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  • 特開-ターボ分子ポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107319
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
F04D19/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024094500
(22)【出願日】2024-06-11
(62)【分割の表示】P 2020028485の分割
【原出願日】2020-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸一
(72)【発明者】
【氏名】坪川 徹也
(57)【要約】
【課題】排気能力を向上することができるターボ分子ポンプを提供する。
【解決手段】ターボ分子ポンプは、ロータ翼を有するロータと、ロータ翼と共にタービンポンプ部を構成するステータ翼と、ロータを回転駆動するモータと、モータが配置され、ハウジングが設置される設置部を有するベースと、ロータが収容され、設置部に設置されてベースと一体化されるハウジングと、ハウジングとベースとを熱的に分離する熱分離部と、ベースを第1温度未満の温度となるように冷却する冷却装置と、を有する。冷却装置は、ポンプ起動後に駆動され、ベースの温度に応じた温度制御を行わずに、冷却水を常時、ベースに供給し続ける。ロータは、ロータの温度がクリープ温度以下で、かつ、ガスの昇華温度以上に保持するような温度制御が行われず、ロータに蓄積される熱を冷却水によって常時冷却されるベース側に放熱することのみにより冷却される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼と共にタービンポンプ部を構成するステータ翼と、
前記ロータを回転駆動するモータと、
前記モータが配置され、後記ハウジングが設置される設置部を有するベースと、
前記ロータが収容され、前記設置部に設置されて前記ベースと一体化されるハウジングと、
前記ベースの前記設置部と前記ハウジングとの間に設けられ、前記ハウジングと前記ベースとを熱的に分離する熱分離部と、
前記ロータに設けられ、後記ステータとともにドラッグポンプ部を構成するロータ円筒部と、
前記ハウジングに設けられ、前記ロータ円筒部とともにドラッグポンプ部を構成するステータと、
前記ハウジングを、前記ステータの温度を前記ドラッグポンプ部に流れるガスの昇華温度以上とする第1温度以上の温度となるように加熱する加熱装置と、
前記ベースを、前記第1温度未満の温度となるように冷却する冷却装置と、
を有し、
前記冷却装置は、ポンプ起動後に駆動され、前記ベースの温度に応じた温度制御を行わずに、冷却水を常時、前記ベースに供給し続けるものであり、
前記ロータは、前記ロータの温度がクリープ温度以下で、かつ、ガスの昇華温度以上に保持するような温度制御が行われず、前記ロータに蓄積される熱を前記冷却水によって常時冷却される前記ベース側に放熱することのみにより冷却される、
ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータの内面に対向する前記ベースの外周面に、前記ロータからの輻射熱を吸収しやすくする機能を有する放射率改善層が設けられている、
ターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記冷却装置は、ポンプ駆動後に前記ステータが所定温度に達するまでは前記ベースを冷却せず、前記所定温度に達した後、前記ベースの温度に応じた温度制御を行わずに前記ベースを冷却する、ターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは、ロータに設けられたロータ翼およびハウジングに固定されたステータ翼により構成されるタービンポンプ部と、ロータに設けられたロータ円筒部およびベースに設けられたステータにより構成されるドラッグポン部とを備えている。ハウジングとベースはボルト等の締結部材により熱伝導可能に固定されてポンプ筐体を形成し、タービンポンプ部およびドラッグポンプ部は、ポンプ筐体内に収容されている。ロータは、クリープ温度が比較的低いアルミニウム系の金属材料で製作されているため、クリープ温度以下でターボ分子ポンプが運転されるよう温度制御されている。
【0003】
