(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024106988
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シリカ被覆ダイヤモンド粒子、及び複合粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20240801BHJP
【FI】
C01B32/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024010485
(22)【出願日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2023011403
(32)【優先日】2023-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】鹿毛 悠冬
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】西澤 英人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 元彦
(72)【発明者】
【氏名】乾 靖
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良輔
(72)【発明者】
【氏名】浦山 貴大
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA05
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC28A
4G146AC28B
4G146AD20
4G146AD37
4G146CB23
4G146CB35
4G146DA07
(57)【要約】
【課題】シランカップリング剤に対する吸着性に優れ、樹脂と複合化した際の熱伝導性に優れるシリカ被覆ダイヤモンド粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】ダイヤモンド粒子表面の少なくとも一部に被覆膜を有し、前記ダイヤモンド粒子の形状が破砕状であり、前記被覆膜が非多孔質シリカを含む、シリカ被覆ダイヤモンド粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粒子表面の少なくとも一部に被覆膜を有し、
前記ダイヤモンド粒子の形状が破砕状であり、
前記被覆膜が非多孔質シリカを含む、シリカ被覆ダイヤモンド粒子。
【請求項2】
前記被覆膜の膜厚が150nm以下である、請求項1に記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子。
【請求項3】
平均粒径が35μm以下である、請求項1又は2に記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子と、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物と、を含み、
前記シリカ被覆ダイヤモンド粒子の被覆膜の表面が前記有機ケイ素化合物で修飾されている、複合粒子。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物の吸着量が、複合粒子100質量%中、0.03質量%以上である、請求項4に記載の複合粒子。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物が、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンまたはアルコキシシラン化合物を含む、請求項4に記載の複合粒子。
【請求項7】
樹脂と、請求項4記載の複合粒子と、を含む熱伝導性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子、及び前記シリカ被覆ダイヤモンド粒子を含む複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド粒子は物質の中でも高いモース硬度を有し、かつ絶縁体の中でも高い熱伝導性を有していることから、放熱シートや電子部材の封止材などの製品に利用される樹脂組成物の充填剤として有望である。
【0003】
一方で、ダイヤモンド、金属、金属酸化物、窒化物などの無機粒子は、熱伝導性などの性能向上を目的として表面被覆が形成されることがある。例えば、特許文献1には、窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が開示されている。特許文献1では、上記構成により高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上できる効果が記載される。
【0004】
特許文献2には、実質的に非多孔質のコア材料と、コアを包囲する1層以上の多孔質シェル材料を含む表面多孔質材料が開示されている。この表面多孔質材料では、コア材料として、炭化ケイ素、炭素、ダイヤモンド、各種金属、ホウ素、又はこれらの酸化物や窒化物が使用され、多孔質シェル材料として、多孔質無機/有機ハイブリッド材料や多孔質シリカなどが使用され、多孔質層の厚みを0.05μm~5μmとされることも示されている。
特許文献2に開示される表面多孔質材料は、HPLCの充填剤用途であることが示され、また、コア材料として熱伝導率の高い物質を使用することで性能が向上することも記載されている。
【0005】
特許文献3には、セラミックス(金属酸化物)による電気絶縁コーティングを有する炭素系粒子を含む接着剤組成物が開示され、当該炭素系粒子として、ダイヤモンドが例示されている。また、電気絶縁コーティングの厚さとして10nm~100μmの範囲が記載され、この範囲を変化させることで熱伝導率が所望値以下に低下することがないようにする旨も記載される。
特許文献4には、ダイヤモンド砥粒の表面にガラス質結合材を被覆させたガラス質結合剤被覆ダイヤモンド砥粒が開示され、当該ガラス質結合剤として、Si、Al、B、およびNaの酸化物を含むことが示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-193141号公報
【特許文献2】特表2013-539016号公報
【特許文献3】特許第5939983号公報
【特許文献4】特開平9-132771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ダイヤモンド粒子は、その表面がsp3炭素で構成されていることから、化学的に安定であり、反応性官能基が少なく、官能基種類も限定的である。そのため、金属酸化物で汎用されるシランカップリング剤等による表面処理が、ダイヤモンド粒子の場合では難しいことがあり、それゆえ樹脂とのなじみ性も向上しにくく、樹脂との複合化が難しいことがある。
【0008】
従来のダイヤモンド粒子に対する表面被覆は、熱伝導率などの性能をある程度向上させることはできるが、シランカップリング剤に対する吸着性や、樹脂に対するなじみ性が十分に向上せずに、熱伝導性向上の効果も限定的となるおそれがある。また、ダイヤモンド粒子は、更なる熱伝導性を向上させるためには、ダイヤモンド粒子自体の形状について検討することも考えられるが、従来、ダイヤモンド粒子の形状と、表面被覆の構成を組み合わせて、熱伝導性を向上させることは、十分に検討されていない。
【0009】
そこで、本発明は、シランカップリング剤などの処理剤に対する吸着性に優れ、樹脂と複合化した際の熱伝導性に優れるシリカ被覆ダイヤモンド粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ダイヤモンド粒子を破砕状としたうえで、破砕状のダイヤモンド表面に対し、非多孔質のシリカを被覆することで、上記課題の解決を見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の[1]~[7]を提供するものである。
【0011】
[1]ダイヤモンド粒子表面の少なくとも一部に被覆膜を有し、前記ダイヤモンド粒子の形状が破砕状であり、前記被覆膜が非多孔質シリカを含む、シリカ被覆ダイヤモンド粒子。
[2]前記被覆膜の膜厚が150nm以下である、[1]に記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子。
[3]平均粒径が35μm以下である、[1]又は[2]に記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のシリカ被覆ダイヤモンド粒子と、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物と、を含み、前記シリカ被覆ダイヤモンド粒子の被覆膜の表面が前記有機ケイ素化合物で修飾されている、複合粒子。
