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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107363
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】シール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/40 20060101AFI20240801BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
F16J15/40 Z
F16J15/3204 201
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095021
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2021520713の分割
【原出願日】2020-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2019093953
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】松岡 巌
(57)【要約】
【課題】被密封流体の機外への漏出を確実に防止することができるシール装置を提供する。
【解決手段】第1部材10と第1部材10に対して回転する第2部材2との相対回転箇所に設けられ、外部流体Wに面する第1シール手段21と、第1シール手段21に並設され、機内の被密封流体に面する第2シール手段23と、を備え、外部流体Wの侵入および被密封流体の漏出を防止するシール装置1であって、第1シール手段21と第2シール手段23との間には、これら第1シール手段21および第2シール手段23に中間シール手段22が並設され、第1シール手段21と中間シール手段22との間には、外部流体Wよりも高圧の気体が供給される気体室31が形成され、中間シール手段22と第2シール手段23との間には、気体室31に供給される気体よりも低圧かつ被密封流体よりも低圧の気体が供給される中間室32が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と該第1部材に対して回転する第2部材との相対回転箇所に設けられ、
外部流体に面する第1シール手段と、該第1シール手段に並設され、機内の被密封流体に面する第2シール手段と、を備え、
外部流体の侵入および被密封流体の漏出を防止するシール装置であって、
前記第1シール手段と前記第2シール手段との間には、これら前記第1シール手段および前記第2シール手段に中間シール手段が並設され、
前記第1シール手段と前記中間シール手段との間には、外部流体よりも高圧の気体が供給される気体室が形成され、
前記中間シール手段と前記第2シール手段との間には、前記気体室に供給される気体よりも低圧かつ被密封流体よりも低圧の気体が供給される中間室が形成されているシール装置。
【請求項2】
前記第2シール手段は、リップシールであり、そのリップ部が被密封流体により前記第2部材に押し付けられるように配置されている請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記中間室は、連通路を介して回収室に連通されている請求項1または2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記連通路には、前記中間室側への逆流を防止する逆止弁が設けられている請求項3に記載のシール装置。
【請求項5】
前記中間室には、圧力制御された圧縮気体が供給されている請求項1ないし4のいずれかに記載のシール装置。
【請求項6】
前記圧縮気体は、圧縮空気である請求項5に記載のシール装置。
【請求項7】
被密封流体は、外部流体よりも低圧に制御されている請求項1ないし6のいずれかに記載のシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進機や潮流発電機等に適用される回転機械の相対回転箇所をシールするシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の推進機や潮流発電機等が備える回転機械に設けられるシール装置には、相対回転箇所に形成される環状隙間をシールすることで、例えば潤滑油等の機内の被密封流体が機外へ漏出することを防止するとともに、海水等の外部流体が機内へ侵入することを防止するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている船舶の推進機に適用されるシール装置は、推進用の回転軸が挿通される軸孔を備えたハウジングに保持され、回転軸に外嵌されるライナーの外周面に摺接するシールリングを軸方向に並設して3つ備えており、これらのシールリングのうち船外側に設けられる一対のシールリング間に形成される一次環状室に対して空気が供給されるとともに、船内側に設けられる一対のシールリング間に形成される二次環状室に対して潤滑油が供給されている。