欠失部位のいずれか一方が外来の目的遺伝子を有し、他方は欠失した領域の両端が連結した構造を有する、
細胞。
【請求項4】
第1のアレルは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Eからなる群から選択されるいずれか1つ、2つ、3つ、または全てをコードする外来の遺伝子を含む、請求項2に記載の細胞。
【請求項5】
外来の目的遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Eからなる群から選択されるいずれか1つ、2つ、3つ、または全てをコードする外来の遺伝子を含み、外来の目的遺伝子はそれぞれ、第1のアレルまたは第2のアレルに含まれる、
請求項3に記載の細胞。
【請求項6】
前記外来の遺伝子はそれぞれ、当該遺伝子のコード領域の転写開始点より上流の配列、イントロン、およびストップコドンの下流の配列をさらに含む、請求項2または4に記載の細胞。
【請求項7】
前記外来の遺伝子はそれぞれ、当該遺伝子のコード領域の転写開始点より上流の配列、イントロン、およびストップコドンの下流の配列をさらに含む、請求項3または5に記載の細胞。
【請求項8】
前記上流の配列が、1kbp以上の長さを有する、請求項6に記載の細胞。
【請求項9】
前記上流の配列が、1kbp以上の長さを有する、請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞を含む、組成物。
【請求項11】
請求項2~9のいずれか一項に記載の細胞を含む、前記外来の遺伝子の発現および/または機能を解析することに用いるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学、細胞工学、および細胞医薬に適した細胞およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規ゲノム編集ツールとしてCRISPR/Casシステムが報告されてから、CRISPR/Casシステムを利用した様々な研究が行われている(例えば、特許文献1)。CRISPR/Casシステムを利用したゲノム編集では、ガイドRNAにより標的化された標的領域がCas9ヌクレアーゼにより二本鎖切断される。二本鎖切断されたDNAは、相同組み換え修復(Homologous Directed Repair:HDR)又は非相同末端再結合(Non-Homologous End-Joining Repair:NHEJ)により修復されることが知られている。HDRでは、標的領域の周辺領域と相同な配列を有するドナーDNAをCRISPR/Casシステムと共に細胞に導入することにより、任意の配列を標的領域に組み込むことができる。
【0003】
ゲノム改変技術を用いて、HDRにより2以上のアレルを同時に効率よく改変する技術が開発されている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、数百kbの大規模欠失を2以上のアレルで同時に効率よく誘発することができたことが開示されている。
【0004】
主要組織適合遺伝子複合体の相違に起因するレシピエントによる移植細胞の拒絶反応の問題に対応するため、MHCクラスIの発現および機能が欠失した細胞を製造する技術が開発されている(例えば、特許文献3)。特許文献3では、MHCクラスIの発現および機能を欠失させるために、β2ミクログロブリン(B2M)をノックアウトすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/093661号
【特許文献2】国際公開第2021/206054号
【特許文献3】国際公開第2012/145384号
【発明の概要】
【0006】
MHCの欠損細胞は、免疫拒絶の問題に対応する有効な手段として開発が進められているが、その手法は、以下の2つに大別される:MHC以外の分子の破壊によって、MHCの細胞表面発現を喪失させる手法、およびMHCのいずれかの分子を破壊する手法。しかしながら、MHC遺伝子座は、繰り返し配列が極めて豊富であり、現在の配列解読技術では遺伝子座を解読することが非常に困難である。仮に特定部分の改変ができていたとしても、繰り返し配列の他の部分が維持されているのか、それも改変されてしまっているのかを分析することが困難である。そのため、MHC遺伝子座の特定遺伝子を標的化する技術では、ゲノムに予測不能な改変が生じている可能性を除外できず、再生医療等で用いる細胞の作製に利用することが困難である。これに対して、MHC以外の分子を破壊することによってMHCの細胞表面発現を喪失させる手法では、当該破壊される分子の働き(例えば、β2ミクログロブリン)が不明であり、破壊による予測不能な問題が生じるリスクも現時点では否定できない。
【0007】
そこで、本発明は、MHCの特定領域の配列解読が困難な繰り返し配列を含む大きな領域を欠失させ、または解読可能な領域に置き換えると同時に、MHCの特定遺伝子を欠失させた細胞を提供する。本発明ではまた、2個以上のアレルを効率よく改変することができ、且つ比較的大きな領域の改変が可能な、ゲノム改変方法を用いて、当該細胞を製造する方法を提供する。得られた細胞は、移植用途に適しているか、更なる細胞工学への応用に適している。
【0008】
本発明は一例として以下の態様を含む。
[1A] 細胞(特にヒト細胞)であって、欠失を有するゲノムDNA(特にヒトゲノムDNA)を含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上を含む、
細胞。
[2A]上記[1A]に記載の細胞であって、前記ゲノムDNAにおいて請求項1に規定された欠失を有する(i)~(iv)のいずれかまたは好ましくはすべては、内在性のHLAおよびHLA類似配列を含まないか、1つしか含まない、細胞。
[3A]上記[1A]または[2A]に記載の細胞であって、前記ゲノムDNAにおいて請求項1に規定された欠失を有する(i)~(iv)のいずれかまたは好ましくはすべては、内在性のHLAおよびHLA類似配列を含まない、細胞。
[4A]上記[1A]~[3A]のいずれかに記載の細胞であって、
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[5A]上記[1A]~[4A]のいずれかに記載の細胞であって、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[6A]上記[1A]~[5A]のいずれかに記載の細胞であって、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、またはchr6: 32,445,000-32,821,000に対応する染色体領域中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[7A]上記[1A]~[6A]のいずれかに記載の細胞であって、
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[8A]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6: 29,701,000~29,723,464(例えば、Chr6: 29,709,000-29,711,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第1の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 29,945,455-30,030,000(例えば、Chr6: 30,020,000-30,020,000およびchr6: 30,021,500-30,022,800)に対応する染色体領域中の特有の配列(第2の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1A]~[7A]のいずれかに記載の細胞。
[9A]前記ゲノムDNAが、制御配列に作動可能に連結された内因性または外来性の所望の遺伝子の挿入を含み、当該挿入は、上記(i)~(iv)のいずれかの領域内、または上記(i)~(iv)の領域以外の領域に位置する、上記[1A]~[8A]のいずれかに記載の細胞。
[10A]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6: 31,166,000~31,269,169(例えば、Chr6: 31,174,000~31,177,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第3の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 31,357,158~31,544,000(例えば、Chr6: 31,534,000~31,538,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第4の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1A]~[9A]のいずれかに記載の細胞。
[11A]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6:32,416,000~33,445,000(例えば、Chr6: 32,440,000~32,448,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第5の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6:32,439,951-32,831,000(例えば、Chr6: 32,820,500~32,822,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第6の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1A]~[10A]のいずれかに記載の細胞。
[12A]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6:32,924,000~33,006,838(例えば、Chr6: 32,999,500~33,002,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第7の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 33,086,238-33,165,000(例えば、Chr6: 33,147,500~33,150,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第8の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1A]~[11A]のいずれかに記載の細胞。
[13A]上記[1A]~[12A]のいずれかに記載の細胞であって、欠失を有する上記(i)~(iv)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない、細胞。
[14A]上記[1A]~[13A]のいずれかに記載の細胞であって、機能的なβ2ミクログロブリンおよび機能的なCIITAのいずれかまたは両方を有する、細胞。
[15A]上記[1A]~[14A]のいずれかに記載の細胞であって、HLAクラスIおよび/またはHLAクラスIIを細胞表面に実質的に発現していない、細胞。
[16A]上記[1A]~[15A]のいずれかに記載の細胞であって、欠失が100kbから400kbの大きさである、細胞。
[17A]上記[1A]~[16A]のいずれかに記載の細胞を含む、組成物。
[18A]ゲノムの全アレル(2倍体の場合には2アレル)における領域の欠失(例えば、1Mbまで、または500kbまでの領域の欠失)であって、MHC分子をコードする遺伝子座のMHC類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部を含む領域を含む欠失を有するゲノムを有する細胞。
[19A]各MHC類似配列集積領域には、1以下のMHC分子をコードする遺伝子しか含まれない、上記[18A]に記載の細胞。
[20A]各MHC類似配列集積領域には、4以下のMHC分子をコードする遺伝子しか含まれない、上記[18A]に記載の細胞。
[21A]各MHC類似配列集積領域には、MHC分子をコードする遺伝子を含まれない、上記[18A]に記載の細胞。
[22A]上記[18A]に記載の細胞であって、欠失が、MHC分子をコードする遺伝子座のMHC類似配列集積領域の全部を含む領域を含む欠失である、細胞。
[23A]上記[22A]に記載の細胞であって、制御配列と当該制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子をさらに含む、細胞。
[24A]制御配列と当該制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子が、全体として天然に存在しない配列を有する、上記[23A]に記載の細胞。
[25A]制御配列と当該制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子が、天然に存在する(または内在性の)配列を有する、上記[23A]に記載の細胞。
【0009】
[1B]細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上を含む、
細胞。
[2B]上記[1B]に記載の細胞であって、前記ゲノムDNAにおいて請求項1に規定された欠失を有する(i)~(iv)のいずれかまたはすべては、内在性のHLAおよびHLA類似配列を含まないか、1つしか含まない、細胞。
[3B]上記[1B]または[2B]に記載の細胞であって、前記ゲノムDNAにおいて請求項1に規定された欠失を有する(i)~(iv)のいずれかまたはすべては、内在性のHLAおよびHLA類似配列を含まない、細胞。
[4B]上記[1B]~[3B]のいずれかに記載の細胞であって、
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[5B]上記[1B]~[4B]のいずれかに記載の細胞であって、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[6B]上記[1B]~[5B]のいずれかに記載の細胞であって、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、またはchr6: 32,445,000-32,821,000に対応する染色体領域中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[7B]上記[1B]~[6B]のいずれかに記載の細胞であって、
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)中のHLA類似配列集積領域の全体を欠失したゲノムDNAを有する、細胞。
[8B]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6: 29,701,000~29,723,464(例えば、Chr6: 29,709,000-29,711,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第1の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 29,945,455-30,030,000(例えば、Chr6: 30,020,000-30,020,000およびchr6: 30,021,500-30,022,800)に対応する染色体領域中の特有の配列(第2の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1B]~[7B]のいずれかに記載の細胞。
[9B]前記ゲノムDNAが、制御配列と当該制御配列に作動可能に連結された内因性または外来性の所望の遺伝子の挿入を含み、当該挿入は、上記(i)~(iv)のいずれかの領域内、または上記(i)~(iv)の領域以外の領域に位置する、上記[1B]~[8B]のいずれかに記載の細胞。
[10B]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6: 31,166,000~31,269,169(例えば、Chr6: 31,174,000~31,177,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第3の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 31,357,158~31,544,000(例えば、Chr6: 31,534,000~31,538,000)に対応する染色体領域中の特有の配列(第4の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1B]~[9B]のいずれかに記載の細胞。
[11B]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6:32,416,000~33,445,000(例えば、Chr6: 32,440,000~32,448,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第5の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6:32,439,951-32,831,000(例えば、Chr6: 32,820,500~32,822,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第6の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1B]~[10B]のいずれかに記載の細胞。
[12B]前記欠失が、hg38ゲノム配列のchr6:32,924,000~33,006,838(例えば、Chr6: 32,999,500~33,002,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第7の配列)中に一方の端を有し、hg38ゲノム配列のchr6: 33,086,238-33,165,000(例えば、Chr6: 33,147,500~33,150,500)に対応する染色体領域中の特有の配列(第8の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である、上記[1B]~[11B]のいずれかに記載の細胞。
[13B]上記[1B]~[12B]のいずれかのいずれか一項に記載の細胞であって、欠失を有する上記(i)~(iv)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない、細胞。
[14B]上記[1B]~[13B]のいずれかに記載の細胞であって、機能的なβ2ミクログロブリンおよび機能的なCIITAのいずれかまたは両方を有する、細胞。
[15B]上記[1B]~[14B]のいずれかに記載の細胞であって、HLAクラスIおよび/またはHLAクラスIIを細胞表面に実質的に発現していない、細胞。
[16B]上記[1B]~[15B]のいずれかに記載の細胞であって、欠失が100kbから400kbの大きさである、細胞。
[17B]上記[1B]~[16B]のいずれかに記載の細胞を含む、組成物。
【0010】
[1C]細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含んでいてもよく、
欠失を有する領域のいずれか(例えば、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失を有する領域)は、第1のアレルと第2のアレルを有し、前記第1のアレルと第2のアレルはそれぞれ、ネガティブ選択用選択マーカー遺伝子(および好ましくはポジティブ選択用マーカー遺伝子)を含む1以上の選択マーカー遺伝子の塩基配列を含むカセット(それぞれ第1のカセットおよび第2のカセットという)を当該欠失部位に有し、第1のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子と第2のカセットに含まれる1以上のネガティブ選択用選択マーカー遺伝子は、相互に区別可能に異なり、これにより、第1のカセットまたは第2のカセットをさらに除去または他の配列と置き換える改変に供した後で前記第1のカセットまたは第2のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子の非発現を指標として前記第1のカセットまたは第2のカセットにおいて改変を有する細胞を選択できる、
細胞。
[2C]細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含み、
欠失を有する領域のいずれか(例えば、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失を有する領域)は、第1のアレルと第2のアレルを有し、前記第1のアレルは、外来の目的遺伝子を有し、第2のアレルは、ネガティブ選択用選択マーカー遺伝子(および好ましくはポジティブ選択用マーカー遺伝子)を含む1以上の選択マーカー遺伝子の塩基配列を含むカセット(第2のカセットという)を当該欠失部位に有し、これにより、第2のカセットをさらに除去または他の配列と置き換える改変に供した後で前記第2のカセットに含まれるネガティブ選択用選択マーカー遺伝子の非発現を指標として前記第2のカセットにおいて改変を有する細胞を選択できる、
細胞。
[3C]細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618例えば、chr6: 29,722,775-29,945,870、またはchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはhg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338、例えば、chr6: 31,268,749-31,357,179、またはchr6: 31,176,000-31,534,000に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199、例えば、chr6:32,934,636-33,089,696、またはchr6: 33,002,000-33,147,000の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAをコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
ゲノムDNAは、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失をさらに含み、
欠失を有する領域のいずれか(例えば、HLA-Eをコードする遺伝子の欠失を有する領域)は、第1のアレルと第2のアレルを有し、かつ、
(1)前記第1のアレルおよび第2のアレルの欠失部位はそれぞれ、外来の目的遺伝子を有する、または、
(2)第1のアレルおよび第2のアレルの欠失部位のいずれか一方が外来の目的遺伝子を有し、他方は欠失部位の両端が直接的または間接的に(例えば、スペーサーなどを介して間接的に)連結した構造を有する、
細胞。
[4C]第1のアレルは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Eからなる群から選択されるいずれか1つ、2つ、3つ、または全てをコードする外来の遺伝子を含む、上記[2C]に記載の細胞。
[5C]外来の目的遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Eからなる群から選択されるいずれか1つ、2つ、3つ、または全てをコードする外来の遺伝子を含み、外来の目的遺伝子はそれぞれ、第1のアレルまたは第2のアレルに含まれる、上記[3C]に記載の細胞。
[6C]前記外来の遺伝子はそれぞれ、当該遺伝子のコード領域の転写開始点より上流の配列、イントロン、およびストップコドンの下流の配列をさらに含む、上記[2C]または[4C]に記載の細胞。
「7C」前記外来の遺伝子はそれぞれ、当該遺伝子のコード領域の転写開始点より上流の配列、イントロン、およびストップコドンの下流の配列をさらに含む、上記[3C]または[5C]に記載の細胞。
[8C]前記上流の配列が、1kbp以上の長さを有する、上記[6C]に記載の細胞。
[9C]前記上流の配列が、1kbp以上の長さを有する、上記[7C]に記載の細胞。
[10C]上記[1C]~[9C]のいずれかに記載の細胞を含む、組成物。
[11C]上記[2C]~[9C]のいずれかに記載の細胞を含む、前記外来の遺伝子の発現および/または機能を解析することに用いるための組成物。
【0011】
本発明は一例として以下の態様を含む。
[1]MHC遺伝子座において、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変方法(特に染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変して特定遺伝子群を欠失させる方法)であって、
(a)下記(i)及び(ii)を、前記染色体を含む細胞に導入する工程と、
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含む、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA、
(b)前記工程(a)の後、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する全ての選択マーカー遺伝子に基づいて、前記細胞を選択する工程と、を含む、ゲノム改変方法。
[2]前記選択マーカー遺伝子がポジティブ選択マーカー遺伝子であり、前記工程(b)が、前記アレルの数と同数の前記ポジティブ選択マーカー遺伝子を発現する細胞を選択する工程である、[1]に記載のゲノム改変方法。
[3]前記選択マーカー用ドナーDNAが、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームとの間に、ネガティブ選択マーカー遺伝子をさらに有する、[2]に記載のゲノム改変方法。
[4](c)前記工程(b)の後、前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAを、前記細胞に導入する工程と、(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択マーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程と、をさらに含む、[3]に記載のゲノム改変方法。
[5]前記ポジティブ選択マーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子であり、前記ネガティブ選択マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子である、[3]又は[4]に記載のゲノム改変方法。
[6]前記配列特異的核酸切断分子が、配列特異的エンドヌクレアーゼである、[1]~[5]のいずれか一つに記載にゲノム改変方法。
[7]前記ゲノム改変システムが、Casタンパク質と、前記標的領域内の塩基配列に相同な塩基配列を有するガイドRNAと、を含む、[6]に記載にゲノム改変方法。
[8]下記(i)及び(ii)を含む、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変キット。
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とす配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム
(ii)前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含む、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA。
[9]前記選択マーカー遺伝子がポジティブ選択マーカー遺伝子である、[8]に記載のゲノム改変キット。
[10]前記選択マーカー用ドナーDNAが、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームとの間に、ネガティブ選択マーカー遺伝子をさらに有する、[9]に記載のゲノム改変キット。
