(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107375
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】アレルゲン低減方法及びアレルゲン低減剤
(51)【国際特許分類】
A01N 53/06 20060101AFI20240801BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240801BHJP
A01N 31/06 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
A01N53/06 110
A01P17/00
A01N31/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095269
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2023563758の分割
【原出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2021192422
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022020804
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022063652
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 菫
(57)【要約】
【課題】ダニ類の死骸の量を増加させずに、すなわち、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰する方法及びダニ類の活動性減衰剤の提供。
【解決手段】揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m
2である、ダニの活動性を減衰する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、ダニの活動性を減衰する方法。
【請求項2】
前記薬剤組成物の剤型が加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤及びピエゾ式噴霧製剤のうちいずれかである、請求項1に記載のダニの活動性を減衰する方法。
【請求項3】
揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するダニの活動性減衰剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、ダニの活動性減衰剤。
【請求項4】
揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、アレルゲン低減方法。
【請求項5】
前記薬剤組成物の剤型が加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤及びピエゾ式噴霧製剤のうちいずれかである、請求項4に記載のアレルゲン低減方法。
【請求項6】
揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するアレルゲン低減剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、アレルゲン低減剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン低減方法及びアレルゲン低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内に生息するダニ類は、主に床面、畳、カーペット等の敷物、布団、ソファー等の内部の湿度の高い所に生息し、繁殖している。このダニ類は、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎等の重要な原因として考えられており、近年問題とされている。
【0003】
かかるダニ類について、種々の駆除方法が検討されている。例えば、特許文献1には、炭素数が4から18の直鎖脂肪酸(但し、オレイン酸を除く)から選ばれた1種以上の化合物を有効成分とする殺ダニ組成物、及びかかる殺ダニ組成物を用いる事を特徴とする殺ダニ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2002-249405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ダニ類は、生きている状態の虫体もアレルゲンとなり得るものの、とりわけ、その死骸や、糞等の排泄物がアレルギーをより引き起こしやすいことが知られている。その理由として、死骸や糞は粉砕されて微粒子となりやすいことや、死骸や糞は、生きている虫体に比べ乾燥して軽量であることが挙げられる。すなわち、ダニ類の死骸や糞は生きている虫体に比べ空気中に舞い散りやすく、人が吸い込んだり人に付着したりする頻度が高くなり、アレルギーをより引き起こしやすい。
【0006】
これに対し、特許文献1に記載の殺ダニ組成物は、ダニ類を致死させて駆除するものである。ダニ類を致死させて駆除する場合、ダニ類のさらなる増殖を抑制できるものの、ダニ類を致死させることで、アレルギーをより引き起こしやすいダニ類の死骸の量をかえって増加させてしまう場合がある。
また、ダニ類の死骸は他のダニ類のエサとなり得ることから、ダニ類を殺した後に掃除等で即座に除去しない場合、その他ダニ類の繁殖を助長させる恐れがある。
さらに、ダニ類の死骸を長期間放置してしまうとカーペット等のダニ類生息域の表層から、落下或いは物理的な力によりダニ類の死骸が深部へと移動してしまい、掃除機等による表層の掃除だけでは除去が困難となってしまう場合がある。
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、ダニ類の死骸の量を増加させずに、すなわち、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰する方法及びダニ類の活動性減衰剤の提供を目的とする。
