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特開2024-10753プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法
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  • 特開-プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法 図1
  • 特開-プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法 図2
  • 特開-プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法 図3
  • 特開-プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010753
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システム及び吸着パッド位置調整方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B25J15/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112225
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(72)【発明者】
【氏名】井坂 浩二
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707AS23
3C707BS10
3C707FS01
3C707FT02
3C707FT06
3C707FT11
3C707FT16
3C707MT10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】1つのワーク搬送装置で複数の形状のワーク搬送が確実に行え、高速搬送できるよう軽量なワーク搬送装置を提供するため、ワーク搬送装置の可動部分に駆動装置を設けず、ブレーキ装置のみ配置して、外部から吸着パッド位置を効率よく調整するシステムを提供する。
【解決手段】吸着パッドの位置を可動に構成した吸着パッド支持装置を複数備えた、プレス装置用ワーク搬送装置1の吸着パッド位置調整システムであって、複数の吸着パッド支持装置の各可動部分にはブレーキ装置を備え、ワーク搬送装置を把持・搬送できる搬送ロボット2と、床面に間接的に固定された、吸着パッドと係合可能な拘束ドグ3と、拘束ドグに近接して吸着パッドの位置確認用レーザーセンサーとを備え、更に前記ロボットの姿勢を制御して、予め記憶した位置・姿勢にワーク搬送装置を移動する位置制御装置と各ブレーキ装置と拘束ドグの作動を制御する制御装置を備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着パッドの位置を可動に構成した吸着パッド支持装置を複数備えた、プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システムであって、
前記複数の吸着パッド支持装置の各可動部分にはブレーキ装置を備え、
前記プレス装置用ワーク搬送装置を把持・搬送できる搬送ロボットと、
床面に間接的に固定された、前記吸着パッドと係合可能な拘束ドグと、当該拘束ドグに近接して前記吸着パッドの位置確認用レーザーセンサーとを備え、
更に前記ロボットの姿勢を制御して、予め記憶した位置・姿勢に前記ワーク搬送装置を移動する位置制御装置と、前記各ブレーキ装置と前記拘束ドグの作動を制御する制御装置を備えたことを特徴とする、
吸着パッド位置調整システム。
【請求項2】
吸着パッドの位置を可動に構成した吸着パッド支持装置を複数備えた、プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整方法であって、
前記位置制御装置の信号により前記搬送ロボットで把持した前記ワーク搬送装置を搬送し、前記吸着パッドを前記拘束ドグに近接させ、前記位置確認用レーザーセンサーにより前記吸着パッドの位置を確認する位置確認工程と、