[11]前記配列特異的核酸切断分子が、配列特異的エンドヌクレアーゼである、[8]~[10]のいずれか一つに記載にゲノム改変キット。
[12]前記ゲノム改変システムが、Casタンパク質と、前記標的領域内の塩基配列に相同な塩基配列を有するガイドRNAと、を含む、[8]~[11]のいずれか一つに記載にゲノム改変キット。
【0012】
本発明は一例として以下の態様を含む。
〔1〕染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞を作製する方法であって、
(a)下記(i)及び(ii)を、2つ以上のアレルを含む細胞に導入して、前記2つ以上のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子を導入する工程と、
(i)前記染色体ゲノムの2つ以上のアレル中の標的領域を標的とし、当該標的領域を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、それぞれが前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとを有し、かつ、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能に異なる選択マーカー遺伝子をそれぞれ有し、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA、
(b)前記工程(a)の後、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する工程(ポジティブ選択のための工程)と、
を含む、方法。
〔2〕染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変する方法であって、
(a)下記(i)及び(ii)を、2つ以上のアレルを含む細胞に導入して、前記2つ以上のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子を導入する工程と、
(i)前記染色体ゲノムの2つ以上のアレル中の標的領域を標的とし、当該標的領域を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、それぞれが前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとを有し、かつ、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能に異なる選択マーカー遺伝子をそれぞれ有し、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA、
(b)前記工程(a)の後、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する工程(ポジティブ選択のための工程)と、
を含む、方法。
〔3〕標的領域が5kbp以上の長さを有する、上記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕標的領域が8kbp以上の長さを有する、上記〔3〕に記載の方法。
〔5〕2種以上の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームの間に、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子とネガティブ選択用のマーカー遺伝子と標的配列とを有し、ここで、当該選択マーカー遺伝子がポジティブ選択用にもネガティブ選択用にも用いられる場合には、別のネガティブ選択用の選択マーカー遺伝子を有していなくてよく、
(c)前記工程(b)の後、下記(iii)及び(iv)を選択された細胞に導入して前記2以上のアレルに組換え用ドナーDNAを導入する工程と、
(iii)前記標的配列を標的とし、当該標的配列を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(iv)所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有する、組換え用ドナーDNA、
(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択用のマーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程(ネガティブ選択のための工程)と、
をさらに含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕2種以上の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームの間に、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子とネガティブ選択用のマーカー遺伝子と標的配列とを有し、ここで、当該選択マーカー遺伝子がポジティブ選択用にもネガティブ選択用にも用いられる場合には、別のネガティブ選択用の選択マーカー遺伝子を有していなくてよく、
(c)前記工程(b)の後、下記(iii)及び(iv)を選択された細胞に導入して前記2以上のアレルに組換え用ドナーDNAを導入する工程と、
(iii)前記標的配列を標的とし、当該標的配列を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(iv)所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有する、組換え用ドナーDNA、
(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択用のマーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程(ネガティブ選択のための工程)と、
をさらに含む、上記〔3〕に記載の方法。
〔7〕2種以上の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームの間に、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子とネガティブ選択用のマーカー遺伝子と標的配列とを有し、ここで、当該選択マーカー遺伝子がポジティブ選択用にもネガティブ選択用にも用いられる場合には、別のネガティブ選択用の選択マーカー遺伝子を有していなくてよく、
(c)前記工程(b)の後、下記(iii)及び(iv)を選択された細胞に導入して前記2以上のアレルに組換え用ドナーDNAを導入する工程と、
(iii)前記標的配列を標的とし、当該標的配列を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(iv)所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有する、組換え用ドナーDNA、
(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択用のマーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程(ネガティブ選択のための工程)と、
をさらに含む、上記〔4〕に記載の方法。
〔8〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、5kbp以上の長さを有する、上記〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、5kbp以上の長さを有する、上記〔6〕または〔7〕に記載の方法。
〔10〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、5kbp以上の長さを有する、上記〔7〕に記載の方法。
〔11〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、8kbp以上の長さを有する、上記〔8〕に記載の方法。
〔12〕下記(i)及び(ii)を含む、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変キット。
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とし、標的領域を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有し、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能に異なる選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA。
〔13〕標的領域が5kbp以上の長さを有する、上記〔12〕に記載のキット。
〔14〕標的領域が8kbp以上の長さを有する、上記〔13〕に記載のキット。
〔15〕組換え用ドナーDNAをさらに含む、上記〔12〕~〔14〕のいずれかに記載のキット。
〔16〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、5kbp以上の長さを有する、上記〔12〕~〔15〕のいずれかに記載のキット。
〔17〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、8kbp以上の長さを有する、上記〔12〕~〔16〕のいずれかに記載のキット。
〔18〕標的領域が5kbp以上の長さを有し、かつ、組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、5kbp以上の長さを有する、上記〔12〕に記載のキット。
〔19〕標的領域が8kbp以上の長さを有し、かつ、組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、8kbp以上の長さを有する、上記〔18〕に記載のキット。
〔20〕組換え用ドナーDNAが、組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域に塩基配列を有さず、改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、標的領域の上流および下流の配列が、塩基の挿入、置換および欠失なく、シームレスに連結している、上記〔5〕に記載の方法。
〔21〕組換え用ドナーDNAが、組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域に塩基配列を有さず、改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、標的領域の上流および下流の配列が、塩基の挿入、置換および欠失なく、シームレスに連結している、上記〔6〕または〔7〕に記載の方法。
〔22〕改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、部位特異的組換え酵素の標的配列が存在しない、上記〔3〕に記載の方法。
〔23〕改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、部位特異的組換え酵素の標的配列が存在しない、上記〔4〕に記載の方法。
〔24〕改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、部位特異的組換え酵素の標的配列が存在しない、上記〔5〕に記載の方法。
〔25〕改変後に得られる染色体ゲノムの前記2つ以上のアレルにおいて、部位特異的組換え酵素の標的配列が存在しない、上記〔6〕または〔7〕に記載の方法。
〔26〕工程(b)において、2以上のアレルが改変された細胞を選択するまでの過程では単一細胞クローニングは行われない、上記〔1〕~〔11〕、および〔20〕~〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔27〕標的領域に関して染色体ゲノム上に2つ以上のアレルを有する細胞において、前記2つ以上のアレルのそれぞれの標的領域が欠失し、かつ、標的領域の上流および下流の配列が、塩基の挿入、置換および欠失なく、シームレスに連結している、細胞。
〔28〕標的領域が5kbp以上の長さを有する、上記〔27〕に記載の細胞。
〔29〕そのゲノム中に部位特異的組換え酵素の標的配列を有しない、上記〔27〕または〔28〕に記載の細胞。
〔30〕組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域が、8kbp以上の長さを有する、上記〔6〕または〔7〕に記載の方法。
〔31〕組換え用ドナーDNAが、組換え用ドナーDNAの上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間の領域に塩基配列を有さない、上記〔15〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2つ以上のアレルを効率よく改変することができ、且つ比較的大きな領域の改変が可能な、ゲノム改変方法及び前記ゲノム改変キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域の遺伝子マップである。HLA遺伝子の存在するクラスターが矢印で強調されている。
図2図2は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-A遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図3図3は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-B遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図4図4は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-C遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図5図5は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-E遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図6図6は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-F遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図7図7は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-G遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図8図8は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-H遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図9図9は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-J遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図10図10は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-W遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図11図11は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるMICA遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図12図12は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるMICB遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図13図13は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DRA遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図14図14は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DRB1遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図15図15は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DRB5遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図16図16は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DRB6遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図17図17は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DRB9遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図18図18は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DQA1遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図19図19は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DQA2遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図20図20は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DQB1遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図21図21は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DPA1遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図22図22は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DPB1遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図23図23は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DMB遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図24図24は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DOA遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図25図25は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域が存在する6番染色体領域におけるHLA-DOB遺伝子の類似配列の検索結果を示す。
図26図26は、HLAクラスI領域およびHLAクラスII領域における4つのHLA類似配列(配列)集積領域(i)~(iv)の位置を示す。
図27図27は、HLA類似配列集積領域(i)のテロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図28図28は、HLA類似配列集積領域(i)のセントロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図29図29は、HLA類似配列集積領域(ii)のテロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図30図30は、HLA類似配列集積領域(ii)のセントロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図31図31は、HLA類似配列集積領域(iii)のテロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図32図32は、HLA類似配列集積領域(iii)のセントロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図33図33は、HLA類似配列集積領域(iv)のテロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図34図34は、HLA類似配列集積領域(iv)のセントロメア側の末端候補を同定するためのBlat検索結果の一例を示す。
図35図35は、図27図34の結果のまとめを示す。
図36図36は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域の全体を本開示の方法により除去する方法のスキームと、その結果を示す。
図37図37は、HLA-CとHLA-Bを含む一連の領域の全体を本開示の方法により除去する方法のスキームと、その結果を示す。得られた細胞では、HLA-F、HLA-G、およびHLA-A、並びに、HLA-C及びHLA-Bが欠失している。
図38図38は、得られた細胞が、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cのいずれに関しても陰性であることを示すサイトグラムである。
図39図39は、得られた細胞が、未改変のiPS細胞と同等の多能性幹細胞マーカーの発現を示すことを示す。
図40図40は、HLA-E領域をさらに欠失させる方法のスキームと、その結果を示す。
図41図41は、HLA-E領域をさらに欠失させる方法のスキームと、その結果を示す。
図42図42は、HLA-Eの代わりにシグナル配列を付加したHLA-Eを導入するスキームとその結果を示す。
図43図43は、HLA-DRA、HLA-DRBs、HLA-DQAs、HLA-DQB1、およびHLA-DOBを含む一連の領域の全体を本開示の方法によりさらに除去する方法のスキームと、その結果を示す。得られた細胞では、HLA-F、HLA-G、およびHLA-A;HLA-C及びHLA-B;並びにHLA-DRA、HLA-DRBs、HLA-DQAs、HLA-DQB1、およびHLA-DOBが欠失している。
図44図44は、HLA-DRA、HLA-DRBs、HLA-DQAs、HLA-DQB1、およびHLA-DOBを含む一連の領域の全体を本開示の方法によりさらに除去する方法のスキームと、その結果を示す。得られた細胞では、HLA-F、HLA-G、およびHLA-A;HLA-C及びHLA-B;並びにHLA-DRA、HLA-DRBs、HLA-DQAs、HLA-DQB1、およびHLA-DOBが欠失している。
図45図45は、HLA-Eの欠失を有する領域に任意の目的遺伝子を導入するスキームを示す。
図46図46は、HLA-Eの欠損部位に対して、外来遺伝子(例えば、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-E)を導入するスキームを示す。
図47図47は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域とHLA-CとHLA-Bを含む一連の領域を欠失させた細胞のHLA-EをUKiSマーカーで置き換えて得られた細胞に対して、HLA-AとBを組込むスキームと、その結果を示す。
図48図48は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域とHLA-CとHLA-Bを含む一連の領域を欠失させた細胞(図37参照)のHLA-EをUKiSマーカーで置き換えて得られた細胞に対して、HLA-CとEを組込むスキームと、その結果を示す。
図49図49は、HLA-AおよびBを再導入した細胞(図47参照)とHLA-CとEを再導入した細胞(図48参照)におけるHLAの細胞表面発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[定義]
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオチドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを指す。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAとの組み合わせから構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)等)とのポリマーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。
【0016】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コードで記載される。特に明示しない限り、塩基配列は、5’側から3’側に向かって記載する。「ポリヌクレオチド」又は「核酸」を構成するヌクレオチド残基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等、あるいはそれらの1文字コードで記載される場合がある。
【0017】
「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを指す。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。
【0018】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互に互換的に使用され、アミド結合によって結合したアミノ酸のポリマーを指す。「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」は、天然アミノ酸のポリマーであってもよく、天然アミノ酸と非天然アミノ酸(天然アミノ酸の化学的類似体、修飾誘導体等)とのポリマーであってもよく、非天然アミノ酸のポリマーであってもよい。特に明示しない限り、アミノ酸配列は、N末端側からC末端側に向かって記載する。
【0019】
「アレル」という用語は、染色体ゲノム上の同一座位に存在する塩基配列のセットを指す。ある態様では、2倍体の細胞では同一座位に2アレル存在し、3倍体の細胞では同一座位に3アレル存在する。また、ある態様では、染色体の異常なコピーまたは当該座位の異常な追加のコピーによって追加のアレルが形成されている場合がある。
【0020】
