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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106840
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】木柱と鉄骨梁の接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
E04B1/58 507T
E04B1/58 504Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011306
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西羅 康平
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】大附 和敬
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC15
2E125AC23
2E125AG09
2E125AG12
2E125AG21
2E125AG41
2E125BB02
2E125BB09
2E125CA05
(57)【要約】
【課題】木柱と鉄骨梁の接合構造に関し、地震時に建物架構が塑性変形した際の残留変形量を低減できる、木柱と鉄骨梁の接合構造を提供すること。
【解決手段】木柱10と鉄骨梁20の接合構造80であり、木柱10には、鉄骨梁側にある第1接合端面11の左右に一対の第1凹部14が設けられ、反対側端面12と一対の第1凹部14とを繋ぐ一対の第1貫通孔15が設けられ、鉄骨梁20には、木柱側にある第2接合端面25の2箇所に、一対の第1凹部14にそれぞれ嵌まり込む鋼製で一対のボックス30が固定され、ボックス30における第1凹部14と当接する当接板32には第1貫通孔15に連通する第1孔35が開設され、ボックス30の側方にはアクセス開口33が設けられ、第1貫通孔15と第1孔35に挿通されている緊張材50が緊張された状態で当接板32に当接している定着具53に定着されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木柱と鉄骨梁の接合構造であって、
前記木柱には、鉄骨梁側にある第1接合端面の左右に一対の第1凹部が設けられ、該第1接合端面と反対側にある反対側端面と、該一対の第1凹部とを繋ぐ一対の第1貫通孔が設けられており、
前記鉄骨梁には、木柱側にある第2接合端面の2箇所に、前記一対の第1凹部にそれぞれ嵌まり込む鋼製で一対のボックスが固定され、該ボックスにおける前記第1凹部と当接する当接板には前記第1貫通孔に連通する第1孔が開設され、該ボックスの側方には、該ボックスの内部にアクセス自在なアクセス開口が設けられており、
前記第1貫通孔と前記第1孔に挿通されている緊張材が、緊張された状態で、前記当接板に当接している定着具に定着されていることを特徴とする、木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項2】
前記鉄骨梁はH形鋼により形成され、
前記第1貫通孔が、前記木柱の幅方向の中央位置に設けられ、かつ、平面視において前記H形鋼のウェブの上の位置にあることを特徴とする、請求項1に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項3】
前記鉄骨梁の第2接合端面における前記一対のボックスの間で、かつ該鉄骨梁の幅方向の両端には、木柱側へ張り出す鋼製で一対のフランジが固定され、該一対のフランジにおける相互に対応する位置には、一対の第2孔が開設されており、
前記木柱における前記一対のフランジに対応する位置には、該一対のフランジが嵌まり込む一対の第2凹部が設けられ、該木柱における前記一対の第2孔に対応する位置には第2貫通孔が開設されており、
前記一対の第2凹部に前記一対のフランジがそれぞれ嵌まり込み、前記一対の第2孔と前記第2貫通孔に対してボルトが挿通され、ナットにて締め付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項4】
鋼製のプレートに対して、木柱側へ張り出す前記一対のボックスと前記一対のフランジが固定されることによって第1接合デバイスが形成されており、
前記第1接合デバイスが、前記鉄骨梁における前記第2接合端面に接合されていることを特徴とする、請求項3に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項5】
