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特開2024-106949延長材の巻取装置及びこれを備える稼働システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106949
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】延長材の巻取装置及びこれを備える稼働システム
(51)【国際特許分類】
   B65H 75/38 20060101AFI20240801BHJP
   B65H 75/40 20060101ALI20240801BHJP
   B65H 75/48 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
B65H75/38 R
B65H75/38 W
B65H75/38 K
B65H75/40 C
B65H75/48 Z
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132849
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2023011115
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518440110
【氏名又は名称】飯田精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】福田 光正
【テーマコード(参考)】
3F068
【Fターム(参考)】
3F068AA06
3F068BA07
3F068CA02
3F068DA04
3F068EA07
3F068FA06
3F068GA12
3F068HA02
(57)【要約】
【課題】延長材の引出時において、延長材の引出抵抗を低減する。
【解決手段】回転駆動力を出力する巻取駆動体222と、巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向のときに回転駆動力を受けて延長材を巻き取る巻取ドラム221と、巻取駆動体と巻取ドラムとの間に設置され、巻取駆動体による回転駆動の向きが正転方向であれば回転駆動力を巻取ドラムに伝達せず、巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向であれば回転駆動力を巻取ドラムに伝達する一方向クラッチ223と、巻取駆動体による回転駆動の向きを正転方向と逆転方向で切り替える巻取制御部45と、を具備し、巻取制御部は、延長材が巻取ドラムから引き出されるときには回転駆動の向きを正転方向とし、延長材を巻取ドラムに巻き取るときには回転駆動の向きを逆転方向とする、巻取装置。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力を出力する巻取駆動体と、
前記巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向のときに前記回転駆動力を受けて延長材を巻き取る巻取ドラムと、
前記巻取駆動体と前記巻取ドラムとの間に設置され、前記巻取駆動体による回転駆動の向きが正転方向であれば前記回転駆動力を前記巻取ドラムに伝達せず、前記巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向であれば前記回転駆動力を前記巻取ドラムに伝達する一方向クラッチと、
前記巻取駆動体による回転駆動の向きを前記正転方向と前記逆転方向で切り替える巻取制御部と、
を具備し、
前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには前記回転駆動の向きを前記正転方向とし、前記延長材を前記巻取ドラムに巻き取るときには前記回転駆動の向きを前記逆転方向とする、
巻取装置。
【請求項2】
前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記巻取駆動体による前記正転方向の回転速度が、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度より大きくなるように制御する、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項3】
前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度の増減に応じて前記巻取駆動体による前記正転方向の回転速度を増減するように制御する、
請求項2に記載の巻取装置。
【請求項4】
前記巻取駆動体の前記回転駆動の向きが前記正転方向であるときに、前記巻取ドラムから引き出される前記延長材が緩むと、前記巻取駆動体の駆動態様を変更して前記延長材の緩みを解消する延長材の緩み解消手段を備える、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項5】
前記緩み解消手段は、前記延長材の引出速度が低下したときに、前記巻取駆動体による駆動を一時的に停止させる、
請求項4に記載の巻取装置。
【請求項6】
前記緩み解消手段は、前記延長材の引出速度が低下したときに、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を低下させることにより、前記巻取ドラムの回転抵抗を増大させる、
請求項4に記載の巻取装置。
【請求項7】
前記緩み解消手段は、前記延長材の引出速度が低下したときに、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度以下とする、
請求項6に記載の巻取装置。
【請求項8】
前記緩み解消手段は、前記延長材の引き出しが停止したときに、前記巻取駆動体の前記回転駆動の向きを一時的に前記逆転方向とする、
請求項4に記載の巻取装置。
【請求項9】
前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記延長材の引出速度の増減に応じて前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を増減するように制御する、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項10】
前記巻取制御部は、前記延長材の引出速度が低下したときには、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を、前記巻取ドラムの回転抵抗を増大させて前記延長材の緩みを抑制するように、低減させる、
請求項9に記載の巻取装置。
【請求項11】
前記延長材は、内部に物質を通過させるための通路が構成される可撓性を有するホース体からなり、
前記巻取制御部は、前記通路に対する前記物質の通過開始時と通過停止時において前記ホース体に変形が生ずることにより前記巻取ドラム上で前記延長材に緩みが生じたときには、前記巻取駆動体の前記回転駆動の向きを一時的に前記逆転方向とする、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項12】
前記巻取駆動体と前記巻取ドラムとの間には、前記巻取ドラム側に起因する過負荷を巻取駆動体へ伝達しないトルクリミッタを設ける、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項13】
相対移動可能に構成された一対の構成体と、前記一対の構成体の間に架設された延長材と、前記一対の構成体の距離に応じて前記延長材が引出可能に、かつ、巻取可能に構成された、請求項1-12のいずれか一項に記載の前記巻取装置と、を具備する、
稼働システム。
【請求項14】
上記一対の構成体は、移動可能に構成された一方の前記構成体である移動体と、稼働時に静止状態で用いられる他方の構成体である設置体とから構成される、
請求項13に記載の稼働システム。
【請求項15】
前記巻取装置を、前記移動体と前記設置体の少なくともいずれか一方に設ける、
請求項14に記載の稼働システム。
【請求項16】
一方の前記構成体である薬剤散布装置と、前記薬剤散布装置に薬剤を供給する、前記延長材である薬剤供給ホースと、前記薬剤供給ホースに対して薬剤を吐出する薬剤吐出ポンプと、前記薬剤吐出ポンプに供給される薬剤を収容する他方の前記構成体に配置された薬剤収容タンクとを具備する、薬剤散布システムである、
請求項13に記載の稼働システム。
【請求項17】
前記薬剤散布装置は、薬剤散布部と、前記薬剤供給ホースを巻き取り可能に構成された前記巻取装置とを搭載した車両構成体を備える、
