(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106925
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】非接触送電装置、非接触受電装置、および、非接触電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/90 20160101AFI20240801BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
H02J50/90
H02J50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011431
(22)【出願日】2023-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】719005611
【氏名又は名称】澤山 昇
(72)【発明者】
【氏名】澤山 昇
(57)【要約】
【課題】非接触電力伝送の伝送電力や効率を規定する自然法則を明らかにして、最適な装置の設計を可能にする。
【解決手段】非接触電力伝送装置と受電装置のQ値の積を、結合係数kと効率ηを含む簡潔な式で表す「任意効率の最大電力伝送定理」を証明する。この定理に含まれるパラメータを用いて、電力伝送装置と受電装置に許容される容積に応じたQ値の配分を行い、目標電力と効率を達成するための最適な回路定数を明確にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の範囲内の角周波数の交番電圧を生成する電源と変動磁場を生成する1次コイルを含む1次共振回路を有する送電装置と、前記変動磁場に感応する2次コイルを含む2次共振回路を有する受電装置の相対位置が変更可能な非接触電力伝送システムにおいて、
前記1次共振回路のクオリティファクターをQpとし、前記2次共振回路のクオリティファクターをQsとし、
前記1次共振回路の消費電力Ppと前記2次共振回路の受電電力Psの比Pp/Psをζとし、前記変動磁場と前記2次電流の位相差をθとして、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが[数1]が成り立つ値になる相対位置が存在することを特徴とする非接触電力伝送システム。
【数1】
【請求項2】
所定の範囲内の角周波数の交番電圧を生成する電源と変動磁場を生成する1次コイルを含む1次共振回路を有する送電装置であって、前記変動磁場に感応する2次コイルを含む2次共振回路を有する受電装置と共に非接触電力伝送システムを構成し、前記送電装置と前記受電装置の相対位置が変更可能なものにおいて、
前記1次共振回路のクオリティファクターをQpとし、前記2次共振回路のクオリティファクターをQsとし、
前記1次共振回路の消費電力Ppと前記2次共振回路の受電電力Psの比Pp/Psをζとし、前記変動磁場と前記2次電流の位相差をθとし、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが[数2]が成り立つ値になる相対位置が存在することを特徴とする非接触送電装置。
【数2】
【請求項3】
1次コイルを含む1次共振回路を有する送電装置の作る変動磁場に感応する2次コイルを含む2次共振回路を有し、前記送電装置との相対位置が変更可能な受電装置において、
前記1次共振回路のクオリティファクターをQpとし、前記2次共振回路のクオリティファクターをQsとし、
前記1次共振回路の消費電力Ppと前記2次共振回路の受電電力Psの比Pp/Psをζとし、前記変動磁場と前記2次電流の位相差をθとし、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが[数3]が成り立つ値になる相対位置が存在することを特徴とする非接触受電装置。
【数3】
【請求項4】
所定の範囲内の角周波数の交番電圧を生成する電源と変動磁場を生成する1次コイルを含む1次共振回路を有する送電装置と、前記変動磁場に感応する2次コイルを含む2次共振回路を有する受電装置の相対位置が変更可能な非接触電力伝送システムにおいて、
前記送電装置固有の共振角周波数をωp半値全幅をδωpとし、前記受電装置固有の共振角周波数をωs半値全幅をδωsとし、前記1次共振回路の消費電力Ppと前記2次共振回路の受電電力Psの比Pp/Psをζとして、前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数kが概略[数4]成り立つ相対位置が存在することを特徴とする非接触電力伝送システム。
【数4】
ただし、ξは 0.1 < ξ ≦1 の範囲の実数である。
【請求項5】
前記送電装置の交番電圧を生成する電源の電圧は調整可能であり、前記受電装置の充電器は、充電能力と等価抵抗を変更可能であって、
前記交番電圧を大きくする場合には、前記充電能力と前記等価抵抗を大きくすることを特徴とする特許請求項1の非接触電力伝送システム。
【請求項6】
前記送電装置の交番電圧を生成する電源の電圧は調整可能であり、前記受電装置の充電器は、充電能力と等価抵抗を変更可能であって、
前記交番電圧を大きくする場合には、前記充電能力と前記等価抵抗を大きくすることを特徴とする特許請求項4の非接触電力伝送システム。
【請求項7】
前記送電装置の交番電圧を生成する電源の電圧は調整可能であり、前記送電装置と前記受電装置の相対位置を変更することなく前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数を変更する手段を有し、
前記結合係数を大きくする場合には、前記交番電圧を大きくすることを特徴とする特許請求項1の非接触電力伝送システム。
