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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107120
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/048 20140101AFI20240801BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
H01L31/04 560
C09K3/10 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091354
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2021020927の分割
【原出願日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2020129359
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【弁理士】
【氏名又は名称】池見 智治
(74)【代理人】
【識別番号】100130166
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】矢田 伸二
(57)【要約】
【課題】高温、高湿の環境に対する耐久性について改善した太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、封止材と、透光性基板と、を有する。封止材は、太陽電池セルの上に位置する。透光性基板は、封止材の上に位置する。封止材は、主剤と、第1添加剤としての受酸剤と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有している。透光性基板から離れた封止材の内層部の損失係数が0.13未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池セルと、
前記太陽電池セルの上に位置する封止材と、
前記封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、
前記封止材は、主剤と、第1添加剤としての受酸剤と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、
前記透光性基板から離れた前記封止材の内層部の損失係数が0.13未満であることを特徴とする太陽電池モジュ-ル。
【請求項2】
太陽電池セルと、
前記太陽電池セルの上に位置する封止材と、
前記封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、
前記封止材は、主剤と、第1添加剤としての金属水酸化物と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、
前記透光性基板から離れた前記封止材の内層部の損失係数が0.13未満であることを特徴とする太陽電池モジュ-ル。
【請求項3】
太陽電池セルと、
前記太陽電池セルの上に位置する封止材と、
前記封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、
前記封止材は、主剤と、第1添加剤としての金属酸化物と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、
前記透光性基板から離れた前記封止材の内層部の損失係数が0.13未満であることを特徴とする太陽電池モジュ-ル。
【請求項4】
太陽電池セルと、
前記太陽電池セルの上に位置する封止材と、
前記封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、
前記封止材は、主剤と、第1添加剤としての炭酸塩と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、
前記透光性基板から離れた前記封止材の内層部の損失係数が0.13未満であることを特徴とする太陽電池モジュ-ル。
【請求項5】
前記封止材の貯蔵弾性率が、0.036GPa以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の太陽電池モジュ-ル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、太陽電池セルを封止材で封止して構成されている(例えば、特許文献1と特許文献2の記載を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-40951号公報
【特許文献2】特開2008-205448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太陽電池モジュールは、高温、高湿の環境に対する耐久性について改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態に係る太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、太陽電池セルの上に位置する封止材と、封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、封止材は、主剤と、第1添加剤としての受酸剤と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、透光性基板から離れた封止材の内層部の損失係数が0.13未満である。
【0006】
また、本開示の一実施形態に係る太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、太陽電池セルの上に位置する封止材と、封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、封止材は、主剤と、第1添加剤としての金属水酸化物と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、透光性基板から離れた封止材の内層部の損失係数が0.13未満である。
【0007】
また、本開示の一実施形態に係る太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、太陽電池セルの上に位置する封止材と、封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、封止材は、主剤と、第1添加剤としての金属酸化物と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、透光性基板から離れた封止材の内層部の損失係数が0.13未満である。
【0008】
また、本開示の一実施形態に係る太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、太陽電池セルの上に位置する封止材と、封止材の上に位置する透光性基板と、を有し、封止材は、主剤と、第1添加剤としての炭酸塩と、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分と、を有しており、透光性基板から離れた封止材の内層部の損失係数が0.13未満である。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態に係る太陽電池モジュールは、高温高湿の環境に設置された場合であっても、劣化しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本開示の一形態に係る太陽電池モジュールの一例を模式的に示す図面であり、図1(a)は受光面側からみた太陽電池モジュールの平面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA-A線で切断した断面図である。