ドラッグポンプ部は、タービンポンプ部の下流側に設けられている。プロセスガスは、昇華温度以下になると固体状になってポンプ内部の構成部材に付着する。このため、真空度が比較的低いドラッグポンプ部は、所定温度以上になるように温度制御される。一方、ロータを回転駆動するモータが取り付けられているベースは、所定の温度範囲となるように温度が制御される。ベースの温度を制御する温調装置は、冷却水が流れる冷却管および電磁弁を有し、温度センサによりベースの温度を検出して電磁弁を制御し、ベースの温度が設定温度範囲内になるように制御する。このようなターボ分子ポンプは、たとえば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-278692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ターボ分子ポンプは、とくに真空度が低い下流側のドラッグポンプ部の温度がプロセスガスの昇華温度以下にならないよう所定温度以上に加熱する必要がある。このため、ハウジングに熱伝導可能に固定されたベースを十分に冷却することができない。従って、ベースに取り付けられたモータを十分に冷却した状態で回転駆動することができない。
大流量のガスを使用するプロセスでは、排気能力を向上させるためモータを大型化する必要がある。このような大流量化したターボ分子ポンプを設計する際、モータの発熱に伴う温度制御が重要な課題である。すなわち、ドラッグポンプ部を流れるガスを所定温度以上に制御することと、モータを所定温度以下に制御することとの、トレードオフの熱問題を解決する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるターボ分子ポンプは、ロータ翼を有するロータと、前記ロータ翼と共にタービンポンプ部を構成するステータ翼と、前記ロータを回転駆動するモータと、前記モータが配置され、後記ハウジングが設置される設置部を有するベースと、前記ロータが収容され、前記設置部に設置されて前記ベースと一体化されるハウジングと、前記ベースの前記設置部と前記ハウジングとの間に設けられ、前記ハウジングと前記ベースとを熱的に分離する熱分離部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のターボ分子ポンプによれば、モータが設けられるベースを、ロータが収容されるハウジングより低い温度に冷却することが可能となり、ガス生成物の堆積を抑制しつつ大型のモータを利用した排気能力の大きなターボ分子ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明に係るターボ分子ポンプの第1の実施の形態の断面図である。
図2図2は、図1に図示されたターボ分子ポンプの温調装置を説明する図である。
図3図3は、本発明に係るターボ分子ポンプの第2の実施の形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
-第1の実施形態-
以下、図面を参照して本発明のターボ分子ポンプの第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るターボ分子ポンプの第1の実施の形態の断面図である。
ターボ分子ポンプ100は、ハウジング11とベース21とにより構成されるケース本体10を備えている。ハウジング11は、ケーシング12と、中間ケース13と、ステータケース14により構成されている。ベース21は、ベース基部22とモータケース23により構成されている。
【0010】
ケーシング12と、中間ケース13と、ステータケース14とは、シール部材82を介してボルト等の締結部材81により固定され、外部から密封された構造を有するハウジング11を構成している。モータケース23とベース基部22とは、ボルト等の締結部材(図示せず)により固定され、ベース21を構成している。ハウジング11のステータケース14と、ベース21のベース基部22がボルト等の締結部材84により固定され、ケース本体10を構成している。ケーシング12、中間ケース13、ステータケース14、ベース基部22およびモータケース23は、アルミニウム合金、鉄系等の金属材料により形成されている。
【0011】
ケーシング12上部には、吸気口27が設けられ、ベース基部22には、排気口(図示せず)を有する排気ポート25が設けられている。ターボ分子ポンプ100は、吸気口27が形成されたフランジ12aに設けられた複数の貫通孔12bにボルト等の締結部材(図示せず)を挿通して、真空装置(図示せず)に取り付けられる。ターボ分子ポンプ100は、ケース本体10内に設けられたタービンポンプ部P1およびドラッグポンプ部P2を備えており、真空装置のチャンバ内の気体を吸気口27から吸気し、排気ポート25の排気口から排出する。タービンポンプ部P1およびドラッグポンプ部P2を真空排気機能部と呼ぶこともできる。
