(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107466
(43)【公開日】2024-08-08
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20240801BHJP
【FI】
A61M1/36 175
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024097562
(22)【出願日】2024-06-17
(62)【分割の表示】P 2020555557の分割
【原出願日】2019-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2018212249
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石原 和久
(72)【発明者】
【氏名】桑原 祐司
(72)【発明者】
【氏名】小磯 瑛一
(57)【要約】
【課題】循環液中の気泡を効率的に除去することができる、新規な構造の熱交換器を提供すること。
【解決手段】循環液の温度を調節する熱交換部14を備えた熱交換器10であって、熱交換部14において温度調節された循環液が流入する調温後液室64が設けられていると共に、調温後液室64には循環液中の空気を除去するフィルタ66が配されて、調温後液室64の壁部には脱気ポート40が設けられており、フィルタ66が脱気ポート40の開口41に向けて傾斜して設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環液の温度を調節する熱交換部を備えた熱交換器であって、
前記熱交換部において温度調節された前記循環液が流入する調温後液室が設けられていると共に、該調温後液室には該循環液中の空気を除去するフィルタが配されて、該調温後液室の壁部には脱気ポートが設けられており、該フィルタが該脱気ポートへ向けて傾斜して設けられていることを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止下での手術において、心筋保護液や血液などの循環液の温度を調節するために用いられる医療用の熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、心臓や大血管の手術などを行う際には、心臓の拍動を停止することで、手技の容易化を図る手法が採用されている。このような心停止法による手術では、心臓を停止させるためにカリウム溶液などの薬液が投与されるが、薬液による心臓の停止は、心筋に損傷を与える場合もあることから、心筋を保護するために心筋を冷却することも、従来から行われている。
【0003】
ところで、心筋を冷却する手段としては、例えば、血液や薬液(例えば心筋保護液)などの循環液を低温にして心臓の冠状動脈に送り込むことで心筋を冷却することが、一般的に行われている。
【0004】
この場合には、心臓の冠状動脈などに接続される熱交換器によって、循環液の温度調節(冷却)が行われる。熱交換器は、例えば、特許第3742711号公報(特許文献1)に記載された医療用熱交換器(1)のように、循環液と熱交換媒体の間での熱交換によって循環液の温度を調節する熱交換体(3)を備えていると共に、温度調節された循環液が流入する生体循環用液体流通室(13)には、気泡捕捉用フィルター部材(16)が設けられている。そして、気泡捕捉用フィルター部材を通過した循環液が患者の体内管腔(血管)へ送り込まれることにより、心筋が循環液によって冷却されるようになっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の医療用熱交換器では、生体循環用液体流通室内の空気が気泡除去口(41)から外部へ十分に排出されずに残留するおそれがあった。すなわち、気泡捕捉用フィルター部材によって生体循環用液体流通室に留められた気泡は、浮力によって上方へ移動しても、気泡除去口(41)へ導かれずに、圧力モニタリングポート(44)や温度モニタリングポート(45)、ポート(57)などに引っ掛かって残留する場合がある。また、特許文献1において、気泡捕捉用フィルター部材は、液体流通室形成部材(17)に取り付けられた状態で、液体流通室形成部材がハウジング(2)に取り付けられることで、所定の位置に設けられるようになっているが、このような他部材(液体流通室形成部材)を介したフィルターの取付構造では、他部材とハウジングの間に段差などが形成され易く、当該段差などに気泡が残り易かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、循環液中の気泡を効率的に除去することができる、新規な構造の熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、循環液の温度を調節する熱交換部を備えた熱交換器であって、前記熱交換部において温度調節された前記循環液が流入する調温後液室が設けられていると共に、該調温後液室には該循環液中の空気を除去するフィルタが配されて、該調温後液室の壁部には脱気ポートが設けられており、該フィルタが該脱気ポートへ向けて傾斜して設けられていることを、特徴とする。
