(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106935
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】大気中二酸化炭素の増加抑制および削減方法と、大気中二酸化炭素の増加抑制および削減システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20240801BHJP
B09B 5/00 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023020350
(22)【出願日】2023-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】519006506
【氏名又は名称】Solution Creators株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川端 康晴
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AC04
4D004BB09
4D004CA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易かつ効率よく化石燃料起源の廃棄物燃焼に係わる二酸化炭素排出を抑制したり、大気中二酸化炭素を吸収して炭化させたバイオ炭を長期固定させることで、大気中の二酸化炭素を回収削減する方法と、これらの方法を適用した大気中二酸化炭素の増加抑制および削減システムを提供する。
【解決手段】炭化水素化合物を低酸素または無酸素環境下で加熱して炭化、半炭化あるいはこれらの混合体にするとともに、生成した炭化物、半炭化物またはこれらの混合体か、炭化物を微粉化して水と混合した炭化物スラリー水を、地下または地上に形成する耐腐食性を有する難燃性または不燃性の材料で囲まれた空間内に充填または埋設して封止するか、前記の材料で構成された容器内に充填保管することで、炭化物、半炭化物またはこれらの混合体の着火や燃焼および微生物の分解による温暖化ガスの排出を抑制しながら長期貯留させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素化合物を低酸素または無酸素環境下で加熱して炭化、半炭化あるいるこれらの混合体にするとともに、生成した炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、地下または地上に形成させ、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の材料で一部または全部が囲まれた空間内に充填または埋設し、さらに充填または埋設後の露出部の一部または全部を耐腐食性を有する難燃性または不燃性の材料で封止することで、炭化水素化合物起源の炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の空間内に長期貯留させることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項2】
炭化水素化合物を低酸素または無酸素環境下で加熱して炭化、半炭化あるいはこれらの混合体にするとともに、生成した炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性と耐熱性を有する難燃性または不燃性の材料で一部または全部が製作された容器内に充填し、さらに容器充填後の露出部の一部または全部を耐腐食性と耐熱性を有する難燃性または不燃性の材料で封止することで、炭化水素化合物起源の炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の容器内に長期貯留させることを特徴とする、、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項3】
請求項1に記載の長期貯留空間が、廃鉱山の採掘跡地および廃坑道、洞窟内、廃線鉄道および廃止道路上のトンネル空間、利用廃止された地下配管および共同溝、未利用または利用停止する水井戸または温泉井戸、採掘後の油田、ガス田および炭田のいずれかであることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項4】