前記位置制御装置の信号により前記拘束ドグを前記吸着パッドに進入させ、次いで吸着させる進入吸着工程と、
前記制御装置の信号により前記吸着パッド支持装置の各可動部分のブレーキ装置を開放し、前記位置制御装置の信号により前記搬送ロボットの姿勢を予め記憶した姿勢に移動し、前記吸着パッド位置を調整するパッド調整工程と、
前記制御装置の信号により前記各可動部分のブレーキ装置を再びロックし前記吸着パッドの位置を固定して、前記吸着パッドの前記拘束ドグへの吸着を開放する調整終了工程と、
を備えたことを特徴とする、
吸着パッド位置調整方法。
【請求項3】
前記拘束ドグは前記吸着パッドを吸着させる吸着スライド板と、先端から負圧を供給可能な調整ピンを先端に有することを特徴とする、
請求項1に記載の吸着パッド位置調整システム。
【請求項4】
前記吸着パッドは2以上の蛇腹部を有する吸着パッドであることを特徴とする、
請求項1または請求項3に記載の吸着パッド位置調整システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の形状のワークに対応できるよう吸着パッド位置を可動に構成したワーク搬送装置の、吸着パッド位置を調整するシステム及び吸着パッド位置を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体を構成するドア、フッドなどのパネル材のワークの成形を行うプレスラインにおいては、プレス装置で成型されたワーク成形品を次のプレス装置に搬送するために、先端部にワーク搬送装置を装着したワーク搬送ロボットやマテハンが用いられる。ワーク搬送ロボットやマテハンはプレス装置の作動に同期してワークを搬送するよう構成されており、先端部に装着したワーク搬送装置によりワークの着脱を行う。ワーク搬送装置は、アームの先端に吸着パッドなどを備えたワークの着脱を行うワーク把持部を備えている。そしてワークを搬送する際には、ワーク搬送ロボットやマテハンが、ワーク搬送装置をワーク取り出し位置に移動し、このワーク搬送装置がプレス装置からワークを吸引把持して次のプレス装置へと搬送する。
【0003】
このようなワーク搬送装置で搬送されるドア、フッドなどのワークの形状は、単純な板状ではなく3次元状に湾曲した複雑な立体形状である。そのためワークを搬送する際にはワークの形状に合わせてアームの形状や吸着パッドの位置等を調整した専用のワーク搬送装置が通常用いられる。一般的にプレス工場では多くの機種の部品を作っているため、機種変更に対応してワークの形状も変更となり、機種変更する毎に異なったワークの形状に対応した、図8の写真に示すような専用のワーク搬送装置が必要となる。
【0004】
従って従来は、新たな機種の部品が発生して異なった形状のワークが発生する毎に、吸着可能な平面部分に合わせた吸着パッドの配置や個数、吸着パッドを支持するアームの配置・角度、更にはプレス金型との干渉の有無やロボットの可搬重量なども考慮して、新たなワーク形状に対応した、新たなワーク搬送装置の再設計・再製作を行っている。
【0005】
また、ワークが多機種にわたると、プレス金型の増加に加えてワーク搬送装置の数も増え続け、これら保管場所の確保や維持管理の工数・費用が問題となっている。加えて、プレス工程における生産機種変更により、搬送するワークが変更になる度に、作業者が該当するワーク搬送装置を格納場所から選びだしてワーク搬送装置の交換を行わなければならない。このため、この交換作業に工数と時間を要し生産性を低下させる要因となっている。
【0006】
一方多機種のワークに対応させるためワーク搬送装置の吸着パッドの平面・高さの配置などを可変にするよう構成すると、一般に重量が重くなり汎用の搬送ロボットでは高速に搬送できなくなってしまうという問題があった。また装置の全高が高くなり、金型の開口高さが限定される場合は装置を搬入できないという問題があった。
【0007】
このような背景から特許文献1に示すような、複数種類のワークに対応しワーク保持部の位置を調整可能に構成したワーク搬送装置用の自動段取替制御機構が提案されている。ワーク搬送装置のワーク保持部には自律して動作する駆動機構を設けず、生産機種変更時には図9に示す自動段取替装置によりワーク保持部位置を調整する構成としている。ワーク搬送装置自体に駆動機構を設けない構成のため、ワーク搬送装置は軽量コンパクトな構成となっている。
