(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106896
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
H01G4/30 311A
H01G4/30 517
H01G4/30 201N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011378
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】江藤 大俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒
(72)【発明者】
【氏名】中西 昇
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 祐太
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AH06
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC36
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082FG54
5E082GG10
5E082GG28
5E082LL03
(57)【要約】
【課題】各内部電極間の短絡の発生を確実に防止することができる積層セラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層して、シート積層体を作製する第1工程と、前記シート積層体を積層体ブロックに切断する第2工程と、前記積層体ブロックを切断方向と直交する方向に切断して積層体チップに切断する第3工程と、積層体チップの側面切断面に保護層を形成する第4工程と、前記複数の保護層が形成された積層体チップを焼成する第5工程と、を含み、前記第3工程において、前記シート積層体の主面に垂直な仮想一平面上で、前記主面に垂直な面上で、切断刃を前記主面に対して鋭角の所定角度をなす方向に進行させて前記シート積層体を切断し、複数のチップ積層体を作製する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層して、シート積層体を作製する第1工程と、前記シート積層体を積層体ブロックに切断する第2工程と、前記積層体ブロックを切断方向と直交する方向に切断して積層体チップに切断する第3工程と、積層体チップの側面切断面に保護層を形成する第4工程と、前記複数の保護層が形成された積層体チップを焼成する第5工程と、を含み、
前記第3工程において、
前記シート積層体の主面に垂直な仮想一平面上で、前記主面に垂直な面上で、切断刃を前記主面に対して鋭角の所定角度をなす方向に進行させて前記シート積層体を切断し、複数のチップ積層体を作製する積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記所定角度は、15°以下である、請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記載置面には、固定用ダミー部材が設けられ、
前記固定用ダミー部材によって、前記シート積層体が前記切断刃の移動方向の下流側から支持されている、請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記固定用ダミー部材は、ショアA硬度が30以上80以下である、請求項3に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記切断刃の、2つの面によって構成される刃先角度が7°またはそれ以上であり、14°またはそれ以下である、請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記切断刃が切断中に積層体ブロックの内部電極に接する切断刃の領域において、刃側面が鏡面であり、且つ3面で構成され、前記3面が滑らかに接合されている陵部を有する、請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記陵部を刃先側から第1陵部と第2陵部とすると、第1陵部の曲率半径が第2陵部の曲率半径よりも小さい、請求項6に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の積層セラミック電子部品の製造方法は、例えば特許文献1に記載されている。