前記鉄骨梁の第2接合端面における前記一対のボックスの間で、かつ該鉄骨梁の幅方向の中央には、木柱側へ張り出す鋼製のフランジが固定され、該フランジには第3孔が開設されており、
前記木柱における前記フランジに対応する位置には、該フランジが嵌まり込む第3凹部が設けられ、該木柱における前記第3孔に対応する位置には第3貫通孔が開設されており、
前記第3凹部に前記フランジが嵌まり込み、前記第3孔と前記第3貫通孔に対してドリフトピンが挿通されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項6】
鋼製のプレートに対して、木柱側へ張り出す前記一対のボックスと前記フランジが固定されることによって第2接合デバイスが形成されており、
前記第2接合デバイスが、前記鉄骨梁における前記第2接合端面に接合されていることを特徴とする、請求項5に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項7】
前記第2接合端面が、前記鉄骨梁の上面と下面であり、
前記鉄骨梁の上方と下方に、前記木柱が接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項8】
前記緊張材が、アンボンドPC圧着材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項9】
木柱が、複数の角材のユニット、集成材、無垢材、構造用合板、単板積層材、直交集成板のいずれか一種により形成されている、壁柱であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の木柱と鉄骨梁の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木柱と鉄骨梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を構成する架構(建物架構)には、木柱と木梁とにより形成される木製架構や、鉄骨柱と鉄骨梁とにより形成される鉄骨架構といった同種材料の柱と梁からなる架構の他に、木柱と鉄骨梁とにより形成される、ハイブリッド構造の架構(ハイブリッド架構)も存在する。柱と梁の双方を鉄骨造とする代わりに、木柱を適用することにより、鉄骨による高い剛性と、木材により奏される様々な作用を備えた建物架構を形成できる。また、木柱と木梁とにより形成される木製架構に比べて、地震時における建物架構の塑性変形能力が高くなる。
【0003】
ここで、木材を適用した際の作用効果の具体例を挙げると、木材は鉄骨やコンクリート等に比べて軽量であり、比強度が高く、加工性に優れており、その他、断熱性が高く、調湿作用がある。また、自然素材の醸し出す外観意匠性を有しており、さらには、自然素材故に二酸化炭素排出量が少なく、環境影響負荷への低減効果が高い。
【0004】
ここで、特許文献1には、木造の柱と鋼製の梁からなる柱梁の接合構造が提案されている。具体的には、柱のうち、梁と接する接合端部より中央側において、梁荷重負担部が設けられ、柱と梁を接合する接合金物により、梁の荷重の一部が梁荷重負担部に伝達され、梁の荷重を、柱の接合端部と梁荷重負担部で支持する、柱梁接合構造である。
【0005】
この柱梁接合構造において、柱における梁と接する接合端部側の外周には、炭素繊維からなる柱補強材が貼付けられている。さらに、梁と柱には、双方を接合するL型接合金物が少なくとも1つ以上取り付けられており、このL型接合金物には、柱と当接する当接面の一部が補強材と干渉しないように段差が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-256616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記するように、既存の木柱と木梁とにより形成される木製架構と比べて、特許文献1に記載の木柱と鉄骨梁とからなる柱梁接合構造(ハイブリッド架構)によれば、地震時における建物架構の塑性変形能力が高くなる。ところで、特許文献1に記載の木柱と鉄骨梁とからなる柱梁接合構造では、L型接合金物を木柱と鉄骨梁の双方にボルト接合することにより、柱と梁の接合が図られている。また、その他のハイブリッド架構においても、ラグスクリューボルトをはじめとする各種のボルトにより、柱と梁の接合が図られている接合構造が一般的である。しかしながら、このようにボルトにて鉄骨梁と木柱が接合される構造では、地震時に建物架構が塑性変形した際の残留変形量が大きくなり得るといった課題がある。
【0008】