【請求項8】
前記送電装置の交番電圧を生成する電源の電圧は調整可能であり、前記送電装置と前記受電装置の相対位置を変更することなく前記1次コイルと前記2次コイルの結合係数を変更する手段を有し、
前記結合係数を大きくする場合には、前記交番電圧を大きくすることを特徴とする特許請求項4の非接触電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1980年代に、電動歯ブラシやシェーバーなどの小電力機器を、殆ど密着した状態で非接触充電するものが商品化された非特許文献1。また、1990年代には、情報と共に微弱ではあるが情報を処理するのには十分な電力を数メートルの距離を隔て送受電する、非接触ICカードやRFIDタグなどが登場した。その後、ノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器が急速に普及するに従い、これらのバッテリーを充電するための非接触電力伝送の開発やその規格化に検討も始まった。2000年台に入るとバッテリー性能の向上と相俟って、EV車やEVバスなどの大型機器への非接触電力伝送の研究開発や実証実験が広まった非特許文献2、3)。
【0002】
2007年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のグループが、誘導場が減衰し、輻射場が誘導場の数%程度になる距離(エバネッセント・テール)でも、十分に大きなQ値のコイル(自己共振コイル)を用いれば、数十ワットオーダーの電力伝送が可能ことを実証し、WiTricityと命名した非特許文献4。電力伝送に寄与しなかった近接場のエネルギーは、基本的に(ヒステリシスや渦電流で消費された分を除き)元の回路に戻る非特許文献8。従って、エバネッセント・テールで小さな電力伝送しかできなかったとしても、残りの大部分の場のエネルギーは回収されるので、高い効率が期待できる。
【0003】
一方、輻射場(マイクロ波)による非接触電力伝送では、場がアンテナを通過する際に生じる起電力は小さく、大部分のエネルギーは場と共に散逸する。高効率(約50%)のレクテナの報告も少なくないが、散逸エネルギーを無視した整流器のみの評価である非特許文献4。全体の効率は極めて小さく、実用的な電力伝送はサイズ・コストの両面で非現実的である。入射電磁波の大部分を吸収し、環境光での発電さえ可能な太陽光パネル(効率約25%)の方が有望である。何れにせよ、実用的な非接触電力伝送の可能性を有するのは誘導場のみと考えてよい。
【0004】
WiTricityの(非特許文献5)を契機に多くの大学やメーカで高周波を用いた非接触電力伝送の研究開発に拍車がかかった特許文献1-3)。このとき、情報伝達(IT)で発達した計測機器だけでなくインピーダンスマッチングを前提とする2端子対法などの解析手法が持ち込まれた。例えば、Sパラメータの透過係数を効率と見做し、反射を抑えて透過を大きくするのが良いとするものが多数みられる(非特許文献6、7)。しかし、反射や透過といった現象が起こる高周波では、1次コイルの導線中で電流の位相が変化し(場合によっては反転し)、2次コイルを貫通する磁束の総和は小さく(場合によっては略ゼロに)なる。従って、磁場による非接触電力伝送システムは反射や透過の無い準静的な系でなければならない。
【0005】
無論、Sパラメータなどの手法を用いない研究も少なくない。例えば、非特許文献3ではコイルのkQ積が重要な因子であるとした。また、特許文献4では「送電コイルに流れる電流が最小となるように送電電力の周波数を調整することによって、送電コイルと受電コイルとの間の電力伝送効率を高めることができる」としている。しかし、これらの方法は相対的に良い条件を求めることができたとしても、それが最良のもの(最適条件と呼ぶ)かは示せてないため、終わりのない改良が繰り返されることになる。
【0006】
モバイル機器や電気自動車を対象とした多くの非接触電力伝送コンソーシアムは、10年以上経っても目標仕様を達成できないでいる。それは、目標仕様が過剰な期待に押し上げられた結果、実現不可能なものになっている可能性が高い。つまり、非接触電力伝送にも、熱機関に於ける熱力学第二法則のような効率の限界を決める自然法則が存在していて、その限界を超えた仕様になっている可能性がある。
【0007】
特許文献5では「伝送可能な最大電力が電源電圧と1次抵抗と伝送効率で一意的に定まる」という定理を「1次回路と2次回路の時定数が等しい」という条件(等時定数条件)の下に導いている。この条件は、1次回路と2次回路のQ値がほぼ等しい非接触電力伝送装置に限定するので、汎用性はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4453741号公報
【特許文献2】特許第5069726号公報
【特許文献3】特許第5190108号公報
【特許文献4】特許第6409750号公報
【特許文献5】特願2020-218101号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】安倍秀明, 坂本浩, 原田耕介:「非接触充電システムにおける負荷整合」電学論D, Vol.119, No.4, pp.536-543 (1999)
【非特許文献2】紙屋雄史, 大聖泰弘, 松木英敏:「電動車両用非接触急速充電システム」,電学誌, Vol.128, No.12, pp.804-807 (2008)
【非特許文献3】遠井敬大,金子裕良,阿部茂,非接触給電の最大効率の結合係数kとコイルのQによる表現,電気学会論文誌, Vol. 132, No. l, pp. l23-124, 2012.