この従来技術では、第1および第2の内部電極を構成する導電膜が表面に形成されたセラミックグリーンシートを積層してシート積層体が作製される。シート積層体は、該シート積層方向と直角方向に切断刃を移動させて押切りし、第1の内部電極の導電膜が露出した一方の端面、第2の内部電極の導電膜が露出した他方の端面、および第1および第2の内部電極の両方の導電膜が露出した第1および第2の側面を有するチップ積層体の前駆体が作製される。内部電極が露出した側面には、セラミック保護層が形成されて、焼成前のチップ積層体を作製する。このような構成によって、側面のセラミック層の薄い積層セラミック電子部品であっても、第1及び第2の内部電極間の短絡の発生を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の従来技術では、第一の切断工程で得た複数の短冊体31を第1の側面31aが上を向くように相互に平行に弾性体からなる基盤43上に保持させる必要があり、第二の切断の準備のために煩雑な工程が必要であった。内部電極間の短絡がない電子部品の切断方法でありながら、煩雑な工程を伴わずに製造コストの負担がない切断方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法は、導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層して、シート積層体を作製する第1工程と、前記シート積層体を積層体ブロックに切断する第2工程と、前記積層体ブロックを切断方向と直交する方向に切断して積層体チップに切断する第3工程と、積層体チップの側面切断面に保護層を形成する第4工程と、前記複数の保護層が形成された積層体チップを焼成する第5工程と、を含み、
前記第3工程において、
前記シート積層体の主面に垂直な仮想一平面上で、前記主面に垂直な面上で、切断刃を前記主面に対して鋭角の所定角度をなす方向に進行させて前記シート積層体を切断し、複数のチップ積層体を作製する。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る積層セラミック電子部品の製造方法によれば、シート積層体を切断するに際して、シート積層体の主面に垂直な仮想一平面上で前記主面に垂直に切断刃を位置させ、切断刃を主面に対して鋭角の所定角度をなす方向に進行させることによって、シート積層体を切断し、複数のチップ積層体を作製するので、各チップ積層体の切断面の露出電極間に導電粒子の付着をなくし、切断刃による擦り傷の発生を低減することができる。このようなチップ積層体を焼成することによって、低コストで、短絡の発生が低減され、信頼性の高い積層セラミック電子部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施形態の積層セラミック電子部品の製造方法によって製造される積層セラミックコンデンサの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示される積層セラミックコンデンサの本体部を示す斜視図である。
【
図3】本開示の積層セラミック電子部品の製造方法の一実施形態である積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】シート積層体の切断位置を示す平面図である。
【
図5】ブロック積層体の切断手順を説明するための断面図である。
【
図6a】切断刃の移動角度αを変えて移動させて切断したときのチップ積層体の切断面の拡大写真である。
【
図6b】切断刃の移動角度αを変えて移動させて切断したときのチップ積層体の切断面の拡大写真である。
【
図6c】切断刃の移動角度αを変えて移動させて切断したときのチップ積層体の切断面の拡大写真である。
【
図9a】刃先形状を変えて切断したときのチップ積層体の切断面の拡大写真である。
【
図9b】刃先形状を変えて切断したときのチップ積層体の切断面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本開示の積層セラミック電子部品の製造方法の実施形態について説明する。以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。本明細書では、便宜的に、直交座標系XYZを想定し、X軸に沿う方向を第1方向Xと記し、Y軸に沿う方向を第2方向Yと記し、Z軸に沿う方向を第3方向Zと記す。
【0009】