【0010】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、循環液の通過を許容し且つ循環液に混ざった空気の通過を制限するフィルタが、脱気ポートの開口へ向けて傾斜していることから、フィルタによって濾しとられた空気が、フィルタに沿って浮上することで脱気ポートへ案内される。これにより、空気が調温後液室に残留することなく脱気ポートから外部へ排出され易くなって、循環液に混ざった空気を効率的に除去することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された熱交換器において、前記調温後液室は前記フィルタの両側が脱気前液室と脱気後液室とされており、前記脱気ポートが該脱気前液室の壁部に設けられているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、脱気ポートが脱気前液室の壁部に設けられていることにより、脱気ポートが脱気後液室に設けられている場合に比して、体内への気泡の混入を防止し、循環液に混ざった空気を効率的に除去することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された熱交換器において、前記フィルタが、前記調温後液室の壁部を構成するハウジングにインサート成形されたインサート構成部材とされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、フィルタをハウジングに対してインサート成形で直接的に取り付けることで、フィルタをハウジングに固定するための別部材が不要になって、部品点数の削減や構造の簡略化が図られる。
【0015】
さらに、フィルタがハウジングに対して別部材を介して取り付けられている場合に比して、フィルタの取付部分に段差や凹凸などが形成され難く、調温後液室の壁部における段差や凹凸などを少なくすることができる。その結果、例えば、プライミング完了後に空気が調温後液室内に残留し難くなって、循環液に混ざった空気を効率的に除去することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記調温後液室内の温度を測定するための温度検出ポートが、前記調温後液室の壁部に設けられているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、例えば、温度検出ポート自体が調温後液室に突出している場合や、温度検出ポートに差し入れられる温度センサなどが調温後液室に突出する場合に、気泡が温度検出ポートや温度センサなどに引っ掛かって残留する問題が生じ難い。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1~第4の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記脱気ポートの少なくとも根元部分が透明とされているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、脱気ポート内の様子を外部から視認することが可能であり、例えば、脱気ポートに空気が溜まっている状態を目視で確認した上で、脱気ポートの開閉弁を開くなどして空気を外部に排出することも可能になる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1~第5の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記フィルタが平坦な形状とされているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、フィルタに気泡が引っ掛かることなく脱気ポートまで効率的に案内される。しかも、平坦な形状のフィルタであっても、傾斜して設けられることで十分なフィルタ面積を確保することが可能であり、空気を有効に除去しながら必要とされる循環液の流量を確保することができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1~第6の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記フィルタが疎水性材料で形成されているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、気泡がフィルタに沿って移動し易くなることで脱気ポートへ効率的に案内されることから、空気の排出効率の向上が図られる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1~第6の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記フィルタが親水性材料で形成されているものである。
【0025】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、循環液がより容易にフィルタを通過することができる。
【0026】
また、本発明の第9の態様は、循環液の温度を調節する熱交換部を備えた熱交換器であって、前記熱交換部において温度調節された前記循環液が流入する調温後液室が設けられていると共に、該調温後液室には該循環液中の空気を除去するフィルタが配されて、該調温後液室における該フィルタの両側が脱気前液室と脱気後液室とされていると共に、該フィルタが該調温後液室の壁部を構成するハウジングにインサート成形されたインサート構成部材とされていることを、特徴とする。
【0027】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、フィルタをハウジングに対してインサート成形で直接的に取り付けることで、フィルタをハウジングに固定するための別部材が不要になって、部品点数の削減や構造の簡略化が図られる。
【0028】
さらに、フィルタをハウジングに対して別部材を介して取り付ける場合に比して、フィルタの取付部分に段差や凹凸などが形成され難く、調温後液室の壁部における段差や凹凸などを少なくすることができる。その結果、例えば、プライミング完了後に空気が調温後液室内に残留し難くなって、循環液に混ざった空気を効率的に除去することができる。
【0029】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載された熱交換器において、前記ハウジングが前記脱気前液室の壁部を構成する第1の液室壁部材と前記脱気後液室の壁部を構成する第2の液室壁部材とを備えており、前記フィルタが該ハウジングの該第1の液室壁部材に取り付けられているものである。
