(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107543
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】流体予測装置、及びそれを用いた回転電機システム
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
H02K9/19 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011521
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 友博
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP07
5H609QQ05
5H609QQ08
5H609SS21
5H609SS23
(57)【要約】
【課題】予測モデルの構築に係る労力を低減しつつ、回転電機システム等の電動駆動系内の冷却用の流体の状態を適切に予測する。
【解決手段】機械学習を適用して学習されており、電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして電動駆動系の各部位に供給される流体の状態を予測する流体予測学習モデルを用いて電動駆動系の各部位に供給される流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測して出力する流体予測装置とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機を含む電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、
機械学習を適用して学習されており、前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の状態を予測する流体予測学習モデルを用いて前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測して出力することを特徴とする流体予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体予測装置であって、
前記流体予測学習モデルは、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部に供給される前記流体の経路及び流量を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を出力するように機械学習されていることを特徴とする流体予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体予測装置であって、
前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の実機での実測値又はシミュレーションで求めた値を用いることを特徴とする流体予測装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の流体予測装置であって、
前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を示す画像データを含むことを特徴とする流体予測装置。
【請求項5】
請求項1に記載の流体予測装置であって、
前記状態量は、前記回転電機の回転速度、前記回転電機のステータコイルのコイルエンドの温度、前記流体の温度、雰囲気温度、車速、車両加速度、路面勾配、冷却油の制御弁の操作量又は開閉状態の少なくとも1つを含むことを特徴とする流体予測装置。
【請求項6】
請求項1に記載の流体予測装置であって、
前記入力データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測した値を示す画像データを含むことを特徴とする流体予測装置。
【請求項7】
請求項4又は6に記載の流体予測装置であって、
前記画像データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を数値、明度、色の濃度、色分けのいずれか1つによって示していることを特徴とする流体予測装置。
【請求項8】
請求項1に記載の流体予測装置であって、
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを用いて行われていることを特徴とする流体予測装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、
機械学習を適用して学習されており、前記流体予測学習モデルから出力された前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを含む前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位の温度を予測する温度予測学習モデルを用いて、
前記流体予測学習モデルの学習時に、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部の温度を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、前記温度予測学習モデルに当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位の温度を出力するように機械学習されていることを特徴とする流体予測装置。
【請求項10】
請求項1に記載の流体予測装置を用いて、運転中の前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測し、予測された前記流体の経路及び流量に応じて前記電動駆動系の前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを制御することを特徴とする回転電機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体予測装置、及びそれを用いた回転電機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機を構成するステータ及びロータの温度が限界温度を超えた状態において運転を続けるとロータコア永久磁石の減磁が生じて出力トルクが低下するおそれがあり、回転電機の温度を適切に制御することが必要である。
【0003】
例えば、モータジェネレータが収容されるハウジングに供給油路と排出油路とを接続し、供給油路には電動オイルポンプによって冷却油を供給し、また、排出油路には可変絞り弁を設けて冷却油の排出流量を調整する。モータジェネレータの予測発熱量が小さい場合には、供給流量と排出流量とを減少側に制御して油面高さを保ちつつ冷却油の循環流量を引き下げ、モータジェネレータの予測発熱量が大きい場合には、供給流量と排出流量とを増加側に制御することによって油面高さを保ちつつ冷却油の循環流量を引き上げる。これにより、消費エネルギーを抑制しつつモータジェネレータを冷却する構成が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、モータジェネレータの冷却において油面の高さを制御し、モータジェネレータを冷却油に浸し続ける構成としている。しかしながら、モータジェネレータの内部に流れる冷却油の状態を十分に把握することはできず、装置の下部に溜めた冷却油の高さの制御だけではモータジェネレータの高温箇所を適切に冷却することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、回転電機を含む電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、機械学習を適用して学習されており、前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の状態を予測する流体予測学習モデルを用いて前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測して出力することを特徴とする流体予測装置である。
