(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106928
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シルクスクリーン印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41M 1/12 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
B41M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011434
(22)【出願日】2023-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】516119542
【氏名又は名称】有限会社 BESTPLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】粟野 肇
【テーマコード(参考)】
2H113
【Fターム(参考)】
2H113AA01
2H113BA09
2H113BB06
2H113BB07
2H113BB22
2H113DA47
2H113DA53
2H113DA57
2H113DA63
2H113EA02
2H113EA09
2H113FA29
2H113FA32
2H113FA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シルクスクリーン印刷によるマーク形成から被印刷物への着色、着色後の被印刷物の包装までを包含した一連の印刷方法に係り、特にインクの化学的特性を引き出して均一・強固な接着構造を有するマーク部を形成し、マーク部表面と被印刷物の他の表面とが接着することを防止する。
【解決手段】(1)被印刷物の上にシルクスクリーン印刷用のメッシュ部材を配置する工程、(2)印刷用インクを、前記メッシュ部材を通過させて前記被印刷物の所定位置に載せる工程、(3)前記印刷工程後の被印刷物のインク表面に皮膜を形成する工程、(4)前記印刷後のインクの固化を促進するために、温度120℃~150℃の範囲内で、30秒~3分の間加熱処理する工程5)前記ベーキング処理工程後の被印刷物の表面温度を、30秒以内に、20℃以下になるまで冷却する工程、(6)前記冷却工程後に、前記被印刷物を適当な大きさに畳み、包装する工程を含む。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルクスクリーン印刷方法であって、
(1)被印刷物の上にシルクスクリーン印刷用のメッシュ部材を配置する工程、
(2)印刷用インクを、前記メッシュ部材を通過させて前記被印刷物の所定位置に載せる(印刷する)工程、
(3)前記印刷工程後の被印刷物のインク表面に皮膜を形成する工程、
(4)前記印刷後のインクの固化を促進するために、温度120℃~150℃の範囲内で、30秒~3分の間加熱処理する工程(以下「ベーキング工程」)、
(5)前記ベーキング工程後の被印刷物の表面温度を、30秒以内に、20℃以下になるまで冷却する工程(以下「冷却工程」。)、
(6)前記冷却工程後に、前記被印刷物を適当な大きさに畳み、包装する工程を含むことを特徴とする、シルクスクリーン印刷方法。
【請求項2】
前記(5)の冷却工程として、温度7℃~18℃で、1.0m3/分~5.5m3/分の風量で、印刷部に向けて冷風を吹き付けることを特徴とする、請求項1に記載のシルクスクリーン印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルクスクリーン印刷によるマーク形成から被印刷物への着色、着色後の被印刷物の包装までを包含した一連の印刷方法に係り、特にインクの化学的特性を引き出して均一・強固な接着構造を有するマーク部を形成し、マーク部表面と被印刷物の他の表面とが接着することを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シルクスクリーン印刷は、被印刷物(例えばTシャツ、スポーツウエア、ユニフォーム等の衣類、ステッカー、看板、ポスター等)に対して、基板上に細かな網目を有するメッシュ部材を介して、混合樹脂インク、蒸発乾燥型樹脂インク、2液硬化型樹脂インク、UV硬化型樹脂インクなどの着色剤を通過させ、種々のデザインパターンを描画する方法である。印刷業界では、シルクという言葉を除いて、スクリーン印刷と呼ぶこともある。もともとは、スクリーンの意味もメッシュの意味も網であるが、版画の世界では、メッシュを張った枠の全体をスクリーンと呼ぶことがある。
