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特開2024-106820化合物、発光材料、二光子吸収材料、活性酸素生成材料および有機発光素子
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  • 特開-化合物、発光材料、二光子吸収材料、活性酸素生成材料および有機発光素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106820
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】化合物、発光材料、二光子吸収材料、活性酸素生成材料および有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/04 20060101AFI20240801BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240801BHJP
   H10K 50/11 20230101ALI20240801BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240801BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20240801BHJP
【FI】
C07D403/04 CSP
C09K11/06
C09K11/06 640
H10K50/11
H10K85/60
H10K101:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011275
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】千歳 洋平
(72)【発明者】
【氏名】土`屋 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田村 結花
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
【テーマコード(参考)】
3K107
4C063
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107DD59
3K107DD66
4C063AA01
4C063BB02
4C063CC43
4C063DD08
4C063EE10
(57)【要約】
【課題】強い電子アクセプター性を有するトリアジン構造を含む新たな材料を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物。Ar、Arは縮環していてもよい芳香環を表し、n1、n2は1以上でAr、Arに置換可能な最大数以下の整数を表し、R、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。Rはジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を含む置換基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、ArおよびArは、各々独立に縮環していてもよい芳香環を表す。n1は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。n2は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。Rはジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を含む置換基を表す。]
【請求項2】
前記ハメットのσm値が0.20以上の置換基が、シアノ基、パーフルオロアルキル基およびニトロ基からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(Rn1ーArで表される基と(Rn2ーArで表される基が同一である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が下記一般式(2)で表される基である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2)において、Lは縮環していてもよい置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環連結基を表す。mは0~2の整数を表す。R~R11は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。*は結合位置を表す。]
【請求項5】
mが0である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
mが1である、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
~R11の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)である、請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
~R11の少なくとも2つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)である、請求項4に記載の化合物。
【請求項9】
ArおよびArがベンゼン環であり、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるR、および、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、それぞれベンゼン環のトリアジン環の結合位置に対するパラ位に結合している、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
ArおよびArがベンゼン環であり、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるR、および、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、それぞれベンゼン環のトリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位に結合している、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される元素だけで構成される、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む発光材料。
【請求項13】
遅延蛍光を放射する、請求項12に記載の発光材料。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む二光子吸収材料。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む活性酸素生成材料。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料、二光子吸収材料および活性酸素生成材料の少なくとも1つとして有用な化合物、および、その化合物を用いた有機発光素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアジン誘導体、特に1,3,5-トリアジル基を有する誘導体は、その電子アクセプター性を利用して様々な機能を付与することができ、各種機能性材料や熱硬化性樹脂などの工業材料、医薬品材料等として有用であることが知られている。こうしたトリアジン環誘導体については、トリアジル基と組み合わせる原子団を様々に変えて更なる分子設計が試みられているが、分子設計上は有用であっても合成が難しい構造があり、実際の化合物としては提供できないことも多い。
【0003】
例えばトリアジン環が置換アリール基で置換された構造を有するトリアジン誘導体の合成は、通常、トリクロロトリアジンと、置換アリール基を有するボロン酸誘導体を原料に用い、トリクロロトリアジンのC-Cl結合の切断位置に置換アリール基を導入する鈴木・宮浦カップリング法を用いて行うことができる。しかし、例えばボロン酸誘導体の置換アリール基の置換基が電子アクセプター性基である場合にはカップリング反応が進行せず、目的の電子アクセプター性基を有するトリアジン誘導体を得ることは難しい(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Advanced Synthesis & Catalysis, 359, 2514-1519 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において本発明者らは、強い電子アクセプター性を有するトリアジン構造を含む新たな材料を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、電子アクセプター性基で置換されたアリール基を2つと、ジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していていもよい)を含む置換基を1つ有するトリアジン誘導体を新たに合成することに成功し、そのトリアジン誘導体が工業材料として有用であることを見いだした。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、ArおよびArは、各々独立に縮環していてもよい芳香環を表す。n1は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。n2は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。Rはジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を含む置換基を表す。]