また、本発明は、ダニ類の死骸の量を増加させずに、すなわち、ダニ類の致死を抑制しながら、効果的にアレルゲンを低減できるアレルゲン低減方法及びアレルゲン低減剤の提供を目的とする。
さらに、本発明は、ダニ類の歩行や排泄等を抑制することができる。これにより、(1)効果的にダニ類の生息域の拡大を抑制でき、(2)ダニ類の除去を容易にし、加えて、(3)アレルゲンを低濃度で維持することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散させ、かつ、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量を特定の範囲に調整することで、ダニ類の致死を抑制しながらもダニ類の活動性を減衰させられることや、アレルゲン低減効果が好適に得られることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の1~6に関する。
1.揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、ダニの活動性を減衰する方法。
2.前記薬剤組成物の剤型が加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤及びピエゾ式噴霧製剤のうちいずれかである前記1に記載のダニの活動性を減衰する方法。
3.揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するダニの活動性減衰剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、ダニの活動性減衰剤。
【0010】
4.揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、アレルゲン低減方法。
5.前記薬剤組成物の剤型が加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤及びピエゾ式噴霧製剤のうちいずれかである、前記4に記載のアレルゲン低減方法。
6.揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するアレルゲン低減剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、アレルゲン低減剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダニ類の死骸の量を増加させずに、すなわち、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰させることができる。また、本発明によれば、ダニ類の致死を抑制しながら、効果的にアレルゲンを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、試験例2において、アレルゲン量(ダニの糞由来アレルゲン)の経時的な変化を示す図である。
【
図2】
図2は、試験例2において、蒸散日数ごとのアレルゲン増加抑制率を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例3において、アレルゲン量(ダニの虫体由来アレルゲン)の経時的な変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0014】
本発明のアレルゲン低減方法は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である。
【0015】
本明細書において、アレルゲンの低減とは、アレルゲンの経時的な増加を抑制することをいう。本明細書におけるアレルゲンの種類とは、好ましくはダニ類に由来するアレルゲンである。特に、本発明のアレルゲン低減方法によれば、ダニ類の糞に由来するアレルゲンを好適に低減でき、これにより、ダニ類に由来するアレルゲンが低減される。
【0016】
本明細書において、ダニ類とは、特に限定されないが、屋内に生息・繁殖するダニ類の全般が好ましく、例えば、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ等のヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ、ムギコナダニ等のコナダニ類、チリニクダニ、イエニクダニ等のニクダニ類、クワガタツメダニ、フトツメダニ、ミナミツメダニ等のツメダニ類、ホコリダニ類、イエダニ等の動物寄生性ダニ類などが挙げられる。本明細書において、「ダニ類」のことを単に「ダニ」という場合がある。
【0017】
屋内に生息するダニ類は、主に床面、畳、カーペット等の敷物、布団、ソファー等の内部の湿度の高い所に生息し、繁殖している。本明細書において、ダニの生息域とはこれらのようなダニ類の生息し得る場所をいう。
【0018】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散させることを含む。拡散の具体的な方法としては、薬剤組成物を空間中へ拡散させ、有効成分をダニの生息域へ落下させられるものであれば特に限定されないが、例えば、薬剤組成物を蒸散や燻煙により揮散させることや、噴霧すること等が挙げられる。より具体的には、薬剤組成物を加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤、ピエゾ式噴霧製剤等の剤型として用いることが好ましい。なお、ここで、エアゾール剤とは全量噴射型エアゾール剤、定量噴射型エアゾール剤、その他エアゾール剤、を含む製剤のことをいい、送風式薬剤拡散製剤とは、送風機等により風を生じさせ、当該風によって空間中に薬剤組成物を拡散させる製剤のことをいい、ピエゾ式噴霧製剤とは、ピエゾ式噴霧器による噴霧で空間中に薬剤組成物を拡散させる製剤のことをいう。
【0019】
