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特開2024-106833イオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106833
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】イオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/48 20060101AFI20240801BHJP
   H01J 27/14 20060101ALI20240801BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C23C14/48 D
H01J27/14
H01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011299
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000146009
【氏名又は名称】株式会社昭和真空
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100100860
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(72)【発明者】
【氏名】中里 隼
(72)【発明者】
【氏名】堀澤 秀之
(72)【発明者】
【氏名】池田 知行
【テーマコード(参考)】
4K029
5C101
【Fターム(参考)】
4K029BA03
4K029BA04
4K029BA17
4K029BA44
4K029BA46
4K029CA01
4K029CA09
4K029CA10
4K029DE02
5C101AA36
5C101AA39
5C101BB06
5C101BB07
5C101BB09
5C101CC01
5C101CC04
5C101CC17
5C101DD03
5C101DD17
5C101DD20
5C101DD22
5C101DD23
5C101DD25
5C101DD27
5C101DD33
5C101DD36
5C101EE42
5C101EE45
5C101FF16
5C101FF59
(57)【要約】
【課題】イオン源から照射されるイオンビームのイオン電流密度分布を容易に変更でき、小型で安価である、イオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置を提供する。
【解決手段】イオン源6は、イオンを放出する開口を有し絶縁体で形成された放電室61と、放電室61内部に磁界を発生させる磁石と、放電室61の底部に配置されたアノード65と、磁石の磁力の強さを変更する磁力変更部と、を備え、磁界と電界が発生した放電室61に、放電室61の開口に隣接して配置されたニュートラライザ7から電子を挿入して、放電室61の開口からイオンを放出させ、放電室61から放出されるイオンの電流密度分布を、処理対象基材に応じて変更させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスが挿入される挿入口とイオンを放出する開口を有し、絶縁体で形成された放電室と、
前記放電室内部に磁界を発生させる磁石と、
前記放電室に配置され電界を発生させるアノードと、
前記磁界と前記電界が発生した前記放電室の前記開口に電子を挿入するニュートラライザと、
前記放電室から放出されるイオンの電流密度分布の設定を変更させる電流密度分布変更手段と、を備え、
前記イオンは、前記ニュートラライザから挿入された電子と前記原料ガスが衝突することにより生成され、
前記電流密度分布変更手段は、放出された前記イオンにより処理される基材に応じて電流密度分布の設定を変更させる、
イオン源。
【請求項2】
前記電流密度分布変更手段は、前記磁石の磁力の強さを変更する磁力変更部である、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記磁石は、永久磁石であり、前記放電室の外周を囲んで配置された、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記磁石は、電磁石であり、前記放電室の外周を囲んで配置された、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記磁力変更部は、前記放電室の開口の外周に配置される磁性体又は非磁性体で形成された制御板である、
請求項2に記載のイオン源。
【請求項6】
前記電流密度分布変更手段は、前記電磁石に付与する電流の大きさを変更する、
請求項4に記載のイオン源。
【請求項7】
前記電流密度分布変更手段は、複数の前記永久磁石の間隔を変更することにより、電流密度分布を変更する、
請求項3に記載のイオン源。
【請求項8】
前記電流密度分布変更手段は、前記アノードの電圧を変更することにより、電流密度分布を変更する、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項9】
前記磁石を冷却する磁石冷却部を、更に備える、
請求項1に記載のイオン源。
【請求項10】
真空チャンバ内で基材を処理する基材処理装置であって、
前記真空チャンバ内で複数の前記基材を保持する基材ホルダと、
前記基材に対してイオンを照射する請求項1から請求項9の何れか1項に記載されたイオン源と、を備える、
基材処理装置。
【請求項11】
前記電流密度分布変更手段は、
前記複数の基材を保持する前記基材ホルダの基材保持面、又は前記基材ホルダに保持された複数の基材の移動軌跡における、膜厚分布、屈折率分布、又は加熱分布に応じて、電流密度分布の設定を変化させる、
請求項10に記載の基材処理装置。