請求項1に記載の長期貯留空間が、山または地下を掘削しながらコンクリート壁を施工するシールド工法によって構成された人工地下空間か、地下を掘削しながらセメント壁または鋼管挿入によって形成される人工地下空間であることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項5】
請求項2に記載の長期貯留容器が、利用廃止された化石燃料の備蓄タンク、廃止された上下水施設の沈砂池、遊水地および貯水槽、廃止されたダム貯水槽のいずれかであることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項6】
請求項1~5に記載の炭素または炭化水素化合物の長期貯留方法において、長期貯留空間内または長期貯留容器内に炭素または炭化水素化合物を充填または埋設する際に、炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を微粉化させて水と混合攪拌させてスラリー化させ、炭化物スラリー水として充填または埋設することを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項7】
請求項6に記載の炭素または炭化水素化合物の長期貯留方法において、炭化物スラリー水の貯留槽を封止することなく、タンク内の炭化物スラリー水の水分を蒸発させながら、新たな炭化物スラリー水の補充を繰り返すことで、炭化物スラリー水の炭化物濃度を高めるか、水分を全量蒸発除去させ、残留炭化物だけをタンク内に貯留させることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項8】
請求項1、請求項3および請求項4に記載の長期貯留空間を構成する内壁被覆材と壁面構成材および壁面の接合封止材が、鉄筋コンクリートかコンクリート、モルタル、または耐腐食性と難燃性または不燃性を有する金属、鉱物または樹脂材料のいずれか一つ以上の材料であることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項9】
請求項2および請求項5に記載の容器の構成材料と容器壁の接合封止材が、耐腐食性と難燃性または不燃性を有する金属、鉱物、または樹脂材料のうち、いずれか一つ以上の材料であることを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留方法
【請求項10】
請求項1~9に記載の長期貯留空間か長期貯留容器の内部に、酸素除去した低酸素空気か脱酸素空気、または二酸化炭素ガス以外の不活性ガスを充填して加圧空間とし、空間内の圧力と充填ガスの成分を測定監視することで、長期貯留空間内または長期貯留容器内の気密性と温室効果ガスの生成状況を管理することを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留状態の管理方法
【請求項11】
請求項1~9に記載の長期貯留空間か長期貯留容器の内部に、請求項6に記載の炭化物スラリー水の水位と貯留水面近傍のガス成分を測定監視することで、長期貯留空間内または長期貯留容器内への炭化物スラリー水の補充管理とスラリー水面からの温室効果ガスの生成状況を監視管理することを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留状態の管理方法
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の監視管理方法によって、長期貯留空間または長期貯留容器から漏洩が検知された場合に、内部ガスまたは内部液の漏出状況から特定される漏洩場所に対し、請求項7または請求項8に記載の方法によって長期貯留空間または長期貯留容器の修繕を行ったうえで、請求項6に記載の炭化物スラリー水か、請求項10に記載の充填ガスを再充填し、請求項10または請求項11に記載の方法によって、炭素または炭化水素化合物の長期貯留状態の監視管理を再開することを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留の維持管理方法
【請求項13】
請求項10または請求項11に記載の監視管理方法によって、長期貯留空間または長期貯留容器から漏洩が検知された場合に測定された内部ガスの流量とガス成分から、または、測定された漏出液の流量と流出液の成分から、長期貯留空間または長期貯留容器から漏出した温暖化ガスの量を算出し、当初の貯留量から漏出量を差し引いて正味の炭素貯留量に基づく環境価値を算定することを特徴とする、炭素または炭化物の長期貯留量の推定方法
【請求項14】