【0003】
本発明の「メッシュ部材」とは、木枠や金属枠に画線を構成した版のことを言う。ここで「画線を構成」とは、メッシュの一部はインクが通過できないように遮蔽され、印刷をしようとする部分のみが通過可能に開放されている状態のことを言う。このように画線を構成する作業は、版を製造する作業であり、印刷したい原画をコンピュータにより複数の区画に分割し、分割された各区画を色分解した結果に基づいて、版の網孔を、一部は開放し、一部は遮蔽する。
【0004】
従来は、絹がメッシュの材料として使われたが、絹は耐久性に欠けるため、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維の布が版のメッシュの材料として使われるようになった。金属製のメッシュをスクリーンとして使用することもある。メッシュの製品説明でよく示されることがあるメッシュの数字は、メッシュの網目の細かさを表した数字であり、メッシュ数と呼ばれることがある。メッシュ数とは、メッシュが、縦糸と横糸がどちらも等間隔で配置されている平織りで織られていると仮定して、1インチ(約25.4mm)あたりの縦糸または横糸の本数である。
【0005】
メッシュの網孔を、一部は開放し、一部は遮蔽して製造されたメッシュ部材を使用して、被印刷物に対して適切なインクを選択した上で、所望のデザインを印刷し、被印刷物のインク面を乾燥、加熱等することで、インクを固定し、スクリーン印刷が実行される。
【0006】
ところで、スクリーン印刷に関する従来の提案には、様々なものがあり、例えば、高感光性及び良好な貯蔵性を有し、水で現像することのできる複写塗布膜を形成するシルクスクリーン印刷版製造用の感光性複写材料に関する提案(特許文献1)、一枚の版によって正確な多色合せ刷りが容易にできる印刷方法に関する提案(特許文献2)、特定の感触、好ましくは特定の荒さ/きめ粗さ、を与えるシルクスクリーン印刷用インクおよびそれを用いた印刷方法に関する提案(特許文献3)などがある。
【0007】
さらには、表面に凹凸を形成して、触覚に優れ、手跡が残らない表面を有する印刷物を製造する方法であって、網目数200~300のスクリーン布からなる対角スクリーンを感光性エマルションで塗布し、塗布されたスクリーンを乾燥させる段階と、前記スクリーン上に40~60ライン及び60~70%のフィルムを置く段階と、前記フィルムが置かれたスクリーンを紫外線で1~2分間露出させる段階と、前記紫外線に露出されていないスクリーン部分を洗浄する段階と、スクリーン印刷を行い、インクを硬化させる段階と、を含んでなることを特徴とするシルクスクリーン印刷方法(特許文献4)や、シリコーンインクに蓄光材を配合した混合物でプリント柄を印刷すると、塗膜の厚みが不均一となることを防止する方法に関する提案(特許文献5)など、多様な提案がされている。
【0008】
しかし、前記いずれの提案にも、被印刷物に対するインクの固着をより強固にすると同時に、印刷後の包装工程までを一連の流れ(いわばベルコンベア方式)として取り扱う提案はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭47-5304号公報
【特許文献2】特開昭60-58889号公報
【特許文献3】特開2005-120342号公報
【特許文献4】特表2005-514234号公報
【特許文献5】特開2020-169398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、シルクスクリーン印刷によるマーク形成から被印刷物への着色、着色後の被印刷物の包装までを包含した一連の印刷方法に係り、特にインク印刷後に加熱工程を取り入れることで化学的特性を引き出して均一・強固な接着構造を有するマーク部を形成し、この工程によって高温となったマーク部表面と被印刷物の他の表面とが接着することを防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のシルクスクリーン印刷方法は、(1)被印刷物の上にシルクスクリーン印刷用のメッシュ部材を配置する工程、(2)印刷用インクを、前記メッシュ部材を通過させて前記被印刷物の所定位置に載せる(印刷する)工程、(3)前記印刷工程後の被印刷物のインク表面に皮膜を形成する工程、(4)前記印刷後のインクの固化を促進するために、温度120℃~150℃の範囲内で、1分~2分の間加熱処理する工程(以下「ベーキング工程」ともいう)、(5)前記加熱工程後の被印刷物の表面温度を、30秒以内に、20℃以下になるまで冷却する工程(以下「冷却工程」ともいう。)、(6)前記冷却工程後に、前記被印刷物を適当な大きさに畳み、包装する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