【請求項12】
前記基材処理装置は、成膜装置であり、
成膜材料の蒸発分布、前記基材ホルダと蒸発源の相対位置、又は前記基材ホルダと前記イオン源の相対位置に応じて、電流密度分布の設定を変更させる、
請求項10に記載の基材処理装置。
【請求項13】
イオン源から放出されるイオンの電流密度分布を変更する方法であって、
放電室内に原料ガスを供給するステップと、
前記放電室内に磁界と電界を発生させるステップと、
前記放電室に電子を供給し前記原料ガスからイオンを生成し、前記放電室から前記イオンを放出させるステップと、
前記放電室から放出されるイオンの電流密度分布の設定を、前記イオンにより処理される基材に応じて変更するステップと、を備える、
イオン電流密度分布変更方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象基材にイオンを照射するイオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材処理装置の一つとして基板に薄膜を堆積させる成膜装置がある。成膜装置を使用した成膜方法として、イオン源によりイオン化したガス粒子を基材に照射し、蒸着材料分子を基材へ押し付け、膜質を改善して成膜するイオンアシスト蒸着法が知られている。
【0003】
特許文献1には、高周波電源を用いたイオン源が開示されている。このイオン源は、放電室内に導入されたガスを励起してプラズマ化し、グリッドと呼ばれる引出電極間に電圧を印加してイオンビームを引き出すことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-73594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたイオン源は、高周波電源を使用するために装置が大型化し、設置場所が限定される。また、基材処理装置において、基板の形状が変更されるとイオン源の配置も対応して変更することが望ましいが、イオン源は、マッチング回路を介して高周波電源に接続されているので、配置変更することが難しい。さらに、グリッドは消耗品であるため、定期的に交換する必要がある。加えて、大電流を得るには、装置を大型化する必要があり、電源とグリッドに大きな費用がかかるという問題がある。
【0006】
また、基板に所望の成膜処理をするために、イオン源から照射されるイオンビームの照射範囲を制御する必要がある。特許文献1に開示されたイオン源において、イオンビームの照射範囲を変更する場合には、グリッドの形状を変化させる必要がある。グリッドの成形には、高度な技術が必要であり、コストもかかり、イオンビームの照射範囲を変更することは難しい。また、そもそも、イオンビームの照射範囲の変更のみならず、イオン電流密度分布を変更することは難しい。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン源から照射されるイオンビームのイオン電流密度分布を容易に変更でき、小型で安価である、イオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係るイオン源は、
原料ガスが挿入される挿入口とイオンを放出する開口を有し、絶縁体で形成された放電室と、
前記放電室内部に磁界を発生させる磁石と、
前記放電室に配置され電界を発生させるアノードと、
前記磁界と前記電界が発生した前記放電室の前記開口に電子を挿入するニュートラライザと、
前記放電室から放出されるイオンの電流密度分布の設定を変更させる電流密度分布変更手段と、を備え、
前記イオンは、前記ニュートラライザから挿入された電子と前記原料ガスが衝突することにより生成され、
前記電流密度分布変更手段は、放出された前記イオンにより処理される基材に応じて電流密度分布の設定を変更させる。
【0009】
前記電流密度分布変更手段は、前記磁石の磁力の強さを変更する磁力変更部である、
こととしてもよい。
【0010】
前記磁石は、永久磁石であり、前記放電室の外周を囲んで配置された、
こととしてもよい。
【0011】
前記磁石は、電磁石であり、前記放電室の外周を囲んで配置された、
こととしてもよい。
【0012】
前記磁力変更部は、前記放電室の開口の外周に配置される磁性体又は非磁性体で形成された制御板である、
こととしてもよい。
【0013】
前記電流密度分布変更手段は、前記電磁石に付与する電流の大きさを変更する、
こととしてもよい。
【0014】
前記電流密度分布変更手段は、複数の前記永久磁石の間隔を変更することにより、電流密度分布を変更する、
こととしてもよい。
【0015】
前記電流密度分布変更手段は、前記アノードの電圧を変更することにより、電流密度分布を変更する、
こととしてもよい。
【0016】
前記磁石を冷却する磁石冷却部を、更に備える、
こととしてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点に係る基材処理装置は、
真空チャンバ内で基材を処理する基材処理装置であって、
前記真空チャンバ内で複数の前記基材を保持する基材ホルダと、
前記基材に対してイオンを照射する本発明の第1の観点に係るイオン源と、を備える。
【0018】
前記電流密度分布変更手段は、
前記複数の基材を保持する前記基材ホルダの基材保持面、又は前記基材ホルダに保持された複数の基材の移動軌跡における、膜厚分布、屈折率分布、又は加熱分布に応じて、電流密度分布の設定を変化させる、
こととしてもよい。
【0019】
前記基材処理装置は、成膜装置であり、
成膜材料の蒸発分布、前記基材ホルダと蒸発源の相対位置、又は前記基材ホルダと前記イオン源の相対位置に応じて、電流密度分布の設定を変更させる、
こととしてもよい。
【0020】
本発明の第3の観点に係るイオン電流密度分布変更方法は、
イオン源から放出されるイオンの電流密度分布を変更する方法であって、
