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特開2024-107036官能化フッ素含有樹脂性粉末及びその形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107036
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】官能化フッ素含有樹脂性粉末及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20240801BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F8/32
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024087598
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2021501339の分割
【原出願日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】62/714,683
(32)【優先日】2018-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/711,255
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514180476
【氏名又は名称】エージーシー ケミカルズ アメリカズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】相田 茂
(57)【要約】
【課題】
少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末及び当該フッ素含有粉末の少なくとも一つの官能基と反応する少なくとも二つの反応性官能基を有する化合物の提供工程を含む官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法に関する。
【解決手段】
溶媒を当該フッ素含有粉末及び当該化合物と混合して混合物を形成するが、当該フッ素含有粉末は当該溶媒に溶解しない。当該化合物の当該少なくとも二つの反応性官能基のうちの一つを、非溶解の当該フッ素含有粉末由来の当該少なくとも一つの官能基のうちの対応する一つと反応させて、当該少なくとも二つの反応性官能基のうちの少なくとも一つを有する当該官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法であって、以下の:
少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末の提供工程;
前記フッ素含有粉末の少なくとも一つの官能基と反応する少なくとも二つの反応性官能基を有する化合物の提供工程;
溶媒を前記フッ素含有粉末及び前記化合物と混合する混合物の形成工程であって、ここで、前記フッ素含有粉末は前記溶媒に溶解しない;かつ、
前記化合物の前記少なくとも二つの反応性官能基のうちの一つを、非溶解の前記フッ素含有粉末由来の前記少なくとも一つの官能基のうちの対応する一つと反応させて、前記少なくとも二つの反応性官能基のうちの少なくとも一つを有する前記官能化フッ素含有樹脂性粉末の形成工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記化合物は前記溶媒に溶解し、かつ、反応させることは、前記溶解している化合物の前記少なくとも二つの反応性官能基のうちの一つを、前記非溶解のフッ素含有粉末由来の前記少なくとも一つの官能基の対応する一つと反応させて、前記少なくとも二つの反応性官能基のうちの少なくとも一つを有する前記官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する、ことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記官能化フッ素含有樹脂性粉末の平均粒径は、400マイクロメートル以下であり、及び/又は、前記フッ素含有粉末の平均粒径は、400マイクロメートル以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記提供されるフッ素含有粉末は、テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位、エチレン由来の繰り返し単位、及び不飽和結合及び官能基を有する重合可能な化合物由来の繰り返し単位を含む、少なくとも一つの官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位とエチレン由来の繰り返し単位のモル比は、70/30~30/70である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記提供されるフッ素含有粉末が、テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位、ペルフルオロアルキルビニルエーテル由来の繰り返し単位、及び不飽和結合及び官能基を有する重合可能な化合物由来の繰り返し単位を含む少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位とペルフルオロアルキルビニルエーテル由来の繰り返し単位とのモル比は、99.5/0.5~80/20である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記フッ素含有粉末中の前記重合性化合物由来の繰り返し単位のモル含有量は、0.01~10モル%である、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フッ素含有粉末の官能基は、無水物基、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、及びイソシアネート基から選択され、及び/又は、
前記提供される化合物の反応性官能基は、アミノ基、アミド基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、及びニトリル基から選択され、及び/又は、
