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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107321
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】膜厚測定装置及び膜厚測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
G01B11/06 H
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024094515
(22)【出願日】2024-06-11
(62)【分割の表示】P 2022500416の分割
【原出願日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020022724
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】中村 共則
(72)【発明者】
【氏名】大塚 賢一
(72)【発明者】
【氏名】荒野 諭
(72)【発明者】
【氏名】土屋 邦彦
(57)【要約】
【課題】光の波長を正確に導出し適切な画像を取得すること。
【解決手段】膜厚測定装置は、対象物に対して面状に光を照射する光照射部と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、対象物からの光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、記光学素子によって分離された光を撮像する撮像部と、光を撮像した撮像部からの信号に基づいて対象物の膜厚を推定する解析部と、を備え、光照射部は、光学素子の所定の波長域に含まれる波長の光を照射する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対して面状に光を照射する光照射部と、
所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、前記対象物からの光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、
前記光学素子によって分離された光を撮像する撮像部と、
光を撮像した前記撮像部からの信号に基づいて前記対象物の膜厚を推定する解析部と、を備え、
前記光照射部は、前記光学素子の前記所定の波長域に含まれる波長の光を照射する、膜厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、膜厚測定装置及び膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体の製造装置等においては、ウエハ面に均一に成膜することが重要である。膜厚値の面内均一性が悪い場合には、配線不良やボイド等の故障要因が生じ、歩留まりが悪化してしまう。この場合、プロセス時間及び材料が増えることによって、生産性が悪化することが問題となる。このため、半導体の製造装置等においては、通常、ポイントセンサ又はラインスキャン(例えば特許文献1参照)等によって膜厚を測定し、所望の膜厚分布になっているか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-205132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したポイントセンサ又はラインスキャン等によって膜厚を測定する方法では、測定時間が長くなることが問題となる。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、膜厚を高速に測定することができる膜厚測定装置及び膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る膜厚測定装置は、対象物に対して面状に光を照射する光照射部と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、対象物からの光を透過及び反射することにより分離する光学素子と、光学素子によって分離された光を撮像する撮像部と、光を撮像した撮像部からの信号に基づいて対象物の膜厚を推定する解析部と、を備え、光照射部は、光学素子の所定の波長域に含まれる波長の光を照射する。
【0007】