請求項16に記載の稼働システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延長材の巻取装置及びこれを備える稼働システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、果樹園などにおいて薬剤を散布する薬剤散布装置として、スピードスプレーヤと呼ばれる移動式装置が知られている。この種の薬剤散布装置では、薬剤タンクからポンプなどにより供給された薬剤を大きな送風ファンによって生ずる気流に乗せてノズルから周囲に薬剤を噴霧することにより散布するように構成される(例えば、以下の特許文献1-3参照)。
【0003】
上記の薬剤散布装置では、ファンによって生じた水平方向の気流を外周側へ向けることにより、外周に沿って円弧状に配列された噴霧ノズルにより供給される薬剤を周囲に噴霧するように構成される。このため、単一のファンで形成した気流を円弧状の広い角度範囲に分けたり、気流の向きを強制的に直角に変化させたりする必要があるため、気流による噴霧効率が悪くなることにより燃料代がかさむとともに、噴霧口の周辺で乱流が生じて薬剤の噴霧方位にばらつきが生ずることにより所望の場所に効率的に薬剤を撒くことができず、薬剤の使用効率も低くなるので、薬剤散布作業を効率的に行うことができないという問題があった。そこで、本願出願人は、先に、複数の噴霧方向とファン軸線が一致した複数の噴霧ユニットを円弧状に配列させることによって、噴霧効率や薬剤の使用効率を高めることにより、薬剤散布作業を効率的に実施可能な改良された薬剤散布装置を実現した(特許文献4参照)。
【0004】
ところで、上記の改良された薬剤散布装置では、薬剤散布装置を構成する車両構造を備えた移動体において、薬剤供給用のホースの巻取装置を搭載し、別途設置した薬剤タンクを含む設置体に上記ホースの先端を接続するようにしている。これにより、薬剤散布装置を構成する移動体を前進させるときには、上記巻取装置の巻取ドラムからホースが引き出されるようにし、移動体を後退させるときには、上記巻取装置の巻取モータによってホースを巻き取るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平4-50934号公報
【特許文献2】特開平10-286502号公報
【特許文献3】特開2007-313483号公報
【特許文献4】特開2020-092620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなホースの巻取装置においては、移動体の前進時においてホースが引き出されていくが、このときにホースの引出抵抗が大きいと、移動体の駆動負荷が大きくなり、効率的な作業ができなくなるという問題があった。
【0007】
一般的に、前述の移動体と設置体のような相対的に移動可能に構成された一対の構成体と、これらの一対の構成体の間に架設された前述のホースのような延長材と、一対の構成体の距離の変化に応じて延長材を巻き取る巻取装置と、を具備する稼働システムでは、延長材の引出時と巻取時のそれぞれにおいて、前述のような問題が生ずる。
【0008】
そこで、本発明は上記問題を解決するものであり、その課題は、延長材の巻取装置においては、延長材の引出時において、延長材の引出抵抗を低減することにあり、また、稼働システムにおいては、一対の構成体の相対移動時の負荷を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の延長材の巻取装置は、回転駆動力を出力する巻取駆動体と、前記巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向のときに前記回転駆動力を受けて延長材を巻き取る巻取ドラムと、前記巻取駆動体と前記巻取ドラムとの間に設置され、前記巻取駆動体による回転駆動の向きが正転方向であれば前記回転駆動力を前記巻取ドラムに伝達せず、前記巻取駆動体による回転駆動の向きが逆転方向であれば前記回転駆動力を前記巻取ドラムに伝達する一方向クラッチと、前記巻取駆動体による回転駆動の向きを前記正転方向と前記逆転方向で切り替える巻取制御部と、を具備し、前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには前記回転駆動の向きを前記正転方向とし、前記延長材を前記巻取ドラムに巻き取るときには前記回転駆動の向きを前記逆転方向とする。
【0010】
本発明によれば、巻取制御部が駆動体による回転駆動の向きを逆転方向に切り替えているときには、巻取駆動体が出力する回転駆動力が一方向クラッチを介して巻取ドラムに伝達され、巻取ドラムが延長材を巻き取ることができる。また、巻取制御部が巻取駆動体による回転駆動の向きを正転方向に切り替えているときには、巻取駆動体が出力する回転駆動力が一方向クラッチにより巻取ドラムに伝達されないため、巻取ドラムは本質的には回転駆動力を受けない。このとき、延長材が巻取ドラムから引き出されると、巻取ドラムも正転方向に回転するが、巻取ドラムの回転速度が巻取駆動体による正転方向の回転駆動に対応する速度以上にならない限り、巻取ドラムが前記逆転方向の回転駆動力を受けることはないので、延長材を引き出すときに受ける抵抗は、延長材自体の引出抵抗や巻取ドラム自体の回転抵抗だけとなるために低減されることから、延長材の引出作業を容易かつ効率的に行うことができる。
【0011】
本発明において、前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記巻取駆動体による前記正転方向の回転速度が、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度より大きくなるように制御することが好ましい。この場合、前記巻取制御部により、前記巻取駆動体による前記正転方向の回転速度が、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度の最大値より大きく設定されるなど、結果として上記条件が常に充足されるときも含まれる。特に、前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記巻取ドラムの前記正転方向の回転速度の増減に応じて前記巻取駆動体による前記正転方向の回転速度を増減するように制御することが望ましい。
【0012】
本発明において、前記巻取駆動体の前記回転駆動の向きが前記正転方向であるときに、前記巻取ドラムから引き出される前記延長材が緩むと、前記巻取駆動体の駆動態様を変更して前記延長材の緩みを解消する延長材の緩み解消手段を備えることが好ましい。これによれば、巻取ドラムから延長材が引き出される過程で延長材に生じた緩みによって生ずる問題を回避することができる。この場合において、前記緩み解消手段は、前記延長材の引出速度が低下したときに、前記巻取駆動体による回転駆動を一時的に停止させることが望ましい。これによれば、巻取駆動体の駆動停止によって一方向クラッチが伝動状態となり、巻取ドラムに通常は加わらない巻取駆動体による回転抵抗が付加される(制動状態となる)ので、引出速度の低下によって生じた延長材の緩みを徐々に減少させていくことにより、巻取ドラムから引き出される延長材の緩みを解消することができる。この場合において、巻取駆動体の回転駆動を停止する代わりに、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を低下させることにより、前記巻取ドラムの回転抵抗を増大させるようにしてもよい。特に、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を、前記巻取ドラムの引出方向の回転速度以下とすることにより、前記一方向クラッチが回転の伝動状態となることで、前記巻取ドラムの回転抵抗を増大させる(準制動状態とする)ことが可能であり、これにより、延長材の緩みを低減できる。
【0013】
また、上記の場合において、前記緩み解消手段は、前記延長材の引き出しが停止したときに、前記巻取駆動体の前記回転駆動の向きを一時的に前記逆転方向とすることが望ましい。これによれば、巻取ドラムからの延長材の引き出しが停止したときに慣性によって巻取ドラムが過剰に回転してしまうことによる延長材の緩みを一時的な巻取動作によって解消することができる。
【0014】