前記官能化フッ素含有樹脂性粉末の反応性官能基が、アミノ基、アミド基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、及びニトリル基から選択される、及び/又は、
前記化合物上の反応性官能基の前記フッ素含有粉末の官能基に対するモル比は、2:1以上であり、及び/又は、
前記少なくとも一つの官能基のうちの少なくとも一つが無水物基を含み、前記少なくとも二つの反応性官能基のうちの少なくとも一つがアミノ基を含み、前記官能化フッ素含有樹脂性粉末が前記無水物基及び前記アミノ基に対応する一つとの反応によって形成された少なくとも一つのイミド基を含み、及び/又は、
前記フッ素含有粉末の官能基含有量は、0.1~5モル%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
さらに、以下の:
混合物を30℃から、少なくとも一つの官能基を有する前記フッ素含有粉末の融点以下の温度で、前記少なくとも二つの反応性官能基の一つを、前記少なくとも一つの官能基の対応する一つと反応させるのに十分な時間加熱する、前記官能性フッ素含有樹脂性粉末の形成工程;
前記加熱した後の温度を30℃以下に低下させる工程;かつ
前記溶媒の除去工程
を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱する前の前記溶媒中の前記フッ素含有粉末の含有量は、前記溶媒100部に対して1~120部である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により形成された、官能化フッ素含有樹脂性粉末。
【請求項13】
少なくとも一つの官能基を有し、並びに、少なくとも一つの官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末及び少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末から選択される、フッ素含有粉末;かつ、
前記少なくとも一つの官能基と反応する少なくとも二つの反応性官能基を有する化合物
の反応生成物を含む官能化フッ素含有樹脂性粉末であって、ここで、
前記少なくとも二つの反応性官能基の少なくとも一つを含み、かつ、平均粒径が400マイクロメートル以下である、官能化フッ素含有樹脂性粉末。
【請求項14】
少なくとも一つの反応性官能基を有し、平均粒径が400マイクロメートル以下であり、かつ、テトラフルオロエチレン由来の繰返し単位、エチレン又はペルフルオロアルキルビニルエーテル由来の繰返し単位、及び不飽和結合と官能基を有する重合可能な化合物由来の繰返し単位を含む、官能化フッ素含有樹脂性粉末。
【請求項15】
平均粒径はが80マイクロメートル以下であり、及び/又は、
前記官能基は、無水物基、カルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、及びイソシアネート基から選択され;かつ、
前記反応性官能基は、アミノ基、アミド基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基及びニトリル基から選択される;
請求項13又は14に記載の官能化フッ素含有樹脂性粉末。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか一項に記載の官能化フッ素含有樹脂性粉末を含む、成形製品又はプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の記載
本出願は、2018年7月27日に出願された米国特許仮出願第62/711,255号及び2018年8月4日に出願された米国特許仮出願第62/714,683号の優先権及びすべての利点を主張し、当該開示は各々、その全体が参照により具体的に援用される。
【0002】
本発明は、一般に、官能化フッ素含有樹脂性粉末に関し、さらに具体的には、官能化エチレン/テトラフルオロエチレン又は官能化されたテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末を、当該共重合体粉末の官能基と反応する反応性官能基を有する化合物と反応させることによって形成された1つ以上の反応基を有する官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE共重合体、又は単にETFEともいう)及びテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA共重合体、又は単にPFAともいう)は各々、耐熱性、耐薬品性、耐水性、耐油性、耐候性、耐久性、ガスバリア特性、燃料バリア特性、剥離特性、不粘着性、防汚性、染料接着性、及び不均一特性等に優れる。ETFE共重合体及びPFA共重合体は、半導体産業、航空機産業又は自動車産業、食品製造産業及び医療産業等の様々な分野で用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、官能化されていない(非官能化)ETFE又はPFA共重合体は、主鎖に結合したフッ素原子の特性により、他の化合物に対する親和性が低いため、他の基板への結合又は接着が不十分である。しかしながら、非官能化ETFE又はPFA共重合体に官能基を導入して官能化ETFE又はPFA共重合体を形成することで、当該特性を改善することができる。
【0005】
当該特性を強化するさらなる試みとして、官能基と反応する反応性官能基を有する化合物との官能化ETFE又はPFA共重合体のさらなる改質が試みられてきた。通常、当該さらなる改質の結果として得られる生成物は固体として形成され、すなわち、特定用途のために粉末又は粒子の形態に戻すためにさらなる処理が必要である。さらに、当該改質のいくつかは、高価なフッ素化溶媒を用いて官能化ETFE又はPFA共重合体を溶解するか、又は化合物の反応性官能基と反応させる前に官能化ETFE又はPFA共重合体を溶解させる特別な装置が必要であり、そのため、プロセスには時間と費用がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法に関する。本方法は、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末の提供工程、少なくとも前記官能基と反応する少なくとも一つの反応性官能基を有する化合物の提供工程、溶媒を前記フッ素含有粉末及び前記化合物と混合する混合物の形成工程であって、ここで、前記フッ素含有粉末が前記溶媒に溶解せず、前記化合物の少なくとも一つの反応性官能基のうちの一つを、前記非溶解のフッ素含有粉末由来の少なくとも一つの官能基のうちの対応する一つと反応させて、前記少なくとも一つの反応性官能基のうちの少なくとも一つを有する前記官能化フッ素含有樹脂性粉末の形成工程、を含む。
