(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107525
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】車輪
(51)【国際特許分類】
B60B 17/00 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B60B17/00 B
B60B17/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011485
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上西 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】安部 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】野口 淳
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の走行時に発生する騒音を効果的に低減することができる車輪を提供する。
【解決手段】車輪(100)は、ボス部(10)と、リム部(20)と、板部(30)とを備える。板部(30)は、ボス部(10)の中心軸(A)に対して対称の形状を有する。板部(30)は、板部本体(33)と、接続部(31,32)とを含む。板部本体(33)は、湾曲形状を有する。接続部(31,32)は、それぞれ、板部本体(33)をボス部(10)及びリム部(20)に接続する。板部本体(33)は、増肉領域(333)において最大板厚(t
max)を有するとともに、他の領域(334)において最小板厚(t
min)を有する。板部(30)の内周端(E1)から外周端(E2)までの半径方向に沿う距離をXとしたとき、増肉領域(333)は、内周端(E1)から半径方向の外側に0.40X以上0.68X以下の位置で最大板厚(t
max)を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の車輪であって、
筒状のボス部と、
前記車輪の半径方向において前記ボス部の外側に配置されるリム部と、
前記ボス部と前記リム部との間に配置され、前記ボス部の中心軸に対して対称の形状を有する板部と、
を備え、
前記板部は、
前記中心軸を含む断面で見て湾曲形状を有する板部本体と、
前記ボス部と前記板部本体との間に配置され、前記板部本体を前記ボス部に接続する第1接続部と、
前記リム部と前記板部本体との間に配置され、前記板部本体を前記リム部に接続する第2接続部と、
を含み、
前記板部本体は、当該板部本体の他の領域と比較して板厚が大きい増肉領域を含み、前記増肉領域において最大板厚を有するとともに前記他の領域において最小板厚を有し、
前記第1接続部のうち前記最小板厚の2倍の板厚を有する部分を前記板部の内周端とし、前記第2接続部のうち前記最小板厚の2倍の板厚を有する部分を前記板部の外周端とし、前記内周端から前記外周端までの前記半径方向に沿う距離をXとしたとき、前記増肉領域は、前記内周端から前記半径方向の外側に0.40X以上0.68X以下の位置で前記最大板厚を有する、車輪。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪であって、
前記増肉領域の基部には、前記他の領域に連続するコーナーR部が設けられる、車輪。
【請求項3】
請求項1に記載の車輪であって、
前記板部本体の板厚は、前記半径方向に沿って連続的に変化する、車輪。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車輪であって、
前記増肉領域の前記半径方向に沿う長さは、0.47X以上である、車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用の車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用の車輪は、ボス部と、リム部と、板部とを備える。ボス部には車軸が挿入される。リム部は、車輪の半径方向においてボス部の外側に配置されている。板部は、ボス部とリム部との間に配置され、ボス部をリム部に接続する。
【0003】
一般に、鉄道車両には走行時における静粛性が要求される。例えば新幹線のように高速で走行する鉄道車両の場合、走行時に車輪から発生する振動騒音が速度の上昇とともに増大する。そのため、振動騒音を極力低減し、沿線環境を保護する必要がある。比較的低速で走行する鉄道車両についても、振動騒音の低減が求められる。具体的に説明すると、環境騒音の評価には、通常、エネルギーの時間平均値である等価騒音レベルが用いられる。比較的低速で走行する鉄道車両であっても、例えば通勤時間帯等、著しく走行本数が多い時間帯がある場合には、等価騒音レベルが高くなって沿線環境が悪化する。したがって、沿線環境を保護するため、やはり振動騒音を低減する必要がある。