[2] 前記ハメットのσm値が0.20以上の置換基が、シアノ基、パーフルオロアルキル基およびニトロ基からなる群より選択される、[1]に記載の化合物。
[3] (Rn1ーArで表される基と(Rn2ーArで表される基が同一である、[1]または[2]に記載の化合物。
[4] Rが下記一般式(2)で表される基である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2)において、Lは縮環していてもよい置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環連結基を表す。mは0~2の整数を表す。R~R11は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。*は結合位置を表す。]
[5] mが0である、[4]に記載の化合物。
[6] mが1である、[4]に記載の化合物。
[7] R~R11の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)である、[4]~[6]のいずれか1項に記載の化合物。
[8] R~R11の少なくとも2つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)である、[4]~[6]のいずれか1項に記載の化合物。
[9] ArおよびArがベンゼン環であり、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるR、および、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、それぞれベンゼン環のトリアジン環の結合位置に対するパラ位に結合している、[1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物。
[10] ArおよびArがベンゼン環であり、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるR、および、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、それぞれベンゼン環のトリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位に結合している、[1]~[8]のいずれか1項に記載の化合物。
[11] 水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される元素だけで構成される、[1]~[10]のいずれか1項に記載の化合物。
[12] [1]~[11]のいずれか1項に記載の化合物を含む発光材料。
[13] 遅延蛍光を放射する、[10]に記載の発光材料。
[14] [1]~[11]のいずれか1項に記載の化合物を含む二光子吸収材料。
[15] [1]~[11]のいずれか1項に記載の化合物を含む活性酸素生成材料。
[16] [1]~[11]のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化合物は、電子アクセプター性基で置換されたアリール基を2つ有するトリアジン誘導体でありながら合成することが可能である。本発明の化合物は、発光材料、二光子吸収材料および活性酸素生成材料の少なくとも1つとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】化合物1のトルエン溶液の吸収スペクトル、蛍光スペクトルおよび燐光スペクトルである。
図2】化合物1のトルエン溶液の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明の方法に用いられる化合物および本発明の方法で製造するトリアジン誘導体の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(重水素原子D)であってもよい。
【0010】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0011】
【化3】
【0012】
一般式(1)において、ArおよびArは、各々独立に縮環していてもよい芳香環を表す。ArとArは、互いに同一であっても異なっていてもよい。芳香環は、環員の全てが炭素原子である芳香族炭化水素基を構成していてもよいし、ヘテロ原子を環員として含む芳香族ヘテロ環基を構成していてもよい。
【0013】
芳香族炭化水素基を構成する芳香環は、単環であっても、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。芳香環の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~20であることがより好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。芳香環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナレン環、フェナントレン環、アントラセン環、トリフェニレン環を挙げることができる。
芳香族ヘテロ環基を構成する芳香族ヘテロ環は、単環であっても、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。芳香族ヘテロ環が縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。芳香族ヘテロ環の環骨格構成原子数は4~40であることが好ましく、4~20であることがより好ましく、5~14の範囲内で選択したり、5~10の範囲内で選択したりしてもよい。単環の芳香族ヘテロ環の具体例として、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環を挙げることができ、縮環した芳香族ヘテロ環の具体例として、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、カルバゾール環、フェナトリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、ベンゾフラン環、クロメン環、イソクロメン環、キサンテン環、ベンゾチオフェン環、アルキレンジオキシチオフェン環、チアントレン環、フェノチアジン環、フェノキサジン環が挙げられる。
本発明の好ましい一態様では、一般式(1)のArおよびArにおける芳香環は、ベンゼン環またはピリジン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
【0014】
一般式(1)において、n1は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表し、n2は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数を表す。「Arに置換可能な最大数」とは、具体的には、Arにおける置換基で置換可能な水素原子の数であり、「Arに置換可能な最大数」とは、Arにおける置換基で置換可能な水素原子の数である。「Arに置換可能な最大数」および「Arに置換可能な最大数」は、例えばArおよびArがベンゼン環である場合にはそれぞれ5であり、ArおよびArがピリジン環である場合にはそれぞれ4である。n1およびn2は、例えば1~5のいずれかの整数であってもよいし、1~4の中から選択してもよいし、1~3の中から選択してもよく、1または2であってもよい。また、n1とn2は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0015】
の少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。
本発明における「ハメットのσm値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、メタ置換安息香酸の酸解離平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、メタ置換安息香酸における置換基と酸解離平衡定数の間に成立する下記式:
σm=logKx-logK
における置換基に特有な定数(σm)である。上式において、Kは置換基を持たない安息香酸の酸解離平衡定数、Kはメタ位が置換基で置換された安息香酸の酸解離平衡定数を表す。ハメットのσmに関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)を参照することができる。
ハメットのσm値が0.20以上であるということは、その置換基が比較的強い電子アクセプター性基であることを意味し、ハメットのσm値が0.20未満であるということは、電子アクセプター性が弱いか、電子アクセプター性も電子ドナー性も示さない中性であるか、電子ドナー性基であることを意味する。
ハメットのσm値が0.20以上の置換基は、σm値が1,25以上であっても、0.30以上であってもよく、0.40以上であっても、0.50以上であってもよい。
ハメットのσm値が0.20未満の置換基は、σm値が0.10未満であっても、0未満であっても、-0.10未満であってもよい。ハメットのσm値が0.20未満の置換基として、例えばσm値が0.05以上0.20未満の範囲内の置換基を選択する。ハメットのσm値が0.20未満の置換基として、例えばσm値が-0.05以上0.05未満の範囲内の置換基を選択する。ハメットのσm値が0.20未満の置換基として、例えばσm値が-0.05未満の範囲内の置換基を選択する。
【0016】