詳しくは、一次環状室は、海水圧にシールリングの締付圧力を加えた内圧に保持されるように空気の供給量が調整されており、また二次環状室は、シールリングを介して一次環状室に供給された空気を船外側に吹き出させるために必要な内圧となるように潤滑油の供給量が調整されることにより、一次環状室および二次環状室の内圧が常に海水圧の変動分に応じて調整されるため、海水圧の変動に対する応答性が高く、船内への海水の浸入を防止できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-304005号公報(第4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のシール装置は、潤滑油が供給される二次環状室の内圧を利用して一次環状室から空気を船外側に吹き出させることにより、船内への海水の浸入を防止しているが、二次環状室の内圧が一次環状室の内圧よりも常に高い状態に調整されるため、これらのシールリングに不具合が生じた場合、二次環状室内の高圧の潤滑油がシールリングを介して一次環状室に侵入し、当該潤滑油が空気と共に一次環状室から低圧の船外側に吹き出されることで、潤滑油の船外への漏出が発生してしまう虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、被密封流体の機外への漏出を確実に防止することができるシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のシール装置は、
第1部材と該第1部材に対して回転する第2部材との相対回転箇所に設けられ、
外部流体に面する第1シール手段と、該第1シール手段に並設され、機内の被密封流体に面する第2シール手段と、を備え、
外部流体の侵入および被密封流体の漏出を防止するシール装置であって、
前記第1シール手段と前記第2シール手段との間には、これら前記第1シール手段および前記第2シール手段に中間シール手段が並設され、
前記第1シール手段と前記中間シール手段との間には、外部流体よりも高圧の気体が供給される気体室が形成され、
前記中間シール手段と前記第2シール手段との間には、前記気体室に供給される気体よりも低圧かつ被密封流体よりも低圧の気体が供給される中間室が形成されている。
これによれば、第2シール手段に面した被密封流体が、この第2シール手段を介して中間室に侵入する不具合が生じても、機外側に隣接する気体室よりも圧力の低い中間室にこの被密封流体を滞留させることができるため、被密封流体の機外への漏出を確実に防止することができる。
【0008】
前記第2シール手段は、リップシールであり、そのリップ部が被密封流体により前記第2部材に押し付けられるように配置されていてもよい。
これによれば、中間室の気体よりも高圧の被密封流体の圧力を、リップシールの締付圧力として作用させることができるため、被密封流体が中間室に侵入し難い。
【0009】
前記中間室は、連通路を介して回収室に連通されていてもよい。
これによれば、中間室に侵入した被密封流体が連通路を通して回収室に回収されることにより、中間室内の被密封流体を別室である回収室に排出し易くなるため、被密封流体の機外への漏出をより防止することができる。
【0010】
前記連通路には、前記中間室側への逆流を防止する逆止弁が設けられていてもよい。
これによれば、回収室に回収された被密封流体が連通路を通して中間室に逆流することを防止することができる。
【0011】
前記中間室には、圧力制御された圧縮気体が供給されていてもよい。
これによれば、気体室に供給される気体や被密封流体との差圧を適正に維持することができる。
【0012】
前記圧縮気体は、圧縮空気であってもよい。
これによれば、取扱いが容易で且つ安全性を確保できる。
【0013】
被密封流体は、外部流体よりも低圧に制御されていてもよい。
これによれば、中間室に侵入した被密封流体が機外へ漏出し難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1におけるシール装置を使用した船尾管シールシステムを説明する概略図である。
