(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106987
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240801BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240801BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20240801BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20240801BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20240801BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240801BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/04
C08K9/02
C08L83/06
C08K5/5419
C09K5/14 E
H01L23/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010484
(22)【出願日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2023011402
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 悠冬
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】浅野 元彦
(72)【発明者】
【氏名】西澤 英人
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良輔
(72)【発明者】
【氏名】浦山 貴大
【テーマコード(参考)】
4J002
5F136
【Fターム(参考)】
4J002CP03W
4J002CP05X
4J002DA016
4J002EX037
4J002EX057
4J002EX077
4J002FB076
4J002FD206
4J002GQ00
5F136BC07
5F136FA24
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】ダイヤモンド粒子とシリコーン樹脂を含む熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性を優れたものにしつつ、耐熱性も向上させる。
【解決手段】シリコーン樹脂と、表面の少なくとも一部が被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子とを含み、前記被覆膜が金属酸化物及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含み、以下の測定方法で測定した前記被覆膜の膜厚が4nm以上150nm以下である、熱伝導性樹脂組成物。
(測定方法:前記熱伝導性樹脂組成物中の前記被覆ダイヤモンド粒子の1粒子の断面像を観察し、任意の10点における被覆膜の厚さの平均値を膜厚とする。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂と、表面の少なくとも一部が被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子とを含み、
前記被覆膜が金属酸化物及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
以下の測定方法で測定した前記被覆膜の膜厚が4nm以上150nm以下である、熱伝導性樹脂組成物。
(測定方法:前記熱伝導性樹脂組成物中の前記被覆ダイヤモンド粒子の1粒子の断面像を観察し、任意の10点における被覆膜の厚さの平均値を膜厚とする。)
【請求項2】
前記被覆膜が金属酸化物及び第4周期の金属からなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ
前記熱伝導性樹脂組成物中にケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を含む、請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機ケイ素化合物が、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン、及びアルコキシシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記被覆膜がシリカ及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記被覆ダイヤモンド粒子以外の無機粒子をさらに含み、前記無機粒子の平均粒径が、前記被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径より小さい、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記被覆ダイヤモンド粒子及び前記無機粒子の合計充填率が60体積%以上である、請求項5に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機粒子が、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、被覆ダイヤモンド以外の炭素系材料、及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
前記被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径が35μm以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
前記被覆ダイヤモンド粒子が破砕ダイヤモンド粒子を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項10】
前記シリコーン樹脂が、液状のシリコーン樹脂及びシリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる、放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、放熱部材に使用される熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器から効率的に熱を逃がすために放熱部材が広く使用されている。放熱部材は、電子回路の高集積化が進み電子機器の発熱量が増加していることから、電子機器の性能向上や故障を防ぐ目的で重要度が増している。放熱部材の中でも、ICチップ等の熱をヒートシンクに伝える材料はTIM(Thermal Interface Material)と呼ばれることがある。TIMは、一般的にバインダー樹脂と熱伝導性フィラーの複合物であり、その形態としては、シートやグリースが挙げられる。
【0003】
TIMは、電子機器の発熱量の増加に伴い、高い熱伝導性が求められるようになってきている。TIMの熱伝導性を向上させるには、より高い熱伝導率を有するフィラーを用い、かつフィラーを高充填にすることが一般的である。例えば、特許文献1に記載されるダイヤモンドは、熱伝導率が極めて高い物質の1つであり、熱伝導フィラーとしての使用が近年検討されている。
【0004】
TIMなどの放熱材料には、熱伝導性のほか、高温暴露時にも性能が変化しない耐熱性や、熱源やヒートシンクへの密着性を高めるために粘度を低くすることが求められる。これらの要求性能は、特に高熱伝導性を指向してフィラーを高充填する場合に重要性が増すことになる。
【0005】
従来、放熱材料などに使用される熱伝導性樹脂組成物には、様々な性能を付与する目的で、表面に被覆膜が形成された無機酸化物フィラーが配合されることが知られている。例えば、特許文献2には、シリコーン樹脂組成物に、テトラアルコキシシランやその部分加水分解縮合物で表面処理された酸化亜鉛粉末を含有させることで、耐熱性、電気絶縁性、接着性等の各種性能を向上させることが開示されている。また、特許文献2では、表面処理された酸化亜鉛粉末により、シリコーン樹脂組成物に配合された高熱伝導性フィラーの分散性が高められ、熱伝導性が向上することも示されている。
【0006】
特許文献3には、実質的に非多孔質のコア材料と、コアを包囲する1層以上の多孔質シェル材料を含む表面多孔質材料が開示されている。この表面多孔質材料では、コア材料として、炭化ケイ素、炭素、ダイヤモンド、各種金属、ホウ素、又はこれらの酸化物や窒化物が使用され、多孔質シェル材料として、多孔質無機/有機ハイブリッド材料や多孔質シリカなどが使用され、多孔質層の厚みを0.05μm~5μmとされることも示されている。
【0007】
特許文献4には、シリカ又はアルミナの無機薄膜を表面に有する窒化物粒子又は金属粒子からなる非凝集粒子、及び無機材料の粒子で充填された樹脂マトリックスが開示されている。また、特許文献5には、セラミックス(金属酸化物)による電気絶縁コーティングを有する炭素系粒子を含む接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6869430号公報
【特許文献2】特許第3447964号公報
【特許文献3】特表2013-539016号公報
【特許文献4】特許第4507598号公報
【特許文献5】特許第5939983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ダイヤモンド粒子は熱伝導性が高く、シリコーン樹脂を含む樹脂組成物にダイヤモンド粒子を含有させると熱伝導性が優れたものとなるが、ダイヤモンド粒子をシリコーン樹脂と複合化して高温に長時間晒すると、シリコーン樹脂の酸化劣化により、樹脂分の揮発や組成物の硬度上昇が生じるなど耐熱性に課題があることが本発明者の検討により判明した。
【0010】
一方で、特許文献2~5に示すとおりに、被覆膜を有するフィラーを使用すると、樹脂組成物の耐熱性などの各種性能が向上することが知られている。しかし、被覆膜を形成することで、被覆されたダイヤモンド粒子により熱伝導性を優れたものとしつつ、耐熱性も向上させることができる技術は開示されていない。