図2図2は本開示の一形態に係る太陽電池モジュールの分解斜視図であり、図2(a)は複数の太陽電池セルをインターコネクタおよび接続配線で接続して成る太陽電池セル群を示す斜視図であり、図2(b)は透光性基板、第1封止材、太陽電池セル群、第2封止材及び裏面保護材からなるモジュール積層体の積層状態を説明する分解斜視図である。
図3図3は本開示の一形態に係る太陽電池モジュールの製造方法のうちの、積層工程の様子を示す図であり、図3(a)はラミネート装置内にモジュール積層体を載置する様子を示す概略図であり、図3(b)はラミネート装置内でモジュール積層体を加圧する様子を示す概略図である。
図4図4は本開示の太陽電池モジュールの製造方法のうちの、架橋工程における時間と温度の関係を示す図である。
図5図5は太陽電池モジュールにおいて透光性基板から封止材が剥離する様子を、構造式を用いて示す図である。
図6図6は本開示の太陽電池モジュールの実施例について、FT-IR装置を用いて計測したイソシアヌレート成分のFT-IRイメージングを示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
太陽電池モジュールには、一般に主剤としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する封止材が用いられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体は、加水分解で生じる酢酸により、太陽電池セルなどを腐食損傷させるという欠点を有する。具体的に、加水分解で生じた酢酸は、太陽電池セルの電極と半導体シリコン間のコンタクトガラス層を腐食させる場合がある。そのため、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた太陽電池モジュールは、高温環境下の使用において絶縁不良を生じ、太陽電池モジュールの発電性能が低下するおそれがある。そこで、封止材に受酸剤(Mg(OH)2)を添加することにより、酢酸を中和することで太陽電池セルの電極と半導体シリコン間のコンタクトガラス層の腐食損傷を低減する技術が知られている(特許文献1参照)。また、封止材にトリアリルイソシアヌレートなどの架橋助剤を添加することで、封止材の体積抵抗率を高めて絶縁不良の発生を抑制し、太陽電池モジュールの発電性能の低下を低減できる技術が知られている(特許文献2参照)。
【0012】
しかし、太陽電池モジュールが湿熱ストレスの比較的強い高温多湿の環境に設置された場合、受酸剤を有する封止材は、水分の存在下で受酸剤が電離することで水酸化物イオン(OH-)を生成することが知られている。この水酸化物イオン(OH-)が過剰になると、封止材を構成する高分子の結合が切断される(塩基性加水分解反応)。これにより、封止材の接着力が低下する。そのため、この高分子結合の切断が太陽電池モジュールの透光性基板と封止材の接着界面付近で生じると、接着強度の低下が生じ、透光性基板から封止材が剥離するおそれがある。
【0013】
今後、東南アジア地域やインドなどに代表されるような熱帯や亜熱帯などの高温多湿の環境に太陽電池モジュールを設置する場合、上述の剥離が生じにくい太陽電池モジュールが必要になる。
【0014】
そこで、本開示の発明者は、高温多湿の環境下で接着強度が低下しにくい太陽電池モジュールに関する技術を創出した。以下に、本開示の一形態に係る太陽電池モジュールの実施形態の一例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図面は模式的に示したものであるので、図面における各構成の寸法比および位置関係等は必ずしも正確ではない。
【0015】
<<太陽電池モジュール構成>>
本開示の一つの実施形態に係る太陽電池モジュールXについて、図1図2に基づいて説明する。以下において、太陽電池モジュールXの主面に対する法線方向のうち、主に光を受光する側を受光面側と呼び、受光面側の裏の側を裏面側と呼ぶものとする。
【0016】
本開示の一つの実施形態に係る太陽電池モジュールXは、透光性基板1と、第1封止材2aと、インターコネクタ5および接続配線6で互いに電気的に接続された太陽電池セル3と、第2封止材2bと、裏面保護材4とが、順次積まれて構成されている。
【0017】
太陽電池モジュールXは、例えば、裏面保護材4の外側に太陽電池セル3で発電された電力を外部に取り出すための端子ボックス7を備えている。また、太陽電池モジュールXは、例えば、太陽電池モジュールXの外周を保護するフレーム8を備えてもよい。
【0018】
本開示の一つの実施形態の太陽電池モジュールXにおいては、複数の太陽電池セル3同士が、インターコネクタ5および接続配線6で電気的に接続されて太陽電池セル群11を構成する。それ以外の形態として、太陽電池セル群11の代わりに大面積の1つの太陽電池セルを有するものであってもかまわない。
【0019】
次に、本実施形態の太陽電池モジュールXを構成する各構成要素について説明する。
【0020】
<透光性基板>
透光性基板1は、例えば、太陽電池セル3の受光面側を水等から保護することができる。透光性基板1は、例えば、特定範囲の波長の光に対する透光性を有していてもよい。特定範囲の波長としては、例えば、太陽電池セル3が光電変換し得る光の波長であってもよい。このような透光性基板1の素材は、例えば、硬質で透光性を有する基板であってもよい。硬質で透光性を有する基板は、例えば、ガラスや透明な合成樹脂であってもよい。ガラスとしては、例えば、青板ガラス(ソーダライムガラス)、青板ガラスから鉄分を除いた白板ガラス、硬質ガラスを用いてもよい。また、透明な合成樹脂としては、透明のポリカーボネート樹脂、透明のアクリル樹脂を用いてもよい。透光性基板1は、主として光が入射する受光面と、第1封止材2aと接着される裏面とを有している。透光性基板1の形状は、平板状に限定されず、用途に合わせて曲面を有する形状であってもよい。このような透光性基板1の厚みは、ガラスの場合は、例えば3mm程度であってもよいし、合成樹脂の場合は、例えば5mm程度であってもよい。
【0021】
<封止材>
封止材2は、第1封止材2aと第2封止材2bとを含む。以下において、第1封止材2aと第2封止材2bとをまとめて、封止材2とも呼ぶものとする。第1封止材2aは、透光性基板1と太陽電池セル群11の間に位置し、第2封止材2bは太陽電池セル群11と裏面保護材4の間に位置する。第1封止材2aは太陽電池セル群11の受光面側を保護し、第2封止材2bは太陽電池セル群11の裏面側を保護する。第1封止材2aは、第2封止材2bと接しており、透光性基板1と太陽電池セル群11とを接着している。また、第2封止材2bは、太陽電池セル群11と裏面保護材4とを接着している。
【0022】
第1封止材2aと第2封止材2bは、太陽電池セル群11および他の部材と積み重ねられ、ラミネート装置によって減圧下で加熱加圧を行なわれることで、融着して太陽電池セル群11および他の部材と一体化する。第1封止材2aは特定波長の光に対する透光性を有する。このため、太陽電池モジュールXの受光面側に照射される光が、透光性基板1と第1封止材2aを透過して太陽電池セル群11へ入射し得る。第2封止材2bは特定波長の光に対する透光性を有していてもよいし、特定波長の光に対する透光性を有していなくてもよい。第2封止材2bが特定波長の光に対する透光性を有していない場合、例えば、第2封止材2bは顔料を有していてもよい。換言すると第2封止材2bは、着色されていてもよい。このような第1封止材2aと第2封止材2bは、例えば、柔軟性を有するシート状の部材を採用することができる。また、第1封止材2aと第2封止材2bは異なる厚みであってもよい。第1封止材2aと第2封止材2bの厚みは、例えば、0.4~1mm程度であってもよい。
【0023】
なお、以下において透光性基板1と第1封止2aの接着により構成される界面を接着界面10と呼び、第1封止材2aのうち接着界面10の近傍の部分を接着部2a1または表層部2a1と呼び、接着部2a1よりも透光性基板1から遠い部分を内層部2a2と呼ぶものとする。
【0024】
<封止材の組成物>
封止材2は、主剤と、第1添加剤と、第2添加剤と、第3添加剤とを含む。以下で封止材2の各成分について詳述する。
【0025】
(主剤 エチレン-酢酸ビニル共重合体)