残留変形量が大きな場合は、地震後に、建物の床面傾斜等に起因して、扉や窓といった各種開口の開閉が阻害され、以後の居住性に大きな影響が及ぼされる可能性が高くなることから、大規模な修理や修繕、メンテナンスが余儀なくされることになる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木柱と鉄骨梁の接合構造に関し、地震時に建物架構が塑性変形した際の残留変形量を低減できる、木柱と鉄骨梁の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の一態様は、
木柱と鉄骨梁の接合構造であって、
前記木柱には、鉄骨梁側にある第1接合端面の左右に一対の第1凹部が設けられ、該第1接合端面と反対側にある反対側端面と、該一対の第1凹部とを繋ぐ一対の第1貫通孔が設けられており、
前記鉄骨梁には、木柱側にある第2接合端面の2箇所に、前記一対の第1凹部にそれぞれ嵌まり込む鋼製で一対のボックスが固定され、該ボックスにおける前記第1凹部と当接する当接板には前記第1貫通孔に連通する第1孔が開設され、該ボックスの側方には、該ボックスの内部にアクセス自在なアクセス開口が設けられており、
前記第1貫通孔と前記第1孔に挿通されている緊張材が、緊張された状態で、前記当接板に当接している定着具に定着されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、木柱と鉄骨梁が緊張状態の緊張材にて接合されている接合構造であることにより、例えば木柱と木梁の接合構造に比べて大地震時における建物架構の塑性変形能力が高くなり、さらに、従来の建物架構を構成する柱梁の接合構造のように柱と梁がボルトにより接合される形態に比べて、残留変形量を低減することができる。
【0012】
また、鉄骨梁に固定されている鋼製のボックスが木柱の第1凹部に嵌まり込んだ状態で、木柱の第1貫通孔に挿通される緊張材にてボックスと木柱が接続されていることにより、接合強度が高く、組み立て性に優れた接合構造となる。
【0013】
ここで、木柱は、通常の木製の柱の他に、木製の壁柱が含まれる。また、「緊張材」には、PC(Prestressed Concrete)鋼棒やPC鋼線等が適用できる。また、貫通孔の内部にはシース管が設けられてもよい。さらに、緊張材は、貫通孔(やシース管)の内部に充填されたグラウトを介して緊張材が圧着されたボンドPC圧着工法によるボンドPC圧着材や、グラウト充填を不要とした、アンボンドPC圧着工法によるアンボンドPC圧着材を適用できる。
【0014】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
前記鉄骨梁はH形鋼により形成され、
前記第1貫通孔が、前記木柱の幅方向の中央位置に設けられ、かつ、平面視において前記H形鋼のウェブの上の位置にあることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、H形鋼により形成される鉄骨梁に固定されている鋼製のボックスが木柱の第1凹部に嵌まり込んだ状態で、木柱の第1貫通孔に挿通される緊張材にてボックスと木柱が接続されていることにより、鉄骨梁がH形鋼であっても、緊張材の定着部とH形鋼のウェブが干渉しないことから、第1貫通孔とここに挿通される緊張材を、木柱の幅方向の中央位置であって、H形鋼のウェブの上に配置することができる。このことにより、例えば、H形鋼からなる鉄骨梁のフランジに対して緊張材を定着する際に、ウェブとの干渉を回避するべく、フランジにおけるウェブの左右位置の2箇所に緊張材を定着することを不要にできる。尚、幅広の壁柱の場合は、その長手方向の両端近傍においてH形鋼の上フランジに対してウェブを回避するそれぞれ2箇所の計4本の緊張材に軸力を導入して鉄骨梁と接合されることになるため、軸力導入はより一層容易でなくなる。このような軸力導入性が容易でないことに鑑みると、木柱と鉄骨梁を1本の緊張材にて接合できることにより、施工性(緊張材に対する軸力導入性)を高めることができて好ましい。
【0016】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
前記鉄骨梁の第2接合端面における前記一対のボックスの間で、かつ該鉄骨梁の幅方向の両端には、木柱側へ張り出す鋼製で一対のフランジが固定され、該一対のフランジにおける相互に対応する位置には、一対の第2孔が開設されており、
前記木柱における前記一対のフランジに対応する位置には、該一対のフランジが嵌まり込む一対の第2凹部が設けられ、該木柱における前記一対の第2孔に対応する位置には第2貫通孔が開設されており、