【0030】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、第1の液室壁部材は、例えば、熱交換部などに接続される開口を設けることで、フィルタをインサート成形しても成形後に金型から取外し易く、フィルタを備えたハウジングの製造が容易になる。
【0031】
本発明の第11の態様は、第1~第10の何れか1つの態様に記載された熱交換器において、前記熱交換部に連通されて前記循環液を該熱交換部へ導入する循環液入口ポートを備えた底部材が設けられており、該底部材における該循環液入口ポートの開口と対向する部分には、該循環液入口ポートに向けて突出する分流突起が設けられていると共に、該分流突起に対する該底部材の周方向の両側には、該底部材の周方向に延びるガイド突条が設けられているものである。
【0032】
本態様に従う構造とされた熱交換器によれば、循環液入口ポートから底部材の内側へ導入された循環液は、分流突起に接触することで、分流突起の両側に分かれて、ガイド突条に沿って底部材の周方向へ流れる。分流突起によって循環液の流れが周方向の両側に分けられることにより、分流突起がない場合に比して、循環液が底部材の内側をスムーズに流れて、循環液の流速の低下、換言すれば圧力損失が低減される。それ故、循環液入口ポートから底部材の内側へ流れ込んだ循環液が熱交換部へスムーズに流れて、熱交換部への循環液の効率的な供給が実現される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、空気が調温後液室内に留まり難く、空気を効率的に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1の実施形態としての熱交換器を示す斜視図
【
図8】
図1に示す熱交換器を構成する底部材の斜視図
【
図10】
図9に示す底部材の断面図であって、
図9のX-X断面に相当する図
【
図11】
図7に示す熱交換器の要部を拡大して示す図
【
図12】
図1に示す熱交換器を構成する第2の液室壁部材の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
図1~5には、本発明の第1の実施形態としての熱交換器10が示されている。熱交換器10は、循環液と熱交換媒体が間接的に接して熱の授受を行う表面熱交換器であって、
図6,7に示すように、ハウジング12に熱交換部14が収容された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、鉛直上下方向である
図2中の上下方向を言う。
【0037】
より詳細には、ハウジング12は、硬質の合成樹脂で形成されており、全体として筒状とされたハウジング本体16と、ハウジング本体16の下側の開口を塞ぐ底部材18と、ハウジング本体16の上側の開口を塞ぐ蓋部材20とによって構成されている。なお、ハウジング12の形成材料は、特に限定されるものではなく、金属やガラスなどであってもよいが、好適には、ポリカーボネートやアクリル樹脂などの合成樹脂で形成されており、ハウジング12の内部空間を目視で確認可能となるように透明乃至は半透明であることが望ましい。また、ハウジング12の全体が同じ材料で形成されている必要はなく、例えば、ハウジング本体16と底部材18と蓋部材20が異なる材料で形成されていてもよい。
【0038】
ハウジング本体16は、円筒状とされた収容筒部22と、収容筒部22の周壁部につながる熱交換媒体入口ポート24および熱交換媒体出口ポート26とを、一体で備えている。収容筒部22の周壁部には、貯血槽などの外部装置に接続される接続部として、外周面に突出する取付突部28a,28bが設けられている。熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26は、何れも略円筒形状とされており、収容筒部22の下部から収容筒部22の径方向の両側へ向けて延び出していると共に、先端側に向けて下傾している。さらに、熱交換媒体入口ポート24の内腔と熱交換媒体出口ポート26の内腔は、何れも収容筒部22の内腔に連通されている。なお、収容筒部22は、円筒状に限定されるものではなく、楕円筒状や多角筒状、異形筒状などであってもよい。また、熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26は、円筒状に限定されるものではなく、楕円筒状や多角筒状、異形筒状などであってもよい。また、熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26は、ハウジング本体16と別体で設けられていてもよい。さらに、熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26は、相互に入れ替えた位置に設けられ得る。また、熱交換媒体入口ポート24及び熱交換媒体出口ポート26は、収容筒部22とは別体で形成されて収容筒部22の周壁部に取り付けられることで設けられていても良い。
【0039】
底部材18は、
図5~10に示すように、略円板形状乃至は有底円筒形状とされており、外周部分がハウジング本体16の下端部に全周に亘って液密に固着されている。本実施形態では、底部材18からハウジング本体16の収容筒部22に向けて突出する突起が、収容筒部22の下端面に開口する凹部に嵌め合わされて固着されている。
【0040】
さらに、底部材18には、循環液入口ポート30が設けられている。循環液入口ポート30は、略円筒形状とされて、底部材18から前方(
図7中の左方)へ延び出しており、底部材18のハウジング本体16への装着状態において、循環液入口ポート30の内腔がハウジング本体16における収容筒部22の内腔に連通されている。
【0041】
更にまた、底部材18には、薬液投与ポート32が設けられている。この薬液投与ポート32は、底部材18の底壁部から前方へ傾斜しながら斜め下方へ向けて延び出しており、底部材18のハウジング本体16への装着状態において、薬液投与ポート32の内腔がハウジング本体16における収容筒部22の内腔に連通されている。なお、