本発明において、前記巻取制御部は、前記延長材が前記巻取ドラムから引き出されるときには、前記延長材の引出速度の増減に応じて前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を増減するように制御することが好ましい。この場合において、前記巻取制御部は、前記延長材の引出速度が低下したときには、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を、前記巻取ドラムの回転抵抗を増大させて前記延長材の緩みを抑制するように低減させることが望ましい。特に、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を、前記巻取ドラムの回転速度以下に設定することにより、巻取駆動体を含む入力側の回転抵抗が一方向クラッチを介して伝達されることで、巻取ドラムの回転抵抗を増大させる(準制動状態とする)ことができる。また、前記延長材の緩み検出の態様に応じて、前記巻取制御部による前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度の制御態様を調整することが望ましい。例えば、延長材に緩みが生じやすければ、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を低下させて巻取ドラムの回転抵抗を増大させ、延長材に緩みが生じにくければ、前記巻取駆動体の前記正転方向の回転速度を増加させて巻取ドラムの回転抵抗を低減させるというように、延長材の緩みに関し好適な状況となるように、巻取駆動体の正転方向の回転速度を設定することができる。
【0015】
本発明において、前記巻取駆動体と前記巻取ドラムとの間には、前記巻取ドラム側に起因する過負荷を巻取駆動体へ伝達しないトルクリミッタを設けることが好ましい。このトルクリミッタとしては、巻取ドラムの側から巻取駆動体へ予め設定された値を越える負荷トルクを伝達しない構造となっていればよい。例えば、相互にクラッチ面を接触させた状態で回転を伝達可能な一対のクラッチ板と、一対のクラッチ板を前記クラッチ面同士が当接する方向に加圧して前記設定値を構成する弾性機構とを含むことが望ましい。
【0016】
次に、本発明に係る稼働システムは、相対移動可能に構成された一対の構成体と、前記一対の構成体の間に架設された延長材と、前記一対の構成体の距離に応じて前記延長材が引出可能に、かつ、巻取可能に構成された前記巻取装置と、を具備する。ここで、上記一対の構成体は、移動可能に構成された一方の前記構成体である移動体と、稼働時に静止状態で用いられる他方の構成体である設置体とから構成されることが望ましい。ここで、前記巻取装置を、前記移動体と前記設置体のうちの少なくともいずれか一方に設けることが望ましい。
【0017】
この場合において、前記稼働システムは、薬剤散布装置と、前記薬剤散布装置に薬剤を供給する、前記延長材である薬剤供給ホースと、前記薬剤供給ホースに対して薬剤を吐出する薬剤吐出ポンプと、前記薬剤吐出ポンプに供給される薬剤を収容する薬剤収容タンクとを具備することが好ましい。ここで、前記薬剤散布装置は、薬剤散布部と、前記薬剤供給ホースを巻き取り可能に構成された前記巻取装置とを搭載した車両構成体を備えることが望ましい。また、前記薬剤吐出ポンプ及び前記薬剤収容タンクを搭載する搭載車両をさらに具備することが望ましい。さらに、前記巻取装置を、前記薬剤散布装置と前記搭載車両の少なくともいずれか一方に設けることが望ましい。その上、上記搭載車両は、非稼働時において、前記薬剤散布装置をさらに搭載可能に構成されることが望ましい。
【0018】
この場合には、稼働時において、前記薬剤散布装置は上記搭載車両から分離され、独自に走行可能に構成されることがさらに望ましい。このとき、上記巻取装置は、上記搭載車両に搭載されたままで前記薬剤散布装置の離反に応じて前記薬剤供給ホースが引き出されるように構成されていてもよい。また、上記巻取装置は、上記薬剤散布装置に搭載された状態とされ、前記搭載車両からの前記薬剤散布装置の離反に応じて前記薬剤供給ホースが引き出されるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、巻取駆動体と巻取ドラムとの間に一方向クラッチを設置し、前記一方向クラッチによって、前記巻取ドラムによる延長材の巻き取る際には、前記巻取駆動体の回転駆動の向きが逆転方向になることにより前記巻取ドラムに対して回転駆動力が伝達され、延長材の巻取動作が生じる。一方、前記巻取ドラムから延長材を引き出す際には、前記巻取駆動体の回転駆動の向きが正転方向となることにより回転駆動力の空転が生ずることにより、巻取ドラムに対して巻取駆動体の回転抵抗を除外することができるので、延長材の引出抵抗を低減することができる。したがって、稼働システムでは、一対の構成体の相対移動時の負荷を低減することができる。
【0020】
また、トルクリミッタを設けることによって、巻取ドラム側に起因する過負荷が巻取駆動体へ伝達されないため、延長材の巻き取りの際に駆動系や制御系に生ずる故障を低減することができる。例えば、巻取駆動体において電動モータを用いる場合には、過負荷に起因して当該電動モータに過電流が生ずることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る稼働システムの実施形態である薬剤散布システムに用いられる薬剤散布装置の構造を示す平面図(a)及び側面図(b)である。
図2】同薬剤散布装置の正面図である。
図3】同薬剤散布装置の構造を透視状態で示す平面図である。
図4】同薬剤散布装置の構造を透視状態で示す側面図である。
図5】同薬剤散布装置の構造を透視状態で示す正面図である。
図6】同薬剤散布装置に搭載された延長材の巻取装置に相当する薬剤供給ホースの巻取機構の概略構成を模式的に示す概略平面図(a)及び概略側面図(b)である。
図7】巻取機構の薬剤供給ホースの緩み検出部の構造及び動作を示す部分断面図(a)及び(b)である。
図8】薬剤散布システムの全体構成を示す概略構成図である。
図9】薬剤散布装置の制御・駆動系の構造を示すブロック図である。
図10】薬剤散布装置の巻取制御部におけるホース引出時の緩み解除処理の全体構成を示す概略フローチャート(a)、減速時処理の手順を示す概略フローチャート(b)及び停止時処理の手順を示す概略フローチャート(c)である。
図11】引出時回転駆動制御動作の手順の一例を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1図5及び図8を参照して、本発明に係る延長材の巻取装置及び稼働システムの実施形態である、ホース巻取部22及び薬剤散布システム1の全体構成について説明する。
【0023】
図8に示すように、薬剤散布システム1は、稼働システムの一方の構成体である移動体に相当する薬剤散布装置2と、他方の構成体である設置体に相当する搭載車両3とを具備する。薬剤散布装置2は、主軸線23xを前後方向とする移動手段を構成する車両構成部21と、延長材に相当する薬剤供給ホース34を巻き取るための巻取装置に相当するホース巻取部22と、薬剤を噴霧することによって散布するように構成された薬剤噴霧部23とを有する。また、搭載車輌3は、車両構成部31と、この車両構成部31に設置された薬剤収容タンク32と、薬剤吐出ポンプ33と、薬剤供給ホース34とを有する。薬剤供給ホース34は、上記ホース巻取部22によって巻き取られることで大部分が格納可能となるように構成されている。搭載車両3の車両構成部31は、非稼働時において、上記薬剤収容タンク32や薬剤吐出ポンプ33とともに、薬剤散布装置2をも搭載できるように構成されることが好ましい。
【0024】
図1図5に示すように、薬剤散布装置2の車両構成部21は、架台211に搭載された原動機(エンジン)212と、この原動機212によって駆動される発電機(オルタネータ)213と、発電機213から供給される電力を蓄電する蓄電器(バッテリー)214とを備える。また、その電力によって作動する車輪駆動用原動機(電動モータ)215と、この車輪駆動用原動機215の出力軸に接続されたギアユニット216と、ギアユニット216の出力軸に接続された駆動輪217とを有する。駆動輪217は、前後の接地輪218との間に架設されるクローラー(履帯)219に噛合している。なお、車輪駆動用原動機215及びギアユニット216は、左右の走行用クローラー(駆動輪217、接地輪218及びクローラー219)にそれぞれ設けられる。これによって、図9に示す操作部41の図示しない制御器(無線コントローラなど)による操作に基づいて、薬剤散布装置2の前進、後退、旋回、自転などが自在となるように構成される。
【0025】
また、ホース巻取部22は、図6に示すように、薬剤供給ホース34を巻き取り可能に構成された巻取ドラム221と、この巻取ドラム221を巻き取り方向に回転駆動する原動機(モータ)222M及び変速機(ギアユニット)222Gを含む巻取駆動体222を有する巻取機構220を備える。また、このホース巻取部22では、図4及び図8に示すように、巻取ドラム221の巻き取り動作に対応して巻取ドラム221における薬剤供給ホース34の適切な巻取位置(ドラムの幅方向の位置)を設定するホース案内機構228を備える。このような構造により、薬剤散布装置2が搭載車両3(薬剤収容タンク32及び薬剤吐出ポンプ33)から離れることによって薬剤供給ホース34が巻取ドラム221から引き出される。また、薬剤散布装置2が搭載車両3(薬剤収容タンク32及び薬剤吐出ポンプ33)に接近することにより、引き出されていた薬剤供給ホース34が巻取ドラム221によって巻き取られる。