【0012】
タービンポンプ部P1は、ロータ3に形成された複数段のロータ翼30と、ケーシング12側に設けられた複数段のステータ翼33とで構成される。ロータ翼30とステータ翼33とは、軸方向に交互に配置されている。各ステータ翼33は、外周側の周縁がスペーサ32で挟持されることにより積層されて固定されている。
【0013】
ドラッグポンプ部P2は、タービンポンプ部P1の下流側に設けられている。ドラッグポンプ部P2は、ロータ3に一体的に形成されたロータ円筒部31と、ステータケース14に一体的に形成または取り付けられたステータ42とで構成される。ステータ42のロータ円筒部31との対向面にはねじ溝43が設けられている。ねじ溝43は、ロータ円筒部31の外周面に設けてもよい。
【0014】
ロータ3は、回転軸であるシャフト35にボルト等の締結部材(図示せず)により締結され、シャフト35と一体化されている。ロータ3とシャフト35は、回転体Rを構成する。シャフト35は、ケース本体10の中心軸上に配置されている。詳細には、後述するように、シャフト35は、ベース21の中心を貫通して設けられている。
【0015】
シャフト35は、ラジアル方向の磁気軸受51(2箇所)およびスラスト方向の磁気軸受52(上下一対)によって非接触で支持される。シャフト35の浮上位置は、ラジアル変位センサ53a、53bおよびアキシャル変位センサ53cによって検出される。磁気軸受51、52によって回転自在に磁気浮上されたシャフト35、換言すれば、回転体Rは、モータ54により高速に回転駆動される。
【0016】
シャフト35の下部側は、メカニカルベアリング56を介してロータディスク58に取り付けられている。また、シャフト35の上部側にはメカニカルベアリング57が設けられている。メカニカルベアリング56、57は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受51、52が作動していない時には、メカニカルベアリング56、57によりシャフト35、すなわち、回転体Rが支持される。
【0017】
モータ54としては、たとえば、3相ブラシレスモータが用いられる。モータ54は、モータケース23に設けられたモータステータ54aと、シャフト35に設けられたモータロータ54bを備えている。モータロータ54bは、永久磁石を有し、シャフト35、すなわち、回転体Rに回転駆動力を与える。モータケース23は、シャフト35の外周面に沿って上下方向に延在する筒状形状を有し、モータケース23の中心軸はシャフト35の中心軸と同軸である。モータケース23の中心部には、中空部23aが設けられており、シャフト35は、モータケース23の中空部23a内に、モータケース23の内面23bと僅かな隙間を存して挿通されている。ラジアル方向の磁気軸受51(2箇所)およびモータステータ54aは、モータケース23に固定されており、スラスト方向の磁気軸受52(上下一対)は、ベース基部22に設けられた内部空間22a内に配置されている。
【0018】
ステータケース14の外周には、ヒータ(加熱器)61が巻き付けられている。ヒータ61は、ステータ42に対向する領域に、上下方向に離間して一対設けられている。一対のヒータ61の上下方向の中間には温度センサ17が設けられている。ベース基部22の下面側には、冷却水等の冷媒が流動する冷却管62が設けられている。
【0019】
ハウジング11を構成するステータケース14は、ベース基部22の設置部22b上に熱分離部65を介して設置されている。ハウジング11の、熱分離部65の径方向内方には、シール部材83が配置されている。ステータケース14とベース基部22は、両部材間に熱分離部65およびシール部材83を介在させて締結部材84により固定されている。
【0020】
熱分離部65は、ベース基部22およびステータケース14のいずれよりも熱伝導率が低い材料により形成されている。熱分離部65は、熱伝導率が0.3W/m・K以下の部材とすることが好ましい。熱分離部65としては、たとえば、ステンレス鋼および樹脂を用いることができる。樹脂としては、たとえば、100℃以上の高温においても、クリープ特性が良好なポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂を用いることができる。また、熱分離部65は、ベース基部22およびステータケース14の少なくとも一方に、低熱伝導率の材料をコーティング等の処理で形成した熱分離層としてもよい。
【0021】