図7では、薬液投与ポート32が着脱可能なキャップ34によって塞がれている。
【0042】
底部材18は、
図8~10に示すように、循環液入口ポート30の開口部分から径方向に延びる溝部36を備えている。溝部36は、底部材18の底壁部の上面に開口しており、溝部36の幅方向両側には、溝部36の底面よりも上側に位置する底上部38がそれぞれ設けられている。要するに、底部材18は、周壁の上端からの深さ寸法が、溝部36において、溝部36を外れた底上部38,38よりも大きくなっている。溝部36は、上下方向における底面の位置が長さ方向で略一定とされている。底上部38の上面は、循環液入口ポート30から離れるにしたがって下傾している。それ故、溝部36の底上部38からの深さ寸法は、循環液入口ポート30から離れるにしたがって小さくなっている。
【0043】
溝部36の一方の端部に循環液入口ポート30が開口していると共に、溝部36の他方の端部に分流突起40が設けられている。分流突起40は、底部材18の周壁部における循環液入口ポート30の開口との対向部分において、循環液入口ポート30に向けて溝部36の長さ方向で突出している。分流突起40は、先端に向けて底部材18の周方向での幅寸法が次第に小さくなっている。特に、先端部分が外側(突出先端側)へ向けて凸の湾曲形状とされていると共に、基端部分が外側(周方向両側)へ向けて凹の湾曲形状とされている。分流突起40の下端が底部材18の溝部36の底面に連続していると共に、分流突起40の上端が底上部38,38よりも上側まで達している。
【0044】
底上部38,38には、それぞれガイド突条42が設けられている。ガイド突条42は、底上部38の上面からそれぞれ上側へ向けて突出する突条であって、分流突起40の両側から循環液入口ポート30側へ向けて、底部材18の周方向に所定の長さで延びている。ガイド突条42の周方向一方の端部は、分流突起40に対して周方向に離れて位置していると共に、ガイド突条42の周方向他方の端部は、循環液入口ポート30の開口に対して周方向に離れて位置している。ガイド突条42は、底部材18の周壁内面に対して内周側に離れて対向するように設けられている。底上部38の上面が分流突起40側に向けて下傾していると共に、ガイド突条42の上端が上下方向と略直交して延びていることから、ガイド突条42の底上部38からの突出高さ寸法が、分流突起40側から循環液入口ポート30側に向けて次第に小さくなっている。循環液は、循環液入口ポート30から底部材18内へ流れ込んで、分流突起40に衝突した後、ガイド突条42に沿って流れ、循環液入口ポート30側へ導かれる。このように構成することで、循環液の流れが妨げられず、底部材18内を循環液で効率的に満たすことができる。なお、ガイド突条42の上面は、上下方向において、分流突起40の上面と略同じ高さに位置している。
【0045】
蓋部材20は、
図7,11に示すように、全体として上下逆向きの有底円筒形状とされていると共に、本実施形態では、上底壁部および周壁部において相互に固着された分割された2部材によって構成されている。すなわち、本実施形態の蓋部材20は、ハウジング本体16の上端部に固着される第1の液室壁部材44と、第1の液室壁部材44に固着される第2の液室壁部材46とによって構成されている。
【0046】
第1の液室壁部材44は、下端部がハウジング本体16の上端部に対して溶着などの手段で固着されていると共に、前方(
図11中の左方)において斜め上方に向けて開口する傾斜開口部48を備えている。この傾斜開口部48の周囲は、上方に向けて後方へ傾斜する平面状とされている。
【0047】
さらに、第1の液室壁部材44の上側の壁部には、略円筒形状の脱気ポート50が設けられており、脱気ポート50の下側の開口52が第1の液室壁部材44の上側の壁内面に形成されて、脱気ポート50の内腔が第1の液室壁部材44の内部空間(後述する脱気前液室80)に連通されている。脱気ポート50の開口52の周縁部分は、下側に向かって次第に拡開する湾曲面形状乃至傾斜平面形状等のテーパ形状とされる部分を含んでいても良い。これにより、後述する気泡の脱気ポート50への案内が、後述するフィルタ78だけでなく、脱気ポート50の開口周縁部分のテーパ形状によっても効率的に実現される。なお、脱気ポート50の開口52にテーパ面が設けられる場合には、テーパ面が後述するフィルタ78から連続する位置まで設けられていても良いし、上下方向と略直交する平面を介してフィルタ78から離れた位置にテーパ面が設けられていても良い。
図7,11では、脱気ポート50が着脱可能なキャップ54によって塞がれている。
【0048】
更にまた、
図6に示すように、第1の液室壁部材44の周壁部には、略円筒形状の圧力検出ポート56が設けられており、圧力検出ポート56の内腔が第1の液室壁部材44の内部空間に連通されていると共に、圧力検出ポート56の外周面には雄ネジが設けられている。圧力検出ポート56は、圧力検出ポート56の外周面の雄ネジに対応する雌ネジを有するキャップが取り付けられていてもよい。
【0049】
また、蓋部材20は、内部空間を外部から目視で確認することが可能とされるために、好適には少なくとも脱気ポート50の基端部(根元部分)が透明にされていることが好ましい。本実施形態では、ハウジング12の全体が透明とされているが、ハウジング本体16と底部材18と蓋部材20とが不透明とされていてもよい。また、蓋部材20には、シボ加工が施され得る。また、第1の液室壁部材44を透明とし、第2の液室壁部材46を不透明にする等、各々の部材によって透明性を異ならせて構成してもよい。
【0050】
第2の液室壁部材46は、
