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特開2024-107016ボツリヌス神経毒素Aサブタイプ6および薬理学的使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107016
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ボツリヌス神経毒素Aサブタイプ6および薬理学的使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/33 20060101AFI20240801BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240801BHJP
   C12N 9/52 20060101ALI20240801BHJP
   A61K 8/64 20060101ALN20240801BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20240801BHJP
   C12R 1/145 20060101ALN20240801BHJP
【FI】
C07K14/33
A61K38/16
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/06
A61P27/02
A61P17/00
C12N9/52
A61K8/64
A61Q19/00
C12R1:145
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079408
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2020520234の分割
【原出願日】2018-10-11
(31)【優先権主張番号】62/572,159
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン エリック
(72)【発明者】
【氏名】モリッツ モリー
(72)【発明者】
【氏名】ペレット サビーン
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドショー マリテ
(72)【発明者】
【氏名】テップ ウィリアム
(57)【要約】
【課題】製剤およびボツリヌス毒素療法において使用するための特徴付けされた他のボツリヌス毒素を提供する。
【解決手段】本発明は、ボツリヌス毒素A6の調製物および使用方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6を含む有効量の調製物で患者を処置するステップを含む、ボツリヌス毒素療法が必要な症状を有する患者を処置する方法であって、調製物が、少なくとも90%の純度のA6毒素または毒素複合体である、方法。
【請求項2】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、BoNT/A1よりも約10倍高い効能がある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約30fMのEC50を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A1よりも低減された全身組織の毒素分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約0.5×107~2×108LD50/mgの特異的活性LD50を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
処置が、神経系障害または神経筋障害を特徴とする状態のためである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
処置が、頚部ジストニア、眼瞼けいれん、重度の原発性腋窩多汗症、斜視、アカラシア、慢性限局性ニューロパシーおよび片頭痛および他の頭痛障害、化粧品による問題、筋けいれん、上位運動ニューロン症候群、発汗、ならびにBoNT/A1で処置される神経障害からなる群から選択される状態のためである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
処置が化粧的処置である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
調製物が、少なくとも95%の純度のA6毒素または毒素複合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
調製物が、少なくとも98%の純度のA6毒素複合体を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
調製物の細胞内への取り込みが、BoNT/A1と比較して増大している、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、
(a)bont/B2遺伝子が除去されるように改変された改変クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)株を培養するステップ、および
(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を株から単離するステップ
を含む、方法。
【請求項13】
調製物が、少なくとも90%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
調製物が、少なくとも98%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
株がCDC41370である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、
(a)BoNT/A6遺伝子が発現されるように改変された組換え微生物の培養物を培養するステップ、および
(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を単離するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法によって生成されたBoNT/A6調製物。
【請求項18】
請求項16に記載の方法によって生成されたBoNT/A6調製物。
【請求項19】
少なくとも90%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、BoNT/A6毒素または毒素複合体の調製物。
【請求項20】
クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6が、BoNT/A1よりも約10倍高い効能がある、請求項19に記載の調製物。
【請求項21】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約30fMのEC50を有する、請求項19に記載の調製物。
【請求項22】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A1よりも低減された全身組織の毒素分布を有する、請求項19に記載の調製物。
【請求項23】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約0.5×107~2×108LD50/mgの特異的活性LD50を有する、請求項19に記載の調製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.119(e)に基づき、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる、2017年10月13日に出願された米国仮特許出願番号第62/572,159号の利益を請求する。
連邦政府資金による研究に関する記載
本発明は、米国国立衛生研究所によって与えられたNS083688の下での政府支援を伴って行われた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野は、ボツリヌス神経毒素A6、組成物、および使用方法に関する。