[5]前記有機ケイ素化合物の吸着量が、複合粒子100質量%中、0.03質量%以上である、[4]に記載の複合粒子。
[6]前記有機ケイ素化合物が、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンまたはアルコキシシラン化合物を含む、[4]又は[5]に記載の複合粒子。
[7]樹脂と、[4]~[6]のいずれかに記載の複合粒子と、を含む熱伝導性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シランカップリング剤などの処理剤に対する吸着性に優れ、樹脂と複合化した際の熱伝導性に優れるシリカ被覆ダイヤモンド粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[シリカ被覆ダイヤモンド粒子]
本発明のシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、表面の少なくとも一部に被覆膜を有し、該粒子の形状が破砕形状であり、被覆膜が非多孔質シリカを含む。
【0014】
<被覆膜>
本発明のシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、被覆膜に非多孔質シリカを含むことで、シランカップリング剤などの処理剤に対する吸着性を優れたものとすることができる。そのため、樹脂とのなじみ性が向上し界面熱抵抗が下がることで、樹脂と複合化した際の熱伝導性も優れたものとすることができる。一方、被覆膜に多孔質シリカを含む場合では、被覆膜内部に多数の空隙が存在するため、樹脂や空気等のシリカより熱伝導しにくい物質が空隙に入り込む。その結果、被覆膜の熱伝導性が低下することから、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の場合には、樹脂と複合化した際の熱伝導性を優れるものとすることができない。
なお、非多孔質シリカとは、その表面に細孔が複数連続的に設けられないシリカであり、例えば走査型顕微鏡などの顕微鏡で観察しても、ナノレベルの細孔が実質的に観察されないものである。非多孔質シリカは、結晶性シリカであってもよいし、アモルファスシリカであってもよいが、アモルファスシリカであることが好ましい。
【0015】
シリカ被覆ダイヤモンド粒子における被覆膜は、コアとなるダイヤモンド粒子の表面の一部を被覆していればよいが、ダイヤモンド粒子の表面の大部分又は全体を被覆していることが好ましい。ダイヤモンド粒子は、被覆膜により表面の大部分又は全体が被覆されることにより、熱伝導性を優れたものにしやすくなる。具体的には、ダイヤモンド粒子の表面の被覆膜による被覆率は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。被覆率は、高ければ高いほどよく、上限は100%である。なお、被覆率は、被覆ダイヤモンド粒子の断面像から算出することができる。
【0016】
シリカ被覆ダイヤモンド粒子が有する被覆膜の膜厚は、320nm以下であることが好ましい。被覆膜の膜厚が320nm以下であると、シランカップリング剤などの処理剤に対する吸着性を良好にしやすくなり、例えばシリカ被覆ダイヤモンド粒子を熱伝導性樹脂組成物に配合した場合に、組成物の熱伝導性も良好にしやすくなる。熱伝導性をより優れたものとする観点から、被覆膜の膜厚は、150nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましい。
被覆膜の膜厚は、下限については特に限定されないが、好ましくは1.5nm以上であり、より好ましくは2nm以上であり、さらに好ましくは4nm以上であり、よりさらに好ましくは10nm以上である。被覆膜の膜厚は、上記下限値以上とすることで、シリカ被覆ダイヤモンド粒子と樹脂との界面熱抵抗を減少させることができる。また、シランカップリング剤などの処理剤に対する吸着性を良好にしやすくなり、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を優れたものとしやすくなる。
【0017】
なお、被覆膜の膜厚は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の1粒子の断面像を観察し、任意の10点における被覆膜の厚さの平均値を膜厚とすることで測定できる。また、被覆膜の膜厚は、後述する被覆膜を形成する際の処理条件を適宜選択することで調製することができる。例えば、ゾルゲル法によって被覆膜を形成する場合においては、処理剤におけるシリカ前駆体や硬化剤の濃度を適宜設定することで膜厚を調整できる。
【0018】
被覆膜は、被覆ダイヤモンド粒子のコアを構成するダイヤモンド粒子の表面に、化学気相成長法(CVD)、原子層堆積法(ALD)、スパッタリング、ゾルゲル法などにより成膜されるとよい。
本発明では、ゾルゲル法により被覆膜を形成することが好ましい。ゾルゲル法を使用することで、アモルファスの非多孔質シリカをダイヤモンド粒子の表面に被覆膜として形成することができる。
ゾルゲル法は、シリカにより被覆膜を形成する場合、テトラアルコキシシランなどのシリカ前駆体、必要に応じて配合される硬化剤、触媒などを含む処理剤を、ダイヤモンド粒子の表面に付着させ、加水分解、脱水縮合などしてシリカより形成される被覆膜を形成すればよい。この場合、より具体的には、硬化剤を含む処理剤にダイヤモンド粒子を予め浸漬させ、必要に応じて所定時間攪拌した後、処理剤にさらにシリカ前駆体を加え、さらに必要に応じて所定時間攪拌などすることで、ダイヤモンド粒子にシリカ前駆体を含む処理剤を付着させ、かつ加水分解、脱水縮合などをすればよい。なお、処理剤としては市販品を使用してもよく、奥野製薬工業社製の「Protector S」シリーズなどが使用できる。
【0019】
本発明の被覆膜は、上記の通り非多孔質シリカにより形成される被覆膜であり、非多孔質シリカを主成分とするものであればよい。なお、主成分であるとは、非多孔質シリカの含有量が、例えば、被覆膜全体の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上100質量%以下であるとよい。
【0020】
本発明のシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、その形状が破砕形状である。破砕形状のシリカ被覆ダイヤモンド粒子とは、コアのダイヤモンド粒子が破砕ダイヤモンド粒子であるものである。
破砕ダイヤモンド粒子は、いわゆるアズグロウン(As-grown)粒子に比べて比表面積が大きく、破砕ダイヤモンド粒子を使用するとフィラー総表面積が大きく、フィラー間の接点が増加し、熱伝導性が向上しやすくなる。また、表面積が大きいため、樹脂となじみにくくなるが、本発明では、上記の通り特定の被覆膜を有することで、樹脂とのなじみ性が向上する。一方、アズグロウン粒子の場合は、フィラー間の接点が破砕ダイヤモンド粒子より少なくなるため熱伝導性が劣る。
なお、破砕ダイヤモンド粒子の比表面積は、例えば、0.1m2/g以上であるとよい。上記比表面積の測定は、窒素吸着比表面積計によるBET比表面積として求めることができる。
【0021】
破砕形状を有するシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、例えばアズグロウン粒子を破砕して得るとよい。なお、一般的に、アズグロウン粒子は、破砕などをせずに合成時の形状が維持された結晶性ダイヤモンド粒子であり、多面体形状を有する。破砕ダイヤモンド粒子は結晶性ダイヤモンド粒子が破砕されて得られたものであり、一般的に破砕により角ばった形状を有する。破砕形状を有するシリカ被覆ダイヤモンド粒子としては、市販の破砕ダイヤモンド粒子を使用してもよい。市販の破砕ダイヤモンド粒子としては、例えば、トーメイダイヤ社製のダイヤモンド粒子等が挙げられる。
【0022】
<平均粒径>
シリカ被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば120μm以下であり、好ましくは80μm以下である。シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、一定値以下の平均粒径を有することで、熱伝導性樹脂組成物に適切に分散され、高い充填率で含有させることが可能になる。