ステータケース14とベース基部22とを熱分離部65により熱的に分離することにより、換言すると、ステータケース14とベース基部22との間の熱の移動を遮断することにより、ベース基部22をステータケース14の温度よりも低い温度に冷却することができる。このため、ベース基部22に固定されたモータケース23の中空部23a内に配置されたモータ54を、ステータケース14の温度、すなわち、ヒータ61で温調される温度よりも低い温度に冷却することが可能となる。
【0022】
図2は、図1に図示されたターボ分子ポンプ100の温調装置による冷却と加熱の動作を説明するブロック図である。
ターボ分子ポンプ100に設けられた冷却管62には、ポンプ71によりタンク72から吸い込んだ冷却水が、配管73を介して供給され、この冷却水によりベース基部22が冷却される。ベース基部22を冷却した冷却水は、配管74を介してタンク72に戻る。
【0023】
ターボ分子ポンプ100に取り付けられた温度センサ17により検出されたステータケース14の温度情報、換言すれば、ステータ42の温度情報は、温度制御部70に入力される。温度制御部70は、入力された温度情報と、予め設定されたステータケース14の目標温度とを比較して、ヒータ61に通電する電流を制御する。
【0024】
ドラッグポンプ部P2を構成するステータ42の温度は、ドラッグポンプ部P2を流れるガスの昇華温度以上となるように制御され、たとえば、100℃以上に設定される。実際は、ステータ42が所望の温度(たとえば、100℃以上)となるようにステータケース14の温度が目標温度に制御される。従来のターボ分子ポンプでは、ステータ42の温度を、たとえば100℃以上に設定するものはなかった。
ロータ3に対しては、ロータの温度がクリープ温度以下で、かつ、ガスの昇華温度以上に保持するような温調制御を行わないが、予め、真空チャンバから導入されるプロセスガスのガス種に応じた流量の上限を設定し、これにより、タービンポンプ部P1を流れるプロセスガスによりロータ翼30がクリープ温度を超えないようにしている。
【0025】
このため、温度制御部70では、温度センサ17から入力されるステータケース14の検出温度を、ドラッグポンプ部P2におけるガス昇華温度(たとえば、上述の100℃)に対応する目標温度以上とする制御を行えばよい。
但し、予め、ロータ翼30のクリープ温度(たとえば160℃)に対応するステータケース14の温度を上限温度として設定しておき、ステータケース14の温度がこの上限温度を超えないように温度制御してもよい。すなわち、ステータケース14の温度が、下限温度(たとえば、上述の100℃)と上限温度(たとえば、上述の160℃)の間に保持されるように温度制御するようにしてもよい。このような温度制御は、クリープ温度が昇華温度より高い場合に有効である。
【0026】
ベース21を構成するベース基部22は、熱分離部65によりステータケース14から熱的に分離されている。すなわち、ベース基部22からステータケース14への伝熱が遮断、厳密には抑制されている。従って、ベース基部22を、常温、たとえば15~25℃程度の冷却水で冷却してもステータケース14の温度に影響を与えない。換言すると、ベース基部22を、ステータケース14の温度より低い温度に冷却することが可能となる。これにより、ベース基部22の温度を、ステータケース14の目標温度(たとえば100℃以上の所定温度)より低い温度、たとえば、40~60℃程度に保持することができる。従って、ベース基部22に固定されているモータケース23を、ステータケース14より低い温度に冷却することができる。
【0027】
このように、ベース基部22が、ステータケース14の目標温度未満に冷却されるため、ロータ翼30およびロータ円筒部31に蓄積される熱は、図1に矢印CLで示すように、ハウジング11の内周側、換言すれば、ベース21側の放熱経路により外部に放熱される。これにより、ハウジング11の外周側に配置されたステータ42の温度をガス昇華温度以上に保持しながら、ロータ3を冷却することが可能となる。
【0028】
本実施の形態のターボ分子ポンプでは、ベース21の温度をステータケース14の温度と同程度の温度にまでしか冷却することができない構造に比べて、回転駆動力を増大させた大型のモータの使用が可能となる。これにより、ターボ分子ポンプ100の排気能力を向上することができ、ターボ分子ポンプ100が排気するプロセスガスの流量を増大させることができる。
【0029】
ベース基部22を冷却する冷却水の温度は、常温であり、ベース基部22に冷却水を継続して供給し続けてもモータ性能に影響を与えることはない。このため、冷却流路を開閉するための制御バルブが不要となり、構造が簡素化するので、ターボ分子ポンプ100の低コスト化を図ることができる。
