(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107570
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】床版用プレキャスト部材及びそれを使用したコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011562
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】ピーエス・コンストラクション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達斗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宣政
(72)【発明者】
【氏名】桐川 潔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】効率的に構築が可能であるとともに、耐久性等において高品質である床版用プレキャスト部材及びそれを使用したコンクリート構造物の構築方法の提供。
【解決手段】床版用プレキャスト部材8は、目地用間隙部11を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置された複数のPCa版部12,12…と、PCa版部12,12間に跨って配置された補強鋼材13,13とを備え、目地用間隙部11が桁上に位置するように各PCa版部12,12…が配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁上に突出したずれ止め部材を介して該桁と一体化されるコンクリート床版を構成する床版用プレキャスト部材において、
目地用間隙部を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置されたプレキャストコンクリート製の複数のPCa版部と、該PCa版部間に跨って配置された補強鋼材とを備え、
前記目地用間隙部が前記桁上に位置するように前記各PCa版部が配置されていることを特徴とする床版用プレキャスト部材。
【請求項2】
前記補強鋼材は、前記複数のPCa版部に跨って貫通している請求項1に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項3】
前記PCa版部には、橋軸方向に向けたPCa版部用鉄筋が埋設され、該PCa版部用鉄筋の両端部が橋軸方向端面より突出している請求項1又は2に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項4】
前記PCa版部用鉄筋は、PCa版部の厚み方向に間隔をおいて配置された上側鉄筋及び下側鉄筋を有し、
該上側鉄筋及び下側鉄筋は、前記橋軸方向端面より突出した端部の先端部に鉄筋径より大きい径の定着用頭部を備えるとともに、
前記下側鉄筋に前記PCa版部の厚み方向の中央側に折り曲げた屈曲部が形成され、
該屈曲部が前記PCa版部の橋軸方向端部に下縁より張り出した張出部上に配置されている請求項3に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項5】
前記補強鋼材の目地用間隙部に露出した部分に目地部用鉄筋が挿通される鉄筋挿通孔が形成されている請求項1又は2に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項6】
前記複数のPCa版部間に跨って橋幅方向に向けた複数の鉄筋が貫通されている請求項1又は2に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項7】
前記複数のPCa版部に跨って橋幅方向にPC緊張材が挿通されるシースが貫通されている請求項1又は2に記載の床版用プレキャスト部材。
【請求項8】
コンクリート床版と桁とを該桁上に突出したずれ止め部材を介して一体化させるコンクリート構造物の構築方法において、
目地用間隙部を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置されたプレキャストコンクリート製の複数のPCa版部が該PCa版部間に跨って配置された補強鋼材によって連結されてなる床版用プレキャスト部材を使用し、
前記目地用間隙部の位置を前記桁の位置に合わせて複数の前記床版用プレキャスト部材を前記桁上に橋軸方向に並べて敷設し、各前記床版用プレキャスト部材の目地用間隙部に前記桁上に突設されたずれ止め部材を差し込み、
橋軸方向で隣り合う前記床版用プレキャスト部材間及び前記目地用間隙部にコンクリートを打設してコンクリート床版を形成するとともに、該コンクリート床版と前記桁とを前記ずれ止め部材を介して一体化させることを特徴としてなるコンクリート構造物の構築方法。