放電室内に原料ガスを供給するステップと、
前記放電室内に磁界と電界を発生させるステップと、
前記放電室に電子を供給し前記原料ガスからイオンを生成し、前記放電室から前記イオンを放出させるステップと、
前記放電室から放出されるイオンの電流密度分布の設定を、前記イオンにより処理される基材に応じて変更するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イオン源から照射されるイオンビームのイオン電流密度分布を容易に変更でき、小型で安価である、イオン源、イオン電流密度分布変更方法、及び基材処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係るイオン源を備える蒸着装置の概念図である。
図2】実施の形態1に係るイオン源の斜視図である。
図3図2のA-A線で切断した断面図である。
図4】イオン源の動作状態を示す概念図である。
図5】イオン電流密度の大きさを測定する測定系の概念図である。
図6】磁力の強さに応じて変化するイオン電流密度をドームの位置との関係で示すグラフである。
図7】変形例1を示し、磁性体又は非磁性体の制御板を取り付けたイオン源の断面図である。
図8】制御板の枚数に応じて変化するイオン電流密度とドームの位置との関係を示すグラフである。
図9】変形例2を示し、アノード電圧を変更したとき発生する電流値が、条件に応じて変化する状態を示すグラフである。
図10】アノード電圧が変更されることにより膜の応力と屈折率が変化する状態を示すグラフである。
図11】変形例3を示し、基材ホルダの相違する測定位置におけるイオン電流密度分布が、条件に応じて変化する状態を示すグラフである。
図12】複数の基材を保持した基材ホルダの一部を下から見た図である。
図13】変形例4を示し、図12に示した位置に配置された複数の基材の屈折率を示すグラフであり、(a)はヨークがない場合、(b)はヨークを3段使用した場合、(c)はヨークを5段使用した場合のグラフである。
図14】実施の形態2に係るイオン源の斜視図である。
図15図14のイオン源のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るイオン源の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する実施の形態は説明のためのものであり、本願発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものに置換した実施の形態を採用することが可能であるが、これらの実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
【0024】
(実施の形態1)
本発明の一実施の形態であるイオン源を使用した蒸着装置の構造について説明する。図1は、蒸着装置1の概念図である。蒸着装置1は、イオン源6からイオンビームを照射しながら基材に成膜処理が可能なイオンアシスト蒸着装置である。
【0025】
蒸着装置1は、真空チャンバ2と、基材を保持する基材ホルダ3と、ヒータ4と、蒸発源5と、イオン源6と、ニュートラライザ7と、排気手段8と、を備える、基材ホルダ3は、真空チャンバ2内の上部に配置され、蒸発源5と、イオン源6と、ニュートラライザ7は、真空チャンバ2内の下部に配置される。基材ホルダ3が配置される位置を上、蒸発源5、イオン源6、ニュートラライザ7を配置される位置を下として説明するが、これらの用語は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、本発明の実施の形態が実際に使用されるときの方向を限定するものではない。また、これらの用語によって特許請求の範囲に記載された技術的範囲を限定的に解釈させるべきでない。
【0026】
真空チャンバ2は、減圧容器であり排気手段8に接続されている。排気手段8は、粗引き排気をする低真空排気ポンプ8aと、粗引き排気後に本引きをする高真空排気ポンプ8bを使用する。真空チャンバ2内部を排気するときは、最初に、バルブ8cを開けて低真空排気ポンプ8aにより粗引きをした後、バルブ8dを開け、高真空排気ポンプ8bにより本引きをし、真空チャンバ2の内部を10-2から10-5Paの真空状態とする。なお、排気用の真空ポンプは上述したポンプに限定されず、真空ポンプであればいかなるポンプを使用してもよく、真空ポンプの組合せも真空チャンバ2の真空度に応じて変更することができる。
【0027】
基材ホルダ3は、処理対象である基板を保持するためのドーム状のホルダであり、真空チャンバ2の上部で、垂直軸周りに回転可能である。基材ホルダ3の下面は、基材を保持する保持面であり、保持面に複数の基板3aが成膜面を下向きにして保持されている。基材ホルダ3は、図示しない駆動手段により、回転軸3bを中心に回転する。基板3aは、レンズ基板等であり、蒸発源5から放出される蒸着材料により、基板3aの表面に反射防止膜等の薄膜が形成される。成膜対象には、光学製品、自動車部品など様々な基材がある。
【0028】
ヒータ4は、基材ホルダ3の背面に配置され、基材ホルダ3に保持された基板3aを加熱する。
【0029】
蒸発源5は、蒸着材料を保持する坩堝5aと、坩堝5aの蒸着材料に電子ビームを照射して、蒸着材料を加熱して蒸発させる電子銃5bを備える。図示はされていないが、蒸発源5の上方には、開閉操作が可能なシャッタが取り付けられており、図示しないコントローラにより開閉制御される。蒸着材料として、酸化物であるSiO、Al、金属材料であるAl、Ag、Ti等が用いられる。電子ビームを蒸着材料に照射して加熱すると、蒸着材料が蒸発し、開かれたシャッタを介して、蒸着材料が基板3aに向けて移動して基板3aの表面に付着する。なお、蒸発源5を加熱する方法は、電子ビームを用いる以外に、抵抗加熱を使用してもよい。
【0030】