本発明の一態様に係る膜厚測定装置では、対象物に対して面状に、光学素子の所定の波長域に含まれる波長の光が照射される。そして、本膜厚測定装置では、光学素子が、対象物からの光を透過及び反射することにより分離する。ここで、光学素子は、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化する。そのため、光学素子において分離される光における透過される割合と反射される割合とは、波長に応じて変化することとなる。そして、分離された光が撮像部において撮像されることにより、透過光の割合と反射光の割合が特定可能となり、その結果、波長が特定可能となる。さらに、解析部において、撮像部からの信号に基づき対象物の膜厚が推定される。波長を示す情報に基づいて膜厚が推定可能であるところ、上述したように、撮像部における撮像結果から波長が特定されるため、当該波長の情報を含む信号(撮像部からの信号)が考慮されることによって、対象物の膜厚を高精度に推定することができる。そして、本膜厚測定装置では、対象物に対して面状に光が照射されて、対象物からの光に応じて対象物の面内の膜厚が同時に推定されるため、ポイントセンサ又はラインスキャン等によって光の照射範囲が変更されながら面内の膜厚が推定される場合と比較して、面内の膜厚分布を高速に推定することができる。以上のように、本発明の一態様に係る膜厚測定装置によれば、対象物の膜厚を高速に測定することができる。
【0008】
上記膜厚測定装置において、解析部は、撮像部における画素毎の波長情報に基づいて各画素に対応する膜厚を推定してもよい。このような構成によれば、対象物の照射面における膜厚分布をより詳細に(画素毎に)推定することができる。
【0009】
上記膜厚測定装置において、解析部は、対象物に照射される光の角度を更に考慮して、膜厚を推定してもよい。対象物に照射される光の角度が変わると光路が変わるため、波長のみの情報からは高精度に膜厚が推定できない場合がある。この点、対象物に照射される光の角度がさらに考慮されることによって、実際の光路に応じて、より高精度に膜厚を推定することができる。
【0010】
上記膜厚測定装置において、光照射部は、対象物に対して拡散光を照射してもよい。これにより、対象物の表面に対して均一的に光を照射することができる。
【0011】
上記膜厚測定装置において、光照射部は、拡散光を生成する導光板を有していてもよい。これにより、コンパクトな構成で、対象物の表面に対して均一的に光を照射することができる。
【0012】
上記膜厚測定装置は、光学素子及び撮像部の間に配置されたバンドパスフィルタを更に備えていてもよい。これにより、所望の波長範囲外の光を取り除くことができ、膜厚推定の精度を向上させることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る膜厚測定方法は、対象物に対して面状に光を照射する第1工程と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し対象物からの光を透過及び反射することにより分離する光学素子によって分離された光を撮像する第2工程と、撮像結果に基づいて波長を導出し、該波長に基づいて対象物の膜厚を推定する第3工程と、を含む。このような膜厚測定方法によれば、上述した膜厚測定装置と同様に、対象物の膜厚を高速に測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る膜厚測定装置によれば、対象物の膜厚を高速に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に膜厚測定装置を模式的に示した図である。
図2】光源の一例を模式的に示す図であり、図2(a)はフラットドーム照明、図2(b)はドーム照明を示している。
図3】ダイクロイックミラーの特性と光源から出射される光の波長との関係を説明する図である。
図4】光のスペクトル及び傾斜ダイクロイックミラーの特性を説明する図である。
図5】透過光量及び反射光量に応じた波長シフトを説明する図である。
図6】波長と膜厚との関係を示す図である。
図7】膜厚測定の原理を説明する図である。
図8】カメラシステムに対する光の入射角の違いを説明する図である。
図9】膜厚測定値の補正を説明する図である。
図10】本実施形態に係る膜厚測定装置と比較例との比較結果を示す図である。
図11】変形例に係る膜厚測定装置を説明する図である。
図12】変形例に係る膜厚測定装置を説明する図である。
図13】変形例に係る膜厚測定装置を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る膜厚測定装置1を模式的に示した図である。膜厚測定装置1は、サンプル100(対象物)に対して面状に光を照射し、該サンプル100からの反射光に基づいて、サンプル100に形成された膜の厚さを測定する装置である。サンプル100は、例えばLED、ミニLED、μLED、SLD素子、レーザ素子、垂直型レーザ素子(VCSEL)、OLED等の発光素子であってもよいし、ナノドット等を含む蛍光物質により発光波長を調整する発光素子であってもよい。
【0018】
図1に示されるように、膜厚測定装置1は、光源10(光照射部)と、カメラシステム20と、制御装置30(解析部)と、を備えている。
【0019】