人類に知られている最も有毒な物質であるボツリヌス神経毒素(Botulinum neurotoxin)(BoNT)は、Clostridium botulinum(クロストリジウム・ボツリヌム)ならびにClostridium butyricumおよびClostridium baratiiの選択株によって生産されるタンパク毒素である(Hill and Smith, 2013; Johnson and Montecucco, 2008)。BoNTは、ジスルフィド結合によって連結された100kDaの重鎖(HC)および50kDaの軽鎖(LC)から作られた150kDaの二本鎖タンパク質として合成される。HCは、細胞質基質内へのLCの移動を助けるN末端ドメイン(HN)、および神経細胞上の細胞表面受容体を認識しこれに結合するC末端ドメイン(Hc)にさらに分けられる(Montal, 2010)。細胞内に入ると、LCは、可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(SNARE)の一部を特異的に切断し、これによって、神経伝達物質の放出を不活化する(Montecucco and Schiavo, 1994; Schiavo et al., 1995)。BoNTは重い病気を生じさせる可能性を有するが、これはまた、30億ドルを超え成長しているビジネスを含む、いくつかの神経筋障害の処置において効果的に使用され得る。
【0003】
BoNTは7つの確認された血清型(A~G)に分けられ、これらは、アミノ酸配列のバリエーションに基づいてサブタイプにさらに下位分類される(Gimenez and Gimenez, 1995; Hill et al., 2007; Hill and Smith, 2013; Montecucco, 2015; Smith et al., 2005)。数多くのBoNTアイソタイプが今日知られているにもかかわらず、医薬品として利用されているのはただ2つだけ、すなわちBoNT/A1と、規模はずっと小さいがBoNT/B1とだけである。これは、一部には、ほとんどのBoNTサブタイプの、そのアミノ酸配列および免疫学的特性に基づいて主に規定されている医薬特性の知識が比較的欠如していることに起因する。
【0004】
ここ数年で、その生物学的特性に関して特徴付けされたBoNTサブタイプは、比較的わずかしかない。BoNT/Aサブタイプ1~5のインビトロおよびインビボでの調査によって、効能、細胞移入動態、および作用期間を含む、血清型の中の一部のサブタイプの固有の特性が明らかにされている(Henkel et al., 2009; Tepp et al., 2012; Pier et al., 2011; Whitemarsh, 2013)。特に、BoNT/A2は、治療的処置のために選択される別のサブタイプとして示唆され(Torii et al., 2010; Torii et al., 2014; Kaji, 2015)、日本において臨床試験中である。BoNT/A2はBoNT/A1よりも速くかつ効率的に細胞内に入ることが示されている(Pier, 2010)。さらなる研究は、BoNT/A2が、BoNT/A1と比較して、インビボでより効能があり、より低い副作用リスクで注射部位内に局在したままでいることが示唆している(Torii et al., 2010; Torii et al., 2014; Kaji, 2015)。さらに、最近検出されたBoNT/AサブタイプA7およびA8は、インビトロで部分的に特徴付けされている(Morineaux et al., 2015)。
【0005】
しかし、BoNT/Aサブタイプの1つであるBoNT/A6ではほとんどのことが分かっておらず、その理由の大部分は、BoNT/A6が2種毒素生産株において生産され、それがその単離および特徴付けを複雑にするという事実による。BoNT/A6は、他のBoNT/Aサブタイプとアミノ酸配列が14~4%異なり、最も大きい類似性はA1(95.7%)およびA5(95.9%)に対してであり、最も大きい不同性はA3(86%)に対してである(Luquez et al., 2009; Morineaux et al., 2015)。興味深いことに、A6のLCをA1と比較すると1つのアミノ酸だけが異なり(T414A)、HCの受容体結合ドメインおよび移動ドメインの両方においては、より大きな相違がある(Kull et al., 2015)。
製剤およびボツリヌス毒素療法において使用するための特徴付けされた他のボツリヌス毒素が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6を含む有効量の調製物を対象に投与することを含む、ボツリヌス毒素療法を必要とする対象を処置する方法を提供する。
この研究は、インビトロおよびインビボの両方でのBoNT/A6の単離および特徴付けを記載する。本明細書において記載されるデータは、マウスおよびラットの初代ニューロンならびにヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来するニューロンを含む他のBoNT/Aサブタイプと比較した、培養された神経細胞モデルにおけるBoNT/A6の増大した効能およびより速い細胞移入動態を示す。マウスでの研究は、BoNT/A1と比較して、局所的筋肉内注射後の、より速い作用発現および少なくとも同じ長さの作用期間と、長期間の最大局所麻痺とを示す。マウスでの研究はまた、他のBoNT/Aサブタイプと比較して、BoNT/A6を局所注射した後に重度の全身症状が少ないことも示す。これらのデータは、新規性および進歩性のあるバイオ医薬品としてのBoNT/A6の可能性を示す。
【0007】
一態様では、本開示は、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6または神経毒素複合体を含む有効量の調製物で患者を処置するステップを含む、ボツリヌス毒素療法の恩恵を受ける症状を有する患者を処置する方法であって、調製物が、少なくとも90%の純度のA6毒素または毒素複合体である、方法を提供する。
別の態様では、本開示は、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、(a)BoNT/A6毒素のみを発現する(そして、他のBoNT毒素は発現しない)Clostridium botulinum株を培養すること、および(b)BoNT/A6毒素を培養物から単離することを含み、毒素が少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体である、方法を提供する。一部の実施形態では、培養物は、組換えBoNT/A6毒素を発現する。他の変形では、培養物は、BoNT/A6を含む、2つ以上の毒素を先天的に発現する細菌株の改変型である。
【0008】
別の態様では、本開示は、少なくとも90%または少なくとも95%の純度のA6毒素または毒素複合体である、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6の調製物を提供する。
本発明の前述のおよび他の態様ならびに利点は、以下の記載から明らかとなろう。本明細書において、本明細書の一部を形成する添付の図面が参照され、この図面においては、説明のための手段として、本発明の好ましい実施形態が示されている。このような実施形態は、本発明の全範囲を必ずしも表しているわけではないが、したがって、本発明の範囲を解釈するためには、特許請求の範囲および本明細書が参照される。
特許または出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を伴うこの特許または特許出願の刊行物のコピーは、必要経費の要求および支払いが済んだ後に特許庁によって提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】MSC由来の初代ニューロンにおけるBoNT/A6のEC50を示す図である。細胞を、BoNT/A6の連続希釈物に48時間曝露した。MSC細胞の溶解物を、ウェスタンブロットおよびデンシトメトリーによって分析した。3連の試料の平均および標準偏差を示す代表的なウェスタンイメージおよびグラフが示されている。グラフはPRISM6ソフトウェアで作成し、非線形回帰直線を使用してEC50値を決定した。EC50は0.02pMであった。比較として、BoNT/A1のEC50は0.15~0.2pMである。
図1B】RSC由来のニューロンにおけるBoNT/A6のEC50を示す図である。細胞を、BoNT/A6の連続希釈物に48時間曝露した。RSC細胞の溶解物を、ウェスタンブロットおよびデンシトメトリーによって分析した。3連の試料の平均および標準偏差を示す代表的なウェスタンイメージおよびグラフが示されている。グラフはPRISM6ソフトウェアで作成し、非線形回帰直線を使用してEC50値を決定した。EC50は0.02pMであった。比較として、BoNT/A1のEC50は0.2pMである。