具体的には、RおよびRに用いるハメットのσm値が0.20以上の置換基は、ニトロ基、シアノ基およびパーフルオロアルキル基(例えば炭素数1~40、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~6)からなる群より選択することが好ましく、より好ましくはニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基であり、さらに好ましくはシアノ基、トリフルオロメチル基である。ハメットのσm値が0.20以上の置換基として、ピリジル、ピリミジニル、トリアジニル、パーフルオロアリール基(-Ar(F))、4級アミン(-NR )、アシル基(-C(=O)R)、エステル(-C(=O)OR)、スルホン(-SOR)、ホスフィンオキシド(-P(=O)R)、アリールボロン(-B(Ar))、直鎖または分岐パーフルオロポリエーテル(例えば-(OR’(F)CF)、直鎖または分岐フルオロアルキルオキシ(例えば-O(CH(CFCF)、直鎖または分岐パーフルオロアルキルオキシ(例えば-O(CFCF)、イミド(-C(=O)N(R)C(=O)R)、芳香族イミド、アリールエーテル(-OAr)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)も挙げることができる。ここで、Arは置換もしくは無置換のアリール基(例えば炭素数6~30)を表す。Rは置換基を表し、好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基(例えば炭素数1~40)または置換もしくは無置換のアリール基(例えば炭素数6~30)を表す。R’は置換もしくは無置換のアルキレン基(例えば炭素数1~10)を表す。ここでいうアルキル基やアルキレン基は直鎖状でも分岐していてもよい。nおよびmは各々独立に1~20の整数を表す。Arはアリール骨格(例えば炭素数6~30)を表し、pはArに置換可能な最大数を表す。
【0017】
およびRがとりうるσm値が0.20未満の置換基として、例えばアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、複素環基、アミノ基、ヒドロキシ基、グリコール基(例えば-O(CHOR’’)が挙げられる。R’’は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えば炭素数1~10)、置換もしくは無置換のアルコキシアルキル基(例えば炭素数2~20)を表す。アミノ基は、一級アミノ基であってもよいし、二級アミノ基や三級アミノ基であってもよい。二級アミノ基および三級アミノ基のNに結合する置換基として、アルキル基、アリール基、アリル基、ヒドロキシ基、グリコール基を挙げることができる。また、三級アミノ基のNに結合する2つの置換基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。三級アミノ基(Nに結合する2つの置換基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)の具体例として、ジフェニルアミノ基やカルバゾリル基を例示することができる。
【0018】
n1が1であるとき、Rはハメットのσm値が0.20以上の置換基である。nが2以上であるとき、複数のRは、全てがハメットのσm値が0.20以上の置換基であってもよいし、一部がハメットのσm値が0.20以上の置換基であって、残りが重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基であってもよい。複数のRのうち、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるものが2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のRのうち、ハメットのσm値が0.20未満の置換基であるものが2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(1)において、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数は、少なくとも1個であり、1~5個であっても1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。
n2が1であるとき、Rはハメットのσm値が0.20以上の置換基である。nが2以上であるとき、複数のRは、全てがハメットのσm値が0.20以上の置換基であってもよいし、一部がハメットのσm値が0.20以上の置換基であって、残りが重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基であってもよい。複数のRのうち、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるものが2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のRのうち、ハメットのσm値が0.20未満の置換基であるものが2以上であるとき、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(1)において、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数は、少なくとも1個であり、1~5個であっても1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。
本発明の好ましい一態様では、ArおよびArが芳香族炭化水素基であって、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数、および、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数が、それぞれ1個または2個である。
【0019】
一般式(1)において、(Rn1ーArで表される基と(Rn2ーArで表される基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明の好ましい一態様では、(Rn1ーArで表される基と(Rn2ーArで表される基が同一である。
【0020】
一般式(1)において、Rはジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を含む置換基を表す。「ジアリールアミノ基」の「アリール」を構成する芳香環の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のArおよびArがとりうる芳香族炭化水素基を構成する芳香環についての記載を参照することができる。
ジアリールアミノ基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を挙げることができる(以下においてこれらの基を「置換基群Aの基」という)。
ジアリールアミノ基の2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。2つのアリール基の間の結合は、単結合であってもよいし、2価の連結基を介した結合であってもよい。例えば、ジフェニルアミノ基の2つのフェニル基が互いに結合して環状構造を形成したものは、カルバゾール-9-イル基である。連結基としては-O-、-S-、-N(R21)-、-C(R22)(R23)-、-C(=O)-、-B(R24)-、-Si(R25)(R26)-を挙げることができる。R21~R26は各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)およびアルキニル基(例えば炭素数1~40)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基が挙げられる(以下においてこれらの基を「置換基群Bの基」という)。置換基として好ましいのは、炭素数1~10のアルキル基および炭素数6~40のアリール基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基である。R21~R26は、前記ジアリールアミノ基を構成するアリール基の環骨格構成原子に結合してさらなる環状構造を形成していてもよい。
におけるジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)は、一般式(1)のトリアジン環に単結合で結合していてもよいし、2価の連結基を介して結合していてもよい。2価の連結基の説明と好ましい範囲、具体例については、下記一般式(2)の(L)についての記載を参照することができる。
【0021】
は下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【化4】
【0022】
一般式(2)において、Lは縮環していてもよい置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環連結基を表す。mは0~2の整数を表す。R~R11は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。*は結合位置を表す。
Lにおける芳香族炭化水素環連結基は芳香族炭化水素環から2個の水素原子を除いた2価の連結基であり、その芳香族炭化水素環の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のArおよびArがとりうる芳香族炭化水素基を構成する芳香環についての記載を参照することができる。芳香族炭化水素環連結基の少なくとも1つの水素原子は、置換基で置換されていてもよい。置換基は、上記の置換基群Aの基の中から選択してもよいし、電子ドナー性基の中から選択してもよい。本明細書中において「電子ドナー性基」とは、電子ドナー性基が結合している原子団に対して電子を供与する基であることを意味する。電子ドナー性基としては、例えばハメットのσm値が負である置換基の中から選択することができる。
ここで、ハメットのσm値は、メタ置換安息香酸の酸解離平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、メタ置換安息香酸における置換基と酸解離平衡定数の間に成立する下記式:
