(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107517
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】町並み推定システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240802BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011476
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌太
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】歩行空間に関する環境要素を考慮した将来的な町並みの推定を行うことができる町並み推定システムを提供する。
【解決手段】地域2に含まれる複数の区間5の回遊しやすさを示す回遊性情報(ステップS102、ステップS106、ステップS110の回答)に基づいて、複数の区間5の現状の回遊しやすさを得点化した回遊性得点を算出する(ステップS101~ステップS114)回遊性得点算出部(制御部11)と、区間5の回遊しやすさの改善の程度を示す改善率(改善掛け率)を設定可能な(ステップS203、ステップS204)改善率設定部(制御部11)と、複数の区間5の回遊性得点と、改善掛け率と、に基づいて、将来の地域2の回遊しやすさを推定する(ステップS205)回遊性推定部(制御部11)と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地域に含まれる複数の歩行空間の回遊しやすさを示す回遊性情報に基づいて、複数の前記歩行空間の現状の回遊しやすさを得点化した回遊性得点を算出する回遊性得点算出部と、
前記歩行空間の回遊しやすさの改善の程度を示す改善率を設定可能な改善率設定部と、
複数の前記歩行空間の前記回遊性得点と、前記改善率と、に基づいて、将来の前記地域の回遊しやすさを推定する回遊性推定部と、
を具備する町並み推定システム。
【請求項2】
前記回遊性情報には、
前記歩行空間の歩きやすさに関する指標である第一の指標と、前記歩行空間の休息しやすさに関する指標である第二の指標と、前記歩行空間の雰囲気に関する指標である第三の指標と、のうちの少なくとも1つが含まれる、
請求項1に記載の町並み推定システム。
【請求項3】
前記地域は、
複数の道路と、複数の前記道路が交わる交差点と、を有し、
前記歩行空間は、
前記道路のうち、一対の前記交差点の間に形成された区間が含まれる、
請求項1に記載の町並み推定システム。
【請求項4】
前記回遊性得点算出部は、
複数の前記区間ごとに前記回遊性得点を算出すると共に、複数の前記区間の前記回遊性得点の平均値を算出し、
前記回遊性推定部は、
前記回遊性得点の平均値と、前記改善率と、に基づいて将来の前記地域の回遊しやすさを推定する、
請求項3に記載の町並み推定システム。
【請求項5】
前記地域を示す地図を表示可能な表示部と、
前記回遊性得点に基づいて、複数の前記歩行空間の回遊しやすさの程度を前記地図上の前記歩行空間に対応するように可視化して前記表示部に表示させる可視化部と、
を具備する、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の町並み推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、町並み推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地域内の将来的な町並みを推定する技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、長期的な町並みの移り変わりを推定する方法が記載されている。上記方法では、建物及び住人、建物の建替え行動、建物の外観の選択の過程をモデル化し、各モデルを用いたシミュレーションにより、長期的な町並みの移り変わりを推定する。
【0004】
