(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107064
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】距離推定装置
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20240801BHJP
G01C 22/00 20060101ALI20240801BHJP
G05D 1/24 20240101ALI20240801BHJP
G05D 1/43 20240101ALN20240801BHJP
【FI】
G01C21/28
G01C22/00
G05D1/24
G05D1/43
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090513
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2022163130の分割
【原出願日】2015-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】新原 諒子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】金子 一嗣
(57)【要約】
【課題】任意の地物を利用して移動体の移動距離を推定する。
【解決手段】距離推定装置は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から2つの地物までの距離をそれぞれ取得するとともに、2つの地物間の距離を取得する。そして、その取得結果に基づき、第1時刻から第2時刻までの移動体の移動距離を算出する。こうして、移動体から計測できる任意の地物を利用して移動体の移動距離を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射された光の地物による反射光を受光することにより、前記地物までの距離を取得する第1取得部と、
前記第1取得部によって距離が取得された2つの地物について、当該2つの地物間の距離を取得する第2取得部と、
前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、第1時刻から第2時刻までの移動体の移動距離を算出する算出部と、
を備えることを特徴とする距離推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の移動距離を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の所定期間における移動距離を推定することにより、移動体に搭載された車速センサを補正する手法が例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、補正装置は、画像認識手段により地物Aを認識してから地物Bを認識するまでの車速センサの出力パルス数を検出するとともに、地図情報から地物Aと地物Bとの距離Dを取得する。そして、補正装置は、出力パルス数と距離Dとの関係に基づいて、出力パルス数から車両の走行距離又は走行速度を求める演算式を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、画像認識手段により一度に1つの地物しか認識できず、道路に描かれた標識のように、車両が走行している道路上の地物しか利用することができない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のものが例として挙げられる。本発明は、任意の地物を利用して移動体の移動距離を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、距離推定装置であって、出射された光の地物による反射光を受光することにより、前記地物までの距離を取得する第1取得部と、前記第1取得部によって距離が取得された2つの地物について、当該2つの地物間の距離を取得する第2取得部と、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、第1時刻から第2時刻までの移動体の移動距離を算出する算出部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例に係る距離係数更新処理を示すフローチャートである。
【
図2】2つの地物と移動車両との位置関係の例を示す。
【
図5】逐次計算により平均パルス幅を求める処理のフローチャートである。
【
図6】地物の3次元位置を車両の水平面に投射する方法を示す。
【
図7】地物の3次元位置を車両の水平面に投射する他の方法を示す。
【
