(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106927
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】遮光性と放熱性と導電性を兼備した合成樹脂の成形体を成形する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/044 20200101AFI20240801BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240801BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240801BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08J7/044 CER
C08J3/20 B CEZ
C08L101/00
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011433
(22)【出願日】2023-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F006
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F006AA33
4F006AA35
4F006AB72
4F006BA07
4F006BA15
4F006EA02
4F070AA44
4F070AA47
4F070AC04
4F070AE06
4F070AE30
4F070DB03
4F070DC02
4F070FC03
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BD041
4J002BD101
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4J002BE011
4J002BG021
4J002BN151
4J002CC021
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4J002CG011
4J002CK021
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002DA036
4J002FD116
4J002HA08
4J002HA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】第一に、遮光性を有する合成樹脂の成形体を成形する方法を見出す。第二に、従来の合成樹脂の成形体を成形する方法に従って、遮光性を有する合成樹脂の成形体を、様々な材質からなる合成樹脂のペレットを用いて、様々な形状からなる合成樹脂の成形体として成形する方法を見出す。第三に、合成樹脂の成形体に、遮光性以外の性質が付与できる。
【解決手段】最初に、カーボンブラックのアグリゲートの集まり2を、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低く、20℃における粘度が2-3mPa・秒である2つの性質を兼備するアルコールに分散し、アグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液を作成する。次に、合成樹脂のペレット1の表面全体を、懸濁液で満遍なく覆う。さらに、懸濁液で覆われた合成樹脂のペレットの集まりを用い、従来の合成樹脂の成形体を成形する方法に従って、遮光性と放熱性と導電性を兼備した合成樹脂の成形体を成形する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液によって、合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりを作成する方法は、
20℃における粘度が2-3mPa・秒である第一の性質と、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低い第二の性質を兼備する液体のアルコールの予め決めた重量に、該アルコールより少ない重量のカーボンブラックの集まりを容器に投入し、該アルコールを攪拌し、該カーボンブラックの集まりが前記アルコール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う板材を、該第一の懸濁液の上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記アルコールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働し、前記容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、前記アルコール中に粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる、この後、前記板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記加速度を加える処理とからなる一対の処理を前記容器に繰り返し、前記板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該板材に反発力が発生した時点で、前記アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記板材を前記容器から取り出す第一の工程と、
前記容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記アルコールを介して、前記粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、前記アルコールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の第二の懸濁液の重量より少ない重量からなる合成樹脂のペレットの集まりを、前記容器内に投入し、該合成樹脂のペレットの集まりを撹拌し、該合成樹脂のペレットの集まりを、前記第二の懸濁液に浸漬させる、この後、該合成樹脂のペレットの集まりを前記容器から取り出す、これによって、該合成樹脂のペレットの表面全体に、前記第二の懸濁液が該第二の懸濁液の粘度に応じた厚みで吸着し、該合成樹脂のペレットの表面全体が、前記第二の懸濁液で満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりが作成され、該合成樹脂のペレットの集まりを、前記容器から取り出す第三の工程とからなり、
前記3つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液によって、合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりを作成する方法である。
【請求項2】
請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
請求項1に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールが、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノールないしは1-ペンタノールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該いずれか1種類のアルコールを、請求項1に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールとして用い、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【請求項3】
請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
請求項1に記載したカーボンブラックがケッチェンブラックであり、該ケッチェンブラックを、請求項1に記載したカーボンブラックとして用い、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【請求項4】
請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