ここで、町並みの構成には、街路等の歩行空間に関する環境要素も含まれる。しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、環境要素を考慮した町並みの推定結果を得ることはできない。このため、歩行空間に関する環境要素を考慮して将来的な町並みの推定を行うシステムが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、歩行空間に関する環境要素を考慮した将来的な町並みの推定を行うことができる町並み推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、地域に含まれる複数の歩行空間の回遊しやすさを示す回遊性情報に基づいて、複数の前記歩行空間の現状の回遊しやすさを得点化した回遊性得点を算出する回遊性得点算出部と、前記歩行空間の回遊しやすさの改善の程度を示す改善率を設定可能な改善率設定部と、複数の前記歩行空間の前記回遊性得点と、前記改善率と、に基づいて、将来の前記地域の回遊しやすさを推定する回遊性推定部と、を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記回遊性情報には、前記歩行空間の歩きやすさに関する指標である第一の指標と、前記歩行空間の休息しやすさに関する指標である第二の指標と、前記歩行空間の雰囲気に関する指標である第三の指標と、のうちの少なくとも1つが含まれるものである。
【0010】
請求項3においては、前記地域は、複数の道路と、複数の前記道路が交わる交差点と、を有し、前記歩行空間は、前記道路のうち、一対の前記交差点の間に形成された区間が含まれるものである。
【0011】
請求項4においては、前記回遊性得点算出部は、複数の前記区間ごとに前記回遊性得点を算出すると共に、複数の前記区間の前記回遊性得点の平均値を算出し、前記回遊性推定部は、前記回遊性得点の平均値と、前記改善率と、に基づいて将来の前記地域の回遊しやすさを推定するものである。
【0012】
請求項5においては、前記地域を示す地図を表示可能な表示部と、前記回遊性得点に基づいて、複数の前記歩行空間の回遊しやすさの程度を前記地図上の前記歩行空間に対応するように可視化して前記表示部に表示させる可視化部と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、歩行空間に関する環境要素を考慮した将来的な町並みの推定を行うことができる。
【0015】
請求項2においては、町並みの推定の精度を向上させることができる。
【0016】
請求項3においては、町並みの推定の精度を向上させることができる。
【0017】
請求項4においては、複数の区間ごとに算出した回遊性得点の平均値を用いて、地域の将来的な回遊しやすさを推定することができる。
【0018】
請求項5においては、複数の歩行空間の回遊しやすさを確認する際の一覧性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る町並み推定システムを示したブロック図。
【
図2】1区間の回遊しやすさ得点を算出する処理を示したフローチャート。
【
図3】(a)歩きやすさに関する得点の算出例を示した表。(b)休息しやすさに関する得点の算出例を示した表。(c)雰囲気に関する得点の算出例を示した表。
【
図4】推定回遊性得点を算出する処理を示したフローチャート。
【
図5】(a)町並み推定システムによる推定の対象となる地域の街路を示した模式図。(b)改善意向を掛け率との関係を示した表。
【
図6】町並み推定システムによる推定結果をヒートマップ化したものを示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の一実施形態に係る町並み推定システム1について説明する。町並み推定システム1は、任意の地域2の将来的な町並みの移り変わりの推定を行うものである。
【0021】
ここで、地域2とは、町並みの推定の対象となるエリアである。本実施形態では、地域2として、市町村単位の市街地のエリア(例えば町)を採用している。なお地域2としては、市町村単位のエリアに限定されず、市町村に含まれる任意の地区や、より大規模なエリア(例えば都道府県等)を採用可能である。
図5(a)では、地域2の一部を示している。
【0022】
地域2には、複数の街路3が形成されている。ここで、街路3とは、地域2において歩行者が通行可能な道(道路)である。地域2には、複数の街路3が交わる交差点4が形成されている。また、地域2には、街路3に沿って住居や各種施設等の建物が配置されている。
【0023】