図2】実施例1におけるシール装置を示す拡大模式図である。
図3】本発明の実施例2におけるシール装置を使用した船尾管シールシステムを説明する概略図である。
図4】実施例2におけるシール装置を示す拡大模式図である。
図5】実施例2におけるシール装置を使用した船尾管シールシステムの変形例を説明する概略図である。
図6】本発明の実施例3におけるシール装置を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るシール装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0016】
実施例1に係るシール装置につき、図1および図2を参照して説明する。尚、本実施例においては、船舶の推進機用のシール装置を例に挙げ説明する。また、図1および図2の紙面左側をシール装置の船尾側(船外側)とし、図1および図2の紙面右側をシール装置の船首側(船内側)として説明する。尚、図2,4においては、ハウジング等のハッチングを省略し、各室に供給・貯留される圧縮空気および潤滑油をハッチングにより模式的に示している。
【0017】
図1に示されるように、本発明に係るシール装置1は、船舶の推進機用の軸封装置であって、推進用のプロペラ3を有するプロペラ軸2が挿通される船尾管100に対して船尾側から取り付けられ、プロペラ軸2と図示しない軸受との潤滑のために船体を構成する船尾管100内に供給される被密封流体としての潤滑油の船外への漏出を防止するとともに、外部流体としての海水Wの船内への侵入を防止するために用いられる。また、シール装置1は、船内に設けられる空気制御ユニット120、潤滑油循環ユニット130および回収ユニット140とそれぞれ管路で接続されることにより船尾管シールシステムを構成している。また、船内に設けられるシール装置40は、船尾管100に対して船首側から取り付けられ、船尾管100内に供給される潤滑油の機械室への侵入を防止するための軸封装置である。尚、本実施例においては、船尾側のシール装置1について説明し、船首側のシール装置40についての説明を省略する。
【0018】
図1および図2に示されるように、シール装置1は、第1部材としてのハウジング10と、ハウジング10に対して回転する第2部材としてのプロペラ軸2を構成するライナー4との相対回転箇所に設けられ、船外の海水Wに面する第1シール手段としての第1リップシール21と、第1リップシール21よりも船内側に並設され、船尾管100内の油室33を満たす潤滑油に面する第2シール手段としての第2リップシール23と、第1リップシール21と第2リップシール23との間に並設される中間シール手段としての中間リップシール22と、から主に構成されている。
【0019】
図2に示されるように、ハウジング10は、船尾側から順に、第1分割ハウジング10a、第2分割ハウジング10b、第3分割ハウジング10cおよび第4分割ハウジング10dを軸方向に互いに嵌合させた状態で図示しないボルト等によって一体に連結されることにより略円筒状に形成されている。尚、ハウジング10は、船首側の第4分割ハウジング10dに形成されるフランジ部を船尾管100に対して船尾側から当接させた状態で図示しないボルト等によって固定されている。
【0020】
また、ハウジング10において、第1分割ハウジング10aと第2分割ハウジング10bとの間には、第1リップシール21の外径部が略密封状に保持され、第2分割ハウジング10bと第3分割ハウジング10cとの間には、中間リップシール22の外径部が略密封状に保持され、第3分割ハウジング10cと第4分割ハウジング10dとの間には、第2リップシール23の外径部が略密封状に保持されている。
【0021】
また、第2分割ハウジング10b、第3分割ハウジング10cおよび第4分割ハウジング10dには、空気制御ユニット120と気体室としての第1環状室31との間を連通する第1空気供給路11の一部を成す貫通孔が形成されており、第2分割ハウジング10bには、内周面の上方側に第1空気供給路11に連通する供給口11aが形成されている。
【0022】
また、第3分割ハウジング10cおよび第4分割ハウジング10dには、空気制御ユニット120と中間室としての第2環状室32との間を連通する第2空気供給路12の一部を成す貫通孔が形成されており、第3分割ハウジング10cには、内周面の上方側に第2空気供給路12に連通する供給口12aが形成されている。さらに、第3分割ハウジング10cおよび第4分割ハウジング10dには、第2環状室32と回収ユニット140との間を連通する連通路14の一部を成す貫通孔が形成されており、第3分割ハウジング10cには、内周面の下方側に連通路14に連通する排出口14aが形成されている。