図1C】hiPSC由来のニューロンにおけるBoNT/A6のEC50を示す図である。細胞を、BoNT/A6の連続希釈物に48時間曝露した。hiPSC細胞の溶解物を、ウェスタンブロットおよびデンシトメトリーによって分析した。3連の試料の平均および標準偏差を示すグラフが示されている。グラフはPRISM6ソフトウェアで作成し、非線形回帰直線を使用してEC50値を決定した。EC50は0.04pMであった。比較として、BoNT/A1のEC50は0.3pMである。
図2A】hiPSC由来のニューロンにおけるBoNT/A6のEC50および作用期間を示す図である。ヒトiPSC由来のニューロンを、BoNT/A6の連続希釈物に72時間曝露し、その後、毒素を完全に除去した。細胞を、毒素を含まない培養培地においてインキュベートし、曝露後3日目、39日目、および70日目に採取した。3連の試料の平均および標準偏差を示すグラフが示されている。グラフはPRISM6ソフトウェアで作成し、非線形回帰直線を使用してEC50値を決定した。
図2B】hiPSC由来のニューロンにおけるBoNT/A1のEC50および作用期間を示す図である。ヒトiPSC由来のニューロンを、BoNT/A1の連続希釈物に72時間曝露し、その後、毒素を完全に除去した。細胞を、毒素を含まない培養培地においてインキュベートし、曝露後3日目、39日目、および70日目に採取した。3連の試料の平均および標準偏差を示すグラフが示されている。グラフはPRISM6ソフトウェアで作成し、非線形回帰直線を使用してEC50値を決定した。
図2C】hiPSC由来のニューロンにおける、BoNT/A1およびBoNT/A6の半減期を示す図である。A1およびA6の半減期を、式t1/2=LN(2)/傾きを使用して、経時的なEC50値を介して、回帰直線フィットの傾きを使用して推定した。半減期は類似しており、A1およびA6でそれぞれ約12日間および約14日間であった。
図3】RSCにおける切断されていないSNAP-25の回復を示す図である。RSCを、8pMのBoNT/A6に曝露した。細胞溶解物を、毒素への曝露後8ヶ月間にわたり、ウェスタンブロットおよびデンシトメトリーによって、切断された/切断されていないSNAP-25について分析した。図は、これまでにBoNT/A1で観察されたものに類似のまたはそれと少なくとも同じ長さの、ラット初代脊髄細胞におけるBoNT/A6活性の長い持続性を示す。
図4A】A1およびA2と比較した、BoNT/A6の細胞移入動態を示す図である。iCellニューロンを同量の毒素に曝露し、曝露後、示した時点でのSNAP-25の切断について分析した。細胞を、等しいpM量の(67pM(500pg))のBoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A6毒素に曝露した(A)。
図4B】A1およびA2と比較した、BoNT/A6の細胞移入動態を示す図である。iCellニューロンを同量の毒素に曝露し、曝露後、示した時点でのSNAP-25の切断について分析した。細胞を、等しい単位量のBoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A6毒素に曝露した。このデータは、BoNT/A6がBoNT/A1よりも速く、かつBoNT/A2と少なくとも同じ速さで細胞に入ることを示す。
図5A】インビボでのBoNT/A6およびBoNT/A1の作用発現および作用期間を示す図である。右腓腹筋に0.6、0.4、および0.2UのBoNT/A6およびBoNT/A1を注射されたマウスの平均DASスコアが、グラフで示されている。n=5。
図5B】インビボでのBoNT/A6およびBoNT/A1の作用発現および作用期間を示す図である。右腓腹筋に0.6、0.4、および0.2UのBoNT/A6およびBoNT/A1を注射されたマウスの平均ロータロッド時間が、グラフで示されている。n=5。
図5C】インビボでのBoNT/A6およびBoNT/A1の作用発現および作用期間を示す図である。注射後最初の72時間以内のDASスコアを示すグラフを別個に観察して、最大麻痺の作用発現を比較した。n=5。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1つまたは複数の好ましい実施形態に関して記載されており、明示的に言及されたものとは別に、多くの同等物、代替物、変形、および改変が可能であり、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。ボツリヌス神経毒素Aサブタイプ6(BoNT/A6)は、商業的な他のBoNTと比較して、広範な状態の治療的処置のため、および美容的使用のための、有利なバイオ医薬品としての可能性を示す。現在のところ、BoNT/A1(ボトックス、ゼオミン、ディスポート)または規模は小さいがBoNT/B1(Myobloc)のみが、経済的に大きく成長している30億ドルの産業を構成する医薬品として使用されている。他のBoNT/Aサブタイプと比較したBoNT/A6の研究によって、A6がA1またはA2での処置よりも優れた利点を有すると考えられることが示されている。
【0011】
毒素は、異なる構造および配列を有する。A6のアミノ酸配列は、A1のアミノ酸配列と異なる(主に重鎖において4.3%の差)。A1の結晶構造は決定されているが、A6は結晶化されていない。
GenbankにおけるA1の配列の受託番号は、A1 CAL82360.1ボツリヌス神経毒素タイプA前駆体[Clostridium botulinum A株ATCC 3502]であり、A6は、A6 ACW83608.1ボツリヌス神経毒素タイプA[Clostridium botulinum]である。
【0012】
ヒト細胞および齧歯類細胞の研究の本発明者らの結果は、BoNT/A6が、培養されたニューロンにおいて、特にヒトニューロンにおいて、A1と比較して10倍高い効能があり、培養されたニューロンにおける標的(SNARE)切断の作用発現がより速く、かつ、長い作用期間を有することを示す。インビボでのマウスでの研究は、作用期間がA1およびA2と少なくとも同じ長さであること、ならびに局所的筋肉内注射後の全身分布がA1およびA2と比較して少ないことを示す。さらに、BoNT/A6は、A2と少なくとも同じ効能またはそれよりも高い効能を有する。
いかなる理論にも拘束されないが、A6での処置は、注射部位内に局在化し続けるその能力に起因して、より安全であり、したがって、毒素の(全身への)分散に起因する副作用のリスクを低下させる。さらに、ニューロンにおける、より高い効能およびより速い作用発現は、BoNT/A6が、同一の薬学的効果を得るための用量がおそらくより少なくてよい、より効果的な処置としての可能性を有することを示す。BoNT/A1と比較して、BoNT/A6は、注射された組織においてより局在化し続けることによる副作用のリスクを低下させながら、迅速な活性作用発現ならびにA1およびA2と少なくとも同じ長さの持続期間を伴う、症状を緩和する能力を有する。
【0013】
本発明は、少なくとも90%の純度のA6毒素または毒素複合体であり、部分的複合体を含み得る、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6の単離された調製物を検討する。別の実施形態では、調製物は、少なくとも95%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体である。本発明はまた、少なくとも90%の純度である、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6の単離された調製物も検討する。
本明細書において記載される調製物としては、部分的毒素複合体を含む調製物を含む、精製されたBoNT/A6毒素複合体が含まれ得る。一部の実施形態では、調製物は、BoNTタンパク質を安定化させることが知られている安定剤をさらに含み得る。適切な安定剤は当技術分野において公知であり、これとしては、限定はしないが、例えば、米国特許出願公開第2005/0238663号(この内容は、参照によりその全体が組み込まれる)においてとりわけ記載されている、ヒトまたはウシ血清アルブミン、ゼラチン、組換えアルブミンが含まれる。
【0014】
