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  • 特開-押湯空間形成部材 図1
  • 特開-押湯空間形成部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106916
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】押湯空間形成部材
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/08 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
B22C9/08 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011419
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】593003961
【氏名又は名称】株式会社瓢屋
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】曽根 孝明
(72)【発明者】
【氏名】平松 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】水谷 啓吾
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PB01
4E093PB03
(57)【要約】
【課題】溶湯が充填される押湯空間を、砂型に設けられた収容空間に収容された収容状態において形成する押湯空間形成部材に関し、製造が容易でありながらも保温性に優れる。
【解決手段】溶湯が充填される押湯空間Sを、砂型に設けられた収容空間に収容された収容状態において形成する押湯空間形成部材であって、鋳物砂と軽量骨材を含む混合物によって成型されたものであり、鋳物砂と軽量骨材の合計100体積%に対して、軽量骨材を20体積%以上50体積%以下含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯が充填される押湯空間を、砂型に設けられた収容空間に収容された収容状態において形成する押湯空間形成部材であって、
鋳物砂と軽量骨材を含む混合物によって成型されたものであり、
前記鋳物砂と前記軽量骨材の合計100体積%に対して、該軽量骨材を20体積%以上50体積%以下含むことを特徴とする押湯空間形成部材。
【請求項2】
前記軽量骨材が、SiOを主成分としたものであることを特徴とする請求項1記載の押湯空間形成部材。
【請求項3】
前記軽量骨材が、発泡パーライト、珪藻土およびシリカヒュームの中から選択された一つであることを特徴とする請求項1又は2記載の押湯空間形成部材。
【請求項4】
前記混合物は、かさ密度が1.4g/cm以下のものであることを特徴とする請求項1又は2記載の押湯空間形成部材。
【請求項5】
曲げ強さが3MPa以上であることを特徴とする請求項4記載の押湯空間形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶湯が充填される押湯空間を、砂型に設けられた収容空間に収容された収容状態において形成する押湯空間形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造における押湯は、砂型に鋳込まれた溶湯の凝固収縮に対し溶湯を補給するという効果(押湯効果)を有し、引け巣等の鋳造欠陥を抑制する上で欠かせないものである。押湯は鋳造後に除去されるものである一方、全鋳込み量の30%程度を占める場合もあり、押湯量が鋳造歩留り(製品部重量/全鋳込み重量)に大きく影響する。このため、押湯量を減らすことが、鋳造歩留りを向上させる効率的な手段の一つになる。
【0003】
押湯効果は、押湯空間に充填された押湯が凝固するまで発揮され、押湯が凝固するまでの時間(凝固時間)が短くなると押湯効果が不十分になってしまう場合がある。これを防ぐために、押湯量を増やして押湯の凝固時間を長くすることが一般的に行われているが、押湯量が増える分、鋳造歩留りが悪化してしまう。ここで、押湯量を減らしても凝固時間が短くならないように押湯の保温性を向上することができれば、その分、押湯量を減らし、鋳造歩留りを向上することが可能になる。
【0004】
そこで、本願出願人は、押湯形成空間を形成する内壁部を外側から覆う外壁部を備え、内壁部と外壁部の間に空気層を設けた二重壁構造の空気断熱押湯スリーブを提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-159339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案した空気断熱押湯スリーブは、押湯の保温性を十分向上させることができるが、二重壁構造であるために、製造に手間がかかってしまう。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、製造が容易でありながらも保温性に優れた押湯空間形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決する本発明の押湯空間形成部材は、