イオン源6は、蒸発源5から放出される蒸着材料による成膜処理を、イオンにより補助するイオンアシストイオン源である。本実施の形態で使用されるイオン源6は、円筒状の放電室と、放電室内部に磁界を発生させる磁石と、放電室の底部に配置されるアノード電極を備える。イオン源6は、放電室の開口の近傍に、後述するニュートラライザを配置することにより電界を発生させ、磁界と電界を交差させて電子の陽極への拡散を抑制することで発生する局所的な電界でイオンを加速するグリッドレスのイオン源である。イオン源6の詳細な構造は後述する。
【0031】
イオン源6は、反応性ガス(例えば酸素)や希ガス(例えばアルゴン)をプラズマ化し、イオンを引き出して、イオンを基板3aに照射する。イオン源6に供給されるガスは、ガス供給部10であるガスボンベから供給され、流量制御装置11を介してイオン源6に供給される。
【0032】
ニュートラライザ7は、電子を発生させる装置であり、図1、4に示すように、イオン源6の出口側に設置される。本実施の形態では、プラズマブリッジニュートラライザを使用するが、高周波プラズマやホローカソード、フィラメントカソードを用いた電子源であってもよい。ニュートラライザ7の詳細構造は図示しないが、ニュートラライザ7は、フィラメント電源と、放電電源と、バイアス電源を備え、チャンバ内部に設置されたフィラメントをフィラメント電源により加熱して、熱電子を放出させる。チャンバ内に供給されたガスをプラズマ化させ電子を引出し、加速電圧で加速して電子を放出する。
【0033】
ニュートラライザ7に供給されるガスは、図1に示すガスボンベであるガス供給部12から供給され、流量制御装置13を介してニュートラライザ7に供給される。
【0034】
(イオン源の全体構成)
イオン源には、背景技術において説明した特許文献1のように、高周波電源を用いてプラズマを発生させ、グリッドからイオンを引き出すグリッド型イオン源と、円筒状の放電室内部に電界と磁界を発生させて、円周方向の電流を発生させてイオンを放出させるグリッドレスイオン源が存在する。本実施の形態で説明するイオン源は、グリッドレスイオン源に分類される。
【0035】
図2、3は、本実施の形態に係るイオン源の全体構成を示す概念図であり、図2は、イオン源6の外観斜視図、図3は、図2に示すイオン源をA-A線で切断した断面図である。イオン源6は、放電室61と、永久磁石62と、電磁石64と、アノード65と、ガス供給管66と、を備える。
【0036】
放電室61は、石英やセラミックなどの絶縁体で形成された円筒形状の容器である。円筒の一対の端部のうち、一方の端部は開口し、生成されたイオンが放出される。他方の端部は底部を形成し、底部には、アノード65が設置される。また、底部には、ガス供給部10から供給されるガスを放電室61の内部に挿入する挿入口が形成され、挿入口にガス供給管66が接続されている。
【0037】
永久磁石62は、放電室61の外周を囲んで配置される円環状の永久磁石である。本実施の形態では、3つの永久磁石62が、同極が対向するように、上下方向に積層されて配置されている。永久磁石62として、ネオジウム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石などが用いられる。3つの環状の永久磁石62が、放電室61の外周に配置されることにより、放電室61の内部には、永久磁石62のN極からS極に磁界が生じる。
【0038】
3つの永久磁石62は、内筒63aと、外筒63bと、放電室61の底部側に配置されるリアプレート63cと、放電室61の開口側に配置されるフロントプレート63dとにより形成される収納空間に収納される。内筒63aは、非磁性材料で形成される。永久磁石62が収納される空間には、永久磁石62を冷却するための冷却空間が形成される。この冷却空間に水を充填して第1冷却部(磁石冷却部)67を構成する。また、フロントプレート63dの上面には、セラミック等で形成された板状の第1絶縁部70が配置される。
【0039】
アノード65は、導電性の電極であり、ガス供給管66から供給されるガスを通過させる孔が形成されている。アノード65の下方には、冷却フランジ68が配置される。冷却フランジ68には、アノード65を冷却する空間が形成され、この空間に水を充填して第2冷却部(磁石冷却部)69を構成する。リアプレート63cと冷却フランジ68との間には、アノード65から絶縁するため、セラミック等で形成された板状の第2絶縁部71が配置される。
【0040】
電磁石64は、外筒63bの外周に4つ、所定の間隔を隔てて配置される。電磁石64は、永久磁石62とともに放電室61内に磁界を発生させる。コイルに流れる電流の大きさを変更することにより、磁力を変更することができ、磁力変更部として機能する。磁力を制御することにより、イオン源6から照射されるイオンの照射範囲を制御することができる。
【0041】
ガス供給管66は、図1に示すガス供給部10に連結されており、ガス供給部10から供給するガスを、アノード65の孔を通過させて放電室61の内部に供給する。
【0042】
(イオン源を使用した蒸着方法)
次に、上述したイオン源6を用いた蒸着方法について、図1、3、4を参照して説明する。
【0043】
まず、真空チャンバ2のドーム状の基材ホルダ3の内面に複数の基板3aを装着する。そして、油回転ポンプ等の低真空排気ポンプ8aにより粗引きをした後、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、油拡散ポンプ等の高真空排気ポンプ8bにより排気をして、真空チャンバ2内を所定の圧力まで減圧する。また、ヒータ4を稼働させて、基板3aの温度を所定の温度とする。
【0044】
そして、坩堝5aの蒸着材料に電子銃5bから電子ビームを照射して蒸着材料を加熱し、図示しないシャッタを開閉制御して、蒸着材料を基板3aに向けて蒸発させる。