【0011】
そこで、本発明は、ダイヤモンド粒子とシリコーン樹脂を含む熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性を優れたものにしつつ、耐熱性も向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の材料及び膜厚で形成された被覆膜により、表面の少なくとも一部を被覆させたダイヤモンド粒子を、シリコーン樹脂を含む樹脂組成物に配合することで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
[1]シリコーン樹脂と、表面の少なくとも一部が被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子とを含み、
前記被覆膜が金属酸化物及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
以下の測定方法で測定した前記被覆膜の膜厚が4nm以上150nm以下である、熱伝導性樹脂組成物。
(測定方法:前記熱伝導性樹脂組成物中の前記被覆ダイヤモンド粒子の1粒子の断面像を観察し、任意の10点における被覆膜の厚さの平均値を膜厚とする。)
[2]前記被覆膜が金属酸化物及び第4周期の金属からなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ
前記熱伝導性樹脂組成物中にケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を含む、上記[1]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[3]前記有機ケイ素化合物が、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン、及びアルコキシシラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[2]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[4]前記被覆膜がシリカ及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[5]前記被覆ダイヤモンド粒子以外の無機粒子をさらに含み、前記無機粒子の平均粒径が、前記被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径より小さい、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[6]前記被覆ダイヤモンド粒子及び前記無機粒子の合計充填率が60体積%以上である、上記[5]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[7]前記無機粒子が、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、被覆ダイヤモンド以外の炭素系材料、及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[5]又は[6]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[8]前記被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径が35μm以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[9]前記被覆ダイヤモンド粒子が破砕ダイヤモンド粒子を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[10]前記シリコーン樹脂が、液状のシリコーン樹脂及びシリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物からなる、放熱部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコーン樹脂及びダイヤモンド粒子を含む熱伝導性樹脂組成物において、熱伝導性を優れたものにしつつ、耐熱性も向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態を用いて説明する。
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、シリコーン樹脂と、表面の少なくとも一部が被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子とを含有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0015】
(被覆ダイヤモンド粒子)
被覆ダイヤモンド粒子は、表面の少なくとも一部が被覆膜を有するものであり、被覆膜が金属酸化物及び金属からなる群から選択される少なくとも1種を含む。被覆ダイヤモンド粒子は、被覆膜に金属酸化物や金属を含有することで、熱伝導樹脂組成物やその硬化物の熱伝導性を優れたものにしつつ、耐熱性も向上させることができる。
【0016】
一般的にダイヤモンド粒子は、その表面に不純物として酸、塩基、遷移金属イオンなどが付着されており、その付着された不純物により、シリコーン樹脂を熱分解させることがあり、中でも、Fe3+に起因する樹脂分解が主に発生する。一方で、金属酸化物や、金属による被覆は、酸、塩基、遷移金属イオン(特に、Fe3+)の流出を抑えることができるので、本発明では、被覆膜によって、ダイヤモンド粒子表面に付着する不純物によるシリコーン樹脂の劣化を抑制することができる。また、被覆ダイヤモンド粒子は、被覆膜を有することでシリコーン樹脂とのなじみ性が向上し界面熱抵抗が下がることで熱伝導性が向上する。特に、本発明では、被覆膜に金属酸化物及び金属のいずれかを含むことで、熱伝導性が優れたものとなりやすい。さらに、被覆ダイヤモンド粒子は、上記の通りシリコーン樹脂とのなじみ性が向上することで、粘度も低くしやすくなる。
【0017】
金属、金属酸化物としては、特に限定されないが、具体的な金属としては、Ti、Cr、V、Mn、Nb、W、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ta、Re、Hf、Zr、U、Ce等の遷移金属が挙げられる。また、具体的な金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウムなど挙げられる。なお、金属は、ケイ素などの半金属も包含する意味である。
【0018】
上記した中では、金属酸化物、及び第4周期の金属が好ましい。被覆膜に金属酸化物を使用すると、被覆ダイヤモンド粒子をシリコーン樹脂になじみやすくしつつ、被覆膜と後述するシランカップリング剤との反応性を高めることができる。そのため、特に熱伝導性樹脂組成物がシランカップリング剤を含有する場合に、被覆ダイヤモンド粒子が熱伝導性樹脂組成物により一層になじみやすくなり、それにより、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高くしたり、粘度を低くしたりしやすくなる。また、第4周期の金属を使用した場合には、被覆膜の最表面が酸化し、被覆膜に金属酸化物を使用した場合と同様に、特にシランカップリング剤が使用される場合に、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高くしたり、粘度を低くしたりしやすくなる。
【0019】
以上の観点から、第4周期の金属としては、ニッケルが好ましく、金属酸化物としては、シリカ、及びアルミナが好ましく、中でも、シリカが好ましい。シリカによる被覆膜を形成することで、後述するシランカップリング剤への反応性がより一層向上し、粘性及び熱伝導性をより改善させることができる。また、シリカ及びアルミナは、金属酸化物の中でも中性でありかつ酸化還元反応を起こさないため、シリコーン樹脂の熱劣化を効果的に防止できる点でも好ましい。
被覆膜における金属及び金属酸化物は、多孔質であってもよいし、非多孔質であってもよいが、非多孔質であることが好ましい。したがって、シリカは、多孔質シリカであってもよいし、非多孔質シリカであってもよいが、非多孔質シリカであることが好ましい。また、被覆膜におけるシリカは、アモルファスであってもよいし、結晶性シリカであってもよいが、アモルファスシリカであることが好ましい。
以上で説明した金属及び金属酸化物は、被覆膜において1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明において、被覆ダイヤモンド粒子が有する被覆膜の膜厚は、4nm以上150nm以下である。被覆膜は、膜厚が4nmより薄いと、被覆ダイヤモンド粒子に付着した不純物が溶出してしまい、シリコーン樹脂の熱分解が抑制できず、耐熱性を良好にすることが難しくなる。また、150nmより厚くなると、熱伝導性を悪化させるおそれがある。
被覆膜の膜厚は、耐熱性と熱伝導性の両立の観点から、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上75nm以下である。
【0021】
なお、被覆膜の膜厚は、熱伝導性樹脂組成物中の被覆ダイヤモンド粒子の1粒子の断面像を観察し、任意の10点における被覆膜の厚さの平均値を膜厚とすることで測定できる。また、被覆膜の膜厚は、後述する被覆膜を形成する際の処理条件を適宜選択することで調製することができる。例えば、ゾルゲル法によって被覆膜を形成する場合においては、処理剤におけるシリカ前駆体や硬化剤の濃度を適宜設定することで膜厚を調整できる。また、CVD、ALD、スパッタ、電着法などにおいては、ダイヤモンド粒子の表面への金属、金属酸化物の付着量を適宜設定することで膜厚を調整できる。
【0022】
被覆ダイヤモンド粒子における被覆膜は、コアとなるダイヤモンド粒子の表面の一部を被覆していればよいが、ダイヤモンド粒子の表面の大部分を被覆していることが好ましく、ダイヤモンド粒子の表面全体を被覆していることがより好ましい。ダイヤモンド粒子は、被覆膜により表面の大部分又は全体が被覆されることにより、熱伝導性を優れたものにしつつ、耐熱性を向上させやすくなる。具体的には、ダイヤモンド粒子表面の被覆膜による被覆率は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは98%以上である。被覆率は、高ければ高いほどよく、上限は100%である。なお、被覆率は、被覆ダイヤモンド粒子の断面画像から算出することができる。