請求項1~14の方法によって、二酸化炭素の排出起源物質となる炭素または炭化水素化合物を燃焼させることなく炭化させ、得られた炭化物か炭化物スラリー水を、長期貯留空間内または長期貯留容器内に長期貯留させることにより、化石燃料起源の廃棄物燃焼に係わる二酸化炭素ガスの排出を抑制するか、大気中の二酸化炭素を回収削減させることを特徴とする、大気中二酸化炭素の増加抑制および削減システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化の主な原因物質である二酸化炭素の大気中への排出を抑制する方法と、これまで大気中に蓄積されてきた二酸化炭素を削減する方法、およびこれらの方法を具現化するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主要な温暖化ガスである二酸化炭素の増加抑制にむけて、化石燃料の利用時や炭化水素を含む焼却廃棄物を燃焼する際に、排気ガス中に含まれる二酸化炭素ガスを分離回収し、枯渇油田や帯水層など、地下の貯留槽に圧入固定する方法が提案され、実用化されている。
【0003】
一方、前記の方法では、排気ガスに含まれる低濃度の二酸化炭素ガスの分離回収や貯留地への輸送にむけた圧縮と液化、および地下貯留槽内への圧入固定化において、多大なエネルギーとコストが発生することに加え、圧入した二酸化炭素が漏洩して気化放散せず、長期貯留できる場所が限定されることから、二酸化炭素を含む排気ガスを、無機物を含む水性溶媒中に吹き込みながら通電して無機物と反応させ、固体の炭酸化合物として回収して貯留または有効利用する方法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
さらに、これまでの産業活動等を通じて大気中に蓄積された二酸化炭素ガスを吸収して固定化することで、大気中の二酸化炭素を回収削減する方法として、大気中の二酸化炭素を吸収して固定化されたバイオマスを利用し、発電や熱利用時の燃焼排ガスに含まれる二酸化炭素ガスを分離回収して固定化する方法(BECCS)や、バイオマス資源を無酸素または低炭素環境下で350℃以上の高温加熱を行ってバイオマス資源を炭化し、難分解性の炭素と炭化水素化合物から構成されるバイオ炭として、微生物分解が抑制される鉱質土壌の農地等に施用することで、農地の土壌改良を実現しながら、バイオマス起源の炭素を土中に長期固定化する炭素貯留農法(カーボンファーミング)も実用化され、この炭素削減価値を排出権取引において効率的に推定評価するシステム(特許文献2)も提案されている。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-145080
【特許文献2】特開2022-153012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、特許文献1の従来技術によれば、化石燃料や炭化水素含有廃棄物のほか、大気中の二酸化炭素を吸収固定化して生成したバイオマス資源を含め、多様な炭化水素化合物を燃焼した際に発生する排気ガスに含まれる二酸化炭素ガスを、輸送や貯留および有効活用が容易な固体の炭酸化合物として回収することが可能となり、さらに特許文献2の従来技術によれば、バイオマス資源をはじめとする炭化水素化合物を炭化させ、土壌中に埋設させることで、炭素を簡易に効率よく固定化し、その環境価値を簡便かつ適正に評価することが可能となるが、これらの技術には以下に示す課題がある。
【0008】
まず特許文献1の従来技術では、濃度の低い二酸化炭素ガスを含む排気ガスを全量、水性溶媒中に吹き込む工程で多量のガス圧縮エネルギーを要し、さらに水性溶媒に通電して電解処理を行う工程でも、多量の電解エネルギーを必要とするほか、原料となるマグネシウム合金の製造や調達の工程でも多量のエネルギーが発生するため、これらの工程で化石燃料起源の電力を利用する場合には、正味の二酸化炭素削減効果や排出抑制効果(二酸化炭素の削減または排出抑制価値)が減少するほか、多量の電力消費やマグネシウム合金の原料調達に伴うコストが発生し、二酸化炭素の回収固定化コストが嵩むという課題がある。
【0009】
また、特許文献2の従来技術を構成する炭素貯留農法については、農用地にバイオ炭を施用した際に、バイオ炭に含まれる難分解性炭素以外の炭化水素化合物が土壌中の微生物によって分解され、二酸化炭素などの温暖化物質として大気中に放散されることで、二酸化炭素の削減効果が減少してしまう課題があるほか、こうした土壌中微生物によるバイオ炭の分解による二酸化炭素削減効果の減少量が推定・考慮されていないという課題がある。