【0004】
特許文献1は、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音を低減するための技術を開示する。特許文献1には、鉄道車両の走行時に車輪に起因して発生する騒音において、板部が振動することで発生する騒音が大きな割合を占めると記載されている。そのため、特許文献1では、板部の剛性を部分的に高めることが提案されている。より具体的には、特許文献1の車輪では、板部において他の箇所と比較して厚みが大きい剛性増加部が設けられている。車輪の半径方向に沿った板部の長さをLとしたとき、剛性増加部は、ボス部から2L/3だけ外周側の位置において、板部の全周にわたり連続して設けられる。あるいは、ボス部からL/3だけ外周側の位置において、複数の剛性増加部が板部の円周方向に間隔を空けて設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車輪は、鉄道車両の走行時、車輪の板部の振動に起因して発生する騒音を低減するためのものである。しかしながら、近年、鉄道車両に対する静粛性の要求はより高まっている。そのため、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音は、より効果的に低減される必要がある。
【0007】
本開示は、鉄道車両の走行時に発生する騒音を効果的に低減することができる車輪を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る鉄道車両用の車輪は、ボス部と、リム部と、板部とを備える。ボス部は、筒状を有する。リム部は、車輪の半径方向においてボス部の外側に配置される。板部は、ボス部とリム部との間に配置される。板部は、ボス部の中心軸に対して対称の形状を有する。板部は、板部本体と、第1接続部と、第2接続部とを含む。板部本体は、ボス部の中心軸を含む断面で見て湾曲形状を有する。第1接続部は、ボス部と板部本体との間に配置される。第1接続部は、板部本体をボス部に接続する。第2接続部は、リム部と板部本体との間に配置される。第2接続部は、板部本体をリム部に接続する。板部本体は、増肉領域を含む。増肉領域の板厚は、板部本体の他の領域と比較して大きい。板部本体は、増肉領域において最大板厚を有するとともに、他の領域において最小板厚を有する。第1接続部のうち最小板厚の2倍の板厚を有する部分を板部の内周端とし、第2接続部のうち最小板厚の2倍の板厚を有する部分を板部の外周端とし、内周端から外周端までの半径方向に沿う距離をXとしたとき、増肉領域は、内周端から半径方向の外側に0.40X以上0.68X以下の位置で最大板厚を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る車輪によれば、鉄道車両の走行時に発生する騒音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る鉄道車両用の車輪の縦断面図である。
【
図3】
図3は、比較例1に係る車輪の外形を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例2に係る車輪の外形を示す図である。
【
図5】
図5は、比較例3に係る車輪の外形を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1に係る車輪の外形を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例2に係る車輪の外形を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例3に係る車輪の外形を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例4に係る車輪の外形を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例5に係る車輪の外形を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例6に係る車輪の外形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る鉄道車両用の車輪は、ボス部と、リム部と、板部とを備える。ボス部は、筒状を有する。リム部は、車輪の半径方向においてボス部の外側に配置される。板部は、ボス部とリム部との間に配置される。板部は、ボス部の中心軸に対して対称の形状を有する。板部は、板部本体と、第1接続部と、第2接続部とを含む。板部本体は、ボス部の中心軸を含む断面で見て湾曲形状を有する。第1接続部は、ボス部と板部本体との間に配置される。第1接続部は、板部本体をボス部に接続する。第2接続部は、リム部と板部本体との間に配置される。第2接続部は、板部本体をリム部に接続する。板部本体は、増肉領域を含む。増肉領域の板厚は、板部本体の他の領域と比較して大きい。板部本体は、増肉領域において最大板厚を有するとともに、他の領域において最小板厚を有する。第1接続部のうち最小板厚の2倍の板厚を有する部分を板部の内周端とし、第2接続部のうち最小板厚の2倍の板厚を有する部分を板部の外周端とし、内周端から外周端までの半径方向に沿う距離をXとしたとき、増肉領域は、内周端から半径方向の外側に0.40X以上0.68X以下の位置で最大板厚を有する(第1の構成)。