また、「町並み」とは、建物や街路3等を含めた地域2の景観(環境)である。地域2の町並みは、街路3や街路3の周辺の環境の改善が行われることで、期間の経過に伴い移り変わる。
【0024】
図1に示すように、町並み推定システム1は、各種の情報の処理が可能な制御装置10により構成される。制御装置10としては、一般的なパーソナルコンピュータやサーバ等を用いることができる。制御装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13及び表示部14を具備する。
【0025】
制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラムを実行するものである。制御部11は、CPUにより構成される。
【0026】
記憶部12は、各種のプログラムや取得された各種の情報が記憶されるものである。記憶部12は、HDD、RAM、ROM等により構成される。
【0027】
入力部13は、各種の情報を入力するためのものである。入力部13は、キーボード、マウス等により構成される。
【0028】
表示部14は、各種の情報を表示するものである。表示部14は、例えば液晶ディスプレイ等により構成される。
【0029】
上述の如く構成される制御装置10は、例えば地域2の町並みの管理者(例えば行政の担当者)により管理されている。
【0030】
本実施形態に係る町並み推定システム1は、歩行者が街路3を通行する際の「回遊しやすさ」に基づいて、地域2の将来的な町並みの推定を行う。ここで、「回遊しやすさ」とは、例えば歩行者が散歩等を行う際に、歩行を阻害するものがなかったり、休憩に適した場所があったり、歩く目的や賑わいがあるような街路構成であることの度合いを示すものである。本実施形態における「回遊しやすさ」の判断には、「歩きやすさ」、「休憩しやすさ」及び「雰囲気」の3つの指標が用いられる。なお、上記各指標の詳細な説明は後述する。また以下では、「回遊しやすさ」を「回遊性」と称して説明する場合がある。
【0031】
町並み推定システム1は、現状の地域2における街路3の「回遊しやすさ(回遊性)」の算出を行う「回遊性算出処理」(
図2を参照)と、「回遊性算出処理」の結果に基づいて、将来の地域2における回遊性を推定する「推定回遊性算出処理」(
図4を参照)と、を実行する。町並み推定システム1の利用者としては、地域2の町並みを管理する者(例えば行政の担当者)が想定される。
【0032】
以下では、
図2のフローチャートを用いて、「回遊性算出処理」について説明する。「回遊性算出処理」は、利用者が入力部13を用いた操作を行うことで実行される。
【0033】
「回遊性算出処理」において、町並み推定システム1の制御部11は、街路3に含まれる区間5ごとに、現状の回遊性の算出を行う。ここで区間5とは、街路3のうち一対の交差点4の間の部分である(
図5(a)を参照)。なお
図5(a)では、他の部分と区別しやすくするために、区間5を塗りつぶして示している。
図6に示すように、街路3には複数の区間5が含まれる。「回遊性算出処理」において制御部11は、1つの区間5ごとに回遊性の算出を行う。なお、「回遊性算出処理」の対象となる区間5としては、地域2に含まれる全ての区間5としてもよく、全ての区間5のうちの任意の区間5(例えば主要な街路3の区間5等)としてもよい。
【0034】
まず制御部11は、ステップS101からステップS104までの処理を実行する。上記処理において、制御部11は、入力された情報に基づいて、区間5の「歩きやすさ」に関する得点の算出を行う。ここで「歩きやすさ」とは、歩道の整備状況等に基づいて判断される区間5(街路3)を通行する際の快適性を示す指標である(
図3(a)を参照)。
【0035】
上記処理において、制御部11は、「歩きやすさ」に関する質問を表示部14に表示させる(ステップS101)。
図3(a)に示すように、制御部11は、yes又はnoの回答が可能な複数(例えば110個程度)の質問内容を表示する。上記複数の質問内容には、例えば「段差のない動線が整備されている」、「歩道にアスファルト以外の化粧材が使われている」、「植物(街路樹等)の枝葉が通行の妨げにならないように整備されている」等が含まれる。上記複数の質問内容は、いずれもyesと回答した場合に望ましい状況を示すように設定されている。
【0036】