溶湯が充填される押湯空間を、砂型に設けられた収容空間に収容された収容状態において形成する押湯空間形成部材であって、
鋳物砂と軽量骨材を含む混合物によって成型されたものであり、
前記鋳物砂と前記軽量骨材の合計100体積%に対して、該軽量骨材を20体積%以上50体積%以下含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の押湯空間形成部材によれば、材料を工夫し、前記軽量骨材が有する空気層で保温性を確保する。前記軽量骨材が20体積%未満であると、空気層不足になり、良好な保温性が得られない。一方、前記軽量骨材が50体積%を超えると、押湯空間形成部材自体が強度不足になり割れ等が生じやすくなってしまう。本発明の押湯空間形成部材は、公知の通常のシェル中子成型方法で製造することができ、製造が容易でありながらも保温性に優れている。
【0010】
なお、前記鋳物砂は、硅砂であってもよい。
【0011】
前記軽量骨材についてはJIS A 5002(2003)で規定されている。単位体積重量で見れば25kN/m未満のものになるが、普通骨材とより明確に区別をするのであれば(空気層の保有率の観点からすれば)23kN/m未満のものになる。
【0012】
前記混合物は、前記鋳物砂と前記軽量骨材の他に、粘結剤を含んだものであってもよいし、粘結剤および硬化剤を含んだものであってもよい。
【0013】
また、前記軽量骨材を30体積%以上45体積%以下含むことがより好ましい。30体積%以上であれば、前記軽量骨材が有する空気層がより十分になり一段と良好な保温性を得ることができ、45体積%以下であれば、より十分な強度も得られる。
【0014】
また、
前記軽量骨材が、SiOを主成分としたものであることを特徴としてもよい。
【0015】
SiOを主成分とした軽量骨材は、空隙構造を持ちやすい。
【0016】
さらに、
前記軽量骨材が、発泡パーライト、珪藻土およびシリカヒュームの中から選択された一つであることを特徴としてもよい。
【0017】
特に、発泡パーライトは、膨張発泡した発泡体であるため、空気層が十分にあり好ましい。
【0018】
加えて、
前記混合物は、かさ密度が1.4g/cm以下のものであることを特徴としてもよい。
【0019】
このかさ密度の値によって空気層の占有率が間接的に定められる。かさ密度が1.4g/cmを超えると、空気層不足になり、良好な保温性が得られない。
【0020】
一方、
曲げ強さが3MPa以上であることを特徴とすることが好ましい。
【0021】
曲げ強さによって押湯空間形成部材自体の強度不足を管理することができる。前記混合物のかさ密度が高くなりすぎると空気層が過多になり、曲げ強さが低下してくる傾向がある。曲げ強さは、3MPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造が容易でありながらも保温性に優れた押湯空間形成部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態である押湯スリーブの一例を示す図である。
図2】(A)は図1(A)に示す押湯スリーブの性能評価に用いた実施例1の押湯スリーブを示す図であり、(B)は実施例1の押湯スリーブと比較例1の押湯スリーブそれぞれの冷却曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。本発明の押湯空間形成部材の一実施形態である押湯スリーブは、砂型に設けられた収容空間に収容された状態において、溶湯が充填される押湯空間を形成し、砂型に鋳込まれた溶湯の凝固収縮に対し溶湯を補給する押湯の保温性を向上させるものである。ここでいう溶湯は特に限定されるものではなく、鉄であってもよいし、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の非鉄金属であってもよい。また、押湯空間形成部材が、砂型の収容空間に収容された状態を、以下、収容状態と称する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態である押湯スリーブの一例を示す図である。図1(A)は、押湯スリーブ1の斜視図であり、同図(B)は、同図(A)に示す押湯スリーブ1を砂型の収容空間に収容した状態を示す断面図である。
【0026】