【請求項9】
前記床版用プレキャスト部材を前記PCa版部の端部を桁の側縁に支持させるとともに、前記補強鋼材を前記桁上面に載置した高さ調整部材に支持させる請求項8に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項10】
前記PCa版部の橋軸方向端部に下縁より張り出した張出部を互いに突き合わせて橋軸方向に前記床版用プレキャスト部材を並べて敷設し、橋軸方向で隣り合う前記床版用プレキャスト部材間の隙間下面を閉鎖する請求項8又は9に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項11】
前記床版用プレキャスト部材の橋幅方向に向けてPC緊張材を挿通させ、前記目地用間隙部にコンクリートを打設した後、ポストテンション方式により橋幅方向にプレストレスを導入する請求項8に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項12】
前記床版用プレキャスト部材には、前記複数のPCa版部に跨って橋幅方向にPC緊張材が挿通されるシースを貫通させておく請求項11に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版と該コンクリート床版を支持する桁とが桁上面から突出させたスタッドジベル等のずれ止め部材を介して一体化されてなる合成桁構造を構成する床版用プレキャスト部材及びそれを使用したコンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架道路等のコンクリート構造物においては、床版とそれを支持する桁とが一体化して荷重に抵抗する合理的な構造であることから、コンクリート床版と該コンクリート床版を支持する桁とが桁上面から突出させたスタッドジベル等のずれ止め部材を介して一体化されてなる構造(以下、合成桁構造という)が広く用いられている。
【0003】
このような合成桁構造を有するコンクリート構造物の構築では、鋼桁のフランジ上面に複数のスタッドジベル等のずれ止め部材を突設しておき、鋼桁上に場所打ちコンクリートによってコンクリート床版を成形することによってコンクリート床版の下面部にずれ止め部材を埋設させることにより一体化させる方法が一般的に広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、従来の場所打ちコンクリートによるコンクリート床版の構築では、時間が掛りすぎるという課題があり、特に、老朽化等によるコンクリート床版の架け替え等では、道路の供用が長期間停止される等、支障が生じている。
【0005】
そこで、この種の合成桁構造を有するコンクリート構造物の構築では、予め工場等で製作されたプレキャスト部材を用いた工法によって、工期短縮が図られている。
【0006】
このプレキャスト部材を用いた合成桁構造を有するコンクリート構造物の構築は、鋼桁上で互いに端面が目地用空隙を隔てて対向した状態で、鋼桁間に床版用プレキャスト部材を架設し、鋼桁上面に突設された多数のスタッドジベル等のずれ止め部材が目地空隙内に配置された状態とし、その状態で目地空隙内に無収縮の目地コンクリートを充填してスタッドジベル等のずれ止め部材を目地コンクリートに埋め込むことにより、コンクリート床版と鋼桁とをずれ止め部材を介して一体化させるようになっている。
【0007】
また、この種の合成桁構造を有するコンクリート構造物では、必要に応じて橋幅方向で隣り合うコンクリート床版間に跨らせて挿通させたPC鋼材を緊張してポストテンション方式のプレストレスを導入するようにしてもよい。
【0008】
尚、非合成桁構造で構成されている橋梁や高架道路等のコンクリート構造物では、スタッドジベル等のずれ止め部材が少ないことから、一枚の床版用プレキャスト部材を複数の鋼桁に支持させて配置し、コンクリート床版を構築することが一般的となっている。
【0009】
その場合、コンクリート床版と鋼桁とは、床版用プレキャスト部材に設けられた開口部を通して鋼桁上にスタッドジベル等のずれ止め部材を植設し、しかる後、開口部に無収縮モルタルを充填してずれ止め部材を開口部モルタル内に埋め込むことによってコンクリート床版(床版用プレキャスト部材)と鋼桁とをずれ止め部材を介して接合させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の如き従来の合成桁構造を有する橋梁や高架道路等のコンクリート構造物では、目地空隙を設けるために橋幅方向に複数の床版用プレキャスト部材を設置する必要があり、その分、床版用プレキャスト部材の設置作業に時間を要し、さらに、目地空隙内の鉄筋の配置等に手間を要するという問題があった。
【0012】