σm=logKx-logK
における置換基に特有な定数(σm)である。上式において、Kは置換基を持たない安息香酸の酸解離平衡定数、Kはメタ位が置換基で置換された安息香酸の酸解離平衡定数を表す。ハメットのσmに関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)を参照することができる。
電子ドナー性基の例として、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、ジアルキルアミノ基(例えば炭素数2~20)、ジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していていもよい)、ヒドロキシ基、グリコール基(例えば-O(CHOR’’)からなる群より選択される基が挙げられ、各基の少なくとも1つの水素原子は、置換基(好ましくは電子ドナー性基)で置換されていてもよい(以下において、ここに挙げた電子ドナー性基の例を「置換基群Cの基」という)。ここで、ジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していていもよい)の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のRにおけるジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していていもよい)についての記載を参照することができ、中でも、Lにおける置換基は、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基が好ましい。また、電子ドナー性基は、下記の一般式(3a)または一般式(3b)で表される構造を有するものであってもよい。
【化5】
【0023】
一般式(3)において、qおよびq’は0~3の整数(例えば0または1)を表し、R12およびR13は各々独立に水素原子、重水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えば炭素数1~10)を表す。ArおよびArは芳香環を表す。芳香環の説明と好ましい範囲については、一般式(1)の説明における芳香環の説明と好ましい範囲を参照することができる。rは1以上でArに置換可能な最大数以下の整数(例えば1)を表し、r’は1以上でArに置換可能な最大数以下の整数(例えば1)を表す。R14の少なくとも1つとR15の少なくとも1つは、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、またはヒドロキシ基を表す。残りのR14と残りのR15は置換基を表し、例えば置換基群Cの基を表す。*は結合位置を表す。一般式(3a)で表される基として、アミノフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基を例示することができる。
【0024】
本発明の一態様では、一般式(2)のLは、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基で置換された芳香族炭化水素環連結基である。この場合、芳香族炭化水素環連結基における置換もしくは無置換のカルバゾール-9ーイル基の置換数は1つであっても2つ以上であってもよい。芳香族炭化水素環連結基に、一般式(2)に構造が示された置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を含めて、2つ以上の置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基が結合しているとき、それらの置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(2)で表される基の一例として、5つの置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基で置換されたフェニル基を挙げることができる。
【0025】
一般式(2)において、mは0~2の整数を表し、0、1、2のいずれの数であってもよい。mが2であるとき、2つのLは互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明の一態様では、一般式(2)のmは0である。本発明の別の一態様では、一般式(2)のmは1である。
【0026】
一般式(2)において、R~R11は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R~R11の中の置換基の数は特に制限されず、R~R11のすべてが水素原子であってもよいし、R~R11のすべてが重水素原子であってもよい。R~R11のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
~R11における置換基は、上記の置換基群Aの基の中から選択してもよいし、電子ドナー性基の中から選択してもよい。電子ドナー性基の説明と好ましい範囲、具体例については、Lの置換基として挙げた電子ドナー性基についての記載を参照することができる。本発明の一態様では、R~R11の少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)であり、R~R11のうちの少なくとも2つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)であってもよい。R~R11のうち、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)であるものは、R~RおよびR~R10のうちの少なくとも2つであることが好ましく、R、R、R、R10のうちの少なくとも2つであることがより好ましく、RおよびRの両方であることがさらに好ましい。
とR、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。形成される環状構造は芳香環であることが好ましい。芳香環の詳細については、ArおよびArの欄における芳香環の説明を参照することができる。好ましい芳香環として、例えばベンゼン環を挙げることができる。
【0027】
一般式(2)のカルバゾール環を構成する2つのベンゼン環を連結している単結合を、連結基-X-に置換した構造も望ましい構造として挙げることができる。Xとしては、連結基として前述した-O-、-S-、-N(R21)-、-C(R22)(R23)-、-C(=O)-、-B(R24)-、-Si(R25)(R26)-を挙げることができる。これらの連結基の詳細については、ジアリールアミノ基の欄における連結基の説明を参照することができる。連結基-X-を有する環構造には、例えばジメチルアクリダン構造やジフェニルアクリダン構造が含まれる。
【0028】
一般式(2)のカルバゾール環を構成する2つのベンゼン環を連結している単結合が切断して2個の水素原子または重水素原子に置換した構造、すなわちカルバゾール環を構成する5員環が開裂した構造も望ましい構造として挙げることができる。
【0029】
本発明の好ましい一態様では、一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1A)で表される構造を有する。
【化6】
【0030】
一般式(1A)のAr、Ar、R、n1,R、n2は、一般式(1)のAr、Ar、R、n1、R、n2と同義であり、一般式(1A)のL、m、R~R11は、一般式(2)のL、m、R~R11と同義である。一般式(1A)のAr、Ar、R、n1、R、n2,L、m、R~R11の説明については、一般式(1)および(2)についての対応する記載を参照することができる。
【0031】
本発明の好ましい一態様では、一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1B)で表される構造を有する。
【0032】
【化7】
【0033】
一般式(1B)のR~Rは、それぞれ、一般式(1)のR~Rと同義である。一般式(1B)のR~Rの説明については、一般式(1)の対応する記載を参照することができる。
n3は1~5のいずれかの整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。n4は1~5のいずれかの整数を表し、Rの少なくとも1個はハメットのσm値が0.20以上の置換基であり、残りのRは重水素原子またはハメットのσm値が0.20未満の置換基を表す。n3およびn4は、1~5のいずれの整数であってもよく、1~4や1~3の中から選択してもよいし、1または2であってもよい。一般式(1B)において、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数は少なくとも1個であり、1~5個であってもよく、1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。一般式(1B)において、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRの数は少なくとも1個であり、1~5個であってもよく、1~3個であってもよく、1個または2個であってもよい。
【0034】