図1(A)に示すように、押湯スリーブ1は、外形が円筒状のものであり、本実施形態では、鋳物砂を粘結剤の一種である熱硬化性樹脂でコーティングしたレジンコーテッドサンド(以下、「RCS」と略する)と、軽量骨材と、硬化剤を含む混合物を焼成して硬化させたシェル鋳型である態様を例にあげて説明する。本実施形態のRCSは、鋳物砂として硅砂を用いている。また、粘結剤としての熱硬化性樹脂にはフェノール樹脂を用いる。フェノール樹脂の添加量は、上記混合物全体を100重量%とした場合に1重量%以上5重量%以下である。さらに、硬化剤としてヘキサミン等を用いる。本実施形態の押湯スリーブ1は、公知の通常のシェル中子成型方法と同じ成型方法で製造する。
【0027】
また、軽量骨材としては発泡パーライトを用いている。発泡パーライトの添加量は、硅砂と発泡パーライトの合計を100体積%とした場合に、20体積%以上50体積%以下である。ここにいう硅砂は熱硬化性樹脂でコーティングされていない硅砂単体のものである。発泡パーライトは、天然鉱物であるパーライト原石を加熱して膨張発泡させて得られるものである。発泡パーライトには、膨張発泡によって空気層が形成されている。この空気層を利用して押湯スリーブ1の保温性を確保する。発泡パーライトが20体積%未満であると、空気層不足になり、良好な保温性が得られない。上記混合物で見てみれば、かさ密度が1.4g/cm以下である必要がある。上記混合物のかさ密度の値によって空気層の占有率が間接的に定められる。かさ密度が1.4g/cmを超えると、空気層不足になり、良好な保温性が得られない。一方、発泡パーライトが50体積%を超えると、空気層が占める割合が高くなりすぎてしまい押湯スリーブ1自体が強度不足になり割れ等が生じやすくなってしまう。粘結剤で固められた押湯スリーブ1で見てみれば、曲げ強さが3MPa以上である必要がある。上記混合物のかさ密度が高くなりすぎると空気層が過多になり、曲げ強さが低下してくる傾向がある。このため、完成した押湯スリーブ1の曲げ強さによって強度不足を管理することができる。
【0028】
なお、パーライト原石を加熱して膨張発泡させると4倍~数十倍にまで膨張発泡する。パーライト原石の加熱条件を調整し膨張発泡を促進させれば発泡パーライトのかさ密度は小さくなる。また、かさ密度が小さな発泡パーライトを用いれば、押湯スリーブ1の曲げ強さは低くなる傾向にある。すなわち、保温性と強度は相反するものであり、上記混合物としてかさ密度が1.4g/cm以下かつ押湯スリーブ1の曲げ強さが3MPa以上となるように、発泡パーライトの添加量を管理する他、発泡パーライトの加熱条件を調整し膨張発泡の程度を管理することも好ましい。
【0029】
本実施形態の押湯スリーブ1は、公知の通常のシェル中子成型方法と同じ成型方法で製造することができ、製造が容易でありながらも、発泡パーライトの空気層によって保温性に優れている。
【0030】
図1(A)に示す押湯スリーブ1は、周面壁11と底面壁12を有するシンプルな形状である。周面壁11と底面壁12で覆われた空間が押湯形成空間Sになる。底面壁12の中央部分には連通孔121が設けられている。
【0031】
図1(B)に示すように、砂型2は、上型2Aと下型2Bからなる生砂型であり、湯口カップ21、湯口22、湯道23および製品部24が設けられている。また、上型2Aにおける、下型2Bの製品部24の上方に位置する部分には、押湯スリーブ1を収容可能な収容空間が設けられ、この収容空間に押湯スリーブ1が収容されている。湯口カップ21に供給された溶湯は、湯口22から湯道23を通って堰から製品部24に流れ込む。製品部24に溶湯が充満すると、押湯スリーブ1の連通孔121から溶湯が押湯形成空間Sに流れ込み、押湯形成空間Sに溶湯が充填される。この押湯形成空間Sに充填された溶湯が、押湯に相当する。
【0032】
周面壁11および底面壁12それぞれの厚さ(肉厚)は、10mm以上30mm以下であることが好ましい。肉厚が30mmを超えると、軽量骨材に熱を取られて保温性が悪くなり、逆に肉厚が10mm未満であると溶湯圧力に負けて押湯スリーブ1が割れてしまう恐れがある。さらに、肉厚は、20mm以上27mm以下であることがより好ましい。
【0033】
また、押湯スリーブ1では、周面壁11の厚さよりも底面壁12の厚さの方を薄くしておいてもよい。押湯スリーブ1には、底面壁12を通して製品部24からの熱が伝えられるため、底面壁12では発泡パーライトの空気層が断熱をしないように底面壁12の厚さを相対的に薄くしておいてもよい。一方、周面壁11では、押湯形成空間Sに充填された溶湯の熱が逃げてしまわないように、発泡パーライトの空気層を厚くするため周面壁11の厚さを相対的に厚くしておいてもよい。すなわち、製品部24につながる連通孔121が設けられた壁は、その他の壁よりも厚さを薄くしておいてもよい。
【0034】