【0008】
しかし特許文献1提案の装置では専用の自動段取替装置の製作が必要であり、またこの装置はすべてのワーク保持部の調整に対応した位置調整機構が複数設けられており、大掛かりな装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2-298487公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、1つのワーク搬送装置で複数の形状のワーク搬送が確実に行え、一般的な搬送ロボットで高速搬送できるよう軽量で、かつ多様な金型に対応できる全高が低くコンパクトな汎用のワーク搬送装置を提供すること。そして生産機種変更のためのワーク搬送装置の調整を簡易な装置・システムで実現できるようにすること。
それによって機種ごとのワーク搬送装置製作に要するコストを低減し、ワーク搬送装置格納場所・維持管理コストの節減を図り、かつ生産性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、吸着パッドの位置を可動に構成した吸着パッド支持装置を複数備えた、プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整システムであって、前記複数の吸着パッド支持装置の各可動部分にはブレーキ装置を備え、前記プレス装置用ワーク搬送装置を把持・搬送できる搬送ロボットと、床面に間接的に固定された、前記吸着パッドと係合可能な拘束ドグと、当該拘束ドグに近接して前記吸着パッドの位置確認用レーザーセンサーとを備え、更に前記ロボットの姿勢を制御して、予め記憶した位置・姿勢に前記ワーク搬送装置を移動する位置制御装置と、前記各ブレーキ装置と前記拘束ドグの作動を制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項1記載の発明によれば、拘束ドグで任意のワーク搬送装置の吸着パッドを拘束・固定し、予め記憶した位置・姿勢に前記ワーク搬送装置を移動することができるので、任意の位置に吸着パッドを素早く移動することが出来る。また吸着パッド移動完了後は可動部分に備えたブレーキ装置により強固に吸着パッド位置を固定し、次のワークの搬送作業を行うことができる。
【0013】
またワーク搬送装置の吸着パッド支持装置の可動部分に駆動装置を設けることなく、ブレーキ装置のみ備えることで様々なワークに対応できるので、ワーク搬送装置がコンパクト軽量に構成できる。このためワーク搬送ロボットでワーク搬送装置を高速で搬送可能となり、また金型の開口が制限される場合でもワーク搬送装置をプレス装置へ挿入することが出来る。
【0014】
加えて吸着パッド支持装置にブレーキ装置を加え、拘束ドグを追加するだけで、汎用の搬送ロボットで吸着パッド位置が調整できるので、大掛かりな装置が不要となり設備費用が低減できる。
【0015】
請求項2に係る発明は、吸着パッドの位置を可動に構成した吸着パッド支持装置を複数備えた、プレス装置用ワーク搬送装置の吸着パッド位置調整方法であって、前記位置制御装置の信号により前記搬送ロボットで把持した前記ワーク搬送装置を搬送し、前記吸着パッドを前記拘束ドグに近接させ、前記位置確認用レーザーセンサーにより前記吸着パッドの位置を確認する位置確認工程と、前記位置制御装置の信号により前記拘束ドグを前記吸着パッドに進入させ、次いで吸着させる進入吸着工程と、前記制御装置の信号により前記吸着パッド支持装置の各可動部分のブレーキ装置を開放し、前記位置制御装置の信号により前記搬送ロボットの姿勢を予め記憶した姿勢に移動し、前記吸着パッド位置を調整するパッド調整工程と、前記制御装置の信号により前記各可動部分のブレーキ装置を再びロックし前記吸着パッドの位置を固定して、前記吸着パッドの前記拘束ドグへの吸着を開放する調整終了工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の方法によれば、位置確認用レーザーセンサーにより吸着パッドと拘束ドグの相対位置を確認してから両者を進入・吸着させるので、確実に係合を行うことができる。また汎用の搬送ロボットの動作により吸着パッド位置を調整するので専用の装置を製作する必要がなく、設備費用を低減できまた装置製作に要する期間も短縮できる。その他必要な装置は拘束ドグと制御装置等であり簡易な設備で実現できる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1の構成に加えて、前記拘束ドグは前記吸着パッドを吸着させる吸着スライド板と、先端から負圧を供給可能な調整ピンを先端に有することを特徴とする、