「ゲノム改変」又は「ゲノム編集」という用語は、相互に互換的に用いられ、ゲノム上の所望の位置(標的領域)に変異を誘導することを指す。ゲノム改変は、標的領域DNAを切断するように設計された配列特異的核酸切断分子の使用を含み得る。好ましい実施形態において、ゲノム改変は、標的領域のDNAを切断するように操作されたヌクレアーゼの使用、を含み得る。好ましい実施形態において、ゲノム改変は、標的領域中の特定の塩基配列を有する標的配列を切断するように操作されたヌクレアーゼ(例えば、TALENやZFN)の使用を含み得る。好ましい実施形態において、ゲノム改変は、標的領域中の特定の塩基配列を有する標的配列を切断するように、メガヌクレアーゼなどのゲノムに1つしか切断部位を有しない制限酵素(例えば、16ベースの配列特異性を有する制限酵素(理論上は416塩基に1つの割合で存在する)、17ベースの配列特異性を有する制限酵素(理論上は417塩基に1つの割合で存在する)、および18ベースの配列特異性を有する制限酵素(理論上は418塩基に1つの割合で存在する))などの配列特異的エンドヌクレアーゼを用いることができる場合もある。典型的には、部位特異的ヌクレアーゼの使用により、標的領域のDNAに二本鎖切断(DSB)が誘導され、その後、相同組み換え修復(Homologous Directed Repair:HDR)及び非相同末端再結合(Non-Homologous End-Joining Repair:NHEJ)のような、細胞の内因性プロセスによってゲノムが修復される。NHEJは、ドナーDNAを用いずに二本鎖切断された末端を連結する修復方法であり、修復の際に挿入及び/又は欠失(indel)が高頻度で誘導される。HDRは、ドナーDNAを用いた修復機構であり、標的領域に所望の変異を導入することも可能である。ゲノム改変技術としては、例えば、CRISPR/Casシステムが好ましく例示される。メガヌクレアーゼとしては、例えば、I-SceI、I-SceII、I-SceIII、I-SceIV、I-SceV、I-SceVI、I-SceVII、I-CeuI、I-CeuAIIP、I-CreI、I-CrepsbIP、I-CrepsbIIP、I-CrepsbIIIP、I-CrepsbIVP、I-TliI、I-PpoI、PI-PspI、F-SceI、F-SceII、F-SuvI、F-TevI、F-TevII、I-AmaI、I-AniI、I-ChuI、I-CmoeI、I-CpaI、I-CpaII、I-CsmI、I-CvuI、I-CvuAIP、I-DdiI、I-DdiII、I-DirI、I-DmoI、I-HmuI、I-HmuII、I-HsNIP、I-LlaI、I-MsoI、I-NaaI、I-NanI、I-NclIP、I-NgrIP、I-NitI、I-NjaI、I-Nsp236IP、I-PakI、I-PboIP、I-PcuIP、I-PcuAI、I-PcuVI、I-PgrIP、I-PobIP、I-PorI、I-PorIIP、I-PbpIP、I-SpBetaIP、I-ScaI、I-SexIP、I-SneIP、I-SpomI、I-SpomCP、I-SpomIP、I-SpomIIP、I-SquIP、I-Ssp68031、I-SthPhiJP、I-SthPhiST3P、I-SthPhiSTe3bP、I-TdeIP、I-TevI、I-TevII、I-TevIII、I-UarAP、I-UarHGPAIP、I-UarHGPA13P、I-VinIP、I-ZbiIP、PI-Mtul、PI-MtuHIP PI-MtuHIIP、PI-PfuI、PI-PfuII、PI-PkoI、PI-PkoII、PI-Rma43812IP、PI-SpBetaIP、PI-SceI、PI-TfuI、PI-TfuII、PI-ThyI、PI-TliI、およびPI-TliII、並びにこれらの機能的な誘導体制限酵素からなる群から選択されるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(または認識部位)、好ましくは、18塩基以上の配列特異性を有する制限酵素であるメガヌクレアーゼおよびその切断部位(または認識部位)、特に細胞のゲノムを1箇所または複数箇所以上切断しないメガヌクレアーゼおよびその切断部位を用いることができる。
【0021】
「標的領域」という用語は、ゲノム改変の対象となるゲノム領域を指す。「欠失」は、リファレンスゲノムに対する1塩基以上の欠失、および1遺伝子以上の欠失を含む。欠失は、100bp以上の欠失、200bp以上の欠失、300bp以上の欠失、400bp以上の欠失、500bp以上の欠失、600bp以上の欠失、700bp以上の欠失、800bp以上の欠失、900bp以上の欠失、1kbp以上の欠失、10kbp以上の欠失、50kbp以上の欠失、100kbp以上の欠失、200kbp以上の欠失、300kbp以上の欠失、400kbp以上の欠失、500kbp以上の欠失、または1Mbp以上の欠失またはそれ以下の欠失であり得る。欠失は、1Mbp以下の欠失であり得る。欠失は、700kbp以下の欠失であり得る。欠失は、600kbp以下の欠失であり得る。欠失は、500kbp以下の欠失であり得る。欠失は、10kbp以上600kbp以下の欠失であり得る。欠失は、100kbp以上600kbp以下の欠失であり得る。欠失は、100kbp以上500kbp以下の欠失であり得る。
【0022】
「ドナーDNA」という用語は、DNAの二本鎖切断の修復に用いられるDNAであって、標的領域周辺のDNAと相同組換え可能なDNAを指す。ドナーDNAは、ホモロジーアームとして標的領域の上流の塩基配列および下流の塩基配列(例えば、標的領域に隣接する塩基配列)を含む。本明細書においては、標的領域の上流側の塩基配列(例えば、上流側に隣接する塩基配列)からなるホモロジーアームを「上流ホモロジーアーム」、標的配列の下流側の塩基配列(例えば、下流側に隣接する塩基配列)からなるホモロジーアームを「下流ホモロジーアーム」と記載する場合がある。ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に、所望の塩基配列を含むことができる。各ホモロジーアームの長さは、300bp以上が好ましく、通常500~3000bp程度である。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームの長さは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。標的領域は、配列依存的な切断後にドナーDNAとの間で相同組換えの誘発に成功すると、標的領域の上流の塩基配列および下流の塩基配列の間の配列が、ドナーDNAの配列と置き換わることとなる。
【0023】
標的領域の「上流」とは、標的領域の2本鎖DNAにおいて、基準となるヌクレオチド鎖の5’側に位置するDNA領域を意味する。標的領域の「下流」とは、基準となるヌクレオチド鎖の3’側に位置するDNAを意味する。標的領域がタンパク質コード配列を含む場合、基準となるヌクレオチド鎖は、通常、センス鎖である。一般的に、プロモーターは、タンパク質コード配列の上流に位置する。ターミネーターは、タンパク質コード配列の下流に位置する。
【0024】
「配列特異的核酸切断分子」という用語は、特定の核酸配列を認識し、前記特定の核酸配列で核酸を切断することができる分子を指す。配列特異的核酸切断分子は、配列特異的に核酸切断する活性(配列特異的核酸切断活性)を有する分子である。
【0025】
「標的配列」という用語は、配列特異的核酸切断分子による切断の対象となるゲノム中のDNA配列を指す。配列特異的核酸切断分子がCasタンパク質である場合、標的配列は、Casタンパク質による切断の対象となるゲノム中のDNA配列を指す。Casタンパク質としてCas9タンパク質を用いる場合、標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’側に隣接する配列である必要がある。標的配列は、通常、PAMの5’側直前に隣接する17~30塩基(好ましくは18~25塩基、より好ましくは19~22塩基、さらに好ましくは20塩基)の配列が選択される。標的配列の設計には、CRISPR DESIGN(crispr.mit.edu/)等の公知のデザインツールを利用することができる。
【0026】
「Casタンパク質」という用語は、CRISPR関連(CRISPR-associated)タンパク質を指す。好ましい態様において、Casタンパク質は、ガイドRNAと複合体を形成し、エンドヌクレアーゼ活性又はニッカーゼ活性を示す。Casタンパク質としては、特に限定されないが、例えば、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質、C2c1タンパク質、C2c2タンパク質、及びC2c3タンパク質等が挙げられる。Casタンパク質は、ガイドRNAと協働してエンドヌクレアーゼ活性又はニッカーゼ活性を示す限り、野生型Casタンパク質及びそのホモログ(パラログ及びオーソログ)、並びにそれらの変異体を包含する。
好ましい態様において、Casタンパク質は、クラス2のCRISPR/Cas系に関与するものであり、より好ましくはII型のCRISPR/Cas系に関与するものである。Casタンパク質の好ましい例としては、Cas9タンパク質が例示される。Casタンパク質の好ましい例としては、Cas3タンパク質が例示される。
【0027】
「Cas9タンパク質」という用語は、II型のCRISPR/Cas系に関与するCasタンパク質を指す。Cas9タンパク質は、ガイドRNAと複合体を形成し、ガイドRNAと協働して標的領域のDNAを切断する活性を示す。Cas9タンパク質は、前記の活性を有する限り、野生型Cas9タンパク質及びそのホモログ(パラログ及びオーソログ)、並びにそれらの変異体を包含する。野生型Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼドメインとしてRuvCドメイン及びHNHドメインを有するが、本明細書におけるCas9タンパク質は、RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化されたものであってもよい。RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化されたCas9は、二本鎖DNAに対して一本鎖切断(ニック)を導入する。そのため、RuvCドメイン及びHNHドメインのいずれか一方が不活性化されたCas9を二本鎖DNAの切断に用いる場合には、センス鎖とアンチセンス鎖それぞれに対してCas9の標的配列を設定し、センス鎖およびアンチセンス差のニックが十分に近い位置で生じ、それにより二本鎖切断が誘発されるように、改変システムを構成することができる。
Cas9タンパク質が由来する生物種は特に限定されないが、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ナイセリア(Neisseria)属、又はトレポネーマ(Treponema)属に属する細菌等が好ましく例示される。より具体的には、S.pyogenes、S.thermophilus、S.aureus、N.meningitidis、又はT.denticola等に由来するCas9タンパク質が好ましく例示される。好ましい態様において、Cas9タンパク質は、S.pyogenes由来のCas9タンパク質である。
【0028】
各種Casタンパク質のアミノ酸配列、及びそのコード配列の情報は、GenBank、UniProt、Addgene等の各種データベース上で得ることができる。例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、プラスミド番号42230としてAddgeneに登録されたもの等を用いることができる。S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列の一例を配列番号1に示す。
【0029】
「ガイドRNA」及び「gRNA」という用語は、相互に互換的に使用され、Casタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を標的領域に誘導することができるRNAを指す。好ましい態様において、ガイドRNAは、CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)を含む。crRNAは、ゲノム上の標的領域への結合に関与し、tracrRNAは、Casタンパク質との結合に関与する。好ましい態様において、crRNAは、スペーサー配列とリピート配列とを含み、スペーサー配列が標的領域において標的配列の相補鎖と結合する。好ましい態様において、tracrRNAは、アンチリピート配列と3’テイル配列とを含む。アンチリピート配列はcrRNAのリピート配列と相補的な配列を有し、リピート配列と塩基対を形成し、3’テイル配列は通常3つのステムループを形成する。
ガイドRNAは、crRNAの3’末端にtracrRNAの5’末端を連結した単一ガイドRNA(sgRNA)であってもよく、crRNA及びtracrRNAを別々のRNA分子とし、リピート配列及びアンチリピート配列で塩基対を形成させたものであってもよい。好ましい態様において、ガイドRNAはsgRNAである。
【0030】
crRNAのリピート配列及びtracrRNAの配列は、Casタンパク質の種類に応じて適宜選択することができ、Casタンパク質と同じ細菌種に由来するものを用いることができる。
例えば、S.pyogenes由来のCas9タンパク質を用いる場合、sgRNAの長さは、50~220ヌクレオチド(nt)程度とすることができ、60~180nt程度が好ましく、80~120nt程度がより好ましい。crRNAの長さは、スペーサー配列を含めて約25~70塩基長とすることができ、25~50nt程度が好ましい。tracrRNAの長さは10~130nt程度とすることができ、30~80nt程度が好ましい。
crRNAのリピート配列は、Casタンパク質が由来する細菌種におけるものと同じであってもよく、3’末端の一部を削除したものであってもよい。tracrRNAは、Casタンパク質が由来する細菌種における成熟tracrRNAと同じで配列を有していてもよく、当該成熟tracrRNAの5’末端及び/又は3’末端を切断した末端切断型であってもよい。例えば、tracrRNAは、成熟tracrRNAの3’末端から1~40個程度のヌクレオチド残基を除去した末端切断型であり得る。また、tracrRNAは、成熟tracrRNAの5’末端から1~80個程度のヌクレオチド残基を除去した末端切断型であり得る。また、tracrRNAは、例えば、5’末端から1~20程度のヌクレオチド残基を除去し、かつ3’末端から1~40個程度のヌクレオチド残基を除去した末端切断型であり得る。
sgRNA設計のためのcrRNAリピート配列及びtracrRNAの配列は、種々提案されており、当業者は、公知技術に基づいてsgRNAを設計することができる(例えば、Jinek et al. (2012) Science, 337, 816-21; Mali et al. (2013) Science, 339: 6121, 823-6; Cong et al. (2013) Science, 339: 6121, 819-23; Hwang et al. (2013) Nat. Biotechnol. 31: 3, 227-9; Jinek et al. (2013) eLife, 2, e00471)。
【0031】
「プロトスペーサー隣接モチーフ」及び「PAM」という用語は、相互に互換的に使用され、Casタンパク質によるDNA切断の際に、Casタンパク質に認識される配列を指す。PAMの配列及び位置は、Casタンパク質の種類によって異なる。例えば、Cas9タンパク質の場合、PAMは標的配列の3’側直後に隣接する必要がある。Cas9タンパク質に対応するPAMの配列は、Cas9タンパク質が由来する細菌種によって異なっている。例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質に対応するPAMは「NGG」であり、S.thermophilusのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNAGAA」であり、S.aureusのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNGRRT」又は「NNGRR(N)」であり、N.meningitidisのCas9タンパク質に対応するPAMは「NNNNGATT」であり、T.denticolaのCas9タンパク質に対応する「NAAAAC」である(「R」はA又はG;「N」は、A、T、G又はC)。
【0032】
「スペーサー配列」及び「ガイド配列」という用語は、相互に互換的に使用され、ガイドRNAに含まれる配列であって、標的配列の相補鎖と結合し得る配列を指す。通常、スペーサー配列は、標的配列と同一の配列である(但し、標的配列中のTは、スペーサー配列ではUとなる)。本発明の実施態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1塩基又は複数塩基のミスマッチを含むことができる。複数塩基のミスマッチを含む場合、隣接した位置にミスマッチを有していてもよく、離れた位置にミスマッチを有していてもよい。好ましい態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1~5塩基のミスマッチを含み得る。特に好ましい態様において、スペーサー配列は、標的配列に対して1塩基のミスマッチを含み得る。
ガイドRNAにおいて、スペーサー配列は、crRNAの5’側に配置される。
【0033】
ポリヌクレオチドに関して用いる「機能的に連結」という用語は、第一の塩基配列が第二の塩基配列に十分に近くに配置され、第一の塩基配列が第二の塩基配列又は第二の塩基配列の制御下の領域に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結するとは、当該ポリヌクレオチドが、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
【0034】
「発現可能な状態」という用語は、ポリヌクレオチドが導入された細胞内で、該ポリヌクレオチドが転写され得る状態にあることを指す。
「発現ベクター」という用語は、対象ポリヌクレオチドを含むベクターであって、該ベクターを導入した細胞内で、対象ポリヌクレオチドを発現可能な状態にするシステムを備えたベクターを指す。例えば、「Casタンパク質の発現ベクター」とは、該ベクターを導入した細胞内で、Casタンパク質を発現可能なベクターを意味する。また、例えば、「ガイドRNAの発現ベクター」とは、該ベクターを導入した細胞内で、ガイドRNAを発現可能なベクターを意味する。
【0035】
「HLA類似配列」という用語は、HLA遺伝子の少なくとも1つとUCSC Genome Browserに搭載されているBLAT検索から導かれるIdentity値で80%以上を示す一つながりの塩基配列を意味する。HLA遺伝子座には、HLAおよびHLA類似配列が集積している領域が存在し、これをHLA類似配列集積領域とよぶ。
【0036】
「MHC類似配列」という用語は、MHC遺伝子の少なくとも1つとUCSC Genome Browserに搭載されているBLAT検索から導かれるIdentity値で80%以上を示す一つながりの塩基配列を意味する。MHC遺伝子座には、MHCおよびMHC類似配列が集積している領域が存在し、これをMHC類似配列集積領域とよぶ。
【0037】
「固有の配列」という用語は、他に類似する配列が存在しない特有の配列を意味し、具体的には、その全長に対するBLAT検索によるIdentity値が80%以上である配列が、当該固有の配列を有するゲノム上に1箇所しか存在しない配列を意味する。固有の配列は、BLAT検索によるIdentity値が75%以上である配列が、当該固有の配列を有するゲノム上に1箇所しか存在しない配列であることがより好ましく、BLAT検索によるIdentity値が70%以上である配列が、当該固有の配列を有するゲノム上に1箇所しか存在しない配列がさらに好ましく、BLAT検索によるIdentity値が65%以上である配列が、当該固有の配列を有するゲノム上に1箇所しか存在しない配列であることがさらにまた好ましく、BLAT検索によるIdentity値が60%以上である配列が、当該固有の配列を有するゲノム上に1箇所しか存在しない配列であることが好ましい。「固有の配列」は、「特有の配列」と相互互換的に用いられ得る。
【0038】
HLAクラスI(例えば、HLA-A~Cなど)は、内在の約9個のアミノ酸残基を有するペプチドを溝に埋め込んでキラーT細胞に提示する複合体を形成する。感染細胞やがん細胞などにおいて非自己のペプチドが複合体に提示されるとキラーT細胞は、これを提示する細胞毎破壊する。HLAクラスII(HLA-DR、DQ、DPなど)は、食作用で取り込んだ外来の約15アミノ酸残基を有するペプチドを溝に埋め込んでヘルパーT細胞に提示する。免疫チェックポイント分子は、免疫を抑制する免疫チェックポイントに関与する因子である。免疫チェックポイント分子としては、例えば、PD-L1、PD-L2、B7(CD80/CD86)、CD275、CD276、VISTA、ガレクチン9、HVEM、およびHLAクラスII分子が挙げられる。
【0039】
本開示の細胞は、iPS細胞であり得る。本開示の細胞は、ヒト細胞由来のiPS細胞(ヒトiPS細胞)であり得る。本開示の細胞は、例えば、免疫細胞に分化させてから用いることができる。したがって、本開示の細胞は、免疫細胞(特にiPS細胞由来の免疫細胞)であり得る。免疫細胞は、例えば、T細胞(例えば、CD4単独陽性T細胞、およびCD8単独陽性T細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、制御性T細胞(Treg)、αβT細胞、γδT細胞、およびマクロファージからなる群から選択される1以上の免疫細胞であり得る。免疫細胞は、抗原特異性を有するT細胞受容体(TCR)を有していてもよい。免疫細胞は、抗原特異性を有するT細胞受容体を発現しなくてもよい(例えば、TCRα鎖欠損を有してもよい)。免疫細胞は、キメラ抗現受容体(CAR)を発現していてもよい。例えば、免疫細胞は、CARを発現するが、抗原特異性を有するTCRを発現しなくてもよい、T細胞、NKT細胞、NK細胞、またはγδT細胞であり得る。細胞は例えば初代細胞(例えば、初代免疫細胞)であり得る。細胞は例えば細胞株(例えば、免疫細胞株)であり得る。細胞は非がん細胞であり得る。CARを発現する細胞は、例えば、内因性または外来のインターロイキン-7(IL-7)および内因性または外来のCCL19のうちのいずれかまたは両方を発現していてもよい。内因性または外来のIL-7および内因性または外来のCCL19は、制御配列に作動可能に連結しており、CARを発現する細胞は、当該IL-7およびCCL19のいずれかまたは好ましくは両方を有する。CARを発現する細胞は、内因性または外来のエンドβ-D-グルクロニダーゼ(HPSE)を発現してもよい。これらの免疫細胞は、当該細胞が投与される対象と、自己または同種異系の関係を有していることができる。免疫細胞はまた、内因性または外来のCD3を発現してもよい。また、細胞は、HLA-E、HLA-G、HACD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、およびTCRからなる群から選択される1以上の内因性または外来性の因子を発現していてもよく、発現していなくてもよい。ある態様では、細胞は、HLA-E、HLA-G、CD16、41BBL、CD3、CD4、CD8、CD47、CD137、CD80、PDL1、A2AR、CAR、およびTCRからなる群から選択される1以上の内因性または外来性の因子をコードする核酸を有し、当該核酸は、制御配列に作動可能に連結している。ある態様では、CARを発現する細胞は、抗体療法と併用されうる。この併用において、CARを発現する細胞では、抗体の標的分子(腫瘍抗原)がノックアウトされていてもよい。ある態様では、そのような腫瘍抗原としては、CD38、およびCD52などが挙げられる。抗CD38抗体としては、例えば、ダラツムマブ、およびイサツキシマブが挙げられる(治療対象疾患は、例えば、多発性骨髄腫であり得る)。また、抗CD52抗体としては、例えば、アレムツズマブが挙げられる(治療対象疾患は、例えば、白血病、リンパ性白血病、または慢性リンパ性白血病であり得る)。ある態様の細胞(例えば、免疫細胞、または非免疫細胞)では、また、NLRC5がノックアウトされていてもよく、これにより例えば、移植片対宿主病(GVHD)の発症を抑制できてもよい。ある態様の細胞(例えば、免疫細胞、または非免疫細胞)は、PD1、CD52、CTLA4、dCK、GGH、HPRT、およびβ2ミクログロブリンからなる群から選択される因子とCARまたはTCRとを発現していてもよい。ある好ましい態様では、本開示の細胞では、機能的なβ2ミクログロブリンおよび/または機能的なCIITAを有する。本開示の細胞は、例えば、IL-15:IL15Rα融合タンパク質を発現してもよい。
【0040】
本明細書では、「キメラ抗原受容体」(CAR)は、抗体の抗原結合性断片(特に、scFv)と免疫細胞の活性化ドメインとを有するキメラ分子である。CARは、一般的には、scFv、細胞外ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン(例えば、CD8αまたはCD28)、および活性化シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζ)が連結してなる分子である。CARは、細胞に導入し、細胞表面に発現させることができる。CARを発現した細胞は特定の抗原に対して標的化し得る。CARは、例えば、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞に導入され、T細胞またはNK細胞などの免疫細胞をがんに標的化する。第1世代CARでは、scFv、細胞外ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン(例えば、CD8αまたはCD28)、および活性化シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζ)が連結していたが、第2世代CARは、CARが導入された免疫細胞活性化のために、共刺激分子シグナル伝達ドメインをさらに含む。共刺激分子シグナル伝達ドメインとしては、CD28、4-1BB、OX40、CD27、およびICOSなどの共刺激因子が用いられている。第3世代CARでは、共刺激因子が複数組込まれている。このように、CARにおいては、CARを導入した免疫細胞を生体内で持続的に増殖させるための改良が加えられてきている。scFv部分以外のいずれのドメインもヒトタンパク質由来であることが好ましい。
【0041】
1実施態様では、内在性または外来性の遺伝子は、内在性または外来性のHLA遺伝子のいずれか1以上を含む。HLA遺伝子は、特に限定されないが例えば、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-H、HLA-J、HLA-W、MICA、MICB、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB5、HLA-DRB6、HLA-DRB9、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DMB、HLA-DOA、およびHLA-DOBが挙げられる。1実施形態では、HLA遺伝子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DQ、およびHLA-DPからなる群から選択される1以上であり得る。1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cからなる群から選択される1以上であり得る。1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-DR、HLA-DQ、およびHLA-DPからなる群から選択される1以上であり得る。
【0042】
1実施態様では、HLA遺伝子は例えば、HLA-Aであり得る。HLA-Aは、いずれのアレルのHLA-Aであってもよい。HLA-Aとしては、特に限定されないが例えば、A*01:01、A*02:01、A*02:03、A*02:05、A*02:06、A*02:07、A*02:10、A*02:11、A*02:15N、A*02:18、A*02:28、A*02:42、A*02:53N、A*02:59、A*02:72、A*03:01、A*03:02、A*11:01、A*11:02、A*11:13、A*23:01、A*24:02、A*24:03、A*24:04、A*24:05、A*24:07、A*24:08、A*24:10、A*24:20、A*24:25、A*24:28、A*24:46、A*25:01、A*26:01、A*26:02、A*26:03、A*26:04、A*26:05、A*26:06、A*29:01、A*29:02、A*30:01、A*30:02、A*30:04、A*31:01、A*31:11、A*32:01、A*33:01、A*33:03、A*33:08、A*34:01、およびA*68:01が挙げられる。また、HLA遺伝子は、例えば、HLA-Bであり得る。HLA-Bは、いずれのアレルのHLA-Bであってもよい。HLA-Bとしては、特に限定されないが例えば、B*07:02、B*07:05、B*08:01、B*13:01、B*13:02、B*14:01、B*14:02、B*15:01、B*15:02、B*15:03、B*15:05、B*15:07、B*15:11、B*15:12、B*15:13、B*15:17、B*15:18、B*15:21、B*15:25、B*15:26N、B*15:27、B*15:28、B*15:35、B*15:38、B*15:46、B*18:01、B*18:02、B*27:04、B*27:05、B*27:06、B*27:11、B*35:01、B*35:02、B*35:03、B*35:05、B*35:08、B*35:11、B*35:51、B*35:64、B*37:01、B*38:01、B*38:02、B*39:01、B*39:02、B*39:04、B*39:05、B*39:23、B*40:01、B*40:02、B*40:03、B*40:06、B*40:07、B*40:11、B*40:50、B*40:52、B*41:01、B*44:02、B*44:03、B*45:01、B*46:01、B*48:01、B*48:03、B*49:01、B*50:01、B*51:01、B*51:02、B*51:03、B*51:06、B*52:01、B*53:01、B*54:01、B*54:21、B*55:01、B*55:02、B*55:04、B*55:10、B*55:12、B*56:01、B*56:03、B*56:04、B*56:05、B*57:01、B*58:01、B*59:01、およびB*67:01が挙げられる。
