(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107576
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】除染用ショットブラスト装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20240802BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20240802BHJP
G21F 9/00 20060101ALI20240802BHJP
B24C 9/00 20060101ALI20240802BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20240802BHJP
B24C 3/06 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G21F9/28 531Z
G21F9/02 551A
G21F9/00 B
B24C9/00 G
B24C9/00 E
B24C1/00 C
B24C9/00 Z
B24C3/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011574
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037648
【氏名又は名称】株式会社ニッチュー
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】平塚 勝朗
(72)【発明者】
【氏名】安部 裕生
(72)【発明者】
【氏名】宮本 修
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射能により汚染されたタンク等の構造体を解体することなく、当該構造体の壁面を除染可能な装置を提供する。
【解決手段】除染用ショットブラスト装置100は、ローター12と投射口14を有する投射部10と、投射部10から投射された研削材を回収する研削材回収部20と、研削材回収部20において回収された回収研削材を、大径の研削材と大径の研削材に対し相対的に小径の小粒子とに分離する分離部30と、分離部30において分離された小粒子を集塵する集塵部40と、を備え、放射能により汚染された構造物の壁面(タンク内壁面90)に研削材を投射し当該壁面を除染する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターと投射口を有する投射部と、
前記投射部から投射された研削材を回収する研削材回収部と、
前記研削材回収部において回収された回収研削材を、大径の研削材と前記大径の研削材に対し相対的に小径の小粒子とに分離する分離部と、
前記分離部において分離された前記小粒子を集塵する集塵部と、を備え、
放射能により汚染された構造物の壁面に研削材を投射することによって当該壁面を除染することを特徴とする除染用ショットブラスト装置。
【請求項2】
前記集塵部は、当該集塵部に導入された空気と前記小粒子を分離するためのフィルタと、
前記フィルタを通過した空気を外部に排出する排出口を備え、
前記フィルタが、粒径0.3μm以下の粒子を捕集可能な高機能フィルタである請求項1に記載の除染用ショットブラスト装置。
【請求項3】
磁性体である前記壁面と前記除染用ショットブラスト装置の正面とを引き寄せるための磁石を備え、
前記磁石は、前記壁面に対し非接触な位置に配置されている請求項1または2に記載の除染用ショットブラスト装置。
【請求項4】
前記磁石と前記壁面との距離を所定に維持するためのスペーサーを有し、
前記スペーサーは、前記除染用ショットブラスト装置の移動方向に対し直交する方向に伸長する回転軸と、前記磁石よりも前記壁面に側に突出し前記回転軸により前記壁面上において軸回転可能なローラーとを有する請求項3に記載の除染用ショットブラスト装置。
【請求項5】
前記ショット投射口より放出された研削材の飛散を防止するための遮蔽部を有し、
前記遮蔽部は、正面視において前記投射口の周りを連続的に囲む第一遮蔽部材と当該第一遮蔽部材の外周に設けられた第二遮蔽部材とを少なくとも有し、
前記第一遮蔽部材および前記第二遮蔽部材の間に、空気を排出可能なエアノズルを備える請求項1または2に記載の除染用ショットブラスト装置。
【請求項6】
クレーンに装着するための吊り具装着部を備える請求項1または2に記載の除染用ショットブラスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質により壁面が汚染されたタンク等の構造物の当該壁面を除染するための除染用ショットブラスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子炉の系統機器や配管内面など金属材料に付着し堆積した放射性汚染物質を除去するため、レーザーを用いた除染方法に関する技術が提案されている(例えば特許文献1)。これは、被処理面に対しレーザービームを照射し、当該非処理面の表層を溶融・蒸散させることで当該非処理面を除染する技術に関する。以下ではレーザーによる除染をレーザー除染と呼ぶ場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、原子炉冷却水等の放射能に汚染された水(以下、汚染水ともいう)を貯蔵するタンクの取り扱いが問題となっている。貯蔵された原子炉冷却水は、規定値以下の放射線量であることが確認された後、たとえば海洋などに放水される。