利用者は、上記複数の質問内容に対して、現状の区間5の状態を示す回答を行う。具体的には、利用者は入力部13を用いて、質問に対するyes又はnoの回答を入力する。上記回答は、例えば検査者による検査の結果や、地域2の住民等のアンケートの結果等に基づいて行うことができる。制御部11は、上記回答を記憶部12に記憶させる(ステップS102)。
【0037】
また制御部11は、上記回答から区間5の「歩きやすさ」に関する得点の算出を行う(ステップS103)。具体的には、制御部11は、「歩きやすさ」に関する複数の質問の回答結果がyesであれば1点を付与し、noであれば0点を付与すると共に、各回答結果に付与された点数の合計点を、「歩きやすさ」に関する得点として算出する(
図3(a)を参照)。また制御部11は、上記「歩きやすさ」に関する得点を記憶部12に記憶させる(ステップS104)。
【0038】
次に制御部11は、ステップS105からステップS108までの処理を実行する。上記処理において、制御部11は、入力された情報に基づいて、区間5の「休憩しやすさ」に関する得点の算出を行う。ここで「休憩しやすさ」とは、休憩のための場所の有無等に基づいて判断される、区間5(街路3)の歩行者の休憩に関する快適性を示す指標である(
図3(b)を参照)。
【0039】
上記処理において、制御部11は、「休憩しやすさ」に関する質問を表示部14に表示させる(ステップS105)。
図3(b)に示すように、制御部11は、yes又はnoの回答が可能な複数(例えば110個程度)の質問内容を表示する。上記複数の質問内容には、例えば「気軽に座れる段差がある」、「気軽に座れる椅子がある」、「日陰となる場所が設けられている」、「植物が設けられている」等が含まれる。上記複数の質問内容は、いずれもyesと回答した場合に望ましい状況を示すように設定されている。
【0040】
利用者は、上記複数の質問内容に対して、上記「歩きやすさ」に関する質問の場合と概ね同様に、現状の区間5の状態を示す回答を行う。制御部11は、上記回答を記憶部12に記憶させる(ステップS106)。また制御部11は、上記「歩きやすさ」に関する得点の算出と概ね同様に、上記回答から区間5の「休憩しやすさ」に関する得点の算出を行う(ステップS107)。また制御部11は、上記「休憩しやすさ」に関する得点を記憶部12に記憶させる(ステップS108)。
【0041】
次に制御部11は、ステップS109からステップS112までの処理を実行する。上記処理において、制御部11は、入力された情報に基づいて、区間5の「雰囲気」に関する得点の算出を行う。ここで「雰囲気」とは、装飾や遊具等の設備の有無等に基づいて判断される、区間5(街路3)の場としてのよさ(賑わい等)を示す指標である(
図3(c)を参照)。
【0042】
上記処理において、制御部11は、「雰囲気」に関する質問を表示部14に表示させる(ステップS109)。
図3(c)に示すように、制御部11は、yes又はnoの回答が可能な複数(例えば110個程度)の質問内容を表示する。上記複数の質問内容には、例えば「電灯や樹木に装飾がある」、「芸ができるスペースがある」、「子ども用の遊具がある」、「特定の遊び・スポーツをする場がある」等が含まれる。上記複数の質問内容は、いずれもyesと回答した場合に望ましい状況を示すように設定されている。
【0043】
利用者は、上記複数の質問内容に対して、上記「歩きやすさ」に関する質問の場合と概ね同様に、現状の区間5の状態を示す回答を行う。制御部11は、上記回答を記憶部12に記憶させる(ステップS110)。また制御部11は、上記「歩きやすさ」に関する得点の算出と概ね同様に、上記回答から区間5の「雰囲気」に関する得点の算出を行う(ステップS111)。また制御部11は、上記「雰囲気」に関する得点を記憶部12に記憶させる(ステップS112)。
【0044】
次に制御部11は、「歩きやすさ」に関する得点(ステップS104)、「休憩しやすさ」に関する得点(ステップS108)及び「雰囲気」に関する得点(ステップS112)の合計値を算出する(ステップS113)。また、制御部11は、ステップS113で算出した合計値を、現状の区間5の回遊性の得点(回遊性得点)として記憶部12に記憶させる(ステップS114)。上記回遊性得点が高い程、区間5の回遊性が高い(区間5が回遊しやすい)ことが示される。
【0045】