【0010】
すなわち、土壌中の微生物によるバイオ炭中の炭化水素化合物の分解効果については、バイオ炭を施用する土壌中の微生物種とその生息数をはじめ、これらの土中微生物の生息数や活性が、土壌の温度や湿度、酸性度などの環境と、施用されたバイオ炭の特性によって変化するため、これらを加味して施用したバイオ炭の分解効果を推定し、二酸化炭素の削減効果から控除することで、バイオ炭施用による正味の二酸化炭素削減効果を推定評価できるが、こうした方法や同様の効果が得られる推定評価の方法が開示されていない。
【0011】
また、本発明はバイオ炭の農地施用に限定されており、化石燃料由来の炭化水素廃棄物を炭化埋設することで、大気中への二酸化炭素ガス排出を抑制できるカーボン・ニュートラル化の方法や、バイオ炭を金属鉱山の採掘跡地や廃坑内に埋設することで、微生物による炭化水素分解を抑制しながら大気中の二酸化炭素を長期除去固定させるネガティブ・エミッション化の方法、さらには焼却処分してきた炭化水素廃棄物を炭化して得られる炭化物を、廃トンネル空間内やシールド工法で構築できる地下の人工貯留槽に充填埋設することで、大気中への二酸化炭素排出を抑制する方法に対応できず、これらの方法を適用した、二酸化炭素の排出抑制価値や、大気中二酸化炭素の回収削減価値を推定評価できない課題がある。
【0012】
例えばバイオ炭の農地施用による二酸化炭素削減価値取引(例えば日本国内のJ―クレジット制度)における二酸化炭素削減量の算定では、バイオ炭の種類に応じた100年後の炭素残存率(J―クレジット制度では0.65~0.89)が定められているが、この係数は、農地法に定める農地または採草放牧地における鉱質の土壌にバイオ炭を施用する場合に限って適用されることとなっており、土壌微生物が少なく低温環境のために微生物の活性も低下する地下岩盤内をはじめ、コンクリート壁や金属容器で構成された人工貯留槽に貯留することで土壌微生物の分解効果を抑制し、100年後の炭素残存率を高めた固体炭素の長期貯留が可能となるが、このような方法とその価値評価手法が開示されていない。
【0013】
なお、金属鉱山の採掘跡地や廃坑、山中の廃トンネルといった地下の未利用空間や、地下や山中にシールド工法を利用して形成できる地下空間は、落雷や近隣火災の延焼による着火や火災発生のリスクが極めて低いことに加え、一般的に低温で高湿度な環境となることから、地下の炭素貯留空間内に埋設保管された炭化物が万一、発火・燃焼しても、火炎が急速に拡大して延焼するリスクが極めて低いという特長もある。
【0014】
さらに、炭素貯留空間を密閉したり、不活性ガスや水で封入した場合には、外部から流入する酸素量が限定されるため、万一、発火や着火が起きても酸素不足によって、火炎が燃え拡がり難く、消火に至りやすいことから、バイオ炭や廃棄物起源の炭化物を燃焼させて二酸化炭素ガスとして排出させることなく、かつ、微生物分解による二酸化炭素などの温暖化ガス排出も抑制しながら、長期安定的な固体炭素の貯留を実現できる特長がある。
【0015】
さらに前記の人工貯留槽内に、炭化または半炭化した炭素や炭化水素を固体として長期貯留しておくことは、バイオマス起源の炭素に限らず、プラスチックやビニール、繊維や紙など、化石燃料由来または製造プロセスで化石燃料を利用して製造された炭化水素廃棄物に対して適用することで、従来は廃棄物処理場での焼却処理によって大気中に二酸化炭素ガスが排出され、蓄積されていくことを抑制することになるが、従来の技術ではこのような方法に基づく環境価値を評価できないという課題がある。
【0016】
また、バイオマス由来のバイオ炭に限らず、化石燃料由来の炭化水素を含む廃棄物も含め、これらを燃焼させて二酸化炭素ガスとして大気放散させず、燃焼前に炭化して固体の炭素や炭化水素化合物として炭素貯留槽に保管しておくことは、燃焼過程で大気中の酸素を消費し、酸素と結合することで、結合した酸素の分の容積と質量が増加した二酸化炭素ガスを回収して貯留するよりも、酸素結合させていない小容積かつ軽量な固体で貯留する方が、少ない容積で簡易かつ効率的に運搬や貯留ができる特長がある。特に二酸化炭素ガス1トンの容積は約509立方メートルに対し、同じ二酸化炭素ガス1トンの発生起源となる固体炭素の容積は約0.51立方メートルと、約1000倍の容積差があるため、二酸化炭素ガスにせず、固体炭素として燃焼させずに長期貯留する方が、より効率的である。
【0017】