【0045】
一方、アルゴン等のガスが、図3に示すイオン源6のガス供給管66から、アノード65を介して、放電室61内に供給される。アノード65には、図4に示す電源100から電荷が加えられる。イオン源6の出口側に設置されたニュートラライザ7から放出された電子は、放電室61に入り、永久磁石62及び電磁石64により発生する磁場とアノードの電場によりトラップされる。そして、電子は、放電室61内に供給されたガスと衝突し、プラズマを発生させる。そして、アノード65により生じる電界で、プラズマ内のイオンが放電室61から放出される。
【0046】
放電室61から放出されたイオンは、基板3aに向けて照射され、基板3aに蒸着された薄膜の緻密性、密着性を高める。また、ニュートラライザ7から放出された電子により、イオンを中和し、基板3aに到達する。
【0047】
放電室61から照射されるイオンは、電磁石64の磁力の大きさを変化させることにより、基材ホルダ3に到達するイオンのイオン電流密度分布が変化する。基材ホルダ3に到達するイオンのイオン電流密度を測定した結果を図6に示す。基材ホルダ3はドーム状に形成されているので、図5に示すように、ドームの基材保持面を模した円弧に形成する。そして、この円弧に10度おきにプローブを設置した測定系を形成して、イオン電流密度を測定した。
【0048】
図6は、電流の値を変化させて、プローブの位置に基づいて、イオン電流密度を測定したグラフである。電磁石64のコイルに流れる電流の値は、0.0A、0.5A、1.0A、1.5A、2.0Aとして、イオン電流密度を測定した。また、アノード65には、150Vの電圧と1000mAの電流を流した。図6に示すグラフのように、電磁石64に流す電流値を増加すると、イオンの電流密度分布は、直進方向から拡散する方向へと変化することがわかる。
【0049】
電磁石64の電流値を変化させることにより、様々なイオン電流密度分布を設定することができる。例えば、ドーム状の基材ホルダ3は、外側の基板3aに蒸着材料が斜めに入射することでポーラスな膜となりやすい。さらにドーム状の基材ホルダ3が回転しイオン源6が基材ホルダ3の回転軸に対して偏心して配置される場合、基板3aに入射する蒸着材料の入射角は回転位置により異なるが、内周側に比べて外周側に配置される基板3aほど入射角のばらつき幅が大きく、蒸着材料の入射角に依存して不均質な膜となりやすい。成膜条件が不利な基材ホルダ外周側の膜質を改善するために、電磁石64に強い電流を流して、外側のイオン電流密度が高くなるように分布を変化させて、外側の基板3aの膜質を変化させることができる。また、蒸着材料により、蒸発する速度や蒸発分布が異なるため、蒸着材料の分布に応じて、電流を変化させることもできる。このように、真空チャンバ2内の環境に応じて、電磁石64に流す電流の値を変化させてイオン電流密度分布を変更し、基板3aの表面に形成される薄膜の膜質を均一にすることができる。
【0050】
(変形例1)
基材ホルダ3のイオン電流密度分布は、実施の形態1では、電磁石64にかける電流の大きさを変化させることにより変更していた。しかしながら、電磁石64を使用するのではなく、イオン源6のフロントプレート63dの上に磁性体又は非磁性体で形成された制御板を乗せ、制御板を磁力変更部として機能させることも可能である。なお、フロントプレート63d自体を磁性体又は非磁性体としてもよい。
【0051】
図7に示すように、イオン源6のフロントプレート63dの上に、磁性体又は非磁性体からなる制御板80を設置する。制御板80以外の構造は、実施の形態1に示した構造と同一である。本変形例では、制御板80の数を変更させることにより、磁力を変化させイオン源6から照射されるイオンの電流密度分布を変更することができる。制御板80の上面には、絶縁体で形成された板状の第1絶縁部70を載置してもよい。
【0052】
磁性体からなる制御板80として、鉄、ニッケル、SUS430等の磁性体を含む板を使用し、非磁性体からなる制御板80として、アルミニウム、チタン、SUS316等の非磁性体を含む板を使用する。制御板80には、放電室61の開口に対応する位置に、開口が形成される。
【0053】
また、イオン源6のフロントプレート63dの下に磁性体で形成された制御板90を配置し、制御板を磁力変更部として機能させることも可能である。制御板90として、例えば、ヨーク(継鉄)を使用してもよい。
【0054】
図8は、磁性材料からなるフロントプレート63dの下に磁性材料からなる制御板(ヨーク)90を積層した場合のイオン電流密度分布の相違を、プローブの位置に応じて示すグラフである。イオン電流密度は、ドーム状の基材ホルダ3の中心から異なる複数の位置(a~f)に、プローブを置いて測定した。横軸のアルファベットの後ろに記載された数値は、基材ホルダ3の中心からプローブの置かれた位置までの距離を示す。
【0055】
図8のグラフは、制御板(ヨーク)90がない場合、磁性体で形成されたフロントプレート63dの下に、1段、3段、又は5段積層した場合、及び非磁性体で形成されたフロントプレート63dに積層した場合、のイオンの電流密度分布を示す。磁性体で形成された制御板90の数が多くなるほど、放電室61から発生する磁束は弱くなり、基材ホルダ3の内周のイオン電流密度が増加する。また、フロントプレート63dを非磁性体で形成すると、放電室61から発生する磁束は強くなり、基材ホルダ3の外周のイオン電流密度が増加する。このように、制御板90を使用することにより、磁力を変更し、実施の形態1と同様に、イオンの電流密度分布を変更して、真空チャンバ2内の様々な環境変化に対応することができる。
【0056】
本変形例におけるイオン源6は、制御板80のみ、又は制御板90のみでイオン電流密度分布の変更を行ってもよく、制御板80及び制御板90を同時に使用してもよい。
【0057】
(変形例2)