図8】第1実施例に係る距離係数更新装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】第1実施例による距離係数更新処理のフローチャートである。
【
図10】第2実施例に係る距離係数更新装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】第2実施例による距離係数更新処理のフローチャートである。
【
図12】走行速度と単位時間のパルス数との関係、及び、走行速度とパルス幅との関係を示す。
【
図13】3つの地物と移動車両との位置関係の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の好適な実施形態では、距離推定装置は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から2つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得部と、前記2つの地物間の距離を取得する第2取得部と、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出部と、を備える。
【0009】
上記の距離推定装置は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から2つの地物までの距離をそれぞれ取得するとともに、2つの地物間の距離を取得する。そして、その取得結果に基づき、第1時刻から第2時刻までの移動体の移動距離を算出する。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
【0010】
本発明の他の好適な実施形態では、距離推定装置は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から少なくとも3つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得部と、前記少なくとも3つの地物間の距離をそれぞれ取得する第2取得部と、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出部と、を備える。
【0011】
上記の距離推定装置は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から少なくとも3つの地物までの距離をそれぞれ取得するとともに、少なくとも3つの地物間の距離をそれぞれ取得する。そして、その取得結果に基づき、第1時刻から第2時刻までの移動体の移動距離を算出する。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
【0012】
上記の距離推定装置の一態様では、前記算出部は、前記第1時刻から前記第2時刻までの移動距離と、車速パルス信号の平均パルス幅とに基づいて、前記車速パルス信号の1パルスあたりの移動距離を算出する。これにより、算出した移動距離に基づいて、車速パルス信号のキャリブレーションなどを行うことができる。
【0013】
上記の距離推定装置の他の一態様では、前記算出部は、前記移動体のヨー方向の角速度又は操舵角が所定の閾値未満であるときに前記移動距離を算出する。これにより、移動距離の算出精度を向上させることができる。
【0014】
上記の距離推定装置の好適な例では、前記第2取得部は、前記第1取得部が取得した2つの地物までの距離、及び、前記移動体の進行方向と前記2つの地物それぞれの方向とがなす角に基づいて、前記2つの地物間の距離を取得する。他の好適な例では、前記第2取得部は、地図情報に基づいて、前記2つの地物間の距離を取得する。
【0015】
上記の距離推定装置の他の一態様では、前記算出部は、前記移動体の走行速度に応じて、前記第1時刻から前記第2時刻までの時間間隔を変化させる。これにより、移動距離の算出精度を向上させることができる。好適には、前記算出部は、前記移動体の走行速度が速いほど前記時間間隔を短くする。
【0016】
本発明の他の好適な実施形態では、距離推定装置により実行される距離推定方法は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から2つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得工程と、前記2つの地物間の距離を取得する第2取得工程と、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出工程と、を備える。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
【0017】