図1は、本開示の実施形態の積層セラミック電子部品の製造方法によって製造される積層セラミックコンデンサ1の一例を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示される積層セラミックコンデンサ1の本体部2を示す斜視図である。まず、本実施形態の積層セラミック電子部品の製造方法によって製造される積層セラミックコンデンサ1の構成について説明する。
【0010】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体21を含んでいる。積層体21は、略直方体状の形状を有している。積層体21は、第3方向Zに互いに対向する第1面7aおよび第2面7b、第1方向Xに互いに対向する第1端面8aおよび第2端面8b、ならびに第2方向Yに互いに対向する第1側面9aおよび第2側面9bを有している。
【0011】
第1面7aおよび第2面7bは、第3方向Zに垂直であってもよい。第1端面8aおよび第2端面8bは、第1方向Xに垂直であってもよい。第1側面9aおよび第2側面9bは、第2方向Yに垂直であってもよい。以下では、第1面7aおよび第2面7bを、主面7a,7bと称することがあり、第1端面8aおよび第2端面8bを、端面8a,8bと称することがあり、第1側面9aおよび第2側面9bを、側面9a,9bと称することがある。
【0012】
積層体21は、複数の誘電体層4と複数の内部電極層5とが第3方向Zに交互に積層されて構成される。内部電極層5を形成する導電材料としては、高積層化して製造コストも抑制できるという点で、ニッケル(Ni)または銅(Cu)などの卑金属が主成分として用いられてもよい。内部電極層5と誘電体層4との同時焼成を行える点で、ニッケル(Ni)であってもよい。内部電極層5の第3方向Zの厚みは、0.1μm~1.0μm程度であればよく、0.4μm~0.5μm程度であってもよい。
【0013】
外部電極3は、金属とガラスとの焼結体からなってもよく、例えば銅(Cu)粉末または銅と他の金属、たとえばニッケル(Ni)等の卑金属との合金粉末と、ガラス粉末とを焼成した構成であってよい。
【0014】
誘電体層4は、絶縁性を有する材料によって構成される。誘電体層4は、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、またはジルコン酸バリウム(BaZrO3)等を主成分とするセラミック材料で構成されてもよい。なお、本明細書において、「主成分」とは、着目する材料または部材等において最も構成比率の高い成分のことをいう。構成比率は、含有濃度(mol%)であってよい。
【0015】
誘電体層4は、チタン酸バリウム(BaTiO3)に酸化マグネシウム、希土類元素(RE)の酸化物および酸化マンガンなどが固溶した結晶粒子と、酸化珪素(SiO2)を主成分とする粒界相とによって構成されるセラミックからなる。なお、セラミックの種類としては、上述したものだけに限らず、他のセラミックを用いることもできる。誘電体層4の第3方向Zの平均厚みT1は2μm以下、特に、1μm以下であってもよい。これによって積層セラミックコンデンサ1を小型化、高容量化することが可能となる。なお、誘電体層4の第3方向Zの平均厚みは、0.1μm~1.0μm程度であればよく、0.4μm~0.5μm程度であってもよい。
【0016】
誘電体層4は、主成分に加えて、少なくとも1種の希土類元素を含有する。希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される。誘電体層4は、2種以上の希土類元素を含有してもよい。希土類元素を用いる場合、後述する異相粒子の個数割合を増加させることができる。
【0017】
誘電体層4となるセラミックグリーンシートは、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とする誘電体粉末を準備し、これに有機ビヒクルを加えてセラミックスラリーを調製し、次いで、ドクターブレード法またはダイコータ法などのシート成形法を用いて作製されてもよい。有機ビヒクルは、樹脂、有機溶剤、分散剤、および可塑剤を含む。
【0018】
有機ビヒクルとは、例えば、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0019】
内部電極層5は、極性別に第1端面8aおよび第2端面8bに露出している。内部電極層5を構成する導電性材料の主成分としては、ニッケル(Ni)または銅(Cu)などの卑金属が主成分として用いられてもよい。これに有機ビヒクルを加えて導電性ペーストを調製し、次いで、印刷法またはダイコータ法などを用いて、誘電体シート上に電極層を敷設してもよい。有機ビヒクルは、樹脂、有機溶剤、分散剤、および可塑剤を含む。