【非特許文献4】N. Shinohara, H. Matsumoto, A. Yamamoto, H. Okegawa, T. Mizuno, H. Uematsu, H. Ikematsu, and I. Mikami, “Development of High Efficiency Rectenna at mW input (in Japanese)”, Tech. Report of IEICE SPS2004-08 (2005-01), pp.15-20, Jan. 2005
【非特許文献5】Andre Kurs et al.: “Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances”, Science 06 Jul 2007: Vol. 317, Issue 5834, pp. 83-86 アンドレ・クルス(Andre Kurs)、他5名、“ワイヤレス パワー トランスファー バイア ストロングリィ カップルド マグネティック レゾナンス(Wi reless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances)”、 [online]、 2007年7月6日、サイエンス(SCIENCE)、第317巻、p.83-86、[平成2 007年9月12日検索]、 インターネット URL:http://www.sciencemag.org/cgi/reprint/317/5834/83.pdf
【非特許文献6】居村岳宏, 内田利之, 堀洋一:「近傍界用磁界アンテナの共振を利用した高効率電力転送の解析と実験―基本特性と位置ずれ特性―」, 平成 20 年電学産応部門大会, Vol.II, 2-62, pp.539?542 (2008)
【非特許文献7】日下佳祐, 伊東淳一:「磁界共振結合による非接触給電の駆動用電源及び受電側整流器に関する一考察」, 電学論 D, Vol. 132, No. 8,pp.849-857(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電気自動車(EV)等への非接触電力伝送は膨大な開発投資が行われ、数年の内に実用化するとアナウンスされたにも拘らず10年以上も実現できていない。これは単に技術が未熟なだけでなく、目標達成できない理由:熱力学の第二法則に相当する非接触電力伝送の限界を規定する法則があり、それを認知していないために、実現不可能な目標をている可能性がある。
【0011】
本発明は、非接触電力伝送の限界を規定する法則「任意効率の最大電力伝送定理」を証明・定式化することで、実現可能な上限の目標値とそれを達成するための最小の回路定数を明確にして、最適な非接触の送電装置、受電装置、および電力伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の非接触電力伝送システムは[
図1]の概念図で表され、所定の範囲内の角周波数の交番電圧を生成する電源と変動磁場を生成する1次コイルを含む1次共振回路を有する送電装置と、前記変動磁場に感応する2次コイルを含む2次共振回路を有する受電装置の相対位置が変更可能な非接触電力伝送システムであって、1次共振回路固有のクオリティファクターをQpとし、2次共振回路固有のクオリティファクターをQsとし、1次共振回路の消費電力Ppと2次共振回路の受電電力Psの比Pp/Psをζとし、1次コイルの生成する変動磁場と2次電流の位相差をθとして、1次コイルと2次コイルの結合係数kが[数1]が成り立つ値になる相対位置が存在することを特徴とする。
【数1】
【0013】
また、ω0 を励磁電源の角周波数として、共役回路の静電容量が概略[数2]で与えられ、コイルのインダクタンスが概略[数3]で与えられることを特徴とする。
【数2】
【数3】
ただし、ν ξ は概略[数4]を満たす正の実数である。なお、ξ は 0.1 < ξ ≦1 の範囲であることが望ましい。
【数4】
【0014】
また、送電装置固有の(つまり孤立状態に於ける)1次共振回路の共振角周波数をωp 半値全幅(FWHM)をδωpとし、受電装置固有の2次共振回路の共振角周波数をωs 半値全幅をδωsとして、概略[数5]成り立つ結合係数kが得られる相対位置が存在することを特徴とする。
【数5】
ここで、ξ の2乗は[数6]で求めることもできるが、 0.1 < ξ ≦1 の範囲であることが望ましい。
【数6】
なお、概略[数5]成り立つとしたのは、1次2次共振回路固有の共振角周波数の2乗は[数7]で与えられ、厳密には励磁電源の角周波数 ω0 とは異なる。しかし、後の数値計算でも分かるようにその差は僅かである。
【数7】
【0015】
さらに、結合係数を変更可能な機構を送電装置または受電装置(またはその両方)に搭載し、送電電圧を調整可能な電源を有する送電装置を用いて、最適条件と最適条件より大きな電力や効率が得られる条件を切り替え可能にして、最適条件による充電と急速充電が切り替え可能な非接触の送電装置、受電装置、および電力伝送システムを提供する。
【0016】
また、送電電圧を調整可能な電源を有する送電装置や、充電能力と等価抵抗を変更可能な充電器を有する受電装置を用いて、最適条件と最適条件より大きな電力や効率が得られる条件を切り替え可能にして、最適条件による充電と急速充電が切り替え可能な非接触の送電装置、受電装置、および電力伝送システムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の任意効率の最大電力伝送定理により、与えられた任意の効率で伝送可能な最大電力を実現するための送電装置の有する1次共振回路固有のQ値:Qp、及び、受電装置の有する2次共振回路固有のQ値:Qsが求まる。1次コイルと2次コイルが磁気的に結合していない(結合係数k=0)状態のQ値であることを明示するために「固有」とした。従って、通常のLCR共振回路の回路定数とQ値の関係式[数8]でQqを求めることができる。Q値はアナログ回路の基本的な特性値であり、多くのアナログ回路設計者は容易にその実現可能性=難易度を推測できるというメリットがある。