【0026】
さらに、薬剤噴霧部23には、複数の噴霧ユニット231-234が主軸線23xの周りの回転方向の異なる角度位置において、主軸線23xを中心とする半径方向内側から半径方向外側へ向けた噴霧方位を備える姿勢で配置されている。噴霧ユニットの数は、図示例では4個であるが、3-5個程度が好ましいものの、特に限定されるものではない。ここで、図示例では、主軸線23xは、薬剤噴霧装置2の接地面と平行な水平方向に伸びる軸線である。ただし、主軸線23xを水平方向に対して前後いずれかに30度以下、特に好ましくは15度以下の傾斜角度となるように設定してもよい。また、本実施形態では、主軸線23xは、薬剤噴霧装置2の正面と背面を結ぶ正規の進行方向に沿った前後方向に伸びる水平線であるが、これに特に限定されるものではない。図示例では、噴霧ユニット231-234は、主軸線23xと直交する仮想平面上において、上記回転方向に沿って円弧状に配列される。ただし、噴霧ユニットを交互に前後にずらして配置することにより、薬液噴霧部23を特に幅方向においてコンパクトに構成できる。
【0027】
図2に示すように、主軸線23xを中心とし、複数の噴霧ユニット231-234の半径方向外側の先端位置を通過する円(円弧)23yを想定する。このとき、複数の噴霧ユニットの先端の半径方向の位置が相互に異なる場合には、最も半径方向外側にある先端位置を基準とする。このときの円(円弧)23yの半径を23zとすると、上記主軸線23xと接地面との間の距離23vは、半径23zよりも小さいことが好ましい。これによって、噴霧性能を犠牲にすることなしに、従来技術の構成よりも、薬剤噴霧部23を低く構成できるので、薬剤散布装置2の安定性を高めることができ、傾斜地などでの転倒を防止できる。この場合に、上記距離23vは0に近い小さな値、或いは、0より小さい負の値となるように設定してもよい。しかし、上記距離23vが小さくなりすぎると、複数の噴霧ユニット231-234の半径方向内側にある空間が小さくなるため、吸入効率が低下したり、噴霧ユニットが接地面と抵触しやすくなったりする。このため、上記距離23vは0以上であることが望ましい。
【0028】
図2図5に示すように、噴霧ユニット231-234は、それぞれ、架台211に固定された支持体230に取り付けられる。図4に示すように、支持体230は、図示例では、主軸線23xと直交する平面に沿った姿勢で配置され、上縁が円弧状に形成された板状材により構成される。この上縁の円弧形状は、主軸線23xを中心とする円弧に沿った形状であることが好ましい。噴霧ユニット231-234は、図示のように、主軸線23xの方向の両側にそれぞれ固定された支持体230により両側から支持されることが望ましい。図5に示すように、各噴霧ユニットは、ファン駆動用原動機(モータ)231a-234aと、このファン駆動用原動機231a-234aによって駆動される送風ファン231b-234bと、この送風ファン231b-234bによって形成された気流中に配置され、薬剤を供給する噴霧ノズル231c-234cと、上記気流を適切に上記噴霧方位に導くための気流案内部材231d-234dとを備える。ここで、噴霧ノズル231c-234cには、上記薬剤供給ホース34により供給される薬剤が、図3に示す薬剤供給弁231v-234vをそれぞれ通して各別に供給される。
【0029】
ここで、噴霧ユニット231-234は、図2に示すように、上記支持体230に設けられた取付支点230aにおいて取り付けられる。各噴霧ユニットに対応する取付支点230aは、主軸線23xを中心とする円弧に沿って円弧状に配列されている。ただし、取付支点230aの位置は、主軸線23xを中心とする円弧そのものでなくてもよい。これらの取付支点230aは、支持体230に対して噴霧ユニット231-234を回動可能に取り付ける。また、支持体230には、上記取付支点230aを中心とする回転方向に噴霧ユニットの姿勢を案内する案内部230bを備える。案内部230bは、各噴霧ユニット231-234に設けられた被案内部231e-234e(図5参照)を案内する。図示例では、案内部230bは取付支点230aを中心とする円弧状のスリットからなる。また、上記被案内部231e-234eは主軸線23xと平行に伸びるように架設された、上記スリットに挿通された軸体からなる。
【0030】
上記の支持取付構造は、噴霧ユニット231-234をそれぞれ上記取付支点230aを中心として支持体230に対して回動可能に構成するので、各噴霧ユニット231-234の噴霧方位は所定の範囲内で変更可能に構成される。図示例では、主軸線23xの半径方向を中心に、それぞれ両側にわたる30度の範囲内で噴霧方位を変更可能に構成している。ただし、この角度範囲は、10-50度の範囲が好ましいものの、特に限定されるものではない。なお、図示例の場合、各噴霧ユニットの噴霧方位は主軸線23xと直交する平面(図の紙面)上で変更可能に構成される。
【0031】
薬剤噴霧部23において、送風ファン231b-234bは、その軸線(以下、「噴霧軸線」という。)の方向に気流を形成する。図示例では、この気流は、噴霧軸線を中心とする旋回流である。ここで、気流は直進性の高いものであるほど、噴霧方位を変えずに、また、大きく広がらないように構成できるので、遠方まで薬剤を届けることができる。このような気流の直進性の程度や気流の広がり度合は、送風ファン231b-234bの構造(送付羽根の形状など)によって適宜に設定される。なお、図示例では、噴霧軸線の方向が噴霧方位に相当する。また、本実施形態では、送風ファン231b-234bのファン軸線が噴霧方位(噴霧軸線)と一致するので、噴霧効率を高めることができる。
【0032】
複数の噴霧ユニット231-234は互いに同様に構成できるので、以下、噴霧ユニット231を一例として説明する。気流案内部材231dの内部には、送風ファン231bによって形成された気流中に配置されるように噴霧ノズル231cが設置される。噴霧ノズル231cには、上記薬剤供給経路を介して薬剤が供給される。これにより、噴霧ノズル231cから吐出された薬剤は、上記気流によって噴霧される。噴霧ノズル231cの数は本実施形態では3つであるが、3-5個が好ましいものの、特に限定されるものではない。噴霧ノズル231cは、最も気流が高速になり圧力が低下する位置にノズル口が開口するように配置することによって、噴霧ノズル231cより吐出される薬剤が撹拌され、微細化されやすく構成することも可能である。
【0033】
薬剤散布装置2の各部は、主として車両構成部21内に設置された図9に示す制御系4によって制御される。制御系4は、上記発電機213に設置された電流センサ及び蓄電器214に設置された充電センサ等の信号を送出するセンサ出力部の発電状態や充電状態を示す検出信号と、操作部41内の図示しない制御器(無線コントローラなど)からの無線信号を受信し、当該無線信号に対応する制御信号を出力する送受信部42からの信号とを受けるように構成される、送受信部42や各所のセンサと接続された中央制御部40を備える。この中央制御部40は、上記の検出信号や制御信号に応じて原動機212を制御する発電制御部43と、左右の駆動輪217を各々駆動する車輪駆動用原動機215をそれぞれ制御する移動制御部44と、ホース巻取部22を制御する巻取制御部45と、薬剤噴霧部23を制御する噴霧制御部46と、を統括し、各制御部の相互間の信号や情報のやり取りや調整を行う。
【0034】
ここで、噴霧制御部46は、ファン駆動用原動機231a-234aを制御するファン駆動制御系と、薬剤供給経路に設けられた薬剤供給制御系とを備える。上記ファン駆動制御系は、ファン駆動用原動機231a-234aの駆動状態を制御する。本実施形態では、複数の噴霧ユニット231-234の各ファン駆動用原動機231a-234aの全てに対して、それぞれ独立して、駆動の有無、或いは、駆動量(送風量)をどの程度にするかを制御できるようになっている。これにより、必要のない噴霧方位を備える噴霧ユニットでは気流を形成しないように、或いは、必要性の低い噴霧方位を備える噴霧ユニットでは送風量を低くするように設定できるので、エネルギー効率を高めることができる。
【0035】