ここで、本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、薬剤組成物を空間中に拡散させる方法は、長時間(例えば1日以上)連続して薬剤組成物を拡散させることのできる加熱蒸散剤、送風式薬剤拡散製剤等を用いる方法と、1回あたりの処理が比較的短時間であるスプレー剤、エアゾール剤、ピエゾ式噴霧製剤等を用いる方法に大別できる。いずれの方法で薬剤組成物を拡散させた場合であっても、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が所定範囲であれば本発明の効果を得ることができ、好ましい。ただし、1回あたりの処理が比較的短時間(例えば数秒~数時間以内)である方法の場合は、1日あたり、有効成分のダニの生息域への落下量が所定量となるように薬剤組成物を拡散させる処理を、所望の使用期間に応じて毎日行うことを要する。したがって、一度処理を開始すれば長時間連続的に処理を行うことができ、使用期間全部を考慮した際に処理の回数が少ないという観点から、薬剤組成物を吸液芯式の加熱蒸散剤や、送風式薬剤拡散製剤として用いることがより好ましい。
【0020】
本発明者は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散させ、かつ、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量を特定の範囲にすることで、ダニ類の致死を抑制しながらアレルゲン低減効果が得られることを見出した。すなわち、揮散性ピレスロイド及びメントールについて、ダニ類を致死させる作用が従来それぞれ知られていたものの、本発明者は、それらの1日あたりのダニの生息域への落下量を特定の範囲にすることで、ダニ類の致死を抑制しながらもアレルゲン低減効果が好適に得られることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。この理由は定かではないが、有効成分の空間への処理量を、ダニ類を致死させる場合よりも少ない特定の範囲とすることで、ダニ類を致死させないものの、亜致死状態に至らしめることができ、これにより、特にダニ類の糞の増加を抑制できるため、アレルゲンを低減できるものと考えられる。すなわち、有効成分の空間への処理量を、ダニ類を致死させる場合よりも少ない特定の範囲とすることで、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰でき、特に、ダニ類の排泄が効果的に抑制されることでダニ類の糞の増加が抑制され、アレルゲンを低減できると考えられる。かかる方法によれば、ダニ類を致死させないことで、アレルギーをより引き起こしやすいダニ類の死骸の量が増加するのを抑制しつつ、ダニ類の糞の増加を抑制してアレルゲンを低減できるため、効果的にアレルゲンを低減できる。特に、ダニ類の糞は、その死骸と同様に比較的アレルギーを引き起こしやすいことが知られている。そのため、ダニ類の糞に由来するアレルゲンを低減できることは、ダニ類に由来するアレルゲンの低減に特に効果的であると考えられる。
【0021】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量(以下、単に落下量ともいう。)は0.1~30mg/m2である。すなわち、落下量は、0.1mg/m2以上であり、0.2mg/m2以上が好ましく、0.3mg/m2以上がより好ましい。落下量は30mg/m2以下であり、15mg/m2以下が好ましく、10mg/m2以下がより好ましい。ここで、落下量とは、有効成分が1日当たりにダニの生息域に落下した量のことをいい、例えば、ダニの生息域に濾紙を設置して薬剤組成物を空間中に拡散させた後、当該濾紙から有効成分量を抽出及び定量する方法により測定できる。なお、1日あたりの落下量とは、24時間あたりの落下量と同じである。
【0022】
有効成分の落下量は、薬剤組成物を拡散させる方法に応じて適宜調整できる。例えば、吸液芯式の加熱蒸散剤においては、吸液芯の材質や大きさ、加熱温度、薬剤組成物の処方、薬剤組成物における有効成分濃度等により落下量を調整できる。送風式薬剤拡散製剤においては、薬剤組成物における有効成分濃度、薬剤組成物を担体に保持させる量、ファンによる風量等により落下量を調整できる。燻煙剤においては、薬剤組成物における有効成分濃度、加熱温度により落下量を調整できる。スプレー剤やエアゾール剤、ピエゾ式噴霧製剤においては、薬剤組成物における有効成分濃度、薬剤組成物噴射量、噴射力、粒子径等により落下量を調整できる。なお、薬剤組成物をエアゾール剤として用いる場合、有効成分の落下量を調整しやすいことから全量噴射型エアゾール剤、手動式定量噴射型エアゾール剤及び自動式定量噴射型エアゾール剤として用いることが好ましい。
【0023】
吸液芯式の加熱蒸散剤の場合、ヒーター表面の加熱温度は薬剤組成物を十分に蒸散させる観点から120℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。一方で、ヒーター表面の加熱温度は製剤の持続性の観点から160℃以下が好ましく、155℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、処理の対象となるダニの生息域の面積は特に限定されないが、例えば、有効成分を効率的に落下させるという観点から1.5m2以上であることが好ましく、3m2以上であることがより好ましい。また、処理の対象となるダニの生息域の面積は、有効成分を均一に拡散させるという観点から45m2以下であることが好ましく、40m2以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、落下量を上述の範囲として、2日以上薬剤組成物を拡散させることが好ましい。薬剤組成物を拡散させる期間(以下、使用期間ともいう。)は3日以上がより好ましく、5日以上がさらに好ましい。落下量を上述の範囲としながら継続的に薬剤組成物を拡散させることで、ダニ類の致死を抑制しながらアレルゲンを効果的に低減でき、さらには、アレルゲン低減効果を継続的に得られる。
薬剤組成物を拡散させる期間の上限は特に限定されないが、例えば20日以下であってもよく、15日以下であってもよく、10日以下であってもよい。
【0026】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間2日におけるダニ生存率は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。ダニ生存率が上記範囲であることで、ダニ類の死骸の量が増加するのを抑制できる。
【0027】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間5日におけるダニ生存率は70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