【0007】
ここで、前記流体予測学習モデルは、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部に供給される前記流体の経路及び流量を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を出力するように機械学習されていることが好適である。
【0008】
また、前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の実機での実測値又はシミュレーションで求めた値を用いることが好適である。
【0009】
また、前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を示す画像データを含むことが好適である。
【0010】
また、前記状態量は、前記回転電機の回転速度、前記回転電機のステータコイルのコイルエンドの温度、前記流体の温度、雰囲気温度、車速、車両加速度、路面勾配、冷却油の制御弁の操作量又は開閉状態の少なくとも1つを含むことが好適である。
【0011】
また、前記入力データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測した値を示す画像データを含むことが好適である。
【0012】
また、前記画像データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を数値、明度、色の濃度、色分けのいずれか1つによって示していることが好適である。
【0013】
また、前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを用いて行われていることが好適である。
【0014】
また、上記電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、機械学習を適用して学習されており、前記流体予測学習モデルから出力された前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを含む前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位の温度を予測する温度予測学習モデルを用いて、前記流体予測学習モデルの学習時に、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部の温度を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、前記温度予測学習モデルに当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位の温度を出力するように機械学習されていることが好適である。
【0015】
また、上記流体予測装置を用いて、運転中の前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測し、予測された前記流体の経路及び流量に応じて前記電動駆動系の前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを制御することが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、予測モデルの構築に係る労力を低減しつつ、回転電機システム等の電動駆動系内の冷却用の流体の状態を適切に予測することが可能となる。また、電動駆動系内の冷却用の流体の状態を適切に予測することで、電動駆動系の内部の温度分布の予測精度が向上し、駆動系の冷却の制御を適切に行うことが可能になり、熱負荷による駆動系の損傷を抑制することができる。また、冷却用の流体の流路や流量を適切に制御できることで、流体の引き摺り損失を低減でき、回転電気システムの効率を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態における回転電機システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における回転電機を搭載した車両の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における温度予測装置の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における深層学習モデルの構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における深層学習モデルに含まれるCNNモデルを説明する図である。
【
図6】本発明の実施の形態における入力画像データとなる電動駆動系の構成図の例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における電動駆動系の状態量を示す入力画像データの例を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態における冷却油の供給状態を示す入力画像データの例を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態における冷却油の供給状態を示す入力画像データの例を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態における学習モデルの学習処理を説明する図である。
【
図11】本発明の実施の形態における学習モデルを用いて予測した流体の経路及び流量の出力例を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態における学習モデルの別例の学習処理を説明する図である。
【
図13】本発明の実施の形態における電動駆動系の流体の制御のフローチャートを示す図である。
【
図14】本発明の実施の形態における電動駆動系の流体の制御の別例のフローチャートを示す図である。
【
図15】本発明の実施の形態における冷却油の供給制御を行うための回転電機システムの構成を示す図である。
【
図16】本発明の実施の形態における冷却油の供給制御を行うための回転電機システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態における回転電機システム100は、
図1に示すように、ロータ10、シャフト12、ステータ14、ベアリング16、ケーシング18、インバータ20、バッテリー22、制御部24、オイルポンプ26、モータ28及びオイルパン29を含んで構成される。ロータ10、シャフト12、ステータ14、ベアリング16、ケーシング18は、回転電機101を構成する。
【0019】