封止材2の主剤は、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体であってもよい。ここでエチレン-酢酸ビニル共重合体を主剤とするとは、封止材2中の全成分100重量部において、50重量部以上100重量部以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことを意味する。封止材2は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主剤とすることにより柔軟性を高められる。これにより太陽電池セル3は、太陽電池モジュールXに加わる荷重や衝撃から保護される。このようなエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点は、60℃付近であってもよい。封止材2中のエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、例えば、70重量部以上99.5重量部以下であってもよいし、また、例えば、90重量部以上99重量部以下であってもよい。
【0026】
(第1添加剤 受酸剤)
第1添加剤は、受酸剤である。受酸剤は、例えば、金属水酸化物、金属酸化物、炭酸塩のうち、いずれか1種以上を含んでいてもよい。金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄などであってもよい。また、金属酸化物は、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛などであってもよく、炭酸塩は、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどであってもよい。例えば、金属水酸化物として水酸化マグネシウムを、金属酸化物として酸化マグネシウムを、炭酸塩として炭酸カルシウムを用いることで、太陽電池モジュール内部の導線や電極に錆が発生しにくくすることができる。封止材2が第1添加剤を有することにより、太陽電池モジュールXはエチレン-酢酸ビニル共重合体より加水分解などで生じた酢酸を第1添加剤が中和することができる。これにより、太陽電池モジュールXは、酸による腐食損傷の発生が低減され得る。主剤の含有量を100重量部とした場合に、受酸剤の含有量は、例えば、0.05~2重量部であってもよい。
【0027】
(第2添加剤 イソシアヌレート成分)
第2添加剤は、架橋助剤である。架橋助剤は、例えば、官能基としてラジカル重合性基を有していてもよい。架橋助剤は、例えば、3官能のイソシアヌレート系の架橋助剤を用いてもよい。このような架橋助剤を本開示ではイソシアヌレート成分と呼ぶものとする。イソシアヌレート成分は、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリス[(メタ)アクリロイキシエチル]イソシアヌレートなどであってもよい。第2添加剤の架橋温度は、例えば、主剤であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点よりも高くてもよい。より具体的には、第2添加剤の架橋温度は、例えば、170℃付近であってもよい。
【0028】
イソシアヌレート成分は、組成に窒素を有することから架橋後の変形自由度が低いことが知られている。このため、イソシアヌレート成分は、封止材2の透水性を低減できる一方で、封止材2中の添加量が増えるにしたがって封止材2の柔軟性を低下させるおそれがある。このため、主剤の含有量を100重量部とした場合に、イソシアヌレート成分の含有量は、例えば、0.2~3重量部であってもよい。これにより、封止材2の柔軟性を保ちつつ、封止材2が太陽電池セル3を荷重や衝撃から保護することができる。
【0029】
(第3添加剤 (メタ)アクリレート成分)
第3添加剤は、(メタ)アクリレート成分である。なお、本開示において「(メタ)アクリレート成分」とは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0030】
(メタ)アクリレート成分としては、例えば、多官能アクリレート系架橋助剤であってもよい。多官能基アクリレート系架橋助剤とは、換言すると、分子内に複数個のアクリロイル基を有するモノマーである多官能アクリレート化合物である。より具体的には、多官能基アクリレート系架橋助剤は、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレートなどであってもよい。
【0031】
第3添加剤の架橋温度は、主剤であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点より高く、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の架橋温度より低くてもよい。より具体的には、第3添加剤の架橋温度は、例えば、125℃付近であってもよい。
【0032】
(メタ)アクリレート成分は、エチレン-酢酸ビニル共重合体に溶け込みにくい材料である。そのため、主剤の含有量を100重量部とした場合に、(メタ)アクリレート成分の含有量は、例えば、0.2~1.0重量部であってもよい。これにより、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分を封止材2に溶け込ませやすくすることができる。
【0033】
また、第2添加剤と第3添加剤の配合比は、例えば、10:90~90:10の範囲とすることができる。
【0034】
(その他の添加物)
本開示の組成物は、上記の主剤、第1添加剤、第2添加剤、第3添加剤のみに限られるものではない。すなわち、本開示の効果が損なわれない範囲で、種々の物性、例えば、機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等の改良あるいは調整を行ってもよい。そのため、本開示の組成物は、必要に応じて、接着向上剤(シランカップリング剤等)、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、老化防止剤アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、及び/又はエポキシ基含有化合物などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
<太陽電池セル群>
太陽電池セル群11は、入射される太陽光を電気に変換する機能を有している。本実施形態における太陽電池セル群11は、複数の太陽電池セル3をインターコネクタ5および接続配線6で電気的に接続してなるものである。太陽電池セル3としては、結晶系の太陽電池セルまたは薄膜系の太陽電池セルが採用され得る。図1および図2の例では、太陽電池セル3として結晶系の太陽電池セル3が採用されている。結晶系の太陽電池セル3の場合、例えば、厚み0.1~0.4mm程度の単結晶または多結晶の半導体シリコンを基体とするものを用いることができる。このような太陽電池セル3の内部にはpn接合が形成されている。そして、太陽電池セル3の受光面と裏面とには、それぞれ電極が設けられており、さらに、太陽電池セル3の受光面に反射防止膜を設けてもよい。太陽電池セル3の大きさは、結晶系の太陽電池セル3であれば150~220mm角程度である。このような太陽電池セル3は、インターコネクタ5および接続配線6によって、直列または並列等に電気的に接続されて太陽電池セル群11を構成している。
【0036】
<裏面保護材>
裏面保護材4は、透光性基板1と対向する状態で位置している。透光性基板1と裏面保護材4の間の領域には、封止材2で封止された太陽電池セル群11が位置している。このため、裏面保護材4は、太陽電池セル群11の裏面側を保護することができる。また、裏面保護材4は、裏面側から太陽電池セル3、第1封止材2aおよび第2封止材2bに水分が入り込むのを低減することができる。裏面保護材4は、例えば、特定範囲の波長の光に対する透光性を有してもよいし、特定範囲の波長に対する透光性を有しなくても良い。
【0037】