実施の形態1、変形例1で説明した内容は、一例であり、本発明は、イオンの電流密度分布の設定を変更することにより、成膜条件に応じた様々な効果を得ることができる。以下、電流密度分布を変更する手段とそれにより得られる効果について、更に説明する。
【0058】
イオン源6を稼働するにあたり、成膜する条件に応じて予めアノード65の電圧を設定する必要がある。イオン源6の電圧が異なると、生じる電流値が変化するのでイオン電流密度が変化し、その結果、膜の応力や膜の屈折率が変化する。したがって、所望の応力や所望の屈折率を得られるようにアノード65の電圧を設定する。アノード電圧の値が不適切である場合、成膜処理に不都合が生じる。例えば樹脂基板を対象としてイオンアシスト蒸着する場合、アノード電圧が高すぎると樹脂基板へのダメージが大きく望ましくない。また、アノード電圧が低すぎるとイオンアシスト効果が十分に得られない。
【0059】
まず、磁力の異なる環境におけるアノード電圧と電流の関係を説明する。アノード65に電圧をかけ生ずる電流値は、図7に示す永久磁石62間の距離a、フロントプレート63dの材質が磁性体か非磁性体であるか、フロントプレート63dに配置する制御板90(ヨーク)の数等に応じて、変化する。図9は、永久磁石62間の距離、フロントプレート63dの材質、ヨークの数に応じたイオン源6の電圧と電流の関係を示すグラフである。
【0060】
図9の長い破線と白丸で示すグラフは、ネオジウム磁石を使用し、フロントプレート63dに非磁性体(SUS316)、永久磁石62間の距離が4mm、ヨークなしの条件における電圧と電流の関係を示し、直線と四角で示すグラフは、ネオジウム磁石を使用し、フロントプレート63dに磁性体(SUS430)、永久磁石62間の距離が4mm、ヨークなしの条件における電圧と電流の関係を示し、短い破線と×で示すグラフは、ネオジウム磁石を使用し、フロントプレート63dに磁性体(SUS430)、永久磁石62間の距離が0mm、ヨークなしの条件における電圧と電流の関係を示し、中長の破線と白抜き四角で示すグラフは、ネオジウム磁石を使用し、フロントプレート63dに磁性体(SUS430)、永久磁石62間の距離が0mm、ヨーク2段の条件における電圧と電流の関係を示す。図9に示すように、磁界の条件に応じて生ずる電流が相違する。成膜条件に応じて、電圧と磁界の条件を適宜選択して設定することで、所望のイオン電流密度分布を得ることができる。所望のエネルギー領域に合わせて磁場を設計し、イオン源6の作動範囲を変更することができる。
【0061】
アノード電圧と磁界条件の設定は、成膜処理の開始前に行うが、成膜処理が開始された後も、適宜、運転状況に応じてアノード電圧と磁界条件の設定を変更することで、適切な成膜環境を生成することができる。
【0062】
さらに、アノード電圧を変更することにより、膜の応力又は屈折率を変更することができる。図10は、二酸化チタン(TiO)の膜を成膜した場合のアノード電圧と応力(残留応力)又は屈折率の関係を示すグラフである。図10において、応力(Stress)は、棒グラフで示し、屈折率(Index)は、点で示す。応力(Stress)の正の値は引張応力であり、負の値は圧縮応力である。グラフに示すように、アノード電圧が変更されると応力も変更される。300Vでは引張応力の値が高くなり、400Vでは応力の値が最小になり、500Vでは圧縮応力の値が高くなる。屈折率もアノード電圧を変更することにより変更される。成膜される膜に応じて所望の応力と屈折率になるようにアノード電圧の設定を変更する。
【0063】
所望の応力と屈折率を得るために、アノード電圧の設定は、成膜処理の開始前に行うが、成膜処理が開始された後も、適宜、運転状況に応じてアノード電圧を変更することが可能である。
【0064】
(変形例3)
電流密度分布変更手段として、実施の形態1及び変形例1で説明した以外にも種々の手段を適用することができる。例えば、図9で説明した磁界条件と同じように、永久磁石62間の距離、フロントプレート63dの材質、ヨークの数を電流密度分布変更手段として用いた例を、図11を用いて説明する。永久磁石62間の距離の変更、フロントプレートの材質の変更、ヨーク段数の変更に応じて、基材ホルダ3の基板3aが配置された位置により、電流密度分布が変化することがわかる。したがって、条件を変更することにより、膜厚の薄い部分の分布を増加させ、低温領域での分布を増加させ、又は、イオン源6から遠い部分の分布を増加させることができる。それにより、膜厚及び膜質を均一にすることができる。
【0065】
また、図8では永久磁石62にサマリウムコバルト磁石を用いているのに対し、図11ではネオジウム磁石を用いている。図8では磁性体で形成された制御板90の数が多くなるほど基材ホルダ3の内周のイオン電流密度が増加するが、図11では磁性体で形成された制御板90の数が多くなるほど基材ホルダ3の外周のイオン電流密度が増加する。磁石の種類を変更することで電流密度変化の傾向を変えることができる。さらに、図11に示すようにネオジウム磁石を用いて制御板90の数を調整することにより、膜質が不均質となりやすい基材ホルダ3の外周側のイオンビーム電流密度を増大させることも可能である。
【0066】
(変形例4)
イオン源6を、レンズの成膜に使用する場合には、最適な屈折率をもつ膜を成膜する必要がある。最適な屈折率をもつ膜は、電磁石への電流値の変更、永久磁石62間の距離の変更、フロントプレートの材質の変更、ヨーク段数の変更等により、生成することができる。その一例として、ヨーク段数を変更した場合の効果を説明する。図12は、基板3aを保持する基材ホルダ3の一部を下方向から見た図であり、基材ホルダ3の中心位置から外周に向けて基板3aを配置した状態を示す。基材ホルダ3の中心に近い位置に配置した基板3aを「a」と示し、外側に向かうにつれて、配置した基板3aをそれぞれ「b」「c」「d」「e」「f」と示した。図13は、基板3aの「a」~「f」のそれぞれの位置の基板3aの屈折率を示したグラフである。図13(a)は、ヨークなし、図13(b)は、ヨークを3段、図13(c)は、ヨークを5段使用したイオン源6におけるデータを示すグラフである。図13(a)~(c)に示すように、ヨークの数が増加するほど、屈折率が基材ホルダ3の基材保持面全体で揃ってきていることが確認できる。