一部の実施形態では、開示される方法において使用されるClostridium botulinum神経毒素BoNT/A6は、BoNT/A1よりも少なくとも約10倍高い効能がある。さらなる実施形態では、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6は、齧歯類細胞モデルおよびヒト細胞モデルにおいて、約20~約40fM、例えば約30fMのEC50を有する。BoNT/A6は、同一の細胞モデルにおいて、A2に類似のEC50を有する。A1のEC50は、A6よりも約10倍高く、すなわち、200~400fMである。
一部の実施形態では、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6は、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A1と比較して、低減された全身組織の毒素分布を有する。一部の実施形態では、BoNT/A6神経毒素は局在化が可能であり、筋肉内に投与した場合、低減された全身組織分布を有する。いかなる理論にも拘束されないが、この全身組織分布の低減によって、(1)より多くの量が接触区域で濃縮されたままとなるため、より高い投薬量の使用が可能となり、ならびに(2)神経毒素が投与部位の付近に留まるため、より大きな安全性および意図しない副作用を低減できる。例えば、用量依存性で影響および期間を増大させるBoNT/A1と比較して、より多くの量のBoNT/A6を注射することができ、全身への広がりがあまりないことによって、これらのより多くの量のBoNT/A6の安全な投与が可能となる。
【0015】
一部の実施形態では、BoNT/A1と同一の治療効果を、より少ない量のBoNT/A6を使用することによって得ることができる。
さらに、一態様では、培養されたニューロンにおいてA6の効能がより高いことによって、製品リリース試験のための細胞ベースアッセイの開発がより容易になる。
別の実施形態では、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6は、約1~3×107LD50ユニット/mg、例えば、約1.7×107マウスLD50ユニット/mgの特異的活性を有する。BoNT/A6毒素または毒素複合体の特異的活性は、マウスにおいて、BoNT/A1とほぼ同一である。
一実施形態では、本開示は、Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6を含む有効量の調製物で患者を処置するステップを含む、ボツリヌス毒素療法を必要とする症状を有する患者を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、調製物は、少なくとも90%の純度のA6毒素である。別の実施形態では、調製物は、少なくとも93%の純度のA6毒素、あるいは少なくとも95%の純度のA6毒素、あるいは少なくとも98%の純度のA6毒素である。
一部の実施形態では、BoNT/A6調製物の細胞内への取り込みは、BoNT/A2を含む調製物と比較して、増大している。
【0016】
用語「対象」および「患者」は、区別せずに用いられ、ある特定の処置のレシピエントとなる、限定はしないが、ヒト、非ヒト霊長類、齧歯類などを含む任意の動物(例えば哺乳動物)を指す。典型的には、用語「対象」および「患者」は、ヒト対象に関連して、本明細書において区別せずに用いられる。
本明細書において使用される場合、用語「処置する」は、患者における、ボツリヌス毒素療法の恩恵を受ける症状の状態を低減させること、根絶すること、改善すること、または前記症状のあらゆる態様の重症度を減少することを指す。特に、本発明は、ボツリヌス毒素療法の恩恵を受ける症状を有する患者を処置する方法を含む。このようなケースでは、本方法は、有効量の、本明細書において提供されるBoNT/A6調製物で患者を処置し、それによって、症状を低減させる、根絶する、または減少することを含み得る。
【0017】
本発明のBoNT/A6調製物は、治療有効量で投与することができる。用語「有効量」または「治療有効量」は、有利なまたは所望の生物学的および/または臨床的結果をもたらすために十分な量を指す。本発明のBoNT/A6調製物は、必要な処置のタイプに応じて、治療有効量で投与することができる。個々の処置について適切な投薬量または投薬量範囲を決定する方法は、当業者に公知である。本明細書において提供される方法では、本発明のBoNT/A6調製物は、意図した目的を達成する、または当業者によって適切であるとみなされる、任意の手段によって投与することができる。典型的な実施形態では、BoNT/A6調製物は、単回用量として、または、適切であれば、例えば、ミニポンプシステムを使用する連続投与として、投与される。一部のケースでは、BoNT/A6調製物は、液体投薬形態として、または凍結乾燥された投薬形態として、すなわち、例えば投与前に再構成されて提供される。
いかなる理論にも拘束されないが、BoNT/A6毒素または毒素複合体を含む製剤は、全身毒性が低いことに起因して、より良好な安全性プロファイルを有し、したがって、ボトックス療法が使用される任意の適用に使用することができる。
【0018】
一実施形態では、適切な投薬量は、約0.01~2000ユニットであり、好ましくは、成人では0.5~600ユニットが筋肉内に一度に投与される。1ユニットは、本明細書において、腹腔内投与した場合にマウスの半数が死亡する毒素量(1LD50)として定義される。患者のための総用量は、約0.01~2000ユニットの範囲内である。一実施形態では、適切な投薬量は、約500~1000Uである。
本発明のBoNT/A6の調製物は、筋肉の過活動を伴う疾患に罹患している患者を処置するために、またいくつかの例では、タイプA1ボツリヌス毒素に対する中和抗体を有する対象において、好適に使用することができる。本明細書において記載される調製物は、局所的な筋肉の異常収縮を減少させるために使用することができる。好適な疾患としては、限定はしないが、例えば、とりわけ、頚部ジストニア、眼瞼けいれん、重度の原発性腋窩多汗症、斜視、アカラシア、慢性的な限局性ニューロパシーおよび片頭痛および他の頭痛障害、化粧品による問題、筋けいれん、上位運動ニューロン症候群、発汗、BoNT/A1で処置される神経障害、片側顔面けいれん、けいれん性斜頸、脳卒中後の痙性、脳性麻痺、けいれん性発声障害、腰痛などの慢性疼痛、肩凝り、パーキンソン病もしくは多発性硬化症の発症で生じる不全麻痺、筋筋膜性疼痛症候群、咀嚼筋のけいれん、慢性的な裂肛、過活動膀胱、ブラキシズム、顔面ミオキミア、チック、局所性ジストニア、またはしわが含まれる。慢性片頭痛などの頭痛は、首および肩における病的な筋肉の異常収縮に起因して生じ得、その筋張力は、筋肉の疲労に起因して病的に促進することがあり、最終的には、腰痛、首もしくは背中の痛みなどの慢性疼痛、または肩凝りを誘発する。
【0019】
本発明の調製物で処置される筋肉の異常収縮を伴う疾患は、好ましくは、筋肉の異常収縮の迅速且つ長く続く緩和が必要な疾患、すなわち、即効性を有する調製物での処置が必要な疾患である。筋肉の異常収縮を伴うこのような疾患としては、処置が累積の有効性で行われる、有効用量が決定されるまで用量を調整しながら調製物が投与される疾患が含まれる。筋肉の異常収縮を伴う全身性疾患としては、全身性ジストニア、全身性拘縮、脳卒中後の痙性、脳性麻痺、パーキンソン病、および多発性硬化症が含まれる。
本発明の調製物は、有効量で投与することができる。ヒトに投与する場合、その好ましい投与経路は局所投与であるかまたは注射によるものであり、さらに好ましくは、筋肉内投与および皮下投与である。投与のタイミングおよび用量は特に限定されず、症状の重症度、年齢、性別、体重、投与部位、および投与経路に応じて変化し得る。
別の実施形態では、処置は、化粧的処置である。
【0020】
本明細書において記載されるBoNT/A6毒素の調製物のための好適な投与経路としては、限定はしないが、直接的な注射によるまたは局所適用による適用が含まれる。
bont/B2遺伝子が不活化されているかまたはノックアウトされている株CDC41370(CDCから入手可能)を含む、TA改変Clostridium botulinum株を、本明細書において記載される方法のための、精製されたboNT/A6毒素または毒素複合体を生産する方法において使用することができる。遺伝子を不活化またはノックアウトする適切な方法は、当技術分野において公知であり、これとしては、CRISPR/Casもしくはpyre技術が含まれるか、または、Clostron方法論の使用が、その内容の全体が組み込まれる、Pellett et al. 2016において、他の株向けにこれまでに記載されている。