裏面保護材4として、例えば、板状の部材あるいは柔軟性を有するシート状の部材が採用される。このような裏面保護材4としては、例えば、透光性基板1と同様な素材が用いられても良く、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、ポリエチレンナフタレート(PEN)シートもしくはポリフッ化ビニル(PVF)シート、これらの積層物、アルミ箔を挟持した耐候性を有するフッ素系樹脂シート、または、アルミナもしくはシリカを蒸着したポリエチレンテレフタレ-ト(PET)シートなどが用いられてもよい。
【0038】
<インターコネクタおよび接続配線>
インターコネクタ5および接続配線6は、太陽電池セル3同士を電気的に接続する機能を有する。このようなインターコネクタ5および接続配線6は、形状および材質等は特に限定されないが、例えば、厚さ0.1mm程度、幅1mm~6mm程度の帯状の銅箔の全面をハンダコートしたものを、所定の長さに切断して、太陽電池セル3の電極上などにハンダ付してもよい。
【0039】
<端子ボックス>
端子ボックス7は、例えば、太陽電池セル3で得られた出力を外部に取り出すことができる。端子ボックス7としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)樹脂またはポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂の箱体と、この箱体内に配置されるターミナル板と、箱体の外部へ電力を導出する出力ケーブルとを有するものが採用される。
【0040】
<フレーム>
フレーム8は、透光性基板1の受光面側と裏面保護材4の裏面側を挟み込む形状の嵌合部を有する形状に、アルミニウム合金やプラスチックが成形されたものを採用し得る。
【0041】
<<太陽電池モジュールの製造方法>>
次に本開示の太陽電池モジュールXの製造方法について、図2から図4を用いて説明する。太陽電池モジュールXの製造方法は、先に行うものから順に準備工程と積層工程と架橋工程とを含む。
【0042】
<準備工程>
まず、図2に示すように太陽電池セル3をインターコネクタ5および接続配線6で一体化してなる太陽電池セル群11を形成する。そして、透光性基板1上に、第1封止材2a、太陽電池セル群11、第2封止材2b、裏面保護材4の順に積み重ねてモジュール積層体9を形成する。
【0043】
<積層工程>
図3(a)に示すように、モジュール積層体9を透光性基板1が下になるように、ラミネート装置20の下部ハウジング21a内の加熱プレート22上に載置し、上部ハウジング21bを下部ハウジング21a側へ下降させてハウジング21を閉じる。
【0044】
次に、図3(b)に示すようにモジュール積層体9を第1封止材2aおよび第2封止材2bの融点温度以上まで加熱しながら加圧する。より詳細には、モジュール積層体9を50~400Pa程度の減圧雰囲気下で、第1封止材2aおよび第2封止材2bの主剤の融点以上で且つ第2添加剤および第3添加剤の重合反応により示される発熱ピークの温度未満の温度(例えば、95℃~105℃程度)で10~15分間程度加熱しながら、ダイアフラム23によりモジュール積層体9全体をできるだけ均一に10~100KPa程度で押圧することで、第1封止材2aおよび第2封止材2bを軟化させるとともに、他の部材と接着させてモジュール積層体9を構成する各部材を一体化する。なお、架橋助剤の重合反応により示される発熱のピーク温度は、例えば示差走査熱量分析(DSC)により得ることができる。
【0045】
<架橋工程>
上記の積層工程まで経た後に、ラミネート装置20のハウジング21内を大気圧に戻す。このラミネートされたモジュール積層体9を架橋炉へ移して、封止材2の架橋度が少なくとも80%以上となるまで加熱する。架橋炉とは、モジュール積層体9を加熱することにより、封止材2を架橋処理するものであり、従来公知の熱風式加熱炉や赤外線式加熱炉などの加熱装置を用いることができる。なお、ラミネート装置20内を引き続き昇温することにより、ラミネート装置20を架橋炉の代替としてもよい。
【0046】
架橋助剤の架橋反応の速度は温度依存性があり、反応の進行は温度が高いほうが早い。また、架橋助剤の種類によって架橋反応の進行する温度域が異なる。そこで、架橋工程における温度と時間を管理することで、さらに効率的に第2添加剤の架橋後の濃度分布を調整することができる。
【0047】
この方法について、以下で説明する。
【0048】
第2添加剤であるイソシアヌレート成分の架橋反応の開始温度は約150℃~155℃で、架橋反応が最も強く生じる温度は約165℃~175℃である。
【0049】
また、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の架橋開始温度は約105℃~110℃であり、架橋反応の速度が最も強く生じる温度は約120℃~130℃である。
【0050】
以下において、架橋工程におけるモジュール積層体9を加熱する温度のうち、150℃~155℃の範囲の温度をイソシアヌレート成分の架橋反応の開始温度とも呼び、105℃~110℃の範囲の温度を(メタ)アクリレート成分の架橋開始温度とも呼ぶものとする。
【0051】
上記の第2添加剤が架橋を開始する温度は、示差走査熱量分析(DSC)から得られる温度と熱量の関係を示すグラフにおいて、第2添加剤の重合反応により熱量が発生し始める温度である。また、第2添加剤の架橋反応が最も強く生じる温度は、示差走査熱量分析(DSC)から得られる温度と熱量の関係を示すグラフにおいて、第2添加剤の重合反応により生じる熱量が最も大きいときの温度である。換言すると、第2添加剤の架橋反応が最も強く生じる温度は、第2添加剤の重合反応による発熱により生じる熱量がピークとなる、ピーク温度である。
【0052】
上記の第3添加剤が架橋を開始する温度は、示差走査熱量分析(DSC)から得られる温度と熱量の関係を示すグラフにおいて、第3添加剤の重合反応により熱量が発生し始める温度である。また第3添加剤の架橋反応が最も強く生じる温度は、示差走査熱量分析(DSC)から得られる温度と熱量の関係を示すグラフにおいて、第3添加剤の重合反応により生じる熱量が最も大きいときの温度である。換言すると、第3添加剤の架橋反応が最も強く生じる温度は、第3添加剤の重合反応による発熱の熱量がピークとなる、ピーク温度である。
【0053】
架橋工程は以下に述べる前半部分、中間部分、後半部分よりなる。
【0054】
前半部分は、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の架橋開始温度まで加熱する工程である。第1封止材2aおよび第2封止材2bの主剤であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の融点よりも高い温度に加熱することから、第2添加剤や第3添加剤などの高分子が、封止材2中を移動可能な状態となる。前半部分の昇温速度は、後述の中間部分および後半部分の昇温速度よりも大きい。例えば、前半部分における昇温速度は、0.6~1.0℃/秒とするとよい。架橋工程の前半部分の温度は、第2添加剤であるイソシアヌレート成分および第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の重合反応の開始する温度よりも低いことから、前半部分の昇温速度を大きくすることで第2添加剤と第3添加剤の架橋に影響を与えることなく、架橋工程に必要な時間を短くすることができる。
【0055】