図12,13にも示すように、前方へ延び出す略円筒形状の循環液出口ポート58を備えており、循環液出口ポート58の内腔が第2の液室壁部材46の内部空間に連通されている。更にまた、第2の液室壁部材46には、温度検出ポート60が設けられており、温度検出ポート60に温度検出部材62が挿通状態で設けられている。温度検出部材62は、筒状の基部64が温度検出ポート60において第2の液室壁部材46に固定されていると共に、試験管状の先端部66が温度検出ポート60を通じて後述する脱気後液室82へ差し入れられており、脱気後液室82内の循環液の温度を測定可能とされている。
【0051】
この第2の液室壁部材46が第1の液室壁部材44の傾斜開口部48を塞ぐように設けられており、第2の液室壁部材46が第1の液室壁部材44に対して液密に固着されることによって、蓋部材20が形成されている。本実施形態では、第1の液室壁部材44における傾斜開口部48に設けられた突起が、第2の液室壁部材46に設けられた凹部に嵌め合わされて固着されている。
【0052】
そして、蓋部材20は、第1の液室壁部材44で構成された下端部が、ハウジング本体16の上端部に対して液密に固着されている。本実施形態では、第1の液室壁部材44の下端部に設けられた突起が、ハウジング本体16の上端面に開口する凹部に嵌め合わされて固着されている。
【0053】
このように、底部材18がハウジング本体16における収容筒部22の下側を覆うように取り付けられると共に、蓋部材20が収容筒部22の上側を覆うように取り付けられることにより、
図6,7に示すように、中空構造のハウジング12がハウジング本体16と底部材18と蓋部材20とによって構成されている。なお、底部材18の循環液入口ポート30と薬液投与ポート32、ハウジング本体16の熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26、更に蓋部材20の循環液出口ポート58と脱気ポート50と温度検出ポート60と圧力検出ポート56とが、何れもハウジング12の内部空間に連通されている。
【0054】
かくの如き構造とされたハウジング12の内部空間には、熱交換部14が収容されている。熱交換部14は、
図6,7,11に示すように、複数の伝熱管68を備えている。伝熱管68は、細長い小径の円筒形状とされており、後述する循環液および熱交換媒体に対する耐食性に優れているとともに熱伝導率が大きい材料で形成されることが望ましく、例えば、銅やアルミニウム、鉄(ステンレス鋼)或いはそれらの合金などによって形成されている。また、本実施形態の伝熱管68は、上下方向に直線的に延びていることで、伝熱管68の内腔への空気の残留の防止や、伝熱管68の内腔を流れる循環液の乱流の低減などが図られている。尤も、伝熱管68は、直線的な筒状に限定されず、例えば、適宜に湾曲することで、後述する熱交換媒体との接触面積を大きく得て、熱交換の効率向上を図ることもできる。さらに、伝熱管68の断面形状や数、配置などは、何れも限定されるものではなく、例えば、楕円筒状や多角筒状、異形筒状などであってもよい。更にまた、例えば、伝熱管68の外周面にフィンを設けて熱交換の効率向上を図ることもできる。
【0055】
さらに、伝熱管68は、複数が略円柱状に束ねられた状態の管群として配されており、それら複数の伝熱管68の下端部分がウレタン等で形成される下支持板70によって相互に位置決めされていると共に、上端部分がウレタン等で形成される上支持板72によって相互に位置決めされている。下支持板70と上支持板72は、何れも合成樹脂などで形成された略円板形状の部材であって、管群における複数の伝熱管68の間を液密に塞いでいると共に、管群の外周へ突出してハウジング本体16に固着されている。なお、支持板70,72は、伝熱管68の挿通孔を備える形状で成形した後で、伝熱管68を挿通孔に差し入れて接着などしてもよいが、例えば、伝熱管68を収容筒部22の内周へセットした状態で、収容筒部22の軸方向両端部の内周にポッティング樹脂を充填して成形することで、伝熱管68および収容筒部22に固着された状態で形成することもできる。
【0056】
そして、下支持板70が収容筒部22の下端部に固定されると共に、上支持板72が収容筒部22の上端部に固定されることにより、複数の伝熱管68が収容筒部22の内周において上下に延びるように支持されている。これにより、伝熱管68は、下開口が底部材18の内部空間を通じて循環液入口ポート30および薬液投与ポート32に連通されていると共に、上開口が蓋部材20の内部空間を通じて循環液出口ポート58および脱気ポート50に連通されている。
【0057】
ハウジング本体16における収容筒部22の内周面は、上方に向けて次第に収縮しており、本実施形態では、次第に小径となるテーパ形状とされている。これにより、収容筒部22の内周面と複数の伝熱管68からなる管群の外周面との対向面間距離が、上方へ行くに従って小さくなっている。
【0058】
さらに、熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26が、複数の伝熱管68の間を通じて相互に連通されていると共に、それら伝熱管68の間の空間は、底部材18および蓋部材20の内部空間(後述する調温前液室74および調温後液室76)に対して支持板70,72で液密に隔てられている。
【0059】
このように熱交換部14がハウジング12に収容されることで、熱交換部14の下側には、壁部が底部材18と下支持板70で構成された調温前液室74が形成されていると共に、熱交換部14の上側には、壁部が蓋部材20と上支持板72で構成された調温後液室76が形成されている。
【0060】
調温前液室74は、底部材18の内部空間によって構成されており、循環液入口ポート30と薬液投与ポート32が連通されていると共に、複数の伝熱管68の各内腔の下端が連通されている。
【0061】
調温後液室76は、蓋部材20の内部空間によって構成されており、脱気ポート50と圧力検出ポート56と循環液出口ポート58と温度検出ポート60とが連通されていると共に、複数の伝熱管68の各内腔が連通されている。なお、温度検出ポート60に差し通された温度検出部材62は、先端部66が調温後液室76内へ突出している。
【0062】