【0067】
(実施の形態2)
実施の形態1では、グリッドレスイオン源の一例を説明したが、グリッドレスイオン源には、実施の形態1で示したイオン源の他に、マグネチックレイヤ型、アノードレイヤ型、エンドホール型、シリンドリカル型と呼ばれるイオン源がある。本実施の形態では、放電室610が絶縁体で形成されたシリンドリカル型のイオン源を使用した場合の例を説明する。
【0068】
図14は、本実施の形態のイオン源600の全体斜視図であり、図15は、図14のB-B線で切断した断面図である。イオン源600は、セラミック等の絶縁材料で形成された円筒状の放電室610と、放電室610の外周に配置された永久磁石620と、放電室610の底部に設置されたアノード630と、放電室610内にガスを供給するガス供給管660を備える。放電室610と永久磁石620は、両端部をフロントディスク640とリアディスク650とにより挟みこまれて固定される。
【0069】
アノード630は、アノード絶縁体631を介して、アノード保持部632により保持されている。また、放電室610の出口側には、ニュートラライザ700が設置されている。
【0070】
永久磁石620は、円筒状の収納筒621に収納されている。永久磁石620を収納した収納筒621は、放電室610の周囲に6~8個、その軸を放電室610の軸と平行にして配置される。複数の収納筒621のそれぞれの一対の端部は、一方がフロントディスク640と接触し、他方がリアディスク650に接触する。各収納筒621の両端部がフロントディスク640とリアディスク650に接触することで、フロントディスク640とリアディスク650を磁極として機能させ、放電室610内に磁界を発生させる。また、アノード630とニュートラライザ700との間には、電界が発生する。ガス供給管660から放電室610内の取り込まれたガスは、放電室610内部の磁界と電界の作用及びニュートラライザ700から放出される電子により、プラズマが形成され、イオンが放電室610の開口から放出される。機材の損傷を軽減するために、フロントディスク640の上面に絶縁体を配置させてもよい。
【0071】
放電室610の出口から放出されるイオンの方向を制御するためには、フロントディスク640の上面に磁性体又は非磁性体により形成された制御板80(図示せず)を積層して、磁界の強さを制御する。イオンの方向を制御することにより、イオンの電流密度分布を変更することができる。
【0072】
本実施の形態は、永久磁石620を収納した円柱状の収納筒621により、放電室610を囲む構造を採用した。したがって、永久磁石620は、外気により冷却する空冷方式を適用することができ、実施の形態1のような冷却部は存在しない。したがって、イオン源600の大きさを小さくすることができ、運搬が容易となり、様々な場所に設置することができる。
【0073】
実施の形態1によれば、電磁石64の電流の値を変化させることで、放電室61から放出されるイオンの電流密度分布を変更することができるので、基材ホルダ3に保持された基板3aに形成される薄膜を、所望の膜質に制御することができる。
【0074】
実施の形態1によれば、電磁石64によりイオンの電流密度分布を変更することができるので、電磁石64に流す電流を変更すれば、蒸着装置1の運転中にもイオン源を作動させることができる。このような運転は、運転の途中で蒸着材料を変更する、あるいは処理内容が変更した場合に有効である。
【0075】
実施の形態1によれば、高周波電源を用いずに永久磁石62により、放電室61内に磁界を発生させているので、装置をコンパクトにすることができる。
【0076】
実施の形態1によれば、複数の円環状の永久磁石62を、放電室61の外周に積層して配置させたので、強い磁界を発生させることができ、ニュートラライザ7から放出された電子をトラップさせやすくなる。したがって、高エネルギーのイオンを発生させることができる。
【0077】
実施の形態1によれば、絶縁体を、放電室61の開口の外周に取り付けたので、放電が安定し、機器の消耗を抑制することができる。
【0078】
実施の形態1によれば、第1冷却部67と第2冷却部69とを設けたので、永久磁石62とアノード65を冷却することにより、磁場強度の減少を抑止することができる。基材処理装置においては、基材処理の開始から終了までイオン源の出力分布を一定に維持する必要がある。しかし、冷却機構を備えないイオン源では、稼働とともにイオン源が昇温し、磁場強度が変動することにより、基材処理が狙い値で完了しない場合があった。本発明は、冷却機構を設けることで、基材処理の精度を向上させることが可能となった。また、装置の寿命を延ばすことができる。
【0079】
変形例1によれば、所望の磁界を発生させるため、磁性体又は非磁性体で形成された制御板80、90を、放電室61の開口の周囲に取り付けたので、制御板80、90により容易に磁界の強さを制御して、イオンの電流密度分布を変更することができる。
【0080】
変形例2によれば、アノード電圧と磁力の変更をすることにより、成膜条件に応じた膜を形成させることができる。
【0081】
変形例2、3によれば、永久磁石62間の間隔を変更するという簡単な操作でイオンの電流密度分布を変更することができる。
【0082】
変形例3によれば、磁力の強さを複数の条件を組み合わせて、イオンの電流密度分布を変更することができ、成膜対象に応じてより微妙なイオン電流密度分布の調整をすることができる。
【0083】