中間部分は、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の架橋開始温度から、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の架橋開始温度まで昇温する工程である。中間部分において、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分が架橋反応を開始して、それに伴って第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の架橋により形成された架橋網目構造が形成される。これによって、第2添加剤(イソシアヌレート)が移動しにくくなる。このような中間部分の昇温速度は、前半部分の昇温速度よりも小さく、後述の後半部分の昇温速度よりも大きくするとよい。換言すると、架橋工程における、第2添加剤の架橋開始温度と第3添加剤の架橋開始温度の間の温度範囲における昇温速度は、前半部分の昇温速度よりも小さくてもよい。中間部分の昇温速度を後半速度より大きくすることにより、第2添加剤であるイソシアヌレート成分が架橋収縮で移動を開始するよりも早い段階で、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分の架橋網目構造が形成され、第2添加剤の移動を低減できる。具体的には、例えば中間部分における昇温速度は約0.2~0.4℃/秒としてもよく、時間は約110~220秒としてもよい。
【0056】
後半部分は、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の架橋開始温度である155℃以上の範囲で加熱する工程である。後半部分を経ることで、第2添加剤と第3添加剤の架橋がさらに進行して、封止材2の架橋度を80%以上まで高められる。後半部分において第2添加剤であるイソシアヌレート成分は架橋を開始し、化学的共有結合により複数分子の連結を始める。この際の架橋反応によって、第2添加剤であるイソシアヌレート成分を構成する分子間の距離が小さくなろうとする架橋収縮と呼ばれる現象を生じる。この現象が生じると第2添加剤であるイソシアヌレート成分を構成する分子は、第1封止材2aと透光性基板1との界面から第1封止材2aの内側へ向かって引き込まれて集まろうとするため、第1封止材2aの表層部2a1で低濃度となり、内層部2a2で高濃度になる。同様の現象は、第2封止材2bと裏面保護材4との間でも生じる。すなわち、両材の界面に接する第2封止材2bの表層部で、イソシアヌレート成分を構成する分子は低濃度となり、界面から遠い側の内層部で高濃度になる。
【0057】
しかし、前述のように第3添加剤である(メタ)アクリレート成分が先に架橋を開始して架橋網目構造を形成することで、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の分子が移動しにくくなる。これにより第1封止材2aと透光性基板1との接着界面10に接する第1封止材2aの表層部2a1中の第2添加剤であるイソシアヌレート成分の濃度低下を低減することができる。同様に第2封止材2bと裏面保護材4との接着界面10に接する第2封止材2bの表層部中の第2添加剤であるイソシアヌレート成分の濃度低下を低減することができる。
【0058】
後半部分の昇温速度は、前半部分および中間部分の昇温速度よりも低くするとよい。昇温速度を低くすることにより、モジュール積層体9の温度を加熱プレート22の温度に時間をかけて緩やかに近づけることができるため、過度に高い加熱プレート22の温度で局所的に封止材2に発泡を生じにくくすることができる。具体的には、例えば後半部分における昇温速度は0.05~0.1℃/秒にするとよい。また、第2添加剤であるイソシアヌレート成分と第3添加剤である(メタ)アクリレート成分が十分に重合反応して封止材2の架橋度を高めるために、後半部分の加熱時間は中間部分の加熱時間よりも長くしてもよい。具体的には、例えば200秒以上としてもよい。
【0059】
なお、前半部分中と中間部分中と後半部分中のそれぞれにおいて、昇温速度に変化がある場合は、前半部分と中間部分と後半部分との昇温速度は、前半部分と中間部分と後半部分のそれぞれにおける昇温速度の平均の速度を採用して比較するとよい。
【0060】
<作用及び効果>
本実施形態によれば、湿熱に起因する封止材2の接着強度の低下を低減し、信頼性を向上した太陽電池モジュールXを提供することができる。この作用および効果を以下で説明する。
【0061】
太陽電池モジュールが、エチレン-酢酸ビニル共重合体を主剤とする封止材2を有する場合、封止材2が加水分解されて生じた酢酸が太陽電池セル群11を腐食させるおそれがある。そこで、封止材2から生じた酢酸を中和するために、あるいは酢酸の発生増加自体を低減するために、受酸剤として機能する第1添加剤を添加する。
【0062】
しかし、第1添加剤を添加した場合、過度の湿熱で第1添加剤から生じた水酸化物イオンによって、透光性基板1と第1封止材2aとの間の接着強度の劣化や、第2封止材2bと裏面保護材4との間の接着強度の劣化が進みやすくなるおそれがある。
【0063】
このように、封止材2からの酢酸発生に伴う腐食が起こる可能性を低減する対策に加えて、封止材2の受酸剤自身に起因する劣化を低減する対策が必要になる。
【0064】
以下、封止材2の接着強度が受酸剤起因で劣化するメカニズムと、その対策方法ついて詳細に説明する。
【0065】
まず、湿度ストレスについてみると、被着体である透光性基板1と接着体である封止材2の接着界面10付近、すなわち封止材2の表層部は他の部分に比較して、水分が浸入しやすい部分である。水分が浸入すると、第1添加剤である金属水酸化物(水酸化マグネシウムなど)が水分を得て、電離し、水酸化物イオン(OH-)を生じ、透光性基板1と第1封止材2aの接着界面10の近傍の封止材2の表層部は塩基性条件となる。すると、図5に示すB-B線の位置で、金属水酸化物から生じた水酸化物イオンが第1封止材2a中のエステル結合を塩基性加水分解反応で切断する。エステル結合が切断されると、第1封止材2aと透光性基板1との接着部(表層部)2a1が劣化し、水分は接着界面10からさらに浸入しやすくなる。その結果、接着部(表層部)2a1の劣化がさらに進行し、接着強度が低下する。
【0066】
次に温度差ストレスで生じる封止材2の劣化のメカニズムについて説明する。透光性基板1と第1封止材2aの接着界面10は、異なる熱膨張率の材料の接続部であることから、自然環境における温度変化により、接着界面10には熱応力が繰り返し発生する。これにより、第1封止材2aの接着部2a1は、せん断変形を繰り返すことになる。より微視的にみると、第1封止材2aは鎖状高分子同士を架橋により重合結合させた三次元網目状分子構造をもつ。そして、第1封止材2aの接着部(表層部)2a1はせん断変形に伴う機械的ストレスを繰り返し加えられることにより、接着分子(シランカップリング剤等)の疲労劣化(結合切断)が進行し、透光性基板1に対する第1封止材2aの接着強度が低下する。
【0067】
次に太陽電池モジュールXにおける透光性基板1と封止材2の接着強度の劣化の対策方法について説明する。
【0068】
太陽電池モジュールXの第1封止材2aは、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分を有する。架橋後のイソシアヌレート成分が構成する架橋構造は、イソシアヌレート成分が分子鎖中に窒素原子を有することから、変形の自由度が低く(剛直で)架橋密度が高い分子構造をもち、水分の浸入を低減できるという長所をもつ。水分の浸入を低減することで、第1封止材2a中の加水分解に伴うエステル結合の切断を低減し、接着力の劣化を低減することにつながる。
【0069】
ただし、イソシアヌレート成分の形成する架橋構造は剛直で脆性が高いことから、封止材イソシアヌレート成分の添加量を過度に増していくと、封止材全体の剛性が高くなることで、第1封止材2aの変形抵抗が大きくなる。すなわち、粘弾性における粘性効果が減少することで、封止材2に応力がかかった場合の封止材2全体でのせん断応力(せん断運動量)の消耗が小さくなる。すると、太陽電池モジュールXが温度変化(温度差ストレス)にさらされたときの、透光性基板1と第1封止材2aの接着界面10で生じる熱応力が大きくなり、熱応力の接着界面10への伝達率が高くなる。これに伴い、接着部2a1の劣化および剥離が生じやすくなる。このように、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の添加量を単純に増量すると、第1封止材2aの加水分解に伴う接着強度の劣化を低減する代償として、貯蔵弾性率が高くなり過ぎて、粘性特性が不十分となり、温度変化に対する耐久性を損なうおそれがある。
【0070】