【数8】
【0018】
また、よく知られているように、Q値は共振周波数と半値全幅(FWHM=δωp)から[数9]で求めることができる。
【数9】
ここで、ωq1、ωq2 はピーク電力の 1/2 の電力(電流が1/√2)になる共振周波数の前後の周波数である。一般に、周波数特性の測定は回路定数を測定するのに比べて容易である。従って、実際の装置が設計通りに出来ているか否かを[数9]を用いて簡単に確認することができる。
【0019】
特に、非接触電力伝送装置の磁気抵抗はエアギャップ(比透磁率1)の磁気抵抗が支配的であり、如何に高い透磁率を有していたとしてもコア材料は殆どの寄与しない。また、コイルの材質は銅系かアルミ系しかなく、コイルの抵抗率の選択肢は限られている。Q値を大きくするには、インダクタンスを大きくし抵抗値を下げる必要があるが、何れの場合もコイル体積を大きくする必要がある。つまり、所定のQ値を得るにはそれに相応する空間(体積)が必要であり、装置に許容される体積が伝送電力や効率の律速になる。
【0020】
[数36]で求まる最適Q値は比較的大きな値であり、与えられた空間で実現できないことも少なくない。このような場合には、目標仕様を最低限必要な値(例えば伝送電力を発熱量が問題にならないレベル)に縮減した最適Q値を基本の動作条件とし、適時、動作条件をの望ましい値(例えば急速充電が可能な伝送電力)に切り替え可能にすることで、安定性と利便性を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】非接触電力伝送システムの電力伝送経路の概念図
【
図4】非接触電力伝送システムの電力伝送経路の概念図
【
図5】パラメータ ξ が変化したときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性
【
図6】結合係数kが変化したときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性
【
図7】目標効率η が変化したときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性
【
図8】2次抵抗 Rs とkが変化したときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性
【
図9】共振コンデンサで再調整したときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性
【発明を実施するための形態】
【0022】
《1》基礎理論の構築
本発明の目的を達成するために、効率(発熱量)を含む与えられた仕様を満す最適な(つまり、最小のリソースで実現できる)回路定数を求める2つの理論:任意効率での最大電力伝送定理MPTT (Maximum Power Transfer Theorem with Arbitrary Efficiency) とこれを実現する最適Q値定理 OQT (OptimalQTheorem)を構築する。
【0023】
[
図1]に示す概念図の最もシンプルな磁気結合共振回路を理論構築のベースとする。記号は慣例に従い、Rq:抵抗、Cq:コンデンサ容量、Lq:コイルインダクタンス、M:相互インダクタンス、k:結合係数を表す。ただし、サフィックスpは1次、sは2次回路に関する量であることを表し、双方を指すを変化させたときの1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性場合はqで代表させる。文中ではサフィックスをこのように小文字で表すが、数式の中では大文字の下付き文字で表す。
【0024】
[
図1]の回路にKirchhoffの電圧則を適用すると[数10]が得られる。
【数10】
ここで、Mの前の複合"±"は、起電力と2次電流の方向の任意性による。
【0025】
電源の電圧波形が三角関数の場合、電流も同じ周波数の三角関数になると考えられ、これらを[数11]の複素指数関数で表し、[数10]に代入すると、特性方程式[数12]が得られる。
【数11】
【数12】
[数12]は簡単に解け、その解を伝達インピーダンス F と駆動点インピーダンス G を用いて次のように表せる。
【数13】
よって、1次2次共振回路の消費電力 Pq は次式で与えられる。
【数14】
【0026】
電力伝送経路の抵抗は小さい方が望ましく、負荷抵抗は使用目的によって規定されるのでRqは調整因子にはなりえない。送電装置と受電装置の相対位置が一定しない系を対象とするので、結合係数も調整因子にはならない。また、一般に、電源周波数も送電装置と受電装置の整合を取るための規格によって規定されるので調整因子にはならない。従って、1次回路と2次回路の全抵抗と結合係数や電源周波数は与えられたものとし、LqとCqを調整因子して伝達インピーダンスFの絶対値が最小となる条件を求めることが課題となる。
【0027】
本発明では効率ηを「全消費電力に対する2次回路の消費電力の比」で定義する。
【数15】
通常の効率「全消費電力に対する負荷RLでの消費電力に比」はηRL/Rsで求まる。
【0028】
『任意効率の最大電力伝送定理』
電源のある1次側共振回路が誘導によって2次側共振回路に電力を伝達しているとする。電源の電圧をEe、1次側共振回路の抵抗をRp、電送電力と入力電力の比を効率ηとする。任意の効率ηでの最大伝送電力は次式で与えられる。
【数16】
【0029】
『証明』