【0043】
1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-Cであり得る。HLA-Cは、いずれのアレルのHLA-Cであってもよい。HLA-Cとしては、特に限定されないが例えば、C*01:02、C*01:03、C*01:55、C*02:02、C*03:02、C*03:03、C*03:04、C*03:23N、C*03:28、C*03:29、C*03:43、C*04:01、C*04:03、C*05:01、C*06:02、C*07:01、C*07:02、C*07:02N、C*07:04、C*08:01、C*08:02、C*08:03、C*08:39、C*12:02、C*12:03、C*12:04、C*14:02、C*14:03、C*15:02、C*15:05、C*15:10、C*16:01、C*16:02、およびC*17:01が挙げられる。
【0044】
1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-DRであり得る。HLA-DRは、いずれのアレルのHLA-DRであってもよい。HLA-DRとしては、特に限定されないが例えば、DRB1*01:01、DRB1*01:02、DRB1*01:03、DRB1*03:01、DRB1*04:01、DRB1*04:02、DRB1*04:03、DRB1*04:04、DRB1*04:05、DRB1*04:06、DRB1*04:07、DRB1*04:08、DRB1*04:09、DRB1*04:10、DRB1*04:11、DRB1*07:01、DRB1*08:01、DRB1*08:02、DRB1*08:03、DRB1*08:09、DRB1*08:23、DRB1*09:01、DRB1*10:01、DRB1*11:01、DRB1*11:04、DRB1*11:06、DRB1*11:08、DRB1*11:19、DRB1*11:23、DRB1*12:01、DRB1*12:02、DRB1*12:05、DRB1*13:01、DRB1*13:02、DRB1*13:03、DRB1*13:07、DRB1*13:12、DRB1*14:02、DRB1*14:03、DRB1*14:04、DRB1*14:05、DRB1*14:06、DRB1*14:07、DRB1*14:12、DRB1*14:29、DRB1*14:45、DRB1*14:54、DRB1*15:01、DRB1*15:02、DRB1*15:04、DRB1*16:01、DRB1*16:02、DRB3*01:01、DRB3*02:02、DRB3*03:01、DRB4*01:01、DRB4*01:02、DRB4*01:03、DRB5*01:01、DRB5*01:02、およびDRB5*02:02が挙げられる。
【0045】
1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-DQであり得る。HLA-DQは、いずれのアレルのHLA-DQであってもよい。HLA-DQとしては、特に限定されないが例えば、DQB1*02:01、DQB1*02:02、DQB1*03:01、DQB1*03:02、DQB1*03:03、DQB1*04:01、DQB1*04:02、DQB1*05:01、DQB1*05:02、DQB1*05:03、DQB1*06:01、DQB1*06:02、DQB1*06:03、DQB1*06:04、DQB1*06:09、DQA1*01:01、DQA1*01:02、DQA1*01:03、DQA1*01:04、DQA1*01:05、DQA1*02:01、DQA1*03:01、DQA1*03:02、DQA1*03:03、DQA1*04:01、DQA1*05:01、DQA1*05:03、DQA1*05:05、DQA1*05:06、およびDQA1*05:08、DQA1*06:01が挙げられる。
【0046】
1実施態様では、HLA遺伝子は、HLA-DPであり得る。HLA-DPは、いずれのアレルのHLA-DPであってもよい。HLA-DPとしては、特に限定されないが例えば、DPB1*02:01、DPB1*02:02、DPB1*03:01、DPB1*04:01、DPB1*04:02、DPB1*05:01、DPB1*06:01、DPB1*09:01、DPB1*13:01、DPB1*14:01、DPB1*17:01、DPB1*19:01、DPB1*36:01、DPB1*38:01、DPB1*41:01、DPA1*01:03、DPA1*02:01、DPA1*02:02、およびDPA1*04:01が挙げられる。
【0047】
1実施態様では、挿入は、内在性または外来性の遺伝子と、前記制御配列または推定制御配列を含む当該遺伝子の上流の配列を含む。すなわち、この実施態様では、挿入は、内在性または外来性の遺伝子と、当該遺伝子の本来的な制御配列またはその候補を当該遺伝子の上流に含む。1実施態様では、挿入は、内在性または外来性の遺伝子を含み、当該遺伝子は、1以上のイントロンまたはイントロンの全てを含む。1実施態様では、挿入は、制御配列または推定制御配列を含む当該遺伝子の上流の配列と、1以上のイントロンまたはイントロンの全てを含む前記遺伝子を含む。1実施態様では、挿入は、ゲノム上の一つながりの領域の配列を有し、当該領域は、前記遺伝子と、制御配列または推定制御配列を含む当該遺伝子の上流の配列と、イントロンの全てを含む。このようにすることで、制御配列の遺伝子発現等に対する影響を解析したり、イントロンの遺伝子発現等に対する影響を解析することができる。好ましい態様では、上記遺伝子は、HLA遺伝子であり得る。
【0048】
好ましい態様では、挿入に含まれるHLA遺伝子に対応するゲノム上の遺伝子は欠失している。好ましい態様では、挿入がHLA遺伝子を含む場合には、ゲノム上の全ての機能的なHLAが欠失している。挿入に含まれるHLA遺伝子はヌルアリルであってもよい。
【0049】
1実施態様では、挿入される遺伝子は、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)であり得る。キメラ抗現受容体は、例えば、重鎖および軽鎖を含む一本鎖抗体(例えば、scFv)と、細胞外ヒンジドメイン(例えば、CD8)、膜貫通ドメイン(例えば、CD8αおよびCD28)、協刺激分子シグナル伝達ドメイン(4-1BB、CD28およびCD137)、および活性化シグナル伝達ドメイン(CD3ζ)を含み得る。キメラ抗現受容体は、これにより、標的に結合すると、細胞に対して活性化シグナルを発生する。キメラ抗現受容体は、がん細胞に発現する抗原に結合し得る。そのような抗原としては、例えば、CD16、CD19、CD20、CD22、CD123、CD171、上皮成長因子受容体(EGFR)、特にEGFRvIII、3型EGFR、de2-7EGFRおよびHER2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、B細胞成熟抗原(BCMA)、CS1、NKG2D、NKp30、B7H6、MUC-16(CA125)、受容体チロシンキナーゼ用オーファン受容体1(ROR-1)、GD3、GM2、グリピカン-3(GPC3)、メソテリン、IL13R、c-KIT、c-MET、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A10、HPVのE6、HPVのE7、CMV、AFP、PRAME、SSX2、KRAS、HER2、およびPD-L1からなる群から選択される1以上であり得る。キメラ抗原受容体はまた、例えば、タンパク質性のタグに結合性を有してもよい。scFvの抗原は例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)などの蛍光タンパク質であり得る。がん細胞表面のがん抗原に対して、タンパク質性タグで標識した抗体を結合させ、当該タグを標的とするキメラ抗現受容体を発現する細胞をさらに投与することでも、がん細胞を殺傷し得るためである。
【0050】
1実施態様では、挿入される遺伝子は、例えば、T細胞受容体(TCR)であり得る。TCRは、抗原特異性を有し得る。抗原特異性を有するTCRは、例えば、がん抗原に結合し得る。抗原特異性を有するTCRは、例えば、CD16、CD19、CD20、CD22、CD123、CD171、上皮成長因子受容体(EGFR)、特にEGFRvIII、3型EGFR、de2-7EGFRおよびHER2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、B細胞成熟抗原(BCMA)、CS1、NKG2D、NKp30、B7H6、MUC-16(CA125)、受容体チロシンキナーゼ用オーファン受容体1(ROR-1)、GD3、GM2、グリピカン-3(GPC3)、メソテリン、IL13R、c-KIT、c-MET、NY-ESO-1、WT1、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A10、HPVのE6、HPVのE7、CMV、AFP、PRAME、SSX2、KRAS、HER2、およびPD-L1からなる群から選択される1以上に結合し得る。TCRは、HLAに適合するように選択され得る。
【0051】
1実施態様では、挿入される遺伝子は、免疫抑制性因子、例えば、CD47、CD24、CD200、PD-L1、IDO1、CTLA4-Ig、C1-インヒビター、IL-10、IL-35、FASL、Serpmb9、CC121、およびMfge8からなる群から選択される1以上をコードする遺伝子を含む。
【0052】
1実施態様では、挿入される遺伝子は、治療遺伝子であり得る。治療遺伝子は、体内で発現させることにより、治療的利益を生じる遺伝子であり得る。治療遺伝子は、炎症誘発性タンパク質、例えば、サイトカインであり得る。治療遺伝子は、抗炎症性タンパク質、例えば、サイトカインであり得る。
【0053】
1実施態様では、挿入される遺伝子は、自殺遺伝子であり得る。自殺遺伝子としては、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子、特に、ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子(HSVtk)、細胞傷害性シグナルレセプター(例えば、ジフテリアトキシンレセプター)およびiCas9が挙げられる。チミジンキナーゼ遺伝子は、ガンシクロビルをリン酸化して細胞傷害性のガンシクロビル三リン酸を生成する。また、iCas9(inducible caspase-9)は、そのCARDがFKBP12により置き換えられたタンパク質であり、タクロリムス誘導体(例えば、AP1903)存在下でiCas9発現細胞において細胞死を誘導する。このような自殺遺伝子は、ユニバーサルドナー細胞(UDC)などの免疫系を回避する細胞を体内から除去したい場合に有益である。
【0054】
本明細明細書において、塩基配列どうし又はアミノ酸配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つの塩基配列又はアミノ酸配列を、対応する塩基又はアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く、塩基配列全体又はアミノ酸配列全体に対する一致した塩基又はアミノ酸の割合として求められる。塩基配列又はアミノ酸配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。塩基配列の配列同一性の値(Identity値)は、特に限定されないが例えば、公知の相同性検索ソフトウェアUCSC Genome Browserに搭載されているBLAT検索により得ることができる。
【0055】
[ゲノム改変方法]
1実施形態において、本発明は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変方法を提供する。前記ゲノム改変方法は、下記(a)及び(b)の工程を含む:
(a)下記(i)及び(ii)を、前記染色体を含む細胞に導入する工程;及び
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含む、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA、
(b)前記工程(a)の後、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する全ての選択マーカー遺伝子に基づいて、前記細胞を選択する工程。この態様において、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり得る。この態様においてはまた、工程(b)は、前記工程(a)の後、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する工程(ポジティブ選択のための工程)であり得る。上記方法は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞を作製する方法であってもよい。
【0056】
本明細書では、便宜的にヒトゲノムの位置を参照するときに、リファレンスゲノムとしてhg38ゲノム配列における位置を用いる。hg38は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)により2013年12月にリリースされたリファレンスゲノムである。リファレンスゲノムは、様々なゲノムを組み合わせて作成された参照用のゲノムであり、このゲノムを有するヒトが存在するというわけではない。しかし、ヒト個体のゲノムDNAから解読された断片的な配列情報をリファレンスゲノムに照らすことによって解読された断片的な配列情報を連結してコンピュータ上で一つながりの配列を構築し、これにより当該ヒト個体のゲノムDNAの配列を推定することができる。このようにして、リファレンスゲノムにヒト個体のゲノムDNAの配列を対応付けることによって、ヒト個体等の個体のゲノムDNAを解読することが通常なされている。そして、hg38ゲノム配列の特定位置または特定領域に対応する位置または領域とは、具体的な配列の異なる別個体のゲノムにおいて、当該特定位置または特定領域に紐付けられる位置または領域を意味する。具体的には、配列の同一性に基づき、当該位置または領域に特徴的な配列を有する位置または領域が、hg38ゲノム配列の特定位置または特定領域に対応する位置または領域である。対応する位置は、2つのゲノムDNAの部分配列のアラインメントにより決定することができる。具体的な配列に相違がある場合であっても、オーソログの関係を有していたり、配列同一性を有していてアラインメントをすることによって、2つのゲノムDNAの対応関係を決定することができる。遺伝子重複により生じたパラログが豊富な領域では、単純な個別の配列に基づく配列の対応関係を決定するだけでは、2つのゲノム間の真の対応関係を決定するには十分でない場合がある。このことが類似配列が集積した領域の配列解読の難易度を増加させる。対応する配列の決定に際して、高い配列同一性を求めることで2つのゲノム間の対応関係を明らかにすることができる。また、特定領域が、複数遺伝子を含む大きな領域である場合には、シンテニーを考慮することができる。シンテニーとは、ゲノム上でのオーソログの物理的位置的関係が保存されていることをいう。個人間および生物間でシンテニーを有し得る。したがって、シンテニーを考慮して特定領域を決定することができる。
【0057】
1実施態様において、ゲノムの全アレル(2倍体の場合には2アレル)における領域の欠失(例えば、1Mbまで、または500kbまでの領域の欠失)であって、MHC分子をコードする遺伝子座のMHC類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部を含む領域を含む欠失を有するゲノムを有する細胞が提供される。この態様では、類似配列による繰り返し配列が削除されることにより、ゲノムの可読性が向上し、および/または、ゲノムの遺伝子(例えば、MHC遺伝子)の標的化効率を高めることができる。当該欠失を有する細胞は、内在性または外来性の遺伝子の挿入を有していてもよい。挿入される遺伝子は、好ましくは制御配列に作動可能に連結されている。1実施態様では、細胞はヒト細胞であり、欠失は、HLA分子をコードする遺伝子座のMHC類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部の領域を含む。
【0058】
1実施態様において、HLA-FからHLA-Aまでの一連の領域(第1のHLA類似配列集積領域)、HLA-CからHLA-Bまでの一連の領域(第2のHLA類似配列集積領域)、HLA-DRAからHLA-DOBまでの一連の領域(第3のHLA類似配列集積領域)、およびHLA-DMBからHLADPB2までの一連の領域(第4のHLA類似配列集積領域)並びにその一部からなる群から選択される1つ、2つ、3つ、または4つの領域を欠失した細胞が提供される。1実施形態において、上記細胞は、HLA-Eを含む領域を欠失していてもよい。
【0059】
第1から第4のHLA類似配列集積領域の標的化は、それぞれに固有の配列に対して行うことができる。このようにすることで、オフターゲットによる切断などの予期せぬ改変を防ぐことができる。当業者であれば、標的化をどのように行うとオフターゲットによる切断を防ぐことができるかを理解し、適宜標的化および改変を行うことができる。個々のHLAの改変は、他のHLAとの配列類似性により困難であっても、本開示による大規模欠失では、固有配列の存在する領域を自由に設定することができるので、所望の大規模欠失を作製することができる。1実施形態において、第1から第4のHLA類似配列集積領域の標的化はそれぞれ、第1から第4のHLA類似配列集積領域の外の配列に対するものである。
【0060】
1実施形態において、第1のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 29,706,837-29,956,199に存在しうる。1実施形態において、第1のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 29,711,000-30,020,000に存在しうる。1実施形態において、第2のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 31,225,738-31,376,781に存在しうる。1実施形態において、第2のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 31,176,000-31,534,000に存在しうる。1実施形態において、第3のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 32,445,000-32,821,000に存在しうる。1実施形態において、第3のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 32,445,000-32,821,000に存在しうる。1実施形態において、第4のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 32,934,298-33,161,621に存在しうる。1実施形態において、第4のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 33,002,000-33,147,000に存在しうる。
【0061】
1実施形態において、第1のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 29,722,775-29,945,870に存在しうる。1実施形態において、第2のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6: 31,268,749-31,357,179に存在しうる。1実施形態において、第3のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6:32,439,887-32,817,002に存在しうる。1実施形態において、第4のHLA類似配列集積領域は、hg38ゲノム配列のchr6:32,934,636-33,089,696に存在しうる。
【0062】
第1~第4のHLA類似配列集積領域のそれぞれにおいて、欠失させるHLAを含む最小の領域を特定し、その上で、当該領域の両外側においてゲノム上で固有の配列を有する領域を決定する。この決定は、ゲノムデータベースなどを参照して適宜行うことができる。このような固有の配列を有する領域は、ゲノム編集および相同組換えのための相同アームの設計に用いることができる。相同アームは、典型的には、当該固有の配列を有する領域と相同組換え可能に設計される(例えば、同一の配列を有するように設計される)。ある好ましい実施形態では、第1~第4のHLA類似配列集積領域のそれぞれにおいて、全ての機能的なHLAをコードする遺伝子を含む領域を欠失させる。ある好ましい実施形態では、全ての機能的なHLAをコードする遺伝子を含む領域を欠失させ、かつ、当該領域の外側に存在する別の遺伝子をできるだけ含まないように欠失させる。例えば、当該領域の外側に存在する別の遺伝子を5以上、4以上、3以上、2以上、または1以上含まないように欠失させる。欠失領域は、相同組換えアームが相同組換え可能なゲノム上で固有の配列を有する領域の存在に依存する。ヒトの場合には、ヒトの固有の検討を行い、非ヒトの場合には、非ヒトの各生物種に固有の検討を行うことが望まれる。
【0063】
1実施態様において、本発明は、細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455の染色体領域に対応する染色体領域、
(ii) hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158の染色体領域に対応する染色体領域、
(iii) hg38ゲノム配列のchr6:32,439,951-32,816,951の染色体領域に対応する染色体領域、および
(iv) hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238の染色体領域に対応する染色体領域
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%の遺伝子を含む、
細胞
を提供する。本明細書の全体にわたり、欠失は、両アレルにおける欠失である。ある態様では、本開示の細胞は、上記領域に加えて、その両端から外側に向けて、独立してそれぞれ20kbp以内、15kbp以内、10kbp以内、9kbp以内、8kbp以内、7kbp以内、6kbp以内、5kbp以内、4kbp以内、3kbp以内、2kbp以内、または1kbp以内の領域をさらに欠失していてもよい。また、ある態様では、本開示の細胞は、上記領域内の両端に位置する1以上(好ましくは1つ)のHLA遺伝子を欠失していなくてもよい。
【0064】
1実施態様において、本発明は、細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-30,010,618)の染色体領域に対応する染色体領域、
(ii) hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域、
(iii) hg38ゲノム配列のchr6:32,439,887-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域、および
(iv) hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%の遺伝子を含む、
細胞
を提供する。本明細書の全体にわたり、欠失は、両アレルにおける欠失である。ある態様では、本開示の細胞は、上記領域に加えて、その両端から外側に向けて、独立してそれぞれ20kbp以内、15kbp以内、10kbp以内、9kbp以内、8kbp以内、7kbp以内、6kbp以内、5kbp以内、4kbp以内、3kbp以内、2kbp以内、または1kbp以内の領域をさらに欠失していてもよい。また、ある態様では、本開示の細胞は、上記領域内の両端に位置する1以上(好ましくは1つ)のHLA遺伝子を欠失していなくてもよい。
【0065】
1実施態様において、本発明は、細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) hg38ゲノム配列のchr6: 29,711,000-30,020,000の染色体領域に対応する染色体領域、
(ii) hg38ゲノム配列のchr6: 31,176,000-31,534,000染色体領域に対応する染色体領域、
(iii) hg38ゲノム配列のchr6: 32,445,000-32,821,000染色体領域に対応する染色体領域、および
(iv) hg38ゲノム配列のchr6: 33,002,000-33,147,000染色体領域に対応する染色体領域
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%の遺伝子を含む、
細胞
を提供する。本明細書の全体にわたり、欠失は、両アレルにおける欠失である。ある態様では、本開示の細胞は、上記領域に加えて、その両端から外側に向けて、独立してそれぞれ20kbp以内、15kbp以内、10kbp以内、9kbp以内、8kbp以内、7kbp以内、6kbp以内、5kbp以内、4kbp以内、3kbp以内、2kbp以内、または1kbp以内の領域をさらに欠失していてもよい。また、ある態様では、本開示の細胞は、上記領域内の両端に位置する1以上(好ましくは1つ)のHLA遺伝子を欠失していなくてもよい。
【0066】
1実施態様において、本発明は、細胞であって、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) hg38ゲノム配列のchr6: 29,706,837-29,956,199の染色体領域に対応する染色体領域、
(ii) hg38ゲノム配列のchr6: 31,268,749-31,534,000染色体領域に対応する染色体領域、
(iii) hg38ゲノム配列のchr6: 32,439,887-32,817,002染色体領域に対応する染色体領域、および
(iv) hg38ゲノム配列のchr6: 32,934,636-33,089,696染色体領域に対応する染色体領域
からなる群から選択される1以上の染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%の遺伝子を含む、
細胞
を提供する。本明細書の全体にわたり、欠失は、両アレルにおける欠失である。ある態様では、本開示の細胞は、上記領域に加えて、その両端から外側に向けて、独立してそれぞれ20kbp以内、15kbp以内、10kbp以内、9kbp以内、8kbp以内、7kbp以内、6kbp以内、5kbp以内、4kbp以内、3kbp以内、2kbp以内、または1kbp以内の領域をさらに欠失していてもよい。また、ある態様では、本開示の細胞は、上記領域内の両端に位置する1以上(好ましくは1つ)のHLA遺伝子を欠失していなくてもよい。
【0067】
上記(i)に規定された染色体領域は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含むHLA類似配列集積領域を含む。そして、ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部の欠失である。ここで一部とは、少なくとも1つのHLAおよびHLA類似配列を含む領域である。例えば、ある態様では、欠失は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aからなる群から選択される1以上、好ましくは、すべてを含む領域の欠失である。ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の全部を含む領域の欠失であり、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む領域の欠失である。