噴霧制御部46のファン駆動制御系では、薬剤噴霧部23の複数の各噴霧ユニット231-234の各ファン231b-234bに対して、相互に隣接する噴霧ユニット内のファン231b-234bが相互に逆向きに回転し、その結果、ファン軸線に沿って逆向きの旋回気流を生ずるように駆動するための、相互に逆の回転の向きを備えるファン構造、並びに、相互に逆向きの回転駆動を行うファン駆動態様を備えている。このファン駆動態様により、隣接する噴霧ユニット231-234から放出される薬剤を噴霧する気流同士が重なる範囲では気流同士の旋回の向きが同一になることによって不要な乱流が生じなくなり、ファン軸線に沿って安定した旋回流の状態が維持されるので、薬剤噴霧流を(半径方向の)遠方まで到達させることが可能になる。ここで、噴霧制御部46のファン駆動制御系では、複数の噴霧ユニット231-234のファン231b-234bの回転の向きを変更することができるように構成されていることが望ましい。これにより、薬液噴霧部23の全体の噴霧態様を見ながら、例えば、全ての噴霧ユニットのファンを同じ回転の向きに駆動することも、前述のように配列された複数の噴霧ユニットにおいて交互に逆の回転の向きにファンを駆動することも可能になる。
【0036】
薬剤供給制御系は、薬剤供給ホース34から供給された薬剤の供給状態を、前述の薬剤供給弁231v-234vを動作させることにより、複数の噴霧ユニット231-234の各噴霧ノズル231c-234cに対して個々に制御する。本実施形態では、複数の噴霧ユニット231-234の各噴霧ノズル231c-234cの全てに対して、それぞれ独立して薬剤を供給するか否か、或いは、薬剤の供給量をどの程度にするかを制御できるようになっている。これにより、必要のない噴霧方位を備える噴霧ユニットには薬剤を供給しないようにしたり、必要性の低い噴霧方位を備える噴霧ユニットでは薬剤の供給量を低くするように設定できるので、薬剤を効率的に散布できる。
【0037】
以上のように構成される薬剤噴霧システム1は、以下のような作用効果を奏する。まず、薬剤噴霧部23において複数の噴霧ユニット231-234が主軸線23xの周りの回転方向の相互に異なる角度位置において、それぞれ主軸線23xを中心とした半径方向内側から半径方向外側に向けた噴霧方位を有するように設けられている。これにより、従来技術のように、一つの送風ファンの気流を広い角度範囲に分けたり、気流の方位を大きく変更したりする必要がなくなるため、エネルギー効率の向上により、噴霧効率を高めることができる。特に、各噴霧ユニット231-234がそれぞれ半径方向外側へ向かう独立した気流によって薬剤を噴霧するように構成されることから、薬剤の噴霧方位への方向付けが確実にできるので、噴霧効率や薬剤の使用効率を容易に高めることができる。
【0038】
また、薬剤の噴霧の必要な方位が限られる場合においては、複数の噴霧ユニットを用いるか否かを個々に制御できるように構成すれば、必要な噴霧ユニットのみを稼働させればよいので、エネルギー効率をさらに向上できるとともに、余分な薬剤を散布することもなくすことができるため、薬剤の使用効率もさらに高めることができる。
【0039】
図6は、ホース巻取部22における巻取機構220の概略構成を模式的に示す概略平面図(a)及び概略側面図(b)である。巻取機構220は、巻取ドラム221を駆動するための、原動機222M及び変速機222Gからなる巻取駆動体222と、一方向クラッチ223と、スプロケット224、チェーン225、スプロケット226などの伝動構造と、トルクリミッタ227とを、回転駆動経路に沿って順次に備える。
【0040】
一方向クラッチ223は、巻取駆動体222が出力する回転駆動力を、回転駆動の向きが正転方向であれば伝達せず、逆転方向であれば伝達する。ここで、正転方向とは、巻取ドラム221が薬剤供給ホース34(延長材)を引き出すときの回転の向きに対応する上記巻取駆動体222の出力の回転駆動の向きに相当し、逆転方向とは、巻取ドラム221が薬剤供給ホース34(延長材)を巻き取るときの回転の向きに対応する上記巻取駆動体222の出力の回転駆動の向きに相当する。一方向クラッチ(ワンウェイクラッチ)としては、スプラグ式やカム式などの公知の構造を用いることができる。具体的には、日本精工株式会社製のシェル型ローラークラッチ(製品番号FC-25,FC-30など)を用いることができる。ここで、一方向クラッチ223の回転の伝達状態と空転(非伝達)状態の切替は、通常、入力側(巻取駆動体222側)と出力側(巻取ドラム221側)の相対的な回転の向きによって行われる。すなわち、入力側が出力側に対して相対的に正転方向に回転するとき、或いは、出力側が入力側に対して相対的に逆転方向に回転するとき、一方向クラッチ223は空転状態となり、一方、入力側が出力側に対して相対的に逆転方向に回転するとき、或いは、出力側が入力側に対して相対的に正転方向に回転するとき、一方向クラッチ223は回転の伝達状態となる。
【0041】
巻取駆動体222の原動機(電動モータ)222Mは、図9に示す巻取制御部45による制御により正転と逆転がいずれもが可能に構成される。また、変速機222Gは、原動機222Mの回転を変速して出力する。変速比は特に限定されないが、一般には1より大きな減速比であること、すなわち、上記変速機222Gが減速機であることが好ましい。
【0042】
トルクリミッタ227は、入力側のクラッチ板227Aと、出力側のクラッチ板227Bとが相互に接触と離脱が可能となるように構成され、弾性部材227Cの弾性力によって両クラッチ板227Aと227Bのクラッチ面同士が当接して摩擦により回転を伝達するように構成されるスリップクラッチである。ここで、スプロケット224は、入力側のクラッチ板227Aに固定されている。なお、出力側のクラッチ板に固定されたスプロケットは、チェーンなどの伝動部材を介して上記ホース案内機構228の後述するカム軸を回転駆動するためのものである。トルクリミッタ227としては、ボールラチェットタイプ、摩擦式タイプ、非接触タイプなどがあり、上記スリップクラッチと呼ばれるものも用いることができる。具体的には、株式会社椿本チエイン社製のトルクキーパー(TFK25-2,TFK35-2など)を用いることができる。図示例では、摩擦式タイプのスリップクラッチを用いている。両クラッチ板227Aと227Bのクラッチ面には、回転中心の周りに同心状の複数の平面視円形の周回溝が形成され、これらの周回溝の本数や幅の調整による接触面積比の増減によって摩擦特性が設定される。また、耐久性を確保するために、特に、発熱等による摩擦力の低下を防止するために、少なくとも一方のクラッチ板のクラッチ面に、半径方向の縦溝が追加されることが望ましい。図示例では、両クラッチ板のクラッチ面に、3-7本(好ましくは5本程度)の周回溝を設けるのに加えて、片方のクラッチ板のクラッチ面に、回転中心を通過する縦溝を、クラッチ面を横断するように形成することで、回転中心の両側に一対の縦溝が半径方向に伸びるように形成された構造とされる。
【0043】
図7に示すように、巻取ドラム221に巻回された薬剤供給ホース34(延長材)は、巻取ドラム221からの引出部分が前述のホース案内機構(ホースガイド或いは延長材ガイド)228のホース保持部(延長材保持部)228aによって保持される。このホース保持部228aは、巻取ドラム221の回転に従って軸線方向に往復動することで、薬剤供給ホース34(延長材)の絡みや不均一な巻取態様を回避するようになっている。具体的には、ホース案内機構228は、巻取ドラムに連動して回転する公知のカム軸に形成された螺旋溝に案内される従動部と共にホース保持部(延長材保持部)228aが往復動するように構成される。
【0044】
ホース保持部228aには、薬剤供給ホース34(延長材)の緩みを検出する緩み検出部229が設置される。この緩み検出部229では、ガイドローラ229aを先端に備える検出アーム229bの基部がホース保持部228aに対して回動可能に連結されている。そして、この検出アーム229bの基部は、ホース保持部228aに取り付けられた検出器229c(リミットスイッチなど)の検出部に当接若しくは対面している。図7(a)に示すように、図示例では、薬剤供給ホース34が巻取ドラム221から緩みなく引き出されているときには、検出器229cの接点は開成された状態であるが、図7(b)に示すように、薬剤供給ホース34の巻取ドラム221から引き出された部分に緩みが生ずると、ホースの引出部分を保持するガイドローラ229aによって検出アーム229bが斜め下方に傾斜するため、検出器229cの接点は閉成される。図示例は一例に過ぎないため、ホース(延長材)の緩みと検出器229cの開成と閉成の関係は任意であるが、要するに、緩み検出部229においては、薬剤供給ホース34(延長材)の緩みの有無を検出器229cの検出信号によって検出可能となるように構成されている。
【0045】