ζの表式から1/ω
0
2の完全二乗を抽出する。
【数17】
完全二乗項(第2項の分子)が0となるのは
【数18】
【数19】
【数20】
【0030】
コンデンサ容量 Cq(自由度2)を正の実数 ν, ξ 用いて以下のように表す。
【数21】
これを、[数18]、[数20]に代入すると、Lqは次のように表せる。
【数22】
[数21]、[数22]を用いると、伝達インピーダンスFの式に代入し、実関数の共通項Aと複素関数のBの積として表す。
【数23】
同様に、Fのνによる偏微分∂
νFを次のように表す。
【数24】
【0031】
Fと∂
νFの内積(F,∂
νF)から、実関数を括りだすことができる。
【数25】
BとB'の内積は:実部どうしの積が9×15=135項、虚部どうしの積が6×9=54項で、合計184項の多変数高次多項式であり、因数分解は容易ではない。
そこで、内積計算を行う前に変数変換:ν
2→x、k
2→yを行い、それらをyζの1次式にまとめ、各係数を因数分解することで、出現する項数を減らして見通しを良くする。
【数26】
内積(B,B')はyζの2次式になる。
【数27】
W2、W1は容易に因数分解できた。しかし、W0は因子の一部が括り出せただけで長い式w0が残った。yの2次式であるw0を、yの1次式の積として表わす。
【数28】
このyの2次の係数はαが(0から3までの整数の)何れの値であっても[数27]のそれに等しく、yの0次の係数はαに無関係に等しい。yの1次係数が[数27]w0式のyの1次係数に一致するためには、αは1でなければならない(なぜなら、αが1以外の場合には[数28]のyの1次係数にxの4次の項が現れて[数27]w0式に一致しない)。よって、α=1を用いて
【数29】
と因数分解できる。これを[数27]の(B,B')式に代入すると、次のようになる
【数30】
w0のときと同様に、B’’をyζの2次の係数と0次の係数が等しいyζの1次式の積で表す。
【数31】
この式のyζの1次係数が[数31]のyζの1次の係数に等しくなるように、指数α、β、γ、δを決める。
【数32】
左辺のxの最低次数は2であるから、δは1でなければならない。なぜなら、δが1以外の場合は右辺にxの0次の項が現れ、等式が成り立たなくなる。
また、左辺のxの最高次数は3であるから、γは1でなければならない。なぜなら、γが1以外の場合は右辺にxの4次かそれ以上次数の項が現れ、等式が成り立たなくなる。
よって δ=1 と γ=1 を代入し、両辺から共通項 x(2ξ
2+x) を除くと
【数33】
が得られる。この第2項の後半は次のように展開できる。
【数34】
[数33]が成り立つためには、α=0, β=1 でなければならない。よって、B”は
【数35】
であり、内積(F,∂
νF)は次のように表せる。
【数36】
これを変数の逆変換を行うと、次式が得られる。
【数37】
この内積が0となる2より大きいの解を有するのは、次の第2項だけである。
【数38】
これは、νの2乗の2次式であり容易に解けて、次のようになる。サフィックス”o”は最適解を意味する。
【数39】
【0032】
[数30]をBの実部から引き、虚部に加えるとFは次のようになる。
【数40】
これをPsの式に代入すると、定理の式が得られる。『証明終わり』
【0033】
同様にGは、[数10]に[数23][数24]を代入して、[数30]を用いると次式が得られる。
、
【数41】
【0034】
Goは実関数であり、最適状態の電源から見た力率は常に1である。また、GoとFoの絶対値はkやξに依存しない。Foの偏角θoは、1次回路の電流の作る磁場と2次電流の位相差(力角)に等しく、cosθo は力率と解釈できる。
【0035】
『最適Q定理』
『証明』
任意効率の最大電力伝送定理を導く過程で得られたLq[数22]をω0/Rqで割ると、次のQqが得られる。
【数42】
これが最大電力伝送条件になるのは明らかである。『証明終わり』
以後、この任意効率の最大電力伝送定理を満たす条件を「最適条件」、最適条件を満たすQ値を「最適Q値」と略称する。
【0036】
『最適Q積』
最適Qの積は次の式を満たす。
【数43】
つまり、「1次電流の作る磁場が2次電流に及ぼす力(起電力)は力率 cosθo電送(ただし、θoは磁場が2次電流の位相差)分低減するので、伝送電力は cosθo の2乗で低下する。従って所定電力を伝送し目標効率を達成するにはQ値の積をその分大きくしなければならない」ことを意味している。力率分の低減は、発電機やモーターなどの1次と2次で位相差を有する電気機械で普遍的に起こる現象であるが、磁気結合共振回路の場合には、2次電流の生成に力率が掛かり、その電流と相互作用する起電力にも力率が掛かるので、力率の2乗が掛かることになる。
【0037】
以上で基礎理論は完成した。MPPTwAE での効率と伝送電力の関係は、シングルループ回路と同じであり、MPPTwAEを実現するQファクタの積は、送信磁界と受信電流の力率の2乗に反比例する。これらの特徴は、定理が自然界の法則を反映していることの証でもある。
【0038】
[実施の形態]
[
図1]では、インダクターを大径のリング状ソレノイドコイル(通常の電気記号ではない)で表した。それは、非接触電力伝送においては、大きなエアギャップを隔てて如何に大きな磁場を遠くまで届けるか、つまり結合係数を大きくするかが課題であり、大口径ソレノイドはそれに適しているからである。また、図示しないがコイルの背面(回路側)や側面を強磁性体で覆う場合もある。これは、磁気抵抗を下げ磁束密度を大きくすると共に、相対するコイル方向への磁場の広がりを大きくする効果がある。また、本発明は[
図2]に示すように、送電装置と受電装置の間に適時磁性体のコアを挿入するものも、本発明の実施形態に含まれる。さらに、これと同様の磁気抵抗を下げ結合回数を大きくする効果があるように、既存の磁性体の配置や配向を変更するものも含む。