請求項1に記載したカーボンブラックがアセチレンブラックであり、該アセチレンブラックを、請求項1に記載したカーボンブラックとして用い、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、請求項1に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【請求項5】
遮光性と放熱性と導電性とを兼備した合成樹脂の成形体を成形する方法は、
請求項1に記載した3つの工程を連続して実施し、アグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液で、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、この後、該ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填し、該成形機ないしは該金型を昇温し、前記ペレットの集まりを、前記合成樹脂の成形が始まる温度に加熱し、さらに、該加熱を予め決めた時間継続し、この後、前記成形機ないしは前記金型によって、前記加熱されたペレットの集まりに、予め決めた応力を加える、この際、最初に、前記懸濁液からアルコールが気化し、前記アグリゲートの集まりが、前記ペレットの表面に重なり合って析出し、該ペレットの表面を、該アグリゲートの集まりが満遍なく覆うとともに、該重なり合って析出したアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位が、前記ペレットの表面に複数個所形成される、この後、前記ペレットが、前記合成樹脂の成形が始まる温度に加熱され、該加熱が予め決めた時間継続され、さらに、該ペレットに予め決めた応力が加えられる、これによって、前記ペレットが熱膨張するとともに、該ペレットに加熱に伴う反応が進み、さらに、該ペレットに応力が加わり、該応力を受けたペレットは、該ペレットの集まりにおける空隙を埋めるように変形し、さらに、該変形したペレットは、該ペレットの表面において、前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位から、前記変形したペレットの一部が滲み出る、さらに、該変形したペレットに応力が継続して加わり、隣接する前記変形したペレットから滲み出たペレット同士が結合する、この結果、前記変形したペレットが、前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりで満遍なく覆われるとともに、該変形したペレット同士が、前記滲み出たペレット同士の結合によって結合され、該変形したペレット同士が結合した該ペレットの集まりが、前記成形機内ないしは前記金型内に形成される、この後、該成形機ないしは該金型を冷却させ、前記変形したペレットの集まりが固化すると、該固化したペレットが前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりで満遍なく覆われるとともに、前記滲み出たペレットも固化し、該固化した滲み出たペレット同士の結合によって、前記固化したペレット同士が結合し、該固化したペレットの集まりからなる成形体が、前記成形機内ないしは前記金型内に成形される、遮光性と放熱性と導電性とを兼備した合成樹脂の成形体を成形する方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最初に、カーボンブラックのアグリゲートの集まりを、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低く、20℃における粘度が2-3mPa・秒であるアルコールに分散した懸濁液を作成する。次に、合成樹脂のペレットの表面全体を懸濁液で満遍なく覆う。さらに、懸濁液で覆われた合成樹脂のペレットの集まりを用い、従来の合成樹脂の成形法に従って、遮光性と放熱性と導電性を兼備した合成樹脂の成形体を成形する。
なお、カーボンブラックの全光線透過率が0%と小さく、合成樹脂のペレットの表面全体を、カーボンブラックのアグリゲートの集まりで満遍なく覆い、該ペレットの集まりを用い、従来の合成樹脂の成形法で成形体を成形すると、成形体は優れた遮光性を持つ。従って、成形体に紫外線が連続して照射しても、成形体は劣化しない。また、カーボンブラックは、黒体の熱放射との比率である熱放射率が0.95-0.97と高い。このため、成形体は優れた放熱性を持つ。さらに、カーボンブラックの比抵抗は、金属の比抵抗より6桁大きいが、合成樹脂の比抵抗より13桁小さく、カーボンブラックの導電性に基づき、成形体は、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。また、炭素粒子の集まりからなるアグリゲートは耐食性に優れるため、成形体は優れた耐食性を持つ。
【0002】
いっぽう、本発明者は、カーボンブラックを用いた導電性の糸、布帛、不織布を作成する発明を、特願2021-041845で出願している。この先願は、20℃で15Paの蒸気圧を持ち、20℃で5.2mPa・秒の粘度を持ち、20℃で26dyn/cmの表面張力を持つ1-ヘプタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを作成し、糸、布帛、または、不織布を、真空含浸装置のチャンバー内に入れ、さらに、チャンバー内を、前記1-ヘプタノールの蒸気圧より低い圧力に減圧し、糸、布帛、または、不織布における空隙を占める大気を排出させ、減圧されたチャンバー内に、アグリゲートの集まりを充填し、糸、布帛、または、不織布が占めていた空隙に、アグリゲートの集まりを含浸させ、また、糸、布帛、または、不織布の表面にアグリゲートの集まりを吸着させる。
これに対し、本発明は、20℃における粘度が2-3mPa・秒である第一の性質と、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低い第二の性質を兼備する液体のアルコールを介して、アグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを作成し、合成樹脂のペレットの表面全体を、カーボンブラックのアグリゲートの集まりで満遍なく覆い、該ペレットを用い、従来の合成樹脂の成形法で成形体を成形する。
【背景技術】
【0003】
本発明に最も近い従来技術に、合成樹脂に遮光性を付与させる技術がある。
例えば、特許文献1は、合成樹脂の容器の外側を、多数の気泡からなる発泡体で覆うことで、合成樹脂の容器に遮光性をもたらす特許である。しかしながら、多数の気泡からなる発泡体が、何故遮光性をもたらすかに関わる記載が全くない。
特許文献2に、押し出しブロー成形によって合成樹脂の容器を成形し、容器本体の内面に、遮光層を設けるとの記載があるが、遮光層の具体的な記載がない。このため、何故遮光層が遮光性をもたらすかに関わる記載が全くない。
いっぽう、合成樹脂に限らず、高分子材料は、紫外線によって高分子の分子構造が破壊され、高分子材料が劣化することが知られている。しかし、特許文献1には、遮光性と発泡体との関係が、特許文献2には、遮光性と遮光層の構成について、一切記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-119649号公報
【特許文献2】特開2020-183281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、第一に、遮光性を有する合成樹脂の成形体を成形する方法を見出す。第二に、従来の合成樹脂の成形体を成形する方法に従って、遮光性を有する合成樹脂の成形体を、様々な材質からなる合成樹脂のペレットを用いて、様々な形状からなる合成樹脂の成形体として成形する方法を見出す。第三に、合成樹脂の成形体に、遮光性以外の性質が付与できる。これら3つの課題が、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液によって、合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりを作成する方法は、