但し、冷却流路に制御バルブを設け、必要に応じて、制御バルブを閉じてベース基部22への冷却水の供給を停止するようにしてもよい。
【0030】
たとえば、ターボ分子ポンプ100の駆動開始時では、ハウジング11およびベース21は、ステータケース14の目標温度より低い。従って、駆動開始時は、冷却管62への冷却水の供給は停止しておく。ターボ分子ポンプ100が駆動され、ステータケース14の温度が目標温度に達したとき、あるいは目標温度に達する少し前のタイミングで、冷却管62への冷却水の供給を開始する。上述した通り、冷却水は、常時、ターボ分子ポンプ100に供給し続けることができる。
【0031】
第1の実施の形態の作用効果は以下のとおりである。
ターボ分子ポンプは、ロータ翼30を有するロータ3と、ロータ翼30と共にタービンポンプ部P1を構成するステータ翼33と、ロータ3を回転駆動するモータ54と、モータ54が配置され、ハウジング11が設置される設置部22bを有するベース21と、ロータ3が収容され、設置部22bに設置されてベース21と一体化されるハウジング11と、ベース21の設置部22bとハウジング11との間に設けられ、ハウジング11とベース21とを熱的に分離する熱分離部65とを有する。
熱分離部65によりハウジング11とベース21とを熱的に分離したので、モータ54が配置されるベース21をハウジング11より低い温度に設定し、大きな容量のモータ54を十分に冷却し、かつ、ハウジング11を十分に加熱することできる。
【0032】
-第2の実施形態-
図3は、本発明に係るターボ分子ポンプの第2の実施の形態の断面図である。
第2の実施形態が、第1の実施形態と相違するのは、ロータ3からベース基部22への放射を効率的に行うための放射率改善層66が設けられている点である。
図3に図示されるように、ベース基部22のロータ円筒部31の内面と対向する外周面22c全面に、ロータ円筒部31からの輻射熱を吸収しやすくする機能を有する放射率(吸収率)改善層66が設けられている。放射率改善層66は、放射率が0.3以上となるように、たとえば、ベース21のロータ円筒部31の内面と対向する外周面22cをアルマイト処理等の表面処理により形成される。シリコーン等をコーティングして放射率が0.3以上となる放射率改善層66を形成してもよい。
【0033】
図3では、放射率が0.3以上となる層66は、ベース基部22の外周面22cのみに設けられた構造として例示されている。換言すると、図3の第2の実施の形態では、放射率改善層66が、ロータ3の内周面と対向するベース21の外周面に選択的に形成されている。しかし、放射率改善層66は、ベース21の外周面の全領域に設けてもよい。
【0034】
第2の実施形態の他の構成は、第1の実施形態と同様であり、対応する部材に同一の符号を付し、説明を省略する。
第2の実施形態においても、ターボ分子ポンプ100は、ベース21の設置部22bとハウジング11との間に設けられ、ハウジング11とベース21とを熱的に分離する熱分離部65を備えている。
【0035】
加えて、第2の実施形態のターボ分子ポンプでは、ロータ円筒部31の内面に対向するベース21の外周面22cに、ロータ円筒部31からの輻射熱を吸収しやすくする機能を有する放射率改善層66が設けられている。このため、ロータ円筒部31からの輻射熱を効果的に吸収することができ、ロータ翼30の冷却能力を向上することができる。
【0036】
なお、上記各実施形態では、磁気軸受型のターボ分子ポンプ100として例示した。しかし、本発明は、メカニカル軸受型のターボ分子ポンプに適用することができる。
【0037】
上記各実施形態では、ステータ42が、ステータケース14に一体化された構造を有するターボ分子ポンプ100として例示した。しかし、本発明は、ステータ42がステータケース14とは別部材として形成され、ステータ42がステータケース14にボルト等の締結部材により取り付けられる構造を有するターボ分子ポンプに適用することができる。
【0038】
上記各実施形態において、ハウジング11とベース21との間に設けられる熱分離部65を、ハウジング11とベース21とを気密に固定するシール機能を兼用させる構造としてもよい。このようにすることにより、部材点数を削減し、コスト低減を図ることができる。
第2の実施の形態のターボ分子ポンプにおけるベース21は、ポンプ中央部に軸方向に延在しモータ54が取り付けられるモータケース23と、設置部22bが形成されるベース基部22とを含む。そして、ロータ3の内周面(ロータ円筒部31を含む)と対向するモータケース23の外周面には、放射率を所定値以上とする放射率改善層66、たとえばアルマイト処理層が設けられている。