【0005】
汚染水を貯蔵するためのタンクは、一般的に大型であり、直径が数m~数十m、高さ数m~数十mのものが多い。汚染水が外部に放水され空になったタンクは、分解され所定寸法に小片化された後、たとえば上述する特許文献1のような技術を用い、除染されることが一般的であった。
しかしながら大型であり、かつ内壁面が放射能で汚染されたタンクを解体し小片化するためには専門の知識を有する技術者等を多数必要とする上、処理コストも高く、問題であった。そのため、解体せずにタンクの内壁面を除染可能とすることが望まれる。
【0006】
これに対し、特許文献1に例示されるレーザー除染は、比較的小規模の被処理物の除染には対応可能であるが、大型タンクの内壁面のような大面積の領域の除染を想定した技術ではなかった。
また大面積の領域をレーザー除染する場合、高い出力と速い処理速度が求められ、エネルギー効率が悪いという問題があった。また大面積である被処理面を除染するための、レーザー除染以外の技術も未だ提案されていない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は放射能により汚染されたタンク等の構造体を解体することなく、当該構造体の壁面を除染可能な装置として提供されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の除染用ショットブラスト装置は、ローターと投射口を有する投射部と、上記投射部から投射された研削材を回収する研削材回収部と、上記研削材回収部において回収された回収研削材を、大径の研削材と上記大径の研削材に対し相対的に小径の小粒子とに分離する分離部と、上記分離部において分離された上記小粒子を集塵する集塵部と、を備え、放射能により汚染された構造物の壁面に研削材を投射することによって当該壁面を除染することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除染用ショットブラスト装置は、ショットブラストの技術を活用し、原子炉冷却水貯蔵用のタンクなどの大型の構造物において、放射能で汚染された当該構造物の壁面を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる除染用ショットブラスト装置の側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる除染用ショットブラスト装置の正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる除染用ショットブラスト装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態である除染用ショットブラスト装置100(以下、単に装置100と記載する場合がある)について、
図1~
図3を用いて説明する。すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略する。
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、1つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
尚、本発明に関し除染とは、放射能汚染により、放射性物質または放射性物質が付着したものを除去することを含み、特には放射能により汚染されたタンクなどの構造物の壁面に付着した放射性物質または放射性物質が付着した内壁面の少なくとも一部を除去することを含む。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態にかかる装置100の側面図である、
図2は装置100の正面図であり、
図3は、装置100の斜視図である。尚、特段の断りがない場合、装置100に関し正面とは、ショットブラストで処理される被処理面(壁面)に対向する面を指しており、研削材の投射口14を有する面を指す。
【0013】
本実施形態にかかる装置100は、ローター12および投射口14を有する投射部10と、ローター12の回転によって投射され投射口14から放出された研削材を回収する研削材回収部20と、研削材回収部20において回収された回収研削材を、大径の研削材と大径の研削材に対し相対的に小径の小粒子とに分離する分離部30と、分離部30において分離された小粒子を集塵する集塵部40と、を備える。尚、本発明に関し分離部30において分離される上記小粒子とは、タンク内壁面90に投射されて砕けた研削材の破片(微粉)や研削材によって研磨されたタンク内壁面90の剥離物を含む。装置100は、放射能により汚染された構造物の壁面(タンク内壁面90)に研削材を投射することによって当該壁面(タンク内壁面90)を研削し、これによって、壁面に付着した放射性物質または放射性物質が付着した内壁面の少なくとも一部を除去することによって除染を行う。
本発明は、除染の手段としてローター12から投射される研削材を使用するため、高いエネルギー効率にて除染作業を行うことが可能である。またショットブラストによる研磨によって除染することにより、レーザーによる除染より高い処理能力が期待される。