【0012】
一般的には、構造物において最も剛性の低い部分を主音源として騒音が発生する。鉄道車両用の車輪では、板部の剛性が比較的低く、板部が主たる騒音源となる。そのため、第1の構成に係る車輪では、板部本体を部分的に増肉して板部の剛性を高めている。さらに、第1の構成に係る車輪では、ボス部に対する板部の接続部のうち板厚が最小板厚の2倍となる部分から、リム部に対する板部の接続部のうち板厚が最小板厚の2倍となる部分までの車輪の半径方向に沿う距離を板部の長さXとし、板部の内周側の端から0.40X以上0.68X以下の位置で板部本体の増肉領域に最大板厚を持たせている。板部は軸対称の形状を有し、板部の全周にわたって断面形状が実質的に変化しない。これにより、鉄道車両の走行時における板部の振動が抑制されやすくなり、板部を音源とする振動騒音(転動音)が減少する。したがって、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音を効果的に低減することができる。
【0013】
第1の構成では、特定の位置で板部本体に最大板厚を持たせることにより板部の剛性を効率よく高め、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音を低減している。そのため、騒音の低減を目的として車輪に他の部品を付加する必要はない。第1の構成によれば、付加部品を使用することなく、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音を効果的に低減することができる。
【0014】
第1の構成に係る車輪では、板部本体が湾曲形状を有している。この場合、車輪がレールの曲線区間を通過する際の板部の剛性を確保することができる。
【0015】
第1の構成において、増肉領域の基部には、他の領域に連続するコーナーR部が設けられていてもよい(第2の構成)。
【0016】
第2の構成では、板部本体において、増肉領域がコーナーR部を介して他の領域と接続されている。すなわち、増肉領域と他の領域との境界に鋭利な角が存在せず、増肉領域が他の領域と緩やかに接続される。そのため、増肉領域と他の領域との境界で空気流が乱されにくくなり、鉄道車両の走行時に発生する空力騒音を低減することができる。
【0017】
第1又は第2の構成において、板部本体の板厚は、半径方向に沿って連続的に変化してもよい(第3の構成)。
【0018】
第3の構成では、板部本体の板厚が車輪の半径方向に沿って連続的に変化し、板部本体の全体にわたって板厚が急変する箇所が存在しない。そのため、鉄道車両の走行時に板部の周囲において空気流が乱れにくくなり、空力騒音を低減することができる。
【0019】
第1から第3の構成のいずれかにおいて、増肉領域の半径方向に沿う長さは、0.47X以上であってもよい(第4の構成)。
【0020】
第4の構成では、増肉領域の半径方向に沿う長さが0.47X以上確保される。これにより、板部を音源とする振動騒音がさらに減少しやすくなり、鉄道車両の走行時に車輪から発生する騒音をより効果的に低減することができる。
【0021】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0022】
[車輪の構成]
図1は、本実施形態に係る鉄道車両用の車輪100の縦断面図である。車輪100の縦断面とは、中心軸Aを含む車輪100の断面をいう。車輪100の縦断面は中心軸Aに対して対称であるため、
図1では、車輪100の縦断面のうち中心軸Aの片側のみを示す。本実施形態では、車輪100の中心軸Aが延びる方向を軸方向という。また、本実施形態では、車輪100の半径方向を単に半径方向ということがある。
【0023】
図1を参照して、車輪100は、ボス部10と、リム部20と、板部30とを備える。
【0024】
ボス部10は、車輪100の内周部を構成している。ボス部10は、中心軸Aを軸心とする筒状を有する。ボス部10には、鉄道車両の車軸(図示略)が挿入される。
【0025】
ボス部10は、内周面11と、端面121,122と、外周面13とを含んでいる。車輪100の縦断面で見て、内周面11は、軸方向に延びている。外周面13は、内周面11に対して半径方向外側に配置されている。端面121,122は、内周面11と外周面13とを接続している。
【0026】