また、平均粒径の小さいシリカ被覆ダイヤモンド粒子は比表面積が大きく、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の総表面積が大きくなり、樹脂となじみにくくなるが、本発明では、上記の通り特定の被覆膜を有することで、樹脂とのなじみ性が向上する。また、粒径の小さいシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、表面積が大きくなり、被覆膜を形成したことによる熱伝導性向上の効果が顕著になりやすくなる。以上の観点から、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、35μm以下とすることが好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0023】
シリカ被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径は、下限については特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは4μm以上である。シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、上記下限値以上とすることで、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高くしやすくなる。
なお、平均粒径は、体積基準での粒子径を平均した平均粒子径であり、例えば、レーザー回折法により粒度分布を測定して求めることができる。測定装置としては、例えば堀場製作所社製「レーザー回折式粒度分布測定装置」を用いて測定することができる。平均粒子径の算出方法については、累積体積が50%であるときの粒子径(d50)を平均粒子径とすればよい。
なお、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、後述する通り高温高圧法により合成された、結晶性ダイヤモンドを使用する場合などには凝集せずに使用されるものであり、その場合、上記平均粒径は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の一次粒子の平均粒子径ともいえる。
【0024】
シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、その全体の平均粒径が上記範囲内となる限り、平均粒径が異なる2種以上のシリカ被覆ダイヤモンド粒子を混合したものでもよい。なお、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、その粒度分布において、ピークが2つ以上現れることで平均粒径が異なる2種類以上のシリカ被覆ダイヤモンド粒子を含むと判断できる。
なお、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、平均粒径が異なる2種以上の被覆ダイヤモンド粒子を含む場合、各シリカ被覆ダイヤモンド粒子の平均粒径それぞれは、1μm以上150μm以下の範囲内であるとよく、好ましくは2μm以上120μm以下の範囲内、より好ましくは4μm以上100μm以下の範囲内である。
【0025】
シリカ被覆ダイヤモンド粒子のコアに使用されるダイヤモンド粒子は、典型的には合成ダイヤモンドであり、好ましくは結晶性ダイヤモンド粒子である。
合成ダイヤモンド粒子は、爆轟法によって合成されてもよいし、高温高圧法によって合成されてもよいが、高温高圧法によって合成されることが好ましい。ダイヤモンド粒子は、高温高圧法で合成されることで、凝集することなく、一次粒子の平均粒子径が大きいダイヤモンド粒子が得られる。また、高温高圧法で合成されることで、結晶性ダイヤモンド粒子を得やすくなる。
【0026】
高温高圧法では、実用的には、黒鉛などの炭素原料を、鉄、ニッケル、コバルト、及びクロムから選択される少なくとも1種の金属触媒存在下、好ましくは鉄触媒存在下、高温高圧下で結晶化して合成できる。そのように合成されたダイヤモンドは、一般的に球状となる。また、高温高圧下で結晶化して合成されたダイヤモンドを、必要に応じて適宜破砕などすることで、上記の通り破砕ダイヤモンド粒子とするとよい。高温高圧法で合成されたダイヤモンド粒子は、必要に応じて、酸洗浄などの洗浄処理、または、水素ガスを使用した還元処理などが行われる。
【0027】
[複合粒子]
本発明の複合粒子は、上記したシリカ被覆ダイヤモンド粒子と、有機ケイ素化合物とを含み、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の被覆膜の表面が有機ケイ素化合物で修飾されている。
有機ケイ素化合物としては、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有する有機ケイ素化合物(「シランカップリング剤」ともいう)が挙げられる。
一般的にダイヤモンド粒子はシランカップリング剤への反応性が低く、シランカップリング剤による表面修飾が難しいが、本発明のシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、上記した特定の被覆膜を有することで、シランカップリング剤への反応性が高くなり、上記の通りシランカップリング剤による表面修飾が可能となる。そして、シリカ被覆ダイヤモンド粒子がシランカップリング剤により表面修飾されることで、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、樹脂になじみやすくなる。したがって、本発明の複合粒子は、例えば熱伝導性組成物に配合した場合、該組成物の熱伝導性をより一層高くしやすくなる。
【0028】
シランカップリング剤のシリカ被覆ダイヤモンド粒子への修飾量は、複合粒子100質量%中、0.03質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましい。修飾量を0.03質量%以上とすることで、樹脂と複合化した際の熱伝導性が良好となる。また、修飾量の上限は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0029】
本発明の複合粒子は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子に対して、シランカップリング剤によって表面処理されることで、表面修飾されることが好ましい。複合粒子は、表面処理によりシランカップリング剤が修飾されることで、修飾量が多くなり、樹脂になじみやすくなるので、そのような複合粒子を含む熱伝導性樹枝組成物は、熱伝導性が良好となり、かつ粘度も低くしやすくなる。
【0030】
シランカップリング剤を用いて表面処理をする方法は、特に制限はなく、公知の方法で行えばよく、例えば、湿式処理法、乾式処理法などを用いることができるが、湿式処理法で行うことが好ましい。
湿式処理法では、例えば、シランカップリング剤を溶媒に分散又は溶解した処理液中に、ダイヤモンド粒子を加えて混合し、その後、乾燥、加熱処理、洗浄などすることで、ダイヤモンド粒子の表面にシランカップリング剤を結合ないし付着させるとよい。
また、乾式処理法は、溶媒を使用せずに表面処理する方法であり、具体的には、ダイヤモンド粒子にシランカップリング剤を混合しミキサー等で攪拌し、その後、加熱処理することで、ダイヤモンド粒子の表面にシランカップリング剤を結合ないし付着させる方法である。
【0031】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤としては、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(以下、「加水分解性基含有オルガノポリシロキサン」ともいう)、アルコキシシラン化合物が挙げられる。これらの中では、加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(加水分解性基含有オルガノポリシロキサン)が好ましい。加水分解性基含有オルガノポリシロキサンを使用することで、耐熱性、熱伝導性のいずれもが向上しやすくなり、粘度も低下させやすくなる。
【0032】
(加水分解性基含有オルガノポリシロキサン)
加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、分子鎖末端に少なくとも1つの加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、片末端のみに少なくとも1つの加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましい。加水分解性基は、加水分解性シリル基が好ましく、より好ましくはアルコキシシリル基であり、さらに好ましくはメトキシシリル基である。
【0033】
加水分解性基含有オルガノポリシロキサンは、具体的には以下の式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0034】