光源10は、サンプル100に対して面状に光を照射する。光源10は、例えば、サンプル100の表面の略全面に対して面状に光を照射する。光源10は、例えば、サンプル100の表面を均一的に照射可能な光源であり、サンプル100に対して拡散光を照射する。図2に示されるように、光源10は、いわゆるフラットドーム型の光源10A(図2(a)参照)であってもよいし、ドーム型の光源10B(図2(b)参照)であってもよい。図2(a)に示される光源10Aは、LED10cと、導光板10dと、を有する。導光板10dは、LED10cから照射される光に応じて拡散光を生成する。導光板10dによって生成された拡散光は、サンプル100において反射され、カメラシステム20に入力される。このようなフラットドーム型の光源10Aによれば、十分な視野(例えば300mm程度の視野)を確保しながら、映り込みを抑制することができる。光源10Bは、LED10eと、ドーム部10fと、を有する。LED10eから照射された光がドーム部10fの内面に照射され、該ドーム部10fの内面からの拡散光がサンプル100において反射され、サンプル100における反射光がカメラシステム20に入力される。光源10は、白色LED、ハロゲンランプ、又はXeランプ等を用いた面照明ユニットであってもよい。
【0020】
光源10は、カメラシステム20が有する傾斜ダイクロイックミラー22(詳細は後述)の所定の波長域に含まれる波長の光を、サンプル100に対して照射する。詳細は後述するが、傾斜ダイクロイックミラー22は、サンプル100からの光を波長に応じて透過及び反射することにより分離する光学素子である。傾斜ダイクロイックミラー22は、上述した所定の波長域において、波長に応じて透過率及び反射率が変化する。
【0021】
図3は、傾斜ダイクロイックミラー22の特性と光源10から出射される光の波長との関係を説明する図である。図3において、横軸は波長を示しており、縦軸は傾斜ダイクロイックミラー22の透過率を示している。図3の傾斜ダイクロイックミラー22の特性X4に示されるように、傾斜ダイクロイックミラー22においては、所定の波長域X10では波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が緩やかに変化し、該特定の波長域以外の波長域では波長の変化に関わらず光の透過率(及び反射率)が一定とされている。図3に示されるように、光源10から出力される光X20は、上述した所定の波長域X10に含まれる波長の光を含んでいる。すなわち、光源10は、所定の波長域X10を含むブロードなスペクトルの光を出力する。なお、測定に係る波長域(干渉ピーク波長)は、サンプル100に形成されている膜の材質や測定膜厚範囲によって定まる。
【0022】
図1に戻り、カメラシステム20は、レンズ21と、傾斜ダイクロイックミラー22(光学素子)と、エリアセンサ23,24(撮像部)と、バンドパスフィルタ25,26と、を含んで構成されている。
【0023】
レンズ21は、入射したサンプル100からの光を集光するレンズである。レンズ21は、傾斜ダイクロイックミラー22の前段(上流)に配置されていてもよいし、傾斜ダイクロイックミラー22とエリアセンサ23,24との間の領域に配置されていてもよい。レンズ21は、有限焦点レンズであってもよいし、無限焦点レンズであってもよい。レンズ21が有限焦点レンズである場合には、レンズ21からエリアセンサ23,24までの距離は所定値とされる。レンズ21が無限焦点レンズである場合には、レンズ21は、サンプル100からの光を平行光に変換するコリメータレンズであり、平行光が得られるように収差補正されている。レンズ21から出力された光は、傾斜ダイクロイックミラー22に入射する。
【0024】
傾斜ダイクロイックミラー22は、特殊な光学素材を用いて作成されたミラーであり、サンプル100からの光を波長に応じて透過及び反射することにより分離する光学素子である。傾斜ダイクロイックミラー22は、所定の波長域において波長に応じて光の透過率及び反射率が変化するように構成されている。
【0025】
図4は、光のスペクトル及び傾斜ダイクロイックミラー22の特性を説明する図である。図4において横軸は波長を示しており、縦軸はスペクトル強度(光のスペクトルの場合)及び透過率(傾斜ダイクロイックミラー22の場合)を示している。図4の傾斜ダイクロイックミラー22の特性X4に示されるように、傾斜ダイクロイックミラー22においては、所定の波長域(波長λ1~λ2の波長域)では波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が緩やかに変化し、該所定の波長域以外の波長域(すなわち、波長λ1よりも低波長側及び波長λ2よりも高波長側)では波長の変化に関わらず光の透過率(及び反射率)が一定とされている。換言すれば、特定の波長帯(波長λ1~λ2の波長帯)では波長の変化に応じて光の透過率が単調増加(反射率が単調減少)で変化している。