また、床版の両端部に配置される床版用プレキャスト部材は、片持ちの不安定な張り出し状態となるため、当該張り出し部分を支持するために別途支保工等の仮支持設備が必要になるという問題もあった。
【0013】
また、合成桁構造を有するコンクリート構造物では、鋼桁とコンクリート床版との結合力を大きくするためにスタッドジベル等のずれ止め部材が多数配置されるため、非合成桁構造で構成されているコンクリート構造物の場合のように、複数の鋼桁に一枚の床版用プレキャスト部材を支持させようとすると、床版用プレキャスト部材に多数の開口部を設ける必要が生じる。
【0014】
よって、合成桁構造を有するコンクリート構造物においては、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物の場合のように、複数の鋼桁に一枚の床版用プレキャスト部材を支持させようとすると、床版用プレキャスト部材の断面欠損が増大し、床版設置時の安全性確保が困難となるという問題があった。
【0015】
また、合成桁構造を有するコンクリート構造物では、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物の場合のように、複数の鋼桁に一枚の床版用プレキャスト部材を支持させようとすると、無収縮モルタルが充填された多数の開口部に対する耐久性確保の対策が別途必要となる。
【0016】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、効率的に構築が可能であるとともに、耐久性等において高品質である床版用プレキャスト部材及びそれを使用したコンクリート構造物の構築方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、桁上に突出したずれ止め部材を介して該桁と一体化されるコンクリート床版を構成する床版用プレキャスト部材において、目地用間隙部を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置されたプレキャストコンクリート製の複数のPCa版部と、該PCa版部間に跨って配置された補強鋼材とを備え、前記目地用間隙部が前記桁上に位置するように前記各PCa版部が配置されていることにある。
【0018】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記補強鋼材は、前記複数のPCa版部に跨って貫通していることにある。
【0019】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記PCa版部には、橋軸方向に向けたPCa版部用鉄筋が埋設され、該PCa版部用鉄筋の両端部が橋軸方向端面より突出していることにある。
【0020】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、前記PCa版部用鉄筋は、PCa版部の厚み方向に間隔をおいて配置された上側鉄筋及び下側鉄筋を有し、該上側鉄筋及び下側鉄筋は、前記橋軸方向端面より突出した端部の先端部に鉄筋径より大きい径の定着用頭部を備えるとともに、前記下側鉄筋に前記PCa版部の厚み方向の中央側に折り曲げた屈曲部が形成され、該屈曲部が前記PCa版部の橋軸方向端部に下縁より張り出した張出部上に配置されていることにある。
【0021】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記補強鋼材の目地用隙部に露出した部分に目地部用鉄筋が挿通される鉄筋挿通孔が形成されていることにある。
【0022】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記複数のPCa版部間に跨って橋幅方向に向けた複数の鉄筋が貫通されていることにある。
【0023】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記複数のPCa版部に跨って橋幅方向にPC緊張材が挿通されるシースが貫通されていることにある。
【0024】
請求項8に記載の発明の特徴は、コンクリート床版と桁とを該桁上に突出したずれ止め部材を介して一体化させるコンクリート構造物の構築方法において、目地用間隙部を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置されたプレキャストコンクリート製の複数のPCa版部が該PCa版部間に跨って配置された補強鋼材によって連結されてなる床版用プレキャスト部材を使用し、前記目地用間隙部の位置を前記桁の位置に合わせて複数の前記床版用プレキャスト部材を前記桁上に橋軸方向に並べて敷設し、各前記床版用プレキャスト部材の目地用間隙部に前記桁上に突設されたずれ止め部材を差し込み、橋軸方向で隣り合う前記床版用プレキャスト部材間及び前記目地用間隙部にコンクリートを打設してコンクリート床版を形成するとともに、該コンクリート床版と前記桁とを前記ずれ止め部材を介して一体化させることにある。
