(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106914
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】複合基板
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20240801BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G02B6/122
G02B6/12 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011413
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 省一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 淳二
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐輝
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147BA05
2H147EA02C
2H147EA05C
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14B
2H147FA04
2H147FA06
2H147FA07
2H147FA09
2H147FC01
2H147FC05
2H147FC08
2H147FC09
2H147FD15
2H147FF06
(57)【要約】
【課題】光導波路において高い光閉じ込め効果を有し、かつ信頼性が高い複合基板を実現する。
【解決手段】複合基板100は、第1の光導波路を含む導波基板10と、導波基板10を支持する支持基板40と、導波基板10と支持基板40の間に設けられた接合層20と、第1の光導波路の延在方向と直交する方向において接合層20の間に設けられた空隙部21とを有する。導波基板10と支持基板40とは、接合層20を介して互いに接合され、空隙部21の少なくとも一部は、導波基板10の厚み方向から見て第1の光導波路と重なっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光導波路を含む導波基板と、
前記導波基板を支持する支持基板と、
前記導波基板と前記支持基板の間に設けられた接合層と、
前記第1の光導波路の延在方向と直交する方向において前記接合層の間に設けられた空隙部と、を有し、
前記導波基板と前記支持基板とは、前記接合層を介して互いに接合され、
前記空隙部の少なくとも一部は、前記導波基板の厚み方向から見て前記第1の光導波路と重なっている、複合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の複合基板において、
前記接合層はアモルファスSi、Ta2O5、Al2O3のいずれかで構成される、
複合基板。
【請求項3】
請求項1に記載の複合基板において、
前記接合層と前記支持基板の間に配置される中間層を有する、複合基板。
【請求項4】
請求項3に記載の複合基板において、
前記中間層は、前記空隙部を間に挟んで前記第1の光導波路と対向して配置される第2の光導波路を含む、複合基板。
【請求項5】
請求項4に記載の複合基板において、
前記中間層はSiO2で構成され、
前記第2の光導波路は、Si、SiNのいずれかで構成される、複合基板。
【請求項6】
請求項4に記載の複合基板において、
前記第2の光導波路は、前記中間層の内部に埋没または一部が前記空隙部に表面が露出した状態で形成され、
前記第2の光導波路と前記空隙部の間における前記中間層の厚みは2μm以下である、複合基板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記導波基板は、前記第1の光導波路に対応する他の部分よりも厚みが大きい形状であるリッジ部を有し、
前記リッジ部を含む前記導波基板の厚みをt(μm)、前記空隙部の幅をw(μm)とすると、tおよびwは以下の式を満たす、複合基板。
5μm≦w≦30×t
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記導波基板と前記接合層の間に配置されるクラッド層を有する、複合基板。
【請求項9】
請求項8に記載の複合基板において、
前記クラッド層はSiO2で構成される、複合基板。
【請求項10】
請求項8に記載の複合基板において、
前記導波基板は、前記第1の光導波路に対応する他の部分よりも厚みが大きい形状であるリッジ部を有し、
前記リッジ部を含む前記導波基板と前記クラッド層との合計厚みをt(μm)、前記空隙部の幅をw(μm)とすると、tおよびwは以下の式を満たす、複合基板。
5μm≦w≦30×t
【請求項11】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記導波基板を覆うクラッド膜を有する、複合基板。
【請求項12】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の複合基板において、