【0023】
図2に示されるように、これらのリップシール21,22,23は、耐水性、耐油性に優れるフッ素ゴムやニトリルゴム等の弾性材料から形成されている。尚、本実施例の各リップシール21,22,23は、よく知られた構成であるため詳細な説明は省略する。
【0024】
また、各リップシール21,22,23は、ハウジング10に外径部を略密封状に保持された状態で軸方向に並設され、内径側に延びるとともに高圧側に向けて軸方向に延設されたリップ部21a,22a,23aの内周面をプロペラ軸2に外嵌されたライナー4の外周面にそれぞれ摺接させることにより、第1リップシール21と中間リップシール22との間に第1環状室31が形成され、中間リップシール22と第2リップシール23との間に第2環状室32が形成されている。また、第2リップシール23と船首側のシール装置40における船尾側のリップシール41との間に環状の油室33が形成されている。
【0025】
尚、第1環状室31には、空気制御ユニット120から第1空気供給路11を介して海水Wよりも高圧に調整された圧縮気体としての圧縮空気が供給されている。また、第2環状室32には、空気制御ユニット120から第2空気供給路12を介して第1環状室31に供給される圧縮空気よりも低圧かつ潤滑油循環ユニット130から船尾管100内の油室33に供給される潤滑油よりも低圧に調整された圧縮気体としての圧縮空気が供給されている。
【0026】
また、第1環状室31の船尾側に設けられる第1リップシール21は、そのリップ部21aが船外側を向くように配置されており、海水圧Pがリップ部21aに対する締付圧力の一部として作用している。また、第1環状室31の船首側かつ第2環状室32の船尾側に設けられる中間リップシール22は、そのリップ部22aが船外側、すなわち第1環状室31側を向くように配置されており、第1環状室31内の空気圧Pがリップ部22aに対する締付圧力の一部として作用している。また、第2環状室32の船首側に設けられる第2リップシール23は、そのリップ部23aが船内側、すなわち船尾管100側を向くように配置されており、船尾管100内の油室33の油圧Pがリップ部23aに対する締付圧力の一部として作用している。
【0027】
次いで、シール装置1と共に船尾管シールシステムを構成する空気制御ユニット120、潤滑油循環ユニット130および回収ユニット140について説明する。
【0028】
図1に示されるように、空気制御ユニット120は、船内に設けられる図示しないコンプレッサから供給され、図示しない減圧弁や流量制御弁等により圧力調整された圧縮空気を第1空気供給路11、第2空気供給路12、または第3空気供給路13を通して、第1環状室31、第2環状室32または後述する潤滑油循環ユニット130の潤滑油タンク131に供給するユニットである。
詳しくは、空気制御ユニット120は、第1環状室31の船尾側に配置される第1リップシール21のリップ部21aを押圧する海水圧Pに応じて、第1環状室31内の空気圧Pを常に海水圧Pを超えるように調整する。
尚、海水圧Pは、船舶の喫水に応じて変動するものであり、空気制御ユニット120は、このような海水圧Pの変動に追従して空気圧を調整する。また、海水圧Pに応じた信号、すなわち第1空気供給路11および第1環状室31の空気圧に応じた信号は第1空気供給路11と第2空気供給路12との分岐部分に設けられる空気制御ユニット120の一部である減圧弁122に出力されており、圧縮空気の一部は、減圧弁122を通過する際に、当該出力された信号に基づいて第1環状室31に供給される圧縮空気の空気圧Pよりも低圧、かつ船尾管100内の油室33に供給される潤滑油の油圧Pよりも予め設定されている差圧分低くなるように減圧された空気圧Pの圧縮空気として、第2空気供給路12を通して第2環状室32に供給される。
【0029】
潤滑油循環ユニット130は、船内に設けられる潤滑油タンク131からポンプ134を用いて第1潤滑油循環路132を通して船尾管100内に潤滑油を供給し、船尾管100内から第2潤滑油循環路133を通して再び潤滑油タンク131に戻すことにより潤滑油を循環させるユニットである。尚、海水圧Pに応じた信号が第1空気供給路11と第3空気供給路13との分岐部分に設けられる空気制御ユニット120の一部である減圧弁123に出力されており、圧縮空気の一部は、減圧弁123を通過する際に、出力された信号に基づいて第2環状室32に供給される圧縮空気の空気圧Pよりも高圧、かつ海水圧Pよりも予め設定されている差圧分低く減圧若しくは同圧になるように調整された後、第3空気供給路13を通して潤滑油タンク131に供給される。よって、潤滑油タンク131内の潤滑油の油圧Pは、このように減圧された圧縮空気と、油面を境界面として接することで、第2環状室32の空気圧Pよりも高圧、かつ海水圧Pよりも低く若しくは同圧に調整される。