【0025】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項8の構成に加え、前記床版用プレキャスト部材を前記PCa版部の端部を桁の側縁に支持させるとともに、前記補強鋼材を前記桁上面に載置した高さ調整部材に支持させることにある。
【0026】
請求項10に記載の発明の特徴は、請求項8又は9の構成に加え、前記PCa版部の橋軸方向端部に下縁より張り出した張出部を互いに突き合わせて橋軸方向に前記床版用プレキャスト部材を並べて敷設し、橋軸方向で隣り合う前記床版用プレキャスト部材間の隙間下面を閉鎖することにある。
【0027】
請求項11に記載の発明の特徴は、請求項8の構成に加え、前記床版用プレキャスト部材の橋幅方向に向けてPC緊張材を挿通させ、前記目地用間隙部にコンクリートを打設した後、ポストテンション方式により橋幅方向にプレストレスを導入することにある。
【0028】
請求項12に記載の発明の特徴は、請求項11の構成に加え、前記床版用プレキャスト部材には、前記複数のPCa版部に跨って橋幅方向にPC緊張材が挿通されるシースを貫通させておくことにある。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る床版用プレキャスト部材は、請求項1に記載の構成を具備することによって、多量のずれ止め部材を収める目地用の間隙を容易に確保しつつ、従来、目地を設けるために複数に分割されていた床版用のプレキャスト部材を一体化し、一般的な非合成桁構造で構成された橋梁や高架道路等のコンクリート構造物と同様の方法によって、効率的に合成桁構造を有するコンクリート構造物を形成することができる。また、コンクリート床版を桁と確実に一体化することができ、耐久性を高めることができる。さらに、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物の場合では、多くの部分がプレキャストコンクリート部材を用いて構築できるが、スタッドジベル等のずれ止めが多く配置される桁端部においては、場所打ちコンクリート等別構造とせざるを得なかったところ、本発明を適用することにより、桁端部であってもプレキャスト部材を適用することができる。
【0030】
また、本発明において、請求項2に記載の構成を具備することによって、床版用プレキャスト部材の剛性を高め、コンクリート床版全体の強度を高めることができる。
【0031】
さらに、本発明において、請求項3に記載の構成を具備することによって、PCa版部の強度を高めることができるとともに、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材間を連結する継手構造を形成することができる。
【0032】
また、本発明において、請求項4に記載の構成を具備することによって、継手部分の場所打ちコンクリート打設のための型枠工が不要となり、しかも、下側鉄筋の先端が張出部の上側に位置することとなり、下側鉄筋の先端が対面するPCa版部の張出部と干渉することなく、耐引張力に対して十分な強度を持たせることが可能となり、全体して薄型のプレキャスト床版の使用が可能となる。
【0033】
また、本発明において、請求項5乃至6に記載の構成を具備することによって、目地用間隙部にあらかじめ鉄筋を配置することができ、施工現場での作業を効率よく行うことができる。
【0034】
さらに、本発明において、請求項7に記載の構成を具備することによって、PC緊張材が挿通されるシースを予め組み込んでおくことができ、施工現場での作業を効率よく行うことができる。
【0035】
また、本発明に係る床版用プレキャスト部材を使用したコンクリート構造物の構築方法は、請求項8に記載の構成を具備することによって、多量のずれ止め部材を収める目地用の間隙を容易に確保しつつ、従来、目地を設けるために複数に分割されていた床版用のプレキャスト部材を一体化し、一般的な非合成桁構造で構成された橋梁や高架道路等のコンクリート構造物と同様の方法によって、効率的に合成桁構造を有するコンクリート構造物を構築することができる。また、コンクリート床版と桁とを確実に一体化することができ、耐久性を高めることができる。さらに、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物の場合では、多くの部分がプレキャストコンクリート部材を用いて構築できるが、スタッドジベル等のずれ止めが多く配置される桁端部においては、場所打ちコンクリート等別構造とせざるを得なかったところ、本発明を適用することにより、桁端部であってもプレキャスト部材を適用することができる。
【0036】