Clostridium botulinum神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法もまた提供される。一実施形態では、本方法は、(a)bont/B2遺伝子を欠いている改変Clostridium botulinum株CDC41370の培養物を培養するステップ、および(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を単離するステップを含む。本方法は、少なくとも90%の純度のBoNT/A6、あるいは少なくとも95%の純度のBoNT/A6、あるいは少なくとも98%の純度のBoNT/A6を含む調製物を生産することを可能とする。
【0021】
本発明の毒素は、様々な他の手段で生産することができる。先におよび以下に記載の株は、この毒素を先天的に生産することが現在知られている唯一の株である。しかし、この株は、第2のBoNT(B2)遺伝子が完全にノックアウトされるように改変することができる。また、BoNT/A6は、大腸菌(E.coli)、昆虫細胞、または酵母の遺伝子組換え、あるいはBoNT/A6遺伝子の発現による別の一般的な発現系によって生産することができる。
本発明はまた、記載される方法において使用できるキットも提供する。例えば、一実施形態では、キットは、約90%の純度のBoNT/A6毒素であるBoNT/A6の調製物、および投与のための指示を提供する。キットはまた、凍結乾燥されたBoNT/A6、および投与の前にその中でBoNT/A6毒素を再構成するための無菌の薬学的に許容可能な担体を含み得る。
適切な薬学的担体としては、限定はしないが、例えば、生理食塩水溶液(例えば、0.9%塩化ナトリウム)、リン酸緩衝生理食塩水、ラクトリンゲル液、およびそれに類するものが含まれる。
本発明は、以下の非限定的な実施例を考慮して、より完全に理解されよう。
【実施例0022】
(実施例1)BoNT/A6の単離および特徴付け
この実施例は、インビトロおよびインビボの両方でのBoNT/A6の単離および特徴付けを説明する。本明細書において記載されるデータは、マウスおよびラット初代ニューロンならびにヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)に由来するニューロンを含む他のBoNT/Aサブタイプと比較した、培養された神経細胞モデルにおけるBoNT/A6の増大した効能およびより速い細胞移入動態を示す。マウスでの研究は、BoNT/A1と比較して、局所的筋肉内注射後の、より速い作用発現および少なくとも同じ長さの作用期間と、長期間の最大局所麻痺とを示す。これらのデータは、新規性および進歩性のあるバイオ医薬品としてのBoNT/A6の可能性を示す。
材料および方法:
バイオセーフティー、バイオセキュリティー、および倫理
Johnsonの実験室および職員は、ボツリヌス神経毒素(BoNT)およびクロストリジウム綱(Clostridia)のBoNT生産株を伴うリサーチについて、連邦政府の指定生物剤プログラムに登録されている。リサーチのプログラム、手順、ドキュメンテーション、セキュリティー、および施設は、ウィスコンシン大学マディソン校のバイオセキュリティータスクフォース、ウィスコンシン大学マディソン校のバイオセーフティーオフィス、ウィスコンシン大学マディソン校の指定生物剤プログラム、およびウィスコンシン大学マディソン校の指定生物剤プログラムの一部としてのアメリカ疾病予防管理センター(CDC)によって、緊密に監視されている。全ての職員は、BoNTおよび神経毒素生産性のC.botulinumを伴う実験室での研究に参加する前に、適合性評価を受けており、バイオセーフティーレベル3(BSL3)またはBSL2および指定生物剤の訓練を含む、厳しく継続的なバイオセーフティートレーニングを完了している。全ての動物実験は、ウィスコンシン大学の動物実験委員会のガイドラインによって承認され、これに従って行われた。
【0023】
ボツリヌス神経毒素
BoNT/A1およびBoNT/A2を、これまでに記載されているようにして、C.botulinum株Hall A-hyperおよびKyoto-Fから精製した(Malizio et al., 2000; Tepp et al., 2012; Jacobson et al., 2011)。BoNT/A6を、BoNT/B2およびBoNT/A6の両方を発現する改変株CDC41370から精製した。BoNT/B2の遺伝子を、他の株向けにこれまでに記載されているようにして(参照によりその全体が組み込まれる、Pellett et al., 2016)、Clostron方法論を使用してサイレンシングし、BoNT/A6を高レベルで排他的に発現する株CDC41370B2tox-を得た。BoNT/A6を次いで、(Malizio et al. 2000; Tepp et al, 2012; Jacobson et al., 2011; Lin et al., 2010)に記載されている、これまでに公開されている方法を使用して、株CDC41370B2tox-から単離した。毒素の純度を、分光法およびSDS-PAGEによって確認した。精製された毒素を、使用するまで、40%グリセロール中で-20℃で保管した。各サブタイプ調製物の特異的活性を、これまでに記載されているようにして、腹腔内のマウスバイオアッセイ(MBA)を使用して判定した。毒素の特異的活性は、3.5pg/LD50(A1)、7.9pg/LD50(A2)、および5.95pg/LD50(A6)であった。
【0024】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析を、これまでに記載されているようにして行った(Pellett et al., 2010; Whitemarsh et al., 2012; Pellett et al., 2007)。全ての細胞溶解物を、MESランニングバッファーを使用して12%Novex NUPAGEゲル(Life Technologies)で分離し、0.45μmのPVDF膜(Millipore)に移した。膜をブロックバッファーで30分間、次いで、抗SNAP-25(Synaptic Systems)一次抗体溶液で一晩、インキュベートした。洗浄バッファー(KPL)で55分間洗浄した後、膜をddH2Oですすぎ、抗マウス二次抗体(KPL)溶液で1時間インキュベートした。5回のさらなる洗浄を行い、膜をddH2Oですすぎ、化学発光基質(Phosphaglo、KPL)で約3分間インキュベートした。膜のバンドの画像を得、TotalLab QuantおよびPRISM6ソフトウェアを用いてデンシトメトリーによって分析した。
【0025】
初代ラット脊髄細胞(RSC)および初代マウス脊髄細胞(MSC)のアッセイ
初代ラット脊髄細胞および初代マウス脊髄細胞を、これまでに記載されているようにして調製した(Pellett et al., 2007; Pellett et al., 2010)。細胞を、0.01%ポリ-L-オルニチン(Sigma)および8.3μg/cm2のマトリゲル(BD Biosciences)でコーティングしたTechno Plastic Products(TPP)96ウェル平底プレートに播種した。細胞を培養培地(CM)(B27、glutamax、およびペニシリン/ストレプトマイシン[Invitrogen]を添加したNeurobasal培地)中で維持し、最短で2週間にわたり成熟させた。細胞を、ウェル当たり50μlのCMにおいてBoNTに曝露し、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気下で、提示した時間にわたりインキュベートした。細胞を75μlの1×LDS溶解バッファーで溶解し、ウェスタンブロットによって分析した。
【0026】
有効濃度50(EC50)を決定するために、MSCおよびRSCを、CMで、BoNTの3倍希釈物に曝露した。実験は少なくとも3連で行い、毒素なしの対照を各反復に含めた。毒素の希釈物は、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気下で、48時間にわたり細胞上に維持された。細胞を次いで溶解し、これまでに記載されているようにして、切断されたおよび切断されていないSNAP-25の存在について、ウェスタンブロットによって分析した。
神経細胞におけるBoNT/A6の作用期間を判定するために、RSC細胞において100%のSNAP-25の切断を達成するために必要な最少量である8pMのBoNT/A6にRSCを72時間曝露し、その後、細胞外の毒素を除去し、他のBoNT/Aサブタイプについてこれまでに記載されているようにして(Whitemarsh et al., 2014)、毒素を含まない培養培地においてさらにインキュベートした。細胞を、毒素への最初の曝露の3日後に採取し、その後、曝露後8ヶ月まで、毎月採取した。全ての時点で4回反復して試験し、全ての時点で毒素なしの対照を含めた。切断されたおよび切断されていないSNAP-25を、ウェスタンブロットによって経時的にモニタリングした。