このため、ロータ3からの輻射熱が効率よくモータケース23に吸収され、ロータ3をクリープ温度以下に設定できる。とくに昇華温度が高いガス種を使用するため比較的高い温度(たとえば、100℃以上)にステータケース14を加熱しても、ロータ翼30をクリープ温度以下に設定できる。
【0039】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0040】
(第1項)一態様に係るターボ分子ポンプは、ロータ翼を有するロータと、前記ロータ翼と共にタービンポンプ部を構成するステータ翼と、前記ロータを回転駆動するモータと、前記モータが配置され、後記ハウジングが設置される設置部を有するベースと、前記ロータが収容され、前記設置部に設置されて前記ベースと一体化されるハウジングと、前記ベースの前記設置部と前記ハウジングとの間に設けられ、前記ハウジングと前記ベースとを熱的に分離する熱分離部とを有する。
このため、ベースを十分に冷却することができ、モータの冷却性能が向上するので、大型のモータを使用して排気性能を向上できる。
【0041】
(第2項)第1の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記ロータに設けられ、後記ステータとともにドラッグポンプ部を構成するロータ円筒部と、前記ハウジングに設けられ、前記ロータ円筒部とともにドラッグポンプ部を構成するステータと、前記ハウジングを、第1温度以上の温度となるように加熱する加熱装置と、前記ベースを、前記第1温度未満の温度となるように冷却する冷却装置とをさらに有する。
これにより、ハウジングを第1温度以上に加熱してガス生成物の堆積を十分に抑制して、モータを十分に冷却することができる。
【0042】
(第3項)第2の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記第1温度は、前記ステータの温度が100℃以上となるように設定されている。このため、昇華温度が比較的高いガスを使用するプロセスでも、ステータへのガス生成物の堆積を防止できる。
【0043】
(第4項)第2または3の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記冷却装置は、ポンプ起動後に駆動され、前記ベースの温度に応じた温度制御を行わずに前記ベースを冷却する。このため、冷却装置の構成を簡素化でき、コストを抑えることができる。
【0044】
(第5項)第2または3の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記冷却装置は、ポンプ駆動後に前記ステータが所定温度に達するまでは前記ベースを冷却せず、前記所定温度に達した後、前記ベースの温度に応じた温度制御を行わずに前記ベースを冷却する。このため、不必要に冷却装置を駆動することが防止され、消費電力を低減し、耐久性の向上を図ることができる。
【0045】
(第6項)第1から第5の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記熱分離部は、前記ベースおよび前記ハウジングのいずれよりも熱伝導率が低い断熱材または樹脂により形成されている。
【0046】
(第7項)第1から第6の態様のターボ分子ポンプにおいて、前記ベースは、ポンプ中央部に軸方向に延在し前記モータが取り付けられるモータケースと前記設置部が形成されるベース基部を含み、前記モータケースの外周面は前記ロータ翼の内周面と対向し、前記モータケースの前記外周面に、放射率を所定値以上とする放射率改善層が設けられている。
このため、ロータからの輻射熱が効率よくモータケースに吸収されるので、とくに昇華温度が高いガス種を使用するため比較的高い温度にハウジングを加熱する場合においても、ロータをクリープ温度以下に設定できる。
【0047】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
3 ロータ
11 ハウジング
17 温度センサ
21 ベース
22 ベース基部
22b 設置部
22c 外周面
23 モータケース
30 ロータ翼
31 ロータ円筒部
33 ステータ翼
42 ステータ
54 モータ
61 ヒータ
62 冷却管
65 熱分離部
66 放射率改善層
70 温度制御部
71 ポンプ
100 ターボ分子ポンプ
P1 タービンポンプ部
P2 ドラッグポンプ部
図1
図2
図3