【0020】
積層セラミックコンデンサ1は、
図2に示すように、保護層6を含んでいる。保護層6は、積層体21の第1側面9aおよび第2側面9bに位置している。保護層6は、側面9a,9bに露出した極性の異なる内部電極層5間を電気的に絶縁している。また、保護層6は、各側面9a,9bに露出した内部電極層5の外側部を機械的に保護している。各側面9a,9bに保護層6が配設された積層体21は、本体部2または素体とも称される。
【0021】
保護層6は、絶縁性を有する材料によって構成される。保護層6は、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、またはジルコン酸バリウム(BaZrO3)等を主成分とするセラミック材料で構成されてもよい。保護層6は、誘電体層4を構成するセラミック材料と同じセラミック材料で構成されてもよい。保護層6は、第2方向Yにおいて、例えば5μm~30μm程度の厚みを有してもよい。
【0022】
積層セラミックコンデンサ1は、第1端面8aおよび第2端面8bを覆い、内部電極層5に極性別に接続された外部電極3を含んでいる。外部電極3は、外部基板または外部装置との電気的接続のために用いられる。
【0023】
外部電極3は、第1外部電極31と第2外部電極32とによって構成される。第1外部電極31は、積層体21の第1端面8aに位置している。第1外部電極31は、第1端面8aに露出した内部電極層5と電気的に接続されている。第2外部電極32は、積層体21の第2端面8bに位置している。第2外部電極32は、第2端面8bに露出した内部電極層5と電気的に接続されている。第1外部電極31および第2外部電極32は、例えば
図1に示すように、主面7a,7b上にも位置してもよい。また、第1外部電極31および第2外部電極32は、例えば
図1に示すように、側面9a,9b上にも位置し、保護層6を部分的に覆っていてもよい。
【0024】
第1外部電極31および第2外部電極32は、単一の導電層によって構成されてもよく、複数の導電層によって構成されてもよい。本実施形態では、第1外部電極31および第2外部電極32が、下地層および外層を有する2層構造で構成されてもよい。
【0025】
下地層は、積層体21に接しており、第1端面8aおよび第2端面8bに露出した内部電極層5と接続されている。下地層は、例えば、めっき法、スパッタリング法、蒸着法等の薄膜形成技術、またはスクリーン印刷法、グラビア印刷法等の厚膜形成技術を用いて形成されてもよい。下地層は、金属材料から構成されている。下地層に用いられる金属材料としては、例えばNi、Cu、Ag、Pd、またはAu等の金属またはこれらの金属から成る合金であってもよい。
【0026】
外層は、下地層を覆っている。外層は、例えば無電解めっき法、または電解めっき法等の薄膜形成技術を用いて形成されてもよい。外層は、金属材料から構成される。外層に用いられる金属材料は、例えばNi、Sn、Cu、またはAu等の金属もしくはこれらの金属から成る合金であってもよい。外層は、単一のめっき層で構成されてもよく、複数のめっき層で構成されてもよい。
【0027】
図3は、本開示の積層セラミック電子部品の製造方法の一実施形態である積層セラミックコンデンサ1の製造方法を示すフローチャートである。工程S1で、導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層して、シート積層体を作製する。次に、工程S2でシート積層体を切断して積層ブロックを製作し、さらに工程S3で積層ブロックを切断して積層チップにする。その後、工程S4で、積層チップの側面に保護層である保護層を形成して、最終的な積層チップとする。積層チップは、工程S5で焼成され、工程S6で外部電極が取り付けられて完成する。
【0028】
以下に、積層セラミック電子部品の製造方法の一例として、積層セラミックコンデンサ1の製造手順について、本開示に関する工程S1~工程S3を主体に説明する。まず、積層セラミックコンデンサ1の製造作業が開始され、工程S1では、先ず、誘電体セラミック粉末を主成分とするスラリーをシート状に成形して、複数のセラミックグリーンシートを作製する。
【0029】
セラミックグリーンシートの作製方法の一例を述べると、セラミックスラリーの溶媒としてトルエンとエタノールとを1:1の重量比で混合した混合溶媒に、BaTiO3粉末とガラス粉末を所定の混合比で調整し、ボールミルにより分散させ、可塑剤を溶解させたポリビニルブチラール等のバインダ溶液を加えてセラミックスラリーが調製される。このセラミックスラリーを用いて、PET等のキャリアフィルム上にダイコーター法やドクターブレード法で、厚さが例えば1μmのセラミックグリーンシートとして作製されてもよい。
