(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107148
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 13/02 20060101AFI20240801BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C21B13/02
F27D17/00 104G
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091832
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2022526889の分割
【原出願日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020093139
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】稲田 隆信
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守利
(72)【発明者】
【氏名】宇治澤 優
(72)【発明者】
【氏名】安田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】舟金 仁志
(57)【要約】
【課題】水水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることが可能であり、かつ、熱効率を向上させることが可能な、新規かつ改良された還元鉄の製造方法を提供する。
【解決手段】この還元鉄の製造方法は、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスをシャフト炉の還元ゾーンの下部に設けた羽口からシャフト炉に吹き込む一方で、還元ガスの少なくとも一部を常温でシャフト炉の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーンに吹き込み、冷却ゾーンを上昇した還元ガスを前記酸化鉄の還元に使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、
水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスを前記シャフト炉の還元ゾーンの下部に設けた羽口から前記シャフト炉に吹き込む一方で、前記還元ガスの少なくとも一部を常温で前記シャフト炉の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーンに吹き込み、
前記冷却ゾーンを上昇した前記還元ガスを前記酸化鉄の還元に使用することを特徴とする、還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の前記水素ガス及び前記窒素ガスを分離回収する工程と、
分離回収された前記水素ガス及び前記窒素ガスを前記混合ガスの一部として再使用する工程と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元鉄の製造方法に関する。
本願は、2020年5月28日に、日本に出願された特願2020-93139号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
シャフト炉を用いた還元鉄の製造方法(シャフト炉操業)は、酸化鉄原料から還元鉄を製造する直接還元プロセスの代表格であり、主に天然ガスを安価に入手できる地域(産油国)で広まっている。ここで、
図18に基づいて、既存のシャフト炉操業の概要を説明する。
図18の例では、シャフト炉100の上側が還元ゾーン100a、下側が冷却ゾーン100bとなっている。還元ゾーン100aは酸化鉄が還元されて還元鉄が製造されるゾーンであり、冷却ゾーン100bは製造された還元鉄が冷却されるゾーンである。還元ゾーン100aの下部には、還元ガスをシャフト炉100内に吹き込むための羽口100cが設けられている。
【0003】
このようなシャフト炉100を用いたシャフト炉操業では、シャフト炉100の上方から酸化鉄原料(例えば酸化鉄ペレット)200を装入し、還元ゾーン100aの下部に設けられた羽口100cからシャフト炉100内に還元ガス300を吹き込む。ここで、還元ガス300は所定温度(送風温度。例えば900~1000℃程度)まで加熱された後、シャフト炉100に吹き込まれる。酸化鉄原料200は、還元ゾーン100a内を降下する過程で羽口100cから上昇してくる還元ガス300によって還元され、羽口レベル(羽口100cの設置位置と同高さ)に達する時点で還元率は概ね100%となり、温度は送風温度のレベルに昇温されている。このような直接還元プロセスにより、還元鉄210が製造される。還元鉄210はシャフト炉100の下側の冷却ゾーン100bで冷却された後、シャフト炉100の下方から排出される。なお、非特許文献1には、冷却ゾーン100bに炭化水素系ガス(例えば天然ガス)500を吹き込むことで、還元鉄210の冷却と浸炭処理を併せて行う技術が開示されている。最終製品の形態によっては、還元鉄の熱間塊成化処理がなされる場合もある。一方、シャフト炉100の炉頂からは、水素ガス、COガス、水蒸気、及びCO2ガスを含む炉頂ガス400が排出される。
【0004】
シャフト炉100で使用する還元ガス300は、炭素分を含む原料ガス(例えば天然ガス、コークス炉ガス等)310を水蒸気や酸素などを用いて改質することで得られ、主成分は水素ガス(H2)とCOガス(CO)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「DIRECT FROM MIDREX 3RD QUARTER 2017」(https://www.midrex.com/dfm-newsletter/3q-2017-direct-from-midrex/)
【非特許文献2】S.Hosokai, Y.Kashiwaya, K.Matsui, N.Okinaka & T.Akiyama :Environ. Sci. Technol.(2011),45,p.821-826
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存のシャフト炉操業では、還元ガスのH2/CO体積比が概ね1.5~4.0の範囲となっている。したがって、シャフト炉操業は、既存のものであっても、CO2排出量削減の観点からは高炉-転炉法より優れた鉄鋼製造プロセスとされている。しかし、今後迫られるであろうCO2ゼロ・エミッションの鉄鋼製造を目指すには、還元ガスに含まれる水素ガスの体積割合をさらに高めることが求められる。
【0008】
これまで、シャフト炉操業に関する様々な技術が提案されてきたが、ほとんどの技術において、還元ガスの原料となる原料ガスとして炭素分を含む天然ガスやコークス炉ガス等を使用している。しかし、最近になって、CO2ゼロ・エミッションを謳って、還元ガスの主要な原料ガスである天然ガスを水素ガスに置き換えたプロセス(つまり、水素ガスを100体積%に近い高濃度で含む還元ガスを用いた操業)を提案する還元鉄メーカーが現れてきた(非特許文献1参照)。
【0009】
水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業は、熱・物質収支に基づいた化学量論的議論では可能であっても、必ずしも実用上問題がないとは限られない。そこで、本発明者は、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業が既存のシャフト炉操業の延長上で実用上問題なく達成できるかを検討した。この結果、解決すべき技術的課題が存在することが明らかになった。詳細は後述するが、既存のシャフト炉操業において単に水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用しただけでは、大量の水素ガスが還元に使用されずに炉頂より排出され、還元ガス原単位(還元鉄1トンの製造に必要な水素ガスの炉内吹込み量)が過剰に上昇するという問題が発生することが明らかになった。このような問題は非特許文献1では何ら考慮されていない。