以下に、装置100の詳細についてさらに説明する。
【0014】
尚、以下の説明では、装置100によって研削される壁面として、原子炉冷却水貯蔵用のタンク内壁面90を例に説明する。ただし、かかる説明は、本発明の用途を限定するものではなく、本発明は、放射能により汚染された大型の構造物の内壁面または外壁面のいずれを除染することもできる。ここでいう大型とは特に具体的な数値で限定されるものではないが、底面から上面までの距離が、たとえば5m以上であり、直径が5m以上である大型の構造物を含む。たとえば、装置100は、底面から上面までの距離が10m以上および/または直径が10m以上である大型の構造物にも十分に適用される。
【0015】
装置100は、研削材を投射するローター12と、投射された研削材を投射面16に対し放出する投射口14を備える投射部10を備える。これによって被研削面であるタンク内壁面90の投射面16に研削材が衝突しタンク内壁面90の表面が研削される。投射面16は、装置100を移動させることによってタンク内壁面90を移動させることができる。したがって、装置100を適宜に移動させることによって、タンク内壁面90の全面または所望の領域を研削し除染することができる。装置100の移動手段については後述する。
本実施形態では、装置100の骨組みをなすフレーム部68にローター12、投射口14等が取り付けられ支持されている。
【0016】
ローター12から投射される研削材は、タンク内壁面90を研削可能な硬さを有する粒状物であればよく、たとえばスチール製の粒状物等が挙げられる。研削材の粒径は、特に限定されないが0.3mm~1.4mm程度が好適である。ローター12から投射される研削材の投射速度は特に限定されないがたとえば50m/sec~70m/sec程度とし、投射量は、50kg/min~120kg/min程度とすることができる。
【0017】
投射された研削材(以下、使用済み研削材ともいう)は、周囲に飛散しないよう研削材回収部20において回収され、分離部30に搬送される。
研削材回収部20は、使用済み研削材を回収し、下流側に配置される分離部30に使用済み研削材を搬送させることが可能な範囲において特にその構成は限定されない。本実施形態における研削材回収部20は、まず、投射口14より下方に延在する第一回収路20Aにおいて使用済み研削材を下方に自重落下させる。落下した使用済み研削材は、第一回収路20Aの下端領域(
図1において補助ローラー80の紙面奥方向)に配置された図示省略するスクリューにより水平方向に延在する第二回収路20Bを通じて、第三回収路20Cの下端まで送られる。第三回収路20Cは、分離部30に通じる流路となっており、ここを通じて最終的に使用済み研削材が分離部30に送り込まれる。尚、第三回収路20Cにおける使用済み研削材の移動手段は特に限定されないが、たとえば、第三回収路20Cはバケットエレベーターなどであってもよい。
【0018】
使用済み研削材は、再利用可能な程度の粒径の研削材(大径の研削材)と、これより相対的に小径の小粒子を含む。そのため使用済み研削材は、分離部30において上述する大径の研削材と、これより小径の小粒子とに分離される。分離部30における粒子の分離手段は特に限定されないが、たとえばサイクロン方式(風力選別)やトロンメルなどを用いたふるい式選別などが例示される。
【0019】
分離部30は、配管を通じてローター12および集塵部40に連結されている。また集塵部40に隣接して堆積研削材拭き落とし用のエアーコンプレッサー42が配置されている。尚、本発明に関し配管あるいは管とは、研削材や気体等が移動可能な流路を構成するものであればよく、たとえば金属製の管や樹脂等により形成されたホースなどであってよい。
【0020】
分離部30によって分離された大径の研削材は、配管73を通じてローター12に戻され、再利用される。一方、分離部30によって分離された小粒子は、配管70を通じて集塵部40に収取される。また上述する研削材回収部20と共に、別のルートから小粒子を集塵部40に収集してもよい。具体的には本実施形態では、使用済み研削材であって自重落下し難く空気中に舞う程度の微粉等は、投射口14よりも上方に設けられた図示省略する収取口に接続された配管72を通じて直接に集塵部40に集塵される。たとえば配管72は、コネクタ79により、配管70の中間部に接続されて、分離機30から分離された小粒子と合流して集塵部40に集塵される。
【0021】
上述のとおり集塵部40に集塵された小粒子は、放射能で汚染されたタンク内壁面90に接触することによって放射能に汚染されている可能性が高い。そのため、小粒子と共に集塵部40に吸引された空気が集塵部40から装置100の外部に排出される際、汚染された小粒子が空気とともに外部に放出されることを防止することが望ましい。
【0022】
図3に示すとおり、本実施形態における集塵部40は、当該集塵部40に導入された空気と上述する小粒子等を分離するためのフィルタ44と、このフィルタ44を通過した空気を外部に排出する排出口46を備えている。フィルタ44が備えられた排出口46は、たとえば集塵部40の側面の任意の箇所に設けられ、設置箇所は1か所でも2か所以上でもよい。本実施形態では、フィルタ44が備えられた排出口46は、集塵部40の一側面(
