(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106844
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】クロスカービームおよびクロスカービームの製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
B62D25/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011312
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523031677
【氏名又は名称】アーク エンジニアリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 利生
(72)【発明者】
【氏名】白石 幸司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大祐
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ ペルチェ
(72)【発明者】
【氏名】ノルバート クールマン
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB37
3D203CA08
3D203CA25
3D203CA56
3D203CA82
3D203CB24
3D203DA13
3D203DA16
(57)【要約】
【課題】高強度かつ軽量なクロスカービームおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】自動車のインストルメントパネル内に配設され、車幅方向へ延びる形状であり、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂による成形品であるコックピット用のクロスカービームであって、該クロスカービームの長手方向に沿って連続的に形成された主中空状構造部と、該クロスカービームの長手方向と略直交して形成された補強リブとを備え、前記主中空状構造部は、該クロスカービームのハンドルが取り付けられる運転者側の端部から、少なくとも該クロスカービームの全長の50%の長さに亘って位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のインストルメントパネル内に配設され、車幅方向へ延びる形状であり、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂による成形品であるコックピット用のクロスカービームであって、
該クロスカービームの長手方向に沿って連続的に形成された主中空状構造部と、
該クロスカービームの長手方向と略直交して形成された補強リブとを備え、
前記主中空状構造部は、該クロスカービームのハンドルが取り付けられる運転者側の端部から、少なくとも該クロスカービームの全長の50%の長さに亘って位置することを特徴とするクロスカービーム。
【請求項2】
該クロスカービームの長手方向に沿って連続的に形成された副中空状構造部をさらに備え、
前記副中空状構造部は、前記主中空状構造部よりも径が小さいことを特徴とする請求項1記載のクロスカービーム。
【請求項3】
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部は、中空が閉じた形状を有することを特徴とする請求項2記載のクロスカービーム。
【請求項4】
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部が形成された主骨格部と、
前記主骨格部を支持する支持部と、
前記主骨格部から突設されたステアリングコラムと
を備え、
前記副中空状構造部は、前記支持部および前記ステアリングコラムにも前記主骨格部と連続して形成されていることを特徴とする請求項2記載のクロスカービーム。
【請求項5】
前記副中空状構造部には、前記主中空状構造部の上方に配設される第1副中空状構造部、および前記主中空状構造部の下方に配設される第2副中空状構造部が含まれることを特徴とする請求項2記載のクロスカービーム。
【請求項6】
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部は、該クロスカービームのハンドルが取り付けられる運転者側の端部から、少なくとも該クロスカービームの全長の60%の長さに亘って位置することを特徴とする請求項5記載のクロスカービーム。
【請求項7】
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の炭素繊維含有量が10wt%以上50wt%以下であることを特徴とする請求項1記載のクロスカービーム。
【請求項8】
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率が1.0%以上20.0%以下であることを特徴とする請求項1記載のクロスカービーム。
【請求項9】