本発明の他の好適な実施形態では、距離推定装置により実行される距離推定方法は、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から少なくとも3つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得工程と、前記少なくとも3つの地物間の距離をそれぞれ取得する第2取得工程と、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出工程と、を備える。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
【0018】
本発明の他の好適な実施形態では、コンピュータを備える距離推定装置によって実行されるプログラムは、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から2つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得部、前記2つの地物間の距離を取得する第2取得部、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出部、として前記コンピュータを機能させる。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
【0019】
本発明の他の好適な実施形態では、コンピュータを備える距離推定装置によって実行されるプログラムは、第1時刻及び第2時刻それぞれにおける移動体から少なくとも3つの地物までの距離をそれぞれ取得する第1取得部、前記少なくとも3つの地物間の距離をそれぞれ取得する第2取得部、前記第1取得部及び前記第2取得部の取得結果に基づき、前記第1時刻から前記第2時刻までの前記移動体の移動距離を算出する算出部、として前記コンピュータを機能させる。これにより、移動体から計測できる任意の地物を利用して、移動体の移動距離を算出することができる。
上記のプログラムは、記憶媒体に記憶して利用することができる。
【実施例0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。以下では、本発明の距離推定手法により得られた移動体の移動距離を、車両の車速パルスのキャリブレーションに使用する実施例について説明する。
【0021】
[背景]
現在のカーナビゲーション装置などに搭載されている自己位置推定システムでは、車速センサを用いて車速を検出し、角速度センサあるいは操舵角センサを用いて進行方向を検出することで、車両の移動状況を計測し、これらをGPSや外界センサで計測した情報と統合することで現在位置を推定している。よって、自己位置推定精度を向上させるために、車速を高精度に検出することが求められている。
【0022】
車速センサは、例えば、トランスミッションの出力軸または車輪の回転速度に比例した時間間隔で車速パルス信号を出力する。そして、下記の式(1)に示すように、距離係数αdをパルス幅tpで除することで車速vを計算できる。この距離係数αdは車速パルス信号の1パルスあたりの移動距離である。
【0023】
【0024】
1パルスあたりの移動距離は、車種によって異なる。また、タイヤの空気圧の変化やタイヤの交換などによりタイヤの外径が変化すると、1パルスあたりの移動距離も変化する。さらに、1パルスあたりの移動距離は走行速度によっても変化する。通常、走行抵抗により、車速パルスから求まる車輪速度と実際の車体速度に差が生じる。高速走行時は低速走行時に比べて走行抵抗が大きくなるため、車輪速度と車体速度の速度差も、低速走行時に比べて高速走行時の方が大きくなる。従って、高速走行時と低速走行時では1パルスあたりの移動距離が異なる。以上より、車速を高精度に求めるためには距離係数は適宜キャリブレーションし、更新する必要がある。
【0025】
従来は、距離係数のキャリブレーションを行う際に、リファレンスとしてGPSから得られる情報を利用してきた。例えば、GPSから得られるGPS位置によって求まる車両の移動距離ΔDと車速パルス数nを用いて、下記の式(2)により1パルスあたりの移動距離dpを算出し、常時、平均化処理を施すことにより補正を行うという方法がある。
【0026】
【0027】
しかし、条件によってはリファレンスであるGPS情報自身に大きな誤差を含む場合があり、大きな誤差を含むGPS情報をリファレンスとしてキャリブレーション計算を行うと、真値からずれた距離係数となってしまうという問題がある。リファレンスとなるGPS情報をより正確に得るには条件を厳しくすれば良いのだが、条件を厳しくすればする程、リファレンス情報を得る回数が減るので、キャリブレーションの進みが遅くなる、という相反する問題が出てくる。
[距離係数更新処理]
【0028】