図3参照)および図示省略する当該一側面に対向する対向側面の2か所に設けられている。ここでフィルタ44としては、粒径0.3μm以下の粒子を捕集可能な高機能フィルタが用いられるとよい。高機能フィルタの具体例としては、定格流量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率を示すHEPAフィルタ(High Efficiency Penetration Air Filter)、および静電HEPAフィルタ、ならびに定格流量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の捕集率を示すULPAフィルタ(Ultra Low Penetration Air Filter)などが挙げられる。
このように集塵部40におけるフィルタ44として高機能フィルタが設けられることによって、汚染された小粒子が集塵部40から外部に排出されることを良好に防止することができる。
【0023】
ところで、レーザービームにより汚染面を除染した際に発生したガスには、ヒュームなどのレーザー照射特有の化学物質が含まれている。そのため、レーザービームを用いて除染し、発生したガスをフィルタに通した場合、上記化学物質によりフィルタの目詰まりが発生し易い。特にフィルタが高機能フィルタである場合、フィルタの目が細かいため、上記化学物質により短時間に目詰まりが発生し易く、フィルタの効果やメンテナンスの頻度が高いという問題がある。
これに対し、本発明はショットブラストの技術を利用して大型の構造物の壁面を物理的に剥離して除染するため、上述するレーザー照射により発生する化学物質などのように高機能フィルタの目詰まりを誘因させる化学物質が発生し難い。そのため高機能フィルタを使用する集塵部40を備える本発明の実施態様によれば、解体せずに大型の構造物の壁面を除染する際、フィルタ44の交換やメンテナンスの頻度を下げることができる。
【0024】
さらにフィルタ44の交換やメンテナンスの頻度を下げるためには、たとえば、フィルタ44に、フィルタ44を振動させて付着した小粒子等を振るい落とす機能であるシェイキング機能を付加し、規則的なタイミングまたは任意のタイミングで当該シェイキング機能によりフィルタ44を振動させ、フィルタ44に溜まった小粒子等を振るい落としてもよい。
【0025】
分離部30に導入される物質は、使用済み研削材である大径の研削材およびこれより小径の研削材以外に、タンク内壁面90の剥離により発生した異物等が含まれうる。そのため、そのような異物が分離部30に導入された場合、大径の研削材および小粒子とは別に、適宜、配管71から図示省略する異物貯留槽に貯留することもできる。
尚、分離された大径の研削材の量が多い場合には、配管74を通じて当該大径の研削材の一部をオーバーフローさせて、分離部30の下方に設けられた図示省略する貯留部に一端貯留し、その後、必要に応じてローター12に供与するよう調整することもできる。
【0026】
装置100は、放射能に汚染された壁面を研削材で研削するため、使用済み研削材が装置外部になるべく漏れ出ないことが望ましい。
そこで、本実施形態では、装置100の正面側に遮蔽部60が設けられている。遮蔽部60は、投射口14より放出された研削材が装置100の外部に飛散することを防止するものであり、装置100の正面視において投射口14の周りを連続的に囲むよう設けられている。遮蔽部60は、ゴムなどの可撓性部材により形成されたシート状部材を用いて構成されており、一端が装置100に固定されている。遮蔽部60の他端は、自由端となっており、タンク内壁面90に押し当てられることによって、当該自由端が適度に撓んでタンク内周面90に沿い、装置100と投射面16との間の空間を封止する。
本実施形態における遮蔽部60は、具体的には、一方方向に長尺(例えば長方形)のゴムシートであり、当該シートの一方の長辺を装置100に設けられた一対の金属板601に挟むとともに当該一対の金属板601をボルト602により締め付けることによって、装置100に対し固定されている。遮蔽部60は連続する1枚のゴムシートまたは複数のゴムシートにより、正面視において投射口14の周りを連続的に枠様に囲むように配置されて固定される。本実施形態では、4枚のゴムシートが用いられ、
図2に示すように、投射口14を囲んで、矩形状に配置された遮蔽部60が構成されている。
【0027】
遮蔽部60は、投射口14を一重に囲んで構成されてもよいが、
図2に示すように、第一遮蔽部材60Aの周囲に、第二遮蔽部材60Bを設けて二重構造としてもよく、図示省略するがさらに三重構造以上としてもよい。
【0028】
本発明の実施において、装置100をタンク内壁面90に沿って配置し装置100を稼働することで研削を実施するとともに、適宜タンク内壁面90に沿って装置100を移動させる。かかる移動の際、装置100とタンク内壁面90との距離d(
図1参照)が所定以上に離れてしまうと、遮蔽部60がタンク内壁面90から離間し、使用済み研削材が外部に漏れ出る可能性がある。
そのため、本実施形態では、磁性体であるタンク内壁面90と装置100の正面とを引き寄せるための磁石50が設けられている。本実施形態では、磁石50は、フレーム部68に設けられた台座51に対し取り付けられ支持されている。
【0029】