前記導波基板は、LiNbO3、LiTaO3、Si、SiCのいずれかで構成される、複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に使用される複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二枚の基板を接合した複合基板を形成し、この複合基板の一方の基板を薄板化してからリッジ加工することで光導波路を形成する技術が知られている。例えば特許文献1には、導波基板とベース基板とを備え、導波基板とベース基板とが接合されていて、導波基板とベース基板との接合面において、一部に、接合していない非接合領域を備えており、この非接合領域に紫外線硬化樹脂が充填されたものが記載されている。これにより、非接合領域と光導波路との間に屈折率段差を生じさせ、光導波路における光閉じ込め効果を十分に得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造では、非接合領域に充填されている樹脂が経年劣化により変形し、導波基板とベース基板の接合に影響を及ぼすおそれがあるため、長期の信頼性が低いという課題があった。また、樹脂の材質によっては光導波路を伝搬する光の一部が樹脂に漏洩するおそれがあり、その場合には光伝搬特性が悪化するという課題もあった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、光導波路において高い光閉じ込め効果を有し、かつ信頼性が高い複合基板を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による複合基板は、第1の光導波路を含む導波基板と、前記導波基板を支持する支持基板と、前記導波基板と前記支持基板の間に設けられた接合層と、前記第1の光導波路の延在方向と直交する方向において前記接合層の間に設けられた空隙部と、を有し、前記導波基板と前記支持基板とは、前記接合層を介して互いに接合され、前記空隙部の少なくとも一部は、前記導波基板の厚み方向から見て前記第1の光導波路と重なっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光導波路において高い光閉じ込め効果を有し、かつ信頼性が高い複合基板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
【
図9】本発明の変形例に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の形態に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における光学素子用の複合基板100は、導波基板10が接合層20および中間層30を介して支持基板40に接合された構造を有している。
【0011】
導波基板10は、第1の光導波路を含む基板であり、その一部に段差を設けることで、第1の光導波路に対応するリッジ部11を他の部分よりも厚みが大きくなるように形成する加工(リッジ加工)が施されている。導波基板10の材料には、例えばLN(LiNbO3:ニオブ酸リチウム)やLT(LiTaO3:タンタル酸リチウム)、Siなどが用いられる。導波基板10の厚みは、第1の光導波路を通る光の波長が1.55μmである場合、例えばリッジ部11を含めて300nm~5μm程度である。より好ましくは、第1の光導波路を通る光の波長をλ(μm)とし、リッジ部11を含む導波基板10の厚みをt(μm)とすると、以下の式(1)を満たす範囲で導波基板10の厚みを決定すると良い。
λ/5≦t≦4×λ ・・・(1)
【0012】
接合層20は、導波基板10を支持基板40に接合する層であり、導波基板10と支持基板40の間に設けられている。導波基板10は、接合に好適な接合面が形成された接合層20を介して支持基板40に直接接合されることで、支持基板40との接合を強固に行うことができる。接合層20の材料には、例えばアモルファスSi、Ta2O5、Al2O3などが用いられる。接合層20の厚みは、例えば1nm~50nmである。
【0013】
導波基板10と支持基板40の間には、接合層20が部分的に形成されていない空隙部21が存在する。この空隙部21は、第1の光導波路であるリッジ部11の延在方向と直交する方向(
図1の左右方向)において接合層20の間に設けられており、導波基板10のリッジ部11を複合基板100の厚み方向から見たときに、少なくともリッジ部11が占める領域よりも広い範囲となるように設けられている。すなわち、空隙部21の少なくとも一部は、導波基板10の厚み方向から見てリッジ部11と重なっている。これにより、第1の光導波路として機能するリッジ部11と空隙部21との間に屈折率段差が生じるようにして、リッジ部11における光閉じ込め効果が得られるようにしている。空隙部21の厚みは、接合層20の厚みと等しく、例えば1nm~50nmである。また、空隙部21の幅は、例えば10μmである。
【0014】
図1に示すように、リッジ部11を含む導波基板10の厚みをt(μm)とし、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは以下の式(2)の関係を満たすことが好ましく、式(3)の関係を満たすことがさらに好ましい。このようにすれば、空隙部21の存在により後述の薄板加工工程において導波基板10が空隙部21側に変形したり、低圧環境下で空隙部21内の空気が膨張して導波基板10が空隙部21と反対側に変形したりするのを効果的に防ぐことができる。