さらに、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分は、架橋時に架橋収縮する性質を有するため、イソシアヌレート成分は第1封止材2aの接着部(表層部)2a1から内層側2a2に向かって、軟化した主剤の中で動きやすい性質を有する。それゆえ、第1封止材2aにイソシアヌレート成分を添加した効果が得られにくくなる場合がある。
【0071】
そこで、イソシアヌレート成分のもつ長所を生かしつつ短所を低減するために、第1封止材2a中のイソシアヌレート成分の分布を接着強度の劣化の低減に有用となる領域へ意図的に配置することが重要となる。そこで、太陽電池モジュールXでは、透光性基板1と第1封止材2aとの接着界面10付近における第1封止材2aの接着部(表層部)2a1において、イソシアヌレート成分の架橋構造が多く配置されるようにすることで、透光性基板1と第1封止材2aの接着強度の劣化を低減する内容を含む。
【0072】
具体的には、第3添加剤である(メタ)アクリレート成分が、第2添加剤であるイソシアヌレート成分よりも低温で架橋する性質を利用することにより、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の架橋構造を接着界面10に接する接着部(表層部)2a1へ多く形成するように誘導することができる。第3添加剤である(メタ)アクリレート成分は、第2添加剤であるイソシアヌレート成分よりも低い温度で架橋を生じる性質を持つので、太陽電池モジュールXが架橋工程で加熱されると、(メタ)アクリレート成分がイソシアヌレート成分よりも早いタイミングで重合し架橋網目構造を形成する。
【0073】
一方でイソシアヌレート成分は、架橋時に架橋収縮を生じる性質をもつ。このため、イソシアヌレート成分が第1封止材2a中を移動することを阻害する要因がなければ、架橋時にイソシアヌレート成分は第1封止材2aの接着部(表層部)2a1側から内層部2a2側へ移動する。しかし、前述の通り(メタ)アクレート成分はイソシアヌレート成分よりも先に架橋して架橋網目構造を形成する。そこで、第1封止材2a中に(メタ)アクリレート成分の形成する架橋網目構造が予め十分に密に形成されているのであれば、(メタ)アクリレート成分による架橋網目構造が、イソシアヌレート成分の架橋収縮に伴う移動が起きる可能性を低減することができる。
【0074】
これにより、イソシアヌレート成分は、接着界面10に接する接着部(表層部)2a1に多く残留して、その後の昇温により架橋し、透光性基板1と第1封止材2aとの接着界面10に接する接着部(表層部)2a1に高い密度の架橋構造を形成する。
【0075】
以上により、剛直で脆性が高いイソシアヌレート成分を第1封止材2aへ過剰な添加をすることなく、透光性基板1と第1封止材2aの接着界面10に接する接着部(表層部)2a1に多くのイソシアヌレート成分の架橋網目構造を形成し、第1封止材2aへの水分の浸入低減という効果を得ることができる。
【0076】
ところで、(メタ)アクリレート成分の量が不足すると、ガラスとの界面付近に十分な量のイソシアヌレート成分の架橋構造を形成させることができないが、逆に、(メタ)アクリレート成分の量が過剰になると、(メタ)アクリレート成分が飽和して主剤に溶け込むことができず、第1封止材2aをシート状に成型しにくくなる。このことから(メタ)アクリレート成分は、飽和しない範囲であり、かつ、架橋時の加熱工程でイソシアヌレート成分を所望の位置へ配置できる量を添加することが重要である。なお、上記では透光性基板1と第1封止材2aとの間のことを例にとって説明したが、第2封止材2bと裏面保護材4との間にも同様のことがいえる。
【0077】
また、以上では、第1添加剤として金属水酸化物を用いた場合に生じる水酸物イオンに注目して説明したが、第1添加剤として金属酸化物や炭酸塩を用いた場合も、封止材2への水の浸入を抑制できることから、本発明の効果を好適に得られる。
【実施例0078】
本開示を実施例により説明する。本開示は以下の実施例により制限されるものではない。
【0079】
(実施例1)
以下の(1)~(6)の部材を用いて、前述の方法で実施例1の太陽電池モジュールXを製造した。
(1)透光性基板1 白板強化ガラス
(2)封止材2
(2.1)封止材の主剤 エチレン-酢酸ビニル共重合体 100重量部
(2.2)封止材の第1添加剤 水酸化マグネシウム 0.1重量部
(2.3)封止材の第2添加剤 トリアリルイソシアヌレート 2重量部
(2.4)封止材の第3添加剤 トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート 0.32重量部
(3)太陽電池セル 結晶系シリコン太陽電池セル
(4)裏面保護材 ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム
(5)インターコネクタ 半田コート銅箔
(6)接続配線 半田コート銅箔
【0080】
(実施例2,3,4,5,6,7および比較例1)
封止材2の第2添加剤と第3添加剤の量を表1に示す配合とした以外は、実施例1と同様に実施例2と実施例3と実施例4と実施例5と実施例6と実施例7と比較例1の太陽電池モジュールXを製造した。各実施例および比較例1で製造した太陽電池モジュールXの評価を、下記に従って行った結果を表2と表3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<加速試験方法>
各実施例および比較例1について、高温多湿の自然環境下で使用されて経時的な劣化を生じた状態に相当する太陽電池モジュールXを再現するために、太陽電池モジュールXに対して高温高湿ストレスを与える加速試験を行った。具体的には、JIS-C-8917(結晶系太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久性試験方法)の耐湿性試験(温度85℃、相対湿度85%)を参考に、ストレス条件をより過酷な水準に変更して(温度95℃、相対湿度95%で)加速試験を行った。太陽電池モジュールXを加速試験に投入する時間については、実際に自然環境に設置した太陽電池モジュールの状態から鑑みて0時間、50時間、100時間、200時間の4種類とした。
【0083】
<接着強度の維持率の評価方法>
次に加速試験後の透光性基板1に対する封止材2の接着強度の評価方法について説明する。まず、試料の作製方法について説明する。カッターナイフ等を用いて、太陽電池モジュールXの裏面保護材4側から透光性基板1に達する深さまで切込みを入れる。透光性基板1に封止材2を接着させた状態で、サンプル幅10mmで帯状の封止材2の切片を切り出す。次に、切片の一端側において封止材2の一部を透光性基板1から引き剥がして、引張試験機の治具の掴みしろとなるように加工して試料を作製した。
【0084】
次に、接着強度の測定方法について説明する。常温(15~25℃)の環境下において、引張試験機(テンシロン万能試験機)を用い、サンプル幅10mm、剥離角度90度(T字剥離)、剥離速度10mm/minの条件で荷重変化のチャートを採取し、チャートにおける最大値(最大接着強度)を読み取った。そして、各実施例および比較例1について、接着強度の維持率を表すために、比較例1と各実施例の初期値の最大接着強度、および比較例1と各実施例における加速試験の時間が50時間後、100時間後、200時間後の最大接着強度を、比較例1の初期値の最大接着強度で除して規格化し、接着強度の維持率とした。なお、上述において最大接着強度の初期値とは、加速試験への投入時間が0時間、すなわち加速試験に投入前の最大接着強度を意味する。
【0085】
<封止材物性の評価方法>
評価方法1.イソシアヌレート成分の濃度分布の評価方法
各実施例および比較例1で作製した太陽電池モジュールXの第1封止材2aについて、透光性基板1との接着界面10からの距離が50μmまでの範囲におけるイソシアヌレート成分の濃度と、接着界面10からの距離が200~300μmの間におけるイソシアヌレート成分の濃度との比率を以下の方法で算出した。以下において、第1封止材2aのうち、透光性基板1と第1封止材2aの接着界面10からの距離が50μmまでの範囲の部分を表層部2a1とも呼び、第1封止材2aのうち接着界面10からの距離が200~300μmまでの範囲の部分を内層部2a2とも呼ぶものとする。