図2は、回転電機101を搭載した車両200の例を示す。車両200は、動力源である回転電機101から出力された動力を変速機102、デファレンシャルギア104及びドライブシャフト106を介して駆動輪(タイヤ)108に伝達させて走行する。
【0020】
なお、回転電機101、変速機102、デファレンシャルギア104を含む構成を電動駆動系と呼称する。ただし、電動駆動系は、回転電機101を含めばよく、他の構成を含むものとしてもよい。以下、主として回転電機101を対象として温度の予測及び温度の予測結果に基づく制御について説明するが、電動駆動系に含まれる他の構成についても同様に適用することができる。
【0021】
ロータ10は、回転電機101において回転運動する部分である。ロータ10は、ロータコア永久磁石10a及びロータコア電磁鋼鈑10bを含んで構成される。シャフト12は、ロータ10と共に回転するように接続される。シャフト12は、ロータ10から出力される回転トルクを回転電機101の外部へ伝達するために使用される。ステータ14は、回転電機101においてロータ10に対して相対的に静止している部分である。ステータ14は、ステータコイル14a及びステータコア電磁鋼鈑14bを含んで構成される。ロータ10、シャフト12及びステータ14は、ケーシング18内に収容される。シャフト12とケーシング18の間にはベアリング16が配置され、シャフト12と共にロータ10が滑らかに回転することができる。
【0022】
バッテリー22から供給された電力は、インバータ20によって電圧や周波数が調整されて回転電機101のステータコイル14aに流れる電流が制御される。インバータ20によって適切に制御された電流がステータコイル14aに流れると、ステータ14に回転磁界が作られる。当該回転磁界とロータコア永久磁石10aの磁気相互作用によってロータ10に回転トルクが発生してロータ10が回転運動させられる。
【0023】
制御部24は、車載コンピュータとも呼ばれ、情報を処理する演算装置や情報を記憶する記憶装置等を含んで構成される。制御部24は、運転者によって操作されたアクセルペダル操作量や車速等の情報に基づき、回転電機101への要求トルクを算出する。そして、制御部24は、要求トルクに応じてステータコイル14aに流す電流を制御するようにインバータ20に指令を出す。
【0024】
ステータコイル14aに電流が流れると電力の一部が損失になってステータコイル14aが発熱する。また、ロータ10が回転するとロータコア電磁鋼鈑10bに渦電流が流れて発熱する。これらの発熱によって加熱された回転電機101を冷却するため、冷却油がオイルポンプ26から供給される。オイルポンプ26は、モータ28によって駆動される。ロータ10及びステータ14から熱を奪った冷却油はオイルパン29に戻されて外気に熱を放出して冷却される。外気との熱交換の効率を上げるためにラジエータ(図示せず)を用いてもよい。また、冷却油の熱を他の構成、例えばバッテリー22等を加熱するために用いる構成としてもよい。なお、冷却油は、潤滑油としての機能も担っており、ベアリング16等の摺動部の動きを滑らかにする。
【0025】
ここで、電動駆動系の運用において、回転電機101の温度を適切な範囲に制御することが極めて重要である。ロータ10内に配置されたロータコア永久磁石10aの温度が許容値を超えると、その後にロータコア永久磁石10aが冷却されて温度が戻っても磁力が戻らない不可逆減磁が発生するおそれがある。不可逆減磁が生じると、回転電機101が出力可能なトルクの上限値が低下し、回転電機101の性能が低下する。また、ステータコイル14aにおいても許容値を超えるまで高温になると絶縁被膜が破壊されて短絡(ショート)が発生する等、電動駆動系全体に損傷を招くおそれがある。
【0026】
[流体予測装置]
以下、回転電機101を含む電動駆動系の各部位に流れる冷却油の経路及び流量を予測するための流体予測装置300について説明する。流体予測装置300は、
図3に示すように、処理部30、記憶部32、入力部34、出力部36及び通信部38を含んで構成することができる。
【0027】
処理部30は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部30は、流体予測学習モデル及び温度予測学習モデルを構築する処理を行う。流体予測学習モデル及び温度予測学習モデルは、深層学習を用いた機械学習によって行われる。処理部30は、電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量を予測するための機械学習を行うと共に、機械学習された流体予測学習モデルを用いて電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量を予測する。また、処理部30は、電動駆動系の各部位の温度を予測するための機械学習を行うと共に、機械学習された温度予測学習モデルを用いて電動駆動系の各部の温度予測を行う。記憶部32は、半導体メモリやメモリカード等の記憶手段を含む。記憶部32は、処理部30とアクセス可能に接続され、流体予測学習モデル及び温度予測学習モデル並びに当該モデルにおいて学習されたパラメータ、並びに、流体予測装置300における処理に必要なその他の情報を記憶する。入力部34は、情報を入力する手段を含む。入力部34は、例えば、管理者からの入力を受けるキーボード、タッチパネル、ボタン等を備える。出力部36は、処理結果を出力する手段を含む。出力部36は、例えば、ユーザインターフェース画面(UI)等の処理結果を出力するディスプレイを備える。通信部38は、インターネット、LAN等の情報通信網を介して、外部の装置との通信を行うインターフェースを含んで構成される。通信部38による通信は有線及び無線を問わない。
【0028】
図4は、流体予測装置300に適用される流体予測学習モデルを示す概念図である。また、
図4は、流体予測装置300における温度予測学習モデルにも同様に適用することができる。電動駆動系の流体の予測を行う流体予測学習モデル及び温度分布を予測する温度予測学習モデルには、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を含む深層学習モデルを適用することが好適である。
【0029】
CNNは、静止画像や動画の認識、物体検出等の幅広い分野で用いられている。CNNは、画像等の入力データ内の各点の値だけでなく、着目している点の位置情報も活用することによって、従来の深層学習モデルよりも効率的に特徴を抽出する。これによって、CNNは、画像認識等に適用した場合の正解率が高いという特徴を有する。CNNを含む深層学習モデルは、例えば、Yann LeCun, Patrick Haffner, Leon Bottou and Yoshua Bengio,“Object Recognition with Gradient-Based Learning“, Shape, Contour and Grouping in Computer Vision, pp. 319-345,1999.に開示されている。
【0030】
図5は、CNNモデルの概要を示す。
図5において、CNNモデルは、左端の入力層から右端の出力層までの複数の層によって構成されている。縦x及び横yの画素数の画像データをチャネル数z1の枚数組み合わせた入力画像データをCNNモデルに入力すると、畳み込み処理によって当該入力画像データは縦横方向には圧縮(縮小)されて入力画像データ内の情報が徐々に集約される。