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、拘束ドグの調整ピンの先端から負圧を吸着パッド内に導入し、拘束ドグの吸着スライド板で吸着パッドを吸着できるので、確実に拘束ドグと吸着パッドの係合を行うことが出来る。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項3の構成に加え、前記吸着パッドは2以上の蛇腹部を有する吸着パッドであることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の構成によれば、吸着パッドが2以上の蛇腹部を有し緩衝性に優れているので、第1の利点としてワークの吸着面が傾斜している場合でも垂直方向から吸着パッド当接させて吸着が可能である。蛇腹部を有しない通常の吸着パッドを用いる場合、許容角度が小さいためスイベルジョイントを用いるなどしてワークの傾斜を吸収する必要がある。それに対し2以上の蛇腹部を有する吸着パッドを用いた場合は、ワークの傾斜が約25度の範囲内であれば、蛇腹部がワークの傾斜を吸着してくれるので、ワークに傾斜がある場合でも吸着パッドを垂直方向に固定配置して確実にワークを吸着することができる。
【0021】
また蛇腹部が衝撃を吸収してくれるので、ワークに打痕を生じやすい薄板ワークの場合でも、比較的早い速度でワークへ当接し、吸着・搬送作業を行ってもワークに打痕等を生ずることがない。
【発明の効果】
【0022】
本ワーク搬送装置を用いることにより複数の形状のワーク搬送を確実に行うことが出来る。また本ワーク搬送装置は軽量・コンパクトに構成されているので一般的な搬送装置や搬送ロボットで高速搬送でき、かつ全高が低く構成されているので金型の開口高さが限定される場合でも適用可能である。そして生産機種変更のためのワーク搬送装置の調整を簡易な装置・システムで実現できる。
【0023】
これらの効果に加えて機種ごとのワーク搬送装置製作に要するコストを低減し、ワーク搬送装置格納場所・維持管理コストの節減を図り、ワーク搬送装置の交換が不要になるので生産性の向上を図ること可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る吸着パッド位置調整システムの側面図である。
図2】本実施形態に係る吸着パッド位置調整システムの(a)平面図、(b)正面図である。
図3】本実施形態に係る吸着パッド拘束ドグの正面図である。
図4】本実施形態において、拘束ドグのレーザーセンサーで吸着パッドの位置を確認している状態(a)、吸着パッド位置正常を確認し、吸着パッドを進入させ拘束ドグに密着した状態(b)、拘束ドグを吸着作動させて吸着パッドを拘束した状態(c)、を示す。
図5】本実施形態に係るワーク搬送装置の(a)平面図、(b)側面図である。
図6】本実施形態に係るワーク搬送装置のエアー配管のシステム図である。
図7】本実施形態に係る吸着パッド位置調整システムの作動フローを示す。
図8】従来のプレス装置用ワーク搬送装置がワークを搬送している写真である。
図9】特開平2-298487公報第6図の自動段取替装置である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。尚、以下の実施形態の説明は、本質的な例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
(ワーク搬送装置の構成)