透過率と反射率とは、一方が大きくなる方向に変化すると他方が小さくなる方向に変化する、負の相関関係にあるため、以下では「透過率(及び反射率)」と記載せずに単に「透過率」と記載する場合がある。なお、「波長の変化に関わらず光の透過率が一定」とは、完全に一定である場合だけでなく、例えば波長1nmの変化に対する透過率の変化が0.1%以下であるような場合も含むものである。波長λ1よりも低波長側では波長の変化に関わらず光の透過率が概ね0%であり、波長λ2よりも高波長側では波長の変化に関わらず光の透過率が概ね100%である。なお、「光の透過率が概ね0%である」とは、0%+10%程度の透過率を含むものであり、「光の透過率が概ね100%である」とは、100%-10%程度の透過率を含むものである。図4において、波形X1は、光源10から出力される光の波形を示している。図4の波形X1に示されるように、光源10から出力される光は、傾斜ダイクロイックミラー22の所定の波長域(波長λ1~λ2の波長域)に含まれる波長の光を含んでいる。
【0026】
エリアセンサ23,24は、傾斜ダイクロイックミラー22によって分離された光を撮像する。エリアセンサ23は、傾斜ダイクロイックミラー22において透過された光を撮像する。エリアセンサ24は、傾斜ダイクロイックミラー22において反射された光を撮像する。エリアセンサ23,24が感度を有する波長の範囲は、傾斜ダイクロイックミラー22において波長の変化に応じて光の透過率(及び反射率)が変化する所定の波長域に対応している。エリアセンサ23,24は、例えば、モノクロセンサ又はカラーセンサである。エリアセンサ23,24による撮像結果(画像)は、制御装置30に出力される。
【0027】
バンドパスフィルタ25は、傾斜ダイクロイックミラー22及びエリアセンサ23の間に配置されている。バンドパスフィルタ26は、傾斜ダイクロイックミラー22及びエリアセンサ24の間に配置されている。バンドパスフィルタ25,26は、例えば、上述した所定の波長域(傾斜ダイクロイックミラー22において、波長に応じて光の透過率及び反射率が変化する波長域)以外の波長域の光を取り除くフィルタであってもよい。
【0028】
図1に戻り、制御装置30は、コンピュータであって、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。制御装置30は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。制御装置30は、マイコンやFPGAで構成されていてもよい。
【0029】
制御装置30は、光を撮像したエリアセンサ23,24からの信号に基づいてサンプル100の膜厚を推定する。制御装置30は、エリアセンサ23,24における画素毎の波長情報に基づいて各画素に対応する膜厚を推定する。より詳細には、制御装置30は、エリアセンサ23における撮像結果(エリアセンサ23からの信号)に基づき特定される透過光量と、エリアセンサ24における撮像結果(エリアセンサ24からの信号)に基づき特定される反射光量と、傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長(所定の波長域の中心波長)と、傾斜ダイクロイックミラー22の幅と、に基づいて、画素毎の光の波長重心を導出し、該波長重心に基づいて各画素に対応する膜厚を推定する。傾斜ダイクロイックミラー22の幅とは、例えば傾斜ダイクロイックミラー22において透過率が0%となる波長から透過率が100%となる波長までの波長幅である。
【0030】
具体的には、制御装置30は、以下の(1)式に基づいて各画素の波長重心を導出する。以下の(1)式において、λは波長重心、λ0は傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長、Aは傾斜ダイクロイックミラー22の幅、Rは反射光量、Tは透過光量を示している。
λ=λ0+A(T-R)/2(T+R) (1)
【0031】
図5は、透過光量及び反射光量に応じた波長シフトを説明する図である。上述した(1)式によってλ(波長重心)を導出する場合、図5に示されるように、T(透過光量)=R(反射光量)である画素については、λ=λ0(傾斜ダイクロイックミラー22の中心波長)とされる。また、T<Rである画素、すなわち透過光量よりも反射光量が多い画素については、λ=λ1(λ0よりも短波長側の波長)とされる。また、T>Rである画素、すなわち透過光量が反射光量よりも多い画素については、λ=λ2(λ0よりも長波長側の波長)とされる。このように、λ(波長重心)は、透過光量及び反射光量に基づいて値がシフト(波長シフト)する。
【0032】