一般式(1B)において、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRおよびRの位置は、それぞれ、トリアジン環の結合位置に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。例えば、トリアジン環の結合位置に対するパラ位のみに、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが結合していてもよいし、トリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位のみに、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが結合していてもよい。また、トリアジン環の結合位置に対するパラ位のみに、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが結合していてもよいし、トリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位のみに、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが結合していてもよい。ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、トリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位にあるとき、2つのメタ位にあるR同士は、互いに同一であっても異なっていてもよく、ハメットのσm値が0.20以上の置換基であるRが、トリアジン環の結合位置に対する2つのメタ位にあるとき、2つのメタ位にあるR同士は、互いに同一であっても異なっていてもよい。2つのメタ位にあるR同士および2つのメタ位にあるR同士で、ハメットのσm値が0.20以上の置換基が互いに異なる場合の組み合わせとして、ハロゲン原子とトリフルオロメチル基の組み合わせ、ハロゲン原子とシアノ基の組み合わせ、ハロゲン原子とニトロ基の組み合わせを挙げることができる。ここで、ハロゲン原子は、塩素原子、フッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれであってもよい。
【0035】
一般式(1)で表される化合物は金属原子を含まないことが好ましい。本発明の一態様では、一般式(1)で表される化合物は、水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子およびハロゲン原子からなる群より選択される元素だけで構成される。一般式(1)で表される化合物は、水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子、ハロゲン原子からなる群より選択される元素だけで構成されてもよいし、水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子からなる群より選択される元素だけで構成されてもよいし、水素原子、重水素原子、炭素原子、窒素原子からなる群より選択される元素だけで構成されてもよい。
【0036】
本明細書でいう「アルキル基」、アルキル基を部分構造として含む置換基の「アルキル基」(例えばアルコキシ基のオキシ基に結合している「アルキル基」、パーフルオロアルキル基の母骨格としての「アルキル基」)、「アリール基」、アリール基を部分構造として含む置換基の「アリール」(例えば、アリールオキシ基のオキシ基に結合している「アリール基」、パーフルオロアリール基の母骨格としての「アリール基」)、および「ハロゲン原子」は、特に記載のない限り、下記の構造を含むこととする。
【0037】
「アルキル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~40、好ましくは1~20、より好ましくは1~16、さらに好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~6、特に好ましく1~4である。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロオクチル基を挙げることができる。
「アリール基」は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよいし、2つ以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。アリール基の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~30であることがより好ましく、6~20であることがさらに好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。アリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、ビフェニル基を挙げることができる。
アルキル基およびアリール基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基は、例えば上記の置換基群Aの基の中から選択することができる。
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0038】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明の一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化8】
【0039】
<一般式(1)で表される化合物の合成方法>
一般式(1)で表される化合物は、新規化合物である。例えば、一般式(1)で表される化合物のうち、(Rn2ーArが(Rn1ーArと同一である化合物は、下記式(I)で表される化合物と下記式(II)で表される化合物を塩基の存在下で反応させることにより、下記式(III)で表される化合物を合成し、下記式(III)で表される化合物のR3aを、必要に応じてハロゲン原子に置き換えた後、そのハロゲン化物と、ジアリールアミノ構造(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を有する化合物を反応させることにより合成することができる。
【0040】
式(III)で表される化合物の合成反応
【化9】
【0041】
式(I)および(III)のAr、R、n1の説明については、一般式(1)についての対応する記載を参照することができる。
式(II)および(III)のR3aは水素原子または置換基を表す。R3aがとりうる置換基として、アミノ基、アリール基、ハロゲン原子、カルボキシル基、アリル基、ヒドロキシ基、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アルキルチオ基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、スルホニル基、-B(ORで表される基、複素環基、エーテル基、グリコール基が挙げられる。アミノ基は、一級アミノ基であってもよいし、二級アミノ基や三級アミノ基であってもよい。上記-B(ORのRは、水素原子、重水素原子または置換基を表し、置換基としては置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を例示することができる。また、2つあるRは互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
二級アミノ基および三級アミノ基のNに結合する置換基として、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アリル基、ヒドロキシ基、エーテル基、グリコール基を挙げることができる。
アリール基の好ましい範囲と具体例については、本明細書でいう「アリール基」についての記載を参照することができる。アリール基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基として、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基が挙げられる。
アミノ基の置換基としてのアルキル基、アリール基、アリール基の置換基としてのアルキル基の好ましい範囲と具体例、アリール基の置換基としてのハロゲン原子の具体例については、本明細書でいう「アルキル基」、「アリール基」、「ハロゲン原子」についての記載を参照することができる。
例えばR3aの具体例として、ジフェニルアミノ基やカルバゾリル基のような電子ドナー性基が挙げられ、トリアジニル基も例示することができる。
【0042】
この合成方法の好ましい一態様では、式(II)および式(III)のR3aはアミノ基である。この合成方法の別の好ましい態様では、式(II)および式(III)のR3aは、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換されたアリール基であり、より好ましくは、少なくとも1つの水素原子が臭素原子で置換されたアリール基である。
また、式(II)で表される化合物は塩を形成していてもよい。塩は、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等の無機酸塩であってもよいし、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。
以下において、式(II)で表される化合物の具体例を例示する。
【0043】
【化10】
【0044】
式(II)で表される化合物として化合物2aを用いることにより、下記式(III-a)で表される化合物を合成することができ、化合物2bを用いることにより、下記式(III-b)で表される化合物を合成することができる。
【0045】
【化11】
【0046】
[反応条件]
以下において、式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物を反応させて式(III)で表される化合物を合成する際の反応条件について説明する。