まず本実施形態のプレス装置用ワーク搬送装置の構成について説明する。本実施形態のワーク搬送装置1は、図5に示すように、ワーク搬送ロボット(図示しない)と結合するジョイント装置23(ATC装置)を配置する中心部分の骨格の両側に、対象に長方形のメインフレーム22が2個構成されている。そして各長方形のメインフレーム22の頂点付近にブラケットを介して吸着パッド支持装置30が各4個配置されている。
【0027】
本実施形態のワーク搬送装置1は、左右のドアの金型を対象に配置し、ワンショットで左右のドアパネルを一度に成型する金型に用いられるもので、ワーク搬送装置1も各ワークに対応してジョイント装置23を中心に左右対称に設けられている。
【0028】
このような左右対称にワーク搬送装置を配置することにより、左右一対のドアパネルなどを効率的に搬送することが可能になると共にジョイント部分にかかるトルクや応力を低減することが可能となる。
【0029】
各ワークに対応した吸着パッド支持装置30の個数は4つに限定されるものではないが、ドアパネル搬送用としては、重量バランスが安定し、吸着が確実に行われること、かつ最小限の吸着パッド支持装置の構成でコストダウンを図るという意味から4個の構成を用いている。4個の吸着パッド支持装置30を確実に支持するため各メインフレーム22の頂点付近にブラケット38を介して吸着パッド支持装置30を支持している。
【0030】
なおメインフレーム22の材質としては軽量化とコストダウンのため汎用のアルミフレームを用いている。また各ブラケット類は軽量化のためすべてアルミで構成している。アルミフレームとブラケット類との固定をはじめ、各種部材の固定にはボルト・ナットによる締結等の一般の固定方法を用いている。
【0031】
まずCAD等を用いて対象とする各ワークについて、吸着パッドがワークをバランスよく把持出来て、かつワークの把持部位に凹凸が少なく把持に適した部位4点を選定する。生産している各ワークの多種類の形状データを参照してなるべく多数のワークが安定して把持できる吸着パッドの相対的位置関係を検討する。本実施形態で対象とするワークは自動車用ドアのインナーパネルである。インナーパネルは凹凸や穴部分が多いため吸着パッドを確実に吸着できる平面部分が限られている。
【0032】
前記検討の結果、4つの吸着パッドの可動範囲をできる限り広くしなければ多くの機種のインナーパネルを確実に吸着できるワーク搬送装置は実現できないことが明らかになった。
【0033】
以上の検討から以下のような構成を考案するに至った。すなわち、円弧状部材31を使った回転移動、第1摺動装置33と摺動レール34を用いた水平移動、第2摺動装置と支持レール36を用いた垂直移動、これら3つの移動を組み合わせ、吸着パッドの広い可動範囲を獲得することに成功した。
【0034】
また摺動による移動の代わりに1自由度回転移動を用いることで隣り合った吸着パッド支持装置の摺動レールの干渉を回避し、また装置全体をコンパクト・軽量に構成することを可能にした。
【0035】
更に各吸着パッド支持装置は前記3つの可動部分に位置調整のための駆動装置を敢えて設けず、各々ブレーキ装置のみ配している。この構成によりによりワーク搬送装置全体の全高を抑えコンパクトに構成し、また全体の重量も低減することが可能となった。これにより搬送ロボットで高速で搬送できる許容重量内にワーク搬送装置全体の重量を収めると共に、金型の開口が制限されたプレス装置であっても吸着パッド支持装置を搬入することが可能になった。
【0036】
なお外部の調整装置等で吸着パッドの位置を調整可能であり、調整後はブレーキ装置でその位置を強固に固定することができる。
【0037】
(吸着パッド支持装置の構成・作動)
以下吸着パッド支持装置の構成・作動を図5図6を用いて説明する。
ワーク搬送装置のジョイント装置23の両側に各々4つ配置された吸着パッド支持装置30の基本構成はほぼ同等である。メインフレーム22に固着されたブラケット38に支点32が設けられ、支点32に回動自在に円弧状部材31が設けられている。ブラケット38にはブレーキ装置A26も設けられ、吸着パッド位置の調整時を除いて、円弧状部材31の回動をロックするために用いられる。
【0038】