前記一対の第2凹部に前記一対のフランジがそれぞれ嵌まり込み、前記一対の第2孔と前記第2貫通孔に対してボルトが挿通され、ナットにて締め付けられていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、鉄骨梁における一対のボックスの間に木柱側へ張り出す鋼製で一対のフランジが固定され、木柱に設けられている一対の第2凹部に一対のフランジが嵌まり込み、相互に位置合わせされている一対のフランジの第2孔と木柱の第2貫通孔に挿通されているボルトがナット締めされることにより、鉄骨梁と木柱の位置決め固定を行った後に緊張材による木柱と鉄骨梁の接合を行うことができ、緊張材を緊張する際の施工性を高めることができる。さらに、木柱と鉄骨梁が、緊張材の他にボルト接合されることにより、木柱から鉄骨梁への曲げ応力の伝達性がより一層良好になる。
【0018】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様は、
鋼製のプレートに対して、木柱側へ張り出す前記一対のボックスと前記一対のフランジが固定されることによって第1接合デバイスが形成されており、
前記第1接合デバイスが、前記鉄骨梁における前記第2接合端面に接合されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、鉄骨梁と別体である、木柱に直接接合される第1接合デバイスを有することにより、鉄骨梁と第1接合デバイスを分離した状態で現場搬送して現場にて組み付けることから、部材の搬送性が良好になる。
【0020】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
前記鉄骨梁の第2接合端面における前記一対のボックスの間で、かつ該鉄骨梁の幅方向の中央には、木柱側へ張り出す鋼製のフランジが固定され、該フランジには第3孔が開設されており、
前記木柱における前記フランジに対応する位置には、該フランジが嵌まり込む第3凹部が設けられ、該木柱における前記第3孔に対応する位置には第3貫通孔が開設されており、
前記第3凹部に前記フランジが嵌まり込み、前記第3孔と前記第3貫通孔に対してドリフトピンが挿通されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、鉄骨梁における一対のボックスの間に木柱側へ張り出す鋼製のフランジが固定され、木柱に設けられている第3凹部にフランジが嵌まり込み、相互に位置合わせされているフランジの第3孔と木柱の第3貫通孔にドリフトピンが挿通されていることにより、鉄骨梁と木柱の位置決め固定を行った後に緊張材による木柱と鉄骨梁の接合を行うことができ、緊張材を緊張する際の施工性を高めることができる。さらに、木柱と鉄骨梁が、緊張材の他にドリフトピンにて接合されることにより、木柱から鉄骨梁への曲げ応力の伝達性がより一層良好になる。
【0022】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
鋼製のプレートに対して、木柱側へ張り出す前記一対のボックスと前記フランジが固定されることによって第2接合デバイスが形成されており、
前記第2接合デバイスが、前記鉄骨梁における前記第2接合端面に接合されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、鉄骨梁と別体である、木柱に直接接合される第2接合デバイスを有することにより、鉄骨梁と第2接合デバイスを分離した状態で現場搬送して現場にて組み付けることにより、搬送性が良好になる。
【0024】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
前記第2接合端面が、前記鉄骨梁の上面と下面であり、
前記鉄骨梁の上方と下方に、前記木柱が接合されていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、鉄骨梁の上方と下方の双方に木柱が接合されていることにより、鉄骨梁に対してその上階と下階の双方に延びる木柱を高強度に接合することができ、高い塑性変形能力を有する上方と下方の建物架構を形成することができる。
【0026】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
前記緊張材が、アンボンドPC圧着材であることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、緊張材がアンボンドPC圧着材であることにより、第1貫通孔に対するシース管の配置やグラウトの充填を不要にして、施工性に優れた圧着工法にて木柱と鉄骨梁の接合構造を形成できる。
【0028】
また、本発明による木柱と鉄骨梁の接合構造の他の態様において、