なお、波長重心の導出方法は、上記に限定されない。例えば、λ(波長重心)は以下のxと比例関係にあるため、以下の(2)式及び(3)式から波長重心を導出してもよい。以下の(3)式において、ITは透過光量、IRは反射光量を示している。また、測定対象のスペクトル形状や傾斜ダイクロイックミラー22の線形成が理想的な形状である場合には、(2)式におけるパラメータであるa、bは傾斜ダイクロイックミラー22の光学特性によって決定できる。
λ=ax+b (2)
x=IT-IR/2(IT+IR) (3)
【0033】
なお、実際には光学系やカメラ間のスペクトル特性に差異(個体差)があるため、それらを補正する目的で、例えば、反射特性が既知の基板の信号強度をリファレンスとして、xを以下の(4)式により導出してもよい。以下の(4)式において、ITrはリファレンスにおける透過光量、IRrはリファレンスにおける反射光量を示している。
x=(IT/ITr-IR/IRr)/2(IT/ITr+IR/IRr) (4)
【0034】
また、光源からの直接光の影響を除去する目的で無反射状態の信号量を用いてxを以下の(5)式により導出してもよい。以下の(5)式において、ITbは無反射状態の透過光量、IRbは無反射状態の反射光量を示している。
x={(IT-ITb)/(ITr-ITb)-(IR-IRb)/(IRr-IRb)}/2{(IT-ITb)/(ITr-ITb)+(IR-IRb)/(IRr-IRb)}
(5)
【0035】
また、膜特性、照射スペクトル、傾斜ダイクロイックミラー22の非線形性等の、種々の補正を包括的に実施するために、波長重心(λ)は以下の(6)式のような多項式で近似してもよい。なお、以下の(6)式における各パラメータ(a、b、c、d、e)は、例えば、波長重心(膜厚)の異なるサンプルを複数測定することにより決定される。
λ=ax4+bx3+cx2+dx+e (6)
【0036】
図6は、膜厚測定の原理を説明する図である。図6では、横軸が波長、縦軸が反射率とされている。図6に示す例では、膜厚が820nmの例、830nmの例、840nmの例のそれぞれについて波長と反射率との関係が示されている。図6に示されるように、膜厚の違いによって、波長重心が異なることとなる。このため、波長重心が特定されることにより、膜厚を推定することが可能となる。
【0037】
波長と膜厚との関係は、図7に示されるように、以下の(7)式により説明することができる。以下の(7)式において、nは膜の屈折率、dは膜厚、mは正の整数(1,2,3,…)、λは波長重心を示している。2ndは、光路差(膜が配置されていることにより生じる光路差)を示している。制御装置30は、以下の(7)式に基づいて、各画素の波長重心から各画素に対応する膜厚を推定する。
2nd=mλ(m=1,2,3,…) (強め合う条件)
2nd=(m-1/2)λ(m=1,2,3,…) (弱め合う条件)・・(7)
【0038】
ここで、上述した波長と膜厚との関係を示す(7)式は、サンプル100に対して光が垂直に入射する場合に成り立つ。一方で、サンプル100に対して、光が垂直に入射しない場合には、上記(7)式は成立しない。すなわち、図8に示されるように、基材102の表面に膜101が配置されたサンプル100に対して光が入射する場合、測定点によって光の入射角が異なって光路差が異なるため、一律に上記(7)式によって膜厚を高精度に推定することができない。このため、どの測定点(入射角)でも高精度に膜厚を推定するためには、測定点(入射角)に応じた計算(補正処理)が必要となる。
【0039】
図9は、膜厚測定値の補正を説明する図である。図9(a)に示されるように、光の入射角がθである場合、光路差は、2ndcosθで示される。これにより、入射角θを考慮した波長と膜厚との関係は、図9(b)に示されるように、以下の(8)式により説明することができる。制御装置30は、以下の(8)式に基づいて、測定点(入射角)に応じた膜厚推定を行う。このように、制御装置30は、サンプル100に照射される光の角度を更に考慮して、波長重心から膜厚を推定してもよい。
2ndcosθ=mλ (強め合う条件)
2ndcosθ=(m-1/2)λ (弱め合う条件)・・(8)
【0040】
上述したように、膜厚測定装置1は、膜厚測定方法を実施する。膜厚測定方法は、例えば、サンプル100に対して面状に光を照射する第1工程と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化しサンプル100からの光を透過及び反射することにより分離する傾斜ダイクロイックミラー22によって分離された光を撮像する第2工程と、撮像結果に基づいて波長を導出し、該波長に基づいてサンプル100の膜厚を推定する第3工程と、を含んでいる。
【0041】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0042】