以上の観点より、本実施例に係る距離係数更新装置(以下、単に「更新装置」とも呼ぶ。)は、GPS情報をリファレンスとせずに、外界センサによる地物の計測に基づいて車両の移動距離を計算し、車速パルス信号のキャリブレーションのリファレンスとして使用する。外界センサとしては、カメラやLiDAR(Light Detection And Ranging)、ミリ波レーダーなどを用いることができる。
【0029】
図1は、実施例に係る距離係数更新処理を示すフローチャートである。まず、工程P1では、更新装置は、時刻T
1において、外界センサを用いて2つの地物を計測する。次に、工程P2では、更新装置は、時刻T
1からΔT秒経過した時刻T
2において、時刻T
1で計測したものと同じ2つの地物を計測する。次に、工程P3では、更新装置は、2つの地物間の相対距離を取得する。
【0030】
次に、工程P4では、更新装置は、時刻T1及び時刻T2で取得した、各時刻における車両中心位置から各地物までの距離と、各地物間の相対距離を用いて、時刻T1から時刻T2までの車両の移動距離ΔDを算出する。
【0031】
次に、工程P5では、更新装置は、時刻T1から時刻T2の間の車速パルス信号の平均パルス幅tpと、時刻T1から時刻T2までの経過時間ΔTと、工程P4で求めた時刻T1から時刻T2までの車両の移動距離ΔDとを用いて、1パルスあたりの移動距離dpを算出する。そして、工程P6では、更新装置は、工程P5及びP6で求めた1パルスあたりの移動距離dpを用いて、距離係数αdを更新する。
【0032】
次に、上記の距離係数更新処理の各工程について詳しく説明する。
(1)地物間の距離の取得(工程P1~P3)
図2は、2つの地物と移動中の車両との位置関係の一例を示す。時刻T
1から時刻T
2の間に車両が
図2に示すように移動したとする。まず、更新装置は、時刻T
1において地物1及び地物2を検出し、車両から地物1までの距離L
1及び車両の進行方向Hdと地物1のなす角度φ
1、並びに、車両から地物2までの距離L
2及び車両の進行方向Hdと地物2のなす角度φ
2を取得する(工程P1)。このとき、地物1と地物2の相対距離Lは、L
1、L
2、φ
1、φ
2を用いて次のように計算できる(工程P3)。
【0033】
【0034】
次に、更新装置は、時刻T2においても時刻T1と同様に地物1及び地物2を検出し、車両から地物1までの距離L´1及び車両の進行方向Hd´と地物1のなす角度φ´1、並びに、車両から地物2までの距離L´2及び車両の進行方向Hd´と地物2のなす角度φ´2を取得する(工程P2)。このとき、時刻T1と同様に、L´1、L´2、φ´1、φ´2を用いて地物間の相対距離を計算することができる。時刻T2で計算される地物間の相対距離L´は、以下の式により得られる(工程P3)。
【0035】
【0036】
後述の工程P4において車両の移動距離ΔDを計算する際は、更新装置は、地物間の相対距離LとL´のどちらかを使用する。もしくは、更新装置は、次の式により相対距離LとL´の平均値Laveを算出して使用しても良い。
【0037】
【数5】
なお、以下の説明では、地物間の相対距離を「L」として説明する。
【0038】
上記の例では、工程P3において、外界センサによる地物計測結果に基づいて地物間の相対距離L(以下、「地物間距離L」とも呼ぶ。)を演算により求めているが、高精度地図が使用できる場合には、高精度地図のデータから地物間距離Lを取得しても構わない。外界センサによる地物計測結果から地物間距離Lを算出する場合は地物の計測精度によって地物間距離Lが変わってしまう。つまり、計測精度が悪いと、算出される地物間距離Lの精度も悪くなり、後で計算する車両の移動距離ΔDの精度も悪化する。この点、高精度地図を用いると、地物間距離Lを高精度に得ることができるので、車両の移動距離ΔDの精度を向上させることができる。
【0039】
(2)移動距離ΔDの算出(工程P4)
次に、更新装置は、時刻T
1で取得した距離L
1、L
2と、時刻T
2で取得した距離L´
1、L´
2と、地物間の相対距離Lとを用いて、時刻T
1から時刻T
2までの車両の移動距離ΔDを算出する。
図3は、移動距離ΔDの算出方法を示す。
図3において、角度αは余弦定理により以下のように求められる。
【0040】
【数6】
同様に、角度βは余弦定理により以下のように求められる。
【0041】
【数7】
従って、移動距離ΔDは、余弦定理により以下のように求められる。
【0042】
【0043】
なお、上記の例では、
図3における地物2側の角度α、βを用いて移動距離ΔDを算出しているが、その代わりに、地物1側の角度α´、β´を用いて移動距離ΔDを算出してもよい。また、上記の方法によりそれぞれ算出した移動距離ΔDの平均値を算出してもよい。
【0044】
(3)1パルスあたりの移動距離dpの計算(工程P5)
次に、更新装置は、時刻T1から時刻T2までのΔT秒間における車両の移動距離ΔDと、車速パルス信号の平均パルス幅tpとを用いて、以下のように、1パルスあたりの移動距離dpを算出する。
