(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107571
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/12 20060101AFI20240802BHJP
C23F 11/14 20060101ALI20240802BHJP
C23F 11/167 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
C23F11/12 101
C23F11/14
C23F11/167
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011564
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関戸 広太
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA03
4K062BA03
4K062BB07
4K062BB14
4K062BB25
4K062BC09
4K062BC10
4K062DA05
4K062FA05
4K062FA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法をする。
【解決手段】冷却水に対してアルミニウムに対するキレート剤と冷却水処理剤を添加することを特徴とする腐食抑制方法であって、アルミニウムに対するキレート剤が、ヒドロキシカルボン酸およびその塩、有機ホスホン酸およびその塩、縮合リン酸およびその塩の何れか1種以上である、腐食抑制方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法であって、アルミニウムに対するキレート剤と、冷却水処理剤を添加することが特徴とする腐食抑制方法。
【請求項2】
請求項1記載の腐食抑制方法において、アルミニウムに対するキレート剤が、ヒドロキシカルボン酸およびその塩、有機ホスホン酸およびその塩、縮合リン酸およびその塩の何れか1種以上であることを特徴とする腐食抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系に設けられた金属の腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷却水系における熱交換器伝熱管や配管等の部材には、金属が用いられている。そして、部材に用いられている金属は、水と接触することにより腐食が発生する。このため、一般に、冷却水には腐食抑制剤が添加される。これらの腐食抑制剤により、金属の表面に薄い防食皮膜を形成することにより腐食を抑制する。
【0003】
一方で、冷却水には、井水や市水など様々な種類の水が用いられるが、大型の冷却水系などでは工業用水が用いられていることが多い。工業用水は、河川の水をポリ塩化アルミニウムや硫酸バンドで処理し、各工場などに送られる。その後、沈殿槽やサンドフィルターなどにおいて濁度成分を除去されたのちに各冷却水系で使用される。
【0004】
しかしながら、これらの処理が不十分な場合では、アルミニウムを含有した成分(ポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウムによって形成されるフロックや、pH管理が不適格な場合におけるアルミニウムイオン等)が後段へリークし、冷却水系の補給水に含有してしまうことがある。
【0005】
これらのアルミニウムが冷却水処理剤で処理されている冷却水系へ混入した場合、熱交換器伝熱管や配管などの金属面に著しい腐食を引き起こす。例えば、特許文献1には冷却水処理剤が添加された前記冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御することを特徴とする金属の腐食抑制方法が提供されている。しかしながら、溶存アルミニウム濃度を十分にコントロールできない場合も考えられ、更なる腐食抑制方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明における課題は冷却水系における金属腐食を十分に抑制できる腐食抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウムに対するキレート剤と、冷却水処理剤を添加することが特徴であり、これにより冷却水系に設けられた金属腐食を効果的に抑制できる。
【0009】
また、上記のキレート剤はヒドロキシカルボン酸およびその塩、有機ホスホン酸およびその塩、縮合リン酸およびその塩の何れか1種以上であればよく、これにより冷却水系における金属腐食を効果的に抑制できる。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、冷却水系や冷却水
用腐食抑制剤等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明の腐食抑制方法の作用機構について説明する。開放型冷却水系における循環水中のpHは、通常は弱アルカリ性であり、アルミニウムイオンはアルミン酸イオン[Al(OH)4]-として存在するか、循環水中のシリカ成分を抱き込んだフロックを形成しているものと考えられる。これらは、金属の防食成分としても作用するが、対象の金属面に不均一に付着した場合、腐食が促進されると考えられる。また、一般的な冷却水処理剤が添加されている系では、アルミニウムイオンが冷却水処理剤の成分に影響し、冷却水処理剤の効果が低下することも考えられる。一方、本発明の腐食抑制方法では、キレート剤が、水中のアルミニウムイオンに作用することで、金属面に不均一に付着することを防止し、更に冷却水処理剤に影響を与えることを防止することで、効果的に腐食を抑制できると考えられる。
【0013】
本発明における「冷却水系の腐食」とは、冷却水系において冷却水が接する金属面の腐食を示す。
【0014】
本発明が適用される冷却水系に特に制限はないが、特に、アルミニウムを含む補給水としている冷却水系への適用が望ましい。