【0023】
被覆膜は、以上の金属及び金属酸化物から形成される被覆膜であるとよい。被覆膜は、典型的には、上記した金属及び金属酸化物からなる群から選択される化合物を主成分とするものであればよい。なお、主成分であるとは、金属及び金属酸化物の含有量が、例えば、被覆膜全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上100質量%以下であるとよい。
【0024】
被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば120μm以下であり、好ましくは60μm以下である。被覆ダイヤモンド粒子は、一定値以下の平均粒径を有することで、熱伝導性樹脂組成物に適切に分散され、高い充填率で含有させることが可能になる。
また、平均粒径の小さい被覆ダイヤモンド粒子は比表面積が大きく、被覆ダイヤモンド粒子の総表面積が大きくなり、樹脂との接触面積が増えるため耐熱性が低下しやすい。そのため、平均粒径の小さい被覆ダイヤモンド粒子は、被覆膜を形成したことによる耐熱性改善の効果が大きくなる。また、粒径の小さい被覆ダイヤモンド粒子は、表面積が大きくなり、被覆膜を形成したことによる熱伝導性向上や粘性向上の効果が顕著になりやすくなる。以上の観点から、被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、35μm以下とすることが好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらにこのましい。
【0025】
被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、下限については特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは4μm以上である。被覆ダイヤモンド粒子は、上記下限値以上とすることで、樹脂組成物の熱伝導性を高くしやすくなる。また、熱伝導性樹脂組成物が増粘することを防止しやすくなる。
なお、平均粒径は、体積基準での粒子径を平均した平均粒子径であり、例えば、レーザー回折法により粒度分布を測定して求めることができる。測定装置としては、例えば堀場製作所社製「レーザー回折式粒度分布測定装置」を用いることができる。平均粒子径の算出方法については、累積体積が50%であるときの粒子径(d50)を平均粒子径とすればよい。
なお、ダイヤモンド粒子は、後述する通り高温高圧法により合成された、結晶性ダイヤモンを使用する場合などには凝集せずに使用されるものであり、その場合、上記平均粒径は、被覆ダイヤモンド粒子の一次粒子の平均粒子径ともいえる。
【0026】
被覆ダイヤモンド粒子は、熱伝導性樹脂組成物に含有される被覆ダイヤモンド粒子全体の平均粒径が上記の通りとなる限り、平均粒径が異なる2種以上の被覆ダイヤモンド粒子が併用されてもよい。なお、被覆ダイヤモンド粒子は、その粒度分布において、ピークが2つ以上現れることで平均粒径が異なる2種類以上の被覆ダイヤモンド粒子を含むと判断できる。
被覆ダイヤモンド粒子は、平均粒径が異なる2種以上の被覆ダイヤモンド粒子を含む場合、各被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径それぞれは、1μm以上150μm以下の範囲内であるとよく、好ましくは2μm以上120μm以下の範囲内、より好ましくは4μm以上100μm以下の範囲内である。
【0027】
被覆ダイヤモンド粒子のコアに使用されるダイヤモンド粒子は、アズグロウン(As-grown)粒子であってもよいし、アズグロウン粒子を破砕して得た破砕ダイヤモンド粒子であってもよいし、これら以外のダイヤモンド粒子であってもよく、これらのうち2種以上を併用してもよい。なお、一般的に、アズグロウン粒子は、破砕などせずに合成時の形状が維持された結晶性ダイヤモンド粒子であり、多面体形状を有する。破砕ダイヤモンド粒子は結晶性ダイヤモンド粒子が破砕されて得られたものであり、一般的に破砕により角ばった形状を有する。
【0028】
上記の中でも、被覆ダイヤモンド粒子のコアとしては、破砕ダイヤモンド粒子を使用することが好ましい。破砕ダイヤモンド粒子を使用する場合、被覆ダイヤモンド粒子を構成する全てのコアが破砕ダイヤモンド粒子であってもよいが、破砕ダイヤモンド粒子と、アズグロウン粒子などの破砕ダイヤモンド粒子以外の粒子とを併用してもよい。被覆ダイヤモンド粒子において、破砕ダイヤモンド粒子の割合は、例えば5体積%以上100体積%以下であればよく、好ましくは10体積%以上100体積%以下、より好ましくは50体積%以上100体積%以下である。なお、ここでいう破砕ダイヤモンド粒子の割合とは、被覆ダイヤモンド粒子全体に対する、被覆膜を有する破砕ダイヤモンド粒子の割合を体積%で示すものである。
【0029】
破砕ダイヤモンド粒子は、アズグロウン粒子に比べて比表面積が大きく、破砕ダイヤモンド粒子を使用するとフィラー総表面積が大きく、樹脂との接触面積が増えるため耐熱性が低下しやすい。加えて、破砕ダイヤモンド粒子は、粒子の内部に取り込まれた合成時の触媒(すなわち、不純物)が露出し、そのような不純物に起因して、アズグロウン粒子に比べてさらに耐熱性が低下しやすくい。そのため、破砕ダイヤモンド粒子を使用する場合には、被覆膜を形成したことによる耐熱性改善の効果が大きくなる。また、破砕ダイヤモンド粒子は、フィラー間の接点が増加し、熱伝導性が向上しやすくなる。さらに、破砕ダイヤモンド粒子は、一般的に表面積が大きいため、熱伝導性樹脂組成物を増粘させやすくなるが、ダイヤモンド粒子は、被覆膜を有し、また後述するシランカップリング剤により修飾させることで増粘を効果的に抑制することができる。
【0030】
金属酸化物及び金属は、被覆ダイヤモンド粒子のコアを構成するダイヤモンド粒子の表面に、化学気相成長法(CVD)、原子層堆積法(ALD)、電着法、スパッタリング、ゾルゲル法、メッキ法などにより成膜されるとよい。
なお、ゾルゲル法は、例えば被覆膜がシリカにより形成される場合に好ましく使用される。ゾルゲル法を使用することで、非多孔質のアモルファスシリカをダイヤモンド粒子の表面に被覆膜として形成することができる。
ゾルゲル法は、シリカにより被覆膜を形成する場合、テトラアルコキシシランなどのシリカ前駆体、必要に応じて配合される硬化剤、触媒などを含む処理剤を、ダイヤモンド粒子の表面に付着させ、加水分解、脱水縮合などしてシリカよりなる被覆膜を形成すればよい。この場合、より具体的には、硬化剤を含む処理剤にダイヤモンド粒子を予め浸漬させ、必要に応じて所定時間攪拌した後、処理剤にさらにシリカ前駆体を加え、さらに必要に応じて所定時間攪拌などすることで、ダイヤモンド粒子にシリカ前駆体を含む処理剤を付着させ、かつ加水分解、脱水縮合などをすればよい。なお、処理剤としては市販品を使用してもよく、奥野製薬工業社製の「Protector S」シリーズなどが使用できる。
また、被覆膜がアルミナである場合には、CVDやALD、スパッタリングなどが採用されることが好ましい。
【0031】
被覆ダイヤモンド粒子のコアに使用されるダイヤモンド粒子は、典型的には合成ダイヤモンドであり、好ましくは結晶性ダイヤモンド粒子である。結晶性ダイヤモンド粒子は、上記の通り、アズグロウン粒子であってもよいし、破砕ダイヤモンド粒子であってもよいが、好ましくは破砕ダイヤモンド粒子である。
合成ダイヤモンド粒子は、爆轟法によって合成されてもよいし、高温高圧法によって合成されてもよいが、高温高圧法によって合成されることが好ましい。ダイヤモンド粒子は、高温高圧法で合成されることで、凝集することなく、一次粒子の平均粒子径が大きいダイヤモンド粒子が得られる。また、高温高圧法で合成されることで、結晶性ダイヤモンド粒子を得やすくなる。
【0032】
高温高圧法では、実用的には、黒鉛などの炭素原料を、鉄、ニッケル、コバルト、及びクロムから選択される少なくとも1種の金属触媒存在下、好ましくは鉄触媒存在下、高温高圧下で結晶化して合成できる。そのように合成されたダイヤモンドは、一般的に多面体形状となる。また、高温高圧下で結晶化して合成されたダイヤモンドを、必要に応じて適宜破砕などすることで、上記の通り破砕ダイヤモンド粒子とするとよい。高温高圧法で合成されたダイヤモンド粒子は、必要に応じて、酸洗浄などの洗浄処理、または、水素ガスを使用した還元処理などが行われる。
なお、コアとなるダイヤモンド粒子、又は被覆ダイヤモンド粒子は、市販品を使用してもよい。
【0033】
熱伝導性樹脂組成物において、被覆ダイヤモンド粒子の充填率は、15体積%以上が好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上がさらに好ましく、40体積%以上がよりさらに好ましく、また、80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、62体積%以下であることがさらに好ましい。
熱伝導性樹脂組成物は、一定以上の充填率で被覆ダイヤモンド粒子を含有すると、熱伝導性を良好にしやすくなる。また、一定以下の充填率で被覆ダイヤモンド粒子を含有することで、組成物中にダイヤモンド粒子を適切に分散させることができ、粘度が必要以上に高くなることも防止できる。
なお、上記した被覆ダイヤモンド粒子の充填率は、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対する体積%を意味する。各成分の体積は、各成分の重量と、密度(真密度)により算出可能である。
【0034】
(シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂は、被覆ダイヤモンド粒子、又は、被覆ダイヤモンド粒子及び後述するその他の無機粒子を保持するマトリックス成分となるものである。シリコーン樹脂は、硬化性を有することが好ましく、熱硬化性を有することがより好ましい。また、シリコーン樹脂は、液状であってもよいし、固体状であってもよいが、液状であることが好ましい。液状のシリコーン樹脂は、硬化することで固体となるものでもよいし、非硬化性であり、後述する放熱部材として使用される場合に液状のままでもよい。なお、液状とは、室温(25℃)かつ常圧(1気圧)下に液状である成分である。