20℃における粘度が2-3mPa・秒である第一の性質と、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低い第二の性質を兼備する液体のアルコールの予め決めた重量に、該アルコールより少ない重量のカーボンブラックの集まりを容器に投入し、該アルコールを攪拌し、前記カーボンブラックの集まりが前記アルコール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う板材を、該第一の懸濁液の上に被せる、さらに、該板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記アルコールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働し、前記容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、前記アルコール中に粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる、この後、前記板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記加速度を加える処理とからなる一対の処理を前記容器に繰り返し、前記板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該板材に反発力が発生した時点で、前記アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記板材を前記容器から取り出す第一の工程と、
前記容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記アルコールを介して、前記粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、前記アルコールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
前記容器内の第二の懸濁液の重量より少ない重量からなる合成樹脂のペレットの集まりを、前記容器内に投入し、該合成樹脂のペレットの集まりを撹拌し、該合成樹脂のペレットの集まりを、前記第二の懸濁液に浸漬させる、この後、該合成樹脂のペレットの集まりを前記容器から取り出す、これによって、該合成樹脂のペレットの表面全体に、前記第二の懸濁液が該第二の懸濁液の粘度に応じた厚みで吸着し、該合成樹脂のペレットの表面全体が、前記第二の懸濁液で満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりが作成され、該合成樹脂のペレットの集まりを、前記容器から取り出す第三の工程とからなり、
前記3つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液によって、合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆われた該合成樹脂のペレットの集まりを作成する方法である。
【0007】
つまり、以下に説明する極めて簡単な3つの工程における処理を連続して実施すると、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液で、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆うことができる。ここで、3つの工程における処理と、処理の作用効果を説明する。
第一の工程は、粉砕したカーボンブラックの集まりが、2つの性質を兼備するアルコールに浸漬した懸濁液を作成する工程である。最初に、カーボンブラックの集まりと、カーボンブラックの集まりの重量より多いアルコールを容器に投入し、アルコールを攪拌し、カーボンブラックの集まりがアルコール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する。つまり、アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりを圧縮することで、カーボンブラックの集まりが容易に粉砕できる。この後、第一の懸濁液の表面全体を覆う板材を、第一の懸濁液の上に被せ、板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、アルコールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する。さらに、板材を第一の懸濁液から引き上げ、容器を加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働し、容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、粉砕したカーボンブラックの集まりを、アルコール中で再配列させる。つまり、カーボンブラックの集まりにおいて、カーボンブラックの大きさにバラツキがあり、破砕されたカーボンブラックの大きさにもバラツキがある。このため、破砕されたカーボンブラックの集まりに空隙が形成される。この空隙を埋めるため、粉砕したカーボンブラックの集まりをアルコール中で再配列させ、再度粉砕することで、全てのカーボンブラックの粉砕を進め、粉砕したカーボンブラックの大きさを均等に近づける。さらに、板材を第一の懸濁液に再度被せ、板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、カーボンブラックの集まりの粉砕を、アルコール中でさらに進める。さらに、板材を第一の懸濁液から再度引き上げ、容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、板材に圧縮荷重を加えた際に、板材に反発力が発生した時点で、アルコール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、一対の処理を停止する。この後、板材を容器から取り出す。つまり、板材の圧縮によるカーボンブラックの粉砕が限界になると、粉砕したカーボンブラックを圧縮しても、微細になったカーボンブラックに圧縮応力が加わっても、カーボンブラックの粉砕が行われず、板材に反発力が発生する。この時点で、カーボンブラックの集まりの粉砕が完了したと判断する。この結果、カーボンブラックは、当初の1/25程度の大きさに近い大きさまで粉砕される。
なお、カーボンブラックの最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートである。このアグリゲートは、カーボンブラックにおいて、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。従って、アグリゲートは、極めて軽量で、また、切断できる。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。従って、カーボンブラックを破砕することで、アグロメレートも破砕され、アグロメレートの大きさも、当初の大きさの1/25に近い大きさに粉砕される。また、アグリゲートも切断され、0.2mm以下の長さに切断される。アグリゲートが切断されることで、第三の工程においてアルコールが気化すると、切断されたアグリゲートがランダムに重なり合って、合成樹脂のペレットの表面に析出し、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う。こうしたアグリゲートで満遍なく表面が覆われたペレットを熱変形させ、熱変形したペレット同士を接合すると、合成樹脂の成形体は、アグリゲートの性質を持つ。このため、本発明において、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液によって、合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆った。