円弧状部材31と一体として回動するよう当該部材に第1摺動装置が固着され、摺動レールが摺動把持されている。この構成により摺動レールの可動範囲を半径方向の可動範囲とし、円弧状部材31の可動範囲を角度方向の可動範囲とした扇型の可動範囲が吸着パッドの水平方向の可動範囲として得られる。この第1摺動装置にはブレーキ装置B27が設けられ、吸着パッド位置の調整時を除いて、摺動レール33の摺動をロックするために用いられる。
【0039】
次に摺動レール34の端部に第2摺動装置35が固着され支持レール36が垂直方向に摺動把持されている。そして支持レール36の下端に吸着パッド21が固着されている。この構成により前述した扇型の可動範囲に支持レールの垂直方向の可動範囲が吸着パッド21の可動範囲として加わる。またこの第2摺動装置35にはブレーキ装置C28が設けられ、吸着パッド位置の調整時を除いて、支持レール36の摺動をロックするために用いられる。
【0040】
また隣り合った吸着パッド支持装置30の摺動レール34の干渉を避けるため、対角に配置された吸着パッド支持装置を同一グループとして、4つの吸着パッド支持装置を2グループに分け、互いに摺動レール34の高さが異なるよう高さを調整した構成としている。この構成により、干渉を考慮することなく吸着パッド位置の調整を行うことが出来る。
【0041】
図6に各吸着パッド支持装置30の3つの可動部分に設けられたブレーキ装置26、27、28とブレーキ装置に工場エアーを供給するエアー配管25、各エアー配管に工場エアーを供給するエアターミナル24を図5に示す。エアターミナル24に接合した搬送ロボット(図示しない)側のターミナル側から工場エアーが供給され、各ブレーキ装置にエアー配管25で分配して工場エアーが供給されるよう構成されている。
【0042】
図6に示すように各ブレーキ装置には電磁弁が備えられ、制御装置(図示しない)による制御信号によって開閉が制御されるようになっている。ブレーキ装置を解除して吸着パッド位置を調整するときのみ電磁弁を開作動にしてブレーキ装置を開放し、それ以外のブレーキ装置をロックするときは電磁弁を閉作動にする。
【0043】
第1摺動装置33、第2摺動装置35には本実施形態ではコンパクトで軽量なイグス社製ドライリンT ガイドキャリッジ TW-01を用いている。またブレーキ装置A26、ブレーキ装置B27そしてブレーキ装置C28には同じくコンパクトで軽量なNBK社製リニアクランパーMKSL-1501-AS1を用いている。
【0044】
また吸着パッド21には本実施形態ではシュマルツ社製2.5段ベローズ真空パッドSPB2を用いている。蛇腹部(ベローズ)が2.5段構成されていることにより、吸着パッドが優れた緩衝性能を有している。この特性により吸着パッド下面が当接するワークの面と平行でない場合でも角度を吸収して吸着が可能である。蛇腹部を有しない通常の吸着パッドを用いる場合、吸着パッド下面とワーク面の許容角度が小さいため、吸着パッドの設置角度を調整する必要がある。しかし2以上の蛇腹部を有する吸着パッドを用いた場合は蛇腹部の効果で吸着パッド下面に対しワークの傾斜が約25度まで許容して確実に吸着することができるので吸着パッドを通常の垂直配置することができる。これによりワーク搬送装置の汎用性をさらに高めることができる。
【0045】
また蛇腹部が優れた緩衝性を有しているので、ワークが打痕を生じやすい薄板の場合であっても、ワークに打痕を生ずることがなくより早い速度でワークへ当接し、吸着・搬送作業を行うことができる。
【0046】
(吸着パッド位置調整システムの構成)
吸着パッド支持装置の可動部分には自律的な駆動源を設けず、ブレーキ装置のみ配置して軽量コンパクトなワーク搬送装置を構成するのが本願のポイントである。吸着パッドの位置調整については外部の吸着パッド位置調整システムで行う。以下その構成・作動について説明する。
【0047】
図2の左方向にはプレスラインが配置されている。前機種のプレス作業が終了するとワーク搬送装置1はプレスライン入口に配置されたワーク搬送ロボット(図示しない)のジョイント装置との拘束を解除され、搬送装置交換台6に載置される。ワーク搬送装置1はプレスライン1ライン当たり2つ配置され、搬送装置交換台6には2つのワーク搬送装置1が載置できるよう構成されている。
【0048】