【0086】
試料の作製方法について説明する。
【0087】
まず、太陽電池モジュールXを裏面保護材側4から分解して封止材2を露出させる。例えば、裏面保護材4が樹脂シートであれば切開し、裏面保護材4がガラスであれば砕くことなどにより除去するとよい。その透光性基板1と第1封止材2aの接着部2a1を、透光性基板1から剥離してサンプリングする。サンプリング方法の一例としては、封止材2を、刃物により薄切りの切片として試料として加工する方法をあげることができる。他に、ミクロトームやFIB装置(収束イオンビーム装置)やCP装置(クロスセクションポリッシャ装置)などの断面試料作製装置を用いてもよい。なお、試料の作製方法は、分解した太陽電池モジュールXから作製する方法に限られるものではなく、例えばそれぞれを部材として入手した透光性基板1と封止材2と太陽電池セル3と裏面保護材4を前述の積層工程および架橋工程を経た後に、上記の断面の加工の方法と同様の方法にて作製しても良い。このとき、太陽電池セル3を省略してもよい。また、裏面保護材4の代わりに離型性能を持つフィルム材を用いてもよい。
【0088】
次にイソシアヌレート成分の濃度分布の評価方法について説明する。
【0089】
第2添加剤であるイソシアヌレート成分の濃度に関する指標は、FT-IR装置(フーリエ変換赤外分光光度計)を用い、ATR法(全反射測定法)で測定することにより得ることができる。具体的には、第1封止材2aの主面(透光性基板1に接する面)に垂直な方向の断面についてFT-IR装置でイメージング測定をおこなう。このとき、測定範囲が狭すぎると測定値にばらつきを生じやすいため、第1封止材2aの主面に平行な方向において、400μm以上の幅の断面について測定するとよい。
【0090】
測定条件は下記の通りである。
【0091】
光源:特殊セラミックス
検知器:二次元検出器
パージ:窒素ガス
検出ピクセルサイズ:8μm/ピクセル
分解能:4cm-1
測定波長範囲:3900cm-1~750cm-1
積算回数:16回
FT-IR装置による測定の結果、例えば図6に示すようにイソシアヌレート成分の存在密度に比例した信号強度を表すイメージング像を得ることができる。なお、図6では信号強度の強さを黒点の密度で表した。また、FT-IR測定時には図1に示す透光性基板は除去されている。
【0092】
また、FT-IR装置による測定ではプリズムを試料へ押し付けて測定するが、プリズムと試料との密着状態がピーク強度の測定値に影響を与えるなど、測定値そのもの(絶対値)には誤差が含まれるので、測定値を適切に規格化することで評価を行った。換言すると、第2添加剤であるイソシアヌレート成分に由来すると考えらえる波長1690cm-1付近のピークを着目ピークとして、主剤であるエチレン-酢酸ビニル共重合体のCH変角振動に帰属可能な波長1370cm-1付近のピークを基準ピークとして規格化して評価を行った。
【0093】
具体的には表層部2a1について、イソシアヌレート成分由来(1690cm-1付近)の第1ピーク面積値およびエチレン-酢酸ビニル共重合体のCH基(1370cm-1付近)に由来の第2ピーク面積値を導出する。そして、第1ピーク面積値を第2ピーク面積値で除することにより、表層側におけるイソシアヌレート成分のピーク面積を評価した第1ピーク面積比(第1の値)を算出する。第1ピーク面積比は、封止材表層部2a1中のイソシアヌレート成分の存在割合に比例する。
【0094】
同様の方法で内層部2a2について、イソシアヌレート由来(1690cm-1付近)の第3ピーク面積値およびEVAのCH基(1370cm-1付近)に由来の第4ピーク面積値を導出する。そして第3ピーク面積値を第4ピーク面積値で除することにより、内層側におけるイソシアヌレート成分のピーク面積を評価した第2ピーク面積比(第2の値)を算出する。第2ピーク面積比は、封止材内層部2a2中のイソシアヌレート成分の存在割合に比例する。
【0095】
そして第1ピーク面積比を第2ピーク面積比で除することにより、表層部2a1と内層部2a2におけるイソシアヌレート成分の濃度分布(濃度比)を表す、表層部2a2と内層部2a2の強度比を算出した。
【0096】
なお、ピーク面積は、FT-IR装置による計測で得られたIRスペクトルに対して、ベースラインとピークで囲まれた部分の面積を積分することにより算出した。
【0097】
より具体的には、イソシアヌレート成分由来(1690cm-1付近)の第1ピーク面積値と第3ピーク面積値は、イソシアヌレート成分の波形に対して波数1713cm-1を左端とし、1671cm-1を右端として結んだラインをベースラインとして、ベースラインとイソシアヌレート成分由来のピークとで囲まれた領域を積分演算することにより求めた。
【0098】
次にエチレン-酢酸ビニル共重合体のCH基(1370cm-1付近)に由来の第2ピーク面積値と第4ピーク面積値は、エチレン-酢酸ビニル共重合体のCH基由来の波形に対して波数1394cm-1を左端とし、1333cm-1を右端として結んだラインをベースラインとし、ベースラインとエチレン-酢酸ビニル共重合体のCH基由来のピークとで囲まれた領域を積分演算することにより求めた。以上の「評価方法1.イソシアヌレート成分の濃度分布の評価方法」で測定した結果を、表2の第1の値/第2の値の欄に記載した。
【0099】
【表2】
【0100】
評価方法2.力学特性測定
各実施例および各比較例で作製した太陽電池モジュールXの第1封止材2aについて、剥離強度の劣化のしやすさの違いに相関する、封止材の力学特性の違いを評価するために下記の方法で貯蔵弾性率の測定を行った。
【0101】
まず、試料の作製方法について説明する。
【0102】
太陽電池モジュールXを刃物やグラインダーなどの切断工具を用いて10mm×10mm程度の大きさに切り出す。次に、クライオCP(Cross section Polisher)によって断面を加工して試料を作成する。
【0103】
なお、試料の作製方法は、分解した太陽電池モジュールXから作成する方法に限られるものではなく、例えばそれぞれを部材として入手した透光性基板1と封止材2と太陽電池セル3と裏面保護材4を前述の積層工程および架橋工程を経た後に、10mm×10mm程度のサイズへと加工し、上記の断面加工と同様の方法にて作製しても良い。
【0104】
次に測定方法について説明する。
【0105】
貯蔵弾性率は、上述の試料の断面を、例えば下記のようなナノインデンター装置を用いて、ナノインデンテーション法で測定することで得られる。
【0106】
測定条件は下記の通りである。
【0107】
使用圧子:Berkovich(三角錐型)
測定方法:動的測定
測定温度:室温下(20~25℃)
押し込み深さ設定:約900~1000nm
周波数:100Hz
試料サイズ:10mm×10mm
貯蔵弾性率の測定値は、内層部2a2に含まれる接着界面10から太陽電池セル3に近
い側へ200μmの部分について、位置をずらして同様の測定を5回以上行い、平均値を
とることにより採取した。
【0108】
以上の「評価方法2.力学特性測定」で測定した結果を、表2の貯蔵弾性率の欄に記載
した。
【0109】
評価方法3.損失係数測定
各実施例および各比較例で作製した太陽電池モジュールXの第1封止材2aについて、剥離強度の劣化のしやすさの違いに相関する、封止材の力学特性の違いを評価するために下記の方法で損失係数の測定を行った。
【0110】
まず、試料の作製方法については、1.力学的特性測定と同様である。
【0111】
太陽電池モジュールXを刃物やグラインダーなどの切断工具を用いて10mm×10mm程度の大きさに切り出す。次に、クライオCP(Cross section Polisher)によって断面を加工して試料を作成する。
【0112】
なお、試料の作製方法は、分解した太陽電池モジュールXから作成する方法に限られるものではなく、例えばそれぞれを部材として入手した透光性基板1と封止材2と太陽電池セル3と裏面保護材4を前述の積層工程および架橋工程を経た後に、10mm×10mm程度のサイズへと加工し、上記の断面加工と同様の方法にて作製しても良い。
【0113】