本発明は、これらの課題と特長発見に鑑みてなされたものであり、その目的は、土壌中の微生物による炭化水素の分解に伴う二酸化炭素削減効果の減少や、貯留炭素の着火および発火・燃焼による二酸化炭素排出リスクを大幅に低減させながら、簡易かつ効率よく化石燃料起源の廃棄物燃焼に係わる二酸化炭素排出を抑制したり、大気中二酸化炭素を吸収して炭化させたバイオ炭を長期固定させることで、大気中の二酸化炭素を回収削減する方法と、これらの方法を適用した大気中二酸化炭素の増加抑制および削減システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
炭化水素化合物を低酸素または無酸素環境下で加熱して炭化、半炭化あるいはこれらの混合体にするとともに、生成した炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、地下または地上に形成させ、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の材料で一部または全部が囲まれた空間内に充填または埋設し、さらに充填または埋設後の露出部の一部または全部を耐腐食性を有する難燃性または不燃性の材料で封止することで、炭化水素化合物起源の炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の空間内に長期貯留させることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、
炭化水素化合物を低酸素または無酸素環境下で加熱して炭化、半炭化あるいはこれらの混合体にするとともに、生成した炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性と耐熱性を有する難燃性または不燃性の材料で一部または全部が製作された容器内に充填し、さらに容器充填後の露出部の一部または全部を耐腐食性と耐熱性を有する難燃性または不燃性の材料で封止することで、炭化水素化合物起源の炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を、耐腐食性を有する難燃性または不燃性の容器内に長期貯留させることを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の長期貯留空間が、廃鉱山の採掘跡地および廃坑道、洞窟内、廃線鉄道および廃止道路上のトンネル空間、利用廃止された地下配管および共同溝、未利用または利用停止する水井戸または温泉井戸、採掘後の油田、ガス田および炭田のいずれかであることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明は、
請求項1に記載の長期貯留空間が、山または地下を掘削しながらコンクリート壁を施工するシールド工法によって構成された人工地下空間か、地下を掘削しながらセメント壁または鋼管挿入によって形成される人工地下空間であることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明は、
請求項2に記載の長期貯留容器が、利用廃止された化石燃料の備蓄タンク、廃止された上下水施設の沈砂池、遊水地および貯水槽、廃止されたダム貯水槽のいずれかであることを特徴とする。
【0023】
請求項6に記載の発明は、
請求項1~5に記載の炭素または炭化水素化合物の長期貯留方法において、長期貯留空間内または長期貯留容器内に炭素または炭化水素化合物を充填または埋設する際に、炭化物、半炭化物またはこれらの混合体を微粉化させて水と混合攪拌させてスラリー化させ、炭化物スラリー水として充填または埋設することを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載の炭素または炭化水素化合物の長期貯留方法において、炭化物スラリー水の貯留槽を封止することなく、タンク内の炭化物スラリー水の水分を蒸発させながら、新たな炭化物スラリー水の補充を繰り返すことで、炭化物スラリー水の炭化物濃度を高めるか、水分を全量蒸発除去させ、残留炭化物だけをタンク内に貯留させることを特徴とする。
【0025】
請求項8に記載の発明は、
請求項1、請求項3および請求項4に記載の長期貯留空間を構成する内壁被覆材と壁面構成材および壁面の接合封止材が、鉄筋コンクリートかコンクリート、モルタル、または耐腐食性と難燃性または不燃性を有する金属、鉱物または樹脂材料のいずれか一つ以上の材料であることを特徴とする。
【0026】
請求項9に記載の発明は、
請求項2および請求項5に記載の容器の構成材料と容器壁の接合封止材が、耐腐食性と難燃性または不燃性を有する金属、鉱物、または樹脂材料のうち、いずれか一つ以上の材料であることを特徴とする。