変形例4によれば、ヨークの段数を増加させることにより、膜の屈折率のばらつきを抑制することができる。
【0084】
実施の形態1、2及び変形例1~4では、放電室61、610は、絶縁体で形成されているので、アノード65、630に、成膜材料又はエッチング材料が付着しづらく、イオン源6、600の出力を安定させることができる。基材処理装置において導電性の成膜材料を用いる場合、又は導電性の材料をエッチングする場合、放電室に導電性材料が堆積し、放電が不安定となる。放電室が絶縁体で形成されていることで、基材処理を安定して実施することができる。また、機材の摩耗を防止することができる。
【0085】
実施の形態1、2、変形例1~4によれば、基材ホルダ3の形状、蒸発材料の種類、基材ホルダ3と蒸発源5との相対位置、基材ホルダ3とイオン源6との相対位置、基材ホルダ3のドーム面内の膜厚分布・屈折率分布・加熱分布等の種々の成膜条件に合わせて、電流密度分布を設定することにより、適切な成膜処理をすることができる。
【0086】
実施の形態1、変形例1~4では、磁石として、永久磁石62と電磁石64を用いた。しかしながら、永久磁石62のみ又は電磁石64のみを用いる仕様としてもよい。永久磁石62のみを使用した場合には、磁力の強さは、制御板80又は90を使用して変更する。電磁石64のみを使用した場合には、電流の強さを変更することにより、磁力の強さを変更する。
【0087】
実施の形態1では、磁界の強さを変更するために、電磁石64に流す電流の強さを変更していたが、コイルの巻数を増減させた電磁石に置き換えることにより磁場の強さを変更してもよい。
【0088】
実施の形態1では、基材処理装置として蒸着装置を用いたが、スパッタ装置やCVD装置等の他の成膜装置を用いてもよい。基材処理装置は成膜装置に限らず、処理対象基板にイオンビームを照射して基板の一部をエッチングするエッチング装置や、基板表面を改質する表面処理装置、又は基板表面をクリーニングするクリーニング装置であってもよい。
【0089】
実施の形態1では、ドーム状の基材ホルダ3の内面に複数の基板3aに装着して成膜することを説明した。しかしながら、基材ホルダ3は、ドーム形状に限定されない。いわゆる遊星歯車の原理を使用したプラネタリ型の基材ホルダ3を使用してもよい。プラネタリ型の基材ホルダは、複数の基板を保持するサセプタと、サセプタを回転させる(公転)機構と、基板自体を回転(自転)させる機構を備える。このような基材ホルダを使用するとき、基材ホルダに保持された基板の自公転の移動軌跡に応じた電流密度分布に変更するように、電流密度変更手段を使用すれば、所望の膜を得ることができる。
【0090】
変形例1では、電磁石64を備える構造としたが、電磁石64は備えなくてもよい。
【0091】
実施の形態2では、磁石として永久磁石620を使用したが、電磁石を使用してもよい。電磁石を使用した場合には、磁界の制御は、電磁石に印加する電流の強さを制御する。また、永久磁石620と電磁石の双方を使用してもよい。
【0092】
実施の形態2では、円筒状の放電室610の外周に永久磁石620を配置する構造としたが、放電室610の底部に永久磁石又は電磁石に配置する構造としてもよい。
【0093】
電流密度分布変更手段として、アノード65の形状又は設置位置を変更することを採用してもよい。
【0094】
電流密度分布変更手段として、放電室61に供給される原料ガスの流量、原料ガスの種類、又は、原料ガスの挿入位置を変更することを採用してもよい。
【0095】
実施の形態1、2、変形例1~4において、電流密度分布手段により電流分布密度を変更することにより得られる効果を説明したが、それ以外にも次のような効果がある。例えば、装置側で制御できない輻射熱の影響により基材ホルダ3のドーム面に温度分布の偏りが生じている場合、低温領域において電流密度分布が増加するようにイオン源6の磁場を調整すればよい。また、回転する基材ホルダ3の回転中心に対してイオン源6が偏心して配置される場合は、イオン源6からの距離が遠くなる基材ホルダ3の箇所で、電流密度分布が増加するように、磁場を調整すればよい。更に、成膜材料によって蒸発材料の分布(成膜レート分布)が異なる場合には、成膜材料に固有な蒸発材料分布と一致するようにイオン源6の磁場を調整すればよい。
【0096】
本実施の形態1、2、変形例1~4では、電流密度分布変更手段によりイオン電流密度分布を変更することにより、イオンビームの照射状態を調整することを説明した。しかしながら、グリッドレスのイオン源において、イオン分析器等を用いてイオンのエネルギー分布を変更して、イオンビームの照射状態を調整することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、基材処理装置で使用されるイオン源に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 蒸着装置
2 真空チャンバ
3 基材ホルダ
3a 基板
4 ヒータ
5 蒸発源
5a 坩堝
5b 電子銃
6 イオン源
7 ニュートラライザ
8 排気手段
8a 低真空排気ポンプ
8b 高真空排気ポンプ
8c、8d バルブ
10、12 ガス供給部
11、13 流量制御装置
61 放電室
62 永久磁石
63a 内筒
63b 外筒
63c リアプレート
63d フロントプレート
64 電磁石
65 アノード
66 ガス供給管
67 第1冷却部
68 冷却フランジ
69 第2冷却部
70 第1絶縁部
71 第2絶縁部
80 制御板
90 制御板(ヨーク)
100 電源
600 イオン源
610 放電室
620 永久磁石
621 収納筒
630 アノード
631 アノード絶縁体
632 アノード保持部
640 フロントディスク
650 リアディスク
660 ガス供給管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15