図5のCNNモデルの例では、入力画像データが縦横方向にそれぞれ1/8まで圧縮される。なお、その際にチャネル数はz2→z3→z4と変更されるが、これは畳み込みの処理を行うカーネルの数に等しい。その後、逆畳み込み処理によってチャネル数がz5→z6→z7と変更されつつ、縦横方向の情報が復元されて、最後に入力画像データと縦横方向の画素数が等しい出力画像データが出力される。この出力画像データの各画素の情報が電動駆動系の内部の各部位における流体が流れる経路や流量、若しくは各部位の温度の予測値である。なお、チャネル数が1チャネルならモノクロ画像であり、3チャネルならカラー画像となる。温度の高低は、各チャネルにおける画素の濃淡又は明度によって表現される。CNNの層数や、圧縮後の画像を1/8まで小さくすることに限定する必要はない(CNNをさらに多層化してもよい。圧縮後の画像が元画像の1/2でも1/16でもその時の都合に合わせて設定すればよい)。
【0031】
電動駆動系の各部位における流体が流れる経路や流量及び各部位の温度分布を予測する場合、CNNモデルを含む学習モデルを用いた深層学習の技術を活用する。深層学習では、学習モデルの学習段階において、電動駆動系の状態を示す入力データに対して当該状態における電動駆動系の各部位における流体が流れる経路や流量及び各部位の温度分布の実測値や数値流体解析等のシミュレーション結果を教師データ(正解データ又は真値)として組み合わせた教師付学習データを学習モデルに入力し、学習モデルからの出力(予測)値が教師データに近づくように学習を行う。教師付学習データを変更しつつ学習を進めることによって、学習モデルから出力される電動駆動系の各部位における流体の経路や流量、電動駆動系の各部位における温度の予測値と真値である教師データの差が小さくなるように学習モデル内のパラメータが自動的に修正され予測値の正解率が改善される。
【0032】
このように、機械学習によって学習モデルを学習させることによって、回路モデルなどを構築したり、モデルのパラメータの値を試行錯誤して決定したりすることなく、電動駆動系の各部位における流体の経路や流量及び電動駆動系の各部位における温度を予測することが可能になる。
【0033】
本実施の形態では、CNNモデルに入力する入力画像データとして電動駆動系の内部構造を示す構成図を利用する。
図6は、電動駆動系に含まれる回転電機101の内部構成の例を示す。
図6(a)は、
図6(b)のラインB-Bに沿って、回転電機101を回転軸に対して垂直な面で切断したときの断面図を示す。
図6(b)は、
図6(a)のラインA-Aに沿って、回転電機101を回転軸に平行な方向に沿って切断したときの断面図を示す。なお、電動駆動系の構成図としては、例えば、電動駆動系の設計において作成したCADデータを利用することが可能である。
【0034】
CNNモデルでは、入力画像データとして電動駆動系の部位毎に数値を割り当てた構成図、又は、色分けや濃淡を施した構成図を利用することができる。各部位に数値を割り当てた構成図、又は、明度(濃淡)、色の濃度、色彩(色分け)の少なくとも1つを施した構成図を利用することで、CNNモデルが各部位の熱抵抗や熱容量等の特性が異なることを機械学習により自動的に認識し、各部位の特性に応じた流体の経路や流量、各部位の温度の予測値を導き出すことができる。
【0035】
なお、本実施の形態において、部位とは、部品又はその一部をいい、例えば、電動駆動系が回転電機101である場合には、ロータ10、シャフト12、ステータ14等の部品単位としてもよく、また、ロータコア永久磁石10a、ロータコア電磁鋼鈑10b等、より小さな単位であってもよいし、例えば、ロータコア永久磁石10aの中央、ステータ14の中央(ステータ中央)、ステータコイル14aのコイルエンド等さらに小さな単位であってもよい。各部位について、どのように区分するかは、目的に応じて適宜設計すればよい。さらに、本実施の形態において、部位とは、部品又はその一部を複数組み合わせた部分としてもよい。例えば、ロータコア永久磁石10aとロータコア電磁鋼鈑10bとを組み合わせて1つの部位として扱ってもよいし、ロータコア永久磁石10aとロータコア電磁鋼鈑10bの一部を組み合わせて1つの部位として扱ってもよい。
【0036】
CNNモデルに入力する学習データとして、電動駆動系の運転状態を示す状態量として、ロータ10の回転速度、回転電機システム100の出力トルク、回転電機システム100の入力電圧、回転電機システム100の入力電流、回転電機システム100の入力電流密度、ステータコイル14aのコイルエンドの温度、冷却油の油温、雰囲気温度(外気温)、車速、車両加速度、路面勾配、流体の流路に設けられた弁の操作量や開閉状態等が挙げられる。これらの状態量は、電動駆動系にこれらの状態量を計測するための各種センサを設けることで収集することができる。さらに、直接計測することができなくても、上記状態量の情報から回転電機システム100の内部の銅損や鉄損を求めることもできる。
【0037】
電動駆動系の各部位の流体の経路及び流量を予測する場合、ロータ10の回転速度、ステータコイル14aのコイルエンドの温度、冷却油の油温、雰囲気温度(外気温)、車速、車両加速度、路面勾配、流体の流路に設けられた弁の操作量や開閉状態の少なくとも1つを学習データとして利用することが好適である。
【0038】
電動駆動系の各部位の温度を予測する場合、ロータ10の回転速度、回転電機システム100の出力トルク、回転電機システム100の入力電圧、回転電機システム100の入力電流、回転電機システム100の入力電流密度、ステータコイル14aのコイルエンドの温度、冷却油の油温、雰囲気温度(外気温)、車速、車両加速度、路面勾配、流体の流路に設けられた弁の操作量や開閉状態の少なくとも1つとして利用することが好適である。
【0039】
これらの状態量の情報は、電動駆動系の各部位の温度を予測する際に重要な情報となるので学習モデルに与えることが好適である。ただし、上記状態量のすべてを学習モデルに入力する必要はなく、学習後の学習モデルから出力される予測値の確度に応じて取捨選択して利用してもよい。
【0040】
これらの状態量の情報は、電動駆動系の構成図において各部位の状態量を示す画像データとしてCNNモデルに入力することが好適である。
図7は、これらの状態量を示す入力画像データの例を示す。
図7に示すように、各状態量の値は、電動駆動系の全体の明度によって各状態量の値を示すようにすればよい。すなわち、
図7(a)に示すように、電動駆動系の構成図の全体の明度が高いほど状態量の値が小さく、
図7(b)及び
図7(c)のように、電動駆動系の構成図の全体の明度が低くなるほど状態量の値が大きいことを示すようにすればよい。また、明度に代えて、色の濃淡によって状態量の値を示すようにしてもよい。すなわち、色が薄いほど状態量の値が小さく、色が濃くなるほど状態量の値が大きいことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と状態量との関係は逆にしてもよい。
【0041】
ただし、明度又は色の濃淡で表すことに限定されるものではなく、電動駆動系の構成図において各状態量の値を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において状態量の数値を割り当てたり、状態量に応じて色彩で色分けしたりすることによって各状態量の値を表してもよい。
【0042】