【0007】
本発明はまた、前記方法から形成された前記少なくとも一つの反応性官能基の少なくとも一つを有する官能化フッ素含有樹脂性粉末に関する。
【0008】
本発明はまた、少なくとも一つの官能基を有し、並びに、少なくとも官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末及び少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末から選択される、フッ素含有粉末;かつ、前記少なくとも一つの官能基と反応する少なくとも一つの反応性官能基を有する化合物である前記反応生成物を含む官能化フッ素含有樹脂性粉末であって、ここで、前記官能化フッ素含有樹脂性粉末は、前記少なくとも一つの反応性官能基を含み、かつ、平均粒径が400マイクロメートル以下である、官能化フッ素含有樹脂性粉末である。
【0009】
本発明はまた、少なくとも一つの反応性官能基を有し、平均粒径が400マイクロメートル以下の官能化フッ素含有樹脂性粉末であり、テトラフルオロエチレン由来の繰返し単位、エチレン又はペルフルオロアルキルビニルエーテル由来の繰返し単位、及び不飽和結合及び官能基を有する重合可能な化合物由来の繰返し単位を含む、官能化フッ素含有樹脂性粉末である。
【0010】
本発明の官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法は簡易であり、化合物と反応させるための、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末の溶融に関する特別な装置は必要ない。さらに、本方法は、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末の溶解に必要な高価な溶媒が必要ない。さらに、官能化フッ素含有樹脂性粉末は、粒子サイズの調整に関連する後工程がなくても、さらに容易に製品に成形される。さらに、本発明の官能化フッ素含有樹脂性粉末は、成形材料又はプリプレグ(例えば、炭素繊維プリプレグ)の形成のために容易に導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、少なくとも1つの官能基を有するフッ素含有粉末(単にフッ素含有粉末という場合もある)及び少なくとも1つの官能基と反応する少なくとも1つの反応性官能基を有する化合物(単に化合物という場合もある)から形成される、少なくとも1つの反応性官能基を有する官能化フッ素含有樹脂性粉末(単に官能化フッ素含有粉末という場合もある)に関する。
【0012】
より具体的には、当該官能化フッ素含有樹脂性粉末は、溶媒をフッ素含有粉末及び化合物と組み合わせて混合物を形成することにより形成され、フッ素含有粉末は溶媒に溶解しない。当該プロセスは、化合物の少なくとも一つの反応性官能基のうちの一つを、非溶解のフッ素含有粉末由来の少なくとも一つの官能基のうちの対応する一つと反応生成物を形成することによって進行する。当該反応生成物は、官能化フッ素含有樹脂性粉末を含み、少なくとも一つの反応性官能基の少なくとも一つを含む。
【0013】
特定の実施形態では、少なくとも一つの反応性官能基を有する官能化フッ素含有樹脂性粉末の平均粒径(平均粒子直径)は、400マイクロメートル以下、又は80マイクロメートル以下、又は60マイクロメートル以下である。さらに、少なくとも一つの反応性官能基を有する官能化フッ素含有樹脂性粉末は、ASTM D792-13の試験方法Aで測定した場合、融点が150℃以上であってよく、及び/又は比重が1.5以上であってよい(以下、比重に関する記載は、ASTM D792-13の試験方法Aに従う)。
【0014】
特定の実施形態では、官能化フッ素含有樹脂性粉末の形成に用いられるフッ素含有粉末は、少なくとも一つの官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体粉末(あるいは、以下官能基含有ETFEともいう)の形態であり、他の実施形態では、フッ素含有粉末は、少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末(あるいは、以下官能基含有PFAともいう)の形態である。なおさらなる実施形態では、フッ素含有粉末は、少なくとも一つの官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末及び少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末をともに含んでよい。
【0015】
特定の実施形態では、エチレン由来の繰り返し単位と、共重合プロセス(後述)によって形成された官能基を有するETFE共重合体粉末中のテトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位とのモル比は、60/40~40/60、例えば、65/35~35/65、又は70/30~30/70である。
【0016】
特定の実施形態では、テトラフルオロエチレン由来の繰り返し単位と、共重合プロセスによって形成された官能基を有するPFA共重合体粉末中のペルフルオロアルキルビニルエーテル由来の繰り返し単位のモル比は、95/5~85/65、99.5/0.5~80/20である。
【0017】
ある実施形態では、フッ素含有粉末の官能基は、無水基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、又はエポキシ基(すなわち、当該官能基は、無水基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、及びエポキシ基から選択される)でありうる。ある実施形態では、無水物基が好ましく、ここで、この無水物基は、以下にさらに記載されるように、化合物由来の反応性官能基としてアミン基と反応して、得られた官能化フッ素含有樹脂性粉末中にイミド結合を形成する。