1つのワーク搬送装置がプレスラインでワーク搬送を行っている間に、もう1つのワーク搬送装置の吸着パッド位置調整を行う設定となっている。ライン稼働率を上げるための設定である。
【0049】
なお機種ごとに吸着に適切な吸着パッドの3次元での設定位置は、予め特定されて搬送ロボットの位置制御装置(図示しない)に記憶されている。この機種ごとに吸着に適切な吸着パッドのワーク搬送装置上の相対的位置をパッドポイントと呼ぶことにする。
【0050】
また図1に示すように搬送ロボット2が把持したワーク搬送装置1をハンドリングし易い位置に拘束ドグ3が配置されている。拘束ドグ3は調整ピン13が搬送ロボット2の方向に水平方向を向く姿勢で、床面に固定された拘束ドグスタンド5の上端に固着されている。
【0051】
図3に示すように拘束ドグ3は外部から導入した負圧で吸着パッドを拘束する構成となっている。すなわち真空ポート接手20にエアー(負圧)配管が接続され、調整ピン13の内部に形成された通路を通して、先端部の真空ポート14に負圧が供給される。調整ピン13に外挿して円形の吸着スライド板11が設けられている。吸着スライド板11は、同じく調整ピン13に外挿されたスプリング15によって調整ピン13の基端部の方向に付勢されている。吸着スライド板11に吸着パッド21が密着した状態で真空ポート14に負圧が供給されると、スプリング15のばね力に抗して吸着パッド21が収縮し吸着スライド板11が吸着パッド21の方向へ吸引される構成となっている。
【0052】
また拘束ドグ3の基端部側に対称に2個吸着パッド位置確認用のレーザーセンサー7が配設されている。
【0053】
また図6に吸着パッド支持装置30と拘束ドグ3のエアー配管のシステム図を示す。工場エアーが各々制御信号により制御された電磁弁42を通して各吸着パッド支持装置のブレーキ配管、そして拘束ドグのバキューム配管及び真空破壊配管に供給されている。
【0054】
図6を使ってエアー配管について説明する。ブレーキ配管には各吸着パッド支持装置30の各ブレーキ装置A26、ブレーキ装置B27そしてブレーキ装置C28の駆動源としての工場エアーを供給している。各ブレーキ装置はブレーキパッドをレールの両側から挟み込むようにして制動力を発生するよう構成されており、ブレーキの作動/非作動を、エアーの入力のOFF/ONで切り替えるように構成されている。すなわち制御信号により電磁弁が閉じエアーの入力が遮断されると、ブレーキが作動するよう構成されている。
【0055】
拘束ドグ3のバキューム配管では工場エアーがエジェクター41に供給されることにより負圧が発生する。吸着作動時は制御信号により電磁弁が開きエジェクターが作動することにより負圧が発生し、バキューム配管を通して拘束ドグ3に負圧が供給され、吸着パッド21を拘束する。また逆に吸着パッド21を開放する際は、制御信号により真空破壊配管の電磁弁が開き正圧を拘束ドグ3に供給し開放作動する
【0056】
(吸着パッド位置調整システムの作動)
前機種のプレス作業を終え搬送装置交換台6に載置されたワーク搬送装置1を対象に吸着パッドの位置調整作業が開始される。吸着パッドの位置調整作業を図7の作動フローに従って説明する。
【0057】
まず搬送ロボット2がワーク搬送装置1を搬送装置交換台6からジョイント装置23を結合して搬出する。
【0058】
次いで搬送ロボット2は位置制御装置の指示に従い、ワーク搬送装置1をハンドリングして最初に位置調整する吸着パッド21を拘束ドグスタンド5の上端に固着された拘束ドグ3に調整ピン13の方向から近接させる。
【0059】
図4(a)に示すように所定の位置で吸着パッド21は一旦停止し、拘束ドグ3の両脇に設けられたレーザーセンサー7で、吸着パッド21位置が拘束ドグ3に対し適切な否かが判断される。
【0060】
万一、位置が不適切の場合、異常停止アラームが発報され、作業員により吸着パッド21位置を適切な位置へと調整が行われる。ここまでの工程が位置確認工程である。
【0061】
位置が適切な場合はワーク搬送装置1が図4(b)に示すように吸着パッド21を更に拘束ドグ3を接近作動させて、調整ピン13が吸着パッド21内に進入し、吸着パッド21が吸着スライド板11に密着した状態で停止する。
【0062】