式(1)において、R1はそれぞれ独立に炭素原子数が1~20のアルキル基、炭素原子数が1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数6~20のアリール基、及び炭素原子数7~20のアラルキル基のいずれであり、各式において複数のR1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R2はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基であり、各式においてR2が複数の場合は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R3はそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、及び炭素原子数2~4のアシル基のいずれかであり、各式においてR3が複数の場合は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。R4は炭素原子数1~8のアルキル基である。R6は、酸素原子、又は炭素原子数1~40の二価の有機基である。mは3~315の整数である。式(1)において、aは0~2の整数である。
【0035】
上記式(1)において、R1におけるアルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく、環状構造を有してもよい。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、2-メチルウンデシル基、1-ヘキシルヘプチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等の環状アルキル基が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、2-(2,4,6-トリメチルフェニル)プロピル基等が挙げられる。
これらの中でもR1は、炭素原子数1~20のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1~4のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが更に好ましい。式(1)の化合物において、R1の80%以上がメチル基であることが好ましく、90%以上がメチル基であることがより好ましく、R1の全てがメチル基であることがさらに好ましい。
【0036】
上記式(1)において、R2は炭素原子数1~4のアルキル基であり、R2が複数の場合(すなわち、aが2の場合)は、該複数のR2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、該アルキル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。中でもR2は、炭素原子数1~2のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、aは0~2の整数であり、aは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0037】
上記式(1)において、R3は炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルコキシアルキル基、炭素原子数2~4のアシル基であり、R3が複数の場合(すなわち、aが0又は1の場合)は、該複数のR3は同一であっても異なっていてもよい。また、R3におけるアルキル基、アルコキシアルキル基、及びアシル基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。これらの中でもR3は、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、中でもメチル基であることがより好ましい。
【0038】
上記式(1)において、R4は炭素原子数1~8のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数2~6のアルキル基であり、より好ましくはブチル基である。
上記式(1)において、R6は以下の式(2)で示される基、酸素原子、又は炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であることが好ましく、以下の式(2)で示される基、又は炭素数1~20の2価の炭化水素基であることがより好ましい。ここで、炭素数1~20の二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。炭素数1~20の二価の炭化水素基は、炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルエチレン基などが挙げられ、中でもエチレン基が好ましい。
【0039】
【化2】
式(2)において、R
5は炭素原子数が1~20の二価の炭化水素基であり、複数のR
5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。*は、R
1-Si-R
1におけるケイ素原子との結合位置であり、**は、SiR
2
a(R
3)
3-aにおけるケイ素原子との結合位置である。
R
5における二価の炭化水素基は、好ましくはアルキレン基であり、該アルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。R
5は炭素原子数2~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2~8のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2~4のアルキレン基がさらに好ましく、‐CH
2-CH
2-CH
2-、又は-CH(CH
3)-CH
2-で表されるアルキレン基が更に好ましい。
【0040】
式(1)におけるmは繰り返し数を表し、3~315の整数であり、好ましくは4~280の整数であり、より好ましくは5~220の整数、更に好ましくは5~100の整数である。
【0041】
(アルコキシシラン化合物)
アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基は、加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられ、これらの中では、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。
アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子との無機物としての熱伝導性充填材との親和性を高めるという観点から、3であることが好ましい。アルコキシシラン化合物は、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0042】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基が挙げられる。
【0043】
アルコキシシラン化合物は、樹脂となじみやすくなって、熱伝導性充填材の分散性を高めることで、熱伝導性充填材を高充填し易くなることから、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物が好ましい。ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、アルコキシシラン化合物自体の粘度が比較的低く、熱伝導性樹脂組成物の粘度を低く抑えるという観点から、16以下であることが好ましい。
【0044】
好ましいアルキルアルコキシシラン化合物としては、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランが挙げられる。
また、アルキルアルコキシシラン化合物以外のアルコキシシラン化合物としては、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0045】
本発明のシリカ被覆ダイヤモンド粒子は、シランカップリング剤によって、予め、シリカ被覆ダイヤモンド粒子に対して表面処理がされずに、シランカップリング剤をシリカ被覆ダイヤモンド粒子と共に、樹脂に混合し、後述する熱伝導性樹脂組成物を作製してもよい。この場合、樹脂と、シリカ被覆ダイヤモンド粒子と、シランカップリング剤が混合する過程(すなわち、熱伝導性樹脂組成物を作製する過程)で、シランカップリング剤は、少なくとも一部が、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の表面に吸着され、シリカ被覆ダイヤモンド粒子の表面を修飾するとよい。
【0046】