ダニ生存率が上記範囲であることで、ダニ類の死骸の量が増加するのを抑制できる。各使用期間におけるダニ生存率は、実施例において後述する方法で求められる値をいう。
【0028】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間2日における、ダニの糞に由来するアレルゲンの増加抑制率は65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましい。ダニの糞に由来するアレルゲンの増加抑制率が上記範囲であることで、ダニ類に由来するアレルゲンを低減できていると言える。
【0029】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間2日におけるアレルゲン増加抑制率を上記範囲とし、かつ、ダニ生存率を上記範囲とすることがより好ましい。
【0030】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間5日における、ダニの糞に由来するアレルゲンの増加抑制率は70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。ダニの糞に由来するアレルゲンの増加抑制率が上記範囲であることで、ダニ類に由来するアレルゲンを低減できていると言える。ここで、各使用期間におけるアレルゲン増加抑制率とは、何も処理を行わなかった場合と比較してどの程度アレルゲンの増加を抑制できているかを意味し、実施例において後述する方法でダニ類の糞に由来するアレルゲン量を測定し、実施例に記載の算出方法で求められる値をいう。
【0031】
本発明の実施形態に係るアレルゲン低減方法において、使用期間5日におけるアレルゲン増加抑制率を上記範囲とし、かつ、ダニ生存率を上記範囲とすることがより好ましい。
【0032】
(薬剤組成物)
本発明の実施形態において、薬剤組成物は揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む。有効成分は揮散性ピレスロイド及びメントールのいずれか一方であってもよく、両方を組み合わせたものであってもよい。両方を組み合わせる場合は、それらの合計の落下量が上述の範囲であればよい。メントールとしては、l-メントール、d-メントール、dl-メントールが好ましいが、これらと他の異性体との混合物やメントールを含む精油(ハッカ油等)を用いてもよい。
【0033】
本明細書において、揮散性ピレスロイドとは、25℃における蒸気圧が1.0×10-4Pa以上であるピレスロイド系化合物のことをいう。揮散性ピレスロイドは、25℃における蒸気圧が1.0×10-4Pa~2.0×10-2Pa(7.5×10-7mmHg~1.5×10-4mmHg)が好ましく、5.0×10-4Pa~1.2×10-2Pa(3.8×10-6mmHg~9.0×10-5mmHg)がより好ましく、1.0×10-3Pa~8.0×10-3Pa(2.3×10-5mmHg~6.0×10-5mmHg)がさらに好ましい。
【0034】
揮散性ピレスロイドとして、具体的にはトランスフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、ジメフルトリン、プラレトリン、アレスリン、エムペントリン等が挙げられ、拡散性に優れる点からトランスフルトリン、メトフルトリン、ジメフルトリンが好ましく、トランスフルトリンがより好ましい。有効成分としては、これらを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、蒸気圧が上記の範囲であれば、揮散性ピレスロイドとして下記一般式(1)で表される化合物を使用できる。
【0036】
【0037】
上記式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~4のアルキル基である。R3は、下記一般式(2)、(3)又は(4)で表されるいずれかの構造を有する。
【0038】
【0039】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、塩素原子が好ましい。
【0040】
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0041】
R4は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基あるいはアルコキシ基である。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基が好ましい。
【0042】
R5は炭素数2~5の不飽和アルキル基である。これらの中でも、炭素数3の不飽和アルキル基が好ましい。
【0043】
薬剤組成物における有効成分の含有量は、剤型や所望の落下量に応じて適宜調整できるが、有効性を十分なものとしやすい点から例えば0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がよりさらに好ましい。薬剤組成物における有効成分の含有量は、溶剤への溶解性の観点から、例えば25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。例えば、剤型が吸液芯式の加熱蒸散剤の場合、薬剤組成物における有効成分の含有量(質量%)は上記範囲であることが好ましい。
【0044】
薬剤組成物における有効成分の含有量は、剤型や所望の落下量に応じて適宜調整できるが、有効性を十分なものとしやすい点から例えば0.1w/v%以上が好ましく、0.3w/v%以上がより好ましく、1.0w/v%以上がさらに好ましく、2.0w/v%以上がよりさらに好ましい。薬剤組成物における有効成分の含有量は、溶剤への溶解性の観点から、例えば25w/v%以下が好ましく、20w/v%以下がより好ましく、15w/v%以下がさらに好ましい。例えば、剤型が吸液芯式の加熱蒸散剤の場合、薬剤組成物における有効成分の含有量(w/v%)は上記範囲であることが好ましい。
【0045】