w≦30×t ・・・(2)
w≦20×t ・・・(3)
【0015】
一方、空隙部21が光閉じ込め効果を十分に発揮するためには、空隙部21の幅wは少なくとも5μm以上であることが好ましい。
【0016】
中間層30は、接合層20と支持基板40の間に配置されており、例えばSiO2の非晶質体などを用いて構成される。中間層30の内部には、例えばSiやSiNを用いて構成された第2の光導波路31が設けられている。この第2の光導波路31は、空隙部21を間に挟んで、導波基板10のリッジ部11と対向して配置されている。
【0017】
第2の光導波路31は、例えば中間層30の内部に埋没して形成され得る。この場合、第2の光導波路31と空隙部21の間における中間層30の厚みは、例えば2μm以下である。あるいは、第2の光導波路31は、例えば中間層30の空隙部21側の表面において、少なくともその一部が露出した状態で形成され得る。この場合、第2の光導波路31と空隙部21の間における中間層30の厚みは0である。
【0018】
ここで、導波基板10の第1の光導波路(リッジ部11)を通る光と、中間層30の第2の光導波路31を通る光との間において、所望の光結合を実現するためには、これらの光導波路間の距離を、例えば500nm程度またはそれ以下とすることが好ましい。この条件を満たすように、空隙部21の厚み(接合層20の厚み)と、第2の光導波路31と空隙部21の間における中間層30の厚みとが設定され得る。また、中間層30と支持基板40の界面から第2の光導波路31までの間隔は、例えば1μm以上であることが好ましい。
【0019】
接合層20や中間層30は、任意の適切な方法により成膜され得る。例えば、スパッタリング、真空蒸着、イオンビームアシスト蒸着(IAD)等の物理蒸着、化学蒸着、原子層堆積(ALD)法により成膜され得る。接合層20や中間層30の成膜は、例えば、室温(25℃)~300℃で行うことができる。また、接合層20における空隙部21の形成は、例えば接合層20の一部をエッチングにより除去することによって行うことができる。
【0020】
支持基板40は、導波基板10を支持する。支持基板40としては、任意の適切な基板が用いられ得る。支持基板40は、単結晶体で構成されてもよく、多結晶体で構成されてもよい。また、金属で構成されてもよい。支持基板40を構成する材料としては、好ましくは、シリコン、サイアロン、サファイア、コージェライト、ムライト、ガラス、石英、水晶、アルミナ、SUS、鉄ニッケル合金(42アロイ)および黄銅からなる群から選択される。支持基板40の厚みとしては、例えば0.3~1mmであるが、これ以外にも任意の適切な厚みが採用され得る。
【0021】
上記シリコンは、単結晶シリコンであってもよく、多結晶シリコンであってもよく、高抵抗シリコンであってもよい。また、支持基板40は、SOI(Silicon on Insulator)であってもよい。
【0022】
代表的には、上記サイアロンは、窒化ケイ素とアルミナとの混合物を焼結して得られるセラミックスであり、例えば、Si6-wAlwOwN8-wで示される組成を有する。具体的には、サイアロンは、窒化ケイ素中にアルミナが混合された組成を有しており、式中のwはアルミナの混合比率を示している。wは、好ましくは0.5以上4.0以下である。
【0023】
代表的には、上記サファイアはAl2O3の組成を有する単結晶体であり、上記アルミナはAl2O3の組成を有する多結晶体である。アルミナは、好ましくは透光性アルミナである。
【0024】
代表的には、上記コージェライトは、2MgO・2Al2O3・5SiO2の組成を有するセラミックスであり、上記ムライトは、3Al2O3・2SiO2~2Al2O3・SiO2の範囲の組成を有するセラミックスである。
【0025】
以上説明した複合基板100は、例えば2つの光導波路間での光結合を利用する光通信用の光学素子として使用される。なお図示しないが、複合基板100は、任意の層をさらに有していてもよい。このような層の種類・機能、数、組み合わせ、配置等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0026】
複合基板100は、任意の適切な形状で製造され得る。1つの実施形態においては、いわゆるウェハの形態で複合基板100が製造され得る。また、複合基板100のサイズは、例えばウェハ(基板)の直径が50mm~150mmなど、目的に応じて適切に設定され得る。
【0027】
図2および
図3は、本発明の第1の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【0028】
図2(a)は、複合基板100の製造工程のうち準備工程を示している。この工程では、例えば厚み0.3mmのLN基板10Aを用意する。なお前述のように、LN基板の代わりにLT基板やSi基板を使用することも可能であるが、以下の説明ではこれらの場合を含めて「LN基板10A」と称することとする。
【0029】
図2(b)は、複合基板100の製造工程のうち接合層20の成膜工程を示している。この工程では、
図2(a)の準備工程で用意したLN基板10Aの表面上に、例えば30nmの厚みでアモルファスSiを成膜することで、接合層20が形成される。