【0035】
シリコーン樹脂は、硬化型シリコーン樹脂であることが好ましい。硬化型シリコーン樹脂としては、縮合硬化型シリコーン樹脂、付加反応硬化型シリコーン樹脂のいずれでもよいが、付加反応硬化型シリコーン樹脂が好ましい。また、シリコーン樹脂は、シリコーンゴムであることも好ましい。
付加反応硬化型シリコーン樹脂は、主剤となるシリコーン化合物と、主剤を硬化させる硬化剤とからなることが好ましい。主剤として使用されるシリコーン化合物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましい。オルガノポリシロキサンにおける1分子中のアルケニル基の数は2以上であることが好ましく、両末端にアルケニル基が含有されることがより好ましい。
ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとしては、具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0036】
付加反応硬化型シリコーン樹脂に使用される硬化剤としては、上記した主剤であるシリコーン化合物を硬化できるものであれば、特に限定されないが、1分子中にヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有するオルガノポリシロキサンである、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。シリコーン化合物のビニル基に対するヒドロシリル基の比(モル比)は、好ましくは0.3以上5以下、より好ましくは0.4以上4以下、さらに好ましくは0.6以上4以下である。ダイヤモンド粒子を使用した樹脂組成物では、ダイヤモンド粒子に起因して主剤と硬化剤の反応が進行しないことがあるが、モル比が0.6以上であると、反応が十分に進行して、十分に硬化された硬化物を得ることが可能になる。
【0037】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルヒドロシロキサン、ポリエチルヒドロシロキサン、メチルヒドロシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマーなどが挙げられる。これらは、末端にヒドロシリル基を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。
【0038】
シリコーン樹脂は、25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以上600mPa・s以下である。
なお、シリコーン樹脂の粘度は、粘度計(BROOKFIELD回転粘度計DV-E)でスピンドルNo.14の回転子を用い、回転速度5rpm、測定温度25℃で測定するとよい。シリコーン樹脂は、上記の通り、主剤と硬化剤を有する場合、主剤と硬化剤の混合物の25℃における粘度が上記範囲内であるとよいが、主剤と硬化剤の25℃における粘度がそれぞれ上記範囲内であってもよい。
シリコーン樹脂の粘度範囲を上記範囲内とすると、樹脂組成物の粘度を所定範囲内として、樹脂組成物の塗工性を良好にしつつ、塗工後に一定の形状に保つことができるため、電子部品などの上に容易に配置できるようになる。また、ダイヤモンド粒子などの熱伝導性フィラーを適切に分散させたうえで多量に配合しやすくなる。
【0039】
シリコーン樹脂として付加反応硬化型シリコーン樹脂が使用される場合、熱伝導性樹脂組成物には通常、硬化触媒が配合される。硬化触媒としては、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられ、中でも白金系触媒が好ましい。硬化触媒は、シリコーン樹脂の原料となるシリコーン化合物と硬化剤とを硬化させるための触媒である。硬化触媒の配合量は、シリコーン樹脂の合計質量に対して、通常0.1~200ppm、好ましくは0.5~100ppmである。
【0040】
シリコーン樹脂として付加反応硬化型シリコーン樹脂が使用される場合、熱伝導性樹脂組成物には硬化遅延剤が配合されてもよい。硬化遅延剤としては、公知のものを使用することができるが、例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられる。硬化遅延剤を含有させて硬化触媒の触媒活性などを抑制することで、熱伝導性樹脂組成物のシェルフライフ、ポットライフを延長させることができる。
熱伝導性樹脂組成物における硬化遅延剤の含有量は、シリコーン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上1質量部以下である。
【0041】
また、シリコーン樹脂としては、例えば、シリコーンオイルでもよい。シリコーンオイルとしては、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。シリコーンオイルは、例えば25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以上600mPa・s以下である。
【0042】
シリコーンオイルは、配合時に室温かつ常圧下に液状であり、かつ放熱部材として使用される際にも液状ないしゲル状の成分である。すなわち、シリコーンオイルは、硬化剤などにより硬化されず、また、硬化されても硬化後も液状ないしゲル状となる実質的に非硬化性のものである。したがって、シリコーンオイルは、樹脂成分として単独で、又は比較的高い配合割合で使用すると、熱伝導性樹脂組成物から形成される放熱部材をペースト状にできる。
また、シリコーン樹脂としては、後述する加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン以外であるとよい。
【0043】
シリコーン樹脂の体積割合は、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対して、例えば5体積%以上、好ましくは7体積%以上、より好ましくは9体積%以上であり、また、例えば70体積%以下、好ましくは58体積%以下、より好ましくは54体積%以下、よりさらに好ましくは39体積%以下、よりさらに好ましくは29体積%以下、特に好ましくは19体積%以下である。シリコーン樹脂の体積割合がこれら下限値以上であると、シリコーン樹脂に分散された被覆ダイヤモンド粒子などの無機粒子を、シリコーン樹脂により適切に保持でき、熱伝導性樹脂組成物が一定の形状を維持できるようになる。また、これら上限値以下とすることで、被覆ダイヤモンド粒子などの無機粒子を一定量以上で熱伝導性樹脂組成物に配合できる。
【0044】
(その他の無機粒子)
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、被覆ダイヤモンド粒子以外の無機粒子(以下、「その他の無機粒子」ともいう)をさらに含有してもよい。その他の無機粒子を含有することで、無機粒子全体の充填率を向上させて、例えば熱伝導率を高め、放熱性を向上させることができる。その他の無機粒子としては、熱伝導性が高く、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率を高めることができる熱伝導性フィラーが好ましく使用できる。その他の無機粒子の熱伝導率は、熱伝導性を向上させる観点から、好ましくは8W/(m・K)以上であり、より好ましくは20W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは30W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限は、特に限定されず、例えば2500W/(m・K)である。なお、熱伝導率は、例えば、クロスセクションポリッシャーにて切削加工した無機粒子断面に対して、株式会社ベテル製サーマルマイクロスコープを用いて、周期加熱サーモリフレクタンス法により測定することができる。
【0045】
また、その他の無機粒子は、絶縁性の観点から電気伝導率の低い材料が使用されるとよい。その他の無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、被覆ダイヤモンド以外の炭素系材料などが挙げられる。
【0046】
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、ベーマイトなどの酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。また、ケイ酸塩鉱物であるタルクなども使用できる。なお、その他の無機粒子としては、被覆ダイヤモンド粒子以外のダイヤモンド粒子を使用してもよいが、その他の無機粒子としては、ダイヤモンド粒子以外を使用したほうがよい。
これらその他の無機粒子は、単独で使用してもよいが、2種類以上併用してもよい。
【0047】
その他の無機粒子は、熱伝導性及び絶縁性の観点から、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、窒化アルミニウム、グラフェンから選択される1種以上が好ましく、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び窒化アルミニウムから選択される1種以上がより好ましく、酸化アルミニウムがさらに好ましい。酸化アルミニウムは、典型的にはアルミナが使用される。
【0048】
また、その他の無機粒子は、熱伝導性をより一層高めやすくする観点から、非絶縁性の無機粒子であってもよい。非絶縁性の無機粒子としては、被覆ダイヤモンド以外の炭素系材料、又は金属であることが好ましく、例えば、黒鉛、炭素繊維、アルミニウム、チタン、鉄、銅、銀、金等が挙げられる。
【0049】
その他の無機粒子の平均粒径は、好ましくは上記した被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径よりも低いことが好ましい。その他の無機粒子の平均粒径を小さくすることで、被覆ダイヤモンド粒子間をその他の無機粒子により適切に埋めることができるので、被覆ダイヤモンド粒子間の熱伝導を促進することで熱伝導性が向上する。