また、本発明において、請求項9に記載の構成を具備することによって、床版用プレキャスト部材の高さを好適に調節することができるとともに、桁上に床版用プレキャスト部材を安定して支持させることができる。
【0037】
さらに、本発明において、請求項10に記載の構成を具備することによって、継手部分の場所打ちコンクリート打設のための型枠工が不要となり、しかも、下側鉄筋の先端が張出部の上側に位置することとなり、下側鉄筋の先端が対面するPCa版部の張出部と干渉することなく、耐引張力に対して十分な強度を持たせることが可能となり、全体して薄型のプレキャスト床版の使用が可能となる。
【0038】
また、本発明において、請求項11乃至12に記載の構成を具備することによって、予め床版用プレキャスト部材にシースを組み込むことで施工現場における作業を簡略化し、PC緊張材を効率よく設置でき、プレストレスの導入によってコンクリート床版の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に係るコンクリート構造物の構築方法によって構築された合成桁構造を有する橋梁の一例を示す縦断面図である。
【
図3】
図1中の床版用プレキャスト部材の一例を示す平面図である。
【
図4】同上の床版用プレキャスト部材と組み合わされる他の床版用プレキャスト部材の一例を示す平面図である。
【
図5】
図3中の目地用間隙部の状態を示すA-A線矢視拡大断面図である。
【
図7】同上の目地用間隙部部分の部分拡大平面図である。
【
図8】同上の床版用プレキャスト部材の他の一例を示す平面図である。
【
図9】本発明に係るコンクリート構造物の構築方法における床版用プレキャスト部材を設置する前の状態を示す平面図である。
【
図11】同上の床版用プレキャスト部材を設置した状態を示す平面図である。
【
図12】同上の敷設時の状態を示す縦断面図である。
【
図13】同上の床版用プレキャスト部材を並べて設置した状態を示す平面図である。
【
図14】同上の床版用プレキャスト部材を敷設した状態を示す縦断面図である。
【
図15】同上の目地用間隙部間の接合部分の状態を示す拡大平面図である。
【
図16】同上のPCa版部間の接合部分の状態を示す拡大縦断面図である。
【
図17】同上の継手用間隙部にコンクリートを打設した状態を示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明に係る床版用プレキャスト部材の実施態様を
図1~
図8に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は合成桁構造を有するコンクリート構造物である。
【0041】
尚、本実施例では、高架橋、橋梁を基準にして互いに直交する3方向をそれぞれ「橋軸方向」、「橋幅方向」及び「床版厚み方向」と定義するが、当該橋の概念には「高架道路」等の桁2,2…に支持された道路も含まれるものとする。
【0042】
コンクリート構造物1は、橋幅方向に間隔をおいて配置された複数の桁2,2…と、複数の桁2,2…に支持されたコンクリート床版3とを備え、このコンクリート床版3と桁2,2…とが桁2,2…の上面に突設された多数のスタッドジベル等のずれ止め部材4,4…を介して一体化されている。尚、図中符号5は、コンクリート床版3上に敷設された舗装部である。
【0043】
コンクリート床版3は、桁2,2…上に橋軸方向に並べて敷設された複数の床版用プレキャスト部材8,9によって構成されている。
【0044】
床版用プレキャスト部材8,9は、それぞれ目地用間隙部11を挟んで互いに橋幅方向に間隔をおいて配置されたプレキャストコンクリート製の複数のPCa版部12,12…と、橋幅方向で隣り合うPCa版部12,12間に跨って配置された補強鋼材13,13とを備え、複数のPCa版部12,12…が補強鋼材13,13を介して一体化された板状を成し、桁2,2…上に橋軸方向に並べて敷設され、コンクリート床版3を形成するようになっている。
【0045】
PCa版部12は、コンクリートによって一体に形成され、矩形版状の版本体14と、版本体14の橋軸方向両端部に下縁より橋軸方向に張り出した張出部15,15とを一体に備え、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9が張出部15,15の先端を突き合せて連接されることで、版本体14,14間に継手用間隙部16が形成されるとともに、継手用間隙部16の下部が張出部15,15によって閉鎖されるようになっている。
【0046】
版本体14には、橋幅方向に向けた複数のPC緊張材挿通孔17が橋軸方向に間隔をおいて配置され、このPC緊張材挿通孔17を通して、床版用プレキャスト部材8,9を構成する全PCa版部12,12…に跨って橋幅方向にPC緊張材が挿通されるシース18が貫通されている。
【0047】