また、電動駆動系の内部において冷却油が流体として循環している。電動駆動系のどの部位にどれだけの流量の冷却油が流体として供給されているかは、流体の吹き出し口や流体を送り出すポンプの吐出量から電動駆動系の設計者や利用者等によって大凡の値は推定することができる。そこで、これを冷却用の流体の流体予測学習モデルへの入力画像データとして利用することが好適である。
【0043】
図8は、シャフト12の軸心からロータ10の側面に冷却油を供給したときの入力画像データの例を示す。また、
図9は、ステータ14の中央及び上部に冷却油を供給したときの入力画像データの例を示す。
図8及び
図9では、冷却油が供給されている部位にハッチングを施して示しているが、これに代えて又は併せて、部位の明度又は色によって冷却油が供給されている部位と供給されていない部位とを区別できるようにしてもよい。また、冷却油の流量は、明度や色の濃淡等によって表現すればよい。例えば、明度が高いほど部位への冷却油の流量が少なく、明度が低いほど部位への冷却油の流量が多いことを示すようにすればよい。また、例えば、色が薄いほど部位への冷却油の流量が少なく、色が濃いほど部位への冷却油の流量が多いことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と冷却油の流量の関係は逆にしてもよい。
【0044】
ただし、冷却油の流量は、部位の明度又は色の濃淡で表すことに限定されるものではなく、電動駆動系の構成図において冷却油の流量を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において数値を割り当てたり、色彩で色分けしたりすることによって冷却油の流量を表してもよい。
【0045】
また、本実施の形態では、電動駆動系の運転時における状態量を入力画像データでCNNモデルに入力する構成としたが、CNNモデルと他のニューラルネットワークを組み合わせた学習モデルとした場合、電動駆動系の運転状態を示す状態量をCNNモデル以外のニューラルネットワークへ数値で入力するようにしてもよい。
【0046】
このような電動駆動系の状態量を示す入力データに対して、電動駆動系の各部位の流体の経路及び流量の実測値又は数値流体解析等のシミュレーション結果を教師データとして組み合わせて教師付学習データとする。教師データは、電動駆動系の内部における冷却用の流体の流れ方や掛かり具合を記録した静止画又は動画の画像データを活用することができる。また、数値流体力学(Computational Fluid Dynamic)の解析から得られた電動駆動系の内部における冷却用の流体の流れ方や掛かり具合を求めた静止画又は動画の画像データを活用することができる。
【0047】
電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の実測値は、電動駆動系の構成図において各部位の流体の経路及び流量を示す画像データとすることが好適である。流体の経路は、電動駆動系の構成図における位置で表現すればよい。また、流体の流量は、電動駆動系の構成図における明度や色の濃淡等によって表現すればよい。例えば、明度が高いほどその部位の流量が多く、明度が低いほどその部位の流量が少ないことを示すようにすればよい。また、例えば、色が薄いほどその部位の流量が少なく、色が濃いほどその部位の流量が多いことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と温度との関係は逆にしてもよい。
【0048】
ただし、明度又は色の濃淡で表すことに限定されるものではなく、電動駆動系の構成図において流量を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において数値を割り当ててもよいし、色彩によって色分けすることによって流量を表してもよい。
【0049】
そして、当該教師付学習データを流体予測学習モデルに入力し、流体予測学習モデルからの出力される流体の経路及び流量の予測値が教師データに近づくように学習を行う。
【0050】
図10は、流体予測学習モデルの構成例を示す図である。電動駆動系の運転時における状態量を入力画像データ40、設計者や利用者等によって作成された冷却用の流体の経路及び流量の入力画像データ42が流体予測学習モデル44に入力される。流体予測学習モデル44からは冷却用の流体の経路及び流量の予測値を示す予測画像データ46が出力される。出力された流体の経路及び流量の予測画像データ46と教師データである流体の経路及び流量の画像データ48との差分が誤差情報として流体予測学習モデル44にフィードバックされる。流体予測学習モデル44では、誤差情報を受けて、誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)等の機械学習方法によって流体の経路及び流量の予測値が教師データに近づくように学習を行う。
【0051】
機械学習された流体予測学習モデルによって電動駆動系内部の各部位における流体の経路及び流量を予測する場合、予測を行う運転状態にある電動駆動系の状態量を入力画像データ40、設計者や利用者等によって作成された冷却用の流体の経路及び流量の入力画像データ42を学習後の流体予測学習モデルに入力する。これによって、当該運転状態における電動駆動系の各部位の流体の経路及び流量の予測結果が流体予測学習モデルから出力される。
【0052】
図11は、電動駆動系における冷却用の流体の経路及び流量の予測結果の例を示す。
図11において、電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量が画像の濃淡として出力される。すなわち、流体の流量は、電動駆動系の構成図における明度や色の濃淡等によって表現される。また、明度が高いほどその部位の流量が多く、明度が低いほどその部位の流量が少ないことを示す。
【0053】
また、例えば、色が薄いほどその部位の流量が少なく、色が濃いほどその部位の流量が多いことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と温度との関係は逆にしてもよい。さらに、電動駆動系の構成図において経路や流量を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において各部位に数値を割り当てて示してもよいし、色彩によって色分けすることによって各部位の流量を表してもよい。
【0054】
以上のように、本実施の形態における流量予測学習モデルを利用した流量予測装置によって、回転電機システム等の電動駆動系内の冷却用の流体の状態を適切に予測することが可能となる。
【0055】
[流量予測装置の別例]
図12は、流量予測装置に適用される学習モデルの別例を示す。当該学習モデルは、流体予測学習モデル44と温度予測学習モデル52を組み合わせて構成される。
【0056】
温度予測学習モデル52は、流体予測学習モデル44と同様に、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を含む深層学習モデルを適用することができる。温度予測学習モデル52では、学習モデルの学習段階において、電動駆動系の状態を示す入力データに対して当該状態における電動駆動系の各部位における温度分布の実測値や数値流体解析等のシミュレーション結果を教師データ(正解データ又は真値)として組み合わせた教師付学習データを学習モデルに入力し、学習モデルからの出力(予測)値が教師データに近づくように学習を行う。教師付学習データを変更しつつ学習を進めることによって、学習モデルから出力される電動駆動系の各部位における温度の予測値と真値である教師データの差が小さくなるように学習モデル内のパラメータが自動的に修正され予測値の正解率が改善される。