木柱が、複数の角材のユニット、集成材、無垢材、構造用合板、単板積層材、直交集成板のいずれか一種により形成されている、壁柱であることを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、木柱が、複数の角材のユニット、集成材、無垢材、構造用合板、単板積層材、直交集成板のいずれか一種により形成されている壁柱であることにより、木柱を適用しながらも壁柱が耐力壁として機能する。例えば、角材の数を調整したり、LVLやCLT等の幅を調整することにより、所望の剛性(耐震性)を備えた壁柱を形成できる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の木柱と鉄骨梁の接合構造によれば、木柱と鉄骨梁の接合構造に関し、地震時に建物架構が塑性変形した際の残留変形量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の一例の組立前の状態を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の一例の斜視図である。
図3】実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の他の例を構成する、接合デバイスを説明する図である。
図4】実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造のさらに他の例の組立前の状態を示す斜視図である。
図5】実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造のさらに他の例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の複数の例を、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0033】
[実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造]
図1乃至図5を参照して、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の複数の例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の一例の組立前の状態を示す斜視図であり、図2は、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の一例の斜視図である。
【0034】
図1に示すように、接合構造80は、木柱10と鉄骨梁20の接合構造である。以下、図示例は、鉄骨梁20の上方に木柱10が接合される例を取り上げて説明するが、鉄骨梁20であるH形鋼の下フランジ23の下面26に木柱10が接合される形態や、鉄骨梁20であるH形鋼の上フランジ22の上面25と下フランジ23の下面26における上下の対応位置に、2本の木柱10が接合される形態であってもよい。
【0035】
木柱10は、壁柱であり、柱の軸方向に直交する断面寸法に関して、壁厚方向(幅方向)の幅t1が壁厚と例えば略同一もしくは壁厚よりも大きな幅(断熱材と外装材の厚みを加えると壁厚方向の幅は一般に壁厚よりも大きな幅となり得る)を有し、壁厚に直交する方向の幅t2が幅t1の2倍乃至数倍程度の矩形断面の柱である。
【0036】
壁柱である木柱10は、複数の角材(ログ材)のユニットや集成材、無垢材、構造用合板、単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)、直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)のいずれか一種により形成されている。
【0037】
木柱10を適用しながらも壁柱が耐力壁として機能することから、耐震性に優れた木柱と鉄骨梁からなるハイブリッド接合構造を形成することができる。
【0038】
木柱10には、鉄骨梁20側にある第1接合端面11の左右に一対の第1凹部14が設けられている。また、木柱10の左右端近傍には、第1接合端面11と反対側にある反対側端面12と一対の第1凹部14とを繋ぐ一対の第1貫通孔15が設けられている。より詳細には、第1貫通孔15は、木柱10のうち、幅t1の中央位置(t1/2の位置)に設けられている。
【0039】
また、木柱10の一対の広幅面13のうち、一対の第1凹部14の中央位置には、一対の第2凹部16が設けられている。そして、木柱10の内部には、一対の第2凹部16の間を貫通する複数(図示例は2つ)の第2貫通孔17が設けられている。
【0040】
一方、鉄骨梁20は、ウェブ21、上フランジ22、及び下フランジ23を備えるH形鋼により形成されている。
【0041】