【0030】
図2(c)は、複合基板100の製造工程のうち接合層20の除去工程を示している。この工程では、
図2(b)の成膜工程で形成された接合層20の一部をエッチングにより除去する。
【0031】
図2(d)は、複合基板100の製造工程のうち接合工程を示している。この工程では、まず支持基板40の上に中間層30が形成され、その中間層30の内部に第2の光導波路31が形成されたものを用意する。例えば、SiO
2の非晶質体による層が成膜された支持基板40を用意し、この支持基板40上にSiやSiNを成膜した後、第2の光導波路31を形成する部分以外のSi膜またはSiN膜をエッチングにより除去する。こうして第2の光導波路31が形成された支持基板40上に、さらにSiO
2の非晶質体を全体的に成膜することで、中間層30が形成され、その中間層30の内部に第2の光導波路31が形成された支持基板40を用意することができる。この支持基板40に対して
図2(b)、(c)と同様の工程を行うことにより、中間層30の上に接合層20を形成してその一部を除去する。そして、
図2(c)の除去工程で得られたLN基板10Aと、上記工程で得られた支持基板40とに対して、それぞれの接合層20にFAB(Fast Atom Beam)の照射等を行うことで活性化処理を行った後、互いの接合層20同士を接合して複合基板100を形成する。この接合においては、エッチングで除去された基板同士が位置合せされるようにアライメントマークを介して接合する。接合精度としては約±2μmの精度で接合することができる。
【0032】
なお、
図2(d)の接合工程を行った後、複合基板100を所定温度、例えば400℃程度まで加熱してもよい。このようにすれば、接合層20による接合強度を保ちつつ、導波基板10における光導波路の光伝搬特性を改善することができる。
【0033】
図3(e)は、
図2(d)の接合工程後に得られる複合基板100を示している。この複合基板100では、接合工程によってLN基板10A側の接合層20と支持基板40側の接合層20からそれぞれ除去された部分同士が一体化することで、
図3(e)に示すように、LN基板10Aと中間層30の間に空隙部21が形成される。
【0034】
図3(f)は、複合基板100の製造工程のうち薄板加工工程を示している。この工程では、
図3(e)に示した接合工程後の複合基板100に対して、LN基板10Aを所定の厚みまで研磨して薄板化する。例えば、研削加工、CMP(Chemical Mechanical Polish)加工、ガスクラスターイオンビームを用いた表面平坦化加工などを用いて、LN基板10Aを研磨して薄板化することができる。
【0035】
図3(g)は、複合基板100の製造工程のうちリッジ加工工程を示している。この工程では、
図3(f)の薄板加工工程で薄板化されたLN基板10Aに対して、さらに前述のリッジ加工を行うことにより、光導波路として機能するリッジ部11を形成し、第1の光導波路を含む導波基板10を形成する。例えば、レーザー光を用いた加工や、RIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチングにより、リッジ加工を行うことができる。
【0036】
以上の各工程により、
図1に示した構造の複合基板100が製造される。
【0037】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における光学素子用の複合基板110は、第1の実施形態で説明した
図1の複合基板100に対して、導波基板10と接合層20の間にクラッド層50がさらに配置された構造を有している。
【0038】
クラッド層50は、
図2(d)で説明した接合工程において接合層20の活性化処理を行う際に、導波基板10をFABの照射から保護するために設けられている。クラッド層50は、中間層30と同様に、例えばSiO
2の非晶質体などを用いて構成される。クラッド層50の厚みは、例えば10nm程度である。
【0039】
図4に示すように、リッジ部11を含む導波基板10とクラッド層50との合計厚みをt(μm)とし、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは前述の式(2)の関係を満たすことが好ましく、式(3)の関係を満たすことがさらに好ましい。このようにすれば、第1の実施形態で説明した複合基板100と同様に、空隙部21の存在により薄板加工工程において導波基板10やクラッド層50が空隙部21側に変形したり、低圧環境下で空隙部21内の空気が膨張して導波基板10やクラッド層50が空隙部21と反対側に変形したりするのを効果的に防ぐことができる。また、第1の実施形態と同様に、空隙部21が光閉じ込め効果を十分に発揮するためには、空隙部21の幅wは少なくとも5μm以上であることが好ましい。
【0040】
図5および
図6は、本発明の第2の実施形態に係る複合基板の製造工程の一例を示す図である。
【0041】
図5(a)は、複合基板110の製造工程のうち準備工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した
図2(a)の工程と同様に、例えば厚み0.3mmのLN基板10Aを用意し、このLN基板10Aの表面上に例えば10nmの厚みでSiO