前記(1)の工程の前に、メッシュ部材を製造する工程(メッシュの網孔を、一部は開放し、一部は遮蔽する工程)があるが、この工程の例としては以下の写真製版法などを利用することができる。
【0013】
まず、透明なフィルムやトレーシングペーパーなどの光を透過する支持体に、光を通さないインクを私用して、デザインに従って描画したり、またはプリンタやコピー機で印刷する。多色刷りの場合は色の数だけ原画を作り、普通は1色1版で製版する。中間トーンを表現するため、グラフィックソフトウェアやリスフィルムの使用により網点処理を施すことがある。
【0014】
本発明では、アルミ製、木製などの枠に張ったメッシュ(10)にバケットで感光乳剤(11)を薄く塗布し、暗所で乾燥させる(
図1)。感光乳剤は主にジアゾ系のものが使用される。本発明者らは、フレーム枠として通常使用される枠の約3分の1程度の厚み(約10mm)の薄枠版用アルミ枠(12)を使用しており、版(メッシュ部材)の保管にかかるスペースを節約し、一度作成した版は永久保管することで、顧客の再利用等の要望に応じることができる。また、版をコンピュータ管理することで、追加分への対応が迅速に行うこともできる。なお、枠の厚みが薄いため、通常よりインク貯めが少なくなり、印刷技術が必要である。
【0015】
メッシュの数値は80~100程度のものを通常は使用する。さらに細かいデザインを表現したいときは、180程度までのものが使用される。メッシュの材料としては、例えば日本特殊織物株式会社から市販されている品番80SSや、100SS、180Sなどが例示できる。なお、斜めにメッシュを張ることで、目割れを防ぐことも可能である。
【0016】
原画(例えば
図2のディスプレイ画面(13)に示すような原画(14))をパソコン等により作図し、前記感光乳剤を塗布したメッシュ(10)に、直接プリンタ等によって、例えば黒いインクで描画する(
図3)。次にケミカルランプを使用した感光機や日光などで一定時間紫外線に当てることで、露光させる(
図4)。描画部分は黒インクで紫外線を透過しないので、感光しない部分として後工程(水洗)で除去される。その為、前記黒インクも水洗の際に簡単に除去できるインク(例えば、東信工業(株)マスクインク-PST200-1.0等)が使用される。
【0017】
乳剤面に水(15)をかけると感光が止まる(現像:
図5左側)。露光させたときに光が当たった部分は感光し、硬化した乳剤がメッシュに固着してインクを透過しない膜状(16)となる。感光していない部分の乳剤は、水等で洗うとメッシュから落ちて、インクが透過する部分(17)になる(
図5右側)。これで刷ることができる状態の版(メッシュ部材(20))ができあがる。
【0018】
本発明の(1)の工程は、上述した方法などにより準備した版(メッシュ部材(20))を使用して、被印刷物の印刷したい位置に合わせて配置する工程である。そして、(2)の工程で、印刷用のインクを、前記メッシュ部材を通過させて、被印刷物の所定の位置に載せる(すなわち印刷工程)。
【0019】
本発明の(3)の工程では、前記印刷工程後の被印刷物のインク表面に皮膜を形成する。皮膜の形成は、装置内で風乾または(17℃~40℃で)加熱することにより行われる。皮膜の形成により印刷部のインク表面と他の被印刷物の表面との接着が防止され、印刷後は被印刷物を放置することでインク内部まで固化し、この風乾などにより見た目では印刷が完了する。前記(1)~(3)の工程は、通常行われるシルクスクリーン印刷方法と特に相違する工程ではない。
【0020】
本発明では、(4)の工程、すなわち印刷後のインクの固化を促進するために、温度120℃~150℃の範囲内で、1分~2分の間加熱処理する工程(ベーキング工程)を取り入れることで、インク内部まで化学反応を促進し、被印刷物とインクとの接着強度を向上させることができる。