制御系4は、マイコン(MPU)やリレー回路などによって構成することができる。図9には、制御系4の全体構成を模式的にブロック図として表してある。ただし、制御系4の図示のようなブロック構成はあくまでも模式的、機能的、概念的なものであり、実際のハード構成を限定するものではない。前述のように、制御系4は、前述の中央制御部40と、ユーザーが薬剤散布装置2を遠隔操作するための操作部41と、この操作部41との無線通信を行う送受信部42とを備える。中央制御部40は、発電制御部43、移動制御部44、巻取制御部45及び噴霧制御部46を制御する。巻取制御部45は、前述の巻取駆動体222の原動機222Mを駆動する。このとき、中央制御部40は、移動制御部44による車輪駆動用原動機215に対する制御態様に応じて、巻取制御部45の原動機222Mの制御態様を制御する。具体的には、移動制御部44により、車輪駆動用原動機215が薬剤散布装置2を前進させる態様で動作している場合には、巻取制御部45による巻取機構220の制御態様を「引出モード」に設定する。一方、移動制御部44により、車輪駆動用原動機215が薬剤散布装置2を後退させる態様で動作している場合には、巻取制御部45による巻取機構220の制御態様を「巻取モード」に設定する。より詳細には、移動制御部44による引出モードと巻取モードの切替は、薬剤供給ホース34(延長材)の引出状態若しくは巻取状態を好適化する態様で行われる。本実施形態の場合には、一例として、左右の走行用クローラー219(駆動輪217)の少なくとも一方が前進駆動され、前進駆動されていないものがあるときにはそれが停止しているとき、及び、左右の走行用クローラー219(駆動輪217)のうちの一方が前進駆動され、他方が後退駆動されているときに、上記引出モードとされる。また、左右の走行用クローラー219(駆動輪217)の少なくとも一方が後退駆動され、後退駆動されていないものがあるときにはそれが停止しているときには、上記巻取モードとされる。なお、後述するように、引出モードでは、延長材に緩みが発生したときに、例外的に巻取駆動体222の駆動態様が変更される。また、巻取モードでは、延長材に緩みがなくなったときに、例外的に巻取駆動体222が停止される。
【0046】
上記引出モードでは、巻取制御部45は、原動機222Mの回転駆動の向きが正転方向になるように制御する。このとき、巻取駆動体222の回転出力は正転方向となるので一方向クラッチ223は空転し、巻取ドラム221は引出方向にほとんど回転しない。この状態は、薬剤散布装置2の前進によって搭載車両3との距離が増加するに従って巻取ドラム221から薬剤供給ホース34が引き出されていくときの引出方向の回転速度が巻取駆動体222の回転出力の速度に一致するか、或いは、上回ることがない限り、維持される。実際には、制御系4では、巻取駆動体222が出力する正転方向の回転速度は、薬剤散布装置2の車輪駆動用原動機215による移動により生じる薬剤供給ホース34の引き出し動作に対応する巻取ドラム221の引出方向の最大の回転速度より高く設定されていれば、一方向クラッチ223の空転状態は、巻取ドラム221の引出状態に拘わらず、常に維持される。また、中央制御部40により、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が、薬剤供給ホース34の引き出しによる巻取ドラム221の引出方向の回転速度を常に上回るように、巻取駆動体222(原動機222M)を制御してもよい。このようにすると、薬剤散布装置2が前進するときの巻取ドラム221からの薬剤供給ホース34(延長材)の引出方向の抵抗は、主として巻取ドラム221自体の回転抵抗のみとなり、原動機222Mの保持トルクや変速機222Gの変速比に起因する負荷トルクの増大による影響を受けることがない。以下、この状態を非制動状態という。
【0047】
この引出モードにおいて、本実施形態では、薬剤供給ホース34が薬剤散布装置2の移動に従って受動的に動作することから、移動速度の増減に伴う巻取ドラム221の過剰な回転動作によって、薬剤供給ホース34に緩みが生ずることがある。この緩みは、巻取ドラム221における薬剤供給ホース34(延長材)の巻取態様が緩みにより乱れることで悪化し、巻取不良や引出不良などを招くことがあるとともに、薬剤散布装置2の移動や姿勢変更などを妨げる原因ともなる。このため、本実施形態では、前述の緩み検出部229によって薬剤供給ホース34の緩みが検出されたとき、図10に示す手順によって緩みを解消するための動作が実施される。この引出時緩み解消動作では、車輪駆動用原動機215の回転駆動による薬剤散布装置2が前進しているか否か、或いは、巻取ドラム221が正転方向に回転しているか否かを検出することにより、薬剤供給ホース34が引出状態にあるか否かを確認し、当該引出状態にあれば、その後、前進速度の低下により、その引出速度が低下したか、或いは、前進の停止により、引出動作が停止したかを確認する。引出速度が低下すると、減速時処理Aが実行される。また、引出動作が停止すると、停止時処理Bが実行される。なお、巻取ドラム221の回転動作は、薬剤供給ホース34の緩み等の影響を受けるので、巻取ドラム221の回転自体を検出対象とするよりもむしろ、車輪駆動用原動機215の駆動態様を検出するなど、前進速度の変化によって引出速度の低下を検出し、前進(車輪駆動用原動機215)の停止によって引出動作の停止を検出することが望ましい。ただし、巻取ドラム221の回転動作自体をセンサなどによって検出し、その検出結果に応じて上述の制御を行ってもよいことは勿論である。また、薬剤供給ホース34(延長材)の引出動作自体をセンサなどによって検出し、その検出結果に応じて上記の制御を行ってもよい。
【0048】
減速時処理Aでは、巻取制御部45によって原動機222Mが一時的に停止される。これによって巻取駆動体222の回転出力が停止するので、一方向クラッチ223の空転状態が解除され、巻取ドラム221には巻取駆動体222に接続されていることに起因する回転抵抗が加わるので、薬剤供給ホース34には上記非制動状態よりも大きな引出抵抗が付加されることになる。この状態を制動状態という。この制動状態にある結果、引き出されている薬剤供給ホース34の緩みは減少し、やがて薬剤供給ホース34に緩みがなくなると、原動機222Mが正転方向に再稼働し、元の非制動状態に復帰する。なお、上記の引出抵抗の付加は、予め設定された制動時間が経過するまで継続され、その後、非制動状態に復帰するように制御してもよく、或いは、図示例のように、緩み検出の結果と制動時間の経過の双方を組み合わせて制御してもよい。
【0049】
停止時処理Bでは、巻取制御部45によって原動機222Mが一時的に逆転方向に駆動される。これによって巻取駆動体222の出力の向きも逆転方向となるので、一方向クラッチ223が伝動状態となり、巻取ドラム221によって予め設定されていた巻取時間が経過するまで薬剤供給ホース34が巻き取られる(すなわち、一時的に巻取モードとなる)。この巻取動作の結果、薬剤供給ホース34の緩みがなくなると、原動機222Mが正転方向に駆動され、元の引出モードに復帰する。なお、上記の一時的な巻取動作は、緩みが検出されなくなると、引出モードに復帰するように制御してもよく、或いは、図示例のように、緩み検出の結果と巻取時間の経過の双方を組み合わせて制御してもよい。なお、上記引出時緩み解消動作において、減速時処理Aと停止時処理Bはいずれか一方のみを行うようにしてもよい。
【0050】
本実施形態では、上記引出モードにおいて、巻取制御部45により、上記巻取駆動体222の正転方向の回転速度を、巻取ドラム221の引出方向の回転速度に応じて制御するようにしてもよい。すなわち、薬剤供給ホース34(延長材)の引出速度の増減に応じて、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が増減するように制御する。前述のように、一方向クラッチ223は、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が巻取ドラム221における薬剤供給ホース34(延長材)の引出方向の回転速度を越えているときには空転状態となり、巻取駆動体222の回転駆動力が実質的に巻取ドラム221に伝達されない。したがって、巻取ドラム221の引出方向の回転速度(これは、車輪駆動用原動機215の回転速度やこれによる薬剤散布装置2の前進時の走行速度に対応する。)よりも巻取駆動体222の正転方向の回転速度が大きければ、上記一方向クラッチ223の空転状態を維持できる。このため、上記空転状態を維持するだけであれば、巻取駆動体222の正転方向の回転速度は、巻取ドラム221の引出方向の回転速度の増減に対応するように増減させればよい。このようにすると、巻取駆動体222の駆動エネルギーの低減を図ることができる。例えば、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が、巻取ドラム221の引出方向の回転速度に対して、常に或る程度の量、上回るように制御することにより、非制動状態を安定的に維持することができる。また、上記量を好適化することで、非制動状態を安定的に維持しつつ、巻取駆動体222の消費エネルギーを低減することが可能になる。なお、上記量を引出速度や巻取ドラム221の回転速度の関数(例えば、一次関数)としてもよい。例えば、上記引出速度や上記回転速度の関数とすることにより、引出速度や回転速度の大小による、入力側と出力側の速度差が延長材の引出抵抗(巻取ドラムの回転抵抗)に影響する度合の変化に応じて、上記量をさらに好適化できる。ここで、上記量は、所定の値であってもよいが、所定の範囲内の値であっても構わない。なお、引出モードにおいて、巻取駆動体222が正転方向に回転しているときに、緩みが生じやすいとき、例えば、上記緩み検出部229により緩み検出が頻発したり、或る時間以上続いたりする場合には、巻取駆動体222の正転方向の回転速度を減少させ、一方、緩みが生じにくいとき、例えば、緩み検出が生じにくく、生じても短時間で検出されなくなるようであれば、巻取駆動体222の正転方向の回転速度を増大させるなど、引出モードにおいて、緩みの態様に応じて、巻取ドラム221の回転抵抗を好適に設定するために、巻取駆動体222の正転方向の制御態様を調整してもよい。