リム部20は、半径方向においてボス部10の外側に配置されている。リム部20は、車輪100の外周部を構成する。リム部20は、外周面21と、側面221,222と、内周面23とを含んでいる。
【0027】
外周面21は、踏面211と、フランジ212の表面とを含む。踏面211は、鉄道車両が走行するレールの頭頂面に接触する面である。フランジ212の表面は、車輪100の軸方向において踏面211の一端に連続して設けられている。フランジ212は、踏面211から半径方向外側に突出している。フランジ212は、鉄道車両がレール上を走行するとき、軌道幅方向においてレールの内側に位置付けられる。以下、車輪100の軸方向においてよりフランジ212に近い側をフランジ側といい、軸方向においてよりフランジ212から遠い側を反フランジ側という。
【0028】
本実施形態の例において、リム部20は、ボス部10に対し、軌道幅方向において外側に位置付けられている。より詳細には、リム幅中央Crがボス幅中央Cbに対して反フランジ側に位置している。ただし、リム幅中央Crは、ボス幅中央Cbに対してフランジ側に配置されていてもよい。あるいは、リム幅中央Cr及びボス幅中央Cbの軸方向における位置が実質的に一致していてもよい。リム幅中央Crは、車輪100の軸方向におけるリム部20の中央である。ボス幅中央Cbは、車輪100の軸方向におけるボス部10の中央である。
【0029】
内周面23は、外周面21に対して半径方向内側に配置されている。側面221は、フランジ側で外周面21と内周面23とを接続する。側面222は、反フランジ側で外周面21と内周面23とを接続する。
【0030】
板部30は、ボス部10とリム部20との間に配置されている。板部30は、ボス部10とリム部20とを接続する。板部30は、ボス部10及びリム部20と一体的に形成されている。板部30は、環状であり、中心軸Aに対して対称(軸対称)の形状を有する。ボス部10及びリム部20も、中心軸Aに対して対称(軸対称)の形状を有する。すなわち、ボス部10、リム部20、及び板部30の半径方向に沿う断面の形状は、車輪100の全周にわたって一定である。
【0031】
板部30は、接続部31,32と、板部本体33とを含む。
【0032】
接続部31は、ボス部10に隣接する。接続部31は、ボス部10と板部本体33との間に配置されている。接続部31は、板部本体33をボス部10に接続する。車輪100の縦断面視で、接続部31は、ボス部10に向かって拡幅するように形成されている。言い換えると、接続部31の両側面311,312の軸方向における距離は、ボス部10側で大きく、板部本体33側で小さい。側面311,312は、車輪100の縦断面視で、例えば車輪100の内側に凹の曲線状を有する。側面311,312は、互いに軸方向に離隔しながらボス部10に向かって延在する。側面311,312は、ボス部10の表面に対して滑らかに接続される。接続部31は、板部30をボス部10に接続するフィレット部である。
【0033】
接続部32は、リム部20に隣接する。接続部32は、リム部20と板部本体33との間に配置されている。接続部32は、板部本体33をリム部20に接続する。車輪100の縦断面視で、接続部32は、リム部20に向かって拡幅するように形成されている。言い換えると、接続部32の両側面321,322の軸方向における距離は、リム部20側で大きく、板部本体33側で小さい。側面321,322は、車輪100の縦断面視で、例えば車輪100の内側に凹の曲線状を有する。側面321,322は、互いに軸方向に離隔しながらリム部20に向かって延在する。側面321,322は、リム部20の表面に対して滑らかに接続される。接続部32は、板部30をリム部20に接続するフィレット部である。
【0034】
板部本体33は、車輪100の縦断面で見て湾曲形状を有する。本実施形態において、板部本体33は、ボス部10側ではフランジ側に凸に湾曲し、リム部20側では反フランジ側に凸に湾曲している。ただし、板部本体33の湾曲形状は、本実施形態で示す例に限定されるものではない。
【0035】
板部本体33は、接続部31と接続部32との間に配置されている。板部本体33の側面331,332は、それぞれ、ボス部10側の接続部31の側面311,312に連続する。板部本体33の側面331,332は、それぞれ、リム部20側の接続部32の側面321,322にも連続している。板部本体33の側面331,332の少なくとも一方とボス部10側の接続部31の表面との間には変曲点が存在する。板部本体33の側面331,332の少なくとも一方とリム部20側の接続部32の表面との間にも変曲点が存在する。
【0036】