【0030】
セラミックグリーンシートの一方主面上に、Ni、Cuから選ばれる少なくとも1種の卑金属粉末を含有する導電ペーストを印刷し、乾燥することによって、内部電極パターンを成す導電膜が形成されたセラミックグリーンシートが作製される。導電膜の厚みは、2μm以下であってもよい。そしてこのように導電膜を薄層化するための金属粉末の平均粒径は、0.1~0.3μmが好ましい。内部電極パターン用の導体ペーストは平均粒径が0.1~0.3μmのNiまたはCuなどの卑金属粉末100体積%に対して平均粒径が0.02~0.05μmのチタン酸バリウム系粉末などのセラミック粉末を共材として20~50体積%になるように添加し、これに有機ビヒクルを加えて調製される。
【0031】
次に、上記のように準備された複数のセラミックグリーンシートに、導電粒子を含むペーストを用いて所定の内部電極パターンの導電膜を印刷し、複数の導電膜付きグリーンシートを作製する。
【0032】
次に、作製した複数の導電膜付きグリーンシートを、例えば100~400枚積層して、シート積層体38を作製する。
【0033】
図4は、工程S1で製作されたシート積層体38の切断位置を示す平面図である。工程S2で第一の切断位置L1の切断を行い。工程S3で第二の切断位置L2の切断を行う。各切断線L1,L2は、平面視において互いに垂直に交差している。
【0034】
最初の切断である工程S2では、前述の工程S1で作製された、シート積層体38を、基台の上に載置して、所定の寸法でピッチ送りをして押切刃で押し切って第一の切断を行い、短冊状の積層ブロック50を製作する。
【0035】
次の工程S3は、前述の工程S2で切断されたシート積層体38を、積層ブロック50を積層ブロックの回転や再配置などをせずに、S2で切断された状態のまま切断する。従って工程S2と工程S3の間に、付加プロセスが無いため、製造負荷が少ない切断プロセスとなっている。以下、
図5の断面図で切断手順を説明する。
【0036】
工程S3の第二の切断は、積層ブロックの主面7a,7bに垂直な仮想一平面上で、主面7a、7bに対して垂直な切断刃40を、主面7a,7bに対して鋭角の所定角度である移動角度αで進行させて切断し、複数のチップ積層体44を作製する。
【0037】
ブロック積層体50は、基台39の平坦な載置面45に敷設された支持シート46上に載置され、切断刃40の進行方向下流側の端部が固定用ダミー部材47によって支持される。固定用ダミー部材47は、支持シート46上に固定される。支持シートは、発泡剥離粘着シートやUV剥離粘着シートを用いることができる。
【0038】
支持シート46は、ブロック積層体50の下面に剥離可能に粘着する粘着シートが用いられる。支持シート46を粘着させたシート積層体38は、基台39の載置面45上に真空引きまたは磁力によって吸着される。また、支持シート46には、固定用ダミー部材47が剥離可能に貼付けられる。固定用ダミー部材47は、シート積層体38よりも強固に固定される。この状態でシート積層体47は、切断刃40によって切断線L2上を順次、切断する。固定用ダミー部材47は、樹脂板または硬質ゴム板であってもよく、前述のセラミックグリーンシートと主成分が同じセラミックグリーンシートの積層体であってもよい。固定用ダミー部材47の材料としては、シート積層体38の切断刃40による切断特性に可能な限り近い切断特性を有し、変形し難いものが望ましい。例えばウレタンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、天然ゴム等であってもよい。ゴム以外の材料としては、クリーンルーム用の不織ペーパを素材にした板状部材であってもよい。このような固定用ダミー部材47の材料としては、例えばショアA硬度で30以上80以下の硬度を有する材料であることが望ましい。そのような材料であることで、シート積層体38と切断刃40による切断特性と同じ切断特性を有する固定用ダミー部材を得ることができる。
【0039】
ブロック積層体50は、固定用ダミー部材47によって、切断刃40に移動方向下流側から支持され、支持シート46に粘着されているので、ブロック積層体50を切断刃40によって横方向の移動成分を有するブレードで切断しても、チップ積層体44が飛び散ることが抑制される。
【0040】