【0018】
特定の実施態様では、官能基含有ETFEに含まれる、又は官能基含有PFAに含まれるカルボニル基は、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲノ-カルボニル基、カーボネート基、無水物基、アルデヒド基、ケトン基等であり、最も好ましくは無水物基である。ここで、酸無水物残基は、R-C(=)-O-C(=O)-Rの一般式で表される構造を有し、R及びRはともに環を形成しうる。さらに、酸無水物の両方の炭素原子又はそれらのいずれか一方が、官能基含有ETFE又はPFAの主鎖に連結されていてよい。ハロゲノカルボニル基は-C(=O)-Xの一般式で表される構造を有し、Xはハロゲンである。具体的には、例えば、-C(=O)-F又はC(=O)-Clがあげられる。当該カルボニル基は、それぞれの官能基含有ETFE又はPFAの側鎖又は末端に存在しうる。簡便には、「-」は単結合を表し、「=」は二重結合を表す。
【0019】
ある実施形態では、官能基含有ETFE又は官能基含有PFAの一部である官能基は、官能基を有する単量体から、官能基含有ETFE又はPFA共重合体各々に重合される。官能基を有する単量体(本明細書では、不飽和結合及び官能基を有する重合可能な化合物ともいう)は、単独で、又はそれらのうちの2つ以上の混合物として組み合わせて、用いうる。カルボニル基を有する単量体としては、例えば、不飽和ポリカルボン酸無水物、例えば無水イタコン酸、無水シトラコン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物又は無水マレイン酸;不飽和カルボン酸単量体、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸又はビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-エン-5,6-ジカルボン酸;不飽和カルボン酸エステル単量体、例えばアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸メチル、メタクリル酸メチル、シトラコン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、ペルフルオロアクリル酸フッ化物、1-フルオロアクリル酸フッ化物、アクリル酸フッ化物、アクリル酸クロリド、1-トリフルオロメタクリル酸フッ化物又はペルフルオロブテン酸;アクロレイン又はクロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド単量体;又はビニレンカーボネート;があげられる。無水イタコン酸、無水シトラコン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物又は無水マレイン酸が、特に好ましい。
【0020】
用いうるカルボニル基以外の官能基を有する単量体の具体例としては、アリルアルコール、クロチルアルコール、2-メチルアリルアルコール、メチルビニルカルビノール、3-ブテン-1-オール又は2-ビニルオキシエタノール等のヒドロキシ基を有する単量体;アリルアミン等のアミノ基を有する単量体;1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、イソプレン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン又は2-メチル-1,5-ヘキサジエン等のビニル基を有する単量体;及びビニルエチレンオキシド、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、アリルグリシジルエーテル又はグリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有する単量体があげられる。
【0021】
特定の実施形態では、ETFE共重合体粉末又はPFA共重合体粉末の形成に用いられうる官能基を有する上記単量体に加えて、さらなる他の単量体もまた、少なくとも一つの官能基を有するETFEフッ素含有粉末又はPFAフッ素含有粉末各々の形成に用いられる共重合プロセスに含まれうる。そのようなさらなる単量体としては、CF=CFCl又はCF=CF等のフルオロエチレン;CF=CFC又はCF=CHCF等のフルオロプロピレン;CH=CHCFCFCFCF又はCH=CFCFCFCFCF等のCH=CX(CF)nY(式中、X及びYは各々、互いに独立して、水素又はフッ素原子であり、nは2~12の整数であり、好ましくは2~8の整数である)で表される化合物等の(ポリフルオロアルキル)エチレン;R(OCFXCFOCF=CF(式中、RはC1~6のペルフルオロアルキル基であり、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは1~5の整数である)等のペルフルオロビニルエーテル;CHOC(=O)CFCFCFOCF=CF、FSOCFCFOCF(CF)CFOCF=CF等があげられ、これらを単独で、又は2種以上が混合された混合物として用いることができる。さらに、これらのさらなる単量体を、例えば、プロピレン又はイソブチレン等の炭素原子が最大3個である炭化水素オレフィン単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;及びエチルビニルエーテル又はシクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類等と組み合わせて用いてよい。
【0022】
特定の実施形態では、少なくとも一つの官能基を有するETFE又はPFAフッ素含有粉末の製造方法は、特に限定されず、テトラフルオロエチレン、エチレン又はペルフルオロアルキルビニルエーテルと、官能基を含む単量体(上記のような無水物官能基を含む単量体等)、及び場合によっては、(上記のような)他の単量体を反応器に導入し、次いで、一般的に用いられるラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤によって共重合させる方法を用いうる。重合方法としては、それ自体公知の、バルク重合;フッ素化炭化水素、塩素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素、アルコール又は炭化水素等の有機溶媒を重合媒体として用いる溶液重合;重合媒体として水性媒体を用い、必要に応じて、適当な有機溶媒を用いる懸濁重合;及び重合媒体として水性媒体を用いて、乳化剤を用いる乳化重合等があげられる。しかしながら、最も好ましいのは溶液重合である。