上述した処理を行うことで、1つの区間5についての「回遊性算出処理」が完了する。制御部11は、対象となる区間5の全てについて、上述した「回遊性算出処理」の処理を実行する。また、制御部11は、全ての区間5についての「回遊性算出処理」の処理が完了した場合、「推定回遊性算出処理」を実行する。
【0046】
以下では、
図4のフローチャートを用いて、「推定回遊性算出処理」について説明する。
【0047】
「推定回遊性算出処理」において、制御部11は、「回遊性算出処理」で算出された区間5の回遊性得点を用いて、将来の(例えば10年後等の)地域2の回遊性得点の推定結果(推定回遊性得点)の算出を行う。
【0048】
まず制御部11は、「回遊性算出処理」において算出された全ての区間5の回遊性得点の平均値(平均得点)を算出する(ステップS201)。また制御部11は、上記平均得点を地域2の全体の回遊性の平均得点として記憶部12に記憶させる(ステップS202)。
【0049】
本実施形態に係る制御部11(町並み推定システム1)は、
図6に示すように、各区間5の回遊性得点の偏差値(平均得点との差)を地図上に可視化したものを、表示部14に表示させることができる。
【0050】
図6に示す例では、地域2における各区間5の回遊性得点の偏差値をヒートマップ化したものを示している。なお、
図6に示す例では、区間5の塗りつぶしのパターン(濃淡又は柄)の違いにより回遊性得点の高低を示している。なお、各区間5の回遊性は、例えば色のグラデーション等によっても示すことができる。
【0051】
各区間5の回遊性得点の偏差値をヒートマップにより可視化したことで、各区間5の回遊性を確認する際の一覧性を向上させることができる。また、複数の地域2の間で、回遊性の視点での住みやすさの判断を行うことができる。
【0052】
次に制御部11は、「改善意向」の質問を表示部14に表示させる(ステップS203)。ここで、「改善意向」とは、地域2について、回遊性をどの程度改善するかの方向性を示すものである。
図5(b)の表に示すように、本実施形態に係る「改善意向」には、「大幅に改善」、「少しずつ改善」及び「維持」の3段階の意向が含まれている。
【0053】
利用者は、上記「改善意向」の質問に対して、「大幅に改善」、「少しずつ改善」及び「維持」のうちのいずれかを選択して回答を行う。この際に利用者は、
図6に示すヒートマップを参考にして回答を行うことができる。利用者は、入力部13を用いて、上記回答を入力する。
【0054】
次に制御部11は、ステップS203の回答の結果に基づいて、「改善掛け率」の設定を実行する(ステップS204)。ここで、「改善掛け率」とは、「改善意向」に対して設定された、改善の程度を示す値である。「改善掛け率」は、「改善意向」の程度が大きい程、大きい値が設定される。実施形態では、
図5(b)の表に示すように、「大幅に改善」に対して1.2、「少しずつ改善」に対して1.1、「維持」に対して1の値が「改善掛け率」として予め設定されている。なお上記値は一例であり、「改善掛け率」としては、任意の値を設定可能である。
【0055】
次に制御部11は、ステップS202で得た現状の地域2の回遊性の平均得点と、ステップS204で得た「改善掛け率」と、に基づいて、任意の年数後の地域2の回遊性得点の算出を行う(ステップS205)。任意の年数後の回遊性得点は、以下の数1の数式で表される。
(数1)
任意の年数後の地域2の回遊性得点=現状の地域2の回遊性の平均得点×(改善掛け率)n
ここで、
n:任意の年数
【0056】
次に制御部11は、ステップS205の算出結果を、「推定回遊性得点」として、記憶部12に記憶させる(ステップS206)。上述した処理を行うことで、「推定回遊性算出処理」が完了する。
【0057】
上述の如き「推定回遊性算出処理」を行うことで、任意の年数(例えば10年)をかけて、現状の地域2の街路3(区間5)に対して任意の「改善意向」で改善を行った場合の地域2の全体の回遊性を示す「推定回遊性得点」を得ることができる。これにより、将来の地域2の「回遊しやすさ(回遊性)」のシミュレーションを行うことができ、ひいては地域2の将来的な町並みの移り変わりの推定を行うことができる。
【0058】
また、複数の地域2について「推定回遊性得点」を算出し、各「推定回遊性得点」を比較することで、各地域2の将来的な回遊性の差を把握することができる。上記「推定回遊性得点」は、例えばある地域2で住居や出店先を選ぶ際の参考に用いることができる。