【0010】
さらに、CO2ゼロ・エミッションの鉄鋼製造をより効果的に達成するためには、還元ガスに含まれる水素ガスの体積割合を高める(つまり還元材の脱炭素化を進める)だけではなく、プロセスの熱効率の向上(つまり省エネ)を図る必要もある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることが可能であり、かつ、熱効率を向上させることが可能な、新規かつ改良された還元鉄の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いる操業が既存のシャフト炉操業の延長上で実用上問題なく達成できるかを検討した。検討方法は、シャフト炉の数学的モデルを用いたシミュレーションとした。該モデルは非特許文献(例えば、原ほか:鉄と鋼,62巻(1976),3号,p.315;山岡ほか:鉄と鋼、74巻(1988),12号,p.2254)に記載された化学工学的手法に基づいて構築されたものであり、還元ガスによる酸化鉄の還元反応をはじめとする化学反応や伝熱現象等、シャフト炉内の熱・物質移動を理論的に解析・推定できるものである。本数学的モデルを用いて、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業をシミュレーションし、マクロな熱・物質移動を評価した。
【0013】
表1はケーススタディーのために設けた前提条件(計算条件)を示す。マクロな熱・物質移動を評価する目的に照らして、結果の一般性が損なわれないよう、本計算条件は代表的な操業条件を踏まえて設定した。
【0014】
【0015】
図14は、900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに最低限必要な熱量(以下「熱量原単位」とも称する)(MJ/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。なお、本明細書において、「/t-Fe」は、「還元鉄1トンあたりの値」を示す。還元鉄の還元率は以下の数式で定義される。
(還元率)=(1-(還元鉄中の未還元酸素量)/(酸化鉄原料中の被還元酸素量))×100(%)
【0016】
図14において、「成品DRI持出し顕熱」は、成品である還元鉄によって炉外に持ち出される顕熱であり、「炉頂ガス持出し顕熱」は、炉頂ガスによって炉外に持ち出される顕熱であり、「還元反応熱」は、酸化鉄の還元反応に要する熱である。
図14から明らかな通り、還元ガスのH
2/CO体積比が高くなるに伴って熱量原単位は増加する。ここで、同比80/20~66/33は既存のシャフト炉操業の代表的な還元ガス組成に対応している。また、
図15は、900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに最低限必要な還元ガス量(すなわち還元ガス原単位)(Nm
3/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
図15から明らかな通り、還元ガスのH
2/CO体積比が高くなるに伴って還元ガス原単位は増加する。
【0017】
図14及び
図15のような結果になる理由は、以下の(1)式と(2)式で示す通り、COガスによる還元反応は発熱反応であるのに対して、水素ガスによる還元反応は吸熱反応となる点にある。
Fe
2O
3+3H
2→2Fe+3H
2O -854MJ/t-Fe ・・・・・・(1)
Fe
2O
3+3CO→2Fe+3CO
2 +246MJ/t-Fe ・・・・・(2)
【0018】
すなわち、還元ガス中に占める水素ガスの体積割合が増加するほど、水素ガスによる還元反応熱を賄うための熱量投入量(還元反応熱)が増加する。そして、還元ガスの送風温度を変えない場合は、
図15に示すように、還元ガス原単位を増やさざるを得なくなる。
【0019】
ここで注目すべきは、還元ガス原単位の増加に伴って生ずる還元ガスの利用率の悪化である。炉頂ガス組成から計算される還元ガスの利用率を
図16に示す。ここで、
図16は、還元ガスの利用率(%)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。還元ガスの利用率は、炉頂ガスに含まれる水蒸気及びCO
2ガスの総体積を、炉頂ガスに含まれる水素ガス、水蒸気、COガス、及びCO
2ガスの総体積で除算することで得られる。還元鉄1トン(還元率100%)を製造するのに必要な還元反応量(換言すれば、脱酸素量)は同じであるから、還元ガス原単位を増せば還元反応に与らない還元ガスが増えてしまうのは当然であり、熱供給のために還元ガス、すなわち水素ガスを無駄遣いしていることになる。すなわち、還元ガス中に占める水素ガスの体積割合が増加するほど、水素ガスによる還元反応熱を賄うために、熱供給源としての水素ガスを大量にシャフト炉内に供給する必要がある。さらには、大量の水素ガスをシャフト炉内に吹き込む結果、多くの水素ガスがシャフト炉内で反応せず、炉頂ガスとして排出される。したがって、還元ガスの利用率が下がる。このように、既存のシャフト炉操業において単に水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用しただけでは、大量の水素ガスが還元に使用されずに消費され、水素ガス原単位が過剰に上昇するという技術的課題が発生する。
【0020】
一方、還元ガスの送風温度を高めて水素ガスによる還元反応熱を賄うことも理論上は可能である。
図17は、還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)と還元ガスの送風温度(℃)との関係を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
図17に示される通り、水素ガスを90体積%以上の高濃度で含む還元ガスを使用する場合、既存のシャフト炉操業と同程度の還元ガス原単位で操業を行うためには、大雑把ではあるが送風温度を既存のシャフト炉操業よりも少なくとも100℃以上(H
2/CO体積比が100/0の時は200℃以上)と大幅に高める必要がある。しかし、水素ガスを高濃度で含む還元ガスの送風温度を大幅に高める場合、炉内の還元鉄粒子が相互に固着する所謂スティッキング現象の発生が懸念される。さらに、高温の水素ガスを扱うことになるため、操業の安全性の確保及び水素脆化への対応のために設備コストが上昇するといった問題も生じうる。
【0021】
要するに、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業を行う場合の根源的問題は、水素ガスによる還元反応熱を如何にして賄うか、という点に帰する。本発明者は、このような根源的問題を解決する方法として、シャフト炉内での還元反応に影響を与えない窒素ガスを還元ガスとともにシャフト炉内に吹き込むことに想到した。そして、本発明者は、水素ガスによる還元反応に必要な熱の少なくとも一部を窒素ガスに賄わせることにした。この結果、還元ガス原単位を削減することができ、かつ、還元ガスの送風温度も低減することができた。
【0022】
さらに、本発明者は、熱効率の向上の観点から還元鉄の顕熱に着目した。すなわち、羽口レベルに到達した酸化鉄原料はほぼ100%還元され、還元鉄となっている。この還元鉄の温度は、おおむね送風温度と同程度と非常に高温になっている。本発明者は、このような還元鉄の顕熱を還元ガスの加熱に使用することができれば、熱効率のさらなる向上を図ることができると考えた。そこで、本発明者は、外部から供給される還元ガスの少なくとも一部を冷却ゾーンに吹き込み、この還元ガスによって還元鉄を冷却することとした。冷却ゾーンに吹き込まれた還元ガスは、冷却ゾーンを上昇しつつ還元鉄を冷却する。これに伴い、還元ガスは還元鉄の顕熱によって加熱される。還元ガスは、冷却ゾーンに吹き込まれる還元ガスの量を適切に調整することで(調整の方法は後述する)、羽口レベルに到達した際、概ね送風温度レベルにまで加熱することができる。そして、還元鉄の顕熱で加熱された還元ガスを酸化鉄の還元に使用する。これにより、酸化鉄の還元に使用する還元ガスの少なくとも一部を還元鉄の顕熱で加熱することができるので、還元ガスの加熱負荷が低減し、熱効率が向上する。