【0039】
[
図3]は本発明の実施の形態による非接触電力伝送システムのブロック図で、[
図4]はその代表的な等価回路の一例である。電力供給源100と励磁電源(誤解の恐れの無い場合には基礎理論でしたように単に電源と称する)101と1次共振共役回路102と1次コイルLpから成る。電力供給源100は、系統電力(商用電源)や風力発電、太陽光発電および蓄電池等の外部の電力を、変圧器や整流器等を介して電源101に供給するものであり、電力供給源100の内部の電流は直流(DC)もしくは低周波(LF)であり、電力伝送のための高周波(HF)電流Ipとは異なる。
【0040】
《2》設計理論
単純な線形回路[
図1]に正弦波電圧を印加することを前提に導いた「任意効率の最大電力伝送定理」や「最適Q定理」を、[
図3]のブロック図で表される実際の装置に適用するために、以下のことを明確にする。
1.適用範囲
2.スイッチング電源の正弦波電源近似
3.電源-電池効率との関係
【0041】
「1.適用範囲」
[
図3]の20が[
図1]の2次回路に相当し、2次コイルLsと2次共振共役回路202と整流回路203と負荷204から成る。実際の装置はIC化などの「埋め込み」処理により、このようなブラックボックスになっていることも少なくない。しかし、励磁電源やコイルなどのリード線にLCRメータやネットワークアナライザを接続して、共振周波数ωqや半値全幅δωqを測定することができる。このとき、励磁電源や整流回路以降の負荷を以下に述べる等価電源や等価抵抗で置き換えてもよい。
[
図4]の等価回路では負荷は2次電池のみ記載しているが、実際には2次電池の入力電圧を調整したり、2次電池から更に外部へ電力を供給する回路が付属する。受電電流Isは、常に整流回路203の電圧に抗して流出し、電力を外部に放出する以降が受電電流Isに働く抵抗が負荷(回路)となる。従って、[
図3]の励磁電源101以降が本発明の定理の適用範囲である。
【0042】
「2.スイッチング電源の正弦波電源近似」
非接触で実用的な電力を伝送するには、リアクタンスωLを大きくする必要があり、インダクタンスL(従ってコイルのサイズ)が過大にならないように周波数ωを電力伝送としては大きな値に設定される。そこで、励磁電源には電力源から供給されたDC電圧を所定の周波数で極性を反転し矩形波の交番電圧を生成するスイッチング電源が用いられる。以下では、このような矩形波の励磁電源をどのように理論に組み込むべきか議論する。また、低周波の電力源(例えば系統電力)を直接スイッチングするものに流用する場合には、以下の結果を低周波の周期で時間平均すればよい。
【0043】
E0
swの定電圧電源をスイッチングした場合と同じ電力を供給する正弦波電源の実効電圧Eeを求める。基本的な考え方は、1サイクルの仕事量が等しくなるように実効値を決定することである。非接触電力伝送回路のQ値は大きい(5~100程度)ので電流Ipは殆ど正弦波になる。従って、実効電圧は次式で求まる。
【数44】
なお、E0
swは[
図3]や[
図4]のa-a'端子間の電圧である。a-a'端子から入力した電力とb-b'端子から出力される電力の差(損失)は励磁電源101の内部抵抗(残留抵抗の一部)によるものとして取り扱う。
【0044】
[
図2]の2次回路のダイオードブリッジは交番電流Isを整流し、常に2次電池E
Bを充電する方向に電流を流す。Isは充電電圧に抗して流れるので電力を消費する。その一周期の平均値と等価負荷(バッテリー)抵抗R
Bでの消費電力が等しいとして次式が得られる。
【数45】
この式は、スイッチング素子のON抵抗や充電制御による電圧降下を無視したものになっているが、それが無視できない場合には、実際の充電電圧ではなくスイッチング素子への入力電圧をE
Bとして用いなければならない。また、スイッチング素子でのロスは残留抵抗に含める必要がある。
【0045】
「3.電源-電池効率との関係」
一般には、効率とは電源から供給された電力に対する電池に供給される電力の比η
B(電源―電池効率)のことを指す。これと本発明の効率ηは次式の関係にある。
【数46】
ここで、γ
BはR
Bの Rs に対する比率である。2次回路の残留抵抗 R
res = R
S - R
Bを用いると、Rs 及び R
B は次のように表せる。
【数47】
電源-電池効率η
Bを大きくするためには、γ
Bを大きな(1に近い)値にする必要があり、これは2次抵抗 Rs を大きくすることになり、Qsの難易度が高くなる。
【0046】
《3》実際の装置への応用
以下のステップで任意効率の最大電力伝送定理を応用する。
1.入力パラメータと最適状態の関係の把握
2.電源-バッテリー効率 ηB の追加
3.最適条件からシフトした条件の応用
4.シフト状態の再調整
【0047】
「1.入力パラメータと最適状態の関係の把握」
[表1]は、入力パラメータ(input):η, k, ξ における特性値(Specifics):力率とQ値、固有値(Eigenvalus) 等を示した。ただし、固有値はその絶対値を2πで割ったもの(周波数の次元を持つので、記号 f を用いた)である。fp と fs は、1次と2次コイルが非結合状態(k=0)での1次回路と2次回路固有の共振周波数で、f1 と f2 は結合状態での2つの振動モードの共振周波数である。また、サフィックス 0 の特性値(at f0 )は電源周波数f0(90kHz)に於ける効率と消費電力である。最後の周波数特性(Freq. Dep.)には、効率と消費電力のピーク値とその周波数を示した。
【表1】
また、A行は、ξを1.0~0.2と、B行は、kを0.4~0.025と、C行は、ηを0.5~0.95と変化させ、他はそのデフォルト値 η=0.9, k=0.1, ξ=0.4 のときのものである。