第二の工程は、破砕されたアグリゲートの絡み合いを分離させる工程である。つまり、第三の工程において、破砕されたアグリゲートの集まりがランダムに重なり合って、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆うには、破砕されたアグリゲート同士の絡み合いを分離させる必要がある。なお、アグリゲート同士の絡み合いは、単にアグリゲート同士が接触しているだけであり、絡み合いにおけるアグリゲート同士の接合力は弱い。いっぽう、カーボンブラックは、その多くがアグリゲートの凝集塊であるアグロメレートで構成され、大きなものは1mm近くまで及ぶ粉体になる。このため、アグロメレートの集まりをアルコール中に分散した懸濁液を作成することは困難で、また、アグロメレートの集まりでペレットを覆うことはさらに困難である。この理由から、アルコール中でホモジナイザー装置を稼働させ、粉砕されたアグロメレートの集まりに衝撃波を継続して加え、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を、衝撃波の照射で分離させ、分離した部位にアルコールを吸着させ、アルコールを介してアグリゲート同士を絡み合わせる。これによって、カーボンブラックのアグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液が作成でき、該懸濁液に合成樹脂のペレットの集まりを浸漬させるだけで、合成樹脂のペレットの表面全体を、懸濁液で満遍なく覆うことが可能になる。なお、カーボンブラックを物理的に限界の大きさまで粉砕したため、アグリゲートは0.2mm以下の長さに切断されている。このため、衝撃波を継続して加えると、アグリゲート同士の絡み合いが容易に解除できる。これによって、アルコールを介して絡み合った破砕したアグリゲートの集まりが、低粘度のアルコールに均等に分散した第二の懸濁液が形成できる。
すなわち、容器内にホモジナイザー装置を配置させ、ホモジナイザー装置をアルコール中で稼働させると、微細な衝撃波がアルコール中に発生し、衝撃波がアルコールの分子を励起させながら、アルコール中を移動する。いっぽう、アルコールの粘度が低いため、衝撃波によってアルコールの分子が励起される際に消費されるエネルギーが少なく、衝撃波のエネルギーが失われにくい。このため、粉砕されたアグロメレートの集まりに、アルコールを介して、微細な衝撃波が効率よく繰り返し照射される。これによって、アグリゲート同士が直接絡み合った部位にも、微細な衝撃波が繰り返し照射され、アグリゲートが極めて軽量な物質であるため、直接絡み合った部位が解除され、絡み合いが解除したアグリゲートの部位に、アルコールが吸着する。この結果、アルコール中に浸漬した粉砕されたアグロメレートの集まりが、アルコールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりがアルコール中に均等に分散した第二の懸濁液になる。
なお、アグリゲートが、不規則で複雑な形状で炭素粒子同士が数珠つなぎしたストラクチャーの構造を持ち、かつ、個々のアグリゲートの長さと個々のアグリゲートのストラクチャーの形状が異なる。このため、ホモジナイザー装置が発する衝撃波をアグロメレートに繰り返し照射しても、破砕したアグリゲートの集まりであっても、アグリゲート同士が直接絡み合う全ての部位が分離され、これによって、アグリゲートの集まりが1つ1つのアグリゲートに分離し、1つ1つに分離されたアグリゲートをアルコールに均等に分散させることはできない。つまり、ホモジナイザー装置によるアグリゲート同士の絡み合いの分離は、あくまでも、アグリゲート同士が直接絡み合った部位に、アルコールを吸着させる処理である。この処理によって、アルコールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりが、アルコールに均等に分散する。従って、アルコールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、絡み合ったアグリゲート同士は直接接合せず、アルコールを介して絡み合ったアグリゲートがアルコールに均等に分散している。これによって、第三の工程において、アルコールを気化させると、切断されたアグリゲートがランダムに重なり合って、合成樹脂のペレットの表面に析出し、アグリゲートの集まりでペレットの表面全体を満遍なく覆うことができる。
なお、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、破砕されたアグリゲートの大きさより極めて小さい気泡が、莫大な数からなる気泡として同時に発生し、この後、気泡が殆ど同時に消滅する。この気泡の発生と消滅とが、超音波の発生周期に応じて繰り返し起こり、低粘度のアルコール中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、低粘度のアルコール中に継続して発生し、衝撃波のエネルギーがアルコールによって殆ど吸収されず、アグロメレートの細部に継続して照射され、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が短時間で分離し、分離した部位にアルコールが吸着する。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とを繰り返すため、比較的短時間でアグリゲート同士が直接絡み合った部位を分離させる。
第三の工程は、合成樹脂のペレットの表面全体に第二の懸濁液を吸着させ、合成樹脂のペレットの表面全体を第二の懸濁液で満遍なく覆う工程である。このため、第二の懸濁液の重量より少ない重量からなる合成樹脂のペレットの集まりを、容器内に投入し、合成樹脂のペレットの集まりを撹拌する。これによって、合成樹脂のペレットの集まりが、第二の懸濁液中に浸漬する。この後、合成樹脂のペレットの集まりを、容器から取り出す。これによって、合成樹脂のペレットの表面全体に、第二の懸濁液が該第二の懸濁液の粘度に応じた厚みで吸着する。この結果、合成樹脂のペレットの表面全体が、第二の懸濁液で満遍なく覆われ、該合成樹脂のペレットの集まりを、前記容器から取り出す。なお、アルコールの粘度が、20℃において2-3mPa・秒と低いため、合成樹脂のペレットの表面に吸着する第二の懸濁液の厚みは3μm以下と薄い。いっぽう、アグロメレートが1/25程度の大きさまで粉砕されているため、破砕されたアグリゲートの大きさは、当初の100-500nmより著しく微細になっている。このため、吸着した第二の懸濁液の厚みが3μm以下であっても、アグリゲートがアルコールを介してランダムに重なり合って、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う。
【0008】
6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
6段落に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールが、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノールないしは1-ペンタノールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該いずれか1種類のアルコールを、6段落に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールとして用い、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【0009】
つまり、6段落に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールとして、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノールないしは1-ペンタノールが存在する。
2-プロパノール(CH3)2CH(OH)は、20℃における粘度が1.8mPa・秒であり、沸点が82℃である。
1-プロパノールCH3(CH2)2OHは、20℃における粘度が1.9mPa・秒であり、沸点が98℃である。
1-ブタノールCH3(CH2)3OHは、20℃における粘度が3.0mPa・秒であり、沸点が117℃である。
1-ペンタノールCH3(CH2)4OHは、20℃における粘度が3.3mPa・秒であり、沸点が138℃である。
これら4種類のアルコールは、6段落に記載した20℃における粘度が2-3mPa・秒である第一の性質と、合成樹脂の成形が始まる温度より沸点が低い第二の性質を兼備する液体のアルコールである。また、いずれも汎用的なアルコールである。従って、いずれか1種類のアルコールを、6段落に記載した2つの性質を兼備する液体のアルコールとして用い、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、3つの工程における処理を連続して実施すると、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体が満遍なく覆われる。