【0045】
【0046】
図4は、平均パルス幅t
pを説明する図である。平均パルス幅t
pは、時刻T
1から時刻T
2の間に計測したパルス幅をバッファリングしておき、下記の式(11)のように平均をとることにより計算できる。
【0047】
【0048】
その代わりに、平均パルス幅は、式(11)を用いた逐次計算によっても求めることができる。逐次計算により平均パルス幅を求める場合には、計測したパルス幅をバッファリングする必要がないので、装置内のメモリ使用量を削減することができる。
【0049】
【0050】
図5は、逐次計算により平均パルス幅を求める処理のフローチャートである。まず、時刻T=T
1において、更新装置は、検出されたパルス数を示す係数kを「0」にリセットし(ステップS51)、現在時刻Tを取得する(ステップS52)。次に、更新装置は、現在時刻Tが時刻T
2になったか否かを判定する(ステップS53)。
【0051】
現在時刻Tが時刻T2になっていない場合(ステップS53:NO)、更新装置は車速パルス信号を検出し、そのパルス幅tkを取得する(ステップS54)。次に、更新装置は、係数kを1増加させ(ステップS55)、係数k=1であるか否かを判定する(ステップS56)。
【0052】
係数k=1である場合(ステップS56:YES)、そのパルス幅tkを平均パルス幅tpに代入し(ステップS58)、ステップS52へ戻る。一方、係数k=1でない場合(ステップS56:NO)、更新装置は、式(11)により、その時点における平均パルス幅tpと今回のパルス幅tkとの差分を係数kで除した値(tk-tp)/k、即ち、今回のパルス幅tkによる平均パルスtpの変動分をその時点の平均パルス幅tpに加算して平均パルス幅tpを更新し、ステップS52へ戻る。そして、ステップS53において、現在時刻Tが時刻T2になった場合(ステップS53:YES)、処理は終了する。
【0053】
(4)距離係数αdの更新(工程P6)
次に、更新装置は、工程P5で得られた移動距離dpを用いて、距離係数αdを更新する。具体的には、得られた移動距離dpを新たな距離係数αdとする。なお、こうして得られた更新後の距離係数αdは、式(1)による車速vの算出などに使用される。
【0054】
(5)地物の3次元位置を車両の水平面に投射する手法
上記の説明は、路面を平面であると仮定し、車両は平面内を移動し、地物は車両と同一平面内にあるとみなすことにより成り立つものである。しかし、道路標識や信号機のように、実環境における地物の多くは空間内に高さを持って存在する。そこで、地物の3次元座標を車両の水平面に投射することにより、上記と同様の手法で車両の移動距離を算出することができる。この手法について以下に説明する。
【0055】
ここで、
図6(B)に示すように車両座標系(XYZ座標系)を定めるものとする。ここで、X軸は車両の進行方向を示し、Y軸は車両の水平面内で車両の進行方向に垂直な方向を示し、Z軸は車両の高さ方向を示す。
【0056】
(i)地物の3次元位置を取得できる場合
地物の3次元位置の計測が可能な外界センサを用いて地物の3次元座標を取得できる場合、又は、地図データに地物の3次元座標のデータが含まれている場合に、
図6(C)に示すように、車両座標系における地物の3次元座標Pが取得できたとする。
【0057】
このとき、点PからXY平面へ下ろした垂線の足を点P’とおくと、線分OP’の長さLxy、及び、線分OP’とX軸とのなす角φxyは次のように計算できる。
【0058】
【0059】
従って、工程P1~P4における処理では、式(12)を用いて水平距離Lxy及び角度φxyを求め、使用すれば良い。具体的には、工程P1においては、水平距離L1xy、L´2xy及び角度φ1xy、φ2xyを求める。同様に、工程P2においては、水平距離L´1xy、L´2xy及び角度φ´1xy、φ´2xyを求める。そして、これらに基づいて、工程P3で地物間距離L及びL´を求め、工程P4で移動距離ΔDを求める。
【0060】
(ii)地物までの距離と角度を取得できる場合
地物までの距離と角度を計測可能な外界センサを用いて、
図7に示すように、車両から地物までの距離L、車両の進行方向(車両座標系のX軸)に対する地物の方位角φ
xy、車両の水平面(車両座標系のXY平面)に対する地物の仰角φ
xyzが取得できたとする。
【0061】
このとき、点PからXY平面へ下ろした垂線の足を点P’とおくと、線分OP’の長さLxyは次のように計算できる。
【0062】
【数13】
よって、工程P1~P4における処理では、(i)と同様に、式(13)によって求められる水平距離L
xy及び角度φ
xyを使用すればよい。
【0063】
[第1実施例]
次に、上記の更新装置の第1実施例について説明する。