【0023】
なお、水素ガスの社会的需要が爆発的に拡大すると予想される一方で、これを賄う水素ガスが(数量面はもとより価格面でも)安定して入手できるかは不明である。さらに、水素ガスは非常に不安定なため、搬送は極めて慎重に行う必要がある。このため、水素還元プロセスを商業化するには、水素ガス供給源の多様化を図り、好ましくは可搬性の高い水素ガス供給源を確保する必要がある。そこで、本発明者は、水素ガス供給源としてアンモニアガスに着目し、アンモニアガスを冷却ゾーンに吹き込むことを検討した。アンモニアは化学肥料の原料として工業的に大量生産されている点に加え、容易に液化できるため可搬性に優れた水素キャリアと言える。
【0024】
さらに、冷却ゾーンに吹き込まれたアンモニアガスは、冷却ゾーンを上昇しつつ還元鉄を冷却する。これに伴い、アンモニアガスは還元鉄の顕熱によって加熱される。その後、アンモニアガスは、還元鉄を触媒として窒素ガスと水素ガスに分解する。つまり、アンモニアガスの分解反応は吸熱反応であるが、分解反応に必要な熱は還元鉄から与えられる。また、還元鉄そのものが触媒となってアンモニアガスの分解を促す。アンモニアガスの分解によって発生した窒素ガス及び水素ガスは、還元鉄の顕熱によってさらに加熱されながら上昇し、羽口まで到達する。窒素ガス及び水素ガスは、冷却ゾーンに吹き込まれるアンモニアガスの量を適切に調整することで(調整の方法は後述する)、羽口レベルに到達した際、概ね送風温度レベルにまで加熱することができる。そして、アンモニアガスの分解によって生成した水素ガス及び窒素ガスを後述する混合ガスの一部として使用する。したがって、アンモニアガスを冷却ゾーンに吹き込むことで、アンモニアガスを水素ガス供給源とすることができ、かつ熱効率の向上も図ることができる。本発明は、これらの知見によってなされたものである。
【0025】
すなわち、本発明のある観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスをシャフト炉の還元ゾーンの下部に設けた羽口からシャフト炉に吹き込む一方で、還元ガスの少なくとも一部を常温でシャフト炉の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーンに吹き込み、冷却ゾーンを上昇した還元ガスを前記酸化鉄の還元に使用することを特徴とする、還元鉄の製造方法が提供される。
【0026】
ここで、シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の水素ガス及び窒素ガスを分離回収する工程と、分離回収された水素ガス及び窒素ガスを混合ガスの一部として再使用する工程と、を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の他の観点によれば、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法であって、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスをシャフト炉に吹き込む一方で、アンモニアガスを常温でシャフト炉の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーンに吹き込み、アンモニアガスが冷却ゾーンを上昇しながら分解することで生成した水素ガス及び窒素ガスを混合ガスの一部として使用することを特徴とする、還元鉄の製造方法が提供される。
【0028】
ここで、シャフト炉の炉頂ガスから少なくとも未反応の水素ガス及び窒素ガスを分離回収する工程と、分離回収された水素ガス及び窒素ガスの一部を混合ガスの一部として再使用し、残部を混合ガスを加熱する際の燃料用ガスとして使用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の上記観点によれば、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができる。さらに、熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図2】混合ガスの送風温度と水素ガス原単位との関係を窒素ガスの添加量毎に示すグラフである。
【
図3】窒素ガスの添加量と水素ガス原単位との関係を混合ガスの送風温度毎に示すグラフである。
【
図4】窒素ガスの添加量と水素ガス原単位との関係を混合ガスの送風温度毎に示すグラフである。
【
図5】冷却ゾーンに吹き込まれる水素ガスの原単位と還元鉄の温度及び還元率との相関を示すグラフである。
【
図7】第1の実施形態の第1の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図8】第1の実施形態の第2の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図9】冷却ゾーンに吹き込まれる水素ガスの原単位と還元鉄の温度及び還元率との相関を窒素ガスの添加量毎に示すグラフである。
【
図10】第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図11】アンモニアガスが窒素ガスと水素ガスに分解する際の反応温度と各ガスの体積比及び平衡定数との相関を示すグラフである。
【
図12】混合ガスの送風温度と冷却ゾーンに吹き込まれるアンモニアガスの原単位、アンモニアガスの分解により発生する水素ガスの原単位、及び外部から吹き込まれる水素ガスの原単位との相関を示すグラフである。
【
図13】第2の実施形態の変形例に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
【
図14】900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トンを製造する際の熱量原単位(MJ/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に試算した結果を示すグラフである。
【
図15】900℃の還元ガスを用いて還元鉄1トンを製造する際の還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に試算した結果を示すグラフである。
【
図16】還元ガスの利用率(%)を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
【
図17】還元ガス原単位(Nm
3/t-Fe)と還元ガスの送風温度(℃)との関係を還元ガスのH
2/CO体積比毎に示すグラフである。
【
図18】既存のシャフト炉操業のプロセスフローを示す説明図である。
【
図19】窒素ガスの添加量と水素ガス原単位との関係を混合ガスの送風温度毎に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、「~」を用いて表される数値限定範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。
【0032】
<1.第1の実施形態>
まず、
図1に基づいて第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法(シャフト炉操業)のプロセスフローを説明する。第1の実施形態は、概略的には、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガス31と窒素ガス32とを含み、かつ加熱された混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む、というものである。さらに、第1の実施形態では、還元ガス31の少なくとも一部を常温でシャフト炉10の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーンに吹き込む。