本実施形態に係る膜厚測定装置1は、サンプル100に対して面状に光を照射する光源10と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化し、サンプル100からの光を透過及び反射することにより分離する傾斜ダイクロイックミラー22と、傾斜ダイクロイックミラー22によって分離された光を撮像するエリアセンサ23,24と、光を撮像したエリアセンサ23,24からの信号に基づいてサンプル100の膜厚を推定する制御装置30と、を備え、光源10は、傾斜ダイクロイックミラー22の所定の波長域に含まれる波長の光を照射する。
【0043】
本実施形態に係る膜厚測定装置1では、サンプル100に対して面状に、傾斜ダイクロイックミラー22の所定の波長域に含まれる波長の光が照射される。そして、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、傾斜ダイクロイックミラー22が、サンプル100からの光を透過及び反射することにより分離する。ここで、傾斜ダイクロイックミラー22は、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化する。そのため、傾斜ダイクロイックミラー22において分離される光における透過される割合と反射される割合とは、波長に応じて変化することとなる。そして、分離された光がエリアセンサ23,24において撮像されることにより、透過光の割合と反射光の割合が特定可能となり、その結果、波長が特定可能となる。さらに、制御装置30において、エリアセンサ23,24からの信号に基づきサンプル100の膜厚が推定される。波長を示す情報に基づいて膜厚が推定可能であるところ、上述したように、エリアセンサ23,24における撮像結果から波長が特定されるため、当該波長の情報を含む信号(エリアセンサ23,24からの信号)が考慮されることによって、サンプル100の膜厚を高精度に推定することができる。そして、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、サンプル100に対して面状に光が照射されて、サンプル100からの光に応じてサンプル100の面内の膜厚が同時に推定されるため、ポイントセンサ又はラインスキャン等によって光の照射範囲が変更されながら面内の膜厚が推定される場合と比較して、面内の膜厚分布を高速に推定することができる。以上のように、本実施形態に係る膜厚測定装置1によれば、サンプル100の膜厚を高速に測定することができる。
【0044】
図10は、本実施形態に係る膜厚測定装置1と比較例との比較結果を示す図である。図10に示されるように、ポイントセンサによって1点ずつ膜厚が測定される場合には、例えば4時間程度の測定時間がかかる。なお、ここでの4時間とは、例えば約16000点の検出が行われた場合の測定時間である。また、図10に示されるように、ラインスキャンによって1ラインずつ膜厚が測定される場合には、例えば3分程度の測定時間がかかる。これに対して、図10に示されるように、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、サンプル100に対して面状に光が照射されて面内の膜厚が一括で(同時に)測定されるので、測定時間が5秒程度となる。このように、本実施形態に係る膜厚測定装置1は、比較例に係るポイントセンサ又はラインスキャン等と比較して、面内の膜厚分布を高速に推定することができる。なお、本実施形態に係る膜厚測定装置1では、測定結果と実際の膜厚との誤差を0.1%以下とすることができた。このように、本実施形態に係る膜厚測定装置1は、膜厚に関する測定時間の短縮及び測定精度の向上を両立することができる。また、ポイントセンサ及びラインスキャンに係る構成は、インライン(装置への搭載)が困難であるところ、本実施形態に係る膜厚測定装置1は、容易にインライン対応が可能である。
【0045】
上記膜厚測定装置1において、制御装置30は、エリアセンサ23,24における画素毎の波長情報に基づいて各画素に対応する膜厚を推定してもよい。このような構成によれば、サンプル100の照射面における膜厚分布をより詳細に(画素毎に)推定することができる。
【0046】
上記膜厚測定装置1において、制御装置30は、サンプル100に照射される光の角度を更に考慮して、膜厚を推定してもよい。サンプル100に照射される光の角度が変わると光路が変わるため、波長のみの情報からは高精度に膜厚が推定できない場合がある。この点、サンプル100に照射される光の角度がさらに考慮されることによって、実際の光路に応じて、より高精度に膜厚を推定することができる。具体的には、上述した(8)式が用いられて膜厚が推定される。
【0047】
上記膜厚測定装置1において、光源10は、サンプル100に対して拡散光を照射してもよい。これにより、サンプル100の表面に対して均一的に光を照射することができる。
【0048】
上記膜厚測定装置1において、光源10は、拡散光を生成する導光板10d(図2(a)参照)を有していてもよい。これにより、コンパクトな構成で、サンプル100の表面に対して均一的に光を照射することができる。