板部本体33は、増肉領域333を含む。増肉領域333は、板部本体33のうち、他の領域334と比較して板厚が大きい領域である。他の領域334は、増肉領域333の両側に設けられていてもよい。すなわち、板部本体33では、内周側及び外周側の領域の板厚よりも、これらの中間の領域の板厚が大きくなっていてもよい。他の領域334は、増肉領域333の内周側にのみ又は外周側にのみ設けられていてもよい。この場合、増肉領域333は、ボス部10側の接続部31及びリム部20側の接続部32のいずれかに隣接する。板部本体33の板厚とは、側面331又は側面332の法線方向に沿った側面331,332間の距離である。
【0037】
図2は、
図1に示す車輪100の板部30を拡大した図である。
図2を参照して、増肉領域333では、側面331,332のいずれか一方が板部本体33の外側に膨出している。言い換えると、車輪100の縦断面において側面331,332のいずれか一方と実質的に平行な仮想線VLを接続部31,32に連続するように引いたとき、増肉領域333では、側面331,332の他方が仮想線VLよりも外側に配置される。仮想線VLは、板部本体33の板厚が実質一定であると仮定したときの、車輪100の縦断面における板部本体33の輪郭線である。
図2では、板部本体33の反フランジ側の側面332に対して実質的に平行であって、接続部31,32の側面311,321に連続する仮想線VLを引いた例が示されている。
図2において、増肉領域333では、板部本体33のフランジ側の側面331が仮想線VLよりも外側に配置されている。本実施形態の場合、増肉領域333において、フランジ側の側面331は、反フランジ側の側面332と線対称ではない。本実施形態の例では、増肉領域333において、板部本体33の板厚方向外側に膨出する側面331が全体的に湾曲し、この側面331の曲率が他の側面332の曲率よりも大きい。これにより、増肉領域333では側面331,332が非線対称となり、且つ増肉領域333の板厚が他の領域334と比較して増加している。ただし、板部本体33には、フランジ側の側面331及び反フランジ側の側面332が実質的に対称になるように増肉領域333が設けられていてもよい。
【0038】
板部本体33は、増肉領域333において最大板厚tmaxを有し、他の領域334において最小板厚tminを有する。最小板厚tminを有する領域334は、増肉領域333の片側又は両側に存在する。最小板厚tminを有する領域334が増肉領域333の外周側に存在する場合、板部本体33は、リム部20側の接続部32との境界(変曲点)B2、又は境界B2よりもやや内周側で最小板厚tminを有することができる。最小板厚tminを有する領域334が増肉領域333の内周側に存在する場合、板部本体33は、ボス部10側の接続部31との境界(変曲点)B1、又は境界B1よりもやや外周側で最小板厚tminを有することができる。最大板厚tmaxと最小板厚tminとの差は、例えば3mm以上である。
【0039】
板部本体33に隣接する接続部31,32には、最小板厚tminの2倍の板厚t0を有する部分が存在する。接続部31の板厚は、側面311,312間の軸方向に沿う距離であり、接続部32の板厚は、側面321,322間の軸方向に沿う距離である。板部30について、接続部31のうち板部本体33の最小板厚tminの2倍の板厚t0を有する部分を内周端E1とし、接続部32のうち板部本体33の最小板厚tminの2倍の板厚t0を有する部分を外周端E2とする。そして、内周端E1から外周端E2までの半径方向に沿う距離を板部30の長さXと定義する。
【0040】
増肉領域333は、板部30の内周端E1から半径方向の外側に0.40X以上0.68X以下の位置で最大板厚tmaxを有する。例えば、板部本体33の側面331又は側面332が他の領域334と比較して増肉領域333において縦断面視で略円弧状に膨出している場合、この膨出部の頂点の位置での側面331,332間の法線方向距離が最大板厚tmaxとなり、膨出部の頂点が板部30の内周端E1から半径方向外側に0.40X以上0.68X以下の範囲に位置づけられる。例えば、車輪100の縦断面視において最大板厚tmaxを有する部分が板部本体33に沿って延在する区間である場合、当該区間の延在方向の中央が板部30の内周端E1から半径方向外側に0.40X以上0.68X以下の範囲に位置づけられる。増肉領域333は、板部30の内周端E1から半径方向の外側に0.50X以上の位置で最大板厚tmaxを有することが好ましく、0.60X以上の位置で最大板厚tmaxを有することがより好ましい。
【0041】
増肉領域333の半径方向に沿う長さYは、0.47X以上であることが好ましい。増肉領域333の長さYは、例えば0.90X以下である。増肉領域333の長さYは、板部本体33のうち、側面331又は側面332が仮想線VLよりも外側に位置している部分の半径方向に沿う長さである。板部本体33において、増肉領域333の基部には、他の領域334に連続するコーナーR部335が設けられることが好ましい。
図2に示す例では、板部本体33の一方の側面331において、仮想線VLから膨出している部分の根元にコーナーR部335が設けられている。コーナーR部335は、増肉領域333の両側の基部に設けられていてもよいし、片側の基部に設けられていてもよい。