ここにおいて、調温後液室76には、フィルタ78が配設されている。フィルタ78は、循環液の通過を許容するとともに空気の通過を制限する高分子膜であって、本実施形態では、平坦なメンブラン状とされて、調温後液室76において傾斜して上下に広がるように展張状態で配置されている。より具体的には、フィルタ78は、
図11に示すように、第1の液室壁部材44の傾斜開口部48を塞いで設けられており、下方から上方へ向けて脱気ポート50の開口52へ近づくように後方(
図11中、右方)へ傾斜して広がっている。これにより、フィルタ78は、全周縁が調温後液室76を画成する壁部で固定的に支持されており、特に下端部が調温後液室76の筒状周壁の下側部分によって支持されていると共に、上端部が調温後液室76の上底の壁部分によって支持されている。なお、
図7,11では、見易さのために、フィルタ78の厚さを実際よりも厚く図示している。
【0063】
本実施形態のフィルタ78は、第1の液室壁部材44の成形時に、第1の液室壁部材44の金型に予めセットされてインサート成形されており、第1の液室壁部材44のインサート成形品を構成するインサート構成部材とされている。そして、フィルタ78は、第1の液室壁部材44に対して、フィルタ78の周縁が溶着されたり内部に差し入れられた状態で固着されて、一体的に取り付けられている。これにより、フィルタ78は、ハウジング12を構成する第1の液室壁部材44における傾斜開口部48の開口周縁部に対して、外周縁が全周に亘って直接固着されている。その結果、フィルタ78と第1の液室壁部材44の間に段差や凹凸などが形成され難くなっている。さらに、第1の液室壁部材44に対して固着される第2の液室壁部材46に対するフィルタ78の配設部分にも段差や凹凸が形成され難い。要するに、調温後液室76の壁内面においてフィルタ78を支持するための段差や凹凸が不要とされており、後述するプライミング処理の完了後に、調温後液室76に空気が残留し難くなっている。
【0064】
なお、フィルタ78の形成材料は、特に限定されないが、例えば、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、フッ素樹脂などの疎水性高分子材料で形成されることが望ましい。フィルタ78を疎水性の材料で形成することにより、気泡がフィルタ78に沿って移動し易くなって脱気ポート50へ効率的に案内されることから、空気の排出効率の向上が図られる。尤も、フィルタ78は親水性高分子材料で形成されていてもよく、フィルタ78が親水性材料で形成されていれば、循環液がより容易にフィルタ78を通過することができる。また、疎水性高分子材料で形成された薄膜の表面に親水化処理を施したり、親水性高分子材料で形成された薄膜の表面に疎水化処理を施すことによって、フィルタ78を得ることも可能である。フィルタ78は、要求される性能に応じて、親水性と疎水性を適宜に併せ持つようにもできる。
【0065】
そして、フィルタ78が調温後液室76に配されることにより、調温後液室76は、フィルタ78の両側に二分されている。すなわち、フィルタ78の後方には、複数の伝熱管68と脱気ポート50と圧力検出ポート56とが連通された脱気前液室80が形成されている一方、フィルタ78の前方には、循環液出口ポート58と温度検出ポート60が連通された脱気後液室82が形成されている。本実施形態では、蓋部材20において、脱気前液室80の壁部と脱気ポート50が第1の液室壁部材44において一体形成されていると共に、脱気後液室82の壁部と循環液出口ポート58が第2の液室壁部材46において一体形成されている。なお、圧力検出ポート56によって脱気前液室80内の圧力を図示しない圧力センサで測定することができると共に、温度検出部材62を備える温度検出ポート60によって脱気後液室82内の温度を測定することができる。
【0066】
このような構造を有する本実施形態の熱交換器10は、循環液入口ポート30と循環液出口ポート58が図示しない体外循環回路に接続されると共に、熱交換媒体入口ポート24と熱交換媒体出口ポート26が図示しない熱交換媒体循環回路に接続された状態で、使用される。
【0067】
体外循環回路は、心停止状態の患者に対して血液の循環と心筋保護液の投与を行うことで、酸素の供給と心筋の損傷防止とを図るものである。本実施形態の体外循環回路は、心臓および肺の機能を一時的に代替するための人工肺、熱交換器、送血用ポンプを組み込んだ回路と心筋保護液を心臓に注入する回路から成る。なお、循環液は、例えば、晶質性心筋保護液や血液、晶質性心筋保護液に血液を混合した血液添加心筋保護液などが好適に用いられる。晶質性心筋保護液の組成は、特に限定されないが、一般的に高カリウム溶液であって、心筋保護に必要とされる酸素を運搬する。また、本実施形態では、心筋保護回路用の熱交換器10を例示するが、本発明に係る熱交換器は、必ずしも心筋保護回路にのみ用いられるものではなく、例えば、患者を低体温状態とする際に用いられる人工心肺回路用の熱交換器にも適用され得る。
【0068】
熱交換媒体循環回路は、熱交換媒体を循環させるためのポンプを備えていると共に、熱交換媒体を冷却又は加温するための調温装置を備えている。なお、熱交換媒体は、熱交換媒体循環回路を流動可能な流体であればよいが、好適には水などの液体が採用される。
【0069】
熱交換器10を使用する際には、先ず、プライミング処理を行う。すなわち、循環液入口ポート30から循環液出口ポート58までを循環液で満たすことにより、循環液の循環経路上に位置する循環液入口ポート30、薬液投与ポート32、調温前液室74、複数の伝熱管68、調温後液室76、循環液出口ポート58、脱気ポート50、圧力検出ポート56を循環液で満たして空気を排出する。
【0070】