また、剤型がエアゾール剤の場合、後述する通り、薬剤組成物の原液と、噴射剤とからエアゾール剤(エアゾール組成物)を得ることが一般的である。この場合、原液における有効成分の含有量は、有効性を十分なものとしやすい点から0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、原液における有効成分の含有量は、有効性を十分なものとしやすい点から0.1w/v%以上が好ましく、1w/v%以上がより好ましく、5w/v%以上がさらに好ましい。
【0046】
薬剤組成物は溶剤を適宜含有してもよい。溶剤は、剤型に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば水;ヘキサン、ケロシン、灯油、流動パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等の酸アミド類等が挙げられる。溶剤は、持続的な揮散効果を得る観点から脂肪族炭化水素類、特に流動パラフィンが好ましい。なお、溶剤は一種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
薬剤組成物における溶剤の含有量は特に限定されないが、例えば有効成分の拡散性を十分なものとしやすい観点から、例えば85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。薬剤組成物における溶剤の含有量は、対象害虫への有効性を十分なものとする観点から、例えば99.9質量%以下が好ましい。剤型が加熱蒸散剤の場合、薬剤組成物における溶剤の含有量は、上記範囲であることが好ましい。上記範囲とすることで安定的な蒸散持続性を得ることもできる。
【0048】
また、剤型がエアゾール剤の場合、薬剤組成物における溶剤の含有量は、有効成分の拡散性を十分なものとしやすい観点から、99.9質量%以下が好ましく、99.0質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
薬剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、乳化剤、固着剤、分散剤、湿潤剤、安定剤、揮散調整剤、酸化防止剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、着色料等の添加剤を適宜含有してもよい。乳化剤、固着剤、分散剤としては、例えば、石けん類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルアリルスルホン酸塩等の界面活性剤が挙げられる。揮散調整剤としては、例えば、トリシクロデカン、
シクロドデカン、2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサン、トリメチレンノンボルネン等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、ジエチル(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、ビタミン類等が挙げられる。
【0050】
薬剤組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、各成分を混合し、撹拌する方法が挙げられ、所望により加熱等を行ってもよい。
【0051】
(剤型)
薬剤組成物は、上述の通り、有効成分の1日あたりの落下量が0.1~30mg/m2となるように空間中に拡散させられるものであれば、その剤型は特に限定されない。具体的に、かかる剤型としては加熱蒸散剤、燻煙剤、自然蒸散剤、スプレー剤、エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤、ピエゾ式噴霧製剤等が挙げられ、これらのうちいずれかであってもよい。使用の簡便性から加熱蒸散剤、定量噴射型エアゾール剤、送風式薬剤拡散製剤、ピエゾ式噴霧製剤が好ましく、さらに手間が少ないという観点から、吸液芯式の加熱蒸散剤、自動式定量噴射型エアゾール剤がより好ましい。
【0052】
薬剤組成物を各種剤型に調製するための添加剤や担体を適宜用いてもよい。例えば、薬剤組成物をエアゾール剤とする場合は、噴射剤をさらに用いてもよい。噴射剤としては、
例えば、液化石油ガス、フロンガス、ジメチルエーテル、窒素ガス、液化炭酸ガス等が挙げられる。
【0053】
剤形がエアゾール剤である場合、エアゾール組成物における原液と噴射剤の配合割合(体積比)は1:99~70:30であることが好ましく、5:95~50:50であることがより好ましく、10:90~40:60であることがさらに好ましい。
【0054】
(アレルゲン低減剤)
本発明は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するアレルゲン低減剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、アレルゲン低減剤に関する。すなわち、上述した薬剤組成物を、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いることで、アレルゲン低減剤として好適に使用できる。アレルゲン低減剤の好ましい態様は、上述のアレルゲン低減方法における薬剤組成物と同様である。また、アレルゲン低減剤を空間中に拡散させる方法の好ましい態様は、上述のアレルゲン低減方法と同様である。かかるアレルゲン低減剤によれば、ダニ類の致死を抑制しながら、効果的にアレルゲンを低減できる。
【0055】
(ダニの活動性を減衰する方法)
本発明は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、ダニの活動性を減衰する方法に関する。本発明者は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散させ、かつ、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量を特定の範囲にすることで、ダニの活動性が減衰されることを見出した。特に、本発明者は、本発明によりダニの活動性を減衰することで、ダニの歩行及び排泄等が効果的に抑制されることを見出した。すなわち、本発明のダニの活動を減衰する方法によれば、ダニ類の死骸の量を増加させずに、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰させる。さらに、ダニ類の歩行や排泄等を抑制し、これにより、効果的にダニ類の生息域の拡大を抑制でき、ダニ類の除去を容易にし、かつ、アレルゲンを低濃度で維持できる。