【0059】
また、利用者は、地域2の現状の回遊性(回遊性の平均得点)と、目指す将来の回遊性(推定回遊性得点)と、の差分に対して、改善する区間5を検討するにあたり、
図6に示すヒートマップを参照することができる。この際に利用者は、ヒートマップで各区間5の回遊性のつながりを確認した上で、回遊性得点の偏差値が低く改善の必要性が高い区間5を重点的に改善することや、各区間5の回遊性の面的なつながりを重視するなど、改善する区間5の優先順位をつけることができる。また、利用者は、地域2の全体を俯瞰して検討を行うことができる。
【0060】
以上、町並み推定システム1が実行する処理について説明した。なお、本実施形態に係る処理は一例であり、町並み推定システム1が実行する処理は上述した例に限定されるものではなく、任意の処理を追加又は変更してもよい。また、上記説明で例示した具体的な数値は一例であり、任意に変更することが可能である。
【0061】
例えば、上述した例では「推定回遊性算出処理」のステップS203~ステップS205において、現状の地域2の回遊性の平均得点(全ての区間5の回遊性の平均値)に対して、一律の改善掛け率に基づく値((改善掛け率)n)を用いた算出を行うことで、地域2の全体の回遊性の推定を行う例を示したが、このような態様に限定されない。例えば区間5ごとに異なる改善掛け率を用いて、地域2の回遊性の推定を行う態様も採用可能である。
【0062】
上記構成によれば、例えば回遊性得点の偏差値が低い区間5等、改善の重要度が高い区間5について「大幅に改善」を選択したり、すでに回遊性得点の偏差値が高い区間5等、改善の重要度が低い区間5について「維持」を選択するようなことができる。この場合は、利用者が手動で区間5ごとに異なる改善掛け率を設定する構成を採用可能である。ここで、改善の重要度とは、区間5の改善を行うことの重要性の度合いである。改善の重要度は、所定の基準値と、回遊性得点の偏差値と、の比較により判断可能である。例えば利用者は、ある区間5の回遊性得点の偏差値が所定の基準値よりも低ければ、当該区間5の改善の重要度が高いと判断することができる。また、改善の重要度としては、上記回遊性得点の偏差値だけでなく、区間5の特徴を示す他の値(例えば歩道の道幅等)等を用いることでも判断可能である。
【0063】
また、制御部11が、自動で区間5ごとに異なる改善掛け率を設定する構成も採用可能である。この場合には、制御部11は、各区間5の改善の重要度の判断を行うと共に、改善の重要度に応じて各区間5に対する重み付けを行い、上記重み付けに基づいて各区間5の改善掛け率を設定することができる。具体的には、制御部11は、上述したような改善の重要度が高い区間5については、高い改善掛け率(例えば「大幅に改善」の改善掛け率)が設定されるように重み付けの設定を行い、改善の重要度が低い区間5については、低い改善掛け率(例えば「維持」の改善掛け率)が設定されるように重み付けの設定を行うことができる。
【0064】
また、制御部11は、「推定回遊性算出処理」において算出した「推定回遊性得点」と併せて、「推定回遊性得点」に基づく将来の地域2の回遊性を示すヒートマップ(
図6を参照)を表示させることも可能である。これによれば、将来の地域2の大まかな回遊性については「推定回遊性得点」で把握し、個別の区間5の回遊性についてはヒートマップで可視化することができる。
【0065】
以上のように、本発明の一実施形態に係る町並み推定システム1は、
地域2に含まれる複数の歩行空間(区間5)の回遊しやすさを示す回遊性情報(ステップS102、ステップS106、ステップS110の回答)に基づいて、複数の前記区間5の現状の回遊しやすさを得点化した回遊性得点を算出する(ステップS101~ステップS114)回遊性得点算出部(制御部11)と、
前記区間5の回遊しやすさの改善の程度を示す改善率(改善掛け率)を設定可能な(ステップS203、ステップS204)改善率設定部(制御部11)と、
複数の前記区間5の前記回遊性得点と、前記改善掛け率と、に基づいて、将来の前記地域2の回遊しやすさを推定する(ステップS205)回遊性推定部(制御部11)と、
を具備するものである。
【0066】
このような構成により、歩行空間(区間5)に関する環境要素を考慮した将来的な町並みの推定を行うことができる。すなわち、区間5の現状の回遊しやすさ(回遊性得点)と、区間5の改善意向と、に基づいて地域2の将来の回遊しやすさを推定することで、区間5に関する環境要素を考慮した町並みの推定を行うことができる。