【0042】
上述した通り、板部本体33には増肉領域333が設けられている。そのため、板部本体33の板厚は全体にわたって一定ではない。板部本体33の板厚は、車輪100の半径方向に沿って変化する。板部本体33の板厚は、車輪100の半径方向に沿って連続的に変化することが好ましい。板部本体33の板厚を連続的に変化させるため、板部本体33の側面331,332を実質的に角が視認されない、滑らかな形状とすることができる。より具体的には、例えば、側面331,332がそれぞれ複数種類の曲線を含む場合、隣り合う曲線間の曲率半径の変化率を1500%以下とすることができる。これにより、側面331,332が滑らかな形状となり、板部本体33の板厚を連続的に変化させることができる。側面331,332が直線を含む場合は、その直線が隣接する曲線の接線となっていることが好ましい。
【0043】
[効果]
本実施形態に係る車輪100では、板部本体33が部分的に増肉されることにより、主たる騒音源である板部30の剛性が従来の車輪よりも高められている。より詳細には、板部本体33に増肉領域333を設けるとともに、板部30の半径方向に沿う長さをXとし、板部30のボス部10側の端(内周端)E1を0、板部30のリム部20側の端(外周端)E2を1として、0.40X以上0.68X以下の位置で板部本体33が最大板厚tmaxを有する。これにより、鉄道車両の走行時における板部30の振動が抑制されやすくなり、板部30を音源とする振動騒音(転動音)が減少する。したがって、鉄道車両の走行時に車輪100から発生する騒音を効果的に低減することができる。
【0044】
本実施形態において、増肉領域333の半径方向に沿う長さYは、0.47X以上であることが好ましい。これにより、板部30を音源とする振動騒音がさらに減少し、鉄道車両の走行時に車輪100から発生する騒音をより効果的に低減することができる。
【0045】
本実施形態では、板部本体33に特定の位置で最大板厚tmaxを持たせることにより板部30の剛性を効率よく高め、鉄道車両の走行時に車輪100から発生する騒音を低減している。そのため、騒音の低減を目的として車輪100に他の部品を付加する必要はない。すなわち、本実施形態に係る車輪100によれば、付加部品を使用することなく、鉄道車両の走行時に騒音を効果的に低減することができる。このような車輪100は、例えば、鍛造、鋳造、又は鍛造品若しくは鋳造品の機械加工(削り出し)等によって製造することができる。車輪100の材質は、炭素鋼であることが好ましい。
【0046】
本実施形態において、板部本体33は車輪100の縦断面視で湾曲形状を有している。この場合、車輪100がレールの曲線区間を通過する際の板部30の剛性を確保することができる。
【0047】
本実施形態では、板部本体33の増肉領域333がコーナーR部335を介して他の領域334と接続されている。すなわち、増肉領域333と他の領域334との境界に鋭利な角が存在せず、増肉領域333が他の領域334と緩やかに接続される。そのため、増肉領域333の周囲において空気流が乱されにくくなり、鉄道車両の走行時に発生する空力騒音を低減することができる。
【0048】
本実施形態において、板部本体33の板厚は、車輪100の半径方向に沿って連続的に変化することが好ましい。すなわち、板部本体33の全体にわたり、板厚が急変する箇所が存在しないことが好ましい。これにより、鉄道車両の走行時に板部30の周囲において空気流が乱れにくくなり、空力騒音を低減することができる。
【0049】
例えば、増肉領域333を車輪100の縦断面視で矩形状とする場合、板部本体33に機械加工を施して増肉領域333を形成する必要がある。しかしながら、板部本体33の板厚を車輪100の半径方向に沿って連続的に変化させ、増肉領域333を緩やかな形状とする場合、例えば鍛造により、板部本体33に増肉領域333を含む車輪100を製造することができる。この場合、増肉領域333のための機械加工が不要となるため、車輪100の製造コストを低減することができる。
【0050】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例0051】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
本開示による効果を確認するため、汎用の構造解析ソフトウェアを用いて有限要素法による解析を実施し、車輪の静粛性を評価した。本解析では、360°車輪モデルの踏面にレール反力を想定した力を負荷し、その際の振動に対する応答性を静粛性として評価した。静粛性の評価には、以下の式で求められる等価放射パワー(ERP)を使用した。
【0053】
【0054】
上記式において、ΔSiは車輪表面の要素面積であり、Vniはその面の法線方向の振動速度である。cは、大気の条件等によって決定される係数である。ERPが大きいほど、音を放射する能力が高いことを示す。