【0056】
本発明において、ダニの活動性の減衰とは、ダニの行動を抑制することを意味し、より具体的には、ダニの歩行抑制を指す。
【0057】
例えば、本発明は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散し、前記有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2である、ダニの歩行抑制方法に関する。本発明者は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含む薬剤組成物を空間中に拡散させ、かつ、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量を特定の範囲にすることで、ダニの歩行を抑制できることを見出した。本発明のダニの歩行抑制方法によれば、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の歩行を抑制することで、効果的にダニ類の生息域の拡大を抑制でき、ダニ類の除去を容易にし、かつ、アレルゲンを低濃度で維持できる。すなわち、ダニ類の致死を抑制することでダニ類の死骸が他のダニ類の繁殖を助長してしまうことを抑制でき、かつ、ダニ類の歩行を抑制することで、ダニ類が繁殖に最適な場所(例えば、多湿な場所、餌の多い場所等)へ移動することも抑制できるので、ダニの増殖を効果的に抑制でき、ダニの生息域の拡大を抑制できる。また、ダニ類の致死を抑制することで、自然落下或いは人の移動等による圧力で、ダニ類の死骸がカーペット等の深部に移動し除去が困難となってしまうことを抑制でき、かつ、ダニ類を表層に留めたままダニ類の歩行を抑制することで、ダニ類がカーペット等にしがみつく力を弱められるので、ダニ類の除去を容易にできる。また、ダニ類の死骸の量を短期間に大量に増加させることなくダニ類の増殖を抑制でき、かつ、ダニ類の除去も容易となるため、アレルゲンを低濃度で維持することができる。ダニの活動性を減衰する方法の好ましい態様は、上述した本発明のアレルゲン低減方法の好ましい態様と同様である。本発明のダニの活動性を減衰する方法は、ダニの歩行抑制方法であってもよい。
【0058】
(ダニの活動性減衰剤)
本発明は、揮散性ピレスロイド及びメントールの少なくとも一方を有効成分として含有するダニの活動性減衰剤であって、有効成分の1日あたりのダニの生息域への落下量が0.1~30mg/m2となるよう空間中に拡散させて用いられる、ダニの活動性減衰剤に関する。本発明のダニの活動性減衰剤によれば、ダニ類の死骸の量を増加させずに、すなわち、ダニ類の致死を抑制しながらダニ類の活動性を減衰させることで、ダニ類の歩行や排泄等を抑制する。これにより、効果的にダニ類の生息域の拡大を抑制でき、ダニ類の除去を容易にでき、かつ、アレルゲンを低濃度で維持できる。ダニの活動性減衰剤の好ましい態様は、上述した本発明のアレルゲン低減剤の好ましい態様と同様である。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0060】
[試験例1:有効成分の1日あたりの落下量の測定]
各試験例で用いる検体及び加熱蒸散器具について、有効成分の1日(24時間)あたりの落下量を測定した(実施例1-1~1-6)。
【0061】
(検体準備)
表1に示す処方となるよう各成分を混合し、検体1~7をそれぞれ調製した。得られた検体をPET製の50mL容量のボトルに45mL充填し、吸液芯(φ約7.2×73.5mm)を付帯した中栓にて密閉した。前述のボトルを加熱蒸散器具(アース製薬株式会社製アースノーマット器具)に取り付け、試験に使用した。加熱蒸散器具としては、ヒーターの加熱温度が約140℃となるものを使用した。
【0062】
【0063】
(検体処理)
15.6m3の試験室(4畳の部屋に相当、面積6.5m2)の床面に直径30cmの濾紙を合計2枚(壁から40cmの距離に各1枚)配置して固定し、試験室中央に加熱蒸散器具を5台配置した。具体的には、上記試験室は床面形状が長辺3.6m、短辺1.8mの長方形状である。この短辺に相当する2つの壁のうちいずれか1つから濾紙の中心までの距離が40cmとなるような条件で濾紙を配置した。なお、長辺に相当する壁から濾紙までの距離は任意とし、配置する濾紙の枚数に応じ適宜調整した。試験例1では具体的に、上記条件のもと、短辺に相当する一方の壁側に1枚、もう一方の壁側に1枚の濾紙をそれぞれ配置した。その後、加熱蒸散器具5台に通電を行い、薬剤組成物を蒸散させることにより試験室中に拡散させた。
【0064】
(有効成分落下量分析)
加熱蒸散は連続して5日間行い、開始から5日後に設置した濾紙を回収し、アセトンにて有効成分の抽出を行い、ガスクロマトグラフィーにて定量分析を実施した。
【0065】
(有効成分落下量算出)
2枚の濾紙のそれぞれについて有効成分量を定量し、各濾紙について加熱蒸散器具1台当たりの、1日あたりの有効成分落下量(mg/m2)を算出した。これらの平均値を有効成分落下量とした。結果を表2に示す。表中のNは試験回数を表し、表中の結果はN回の平均値である(以降の試験例において、特に断りが無い限り同様である)。
【0066】
【0067】
[試験例2:アレルゲン増加抑制率(ダニ類の糞に由来するアレルゲン)]
検体1~7について、試験例1と同様の加熱蒸散器具を用いた場合のダニ類の糞に由来するアレルゲン量を測定し、アレルゲン増加抑制率を求めた(実施例2-1~2-6、比較例2-1)。
【0068】
(検体準備)
検体1~7を用い、試験例1と同様の手順で加熱蒸散器具に取り付けた。
【0069】
(検体処理)
直径4cmのガラス製シャーレにコナヒョウヒダニを2~3mg(500頭程度)供試し、15.6m3の試験室(4畳の部屋に相当、面積6.5m2)の壁から40cmの位置に複数個静置した。試験室の形状や、シャーレの静置位置に関する条件は、濾紙をシャーレに変更した以外、試験例1における条件と同様である。ただし、試験例2では、上記条件のもと、短辺に相当する一方の壁側に2つ、もう一方の壁側に2つのシャーレをそれぞれ配置して、試験室の4隅にシャーレが1つずつ配置された状態とした。なお、シャーレは、25~28℃、65~80%RHを維持できるよう調湿バット内に静置した。試験室中央にて、加熱蒸散器具1台に通電を行った。なお、加熱蒸散器具による検体の蒸散を行わなかった以外は同じ条件とした対照試験も併せて実施した。