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率が2.0%以上20.0%以下であることを特徴とする請求項8記載のクロスカービーム。
【請求項10】
前記繊維強化熱可塑性樹脂は、炭素繊維強化ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1記載のクロスカービーム。
【請求項11】
請求項2~6の何れか一項に記載されたクロスカービームの製造方法であって、
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部をガスまたは水の通路として、該クロスカービームをガスインジェクション成形またはウォーターインジェクション成形により製造することを特徴とするクロスカービームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のインストルメントパネル内に配設されるコックピット用のクロスカービームおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のインストルメントパネル内に配設されるコックピット用のクロスカービームが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるクロスカービームは、衝突等によって車両の側方から衝撃エネルギーが入力された際に変形することにより衝撃エネルギーを吸収し、車両の損傷拡大を抑制する役目を果たしている。なお、クロスカービームには、鉄やアルミ、Mg合金などの金属製の製品の他、プラスチックなどの樹脂製の製品が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属製のクロスカービームは、衝突等による車体の損傷を抑制する高強度性を実現することができる一方で比重が大きく、クロスカービーム全体の重量増大を招来するという問題がある。
【0005】
一方、樹脂製のクロスカービームは、軽量化を実現できるものの衝撃に弱く、車体に衝撃が加えられた場合には、変形することなく折損するおそれがある。
本発明の目的は、高強度かつ軽量なクロスカービームおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクロスカービームは、
自動車のインストルメントパネル内に配設され、車幅方向へ延びる形状であり、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂による成形品であるコックピット用のクロスカービームであって、
該クロスカービームの長手方向に沿って連続的に形成された主中空状構造部と、
該クロスカービームの長手方向と略直交して形成された補強リブとを備え、
前記主中空状構造部は、該クロスカービームのハンドルが取り付けられる運転者側の端部から、少なくとも該クロスカービームの全長の50%の長さに亘って位置することを特徴とする。
【0007】
このように、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂を素材として使用することで製品自身を高強度かつ軽量にすることができ、さらに主中空状構造部、長手方向と略直交する補強リブを形成することにより、構造的に高強度性、軽量性を担保できる。これにより、高強度かつ軽量なコックピット用のクロスカービームを提供することができる。
【0008】
また、主中空状構造部が少なくとも運転者側に位置することにより、クロスカービームの要部であるハンドルが取り付けられる側の強度を高めつつ、全体としての体積削減を図ることができる。
【0009】
また、本発明のクロスカービームは、
該クロスカービームの長手方向に沿って連続的に形成された副中空状構造部をさらに備え、
前記副中空状構造部は、前記主中空状構造部よりも径が小さいことを特徴とする。
【0010】
このように、主中空状構造部よりも径が小さい副中空状構造部を配置することにより、全体の体積を抑制し、高強度かつより軽量なコックピット用のクロスカービームを提供することができる。
【0011】
また、本発明のクロスカービームは、
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部は、中空が閉じた形状を有することを特徴とする。
すなわち、主中空状構造部および副中空状構造部は、ガスまたは水の通路となるため、中空が閉じた形状を形成する。
【0012】
また、本発明のクロスカービームは、
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部が形成された主骨格部と、
前記主骨格部を支持する支持部と、
前記主骨格部から突設されたステアリングコラムと
を備え、
前記副中空状構造部は、前記支持部および前記ステアリングコラムにも前記主骨格部と連続して形成されていることを特徴とする。
これにより、支持部およびステアリングコラム部分においても軽量かつ高強度となり、クロスカービーム全体の強度が向上する。
【0013】
また、本発明のクロスカービームは、