【0023】
上記重合は、単一容器タイプ又は複数容器タイプの撹拌型重合装置、チューブ状重合装置等を用いてバッチシステム又は連続システム操作で行うことができる。
【0024】
ラジカル重合開始剤としては、好ましくは、0~100℃の温度で、より好ましくは20~90℃の温度で、半減期が10時間である開始剤である。例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシイソブチレート又はt-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル;イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド又はラウロイルペルオキシド等の非フッ素化ジアシルペルオキシド;(Z(CFCOO)(式中、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、pは1~10の整数である)等のフッ素化ジアシルペルオキシド;又は過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物があげられる。
【0025】
重合媒体は、上記のようなフッ素化炭化水素、塩素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素、アルコール又は炭化水素等の有機溶媒、及び水性媒体からなる群から選択される少なくとも一つである。連鎖移動剤としては、例えば、メタノール又はエタノール等のアルコール類;1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン又は1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等の塩素化フッ素化炭化水素;又はペンタン、ヘキサン又はシクロヘキサン等の炭化水素があげられる。
【0026】
重合条件は特に限定されないが、重合温度は、通常好ましくは、0~100℃、より好ましくは20~90℃である。また、重合圧力は、好ましくは0.1~10MPa、より好ましくは0.5~3MPaである。重合時間は、重合温度、重合圧力等により異なるが、通常好ましくは、1~30時間、より好ましくは2~10時間である。
【0027】
この方法では、官能基を含む当該単量体の共重合比は、全単量体含有量に対して、通常好ましくは、最大20モル%、特に好ましくは0.01~10モル%である。換言すれば、不飽和結合及び官能基を有する重合可能な化合物(すなわち、上記の官能基を有する単量体)由来の繰り返し単位の含有量は、最大でも20モル%、特に好ましくは0.01~10モル%である。
【0028】
さらに、官能基を有する単量体の官能基が無水物官能基である場合、当該無水物官能基を含む当該単量体の共重合比は、好ましくは、全単量体含有量に対して0.01~5モル%である。無水物官能基含有量がこの量を超えると、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末の耐熱性、耐薬品性等、及び本発明により形成された官能化フッ素含有樹脂状化合物の対応する耐熱性が損なわれうる。
【0029】
特定の実施形態では、当該少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末は、上記のような共重合プロセスによって形成されるか、又は60マイクロメートル以下である。さらに、特定の実施形態では、共重合プロセスによって形成されたフッ素含有粉末の融点は160℃以上であり、及び/又は比重は1.5以上である。
【0030】
さらに、さらなる実施形態では、上記重合プロセスに少なくとも一つの官能基を導入することとは対照的に、少なくとも一つの官能基を、非官能化ETFE又はPFA共重合体粉末にグラフトして、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末を形成する方法である。グラフト化合物の結合基としては、非官能化ETFE又はPFA共重合体粉末をグラフト化しうる基である。当該結合基は、例えば、ラジカルの会合又は付加に関与する不飽和又は飽和炭化水素基、又は求核反応に関与するアミノ基又はフェノール性ヒドロキシ基があげられる。さらに、ペルオキシ基又はアゾ基等のラジカルを生成しやすい基であってよい。好ましくは、当該結合基は、炭素-炭素不飽和結合を有する基(特に、その末端にα、β-不飽和二重結合を有する有機基)、ペルオキシ基又はアミノ基である。
【0031】
グラフト化合物の具体例としては、カルボニル基を導入する場合には、不飽和結合及び、酸無水物残基、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸又はビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物;不飽和カルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸又はビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物;不飽和カルボン酸エステル、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、メタクリル酸メチル、シトラコン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル又はシトラコン酸ジエチル;及び不飽和アルデヒド、例えばアクロレイン又はクロトンアルデヒド;等を有する重合可能な化合物があげられる。不飽和結合及び酸無水物残基を有する重合可能な化合物は、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、又はビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物が、特に好ましい。
【0032】