本実施形態では、軽量骨材として発泡パーライトを用いたが、発泡パーライトに限定されるものではない。軽量骨材についてはJIS A 5002(2003)で規定されている。単位体積重量で見れば25kN/m未満のものになるが、普通骨材とより明確に区別をするのであれば(空気層の保有率の観点からすれば)23kN/m未満のものになる。軽量骨材としては、SiOを主成分としたものであってもよい。SiOを主成分とした軽量骨材は、空隙構造を持ちやすい。より具体的には、珪藻土を用いてもよいし、シリカヒュームを用いてもよい。あるいは、発泡パーライト、珪藻土およびシリカヒュームの中から2種又は3種を組みあわせて用いてもよい。
【0035】
また、鋳物砂は、ムライト系、アルミナ系またはジルコン系等の人工砂であってもよいし、ジルコン、オリビンまたはスラグ系の特殊砂であってもよい。粘結剤は、フラン樹脂、フェノールウレタン樹脂、アルカリフェノール樹脂または水ガラス等を用いることもできる。
【0036】
さらに、押湯スリーブ1は、公知の通常のシェル中子成型方法と同じ成型方法で製造する他、製造が容易であれば、ガス硬化させる例えばコールドボックス法によって製造したものであってもよいし、自硬性(自己反応性)のもので製造したものであってもよい。
【0037】
図2(A)は、図1(A)に示す押湯スリーブの性能評価に用いた実施例1の押湯スリーブ1Eを示す図である。
【0038】
図2(A)に示す実施例1の押湯スリーブ1Eは、硅砂、発泡パーライト、フェノール樹脂を含んだ混合物を用いて、公知の通常のシェル中子成型方法と同じ成型方法で製造したものである。硅砂と発泡パーライトの配合比は、硅砂と発泡パーライトの合計を100体積%とした場合に、硅砂は60体積%であり発泡パーライトは40体積%である。発泡パーライトには、昭和化学工業株式会社製のハードライトB-04を使用した。ハードライトB-04単体のかさ密度は0.315g/cm~0.335g/cmである。フェノール樹脂の添加量は、上記混合物全体を100重量%とした場合に3重量%である。実施例1の押湯スリーブ1Eでは、底面壁12Eに連通孔121を設けずに塞いだ状態とし、k型の熱電対12sを設けた。周面壁11Eと底面壁12Eで覆われた押湯形成空間SEの容量は約220ccである。
【0039】
一方、比較例1として、硅砂を100体積%とし発泡パーライトを0体積%とした以外は上述の実施例1と同じである押湯スリーブも製造した。
【0040】
約700gのアルミニウム合金(AC4C)を5号黒鉛るつぼに入れ、電気炉で約780℃まで昇温して溶解させた。注湯温度が770℃となるように炉外で放冷し、実施例1の押湯スリーブ1Eと、比較例1の押湯スリーブそれぞれに上方から注湯した。押湯スリーブの底面壁に設けた熱電対により温度測定を行い、冷却曲線をデータロガーで記録した。実施例1の押湯スリーブ1Eも比較例1の押湯スリーブもそれぞれ複数個用意し、複数回の実験を行った。
【0041】
図2(B)は、実施例1の押湯スリーブ1Eと、比較例1の押湯スリーブそれぞれの冷却曲線を示すグラフである。このグラフは、データロガーで記録した複数回の実験結果の平均値を表すものである。
【0042】
図2(B)に示すグラフの横軸は経過時間(秒)を表し、縦軸は、熱電対で測定した温度(℃)を示す。また、実線は、実施例1の押湯スリーブ1Eの冷却曲線になり、点線は、比較例1の押湯スリーブの冷却曲線を示す。
【0043】
まず、凝固の始まりである初晶が出始める平均時間には差が見られ(tL=152秒,tL’=97秒)、この平均時間は、実施例1では比較例1と比較して約1.6倍に伸びている。また、共晶反応が始まる平均時間にも差が見られ(tE1=703秒,tE1’=473秒)、この平均時間は、実施例1では比較例1と比較して約1.5倍に延びている。さらに、共晶凝固が終了する平均時間にも差が見られ(tE2=1330秒,tE2’=985秒)、この平均時間は、実施例1では比較例1と比較して約1.4倍に延びている。また、初晶が出始めた時間から共晶凝固が終了する時間までの平均時間長(以下、「平均凝固時間長」という)は、実施例1では比較例1と比較して約1.3倍強延びている。これらのことから、実施例1の押湯スリーブ1Eは、比較例1の押湯スリーブよりも保温性が優れていることがわかる。
【0044】
実施例1の他に、実施例2~実施例5の押湯スリーブも製造した。また、比較例1の他に、比較例2の押湯スリーブも製造した。実施例2~実施例5および比較例2では、硅砂と発泡パーライトの配合比を変更した以外は実施例1と同じである。
【0045】
各例における押湯スリーブの曲げ強さ(抗折力)を測定した。ここでの測定は、JACT試験表SM-1曲げ強さ試験法で規定されている方法に従って行った。
【0046】
また、実施例1~5および比較例1~2それぞれで用いた混合物のかさ密度も算出した。
【0047】
結果を表1にまとめて記す。
【0048】
【表1】