【0070】
(アレルゲン定量)
実施例2-1について、加熱蒸散は連続して16日間行い、開始から2日後、5日後、7日後、12日後、14日後、16日後にそれぞれコナヒョウヒダニを供試したシャーレを2個ずつ回収した。また、実施例2-2~2-6、比較例2-1について、加熱蒸散を連続して5日間行い、開始から5日後にコナヒョウヒダニを供試したシャーレを2個回収した。次いで、ダニアレルゲン(Der f 1)高感度ELISAキット(ITEA株式会社製)を用いたアレルゲン定量を行った。Der f 1はコナヒョウヒダニの糞に由来するアレルゲンである。まず、キットに付属のリン酸緩衝液3mLにてシャーレ内壁の洗浄を行った。前述の洗浄液を、ガーゼを用いてろ過し、ダニの虫体片等不純物を排除した後、試験原液とした。この試験原液を用いてELISAを実施し、アレルゲン定量を行った。
得られたアレルゲンの総量(ng/mL)と、供試したダニの総数から、各蒸散日数(n日)における、供試ダニの数として100頭あたりに換算したアレルゲン量(ng/mL)を算出した。算出の際は、供試したダニの全てが均等に排泄を行うと仮定した。各蒸散日数(n日)における100頭換算後のアレルゲン量から下式より、アレルゲン増加抑制率を算出した。なお、「n日のアレルゲン増加量」は、(n日のアレルゲン量-0日のアレルゲン量)を意味する。
アレルゲン増加抑制率(%)={1-(n日のアレルゲン増加量/対照試験におけるn日のアレルゲン増加量)}×100
【0071】
試験例2について、蒸散日数(使用期間)5日のアレルゲン増加抑制率を表3に示す。
また、実施例2-1について、各蒸散日数(n日)における100頭換算後のアレルゲン量の経時的な変化(N=1)を
図1に示す。加えて、
図1と同じ試験(N=1)におけるアレルゲン増加抑制率の経時的な変化を
図2に示す。
【0072】
【0073】
表1の結果から、実施例2-1~2-6において、蒸散日数(使用期間)5日にて高いアレルゲン増加抑制効果が確認された。また、
図1、2の結果から、使用期間の全体にわたって持続的にアレルゲン増加抑制効果が得られていることがわかる。特に、
図1から、対照試験においてはアレルゲン量が経時的に大きく増加しているのに対し、実施例1では、アレルゲンの増加量が対照試験に比べるとわずかであり、その増加率も大きく異なることがわかる。すなわち、使用期間が長くなるほど、何も処理をしない場合に想定されるアレルゲン量に対し、アレルゲン増加抑制効果はより大きくなるといえ、
図2からもその傾向を確認できる。なお、試験例2において、有効成分をメトフルトリン、ジメフルトリンとした場合にも同様にアレルゲンの増加が抑制される傾向がみられた(実施例2-5、2-6)。また、加熱蒸散剤の使用に代えて、エアゾール製剤としてトランスフルトリンの噴射を毎日1回行った場合でも、同様にアレルゲンの増加が抑制される傾向がみられた。エアゾール製剤を用いた場合については試験例6において後述する。
【0074】
[試験例3:アレルゲン量測定(ダニ類の虫体に由来するアレルゲン)]
検体1を用い、試験例1と同様の加熱蒸散器具を用いた場合のダニ類の虫体に由来するアレルゲン量を測定した(実施例3-1)。検体準備及び検体処理は試験例2と同様に行った。また、試験例2と同様に対照試験を実施した。
【0075】
(アレルゲン定量)
加熱蒸散は連続して16日間行い、開始から5日後及び16日後にそれぞれコナヒョウヒダニを供試したシャーレを2個ずつ回収し、レビスDer f II ELISA Kit(富士フイルムワコーシバヤギ株式会社製)を用いたアレルゲン定量を行った。Der f II(Der f 2)はコナヒョウヒダニの虫体に由来するアレルゲンである。キットに付属のアレルゲン抽出用緩衝液5mLを前述のシャーレに添加し、超音波振動にて30分間抽出を行った。前述の溶液を、ガーゼを用いてろ過し、ダニの死骸等不純物を排除した後、試験原液とした。この試験原液を用いてELISAを実施し、アレルゲン定量を行った。得られたアレルゲンの総量(ng/mL)と、供試したダニの総数から、各蒸散日数(n日)における、供試ダニの数として100頭あたりに換算したアレルゲン量(ng/mL)を算出した。算出の際は、供試したダニの全てが均等にアレルゲンを保持すると仮定した。各回収日(n日)における100頭換算後のアレルゲン量の経時的な変化(N=1)を
図3に示す。
【0076】
図3から、対照試験におけるアレルゲン濃度が若干高値となったが、
図1における糞由来アレルゲン濃度の値と比較すると、対照試験と実施例3-1とではほぼ同等のアレルゲン量となったことがわかる。この結果と試験例2の結果とから、実施例の方法では、特にダニの糞由来アレルゲンを選択的に低減していることがわかる。
【0077】
[試験例4:ダニ生存率の測定]
検体1~7について、試験例1と同様の加熱蒸散器具を用いた場合のダニ生存率を確認した。検体準備及び検体処理は試験例2と同様に行った(実施例4-1~4-6、比較例4-1)。
【0078】
(生存状態の確認)
加熱蒸散は連続して5日間行い、開始から5日後にコナヒョウヒダニを供試したシャーレを2個回収し、実体顕微鏡(株式会社キーエンス製)にてダニの生存率を確認した。倍率30倍で1cm2の範囲を観察し、観察範囲に確認された虫体の合計数に対する生きている虫体数の割合を求めた。結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
実施例4-1~4-6において、使用期間5日でいずれも70%以上と高い割合のダニ生存率を確認した。この結果と、試験例2の結果とから、実施例の加熱蒸散方法では、ダニの致死を抑制しながらも、アレルゲンを効果的に低減できることが確認された。なお、試験例4において、有効成分をメトフルトリン、ジメフルトリンとした場合にも同様にダニの致死は抑制される傾向がみられた(実施例4-5、4-6)。また、加熱蒸散剤の使用に代えて、エアゾール製剤としてトランスフルトリンの噴射を毎日1回行った場合でも、同様にダニの致死は抑制される傾向がみられた。エアゾール製剤を用いた場合については試験例6において後述する。
【0081】
[試験例5:ダニの活動性確認試験]