【0057】
温度予測学習モデル52のCNNモデルに入力する学習用の入力データ50として、電動駆動系の運転状態を示す状態量として、ロータ10の回転速度、回転電機システム100の出力トルク、回転電機システム100の入力電圧、回転電機システム100の入力電流、回転電機システム100の入力電流密度、ステータコイル14aのコイルエンドの温度、冷却油の油温、雰囲気温度(外気温)、車速、車両加速度、路面勾配、流体の流路に設けられた弁の操作量や開閉状態等が挙げられる。これらの状態量は、電動駆動系にこれらの状態量を計測するための各種センサを設けることで収集することができる。さらに、直接計測することができなくても、上記状態量の情報から回転電機システム100の内部の銅損や鉄損を求めることもできる。
【0058】
ただし、上記状態量のすべてを学習モデルに入力する必要はなく、学習後の学習モデルから出力される予測値の確度に応じて取捨選択して利用してもよい。
【0059】
これらの状態量の情報は、電動駆動系の構成図において各部位の状態量を示す画像データとしてCNNモデルに入力することが好適である。各状態量の値は、流体予測学習モデル44の場合と同様に、電動駆動系の全体の明度によって各状態量の値を示すようにすればよい。また、明度に代えて、色の濃淡によって状態量の値を示すようにしてもよい。すなわち、色が薄いほど状態量の値が小さく、色が濃くなるほど状態量の値が大きいことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と状態量との関係は逆にしてもよい。ただし、明度又は色の濃淡で表すことに限定されるものではなく、電動駆動系の構成図において各状態量の値を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において状態量の数値を割り当てたり、状態量に応じて色彩によって色分けしたりすることによって各状態量の値を表してもよい。
【0060】
温度予測学習モデル52には、さらに流体予測学習モデル44から出力される電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の予測画像データ46が入力データとして入力される。電動駆動系の各部位への冷却油の供給具合は、電動駆動系の各部位の温度を予測する際に重要な情報となるので、流体予測学習モデル44から出力された冷却油の供給の経路や流量を示す予測画像データ46を入力画像データとして温度予測学習モデル52に与える。
【0061】
このような、電動駆動系への冷却油の供給状態及び電動駆動系の運転状態を示す状態量を示す入力データに対して電動駆動系の各部位の温度の実測値や数値流体解析等のシミュレーションの結果を教師データとして組み合わせて教師付学習データとする。そして、当該教師付学習データを温度予測学習モデル52に入力し、温度予測学習モデル52からの出力される温度の予測値が教師データに近づくように学習を行う。
【0062】
電動駆動系の各部位の温度の実測値や数値流体解析等のシミュレーションの結果は、電動駆動系の構成図において各部位の温度を示す画像データ56とすることが好適である。温度は、明度や色の濃淡等によって表現すればよい。例えば、明度が高いほど部位の温度が高く、明度が低いほど部位の温度が低いことを示すようにすればよい。また、例えば、色が薄いほど部位の温度が低く、色が濃いほど部位の温度が高いことを示すようにしてもよい。なお、明度や色の濃淡と温度との関係は逆にしてもよい。
【0063】
ただし、明度又は色の濃淡で表すことに限定されるものではなく、電動駆動系の構成図において温度を表すことができるものであればよい。例えば、電動駆動系の構成図において色彩によって色分けによって温度を表してもよい。
【0064】
そして、当該教師付学習データを温度予測学習モデル52に入力し、温度予測学習モデル52からの出力される電動駆動系の各部位の温度の予測値が教師データに近づくように温度予測学習モデル52及び流体予測学習モデル44の学習を行う。
【0065】
具体的には、電動駆動系の運転時における状態量を入力画像データ40、設計者や利用者等によって作成された冷却用の流体の経路及び流量の入力画像データ42が流体予測学習モデル44に入力される。流体予測学習モデル44からは冷却用の流体の経路及び流量の予測値を示す予測画像データ46が出力される。さらに、電動駆動系の運転時における状態量を入力データ50、流体予測学習モデル44で予測された冷却用の流体の経路及び流量の予測画像データ46が温度予測学習モデル52に入力される。温度予測学習モデル52からは電動駆動系の各部位の温度の予測値を示す予測画像データ54が出力される。出力された電動駆動系の各部位の温度の予測画像データ54と教師データである電動駆動系の各部位の温度の画像データ56との差分が誤差情報として流体予測学習モデル44及び温度予測学習モデル52にフィードバックされる。流体予測学習モデル44及び温度予測学習モデル52では、誤差情報を受けて、誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)等の機械学習方法によって電動駆動系の各部位の温度の予測値が教師データに近づくように学習を行う。
【0066】
このとき、流体予測学習モデル44による電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の予測値が実際の値に近づくほど、温度予測学習モデル52による電動駆動系の各部の温度分布の予測も実際の温度分布との誤差が小さくなると推察される。したがって、流体予測学習モデル44と温度予測学習モデル52とを組み合わせることによって、電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の予測を適切に行えるように流体予測学習モデル44を学習させることができる。
【0067】
温度予測学習モデル52によって、電動駆動系内部の各部位の温度を連続的な数値データとして予測する回帰問題として予測することができる。また、温度を低温から高温までの幾つかのクラスに分け、着目している部位の温度がどのクラスに属するかを予測するクラス分類問題として予測することもできる。
【0068】
また、本実施の形態では、電動駆動系の運転時における状態量を入力画像データでCNNモデルに入力する構成としたが、CNNモデルと他のニューラルネットワークを組み合わせた学習モデルとした場合、電動駆動系の運転状態を示す状態量をCNNモデル以外のニューラルネットワークへ数値で入力するようにしてもよい。
【0069】
なお、電動駆動系の各部位における温度の分布の実測やシミュレーションは、電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の実測やシミュレーションより容易である。したがって、流体予測学習モデル44と温度予測学習モデル52とを組み合わせた学習モデルを用いることによって、機械学習に用いられる教師データをより容易に準備することが可能である。
【0070】