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の複合粒子は、樹脂と複合化して使用すればよく、具体的には、樹脂に配合して熱伝導性樹脂組成物として使用することが好ましい。本発明の複合粒子は、シランカップリング剤が修飾されるため、樹脂となじみやすくなり、樹脂と複合化した際の熱伝導性に優れる。そのため、熱伝導性樹脂組成物に配合されることで、熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
<樹脂>
熱伝導性樹脂組成物において使用される樹脂は、複合粒子を保持する成分となるものである。樹脂としては、硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂などの非硬化性の樹脂であってもよい。また、エラストマー樹脂であってもよい。硬化性樹脂としては、湿気硬化性、熱硬化性、光硬化性のいずれでもよいが、熱硬化性が好ましい。樹脂としては、液状成分であってもよいし、固体状であってもよい。液状成分の樹脂は、硬化することで固体となるものでもよいし、非硬化性であり、放熱部材において液状のままでもよい。なお、液状成分とは、室温(25℃)かつ常圧(1気圧)下に液状である成分である。
【0048】
樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、及びポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等が挙げられる。
また、樹脂は、エラストマー樹脂であってもよく、具体的には、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。エラストマー樹脂は、液状でもよいし、固体状でもよい。
樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記した中では、樹脂は、好ましくはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエンゴム、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはシリコーン樹脂である。
【0049】
シリコーン樹脂の具体例としては、硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。硬化型シリコーン樹脂としては、縮合硬化型シリコーン樹脂、付加反応硬化型シリコーン樹脂のいずれでもよいが、付加反応硬化型シリコーン樹脂が好ましい。また、シリコーン樹脂は、シリコーンゴムであることも好ましい。
付加反応硬化型シリコーン樹脂は、主剤となるシリコーン化合物と、主剤を硬化させる硬化剤とからなることが好ましい。主剤として使用されるシリコーン化合物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましい。オルガノポリシロキサンにおける1分子中のアルケニル基の数は2以上であることが好ましく、両末端にアルケニル基が含有されることがより好ましい。
ビニル基を有するオルガノポリシロキサンとしては、具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0050】
付加反応硬化型シリコーン樹脂に使用される硬化剤としては、上記した主剤であるシリコーン化合物を硬化できるものであれば、特に限定されないが、1分子中にヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有するオルガノポリシロキサンである、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。シリコーン化合物のビニル基に対するヒドロシリル基の比(モル比)は、好ましくは0.3以上5以下、より好ましくは0.4以上4以下、さらに好ましくは0.6以上4以下である。ダイヤモンド粒子を使用した熱伝導性樹脂組成物では、ダイヤモンド粒子に起因して主剤と硬化剤の反応が進行しないことがあるが、モル比が0.6以上であると、反応が十分に進行して、十分に硬化された放熱部材を得ることが可能になる。
【0051】
シリコーン樹脂は、25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以上600mPa・s以下である。
なお、シリコーン樹脂の粘度は、粘度計(BROOKFIELD回転粘度計DV-E)でスピンドルNo.14の回転子を用い、回転速度5rpm、測定温度25℃で測定するとよい。シリコーン樹脂は、上記の通り、主剤と硬化剤を有する場合、主剤と硬化剤の混合物の25℃における粘度が上記範囲内であるとよいが、主剤と硬化剤の25℃における粘度がそれぞれ上記範囲内であってもよい。
シリコーン樹脂の粘度範囲を上記範囲内とすると、熱伝導性樹脂組成物の粘度を所定範囲内として、熱伝導性樹脂組成物の塗工性を良好にしつつ、塗工後に一定の形状に保つことができるため、電子部品などの上に容易に配置できるようになる。また、複合粒子などの熱伝導性フィラーを適切に分散させたうえで多量に配合しやすくなる。
【0052】
シリコーン樹脂として付加反応硬化型シリコーン樹脂が使用される場合、熱伝導性樹脂組成物には通常、硬化触媒が配合される。硬化触媒としては、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などが挙げられる。硬化触媒は、シリコーン樹脂の原料となるシリコーン化合物と硬化剤とを硬化させるための触媒である。硬化触媒の配合量は、シリコーン化合物及び硬化剤の合計質量に対して、通常0.1~200ppm、好ましくは0.5~100ppmである。
【0053】
シリコーン樹脂として付加反応硬化型シリコーン樹脂が使用される場合、熱伝導性樹脂組成物には硬化遅延剤が配合されてもよい。硬化遅延剤としては、公知のものを使用することができるが、例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられる。硬化遅延剤を含有させて硬化触媒の触媒活性などを抑制することで、熱伝導性樹脂組成物のシェルフライフ、ポットライフを延長させることができる。
熱伝導性樹脂組成物における硬化遅延剤の含有量は、シリコーン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上1質量部以下である。
付加反応硬化型シリコーン樹脂を使用する場合、熱伝導性樹脂組成物は、1液硬化型でもよいし、2液硬化型でもよいが、2液硬化型の場合、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合することで、硬化するものが好ましい。
【0054】
また、シリコーン樹脂としては、例えば、シリコーンオイルでもよい。シリコーンオイルとしては、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。シリコーンオイルは、例えば25℃における粘度が、好ましくは5mPa・s以上1000mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以上700mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以上600mPa・s以下である。
シリコーンオイルは、配合時に室温かつ常圧下に液状であり、かつ使用時においても液状ないしゲル状の成分である。すなわち、シリコーンオイルは、硬化剤などにより硬化されず、また、硬化されても硬化後も液状ないしゲル状となる実質的に非硬化性のものである。したがって、シリコーンオイルは、樹脂として単独で、又は比較的高い配合割合で使用すると、熱伝導性樹脂組成物から形成される放熱部材をペースト状にできる。
【0055】
樹脂として使用されるエポキシ樹脂としては、エポキシ基を少なくとも1つ、好ましくは2つ以上有するエポキシ化合物を使用するとよい。エポキシ化合物は、硬化性樹脂であり、また、通常は熱硬化性樹脂である。
エポキシ化合物としては、例えばビスフェノール型、ノボラック型、ナフタレン型、トリフェノールアルカン型、ビフェニル型、環状脂肪族型、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂としては、エポキシ化合物単独で使用されてもよいが、エポキシ樹脂は、上記エポキシ化合物を主剤とし、さらに硬化剤が加えられたものが使用される。硬化剤としては、重付加型又は触媒型のものが用いられる。重付加型の硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、ポリメルカプタン、ジシアンジアミド等が挙げられる。また、上記触媒型の硬化剤としては、例えば、3級アミン、イミダゾール類、ルイス酸錯体等が例示される。これは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、エポキシ樹脂を使用する場合、熱伝導性樹脂組成物は、2液硬化型が好ましく、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合することで、硬化するものが好ましい。