【0027】
請求項10に記載の発明は、
請求項1~9に記載の長期貯留空間か長期貯留容器の内部に、酸素除去した低酸素空気か脱酸素空気、または二酸化炭素ガス以外の不活性ガスを充填して加圧空間とし、空間内の圧力と充填ガスの成分を測定監視することで、長期貯留空間内または長期貯留容器内の気密性と温室効果ガスの生成状況を管理することを特徴とする。
【0028】
請求項11に記載の発明は、
請求項1~9に記載の長期貯留空間か長期貯留容器の内部に、請求項6に記載の炭化物スラリー水の水位と貯留水面近傍のガス成分を測定監視することで、長期貯留空間内または長期貯留容器内への炭化物スラリー水の補充管理とスラリー水面からの温室効果ガスの生成状況を監視管理することを特徴とする。
【0029】
請求項12に記載の発明は、
請求項10または請求項11に記載の監視管理方法によって、長期貯留空間または長期貯留容器から漏洩が検知された場合に、内部ガスまたは内部液の漏出状況から特定される漏洩場所に対し、請求項7または請求項8に記載の方法によって長期貯留空間または長期貯留容器の修繕を行ったうえで、請求項6に記載の炭化物スラリー水か、請求項10に記載の充填ガスを再充填し、請求項10または請求項11に記載の方法によって、炭素または炭化水素化合物の長期貯留状態の監視管理を再開することを特徴とする。
【0030】
請求項13に記載の発明は、
請求項10または請求項11に記載の監視管理方法によって、長期貯留空間または長期貯留容器から漏洩が検知された場合に測定された内部ガスの流量とガス成分から、または、測定された漏出液の流量と流出液の成分から、長期貯留空間または長期貯留容器から漏出した温暖化ガスの量を算出し、当初の貯留量から漏出量を差し引いて正味の炭素貯留量に基づく環境価値を算定することを特徴とする。
【0031】
請求項14に記載の発明は、
請求項1~14の方法によって、二酸化炭素の排出起源物質となる炭素または炭化水素化合物を燃焼させることなく炭化させ、得られた炭化物か炭化物スラリー水を、長期貯留空間内または長期貯留容器内に長期貯留させることにより、化石燃料起源の廃棄物燃焼に係わる二酸化炭素ガスの排出を抑制するか、大気中の二酸化炭素を回収削減させる、大気中二酸化炭素の増加抑制および削減システムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、エネルギー消費やコスト負担の少ない簡易で効率的な方法により、土壌中の微生物による炭化水素の分解に伴う二酸化炭素削減効果の減少や、貯留炭素の着火および発火・燃焼による二酸化炭素排出リスクを抑制しながら、化石燃料起源の廃棄物燃焼に係わる二酸化炭素ガスの排出を抑制したり、大気中二酸化炭素を吸収して炭化させたバイオ炭を長期貯留させることで大気中の二酸化炭素を回収削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る第1実施形態である、廃鉱山内の地下空間内に間伐材を炭化して得られたバイオ炭を長期貯留して監視管理する、大気中二酸化炭素ガスの吸収削減方法と、そのシステムを示す模式図である。
【0034】
【
図2】本発明に係る第2実施形態である、化石燃料由来のプラスチックを含む廃棄物を炭化し、スラリー化して廃止石油備蓄基地の備蓄タンクに長期貯留して監視管理する、二酸化炭素ガスの排出抑止方法と、そのシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、本実施形態に限定されるものではない。
【0036】
(第1実施形態)
【0037】
まず本発明の第1実施形態に係る、廃鉱山内の地下空間内に、間伐材を炭化して得られたバイオ炭を長期貯留して監視管理する、大気中二酸化炭素ガスの吸収削減方法と、そのシステムについて、
図1に基づいて説明する。
【0038】
図1に示すように、このシステムは、強固な岩盤内に金属鉱物を有していたことから、山中の地下空間で鉱石採掘が行われたものの、採掘を終了して廃鉱となり、採掘後の未利用地下空間や未利用の廃坑道を有する廃鉱山1において、未利用の地下空間2の内部に大気中の二酸化炭素を吸収して成長した森林由来のバイオマス資源3を炭化して得られるバイオ炭4を埋設して長期貯留することで、大気中の二酸化炭素を回収削減するものである。
【0039】