具体的には、脱気ポート50を開放した状態で循環液入口ポート30から循環液を導入することにより、脱気前液室80が循環液で満たされるまで空気が脱気ポート50から外部へ排出される。さらに、脱気前液室80を満たす循環液内に混じった空気は、フィルタ78によって濾しとられて、気泡となってフィルタ78に沿って浮上することで、脱気前液室80の上側の壁部に設けられた脱気ポート50から外部へ排出される。また、フィルタ78を通じて脱気後液室82に循環液が入ることにより、脱気後液室82内の空気が循環液出口ポート58から図示しない体外循環回路へ排出されて、体外循環回路に設けられたエアトラップによって空気が循環回路外へ排出される。なお、
図7,11では、脱気ポート50にキャップ54が取り付けられているが、キャップ54は、プライミング処理を行う際に取り外されて、脱気ポート50に図示しないチューブなどが接続された状態でプライミング処理が行われる。さらに、圧力検出ポート56は、図示しない圧力センサの挿通状態で、或いは圧力センサが挿通されていない状態で、液密に封止される。
【0071】
ここにおいて、フィルタ78は、脱気ポート50へ向けて傾斜しており、より具体的には、上方に向けて脱気ポート50の開口52へ近づく向きに傾斜して設けられていることから、フィルタ78に沿って浮上した気泡が脱気ポート50へ導かれて、空気が脱気ポート50から外部へ効率的に排出される。それ故、プライミング処理後に空気が脱気前液室80内に留まり難く、循環液内の空気の除去を効果的に実現することができる。
【0072】
特に、気泡を含み得る脱気前液室80内の循環液が斜めに配されたフィルタ78の下面に接するようにされていることから、フィルタ78によって循環液から濾しとられた気泡は、浮力によりフィルタ78に沿って浮上する。それ故、気泡を安定して脱気ポート50へ導くことが可能となる。
【0073】
さらに、フィルタ78が平坦な形状とされていることにより、気泡がフィルタ78の面に対して平行となる方向へ効率的に案内されて、脱気ポート50へ導かれる。しかも、フィルタ78が斜めに配されていることによって、平坦な形状であってもフィルタ78の面積を大きく確保することも可能とされており、フィルタ78を通過する循環液の流量を大きく得ることができる。
【0074】
また、フィルタ78がハウジング12の第1の液室壁部材44にインサート成形で直接固着されていることから、フィルタ78が別部材を介して第1の液室壁部材44に間接的に取り付けられる場合に比して、第1の液室壁部材44の壁内面におけるフィルタ78の取付部分に段差や凹凸などが形成され難くなっている。それ故、プライミング処理の完了後に空気が残留し難く、空気の効率的な排出が実現される。加えて、第2の液室壁部材46の壁内面におけるフィルタ78の取付部分にも段差や凹凸などが形成され難く、プライミング処理の完了後に空気の残留が防止される。
【0075】
循環液を循環液入口ポート30から導入するに際して、循環液入口ポート30から底部材18の内周へ流入した循環液は、底部材18の周壁に設けられた分流突起40に向かって溝部36を流れる。そして、循環液の流れは、分流突起40に当たることで周方向両側へ分けられる。本実施形態では、分流突起40が循環液入口ポート30側である先端側に向けて幅狭となっていることから、循環液の流れが分流突起40によって周方向両側へ効率的に分けられる。これにより、循環液入口ポート30から底部材18の内側へ流れ込んだ循環液の流れが、流れと略直交する底部材18の周壁によって堰き止められることなく、周方向の両側へスムーズに案内される。それ故、乱流による気泡の巻き込みなどが生じ難く、底部材18の内側を循環液で速やかに満たすことができる。
【0076】
さらに、分流突起40に対する底部材18の周方向両側には、分流突起40から循環液入口ポート30に向けて周方向に延びるガイド突条42,42が設けられている。これにより、分流突起40によって周方向の両側に分けられた循環液の流れが、ガイド突条42,42によって底部材18の外周部分を周方向に案内される。その結果、分流突起40によって方向を変えられた循環液の流れが、循環液入口ポート30から流れ込んで底部材18の中央を通る径方向に流れる循環液の流れと衝突し難く、流れのぶつかり合いによる乱流が生じ難い。
【0077】
循環液入口ポート30は、溝部36の端面に開口しており、底上部38,38の上面よりも下側に位置している。それ故、循環液入口ポート30から流入する循環液の流れと、ガイド突条42,42に案内されて底上部38,38上を流れる循環液の流れは、上下方向においても互いにずれた位置に形成されており、互いにぶつかり合い難くなっている。
【0078】
ガイド突条42,42が設けられた外周部分は、溝部36よりも深さが浅い底上部38,38とされていることから、分流突起40によって分けられた循環液の流れが、伝熱管68の端部開口に近い位置を流動する。それ故、底部材18の内側へ導入された循環液が伝熱管68の内腔へ導かれ易く、循環液の熱交換部14への導入も効率的に実現され得る。しかも、底上部38は、分流突起40側から循環液入口ポート30側に向けて次第に上傾して伝熱管68の端部開口に接近している。それ故、循環液入口ポート30側においても、底上部38上を流れる循環液が、伝熱管68の内腔へ有効に導入される。
【0079】
ところで、プライミング処理が完了した後、熱交換器10によって循環液の温度調節が行われて、温度調節された循環液が体外循環回路へ供給される。すなわち、熱交換媒体入口ポート24へ送入された熱交換媒体は、複数の伝熱管68の間に設けられた隙間を通じて熱交換媒体出口ポート26から排出される。そして、循環液入口ポート30から熱交換器10に入った循環液は、伝熱管68の内腔を通る際に熱交換媒体と間接的に接して、循環液と熱交換媒体の間で伝熱管68を介した熱の交換(授受)が生じる。これにより、循環液の温度が調節されて、熱交換部14において調温された循環液が、調温後液室76(脱気前液室80)へ流入するようになっている。なお、熱交換器10を通過した循環液の温度は、特に限定されないが、冷却と加温の両方に対応可能とされていることが望ましい。例えば、心停止状態で使用される循環液を冷却することにより、心停止下において心筋が保護されると共に、心停止の解除に際して生体温度まで加温した循環液を患者に供給することで、患者の心臓の代謝機能を正常な状態に戻すことができる。冷却と加温の両方に対応可能とする場合には、冷却時の循環液と加温時の循環液は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0080】