なお、沸点が82-138℃であるアルコールは、殆ど多くの合成樹脂の成形が始まる温度より低い。このことは、実施形態1で説明する。
【0010】
6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
6段落に記載したカーボンブラックがケッチェンブラックであり、該ケッチェンブラックを、6段落に記載したカーボンブラックとして用い、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【0011】
つまり、カーボンブラックは、カーボンブラックの製造方法によって、カーボンブラックの特徴が大きく変わり、製造方法の名称でカーボンブラックが分類されている。この製造方法によって、カーボンブラックの性質が変わる。
ファーネスブラックは、油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させて製造したカーボンブラックであり、燃焼させる原料により、オイルファーネスとガスファーネスとに細分化される。ファーネスブラックの中で、ケッチェンブラックは、原料として炭化水素からなるオイルを用い、オイルの不完全燃焼で、カーボンブラックを生成する。このケッチェンブラックは、カーボンブラックの中で、比表面積とDPB(ジブチルフタレート)の吸収量が最も大きく、導電性がアセチレンブラックに次いで高い。つまり、ケッチェンブラックは、ストラクチャーが円弧を描いて形成した中空体が存在するため、円弧状のストラクチャーを電子が移動することで、ケッチェンブラックの導電性が増える。
その他のカーボンブラックに、天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めたチャンネルブラックと、アセチレンガスを熱分解して得たアセチレンブラックと、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造するサーマルブラックがある。
カーボンブラックの中で、ケッチェンブラックは、一次粒子が最も小さく、単位質量当たりの一次粒子の数が最も多く、BET表面積が最も大きいため、カーボンブラックの中で、最も優れた遮光性を持つ。このため、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりで、合成樹脂のペレットを覆い、該ペレットを用いて成形した合成樹脂の成形体は、紫外線が継続して照射されても、劣化しにくい成形体になる。さらに、ケッチェンブラックの熱放射率が0.97と高く、成形体は、優れた放熱性を発揮する。
すなわち、ケッチェンブラックは、一次粒子径が30-40nmからなり、このため、単位質量当たりの一次粒子の数は1×107個/gに及び、BET表面積が1270m2/gにも及ぶ。従って、ケッチェンブラックは、他のカーボンブラックより遮光性と放熱性が優れる。
【0012】
6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法は、
6段落に記載したカーボンブラックがアセチレンブラックであり、該アセチレンブラックを、6段落に記載したカーボンブラックとして用い、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法に従って、懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、6段落に記載した懸濁液で合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う方法である。
【0013】
つまり、アセチレンブラックは、カーボンブラックの原料の中で、純度が最も高いアセチレンガスを使ってアセチレンブラックを生成するため、カーボンブラックの中で不純物が最も少なく、また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達している。このため、カーボンブラックの中で最も導電性が優れる。従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりで、合成樹脂のペレットを覆い、該ペレットを用いて成形した合成樹脂の成形体は、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の性能が、他のカーボンブラックを用いた成形体より優れる。このため、アセチレンブラックは、導電性に優れた合成樹脂の成形体を成形するのに適している。なお、アセチレンブラックとして、例えば、嵩密度が0.04g/cm3で、電気抵抗率が0.21Ω・cmからなる粉状品がある。
なお、銅の比抵抗は1.68×10-6Ω・cmであり、アセチレンブックの比抵抗を前記した0.21Ω・cmとし、銅の比導電率を1.0とした場合、アセチレンブラックの比導電率は、8×10-6になる。また、アセチレンブラックの比透磁率は1.0である。いっぽう、電磁波の反射損失の度合いは比導電率/比透磁率になり、電磁波の吸収損失の度合いは比導電率・比透磁率になる。従って、アセチレンブラックの電磁波の反射損失の度合いと電磁波の吸収損失の度合いとは、いずれも8×10-6になる。いっぽう、鉄の比導電率は0.17で、比透磁率は100である。このため、鉄の電磁波の反射損失の度合いは1.7×10―3で、電磁波の吸収損失の度合いは17である。従って、アセチレンブラックは、金属の電磁波のシールド性能に及ばない。
さらに、帯電防止の性能は、表面抵抗で表わせられる。アセチレンブラックからなるアグリゲートの集まりで合成樹脂のペレットを、1μmの厚みで覆った場合は、表面固有抵抗が2.1×103Ω/□になる。また、0.1μmの厚みで覆った場合は、表面固有抵抗が2.1×104Ω/□になる。従って、いずれの膜厚も帯電しにくいが、アグリゲートの集まりの膜厚が薄いほうが静電気を速やかに消散することができる。
【0014】
遮光性と放熱性と導電性とを兼備した合成樹脂の成形体を成形する方法は、
6段落に記載した3つの工程を連続して実施し、アグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液で、合成樹脂のペレットの表面全体を満遍なく覆う、この後、該ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填し、該成形機ないしは該金型を昇温し、前記ペレットの集まりを、前記合成樹脂の成形が始まる温度に加熱し、さらに、該加熱を予め決めた時間継続し、この後、前記成形機ないしは前記金型によって、前記加熱されたペレットの集まりに、予め決めた応力を加える、この際、最初に、前記懸濁液からアルコールが気化し、前記アグリゲートの集まりが、前記ペレットの表面に重なり合って析出し、該ペレットの表面を、該アグリゲートの集まりが満遍なく覆うとともに、該重なり合って析出したアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位が、前記ペレットの表面に複数個所形成される、この後、前記ペレットが、前記合成樹脂の成形が始まる温度に加熱され、該加熱が予め決めた時間継続され、さらに、該ペレットに予め決めた応力が加えられる、これによって、前記ペレットが熱膨張するとともに、該ペレットに加熱に伴う反応が進み、さらに、該ペレットに応力が加わり、該応力を受けたペレットは、該ペレットの集まりにおける空隙を埋めるように変形し、さらに、該変形したペレットは、該ペレットの表面において、前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位から、前記変形したペレットの一部が滲み出る、さらに、該変形したペレットに応力が継続して加わり、隣接する前記変形したペレットから滲み出たペレット同士が結合する、この結果、前記変形したペレットが、前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりで満遍なく覆われるとともに、該変形したペレット同士が、前記滲み出たペレット同士の結合によって結合され、該変形したペレット同士が結合した該ペレットの集まりが、前記成形機内ないしは前記金型内に形成される、この後、該成形機ないしは該金型を冷却させ、前記変形したペレットの集まりが固化すると、該固化したペレットが前記重なり合って析出したアグリゲートの集まりで満遍なく覆われるとともに、前記滲み出たペレットも固化し、該固化した滲み出たペレット同士の結合によって、前記固化したペレット同士が結合し、該固化したペレットの集まりからなる成形体が、前記成形機内ないしは前記金型内に成形される、遮光性と放熱性と導電性とを兼備した合成樹脂の成形体を成形する方法である。