式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物は塩基の存在下で反応させることが好ましく、その際に、式(II)で表される化合物と塩基の合計量を、式(I)で表される化合物の2.5当量未満となるように各化合物の配合量を選択することが好ましい。これにより、式(III)で表される化合物を、簡便な方法で収率よく合成することができる。ここで、「式(II)で表される化合物と塩基の合計量が、式(I)で表される化合物の2.5当量未満である」とは、反応系に含まれる式(II)で表される化合物の当量数(V)と塩基の当量数(V)の合計が、式(I)で表される化合物の当量数(V)に対して2.5当量未満であることを意味する。すなわち、式(II)で表される化合物の当量数と塩基の当量数の合計を「V2+B」、式(I)で表される化合物の当量数を「V」としたとき、「V2+B/V」(当量比)が2.5未満であることを意味する。本明細書中では、V2+B/Vの単位を「当量」(eq)と表記することとする。また、同様に、塩基の式(I)で表される化合物に対する当量比は「V/V」であり、式(II)で表される化合物の式(I)で表される化合物に対する当量比は「V/V」である。
ここで、反応に供する式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物および塩基は、それぞれ1種類であっても2種類以上であってもよい。2種類以上である場合、それらの当量数の合計が、式(I)または(II)で表される化合物の当量数、または、塩基の当量数であることとする。
【0047】
(塩基)
ここで用いる塩基は、有機塩基であっても、無機塩基であってもよい。有機塩基の例として、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン、N-メチルモルホリン等の環式3級アミン、ピリジンが挙げられる。無機塩基の例として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物が挙げられる。中でも、アルカリ金属水素化物が好ましく、水素化ナトリウムがより好ましい。
【0048】
(式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物および塩基の当量比)
上記のように、式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物を塩基の存在下で反応させる際、式(II)で表される化合物と塩基の合計量を、式(I)で表される化合物に対する当量比で2.5当量未満とすることにより、式(III)で表される化合物を、簡便な方法で収率よく合成することができる。ここで、式(II)で表される化合物と塩基の合計量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で2.3未満であることが好ましく、2.0未満であることがより好ましく、1.8当量以下であることがさらに好ましく、1.7当量以下であることがさらにより好ましく、1.5当量以下であることがなおさらに好ましく、1.3当量以下や、1.1当量以下であってもよい。また、式(II)で表される化合物と塩基の合計量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で0.5当量以上であることが好ましく、0.6当量以上、0.7当量以上、0.9当量以上であってもよい。
【0049】
塩基の配合量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で1.7当量未満であることが好ましく、1.5当量未満であることがより好ましく、1.4当量以下の範囲内で選択してもよく、1.3当量以下や、1.2当量以下、1.0当量以下の範囲内で選択してもよい。また、塩基の量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で0.2当量以上であることが好ましく、0.3当量以上、0.4当量以上、0.6当量以上の範囲内で選択してもよい。
【0050】
式(II)で表される化合物の配合量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で1.2当量未満であることが好ましく、0.9当量以下や、0.7当量以下、0.5当量以下の範囲内で選択してもよく、0.5当量未満や、0.4当量以下、0.3当量以下の範囲内で選択してもよい。また、式(II)で表される化合物の量は、式(I)で表される化合物に対する当量比で0.1当量以上であることが好ましく、0.2当量以上、0.25当量以上の範囲内で選択してもよい。
【0051】
(各化合物と塩基の混合手順)
式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物の塩基存在下での反応は、各化合物と塩基を混合した状態で行うことができる。混合の手順は特に限定されないが、式(I)で表される化合物と塩基を含む混合物に、式(II)で表される化合物を加えて反応させることが好ましい。このとき、式(II)で表される化合物は、式(I)で表される化合物と塩基の混合物に一度に加えてよいが、一定の時間(添加時間)をかけて、連続的または間欠的に添加することが好ましく、式(II)で表される化合物の溶液を、連続的に滴下して添加することがより好ましい。添加時間は、例えば15分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましく、1時間~1.5時間程度であることがさらにより好ましい。
【0052】
(溶媒)
式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物の反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒は、反応に不活性なものであって、トリアジン誘導体の合成原料を溶解できるものであれば特に制限されないが、非プロトン性有機溶媒であることが好ましい。非プロトン性有機溶媒として、例えばアセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類が挙げられ、DMF、DMSOを用いることが好ましい。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
溶媒は、式(I)で表される化合物と塩基の混合物に加えてもよいし、混合前の、式(I)で表される化合物および式(II)で表される化合物の少なくとも一方に加えて、化合物を溶解させておいてもよい。例えば、式(I)で表される化合物を溶媒に溶解した溶液に塩基を加えて混合物を調製し、この混合物に、式(II)で表される化合物を溶媒に溶解した溶液を加えて反応を行うことができる。
反応系に存在させる溶媒の量は、例えば式(I)で表される化合物の1モルに対して、0.5~50Lであることが好ましく、1~20Lであることが好ましく、2~15Lであることがより好ましい。
【0054】
(反応温度および反応時間、周囲の条件)
反応温度は、例えば0~30℃の範囲から選択することができ、10~28℃の範囲から選択してもよく、20~25℃であってもよい。
【0055】
反応時間は、特に制限されず、1~48時間の範囲内であってもよいし、1~24時間の範囲内であってもよく、1.5~12時間の範囲内や2~6時間の範囲内であってもよい。また、原料を検出しながら反応を行い、原料が検出されなくなったところで反応を終了してもよい。原料の検出は、例えばガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)などを用いて行うことができる。
【0056】
この合成反応は、大気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとして、例えば窒素ガス、希ガス(アルゴンガスなど)等を挙げることができる。また、この合成方法で用いる反応は、減圧下、加圧下、常圧下のいずれで行ってもよい。
【0057】
(精製方法)
合成された式(III)で表される化合物は、精製してから所望の用途に供してもよい。トリアジン誘導体の精製は、濃縮、デカンテーション、再沈殿、再結晶、クロマトグラフィー、抽出等の公知の方法を用いて行うことができる。また、トリアジン誘導体を合成した反応混合液に貧溶媒を加えてトリアジン誘導体を析出(沈殿)させ、その析出物を分離することによっても精製することができる。
【0058】
貧溶媒としては、水などの水系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒を用いることができる。これらの貧溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
貧溶媒の添加量は、反応溶媒または反応混合液の20℃での体積に対して0.5~10倍であることが好ましく、1~5倍であることがより好ましく、1~3倍であることがさらに好ましい。
析出物の溶媒からの分離は、ろ過方式(例えば吸引ろ過)、圧力方式、遠心分離方式などの公知の分離方法を用いて行うことができる。分離した析出物は、さらに貧溶媒で洗浄したり、洗浄後に乾燥したりしてもよい。
【0060】
[2]一般式(1)で表される化合物の合成工程
本発明の一般式(1)で表される化合物は、下記反応式に示すように、式(III)で表される化合物のR3aを必要に応じてハロゲン原子Xに置き換えた後、このハロゲン化物をジアリールアミノ構造(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を有する化合物と反応させることにより合成することが可能である。
【0061】
【化12】
【0062】
上記の反応式におけるRの説明については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。Xはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。ジアリールアミノ構造(2つのアリール基は互いに結合して環状構造を形成していてもよい)を有する化合物としては、上記の反応式に示すようにボロン酸誘導体を用いることができるが、水素原子をボロン酸基で置き換えていないジアリールアミンやカルバゾールなどの化合物(R-H)を用いてもよい。