【0021】
続いて本発明では、(5)の工程として、前記ベーキング工程後の被印刷物の表面温度を、30秒以内に、20℃以下になるまで冷却する(冷却工程」)。この工程は、ベーキング処理によって高温となっている印刷部(インク)の特に表面温度を下げることで、後続の被印刷物を折り畳み、包装する際に、印刷部が他の(印刷部または被印刷物表面)と接着することのないようにするために有効な工程である。
【0022】
前記(5)の工程として、温度7℃~18℃で、1.0m3/分~5.5m3/分の風量で、印刷部に向けて冷風を吹き付けることにより、冷却しても良い。水やアルコール等の溶剤を吹き付けて冷却することもできるが、被印刷物を包装する前に冷却剤を除く必要があるので、連続処理には風冷が一番適している。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシルクスクリーン印刷によれば、以下の効果がある。
【0024】
他の印刷方法に比較して、製版、印刷方式が簡単で設備投資や経費の節約が可能であり、メッシュ部材(版)とスクイジーがあれば印刷が可能なので、小さい面積から大きな面積の被印刷物に適応できる。また、メッシュ部材に弾力があるので、平面だけでなく曲面等に印刷ができる(もちろん、被印刷物によりインクの選択が必要である)。さらに、インクの塗布量が多いため被覆効果が高く、鮮明な色彩と重量感を表現することもできる。
【0025】
本発明のベーキング工程を行うことにより、インク内部まで樹脂成分の固化を進行させ、かつ短時間で行うことができるので、被印刷物とインクとの接着力が高い状態で、顧客に供給できる。
【0026】
本発明の冷却工程により、被印刷物の印刷部(インク)温度を迅速に低下させることができるので、後の包装工程等において印刷部が他の表面と接着する等の不良品発生を効率よく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】メッシュに感光乳剤を塗った状態を示す図である。
【
図2】パソコンにより原画を作成する一例を示す図である。
【
図3】感光乳剤を塗布したメッシュに原画がプリントされた状態の一例を示す図である。
【
図5】メッシュから未反応感光乳剤を除去する工程の一例を示す図である。
【
図6】被印刷物を配置する工程の一例を示す図である。
【
図7】メッシュ部材を通過させて、被印刷物に描画する一例を示す図である。
【
図9】ベーキング装置の一例(コンベア式)を示す図である。上の図は装置全体の外観であり、左下は装置の右側面を開放した状態、右下は排出口から出てくる被印刷物の印刷部の表面温度を測定する状態を示す図である。
【
図10】冷却装置の一例(コンベア式)を示す図である。上の図は装置全体の外観であり、左下は装置の右側面を開放した状態、右下は排出口から出てくる被印刷物の印刷部の表面温度を測定する状態を示す図である。
【
図11】折り畳み機により包装するまでの工程を示す図である。
【
図12】
図11に続き、折り畳み機により包装するまでの工程を示す図である。
【
図13】
図12に続き、折り畳み機により包装するまでの工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係わるシルクスクリーン印刷方法は、前記のメッシュ部材(版)を予め準備しておけば、被印刷物への印刷から、印刷部の固定化、被印刷物の包装まで、連続的に進めることができるものである。
【0029】
シルクスクリーン印刷方法によって印刷される被印刷物は、典型的には繊維製品であるがこれに限定されるものではない。繊維製品には、織物、編物、不織布、カーペットなどが含まれるが、単繊維、糸または中間繊維製品であっても良い。繊維の素材としては、天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)、化学繊維(例えば、ナイロン、ポリプロピレンなど)、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなど)であり、前記繊維を所望の重量比で混繊した物であっても良い。
【0030】
繊維製品としては前記の繊維素材を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、作業服、レインコート、カーテン、幟、寝装寝具、椅子やソファーのカバー、テント、カーペット、カーシート地、およびインテリア用品等として例示される繊維製品である。