また、流体予測学習モデル44と組み合わせる学習モデルは、温度予測学習モデル52に限定されるものではなく、冷却用の流体の状態と関連がある状態量に関する学習モデルであればよい。特に、教師データとする真値の計測やシミュレーションが容易な状態量を予測する学習モデルを適用することが好適である。
【0071】
また、本実施の形態では、流体予測学習モデル44によって電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量の両方を予測する態様について説明したが、流体の経路及び流量の一方のみを予測するようにしてもよい。
【0072】
[流体の状態予測に基づく電動駆動系の流体の制御]
図13は、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部における冷却用の流体の経路及び流量を予測した結果に基づき、電動駆動系の流体を制御するフローチャートを示す。
【0073】
ステップS10では、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部における冷却用の流体の経路及び流量を予測するために必要なデータが取得される。各種のセンサによって、ロータ10の回転速度、回転電機システム100の出力トルク、回転電機システム100の入力電圧、回転電機システム100の入力電流、回転電機システム100の入力電流密度、ステータコイル14aのコイルエンドの温度、冷却油の油温、雰囲気温度(外気温)、車速、車両加速度、路面勾配、流体の流路に設けられた弁の操作量や開閉状態等の必要なデータが取得される。
【0074】
ステップS12では、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部位における経路及び流量が予測される。すなわち、ステップS10において取得された電動駆動系の状態量を入力データとして、流体予測装置300の学習済みの学習モデルに当該入力データを入力することによって、流体予測装置300から電動駆動系の各部位における経路及び流量の予測結果が出力される。
【0075】
ステップS14では、予測された流体の流量qpredと、電動駆動系における流体の流量の設定値qsetとの差分値を求め、当該差分値が予め設定された閾値ε1未満であるか否かが判定される。設定値qsetは、電動駆動系の各部位における流体の流量の適量値に予め設定すればよい。設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε1未満の場合、流体の流量が多すぎると判断してステップS16に処理を移行させる。設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε1以上の場合、流体の流量が少なすぎると判断してステップS18に処理を移行させる。閾値ε1は、制御対象となる電動駆動系の特性に応じて適宜設定すればよい。
【0076】
ステップS16では、電動駆動系へ供給する流体の流量qctrlを減少させる。モータ28の回転数を減少させ、オイルポンプ26によってオイルパン29から供給される流体の流量qctrlを減少させる。これによって、冷却用の流体によるロータ10の引き摺り損失やオイルポンプ26の仕事量を低減でき、回転電機システム100の運転効率を改善することができる。
【0077】
一方、設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε1以上の場合、ステップS18では、設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε2より大きいか否かが判定される。閾値ε2は、閾値ε1より小さい値に設定され、電動駆動系が冷却油の流量を増加させる必要があると判定できる値に設定することが好適である。設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε2より大きい場合、電動駆動系に供給される冷却用の流体の流量を増加させる必要があると判断してステップS20に処理を移行させる。設定値qset-予測された流体の流量qpredが閾値ε2以下の場合、電動駆動系に供給されている冷却用の流体の流量は適切であるとして判断して流体の制御を終了する。
【0078】
ステップS20では、電動駆動系へ供給する流体の流量qctrlを増加させる。モータ28の回転数を増加させ、オイルポンプ26によってオイルパン29から供給される流体の流量qctrlを増加させる。これによって、回転電機システム100の内部の冷却を迅速に行うことができる。
【0079】
図14は、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部における冷却用の流体の経路及び流量を予測した結果に基づき、電動駆動系における流体制御の別例のフローチャートを示す。
【0080】
ステップS10では、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部における冷却用の流体の経路及び流量を予測するために必要なデータが取得される。ステップS12では、流体予測装置300を用いて電動駆動系の各部位における経路及び流量が予測される。これらのステップにおける処理は、上記と同様であるので説明を省略する。
【0081】
ステップS22では、予測された流体が供給されている部位の面積Spredを求め、当該差分値が予め設定された閾値ε3未満であるか否かが判定される。面積Spredは、流体予測学習モデル44から出力された流体の経路及び流量の予測値を示す予測画像データ46から算出することができる。予測された面積Spredが閾値ε3以上の場合、流体の流量が多すぎると判断してステップS16に処理を移行させる。予測された面積Spredが閾値ε3未満以上の場合、流体の流量が少なすぎると判断してステップS24に処理を移行させる。閾値ε3は、制御対象となる電動駆動系の特性に応じて適宜設定すればよい。
【0082】
ステップS16では、電動駆動系へ供給する流体の流量qctrlを減少させる。モータ28の回転数を減少させ、オイルポンプ26によってオイルパン29から供給される流体の流量qctrlを減少させる。これによって、冷却用の流体によるロータ10の引き摺り損失やオイルポンプ26の仕事量を低減でき、回転電機システム100の運転効率を改善することができる。
【0083】
一方、予測された面積Spredが閾値ε3未満の場合、ステップS24では、予測された面積Spredが閾値ε4より小さい否かが判定される。閾値ε4は、閾値ε3より小さい値に設定され、電動駆動系が冷却油の流量を増加させる必要があると判定できる値に設定することが好適である。予測された面積Spredが閾値ε4より小さい場合、電動駆動系に供給される冷却用の流体の流量を増加させる必要があると判断してステップS20に処理を移行させる。予測された面積Spredが閾値ε4以上の場合、電動駆動系に供給されている冷却用の流体の流量は適切であるとして判断して流体の制御を終了する。
【0084】
ステップS20では、電動駆動系へ供給する流体の流量qctrlを増加させる。モータ28の回転数を増加させ、オイルポンプ26によってオイルパン29から供給される流体の流量qctrlを増加させる。これによって、回転電機システム100の内部の冷却を迅速に行うことができる。
【0085】
なお、本実施の形態における流体予測装置300では、CNNモデルを使用することによって電動駆動系の各部位における流体の経路及び流量を予測することができるので、流体の流量が不足している部位への流体の供給量を増加させたり、流体の流量が過剰となっている部位への流体の供給量を減少させたりするようにしてもよい。