吸着パッド21が吸着スライド板11に密着した状態で、制御装置の指示により拘束ドグ3のエアー配管の電磁弁42を開いてエジェクター41を作動させ負圧を発生させる。図3に示すようにエジェクター41で発生した負圧は、拘束ドグ3真空ポート接手20から調整ピン13の内部を通ってピン先端の真空ポート14から吸着パッド21内に導入される。吸着スライド板11が吸着パッド21により吸着され図4(c)に示す状態になる。その過程でエアー配管に設置された真空スイッチ(図示しない)で真空度が確認され、所定の真空度に達してない場合は、異常停止アラームを発報する。作業員により吸着パットの拘束状態の確認、吸着パット消耗検査等が行われ、必要に応じ吸着パッドの調整や吸着パットのメンテナンス等が実行される。位置確認工程が完了してから、ここまでの工程が進入吸着工程である。
【0063】
所定の真空度が得られると、床面に間接的に固定された拘束ドグ3が吸着パッド21を拘束した状態になる。次いで制御装置の指示により吸着パッド支持装置30の可動部分に設けられている3つのブレーキ装置A26、ブレーキ装置B27、ブレーキ装置C28のエアー配管の電磁弁が開けられ、ブレーキが開放され吸着パッド位置が調整可能な状態になる。
【0064】
次いで位置制御装置の指示に従い、搬送ロボット2のハンドリングでワーク搬送装置1の位置・姿勢を調整し、次機種のパッドポイントに吸着パッド21が配置されるように吸着パッド支持装置30の姿勢を調整する。進入吸着工程が完了してから、ここまでの工程がパッド調整工程である。
【0065】
各機種に対応した各吸着パッド21のパッドポイントに関する情報は、予め搬送ロボット2の位置制御装置にインプットされており、生産機種に関する情報が与えられると自動的に搬送ロボット2がその機種のパッドポイントに関する情報を参照し搬送ロボット2の位置・姿勢を調整する。
【0066】
吸着パッド21の位置調整が完了すると、制御装置の指示により吸着パッド支持装置30の3つのブレーキ装置A26、ブレーキ装置B27、ブレーキ装置C28のエアー配管の電磁弁を閉じることよりブレーキをロックし、吸着パッド支持装置30の姿勢を固定する。
【0067】
次いで制御装置の指示により拘束ドグ3の真空破壊配管の電磁弁が開き、正圧が吸着パッド3に供給され拘束ドグ3の拘束が解除される。パッド調整工程が完了してから、ここまでの工程が調整終了工程である。
【0068】
一連の工程により最初の吸着パッド位置の調整作業が完了し、位置制御装置の指示によりワーク搬送装置1は次に位置調整を行う吸着パッド位置の調整作業に着手し、本実施形態では8つの吸着パッド支持装置の吸着パッドについてこの作業を繰り返す。
【0069】
以上のような吸着パッド位置調整システムによれば、ワーク搬送装置の吸着パッド支持装置の可動部分に駆動装置を設けることなく、ブレーキ装置のみ備えることで様々なワークに対応できるので、ワーク搬送装置がコンパクト軽量に構成できる。このためワーク搬送ロボットでワーク搬送装置を高速で搬送可能となり、また金型の開口が制限される場合でもワーク搬送装置をプレス装置へ挿入することが出来る。
【0070】
加えて吸着パッド支持装置にブレーキ装置を加え、拘束ドグを追加するだけで、汎用の搬送ロボットで吸着パッド位置が調整できるので、大掛かりな装置が不要となり設備費用が低減できる。
【符号の説明】
【0071】
1 ワーク搬送装置
2 搬送ロボット
3 拘束ドグ
4 ロボット台座
5 拘束ドグスタンド
6 搬送装置交換台
7 レーザーセンサー
11 吸着スライド板
13 調整ピン
14 真空ポート
15 スプリング
16 上部Оリング
17 下部Оリング
18 ブッシュ
19 ベアリング
20 真空ポート接手
21 吸着パッド
22 メインフレーム
23 ジョイント装置
24 エアターミナル
25 エアー配管
26 ブレーキ装置A
27 ブレーキ装置B
28 ブレーキ装置C
30 吸着パッド支持装置
31 円弧状部材
32 支点
33 第1摺動装置
34 摺動レール
35 第2摺動装置
36 支持レール
38 ブラケット
41 エジェクター
42 電磁弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9