前記副中空状構造部には、前記主中空状構造部の上方に配設される第1副中空状構造部、および前記主中空状構造部の下方に配設される第2副中空状構造部が含まれることを特徴とする。
すなわち、クロスカービームを構造的に安定させるためには、主中空状構造部の上下に副中空状構造部を配置するのが望ましい。
【0014】
また、本発明のクロスカービームは、
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部は、該クロスカービームのハンドルが取り付けられる運転者側の端部から、少なくとも該クロスカービームの全長の60%の長さに亘って位置することを特徴とする。
これにより、より良好にクロスカービームの要部であるハンドルが取り付けられる側の強度を高めつつ、全体としての体積削減を図ることができる。
【0015】
また、本発明のクロスカービームは、
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の炭素繊維含有量が10wt%以上50wt%以下であることを特徴とする。
これにより、高い材料強度が得られることにより、クロスカービームが軽量かつ高強度となる。
【0016】
また、本発明のクロスカービームは、
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率が1.0%以上20.0%以下であることを特徴とする。
これにより、クロスカービームの衝撃に対する強度が十分なものとなる。
【0017】
また、本発明のクロスカービームは、
該クロスカービームを構成する前記繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率が2.0%以上20.0%以下であることを特徴とする。
これにより、クロスカービームの衝撃に対する強度がさらに高いものとなる。
【0018】
また、本発明のクロスカービームは、
前記繊維強化熱可塑性樹脂は、炭素繊維強化ポリプロピレンであることを特徴とする。
これにより、クロスカービームをより高強度かつ軽量にすることができる。
【0019】
本発明のクロスカービームの製造方法は、
前記主中空状構造部および前記副中空状構造部をガスまたは水の通路として、該クロスカービームをガスインジェクション成形またはウォーターインジェクション成形により製造することを特徴とする。
【0020】
このように、クロスカービームをガスインジェクション成形またはウォーターインジェクション成形する際のガスまたは水の通路をそのまま主中空状構造部および副中空状構造部にすることにより、クロスカービームの製造を迅速かつ行うことができる。これにより、工程数を削減して製造コストを圧縮することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高強度かつ軽量なクロスカービームおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係るクロスカービームを正面から視た図である。
【
図3】実施の形態に係るクロスカービームの正面に配置された補強リブを示す図である。
【
図4】実施の形態に係るクロスカービームの裏面に配置された補強リブを示す図である。
【
図5】他の実施の形態に係るクロスカービームの正面に配置された補強リブを示す図である。
【
図6】実施の形態に係るクロスカービームの騒音振動判定基準、衝突判定基準を示す表である。
【
図7】実施の形態に係るクロスカービームを用いて行った実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態に係るクロスカービームを正面から視た図である。なお、本実施の形態において、正面とは運転席の反対側から視た面を意味している。
【0024】
クロスカービーム2は、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂によって成形され、自動車のインストルメントパネル内に配設されたコックピット用の部材であり、
図1に示すように、自動車の車幅方向へ延びる形状を有している。そして、主骨格部4、主骨格部4を支持する支持部6、主骨格部4の運転者側に突設され、ハンドル(不図示)を支持するステアリングコラム8を備えている。
【0025】
主骨格部4は、クロスカービーム2の主体を成す骨格部分であり、一方向に延びる棒形状を有している。
図2は、
図1のA-A部分を切断した場合の断面を表した図である。
図2に示すように、主骨格部4には、クロスカービーム2の長手方向に沿って連続的に形成され、それぞれ中空が閉じた構造を有する主中空状構造部10、第1副中空状構造部12a、第2副中空状構造部12b(以下、これらをまとめて中空状構造部という。また、第1副中空状構造部12a、第2副中空状構造部12bをまとめて副中空状構造部12という。)が形成されている。
【0026】
主中空状構造部10は、例えば角パイプ型形状を有しており、断面において、主中空状構造部の外幅Aに対する外側高さBの比が0.2~5対1であり、内幅aに対する内側高さbの比が0.2~5対1である。また、副中空状構造部12もまた、例えば角パイプ型形状を有し、断面において、副中空状構造部12の外幅Cに対する外側高さDの比が0.2~5対1であり、内幅cに対する内側高さdの比が0.2~5対1である。主中空状構造部10、副中空状構造部12をこのような形状にすることにより、主中空状構造部の剛性を高めることができる。