本システムでは、廃鉱山の地表や近隣に生育する森林から間伐または皆伐して得られる木質バイオマス3を乾燥・チップ化したうえで無酸素または低酸素環境下で350℃以上に加熱して炭化させる木質バイオマス炭化炉5によって、バイオ炭4を生成させる。なお、バイオマスの炭化過程では、木質バイオマスの一部がガス化して燃料利用できるが、この燃料を利用して発電を行い、チップ化装置や炭化炉の駆動電力として活用したり、ボイラ燃焼させて発生熱を木質バイオマスの乾燥や炭化に利用することで、木質バイオマスの炭化処理に係わるエネルギー消費と二酸化炭素の増加量を抑制することが望ましい。
【0040】
一方、バイオ炭を貯留させる廃鉱山内の未利用地下空間には、岩盤内に亀裂を有する場所や地下水が湧出する場所があり、こうした場所を封止しない場合には、貯留したバイオ炭の一部が地下水と混入したり、亀裂内に侵入して地下水と混合する恐れがあるため、こうした恐れがある場所を、コンクリートやモルタルを充填または塗布することで、貯留槽の内壁および床面を封止し、貯留したバイオ炭が流出しないようにしておく貯留内壁6を施工しておくことが望ましい。
【0041】
ただし、貯留させるバイオ炭に有害物質が含まれていない場合には、地下空間内の天面や壁面、床面全てをコンクリートやモルタルで充填または塗布しなくても良い。これは、バイオ炭自体が無害な物質であり、地下水等に混入して流出しても、水質汚染や二酸化炭素ガスの排出には至らず、むしろ炭は多孔質で吸着性があることから、有害物質の吸着や水質浄化の効果も期待できるためである。
【0042】
こうして廃鉱内の地下未利用空間を、バイオ炭の長期貯留に適した貯留空間としたうえで、前記の工程で生成させたバイオ炭を用いて埋坑処理を行った後に、鉄筋コンクリート製の封止壁7を施工して長期貯留空間を埋坑封止することで、大気中の二酸化炭素を吸収したバイオマス起原の炭素を、廃鉱の地下空間内に長期貯留させることが可能となる。
【0043】
なお、この封止壁には貯留槽内監視用の連通孔8と、貯留槽内を窒素封入するための窒素ガス供給管9が施工されており、連通孔8には貯留槽内の圧力を測定する圧力センサ10と、貯留槽内で二酸化炭素ガスや可燃性ガスが発生する状況を測定監視するガスセンサ11が接続され、これらセンサからの測定情報が貯留槽内監視通報エッジ端末12で集約分析され、貯留槽内の保管状況を監視し、異常時に警報発報したり、漏洩が発生した際の漏洩量の推定分析データを送信できるように構成されている。
【0044】
一方、窒素ガス供給管9の先には、貯留槽内を窒素封入するための窒素ガスボンベ13と、窒素ガスを貯留槽内に圧入するためのガスコンプレッサ14が接続されているが、これらはバイオ炭の貯留を完了して封止する際や、漏洩や貯留槽内の圧力低下や窒素濃度が低下して酸素濃度が上昇した際の再充填時に搬入利用すればよく、充填後の貯留保管中は供給管9上のバルブを閉止して封止状態を維持しておけばよい。
【0045】
また、このような窒素封入は、バイオ炭の分解によって可燃性ガスが発生し、かつ貯留槽内に酸素が混入して内部に着火源が生じ、発火・燃焼するリスクに備えたり、バイオ炭の分解によって二酸化炭素ガスが発生し、これを抽気放散させる場合の環境価値控除を行う際に、バイオ炭の分解による二酸化炭素の発生状況を監視確認するためのものであるが、貯留槽内には高温昇温により滅菌されたバイオ炭が、低温・高湿度の地下空間に保管されており、貯留保管しているバイオ炭の発火・燃焼のリスクが極めて低いことや、微生物分解による二酸化炭素発生が起こらない、または発生量が極めて少ない場合には、必ずしも前記の方法によって、窒素ガスの封入や貯留槽内の監視管理まで行わなくても良い。
【0046】
以上の方法によって、廃鉱山の地表上または近隣の森林から得られる木質バイオマス資源から得られるバイオ炭を廃坑内に埋設保管することで、バイオ炭の長期貯留を通じた、大気中二酸化炭素の回収削減が可能となる。また、この方法で廃鉱山の地表上や近隣の森林から間伐や皆伐を行った後には、苗木15を植林して育成することで、苗木の成長を通じて大気中の二酸化炭素をさらに吸収削減させながら樹木を成長させ、二酸化炭素の吸収速度が低下する成木に達したところで間伐または伐採し、本方法によって得られたバイオ炭を地下貯留することで、大気中の二酸化炭素を持続的に回収削減することが可能となる。
(第2実施形態)
【0047】
次に、本発明の第2実施形態に係る、廃止石油備蓄基地の石油備蓄タンク内に、化石燃料由来の炭化水素廃棄物を炭化して得られた炭化物を粉砕し、水と混合させた炭化物スラリー水として貯留し、監視管理を行う、二酸化炭素ガスの排出抑制方法と、そのシステムについて、
図2に基づいて説明する。
【0048】