その他の無機粒子の平均粒径は、被覆ダイヤモンド粒子間を適切に埋めて熱伝導性を向上させやすくする観点から、例えば50μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
また、その他の無機粒子の平均粒径は、下限については特に限定されないが、例えば0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。その他の無機粒子の平均粒径は、上記下限値以上とすることで、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高く維持しつつ、増粘などすることを防止しやすくなる。
【0050】
その他の無機粒子は、熱伝導性樹脂組成物に含有されるその他の無機粒子全体の平均粒径が上記の通りとなる限り、平均粒径が異なる2種以上の無機粒子を併用してもよい。なお、その他の無機粒子は、その粒度分布において、ピークが2つ以上現れることで平均粒径が異なる2種類以上の無機粒子を含むと判断できる。
なお、その他の無機粒子は、平均粒径が異なる2種以上の無機粒子を含む場合、各無機粒子の平均粒径それぞれは、0.1μm以上100μm以下の範囲内であるとよく、好ましくは0.2μm以上50μm以下の範囲内、より好ましくは0.4μm以上25μm以下の範囲内である。
【0051】
その他の無機粒子の形状は特に限定されず、板状、鱗片状、針状、繊維状、チューブ状、球形、破砕形状、多角形状、不定形状などのいずれでもよいが、球形であるか、又は球形に近い形状であることが好ましい。その他の無機粒子は、球形であるか、又は球形に近い形状であることで、充填率を高めやすくなり、また、無機粒子間の摩擦が低減されることで熱伝導性樹脂組成物の粘度を低下させやすくなる。その他の無機粒子は、具体的には球形度が例えば0.5以上、好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上であるとよい。また、球形度の上限は、特に限定されず、1である。
なお、無機粒子の球形度は、無機粒子の電子顕微鏡写真を確認し、得られた像における粒子300個について、(粒子の投影面積に等しい円の直径/粒子の投影像に外接する最小円の直径)を算出し、その平均値により求めることができる。
【0052】
熱伝導性樹脂組成物がその他の無機粒子を含有する場合、その他の無機粒子の充填率は、無機粒子の合計充填率が後述する範囲となるように適宜調整すればよいが、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対して、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは35体積%以下である。これら上限値以下とすることで、熱伝導性樹脂組成物に一定量以上の被覆ダイヤモンド粒子を配合できるので、熱伝導率を向上させやすくなる。また、その他の無機粒子の充填率は、好ましくは2体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。これら下限値以上とすると、その他の無機粒子を配合した効果を発揮させやすくなる。
【0053】
無機粒子の合計充填率(すなわち、被覆ダイヤモンド粒子とその他の無機粒子の充填率の合計)は、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対して、例えば28体積%以上、好ましくは40体積%以上、より好ましくは45体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上、よりさらに好ましくは70体積%以上、特に好ましくは80体積%以上である。無機粒子の合計充填率は、これら下限値以上とすることで、熱伝導率を高くできる。また、本発明では、被覆ダイヤモンド粒子に加えて、その他の無機粒子を併用することで、60体積%以上などの高充填とすることも可能である。60体積%以上の高充填とすると組成物中で無機粒子同士が接触(パーコレーション)して熱伝導性が特に良好になる。
無機粒子の合計充填率は、例えば94体積%以下、好ましくは92体積%以下、より好ましく90体積%以下である。上記の上限値以下とすることで、無機粒子を適切に樹脂成分中に分散させやすくなり、熱伝導性樹脂組成物が増粘したりすることも防止できる。
【0054】
熱伝導性樹脂組成物がその他の無機粒子を含有する場合、その他の無機粒子の充填率は、絶縁性及び熱伝導性の観点から、上記無機粒子全体に対して(すなわち、被覆ダイヤモンド粒子とその他の無機粒子の合計を100体積%とすると)、10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましく、30体積%以上がさらに好ましく、また、70体積%以下が好ましく、60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましく、45体積%以下がよりさらに好ましい。
【0055】
(有機ケイ素化合物)
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、さらにケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物(「シランカップリング剤」ともいう)を含有することが好ましい。一般的にダイヤモンド粒子はシランカップリング剤への反応性が低く、シランカップリング剤による表面修飾が難しいが、本発明の被覆ダイヤモンド粒子は、上記した特定の被覆膜を有することで、シランカップリング剤への反応性が高くなり、シランカップリング剤による表面修飾が容易となる。そのため、熱伝導性樹脂組成物がシランカップリング剤を含有すると、被覆ダイヤモンド粒子がシランカップリング剤により表面修飾されることで、被覆ダイヤモンド粒子は、シリコーン樹脂になじみやすくなる。したがって、熱伝導性組成物は、熱伝導性がより一層高くなり、粘度も低減しやすくなる。
また、熱伝導性樹脂組成物がシランカップリング剤及びその他の無機粒子を含有する場合、その他の無機粒子もシランカップリング剤により表面修飾されるとよい。これにより、その他の無機粒子もシリコーン樹脂になじみやすくなり、熱伝導性がより一層高くなり、粘度も低減しやすくなる。
【0056】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤による表面修飾を容易にする観点から、被覆膜が金属酸化物及び第4周期の金属のいずれかを含有することが好ましい。そして、金属酸化物及び第4周期の金属のいずれかとしては、ニッケル、シリカ、及びアルミナのいずれかが好ましく、特にシリカがより好ましい。
また、無機粒子が高充填(例えば、無機粒子の合計充填率が60体積%以上)の場合には、大量の無機粒子により増粘しやすいので、粘度を低下させる観点から、熱伝導性樹脂組成物にシランカップリング剤を含有させることが特に望ましい。
【0057】
シランカップリング剤としては、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「加水分解性基含有オルガノポリシロキサン」ともいう)、アルコキシシラン化合物などが挙げられ、これらの中では、加水分解性基含有オルガノポリシロキサンが好ましい。加水分解性基含有オルガノポリシロキサンを使用することで、シランカップリング剤がシリコーン樹脂になじみやすくなる。そのため、耐熱性、熱伝導性のいずれもが向上しやすくなり、粘度も低下させやすくなる。なお、シランカップリング剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
<加水分解性基含有オルガノポリシロキサン>
加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、分子鎖末端に少なくとも1つの加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、片末端のみに少なくとも1つの加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましく、片末端のみに3つの加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンがさらに好ましい。加水分解性基は、加水分解性シリル基が好ましく、より好ましくはアルコキシシリル基であり、さらに好ましくはメトキシシリル基である。
【0059】
加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、具体的には以下の式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0060】
式(1)において、R1はそれぞれ独立に炭素原子数が1~20のアルキル基、炭素原子数が1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数6~20のアリール基、及び炭素原子数7~20のアラルキル基のいずれであり、各式において複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基であり、各式においてR2が複数の場合は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R3はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、及び炭素原子数2~4のアシル基のいずれかであり、各式においてR3が複数の場合は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。R4は炭素原子数1~8のアルキル基である。R6は、酸素原子、又は炭素原子数1~40の二価の有機基である。mは3~315の整数である。式(1)において、aは0~2の整数である。
【0061】
上記式(1)において、R1におけるアルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、環状構造を有してもよい。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、2-メチルウンデシル基、1-ヘキシルヘプチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、2-(2,4,6-トリメチルフェニル)プロピル基等が挙げられる。