【0015】
つまり、本発明は、合成樹脂のペレットの集まりに対し、6段落に記載した3つの工程における処理を連続して行ない、このペレットの集まりを用い、従来の合成樹脂の成形方法に準じて成形体を成形する。
合成樹脂のペレットの集まりに対し、6段落に記載した3つの工程における処理を連続して行なうと、ペレットの表面全体が、アグリゲートの集まりがアルコールに分散した懸濁液で満遍なく覆われる。この後、ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填する。成形機ないしは金型を昇温すると、最初に、ペレットの表面を覆う懸濁液からアルコールが気化する。これによって、ペレットの表面に、アグリゲートの集まりが重なり合って析出する。なお、重なり合ってペレットの表面に析出したアグリゲートの集まりは、ペレットの表面との接合力は極めて弱く、また、重なり合ったアグリゲート同士の接合力も極めて弱い。いっぽう、ペレットの大きさに比べ、アグリゲートの大きさは1桁以上小さく、また、アグリゲートの大きさが異なるため、一斉に重なり合って析出したアグリゲートの集まりにおいて、重なり合って析出したアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位が、ペレットの表面に数多く形成される。さらに、成形機ないしは金型によって、ペレットの集まりが、合成樹脂の成形が始まる温度に、予め決めた時間加熱される。これによって、ペレットが熱膨張し、さらに、加熱に伴う反応が進む。この後、成形機ないしは金型によって、ペレットの集まりに応力を加える。この際、応力を受けたペレットの集まりにおける空隙を埋めるように、応力を受けたペレットが変形する。熱膨張したペレットが変形する際に、前記したように、ペレットの表面に重なり合って析出したアグリゲートの集まりは、ペレットの表面との接合力は極めて弱く、また、重なり合ったアグリゲート同士の接合力も極めて弱いため、ペレットの表面においては、重なり合ったアグリゲートの集まりの数が相対的に少ない部位から、応力を受けたペレットの一部が、重なり合ったアグリゲートの集まりを押しのけて滲み出る。滲み出たペレットは、滲み出た部位を覆うように、重なり合ったアグリゲートの集まりを覆う。このため、応力を受けたペレットは、重なり合ったアグリゲートの集まりで満遍なく覆われる。いっぽう、隣接する応力を受けたペレットの複数個所からも、ペレットが滲み出る。滲み出たペレット同士が接触すると、ペレットに応力が継続して加わっているため、滲み出たペレット同士が結合する。この後、成形機ないしは金型が冷却されると、応力を受けたペレットが固化し、また、結合した滲み出たペレット同士が固化し、該滲み出たペレット同士の結合によって、固化したペレット同士が結合し、固化したペレットの集まりからなる成形体が、成形機内ないしは金型内に成形される。いっぽう、固化したペレットの全てが、アグリゲートの集まりで満遍なく覆われるため、成形体は、アグリゲートの遮光性と放熱性と導電性とを兼備した成形体になる。
以上に説明したように、本発明によって作成した成形体は、固化したペレットの全てが、重なり合ったアグリゲートの集まりで満遍なく覆われるため、アグリゲートの性質である遮光性と放熱性と導電性とを兼備する。この結果、5段落に記載した3つの課題が解決される。
なお、合成樹脂は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に大別される。熱硬化性樹脂は加熱によって重合反応が起こり、高分子の網目構造が形成されて硬化し、元の状態に戻らない。このため、熱硬化性樹脂は融点を持たず、また、加熱による重合反応は不可逆変化である。従って、熱硬化性樹脂の成形が始まる温度は、熱硬化性樹脂の重合反応が起こる温度である。従って、本発明において、合成樹脂のペレットとして、熱硬化性樹脂のペレットを用いる場合は、ペレットを懸濁液で覆い、該ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填し、該成形機ないしは該金型によって、熱硬化性樹脂の重合反応が起こる温度にペレットを加熱し、重合反応が完了するまでペレットを予め決めた時間加熱し、重合反応が完了した時点で、成形機ないしは金型によって、重合反応が完了したペレットに応力を加える。
これに対し熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化してゴム状の弾性を示す状態となり、さらに加熱を続けると、弾性を失って流動状態(液相)になる。この際、非結晶性樹脂と結晶性樹脂とでは、加熱時の挙動が大きく異なる。なお、結晶性樹脂は僅かな非晶部分が混在し、非結晶性樹脂は、全てが非結晶状態にはなく、ごく一部が結晶状態にある。
つまり、非結晶性樹脂を昇温すると、無定形の高分子の鎖が結合したガラス状の脆い状態からゴム状の弾性を示す状態に移る。この転移をガラス転移と言い、ガラス転移する温度をガラス転移点と呼ぶ。さらに昇温すると、ゴム状の流動状態から弾性を失った液状の流動状態に徐々に移るが、結晶度が極めて低いため、全ての転移が完了する温度が明確でなく、非結晶性の合成樹脂は融点を持たない。従って、非結晶性の熱可塑性樹脂の成形が始まる温度は、ガラス転移点になる。従って、本発明において、合成樹脂のペレットとして、非結晶性の熱可塑性樹脂のペレットを用いる場合は、ペレットを懸濁液で覆い、該ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填し、該成形機ないしは該金型によって、ペレットを、非結晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移点に加熱し、さらに、全てのペレットが、弾性を失って流動状態(液相)になるまで、予め決めた時間加熱を継続し、さらに、成形機ないしは金型によって、液相になったペレットに応力を加える。
これに対し、結晶性樹脂は結晶度が高く、ゴム状の流動状態から弾性を失った液状の流動状態に移る転移が完了する温度が明確に現れ、この温度を融点と呼ぶ。さらに昇温すると、高分子の鎖が断ち切れられる温度に到達し、さらに昇温すると、高分子の鎖が断ち切れられる箇所が増大し、徐々に低分子量に変わる。高分子構造に変化が現れ始める温度を熱分解温度と呼び、熱分解が始まると元の高分子構造に戻らない。従って、熱融解された結晶性樹脂は、熱分解温度以上に昇温しなければ、冷却すると元の性質に戻る。このため、結晶性の熱可塑性樹脂の成形が始まる温度は融点になる。従って、本発明において、合成樹脂のペレットとして、結晶性の熱可塑性樹脂のペレットを用いる場合は、ペレットを懸濁液で覆い、該ペレットの集まりを、成形機ないしは金型に充填し、該成形機ないしは該金型によって、ペレットの融点まで加熱し、さらに、予め決めた時間加熱し、全てのペレットを熱融解させ、この後、成形機ないしは金型によって、液相になったペレットに応力を加える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ケッチェンブラックの集まりで覆われたPET樹脂のペレットからなる成形したフィルムの側面の一部を、拡大して模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態1
本実施形態は、合成樹脂の成形が始まる温度が、9段落に記載したアルコールの沸点より高い合成樹脂に関する実施形態である。なお、9段落に記載したアルコールの沸点は、82-138℃である。
最初に、9段落に記載したアルコールの沸点より、融点が高い熱可塑性樹脂を説明する。
低密度ポリエチレン樹脂の融点は95-130℃であり、高密度ポリエチレン樹脂の融点は、120-140℃である。従って、ポリエチレン樹脂の融点に従って、該融点より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
ポリプロピレン樹脂の融点は168℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、168℃より低い。