また、グラフト化の方法としては、グラフト化合物をETFE共重合体に添加した後、ラジカルが発生する温度で溶融混錬する方法が特許文献1に開示されている。また、カルボニル基以外の官能基を導入する場合、上記カルボニル基以外の官能基を有する単量体が挙げられる。
【0033】
さらに、官能基がグラフトされた官能基を少なくとも一つ有するフッ素含有粉末を製造する方法としては、好ましくは、ETFEの製造用ラジカル重合開始剤としてペルオキシカーボネート又はペルオキシエステルを用いる方法か、又は連鎖移動剤を適宜選択して、重合体の末端にカルボニル基を導入する方法があげられる。当該ペルオキシカーボネートとしては、好ましくはジイソプロピルペルオキシカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシカーボネート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシカーボネート等があげられる。
【0034】
少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末に加えて、少なくとも一つの官能基と反応する少なくとも一つの反応性官能基を有する化合物もまた、当該少なくとも一つの反応性官能基の少なくとも一つを有する官能化フッ素含有樹脂性粉末の形成に用いられる。
【0035】
前記化合物中の反応性官能基の数は、1又は少なくとも2でありうる。特定の実施形態では、化合物中の反応性官能基は、好ましくは、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボニル基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、及びニトリル基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基又はアミノ基であり、最も好ましくは、アミノ基である。
【0036】
本明細書に記載されるように、フッ素含有粉末に関して記載される官能基は用語「反応性」を含まず、化合物に対応する官能基は用語「反応性」を含み、両方の「官能基」には反応性の程度があり、特に、当該官能基がともに反応して、本明細書に記載される官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成することが理解される。このような用語の区別は、どの基がフッ素含有粉末上に提供され、かつ、どの基が化合物上に提供されるのかを容易に区別するための便宜上のものである。
【0037】
特定の実施態様では、当該化合物は、フッ素含有重合体の無水物官能基と反応して、官能化フッ素含有樹脂性粉末中にイミド基を形成する少なくとも一つの反応性官能基を含む。従って、化合物は、特に好ましくは、少なくとも一つのアミノ基を含む。
【0038】
ある実施形態では、フッ素含有樹脂製粉末の官能基と反応しうる一つの反応性官能基を有する例示的化合物は、R-Xで表される化合物である。ここで、Xは、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基又はエポキシ基であり、Rは、-H、アルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状であってよい)、スルホニル基、ニトロ基、ハロゲノ基、シアノ基、ビニル基、シリル基、芳香族基、リン酸エステル基、ペルオキシ基及びアゾ基からなる群から選択される反応性官能基の少なくとも1つの官能基1つ以上有するアルキル基(直鎖、分岐鎖又は環状であってよい)である。しかし、RとXが互いに反応しやすいものは、反応がその分子内又は化合物間で進行する場合もあるため、含まれない。一つの反応性官能基を有する化合物の具体例としては、メタノール、エタノール、ヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、ニトロエタノール、4-ヒドロキシプロピオニトリル、2-エトキシエタノール、ヒドロキシアセトニトリル、2-ブロモエタノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、2-(トリメトキシシリル)エタノール、フェノール、ベンジルアルコール、4-ヒドロキシピリジン、アリルアルコール、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、3-アミノプロピオニトリル、メトキシエチルアミン、4-アミノモルホリン、2-ブロモエチルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、トリメトキシシリルメチルアミン、アニリン、4-アミノピリジン、アリルアミン、エチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2-メルカプトエタンスルホン酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、N,N-ジメチル-2-アミノエタンチオール、ベンゼンチオール、ベンジルメルカプタン、アリルメルカプタン、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、トリクロロメチルイソシアネート、2-クロロエチルイソシアネート等があげられる。
【0039】
二つの反応性官能基を有する化合物の具体例としては、これらに限定されないが、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,4-シクロヘキシルジアミン、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサジオール、ジエチレングリコール、ヒドロキノン、1,4-ベンゼンジメタノール、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-シクロヘキサントリオール、メソ-エリトリトール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンチオール、1,5-ペンタジチオール、1,6-ヘキサジチオール、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、2-アミノエタノール、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、DL-アラビトール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、α-チオグリセロール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、1,5-ヘキサジエンジエポキシド及びヘキサメチレンジイソシアネートがあげられる。