鉄骨梁20の上フランジ22のうち、木柱10側にある第2接合端面25(上面)の2箇所には、木柱10の一対の第1凹部14にそれぞれ嵌まり込む鋼製で一対のボックス30が溶接にて接合されている。
【0042】
ボックス30は、中空の6面体状を呈し、そのうちの隣接する2面が開放されている筐体31と、筐体31の開放する1面を閉塞する当接板32とを備え、開放した1面は作業員が手を入れることのできるアクセス開口33となっている。ここで、図示例は、筐体31に対して当接板32が溶接にて接合されているが、当接板32が筐体31と一体に成形されてもよい。
【0043】
当接板32のうち、ボックス30が第1凹部14へX1方向に嵌まり込んだ際に第1貫通孔15に連通する位置には、第1孔35が開設されている。
【0044】
また、鉄骨梁20の第2接合端面25における一対のボックス30の間で、かつ鉄骨梁20の幅方向の両端には、木柱10側へ張り出す鋼製で一対のフランジ40が溶接にて接合されている。
【0045】
各フランジ40のうち、第2凹部16へX2方向に嵌まり込んだ際に各第2貫通孔17に連通する位置にはそれぞれ、一対の第2孔42(図示例は、計2対で計4つの第2孔42)が開設されている。
【0046】
接合構造80の組立てにおいては、まず、図1に示すように、2つのボックス30を対応する第1凹部14へX1方向に嵌まり込ませ、同時に、2つのフランジ40を対応する第2凹部16へX2方向に嵌まり込ませる。
【0047】
次いで、相互に連通する第2貫通孔17と一対の第2孔42に対してボルト60をX3方向に挿通し、ナット62にて締め付けることにより、木柱10と鉄骨梁20の仮固定を図る。
【0048】
次いで、第1貫通孔15の上方から緊張材50をX4方向に挿通し、ボックス30のアクセス開口33から定着具53をX5方向に挿入して、緊張材50の下端に定着具53を取り付け、定着具53を当接板32に当接させる。ここで、緊張材50にはPC鋼棒が適用される。
【0049】
次いで、緊張材50の上端を木柱10の反対側端面12の上方にて緊張し、緊張された状態の緊張材50の上端を定着具52を介して反対側端面12に定着する、アンボンドPC圧着工法を適用することにより、図2に示す接合構造80が形成される。
【0050】
木柱と鉄骨梁の接合構造80によれば、木柱10と鉄骨梁20が緊張状態の緊張材50にてアンボンドPC圧着工法により接合されている接合構造であることから、木柱と木梁の接合構造に比べて大地震時における建物架構の塑性変形能力が高くなる。また、従来の建物架構を構成する柱梁の接合構造のように、柱と梁が単にボルト接合される形態に比べて、残留変形量を低減することができる。
【0051】
また、鉄骨梁20に固定されている鋼製のボックス30が木柱10の第1凹部14に嵌まり込んだ状態で、木柱10の第1貫通孔15に挿通される緊張材50にてボックス30と木柱10が接続されていることにより、接合強度が高く、組み立て性に優れた接合構造80となる。
【0052】
また、H形鋼により形成される鉄骨梁20に固定されている鋼製のボックス30が木柱10の第1凹部14に嵌まり込んだ状態で、木柱10の第1貫通孔15に挿通される緊張材50にてボックス30と木柱10が接続されていることにより、図示例のように鉄骨梁20がH形鋼であっても、緊張材50の定着部(定着具53)とH形鋼20のウェブ21との干渉が解消される。そのため、第1貫通孔15とここに挿通される緊張材50を、木柱10の幅方向の中央位置であって、H形鋼20のウェブ21の上に配置することができる。このことにより、H形鋼からなる鉄骨梁の上フランジに対して緊張材を直接定着する従来の構造のように、ウェブとの干渉を回避するべく、上フランジにおけるウェブの左右位置の2箇所に緊張材を定着することを不要にできる。
【0053】
例えば、図示例のように広幅の壁柱10を鉄骨梁20に接合する場合、緊張材の下端を上フランジに直接定着する場合は、壁柱10の左右にそれぞれ2本で計4本の緊張材に軸力を導入して鉄骨梁と接合することになるため、軸力導入は容易でなくなる。これに対して、接合構造80によれば、左右にそれぞれ1本で計2本の緊張材に軸力を導入して鉄骨梁20と接合することで足りるため、施工性(各緊張材50に対する軸力導入性)を高めることができる。
【0054】
また、この緊張材50への軸力導入に際して、一対の第2凹部16に嵌まり込んでいる一対のフランジ40を介してボルト60にて鉄骨梁20と木柱10が仮固定されていることから、安定した状態で緊張材50を緊張することができるため、緊張材50を緊張する際の施工性を高めることができる。
【0055】
さらに、木柱10と鉄骨梁20が、緊張材50の他にボルト60によっても接合されることから、木柱10から鉄骨梁20への曲げ応力の伝達性がより一層良好になる。