張出部15,15は、上面が先端側に向けて厚さが先細状となった傾斜面15aとなっており、その傾斜面15aと版本体14の橋軸方向端面14aとが一定の曲率を持たせた曲面15bによって連続している。
【0048】
また、各PCa版部12,12…には、橋軸方向に向けたPCa版部用鉄筋19,20が埋設され、PCa版部用鉄筋19,20の両端部がそれぞれ版本体14の橋軸方向端面より突出し、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9を連結する重ね継手を構成するようになっている。
【0049】
PCa版部用鉄筋19,20は、床版厚み方向に間隔をおいて配置される上側PCa版部用鉄筋19及び下側PCa版部用鉄筋20がそれぞれ橋幅方向に所定の間隔をおいて配置され、両端部を軸方向端面より突出させた状態でPCa版部12内に埋設されている。
【0050】
上側PCa版部用鉄筋19は、直棒状に形成され、版本体14の軸方向端面14aから突出した先端部が張出部15,15の先端よりも突出し、その先端部に鉄筋本体よりも大径の定着用頭部19aを一体に備えている。
【0051】
下側PCa版部用鉄筋20は、版本体14の軸方向端面から突出し、且つ、張出部15の先端よりもさらに突出した先端部にPCa版部12の厚み方向の中央側に折り曲げた屈曲部20bが形成され、屈曲部20bの先端部に鉄筋本体よりも大径の定着用頭部20aを一体に備えている。
【0052】
屈曲部20bは、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9が互いに突き合わされた際に、突き合わされた隣の床版用プレキャスト部材8,9のPC版部の張出部15,15上に配置されるようになっている。
【0053】
また、各PCa版部12,12…は、橋幅方向の幅が橋幅方向で隣り合う桁2,2間に跨る幅に形成され、各PCa版部12,12…の橋幅方向端部がそれぞれ桁2,2…の上フランジ部側縁に支持されるようになっているとともに、各PCa版部12,12…が隣り合うPCa版部12,12…間に形成される目地用間隙部11が桁2,2…上に位置するように配置されている。
【0054】
補強鋼材13,13は、
図3、
図5、
図6に示すように、I形鋼、C形鋼、H形鋼等の高い曲げ耐力を有する形鋼(本実施例ではI形鋼)によって構成され、互いに橋軸方向に間隔をおいて配置され、それぞれ床版用プレキャスト部材8,9を構成する全ての複数のPCa版部12,12…に跨って貫通している。
【0055】
補強鋼材13,13には、ウェブ部の上下二段に長手方向に所定の間隔をおいて複数の鉄筋挿通孔が形成され、上下側のPCa版部用鉄筋19,20が補強鋼材13,13を貫通した状態でPCa版部12,12…に埋設されるとともに、補強鋼材13,13の目地用間隙部11に露出した部分に床版厚み方向に間隔をおいて目地部用鉄筋を構成する上側目地部用鉄筋21及び下側目地部用鉄筋22がそれぞれ橋幅方向に所定の間隔をおいて配置される。
【0056】
目地部用鉄筋を構成する上側目地部用鉄筋21及び下側目地部用鉄筋22は、それぞれPCa版部12,12…の橋軸方向長より長い直棒状に形成され、両端部に鉄筋本体よりも大径の定着用頭部21a,22aを一体に備え、橋軸方向で連続する目地部の継ぎ目部分を連結する継手構造を成している。
【0057】
尚、補強鋼材13,13は、上述の実施例に限定されず、
図8に示すように、隣り合う各PCa版部12,12間を跨いで両端部がPCa版部12,12内に所定の埋め込み長で埋設されたものであってもよい。その際、PCa版部12,12…間に跨る補強鋼材13,13は、PCa版部12,12…の自重に耐え得るように埋め込み長が確保される。
【0058】
また、この床版用プレキャスト部材8,9には、PCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋21,22と交差するように、床版用プレキャスト部材8,9を構成する全PCa版部12,12…間に跨って橋幅方向に向けた複数の幅方向鉄筋23,23…が貫通され、当該幅方向鉄筋23,23…がPCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋21,22と格子状を成すように配置されている。
【0059】
この幅方向鉄筋23,23…は、目地用間隙部11に位置する部分が露出した状態となっているが、隣り合うPCa版部12,12…の位置が補強鋼材13,13によって不変であるので、当該鉄筋が露出していてもPCa版部12,12…の自重によって屈曲又は破損しないようになっている。
【0060】
尚、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8と床版用プレキャスト部材9とでは、
図3、