【0033】
より詳細に説明すると、シャフト炉10の上側(概ね上半分)が還元ゾーン10aとなっており、下側(概ね下半分)が冷却ゾーン10bとなっている。もちろん、還元ゾーン10aと冷却ゾーン10bの区分はこの例に限られず、例えば還元ゾーン10aをより長めに設定してもよい。還元ゾーン10aの下部(還元ゾーン10aと冷却ゾーン10bの境界)には、混合ガス30をシャフト炉10に吹き込むための羽口10cが設けられている。また、図示は省略するが、シャフト炉10の下端には、還元鉄の排出口のほか、還元ガスを冷却ゾーンに吹き込むための羽口が設けられている。
【0034】
第1の実施形態に係る還元鉄の製造方法は、還元ガス31と窒素ガス32とを含む混合ガス30を加熱する工程と、加熱された混合ガス30をシャフト炉10に吹き込む工程と、還元ガス31の少なくとも一部を常温でシャフト炉10の下部に設けられた還元鉄の冷却ゾーン10bに吹き込む工程と、を含む。これら以外の工程は既存のシャフト炉操業と同様であればよい。
【0035】
例えば、外部から供給される還元ガス31と窒素ガス32とを加熱炉50に導入し、加熱炉50内で還元ガス31及び窒素ガス32をまとめて加熱する。これにより、還元ガス31及び窒素ガス32が加熱炉50内で混合されて混合ガス30となり、混合ガス30が所定温度まで加熱される。
【0036】
ここで、上述したように、還元ガス31は水素ガスを90体積%以上(還元ガス31の総体積に対する質量%)含む。つまり、還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上となる。CO2ゼロ・エミッションの観点からは、還元ガス31の水素ガス濃度は90体積%以上の範囲内でなるべく高いことが好ましく、100体積%であること(つまり、還元ガス31を水素ガスのみで構成すること)が好ましい。加えて、混合ガス30を加熱する方法も電気的ヒーターによるのが好ましく、燃焼加熱による場合においては燃料ガスを水素主体にするのが好ましい。
【0037】
還元ガス31の水素ガス濃度が90体積%以上100体積%未満となる場合、還元ガス31には水素ガス以外の還元ガスが含まれてもよい。このような還元ガスとしては、例えばCOガスの他、炭化水素ガス等も含まれる。炭化水素ガスは、シャフト炉内でCOガスを生成する。以下の説明では、特に断りがない限り、還元ガス31の水素ガス濃度が100体積%、すなわち水素ガスのみで構成されているものとして説明を行う。
【0038】
窒素ガス32はシャフト炉内における還元反応に直接関与しない不活性ガスであり、単に顕熱をシャフト炉10内に運ぶキャリアとして機能する。したがって、第1の実施形態によれば、水素ガスだけに加熱負荷をかける必要がないため、適正な送風温度(所定温度)でシャフト炉操業を行うことが可能になる。
【0039】
還元ガス31に対する窒素ガス32の添加量についての詳細は後述するが、窒素ガス32を還元ガス31にわずかに添加するだけでも本実施形態の効果(水素ガス原単位の低減及び水素ガスの送風温度の低減)が得られる。一方、窒素ガス32を過剰に添加すると、混合ガス30中の水素濃度が低下することによる酸化鉄の還元反応速度の減速が、窒素ガス32からの熱供給による還元反応熱の補填効果を上回る。この場合、本実施形態の効果が飽和する。このような観点から、窒素ガス32の添加量は、還元ガス31の90体積%以下であることが好ましい。
【0040】
混合ガス30は、上述した還元ガス31及び窒素ガス32のみで構成されることが好ましいが、本実施形態の効果に影響を与えない範囲で還元ガス31及び窒素ガス32以外のガスが含まれていてもよい。
【0041】
加熱炉50内では、混合ガス30が所定温度(シャフト炉に吹き込まれる際の混合ガス30の温度、すなわち送風温度)まで加熱される。所定温度はシャフト炉操業の状況等に応じて適宜調整されればよいが、後述するように、窒素ガス32を添加しない場合よりも所定温度を低減することができる。窒素ガス32が顕熱のキャリアとして機能するからである。所定温度は好ましくは900℃以下である。所定温度の下限値は第1の実施形態によるシャフト炉操業が可能な範囲であれば特に制限されないが、例えば750℃程度であってもよい。
【0042】
混合ガス30は、所定温度まで加熱された後、シャフト炉10に吹き込まれる。一方、シャフト炉10の上方から酸化鉄原料20が装入される。酸化鉄原料20の種類は特に問われず、既存のシャフト炉操業と同様であればよい。酸化鉄原料20としては、例えば酸化鉄ペレットが挙げられる。シャフト炉10に装入された酸化鉄原料20は、還元ゾーン10a内を落下する。図中の矢印Xは酸化鉄原料20または還元鉄21のシャフト炉10内での移動方向を示す。
【0043】
シャフト炉10に吹き込まれた混合ガス30は、シャフト炉10の還元ゾーン10a内で上昇する。混合ガス30中の還元ガス31は、還元ゾーン10a内を落下する酸化鉄原料20を還元し、還元鉄21を作製する。水素ガスによる還元反応は吸熱反応であるが、還元反応熱は還元ガス31が有する顕熱の他、窒素ガス32が有する顕熱によって賄われる。還元鉄21の還元率は、還元鉄21が羽口レベル(羽口10cと同高さ)に達する時点で概ね100%となり、還元鉄21の温度は送風温度のレベルに昇温されている。シャフト炉10の炉頂からは炉頂ガス40が排出される。炉頂ガス40には、未反応の水素ガスの他、水蒸気、窒素ガス32が含まれる。
【0044】
その後、還元鉄21は、冷却ゾーン10b内を落下する。一方、外部から供給される還元ガス31の少なくとも一部を常温で冷却ゾーン10b(の下部)に吹き込む。つまり、第1の実施形態では、外部から供給される還元ガス31の一部(
図1中供給ライン(a)で供給される還元ガス31)を常温で冷却ゾーン10bに吹き込み、残り(
図1中供給ライン(b)で供給される還元ガス31)を窒素ガス32とともに加熱して、羽口10cからシャフト炉10の還元ゾーン10aに吹き込む。冷却ゾーン10bに吹き込まれた還元ガス31は、冷却ゾーン10bを上昇しつつ還元鉄21を冷却する。これに伴い、還元ガス31は還元鉄21の顕熱によって加熱される。そして、冷却ゾーンを上昇して加熱された還元ガス31を酸化鉄原料20の還元に使用する。ここで、還元鉄21の顕熱は加熱炉50によって混合ガス30に与えられた顕熱でもあるので、冷却ゾーン10bに吹き込まれた還元ガス31は、加熱炉50によって混合ガス30に与えられた顕熱の一部を回収することになる。したがって、還元ガスの加熱負荷が低減し、熱効率が向上する。
【0045】
ここで、「常温」の範囲は本発明の属する技術分野で常温と認識されている温度範囲であれば特に制限されないが、例えば25±10℃程度の範囲内であってもよい。さらに、冷却ゾーン10bに吹き込む還元ガス31の原単位(吹き込み量)(Nm
3/t-Fe)は、例えばシャフト炉10から排出される還元鉄21の還元率が100%(あるいはそれに近い値、例えば95%以上)となり、かつ還元鉄21の温度が常温程度(例えば常温~常温+30℃程度)まで冷却されるように設定されることが好ましい。具体的な吹き込み量の範囲は例えば送風温度が1000℃、窒素ガス32の添加量が330Nm
3/t-Feとなる場合には、概ね450~550Nm
3/t-Fe程度となる(
図4~
図5参照)。
【0046】
次に、第1の実施形態による効果のうち、混合ガス30による効果を説明する。本発明者は、上述した数学的モデルを用いて第1の実施形態に係るシャフト炉操業をシミュレーションした。また、比較のために窒素ガス32を添加しないシャフト炉操業もシミュレーションした。結果を
図2及び
図3に示す。なお、計算条件は表1と同様とした。また、還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。また、還元鉄21の還元率は羽口レベルで100%となるようにした。また、本シミュレーションにおいては還元ガス31を全量加熱炉50に投入した。