【0068】
ある態様では、HLAの一部又は全部を欠失した細胞は、例えば、追加的に導入された制御配列に作動可能に連結された内因性または外来性の所望の遺伝子を有していてもよい。追加的に導入された制御配列に作動可能に連結された内因性または外来性の所望の遺伝子は、ある態様では、天然に生じた配列を有するが、ある態様では、天然に生じた配列ではない、または人工的に設計された配列である。追加的に導入された所望の遺伝子は、例えば、細胞に付加的な機能を付与し得る。追加的に導入された所望の遺伝子は、例えば、分化促進因子、分化抑制因子、初期化因子(Oct4を含む多能性細胞への初期化に必要な因子を含む)、細胞の特定機能を活性化する因子、細胞の特定機能を抑制する因子、シグナル伝達因子、シグナル伝達抑制因子、受容体、膜タンパク質、酵素(例えば、代謝酵素、リン酸化酵素、核酸合成酵素、テロメラーゼなど)、増殖因子、増殖抑制因子、免疫活性化分子、または免疫抑制性分子、分解酵素(例えば、タンパク質分解酵素、核酸分解酵素など)、分泌因子(例えば、サイトカイン、ホルモンなど)、核内タンパク質、細胞質タンパク質、ミトコンドリアタンパク質、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、crRNA、およびtrcrRNA、一本鎖gRNA、マーカー遺伝子(例えば、薬剤耐性遺伝子、可視化マーカー遺伝子など)、誘導性の自殺遺伝子(例えば、誘導性プロモーターに作動可能に連結されたトキシン、例えば、ジフテリアトキシン)、並びにマイクロRNAからなる群から選択されるいずれか1以上をコードし得る。ある態様では、制御配列は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターであり得る。
【0069】
ある態様では、上記(i)においてHLAの一部を欠失した細胞は、(i)において、例えば、1~数個(例えば、1~4個、好ましくは3個、より好ましくは2個、さらに好ましくは1個)のHLAを有していてもよい(残存させていてもよい)。ある態様では、上記(ii)においてHLAの一部を欠失した細胞は、(ii)において、例えば、1~数個(例えば、1~4個、好ましくは3個、より好ましくは2個、さらに好ましくは1個)のHLAを有していてもよい(残存させていてもよい)。ある態様では、上記(iii)においてHLAの一部を欠失した細胞は、(iii)において、例えば、1~数個(例えば、1~4個、好ましくは3個、より好ましくは2個、さらに好ましくは1個)のHLAを有していてもよい(残存させていてもよい)。ある態様では、上記(iv)においてHLAの一部を欠失した細胞は、(iv)において、例えば、1~数個(例えば、1~4個、好ましくは3個、より好ましくは2個、さらに好ましくは1個)のHLAを有していてもよい(残存させていてもよい)。
【0070】
ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部または好ましくは全部を含む領域の欠失である。この態様において、好ましくは、上記(i)に規定された染色体領域に所望の遺伝子が導入されている。これにより、この態様では、(i)に規定された染色体領域は、HLA類似配列集積領域の全部を欠失しているが、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子(内因性または好ましくは外来性の遺伝子)またはその挿入を有する。ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部または好ましくは全部を含む領域の欠失である。この態様において、好ましくは、所望の遺伝子が、(i)に規定された染色体領域以外の領域に再導入されている。これにより、前記ゲノムDNAは、上記(i)に規定された染色体領域においてHLA類似配列集積領域の一部または好ましくは全体の欠失を有するが、(i)に規定された染色体領域以外の領域に制御配列に作動可能に連結された内因性または好ましくは外来性の所望の遺伝子を有する。内因性とは、欠失を有する細胞が有している、または有していた内在性の遺伝子と同一の塩基配列を有することを意味し、外来性とは、欠失を有する細胞が有している、または有していた内在性の遺伝子とは異なる塩基配列を有することを意味する。所望の遺伝子は、機能的な遺伝子である。機能的な遺伝子とは、当該遺伝子の本来的な機能を有することを意味する。(i)における欠失は、少なくともHLA-A、およびHLA-Fのいずれかまたは両方を含む。
【0071】
全ての態様において、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子は、制御配列が外来性または内因性であり、かつ、所望の遺伝子が外来性または内因性である。ある態様において、制御配列は内因性であり、かつ所望の遺伝子は外来性である。ある態様において、制御配列は内因性であり、かつ、所望の遺伝子は内因性である。ある態様において、制御配列は外因性であり、かつ、所望の遺伝子は内因性である。ある態様において、制御配列は外因性であり、かつ所望の遺伝子は外因性である。ある態様において、制御配列は内因性であり、かつ、所望の遺伝子は内因性であるが、制御配列と所望の遺伝子を含む一連の配列は全体として、内因性または外因性である。制御配列としては、エンハンサー、プロモーターなどの様々な公知の制御配列が挙げられる。
【0072】
上記(ii)に規定された染色体領域は、HLA-C、HLA-B、MICA、およびMICBを含むHLA類似配列集積領域を含む。そして、ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部である。ここで一部とは、少なくとも1つのHLAおよびHLA類似配列を含む領域である。例えば、ある態様では、欠失は、HLA-C、HLA-B、MICA、およびMICBからなる群から選択される1以上、好ましくは、すべてを含む領域の欠失である。
【0073】
上記(iii)に規定された染色体領域は、HLA-DRB5、HLA-DRB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DQA2、HLA-DQB2、およびHLA-DOBを含むHLA類似配列集積領域を含む。そして、ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部である。ここで一部とは、少なくとも1つのHLAおよびHLA類似配列を含む領域である。例えば、ある態様では、HLA-DRB5、HLA-DRB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DQA2、HLA-DQB2、およびHLA-DOBからなる群から選択される1以上、好ましくは、すべてを含む領域の欠失である。
【0074】
上記(iv)に規定された染色体領域は、HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含むHLA類似配列集積領域を含む。そして、ある態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の一部、または好ましくは全部である。ここで一部とは、少なくとも1つのHLAおよびHLA類似配列を含む領域である。例えば、ある態様では、HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1からなる群から選択される1以上、好ましくは、すべてを含む領域の欠失である。
【0075】
本発明の趣旨に鑑みれば、上記(i)に規定される領域の欠失は、HLA類似配列集積領域のうちのHLAおよびHLA類似配列のいずれか1つのみを含む領域を除く他の全ての領域の欠失であり得る。
【0076】
ある態様では、上記(ii)に規定される領域の欠失は、HLA類似配列集積領域のうちのHLAおよびHLA類似配列のいずれか1つのみを含む領域を除く他の全ての領域の欠失であり得る。
【0077】
ある態様では、上記(iii)に規定される領域の欠失は、HLA類似配列集積領域のうちのHLAおよびHLA類似配列のいずれか1つのみを含む領域を除く他の全ての領域の欠失であり得る。
【0078】
ある態様では、上記(iv)に規定される領域の欠失は、HLA類似配列集積領域のうちのHLAおよびHLA類似配列のいずれか1つのみを含む領域を除く他の全ての領域の欠失であり得る。
【0079】
ある態様では、欠失は、(i)に規定される領域の欠失であり、(i)~(iv)の他の領域ではHLA類似配列集積領域の一部または全部の欠失を有しない。ある態様では、欠失は、(ii)に規定される領域の欠失であり、(i)~(iv)の他の領域ではHLA類似配列集積領域の一部または全部の欠失を有しない。ある態様では、欠失は、(iii)に規定される領域の欠失であり、(i)~(iv)の他の領域ではHLA類似配列集積領域の一部または全部の欠失を有しない。ある態様では、欠失は、(iv)に規定される領域の欠失であり、(i)~(iv)の他の領域ではHLA類似配列集積領域の一部または全部の欠失を有しない。
【0080】
ある態様では、欠失は、(i)~(iv)のそれぞれに規定される領域の欠失である。
【0081】
ある態様では、上記の欠失を有する領域には、1以上の遺伝子が挿入(ノックイン)されていてもよい。挿入される遺伝子は、選択マーカー(例えば、薬剤耐性マーカー、および可視化マーカー)および生理機能を有する目的遺伝子であり得る。上記挿入される遺伝子は、制御配列に作動可能に連結していることが好ましい。ある好ましい態様では、遺伝子が挿入される位置は、上記(i)~(iv)のいずれかである。ある好ましい態様では、遺伝子が挿入される位置は、上記上記(i)~(iv)のいずれでもない。ある好ましい態様では、遺伝子が挿入される位置は、上記(ii)の領域内である。ある好ましい領域では、上記(ii)の領域は、欠失(好ましくは上記に規定される欠失)を有し、かつ、上記1以上の遺伝子の挿入を有する。ある態様では、挿入される遺伝子は、上流および下流のいずれかまたは両方にインシュレーターを有しない。インシュレーターは、例えば、離れた位置にあるエンハンサーがプロモーターに作用するのを防いだり、隣接するヘテロクロマチンの拡大によるユークロマチンのサイレンシングを防ぐ作用を有するシス調節エレメントである。インシュレーターとしては、CTCFインシュレーター、gypsyインシュレーター、およびβグロビンインシュレーターが挙げられる。インシュレーターは、200~1000bpほどの長さを有する。インシュレーターは、インシュレーターを跨ぐPCR増幅などを阻害し得る。ある態様では、上記(ii)の領域は、欠失(好ましくは上記に規定される欠失)を有し、かつ、上記1以上の遺伝子の挿入をし、かつ、前記1以上の遺伝子は、そのセントロメア側およびテロメア側(または、上流および下流)のいずれかまたは両方にインシュレーターを有しない。ある態様では、上記欠失を有する領域は、新しい配列の挿入を有しない。ある態様では、上記欠失を有する領域は、loxPまたはFRT(フリッパーゼ認識標的)およびこれらの変種などの部位特異的組換え酵素の認識配列を有しない。
【0082】
ある態様では、前記欠失、特に上記(i)に規定される領域の欠失は、HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域の一部または好ましくは全部の欠失であり得る。ある態様では、前記欠失、特に上記(i)に規定される領域の欠失は、chr6: 29,701,000~29,723,464(例えば、Chr6: 29,709,000-29,711,000)の染色体領域中の特有の配列(第1の配列)中に一方の端を有し、chr6: 29,945,455-30,030,000(例えば、Chr6: 30,020,000-30,020,000の染色体領域およびchr6: 30,021,500-30,022,800)の染色体領域中の特有の配列(第2の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である。第1の配列および第2の配列は、ゲノムにおける固有の配列(ユニークな配列)を含み、したがって、後述するドナー用DNAを用いた相同組換えによるゲノム改変における上流ホモロジーアーム(例えば、テロメア側ホモロジーアーム)および下流ホモロジーアーム(例えば、セントロメア側ホモロジーアーム)の標的し、上記固有の配列(ユニークな配列)に対して選択的に結合して狙ったとおりにゲノム改変を達成できるためである。前記欠失は、約300kbの欠失であるが、このような巨大欠失を効率よく生じさせる手法として、下記方法を好ましく用いることができる。
【0083】
ある態様では、前記欠失、特に上記(ii)に規定される領域の欠失は、HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)の一部または好ましくは全部の欠失である。ある態様では、前記欠失、特に上記(ii)に規定される領域の欠失は、chr6: 31,166,000~31,269,169(例えば、Chr6: 31,174,000~31,177,000)の染色体領域中の特有の配列(第3の配列)中に一方の端を有し、chr6: 31,357,158~31,544,000(例えば、Chr6: 31,534,000~31,538,000)の染色体領域中の特有の配列(第4の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である。第3の配列および第4の配列は、ゲノムにおける固有の配列固有の配列(ユニークな配列、別の言葉では、他に類似する配列が存在しない特有の配列)を含み、したがって、後述するドナー用DNAを用いた相同組換えによるゲノム改変における上流ホモロジーアーム(例えば、テロメア側ホモロジーアーム)および下流ホモロジーアーム(例えば、セントロメア側ホモロジーアーム)の標的し、上記固有の配列(ユニークな配列)に対して選択的に結合して狙ったとおりにゲノム改変を達成できるためである。前記欠失は、約360kbの欠失であるが、このような巨大欠失を効率よく生じさせる手法として、下記方法を好ましく用いることができる。
【0084】
ある態様では、前記欠失、特に上記(iii)に規定される領域の欠失は、HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)の一部または好ましくは全部の欠失である。ある態様では、前記欠失、特に上記(iii)に規定される領域の欠失は、chr6:32,416,000~33,445,000、例えば、chr6:32,420,000~33,445,000、例えば、chr6:32,429,000~33,445,000(例えば、Chr6: 32,446,000~32,448,500)の染色体領域中の特有の配列(第5の配列)中に一方の端を有し、chr6:32,439,951-32,831,000(例えば、Chr6: 32,820,500~32,822,500)の染色体領域中の特有の配列(第6の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である。第5の配列および第6の配列は、ゲノムにおける固有の配列固有の配列(ユニークな配列、別の言葉では、他に類似する配列が存在しない特有の配列)を含み、したがって、後述するドナー用DNAを用いた相同組換えによるゲノム改変における上流ホモロジーアーム(例えば、テロメア側ホモロジーアーム)および下流ホモロジーアーム(例えば、セントロメア側ホモロジーアーム)の標的し、上記固有の配列(ユニークな配列)に対して選択的に結合して狙ったとおりにゲノム改変を達成できるためである。前記欠失は、約380kbの欠失であるが、このような巨大欠失を効率よく生じさせる手法として、下記方法を好ましく用いることができる。
【0085】
ある態様では、前記欠失、特に上記(iv)に規定される領域の欠失は、HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)の一部または全部の欠失であり得る。ある態様では、前記欠失、特に上記(iv)に規定される領域の欠失は、chr6:32,924,000~33,006,838(例えば、Chr6: 32,999,500~33,002,500)の染色体領域中の特有の配列(第7の配列)中に一方の端を有し、chr6: 33,086,238-33,165,000(例えば、Chr6: 33,147,500~33,150,500)の染色体領域中の特有の配列(第8の配列)中に他方の端を有する領域の欠失である。第7の配列および第8の配列は、ゲノムにおける固有の配列固有の配列(ユニークな配列、別の言葉では、他に類似する配列が存在しない特有の配列)を含み、したがって、後述するドナー用DNAを用いた相同組換えによるゲノム改変における上流ホモロジーアーム(例えば、テロメア側ホモロジーアーム)および下流ホモロジーアーム(例えば、セントロメア側ホモロジーアーム)の標的し、上記固有の配列(ユニークな配列)に対して選択的に結合して狙ったとおりにゲノム改変を達成できるためである。前記欠失は、約150kbの欠失であるが、このような巨大欠失を効率よく生じさせる手法として、下記方法を好ましく用いることができる。
【0086】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される全ての染色体領域中にそれぞれ位置するHLA類似配列集積領域の一部もしくは全体を含む領域の欠失であり、
前記HLA類似配列集積領域は、前記染色体領域中にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列の全てを含み、
前記一部は少なくとも一つながりの領域を含み、前記一つながりの領域は、上記領域にそれぞれ含まれるHLAコードする遺伝子およびHLA類似配列からなる群から選択される遺伝子の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または100%の遺伝子を含む。
【0087】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、欠失を有するゲノムDNAを含み、前記欠失は、以下(i)~(iv)に規定される染色体領域:
(i) HLA-F、HLA-G、およびHLA-Aを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455、好ましくはchr6:29,723,464-30,010,618に対応する染色体領域)、
(ii) HLA-CおよびHLA-Bを含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158、好ましくはchr6:31,269,169-31,463,338の染色体領域に対応する染色体領域)、
(iii) HLA-DRA、HLA-DRB5、およびHLA-DRB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:32,445,000-32,816,951、好ましくはchr6:32,439,951-32,817,002の染色体領域に対応する染色体領域)、および
(iv) HLA-DOA、HLA-DPA1、およびHLA-DPB1を含む一連の領域(例えば、hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238、好ましくは、chr6:33,006,838-33,131,199の染色体領域に対応する染色体領域)
からなる群から選択される全ての染色体領域の欠失であり、
好ましくは、HLA-Eを含む一連の領域の更なる欠失、並びにHLA-DMBを含む一連の領域、MICAおよびMICBを含む一連の領域、およびHLA-DMAを含む一連の領域の更なる欠失をさらに有する。
【0088】
ある態様では、上記(i)が欠失を有する場合、欠失を有する上記(i)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない。ある態様では、上記(ii)が欠失を有する場合、欠失を有する上記(ii)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない。ある態様では、上記(iii)が欠失を有する場合、欠失を有する上記(iii)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない。ある態様では、上記(iv)が欠失を有する場合、欠失を有する上記(iv)は、その染色体領域内に繰り返し配列を有しない。繰り返し配列は、例えば、シークエンシングを困難にする一つながりの配列である。繰り返し配列は、例えば、ドナー用DNAのホモロジーアームに対してオフターゲットを誘発する一つながりの配列である。繰り返し配列は、例えば、0.5kb~2kbの配列の繰り返しを含む。
【0089】
ある態様では、前記欠失を有するヒト細胞は、機能的なβ2ミクログロブリン(B2M)をコードする遺伝子を有する。ある態様では、前記欠失を有するヒト細胞は、機能的なクラスII腫瘍組織適合遺伝子複合体トランスアクチベーター(CIITA)をコードする遺伝子を有する。ある態様では、前記欠失を有するヒト細胞は、機能的なB2Mをコードする遺伝子および機能的なCIITAをコードする遺伝子を有する。これによりB2MおよびCIITAが欠失したことにより、細胞に生じ得る不測の機能改変を防ぐことができる。にも関わらず、ある態様では、前記欠失を有するヒト細胞は、HLAクラスIおよび/またはHLAクラスIIを細胞表面に実質的に発現していない。
【0090】
ある態様では、前記欠失は、100kb以上、150kb以上、200kb以上、250kb以上、300kb以上、350kb以上、または400kb以上の大きさであり得る。ある態様では、前記欠失は、400kb以下、350kb以下、300kb以下、250kb以下、200kb以下、150kb以下、または100kb以下の大きさであり得る。ある態様では、前記欠失は、100kb~400kbの大きさであり得る。
【0091】
ある態様では、細胞は、完成体細胞であり得るが、更なる改変導入のための前駆体細胞であってもよい。
【0092】
以下、細胞例1~4として、それ自身が有用な細胞として用いられ得るが、更なる改変導入のための前駆体細胞としても有用な細胞の例を挙げる。細胞例1~4では、HLA類似配列集積領域の少なくとも1つが欠失しているために、ゲノムの配列解読または遺伝子のターゲティングが繰り返し配列の存在により妨げられる問題を解消し得る。これにより、改変が容易になると共に、改変後の配列解読が容易になることで、より確かな遺伝子工学の適用を可能とする。
【0093】
細胞例1
ある態様では、細胞は、上記(i)において欠失を有する。ある好ましい態様では、欠失は、HLA類似配列集積領域の全体の欠失であり得る。ある態様では、上記(i)における欠失は、1以上の所望の遺伝子またはその挿入を含むDNAにより置き換えられることによる欠失であり得る。ある態様では、所望の遺伝子は、選択マーカー遺伝子であり得る。選択マーカー遺伝子は、好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子を含み、より好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択マーカー遺伝子の両方を含むか、またはポジティブ選択用およびネガティブ選択用のいずれにも用い得るマーカー遺伝子を含む。ある態様では、細胞は、上記(i)において欠失を有し、上記(ii)~(iv)においては欠失を有しない。細胞例1は、HLA-AおよびFを欠失しており、それ自体有用な細胞であるが、例えば、細胞例2~4を作製するために用いられ得る。
【0094】
細胞例2
ある態様では、細胞は、上記(i)において欠失を有し、かつ、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子またはその挿入を有する。ある好ましい態様では、上記(i)における欠失は、HLA類似配列集積領域の全体を含む欠失である。ある態様では、上記(i)における欠失は、1以上の所望の遺伝子またはその挿入を含むDNAにより置き換えられることによる欠失であり得る。ある対象では、所望の遺伝子は、当該欠失を有する細胞に対する免疫を抑制する分子であり得、例えば、免疫抑制性分子をコードする遺伝子であり得る。ある態様では、欠失を有する領域は、選択マーカー遺伝子を含む。選択マーカー遺伝子は、好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子を含み、より好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択マーカー遺伝子の両方を含むか、またはポジティブ選択用およびネガティブ選択用のいずれにも用い得るマーカー遺伝子を含む。ある態様では、欠失を有する細胞は、上記(i)以外の領域に所望の遺伝子を有する。細胞例2は、それ自体有用な細胞であるが、例えば、細胞例3~4を作製するために用いられ得る。
【0095】
細胞例3
ある態様では、細胞は、上記(i)、ならびに上記(iii)および/または上記(iv)において欠失を有し、かつ、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子またはその挿入を有する。ある好ましい態様では、細胞は、上記(i)、上記(iii)および上記(iv)において欠失を有し、かつ、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子またはその挿入を有する。ある好ましい態様では、上記(i)、上記(iii)および上記(iv)における欠失はそれぞれ、その領域内のHLA類似配列集積領域の全体を含む欠失である。ある態様では、上記(i)における欠失は、1以上の所望の遺伝子またはその挿入を含むDNAにより置き換えられることによる欠失であり得る。ある対象では、所望の遺伝子は、当該欠失を有する細胞に対する免疫を抑制する分子であり得、例えば、免疫抑制性分子をコードする遺伝子であり得る。ある態様では、細胞は、上記(i)、ならびに上記(iii)および/または上記(iv)において欠失を有し、欠失した領域のいずれか1以上または全ては、選択マーカー遺伝子を含む。選択マーカー遺伝子は、好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子を含み、より好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択マーカー遺伝子の両方を含むか、またはポジティブ選択用およびネガティブ選択用のいずれにも用い得るマーカー遺伝子を含む。ある好ましい態様では、上記(i)、上記(iii)および上記(iv)のいずれも、マーカー遺伝子または新しい遺伝子などの所望の遺伝子の挿入を有しない。ある態様では、細胞は、上記(ii)においては欠失を有しない。細胞例3は、それ自体有用な細胞であるが、例えば、細胞例4を作製するために用いられ得る。
【0096】
細胞例4
ある態様では、細胞は、上記(i)~上記(iv)のすべてにおいて欠失を有し、かつ、制御配列に作動可能に連結された所望の遺伝子またはその挿入を有する。ある好ましい態様では、上記(i)における欠失は、1以上の所望の遺伝子またはその挿入を含むDNAにより置き換えられることによる欠失であり得る。ある対象では、所望の遺伝子は、当該欠失を有する細胞に対する免疫を抑制する分子であり得、例えば、免疫抑制性分子をコードする遺伝子であり得る。ある好ましい態様では、上記(ii)における欠失は、1以上の所望の遺伝子を含むDNAにより置き換えられることによる欠失であり得る。ある好ましい態様では、所望の遺伝子は、選択マーカー遺伝子であり得る。選択マーカー遺伝子は、好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子を含み、より好ましくは、ポジティブ選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択マーカー遺伝子の両方を含むか、またはポジティブ選択用およびネガティブ選択用のいずれにも用い得るマーカー遺伝子を含む。ある好ましい態様では、上記(iii)および上記(iv)のいずれも、マーカー遺伝子または新しい遺伝子などの所望の遺伝子の挿入を有しない。細胞例4は、それ自体有用な細胞であるが、例えば、上記(ii)における1以上の所望の遺伝子またはその挿入を含むDNA部分を更に他のDNAに置き換えることに用いられ得る。例えば、これにより、マーカー遺伝子を除去したり、マーカー遺伝子を除去した上で別の所望の遺伝子を導入することができる。ゲノム解析からは、上記(ii)の領域は、転写活性化された領域であり、所望の遺伝子を導入することによって、当該所望の遺伝子を良好に発現させることができると期待できる。ある好ましい態様では、所望の遺伝子は、上記(ii)の領域に挿入され、当該遺伝子のセントロメア側およびテロメア側のいずれかまたは両方にインシュレーターが存在しない。