【0030】
すなわち、海水圧P、第1環状室31内の空気圧P、第2環状室32内の空気圧P、および油室33内の油圧Pは、空気圧P>海水圧P≧油圧P>空気圧Pを常に満たすように調整されている。
【0031】
回収ユニット140は、船尾管100内の油室33から潤滑油が第2環状室32内に侵入する不具合が生じた場合に、この潤滑油を連通路14を通して船内に設けられる回収室141に回収するユニットである。また、連通路14には、逆止弁142が設けられており、回収室141に回収された潤滑油が第2環状室32に逆流することが防止されている。
【0032】
このように、本実施例のシール装置1は、第1空気供給路11を通して第1環状室31に供給される圧縮空気の空気圧Pよりも低圧となるように、空気制御ユニット120によって空気圧Pに減圧された圧縮空気が、第2空気供給路12を通して第2環状室32に供給されるため、第2リップシール23に面した油室33内の潤滑油が第2リップシール23を介して第2環状室32内に侵入する不具合が生じても、船外側に隣接する第1環状室31内よりも低い空気圧Pの第2環状室32に侵入してきた潤滑油を滞留させることができ、潤滑油の船外への漏出を確実に防止することができる。
【0033】
さらに、第2環状室32の船尾側に設けられる中間リップシール22のリップ部22aが第1環状室31側を向くように配置されることから、中間リップシール22のリップ部22aが、第1環状室31の空気圧Pと第2環状室32の空気圧Pとの差圧によりライナー4の外周面に向かって内径側に押圧されてシールされるため、第2環状室32に侵入した潤滑油の第1環状室31への侵入を防止し、潤滑油の船外への漏出をより防止することができる。
【0034】
また、船尾管100内の油室33の潤滑油が第2リップシール23を介して第2環状室32に侵入する不具合が生じても、第2環状室32に侵入した潤滑油が連通路14を通して船内の回収室141に回収されることにより、第2環状室32内から潤滑油を排出し易くなるため、潤滑油の船外への漏出をより防止することができる。
【0035】
また、潤滑油循環ユニット130から船尾管100内の油室33に供給される潤滑油は、海水圧Pよりも予め設定されている差圧分低くなるように減圧されており、油室33内の油圧Pが海水圧Pよりも低圧となるように制御されるため、第2環状室32に潤滑油が侵入しても、船外へ漏出し難い。
【0036】
また、空気制御ユニット120から第2環状室32に供給される圧縮空気は、船尾管100内の油室33に供給される潤滑油よりも予め設定されている差圧分低くなるように減圧されることにより、第2リップシール23のリップ部23aが第2環状室32と油室33との差圧によりライナー4の外周面に向かって内径側に押圧されてシールされるため、油室33内に供給される潤滑油の第2環状室32への侵入を防止することができる。さらに、第2環状室32に供給される圧縮空気の油室33内への侵入も防止することができる。
【0037】
また、第2環状室32には、空気制御ユニット120を介して圧力調整された圧縮空気が供給されており、第1環状室31に供給される圧縮空気や油室33内に供給される潤滑油との差圧を適正に維持できることから、特に第2環状室32を構成する中間リップシール22および第2リップシール23に対する負荷を略一定に維持し、長寿命化することができる。
【0038】
また、第1環状室31および第2環状室32には、空気制御ユニット120を介して圧縮空気が供給されるため、取扱いが容易で且つ安全性を確保できる。
【0039】
また、空気制御ユニット120において海水圧P以上の空気圧Pとなるように圧力調整された圧縮空気が第1空気供給路11を通して第1環状室31に供給されるため、第1リップシール21のリップ部21aとライナー4との間から第1環状室31への海水Wの侵入が防止される。さらに、第1環状室31に供給された空気圧Pの空気を海水圧Pに抗して第1リップシール21のリップ部21aとライナー4との間から船外に吹き出させることにより、空気制御ユニット120において海水圧Pの変動を検知することができるため、他の検出タンクや配管増設が不要となる。
【0040】
また、第2環状室32内の空気圧Pを海水圧Pよりも低く設定することにより、油室33内の油圧Pを海水圧P未満とすることができるため、潤滑油の圧力を高くするためのポンプ設備や潤滑油タンク131を高所に設置する必要がなくなり、船尾管シールシステム全体を簡素化することができる。