【0047】
図2は混合ガス30の送風温度(℃)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係を窒素ガス32の添加量毎に示す。グラフL1は窒素ガスを添加しなかった時の上記関係、グラフL2は窒素ガスを還元ガス31に250Nm
3/t-Fe添加した時の上記関係、グラフL3は窒素ガスを還元ガス31に500Nm
3/t-Fe添加した時の上記関係を示す。したがって、グラフL2、L3が第1の実施形態に係るシャフト炉操業に対応する。なお、ここでは還元ガス31の水素ガス濃度が100体積%なので、水素ガス原単位は還元ガス原単位と読み替えられる。
図2のグラフL2、L3によれば、送風温度が900℃となる際の還元ガス原単位は、概ね1500~1700Nm
3/t-Fe程度となっている。一方、
図15を見ると、既存のシャフト炉操業(還元ガスのH
2/CO体積比=80/20~66/33)では、送風温度が900℃となる際の還元ガス原単位は、概ね1200~1400Nm
3/t-Fe程度となっている。したがって、還元ガス31に窒素ガス32を添加することで、還元ガス31の水素ガス濃度が高濃度(ここでは100体積%)であっても、既存のシャフト炉操業と同程度の送風温度レベル(例えば900℃)、かつ還元ガス原単位レベル(例えば1500~1700Nm
3/t-Fe程度)での還元鉄製造が可能となる。
【0048】
したがって、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを使用する場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができ、かつ、混合ガス30の送風温度(すなわち、還元ガス31の送風温度)を低減することができる。さらに、窒素ガス32の添加量が多いほど、還元ガス原単位が減少し、還元ガス31の送風温度も低減することもわかる。還元ガス31の送風温度が低減することで、例えばスティッキング等が抑制される。
【0049】
図3は、
図2の関係を窒素ガス32の添加量(Nm
3/t-Fe)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係に整理しなおした図である。つまり、
図3は、窒素ガス32の添加量(Nm
3/t-Fe)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係を混合ガス30の送風温度(℃)毎に示す。グラフL4は送風温度が800℃となる時の上記関係、グラフL5は送風温度が900℃となる時の上記関係、グラフL6は送風温度が1000℃となる時の上記関係を示す。グラフL4~L6によれば、いずれの送風温度においても、窒素ガス32をわずかに添加するだけで水素ガス原単位が減少していることがわかる。
【0050】
さらに、グラフL5、L6に着目すると、330Nm3/tの窒素ガスを還元ガス31に添加すれば、水素ガス原単位を維持しつつ混合ガス30の送風温度を1000℃→900℃に下げることができる。したがって、窒素ガス32を還元ガス31に添加することで、送風温度を低減し、ひいてはスティッキングの抑制を図ることもできる。
【0051】
さらに、グラフL5(送風温度900℃)に着目すると、窒素ガス32を還元ガス31に330Nm3/t-Fe付加することで水素ガス原単位を300Nm3/t-Fe程度削減することができる。これは、330Nm3/t-Feの窒素ガス32と300Nm3/t-Feの水素ガスとは熱及び反応操作の観点で概ね等価であることを意味する。さらに見方を変えれば、送風温度一定の条件下で窒素ガス32の添加量を調整することで、還元鉄21の生産量も制御することができる。例えば、送風温度及び水素ガスの単位時間当たりの吹込み量を変えずに窒素ガス32の添加量(Nm3/t-Fe)を増やせば還元鉄21の単位時間当たりの生産量は増加する。
【0052】
このように、一見不可解に見える等価関係が成立し、あるいは一見不可思議な操業操作が可能なのは、水素ガスを高濃度で含む還元ガスを用いたシャフト炉操業を行う場合、シャフト炉10内で熱が律速する還元反応が生じる(すなわち、シャフト炉10に持ち込まれる熱量によって炉内温度が適正に保たれて還元反応が円滑に進行する)からである。
【0053】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、還元ガス31と窒素ガス32との混合ガス30をシャフト炉10に吹き込むので、窒素ガス32を顕熱のキャリアとして使用することができる。これにより、例えば
図2及び
図3に示すように、水素ガスを高濃度で含む還元ガス31を用いてシャフト炉操業を行う場合であっても、還元ガス原単位を減少させることができ、混合ガス30の送風温度を低減することができる。
【0054】
ここで、
図19に基づいて、窒素ガス32の過剰投入による効果の飽和について説明する。
図19の縦軸、横軸の定義は
図3と同様である。ただし、
図19の横軸は
図3よりも多くの窒素ガス添加量を示す。すなわち、
図19の横軸は
図3の横軸を延長したものである。
図19に描かれるグラフは
図3のグラフL4~L6と同様のものである。これらのグラフの送風温度は、上から800℃、840℃、860℃、880℃、900℃、920℃、940℃、960℃、980℃、1000℃、1020℃、1050℃、1100℃となっている。
【0055】
図19及び[0039]に記載されているように、窒素ガス32を過剰に還元ガス31に添加すると、本実施形態の効果は飽和する。送風温度の条件によって飽和に達する条件は変化するが、概ね窒素ガス32の体積流量(添加量)を還元ガス31の体積流量の90体積%以下にするという条件(すなわち、混合ガス30が窒素ガス32を還元ガス31の90体積%以下の割合で含有するという条件)を満たせば、本実施形態の効果を享受することができると言える。
【0056】
つぎに、熱効率の観点による効果について説明する。
図4は、
図3と同様のグラフであるが、より多様な送風温度に対する窒素ガス32の添加量(Nm
3/t-Fe)と水素ガス原単位(Nm
3/t-Fe)との関係を示す。これらのグラフの送風温度は、上から800℃、840℃、860℃、880℃、900℃、920℃、940℃、960℃、980℃、1000℃、1020℃、1050℃、1100℃となっている。
図4を得る際のシミュレーション条件は
図2及び
図3と同様とした。
図4によれば、例えば送風温度が900℃で、窒素ガス32の添加量が330Nm
3/t-Feとなる場合には、還元ガス31(ここでは水素ガス)の羽口10cからの吹き込み量を1620Nm
3/t-Feとすることで、還元率100%の還元鉄21を製造することができる。
【0057】
本発明者は、1620Nm
3/t-Feの還元ガス31のうち一部を常温(ここでは30℃)で冷却ゾーン10bに吹き込み、冷却ゾーン10bを上昇した還元ガス31を酸化鉄原料20の還元に使用する操業をシミュレーションした。シミュレーションは上述した数学的モデルを用いて行い、計算条件は表1と同様とした。窒素ガス32の添加量は330Nm
3/t-Feとし、送風温度は1000℃とし、還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。結果を
図5に示す。
図5の横軸は還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)を示し、縦軸はシャフト炉10の下部から排出される還元鉄21の温度(℃)または還元率(%)を示す。グラフL20は還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)と還元鉄21の還元率(%)との相関を示し、グラフL21は還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)と還元鉄21の温度(℃)との相関を示す。