また、実施例1~5および比較例1~2それぞれで使用した硅砂の粒度指数は、JIS粒度指数45以上170以下(AFS粒度指数30以上100以下)の範囲であった。なお、JIS粒度指数は、JIS Z 2601(1993)で規定されている粒度指数の求め方に基づいた粒度指数であり、AFS粒度指数は、アメリカ鋳造協会が定めた粒度指数である。
【0049】
まず、実施例1の押湯スリーブ1Eでは、曲げ強さが4.7MPaであり、混合物のかさ密度が1.281g/cmであった。上述のごとく、実施例1では比較例1と比較して保温性につき約1.5倍前後の効果が確認されている。このことから、かさ密度が1.281g/cmあれば、保温性は十分であることがわかる。一方、比較例1では、かさ密度が1.501g/cmもある。また、実施例1の押湯スリーブ1Eを普通に取り扱う上で、押湯スリーブ1Eが欠けてしまったり割れてしまったりすることはなく、強度不足を全く感じなかった。曲げ強さの測定結果は4.7MPaであった。なお、比較例1の押湯スリーブでは9.2MPaであった。
【0050】
実施例2では、発泡パーライトの配合比を上げ50体積%まで配合した。この実施例2の押湯スリーブは、普通に取り扱う上で少し欠けてしまう場合もあり、強度的にはこの辺りが限界であると考えられる。曲げ強さの測定結果は2.9MPaであった。この結果、硅砂と発泡パーライトの配合比は50体積%を上限とし、曲げ強さは、3MPaは必要であるという結論に至った。
【0051】
実施例3では発泡パーライトの配合比を下げ20体積%とし、比較例2ではさらに下げて10体積%とした。実施例3の押湯スリーブは、比較例1の押湯スリーブと比較して、平均凝固時間長が約1.2倍弱長くなっており、比較例2の押湯スリーブは、比較例1の押湯スリーブと比較して、平均凝固時間長が約1.1倍弱長くなった。複数回の実験では、平均凝固時間長に多少のばらつきが認められることから、約1.1倍弱では不十分であり、保温性が良好であるといえるのは、約1.2倍弱は必要であり、その結果、発泡パーライトの配合比が20体積%は最低でも必要と考えた。また、実施例2の混合物のかさ密度が1.396g/cmであったことから、混合物のかさ密度の上限を1.4g/cmとした。
【0052】
実施例4では、発泡パーライトの配合比を実施例1と実施例2の中間にあたる45体積%とした。上述のごとく、実施例2の押湯スリーブは、普通に取り扱う上で少し欠けてしまう場合もあったが、実施例4の押湯スリーブではそのようなことはなかった。この結果、発泡パーライトの配合比の上限は50体積%よりも45体積%の方が好ましいといえる。また、実施例4の押湯スリーブの曲げ強さが3.6MPaであったことから、押湯スリーブの曲げ強さの下限は3.6MPaであることが好ましいといえる。
【0053】
実施例5では、発泡パーライトの配合比を実施例1と実施例3の中間にあたる30体積%とした。実施例5の押湯スリーブは、比較例1の押湯スリーブと比較して、平均凝固時間長が約1.25倍長くなったことから、発泡パーライトの配合比の下限は20体積%よりも30体積%の方が好ましいといえる。また、実施例5の混合物のかさ密度が1.349g/cmであったことから、混合物のかさ密度の上限は1.35g/cmであることが好ましいといえる。
【0054】
以上をまとめると、硅砂と発泡パーライトの配合比は、発泡パーライトの比率を高めれば保温性は向上するが、高めすぎると押湯スリーブの強度不足になってしまうことから、発泡パーライトの比率は、20体積%以上50体積%以下であることが必要であり、30体積%以上45体積%以下であることがより好ましい。また、混合物のかさ密度で見てみると、1.4g/cm以下である必要があり、1.35g/cm以下であることがより好ましい。さらに、押湯スリーブの曲げ強さで見てみると、3MPa以上は必要であり、3.6MPa以上がより好ましい。
【0055】
また、各実施例では、発泡パーライトを用いたが、SiOを主成分とした軽量骨材であれば、空隙構造を持ちやすく、発泡パーライトと同様の効果を期待することができる。特に、珪藻土およびシリカヒュームは、発泡パーライトに代えて用いることができる。あるいは、発泡パーライト、珪藻土およびシリカヒュームの中から選択した2種類の軽量骨材を混ぜ合わせて用いてもよいし、3種類全てを混ぜ合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明は、これまでに説明した実施の形態や実施例に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、溶湯は、アルミニウム合金に限らず、鉄であってもよいし、マグネシウム合金等の非鉄金属であってもよい。鋳物砂も、硅砂には限られない。
【符号の説明】
【0057】
1,1E 押湯スリーブ
11,11E 周面壁
12,12E 底面壁
S,SE 押湯形成空間
図1
図2