図4に示すように、PCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋21,22の橋幅方向の設置ピッチが異なり、両床版用プレキャスト部材8,9を橋軸方向で突き合せた際、一方の床版用プレキャスト部材8のPCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋21,22が他方の床版用プレキャスト部材9の互いに隣り合うPCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋21,22の間に差し込まれ、所定長さだけオーバーラップして重ね継手を構成するようになっている。
【0061】
次に、上述の如き床版用プレキャスト部材8,9を使用したコンクリート構造物の構築方法について
図9~
図17に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明する。
【0062】
このコンクリート構造物1の構築方法は、橋幅方向に所定の間隔をおいて配置され複数の桁2,2…上に目地用間隙部11の位置を桁2,2…の位置に合わせて複数の床版用プレキャスト部材8,9を橋軸方向に並べて敷設し、各床版用プレキャスト部材8,9の目地用間隙部11に桁2,2…上に突設されたずれ止め部材4,4…を差し込み、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9間及び目地用間隙部11に場所打ちコンクリート24を打設してコンクリート床版3を形成するとともに、コンクリート床版3と桁2,2…とをずれ止め部材4,4…を介して一体化させるものである。
【0063】
桁2,2…は、
図9、
図10に示すように、プレキャストコンクリート製のコンクリート桁2,2…であって、ウェブ部25の上端及び下端両側部から橋幅方向に向けてフランジ部26,27が張り出したI字状断面が端軸方向に連続した構造に形成されている。
【0064】
この桁2,2…には、予め上面部に多数のずれ止め部材4,4…が突設され、床版用プレキャスト部材8,9を目地用間隙部11の位置を桁2,2…の位置に合わせて敷設することにより、ずれ止め部材4,4…が目地用間隙部11に差し込まれるようになっている。
【0065】
ずれ止め部材4,4…は、スタッドジベル等の棒状部材によって形成され、下端部が桁2,2…の上端部に埋設され、上部が桁2,2…上面より突出している。
【0066】
各ずれ止め部材4,4…は、床版用プレキャスト部材8,9の目地用間隙部11に配置される補強鋼材13,13、目地部用鉄筋21,22及び幅方向鉄筋23,23の配置を考慮し、これらと干渉しないように配置されている。
【0067】
床版用プレキャスト部材8,9を桁2,2…上に設置する作業は、
図11、
図12に示すように、まず、桁2,2…(フランジ部)上面の側縁に沿って止水部材30,30を設けるとともに、桁2,2…上面に高さ調整部材31,31を設置する。
【0068】
次に、クレーン等の楊重装置で吊り上げた床版用プレキャスト部材8を桁2,2…上に移動させ、各目地用間隙部11の位置を対応する桁2,2…の位置に合わせるように位置を微調整し、桁2,2…上に降下させ、各PCa版部12,12…の側縁を各桁2,2…のフランジ部側縁に止水部材30,30を介して支持させるとともに、目地用間隙部11に露出した補強鋼材13,13を桁2,2…に高さ調整部材31,31を介して支持させる。
【0069】
その際、高さ調整部材31,31の高さを変更することによって、床版用プレキャスト部材8の設置高さを調節することができ、当該高さ調整部材31,31によって橋軸方向で連なる床版用プレキャスト部材8,9のレベリングを行うことができる。
【0070】
その際、桁2,2…上に突設されたずれ止め部材4,4…が目地用間隙部11に差し込まれるとともに、目地用間隙部11の下面部が止水部材30,30を介して桁2,2…の上面によって閉鎖される。
【0071】
次に、
図13、
図14に示すように、上述の床版用プレキャスト部材8の設置作業と同様に、PCa版部用鉄筋19,20及び目地部用鉄筋の橋幅方向ピッチの異なる床版用プレキャスト部材9をPCa版部12,12…の張出部15,15を止水部材(図示せず)介して突き合せた状態で桁2,2…上に敷設する。
【0072】
これにより、
図16に示すように、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9間に継手用間隙部16が形成されるとともに、互いに突き合わされた張出部15,15によって継手用間隙部16の下面部が閉鎖され、継手用間隙部16内において各床版用プレキャスト部材8,9のPCa版部12,12…より突出したPCa版部用鉄筋19,20が互いにオーバーラップした状態で配置され、重ね継手を形成する。
【0073】