【0031】
本発明のシルクスクリーン印刷方法は、前記の通り、被印刷物の上にシルクスクリーン印刷用のメッシュ部材を配置する工程から始まる。以下では被印刷物としてTシャツに印刷する場合を例として記載する。
図6は、印刷機にTシャツ(21)をセットした状態を示す図である。
【0032】
次に、印刷用インク(22)を、前記メッシュ部材(20)を通過させて前記被印刷物(Tシャツ)の所定位置に載せる(印刷する)工程を
図7に示す。
図7の上側の図はTシャツに1回印刷して、Tシャツの生地の色とは異なる色(具体的には白色)の背景を、長方形で3カ所に配色(23)した状態を示し、下側の図は前記配色部分(白)及びTシャツに(具体的には黒色インク(24)で)2回目の印刷をして、描画(25)する状態を示した図である。
【0033】
前記(2)の工程で使用されるインクとしては、混合樹脂インク、蒸発乾燥型樹脂インク、2液硬化型樹脂インク、UV硬化型樹脂インクなどがあり、被印刷物に合わせて適宜選択すれば良い。例えば、Tシャツ、トレーナー等には、株式会社松井色素化学工業所から市販されているアクリル系樹脂の混合樹脂インクとして、BINDER EN-ME(クリアータイプ)や、SUPER WHITE EN-2(ホワイトタイプ)等があげられる。また、架橋剤としてフィクサーFEを加えても良い。さらに発色用の顔料(例えば株式会社松井色素化学工業所製の、ネオカラー レッドMFB、ネオカラー グリーンMB、ネオカラー ブルーMBなどや、株式会社佐野製の蛍光色グローカラー スカーレットMSGR、グローカラー グリーンMS5G、グローカラー ブルーMSBRなど)を添加して所望の色を発色する。
図8に印刷用インクの配合装置の一例を示す。
【0034】
図8では幾つかの顔料タンク(26)を適量抽出(上側の図)し、所望の色を発色する比率にて各顔料を抽出してパイプ等(27)を通して配合(下側の図)することを示している。配合した後のインクは攪拌装置・攪拌棒などにより均一な発色になるまで混合する。
【0035】
次いで、前記印刷工程後の被印刷物のインク表面に皮膜を形成する工程が行われる。ここでは、被印刷物の上に載せたインクが、他の表面と接着しないようにする工程である。混合樹脂インクや、蒸発乾燥型樹脂インクなどは、溶剤が揮発することで残留する樹脂が被印刷物(例えばTシャツなど)の繊維と接着し、インクの色が固定される。塗布当初は、溶剤が多量に含まれているため、インクが他の表面に接着しやすいので、この工程は、印刷部の鮮明性を保持して、被印刷物の希望しない部分に対する着色を防止するためである。
図7の右下には、Tシャツにインクを塗布して描画(25)した後の状態の一例が示される。
【0036】
次に、前記印刷後のインクの固化を促進するために、温度120℃~150℃の範囲内で、1分~2分の間加熱処理(ベーキング工程)する。この工程は、前記皮膜が形成された後の、インク内部の残留溶媒を揮発させて、インク成分の樹脂を内部まで固定化し、被印刷物とインクとの接着力を向上させるためである。前記温度以下では、本工程が長時間必要となり、前記温度以上で処理すると、インク構成の樹脂や被印刷物に対して劣化等の悪影響を与えるおそれがある。なお、処理時間は、使用するインクや、加熱温度との関係で適宜設定すれば良く、例えば、株式会社松井色素化学工業所から市販されている、SUPER WHITE EN-2(ホワイトタイプ)のインクを使用して130℃で加熱する場合には、約3分程度で充分である。
【0037】
図9には、ベーキング装置の一例(コンベア式)が示されている。上の図は装置(30)全体の外観であり、被印刷物の投入口(31)、被印刷物を載せて装置内を運搬するコンベア(32)、処理後の被印刷物の排出口(33)が設けられている。左下には装置の右側面(34)を開放してコンベア上の被印刷物(21)が装置内を移動する様子を示す(撮影のために開放しているのであって、加熱時は
図9上図の通り保温のために閉鎖している。)。本例示ではコンベア式を採用しており、被印刷物を装置内で移動させて、印刷部を均等に加熱するために好適である。なお、被印刷物に対して加熱ムラをなくすことができれば、内部循環送風式の加熱装置や、単純に加熱するだけの装置を採用しても良い。
【0038】