次に測定方法についても評価方法2.力学特性測定と同様である。
【0114】
損失係数は、上述の試料の断面を、例えば下記のようなナノインデンター装置を用いて、ナノインデンテーション法で測定することで得られる。
【0115】
測定条件は下記の通りである。
【0116】
使用圧子:Berkovich(三角錐型)
測定方法:動的測定
測定温度:室温下(20~25℃)
押し込み深さ設定:約900~1000nm
周波数:100Hz
試料サイズ:10mm×10mm
損失係数の測定値は、内層部2a2に含まれる接着界面10から太陽電池セル3に近い側の200μmの部分について、位置をずらして同様の測定を5回以上行い、平均値をとることにより採取した。
【0117】
以上の「評価方法3.損失係数測定」で測定した結果を、表2の損失係数の欄に記載した。
【0118】
評価方法4.緩和時間測定
実施例2および比較例1で作製した太陽電池モジュールXの第1封止材2aについて、剥離強度の劣化のしやすさの違いに相関する、第1封止材2a中の架橋構造の違いを評価するために下記の方法で緩和時間の測定を行った。
【0119】
まず、試料の作製方法について説明する。
【0120】
刃物やグラインダーなどの切断工具を用いて、太陽電池モジュールXから第1封止材2aの切片を切り出す。そして、その第1封止材2aの切片を測定器用の直径約10mmのチューブへ充填して試料とした。
【0121】
次に測定方法について説明する。
【0122】
緩和時間は、上述の試料を、例えば下記のようなTD-NMR装置(パルス核磁気共鳴装置)を用い、CPMG法によって測定された減衰曲線を解析することで、T緩和時間として得られる。測定条件は下記の通りである。
【0123】
測定方法: CPMG法(T
測定核周波数: 19.95 MHz(H 核)
パルス幅: 比較例1 2.34μsec(90°パルス)
実施例2 2.18μsec(90°パルス)
パルス繰り返し時間: 4sec
温度: 150℃
測定は、試料を装置のプローブ内に20分間、配置することで安定させてから実施した。
【0124】
測定の結果得られた減衰曲線を解析することによって得られたT緩和時間により、第1封止材2a中の架橋構造の量を評価することができる。例えば、試料中のT緩和時間が短いほど、試料中の分子運動性が低いことを表す。そして試料中の分子運動性が低いことは、試料中の架橋構造が多いこと、すなわち架橋密度が高いことを表す。
【0125】
測定結果である減衰曲線からT緩和時間を抽出するにあたっては、緩和時間の異なる3成分を仮定した波形分離解析法を適用し、3成分ごとの緩和時間と3成分間の存在比率を求めた。
【0126】
以上の「評価方法4.緩和時間測定」で測定した結果を、表3に記載した。
【0127】
【表3】
【0128】
<接着強度の評価結果>
表2の比較例1、実施例1、実施例2および実施例3は、第2添加剤配合量が2重量部で一定として、第3添加剤の配合量を変えた結果である。また、実施例2、実施例4、実施例5、実施例6および実施例7は、第3添加剤配合量が0.64重量部で一定として、第2添加剤配合量を変えた結果である。
【0129】
表2に示す通り、比較例1は封止材2中の表層部2a1と内層部2a2の第2添加剤(イソシアヌレート成分)の濃度を表す表層部2a1と内層部2a2の強度比が0.95未満の太陽電池モジュールである。各実施例の最大接着強度の初期値は、比較例1の接着強度の初期値を大きく上回る。
【0130】
比較例1においては、接着強度の維持率が50時間後、100時間後、200時間後のそれぞれの時間において、各実施例の接着強度の維持率に比較して低い。
【0131】
次に各実施例は、封止材2中の表層部2a1と内層部2a2のイソシアヌレート成分の濃度を表す表層部2a1と内層部2a2の強度比が0.95以上の太陽電池モジュールである。これらの各実施例においては、接着強度の維持率が50時間後において0.637以上、100時間後において0.252以上、200時間後において0.053以上を示し、比較例1に較べて接着強度を高く維持できることがわかった。
【0132】
このことから、イソシアヌレート成分の濃度分布比が0.95以上であることにより接着強度の劣化を大きく低減できることが明らかとなった。
【0133】
また、接着強度の劣化を低減できる場合の、第2添加剤としてのイソシアヌレート成分の表層部2a1と内層部2a2の強度比(第1の値/第2の値)は、少なくとも0.95~1.1の範囲内に収まることが分かった。
【0134】
ここで、実施例7と実施例1~6を比較すると、実施例7は表層部2a1と内層部2a2の強度比が0.95以上であるが、それぞれ50時間後、100時間後、200時間後の接着強度の維持率が、実施例1~6に較べて半分以下である。これは、貯蔵弾性率が適正範囲を超えている(0.036GPa以下に収まっていない)ためである。すなわち、封止材2の粘弾性特性を構成する粘性成分の割合が低下したことにより、接着界面により大きなせん断応力が生じやすくなったためと考えられる。
【0135】
そして、表2に示すように比較例1と各実施例の内層部について、損失係数を測定すると、接着強度の維持率が大きい実施例1~6の内層部の損失係数は0.13未満となる特徴を有することが明らかとなった。
【0136】
さらに、表2に示す実施例7と実施例1~6を比較すると、第2添加剤であるイソシアヌレート成分の添加量を2.5重量部以下とすることで、実施例7に示すように第2添加剤の添加量を2.5重量部より大の範囲にしたものに比較して、接着強度の維持率をさらに高められることが明らかになった。
【0137】
さらに、表3に示すように、比較例1と実施例2についてTD-NMR装置(パルス核磁気共鳴装置)を用いて、CMPG法で計測した減衰曲線に基づくT2緩和時間を比較すると、以下のことが明らかとなった。
【0138】
成分1と成分2と成分3の分子構造的な帰属の詳細は不明であるものの、実施例2と比較例1を比較すると、3成分のT緩和時間のうち、存在比率の最も高い成分である成分1のT緩和時間について、実施例2の方が短いことがわかった。
【0139】
これは、測定環境(温度条件)が、架橋前の状態における主剤であるエチレン-酢酸ビニル共重合体が溶融する環境であることを考慮すると、第3添加剤としての(メタ)アクリレート成分の添加量の違いに起因するものと考えられる。すなわち、実施例2では、比較例1よりも(メタ)アクリレート成分の添加量が多いために、T2緩和時間が短くなっているものと考えられる。T2緩和時間が短いことは、分子運動性が低いことを表す。そして分子運動性が低いことは、架橋構造が多いこと、すなわち架橋密度が高いことを表す。このことから実施例2は、比較例1よりも、第3添加剤としての(メタ)アクリレート成分の架橋構造を多く持つ、すなわち架橋密度が高いと考えられる。
【0140】
そして、実施例1および実施例3、実施例4、実施例5、実施例6についても同様に比較例1よりも第2添加剤としての(メタ)アクリレート成分の添加量が多いことから、比較例1よりも(メタ)アクリレート成分の架橋構造を多く持つと考えられる。このため、実施例1および実施例3、実施例4、実施例5、実施例6の成分1のT緩和時間も実施例2と同様に、比較例1の成分1のT緩和時間である2.08[msec]未満であるものと推測される。
【0141】
換言すると、実施例1および実施例2から6について、TD-NMR装置を用いてCPMG法で得られた減衰曲線に基づく3成分のうち、存在比率の最も高い成分である成分1のT緩和時間は、少なくとも2.08msec未満であるものと推測される。
【符号の説明】
【0142】
X:太陽電池モジュール
1:透光性基板
2:封止材
2a:第1封止材
2a1:接着部(表層部)
2a2:内層部
2b:第2封止材
3:太陽電池セル
4:裏面保護材
5:インターコネクタ
6:接続配線
7:端子ボックス
8:フレーム
9:モジュール積層体
10:接着界面
11:太陽電池セル群
20:ラミネート装置
21:ハウジング
21a:下部ハウジング
21b:上部ハウジング
22:加熱プレート
23:ダイアフラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6