【0051】
ところで、前述のように、上述の巻取ドラム221の回転速度や薬剤散布装置2の走行速度が低下したときに、巻取ドラム221の慣性により、巻取ドラム221の内部や引出部分において薬剤供給ホース34(延長材)に緩みが生ずることがある。この場合、巻取ドラム221の引出方向の回転速度も低下するので、前述のように、巻取駆動体222の正転方向の回転速度も低下させることが好ましいが、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が巻取ドラム221の引出方向の回転速度を大きく越えている場合には、一方向クラッチ223が空転状態となることにより巻取ドラム221の引出方向の回転抵抗は小さいため、上述の薬剤供給ホース34(延長材)の緩みの発生を抑制することはできない。そこで、巻取駆動体222の正転方向の回転速度を、単に巻取ドラム221の引出方向の回転速度と同じ比率で低下させるだけでなく、当該引出方向の回転速度に近づけるように低下させることにより、巻取ドラム221の引出方向の回転抵抗は増大する。特に、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が巻取ドラム221の引出方向の回転速度にほとんど等しくなると、巻取ドラム221の上記引出方向の回転抵抗は大きく増加し、やがて、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が巻取ドラム221の引出方向の回転速度以下になると、一方向クラッチ223が回転駆動力の伝動状態になるため、巻取ドラム221においては、巻取駆動体222(原動機222M)が停止したときの前述の制動状態に近い状態、すなわち、引出方向の回転抵抗が高い状態(準制動状態)となる。すなわち、この準制動状態は、上述のように巻取駆動体222の回転出力を停止させるのではなく、原動機222Mに対する制御により、巻取駆動体222の正転方向の回転速度を低下させ、当該回転速度と、巻取ドラム221の引出方向の回転速度との差を低下させたり、当該差をなくしたり、当該差をマイナスにしたりすることで生ずる。上記差を低減したりなくしたりすることにより、巻取ドラム221自体の引出方向の回転抵抗に、一方向クラッチ223の入力側の回転抵抗が加わることが考えられる。特に、上記差がなくなると、一方向クラッチ223の入力側の正転方向の回転速度が出力側の引出方向の回転速度以下になるので、巻取駆動体222による入力側の回転速度の相対的な向きは、出力側の回転を基準としたとき、逆転方向となり、一方向クラッチ223が回転出力を伝達する状態となることから、出力側の巻取ドラム221から見たとき、巻取ドラム221が引出状態にあり、巻取駆動体222が正転方向の稼働状態にあったとしても、入力側の回転抵抗を受ける状態となる。すなわち、本実施形態の場合には、入力側の正転方向の回転速度が出力側の引出方向の回転速度以下になることにより、巻取ドラム221が非制動状態から準制動状態に移行する。なお、この準制動状態は、出力側の巻取ドラム221が引出方向に回転しているときに、動作中の駆動系から制動力を受ける状態である。このとき、巻取駆動体222を停止したときの制動状態と程度の差はあるものの、巻取ドラム221の回転抵抗は増大する。
【0052】
本実施形態では、薬剤供給ホース34が巻取装置の延長材として用いられているが、延長材としては種々のものを用いることができる。ただし、本実施形態と同様に、内部に物質を通過させるための通路が構成される可撓性のホース体からなる延長材の場合には、当該通路に対する物質の通過開始時及び通過停止時に可撓性のホース体が変形したり膨張や収縮を繰り返したりすることにより、巻取ドラム221における巻取状態が変動する場合が考えられる。本実施形態では、薬剤供給ホース34に薬液の噴霧を開始したり、停止したりすることによって、巻取ドラム221に巻き取られているホース部分が膨張したり収縮したりするので、巻取ドラム221における巻取状態に緩みが生じたり、巻取ドラム221が巻取状態の上記変動によって回転し、その結果、緩みが生じたりする。このため、噴霧制御部46の薬剤供給制御系で薬剤の供給を開始したり停止したりする際に(具体的には、薬剤供給弁231v-234vを開閉する際に)、巻取駆動体222を一時的に逆転方向に駆動させて巻取ドラム221の巻取りを行うようにしてもよい。例えば、所定の時間(例えば、0.3-0.5秒)だけ、巻取ドラム221の巻取りを行う。この場合、薬剤の供給を開始・停止した場合において、緩み検出部229で緩みが検出されたときだけ巻取動作を実行するようにしてもよい。
【0053】
本実施形態では、薬剤供給ホース34(延長材)が巻取ドラム221から引き出されているときには、巻取駆動体222を正転方向に回転させることにより、一方向クラッチ223を空転させて、入力側に起因する回転抵抗の影響を低減させることにより、延長材の引出抵抗を低減することができる。特に、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が、延長材の引き出しに起因する巻取ドラム221の引出方向の回転速度より大きいことにより、一方向クラッチ223の空転状態が確実に得られるので、入力側の回転抵抗を遮断し、延長材の引出抵抗を安定的に低減できる。この場合において、巻取制御部45により、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が、延長材の引き出しに起因する巻取ドラム221の引出方向の回転速度より大きくなるように制御することにより、さらに安定的に、また、確実に、延長材の引出抵抗を低減できる。このとき、巻取制御部45は、延長材が巻取ドラム221から引き出されるときには、巻取ドラム221の正転方向の回転速度の増減に応じて巻取駆動体222による正転方向の回転速度を増減するように制御することにより、巻取駆動体222による正転方向の回転速度を過剰に増大させなくても、巻取駆動体222の正転方向の回転速度が、延長材の引き出しに起因する巻取ドラム221の引出方向の回転速度より大きくなるように制御することが可能になるので、巻取駆動体222の省エネルギー化を図ることができる。
【0054】
本実施形態では、上記の理由により、薬剤供給ホース34(延長材)を引き出し可能に維持しつつ、巻取ドラム221の正転方向の回転速度や前進速度が減少したときに、巻取駆動体222の正転方向の回転速度を引出抵抗が増大するように減少させる。これによって、巻取駆動体222の省エネルギー化(省電力化)を図ることができるだけでなく、薬剤供給ホース34(延長材)の引出抵抗を増加させて薬剤供給ホース34(延長材)の緩み発生を抑制したり、解消したりすることができる。例えば、薬剤供給ホース34(延長材)の引出速度が低下したり、引き出し動作自体が停止したりすると、前述のように、巻取ドラム221の慣性によって巻取ドラム221における剤供給ホース34(延長材)の巻取態様に緩みが生じるが、薬剤供給ホース34(延長材)の引出速度の低下や引き出し動作の停止に従って、巻取駆動体222の正転方向の回転速度の低減や回転の停止を行うことによって、上記緩みを低減したり緩みの発生を抑制したりすることができる。なお、巻取制御部による制御態様において、巻取駆動体222の正転方向の回転速度は連続的に増減させてもよいが、巻取駆動体222の正転方向の回転駆動を断続的に実施することで、巻取ドラム221の引出方向の回転抵抗(制動)を断続的に発生させる態様(断続の周期やデューティー比を変化させる態様)によって、制御するようにしてもよい。
【0055】