図8は、第1実施例に係る更新装置1の構成を示すブロック図である。第1実施例では、更新装置1は、外界センサによる2つの地物の計測結果に基づいて、演算により地物間距離Lを求める。
【0064】
図示のように、更新装置1は、ジャイロセンサ10と、車速センサ11と、外界センサ12と、進行方向取得部13と、車速パルス計測部14と、地物計測部15と、地物間距離計算部16と、距離係数校正部17と、移動距離計算部18とを備える。なお、進行方向取得部13、車速パルス計測部14、地物計測部15、地物間距離計算部16、距離係数校正部17、及び、移動距離計算部18は、CPUなどのコンピュータが予め用意されたプログラムを実行することにより実現することができる。
【0065】
進行方向取得部13は、ジャイロセンサ10の出力に基づいて車両の進行方向Hdを取得し、地物計測部15及び距離係数校正部17に供給する。車速パルス計測部14は、車速センサ11から出力される車速パルスを計測し、車速パルス信号の平均パルス幅tpなどを算出して距離係数校正部17に供給する。
【0066】
外界センサ12は、例えばカメラ、LiDAR、ミリ波レーダーなどであり、地物計測部15は、外界センサ12の出力に基づいて地物までの距離を計測する。具体的には、地物計測部15は、時刻T1において、車両から2つの地物までの距離L1、L2を測定するとともに、進行方向取得部13から供給された車両の進行方向Hdと2つの地物の方向とのなす角φ1、φ2を算出し、地物間距離計算部16及び移動距離計算部18に供給する。また、地物計測部15は、時刻T2において、車両から2つの地物までの距離L´1、L´2を測定するとともに、進行方向取得部13から供給された車両の進行方向Hd´と2つの地物の方向とのなす角φ´1、φ´2を算出し、地物間距離計算部16及び移動距離計算部18に供給する。
【0067】
地物間距離計算部16は、地物計測部15が計測した2つの地物についての距離L1、L2及び角度φ1、φ2に基づいて、前述の式(3)により地物間距離Lを算出して移動距離計算部18へ供給する。
【0068】
移動距離計算部18は、地物計測部15から供給された距離L1、L2、L´1、L´2、及び、地物間距離計算部16が算出した地物間距離Lに基づいて、前述の式(6)~(8)により、車両の移動距離ΔDを算出して距離係数校正部17に供給する。
【0069】
距離係数校正部17は、車速パルス計測部14から供給された平均パルス幅tpと、移動距離計算部18から供給された移動距離ΔDとに基づいて、1パルスあたりの移動距離dp(即ち、距離係数αd)を算出する。求めた1パルスあたりの移動距離から、車体速度を算出してもよい。
【0070】
次に、第1実施例による距離係数更新処理について説明する。
図9は、第1実施例による距離係数更新処理のフローチャートである。
【0071】
まず、更新装置1は、進行方向取得部13が出力する車両の進行方向などに基づいて、車両が直進走行しているが否かを判定する(ステップS11)。これは、車両が直進走行していない場合は、移動距離計算部18が出力する移動距離ΔDの精度が低下するからである。具体的に、ジャイロセンサ10が車両のヨー方向の角速度ωを検出できる場合には、|ω|<Δω(Δω:所定の閾値)の場合に車両が直進走行していると判定してもよい。また、車両の操舵角δを検出できる場合には、|δ|<Δδ(Δδ:所定の閾値)の場合に車両が直進走行していると判定してもよい。
【0072】
車両が直進走行していない場合(ステップS11:NO)、処理は終了する。一方、車両が直進走行している場合(ステップS11:YES)、更新装置1は、2つの地物1、2を計測し(ステップS12)、その相対距離Lを計算する(ステップS13)。
【0073】
次に、更新装置1は、flag=0であるか否かを判定する(ステップS14)。なお、「flag」は、処理の開始時に「0」にリセットされている。flag=0である場合(ステップS14:YES)、更新装置1はflagに「1」をセットし(ステップS15)、平均パルス幅tpの計算を開始して(ステップS16)、ステップS11へ戻る。
【0074】
一方、flag=0でない場合(ステップS14:NO)、更新装置1は、前述のように移動距離ΔDを算出し(ステップS17)、移動距離ΔDを用いて1パルスあたりの移動距離dpを算出し(ステップS18)、距離係数αdを更新する(ステップS19)。そして、処理を終了する。
【0075】
[第2実施例]
次に、上記の更新装置の第2実施例について説明する。
図10は、第2実施例に係る更新装置1xの構成を示すブロック図である。更新装置1xは、高精度地図データを記憶した地図データベース(DB)19を備える点で第1実施例の更新装置1と異なるが、それ以外の構成要素は第1実施例の更新装置1と同様であるので説明を省略する。
【0076】
第2実施例の更新装置1xにおいては、地物間距離取得部16は、地