上記の反応は、公知のカップリング反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、式(III)で表される化合物を合成原料として用いることにより、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0063】
<一般式(1)で表される化合物の有用性>
本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光材料、二光子吸収材料および活性酸素生成材料の少なくとも1つとして有用である。これは、一般式(1)で表される化合物が、ハメットのσm値が0.20以上の置換基で置換されたアリール基がトリアジン環に2つ結合した構造を有することにより、強い電子アクセプター性を示すためであると推測される。すなわち、こうした構造を有する化合物分子にエネルギーが供与されると、その強い電子アクセプター性により、Rにおけるジアリールアミノ基の電子が、RおよびRにおける、ハメットのσm値が0.20以上の置換基に効率よく移動して強い電荷移動状態を形成し、励起状態になるものと推測される。こうして生じた励起状態から放射失活することにより発光することができるため、一般式(1)で表される化合物は発光材料として効果的に用いることができる。また、電荷移動効率が高いことは二光子吸収に有利に働き、強い電荷移動状態を形成することは、活性酸素生成に有利に働くものと推測される。
以下において、本発明の発光材料、二光子吸収材料および活性酸素生成材料について説明する。
【0064】
[発光材料]
本発明の発光材料は、一般式(1)で表される化合物を含む。一般式(1)で表される化合物の説明については、<一般式(1)で表される化合物>の項の記載を参照することができる。
一般式(1)で表される化合物は、励起状態になった後、励起状態から放射失活することにより発光する。励起方式は、光励起であっても電流励起であってもよい。本発明の一態様では、一般式(1)で表される化合物は、420~2500nmの青色領域~近赤外領域で発光する。一般式(1)で表される化合物は、640~2500nmの赤色領域~近赤外領域で発光してもよい。本明細書中において、青色領域は420~490nmの波長範囲であり、緑色領域は490~550nmの波長範囲、黄色領域は550~590nmの波長範囲、オレンジ色領域は590~640nmの波長範囲、赤色領域は640~770nmの波長範囲、近赤外線領域は680~2500nmの波長範囲であることとする。
【0065】
本発明の発光材料は、遅延蛍光を放射するものであってもよい。すなわち、本発明の一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射するものも含まれる。本発明の発光材料は、こうした遅延蛍光を放射する化合物を含んでいてもよい。ここで、遅延蛍光とは、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差で生じた励起一重項状態の放射失活によって生じる蛍光であり、直接遷移で生じた励起一重項状態からの蛍光よりも、通常遅れて観測される。本明細書中では、20℃で発光寿命が短い蛍光と、発光寿命が長い蛍光(遅延蛍光)の両方が観測された場合において、その発光寿命の長い蛍光が「遅延蛍光」であることとする。なお、発光寿命(τ)が200ns(ナノ秒)以上である蛍光は通常「遅延蛍光」であるが、本明細書における「遅延蛍光」は、発光寿命(τ)が200ns以上のものに限定されるものではない。
遅延蛍光を放射する化合物であることは、最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)のエネルギー差ΔESTを指標として判別することもできる。例えば、ΔESTが0.3eV以下である化合物は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を起こし易いため、遅延蛍光を放射する化合物であるということができる。
【0066】
<二光子吸収材料、活性酸素生成材料>
本発明の二光子吸収材料は、一般式(1)で表される化合物を含む。
本発明における「二光子吸収材料」は、二個の光子を同時に吸収して励起状態に遷移しうる材料のことを意味する。こうした二光子吸収材料は、近赤外光のようなエネルギーの低い光でも励起することができるため、近赤外光を生体組織透過用の光として用いるバイオ分野で効果的に用いることができる。
【0067】
<活性酸素生成材料>
本発明の活性酸素生成材料は、一般式(1)で表される化合物を含む。
本発明における「活性酸素生成材料」は、基底状態の三重項酸素を励起して活性酸素を生成する材料のことを意味する。本発明の一般式(1)で表される化合物が生成する活性酸素として、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシド、一重項酸素、過酸化水素が挙げられる。
【0068】
<有機発光素子>
本発明の有機発光素子は、一般式(1)で表される化合物を含む。一般式(1)で表される化合物の説明については、<一般式(1)で表される化合物>の項の記載を参照することができる。
本発明の有機発光素子は、有機フォトルミネッセンス素子であっても有機エレクトロルミネッセンス素子であってもよい。有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。各有機層および各電極の材料としては、有機エレクトロルミネッセンス素子に一般的に用いられる公知の材料を用いることができる。一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子のいずれの有機層に含まれていてもよいが、発光層に含まれていることが好ましく、発光材料として発光層に含まれていることがより好ましい。発光層に一般式(1)で表される化合物を含む場合、発光層は、一般式(1)で表される化合物のみから構成されていてもよいし、その他の材料を含んでいてもよい。その他の材料として、ホスト材料や発光材料を挙げることができる。
【0069】
<その他の応用>
一般式(1)で表される化合物は、例えば有機エレクトロニクス素子にも応用することができる。有機エレクトロニクス素子としては、例えばフォトダイオードや太陽電池を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物の二光子吸収特性を利用すれば、近赤外フォトダイオードへの展開も期待できる。
【実施例0070】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下の実施例において、「室温」とは25℃のことを意味する。光物性の評価は、紫外可視近赤外分光光度計(パーキンエルマー社製:Lambda 950 PKA)、蛍光分光光度計(日本分光社製:FP-8600 )、小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製:C16361-02)を用いて行った。
【0071】
また、本実施例において、化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)の差ΔESTは、下記の手順でES1とET1を測定し、ES1-ET1を計算することにより求めた値である。
(1)最低励起一重項エネルギー(ES1
測定対象化合物のトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製、もしくはフィルムを作製して試料とする。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
後述の実施例における発光スペクトルの測定は、蛍光分光光度計(日本分光社製:FP-8600 )により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー(ET1
最低励起一重項エネルギー(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(例えば250~500nmの範囲から選択可能であるが、ここでは360nmを採用)を燐光測定用試料に照射し、検出器を用いて燐光を測定する。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光を燐光スペクトルとする。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0072】
以下において、本実施例で用いた化合物の合成方法について説明する。
(合成例1)化合物1の合成
【化13】
【0073】
化合物1a(1当量)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液に、水素化ナトリウム(1.2当量)を0℃で徐々に添加した後、化合物2a(0.5当量)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液を1時間かけて滴下し、室温で12時間撹拌した。この反応物に水を加え、析出した沈殿物をろ過により回収した。この沈殿物を水で洗浄することにより、化合物3a(収率33%)を得た。
δ(ppm) 8.61(d, J = 8.39Hz, 4H), 8.05 (d, J = 8.40Hz, 4H), 7.98 (s, 2H).
【0074】
化合物4a
【化14】
【0075】
化合物3a(1当量)と臭化銅(II)(2当量)のアセトニトリル溶液をアルゴンで20分間脱気した後、亜硝酸tert-ブチル(2当量)を添加し、60℃で4~12時間加熱した。この反応物を室温に冷却した後、水を加え、析出した沈殿物をろ過により回収した。この沈殿物を水で洗浄し、カラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物4a(収率57%)を得た。
δ(ppm) 8.73 (d, J = 8.31Hz, 4H), 7.87 (d, J = 8.32Hz, 4H).