図2に示すように、このシステムは、防火や漏洩に対するリスク管理を徹底しながら化石燃料が備蓄されてきたものの、廃止に伴って利用見通しが無くなった石油精製プラント内の石油備蓄タンクを炭化物スラリー水の長期貯留タンク16として転用し、廃棄物処理場での焼却処分によって、二酸化炭素ガスの排出源となり得る炭化水素廃棄物を炭化して得られる炭化物17をスラリー水にしてタンク内に送液して貯留しておくことで、焼却処分による二酸化炭素の排出増加を抑制するものである。
【0049】
本システムでは、廃棄物収集車から回収される廃プラスチックやビニールのほか、紙や布など、従来は廃棄物処理場で焼却処分されてきた可燃性の廃棄物18を乾燥・破砕した後に、無酸素または低酸素環境で500℃以上に加熱して炭化させる可燃物炭化炉19によって、炭素と炭化水素の混合体を生成させた後に、これを炭化物粉砕機20で微粉化させたうえで、スラリー化装置21により水と混合攪拌して炭化物スラリー水とし、得られたスラリー水をポンプ22を介して貯留タンク16に注入し、液面が上限に達したところで停止する。
【0050】
なお、前記の蓋にはスラリー水の液面位置を測定してタンク内の貯留状況を把握する液面センサ23と、液面からの二酸化炭素ガスや可燃性ガスの発生状況と火災発生状況を把握できる火災検知機能つきガス測定センサ24が搭載され、貯留状態の監視と異常時の警報発報を行うエッジ端末12が設置されているが、タンク内に貯留しているスラリー水からは、水分蒸発だけで二酸化炭素ガスや可燃性ガスの発生が無い場合には、火災検知機能つきガス測定センサ24は簡素な火災検知器としたり、センサを設置しなくても良い。これは、炭化スラリー水溶液は備蓄石油と異なり、揮発性が低く燃焼し難いため、充分な着火エネルギーがなければ発火せず、延焼もし難いためである。
【0051】
また容器の天面蓋付近には、炭化スラリー水から水分が蒸発した際の水蒸気抽気口25が取り付けられており、蒸発した水分が貯留タンク内から抽気され、ラジエータを介して生成したドレン水をスラリー化装置21における原料水として復水することで、スラリー水を生成する際の補水利用量を削減する構成にするとともに、タンク内部のスラリー水が濃縮されて液面が低下した際に、ポンプを介して新たなスラリー水を適宜補充することで、タンク内部の炭素貯留量を増加させていくことが可能となる。
【0052】
このような構成として、廃棄物起源の炭素をスラリー水として備蓄タンク内に蓄積したうえで、スラリー水の水分蒸発と補充を繰り返すことでタンク内の炭素備蓄量を増加させ、廃棄物の焼却に伴う二酸化炭素の発生を抑制し、炭素として貯留することが可能となる。また、この方法によってタンク内が貯留炭素で満蓄となった後には、前記の炭化およびスラリー化とスラリー水の送液システム一式を、他の備蓄タンクに移設して、同様の操作を順次繰り返していくことで、複数のタンクに炭素を長期貯留していくことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
なお本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、例えば図示した実施形態は廃鉱や廃止された石油備蓄タンクに限定されず、洞窟や山間地の渓谷部などの自然地形を利用して実施したり、廃トンネルの入口を鉄筋コンクリート壁で封止し、内部にバイオ炭と可燃性廃棄物の炭化物を混合したうえで出口を鉄筋コンクリート壁で封止して炭素貯留させるなど、天然または人工の貯留空間に、燃焼排気させてきた多様な有機物を燃焼させることなく炭化貯留することで、二酸化炭素の排出抑制や大気中二酸化炭素の回収削減方法として利用しても良い。
【0054】
このように前記の実施形態は例示であり、本発明の特許請求範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1・・・・廃鉱山
2・・・・廃鉱山内の未利用地下空間
3・・・・木質バイオマス
4・・・・バイオ炭
5・・・・木質バイオマス炭化炉
6・・・・貯留内壁
7・・・・封止壁
8・・・・貯留内連通孔
9・・・・窒素ガス供給管
10・・・貯留槽内圧力測定センサ
11・・・貯留槽内ガスセンサ
12・・・貯留槽内監視通報エッジ端末
13・・・窒素ガスボンベ
14・・・ガスコンプレッサ
15・・・苗木
16・・・炭化物スラリー水貯留タンク
17・・・炭化物
18・・・可燃性廃棄物
19・・・可燃物炭化炉
20・・・炭化物粉砕機
21・・・スラリー化装置
22・・・スラリー液ポンプ
23・・・液面センサ
24・・・火災検知機能つきガス測定センサ
25・・・水蒸気抽気口