【0097】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、少なくともHLA-Aを有しない。ある態様では、前記欠失を有する細胞は、少なくともHLA-AおよびFを有しない。一方で、前記欠失を有する細胞は、HLA-B、C、E、G、H、J、およびW;MICAおよびMICB;並びにHLA-DRA、DRB1、DRB5、DRB6、DRB9、DQA1、DQA2、DQB1、DPA1、DPB1、DMB、DOA、およびDOBからなる群から選択される1以上または全てを有していてもよい。
【0098】
以上が細胞例1~4の説明である。
【0099】
全ての態様において、前記欠失を有する細胞では、欠失は2つのアレルにおいて生じており、これにより、欠失させた遺伝子の発現が欠失している。
【0100】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、単離された細胞または細胞株であり得る。
【0101】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)による細胞傷害作用を回避し得る。ある態様では、前記欠失を有する細胞は、同種異系の個体に投与されても、当該細胞に対する免疫拒絶を誘発しないことができる。これにより、例えば、造血幹細胞移植、臓器移植、細胞移植、または組織移植に好ましく用い得る細胞が提供されるのである。
【0102】
ある態様では、前記欠失を有する細胞は、細胞凍結保護液中で凍結されうる。ある態様では、前記欠失を有する細胞を含む細胞凍結保護液は、非凍結状態または好ましくは凍結状態で提供され得る。凍結状態の前記欠失を有する細胞を含む細胞凍結保護液(「フリーズストック」ともいう)は、リサーチセルバンク(RCB)、マスターセルバンク(MCB)、またはワーキングセルバンク(WCB)として用いることができる。したがって、本発明では、上記フリーズストックを含む、リサーチセルバンク(RCB)、マスターセルバンク(MCB)、またはワーキングセルバンク(WCB)が提供される。前記欠失を有するゲノムDNAは、全ゲノムシークエンスがなされ得る。また、ある態様では、前記全ゲノムシークエンスからリファレンスゲノムデータが作成される。上記において(i)~(iv)における繰り返し配列が除去されている場合には、このリファレンスゲノムデータの作成は、より容易になる。前記欠失を有するゲノムDNAを有する細胞をさらにゲノム改変した後には、当該リファレンスゲノムに基づいて改変部位の改変状況を確認することができる。これにより、前記欠失を有する細胞は、さらなるゲノム改変を容易にし、または確実にし、かつ、得られた改変ゲノムの配列を容易に確定し得ることとなる。
【0103】
前記細胞としては、例えば、多能性細胞(例えば、胚性幹細胞(ES細胞)および誘導多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞)、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄細胞、脾臓細胞、骨髄系共通前駆細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、単球、好中球、好酸球、好塩基球)、赤血球、巨核球、心臓細胞、心筋細胞、心臓線維芽細胞、膵β細胞、角膜細胞(例えば、角膜上皮細胞、および角膜内皮細胞)、表皮細胞、真皮細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、破骨細胞、骨芽細胞、間葉系幹細胞(例えば、脂肪由来、骨髄由来、胎盤由来および臍帯由来)、歯髄細胞、腱細胞、靭帯細胞、神経細胞(例えば、錐体細胞、星状細胞、および顆粒細胞)、グリア細胞、プルキンエ細胞、網膜神経節細胞、網膜細胞、視神経細胞、および神経幹細胞が挙げられる。ある好ましい態様では、細胞は初代細胞であり得る。ある好ましい態様では、細胞は不死化された細胞、または細胞株であり得る。
【0104】
前記欠失を有する細胞は、オルガノイドなどの細胞集塊を形成していてもよい。前記欠失を有する細胞は、細胞シートを形成していてもよい。前記欠失を有する細胞は、臓器もしくは組織の全体または部分構造を形成していてもよい。
【0105】
ある態様では、前記欠失を有する細胞を含む組成物(例えば、医薬組成物、または細胞製剤)が提供される。前記組成物は、医療用途に用いられ得る。前記組成物は、細胞に加えて、薬学的に許容可能な担体および/または添加剤をさらに含んでいてもよい。薬学的に許容可能な担体としては、例えば、水、および生理食塩水が挙げられる。薬学的に許容可能な添加剤としては、例えば、塩、pH緩衝剤、および等張剤が挙げられる。前記組成物は、好ましい態様では、血清フリーであり得る。
【0106】
以下に記載する方法(例えば、UKiS;国際公開第2021/206054号参照)は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルに同時に同じ改変を効率よく導入する方法として有益であり、例えば、標的となる染色体領域に配列特異的様式で100kb~500kb程度の大きさの欠失を作製することに適しており、上記細胞の作製に好ましく用いることができる。この方法は、1倍体の細胞の改変に対しても適用することができる。この方法はまた、ゲノムDNA上で、HLA遺伝子領域のアレルが1つのみである細胞に対しても適用することができる。
【0107】
1実施態様において、本発明は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞を作製する方法であって、
(a)下記(i)及び(ii)を、2つ以上のアレルを含む細胞に導入して、前記2つ以上のアレルそれぞれに選択マーカー遺伝子を導入する工程と、
(i)前記染色体ゲノムの2つ以上のアレル中の標的領域を標的とし、当該標的領域を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、それぞれが前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとを有し、かつ、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能に異なる選択マーカー遺伝子をそれぞれ有し、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA、
(b)前記工程(a)の後、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する工程(ポジティブ選択のための工程)と、
を含む、方法であり得る。
【0108】
(工程(a))
工程(a)では、前記(i)及び(ii)を、染色体を含む細胞に導入する。
【0109】
本実施形態のゲノム改変方法に用いる細胞は、特に限定されず、1倍体または2倍体以上の染色体ゲノムを有する細胞であればよい。細胞は、2倍体であってもよく、3倍体であってもよく、4倍体以上であってもよい。細胞としては、特に限定されないが、真核生物の細胞が挙げられる。細胞は、植物細胞であってもよく、動物細胞であってもよく、真菌細胞であってもよい。動物細胞は、特に限定されないが、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サルなどの非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ラマ、齧歯類などの非ヒト哺乳類)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、その他の脊椎動物のいずれの細胞であってもよい。
【0110】
ゲノム改変の対象となる標的領域は、1以上のアレルを有するゲノム上の任意の領域とすることができる。標的領域のサイズは、特に限定されない。本実施形態のゲノム改変方法では、従来よりも大きなサイズの領域を改変することができる。標的領域は、例えば、10kbp以上であってもよい。標的領域は、例えば、100bp以上、200bp以上、400bp以上、800bp以上、1kbp以上、2kbp以上、3kbp以上、4kbp以上、5kbp以上、8kbp以上、10kbp以上、20kbp以上、40kbp以上、80kbp以上、100kbp以上、200kbp以上、300kbp、400kbp以上、500kbp以上、600kbp以上、700kbp以上、800kbp以上、900kbp以上、もしくは1Mbp以上、または上記のいずれかの数値以下であってもよい。ある態様では、改変された細胞において、上記標的領域が欠失している。
【0111】
<(i)ゲノム改変システム>
「ゲノム改変システム」とは、所望の標的領域を改変することが可能な分子機構を意味する。ゲノム改変システムは、染色体ゲノムの標的領域を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0112】
配列特異的核酸切断分子は、配列特異的核酸切断活性を有する分子であれば、特に限定されず、合成有機化合物であってもよく、タンパク質等の生体高分子化合物であってもよい。配列特異的核酸切断活性を有する合成有機化合物としては、例えば、ピロール・イミダゾールポリアミド等が挙げられる。配列特異的部位切断活性を有するタンパク質としては、例えば、配列特異的エンドヌクレアーゼが挙げられる。
【0113】
配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で核酸を切断することができる酵素である。配列特異的エンドヌクレアーゼは、所定の配列で、2本鎖DNAを切断することができる。配列特異的エンドヌクレアーゼとしては、特に限定されないが、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc finger nuclease(ZFN))、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)、Casタンパク質等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0114】
ZFNは、ジンクフィンガーアレイを含む結合ドメインにコンジュゲートした核酸切断ドメインを含む人工ヌクレアーゼである。切断ドメインとしては、II型制限酵素FokIの切断ドメインが挙げられる。標的配列を切断可能なジンクフィンガーヌクレアーゼの設計は、公知の方法で行うことができる。
【0115】
TALENは、DNA切断ドメイン(例えば、FokIドメイン)に加えて転写活性化因子様(TAL)エフェクターのDNA結合ドメインを含む人工ヌクレアーゼである。標的配列を切断可能なTALE構築物の設計は、公知の方法で行うことができる(例えば、Zhang, Feng et. al. (2011) Nature Biotechnology 29 (2))。
【0116】
配列特異的核酸切断分子として、Casタンパク質を用いる場合、ゲノム改変システムは、CRISPR/Casシステムを含む。すなわち、ゲノム改変システムは、Casタンパク質と、標的領域内の塩基配列に相同な塩基配列を有するガイドRNAを含むことが好ましい。ガイドRNAは、スペーサー配列として、標的領域内の配列(標的配列)と相同な配列を含んでいればよい。ガイドRNAは、標的領域内のDNAに結合できるものでればよく、標的配列と完全に同一の配列を有している必要はない。この結合は、細胞核内の生理的条件下で形成されればよい。ガイドRNAは、例えば、標的配列に対して、例えば、0~3塩基のミスマッチを含むことができる。前記ミスマッチの数は、0~2塩基が好ましく、0~1がより好ましく、ミスマッチを有しないことがさらに好ましい。ガイドRNAの設計は、公知の方法に基づいて行うことができる。ゲノム改変システムは、CRISPR/Casシステムであることが好ましく、Casタンパク質とガイドRNAを含むことが好ましい。Casタンパク質は、Cas9タンパク質であることが好ましい。
【0117】
配列特異的エンドヌクレアーゼは、タンパク質として細胞に導入してもよく、配列特異的エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとして細胞に導入してもよい。例えば、配列特異的エンドヌクレアーゼのmRNAを導入してもよく、配列特異的エンドヌクレアーゼの発現ベクターを導入してもよい。発現ベクターにおいて、配列特異的エンドヌクレアーゼのコード配列(配列特異的エンドヌクレアーゼ遺伝子)は、プロモーターに機能的に連結されている。プロモーターは、特に限定されず、例えば、pol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター(EF1αプロモーター)、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、CBhプロモーター等が挙げられる。
【0118】
プロモーターは、誘導性プロモーターであってもよい。誘導性プロモーターは、プロモーターを駆動する誘導因子の存在下でのみ、当該プロモーターに機能的に連結されたポリヌクレオチドの発現を誘導することができるプロモーターである。誘導性プロモーターとしては、ヒートショックプロモーターなどの加熱により遺伝子発現を誘導するプロモーターが挙げられる。また、誘導性プロモーターには、プロモーターを駆動する誘導因子が薬剤であるプロモーターが挙げられる。このような薬剤誘導性プロモーターとしては、例えば、Cumateオペレーター配列、λオペレーター配列(例えば、12×λOp)、テトラサイクリン系誘導性プロモーター等が挙げられる。テトラサイクリン系誘導性プロモーターとしては、例えば、テトラサイクリンもしくはその誘導体(例えば、ドキシサイクリン)、またはリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(rtTA)の存在下で遺伝子発現を駆動するプロモーターが挙げられる。テトラサイクリン系誘導性プロモーターとしては、例えば、TRE3Gプロモーターが挙げられる。
【0119】
発現ベクターは、公知のものを特に制限なく用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。配列特異的エンドヌクレアーゼがCasタンパク質である場合、発現ベクターは、Casタンパク質のコード配列(Casタンパク質遺伝子)に加えて、ガイドRNAコード配列(ガイドRNA遺伝子)及びを含んでいてもよい。この場合、ガイドRNAコード配列(ガイドRNA遺伝子)は、pol III系プロモーターに機能的にされていることが好ましい。pol III系プロモーターとしては、例えば、マウス及びヒトのU6-snRNAプロモーター、ヒトH1-RNase P RNAプロモーター、ヒトバリン-tRNAプロモーター等が挙げられる。
【0120】
<(ii)選択マーカー用ドナーDNA>
選択マーカー用ドナーDNAは、選択マーカーを標的領域にノックインするためのドナーDNAである。選択マーカー用ドナーDNAは、標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、1以上の選択マーカー遺伝子の塩基配列を含む。
【0121】
選択マーカー用ドナーDNAは、特に限定されないが、例えば、1kb以上、2kb以上、3kb以上、4kb以上、5kb以上、6kb以上、7kb以上、8kb以上、9kb以上、9.5kb以上、または10kb以上の長さを有し得る。選択マーカー用ドナーDNAは、特に限定されないが、例えば、50kb以下、45kb以下、40kb以下、35kb以下、30kb以下、25kb以下、20kb以下、15kb以下、14kb以下、13kb以下、12kb以下、11kb以下、10kb以下、9kb以下、8kb以下、7kb以下、6kb以下、5kb以下、または4kb以下の長さを有し得る。
【0122】
「選択マーカー」とは、その発現の有無に基づいて、細胞を選択することができるタンパク質を意味する。選択マーカー遺伝子は、選択マーカーをコードする遺伝子である。選択マーカー発現細胞及び非発現細胞が混在する細胞集団において、選択マーカー発現細胞を選択する場合、当該選択マーカーを「ポジティブ選択マーカー」または「ポジティブ選択用の選択マーカー」という。選択マーカー発現細胞及び非発現細胞が混在する細胞集団において、選択マーカー非発現細胞を選択する場合、当該選択マーカーを「ネガティブ選択マーカー」または「ネガティブ選択用の選択マーカー」という。選択マーカーが相互に異なるとは、相互に区別できること(例えば、区別可能に異なること)を意味し、例えば、選択マーカーが導入された細胞に付与する薬剤耐性の性質などの生理学的性質またはその他の物理化学的性質において少なくとも相互に区別できることを意味する。すなわち、選択マーカーが相互に異なるとは、異なる複数の選択マーカーが他の選択マーカーと区別可能に検出できること、または他の選択マーカーとは区別可能に薬剤選択できることを意味する。また、前記選択マーカー遺伝子が選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であるとは、選択マーカー用ドナーDNAの1種が有する選択マーカー遺伝子が、上記以外の種類の選択マーカー用ドナーDNAには含まれないこと、または、複数種類のドナーDNAに含まれている場合には、同時に2種類以上のドナーDNAから発現しないように構成されていることを意味する。このとき、2種類以上のドナーDNAは、選択マーカー以外は同一であってもよく、選択マーカー以外の配列および/または構成において相違があってもよい。
【0123】
ポジティブ選択マーカーは、それを発現する細胞を選択可能なものであれば、特に限定されない。ポジティブ選択マーカー遺伝子としては、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。
【0124】
ネガティブ選択マーカーは、それを発現しない細胞を選択可能なものであれば、特に限定されない。ネガティブ選択マーカー遺伝子としては、例えば、自殺遺伝子(チミジンカイネース等)、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子等が挙げられる。ネガティブ選択マーカー遺伝子が、細胞の生存に負の影響を与える遺伝子(例えば、自殺遺伝子)である場合、当該ネガティブ選択マーカー遺伝子は、誘導性プロモーターに機能的に連結され得る。誘導性プロモーターに機能的に連結することで、ネガティブ選択マーカー遺伝子を有する細胞を除去したいときにのみ、ネガティブ選択マーカー遺伝子を発現させることができる。ネガティブ選択マーカー遺伝子が、蛍光、発光、および発色等の光学的に検出可能なマーカー遺伝子(可視化マーカー遺伝子;visible marker gene)である場合など、細胞の生存に負の影響が少ない場合には、恒常的に発現させてもよい。
【0125】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラスティサイディン耐性遺伝子、ジェネティシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
蛍光タンパク質遺伝子としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、黄色蛍光タンパク質(YFP)遺伝子、赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
発光酵素遺伝子としては、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
発色酵素遺伝子としては、例えば、βガラクトシターゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
自殺遺伝子としては、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)、誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
選択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択マーカー遺伝子であることが好ましい。すなわち、選択マーカーを発現する細胞を、選択マーカー遺伝子がノックインされた細胞として、選択することができる。
【0127】
上流ホモロジーアームは、改変対象のゲノムにおいて、標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有し、例えば、標的配列の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する。下流ホモロジーアームは、改変対象のゲノムにおいて、標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有し、例えば、標的配列の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームは、標的領域の周辺領域と相同組換可能であれば、その長さ及び配列は特に限定されない。上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームは、相同組換え可能な限り、標的領域の上流側配列若しくは下流側配列と必ずしも完全一致する必要はない。例えば、上流ホモロジーアームは、標的領域の上流側に隣接する塩基配列と90%以上の配列同一性(相同性)を有する配列であることができ、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有することが好ましい。例えば、下流ホモロジーアームは、標的領域の下流側に隣接する塩基配列と90%以上の配列同一性(相同性)を有する配列であることができ、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有することが好ましい。また、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとは、少なくともそのいずれかが標的領域中の切断箇所により近いとアレルの改変効率をより高め得る。ここで、「近い」とは、2つの配列の距離が100bp以下、50bp以下、40bp以下、30bp以下、20bp以下、または10bp以下であることを意味し得る。
【0128】
選択マーカー用ドナーDNAにおいて、選択マーカー遺伝子は、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に位置する。これにより、上記(i)のゲノム改変システムと共に選択マーカー用ドナーDNAを細胞に導入した場合に、HDRにより、選択マーカー遺伝子が標的領域に導入される(これにより遺伝子が破壊される場合、遺伝子ノックアウトといい、これにより所望の遺伝子が導入される場合、遺伝子ノックインという、遺伝子をノックアウトしつつ、別の遺伝子をノックインすることもできる)。
【0129】
選択マーカー遺伝子は、適切なプロモーターの制御下で発現されるように、プロモーターに機能的に連結されていることが好ましい。プロモーターは、ドナーDNAを導入する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えば、SRαプロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスのLTR、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。選択マーカー用ドナーDNAは、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の任意の制御配列等を有していてもよい。
【0130】
選択マーカー用ドナーDNAは、インスレーター配列を有していてもよい。「インスレーター」とは、隣接する染色体環境の影響を遮断または緩和し、その領域に挟まれたDNAの転写調節の独立性を保証するまたは高める配列をいう。インスレーターは、エンハンサー遮断効果(エンハンサーとプロモーターの間に挿入することにより、エンハンサーによるプロモーター活性への影響を遮断する効果)、及び位置効果の抑制作用(導入遺伝子の両側をインスレーターで挟むことにより、導入遺伝子の発現を挿入されたゲノム上の位置に影響されないようにする作用)により定義される。選択マーカー用ドナーDNAは、上流アームと選択マーカー遺伝子との間(又は上流アームと選択マーカー遺伝子を制御するプロモーターとの間)に、インスレーター配列を有していてもよい。選択マーカー用ドナーDNAは、下流アームと選択マーカー遺伝子との間に、インスレーター配列を有していてもよい。
【0131】
選択マーカー用ドナーDNAは、直鎖状であってもよく、環状であってもよいが、環状であることが好ましい。好ましくは、選択マーカー用ドナーDNAは、プラスミドである。選択マーカー用ドナーDNAは、上記の配列に加えて、任意の配列を含み得る。例えば、上流ホモロジーアーム、インスレーター、選択マーカー遺伝子、及び下流ホモロジーアームの各配列間の全て又は一部に、スペーサー配列を含んでいてもよい。
【0132】
工程(a)では、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以上の種類の選択マーカー用ドナーDNAを細胞に導入する。異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる(区別可能な)種類の選択マーカー遺伝子を有する。ある態様では、異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAは、完全に同一の選択マーカー遺伝子またはそのセットを有しない。つまり、第1の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第1の種類の選択マーカー遺伝子を有し、第2の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第2の種類の選択マーカー遺伝子を有する。第3の種類の選択マーカー用ドナーDNAは、第3の種類の選択マーカー遺伝子を有し、それ以降の種類の選択マーカー用ドナーDNAについても同様である。ゲノム改変の対象とするアレルが2個である場合、選択マーカー用ドナーDNAの種類は2種類以上である。ゲノム改変の対象とするアレルが3個である場合、選択マーカー用ドナーDNAの種類は3種類以上である。ある態様では、1つの選択マーカー用ドナーDNAが、2種類以上の相互に異なる(区別可能な)選択マーカーを有していてもよい(この場合であっても、異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる(区別可能な)種類(例えば、固有)の選択マーカー遺伝子を有していなければならない)。ある態様では、選択マーカー用ドナーDNAは、部位特異的組換え酵素の組換え配列(例えば、Creリコンビナーゼにより組換えられるloxP配列およびその変種)を有しない。また、ある態様では、本発明の方法は、部位特異的組換え酵素及びその組換え配列(例えば、Creリコンビナーゼにより組換えられるloxP配列およびその変種)を用いない。部位特異的組換え酵素を用いると、通常は、編集後のゲノムに部位特異的組換え酵素の組換え配列が1つ残存する。これに対して、ある態様では、本発明の方法で得られる細胞の改変ゲノムは、部位特異的組換え酵素の組換え配列(外来である)を有しない。
【0133】
選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以上であればよく、上限は特に限定されない。ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数以上の種類の選択マーカー用ドナーDNAを用いることで、2つ以上のアレルを安定的に改変することができる。選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、後述の工程(b)での選択操作の観点から、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数又は1~2多い程度が好ましく、ゲノム改変の対象とするアレルの数と同数であることがより好ましい。
【0134】