尚、下側PCa版部用鉄筋20は、先端部にそれぞれ上向き側に屈曲した屈曲部20bを有し、屈曲部20b先端の定着用頭部20aが、傾斜面15aの上面及び曲面15b又は版本体端面14aから、一定の場所打ちコンクリート打設用の被り厚を持たせた状態となっている。
【0074】
そして、複数の床版用プレキャスト部材8,9を上述の床版用プレキャスト部材8,9の設置作業と同様に順次敷設し、橋軸方向に所定数の床版用プレキャスト部材8,9が敷設されたら、
図1、
図2に示すように、橋軸方向で隣り合う床版用プレキャスト部材8,9間に形成された橋幅方向に連続する継手用間隙部16及び橋軸方向に連続する目地用間隙部11に場所打ちコンクリート24を打設してコンクリート床版3を形成するとともに、目地用間隙11内に差し込まれたずれ止め部材4,4…が場所打ちコンクリート24内に埋め込むことによって、コンクリート床版3と桁2,2…とをずれ止め部材4,4…を介して一体化させる。
【0075】
その際、
図16、
図17に示すように、継手用間隙部16下が突き合わされた張出部15,15によって閉鎖され、橋軸方向に連続する目地用間隙11によって形成される目地部が桁2,2…上面によって閉鎖されているので型枠を設ける必要がなく、効率よくコンクリートの打設作業を行うことができる。
【0076】
そして、シース18内にPC緊張材を挿通させ、PC緊張材を緊張させた状態で両端を床版用プレキャスト部材8,9の両端に定着させることによって橋幅方向にポストテンション方式によりプレストレスを導入する。
【0077】
このように、所定の範囲毎に床版用プレキャスト部材8,9の敷設作業、コンクリート打設によるコンクリート床版3と桁2,2…との一体化作業を繰り返し、最後に上面に舗装部を敷設することにより合成桁構造を有するコンクリート構造物1が構築される。
【0078】
このように構成されたコンクリート構造物1の構築方法では、目地用間隙を挟んで配置されるPCa版部12,12…間が高い曲げ耐力を有する補強鋼材13,13を介して互いに支持されるので、複数のPCa版部12,12…からなる床版用プレキャスト部材8,9を一体の部材としてクレーン等の楊重装置で吊り上げることができ、従来、目地を設けるために複数に分割されていた床版用のプレキャスト部材を一体化し、一般的な非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物と同様の方法によって、効率的にコンクリート構造物1を形成することができる。
【0079】
また、この床版用プレキャスト部材8,9及びコンクリート構造物1の構築方法では、目地用間隙を有することで、多量のずれ止め部材4,4…を収める目地用の間隙を容易に確保しつつ、桁2,2…と確実に一体化することができ、耐久性を高めることができる。
【0080】
また、この床版用プレキャスト部材8,9及びコンクリート構造物1の構築方法では、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物と比べ、使用鋼材量を少なくすることができるばかりでなく、支間長の増大、桁2,2…高を低くすることが可能となる。
【0081】
尚、上述の実施例では、コンクリート桁2,2…を例に説明したが、桁2,2…は鋼桁2,2…であってもよく、その場合、コンクリート床版3が鋼桁2,2…の上フランジとしても機能し、圧縮力に強いコンクリートと、引張力に強い鋼桁2,2…との材料特性を生かした極めて合理的な構造とすることができる。
【0082】
さらに、上述の実施例では、床版用プレキャスト部材8,9を、合成桁構造を有するコンクリート構造物1に適用した場合について説明したが、本発明に係る床版用プレキャスト部材は、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物にも適用することができる。
【0083】
その場合、非合成桁構造で構成されたコンクリート構造物であっても、スタッドジベル等のずれ止めが多く配置される桁端部においては、場所打ちコンクリート等別構造とせざるを得なかったところ、桁端部であってもプレキャスト部材を適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 コンクリート構造物
2 桁(コンクリート桁)
3 コンクリート床版
4 ずれ止め部材
5 舗装部
8 床版用プレキャスト部材
9 床版用プレキャスト部材
11 目地用間隙部
12 PCa版部
13 補強鋼材
14 版本体
15 張出部
16 継手用間隙部
17 PC緊張材挿通孔
18 シース
19 上側PCa版部用鉄筋
20 下側PCa版部用鉄筋
21 上側目地部用鉄筋
22 下側目地部用鉄筋
23 幅方向鉄筋
24 場所打ちコンクリート
25 ウェブ部
26,27 フランジ部
30 止水部材
31 高さ調整部材