【0076】
化合物1
【化15】
【0077】
化合物4a(1当量)、化合物5a(1当量)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.05当量)および炭酸カリウム(2当量)を、トルエン:水(5:1)の混合溶媒に溶解した溶液に、塩化メチルトリオクチルアンモニウムを1滴添加し、アルゴン雰囲気下、60℃で4時間撹拌した。この反応溶液を冷却した後、ジクロロメタンを加え、その有機層を水で洗浄した。回収した有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ過し、溶媒を蒸発させた。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物1(収率11%)を得た。
δ(ppm) 9.01 (d, J = 8.47Hz, 2H), 8.92 (d, J = 8.31Hz, 4H), 8.19 (d, J = 7.56Hz, 2H), 7.92 (d, J = 8.24Hz, 4H), 7.87 (d, J = 8.39Hz, 2H), 7.57 (d, J = 8.24Hz, 2H), 7.47 (t, J = 7.56Hz, 2H), 7.35 (t, J = 7.33Hz, 2H).
【0078】
(合成例2)化合物2の合成
【化16】
【0079】
化合物5aの代わりに化合物5bを用い、化合物1と同様の合成手順で化合物2(収率50%)を得た。
【0080】
(合成例3)化合物3の合成
【化17】
【0081】
化合物5aの代わりに化合物5cを用い、化合物1と同様の合成手順で化合物3を得た(収率58%)。
【0082】
(合成例4)化合物4bの合成
化合物3b
【化18】
【0083】
化合物1aの代わりに化合物1bを用い、化合物3aと同様の合成手順で粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物3b(収率29%)を得た。
δ(ppm) 8.65 (d, J = 8.09Hz, 4H), 7.77 (d, J = 8.17Hz, 4H), 7.26 (s, 2H).
【0084】
化合物4b
【化19】
【0085】
化合物3aの代わりに化合物3bを用い、化合物4aと同様の合成手順で化合物4b(収率57%)を得た。
δ(ppm) 8.74 (d, J = 7.85Hz, 4H), 7.83 (d, J = 7.7Hz, 4H).
【0086】
(合成例5)化合物4cの合成
化合物3c
【化20】
【0087】
化合物1aの代わりに化合物1cを用い、化合物3aと同様の合成手順で粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物3c(収率34%)を得た。
δ(ppm) 8.99 (s, 4H), 8.08 (s, 2H), 5.68 (s, 2H).
【0088】
化合物4c
【化21】
【0089】
化合物3aの代わりに化合物3cを用い、化合物4aと同様の合成手順で化合物4c(収率67%)を得た。
δ(ppm) 9.05 (s, 4H), 8.18 (s, 2H).
【0090】
(合成例6)化合物4dの合成
化合物3d
【化22】
【0091】
化合物1aの代わりに化合物1dを用い、化合物3aと同様の合成手順で化合物3d(収率10%)を得た。
δ(ppm) 8.70 (d, J = 8.77Hz, 4H), 8.44 (d, J = 8.78Hz, 4H), 8.08 (s, 2H).
【0092】
化合物4d
【化23】
【0093】
化合物3aの代わりに化合物3dを用い、化合物4aと同様の合成手順で化合物4d(収率37%)を得た。
δ(ppm) 8.82 (d, J = 7.86Hz, 4H), 8.42 (d, J = 8.01Hz, 4H).
【0094】
(合成例7)化合物4eの合成
化合物3e
【化24】
【0095】
化合物1aの代わりに化合物1eを用い、化合物3aと同様の合成手順で粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、化合物3e(収率28%)を得た。
δ(ppm) 8.73 (s, 2H), 8.70 (s, 2H), 5.62 (s, 2H).
【0096】
化合物4e
【化25】
【0097】
化合物3aの代わりに化合物3eを用い、化合物4aと同様の合成手順で化合物4e(収率39%)を得た。
δ(ppm) 8.79 (s, 2H), 8.76 (s, 2H), 7.92 (s, 2H).
【0098】
(他の合成例)
以下の4種類の化合物も、化合物1aおよび化合物3aを対応する化合物に変更して、化合物3aおよび化合物4aと同様の合成手順で得ることができる。
【化26】
【0099】
(実施例1)化合物1を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で化合物1のトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製した。
このトルエン溶液の吸収スペクトル(abs)、360nm励起光による蛍光スペクトル(flu)および燐光スペクトル(phos)を図1に示す。図1から求めた最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差ΔESTは220meVであった。また、大気下およびアルゴン雰囲気中で測定したフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)、即時蛍光寿命τpと即時蛍光成分の割合、遅延蛍光寿命τdと遅延蛍光成分の割合を表1に示す。また、730nm励起光による発光スペクトルを図2に示す。近赤外励起で青色の発光が観測されたことから、二光子励起が示唆された。
【0100】
【表1】
【0101】
(実施例2)化合物3を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で化合物3のmCBP溶液(濃度5重量%)を1000rpm/秒でスピンコートすることによりフィルムを作製した。このフィルムは600~800nmに吸収帯を持ち、即時蛍光寿命τpの測定を行ったところ71.6ナノ秒であった。化合物3の量子化学計算(Gaussian(R) 16 program)によるΔESTは46.4meVであり、近赤外領域の遅延蛍光を有することが示唆された。
【0102】
(実施例3)化合物4を用いた有機フォトルミネッセンス素子の評価
下記化合物4は、光の吸収帯が645~660nmであり、近赤外領域で発光する。化合物4の量子化学計算によるΔESTは7.9meVであり、近赤外領域の遅延蛍光を有することが示唆された。
【0103】
【化27】
【0104】
(活性酸素生成活性)
化合物1の最低励起三重項エネルギー(ET1)を測定したところ、2.79eVであった。また、量子化学計算を行ったところ、化合物3のET1は1.85eVであり、化合物4のET1は1.78eVであった。これらの化合物のET1は、活性酸素種の一つである一重項酸素の発生に必要な励起エネルギー(0.97eV)よりも十分高い。このことから、一般式(1)で表される化合物は、基底状態酸素から一重項酸素を発生させることができ、活性酸素生成活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の化合物は、電子アクセプター性基で置換されたアリール基を2つ有するトリアジン誘導体でありながら合成することが可能である。また、本発明の化合物は、発光材料、二光子吸収材料および活性酸素生成材料の少なくとも1つとして効果的に用いることができるため、産業上の利用可能性が高い。
図1
図2