上記(i)と(ii)を細胞に導入する方法は特に限定されず、公知の方法を特に制限なく用いることができる。(i)及び(ii)を細胞に導入する方法としては、例えば、ウイルス感染法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、カルシウムリン酸法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポーレーション法、パーティクルガン法等が挙げられるが、これらに限定されない。上記(i)と(ii)とを細胞に導入することにより、上記(i)の配列特異的核酸切断分子により、標的領域のDNAが切断された後、HDRにより(ii)の選択マーカー用ドナーDNA中の選択マーカーが標的領域にノックインされる。この際、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、それぞれの上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームが同一である場合には、ランダムに標的領域の2つ以上のアレルにノックインされ得る。但し、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、2以上のアレルそれぞれの標的領域の上流配列および下流配列と相同組換え可能な塩基配列をホモロジーアームの塩基配列をそれぞれ有している限り2以上のアレルそれぞれを改変できるので、完全に同一のホモロジーアームの塩基配列を有する必要はない。ある態様では、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAにおいては、その上流および下流ホモロジーアームの塩基配列が、それぞれのアレルの標的領域の上流配列および下流配列とより同一性の高い塩基配列を有していてもよい(例えば、そのように最適化されていてもよい)。
【0135】
選択マーカー用ドナーDNAは、ある態様では、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームを有し、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子を有し、好ましくは、メガヌクレアーゼの切断部位などのエンドヌクレアーゼ(塩基配列特異的核酸切断分子)の標的配列をさらに有し得る。この態様において、ある好ましい態様では、選択マーカーは、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子およびネガティブ選択用のマーカー遺伝子を含む。別の好ましい態様では、選択マーカーは、ポジティブ選択用の選択マーカーを含むが、これとは別にネガティブ選択マーカー遺伝子を含まなくてもよい。ある好ましい態様では、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子は、ネガティブ選択用にも用いられ得、そのようなマーカー遺伝子としては、可視化マーカー遺伝子が挙げられる。
2以上の選択マーカー用ドナーDNAのセットは、上記の選択マーカー用ドナーDNAの組合せであり、かつ、それぞれが互いに区別可能なポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子を有している。上記セットにおいては、メガヌクレアーゼの切断部位などのエンドヌクレアーゼ(塩基配列特異的核酸切断分子)の標的配列をさらに有し得、当該標的配列は互いに異なっていてもよいが、同一である(または同一の塩基配列特異的核酸切断分子で切断できる)ことが好ましい。選択マーカー用ドナーDNAの長さは上記の通りであるが、例えば、5kbp以上、8kbp以上、または10kbp以上であり得る。
【0136】
(工程(b))
前記工程(a)の後、工程(b)を行う。工程(b)では、2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる選択マーカー遺伝子またはその組合せが導入された細胞を、当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子の発現に基づいて、選択する。より具体的には、工程(b)では、前記2以上のアレルに対して異なる種類の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ相同組み換えすることによって、当該2以上のアレルにそれぞれ区別可能に異なる固有の選択マーカー遺伝子が導入され、導入された当該区別可能に異なる選択マーカー遺伝子のすべてを発現する細胞を選択する。ある態様では、工程(b)では、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子であって染色体ゲノムに組込まれたすべての選択マーカー遺伝子の発現に基づいて、異なる選択マーカー用ドナーDNAが導入されたことによりそれぞれのアレルが改変された細胞を選択する。ある態様では、工程(b)では、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する全ての選択マーカー遺伝子に基づいて、細胞を選択する。ある態様では、工程(b)では、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAが有する選択マーカー遺伝子であって染色体ゲノムに組込まれたすべての選択マーカー遺伝子(ポジティブ選択用のマーカー遺伝子)の発現に基づいて、区別可能な選択マーカー用ドナーDNAが導入されたことによりそれぞれのアレルが改変された細胞を選択する。ある態様では、工程(b)で得られる細胞は、各アレルが異なるポジティブ選択用のマーカー遺伝子を有する。ある態様では、工程(b)で得られる細胞は、各アレルが、共通したポジティブ選択用のマーカー遺伝子をここで、ある態様では、工程(b)では、単一細胞クローニングを行わない{但し、工程(b)で2つ以上のアレルが改変された細胞を選択した後に単一細胞クローニングを行うことを含んでいても、含まなくてもよい}。ある態様では、工程(b)では、細胞の選択は、各アレルに導入された区別可能なポジティブ選択用のマーカー遺伝子の複数の発現に基づいて行われる。ある態様では、工程(b)は、単一の選択マーカー遺伝子の発現強度(例えば、蛍光タンパク質の発現強度または蛍光強度)に基づいて改変アレル数の多さを推定する方式では行われない。単一の選択マーカー遺伝子の発現強度の強弱に基づいて改変アレル数の多さを推定する方式で細胞を選択する場合、細胞毎の遺伝子発現量に変動が生じ、2以上のアレルが改変された細胞を1つのアレルが改変された細胞から完全に分離することが困難となり、したがって、工程(b)において単一細胞クローニングが必要となるためである。
【0137】
工程(b)は、工程(a)で用いた選択マーカー遺伝子の種類に応じて、適宜、細胞の選択を行えばよい。この際、工程(a)で用いた選択マーカー遺伝子の全ての発現に基づいて細胞を選択する。
【0138】
例えば、選択マーカー遺伝子がポジティブ選択マーカー遺伝子である場合、改変対象の染色体ゲノムに組込まれる(または組込まれた)すべての選択マーカー遺伝子を発現する細胞を選択することができ、例えば、改変対象のアレルの数と同数のポジティブ選択マーカーを発現する細胞を選択することができる。ポジティブ選択マーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子である場合、当該薬剤を含む培地で細胞を培養することにより、前記ポジティブ選択マーカーを発現する細胞を選択することができる。ポジティブ選択マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、又は発色酵素遺伝子である場合、蛍光タンパク質、発光酵素、又は発色酵素による蛍光、発光、又は発色を呈する細胞を選択することにより、前記ポジティブ選択マーカーを発現する細胞を選択することができる。本工程では、改変されるべきアレルの数と同数の選択マーカー用ドナーDNAがゲノムに取り込まれた場合、当該数のアレルが改変されている。n倍体の細胞においては、改変されるべきアレルの数はnまたはそれ以下であり、当該数以上n以下の種類の選択マーカー用ドナーDNAがゲノムに取り込まれた場合には、少なくとも改変されるべきアレル(2以上のアレルである)が改変されている。ある態様では、改変されるべきアレルの数がnであり、当該数の種類の選択マーカー用ドナーDNAが染色体ゲノムに取り込まれ、すべてのアレルが改変されている。ある態様では、本工程では、改変対象とするアレルの数と同数以上の種類の選択マーカー用ドナーDNAを用いているため、細胞が発現するポジティブ選択マーカーの数は、当該数のアレルが確実に改変されていることを意味する。工程(b)における細胞の選択効率を高める観点では、改変対象とするアレルの数は、選択マーカー用ドナーDNAの種類数と同一であることが好ましい。
【0139】
上記の通り、本実施形態のゲノム改変方法では、n倍体の細胞においてn個のアレルを改変するためにn種類の選択マーカー用ドナーDNAを用いてHDRを誘発させることによって、細胞が有する全てのアレルが改変された細胞を効率よく取得することができる。また、全てのアレルが改変された細胞を確実に取得することができるため、標的領域が大きいサイズ(例えば、10kbp以上)であっても、標的領域が改変された細胞を効率よく取得することができる。そのため、大規模なゲノム改変も可能となる。
【0140】
ある態様では、工程(b)では、工程(a)によって得られた細胞を含むプールから、細胞をクローニングすることなく、改変された細胞を選択することができる。クローニングの工程を省くことによって工程に必要な時間が短縮され得る。上記プールはある態様では、10以上、10以上、10以上、または10以上の細胞を含んでいてもよい。
【0141】
(任意工程)
本実施形態のゲノム改変方法は、上記工程(a)及び工程(b)に加えて、任意の工程を有していてもよい。任意の工程としては、例えば、下記(c)及び(d)の工程が挙げられる:
(c)前記工程(b)の後、前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAを、前記細胞に導入する工程;及び
(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択マーカーを発現しない細胞を選択する工程。
【0142】
ある態様では、本実施形態のゲノム改変方法は、上記工程(a)及び工程(b)に加えて、任意の工程を有していてもよい。ある態様では、本実施形態のゲノム改変方法または、ゲノムが改変された細胞を得る方法では、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAがそれぞれ、前記上流ホモロジーアームと前記下流ホモロジーアームの間に、ポジティブ選択用の選択マーカー遺伝子とそれとは別のネガティブ選択用のマーカー遺伝子と標的配列とを有し、ここで、当該選択マーカー遺伝子がポジティブ選択用にもネガティブ選択用にも用いられる場合には、当該別のネガティブ選択用の選択マーカー遺伝子を有していなくてよく、例えば、下記(c)及び(d)の工程を有し得る:
(c)前記工程(b)の後、下記(iii)及び(iv)を選択された細胞に導入して前記2以上のアレルに組換え用ドナーDNAを導入する工程と、
(iii)前記さらなる標的配列を標的とし、当該さらなる標的配列を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(iv)所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有する組換え用ドナーDNA{当該組換え用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、所望の塩基配列を含んでいても、何らの塩基配列を含まなくてもよい}、
(d)前記工程(c)の後、前記ネガティブ選択用のマーカー遺伝子を発現しない細胞を選択する工程(ネガティブ選択のための工程)。
【0143】
<工程(c)>
工程(b)の後、工程(c)を行ってもよい。ある態様において、工程(c)では、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、所望の塩基配列を含む、または含まない組換え用ドナーDNAを、工程(b)で選択した細胞に導入する。ある態様において、工程(c)では、標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、所望の塩基配列を含む組換え用ドナーDNAを、工程(b)で選択した細胞に導入する。
【0144】
≪組換え用ドナーDNA≫
組換え用ドナーDNAは、ノックインする所望の塩基配列を含んでいてもよい。前記所望の塩基配列は、特に限定されない。例えば、ゲノム改変の目的が、標的領域に含まれる遺伝子の機能をノックアウトすることにある場合には、標的領域の一部または全部の塩基配列を欠失させた塩基配列を所望の塩基配列として用いることができる。また、標的領域に、外来遺伝子を組み込む場合には、当該遺伝子を含む塩基配列を所望の塩基配列として用いることができる。所望の塩基配列のサイズは、特に限定されず、任意のサイズとすることができる。所望の塩基配列は、例えば、10bp以上、20bp以上、40bp以上、80bp以上、200bp以上、400bp以上、800bp以上、1kbp以上、2kbp以上、3kbp以上、4kbp以上、5kbp以上、6kbp以上、7kbp以上、8kbp以上、9kbp以上、10kbp以上、15kbp以上、20kbp以上、40kbp以上、80kbp以上、100kbp以上、又は200kbp以上等とすることができる。本実施形態の方法では、所望の塩基配列が2以上のアレルにノックインされた細胞を効率よく選択することができる。そのため、例えば、5kbp以上、8kbp以上、又は10kbp以上の大きなサイズのDNAであってもノックインすることが可能である。組換え用ドナーDNAは、例えば、選択マーカー用ドナーDNAよりも長さにおいて短くてもよい。
【0145】
組換え用ドナーDNAが有する上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームは、前記選択マーカー用ドナーDNAが有するものと、同じであってもよく、異なっていてもよい。便宜上、選択マーカー用ドナーDNAが含む上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームを「第1の上流ホモロジーアーム」及び「第1の下流ホモロジーアーム」、組換え用ドナーDNAが含む上流ホモロジーアーム及び下流ホモロジーアームを「第2の上流ホモロジーアーム」及び「第2の下流ホモロジーアーム」という場合がある。第2の上流ホモロジーアーム及び第2の下流ホモロジーアームは、例えば、第1の上流ホモロジーアームまたはそれよりも上流の領域と相同組換え可能であり、かつ、第1の下流ホモロジーアームまたはそれよりも下流の領域と相同組換え可能であれば、その長さ及び配列は特に限定されない(ある態様では、標的領域の周辺領域と相同組換可能であれば、その長さ及び配列は特に限定されない)。組換え用ドナーDNAによる組換え後に、選択マーカー用ドナーDNAの塩基配列の一部がゲノム上に残存することは許容されるが、好ましくは、選択マーカー用ドナーDNAの塩基配列は、組換え用ドナーDNAとの組換えにより、ゲノム上から完全に除去される。選択マーカー用ドナーDNAに搭載されている様々な遺伝子は、組換え用ドナーDNAによる組換えにより除去される。これによって、ある態様では、細胞の2つ以上のアレルは、それぞれ組換え用ドナーDNAによって置き換わり得る。ある態様では、組換え用ドナーDNAは、所望の塩基配列を有していてよく、これにより、2つ以上のアレルが改変された細胞は、当該改変されたアレルに当該所望の塩基配列を有することとなる。
【0146】
組換え用ドナーDNAにおいて、所望の塩基配列は、第2の上流ホモロジーアームと第2の下流ホモロジーアームとの間に位置する。組換え用ドナーDNAが外来遺伝子を含む場合、当該外来遺伝子は、プロモーターに機能的に連結されていることが好ましい。組換え用ドナーDNAは、エンハンサー、ポリA付加シグナル、ターミネーター等の任意の制御配列等を有していてもよい。また、組換え用ドナーDNAが外来遺伝子を含む場合、組換え用ドナーDNAは当該外来遺伝子の上流及び下流にインスレーター配列を有していてもよい。ある態様では、組換え用ドナーDNAは、第2の上流ホモロジーアームと第2の下流ホモロジーアームとの間にスペーサー配列を含む。ある態様では、組換え用ドナーDNAは、選択マーカー用ドナーDNAが有するネガティブ選択マーカー遺伝子を有する細胞を除去するときに、当該当該遺伝子と同じ(または区別できない)遺伝子をその毒性が発揮される条件下で発現させると、組換え用ドナーDNAで相同組換えが生じた細胞を選択することができない。したがって、組換え用ドナーDNAは、選択マーカー用ドナーDNAが有するネガティブ選択マーカー遺伝子を有する細胞を除去するときに、当該当該遺伝子と同じ(または区別できない)遺伝子をその毒性が発揮される条件下で発現しないように構成されている。例えば、ある態様では、組換え用ドナーDNAは、第2の上流ホモロジーアームと第2の下流ホモロジーアームとの間にネガティブ選択マーカー遺伝子および第2の標的配列を有しない。
【0147】
組換え用ドナーDNAは、上記(i)と共に細胞に導入されることが好ましい。組換え用ドナーDNAを上記(i)と共に細胞に導入することにより、上記(i)の配列特異的核酸切断分子により、標的領域のDNAが切断された後、HDRにより組換え用ドナーDNA中の所望の塩基配列が標的領域にノックインされる。本工程で組換え用ドナーDNAを導入する細胞は、工程(b)で選択された細胞であるため、標的領域に選択マーカー用ドナーDNAの塩基配列がノックインされている。そのため、(i)のゲノム改変システムの標的配列は、選択マーカー用ドナーDNAノックイン後の標的領域に含まれる塩基配列である。便宜上、工程(a)におけるゲノム改変システムの標的配列を「第1の標的配列」、工程(c)におけるゲノム改変システムの標的配列を「第2の標的配列」という場合がある。第2の標的配列は、工程(b)後の細胞の標的領域に含まれる任意の配列を用いることができる。ある態様では、選択マーカー用ドナーDNA中の第2の標的配列は、当該細胞のゲノム上に存在しない配列であり得る。ある態様では、選択マーカー用ドナーDNA中の第2の標的配列は、当該細胞のゲノム上に存在しない配列であり、オフターゲットによるゲノム上の他の配列を切断しない程度に他の配列と異なる配列である。ある態様では、選択マーカー用ドナーDNA中の第2の標的配列は、ゲノム上に存在しないメガヌクレアーゼの切断部位であり得る。ある態様では、第2の標的配列は、工程(d)におけるネガティブ選択マーカー遺伝子以外の領域である。当然ながら、組換え用ドナーDNAは、組換え用ドナーDNAによる相同組換えが著しく阻害されないように構成されている。第1の標的配列が、工程(b)後の細胞の標的領域に残っている場合または第1の標的配列が選択マーカー用ドナーDNAにより再導入された場合、第2の標的配列は第1の標的配列と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0148】
組換え用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に塩基配列を含まなくてもよいが、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に10bp以下、20bp以下、30bp以下、40bp以下、50bp以下、60bp以下、70bp以下、80bp以下、90bp以下、100bp以下、200bp以下、300bp以下、400bp以下、500bp以下、600bp以下、700bp以下、800bp以下、900bp以下、または1kbp以下の塩基配列を含んでいてもよい。組換え用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に、1kbp以上、2kbp以上、3kbp以上、4kbp以上、5kbp以上、6kbp以上、7kbp以上、8kbp以上、9kbp以上、または10kbp以上の塩基配列を含んでいてもよい。
【0149】
組換え用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームとの間に、選択マーカー遺伝子、部位特異的組換え酵素の標的配列、生理活性を有する因子をコードする遺伝子、細胞毒性を有する因子をコードする遺伝子、およびプロモーター配列からなる群から選択される1以上またはすべてを含む、もしくは前記群から選択される1以上またはすべてを含まない。
【0150】
工程(c)では、工程(b)で選択細胞に対して、組換え用ドナーDNAを導入する。工程(b)で選択した細胞は、標的領域に選択マーカー遺伝子がノックインされている。工程(c)は、前記標的領域にノックインされた選択マーカー遺伝子を、除去するまたは所望の塩基配列に置き換える工程であるともいえる。
【0151】
(工程(d))
工程(c)の後、工程(d)を行ってもよい。工程(d)では、ネガティブ選択マーカーを発現しない細胞を選択する。
【0152】
工程(d)を行う場合、工程(a)において、選択マーカー用ドナーDNAはそれぞれ、ポジティブ選択マーカー遺伝子とネガティブ選択マーカー遺伝子と、を含むものを用い得る。すなわち、工程(a)で用いる選択マーカー用ドナーDNAは、上流ホモロジーアームと、下流ホモロジーアームとの間に、ポジティブ選択マーカー遺伝子及びネガティブ選択マーカー遺伝子を含み得る。ポジティブ選択マーカー遺伝子とネガティブ選択マーカー遺伝子との位置関係は、特に限定されず、ポジティブ選択マーカー遺伝子がネガティブ選択マーカー遺伝子の上流にあってもよいし、その逆であってもよい。選択マーカー用ドナーDNAが、ポジティブ選択マーカー遺伝子とネガティブ選択マーカー遺伝子とを有する場合、ポジティブ選択マーカー遺伝子とネガティブ選択マーカー遺伝子との間には、自己切断型ペプチドをコードする塩基配列、又はIRES(internal ribozyme entry site)配列等が介在していてもよい。これらの配列を介在させることで、1つのプロモーターから、ポジティブ選択マーカー遺伝子とネガティブ選択マーカー遺伝子とを独立して発現させることができる。2Aペプチドとしては、例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、Porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)及びThosea asigna virus(TaV)由来の2Aペプチド(T2A)等が挙げられる。
【0153】
あるいは、同じ選択マーカー遺伝子を、工程(a)ではポジティブ選択マーカーとして用い、工程(d)ではネガティブ選択マーカーとして用いてもよい。例えば、選択マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、もしくは発色酵素遺伝子などの蛍光又は色素等の発色に関わるマーカー遺伝子(可視化マーカー遺伝子)である場合、工程(a)では、蛍光タンパク質、発光酵素、又は発色酵素の発現による蛍光、発光又は発色を呈する細胞を選択し、工程(c)では、これらの蛍光、発光又は発色が消失した細胞を選択してもよい。同じ選択マーカー遺伝子がポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーを兼ねる場合も、選択マーカー用ドナーDNAが、ポジティブ選択マーカーに加えて、ネガティブ選択マーカーをさらに有する場合に包含される。
【0154】
ネガティブ選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に、異なっていてもよいし、同じであってもよい。ネガティブ選択マーカー遺伝子に共通のものを用いることにより、工程(d)における細胞の選択作業が簡易となる。
【0155】
工程(d)は、工程(a)で用いたネガティブ選択マーカー遺伝子の種類に応じて、適宜細胞の選択を行えばよい。この際、工程(a)で用いたネガティブ選択マーカー遺伝子を全ての発現しない細胞を選択する。
【0156】
例えば、ネガティブ選択マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、又は発色酵素遺伝子などの可視化マーカー遺伝子である場合、蛍光、発光又は発色等の可視化マーカーが消失した細胞を選択すればよい。また、ネガティブ選択マーカー遺伝子が自殺遺伝子である場合、当該自殺遺伝子の発現により毒性を発現する薬剤を含む培地で細胞を培養することにより、前記ネガティブ選択マーカーを発現しない細胞を選択することができる。例えば、自殺遺伝子としてチミジンカイネース遺伝子を用いた場合、ガンシクロビルを含む培地で細胞を培養すればよい。ネガティブ選択マーカー遺伝子の発現の消失は、工程(a)で標的領域に組み込まれたネガティブ選択マーカー遺伝子が、組換え用ドナーDNAの所望の塩基配列を含むポリヌクレオチドに置き換えられたことを意味する。このとき、ポリヌクレオチドの置き換えは、工程(a)でノックインされた塩基配列全体で起きていると考えられる。そのため、ネガティブ選択マーカー遺伝子の発現が消失した細胞を選択することにより、工程(a)でノックインされた塩基配列が、組換え用ドナーDNAの所望の塩基配列で置き換えられた細胞を、効率よく選択することができる。自殺遺伝子等のネガティブ選択マーカー遺伝子は、誘導性プロモーターに機能的に連結されていてもよく、その毒性が発揮される条件下で当該ネガティブ選択マーカー遺伝子が発現されるように誘導性プロモーターを駆動させる薬剤の存在下で、細胞を培養することによって前記ネガティブ選択マーカーを発現しない細胞を選択することができる。この場合、ネガティブ選択マーカー遺伝子は、発現するだけで細胞に毒性を生じる細胞毒素(例えば、リシンおよびジフテリアトキシン)をコードする遺伝子であってもよい。
【0157】
ある態様では、工程(d)では、工程(c)によって得られた細胞を含むプールから、細胞をクローニングすることなく、2以上のアレルが改変された細胞(ネガティブ選択マーカー遺伝子が非存在の細胞)を選択することができる。上記プールはある態様では、10以上、10以上、10以上、または10以上の細胞を含んでいてもよい。
【0158】
上記の通り、工程(c)及び工程(d)を行うことにより、細胞が有する全てのアレルが所望の配列に改変された細胞を効率よく取得することができる。また、全てのアレルが改変された細胞を確実に取得することができるため、所望の塩基配列が大きいサイズ(例えば、10kbp以上)であっても、当該塩基配列が標的領域にノックインされた細胞を効率よく取得することができる。ある態様では、工程(c)及び工程(d)を行うことにより、細胞が有する全てのアレルにおいて標的領域が欠失し、その前後(すなわち、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームがそれぞれ相同組換えを起こす配列)が、塩基の挿入、置換、および欠失からなる群から選択される1以上なしに(例えば、塩基の挿入、置換および欠失なく)、シームレスに連結している。ある態様では、得られる細胞では、欠損させた領域を挟む上流側と下流側の塩基配列がシームレスに連結している。
【0159】
なお、工程(b)によって、生存する細胞の数が少ない場合、または生存する細胞が得られない場合には、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームと相同組換えによりゲノムから除去された標的領域中に、細胞の増殖または生存に影響する遺伝子が含まれていることが示される。したがって、標的領域に細胞の増殖または生存に影響する遺伝子が含まれているか否かを調べることができる。また、この場合には、上流ホモロジーアームおよび下流ホモロジーアームの設計位置を変化させて、ゲノム上から相同組換えにより消失させる遺伝子を変化させて、細胞の増殖または生存に影響する遺伝子を特定することができる。したがって、本発明は、工程(b)の後に、工程(e)を行うことができる。すなわち、工程(e)は、工程(b)において、生存する細胞の数が少ない場合、または生存する細胞が得られない場合には、標的領域を狭め、ゲノム上から消失させる遺伝子を減らすことによって、細胞の増殖または生存に影響する遺伝子を特定することを含む。標的領域には、1つの遺伝子しか含まれていない場合には、当該遺伝子が、細胞の増殖または生存に影響する遺伝子であることが示される。そして、細胞の増殖または生存に影響する遺伝子が特定された場合、工程(f)を行うことができる。工程(f)は、特定された細胞の増殖または生存に影響する遺伝子を改変するゲノムの他の領域(例えば、セーフハーバー領域等)にノックインすることを含む{ノックインには組換え用ドナーDNAを用いてもよい}。これによって、本発明の方法によって削る領域を拡大する(標的領域を上流および/または下流に広げる)ことができる。生存する細胞の数が少ないことは、細胞の生存や増殖に影響しない領域に対して工程(a)および(b)を実施したときに得られる細胞の数との比較によって確認することができる。ある態様では、工程(a)は、細胞の増殖や生存を消失させる領域を標的領域としないことができる。本発明は、例えば、(i)の染色体領域において欠失を有する細胞のゲノムDNAに対して、所望の遺伝子を(i)の染色体領域または(i)以外の領域(例えば、セーフハーバー領域等)にノックインすることを含む。そのような細胞は、(i)の染色体領域において欠失を有し、(i)の染色体領域または(i)以外の領域(例えば、欠失を有する上記(ii)の領域およびセーフハーバー領域等)所望の遺伝子をコードする遺伝子を有するゲノムを有する。