【0015】
アルミニウムは、一般に補給水中や循環水中の縣濁成分を除去するための凝集剤として添加されている。ここでアルミニウムを含む凝集剤は、一般に塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、電解アルミニウムなどの形態で使用されている。
【0016】
本発明が適用される冷却水系の金属面は特に制限はないが、配管や熱交換器の伝熱面が対象となり、適用可能な熱交換器の種類は特に限定されないが、例えばシェルアンドチューブ式多管式熱交換器、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、渦巻管式熱交換器、渦巻板式熱交換器、コイル式熱交換器、ジャケット式熱交換器等が挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるアルミニウムに対するキレート剤は、特に限定されないが、アルミニウムに対してキレート能力を持つ必要がある。具体的には、ヒドロキシカルボン酸及びその塩、有機ホスホン酸及びその塩、縮合リン酸及びその塩の何れか1種以上であることが望ましい。
【0018】
一方、アルミニウム以外に対するキレート剤、例えば、カルシウムイオンを補足する1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N、N、N‘、N’-四酢酸やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、銅イオンを補足するトリエチレンテトラミンでは腐食を十分に抑制できない。
【0019】
本発明で使用されるヒドロキシカルボン酸とは、分子内にヒドロキシ基を有するカルボン酸であり、例えば、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、リンゴ酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸等及びその塩が挙げられる。
【0020】
本発明で使用される有機ホスホン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基と有する有機化合物であり、有機ホスホン酸としては、特に限定されないが、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等及びその塩が挙げられる。
【0021】
本発明で使用される縮合リン酸は、オルトリン酸が脱水縮合した化合物であり、特に限定は無いが、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸及びその塩が挙げられる。
【0022】
本発明において、冷却水が接する金属面の腐食を抑制する冷却水処理剤が添加される。
ここで、上記の水処理剤は、特に制限はないが、一般的には、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体、亜鉛化合物を1種以上含むことが望ましい。
【0023】
本明細書において、「ホスホノカルボン酸」とは、分子中において、1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物を意味する。ホスホノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸等が挙げられる。ホスホノカルボン酸としては、ローディア社製の「BRICORR(登録商標)288」や、BWA社製の「BELCOR(登録商標)585」が挙げられる。
【0024】
本発明で使用されるホスフィノポリカルボン酸とは、分子中において、1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物であり、ホスフィノポリカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるポリ(2-カルボキシエチル)(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ[2-カルボキシ-(2-カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸との反応物等が挙げられる。
ホスフィノポリカルボン酸は、例えば、バイオ・ラボ社より「BELCLENE500」、「BELSPERSE164」、「BELCLENE400」等の商品名で市販されている。
【0025】
本発明で用いられるカルボン酸重合体としては、モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体及びその水溶性塩、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体及びその水溶性塩等が挙げられる。モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体としては、例えば、アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体、マレイン酸重合体、無水マレイン酸重合体の加水分解物、イタコン酸重合体、フマル酸重合体等が挙げられ、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とフマル酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸とマレイン酸の三元共重合体、アクリル酸とイタコン酸とフマル酸の三元共重合体等が挙げられるが、好ましくは、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体、及びホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0026】