上記の巻取駆動体222(原動機222M)の回転速度の制御動作(引出時回転駆動制御動作)の一例を図11の概略フローチャートに示す。この例では、まず、薬剤散布装置2の前進や巻取ドラム221の引出方向の回転を検出して薬剤供給ホース34(延長材)の引出状態かどうかを確認し、引出状態であれば、巻取駆動体222を正転方向に稼働させる。これ以降、巻取制御部45は、引出モードで巻取駆動体222(原動機222M)を制御する。本実施形態では、この引出モードにおいて、薬剤散布装置2の前進や巻取ドラム221の引出方向の回転を監視し、引出速度(薬剤散布装置2の前進速度や巻取ドラム221の回転速度)を検出する。そして、この検出した引出速度に応じて、巻取制御部45は、巻取駆動体222(原動機222M)の正転方向の回転速度を制御する。ここで、必要に応じて、前述の緩み検出部229により緩みの検出を実施し、巻付ドラム221において薬剤供給ホース34(延長材)の緩みが生じた場合には、薬剤供給ホース34(延長材)の引出速度に対する巻取駆動体222(原動機222M)の正転方向の回転速度の制御態様を、緩みが生じにくくなる方向(制動が強くなる方向)に調整するようにしてもよい。一方、緩みが検出されない場合には、そのままの制御態様を継続して実施する。ここで、引出状態が終了すれば、巻取駆動体222(原動機222M)を停止し、制御を終了する。なお、このような巻取駆動体222の正転方向の回転速度の制御は、前述の引出時緩み解消手段として、図9(b)に示す減速時処理Aの代わりに実施するようにしてもよい。
【0056】
上記巻取モードでは、巻取制御部45は、上記緩み検出部229による緩みが検出されている間は、原動機222Mを逆転方向に駆動する。このとき、巻取駆動体222の回転出力は逆転方向となるので、一方向クラッチ223は伝動状態となり、巻取ドラム221は巻取方向に回転する。この状態では、薬剤散布装置2の後退によって搭載車両3との距離が減少するに従って薬剤供給ホース34に緩みが生じ、これを上記緩み検出部229が検出することによって、巻取ドラム221によって薬剤供給ホース34が巻き取られていき、この巻取動作は、上記緩み検出部229による緩みが検出されなくなるまで維持される。
【0057】
この巻取モードにおいては、巻取駆動体222は逆転方向に回転し、その回転出力は、一方向クラッチ223及びトルクリミッタ227を介して巻取ドラム221を薬剤供給ホース34(延長材)の巻取方向に回転駆動させる。このときの巻取り駆動体222の回転速度は、一定値に設定されていてもよく、移動体の移動速度や巻取ドラム221の回転抵抗などによって可変に設定されてもよい。また、本実施形態の巻取モードでは、上述のように、緩み検出部229が薬剤供給ホース34(延長材)の緩みを検出したときだけ、巻取駆動体222の逆転方向の回転出力が生ずるので、例えば、巻取モードにおける巻取駆動体222の逆転方向の回転速度を、通常の使用態様では薬剤供給ホース34(延長材)の巻取ドラム221による巻取速度が不足しない程度の既定値(巻取速度の最大値に対応する値よりも大きな安全値)に設定しておき、緩みが解消されて緩み検出部229の緩み検出がなくなったときに回転出力を停止し、再び緩みが発生して緩み検出部229の緩み検出が生じたときに再開するように動作させる。ただし、巻取駆動体222が逆転方向に回転しているにも拘わらず、緩みが生じやすい場合、例えば、緩み検出が頻発したり或る時間以上続いたりする場合には、巻取駆動体222の逆転方向の回転速度を増大させ、一方、緩みが生じにくい場合、例えば、緩み検出が生じにくく、生じても短時間で検出されなくなるようであれば、巻取駆動体222の逆転方向の回転速度を低下させるなど、巻取モードにおいて、緩みの態様に応じて、巻取速度を好適に設定するために、巻取駆動体222の逆転方向の回転速度の制御態様を調整してもよい。
【0058】
上記巻取モードにおいて、薬剤供給ホース34や巻取ドラム221に外力が作用し、巻取駆動体222が過剰な負荷トルクを受けたときには、原動機222Mに当該負荷トルクに起因する過電流が流れたり、駆動回路が損傷したり、原動機222Mや変速機222Gが大きな機械的負荷を受けて損傷するなどといった危険性がある。本実施形態では、このような事態を回避するために、トルクリミッタ227によって巻取駆動体222や一方向クラッチ223に過剰な負荷が加わらないようにしている。具体的には、巻取駆動体222や一方向クラッチ222と、巻取ドラム221との間に予め設定された値以上の過剰な負荷が加わろうとすると、トルクリミッタ227の両クラッチ板227Aと227Bとの間に、弾性部材227Cの弾性力に抗して滑りが発生し、上記負荷の伝達を防止する。上記負荷の値は、上述の不具合を回避するに充分な値に設定され、当該値は、両クラッチ板227Aと227Bの摺接構造や弾性部材227Cの弾性特性等によって決定される。
【0059】
トルクリミッタ227としては、上記に限らず、ボールラチェット式、摩擦式(スリップクラッチ)、非接触式(磁力式)などの公知の構造を用いることができる。トルクリミッタ227の位置は、巻取ドラム221より回転駆動力の上流側に配置されていればよいが、そこで過剰な負荷トルクの伝達が断たれることを意味する。特に、一方向クラッチ223との関係であれば、図示例のように、トルクリミッタ227が一方向クラッチ223よりも回転駆動力の下流側に配置されることにより、過剰な負荷トルクから一方向クラッチ223をも保護することができる。もっとも、原動機222Mやその駆動回路を保護するためだけであれば、一方向クラッチ223の上流側(一方向クラッチ223と変速機222Gの間、或いは、変速機222Gの内部など)に配置してもよい。なお、いずれを上流側に配置するかに拘わらず、構造的な簡易性を確保してコストを低減したり、コンパクト化を図ったりするには、図示例のように、一方向クラッチ223とトルクリミッタ227を、巻取駆動体222の側と巻取ドラムの側のそれぞれに一つずつ配置することが望ましい。なお、さらにコンパクト化を図る方法としては、一方向クラッチ223とトルクリミッタ227を一体化したり(例えば、上記入力側クラッチ板を出力部とし、この中に一方向クラッチの入力部を組み込む構造など)、或いは、この一体化したクラッチ構造の少なくとも一部及び/又は巻取駆動体222の少なくとも一部を、巻取ドラム221の軸芯部の内部に収容したりするといったことが挙げられる。
【0060】
なお、本発明に係る延長材の巻取装置及び稼働システムである薬剤散布装置及び薬剤散布システムは、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、薬剤散布装置2には、車両構成部21、ホース巻取部22及び薬剤噴霧部23が設けられているが、ホース巻取部22を搭載車両3に設けたり、さらには、薬剤散布装置2と搭載車両3のいずれでもなく、それらの中間位置に設けたりしても構わない。また、搭載車両3に搭載されている薬剤収容タンク32や薬剤吐出ポンプ33を薬剤散布装置2内に設けたり、さらに、本発明は、薬剤散布装置や薬剤散布システムに限らず、巻取機構220を備える各種の装置やシステムに用いたりすることができる。その上、本発明は、ホースに限らず、電源コードや駆動ベルト、けん引ローブなどの各種の延長材を巻き取る場合にも広く用いることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…薬剤散布システム(稼働システム)、2…薬剤散布装置(一方の構成体である移動体)、21…車両構成部、211…架台、212…原動機、213…発電機、214…蓄電器、215…車輪駆動用原動機、216…ギアユニット、217…駆動輪、218…接地輪、219…クローラー、22…ホース巻取部(延長材の巻取装置)、220…巻取機構、221…巻取ドラム、222…巻取駆動体、222M…原動機、222G…変速機、223…一方向クラッチ、224…スプロケット、225…チェーン、226…スプロケット、227…トルクリミッタ、227A…入力側クラッチ板、227B…出力側クラッチ板、227C…弾性部材、228…ホース案内機構、228a…ホース保持部、229…緩み検出部、229a…ガイドローラ、229b…検出アーム、229c…検出器、23…薬剤噴霧部、23x…主軸線、230…支持体、231-234…噴霧ユニット、231a-234a…ファン駆動用原動機、231b-234b…送風ファン、231c-234c…噴霧ノズル、231d-234d…気流案内部材、231e-234e…被案内部、231v-234v…薬剤供給弁、3…搭載車両(他方の構成体である設置体)、31…車両構成部、32…薬剤収容タンク、33…薬剤吐出ポンプ、34…薬剤供給ホース(延長材)、4…制御系、40…中央制御部、41…操作部、42…送受信部、43…発電制御部、44…移動制御部、45…巻取制御部、46…噴霧制御部
図1
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