【0055】
図3、
図4、及び
図5は、それぞれ、比較例1、比較例2、及び比較例3に係る車輪の外形を示す図である。
図3に示す比較例1では、板部本体33の板厚が全体にわたって略一定となっている。比較例1の板部本体33には、増肉領域333(
図1及び
図2)は存在しない。比較例1においては、車輪の縦断面視で、板部本体33の全体にわたって側面331,332が実質的に線対称となっている。
【0056】
図4に示す比較例2は、特許文献1の
図2(a)に示される車輪に対応する。
図4に示すように、特許文献1では、ボス部10の反フランジ側の端面122における直線部の板部30側の端から、リム部20の反フランジ側の側面222における直線部の板部30側の端までの半径方向に沿う長さを板部30の長さLとし、このLを基準に増肉領域(剛性増加部)333の位置を決定している。比較例2では、特許文献1の
図2(a)と同様に、増肉領域333を板部30の周方向に連続させて環状とし、増肉領域333の内周縁をボス部10から外周側に2L/3(0.67L)の位置に配置した。増肉領域333の外周縁は、内周縁から外周側に30.0mmの位置に配置した。
【0057】
図5に示す比較例3は、特許文献1の
図2(b)に示される車輪に対応する。比較例3では、特許文献1の
図2(b)と同様に、増肉領域333の内周縁をボス部10から外周側にL/3(0.33L)の位置に配置し、増肉領域333の外周縁をボス部10から外周側に2L/3(0.67L)の位置に配置した。比較例3では、特許文献1の
図2(b)と同様、車輪の円周方向に沿って3つの増肉領域333を等間隔で配置した。
【0058】
図6~
図11は、それぞれ、実施例1~実施例6に係る車輪の外形を示す図である。実施例1~実施例6の車輪の重量は同一とした。実施例1~実施例3では、増肉領域333の長さYが共通であるが、板部本体33の最大板厚t
maxの位置が互いに異なる。実施例4~実施例6では、板部本体33の最大板厚t
maxの位置が共通であるが、増肉領域333の長さYが互いに異なる。実施例1~実施例6のそれぞれにおいて、板部本体33の最大板厚t
maxの位置は、板部本体33の一方の側面331に設けられた膨出部の頂点の位置であり、最大板厚t
maxは、この頂点から他方の側面332までの当該頂点の接線に対して垂直な方向(法線方向)に沿った長さである。
【0059】
各車輪の条件を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1では、各比較例及び各実施例について、板部30の全周波数のエネルギー量の総和(O.A.ERPレベル)を比較例1に対する差分で示している。O.A.ERPレベルの値が正であれば、板部30の静粛性が比較例1よりも向上したことを意味し、O.A.ERPレベルの値が負であれば、板部30の静粛性が比較例1よりも低下したことを意味する。比較例2及び比較例3の増肉領域333の長さYについては、実施例1~6と同様にしてXの値を求め、これを用いて算出した。
【0062】
表1に示すように、実施例1~実施例6では、板部30の半径方向に沿う長さXに対し、板部30の内周端E1から外周側に0.40倍以上0.68倍以下の位置で板部本体33が最大板厚tmaxを有する。実施例1~実施例6のいずれにおいても、板部30の静粛性は比較例1に対して向上した。比較例2も板部30の静粛性が比較例1に対して向上したが、静粛性向上の効果の程度は実施例1~実施例6よりも小さかった。比較例3については、板部30の静粛性が比較例1よりも低下した。
【0063】
したがって、板部本体33の全周にわたって増肉領域333を設けた場合であって、増肉領域333の最大板厚tmaxが板部30の内周端E1から外周側に0.40X以上0.68X以下の位置にあるときは、鉄道車両の走行時において板部30を音源とする騒音が効果的に低減され、従来よりも良好な静粛性を実現できるといえる。
【0064】
実施例4~実施例6は、板部本体33の最大板厚tmaxの位置において実施例2と同一であり、増肉領域333の長さYにおいて実施例2と異なる。増肉領域333の長さYに基づく効果を検証するため、実施例2と実施例4~実施例6とを比較した。
【0065】
実施例2及び実施例4~実施例6における車輪の重量は同一であり、実施例2における増肉領域333の長さYは実施例4~実施例6における増肉領域333の長さYよりも広い。そのため、実施例2では、半径方向に沿った板部本体33の板厚の変化が実施例4~6と比べて緩やかである。表1に示すように、実施例2では、実施例4~実施例6よりも板部30の静粛性が向上した。
【0066】
したがって、増肉領域333の長さYを広く確保することにより、板部30を音源とする騒音が低減されやすくなり、車輪の静粛性がより向上するといえる。実施例2の結果より、増肉領域333の長さYは0.47X以上であることが好ましい。