【0058】
図5に示されるように、還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量を増やすことで還元鉄21は常温まで確実に冷却される。ただし、吹き込み量が過剰に多くなると冷却ゾーン10b内で還元ガス31が十分に昇温されず、還元ゾーン10a内の還元ガス31の温度が低下し、還元鉄21の還元率が100%未満となりうる。
【0059】
実際のシャフト炉操業を考慮すると、シャフト炉10から排出される還元鉄21の還元率が100%(あるいはそれに近い値、例えば95%以上)となり、かつ還元鉄21の温度が常温程度(例えば常温~常温+30℃程度)まで冷却されることが好ましい。したがって、
図5の例では、還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量は概ね450~550Nm
3/t-Fe程度(好適範囲)であることが好ましい。この場合、還元鉄21の還元率を95%以上とすることができ、還元鉄21の温度を常温(30℃)+30℃以下とすることができる。より好ましい吹き込み量は500Nm
3/t-Feである。この場合、還元鉄21の還元率を100%とすることができ、還元鉄21の温度を常温(30℃)とすることができる。すなわち、還元ゾーン10aにおける還元効率に影響を与えることなく、還元ガス31の総吹込み量1620Nm
3/t-Feのうち、約30%に相当する500Nm
3/t-Feの還元ガス31の加熱処理を省くことができる。
【0060】
図6は上記シミュレーションを行った場合の炉内状態を示す。
図6の縦軸はシャフト炉10の上端からの深さ(m)を示し、横軸は各成分の温度(℃)、還元鉄21の還元率(%)またはE
H2(%)を示す。ここで、E
H2は、「水素ガス利用率」と呼ばれるもので、ガス中のH
2O/(H
2+H
2O)体積比を意味するが、本シミュレーションでは100体積%の水素ガスをシャフト炉10に吹き込んでいるので、単にH
2O濃度を示すことになる。グラフL30はシャフト炉10内の各深さ位置における還元ガス31の温度を示す。グラフL31はシャフト炉10内の各深さ位置における還元鉄21(または酸化鉄原料20)の温度を示す。グラフL32はシャフト炉10内の各深さ位置における還元鉄21の還元率を示す。グラフL33はシャフト炉10内の各深さ位置におけるE
H2を示す。「Tuyere」は羽口10cの設置位置を示す。グラフL30によれば、冷却ゾーン10bに吹き込まれた還元ガス31は、冷却ゾーン10bを上昇するとともに還元鉄21により加熱され、羽口レベルに到達した際には、羽口10cから吹き込まれる還元ガス31の温度(=混合ガス30の温度)と同程度まで加熱されていることがわかる。したがって、還元ゾーン10aにおける還元効率に影響を与えずに酸化鉄原料20を還元できると言える。また、グラフL31によれば、還元鉄21(または酸化鉄原料20)の温度は、還元ガス31の温度とほぼ同程度であることがわかる。また、還元鉄21の還元率は、羽口レベルでほぼ100%となっていることがわかる。
【0061】
なお、冷却ゾーン10bに吹き込まれる還元ガス31の好ましい吹き込み量は操業条件(例えば送風温度、窒素ガス32の添加量等)に応じて変動しうる。そこで、操業条件ごとに
図5と同様のグラフを作成し、好ましい吹き込み量を特定すればよい。
【0062】
したがって、常温の還元ガス31を冷却ゾーン10bに吹き込むことで、還元鉄21の顕熱を回収することができ、熱効率が向上する。さらに、還元鉄21の還元率が95%以上となり、かつ還元鉄21の温度が常温(30℃)+30℃以下となるように還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹込み量を調整することで、還元ゾーン10aにおける還元効率(及び排出される還元鉄21の温度)に影響を与えることなく、熱効率を向上させることができる。
【0063】
<1-1.第1の変形例>
つぎに、
図7に基づいて第1の実施形態の第1の変形例を説明する。実際のシャフト炉操業では、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することも重要である。そこで、第1の変形例では、炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収し、混合ガス30の一部として再利用する。
【0064】
具体的には、炉頂ガス40を分離回収装置60に導入し、分離回収装置60において炉頂ガス40を冷却する。好ましくは室温まで冷却する。好ましくはさら炉頂ガス40を除塵する。これにより、炉頂ガス40から水蒸気を水65として除去し、未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を循環ガス70として分離回収する。なお、還元ガス31が水素ガス以外の還元ガス(CO等)を含む場合、循環ガス70には未反応の当該還元ガスの他、当該還元ガスの酸化物(CO2等)が含まれる場合もあるが、循環ガス70にこれらのガスが含まれていても操業上問題はない。分離回収装置60としては、例えば高炉の炉頂ガスから未反応の還元ガスを分離回収する装置等を利用することができる。そして、循環ガス70を混合ガス30の一部として再利用する。すなわち、循環ガス70を再度加熱炉50に導入し、加熱する。
【0065】
なお、上述したように、窒素ガス32は、顕熱をシャフト炉10内に運ぶキャリアとして機能するため、シャフト炉10内で消費されない。したがって、窒素ガス32は、加熱炉50、シャフト炉10、及び分離回収装置60を連結する循環系内を循環することになる。したがって、所望量の還元鉄の生産に必要な分の窒素ガス32を一旦この循環系に導入すれば、その後は理想的には外部から窒素ガス32を導入しなくてもよいことになる。もちろん、外部からさらに窒素ガス32を供給してもよい。
【0066】
一方で、還元ガス31はシャフト炉10内で消費されるので、循環された水素ガス31aだけでは還元ガス31が不足する。そこで、還元ガス31については不足分だけ外部から供給すればよい。これにより、理想的には、化学量論的に最小量の還元ガス31で還元鉄21を製造することができる。もちろん、化学量論的な量を超えて外部から還元ガス31を供給してもよい。
【0067】
ここで、還元ガス31の水素ガス濃度が100体積%となる場合、上述した(1)式によれば、化学量論的に最小量の還元ガス31は600Nm
3/t-Feとなる。したがって、例えば
図5を得たときの操業条件で操業を行う場合、例えば500Nm
3/t-Feの還元ガス31(ここでは水素ガス)を外部から冷却ゾーン10bに吹き込み、残りの100Nm
3/t-Feの還元ガス31を外部から加熱炉50に供給することが好ましい。この場合、化学量論的に最小の還元ガス31で還元鉄21の還元率を100%とすることができ、還元鉄21の温度を常温(30℃)とすることができる。
【0068】
なお、この場合、シャフト炉10にはトータルで1620Nm
3/t-Feの還元ガス31を吹き込む必要があるので(
図4参照)、羽口10cからは1020Nm
3/t-Feの還元ガス31が吹き込まれることになる。外部からは100Nm
3/t-Feの還元ガス31が供給されるので、循環される還元ガス31で残りの920Nm
3/t-Feが賄われることになる。
【0069】
以上説明したように、第1の変形例によれば、還元ガス31及び窒素ガス32を有効利用することができる。
【0070】
<1-2.第2の変形例>
つぎに、
図8に基づいて第1の実施形態の第2の変形例を説明する。第2の変形例も第1の変形例と同様に炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収し、混合ガス30の一部として再利用する。ただし、第2の変形例では、外部から供給される還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに吹き込む。つまり、供給ライン(b)を省略している。冷却ゾーン10bへの還元ガス31の吹き込み量は、例えば上述した化学量論下限値600Nm