【0027】
iCellニューロンの細胞アッセイ
iCellニューロン(Cellular Dynamics)は、使用するまで液体窒素中で保管した。細胞を、0.01%ポリ-L-オルニチンで処理され、8.3μg/cm2のマトリゲルでコーティングされた、TPP 96ウェル平底プレートに播種した。細胞を、iCellニューロン培地添加物(Cellular Dynamics)を添加したiCellニューロン維持培地において維持し、毒素に曝露するまで9日間成熟させた。
iCellニューロンにおけるBoNT/A6のEC50を判定するために、細胞を、培養培地でBoNT/A6の4倍希釈物に72時間曝露した。BoNT/A6中毒からのiCellニューロンの回復を判定するために、細胞を、毒素の連続希釈物に72時間曝露し、その後、全ての毒素を除去し、細胞を完全に洗浄して、あらゆる細胞外の毒素を除去した。細胞を、曝露後3日目、39日目、および70日目に採取した。
BoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A6の細胞移入動態を比較するために、iCellニューロンを、モル濃度(67pM)およびユニット(100U)が共に等しい同量の各毒素サブタイプに曝露した。毒素添加後、細胞を提示した時点で採取し、細胞溶解物を、SNAP-25の切断について、ウェスタンブロットによって分析した。移入動態を、各時点での各毒素の少なくとも3連の試料のウェスタンブロット分析およびデンシトメトリー計算によって判定されたSNAP-25の切断に基づいて推定した。
【0028】
マウスにおける筋肉内LD50
5頭の雌ICRマウス(Harlan)からなる群に、提示した量のBoNT/A1、BoNT/A2、またはBoNT/A6の10μlGelPhosバッファー溶液を、0.3ccのインスリンシリンジを使用して、右腓腹筋に注射した。5頭のマウスからなる比較群には、同一の毒素希釈物の0.5mLGelPhos溶液の腹腔内注射を行った。マウスを注射後5日間にわたり観察し、全ての死亡を記録した。pg単位のLD50を、筋肉内注射したマウス(IM)および腹腔内注射したマウス(IP)の両方について、ReedおよびMuenchの方法を使用して計算した(Reed and Muench, 1938)。IPのデータ、および1ユニット=IP注射後4日間以内にマウスの50%が死亡するために必要な毒素の量、というユニット定義に基づいて、各毒素の特異的活性を、この比較アッセイで使用した毒素希釈物について、ユニット(IP LD50)で判定した。IM LD50のユニットを、IP LD50値に基づいて計算した。
【0029】
インビボでの作用発現および作用期間
インビボでの作用発現および作用期間を、これまでに記載されているようにして判定した(Pellett et al. 2015)。0.3ccのインスリンシリンジを使用して、5頭の雌ICRマウスからなる群に、提示した量のBoNT/A6の10μlGelPhos溶液を右腓腹筋に注射した。局所麻痺の作用発現を判定するために、各マウスの右後肢の指外転スコア(digit abduction score)(DAS)を、注射後の最初の48時間以内のいくつかの時点およびその後24時間ごとに、1~5スケールで判定した。同一の時点で、ロータロッド分析(MED-Associates)を各マウスで行った。ロータロッドのスピードを4~40rpmに増大させながら、各マウスを合計5分間走らせることを試みた。ロータロッド分析は、全てのマウスが正味5分間走ったら、終了した。
【0030】
結果:
BoNT/A6は、神経細胞において高い効能を有する
これまでの研究は、様々な細胞モデルにおけるBoNT/Aサブタイプ1~5の効能を記載している(Whitemarsh et al., 2013; Whitemarsh et al, 2014)。マウスおよびラット初代脊髄細胞(MSC細胞およびRSC細胞)をBoNT/A6の連続希釈物に曝露すると、BoNT/A2でこれまでに観察されたものと類似のSNAP-25切断パターンが生じ、毒素に曝露した48時間後に、50%のSNAP-25切断が、約0.03U/50μl/ウェル(27fM)のBoNT/A6で生じた(図1)。BoNT/A6のEC50を、ヒトiPSC由来のニューロンにおいても判定した。他のBoNT/Aサブタイプと同様に、hiPSC由来のニューロンを曝露すると、毒素に3日間曝露された細胞では、3log未満の、0~100%の切断まで延びている急勾配の用量応答曲線が得られた。EC50は約0.04U/50μl/ウェル(32fM)であると計算され(図1C)、これは、BoNT/A1で報告されているもの(Whitemarsh et al., 2013)よりも10倍以上感受性が高い。これらのデータは、BoNT/A2と同様に、BoNT/A6が、培養されたニューロンにおいて、特にヒトニューロンにおいて、BoNT/A1よりも有意に効能が高いことを示す。
【0031】
培養されたニューロンにおけるBoNT/A6の作用期間
これまでの報告によって、BoNT/A1、BoNT/A2、BoNT/A4、およびBoNT/A5のLCが、培養されたラット初代脊髄ニューロンにおいて10ヶ月以上にわたり活性を維持すること、および中毒細胞における切断されていないSNAP-25の回復速度が着実ではあるが非常に遅く、10ヶ月後でも50%に満たないことが報告されている(Whitemarsh et al., 2014)。培養された齧歯類の初代ニューロンにおけるBoNT/A6の作用期間を判定するために、RSC細胞を、72時間後に完全なSNAP-25切断を確実にするのに十分なBoNT/A6に曝露した(8pM)。細胞溶解物を曝露後3日目、および月ごとに8ヶ月間にわたり、神経細胞の回復を示す切断されていないSNAP-25の出現について分析した。毒素への最初の曝露後の7ヶ月目に、初回のウェスタンブロット分析は、切断されていないSNAP-25のわずかな回復の兆候を示した。回復期間の8ヶ月後、最初に8pMに曝露されたRSCにおけるSNAP-25の切断は、79%で高いままであった(図3)。SNAP-25の回復の兆候は、BoNT/Aサブタイプ1~5でのこれまでの研究と比較して、後まで見られなかったが、切断されていないSNAP-25が始まる時の兆候の直線の傾きは、以下のこれまでのデータ(Whitemarsh et al., 2014)に類似している。SNAP-25の回復のパターンは、4倍増しのBoNT/A6(32pM)に曝露された細胞に類似していた(データは示していない)。
【0032】
培養されたニューロンにおける作用期間を、ヒトiPSC由来のニューロンで、ニューロンをBoNT/A1またはBoNT/A6の連続希釈物に72時間曝露し、その後、細胞外の毒素を完全に除去し、培養培地においてさらにインキュベートすることによって、さらに調べた。各希釈段階の細胞を、3日目、39日目、および70日目に3連で採取し、SNAP-25切断のEC50を各時点について判定した。BoNT/A6では、EC50値は、3日目、39日目、および70日目でそれぞれ約0.04、0.7、および1U/50μl/ウェル(32、560、および800fM)であった(図2A)。BoNT/A1では、EC50値は、3日目、39日目、および70日目で約0.7、6.3、および28U/50μl/ウェル(それぞれ、313、2940、および12880fM)であった(図2B)。経時的なEC50値から判定した、これらのhiPSC由来のニューロンにおけるBoNT/A1およびBoNT/A6の半減期は、BoNT/A1およびBoNT/A6の両方で類似しており、それぞれおよそ12日間および14日間であった(図2C)。総合すると、これらの結果は、BoNT/A6が、他のBoNT/Aサブタイプに類似して、長い作用期間を有することを示す。
【0033】
BoNT/A6は、他のBoNT/Aサブタイプよりも効率的に細胞に移入する