右下が装置の排出口(33)からコンベア(32)に載って出てくる被印刷物(21)と印刷部の表面温度を測定装置(35)で測定している様子を示す図である。この例(表示温度は約141℃であった。)でも判るように、ベーキング処理によって印刷部の表面温度が高いままのため、そのまま折り畳み機にて畳み始めると、被印刷物の印刷部同士や、印刷部と非印刷部とが接着する等の問題が生じうる。
【0039】
そこで、本発明では前記ベーキング工程後に、被印刷物の印刷部表面温度が、30秒以内(より具体的には10~30秒内)に、20℃以下(より具体的には10~20℃)になるまで冷却する。冷却のための手段は限定するものではないが、例えば、スポットクーラーなどを使用して7℃~18℃の温度で、1.0m3/分~5.5m3/分の風量で、印刷部に向けて冷風を吹き付けることにより行うことができる。
【0040】
図10には、冷却装置の一例が示されている。上の図は、装置(40)全体の外観であり、前記ベーキング装置の排出口(33)から搬送される被印刷物の投入口(41)、被印刷物を載せて装置内を運搬するコンベア(42)、処理後の被印刷物の排出口(43)が設けられている。冷風を発生するための外部スポットクーラー(44)と、該スポットクーラーから延びる二つの冷風ダクト(45)により、装置の上方2カ所から装置内に冷風が送られる。この例では、冷却機能が外部に設けられているが、装置内に一体構成されていても良い。また、冷却ダクトは2本示されているが1本又は3本以上の複数設けられていても構わない。印刷部の冷却ができれば良く、冷却能力(例えば送風量や、温度の低さ等)は、装置から排出されるときの被印刷物の印刷部温度が20℃程度以下になるように適宜調整すればよい。
【0041】
図10左下には、冷却装置の右側面(46)を開放した状態で、コンベア(42)に載って被印刷物(21)が移動する様子を示す(ベーキング装置と同様に内部撮影のために開放したのであって、実際に使用する際は閉鎖されている)。 被印刷物の投入口(41)側の金属壁(47)には、コンベア(42)上を搬送されてきて、これから冷却装置に入る直前の被印刷物が(金属壁が鏡面のために)映り込んでいるだけであって、この例の装置では、被印刷物が装置内部を直進するだけであり、2段で折り返して搬送される(装置内を往復する)構造ではない。
【0042】
図10右下には、冷却装置内を移動して排出された被印刷物(21)の印刷部(25)表面温度を測定装置(35)により計測している。装置内の移動時間(冷却時間)は、27秒であり、この例では15℃を示している。
【0043】
前記ベーキング装置および前記冷却装置は、投入口から(反対側の)排出口までを直進する内部構造にしているが、装置内を2段構造にして投入口と排出口が同じ側にあるようにしたり、3段構造(或いはそれ以上)にしてS字状に移動するようにしても良い。また、本例では直進しているが、蛇行して移動させても良い。各装置の構造は複雑になるが、加熱効率、冷却効率を向上させ、装置の全長を短くできるという効果が期待されるからである。
【0044】
ベーキング工程(ベーキング装置)と冷却工程(冷却装置)をベルトコンベア式のラインで接続することで、加熱と冷却を連続的に行うことができる。なお、被印刷物によっては平坦なベルトコンベアで接続するだけでは不十分で、ライン上に滑り止めを設ける等の工夫が必要になる。こうして、冷却工程まで処理された被印刷物は、最終の出荷に向けて、折り畳み機により包装される。
【0045】
図11、
図12及び
図13には、本発明の(6)の工程である、前記被印刷物を適当な大きさに畳み、包装する工程が示されている。
【0046】
図11に示すように、初めに折り畳み機に、被印刷物の種類、大きさ、畳み幅などを設定(
図11左上(50))し、被印刷物(21)を置き(
図11右上)、後はコンベア(52)搬送により畳み機の所定位置に移動(
図11左下)させ、左側を畳操作部(53a)により折り畳む(
図11右下)。続いて、右側から畳操作部(53b)により折り畳み(
図12左上)、包装用の袋(54)に被印刷物(21)を挿入して(
図12右上及び左下)、袋の入り口をヒートシール(55)する(
図12右下)。シール包装後(
図13左)の被印刷物(21)が折り畳み機から排出される(
図13右)。特に被印刷物(21)の左右を折り畳むに際して、印刷部が熱を持っている状態で、これを実行すると、印刷部同士が重なって接着したり、或いは印刷部と他の部分とが接着して、不良品の発生原因となり得る。そこで、本発明の(5)の冷却工程が重要となるのである。