【0048】
各パラメータは(実用的な範囲を超える程)大きく振っているが、力率(cosθo)は殆ど100%に近い値になっている。駆動点インピーダンス G は実数(位相角0)である[数41]のに対し、伝達インピーダンス F の位相角が θo である[数40]ことから、1次回路の作る磁場の変化が2次電流を引き起こす起電力となり、位相差が θo の2次電流を生じ、この2次電流と起電力の積が電送される電力になるので、力率の2乗が[数43]の分母に来るのは物理的にも自然な形である。
【0049】
位相調整回路を付加し力率を1にして効率が改善したとする文献も多いが、摩擦のある負荷系の位相が動力源の位相に遅れ生ずるのは普遍的な現象であり、電源と受電電流の位相差が 0(力率=1)に成り得るのか、甚だ疑問である。[表1]に見るように、最適化した非接触電力伝送システムの力率は1に極めて近い値ではあるが1ではない。付加回路によって力率を1に出来たとしても、少なくとも最適化した回路に対しては逆効果になる。
【0050】
[表1]の右端の3列(eff, Pp, Psの極値の周波数)がすべて90kHzにそろっている。つまり、意効率の最大電力伝送定理による最適化はこのようなパラメータの変化に対して特性値の変化が小さい(従って安定な)停留条件を選択することに他ならない。
【0051】
[
図5]は、A1,A3,A5の条件での1次と2次の消費電力PpとPp、および効率ηの周波数特性である。A1→A3→A5 と ξ が減少するに従い、Pp と Ps の2つのピークが低減し、A5 では1ピークになっている。また(定理の狙いどり)常に中央値は、eff=0.9, Pp=400W, Ps=3.6kW でその周波数は90kHzである。非結合状態の共振周波数 fq は殆ど変化しないが、結合状態のそれは大きく変化する。ここに挙げないが、固有値の実部の1次と2次の比 aP/aS は ξ の2乗に比例して減少するが、結合状態の固有値の実部の比 a1/a3 は逆に僅かではあるが増加する。これは、誘導結合により1次と2次の抵抗成分が交絡していることを意味する
【0052】
[
図6]は、結合係数kを変化させた B1, B3, B5 の条件の場合である。k が0.4のときは周波数特性のピーク間隔は大きく、k が小さくなるに従い、ピーク間隔が狭くなる。f(固有値の絶対値を2πで割ったもの)は周波数特性のピーク周波数に相当し、f3-f1はkに比例して大きくなる。その変化が、非結合状態の(fs-fp)より大きいのは、誘導結合が和と差(インダクタンスが増加する方向と減少する方向の合成)で成り立っていることに起因している。
【0053】
[
図7]は、目標効率ηを変化させた C1, C3, C5 の条件の場合である。f0(90kHz)での伝達パワーは、定理1の効率η依存性を示している。上記より、ξ, k,ηは、周波数応答の異なる特徴をほぼ独立に変化させていることが分かる。従って、ξ, k,ηを設計パラメータとして用いることで、望みの周波数特性を容易に実現することができる。
【0054】
「2.電源-バッテリー効率 ηB の追加」
ここでは、バッテリーを搭載した非接触電力伝送システムへ本定理を適用する方法について述べる。以下、バッテリーに関連する項目接尾辞Bで表す(例:ηB)。いま、[表1]のA4行:η=0.9, k=0.1, ξ=0.3, QP=100, QS=9 の条件を選択したとする。バッテリー抵抗比γB=0.9とすると、ηB=0.81となる。残留抵抗が1次回路と2次回路で同じとすると、RPは残留抵抗のみからなるため概略:Rs=10Rres=10Rpとなる。このとき、LpとLsは同じ大きさのオーダーになる。従って、受電装置の設置スペースが十分に取れるのであれば、このような条件も用いることができる。
【0055】
しかし、一般に受電装置のスペース狭く、送電装置と同等のインダクタンスを実現できないことが多い。そこで、γB = 0.8 とすると、ηB = 0.72 と RS ≒ 5RP:つまり Ls は Lp の約半分になる。もし、これでLs が十分小さくなり、Lp の方が問題になる場合には、ξ = 0.4 (つまり、A3やC4と同じ)にすると QP = 75 と QS = 12 で、Lp の困難さは軽減できる。このようにして、γBやξ を微調整してバッテリーを搭載するシステムの最適な条件を求めることができる。以下では、このC4条件を中心にして、より実用的な条件を探査する。
【0056】
「3.最適条件からシフトした条件の応用」
[表1]等のように、外部の電力源からの入力電力を 4kW とした場合、効率η=0.9では、送電装置の発熱量は400Wになる。また、バッテリー抵抗率γB = 0.9とすると、受電装置の発熱量は360Wで、さらにこれにバッテリーの発熱が加わる。このような装置を長時間稼働させると、温度が高くなり装置を損傷したり発火する危険性があり、強制冷却が必要になる。
【0057】
[表2]は最適条件 C4 のコイルインダクタンスやコンデンサ容量、及び、1次抵抗は固定して、2次抵抗 Rs = 5Ω, 10Ω, 20Ω と、結合係数k= 0.1, 0.1414, 0.2 の全て組み合わせた条件のもので、[
図8]はその周波数特性である。
【表2】
【0058】
[表3]は、結合係数k= 0.1 に固定して、Rs を 5Ω, 10Ω, 20Ω と変化させたものを[表2]から抜粋したもので、[
図8]の第1行に相当する。C4’のように(')のついた行は、各項目の変化が見やすいようにC4条件の値で割ったものである。f0(90kHz)における伝送電力Ps0 は、Rs の増加に伴い 3.6kW, 5.93kW, 8.42kW と増加するが、効率eff0 は 0.9, 0.818, 0.693 と低下する。また、eff, Pp, Psのピーク周波数は最適状態での 90kHz から数%シフトする。