これらの中でもR1は、炭素原子数1~20のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。式(1)の化合物において、R1の80%以上がメチル基であることが好ましく、90%以上がメチル基であることがより好ましく、R1の全てがメチル基であることがさらに好ましい。
【0062】
上記式(1)において、R2は炭素原子数1~4のアルキル基であり、R2が複数の場合(すなわち、aが2の場合)は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、該アルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。中でもR2は、炭素原子数1~2のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、aは0~2の整数であり、aは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0063】
上記式(1)において、R3は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、炭素原子数2~4のアシル基であり、R3が複数の場合(すなわち、aが0又は1の場合)は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。また、R3におけるアルキル基、アルコキシアルキル基、及びアシル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。これらの中でもR3は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、中でもメチル基であることがより好ましい。
【0064】
上記式(1)において、R4は炭素原子数1~8のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数2~6のアルキル基であり、より好ましくはブチル基である。
上記式(1)において、R6は以下の式(2)で示される基、酸素原子、又は炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であることが好ましく、以下の式(2)で示される基、又は炭素数1~20の二価の炭化水素基であることがより好ましい。ここで、炭素数1~20の二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。炭素数1~20の二価の炭化水素基は、炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルエチレン基などが挙げられ、中でもエチレン基が好ましい。
【0065】
【化2】
式(2)において、R
5は炭素原子数が1~20の二価の炭化水素基であり、複数のR
5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。*は、R
1-Si-R
1におけるケイ素原子との結合位置であり、**は、SiR
2
a(OR
3)
3-aにおけるケイ素原子との結合位置である。
R
5における二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。R
5は炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、-CH
2-CH
2-CH
2-、又は-CH(CH
3)-CH
2-で表されるアルキレン基が更に好ましい。
【0066】
式(1)におけるmは繰り返し数を表し、3~315の整数であり、好ましくは4~280の整数であり、より好ましくは5~220の整数、更に好ましくは5~100の整数である。
【0067】
<アルコキシシラン化合物>
アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基は、加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられ、これらの中では、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、被覆ダイヤモンド粒子などの無機粒子との親和性を高めるという観点から、3であることが好ましい。したがって、アルコキシシラン化合物は、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0068】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基などが挙げられる。
【0069】
アルコキシシラン化合物は、シリコーン樹脂となじみやすくなって、被覆ダイヤモンド粒子などの無機粒子の分散性を高める観点から、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物が好ましい。ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、アルコキシシラン化合物自体の粘度が比較的低く、熱伝導性樹脂組成物の粘度を低く抑えるという観点から、16以下であることが好ましい。
【0070】
好ましいアルキルアルコキシシラン化合物としては、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランが挙げられる。
また、アルキルアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0071】
シランカップリング剤は、熱伝導性樹脂組成物中のシリコーン樹脂に混合し、熱伝導性樹脂組成物に含有させることが好ましい。熱伝導性樹脂組成物に含有されたシランカップリング剤は、熱伝導性樹脂組成物において、少なくとも一部が、被覆ダイヤモンド粒子の表面に吸着され、被覆ダイヤモンド粒子の表面を修飾するとよい。
【0072】
ただし、被覆ダイヤモンド粒子は、熱伝導性樹脂組成物に配合する前にシランカップリング剤によって予め表面処理されてもよい。被覆ダイヤモンド粒子は、シランカップリング剤によって予め表面処理されることで、予めシランカップリング剤によって表面修飾されることになる。そして、予め表面修飾された被覆ダイヤモンド粒子をシリコーン樹脂に混合させて、熱伝導性樹脂組成物を調製するとよい。
上記の通り表面処理する場合のシランカップリング剤の被覆ダイヤモンド粒子への修飾量は、被覆ダイヤモンド粒子に対して、0.03質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましくであり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0073】
シランカップリング剤を用いて表面処理をする方法は、特に制限はなく、公知の方法で行えばよく、例えば、湿式処理法、乾式処理法、インテグラル法などを用いることができるが、湿式処理法で行うことが好ましい。
湿式処理法では、例えば、シランカップリング剤を溶媒に分散又は溶解した処理液中に、ダイヤモンド粒子を加えて混合し、その後、乾燥、加熱処理、洗浄などすることで、ダイヤモンド粒子の表面にシランカップリング剤を結合ないし付着させるとよい。
また、乾式処理法は、溶媒を使用せずに表面処理する方法であり、具体的には、ダイヤモンド粒子にシラン化合物を混合しミキサー等で攪拌し、その後、加熱処理することで、ダイヤモンド粒子の表面にシランカップリング剤を結合ないし付着させる方法である。
【0074】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の熱伝導性樹脂組成物に一般的に使用する添加剤を含有してもよい。
【0075】
熱伝導性樹脂組成物は、シリコーン樹脂が硬化性を有することで、硬化型となることが好ましいが、硬化型の場合、1液硬化型、2液硬化型のいずれでもよい。2液硬化型では、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製するとよい。2液硬化型は、1液と2液を混合することで、室温で硬化するとよいが、混合後に加熱することで硬化するものであってもよい。なお、2液硬化型の場合、被覆ダイヤモンド粒子は、1液及び2液の一方に配合されていてもよいし、両方に配合されていてもよいが、両方に配合されることが好ましい。その他の無機粒子も同様である。もちろん、熱伝導性樹脂組成物は、硬化型である必要はなく、硬化型でない場合には、放熱グリースなどとして使用されてもよい。
1液硬化型の場合、上記熱伝導性樹脂組成物は、例えば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、SiH含有オルガノポリシロキサン、硬化触媒、及び硬化遅延剤を含むシリコーン樹脂と、被覆ダイヤモンド粒子と、その他の無機粒子と、を含有する混合物であることが挙げられる。
2液硬化型の場合、主剤を含む1液としては、例えば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、硬化触媒、被覆ダイヤモンド粒子、及びその他の無機粒子の混合物であり、硬化剤を含む2液としては、例えば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、SiH含有オルガノポリシロキサン、硬化遅延剤、被覆ダイヤモンド粒子、及びその他の無機粒子の混合物であることが挙げられる。
【0076】
(熱伝導性樹脂組成物の熱抵抗率)
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を向上させる観点から熱抵抗率が一定値以下であることが好ましく、具体的には好ましくは3.5K/W・cm2以下、より好ましくは3.3K/W・cm2以下、さらに好ましくは3.0K/W・cm2以下である。なお、熱抵抗率は低ければ低いほどよいが、実用的には、例えば0.1K/W・cm2以上であってもよいし、0.3K/W・cm2以上であってもよい。なお、熱抵抗率は、実施例記載の方法により測定することができる。
【0077】
(熱伝導性樹脂組成物の耐熱性)