3/t-Feである。冷却ゾーン10bに吹き込まれた還元ガス31は冷却ゾーン10bを上昇しつつ還元鉄21を冷却する(還元ガス31自身は加熱される)。そして、加熱された還元ガス31は、還元ゾーン10aにて酸化鉄原料20を還元する。
【0071】
上述したように、第1の変形例のように炉頂ガス40を循環させる系においては、理想的には、化学量論的に最小量の還元ガス31を外部から供給すればよい。例えば、
図5を得た際の操業条件をそのまま第1の変形例(
図7)に適用した場合、500Nm
3/t-Feの還元ガス31(ここでは水素ガス)を外部から冷却ゾーン10bに吹き込み、残りの100Nm
3/t-Feの還元ガス31を外部から加熱炉50に供給すればよい。
【0072】
ここで、外部から供給される還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに常温で吹き込むことができれば、熱効率がさらに向上し、さらに供給ライン(b)も省略できるので操業上非常に有利である。
【0073】
ただし、
図5に示すように、単に外部から供給される還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに常温で吹き込んだだけでは、還元鉄21の還元率の低下が懸念される。還元鉄21の還元率を95%以上に維持しつつ、外部から供給される還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに常温で吹き込むためには、例えば
図5で示されるような吹き込み量の好適範囲(冷却ゾーン10bへの還元ガス31の吹き込み量の好適範囲。
図5の例では450~550Nm
3/t-Fe)が化学量論下限値600Nm
3/t-Feを含むように好適範囲を右側に移動できればよい。
【0074】
ところで、上述した好適範囲が定まる理由は、冷却ゾーン10bに還元ガス31を過剰に吹き込むと還元ゾーン10aの温度が低下し、還元鉄21の還元率が低下するからである。したがって、このような温度低下を別途の手段で補償することができれば、冷却ゾーン10bへの還元ガス31の吹き込み量を増大させることができ、ひいては、吹き込み量の好適範囲に化学量論値を含めることができる。本発明者は、このような手段として、窒素ガス32の添加量(言い換えれば、シャフト炉10を含む循環系における循環量)を増やすことに着目した。
【0075】
例えば、
図5の操業条件において窒素ガス32の添加量を増大させた場合、
図9に示すグラフが得られる。グラフL40は窒素ガス添加量が500Nm
3/t-Feとなる場合の還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)と還元鉄21の還元率(%)との相関を示す。グラフL41は窒素ガス添加量が800Nm
3/t-Feとなる場合の還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)と還元鉄21の還元率(%)との相関を示す。グラフL42は窒素ガス吹込み量が800Nm
3/t-Feとなる場合の還元ガス31の冷却ゾーン10bへの吹き込み量(Nm
3/t-Fe)と還元鉄21の温度(℃)との相関を示す。
【0076】
図9によれば、窒素ガス32の吹き込み量を330→500→800Nm
3/t-Feに変化させることで、冷却ゾーン10bへの還元ガス31の吹き込み量に対する還元鉄21の還元率を高めることができる。すなわち、窒素ガス32の吹き込み量を500Nm
3/t-Feとすることで、600Nm
3/t-Feの還元ガス31を冷却ゾーン10bに吹き込んだ際の還元鉄21の還元率を95%とすることができる。さらに、窒素ガス32の吹き込み量を800Nm
3/t-Feとすることで、600Nm
3/t-Feの還元ガス31を冷却ゾーン10bに吹き込んだ際の還元鉄21の還元率を100%とすることができる。このように、窒素ガス32の添加量を増やすことで、吹き込み量の好適範囲に化学量論値を含めることができる。つまり、窒素ガス32の添加量を500Nm
3/t-Fe以上とすることで、化学量論値の還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに吹き込んでも還元鉄21の還元率を95%以上とすることができる。窒素ガス32の添加量を800Nm
3/t-Feとすれば、還元鉄21の還元率を100%とすることができる。なお、化学量論値以上の還元ガス31を冷却ゾーン10bに吹き込んでもよいが、その場合、窒素ガス32の添加量をさらに増やし、還元鉄21の還元率を95%以上、好ましくは100%に維持することが好ましい。
【0077】
もちろん、窒素ガス32の好ましい添加量は操業条件によって変動しうる。したがって、操業条件ごとに
図9に示すようなグラフを作成して、窒素ガス32の好ましい添加量を特定すればよい。すなわち化学量論値(またはそれ以上)の還元ガス31を冷却ゾーン10bに吹き込んでも還元鉄21の還元率を95%以上に維持できる窒素ガス32の添加量を調整すればよい。
【0078】
このように、第2の変形例によれば、窒素ガス32の添加量を調整することで、外部からの還元ガス31の全量を冷却ゾーン10bに吹き込むことができ、さらに還元鉄21の還元率を95%以上、好ましくは100%とすることができる。
【0079】
<2.第2の実施形態>
つぎに、本発明の第2の実施形態について説明する。
図10は第2の実施形態に係る還元鉄の製造方法のプロセスフローを示す説明図である。
図10に示すように、第2の実施形態は、概略的には、冷却ゾーン10bに還元ガス31の代わりにアンモニアガス33を吹き込むというものである。アンモニアガス33は常温で冷却ゾーン10bに吹き込まれる。つまり、第2の実施形態では、アンモニアガス33を水素ガス供給源として使用する。
【0080】
より詳細に説明すると、アンモニアガスは化学肥料の原料として工業的に大量生産されている点に加え、容易に液化できるため可搬性に優れた水素キャリアと言える。アンモニアが酸化鉄の還元に利用し得ることは特許文献1及び非特許文献2に示されている。しかし、これらの文献では、基本現象を実験室的に検証したにすぎず、具体的なプロセス像は一切示されていない。ここで、本発明者は、アンモニアが酸化鉄を直接還元できる点ではなく、還元鉄が触媒となってアンモニアが分解される点に着目した((a)式)。
【0081】
【0082】
シャフト炉10内では向流移動層が形成される(すなわち、還元ガス31及び窒素ガス32はシャフト炉10内を上昇し、酸化鉄原料20及び還元鉄21はシャフト炉10内を下降する)。このため、アンモニアガス33を冷却ゾーン10bから吹き込めば、アンモニアガス33はシャフト炉10内で上昇しながら還元鉄21が触媒となって分解することができる。より詳細に説明すると、冷却ゾーン10bに吹き込まれたアンモニアガス33は、冷却ゾーン10bを上昇しつつ還元鉄21を冷却する。これに伴い、アンモニアガス33は還元鉄21の顕熱によって加熱される。その後、アンモニアガス33は、還元鉄21を触媒として窒素ガスと水素ガスに分解する。つまり、アンモニアガス33の分解反応は吸熱反応であるが、分解反応に必要な熱は還元鉄21から与えられる。また、還元鉄21そのものが触媒となってアンモニアガスの分解を促す。アンモニアガス33の分解によって発生した窒素ガス32及び水素ガス、すなわち混合ガス30は、還元鉄21の顕熱によって加熱されながら上昇し、羽口レベルまで到達する。混合ガス30は、羽口レベルに到達した際、例えば送風温度レベルまで加熱されている。この混合ガス30は、羽口10cから吹き込まれた混合ガス30と同様に、還元ゾーン10a内を上昇し、還元ゾーン10a内の酸化鉄原料20を還元する。すなわち、アンモニアガス33が冷却ゾーン10bを上昇しながら分解することで生成した水素ガス及び窒素ガス32を混合ガス30の一部として使用する。したがって、アンモニアガス33を冷却ゾーン10bに吹き込むことで、アンモニアガス33を水素ガス供給源とすることができ、かつ熱効率の向上も図ることができる。さらに、外部から供給される還元ガス31(主に水素ガス)の一部をアンモニアガス33で代替することができるので、還元ガス31の外部からの供給量を削減することができる。