切断刃40は、ブロック積層体50の主面42に平行に刃先43が位置する。主面42に対して鋭角の移動角度αで進行させてブロック積層体50を切断線L2で切断し、複数のチップ積層体44を作製する。チップ積層体44の各側面9a,9bにあたる切断面には、内部電極が露出している。
【0041】
工程S3において、切断刃の駆動は、電動モーターやエアシリンダで行うことができる。駆動方向を刃の進行方向と同方向に傾斜させて一軸駆動で動作させてよいし、上下駆動と横駆動の二軸駆動を同期させて、刃の移動角度αを得てもよい。例えば、上下駆動速度に対して横駆動速度を20倍の速度で駆動させることで、およそ5°の移動角度を得ることができる。その時の合成移動速度は、50~500mm/secの範囲であってもよい。
【0042】
また、前述の切断刃40の移動角度αは、0°以上、20°以下に選ばれ、生産性を考慮すると好ましくは5°以上が好ましく、切断面も確実な品質を確保するには15°が好ましい。
【0043】
表1は、移動角度αを変化させた時の切断面の品質結果を示したものである。切断刃は、被切断物が接触する刃先腹面が鏡面となっている刃先角度10°の超硬材のブレードを用いた。表1は切断刃の量産仕様の移動速度200mm/secの結果であるが、50~500mm/secの範囲であってもほぼ同様な結果が得られている。
【0044】
ブロック積層体を発泡剥離粘着シートで固定し、固定用ダミー部材ダミー部材としてブロック積層体と同材料のセラミックグリーンシートの積層体を複数整列させたブロック積層体の両脇に配置した。なお、固定用ダミー部材の断面幅がブロック積層体の断面幅と同等、或いは狭かった場合に、切断による横方向の力で切断されたチップ積層体が刃の進行方向に動くことがある。固定用ダミー部材の断面幅をブロック積層体の断面幅以上にし、強固な固着強度にすることで、切断中のチップ積層体の動きをなくすことができている。
【0045】
切断面には内部電極が露出して、Ni粒子は内部電極上にあるべきで、誘電体面上にあるとショートの原因となる。誘電体面上の何らかの原因で存在するNi粒子は、クリーニング工程を追加して除去してもよいが、第二切断工程S3で所定レベル以下にしておかないと、完全には除去できない。
【0046】
実験で用いた層厚1μmの誘電体層と膜厚1μmの内部電極を積層したチップ積層体の場合は、切断面のSEM画像で24umx18umの面積中に観測される誘電体層上のNi粒子のカウントが、20個以下と定めてもよい。判定欄において、20個以下を◎、それ以上を×とした。
【0047】
図6aは、ブロック積層体の主面に垂直に切断刃を移動させた移動角度90°の切断面をSEM拡大写真であり、
図6b、
図6cはそれぞれ、移動角度15°と移動角度5°の時の拡大写真である。他の移動角度による切断面の拡大写真は、これらの中間の様相を示した。
【0048】
表1に示すように、移動角度αが小さいほど、断面の誘電体層上の遊離Ni粒子が少なくなり、移動角度20°近辺からその現象程度は緩やかになり、移動角度15°以下で、当初の基準を満たした。
【0049】
【0050】
また、
図7において、切断刃40は、刃先43から両側に連なる2つの表面48a,48bの成す刃先角度βが7°を超え14°以下であることが望ましい。表1は刃先角度10°の切断刃での結果であるが、刃先角度βが7°を超え14°以下の切断刃40で同様の結果を得た。しかし、刃先角度βが14°を超える切断刃40では、品質基準を満たす結果は得られなかった。
【0051】
図7のA部は、鏡面処理が施されている領域である。A部の刃側面は、複数の面で形成されるが、3面で形成するのが好ましい。多数面では、コストが高い切断刃となり、2面では、後述するように、切断面の品質が劣化するからである、前述の刃先角度βを構成する面は、A部の面の中で最も刃先端から離れた面が前述の刃先角度βを構成する面であってよい。A部の鏡面領域の長さaは、被切断物の内部電極に接する範囲分だけ考慮すればよく、刃先端から350μm以内であってもよい。
【0052】
図8aと
図8bとは、
図7の鏡面加工が施されているA部の2種類の切断刃の拡大図である。A部において、
図8aの切断刃の先端側面は、2つの面で構成されている。一方、
図8bの先端側面は、3面で構成されていて、各面接続領域B,C,Dは、連続的な滑らかな曲面であり、外側に膨らんだ曲面となっている。
【0053】
図9aは、
図8aの切断刃40で切断した時の切断面の拡大図であり、
図9bは
図8bの切断刃40で、移動角度αを10°にして切断した時の切断面の拡大図である。
図8bの切断刃による切断面は、Ni粒子の散在が殆どないきれいな面となっているが、