【0047】
以下では、実施例を示しつつ本発明のシルクスクリーン印刷方法をより具体的に説明する。
【0048】
(実施例1及び比較例1)
被印刷物として綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツの正面にデザインを施す例について説明する。使用したインクは顔料(株式会社松井色素化学工業所製 ネオカラー)をインクの基剤(商品名:SUPER WHITE EN-2、株式会社松井色素化学工業所製)と配合した印刷用インクである。
【0049】
予め用意したメッシュ部材を印刷装置にセットして、被印刷物を所定の位置に配置((1)工程)し、前記印刷用インクを、メッシュ部材を介して被印刷物に塗布((2)工程)し、被印刷物のインク表面の皮膜を形成する((3)工程)。前記印刷部上に次の描画を重ねるために、メッシュ部材を交換して、新たな画を被印刷物に塗布した。すなわち、印刷工程(2)を2回繰り返したことになる。
【0050】
前記(1)~(3)工程までを実施した被印刷物を比較例1とした。一方、前記工程後に、温度120℃~150℃の範囲で、2分間のベーキング処理((4)工程)を行った。ベーキング処理後の出口付近における被印刷物の表面温度は約140℃であった。その後被印刷物の表面温度を、27秒で、15℃になるまでスポットクーラーにより冷却した((5)工程)被印刷物を、
図11~
図13に示す折り畳み機により包装して得られる商品を実施例1とした。
【0051】
比較例1によりインクを表面に固定した被印刷物と、本発明例によりインクを表面に固定した被印刷物とで、白色で印刷した箇所(参考
図7右上)を上下方向に重さ3Kgの荷重がかかるようにして、印刷部の伸び率を測定した。
【0052】
その結果、比較例1(ベーキング無し)の場合 印刷部の伸び率は、150%(元の長さ28cmに対して、荷重有りで42cmに伸びた)であった。また、実施例1(ベーキング工程・冷却工程有り)の場合には、118%(元の長さ28cmに対して、荷重有りで33cmに伸びた)であった。ベーキング処理を行うことで、印刷部の樹脂硬化が飛躍的に進むことが判る。このことからも、本発明例の方が、印刷強度が優れていることが示された。
【0053】
(比較例2)
前記実施例1において(5)工程に記載の冷却を行わなかった以外は、実施例1と同様に処理した被印刷物を比較例2とした。なお、被印刷物の表面温度は出口付近においては前記の通り約140℃であり、折り畳み機に投入する前後の温度は冷却を行わなかった為に60℃~85℃であった。
【0054】
比較例2で得られた商品は10個中5個において、印刷部が他と接着しており不良品であったのに対して、実施例1で得られた商品は10個中全てで他との接着がなく、全商品が良品であった。このように本発明を適用すれば、印刷から包装までを一連の流れで処理できることが判る。
【0055】
また、比較例2の良品のうち、室温下で冷却された印刷部の伸び率を測定したところ、125%(元の長さ28cmに対して、3kgの荷重有りで35cmに伸びた。)であった。ベーキング処理を行ったとしても、印刷後の被印刷物は室温で徐々に冷却されるので、直ぐに折り畳むことをしなければ、必ずしも前記のような意図しない接着の問題は生じないとも思える。しかし、急速冷却を行う場合(実施例1)よりも、急冷しない場合(比較例2)の方が、伸び率が若干大きくなったことから、本発明の冷却工程は、単に畳み機における接着防止効果だけでなく、印刷部のより一層の強度向上効果にも寄与することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明のシルクスクリーン印刷方法は、所望の原画を、被印刷物の所定位置に印刷し、特に連続して包装工程まで進めることができるので、商品に多彩なデザインを付与して、商品価値を高めることができるのと同時に、製造工程をライン化することができるので、コストダウン・連続生産に向いた新規な方法を提供する。
【符号の説明】
【0057】
10・・・メッシュ
14・・・原画
20・・・版(メッシュ部材)
21・・・被印刷物(Tシャツ)
25・・・描画
26・・・顔料タンク
30・・・ベーキング装置
35・・・温度測定装置
40・・・冷却装置
44・・・スポットクーラー
50・・・折り畳み機条件設定部
55・・・ヒートシール部