ポリスチレン樹脂の融点は100℃であり、100℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
ABS樹脂の融点の融点は100-110℃であり、100-110℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
ポリ塩化ビニル樹脂の融点は85-210℃であり、85-210℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
アクリル樹脂の融点は90-105℃であり、90-105℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
PET樹脂の融点は255℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、255℃より低い。
PVA樹脂の融点は200℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、200℃より低い。
ポリ塩化ビニリデン樹脂の融点は210℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、210℃より低い。
ポリフッ化ビニリデン樹脂の融点は134-169℃であり、134-169℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
ナイロン6樹脂の融点は225℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、225℃より低い。
ナイロン66樹脂の融点は265℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、265℃より低い。
ナイロン12樹脂の融点は176℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、176℃より低い。
アセタール樹脂の融点は181℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、181℃より低い。
ポリカーボネート樹脂の融点は150℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、150℃より低い。
PBT樹脂の融点は232-267℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、232-267℃より低い。
ポリフェニレンスルファイド樹脂の融点は290℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、290℃より低い。
ポリエーテルイミド樹脂の融点は215-217℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、215-217℃より低い。
PS樹脂の融点は200℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、200℃より低い。
PTFE樹脂の融点は327℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、327℃より低い。
PCTFE樹脂の融点は220℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、220℃より低い。
PAI樹脂の融点は300℃であり、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、300℃より低い。
以上に説明したように、殆ど多くの熱可塑性樹脂の融点が、9段落に記載したアルコールの沸点より低いため、9段落に記載したアルコールを、6段落に記載した2つの性質を兼備するアルコールとして用いることができる。このため、殆ど多くの熱可塑性樹脂のペレットを、14段落に記載した合成樹脂の成形体を成形する際に用いることができる。
次に、9段落に記載したアルコールの沸点より、融点が高い熱硬化性樹脂を説明する。
ポリイミド樹脂の重合反応が起こる温度は211-267℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、211-267℃より低い。
フェノール樹脂の重合反応が起こる温度は161-211℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、161-211℃より低い。
ユリア樹脂の重合反応が起こる温度は153-193℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、153-193℃より低い。
メラミン樹脂の重合反応が起こる温度は167-183℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、167-183℃より低い。
不飽和ポリエステル樹脂の重合反応が起こる温度は156-195℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、156-195℃より低い。
ポリウレタン樹脂の重合反応が起こる温度は84-120℃で、84-120℃より沸点が低いアルコールを、9段落に記載したアルコールから選択する。
アリル樹脂の重合反応が起こる温度は161-211℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、161-211℃より低い。
シリコン樹脂の重合反応が起こる温度は154-182℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、154-182℃より低い。
エポキシ樹脂の重合反応が起こる温度は167-183℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、167-183℃より低い。
フラン樹脂の重合反応が起こる温度は153-195℃で、9段落に記載した全てのアルコールの沸点は、153-195℃より低い。
以上に説明したように、殆ど多くの熱硬化性樹脂の重合反応が起こる温度が、9段落に記載したアルコールの沸点より低いため、9段落に記載したアルコールを、6段落に記載した2つの性質を兼備するアルコールとして用いることができる。このため、殆ど多くの熱硬化性樹脂のペレットを、14段落に記載した合成樹脂の成形体を成形する際に用いることができる。
【0018】
実施例1
本実施例は、9段落に記載したアルコールとして1-プロパノールを用い、カーボンブラックとして10段落に記載したケッチェンブラックを用い、合成樹脂のペレットとしてPET樹脂のペレットを用い、6段落に記載した方法に従って、PET樹脂のペレットの表面を懸濁液で覆う。なお、PET樹脂の融点は255℃である。また、1-プロパノールは、沸点が98℃で、20℃における粘度が1.9mPa・秒である。
用いたケッチェンブラック(ライオン株式会社の製品EC600JD)は、平均粒子径が34nmと小さく、比表面積が1270m2/gと大きく、優れた遮光性を示す。さらに、ケチェンブラックの粒子間の空隙を満たすに要するフタル酸ジブチルの量が495cm3/100gと大きく、粒子の繋がりと粒子の凝集の程度が大きい。これによって、ケッチェンブラックのアグリゲートの絡み合いが進み、優れた遮光性を示す。また、使用したペレット(例えば、三菱化学株式会社の製品)の形状は2mm×4mm×3mmの楕円柱で、密度が1.36g/cm3であり、1個のペレットの重量は25.6mgに相当する。
最初に、ケッチェンブラックの10gと、1-プロパノールの80gを容器に充填し、1-プロパノールを攪拌して、ケッチェンブラックを1-プロパノールに浸漬させた。
この後、容器の上に平板を被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とからなる一対の処理を、5回繰り返した後に、重りを平板の上に載せたが、平板の動きが全くなかったため、一対の処理を停止した。
さらに、容器に超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内の1-プロパノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、1-プロパノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを1-プロパノール中に分散した懸濁液を作成した。