【0056】
樹脂として使用されるアクリル樹脂としては、例えば光硬化性を有するものが使用される。アクリル樹脂としては、硬化されることでアクリル系ポリマーを構成する成分であればよく、例えば、アルキル(メタ)アクレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド類、ウレタン(メタ)アクリレートなどの各種のアクリル系化合物が挙げられる。また、上記アクリル系化合物と共重合可能なビニルモノマーなどを含んでもよい。
【0057】
熱伝導性樹脂組成物において、複合粒子の充填率は、15体積%以上が好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、30体積%以上がさらに好ましく、また、80体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、62体積%以下であることがさらに好ましい。
熱伝導性樹脂組成物は、一定以上の充填率で複合粒子を含有すると、熱伝導性を良好にしやすくなる。また、一定値以下の充填率で複合粒子を含有することで、組成物中に複合粒子を適切に分散させることができ、粘度が必要以上の高くなることも防止できる。
なお、上記した被覆ダイヤモンド粒子の充填率は、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対する体積%を意味する。各成分の体積は、各成分の重量と、真密度により算出可能である。
【0058】
樹脂の体積割合は、熱伝導性樹脂組成物の全体積に対して、例えば5体積%以上、好ましくは7体積%以上、より好ましくは9体積%以上であり、また、例えば70体積%以下、好ましくは58体積%以下、より好ましくは54体積%以下、よりさらに好ましくは39体積%以下、よりさらに好ましくは29体積%以下、特に好ましくは19体積%以下である。樹脂の体積割合がこれら下限値以上であると、樹脂に分散された複合粒子などの熱伝導性フィラーを、樹脂により保持でき、熱伝導性樹脂組成物が一定の形状を維持できるようになる。また、これら上限値以下とすることで、複合粒子などの熱伝導性フィラーを一定量以上樹脂組成物に配合できる。
【0059】
(その他の無機粒子)
熱伝導性樹脂組成物は、複合粒子以外の無機粒子(以下、「その他の無機粒子」ともいう)をさらに含有してもよい。その他の無機粒子を含有することで、無機粒子全体の充填率を向上させて、熱伝導率を高め、放熱性を向上させることができる。その他の無機粒子としては、熱伝導性が高く、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高めることができる熱伝導性フィラーが好ましく使用される。その他の無機粒子の熱伝導率は、熱伝導性を向上させる観点から、好ましくは8W/(m・K)以上であり、より好ましくは15W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは25W/(m・K)以上である。なお、熱伝導率は、例えば、クロスセクションポリッシャーにて切削加工した無機粒子断面に対して、株式会社ベテル製サーマルマイクロスコープを用いて、周期加熱サーモリフレクタンス法により測定することができる。
また、その他の無機粒子は、絶縁性の観点から電気伝導率の低い材料が使用されるとよい。その他の無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、シリカ被覆ダイヤモンド以外の炭素系材料などが挙げられる。
【0060】
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、ベーマイトなどの酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。また、シリカ被覆ダイヤモンド粒子以外のダイヤモンド粒子であってもよい。また、ケイ酸塩鉱物であるタルクなども使用できる。
これらその他の無機粒子は、単独で使用してもよいが、2種類以上併用してもよい。
【0061】
その他の無機粒子は、熱伝導性及び絶縁性の観点から、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、窒化アルミニウム、グラフェンから選択される1種以上が好ましく、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び窒化アルミニウムから選択される1種以上がより好ましく、酸化アルミニウムから選択される1種以上がさらに好ましい。酸化アルミニウムは、典型的にはアルミナが使用される。
【0062】
その他の無機粒子の平均粒径は、好ましくは上記した複合粒子の平均粒径よりも低いことが好ましい。その他の無機粒子の平均粒径を小さくすることで、複合粒子間をその他の無機粒子により適切に埋めることができるので、複合粒子間の熱伝導を促進することで熱伝導性が向上する。
その他の無機粒子の平均粒径は、複合粒子間を適切に埋めて熱伝導性を向上させやすくする観点から、例えば50μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
また、その他の無機粒子の平均粒径は、下限については特に限定されないが、例えばは0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。その他の無機粒子の平均粒径は、上記下限値以上とすることで、熱伝導性樹脂組成物の熱伝導性を高く維持しつつ、増粘などを防止しやすくなる。
【0063】
その他の無機粒子は、平均粒径が異なる2種以上の無機粒子を併用してもよい。なお、その他の無機粒子は、その粒度分布において、ピークが2つ以上現れることで平均粒径が異なる2種類以上の無機粒子を含むと判断できる。
なお、その他の無機粒子は、平均粒径が異なる2種以上の無機粒子を含む場合、各無機粒子の平均粒径それぞれは、0.1μm以上100μm以下の範囲内であるとよく、好ましくは0.2μm以上50μm以下の範囲内、より好ましくは0.4μm以上25μm以下の範囲内である。
【0064】
その他の無機粒子の形状は特に限定されず、板状、鱗片状、針状、繊維状、チューブ状、球形、破砕形状、多角形状、不定形状などのいずれでもよいが、球形であるか、又は球形に近い形状であることが好ましい。その他の無機粒子は、球形であるか、又は球形に近い形状であることで、充填率を高めやすくなる。その他の無機粒子は、具体的には球形度が例えば0.5以上、好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.6以上であるとよい。また、球形度の上限は、特に限定されず、1である。
なお、無機粒子の球形度は、無機粒子の電子顕微鏡写真を確認し、得られた像における粒子300個について、(粒子の投影面積に等しい円の直径/粒子の投影像に外接する最小円の直径)を算出し、その平均値により求めることができる。
【0065】
熱伝導性樹脂組成物がその他の無機粒子を含有する場合、その他の無機粒子の充填率は、無機粒子の合計充填率が後述する範囲となるように適宜調整すればよいが、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下、さらに好ましくは35体積%以下である。これら上限値以下とすることで、熱伝導性樹脂組成物に一定量以上の複合粒子を配合できるので、熱伝導率を向上させやすくなる。また、その他の無機粒子の充填率は、好ましくは2体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。これら下限値以上とすると、その他の無機粒子を配合した効果を発揮させやすくなる。
【0066】
無機粒子の合計充填率(すなわち、複合粒子とその他の無機粒子の充填率の合計)は、例えば28体積%以上、好ましくは40体積%以上、より好ましくは45体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上、よりさらに好ましくは70体積%以上、特に好ましくは80体積%以上である。無機粒子の充填率は、これら下限値以上とすることで、熱伝導率を高くできる。また、熱伝導性樹脂組成物は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子に加えて、その他の無機粒子を併用することで、60体積%以上などの高充填とすることも可能である。60体積%以上の高充填とすると組成物中で無機粒子同士が接触(パーコレーション)して熱伝導性が特に良好になる。