【0160】
[ゲノム改変キット]
1実施形態において、本発明は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変キットを提供する。前記ゲノム改変キットは、下記(i)及び(ii)を含む:
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とする配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム;及び
(ii)前記標的領域の上流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側に隣接する塩基配列と相同な塩基配列を有する下流ホモロジーアームとの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含む、2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に異なる選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA。
【0161】
1実施形態において、本発明は、下記(i)及び(ii)を含む、染色体ゲノムの2つ以上のアレルを改変するゲノム改変キット。
(i)前記染色体ゲノムの標的領域を標的とし、標的領域を切断することができる配列特異的核酸切断分子、又は前記配列特異的核酸切断分子をコードするポリヌクレオチドを含むゲノム改変システム、
(ii)2種以上の選択マーカー用ドナーDNAであって、前記標的領域の上流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する上流ホモロジーアームと、前記標的領域の下流側の塩基配列と相同組換え可能な塩基配列を有する下流ホモロジーアームを有し、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に、選択マーカー遺伝子の塩基配列を含み、前記2種以上の選択マーカー用ドナーDNAは、相互に区別可能な選択マーカー遺伝子を有し、前記選択マーカー用ドナーDNAの種類数は、ゲノム改変の対象とする前記アレルの数と同数以上である、2種以上の選択マーカー用ドナーDNA。この態様において、前記選択マーカー遺伝子は、選択マーカー用ドナーDNAの種類毎に固有であり得る。上記キットは、上記キットは本発明の方法に用いられるものであり得る。上記キットは、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞を作製する方法に用いられてもよい。
【0162】
本実施形態のキットが含む(i)及び(ii)は、上記[ゲノム改変方法]の項で説明した(i)及び(ii)と同様である。本実施形態のキットを用いることにより、上記のゲノム改変方法を容易に行うことができる。
【0163】
1実施形態において、本発明は、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞であって、当該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する、細胞を提供する。ある態様では、細胞は、単細胞生物の細胞であり得る。ある態様では、細胞は、単離された細胞であり得る。ある態様では、細胞は、多能性細胞、および多能性幹細胞(胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞など)からなる群から選択される細胞であり得る。ある態様では、細胞は、組織幹細胞であり得る。ある態様では、細胞は、体細胞であり得る。ある態様では、細胞は、生殖系列細胞(例えば、生殖細胞)であり得る。ある態様では、細胞は、細胞株であり得る。ある態様では、細胞は不死化細胞であり得る。ある態様では、細胞はがん細胞であり得る。ある態様では、細胞は、非がん細胞であり得る。ある態様では、細胞は、疾患患者の細胞であり得る。ある態様では、細胞は健常者の細胞であり得る。ある態様では、細胞は、動物細胞(例えば、ヒト細胞)、例えば、昆虫細胞(例えば、カイコ細胞)、HEK293細胞、HEK293T細胞、Expi293F(商標)細胞、FreeStyle(商標)293F細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、CHO-S細胞、CHO-K1細胞、およびExpiCHO細胞、ならびにこれらの細胞からの派生細胞からなる群から選択される細胞であり得る。ある好ましい態様では、上記細胞においては、染色体ゲノムの標的領域のすべてのアレルが改変され、改変後の領域は、それぞれ相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する。
【0164】
1実施形態において、染色体ゲノムの2つ以上のアレルが改変された細胞であって、当該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する、細胞の培養方法が提供される。選択マーカー遺伝子が、薬剤耐性マーカー遺伝子である場合には、培養はそれぞれの薬剤耐性マーカー遺伝子に対する薬剤の存在下で培養され得る。培養は、細胞の維持または増殖に適した条件下で行われ得る。
【0165】
1実施形態において、本発明は、2つ以上のアレルが改変された染色体ゲノムを有する非ヒト生物であって、当該2つ以上のアレルそれぞれにおいて相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する、非ヒト生物が提供される。ある態様では、細胞は、単細胞生物の細胞であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、酵母(例えば、分裂酵母または出芽酵母、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロミセス・フラギリス(Saccharomyces fragilis)、サッカロミセス・ルーキシー(Saccharomyces rouxii)などのサッカロミセス属、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)などのキャンディダ属、ピキア(Pichia)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、ヤロイワ(Yarrowia)属、ハンゼニュラ(Hansenula)属、エンドマイセス(Endomyces)属などの酵母からなる群から選択される生物であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、糸状菌(例えば、Aspergillus,Trichoderma,Humicola,Acremonium,Fusarium,及びPenicillium種)であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、は、多細胞生物であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、非ヒト動物であり得る。ある態様では、非ヒト生物は、植物であり得る。ある好ましい態様では、上記非ヒト生物では、染色体ゲノムの標的領域のすべてのアレルが改変され、改変後の領域は、それぞれ相互に異なる(区別可能な)選択マーカー遺伝子を有する。
【0166】
上記細胞では、細胞の生存や増殖に必要な遺伝子などの所望の遺伝子の1以上が、染色体ゲノムの他の領域に含まれ、または集められていてもよい。他の領域は、例えば、セーフハーバー領域(例えば、AAVS1領域など)であり得る。他の領域は、例えば、欠失を有する上記(ii)の領域であり得る。
【実施例0167】
実施例1:相同配列の検索結果
各HLAをクエリーとしてヒトゲノム配列(hg38ゲノム配列)をBlat検索した。HLAとしては、HLA-A、B、C、E、F、G、H、J、およびW;MICAおよびMICB;並びにHLA-DRA、DRB1、DRB5、DRB6、DRB9、DQA1、DQA2、DQB1、DPA1、DPB1、DMB、DOA、およびDOBをクエリーとして検索した。結果は、それぞれ図1~25に示される通りであった。
【0168】
図1~25に示されるように、複数の類似配列が、(i)chr6:29,711,000~30,020,000の領域、(ii)chr6:31,176,000~31,534,000bの領域、(iii)chr6:32,445,000~32,821,000の領域、および(iv)chr6:33,020,000~33,147,000の領域に集積していた。図26に結果の概要をまとめた。図26中の (i)~(iv)は、上記領域にそれぞれ対応する。より具体的には、複数の類似配列は、(i)hg38ゲノム配列のchr6:29,723,464-29,945,455の染色体領域に対応する染色体領域、(ii)hg38ゲノム配列のchr6:31,269,169-31,357,158の染色体領域に対応する染色体領域、(iii)hg38ゲノム配列のchr6:32,439,951-32,816,951の染色体領域に対応する染色体領域、および(iv)hg38ゲノム配列のchr6:33,006,838-33,086,238の染色体領域に対応する染色体領域に存在していた。
【0169】
HLA遺伝子座の配列解読が難しい理由の一つは、複数の類似配列が集積しているためである。このため、(i)~(iv)のいずれかの領域で1つの遺伝子を選択的に破壊しようとしても、CRISPR/Cas9を含むゲノム編集方法では、標的化した遺伝子に加えて、その他の類似配列に対しても改変が加わるおそれがある。また、重複する類似配列の存在によって破壊した領域の配列解読が困難であるために、周辺の類似配列への影響を調べることもまた困難である。したがって、本発明では、(i)~(iv)の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ、さらに好ましくは4つを欠損した細胞を提供する。このような細胞はHLAの少なくとも1つを欠失していると共に、欠失した領域の周辺に関して配列解読が容易である。したがって、さらなる編集の成否を配列解読により明らかにすることに適している。
【0170】
国際公開第2021/206054号によれば、2倍体細胞において2つのアレル上で効率よく同時に特定の数百kbの領域を欠失させる技術(UKiS)が開示されている。通常のゲノム編集では、2倍体細胞において片側アレルを効率よく編集することができるが、両アレルを同時に編集する効率は極めて低い。両アレルを同時に編集する効率を劇的に改善したのがUKiS技術であり、今回のようなノックアウト用途に適する。国際公開第2021/206054号では、欠失させる領域に隣接する上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームを有し、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間に相互に区別可能な選択マーカーを有するドナーDNAを、上流ホモロジーアームがハイブリダイスする第1のゲノムDNA部分と下流ホモロジーアームがハイブリダイスする第2のゲノムDNA部分のいずれか、または好ましくは両方に切断を有するゲノムDNAと接触させることによって、第1のゲノムDNA部分と第2のゲノムDNA部分の間に存在していたゲノムDNA領域が欠失し、上流ホモロジーアームと下流ホモロジーアームの間の配列(第3の配列)に置き換わる。国際公開第2021/206054号では、第3の配列も、ゲノムDNAから除去することができ、第1のゲノムDNA部分と第2のゲノムDNA部分とがシームレスに連結したゲノムDNAが得られる。しかも、国際公開第2021/206054号では、両アレル上で同様の改変を同時に達成できる。このようにして、国際公開第2021/206054号に開示された技術などのゲノム改変技術を用いることによって、反復配列の多いHLA領域をまるごとゲノムDNAから欠失させることは可能である。
【0171】
本実施例によれば、(i)~(iv)の領域は、配列解読が困難な領域であると考えられた。したがって、この配列解読が困難と考えられる領域を少なくとも1つ欠失させることによって、欠失を有する領域に関しては、配列解読が容易となる。また、反復配列を欠失させることによって、ゲノム編集の標的が予期せぬ他の繰り返し配列中に現れてオフターゲットの改変を生じさせるリスクも低減できる。その上で、改変後のゲノムDNAは配列解読が容易であるために、狙った通りに改変されているかを確認することができる。
【0172】
したがって、本発明によれば、UKiSを用いて、(i)~(iv)の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ、さらに好ましくは4つを欠損した細胞を作成することが原理的に可能であることが理解できる。UKiS技術を適用するためには、ゲノム上のユニークな配列が必要である。当該ユニークな配列を標的化することによって、配列特異的に欠失を導入することができる。
【0173】
図27~34には、上記(i)~(iv)についてテロメア側の境界およびセントロメア側の境界を特定するために行われた検索の結果を示す。図27によれば、領域1および領域2は、類似配列を有するために、ここを標的化することができないが、これに対して領域3は類似配列を有しないユニーク配列であるために、標的化できる配列の候補となり得る。
【0174】
実施例2:HLA欠損を有する細胞の作製
本実施例では、細胞に対して本開示の技術を適用して、HLAの欠損を誘発させた。細胞としては、様々な細胞への分化能を有するiPS細胞を用いた。
【0175】
(1)UKiSマーカーの導入
細胞の調製:DPBSで150倍希釈したiMatrix-511で事前にコーティングした24ウェルプレートに、iPS細胞を1.25×10細胞ずつ播種した。培地はStemFit AK02N(10μM Y-27632)を用いた。
マーカーの挿入:OptiMEM 50μL、マーカー挿入配列切断用gRNA/Cas9発現プラスミド 300 ng、ドナープラスミド(GFP-Puro) 100 ng、ドナープラスミド(RFP-Blst) 100 ng, Lipofectamine Stem transfection reagent 2μLを混合し、室温で5分間インキュベートしたトランスフェクション溶液を、細胞をまいた24ウェルプレートに加えた。ドナープラスミド(GFP-Puro)は、EF1プロモーターに作動可能に連結した緑色蛍光タンパク質(GFP)と薬剤耐性遺伝子であるピューロマイシン耐性遺伝子(Puro)をコードする遺伝子を有した。GFPとPuroは、T2A配列を介して連結させた。ドナープラスミド(RFP-Blst)は、EF1プロモーターに作動可能に連結した赤色蛍光タンパク質(RFP)と薬剤耐性遺伝子であるブラスチサイジン耐性遺伝子(Blst)をコードする遺伝子を有した。RFPとBlstは、T2A配列を介して連結させた。詳細は、WO2021/206054の実施例1および図1に示される通りであった。本明細書では、上記ドナープラスミドに搭載されたマーカーをUKiSマーカーといい、UKiSマーカーが導入された細胞をUKiSマーカー導入細胞という。また、UKiSマーカー導入細胞をUKiS第1段階の細胞ともいう。
薬剤選択と拡大培養:得られた細胞を6ウェルプレートに播種し、ピューロマイシンとブラスチサイジンの存在下で細胞の薬剤選択を行った。薬剤選択用培地としては、StemFitR AK02N(1μM ピューロマイシン、10μM ブラスチサイジンを含む)を用いた。これにより薬剤選択後の生存細胞は、2つの薬剤に耐性であり、すなわち、ピューロマイシン耐性遺伝子とブラスチサイジン耐性遺伝子の両方を有する細胞である。このような細胞は、理論的には、gRNAで標的化した領域の片アレルにピューロマイシン耐性遺伝子が導入され、他方のアレルにブラスチサイジン耐性遺伝子が導入された場合に生じる。生き残ってきた細胞の拡大培養を行い、UKiSマーカーを有する細胞を得た。UKiSマーカーを有する細胞は、必要に応じてクローニングされた。細胞は、薬剤選択後の生存細胞を1コロニーずつ回収し、細胞を増殖させることによりクローニングした。
【0176】
(2)ゲノム上の2箇所の切断とフローサイトメトリ
細胞の調製:DPBSで150倍希釈したiMatrix-511で事前にコーティングした24ウェルプレートに、iPS細胞を1.25×10細胞ずつ播種した。培地はStemFit AK02N(10μM Y-27632)を用いた。
gRNA/Cas9の導入:gRNAは、欠失させる領域の両端をそれぞれ標的化するように2つ作製した。溶液1(OptiMEM 25μL、CRISPRMAX 1.5μL)と溶液2(OptiMEM 25μL、gRNA(左側) 62.5 ng、gRNA(右側) 62.5 ng、Cas9タンパク質 750μg、Cas9 plus 1.2μL)を混合し、室温で5分間インキュベートしたトランスフェクション溶液を、細胞をまいた24ウェルプレートに加えた。24時間後、培地を交換した。
フローサイトメトリ:培養の後に、フローサイトメーターを用いてGFPネガティブかつRFPネガティブの細胞を選択し、1細胞ずつ、96ウェルプレートに播種し、細胞を増殖させた。このようにすると、UKiSマーカー導入領域を含む領域を両アレルにおいて欠失した細胞を得ることができる。
【0177】
(3)ジェノタイピングPCR
ゲノム精製:2×10程度の変異導入細胞を回収し、ゲノムを精製した。
ジェノタイピング用のプライマーとしては以下表1に示されるものを用いた。PCRは常法により実施した。
【0178】
【表1】
【0179】
【表2】
【0180】
(4)クローニングされたUKiSマーカー導入細胞の更なる改変
UKiSマーカー導入細胞は、様々な更なる改変のプラットフォームとなる。UKiSマーカー導入細胞は、更なる改変に供され、UKiSマーカーが挿入された領域(UKiSマーカー挿入領域)を切断し、更なるドナーDNAを接触させることにより、UKiSマーカー導入領域を当該更なるドナーDNAの配列に置き換えることができる。例えば、2つのアレルそれぞれに区別可能に異なるUKiSマーカーが導入されている細胞(すなわち、UKiSマーカー導入細胞)を用意する。UKiSマーカー挿入領域中の一方のアレルを選択的に切断することで、当該一方のアレルを改変することができる。他方のアレルも同様に改変することができる。
【0181】
具体的には、OptiMEM 50μL、UKiSマーカー挿入領域切断用gRNA/Cas9発現プラスミド(GFPアレル用またはRFPアレル用) 400 ng、変異導入用ドナープラスミド100 ng、 Lipofectamine Stem transfection reagent 2μLを混合し、室温で5分間インキュベートしたトランスフェクション溶液を、細胞をまいた24ウェルプレートに加えた。フローサイトメトリにより、GFP陰性細胞またはRFP陰性細胞を回収し、細胞を増殖させた。
【0182】
このようにして得られた細胞は、確かに、chr6:29,706,837-29,956,199、chr6:31,225,738-31,376,781、chr6:32,421,257-32,820,167、およびchr6:32,934,298-33,161,621の4つの領域を欠失していた。
【0183】
(5)HLAの発現の評価
細胞をTrypLEで1細胞に解離させた。0.5%BSAを含むPBSで細胞を洗浄し、抗HLA-A抗体、抗HLA-B抗体、抗HLA-C抗体(BioLegend 311413;200倍希釈)を細胞に接触させた。洗浄後、フローサイトメーターにより細胞を解析した。
【0184】
(6)多能性幹細胞マーカーの発現の評価
細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むPBSで固定した。細胞をPBSで洗浄した後、PBSTを加え、室温で30分間静置した。1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBST中で室温で1時間静置した。一次抗体(抗OCT4抗体、抗NANOG抗体、抗SSEA4抗体)を細胞に反応させた。洗浄し、二次抗体と細胞を反応させた。その後、DAPIにより核を染色した。染色された細胞を共焦点顕微鏡下で観察した。
【0185】
結果
細胞のHLA-GとHLA-Aの間の領域をgRNAにより標的化してCas9により切断し、UKiSマーカーを当該領域に組込んだ(図36参照)。PuroおよびBlst存在下で薬剤選択を行って得られた細胞の、HLA-FからHLA-Aまでの一連の領域の外側をgRNAにより標的化してCas9により切断し、HLA-FからHLA-Aまでの一連の領域の全体を欠失させた細胞(クローン27および29)を得た(図36参照)。
【0186】
次に、上記クローン27のHLA-CからHLA-Bの間の領域をgRNAにより標的化してCas9により切断し、UKiSマーカーを当該領域に組込んだ(図37参照)。PuroおよびBlst存在下で薬剤選択を行って得られたクローンの、HLA-FからHLA-Aまでの一連の領域の外側をgRNAにより標的化してCas9により切断し、HLA-FからHLA-Aまでの一連の領域の全体を欠失させた細胞(クローン6)を得た(図37参照)。
【0187】
クローン6について、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cの発現をフローサイトメトリにより確認した。結果は、図28に示されるように、改変前の細胞(iPS 771-3G WT)では、ほぼ全ての細胞がHLA-A、HLA-B、およびHLA-Cの少なくとも1以上が陽性であったのに対して、改変により得られたクローン6では、その発現は完全に消失した。
【0188】
次に、改変後の細胞(クローン6)における多能性幹細胞マーカーの発現を確認した。図39に示されるように、改変後の細胞(クローン6)は改変前のiPS細胞と同等の多能性幹細胞マーカーの発現を示した。したがって、上記HLA領域の大型欠損は、細胞の増殖や多能性に対して有意な影響を示さないことが明らかになった。
【0189】
さらに、クローン6からHLA-Eを含む領域をgRNAにより標的化してCas9により切断し、UKiSマーカーを当該領域に組込んだ(図40参照)。その結果、HLA-Eを含む領域の代わりにUKiSマーカーを有する8つのクローンが得られた(図40参照)。
【0190】
得られた8つのクローンのうちの1つからUKiSマーカーを1つずつ除去した(図41参照)。その結果、HLA-Eを含む領域が完全に欠失した13クローンが得られた(図41参照)。
【0191】
クローン6からさらにHLAクラスII領域を欠失させた。具体的には、クローン6のHLA-DQB1をgRNAにより標的化してCas9により切断し、UKiSマーカーを当該領域に組込んだ(図42参照)。その後、HLA-DRAからHLA-DOBまでの一連の領域の外側をgRNAにより標的化してCas9により切断し、上記一連の領域を欠失した細胞(クローン2)を得た(図42参照)。
【0192】
クローン6からさらにHLAクラスIIの別の領域を欠失させた。具体的には、クローン6のHLA-DOAをgRNAにより標的化してCas9により切断し、UKiSマーカーを当該領域に組込んだ(図43参照)。その後、HLA-DMBからHLA-DPB2までを含む一連の領域の外側をgRNAにより標的化してCas9により切断し、上記一連の領域を欠失した細胞(クローン9および13)を得た(図43)。さらに図42で得られたクローンにおいて、図44のスキームにしたがってHLA領域を欠失させた。結果、さらなるHLA領域を欠失するクローン6~9が得られた(図44)。
【0193】
このように、本開示の発明によれば、HLA集積領域を編集し、または欠失させることができ、複数のHLA集積領域を欠失させることもできることが明らかであった。
【0194】
さらに任意の領域(例えば、HLA-Eの遺伝子座)に様々な外来遺伝子を導入することができる。例えば、図45では、細胞(HLA-A~C、F、およびGを欠失している)からHLA-Eを欠失させ、代わりにその領域にUKiSマーカーが導入された細胞に対して、外来遺伝子を導入するスキームが示されている。図45では、外来遺伝子として、上記遺伝子座に、シグナル配列を人工的に連結したHLA-E(MAVMAPRTLLLLLSGALALTQTWAGSHSLKYFHTSVSRPGRGEPRFISVGYVDDTQFVRFDNDAASPRMVPRAPWMEQEGSEYWDRETRSARDTAQIFRVNLRTLRGYYNQSEAGSHTLQWMHGCELGPDRRFLRGYEQFAYDGKDYLTLNEDLRSWTAVDTAAQISEQKSNDASEAEHQRAYLEDTCVEWLHKYLEKGKETLLHLEPPKTHVTHHPISDHEATLRCWALGFYPAEITLTWQQDGEGHTQDTELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPVTLRWKPASQPTIPIVGIIAGLVLLGSVVSGAVVAAVIWRKKSSGGKGGSYSKAEWSDSAQGSESHSL)を組込んだ。シグナル配列は、HLA-Aの2番目から15番目のアミノ酸に相当する配列(AVMAPRTLLLLLSG)を用いた。結果は、図45に示される通りであり、6/7クローンで外来遺伝子の導入に成功した。
【0195】
さらに外来遺伝子として、HLA-A~CおよびEを任意の領域(例えば、HLA-Eの遺伝子座)に導入した。例えば、図46では、細胞(HLA-A~C、F、およびGを欠失している)からHLA-Eを欠失させ、代わりにその領域にUKiSマーカーが導入された細胞に対して、外来遺伝子を導入するスキームが示されている。図46では、外来電子として、上記遺伝子座に、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Eを組込んだ。これらの遺伝子はそれぞれ、タンパク質のコード領域の上流から終止コドンの下流までを含むものであり、各遺伝子に天然に含まれる全イントロンも含んだ。具体的には以下の通りであった。HLA-Aはコード領域の上流2.3kbpから下流1.1kbpを含み、HLA-Bはコード領域の上流2.1kbpから下流1.1kbpを含み、HLA-Cはコード領域の上流2.2kbpから下流1.1kbpを含み、HLA-Eはコード領域の上流2.6kbpから下流2.2kbpを含んだ。結果は、図47および48にそれぞれ示される通りであり、所望のアレルに対して所望の外来遺伝子を組込むことに成功した。得られた細胞における導入外来遺伝子の発現をフローサイトメトリにより確認した。細胞検出用の抗体としてHLA-A、BおよびCに結合する抗体(Biolegend社、製造番号:311413)を用いた。元のiPS細胞では、HLAの発現が認められたが、改変細胞(LxUDC(1.0))では、これらのHLAをコードする遺伝子が欠損しており、実際にHLAの細胞表面発現が消失した(図49参照)。これに対して、HLA-AおよびBを組込んだ細胞では、HLAの細胞表面発現が確認された(図49参照)。HLA-CおよびEを組込んだ細胞でも、HLAの細胞表面発現が確認された(図49参照)。このように、本開示の方法によれば、片アレル毎に所望の遺伝子を組込むことができる。例えば、本実施例のように、HLAを欠失した細胞に対して、天然のHLAを制御配列およびイントロン含め導入することで、導入したHLAの発現量の評価および機能性評価が可能となる。したがって、HLA類似配列、および多型のそれぞれの発現解析や機能性評価に有用であると考えられる。
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