【0083】
つぎに、第2の実施形態の効果について詳細に検討する。(a)式の平衡定数Kpは、以下の(b)式で定義される。なお、ここでは還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。
【0084】
【0085】
ここで、pNH3、pH2、pN2は、それぞれアンモニアガス、水素ガス、窒素ガスの分圧を示し、Tは反応温度、Rは気体定数である.また、△G0(T)はアンモニアガス33の分解反応の標準自由エネルギーで、アンモニアガス、水素ガス、窒素ガスの物性値を基に計算することができる。
【0086】
そこで、平衡状態におけるアンモニアガスの分解率と水素の生成率を反応温度で整理した結果が、
図11である。
図11の横軸は反応温度を示し、縦軸は各ガスの体積比(各ガスの体積/全ガスの総体積)(%)または平衡定数Kpを示す。グラフL50は各反応温度におけるアンモニアガスの体積比を示し、グラフL51は各反応温度における水素ガスの体積比を示し、グラフL52は各反応温度における窒素ガスの体積比を示す。グラフL53は各反応温度における平衡定数Kpを示す。
【0087】
図11によれば、600℃以上の反応温度でアンモニアガスのほとんどが水素ガスと窒素ガスに分解され得る。そして、シャフト炉10内においては、例えば
図6に示されるように、冷却ゾーン10b内にはこの温度条件をみたす還元鉄触媒が存在するのである。したがって、アンモニアガス33を冷却ゾーン10bに吹き込んだ場合、アンモニアガス33は冷却ゾーン10b内で水素ガスと窒素ガス32に分解されうる。
【0088】
そこで、この分解反応が吸熱反応(△H=46110J/mol/K)であることを考慮に入れて、(1)アンモニアガス33が冷却ゾーン10bで完全に分解すること、(2)冷却ゾーン10bでの還元鉄21とアンモニアガス33の熱交換は理想的に進行すること、(3)還元ゾーン10aの炉内状態に影響を与えない(即ち、分解反応によって生成した混合ガス30の冷却ゾーン10b出側(羽口レベル)の温度が送風温度に概ね一致し、還元鉄21の還元率が羽口レベルで100%となる)ことを前提条件において、冷却ゾーン10bの熱・物質収支に基づいて冷却ゾーン10bに吹き込み可能なアンモニアガス量をシミュレーションした。なお、シミュレーションは上述した数学的モデルを用いて行い、計算条件は表1と同様とした。窒素ガス32の添加量は330Nm
3/t-Feとし、外部から供給される還元ガス31の水素ガス濃度は100体積%とした。その結果を
図12に示す。
【0089】
図12の横軸は羽口10cからシャフト炉10内に吹き込まれる混合ガス30の送風温度を示し、縦軸は冷却ゾーン10bに吹き込み可能な(つまり冷却ゾーン10bで分解可能な)アンモニアガス33の原単位(Nm
3/t-Fe)、アンモニアガス33の分解によって生成される水素ガスの原単位(Nm
3/t-Fe)、または外部から供給される還元ガス31(ここでは水素ガス)の原単位(Nm
3/t-Fe)を示す。グラフL60は冷却ゾーン10bに吹き込み可能なアンモニアガス33の原単位(Nm
3/t-Fe)と送風温度との相関を示し、グラフL61はアンモニアガス33の分解によって生成される水素ガスの原単位(Nm
3/t-Fe)と送風温度との相関を示す。グラフL62は外部から供給される還元ガス31(ここでは水素ガス)の原単位(Nm
3/t-Fe)と送風温度との相関を示す。
【0090】
図12に示されるように、冷却ゾーン10bで分解可能なアンモニアガス量は還元鉄21が持ち込む顕熱に比例するため、送風温度が高いほど分解可能なアンモニアガス量が増加し(つまり冷却ゾーン10bに吹き込み可能なアンモニアガス量が増加し)、アンモニアガス33の分解によって生成される水素ガスが増加する。これに伴い、外部から供給される水素ガス量は減少する。アンモニアガス33の分解によって水素ガスは200Nm
3/t-Fe前後生成されるので、炉体熱損失がなければ、還元に必要な水素ガスの最低量(600Nm
3/t-Fe)の30%程度をアンモニアガス33の分解で賄うことができる。
【0091】
なお、冷却ゾーン10bに吹き込み可能なアンモニアガス量は操業条件毎に異なりうるが、還元鉄21の還元率が95%以上、好ましくは100%となるようにアンモニアガス量を決定することが好ましい。
【0092】
第2の実施形態によれば、アンモニアガス33を冷却ゾーン10bに吹き込むことで、アンモニアガス33を水素ガス供給源とすることができ、かつ熱効率の向上も図ることができる。さらに、外部から供給される還元ガス31(主に水素ガス)の一部をアンモニアガス33で代替することができるので、還元ガス31の外部からの供給量を削減することができる。
【0093】
<2-1.変形例>
つぎに、
図13に基づいて第2の実施形態の変形例を説明する。本変形例は、概略的には、第1の実施形態の第1の変形例と第2の実施形態を組み合わせたものである。つまり、本変形例では、第2の実施形態において、炉頂ガス40から未反応の水素ガス31a及び窒素ガス32を分離回収し、混合ガス30の一部として再利用する。
【0094】
ただし、本変形例では、アンモニアガス由来の窒素ガス32が系内に流入するため、この流入量に相当する窒素ガスを定常的に排出して、系内で循環する窒素ガス量を一定に保つ必要がある。
【0095】
そこで、本変形例では、分離回収装置60で分離回収された循環ガス70を分岐管80に導入する。分岐管80では、循環ガス70の一部を(水素ガスを含んだ状態で)加熱炉50の燃料用ガス85として加熱炉50に供給する。燃料用ガス85に含まれる窒素ガス32の量は、アンモニアガス33の分解によって系内に流入した窒素ガス32の量(つまり、冷却ゾーン10bに吹き込んだアンモニアガスの体積の1/2)と同程度とする。ここで、燃料用ガス85中の窒素ガス32の量は、例えば燃料用ガスの流量測定(体積式が一般的)と窒素ガス分析によって把握することができる。加熱炉50は、燃料用ガス85を燃焼させることで熱を発生させ、この熱によって加熱炉50内のガスを加熱する。燃焼後の排ガス85a(水蒸気、窒素ガス32を含む)は外部に放散される。残りの循環ガス70は、混合ガス30の一部として再利用する。すなわち、循環ガス70を再度加熱炉50に導入する。他の処理は第1の実施形態の第1の変形例及び第2の実施形態と同様である。これにより、系内で循環する窒素ガス量を一定に保ちつつ、上述した第1の実施形態の第1の変形例及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0096】
さらに付け加えるならば、[0054]~[0055]にて指摘した窒素ガス32の過剰投入による還元阻害を回避する観点から、系内で循環する窒素ガス量の還元ガス31に対する比率を
図19に示す適正範囲に維持するのが望ましいことは言うまでもない。
【0097】
なお、以上説明した例では、還元ガス31及び窒素ガス32をまとめて加熱したが、本発明はこのような例に限定されない。例えば、還元ガス31及び窒素ガス32を個別に加熱した後に、これらを混合し、羽口10cからシャフト炉10内に吹き込んでもよい。この場合、窒素ガス32の加熱温度を還元ガス31の加熱温度よりも高くすることが好ましい。これにより、還元ガス31の加熱負荷を低減することができる。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0099】
10 シャフト炉
10a 還元ゾーン
10b 冷却ゾーン
20 酸化鉄原料
30 混合ガス
31 還元ガス
32 窒素ガス
33 アンモニアガス
40 炉頂ガス
50 加熱炉
60 分離回収装置
70 循環ガス
80 分岐管
85 燃料用ガス