無機粒子の合計充填率は、例えば94体積%以下、好ましくは92体積%以下、より好ましく90体積%以下である。これら下限値以上とすることで、熱伝導率を高くできる。また、これら上限値以下とすることで、無機粒子を適切に樹脂中に分散させやすくなる。
【0067】
熱伝導性樹脂組成物がその他の無機粒子を含有する場合、その他の無機粒子の充填率は、絶縁性及び熱伝導性の観点から、上記無機粒子全体に対して(すなわち、シリカ被覆ダイヤモンド粒子とその他の無機粒子の合計を100体積%とすると)、10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましく、30体積%以上がさらに好ましく、また、70体積%以下が好ましく、60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましく、45体積%以下がよりさらに好ましい。
【0068】
<その他の添加剤>
熱伝導性樹脂組成物は、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤等の熱伝導性樹脂組成物に一般的に使用する添加剤を含有してもよい。
【0069】
熱伝導性樹脂組成物は、例えば、樹脂としてシリコーン樹脂などの硬化性樹脂を配合する場合は、硬化性樹脂が硬化性を有することで、硬化型となることが好ましいが、硬化型の場合、1液硬化型、2液硬化型のいずれでもよい。2液硬化型では、主剤を含む1液と、硬化剤を含む2液とを混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製するとよい。2液硬化型は、1液と2液を混合することで、室温で硬化するとよいが、混合後に加熱することで硬化するものであってもよい。なお、2液硬化型の場合、複合粒子は、1液及び2液の一方に配合されていてもよいし、両方に配合されていてもよいが、両方に配合されることが好ましい。また、その他の無機粒子も同様である。もちろん、熱伝導性樹脂組成物は、硬化型である必要はなく、硬化型でない場合には、放熱グリースなどとして使用されてもよい。
【0070】
[熱伝導性樹脂組成物の調製]
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂及び複合粒子、さらには、必要に応じて配合されるその他の無機粒子、その他の添加剤などを混合して調製するとよい。2液硬化型の熱伝導性樹脂組成物とする場合には、上記したように、予め用意した1液と、2液とを混合することで調製するとよい。1液、2液それぞれを用意する際も同様に各種成分を混合して調製するとよい。
【0071】
なお、以上の説明では、予め表面処理された複合粒子が樹脂と複合化して使用される態様を中心に説明したが、シランカップリング剤で予め表面処理されないシリカ被覆ダイヤモンド粒子が、樹脂と複合されて使用されてもよい。
その場合には、熱伝導性樹脂組成物は、樹脂、シランカップリング剤、及びシリカ被覆ダイヤモンド粒子、さらには、必要に応じて配合されるその他の無機粒子、その他の添加剤などを混合して調製するとよい。
このような調製方法でも、上記の通り、樹脂、及びシリカ被覆ダイヤモンド粒子を混合して、熱伝導性樹脂組成物を調製する過程において、シランカップリング剤がシリカ被覆ダイヤモンド粒子の表面に修飾するとよい。
【0072】
また、以上の説明では、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、複合粒子にしたうえで、さらに樹脂と複合化させる態様について説明したが、必ずしも、複合粒子とする必要はなく、シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、シランカップリング剤により修飾せずに樹脂に複合させてもよい。シリカ被覆ダイヤモンド粒子は、シランカップリング剤などの処理剤により修飾されない場合でも、樹脂の種類を適宜選択することで、樹脂とのなじみ性を向上して、一定の効果を奏することができる。
したがって、上記熱伝導性樹脂組成物は、樹脂と、シランカップリング剤により修飾されないシリカ被覆ダイヤモンド粒子とを含有するものであってもよい。また、上記熱伝導性樹脂組成物は、複合粒子単独の代わりに、複合粒子と、シランカップリング剤により修飾されないシリカ被覆ダイヤモンド粒子の両方を含有するものであってもよい。これらの場合、熱伝導性樹脂組成物の詳細は、複合粒子の一部又は全部を、シランカップリング剤により修飾されないシリカ被覆ダイヤモンド粒子に変更する以外は同様であるので、その詳細の説明は省略する。
【0073】
さらに、上記の説明では、複合粒子は、シリカ被覆ダイヤモンド粒子が、シランカップリング剤により表面修飾される態様を示したが、シランカップリング剤以外の処理剤によって表面修飾されてもよく、チタネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤等のシランカップリング剤以外のカップリング剤でもよいし、他の処理剤でもよい。例えば、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有しない有機ケイ素化合物であってもよい。
【0074】
<熱伝導性樹脂組成物の熱抵抗率>
熱伝導性樹脂組成物は、熱伝導性を向上させる観点から熱抵抗率が一定値以下であることが好ましく、具体的には好ましくは4K/W・cm2以下、より好ましくは3.5K/W・cm2以下、さらに好ましくは3.0K/W・cm2以下である。なお、熱抵抗率は低ければ低いほどよいが、実用的には、例えば0.1K/W・cm2以上であってもよいし、0.3K/W・cm2以上であってもよい。なお、熱抵抗率は、実施例記載の方法により測定することができる。
【0075】
[放熱部材]
熱伝導性樹脂組成物は、放熱部材として使用されればよい。放熱部材は、熱伝導性樹脂組成物により形成されるものであり、熱伝導性樹脂組成物が硬化型である場合には、上記熱伝導性樹脂組成物を所定の形状などにした後、適宜加熱などして硬化させることで所定の形状に成形された放熱部材を得ることが可能になる。
また、熱伝導性樹脂組成物は、硬化型以外の場合でも、熱伝導性樹脂組成物を所定の形状にして、放熱部材とすればよい。熱伝導性樹脂組成物を放熱部材として使用する場合には、塗工、キャスティング、ポッティング、押出成形などにより、薄膜状、シート状、ブロック状、不定形状などにし、また、必要に応じて適宜硬化して使用すればよい。
【0076】
本発明の放熱部材は、例えば電子機器内部において使用される。本発明の放熱部材は、熱伝導性が良好であることから、電子機器内部で使用することで、発熱量が多い場合でも高い放熱性を確保できる。放熱部材は、例えば、電子部品の上に配置されて、電子部品で発生した熱を放熱するために使用される。また、本発明の放熱部材は、2つの対向する部材の間の隙間を埋めるように配置されて使用されてもよい。2つの対向する部材は、例えば、一方が電子部品で、他方が電子部品から熱を逃がすためのヒートシンク、電子機器の筐体、基板などのいずれかであるとよい。放熱部材は、いわゆるTIM(Thermal Interface Material)として使用されてもよい。
【実施例0077】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
[各種手順]
本発明の各種手順は以下の通りである。
【0079】
<シリカ被覆の形成方法>
シリカ被覆を有するダイヤモンド粒子は、以下に示すゾルゲル法でシリカ被覆膜を合成ダイヤモンド粒子の表面に形成することで製造した。
(ゾルゲル法)
ダイヤモンド粒子50gを奥野製薬工業社製の「エースクリーンA-220」で60℃/5min洗浄することで脱脂処理を行い、ろ過、水洗、アセトン洗浄の後に80℃/1h乾燥させることで前処理を行った。その後、奥野製薬工業社製のシリカコーティング剤「Protector PW-S-B」(硬化剤)を規定量混合して混合攪拌し、さらに奥野製薬工業社製の「Protector PW-S-A」(主剤)を規定量投入して室温で6時間攪拌した。攪拌後、ろ過、水洗、アセトン洗浄、80℃/1h乾燥してシリカ被覆ダイヤモンド粒子を得た。
【0080】
<表面処理>
酢酸0.2質量%、シランカップリング剤(Wetter)2質量%を含むエタノール溶液とダイヤモンド粒子を、質量比で1:1の比率で混合した。その後、溶液成分を60℃減圧下で溶媒留去し、さらに150℃/vacuum条件で2時間真空加熱した。得られた粉末をシクロヘキサンに分散させ、超音波洗浄を行った後にろ過した。その後、再び粉末をシクロヘキサンに分散させて15000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を廃棄した。さらにその後粉末を150℃/10Torrの加熱減圧条件で1時間真空乾燥することで表面処理を完了した。