2の非晶質体を成膜することで、クラッド層50を有するLN基板10Aを作製する。
【0042】
図5(b)は、複合基板110の製造工程のうち接合層20の成膜工程を示している。この工程では、
図5(a)の準備工程で用意したLN基板10A上に形成されたクラッド層50の表面上に、第1の実施形態で説明した
図2(b)の工程と同様の手法により、例えば30nmの厚みでアモルファスSiを成膜することで、接合層20が形成される。
【0043】
図5(c)は、複合基板110の製造工程のうち接合層20の除去工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した
図2(c)の工程と同様に、
図5(b)の成膜工程で形成された接合層20の一部をエッチングにより除去する。
【0044】
図5(d)は、複合基板110の製造工程のうち接合工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した
図2(d)の工程と同様に、まず支持基板40の上に中間層30が形成され、その中間層30の内部に第2の光導波路31が形成されたものを用意し、この支持基板40に対して、中間層30の上に接合層20を形成してその一部を除去する。そして、
図5(c)の除去工程で得られたLN基板10Aと、上記工程で得られた支持基板40とに対して、それぞれの接合層20に活性化処理を行った後、互いの接合層20同士を接合して複合基板110を形成する。この接合においては、エッチングで除去された基板同士が位置合せされるようにアライメントマークを介して接合する。接合精度としては約±2μmの精度で接合することができる。
【0045】
図6(e)は、
図5(d)の接合工程後に得られる複合基板110を示している。この複合基板110では、接合工程によってLN基板10A側の接合層20と支持基板40側の接合層20からそれぞれ除去された部分同士が一体化することで、
図6(e)に示すように、クラッド層50と中間層30の間に空隙部21が形成される。
【0046】
図6(f)は、複合基板110の製造工程のうち薄板加工工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した
図3(f)の工程と同様に、
図6(e)に示した接合工程後の複合基板110に対して、LN基板10Aを所定の厚みまで研磨して薄板化する。
【0047】
図6(g)は、複合基板110の製造工程のうちリッジ加工工程を示している。この工程では、第1の実施形態で説明した
図3(g)の工程と同様に、
図6(f)の薄板加工工程で薄板化されたLN基板10Aに対してリッジ加工を行い、光導波路として機能するリッジ部11を形成し、第1の光導波路を含む導波基板10を形成する。
【0048】
以上の各工程により、
図4に示した構造の複合基板110が製造される。
【0049】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における光学素子用の複合基板120は、第1の実施形態で説明した
図1の複合基板100に対して、導波基板10と支持基板40の間に中間層30が設けられておらず、導波基板10が接合層20を介して支持基板40に接合された構造を有している。
【0050】
なお、本実施形態においても第1の実施形態と同様に、リッジ部11を含む導波基板10の厚みをt(μm)とし、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは前述の式(2)の関係を満たすことが好ましく、式(3)の関係を満たすことがさらに好ましい。また、空隙部21が光閉じ込め効果を十分に発揮するためには、空隙部21の幅wは少なくとも5μm以上であることが好ましい。
【0051】
図示しないが、本実施形態の複合基板120については、第1の実施形態で説明した
図2(a)~(c)の各工程を実施し、その後に
図2(d)の工程では中間層30を形成せずに、支持基板40の上に接合層20を形成してその一部を除去し、LN基板10Aと支持基板40にそれぞれ形成された接合層20同士を接合する。こうして形成された複合基板120に対して
図3の各工程を行うことで、
図7に示す構造を有する複合基板120を製造することができる。
【0052】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。本実施形態における光学素子用の複合基板130は、第3の実施形態で説明した
図7の複合基板120に対して、導波基板10と接合層20の間にクラッド層50がさらに配置された構造を有している。
【0053】
なお、本実施形態においても第2の実施形態と同様に、リッジ部11を含む導波基板10とクラッド層50との合計厚みをt(μm)とし、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは前述の式(2)の関係を満たすことが好ましく、式(3)の関係を満たすことがさらに好ましい。また、空隙部21が光閉じ込め効果を十分に発揮するためには、空隙部21の幅wは少なくとも5μm以上であることが好ましい。
【0054】
図示しないが、本実施形態の複合基板130については、第2の実施形態で説明した
図5(a)~(c)の各工程を実施し、その後に