【0067】
また、前記回遊性情報には、
前記区間5の歩きやすさに関する指標である第一の指標(「歩きやすさ」)と、前記区間5の休息しやすさに関する指標である第二の指標(「休憩しやすさ」)と、前記区間5の雰囲気に関する指標である第三の指標(「雰囲気」)と、のうちの少なくとも1つが含まれるものである。
【0068】
このような構成により、町並みの推定の精度を向上させることができる。すなわち、区間5の歩きやすさ、区間5の休息しやすさ、及び区間5の雰囲気に関する3つの指標を用いて回遊性得点を算出することで、町並みの推定の精度を向上させることができる。
【0069】
また、前記地域2は、
複数の道路(街路3)と、複数の前記街路3が交わる交差点4と、を有し、
前記歩行空間は、
前記街路3のうち、一対の前記交差点4の間に形成された区間5が含まれるものである。
【0070】
このような構成により、町並みの推定の精度を向上させることができる。すなわち、歩行空間として、街路3のうち一対の交差点4の間に形成された区間5を採用することで、回遊性得点を詳細に算出することができ、町並みの推定の精度を向上させることができる。
【0071】
また、前記回遊性得点算出部(制御部11)は、
複数の前記区間5ごとに前記回遊性得点を算出すると共に、複数の前記区間5の前記回遊性得点の平均値を算出し(ステップS201、ステップS202)、
前記回遊性推定部(制御部11)は、
前記回遊性得点の平均値と、前記改善率と、に基づいて将来の前記地域2の回遊しやすさを推定するものである(ステップS205)。
【0072】
このような構成により、複数の区間5ごとに算出した回遊性得点の平均値を用いて、地域2の将来的な回遊しやすさを推定することができる。
【0073】
また、前記地域2を示す地図を表示可能な表示部14と、
前記回遊性得点に基づいて、複数の前記区間5の回遊しやすさの程度を前記地図上の前記区間5に対応するように可視化して前記表示部14に表示させる可視化部(制御部11)と、
を具備するものである。
【0074】
このような構成により、複数の区間5の回遊しやすさを確認する際の一覧性を向上させることができる。
【0075】
なお、本実施形態に係る制御部11は、本発明に係る回遊性得点算出部、改善率設定部、回遊性推定部、及び可視化部の一形態である。
また、本実施形態に係る街路3は、本発明に係る道路の一形態である。
また、本実施形態に係る区間5は、本発明に係る歩行空間の一形態である。
また、本実施形態に係る「歩きやすさ」は、本発明に係る第一の指標の一形態である。
また、本実施形態に係る「休憩しやすさ」は、本発明に係る第二の指標の一形態である。
また、本実施形態に係る「雰囲気」は、本発明に係る第三の指標の一形態である。
また、本実施形態に係る改善掛け率は、本発明に係る改善率の一形態である。
【0076】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、本実施形態では、各区間5の回遊性得点の偏差値をヒートマップにより可視化した例を示したが、各区間5の回遊性得点の偏差値を可視化する態様としては、ヒートマップに限定されず、地図上のデータを可視化する種々の方法を採用可能である。また、回遊性得点の偏差値の可視化を行わない態様も採用可能である。
【0078】
また本実施形態では、歩行空間として区間5を採用した例を示したが、歩行空間としては、区間5に限定されず、例えば街路3の全体を歩行空間としてもよい。
【0079】
また本実施形態では、「歩きやすさ」、「休憩しやすさ」及び「雰囲気」の3つの指標を用いて回遊性の判断を行う例を示したが、このような構成に限定されない。例えば、上記各指標のうち1つ又は2つを用いて回遊性の判断を行うようにしてもよい。また、例えば上述した指標とは異なる指標を用いて回遊性の判断を行うようにしてもよい。
【0080】
また、本実施形態では、制御装置10をパーソナルコンピュータやサーバとした例を示したが、このような構成に限定されない。例えば、制御装置10をタブレットやスマートフォン等の端末としてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 町並み推定システム
2 地域
3 街路
5 区間
10 制御装置