【0027】
また、副中空状構造部12は、主中空状構造部10よりも径(本明細書では、便宜上幅、高さ等を含む概念を指す。)が小さく、かつ主中空状構造部10よりも車体進行方向(必ずしも前方でなく後退する場合の方向も含む)後方に位置しており、第1副中空状構造部12aは主中空状構造部10の上方に、第2副中空状構造部12bは主中空状構造部10の下方にそれぞれ位置している。
【0028】
このように、副中空状構造部12を、主中空状構造部10の車体進行方向後方にずらせて配置することにより、クロスカービーム2が撓み、または捩れることを効果的に抑制することができる。また、主中空状構造部10の上下に副中空状構造部12を配置することにより、クロスカービーム2を構造的に安定させることができる。また、副中空状構造部12は、主中空状構造部10よりも径が小さいため、クロスカービーム2の体積を削減して軽量性を担保すると共に、クロスカービーム2を構造的に高強度にすることができる。
【0029】
なお、副中空状構造部12は、支持部6、ステアリングコラム8においても、主骨格部4と連続して形成されている。具体的には、
図1において、
図1の左側から右側に副中空状構造部12を辿った場合、第1副中空状構造部12aは、主骨格部4→ステアリングコラム8→主骨格部4の位置に位置するように形成されている。また、第2副中空状構造部12bは、主骨格部4→支持部6→主骨格部4の位置に位置するように形成されている。これにより、クロスカービーム全体にわたり構造的に高強度にすることができる。
【0030】
図3(a)は、正面から視た主骨格部4の一部を拡大した拡大図である。
図3(a)に示すように、クロスカービーム2の主骨格部4には、板状の補強リブ16が車体進行方向に向かって垂直に突出し、クロスカービーム2の長手方向と直交して多数形成されている。
図3(b)は、補強リブ16の配置状態を示す概要斜視図である。
図3(b)に示すように、補強リブ16は、上下方向において副中空状構造部12の端部からはみ出ないように形成され、かつ、主中空状構造部10よりも車体進行方向前方にはみ出て形成されている。
【0031】
なお、主骨格部4の車体裏面(運転者側から視た面)においては、
図4に示すように、板状の補強リブ18が車体進行方向に向かって垂直に突出し、上下に傾斜して形成されている(なお、本明細書においては、
図3(a)に示すように、補強リブ16がクロスカービーム2の長手方向と直交した状態の他、を含め、
図4に示すように、補強リブ18が傾斜した状態でクロスカービーム2の長手方向に配置されている状態を含め“略直交”と表現する。)。
【0032】
このように、板状の補強リブ16、18を車体進行方向に向かって垂直に突出させ、クロスカービーム2の長手方向と略直交して形成することにより、クロスカービーム2の体積を減らして軽量性を担保すると共に、クロスカービーム2を構造的に高強度にすることができる。
【0033】
なお、クロスカービーム2は、通常、ガスインジェクション成形またはウォーターインジェクション成形により製造されるところ、主中空状構造部10、副中空状構造部12は、成形の際に、ガスまたは水の通路として機能するものである。たとえば、第1副中空状構造部12aにおいて、主骨格部4の左側端部から右側にガスまたは水を流した場合、ガスまたは水は、主骨格部4→ステアリングコラム8→主骨格部4のように流れて主骨格部4の右側端部から排出される。また、第2副中空状構造部12bは左右対称に形成され、主骨格部4の端部からガスまたは水を流した場合、ガスまたは水は、支持部6の下端から排出される。
【0034】
このため、これらの中空状構造部を形成するための工程を設けることなく、クロスカービームの製造を迅速かつ容易に行うことができ、工程数を削減して製造コストを圧縮することができる。
【0035】
また、クロスカービーム2を構成する繊維強化熱可塑性樹脂の炭素繊維含有量は、10wt%以上50wt%以下であるのが好ましく、20wt%以上40wt%以下であればより好ましい。また、繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率は、1.0%以上20.0%以下であるのが好ましく、2.0%以上20.0%以下であればより好ましい。これにより、クロスカービームの衝撃に対する強度がさらに向上する。
【0036】
この実施の形態のクロスカービーム2によれば、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂を素材として使用することで製品自身を高強度かつ軽量にすることができ、さらに主中空状構造部10、車体進行方向に向かって垂直に突出する補強リブ16、18を形成することにより、構造的に高強度性、軽量性を担保できる。これにより、高強度かつ軽量なクロスカービーム2を提供することができる。
【0037】