【0086】
図15は、回転電機システム100において冷却油の供給路に方向切替弁60を設けて、冷却用の流体を供給する部位及び流量を制御する構成を示す。流体の経路として、ステータコイル14aのコイルエンドに冷却油を供給するための第1供給路62a、ステータ14の軸方向中央部に冷却油を供給するための第2供給路62b、及び、シャフト12とロータ10の軸心へ冷却油を供給するための第3供給路62cが設けられている。ただし、冷却油の供給路は、上記例に限定されるものではなく、他の供給路を設けてもよい。制御部24は、流体予測装置300によって予測された回転電機101の各部位における流体の経路及び流量に応じて、方向切替弁60を制御して、ステータコイル14aのコイルエンド、ステータ14の軸方向中央部、及びシャフト12とロータ10の軸心の少なくとも1つを選択して冷却油を個別に供給するように制御する。
【0087】
図16は、回転電機システム100において冷却油の供給路の各々に流量制御弁64(64a~64c)を設けて、冷却用の流体を供給する部位及び流量を制御する構成を示す。流量制御弁64aは、ステータコイル14aのコイルエンドに冷却油を供給するための第1供給路62aに設けられる。流量制御弁64bは、ステータ14の軸方向中央部に冷却油を供給するための第2供給路62bに設けられる。流量制御弁64cは、シャフト12とロータ10の軸心へ冷却油を供給するための第3供給路62cに設けられる。制御部24は、流体予測装置300によって予測された回転電機101の各部位における流体の経路及び流量に応じて、流量制御弁64(64a~64c)をそれぞれ制御して、ステータコイル14aのコイルエンド、ステータ14の軸方向中央部、及びシャフト12とロータ10の軸心に対する冷却油の流量を個別に制御する。
【0088】
以上のように、冷却用の流体の状態を予測することで、冷却用の流体を必要な箇所に必要な流量で供給する制御を柔軟に行うことができる。これによって、ロータにおける冷却用の流体の引き摺り損失を減らし、電費を改善させることができる。
【0089】
また、電動駆動系の内部における冷却用の流体の流れの予測精度が向上することで、電動駆動系の内部の温度分布の予測精度も向上する。したがって、電動駆動系において冷却用の流体の流量や流路を制御することで、電動駆動系の内部の温度が上昇した際には高温部分を素早く冷却でき、熱負荷による駆動系の損傷を抑制することができる。これに伴って、電動駆動系の動力性能の限界まで利用することが可能になる。
【0090】
[本願発明の構成]
[構成1]
回転電機を含む電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、
機械学習を適用して学習されており、前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の状態を予測する流体予測学習モデルを用いて前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測して出力することを特徴とする流体予測装置。
[構成2]
構成1に記載の流体予測装置であって、
前記流体予測学習モデルは、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部に供給される前記流体の経路及び流量を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を出力するように機械学習されていることを特徴とする流体予測装置。
[構成3]
構成2に記載の流体予測装置であって、
前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の実機での実測値又はシミュレーションで求めた値を用いることを特徴とする流体予測装置。
[構成4]
構成2又は3に記載の流体予測装置であって、
前記教師データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を示す画像データを含むことを特徴とする流体予測装置。
[構成5]
構成1~4のいずれか1項に記載の流体予測装置であって、
前記状態量は、前記回転電機の回転速度、前記回転電機のステータコイルのコイルエンドの温度、前記流体の温度、雰囲気温度、車速、車両加速度、路面勾配、冷却油の制御弁の操作量の少なくとも1つを含むことを特徴とする流体予測装置。
[構成6]
構成1~5のいずれか1項に記載の流体予測装置であって、
前記入力データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測した値を示す画像データを含むことを特徴とする流体予測装置。
[構成7]
構成4又は6に記載の流体予測装置であって、
前記画像データは、前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量を数値、明度、色の濃度、色分けのいずれか1つによって示していることを特徴とする流体予測装置。
[構成8]
構成1~7のいずれか1項に記載の流体予測装置であって、
前記機械学習は、畳み込みニューラルネットワークを用いて行われていることを特徴とする流体予測装置。
[構成9]
構成1に記載の電動駆動系の冷却用の流体の状態を予測する流体予測装置であって、
機械学習を適用して学習されており、前記流体予測学習モデルから出力された前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを含む前記電動駆動系の運転時における状態量を入力データとして前記電動駆動系の各部位の温度を予測する温度予測学習モデルを用いて、
前記流体予測学習モデルの学習時に、前記電動駆動系の運転時における状態量に対して前記電動駆動系の各部の温度を教師データとして組み合わせた教師付学習データを用いて、前記温度予測学習モデルに当該状態量を入力したときに前記電動駆動系の各部位の温度を出力するように機械学習されていることを特徴とする流体予測装置。
[構成10]
構成1~9のいずれか1項に記載の流体予測装置を用いて、運転中の前記電動駆動系の各部位に供給される前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを予測し、予測された前記流体の経路及び流量に応じて前記電動駆動系の前記流体の経路及び流量の少なくとも1つを制御することを特徴とする回転電機システム。
【符号の説明】
【0091】
10 ロータ、10a ロータコア永久磁石、10b ロータコア電磁鋼鈑、12 シャフト、14 ステータ、14a ステータコイル、14b ステータコア電磁鋼鈑、16 ベアリング、18 ケーシング、20 インバータ、22 バッテリー、24 制御部、26 オイルポンプ、28 モータ、29 オイルパン、30 処理部、32 記憶部、34 入力部、36 出力部、38 通信部、40 入力画像データ、42 入力画像データ、44 流体予測学習モデル、46 予測画像データ、48 画像データ、50 入力データ、50 入力画像データ、52 温度予測学習モデル、54 予測画像データ、56 画像データ、60 方向切替弁、64(64a~64c) 流量制御弁、100 回転電機システム、101 回転電機、102 変速機、104 デファレンシャルギア、106 ドライブシャフト、108 駆動輪(タイヤ)、200 車両、300 流体予測装置。