図5(d)の工程では中間層30を形成せずに、支持基板40の上に接合層20を形成してその一部を除去し、LN基板10Aと支持基板40にそれぞれ形成された接合層20同士を接合する。こうして形成された複合基板130に対して
図6の各工程を行うことで、
図8に示す構造を有する複合基板130を製造することができる。
【0055】
(変形例)
図9は、本発明の変形例に係る複合基板の概略構成を示す模式的な断面図である。第1、第2の実施形態でそれぞれ説明した複合基板100,110において、
図9(a)、(b)にそれぞれ示すように、導波基板10の表面をクラッド膜60で覆うようにしてもよい。クラッド膜60は、中間層30やクラッド層50と同様に、例えばSiO2の非晶質体などを用いて構成される。例えば、スパッタリング等の手法を用いて導波基板10の表面にSiO2を成膜することで、クラッド膜60を形成可能である。このとき、リッジ部11の側壁にもクラッド膜60を成膜可能な手法を採用することが好ましい。
【0056】
なお、
図9(a)、(b)では複合基板100,110において導波基板10の表面にクラッド膜60が形成された例をそれぞれ示したが、第3、第4の実施形態でそれぞれ説明した複合基板120,130において、導波基板10の表面にクラッド膜60を形成してもよい。
【0057】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0058】
(1)複合基板100~130は、第1の光導波路を含む導波基板10と、導波基板10を支持する支持基板40と、導波基板10と支持基板40の間に設けられた接合層20と、第1の光導波路の延在方向と直交する方向において接合層20の間に設けられた空隙部21とを有する。導波基板10と支持基板40とは、接合層20を介して互いに接合され、空隙部21の少なくとも一部は、導波基板10の厚み方向から見て第1の光導波路と重なっている。このようにしたので、光導波路において高い光閉じ込め効果を有し、かつ信頼性が高い複合基板を実現することができる。
【0059】
(2)複合基板100,110は、接合層20と支持基板40の間に配置される中間層30を有する。また、中間層30は、空隙部21を間に挟んで導波基板10の第1の光導波路と対向して配置される第2の光導波路31を含む。このようにしたので、2つの光導波路間での光結合を利用する光通信用の光学素子を実現できる。
【0060】
(3)中間層30はSiO2で構成され、第2の光導波路31は、Si、SiNのいずれかで構成され得る。このようにすれば、光伝搬特性に優れた第2の光導波路31を実現できる。
【0061】
(4)第2の光導波路31は、中間層30の内部に埋没または一部が空隙部21に表面が露出した状態で形成され、第2の光導波路31と空隙部21の間における中間層30の厚みは2μm以下であり得る。このようにすれば、導波基板10の第1の光導波路を通る光と、中間層30の第2の光導波路31を通る光との間において、所望の光結合を実現できる。
【0062】
(5)導波基板10は、導波基板10の第1の光導波路に対応する、他の部分よりも厚みが大きい形状であるリッジ部11を有する。複合基板100,120において、リッジ部11を含む導波基板10の厚みをt(μm)、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは「5μm≦w≦30×t」の式を満たすことが好ましい。このようにすれば、導波基板10の変形を防止できる。
【0063】
(6)複合基板110,130は、導波基板10と接合層20の間に配置されるクラッド層50を有する。このようにしたので、接合層20の活性化処理を行う際に導波基板10を保護することができる。
【0064】
(7)クラッド層50はSiO2で構成され得る。このようにすれば、用途に応じて任意の材料でクラッド層50を構成できる。
【0065】
(8)導波基板10は、導波基板10の第1の光導波路に対応する、他の部分よりも厚みが大きい形状であるリッジ部11を有する。複合基板110,130において、リッジ部11を含む導波基板10とクラッド層50との合計厚みをt(μm)、空隙部21の幅をw(μm)とすると、tおよびwは「5μm≦w≦30×t」の式を満たすことが好ましい。このようにすれば、導波基板10の変形を防止できる。
【0066】
(9)複合基板100~130は、導波基板10を覆うクラッド膜60を有することもできる。このようにすれば、導波基板10の第1の光導波路の光伝搬特性を向上するとともに、外部環境から導波基板10を保護することができる。
【0067】
(10)導波基板10は、LiNbO3、LiTaO3、Si、SiCのいずれかで構成され得る。このようにすれば、用途に応じて任意の材料で導波基板10を構成できる。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意の構成要素を用いて実施可能である。
【0069】
上記の実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10:導波基板
10A:LN基板
11:リッジ部(第1の光導波路)
20:接合層
21:空隙部
30:中間層
31:第2の光導波路
40:支持基板
50:クラッド層
60:クラッド膜
100,110,120,130:複合基板