また、副中空状構造部12の径を主中空状構造部10の径よりも小さくすることにより、クロスカービームの体積を抑えつつ高強度とすることができる。
また、副中空状構造部12を主中空状構造部10の車体進行方向後方に位置をずらせて配置することにより、クロスカービーム2が撓み、または捩れることを効果的に抑制することができる。
【0038】
また、主中空状構造部10の上下に副中空状構造部12を配置することにより、クロスカービーム2を構造的に安定させることができ、クロスカービーム2の振動を安定させることができる。
【0039】
なお、本実施の形態において、中空状構造部は、クロスカービーム2の全長に亘って形成されている場合を例示しているが、クロスカービーム2のハンドルが取り付けられる運転者側の端部から助手席側に向かって、少なくとも全長の60%の長さに亘って位置していればよい。また、主中空状構造部10は、クロスカービーム2のハンドルが取り付けられる運転者側の端部から助手席側に向かって、全長の50%の長さに亘って位置していればよい。
【0040】
これにより、クロスカービーム2の要部であるハンドルが取り付けられる側の強度を高めることができる。また、中空状構造部の長さを限定することにより、クロスカービーム2自体の体積を削減することができる。
【0041】
また、上述の実施の形態において、副中空状構造部12は、主中空状構造部10よりも車体進行方向前方に位置していてもよい。この場合でも、クロスカービーム2が撓み、または捩れることを効果的に抑制することができる。
【0042】
また、上述の実施の形態において、主中空状構造部10、副中空状構造部12は、楕円形状を有していてもよい。この場合、主中空状構造部10および副中空状構造部12において、長軸方向の内径と、短軸方向の内径の比は、通常0.2~1.0である。長軸方向は、クロスカービームの上下方向であっても、あるいは水平方向であっても構わない。またこの場合、主中空状構造部10の長軸方向における外径に対する内径の比が1対0.1~0.9であり、短軸方向における外径に対する内径の比が1対0.1~0.9である。また、副中空状構造部12の長軸方向における外径に対する内径の比が1対0.1~0.9であり、短軸方向における外径に対する内径の比が1対0.1~0.9である。主中空状構造部10、副中空状構造部12をこのような形状にすることにより、主中空状構造部の剛性を高めることができる。もちろん、主中空状構造部10、副中空状構造部12は、円形状であっても構わない。
【0043】
また、補強リブ16は、
図5(a)、(b)に示すように、第1副中空状構造部12aよりも車体進行方向前方にはみ出さないように形成されていてもよい。
これにより、より製品容積を小さくすることが可能となり、設計の自由度を増すことが出来る。
【0044】
また、上述の実施の形態において、
図3(b)に示す補強リブ16は、上下方向において副中空状構造部12の端部からはみ出さない場合を例示しているが、はみ出ていても構わない。
図5(b)に示す形態においても同様である。
【0045】
また、上述の実施の形態の
図1において、二つの支持部6は中継部6aを介して繋がっているが、中継部6aに第2副中空状構造部12bが形成されていてもよい。この場合、ガスまたは水は、主骨格部4→支持部6→中継部6a→支持部6→主骨格部4のように流れることになる。
【0046】
上述の実施の形態においては、クロスカービーム2を構成する繊維強化熱可塑性樹脂の代表例としては炭素繊維強化ポリプロピレンが挙げられる。なお、繊維強化熱可塑性樹脂は、少なくとも炭素繊維を含むことを前提としているため炭素繊維以外の素材、例えば、発明の効果を阻害しない範囲においてガラス繊維などその他の強化繊維や、タルク等の樹脂用フィラー類や各種樹脂用添加剤を含むことを排除するものではない。また、繊維強化熱可塑性樹脂に含まれる熱可塑性樹脂は、代表例としてはポリプロピレンであるが、中でもホモポリプロピレンあるいはブロックポリプロピレンが好ましい。ポリプロピレンのほかにポリアミドや、ポリプロピレンとポリアミドの混合物、無水カルボン酸等で変性された変性ポリプロピレン等との混合物などが挙げられる。
【0047】
<実施例>
次に、本実施の形態に係るクロスカービーム2に含まれる第1~4実施品についての実験結果について説明する。なお、
図6(a)には、本実験における騒音振動判定基準を示す。
図6(a)に示すように、騒音振動判定基準は、A(共振を完全に回避)、B+(共振5.0Hz超過)、B-(共振5.0Hz超過)、C(共振4.0Hz超過)、D(共振0.5Hz超過)、E(共振30~40Hz)の6等級に分類され、D以上が合格である。
図6(b)には、本実験における衝突判定基準を示す。衝突判定基準は、A(損害無し)、B(30mm以上の変形を伴う小さなひび割れ)、C(20mm以上の変形を伴うひび割れ)、D(10mm以上の変形を伴うひび割れ)、E(10mm以下の変形を伴うひび割れや破損)の6等級に分類され、D以上が合格である。また、クロスカービームの重量については、4.0Kg以下を合格とする(
図7参照)。
【0048】