【0040】
以下の実施例で用いられる、二つの反応性アミノ官能基を有する一つの好ましい化合物は、1,6-ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン、又はHMDとしても知られる)である。
【0041】
本発明のある実施形態では、当該化合物中の反応性官能基のモル含有量は、フッ素含有粉末中の官能基のモル含有量よりも少なくとも2倍多い(例えば、2倍を超える)。換言すれば、フッ素含有粉末の官能基のモル含有量に対する化合物の反応性官能基のモル比は、2:1以上である。
【0042】
本発明では、官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法には、溶媒もまた含まれる。特に、当該溶媒は、反応プロセス中に、フッ素含有樹脂製粉末と化合物を混合する。
【0043】
当該溶媒は、フッ素含有粉末の融点より低い温度、つまり、大気圧下又は250℃より低温等の加圧条件下では、フッ素含有粉末を溶解しない。しかしながら、当該溶媒は、特定の実施形態では、化合物を溶解状態に溶解させうるものの、他の実施形態では、当該化合物は、分散状態等の非溶解状態のままでありうる。
【0044】
従って、当該化合物は溶媒中で溶解状態又は非溶解状態のいずれかであり、フッ素含有粉末は溶媒中で非溶解状態であるが、当該化合物をフッ素含有粉末と反応させて官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成するその後又は同時のプロセスでは、フッ素含有粉末は溶媒中で非溶解状態である。
【0045】
ここで、化合物及び溶媒に関して本明細書で用いる「溶解状態」とは、化合物と溶媒の混合物を一定温度で十分に混合した後の視覚的評価で透明かつ均一である状態を意味する。その一方で、フッ素含有粉末及び溶媒(又は化合物と溶媒)に関して本明細書で用いる「非溶解状態」とは、フッ素含有粉末と溶媒(又は化合物及び溶媒)との混合物を十分に混合した後の視覚的評価で、一定温度で不透明又は不均一である状態を意味する。
【0046】
本発明で用いうる適当な溶媒は、上記のように、フッ素含有粉末の融点未満の温度で化合物を溶解してもよく、又は溶解しなくてもよいが、当該温度ではフッ素含有粉末を溶解しない溶媒である。
【0047】
例示的溶媒としては、酢酸、アセトン、アセトニトリル、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ブタノン、t-ブチルアルコール、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセリン、ヘプタン、ヘキサメチルリン酸アミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ヘキサン、メタノール、メチルt-ブチルエーテル、塩化メチレン、N-メチル-2-ピロリジノン、ニトロメタン、ペンタン、石油エーテル、1-プロパノール、2-プロパノール、ピリジン、テトラヒドロフラン、トルエン、トリエチルアミン、水、水(重水)、ο-キシレン、m-キシレン、ρ-キシレン、ジイソプロピルケトンがあげられるが、これらに限定されない。当該溶媒が少なくとも一つの無水物官能基を含むフッ素含有粉末を溶解しないという条件で、用いうるさらなる例示的溶媒は、米国特許出願第2013/0046062号段落[0052]、[0053]及び[0059]-[0063]に見出すことができる。以下の実施例で用いられる1の特に好ましい溶媒は、ジイソプロピルケトン(DIPK)である。
【0048】
特定の実施形態では、以下に記載する方法の加熱工程の前のフッ素含有粉末の含有量は、溶媒100質量部当たり1~120質量部未満である。
【0049】
上記のように、本発明による官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する方法は、一般に、フッ素含有粉末と化合物を溶媒中で混合し、当該化合物の反応性官能基の少なくとも一つを、対応するフッ素含有粉末の官能基の一つと反応させることを含む。
【0050】
特に、本発明による官能化フッ素含有樹脂性粉末の製造方法は、最初に、上記の少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末を提供することを含む。当該フッ素含有粉末は、上記のように、少なくとも一つの官能基を有するエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体粉末、又は少なくとも一つの官能基を有するテトラフルオロエチレン/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体粉末、又は両粉末の組み合わせのいずれかでありうる。好ましくは、いずれかの粉末のこれらのフッ素含有粉末は、上記のように、溶液重合プロセスで形成される。
【0051】
次に、フッ素含有粉末、化合物、及び溶媒をともに混合し、フッ素含有粉末が溶媒に溶解しない(したがって、非溶解状態のままである)混合物を形成する。特定の実施形態では、化合物は溶媒に溶解され、すなわち溶解状態であるが、他の実施形態では、化合物は非溶解状態のままである。
【0052】
次に、当該化合物の少なくとも一つの反応性官能基のうちの一つが、フッ素含有粉末の官能基の少なくとも一つの官能基のうちの少なくとも一つと反応して、少なくとも一つの反応性官能基を有する官能化フッ素含有樹脂性粉末を形成する。
【0053】
特定の実施形態では、当該混合物は、30℃からフッ素含有粉末の融点未満の温度(例えば、250℃未満)まで加熱される。当該混合物の加熱により、化合物及び/又はフッ素含有粉末の流動性が高まり、当該化合物の一つの反応性官能基とフッ素含有粉末の対応する一つの官能基との反応が促進されると考えられる。当該加熱工程は、化合物の一つの反応性官能基とフッ素含有粉末の対応する一つの官能基との反応を確実にするのに十分な時間行われる。