熱交換媒体は、収容筒部22の内周側の空間に対して、下部から導入されて、下部から排出されることから、収容筒部22の上部には流れにくい。そこで、収容筒部22の内周面が上方に向けて小径となるテーパ形状とされており、収容筒部22の内周面と複数の伝熱管68からなる管群の外周面との対向面間距離が上方に向けて次第に小さくされている。これにより、収容筒部22の下部から送入された熱交換媒体が、圧力損失による流速の低下を抑えられて、収容筒部22の上部まで流動し易くなる。それ故、熱交換媒体入口ポート24から流れ込む熱交換媒体が、熱交換部14の全体に供給されて、循環液と熱交換媒体との間での熱交換効率の向上が図られる。
【0081】
本実施形態では、循環液入口ポート30から熱交換部14へ導入された循環液が伝熱管68の内腔を通じて流動すると共に、熱交換媒体が複数の伝熱管68の外周面間を流動するようにされている。これにより、熱交換部14において、循環液の流動領域(伝熱管68の内腔)の容積が、熱交換媒体の流動領域(複数の伝熱管68の隙間)の容積よりも小さくされている。それ故、プライミング完了時に熱交換部14に残るプライミング液の量が少なくなって、体外循環回路から患者の体内(血管)へ入る当該プライミング液による血液の希釈を抑えることができる。
【0082】
さらに、薬液投与ポート32に図示しないシリンジやチューブを接続して、薬液投与ポート32から循環液に薬液を適宜に投与することもできる。なお、
図7では、薬液投与ポート32にキャップ34が取り付けられているが、薬液投与時にキャップ34を取り外してもよいし、予めキャップを取り外して図示しないチューブを接続しておいて、当該チューブをクランプすることで薬液投与ポート32を遮断状態としてもよい。
【0083】
このような熱交換器10のプライミング完了後の使用状態においても、循環液中に混じった空気は、フィルタ78によって取り除かれて、脱気ポート50へ集められる。脱気ポート50は、プライミング完了後に遮断されており、循環液の脱気ポート50からの漏れが防止されるが、脱気ポート50に空気が集まっている状態は、脱気ポート50を含む第1の液室壁部材44が透明であることから、外部から目視で確認可能とされている。それ故、脱気ポート50に空気が集まったことを確認した場合には、脱気ポート50を一時的に開放することで空気を外部に排出することができる。なお、プライミング処理の完了後に脱気ポート50に接続されたチューブをクランプすることによって脱気ポート50が遮断されることから、熱交換器10の使用状態で空気を排出する際には、チューブのクランプを一時的に解除すればよい。
【0084】
なお、温度検出ポート60は、フィルタ78によって空気を除去された循環液で満たされる脱気後液室82の壁部に設けられており、温度検出部材62が温度検出ポート60から脱気後液室82内へ突出するように設けられても、気泡が温度検出部材62に付着して液室内に残留することはない。
【0085】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、熱交換部14における循環液の流動方向と熱交換媒体の流動方向が交差方向とされていたが、循環液と熱交換媒体の両方が上下方向に流動するようにしてもよく、その場合には、循環液の流動方向と熱交換媒体の流動方向は、相互に同じ方向であってもよいし、逆方向であってもよい。
【0086】
また、フィルタ78は、平坦な形状に限定されるものではなく、例えば上方に向けて小径となるテーパ状の筒形などであってもよい。この場合、フィルタ78は、上端が脱気ポート50の開口52の周囲を囲んで配置されることにより、フィルタ78に沿って上方へ移動する気泡が脱気ポート50へ案内される。さらに、フィルタ78は、湾曲板状や波板状、折れ板状などであってもよい。また、フィルタ78をハウジング本体16に固定する方法は、インサート成形に限定されない。具体的には、フィルタ78をハウジング本体16とは別部品として、ハウジング本体16に接着する方法が挙げられる。
【0087】
また、ハウジング12は、全体が透明である必要はなく、例えば、ハウジング12の上側の壁部を構成する蓋部材20だけが透明とされていてもよいし、蓋部材20に設けられた脱気ポート50だけが透明とされていてもよい。なお、気泡の有無を外部から確認するために、少なくとも脱気ポート50の根元部分が透明乃至は半透明であることが望ましく、より好適には、脱気ポート50と脱気前液室80の壁部とを構成する第1の液室壁部材44が透明乃至は半透明とされるが、ハウジング12の全体を不透明な材料で形成することも可能である。
【0088】
熱交換器10は、患者への身体的な負担を低減する目的で、患者の血液を循環液の流路に導入する場合がある。この場合には、血液を循環液の流路に導入するための外部管路に接続されるサービスポートが、ハウジング12に設けられ得る。サービスポートは、外部管路との接続によって空気が混入することを考慮して、フィルタ78を通過する前の循環液に血液を混入可能な位置に設けられる。具体的には、サービスポートは、底部材18や蓋部材20の第1の液室壁部材44に設けることが可能であり、例えば、前記実施形態の圧力検出ポート56をサービスポートとして用いることもできる。なお、循環液の流路に導入される血液を貯留する貯血槽は、例えば、ハウジング12に設けられた取付突部28a,28bによって収容筒部22の外周面に取り付けられ得る。
【符号の説明】
【0089】
10:熱交換器、12:ハウジング、14:熱交換部、18:底部材、40:分流突起、42:ガイド突条、44:第1の液室壁部材、46:第2の液室壁部材、50:脱気ポート、52:開口、60:温度検出ポート、76:調温後液室、78:フィルタ、80:脱気前液室、82:脱気後液室