繊維強化熱可塑性樹脂の延性(引張破断伸び率)は次の方法で評価した。評価対象の繊維強化熱可塑性樹脂を、JSW社製100t射出成形機を用いてJIS K 7139 タイプA1のダンベル試験片を作製した。成形条件はバレル温度220~250℃、射出速度10~100mm/s、背圧2~5MPa、型温60~100℃の範囲で成形を行った。、機械物性の測定はISOに準拠したものである。また、後述する第1比較品においては、材料として使用したマグネシウム合金について、ダイキャスト製品から切削し、繊維強化熱可塑性樹脂と同様のISO準拠で試験を行った。
【0049】
ここで、第1実施品は、主中空状構造部10の上下にそれぞれ副中空状構造部12を備えており(中空状構造部×3、
図2参照)、中空状構造部は、ハンドルが取り付けられる運転者側の端部から助手席側に向かって、クロスカービーム2の全長の90%の長さに亘って位置している(以下、長さ割合と略す。)。そして、補強リブ16、18は
図3および
図4に示す形状を有し、クロスカービーム2の炭素繊維(CF)含有量は30%、炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率(延性)が2.0%以上である。
【0050】
この場合、第1実施品の重量は、3.4kgであり、目標値である4.0kg以下となり合格となった。また、騒音振動の結果については、Cランクであり合格、衝突の結果については、Bランクであり合格となった。
【0051】
また、第2実施品は、クロスカービーム2の炭素繊維(CF)含有量が40%である点が第1実施品と異なるが、重量が3.7kg(<4.0Kg)であり合格、騒音振動の結果がB+ランクであり合格、衝突の結果がBランクであり合格となった。
【0052】
また、第3実施品は、副中空状構造部12が存在せず主中空状構造部10のみを備え、クロスカービーム2の炭素繊維(CF)含有量が40%である点が第1実施品と異なるが、重量が3.8kg(<4.0Kg)であり合格、騒音振動の結果、衝突の結果共にDランクで合格となった。
【0053】
また、第4実施品は、用いた繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率(延性)が1.20%である点のみが第1実施品と異なるが、重量が3.4kg(<4.0Kg)であり合格、騒音振動の結果がB-ランクであり合格、衝突の結果がCランクであり合格となった。
【0054】
<比較例>
次に、比較例の実験結果について説明する。第1比較品は、開放シェルマグネシウムダイキャストであり、中空状構造部を備えず、長手方向に沿って連続的に形成され、かつ補強リブ16、18を備えたものである。そして、クロスカービーム2は炭素繊維(CF)を含有しておらず、用いたマグネシウム合金の引張破断伸び率(延性)が6.60%である。
【0055】
この場合、第1比較品の重量は、4.4kg(>4.0Kg)であり不合格であったが、騒音振動、衝突の結果については、共にAランクで合格となった。
第2比較品は、補強リブがない点が第1実施品と異なるが、重量が2.9kg(<4.0Kg)であり合格だが、騒音振動、衝突の結果については、共にEランクで不合格となった。
【0056】
第3比較品は、クロスカービーム2の中空状構造部の長さ割合が全長の40%である点が第1実施品と異なるが、重量が3.0kg(<4.0Kg)であり合格だが、騒音振動、衝突の結果については、共にEランクで不合格となった。
【0057】
第4比較品は、クロスカービーム2が炭素繊維(CF)を含まず、ガラス繊維(GF)を含有量50重量%の割合で用い、繊維強化熱可塑性樹脂の引張破断伸び率(延性)が2.30%である点が第1実施品と異なるが、重量が5.28kg(>4.0Kg)で不合格だが、騒音振動、衝突の結果については、共にDランクで合格となった。
【0058】
第5比較品は、中空状構造部を備えていない点のみが第1実施品と異なるが、重量が2.58kg(<4.0Kg)で合格だが、騒音振動、衝突の結果については、共にEランクで不合格となった。
【0059】
以上によれば、クロスカービームが中空構造部を備える場合に強度に優れ、中空構造部は1つよりも3つの方がさらに強度に優れることがわかる。また、補強リブが強度の向上に効果的であることがわかる。さらに、材料として炭素繊維強化熱可塑性樹脂を用いることで、ガラス繊維が100%の場合(第4比較例)に比べて軽量かつ高強度であることがわかる。そして、用いる炭素繊維強化熱可塑性樹脂の延性が2.0%以上であると、衝突時の強度において等に優れることがわかる(第1実施例が第4実施例よりも破損回避においてさらに優れている)。
【符号の説明】
【0060】
2 クロスカービーム
4 主骨格部
6 支持部
6a 中継部
8 ステアリングコラム
10 主中空状構造部
12 副中空状構造部
12a 第1副中空状構造部
12b 第2副中空状構造部
16、18 補強リブ
A 主中空状構造部10の外幅
B 主中空状構造部10の外側高さ
a 主中空状構造部10の内幅
b 主中空状構造部10の内側高さ
C 副中空状構造部12の外幅
D 副中空状構造部12の外側高さ
c 副中空状構造部12の内幅
d 副中空状構造部12の内側高さ