サブタイプBoNT/A1およびBoNT/A2と比較した、BoNT/A6の細胞移入動態を調べるために、hiPSC由来のニューロンを、67pMの各毒素に曝露した(図4A)。細胞を、曝露後10時間にわたる様々な時点で採取した。溶解物を、切断されたおよび切断されていないSNAP-25の量について調べた。SNAP-25切断の作用発現は、BoNT/A6に曝露した細胞において、より迅速に生じた(図4)。これらの細胞ではまた、最後の10時間の時点で、平均94±5.3%のSNAP-25が切断されたが、BoNT/A1およびBoNT/A2に曝露した細胞は、それぞれおよそ64±4%および84±1.2%の切断に至った。このアッセイにおいて、等モル濃度量の毒素を使用し、ここで、この3つの毒素は、わずかに異なる特異的活性を有していた(A1では3.5pg/LD50、A2では7.9pg/LD50、およびA6では6pg/LD50)。細胞を同一の生物学的活性(ユニット数)の各毒素(A1では100U/50μl/ウェルまたは47pM、A2では105pM、およびA6では80pM)に曝露する第2のアッセイでは、類似のデータが得られたが、BoNT/A2とBoNT/A6との間の差は、わずかに小さくなった(図4B)。このことは、BoNT/A6が、BoNT/A2についてこれまでに記載されているもの(Pier et al.)と類似のまたはさらにそれよりも早い、培養されたニューロンにおける活性のより早い発現を有していることを示す。
【0034】
マウスにおけるBoNT/A6のIM LD50
BoNT/A6のより速い細胞移入によって、局所的筋肉内注射の後に注射部位から広がる毒素が少なくなり得るかどうかを判定するために、マウスにおける相対的IM LD50(同一の毒素希釈物のIP LD50に対して)を、右腓腹筋内へのBoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A6の注射について判定した。BoNT/A6のIM LD50はBoNT/A1のIM LD50よりも有意に高く、またBoNT/A2に類似しており、BoNT/A1の1.4倍の毒素のユニットを要する(表1)。これは、BoNT/A2およびBoNT/A1を比較するこれまでのデータ(Torii et al, 2014)と一致する。
【0035】
【表1】
【0036】
インビボでのBoNT/A6の作用発現および作用期間
BoNT/A1と比較した、BoNT/A6作用発現および作用期間を判定するために、マウスに、0.2~0.6Uの範囲のいずれかの毒素の希釈物を、右脚の腓腹筋の後部に注射した。DASスコア(局所麻痺を測定するため)およびロータロッド時間(全体的な運動ニューロン性失調を測定するため)を、各マウスについて、注射後の最初の48時間のいくつかの時点で、次いで16日間にわたり各日1回、記録した。各毒素の注射用量を、同一の希釈物を使用して、IP LD50アッセイによって確認した(データは示していない)。他のBoNTでこれまでに見られているように、DASスコアおよびロータロッドの回復時間は、共に用量依存性であった(図5)。DASスコアのピークは、BoNT/A2についてのこれまでの報告と類似して、またBoNT/A1よりもわずかに早く、36~48時間の間で現れ、3~4日目に低下し始めた(図5A、C)。16日目までに、DASスコアは、最も高い毒素希釈物を注射されたマウスでは約1.5まで低下し(図5A)、これは、BoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A5でこれまでに観察されたもの(Pellett et al., 2015)と類似している。ロータロッドによって測定された全体的な運動ニューロン性失調は、BoNT/A1およびBoNT/A6の両方に類似しており(図5B)、他のBoNT/Aサブタイプでこれまでに観察されているもの(Pellett et al., 2015)と類似していた。これらのデータは、全体的な運動ニューロン性失調が類似していることに加えて、局所的筋肉内注射の後のマウスにおける局所麻痺について、BoNT/A6の作用発現および作用期間がBoNT/A1と比較して類似していることを示す。
【0037】
考察:
BoNT/Aサブタイプ6は、2009年に、BoNT/A1およびBoNT/A2の組換え事象に由来する可能性がある固有のBoNT/Aサブタイプとして最初に記載された(Luquez et al., 2009)。BoNT/A6のLC配列は、A1のLC配列と1アミノ酸残基のみ異なる(T414A)が、移動ドメインおよび受容体結合ドメインはそれぞれ4.5%および9.5%異なる。A1とA6移動ドメインとの差の大部分はA2でも見られるが、A6に固有の差のほとんどは、受容体結合ドメインで見られる。BoNT/A6は、1996年に食餌性ボツリヌス症のケースから単離された2種毒素生産株であるCDC41370で先天的に発現される(Luquez et al., 2009)。BoNT/A6に加えて、この株はBoNT/B2も発現し、BoNT/A6毒素の単離および特徴付けを複雑にしている。二価の株からの他のBoNTの単離でこれまでに行われているように(Pellett et al., 2016)、この研究においては、株CDC41370を改変して、BoNT/B2の発現を排除した。BoNT/A6は、得られた単一発現株CDC41370B2tox-において高レベルで発現した。BoNT/A6を単離し、インビトロで、培養されたニューロンにおいて、およびマウスにおいて、生物学的特性および薬理学的特性を調べた。BoNT/A2についてこれまでに示されているものに類似して、BoNT/A6は、ラットおよびマウスの初代脊髄ニューロンならびにhiPSC由来のニューロンを含む全ての試験した細胞モデルにおいて、A1よりも高い効能を示した(図1~2)。これらの所見は、BoNT/A2と同様に、BoNT/A6が、ヒトニューロンを含む培養されたニューロンにおいて、BoNT/A1よりも約10倍効能が高く、より速い作用発現を有することを示す(図2、4)。BoNT/A2と比較して、BoNT/A6は、ヒトニューロンにおいて約2倍大きな効能およびわずかに速い作用発現を有することが分かったが、この所見が統計的に有意なサブタイプ特異的な差を反映しているかどうかを見定めるためには、さらなる毒素調製物の試験が必要であろう。これらのデータは、BoNT/A6が、毒素が注射部位から広がることに起因する副作用を低下させる結果となる、インビボでの筋肉内注射の後に注射部位内にさらに局所化したまま残る能力を有するかどうか、および BoNT/A6が他の現在利用可能なサブタイプと比較して注射後により早く効果的となる能力を有し得るかどうか、という疑問を提起する。さらに、より効率的およびより速い細胞移入によって、同一の局所的麻痺効果を達成するために必要なBoNT/A6の用量が、BoNT/A1と比較して少なくなり得る。
【0038】
以前に分析されたBoNT/AサブタイプであるBoNT/A3は、BoNT/A1と比較して有意に短い作用期間を有することが示されているため、BoNT/A6の作用期間を、他のBoNT/Aサブタイプについてこれまでに行われた通りに、培養されたニューロンおよびマウスの両方において試験した。100%のSNAP-25の切断を達成するために必要な最少量のBoNT/A6に曝露されているラット初代脊髄細胞を、切断されていないSNAP-25の回復について、最大8ヶ月間にわたりモニタリングした。穏やかな回復が、曝露後の7ヶ月後に、明らかに見られた。8ヶ月後、約80%を超えるSNAP-25が切断されたままであった(図3)。BoNT/A1~5についてのこれまでの類似の研究は、切断されていないSNAP-25の回復の最初の兆候を3~4ヶ月目に示し、SNAP-25の約50%が9ヶ月目に切断されたままであった(Whitemarsh et al., 2014)。培養されたニューロンの、BoNT/A1およびBoNT/A6中毒からの回復もまた、ヒトiPSC由来のニューロンにおいて判定した(図2)。興味深いことに、これらのニューロン培養物は、種(ヒト対ラット)ならびに細胞組成(>98%の純度の前脳様のニューロン対脊髄ニューロンおよびグリア細胞の混合物)が初代培養物と異なるが、3ヶ月未満の内に、切断されていないSNAP-25を完全に回復させた。これによって、このヒト細胞培養物におけるBoNT/A1およびBoNT/A6の半減期の推定が可能となり、データは、A1およびA6でそれぞれ約12日間および約14日間という類似の半減期を示している(図2C)。これらのデータは、RSCにおけるBoNT/A6の作用期間が、BoNT/A1と少なくとも同じ長さであることを示す。同様に、マウスモデルを使用したインビボでの研究は、BoNT/A6で、腓腹筋への局所的筋肉内注射の後の局所麻痺期間が、BoNT/A1と少なくとも同じ長さであることを示した。同様に、BoNT/A2でこれまでに観察されているように、局所麻痺の発現は、BoNT/A1と比較してBoNT/A6でわずかに早かった(図5)。これらのデータは、局所的筋肉内注射の後のマウスにおいて、BoNT/A1と比較して、BoNT/A6の作用期間が類似しており、局所麻痺の発現がより早いことを示す。