次の方法で検体準備及び試験操作を行い、試験後のダニの活動性を確認する試験を行った。
【0082】
(検体準備)
トランスフルトリンを有効成分として、トランスフルトリンのアセトン溶液(0.025w/v%)を調製し検体とした。
【0083】
(試験操作)
上記で調製した検体を用いて以下の試験を行った(実施例5-1)。併せて、アセトンを検体とした以外は同様の手順で対照試験を行った(比較例5-1)。
まず、有効成分濃度が25mg/m2となるように、5×10cmの黒紙に検体を500μL滴下し、風乾させた。次いで、この黒紙を、検体を滴下した面を内側にして二つに折り、開いている2辺を密閉した。密閉の方法として、1辺を2枚のスライドガラスで挟むことにより黒紙を閉じ、当該2枚のスライドガラスをクリップで外側から挟んで固定することを各辺に行った。開いている残りの1辺から、黒紙の内側にコナヒョウヒダニを20~30頭供試し、残りの1辺を上記と同様の方法で密閉した。これを飽和食塩水で調湿したバット(25℃、75%RH)内にて、24時間静置し、その後回収した。
次いで、清潔なφ4cmのシャーレにワセリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、1×1cmの囲を作製した。囲の内側に、回収したコナヒョウヒダニ10頭を、針を用いて供試した。なお、10頭のコナヒョウヒダニは、生存しているものの中から無差別に選定した。シャーレに供試したコナヒョウヒダニについて、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製)を用いて30秒間動画撮影を行った。撮影した動画を、トラッキングソフト(TPro、Pudith Sirigrivatanawong, et al. Sensors 2017, 17(1), 96)を用いて解析した。解析結果からダニの移動速度(mm/分)を算出し、10頭の平均値を得た。この試験を、各例につき5回繰り返して実施した。結果を表5に示す。なお、表5の「移動速度」の列の左側は各例の各回で算出された移動速度を示し、右側は5回の平均値を示す。
【0084】
【0085】
表5より、比較例5-1と比較して、実施例5-1ではダニの移動速度が小さい結果となった。すなわち、実施例5-1では、試験後にダニの活動性が減衰したことが確認された。なお、有効成分をメトフルトリン、ジメフルトリンとした場合にも同様にダニの活動性が減衰する傾向がみられた。また、実施例5-1では試験後のダニの移動速度が小さくなり、ダニの歩行が抑制された。
【0086】
[試験例6:エアゾール製剤を用いた試験]
(検体準備)
表6に示す処方となるよう各成分を混合し、エアゾール製剤の原液を用意した。噴射剤として液化石油ガス(25℃において圧力0.49MPa)を用い、原液が40v/v%、噴射剤が60v/v%となるようにエアゾール容器(バルブ:1回噴射量1mL、ステム孔面積1.4mm2、ボタン:噴口孔径φ1.0mm×3個)に充填して検体8とした。
【0087】
【0088】
[試験例6-1:有効成分落下量測定]
次の方法で検体8を処理した際の有効成分落下量を測定した(実施例1-7)。その結果、実施例1-7(N=3)において有効成分落下量は14mg/m2であった。この処理を1日(24時間)に1回行った場合、1日あたりの有効成分落下量は14mg/m2となる。
(検体処理)
直径9cmの金属シャーレを、32.4m3の試験室(8畳の試験室に相当、面積13m2)の4隅の角から対角線上に約50cm離れた位置にそれぞれ1つずつ設置した。なお、この試験室は床面形状が一辺3.6mの正方形状である。試験室の中央から地面水平に対して約30°下方へ傾け、検体8を1回ずつ4隅へ向けて計4回噴射した。その後、扉を閉めた状態で1時間静置し、金属シャーレを回収した。
(有効成分落下量分析及び算出)
回収したシャーレからアセトンにて有効成分の抽出を行い、ガスクロマトグラフィーにて定量分析を実施した。4つのシャーレのそれぞれについて上記分析及び有効成分落下量(mg/m2)の算出を行い、これらの平均値を有効成分落下量とした。
【0089】
[試験例6-2:アレルゲン増加抑制率測定]
次の方法で検体8を処理し、回収したシャーレについて試験例2と同様の方法でアレルゲンの定量を行った(実施例2-7)。また、検体8による処理を行わなかった以外は同じ条件とした対照試験も併せて実施した。これらの結果から、試験例2と同様の方法で処理日数(使用期間)2日におけるアレルゲン増加抑制率(%)を算出した。その結果、実施例2-7(N=3)においてアレルゲン増加抑制率は94%であった。
(検体処理)
直径4.2cmのシャーレにコナヒョウヒダニを約500頭供試した。なお、供試重量を記録し、供試頭数を把握できるようにした。このシャーレを使用したこと以外は実施例1-7と同様の条件で試験室へのシャーレの設置及び検体8の噴射を行い、扉を閉めた状態で1時間静置し、シャーレを回収して調湿バット(25℃、75%RH)に静置した(1日目処理)。検体8の噴射から24時間後にこのシャーレを再度試験室に設置し、1日目処理と同様に検体8の噴射、扉を閉めた状態での1時間の静置及び調湿バットでの静置を行った(2日目処理)。2日目処理における検体8の噴射から24時間後にシャーレを回収した。
【0090】
[試験例6-3:ダニ生存率の測定]
実施例2-7と同様に検体8の処理を行い、回収したシャーレについて、試験例4と同様の方法で実体顕微鏡(株式会社キーエンス製)により使用期間2日におけるダニの生存率を確認した(実施例4-7)。実施例4-7(N=3)においてダニの生存率は88%であった。
【0091】
実施例2-7及び4-7の結果より、エアゾール製剤を用いた場合においても、1日あたりの有効成分落下量を特定範囲内にすることで、ダニの致死を抑制しながらアレルゲンを効果的に低減できることが確認された。
【0092】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2021年11月26日出願の日本特許出願(特願2021-192422)、2022年2月14日出願の日本特許出願(特願2022-020804)及び2022年4月6日出願の日本特許出願(特願2022-063652)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。