【0054】
官能化フッ素含有樹脂性粉末を確実に獲得するための、反応性官能基のモル含有量は、上記のように、好ましくは官能基のモル含有量より大きく、より好ましくは、モル比が2:1以上である。さらにより好ましくは、化合物、又は化合物の少なくとも部分は、官能化フッ素含有樹脂性粉末が少なくとも一つの反応性基を確実に含むように、分子当たり2又はそれ以上の反応性官能基を有する(すなわち、二官能性又はそれ以上である)。換言すれば、特定の実施形態では、官能化フッ素含有樹脂性粉末は、アミノ基、アミド基、カルボニル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、及びニトリル基から選択される反応性官能基を含む。当該実施形態のいくつかでは、当該反応性官能基は、反応中に化合物からもたらされる。
【0055】
反応は、化合物の一つの反応性官能基とフッ素含有粉末の対応する一つの官能基が確実に反応するのに十分な時間行われ、通常、上記のように、温度を30℃からフッ素含有粉末の融点以下に維持しながら継続する。十分な時間の量、又は十分な時間は、混合物の成分の組成に応じて変化しうるが、通常、数分から数時間の間の時間である。
【0056】
次に、混合物の温度を30℃以下に下げて、粉末状の沈殿物を形成させてもよい。次いで、溶媒を除去し、粉末生成物を得る。粉末生成物(すなわち、官能化フッ素含有樹脂性粉末)は、好ましくは、1つ以上のさらなる溶媒でリンスして、残留した未反応化合物を除去し、乾燥させる。得られた官能化フッ素含有樹脂性粉末を分析したところ、粒径が400マイクロメートル以下、融点が150℃以上、比重が1.5以上である。
【0057】
本発明により形成された官能化フッ素含有樹脂性粉末は、得られた生成物、処理及びその後の使用に関して、公知の方法よりも多くの利点を提供する。第一に、当該プロセスは簡便であり、化合物と反応させるための、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末を溶融することに関連する特別な装置が必要ない。さらに、本方法は、少なくとも一つの官能基を有するフッ素含有粉末を溶解するのに必要な高価な溶媒の必要がない。
【0058】
さらに、形成される官能化フッ素含有樹脂性粉末の粒径は、400マイクロメートル以下であり、当該化合物によってもたらされるさらなる反応性官能基がない官能化フッ素含有粉末よりも接着性に関して有利である。当該化合物はまた、官能化フッ素含有のETFE共重合体粉末もしくはPFA共重合体粉末又は非官能化ETFE共重合体粉末もしくはPFA共重合体粉末と比較して、耐熱性、耐薬品性、耐水性、耐油性、耐候性、耐久性、ガスバリア特性、燃料バリア特性、剥離特性、不粘着性、防汚性、染料接着性、及び不均一特性が維持されているか又は促進されうる。
【0059】
さらに、官能化フッ素含有樹脂性粉末は、他の方法で形成された固体の官能化フッ素含有樹脂性粉末に関連する粒径を小さくするためのさらなる処理工程が必要なく、成形材料又はプリプレグ(例えば、炭素繊維プリプレグ)等のさらなる製品に容易に組み込まれる。
【0060】
〔実施例〕
本明細書で提供される実施例では、本発明により形成される二つの官能化フッ素含有樹脂性粉末を製造し、評価した。記載の比重値は、ASTM D792-13の試験方法Aを用いて測定した。
【実施例0061】
この実施例では、500ミリリットルの三口フラスコを用いて反応を行い、水流束ラインをフラスコの一つの口に連結した。窒素ガスを、フラスコの第2口を通して5分間導入し、磁気撹拌棒をフラスコの第3口に配置した。AGCケミカルヨーロッパから商品名Fluon(登録商標)で販売されている少なくとも一つの無水物官能基を含む低温溶融ETFE共重合体の二つの異なる試料(試料A及び試料B)を、ヘキサメチレンジアミン(HMD、比重0.89)及びジイソプロピルケトン(DIPK、比重0.81)と共に三口フラスコに入れた(下記表1A及び1B参照)。
【表1】
試料A:
-重合体組成物:ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸無水物系繰り返し単位/テトラフルオロエチレン系繰り返し単位/ペルフルオロアルキルビニルエーテル系繰り返し単位-0.1/97.9/2.0(モル%)
-平均粒径:2.1(d50)、4.8(d90):レーザー回折粒子径測定装置で測定
-比重2.13
試料B:
-重合体組成物:無水イタコン系繰り返し単位/テトラフルオロエチレン系繰り返し単位/エチレン系繰り返し単位/ヘキサフルオロプロピレン系繰り返し単位/CH=CH(CFCF-0.2/47.6/43.5/7.9/0.8(モル%)
-平均粒径:27(d50)、92(d90):レーザー回折粒子径測定装置で測定
-比重1.75
【0062】
フラスコを密封し、攪拌棒に空気駆動撹拌機を取り付け、フラスコを加熱マントル上に置いた。水調節弁を開いて、冷却水を右側のフラスコを通してフラックスラインに流入させた。
マントルヒーターのスイッチを入れて、温度123℃でフラスコを2時間加熱してDIPKの沸点を制御した。このプロセスの間、HMDはDIPKに溶解したが、試料A及びBは各々溶解しなかった。
【0063】
マントルヒーターのスイッチを切り、フラスコ内の温度を室温に戻した。フラスコ内に沈殿が観察され、それを濾過した。この濾過された粉末をアルミニウム板上で1日間乾燥させた。得られた各試料の粉末を、さらなるDIPKで少なくとも2回リンスし、オーブン中のアルミニウム板上で3時間乾燥させた。
【0064】
次いで、各試料の粉末を赤外(IR)測定により評価/特徴付けした。ピークは、イミド基(約1723cm-l)、アミン結合(約331lcm-1)、無水物中のカルボニル基(約1801cm-1)、及びHMD(約2943及び2869cm-1)の存在を示す。
【0065】
本発明は、例示的な方法で説明されるが、用いられている用語は、限定ではなく、説明の言葉の性質にあることが理解されるであろう。当業者に明らかなように、本発明の多くの修正及び変形は、上記の教示に照らして可能である。従って、添付の請求項の範囲内では、参照番号は単に便宜上のものであり、いかなる意味においても限定するものでなく、本発明は、具体的な記載以外の方法で実施しうることが理解されるであろう。
【外国語明細書】