熱伝導性樹脂組成物の耐熱性は、一定時間高温で加熱した際の樹脂体積減少割合で評価でき、耐熱性の観点から樹脂体積減少割合は低いほうがよい。具体的には、熱伝導性樹脂組成物は、150℃大気下で7日間保管した際の樹脂体積減少割合が0.07体積%以下であることが好ましく、0.05体積%以下であることが好ましく、0.045体積%以下であることがさらに好ましく、0.025体積%以下であることがよりさらに好ましい。上記樹脂体積減少割合は、低ければ低いほどよく、0体積%以上であればよい。なお、熱伝導性樹脂組成物は、150℃大気下で7日間保管した際の樹脂体積減少割合を求めればよいが、硬化型である場合には、硬化後に150℃大気下で7日間保管させるとよい。
【0078】
(熱伝導性樹脂組成物の粘度)
熱伝導性樹脂組成物の粘度は、例えば突き刺し荷重により評価できる。突き刺し荷重は、無機粒子が大量に配合される熱伝導性樹脂組成物においても、粘度(粘性)を適切に評価できる。熱伝導性樹脂組成物の粘度は、突き刺し荷重が、例えば40mN以下、好ましくは25mN以下、より好ましくは10mN以下、更に好ましくは5mN以下となるように調整されればよい。熱伝導性樹脂組成物は、突き刺し荷重を一定値以下とすることで粘度が低くなり、取扱い性が良好となる。突き刺し荷重は、特に限定されないが、例えば0.1mN以上であればよく、一定量以上の被覆ダイヤモンド粒子などの無機粒子を含有させて熱伝導性を向上させる観点から、好ましくは0.5mN以上、より好ましくは1mN以上である。
なお、突き刺し荷重とは、25℃の環境下で、直径3mmの突き刺し面を有する突き刺し棒を、熱伝導性樹脂組成物に対して、液面から深さ4mmまで進入させた際に発生する荷重である。なお、熱伝導性樹脂組成物の突き刺し荷重とは、硬化型である場合には硬化前の熱伝導性樹脂組成物の突き刺し荷重であり、2液硬化型においては、1液と2液の混合直後の突き刺し荷重である。
【0079】
[熱伝導性樹脂組成物の調製]
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、シリコーン樹脂及び被覆ダイヤモンド粒子、さらには、必要に応じて配合されるその他の無機粒子、シランカップリング剤、その他の添加剤などを混合して調製するとよい。2液硬化型の熱伝導性樹脂組成物とする場合には、上記したように、予め用意した1液と、2液とを混合することで調製するとよい。1液、2液それぞれを用意する際も同様に各種成分を混合して調製するとよい。
また、被覆ダイヤモンド粒子は、予めシランカップリング剤により表面処理されていてもよく、その場合、表面処理された被覆ダイヤモンド粒子をシリコーン樹脂などと混合するとよい。
【0080】
[放熱部材]
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、放熱部材として使用することができる。放熱部材は、熱伝導性樹脂組成物により形成されるものであり、熱伝導性樹脂組成物が硬化型である場合には、上記熱伝導性樹脂組成物を所定の形状などにした後、適宜加熱などして硬化させることで所定の形状に成形された放熱部材を得ることが可能になる。
また、熱伝導性樹脂組成物は、硬化型以外の場合でも、熱伝導性樹脂組成物を所定の形状にして、放熱部材とすればよい。樹脂組成物を放熱部材として使用する場合には、塗工、キャスティング、ポッティング、押出成形などにより、薄膜状、シート状、ブロック状、不定形状などにして、必要に打応じて適宜硬化して使用すればよい。
【0081】
本発明の放熱部材は、例えば電子機器内部において使用される。本発明の放熱部材は、熱伝導性が良好であることから、電子機器内部で使用することで、発熱量が多い場合でも高い放熱性を確保できる。放熱部材は、例えば、電子部品の上に配置されて、電子部品で発生した熱を放熱するために使用される。また、本発明の放熱部材は、2つの対向する部材の間の隙間を埋めるように配置されて使用されてもよい。2つの対向する部材は、例えば、一方が電子部品で、他方が電子部品から熱を逃がすためのヒートシンク、電子機器の筐体、基板などのいずれかであるとよい。放熱部材は、いわゆるTIM(Thermal Interface Material)として使用されてもよい。
【実施例0082】
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
本発明の物性の測定方法及び評価方法は以下の通りである。
<膜厚及び被覆率の測定>
被覆ダイヤモンド粒子をエポキシ樹脂で包埋した後、集束イオンビーム装置(FIB)で断面作製して、走査電子顕微鏡(SEM)で断面を観察した。熱伝導性樹脂組成物に含有される被覆ダイヤモンド粒子中の1粒子を観察して、10点での平均値を求めた。なお、被覆膜が一部被覆していた場合は、被覆されている場所のみで算出した。また、観察した被覆ダイヤモンド粒子の断面画像において、コアのダイヤモンド粒子が被覆膜で被覆されている割合を求めて被覆率とした。
【0084】
<耐熱性評価>
各実施例、比較例で得られた熱伝導性樹脂組成物を2gずつ30mL容積のガラス製サンプルバイアルに入れて、70℃で2時間放置することで硬化させ、硬化体を得た。得られた硬化体を150℃大気下で7日間保管し、保管前の初期重量に対する、保管前後での重量減少割合を%で算出した。重量減少分は、分解及び揮発することで減少した樹脂分とみなして、配合時に添加した樹脂体積に対する、減少した樹脂体積の割合(樹脂体積減少割合)を求めた。なお、樹脂体積減少割合が低いほどシリコーン樹脂の分解及び揮発が少なく、耐熱性が高いといえる。
(耐熱性改善効果)
対照試験における減少樹脂体積割合から、各実施例、比較例における減少樹脂体積割合を差し引いた値を耐熱性改善効果として求めた。なお、得られた値は、耐熱性改善効果によって分解及び揮発を免れた樹脂の体積%を意味し、値が大きいほど耐熱性改善効果が大きいことを示す。
【0085】
<熱伝導性評価>
各実施例、比較例で得られた熱伝導性樹脂組成物を直ちに測定装置の測定部分上に塗布し、厚み300μmとなるように押しつぶして、そのときの熱伝導性樹脂組成物の熱抵抗値(K/W・cm2)を、メンターグラフィックス社製の装置「DynTIM」を用いてASTM D5470に準拠して測定した。熱抵抗は、低いほど熱伝導性が優れていることを意味する。
(熱抵抗改善効果)
対照試験における熱抵抗値から、各実施例、比較例で測定された熱抵抗値を差し引いた値を熱抵抗改善効果として求めた。なお、得られた値は、熱抵抗改善効果によって減少した熱抵抗値の値であり、値が大きいほど熱抵抗改善効果が大きいことを示す。
【0086】
<粘度評価>
粘度評価は、以下に示す突き刺し荷重により評価した。なお、突き刺し荷重が低い方が粘度が低いことを示す。
熱伝導性樹脂組成物を脱泡し、脱泡した30gの熱伝導性樹脂組成物を直径25mmの円筒状の容器に導入した。次いで、先端に直径3mm、厚さ1mmの円盤状の部材を有する突き刺し棒(棒の直径1mm)を10mm/分の速度(突き刺し速度)で、突き刺し棒の先端側から容器に導入された熱伝導性組成物に押し付けていき、突き刺し棒の先端が液面から深さ4mmに到達した際の荷重(mN)を測定した。突き刺し棒の材質は、ステンレスであった。測定は25℃で行った。
(粘度改善効果)
対照試験における突き刺し荷重の値から、各実施例、比較例で測定された突き刺し荷重の値を差し引いた値を粘度改善効果として求めた。なお、得られた値は、粘度改善効果によって低下した突き刺し荷重の値であり、値が大きいほど粘度改善効果が大きいことを示す。
【0087】
【表1】
【表2】
※実施例1~12、比較例2~4は、耐熱性改善効果、熱抵抗改善効果、粘度改善効果についての対照試験を比較例1とした。実施例13~22はそれぞれ、耐熱性改善効果、熱抵抗改善効果、粘度改善効果についての対照試験を比較例5~14それぞれとした。
【0088】
各実施例、比較例で使用した各成分は、以下の通りであった。
(シリコーン樹脂)
液状シリコーンゴム1:400mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、触媒量の白金触媒を含む
液状シリコーンゴム2:400mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン及びSiH含有オルガノポリシロキサンの混合物、少量の硬化遅延剤を含む
液状シリコーンゴム3:100mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、触媒量の白金触媒を含む
液状シリコーンゴム4:100mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン及びSiH含有オルガノポリシロキサンの混合物、少量の硬化遅延剤を含む
シランカップリング剤(C10):n-デシルトリメトキシシラン
シランカップリング剤(Wetter):化学式(1)において、R1およびR3がメチル基、a=0、R4がブチル基、R6が化学式(2)の構造を有し、R5のうちカルボニル基に直接結合している方がイソプロピレン基(カルボニルα位にメチル基を有し、カルボニルβ位で化学式(1)中のシロキサンケイ素原子と結合)であり、他方のR5がプロピレン基であり、m=10であるオルガノポリシロキサン。
【0089】
(ダイヤモンド粒子)
合成ダイヤモンド1(破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド2(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に2.5nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド3(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に4nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド4(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に10nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド5(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に20nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド6(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に30nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド7(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド8(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に100nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド9(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に150nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド10(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に300nmの被覆膜を形成。