【0039】
BoNT/A6が、全身に広がる毒素の量を低減させることによって副作用のリスクを低下させ得るという考えを調べるために、BoNT/A1、BoNT/A2、およびBoNT/A6について、右腓腹筋内への筋肉内注射について、LD50を判定した。これは、同一の毒素希釈物のIP注射を伴う標準的なMBAから決定された、計算されたLD50に基づくものであった。BoNT/A6およびBoNT/A2のIM注射は、死に至らしめるためには、IP注射された毒素の量と比較して2倍多くの毒素が必要であり、その一方で、BoNT/A1は、死に至らしめるためには、IP注射された場合と比較して、IM注射においてわずか1.4倍多くの毒素だけが必要であった(表1)。重要なこととして、これは、3つの試験対照の毒素の同一の毒素希釈について並行してIP LD50およびIM LD50を決定する比較研究であり、結果は、BoNT/A6の筋肉内注射によって、BoNT/A1よりも全身的な毒素分布が少なくなることを示す。
【0040】
本発明者らの結果に基づいて、BoNT/A6は、BoNT/A1よりも有利な、またBoNT/A2に類似のまたはそれよりも優れたバイオ医薬品としての可能性を有することが分かる。BoNT/A6での処置は、長く続く効果を犠牲にすることなく、より少ない副作用のリスクで、標的の症状をより速く緩和し得る。今後の研究を通して、BoNT/A6は、現在は他のサブタイプを使用している処置のための、より安全でより効果的な選択肢であることが証明され得る。
参考文献
【0041】


【0042】
本開示において引用される各刊行物、特許、および特許公報は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明は、先の実施例に限定されることを意図したものではないが、全てのこのような改変および変形を、添付の特許請求の範囲内にあるものとして包含する。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
【手続補正書】
【提出日】2024-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、
(a)BoNT毒素のBoNT/A6毒素のみを発現するように改変された改変クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)株を培養するステップ、および
(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を株から単離するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
調製物が、少なくとも90%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
調製物が、少なくとも98%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
株がCDC41370である、請求項1に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
本開示において引用される各刊行物、特許、および特許公報は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明は、先の実施例に限定されることを意図したものではないが、全てのこのような改変および変形を、添付の特許請求の範囲内にあるものとして包含する。

本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6を含む有効量の調製物で患者を処置するステップを含む、ボツリヌス毒素療法が必要な症状を有する患者を処置する方法であって、調製物が、少なくとも90%の純度のA6毒素または毒素複合体である、方法。
〔2〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、BoNT/A1よりも約10倍高い効能がある、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約30fMのEC50を有する、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A1よりも低減された全身組織の毒素分布を有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約0.5×10 7 ~2×10 8 LD50/mgの特異的活性LD50を有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕処置が、神経系障害または神経筋障害を特徴とする状態のためである、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕処置が、頚部ジストニア、眼瞼けいれん、重度の原発性腋窩多汗症、斜視、アカラシア、慢性限局性ニューロパシーおよび片頭痛および他の頭痛障害、化粧品による問題、筋けいれん、上位運動ニューロン症候群、発汗、ならびにBoNT/A1で処置される神経障害からなる群から選択される状態のためである、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕処置が化粧的処置である、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕調製物が、少なくとも95%の純度のA6毒素または毒素複合体を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕調製物が、少なくとも98%の純度のA6毒素複合体を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔11〕調製物の細胞内への取り込みが、BoNT/A1と比較して増大している、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、
(a)bont/B2遺伝子が除去されるように改変された改変クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)株を培養するステップ、および
(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を株から単離するステップ
を含む、方法。
〔13〕調製物が、少なくとも90%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕調製物が、少なくとも98%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、前記〔12〕に記載の方法。
〔15〕株がCDC41370である、前記〔12〕に記載の方法。
〔16〕クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6の精製された調製物を得る方法であって、
(a)BoNT/A6遺伝子が発現されるように改変された組換え微生物の培養物を培養するステップ、および
(b)少なくとも90%の純度のBoNT/A6毒素または毒素複合体であるBoNT/A6毒素を単離するステップ
を含む、方法。
〔17〕前記〔12〕に記載の方法によって生成されたBoNT/A6調製物。
〔18〕前記〔16〕に記載の方法によって生成されたBoNT/A6調製物。
〔19〕少なくとも90%の純度のBoNT/A6神経毒素または毒素複合体を含む、BoNT/A6毒素または毒素複合体の調製物。
〔20〕クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒素BoNT/A6が、BoNT/A1よりも約10倍高い効能がある、前記〔19〕に記載の調製物。
〔21〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約30fMのEC50を有する、前記〔19〕に記載の調製物。
〔22〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A1よりも低減された全身組織の毒素分布を有する、前記〔19〕に記載の調製物。
〔23〕クロストリジウム・ボツリヌム神経毒素BoNT/A6が、約0.5×10 7 ~2×10 8 LD50/mgの特異的活性LD50を有する、前記〔19〕に記載の調製物。
【外国語明細書】