ここで、マレイン酸やイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、フマル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2~8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステル等が挙げられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0027】
本発明で使用される亜鉛化合物は、特に限定は無いが、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、ホスホン酸亜鉛、リン酸亜鉛、スルファミン酸亜鉛、及び臭化亜鉛などが挙げられる。
【0028】
本発明における冷却水処理剤には、スケール分散剤や銅防食剤を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、使用できるスケール分散剤に特に制限は無く、例えば、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基を有するものエチレン性不飽和共重合体等を使用できる。具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸及びイソプロピルスルホン酸の少なくとも1種を構成分子として含む単一重合物又は共重合体を挙げることができる。
【0030】
本発明において、使用できる銅防食剤に特に制限は無く、例えば、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類があげられる。
【0031】
本発明において、キレート剤は冷却水に添加し、添加量は、溶存アルミニウムのモル濃度に対して、0.1モル以上、望ましくは等モル以上である。その際、通常の添加量は保有水量に対して1~500ppmであり、より好ましくは5~100ppmである。添加量が1ppm未満では、十分にアルミニウムをキレートできず、500ppmを超えた場合、コストアップにつながる。
【0032】
本発明において、冷却水処理剤の添加量は、保有水量に対して有効成分換算で、1~50ppm、好ましくは5~20ppmである。添加量が1ppm未満では、十分に腐食抑制できず、50ppmを超えた場合、コストアップにつながる。
【0033】
本発明において、冷却水中のアルミニウム濃度は2mg/L以下で管理することが望ましい。2mg/Lを超えた場合、冷却水処理剤に影響を与え、十分な腐食抑制ができない。
冷却水の溶存アルミニウム濃度を2mg/L未満に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、冷却水系の冷却水に含まれるアルミニウムをフィルターにて処理する方法や、溶存アルミニウム濃度が2mg/L未満の補給水を供給バルブから冷却水系に補給する方法が挙げられる。冷却水系の冷却水に含まれるアルミニウムをフィルターにて処理する方法としては、例えば、冷却水系にサイドフィルターを設ける方法が挙げられる。
アルミニウム濃度の測定方法に制限はないが、例えば、冷却水を孔径が1μmのフィルターにより冷却水をろ過した後、ろ液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定することが出来る。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<試験に供した薬剤>
試験には、(1)キレート剤と(2)冷却水処理剤を用いた。
【0036】
(1)キレート剤
・リンゴ酸(試薬)
・グルコン酸(試薬)
・エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP、キレスト(株)製、キレストPH-540)
・ヘキサメタリン酸ナトリウム(米山化学工業株式会社製)
・EDTA(エチレンジアミン4酢酸、試薬)
【0037】
【0038】
<腐食試験>
腐食試験は、以下の方法で行った。まず、JIS K0100-1990 工業用水腐食試験方法(回転法)に準拠して、寸法が50mm×30mm×1mmであり、表面積が0.316dm2である低炭素鋼(JIS G 3141SPCC-SB)試験片をアセトンで脱脂後に乾燥させ、質量を測定した。
【0039】
キレート剤及び冷却水処理剤、アルミニウム源としてポリ塩化アルミニウムを所定の濃度になる様に純水に添加し、試験液とした。試験液のpHを8.5に調整し、Mアルカリ度とカルシウム硬度をそれぞれ100ppmに調整した。調製した試験液は、1μmのフィルターでろ過した後、ろ液中のアルミニウム濃度を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定し、調整後の試験液におけるアルミニウム濃度が所定の濃度となっていることを確認した。
【0040】
JIS K0100-1990工業用水腐食試験方法(回転法)に準拠して、還流冷却管に連結された攪拌器付きフラスコに試験液500mLを入れた後、40℃の恒温槽にて保温した。試験片を常に試験液に浸漬した状態において、腐食試験装置のモーター回転軸の保持器に試験片を取り付けて、線速度0.3m/secで3日間、試験片を回転させた。
【0041】
3日後に試験片を取り出した後、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下においてブラシで除去した。その後、試験片を乾燥させた後に質量を測定した。
【0042】
腐食速度[mdd]は以下の式により算出した。腐食速度が小さいほど、腐食が抑制されていることを示す。
腐食速度[mdd]=(試験片の減少量[mg])/{(試験片表面積[dm2])×
(試験日数[日])}
【0043】
結果を表2に示す。本発明のキレート剤と冷却水処理剤を添加することで、効果的な腐食抑制が可能であった。一方、キレート剤のみ、冷却水処理剤のみ、本発明以外のキレート剤と冷却水処理剤を添加しても、腐食抑制できなかった。
【0044】