【0056】
ここで、図示を省略するが、鉄骨梁20が一対のフランジ40を備えず、木柱10と鉄骨梁20がボルト60にて仮固定されない形態であってもよい。この形態では、木柱10と鉄骨梁20のボルト60による仮固定は図れないものの、木柱10への第2凹部16や第2貫通孔17の加工が不要になり、鉄骨梁20への一対のフランジ40の取り付けが不要になることから、各部材の製作性が良好になる。
【0057】
次に、図3を参照して、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造の他の例について説明する。ここで、図3は、接合構造の他の例を構成する、接合デバイスを説明する図である。
【0058】
図1図2に示す接合構造80は、鉄骨梁20に対してボックス30や一対のフランジ40が直接接合されている形態であるが、図3に示す例は、これらの部材を備えた第1接合デバイス70を現場にて鉄骨梁20に組み付ける形態である点において、接合構造80と相違する。
【0059】
第1接合デバイス70は、鋼製のプレート71に対して、木柱10側へ張り出す一対のボックス30と一対のフランジ40が固定されることにより形成される。
【0060】
プレート71には複数のボルト孔72が開設されており、鉄骨梁20の上フランジ22における各ボルト孔72に対応する位置にもボルト孔28が開設されており、ボックス30のアクセス開口33からボルト75が挿入され、対応するボルト孔72,28にボルト75が挿通され、ナット76にて締め付けられることにより、鉄骨梁20に対して第1接合デバイス70が固定される。
【0061】
その後、既に説明したアンボンドPC圧着工法により、木柱と鉄骨梁の接合構造が形成される。
【0062】
図示例の形態によれば、鉄骨梁20と別体である、木柱10に直接接合される第1接合デバイス70を有することにより、鉄骨梁20と第1接合デバイス70を分離した状態で現場搬送して現場にて組み付けることから、部材の搬送性が良好になる。その上で、図2に示す接合構造80と同様の各種効果を奏することができる。
【0063】
次に、図4図5を参照して、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造のさらに他の例について説明する。ここで、図4は、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造のさらに他の例の組立前の状態を示す斜視図であり、図5は、実施形態に係る木柱と鉄骨梁の接合構造のさらに他の例の斜視図である。
【0064】
図示する接合構造90は、鉄骨梁20の第2接合端面25の幅方向の中央位置に、木柱10側へ張り出す鋼製で1つのフランジ40Aが固定され、木柱10におけるフランジ40Aに対応する位置に、フランジ40が嵌まり込む第3凹部18が設けられている構成を有する点において、接合構造80と相違する。
【0065】
フランジ40Aには第3孔43が開設されており、木柱10における第3孔43に対応する位置には第3貫通孔19が設けられている。
【0066】
接合構造80Aの組立てにおいては、図4に示すように、2つのボックス30を対応する第1凹部14へX1方向に嵌まり込ませ、同時に、フランジ40Aを第3凹部18へX6方向に嵌まり込ませる。
【0067】
次いで、相互に連通する第3貫通孔18と第3孔43に対してドリフトピン65をX7方向に挿通することにより、木柱10と鉄骨梁20の仮固定を図る。
【0068】
その後、既に説明したアンボンドPC圧着工法により、図5に示す木柱と鉄骨梁の接合構造90が形成される。
【0069】
ここで、図示を省略するが、ボックス30やフランジ40Aが鋼製のプレートに固定されている、第2接合デバイスを現場にて鉄骨梁20に組み付ける形態であってもよい。
【0070】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0071】
10:木柱
11:第1接合端面
12:反対側端面
13:広幅面
14:第1凹部
15:第1貫通孔
16:第2凹部
17:第2貫通孔
18:第3凹部
19:第3貫通孔
20:鉄骨梁(H形鋼)
21:ウェブ
22:上フランジ
23:下フランジ
25:第2接合端面(上面)
26:下面
30:ボックス
31:筐体
32:当接板
33:アクセス開口
35:第1孔
40,40A:フランジ
42:第2孔
43:第3孔
50:緊張材
52,53:定着具
60:ボルト
62:ナット
65:ドリフトピン
70:第1接合デバイス
71:プレート
72:ボルト孔
75:ボルト
76:ナット
80,90:接合構造(木柱と鉄骨梁の接合構造)
図1
図2
図3
図4
図5