この後、PET樹脂のペレットの60gを容器に投入し、ペレットの集まりを撹拌し、ペレットの集まりを、懸濁液に浸漬させた。この後、ペレットの集まりを容器から取り出した。
【0019】
実施例2
実施例1で製造した懸濁液で覆われたPET樹脂のペレットの集まりを用い、Tダイキャスト法で、カレンダー成形によって0.1mmの厚みのフィルムを成形した。なお、成形したフィルムは、淡く黒みがかった透明性を有するフィルムになった。
次に、フィルムを切断し、断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、さらに導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる。
断面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。フィルムの厚みは0.1mmであった。断面は、扁平状に潰されたペレットの表面が、1μmの厚みからなるケッチェンブラックのアグリゲートの集まりで覆われ、隣接するペレット同士が、僅かな厚みのペレットによって接合されていた。
図1に断面を模式的に示す。1はPET樹脂のペレットで、2はケッチェンブラックのアグリゲートの集まりである。
さらに、フィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した結果、95%の遮光率を有し、優れた遮光シートであることが分かった。
さらに、シートの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した結果、熱放射率が0.93と高く、優れた放熱シートであることが分かった。
【0020】
実施例3
実施例1において、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりを、1-プロパノールに分散された懸濁液で、PET樹脂のペレットの表面を覆った。実施例3では、アセチレンブラック(デンカ株式会社の製品Li-100)のアグリゲートの集まりを、1-ブタノールに分散された懸濁液で、PET樹脂のペレットの表面を覆う。なお、1-ブタノールは、20℃における粘度が3.0mPa・秒であり、沸点が117℃である。従って、1-ブタノールの粘度は、1-プロパノールの粘度の1.7倍であり、PET樹脂のペレットの表面を覆う懸濁液の厚みが、粘度の増大に応じて1.7倍になる。
最初に、アセチレンブラックの10gと、1-ブタノールの80gを容器に充填し、1-ブタノールを攪拌して、アセチレンブラックを1-ブタノールに浸漬させた。
この後、実施例1と同様に、容器の上に平板を被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とからなる一対の処理を、5回繰り返した後に、重りを平板の上に載せたが、平板の動きが全くなかったため、一対の処理を停止した。
さらに、実施例1と同様に、容器に超音波ホモジナイザーを容器内の1-ブタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、1-ブタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを1-ブタノール中に分散した懸濁液を作成した。
この後、実施例1で用いたPET樹脂のペレットの60gを容器に投入し、ペレットの集まりを撹拌し、ペレットの集まりを、懸濁液に浸漬させた。この後、ペレットの集まりを容器から取り出した。
【0021】
実施例4
実施例3で製造した懸濁液で覆われたPET樹脂のペレットの集まりを用い、カレンダー成形法によって0.3mmの厚みのシートを成形した。なお、成形したシートは、実施例2のフィルムより黒色度が増えたが透明性を有するシートになった。
次に、実施例2と同様にシートを切断し、断面を実施例2で用いた電子顕微鏡で観察した。断面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。シートの厚みは0.3mmであった。断面は、扁平状に潰されたペレットの表面が、1.7μmの厚みからなるアセチレンブラックのアグリゲートの集まりで覆われ、隣接するペレット同士が、僅かな厚みのペレットによって接合されていた。
次に、作成したシートの表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗率は1.0Ωであったため、シートはアセチレンブラックの抵抗率0.21Ω・cmに近い抵抗を有した。このため、作成したシートは、アセチレンブラックの抵抗率に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜としても作用する。
【0022】
実施例5
本実施例は、実施例1で作成した懸濁液を、フェノール樹脂のペレットの表面を懸濁液で覆う。フェノール樹脂のペレットとして、軟化点が125℃で、150℃の80秒前後でゲル化されるペレット(例えば、明和化成株式会社の製品のAH-PM(H))を用いた。また、カーボンブラックとして、実施例1のケッチェンブラックを用いた。
最初に、アセチレンブラックの10gと、1-ブタノールの80gを容器に充填し、1-ブタノールを攪拌して、アセチレンブラックを1-ブタノールに浸漬させた。
この後、実施例1と同様に、容器の上に平板を被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とからなる一対の処理を、5回繰り返した後に、重りを平板の上に載せたが、平板の動きが全くなかったため、一対の処理を停止した。
さらに、実施例1と同様に、容器に超音波ホモジナイザーを容器内の1-ブタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、1-ブタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを1-ブタノール中に分散した懸濁液を作成した。
この後、実施例1で用いたPET樹脂のペレットの60gを容器に投入し、ペレットの集まりを撹拌し、ペレットの集まりを、懸濁液に浸漬させた。この後、ペレットの集まりを容器から取り出した。このペレットの集まりを用い、押出成形によって、0.5mmの厚みのシートを成形した。なお、成形したシートは、実施例4のシートより黒色度がさらに増えた。
次に、シートを切断し、断面を実施例2で用いた電子顕微鏡で観察した。断面からの反射電子線について、900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。シートの厚みは0.5mmであった。断面は、扁平状に潰されたペレットの表面が、1.7μmの厚みからなるケッチェンブラックのアグリゲートの集まりで覆われ、隣接するペレット同士が、僅かな厚みのペレットによって接合されていた。
さらに、フィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した結果、96%の遮光率を有し、優れた遮光シートであることが分かった。
さらに、シートの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した結果、熱放射率が0.94と高く、優れた放熱シートであることが分かった。
【0023】
以上に説明した実施例は一部の事例に過ぎない。つまり、9段落に記載したアルコールを用い、また、11段落に記載したケッチェンブラック、ないしは、13段落に記載したアセチレンブラックを、カーボンブラックとして用い、6段落に記載した懸濁液を作成する方法に従って、様々な構成からなる懸濁液が作成できる。
さらに、実施例で記載したPET樹脂のペレットとフェノール樹脂のペレットに限らず、実施形態1に記載した様々な合成樹脂のペレットを、様々な構成からなる懸濁液で覆うことができる。この懸濁液で覆われたペレットの集まりを用い、14段落に記載した従来の合成樹脂の成形方法に従って、成形体を成形すると、様々な合成樹脂からなる成形体が成形できる。この成形体は、用いたカーボンブラックの性質をもつ。
【符号の説明】
【0024】
1 PET樹脂のペレット 2 ケッチェンブラックのアグリゲートの集まり