図8aの切断刃による切断面は、切断刃の切断面を擦ったようになり多数のNi粒子が断面上で散乱している。切断刃を移動角度αを持たせて移動させて切断する場合は、
図8aのA部のような2平面で形成される陵を、非切断物が接触する刃腹側面にあってはならないことを見出した。従って、切断刃の断面は、
図8bのように前記陵部を刃先側から第1陵部と第2陵部とすると、第1陵部の曲率半径が第2陵部の曲率半径よりも小さくして、切断刃の刃先断面は、刃先に向かって徐々に絞まった滑らかな曲線となっていることが好ましい。
【0054】
工程S3の後、工程S4において、チップ積層体44の各側面9a,9bに保護層6を形成する。次に、保護層6が形成された複数の積層体チップ44を、工程S5で焼成する。焼成されたチップ積層体44には、工程6で、外部電極を形成されて、積層セラミックコンデンサ1が作製される。
【0055】
前述の実施形態では、電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、積層バリスタ、積層サーミスタ、積層コイル、セラミック多層基板などのセラミックシートおよびセラミックシートを積層して形成する積層セラミック電子部品においては同様の効果を得ることができる。
【0056】
本開示は、以下の構成(1)~(7)の態様で実施可能である。
【0057】
(1)導電膜が形成された複数のセラミックグリーンシートを積層して、シート積層体を作製する第1工程と、前記シート積層体を積層体ブロックに切断する第2工程と、前記積層体ブロックを切断方向と直交する方向に切断して積層体チップに切断する第3工程と、積層体チップの側面切断面に保護層を形成する第4工程と、前記複数の保護層が形成された積層体チップを焼成する第5工程と、を含み、
前記第3工程において、
前記シート積層体の主面に垂直な仮想一平面上で、前記主面に垂直な面上で、切断刃を前記主面に対して鋭角の所定角度をなす方向に進行させて前記シート積層体を切断し、複数のチップ積層体を作製する積層セラミック電子部品の製造方法。
【0058】
(2)前記第3工程において、前記所定角度は、15°以下である、上記(1)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【0059】
(3)前記第2工程において、前記載置面には、固定用ダミー部材が設けられ、
前記固定用ダミー部材によって、前記シート積層体が前記切断刃の移動方向の下流側から支持されている、上記(1)または(2)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【0060】
(4)前記固定用ダミー部材は、ショア硬度が30以上80以下である、上記(3)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【0061】
(5)前記切断刃の、2つの面によって構成される刃先角度が7°またはそれ以上であり、14°またはそれ以下である、上記(1)または(2)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【0062】
(6)前記切断刃が切断中に積層体ブロックの内部電極に接する切断刃の領域において、刃側面が鏡面であり、且つ3面で構成され、前記3面が滑らかに接合されている陵部を有する、上記(1)または(2)に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【0063】
(7)前記陵部を刃先側から第1陵部と第2陵部とすると、第1陵部の曲率半径が第2陵部の曲率半径よりも小さい、上記(6)に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【0064】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、また、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1 積層セラミックコンデンサ
2 素体
3 外部電極
4 誘電体層
5 内部電極層
6 保護層
7a 第1面
7b 第2面
8a 第1端面
8b 第2端面
9a 第1側面
9b 第2側面
9a 第1側面
9b 第2側面
31 第1外部電極
32 第2外部電極
38 シート積層体
39 基台
40 切断刃
44 チップ積層体
42 主面
43 刃先
45 載置面
46 支持シート
47 固定用ダミー部材
48a,48b 表面
50 ブロック積層体
X 第1方向
Y 第2方向
Z 第3方向
α 移動角度
β 刃先角度