【0041】
尚、第2環状室32には、第1環状室31から高圧の圧縮空気が侵入してきた場合に過剰分の圧力を排出できるように減圧弁、リリーフ弁等の圧力制御弁が設置されることが好ましく、これにより、油室33内への空気の侵入を防止することができる。
【実施例0042】
次に、実施例2に係るシール装置につき、図3および図4を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0043】
実施例2におけるシール装置201について説明する。図3に示されるように、シール装置201は、第1部材としてのハウジング210と、ハウジング210に対して回転する第2部材としてのプロペラ軸2を構成するライナー4との相対回転箇所に設けられ、第1リップシール21,中間リップシール22,第2リップシール23と、第2リップシール23の船首側に並設される補助リップシール24と、から主に構成されている。
【0044】
図4に示されるように、ハウジング210は、船尾側から順に、第1分割ハウジング10a、第2分割ハウジング10b、第3分割ハウジング10c、第4分割ハウジング210dおよび第5分割ハウジング210eを軸方向に互いに嵌合させた状態で図示しないボルト等によって一体に連結されることにより略円筒状に形成されている。
【0045】
また、ハウジング210において、第4分割ハウジング210dと第5分割ハウジング210eとの間には、補助リップシール24の外径部が略密封状に保持されている。また、第2リップシール23と補助リップシール24との間に環状の第2油室34が形成されている。
【0046】
また、第4分割ハウジング210dおよび第5分割ハウジング210eには、潤滑油循環ユニット130から延びる第1潤滑油循環路132から分岐して第2油室34との間を連通する分岐連通路234の一部を成す貫通孔が形成されており、第4分割ハウジング210dには、内周面の下方側に分岐連通路234に連通する供給口234aが形成されている。尚、分岐連通路234には開閉バルブ235が設けられている。また、潤滑油循環ユニット130を構成する潤滑油タンク131は、空気制御ユニット120から第3空気供給路13を通して供給される圧縮空気の圧力により潤滑油の圧力を調整可能な加圧タンクとして構成されている。
【0047】
また、第2油室34の船尾側に設けられる第2リップシール23は、そのリップ部23aが船内側、すなわち第2油室34側を向くように配置されており、第2油室34内の油圧PO2がリップ部23aに対する締付圧力の一部として作用している。また、第2油室34の船首側に設けられる補助リップシール24は、そのリップ部24aが船内側、すなわち船尾管100側を向くように配置されており、船尾管100内の油室33の油圧PO1がリップ部24aに対する締付圧力の一部として作用している。
【0048】
これによれば、本実施例のシール装置201は、第2リップシール23のリップ部23aが第2油室34側を向くように配置されることから、第2リップシール23のリップ部23aが第2環状室32と第2油室34との差圧によりライナー4の外周面に向かって内径側に押圧されてシールされるため、第2油室34に供給される潤滑油の第2環状室32への侵入を防止することができる。さらに、潤滑油循環ユニット130から分岐連通路234を通して第2油室34に供給された潤滑油は、第2リップシール23によってシールされることにより、第2油室34内の油圧PO2が油室33内の油圧PO1以上(油圧PO2≧油圧PO1)となるため、補助リップシール24のリップ部24aとライナー4との間から油室33内へ潤滑油を流出させることができ、第2油室34に供給される潤滑油が第2環状室32に侵入し難くなっている。尚、第2油室34から油室33内へ流出した潤滑油は、第2潤滑油循環路133を通して潤滑油タンク131に戻るようになっている。
【0049】
また、分岐連通路234に開閉バルブ235が設けられることにより、例えば、第2リップシール23が破損した場合に開閉バルブ235を閉めることで、第2油室34への潤滑油の供給を停止し、主に補助リップシール24により潤滑油をシールするように切り替えを行うことができる。
【0050】
また、潤滑油循環ユニットを構成する潤滑油タンクは、空気制御ユニット120から供給される圧縮空気の圧力により潤滑油の圧力を調整可能な加圧タンクとして構成されるものに限らない。例えば、本実施例2におけるシール装置201を用いた船尾管シールシステムの変形例として、図5に示されるように、潤滑油循環ユニット230を構成する潤滑油タンク231は、重力により一定圧の潤滑油を供給する重力タンクとして構成されてもよい。尚、前記実施例1におけるシール装置1を用いた船尾管シールシステムに、図5に示される潤滑油循環ユニット230が適用されてもよい。