【0090】
合成ダイヤモンド11(ニッケル被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の60nmのニッケル被覆膜を有する破砕品を使用。
合成ダイヤモンド12(アルミナ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に60nmのアルミナ被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド13(As-grown品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド14(シリカ被覆、As-grown品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製のAs-grown品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド15(破砕品)、平均粒径20μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド16(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径20μm、トーメイダイヤ社製のAs-grown品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド17(As―grown品)、平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド18(シリカ被覆、As―grown品)平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製のAs-grown品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド19(破砕品)、平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド20(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド21(As―grown品)、平均粒径55μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド22(シリカ被覆、As―grown品)平均粒径55μm、トーメイダイヤ社製の破砕品に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド23(As―grown品)平均粒径110μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド24(シリカ被覆、As―grown品)平均粒径110μm、トーメイダイヤ社製のAs-grown品に60nmの被覆膜を形成。
【0091】
(その他の無機粒子)
アルミナ1:平均粒径0.5μmのアルミナ、住友化学社製、球形度0.8
アルミナ2:平均粒径3μmのアルミナ、住友化学社製、球形度0.8
【0092】
(シリカ被覆の形成方法)
シリカ被覆を有する被覆ダイヤモンド粒子は、以下に示すゾルゲル法でシリカ被覆膜を合成ダイヤモンド粒子の表面に形成することで製造した。
<ゾルゲル法>
ダイヤモンド粒子50gを奥野製薬工業社製の「エースクリーンA-220」で60℃/5min洗浄することで脱脂処理を行い、ろ過、水洗、アセトン洗浄の後に80℃/1h乾燥させることで前処理を行った。その後、奥野製薬工業社製のシリカコーティング剤「Protector PW-S-B」(硬化剤)を規定量混合して混合攪拌し、さらに奥野製薬工業社製の「Protector PW-S-A」(主剤)を規定量投入して室温で6時間攪拌した。攪拌後、ろ過、水洗、アセトン洗浄、80℃/1h乾燥してシリカ被覆ダイヤモンドを得た。
【0093】
(アルミナ被覆の形成方法)
アルミナ被覆を有する被覆ダイヤモンド粒子は、以下に示すスパッタ法でアルミナ被覆膜を合成ダイヤモンド粒子の表面に形成することで製造した。
<スパッタ法>
カソードにアルミナターゲットを取り付け、カソードに正対する位置に破砕ダイヤモンド粉末約2gを配置した。槽内の圧力を1.0×10-3Pa程度まで排気したのち、アルゴンガスを導入して圧力を0.5Pa程度に調整した。カソードに接続されたRF電源によりプラズマを発生させ5時間程度スパッタリングを行いアルミナ被膜を粒子表面に形成し、アルミナ被覆ダイヤモンドを得た。スパッタリング中は適宜揺動を行った。
【0094】
各実施例、比較例の熱伝導性樹脂組成物は以下の通り調製した。
(実施例1)
電子天秤で配合する被覆ダイヤモンド粒子、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表1に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0095】
(実施例2~9、比較例2、3)
使用する被覆ダイヤモンド粒子を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0096】
(実施例10)
電子天秤で配合する被覆ダイヤモンド粒子、シリコーン樹脂、及びシランカップリング剤を秤量したうえで、表1に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0097】
(実施例11、12)
使用する成分を表1に示すとおりに変更した以外は実施例10と同様に実施した。
【0098】
(比較例1、4)
被覆ダイヤモンド粒子の代わりに、被覆膜を有さないダイヤモンド粒子を使用した以外は、実施例1、10と同様に実施した。
【0099】
(実施例13)
電子天秤で被覆ダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表2に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0100】
(実施例14~16)
電子天秤で被覆ダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、シランカップリング剤、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表2に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0101】
(比較例5)
電子天秤で被覆膜を有さないダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表2に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0102】
(比較例6~8)
電子天秤で被覆膜を有さないダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、シランカップリング剤、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表2に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキ-製の「あわとり練太郎」で1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0103】
(実施例17~19)
使用する被覆ダイヤモンド粒子を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0104】
(比較例9~11)
被覆ダイヤモンド粒子の代わりに、表2に示すとおりの被覆膜を有さないダイヤモンド粒子を使用した以外は、実施例17~19それぞれと同様に実施した。
【0105】
(実施例20)
使用する各成分を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例10と同様に実施した。
【0106】
(実施例21、22)
使用する各成分を表2に示すとおりに変更した以外は、実施例14と同様に実施した。
【0107】
(比較例12~14)
被覆ダイヤモンド粒子の代わりに、表2に示すとおりの被覆膜を有さないダイヤモンド粒子を使用した以外は、実施例20~22それぞれと同様に実施した。
【0108】
実施例1~12に示すとおり、所定の膜厚の被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子を使用することで、熱伝導性、及び耐熱性をいずれも良好にすることができた。それに対して、被覆膜を有さないダイヤモンド粒子や、膜厚が所定範囲外である被覆ダイヤモンド粒子を使用した比較例1~4では、熱伝導性、及び耐熱性の両方を良好にすることができなかった。
また、実施例10~12に示すとおり、熱伝導性樹脂組成物がシランカップリング剤を含有する場合には、所定の膜厚の被覆膜を有する被覆ダイヤモンド粒子を使用することで、被覆膜を有さないダイヤモンド粒子を使用した比較例4に比べて粘度も有意に低下させることができた。
このような傾向は、実施例13~22、比較例5~14に示すとおり、熱伝導性樹脂組成物が被覆ダイヤモンド粒子に加えて、その他の無機粒子を含む場合や、被覆ダイヤモンド粒子がアズグロウン粒子を有する場合も同様であった。
なお、実施例8、12は、金属として比較的活性が高いニッケル被覆膜でありながらも、シリコーン樹脂の劣化が防止できており、このことから他の金属を使用した場合でもシリコーン樹脂の劣化を防止でき、耐熱性を十分に向上させることができると推定される。