【0059】
例えば Rs が、残留抵抗 Rres=1Ω で γB = 0.8, 0.9, 0.95であったとすると、バッテリーに供給される正味の電力 Pnet = γB*Ps は 2.88kW, 5.34kW, 8.0kW と増加し、同時に送電装置の発熱量 Pp0 = 0.4kW, 1.32kW, 3.73kWと増加する。このとき、送り側の効率が低下し受け側の効率が上昇して、電源-バッテリー効率 ηB = 0.72, 0.736, 0.658 と概略一定になる。従って、通常は小さな Rs で充電し、急速充電が必要なときに Rs を大きくするのが望ましく、急速充電時の送電電力を送電装置のみで変更する(例えば送電電圧を大きくする)ものより、受電装置側のバッテリー抵抗を制御する方式の方が、スペースの制約がある受電装置側の発熱量を小さくできるので有利である。
【表3】
【0060】
[表4]は、Rs を5Ω固定で、結合係数kを0.1, 0.1414, 0.2と変化させたもので、[
図8]の第1列に相当する。伝送電力Ps0 は 3.6kW, 1.99kW, 1.05kW と低下するが、効率eff0は0.9, 0.947, 0.973と増加する。結合係数を大きくする手段としては、伝送コイルと受電コイルの間隔を小さくする方法や[
図2]のように伝送コイルと受電コイルの間に軟磁性体を挿入したり、コイル周辺の磁気回路を構成する部材の配置を変更するなどして、磁気抵抗を小さくする方法がある。これらの変更には手間がかかることもあり、夜間などの時間的余裕があるときに、低電力だが低コストで充電する場合に適している。充電プラグを差し込む必要のある接触充電方式に比べると、手間も少なく安全性も高い。
【表4】
【0061】
[表5]は、結合係数kと Rs の組合わせを (0.1, 5Ω), (0.1414,, 10Ω), (0.2, 20Ω) と変化させたもので、[
図8]の対角要素に相当する。伝送電力と効率は略一定で Ps0 = 3.6kW、eff0 = 0.9 であるが、γB = 0.8, 0.9, 0.95であったとすると、電源-バッテリー効率 ηB は 0.72, 0.81, 0.855 となり、Rs の大きな組合わせが有利になる。更に大きな伝送電力が必要な場合は、電源電圧を上げればよい。
【表5】
【0062】
「4.シフト状態の再調整」
最適条件[表1]では、eff, Pp, Ps の極値の周波数がすべて90kHzに揃っているが、最適条件からkと Rs をシフトした[表2]では eff が極値(最大値)になる周波数は 90kHz より大きくなり、Pp, Ps の極値になる周波数は小さくなるる。これを、共振コンデンサ容量のみを調整して再度 90kHz に揃えたものを[
図9]に示す。
再調整後の eff0, Ps0 は再調整前の値と殆ど変わらず、周波数特性は[
図9]に示すように 90kHz を中心に略対称な形になっている。従って、種々の因子の変動に対して安定な条件と成っている。従って、最適条件の代わりにこの再調整条件を用いることも可能である。
【0063】
本発明の根幹をなる定理はKirchhoffの法則のみを前提としているので、周波数や伝送電力の広い範囲で応用できる。しかも、定理が決定する回路定数を適切に変更(定理から逸脱)することで、利便性を高めることもできる。また、「適用範囲」の外部には種々の回路やデバイスを接続することができ、応用範囲は極めて広い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
携帯電話を始めとするモバイル機器のワイヤレス充電、
キッチンやバズなどの水回りの機器の充電
AGV(無人搬送車)やドローンなどの小型機への充電
EV、HEV、バス、機動車、小型船舶の蓄電池充電
【符号の説明】
【0065】
Lp:1次回路のコイル(1次コイル)のインダクタンス
Cp:1次回路のコンデンサ(1次コンデンサ)の静電容量
Rp:1次回路の全抵抗(1次抵抗)
Ls:2次回路のコイル(2次コイル)のインダクタンス
Cs:2次回路のコンデンサ(2次コンデンサ)の静電容量
Rs:2次回路の全抵抗(2次抵抗)
RB:2次回路に接続されたバッテリー(負荷)抵抗
Rres:2次回路の全抵抗Rsから負荷抵抗RBを引いた残留抵抗
M :1次コイルと2次コイルの相互インダクタンス
k :1次コイルと2次コイルの結合係数
f :周波数(foは最適条件の周波数)
f0:電源周波数(通常f0=foは最適条件の周波数)
ω :角周波数(ωoは最適条件の角周波数)
G :駆動点インピーダンス(Goは最適条件での駆動点インピーダンス)
F :伝達インピーダンス(Foは最適条件での伝達インピーダンス)
v(t):電源電圧(瞬時値)
E0:電源電圧の振幅(v(t)=E0exp(jωt))
Ee:電源電圧の実効値
Ip:1次電流の実効値(ip(t)は瞬時値)
Vp:1次コンデンサの電圧の実効値(vp(t)は瞬時値)
Pp:1次回路の消費電力
Is:2次電流の実効値(is(t)は瞬時値)
Vs:2次コンデンサの電圧の実効値(vs(t)は瞬時値)
Ps:2次回路の消費電力
η :効率:2次回路の消費電力の全消費電力に対する比率 Ps/(Pp+Ps)
ζ :被装荷(1次回路の消費電力と2次回路の消費電力の比)Pp/Ps
θ :1次電流の作る磁場と2次電流の位相差角
cosθ:電力伝送の力角
なお、θoとサフィックスoを付け、最適状態を明示する場合もある
γB:バッテリー抵抗比:バッテリー(負荷)抵抗の2次抵抗に対する比率RBs/Rs
ηB:電源-バッテリー効率:全入力電力に対するバッテリーに供給された電力の比
なお、サフィックスにqは1次と2次の両方の回路定数や回路変数を表す