【実施例0051】
次に、実施例3に係るシール装置につき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。また、本実施例においては、センターオープン式の潮流発電機用のシール装置を例に挙げ説明する。また、図6の紙面左側をシール装置の内径側とし、図6の紙面右側をシール装置の外径側として説明する。
【0052】
実施例3におけるシール装置301について説明する。図6に示されるように、センターオープン式の潮流発電機用のシール装置301は、内周面に複数のブレード303を有する環状のロータ302と、該ロータ302の外径側に配置されコイル306を有する環状の発電ユニット307との間に設けられる一対のベアリング304,304の潤滑のために機内に供給される潤滑油の機外への漏出を防止するとともに、海水Wの機内への侵入を防止するために用いられる。尚、ロータ302には、外周面の周方向に亘って磁石305が設けられており、ブレード303で潮流を受けたロータ302が発電ユニット307に対して相対回転することにより発電が行われる。
【0053】
シール装置301は、ロータ302および発電ユニット307の前後に配置される一対の環状のケーシング300,300に内径側から取り付けられる第1部材としての一対の環状のハウジング310,310と、ハウジング310,310に対して回転する第2部材としてのロータ302との相対回転箇所に設けられ、海水Wに面する第1シール手段としての一対の環状の第1リップシール321,321と、第1リップシール321,321にそれぞれ並設され、機内の潤滑油に面する第2シール手段としての一対の第2リップシール323,323と、第1リップシール321,321と第2リップシール323,323との間にそれぞれ並設される中間シール手段としての中間リップシール322,322と、から主に構成されている。
【0054】
図6に示されるように、ハウジング310,310は、それぞれ内径側から順に、第1分割ハウジング310a、第2分割ハウジング310b、第3分割ハウジング310cおよび第4分割ハウジング310dを互いに嵌合させた状態で図示しないボルト等によって一体に連結されることにより略円筒状に形成されている。尚、ハウジング310,310は、内径側の第1分割ハウジング310a,310aに形成されるフランジ部をケーシング300,300の内周面に対してそれぞれ嵌合させた状態で図示しないボルト等によって固定されている。
【0055】
また、ハウジング310,310において、それぞれ第1分割ハウジング310aと第2分割ハウジング310bとの間には、第1リップシール321の一端部が略密封状に保持され、第2分割ハウジング310bと第3分割ハウジング310cとの間には、中間リップシール322の一端部が略密封状に保持され、第3分割ハウジング310cと第4分割ハウジング310dとの間には、第2リップシール323の一端部が略密封状に保持されている。また、第1リップシール321と中間リップシール322との間に第1環状室331が形成され、中間リップシール322と第2リップシール323との間に第2環状室332が形成されている。また、第2リップシール323とベアリング304との間に環状の油室333が形成されている。
【0056】
また、第2分割ハウジング310b,310bには、機内に設けられる空気制御ユニット120と気体室としての第1環状室331,331との間を連通する第1空気供給路311,311の一部を成す貫通孔が形成されている。
【0057】
また、第3分割ハウジング310c,310cには、空気制御ユニット120と中間室としての第2環状室332,332との間を連通する第2空気供給路312,312の一部を成す貫通孔が形成されている。
【0058】
このように、本実施例のシール装置301は、第1空気供給路311,311を通して第1環状室331,331に供給される圧縮空気の空気圧Pよりも低圧となるように、空気制御ユニット120によって空気圧Pに減圧された圧縮空気が、第2空気供給路312,312を通して第2環状室332,332に供給されるため、第2リップシール323,323に面した機内の油室333内の潤滑油が第2リップシール323,323を介して第2環状室332,332内に侵入する不具合が生じても、機外側に隣接する第1環状室331,331内よりも低い空気圧Pの第2環状室332,332に侵入してきた潤滑油を滞留させることができ、潤滑油の船外への漏出を確実に防止することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0060】