【0081】
<膜厚及び被覆率の測定>
シリカ被覆ダイヤモンド粒子をエポキシ樹脂で包埋した後、集束イオンビーム装置(FIB)で断面作製して、走査電子顕微鏡(SEM)で断面を観察した。熱伝導性樹脂組成物に含有される被覆ダイヤモンド粒子中の1粒子を観察して、10点での平均値を求めた。なお、被覆膜が一部被覆していた場合は、被覆されている場所のみで算出した。また、観察したシリカ被覆ダイヤモンド粒子の断面画像において、コアのシリカ被覆ダイヤモンド粒子が被覆膜で被覆されている割合を求めて被覆率とした。
【0082】
<熱重量分析(TGA)>
評価対象の粒子の測定サンプルを150℃/10Torrの条件で1時間真空加熱乾燥した後、20mg程度を測定用のPtパンに秤量して、熱重量分析(TGA)を行った。
本測定の条件は、昇温速度20℃/min、大気下、プロット範囲50~600℃とした。
得られた熱重量曲線は、秤量したサンプル重量で規格化することで重量割合に換算した。
【0083】
<シランカップリング剤(SiCp)吸着量の測定>
表面処理したシリカ被覆ダイヤモンド粒子と、未処理のシリカ被覆ダイヤモンド粒子に対して、上記の熱重量分析を行って熱重量曲線を取得し、500℃における重量減少割合の差分をシランカップリング剤の吸着重量割合として算出した。算出した吸着量について、以下の評価基準に基づいた評価した。
(評価基準)
〇:0.09質量%以上
△:0.03質量%以上0.09質量%未満
×:0.03質量%未満
【0084】
<シランカップリング剤吸着量向上幅の算出>
対照試験におけるシランカップリング剤吸着量から、各実施例で測定されたシランカップリング剤吸着量との差をシランカップリング剤吸着量向上幅として求めた。なお、得られた値は、シランカップリング剤吸着量の向上によって増加したシランカップリング剤吸着量の値であり、値が大きいほどシランカップリング剤吸着量が大きくなったことを示す。
以上の方法で求めたシランカップリング剤吸着量向上幅について、以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
〇:0.06質量%以上
△:0.02質量%以上0.06質量%未満
×:0.02質量%未満
【0085】
<熱抵抗値の測定>
各実施例、比較例で得られた熱伝導性樹脂組成物を直ちに測定装置の測定部分上に厚み300μmとなるように塗布して、そのときの熱伝導性樹脂組成物の熱抵抗値(K/W・cm2)を、メンターグラフィックス社製の装置「DynTIM」を用いてASTM D5470に準拠して測定した。熱抵抗は、低いほど熱伝導性が優れていることを意味する。
【0086】
<熱伝導性改善幅の算出>
対照試験における熱抵抗値から、各実施例で測定された熱抵抗値との差を熱伝導性改善幅として求めた。なお、得られた値は、熱伝導性の改善によって減少した熱抵抗値の値であり、値が大きいほど熱伝導性改善効果が大きいことを示す。
以上の方法で求めた熱伝導性改善幅について、以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
〇:0.03K/W・cm2以上
△:-0.6K/W・cm2以上0.03K/W・cm2未満
×:-0.6K/W・cm2未満
【0087】
[使用材料]
各実施例、比較例で使用した成分は以下のとおりである。
【0088】
<樹脂>
液状シリコーンゴム1:400mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、触媒量の白金触媒を含む
液状シリコーンゴム2:400mPa・s、ビニル基含有オルガノポリシロキサン及びSiH含有オルガノポリシロキサンの混合物、少量の硬化遅延剤を含む
【0089】
<フィラー>
合成ダイヤモンド1(破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド2(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に2.5nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド3(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に4nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド4(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に10nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド5(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に30nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド6(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド7(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に100nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド8(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に150nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド9(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径13μm、トーメイダイヤ社製に300nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド10(破砕品)、平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド11(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径35μm、トーメイダイヤ社製に60nmの被覆膜を形成。
合成ダイヤモンド12(破砕品)、平均粒径50μm、トーメイダイヤ社製
合成ダイヤモンド13(シリカ被覆、破砕品)、平均粒径50μm、トーメイダイヤ社製に60nmの被覆膜を形成。
【0090】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤(Wetter):化学式(1)において、R1およびR3がメチル基、a=0、m=10、R4がブチル基、R6が化学式(2)の構造を有し、R5のうちカルボニル基に直接結合している方がイソプロピレン基(カルボニルα位にメチル基を有し、カルボニルβ位で化学式(1)中のシロキサンケイ素原子と結合)であり、他方のR5がプロピレン基であるオルガノポリシロキサン。
【0091】
各実施例、比較例の熱伝導性樹脂組成物は以下の通り調製した。
[実施例1]
電子天秤で配合するシリカ被覆ダイヤモンド粒子、及びシリコーン樹脂を秤量したうえで、表1に示す質量部でサンプルバイアルに投入し、25℃でシンキー製の「あわとり練太郎」で、1400rpmで30秒間混練して、熱伝導性樹脂組成物を得た。なお、各実施例におけるシリカ被覆ダイヤモンド粒子の充填率は、48体積%であった。
【0092】
[実施例2~10]
使用するダイヤモンド粒子を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0093】
[比較例1~3]
シリカ被覆ダイヤモンド粒子の代わりに、被覆膜を有しないダイヤモンド粒子を使用した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0094】
【0095】
各実施例及び比較例における、ダイヤモンド粒子の被覆方法及び被覆膜の厚さ、並びに各物性の測定及び評価の結果は、表2に示す通りである。
【0096】
【表2】
※SiCpはシランカップリング剤を意味する。
※実施例1~8は、シランカップリング剤吸着量向上幅、熱伝導性改善幅についての対照試験を比較例1とした。実施例9及び10はそれぞれ、シランカップリング剤吸着量向上幅、熱伝導性改善幅についての対照試験を比較例2及び3とした。
【0097】
実施例1~10に示すとおり、非多孔質シリカによりダイヤモンド粒子を被覆することで、被覆膜を有しない比較例1~3に比べて、シリカ被覆ダイヤモンド粒子に対するシランカップリング剤の吸着性が良好となった。そのため、実施例1~10で作製した複合粒子を熱伝導性樹脂組成物に配合させると、比較例1~3に比べて、該組成物の熱伝導性も良好なものとなった。