図DB19内に記憶されている高精度地図データを利用して、2つの地物の地物間距離Lを取得する。
【0077】
図11は、第2実施例に係る距離係数更新処理のフローチャートである。
図9に示す第1実施例の距離係数更新処理と比較すると、第2実施例に係る距離係数更新処理では、第1実施例のステップS13の代わりに、ステップS26で地
図DBから地物間距離Lを取得する点が異なるが、それ以外の点は基本的に第1実施例に係る距離係数更新処理と同様である。具体的には、第2実施例の距離係数更新処理におけるステップS21~22、S23~25、S27~29は、それぞれ第1実施例の距離係数更新処理におけるステップS11~12、S14~16、S17~S19と同一である。
【0078】
[地物計測周期]
上記の距離係数更新処理において求められる1パルスあたりの移動距離dpは、時刻T1から時刻T2までの時間間隔ΔTの間の1パルスあたりの移動距離の平均値である。そのため、時間間隔ΔTの間のパルス幅の変動が大きいと、算出される移動距離dpの精度が悪化する。従って、時間間隔ΔTの間のパルス数はできるだけ少ないことが望ましい。
【0079】
単位時間あたりのパルス数は車両の走行速度によって異なる。例えば、
図12(A)に示すように、1秒間あたりのパルス数を考える。タイヤ1回転あたり2パルス出力される車種では、1秒間あたりのパルス数は、時速10kmでは3パルス、時速50kmでは17パルス、時速100kmでは35パルスであり、走行速度によって大きな差がある。
【0080】
そこで、外界センサの計測周期や車種を鑑みて、走行速度に応じて時間間隔ΔTを変化させれば、パルス幅の変動による移動距離d
pの精度の悪化を抑制できる。
図12(B)は走行速度とパルス幅との関係を示す。例えば、外界センサの計測周期が50ms(20Hz)で1回転あたり2パルス出力される車種の場合、走行速度が時速20km未満のときはΔT=300ms、時速20km以上時速30km未満のときはΔT=200ms、時速30km以上時速60km未満のときはΔT=100ms、時速60km以上のときはΔT=50msとすると、時間間隔ΔTの間に計測できるパルス数が1パルスもしくは2パルス程度となり、高精度に移動距離d
pを計算することができる。
【0081】
[変形例]
(変形例1)
上記の距離係数更新処理では2つの地物を計測しているが、同時に3つ以上の地物を計測できた場合には、移動距離ΔDを複数通り計算し、それらを平均した値を距離係数の更新に使用することができる。
【0082】
例えば、地物を3個計測できた場合、
図13に示すように、地物1と地物2、地物2と地物3、地物3と地物1の組み合わせを選ぶことができる。それぞれの組み合わせにおいて、前述の工程P1~P3の方法で時刻T
1から時刻T
2の間の移動距離を計算する。地物1と地物2の組み合わせにより得られた移動距離をΔD
12とし、地物2と地物3の組み合わせにより得られた移動距離をΔD
23とし、地物3と地物1の組み合わせにより得られた移動距離をΔD
31とすると、以下のようにこれらを平均した値を移動距離ΔDとして使用することができる。
【0083】
【0084】
これにより、移動距離ΔDの精度を統計的に向上させることができ、1パルスあたりの移動距離の精度も向上する。
【0085】
(変形例2)
上記の第1実施例では2つの地物の計測結果から地物間距離Lを算出しており、第2実施例では地図データを用いて地物間距離Lを取得しているが、両者を組み合わせて使用してもよい。例えば、高精度地図データが存在するエリアにおいては高精度地図データを使用して地物間距離Lを求め、高精度地図データが存在しないエリアでは地物の計測結果から地物間距離を求めてもよい。また、車両の状況に応じて、いずれか精度の高い方で得られた地物間距離Lを用いることとしてもよい。
【0086】
(変形例3)
図9のステップS11及び
図11のステップS21に示されるように、実施例の距離係数更新処理では、基本的に車両が直進走行しているときに距離係数の更新を行う。但し、現実には車両は直進走行しているように見えても、厳密には直進しておらず、微少なふらつきがある。よって、工程P4で求められる移動距離ΔDは、実際の移動距離ではなく近似値となる。このため、時間間隔ΔTが大きすぎると、実際の移動距離と工程P4で計算される移動距離との差が大きくなってしまう。この観点から、時刻T
1から時刻T
2までの時間間隔ΔTをできる限り小さくすることが望ましい。
【0087】
(変形例4)
外界センサを車両の低い位置に取り付けると、周囲の車両によりオクルージョンが増え、距離係数の更新に好適な地物を検出できる頻度が減ってしまうと考えられる。よって、外界センサを、周囲の車両の高さよりも上方を計測できるように設置することが好ましい。これにより、地物の検出頻度が増加し、距離係数の更新回数が増加するため、距離係数の精度を向上させることができる。