例えば、前記実施例におけるシール装置は、潤滑油だけでなく機外から侵入した海水Wについても、中間室としての第2環状室において回収できることは言うまでもない。また、外部流体は海水に限らず、例えば淡水であってもよい。また、被密封流体も潤滑油に限らない。
【0061】
また、前記実施例において、空気制御ユニット120は、圧縮空気を減圧弁122,123により減圧する構成として説明したが、これに限らず、圧縮空気の減圧には、リリーフ弁等の各種圧力制御弁が用いられてもよい。また、圧縮気体は圧縮空気に限らない。
【0062】
また、前記実施例1,2において、リップシールがプロペラ軸2に外嵌されるライナー4の外周面に摺接する態様について説明したが、これに限らず、リップシールはプロペラ軸2の外周面に直接摺接するものであってもよい。また、前記実施例において、各シール手段は、リップシールから構成されるものに限らない。
【0063】
また、前記実施例3において、センターオープン式の潮流発電機に適用されるシール装置301について説明したが、例えばタービン式の潮流発電機に対して実施例1または実施例2の構成のシール装置が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 シール装置
2 プロペラ軸(第2部材)
4 ライナー
10 ハウジング(第1部材)
11 第1空気供給路
12 第2空気供給路
13 第3空気供給路
14 連通路
21 第1リップシール(第1シール手段)
22 中間リップシール(中間シール手段)
23 第2リップシール(第2シール手段)
24 補助リップシール
31 第1環状室(気体室)
32 第2環状室(中間室)
33 油室
34 第2油室
100 船尾管
120 空気制御ユニット
122,123 減圧弁
130 潤滑油循環ユニット
131 潤滑油タンク
132 第1潤滑油循環路
133 第2潤滑油循環路
134 ポンプ
140 回収ユニット
141 回収室
142 逆止弁
201 シール装置
210 ハウジング(第1部材)
230 潤滑油循環ユニット
231 潤滑油タンク
234 分岐連通路
300 ケーシング
301 シール装置
302 ロータ(第2部材)
307 発電ユニット
310 ハウジング(第1部材)
311 第1空気供給路
312 第2空気供給路
321 第1リップシール(第1シール手段)
322 中間リップシール(中間シール手段)
323 第2リップシール(第2シール手段)
331 第1環状室(気体室)
332 第2環状室(中間室)
333 油室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と該第1部材に対して回転する第2部材との相対回転箇所に設けられ、
外部流体に面する第1シール手段と、該第1シール手段に並設され、機内の被密封流体に面する第2シール手段と、を備え、
外部流体の侵入および被密封流体の漏出を防止するシール装置であって、
前記第1シール手段と前記第2シール手段との間には、これら前記第1シール手段および前記第2シール手段に中間シール手段が並設され、
前記第1シール手段と前記中間シール手段との間には、外部流体よりも高圧の気体が第1供給路から供給される気体室が形成され、
前記中間シール手段と前記第2シール手段との間には、前記気体室に供給される気体よりも低圧かつ被密封流体よりも低圧の気体が前記第1供給路とは別の第2供給路から供給される中間室が形成され
該中間室と前記気体室とは、互いに隣接して設けられているシール装置。
【請求項2】
前記第2シール手段は、リップシールであり、そのリップ部が被密封流体により前記第2部材に押し付けられるように配置されている請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記中間室は、連通路を介して回収室に連通されている請求項1または2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記連通路には、前記中間室側への逆流を防止する逆止弁が設けられている請求項3に記載のシール装置。
【請求項5】
前記中間室には、圧力制御された圧縮気体が供給されている請求項1ないし4のいずれかに記載のシール装置。
【請求項6】
前記圧縮気体は、圧縮空気である請求項5に記載のシール装置。
【請求項7】
被密封流体は、外部流体よりも低圧に制御されている請求項1ないし6のいずれかに記載のシール装置。