【0049】
上記膜厚測定装置1は、傾斜ダイクロイックミラー22及びエリアセンサ23,24の間に配置されたバンドパスフィルタ25,26を更に備えていてもよい。これにより、所望の波長範囲外の光を取り除くことができ、膜厚推定の精度を向上させることができる。
【0050】
本実施形態に係る膜厚測定方法は、膜厚測定装置1により実施され、サンプル100に対して面状に光を照射する第1工程と、所定の波長域において波長に応じて透過率及び反射率が変化しサンプル100からの光を透過及び反射することにより分離する傾斜ダイクロイックミラー22によって分離された光を撮像する第2工程と、撮像結果に基づいて波長を導出し、該波長に基づいてサンプル100の膜厚を推定する第3工程と、を含む。このような膜厚測定方法によれば、サンプル100の膜厚を高速に測定することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。膜厚測定装置1は、様々なサンプル100の膜厚測定に応用することができる。図11に示されるように、サンプル100として、半導体素子100A、フラットパネルディスプレイ100B、フィルム部材100C、電子部品100D、電子部品以外のその他の部品100E等が考えられる。
【0052】
すなわち、膜厚測定装置1は、半導体素子100Aについて、ウエハである基材102に形成された膜101の厚さを測定してもよい。この場合、装置構成としては、アーム、カセット、フープ、コンベア、移動ステージ等を含めたウエハ搬送及び保持機構が用いられる。
【0053】
また、膜厚測定装置1は、フラットパネルディスプレイ100Bについて、ガラス、フィルム、シート等で構成される基材102に形成された膜101の厚さを測定してもよい。この場合、装置構成としては、アーム、ガラス台、コンベア、移動ステージ等を含めた搬送及び保持機構が用いられる。
【0054】
また、膜厚測定装置1は、フィルム部材100Cについて、ガラス、フィルム、シート等で構成される基材102に形成された膜101の厚さを測定してもよい。この場合、装置構成としては、アーム、ガラス台、コンベア、移動ステージ等を含めた搬送及び保持機構が用いられる。なお、フィルム部材100Cについては、例えば、図12に示されるように、一方向に搬送されているフィルム部材100Cが連続的に撮像され、撮像領域同士が繋ぎ合わされることにより、搬送されているフィルム部材100C全体の膜厚測定が実施されてもよい。
【0055】
また、膜厚測定装置1は、電子部品100Dについて、基板である基材102に形成された膜101の厚さを測定してもよい。この場合、装置構成としては、アーム、カセット、フープ、コンベア、サンプル台、移動ステージ等を含めたウエハ搬送及び保持機構が用いられる。
【0056】
また、膜厚測定装置1は、部品100Eについて、基板である基材102に形成された膜101の厚さを測定してもよい。部品100Eの膜とは、例えば、成形品等の薄膜であり、この場合の膜厚測定とは、例えば薄膜コート厚の測定である。装置構成としては、アーム、カセット、フープ、コンベア、サンプル台、移動ステージ等を含めたウエハ搬送及び保持機構が用いられる。
【0057】
また、上述した膜厚測定によっては、相対的な膜厚分布が導出されるが、これに加えて、サンプル100のある一点のスペクトル情報(基準スペクトル情報)を検出することにより、相対的な膜厚分布及び基準スペクトル情報に基づいて、各エリアの膜厚の絶対値をそれぞれ導出してもよい。図13は、変形例に係る膜厚測定装置1Aを模式的に示した図である。膜厚測定装置1Aは、実施形態において説明した膜厚測定装置1の各構成に加えて、ハーフミラー29と、分光器50とを備えている。ハーフミラー29は、例えばサンプル100の中央付近の1点の光を反射する。分光器50は、当該1点の光の分光スペクトルデータである基準スペクトル情報を取得する。このように、基準スペクトル情報が取得されることにより、(7)式及び(8)式におけるmの値を決定し、相対的な膜厚の変化量だけでなく、各エリアの膜厚の絶対値を導出することができる。なお、膜厚の絶対値計測の手法は上記に限定されない。
【符号の説明】
【0058】
1,1A…膜厚測定装置、10…光源(光照射部)、10d…導光板、22…傾斜ダイクロイックミラー、23,24…エリアセンサ(撮像部)、25,26…バンドパスフィルタ、30…制御装置(解析部)、100…サンプル(対象物)。
図1
図2
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図5
図6
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図10
図11
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図13