磁石50は、装置100の正面視において、遮蔽部60の外側であって左右また上下に少なくとも一対(図面では左右一対)設けられていることが良い。磁石50の磁力によって、装置100が磁性体であるタンク内壁面90に対し常に引き寄せられるため、装置100がタンク内壁面90から所定以上に離れることが良好に防止される。
ただし、装置100に設けられた磁石50がタンク内壁面90に直接に当接してしまうと、装置100の移動の妨げになり得るため、磁石50は、タンク内壁面90に対し非接触な位置に配置され取り付けられている。
【0030】
ところで、上述するとおり、投射口14より放出された研削材の飛散を防止するための遮蔽部60を有し、正面視において投射口14の周りを連続的に囲む第一遮蔽部材60Aと第一遮蔽部材60Aの外周に設けられた第二遮蔽部材60Bとを少なくとも有する態様では、第一遮蔽部材60Aと第二遮蔽部材60Bとの間に、使用済み研削材が溜まっている場合がある。
このように第一遮蔽部材60Aと第二遮蔽部材60Bとの間に堆積した使用済み研削材は、たとえばタンク内壁面90の研削が終了し、タンク内壁面90から装置100を離間させた際に周囲にこぼれたり、あるいは空気中に舞って放散される虞がある。このような問題を防止するために、本実施形態では、第一遮蔽部材60Aおよび第二遮蔽部材60Bの間に、上述する堆積した使用済み研削材が機内に収集される様、空気を排出可能なエアーブローノズル62が設けられていることが望ましい。エアーブローノズル62は、ちょうど第一遮蔽部材60Aおよび第二遮蔽部材60Bの基端(自由端と反対側の端部)付近に設けられている。装置100をタンク内壁面90から離間させる前、またはタンク内壁面90に対し僅かに離間させた状態で、図示省略するエアーブロー装置から送られる圧縮空気をエアーブローノズル62から吹き出すことによって、第一遮蔽部材60Aと第二遮蔽部材60Bとの間に溜まった使用済み研削材を、それらの間から飛散させるとともに、配管72を通じて集塵部40に集塵し、あるいは自重によって下方に落下させ研削材回収部20によって回収することができる。
【0031】
本実施形態では、磁石50とタンク内壁面90との距離dをより良好に維持するために、スペーサー52が設けられている。
図1に示すとおり、スペーサー52は、装置100のタンク内壁面90における移動方向に対し直交する方向に伸長する回転軸521と、磁石50よりもタンク内壁面90に側に突出し回転軸521によりタンク内壁面90上において軸回転可能なローラー522とを有する。かかるスペーサー52は、装置100の移動方向にローラー522を回転させることができるため、かかる装置100の移動を妨げることなく、磁石50とタンク内壁面90とが所定距離(距離d)未満となることを防止する。スペーサー52によって確保される距離は、たとえば遮蔽部60の自由端が適度にタンク内壁面90に当接する程度に装置100とタンク内壁面90とが離間する距離となるよう設定されるとよい。
【0032】
スペーサー52は、装置100の正面視において、遮蔽部60の外側であって左右または上下に少なくとも一対、設けられていることが良い。本実施形態では、第二遮蔽部材60Bの外側であって、左右一対の磁石50それぞれに隣り合う位置にスペーサー52が設けられている。また本実施形態では、スペーサー52と同様に回転軸とローラーとを備えて構成された補助ローラー80が設けられており、タンク内壁面90に対する装置100の安定性に対しより十分な配慮がなされている。
補助ローラー80の数や取付け位置は特に限定されないが、本実施形態では、装置100の正面視において左右一対の補助ローラー80が設けられている。スペーサー52および補助ローラー80は、磁石50と同様にフレーム部68に対し取り付けられ支持されている。
【0033】
上述するとおり、スペーサー52や補助ローラー80に設けられた回転軸(回転軸521)の軸方向は、装置100の移動方向に合わせて決定される。たとえば
図3では、装置100がタンク内壁面90に沿って上下方向に移動することを前提に、スペーサー52および補助ローラー80には、水平方向に延在する回転軸521が設けられている。
しかしながら大型の構造物の壁面を研削するためには、装置100は当該壁面において上下方向だけではなく、たとえば水平方向等にも移動して壁面全体または任意の領域を研削する必要がある。したがって、スペーサー52や補助ローラー80の回転軸521は、可動可能であることが好ましい。たとえば、タンク内壁面90に沿って上下方向および水平方向に装置100を移動させる場合には、スペーサー52や補助ローラー80の回転軸521は少なくとも90度回転可能に構成されているとよい。これによって、たとえば、タンク内壁面90に沿って下方から上方に向かって装置100を移動させつつ当該壁面を研削した後、上記回転軸521を90度回転させてローラー522の回転方向を水平方向に変更させ、所定距離だけ水平方向に移動させた後、再度、上記回転軸521を90度回転させて、ローラー522の回転方向を上下方向に変更させるとよい。回転軸521の軸方向の変更は、たとえば遠隔操作により行うことができる。
【0034】
また、別の態様として、スペーサー52や補助ローラー80の回転軸521を可動させる代わりに、ローラー522をタンク内壁面90に対し当接した状態と離間させた状態とに変更できるよう構成することもできる。この場合には、図示省略する、上下方向に伸長する回転軸および当該回転軸によって回転する移動用ローラーを別途設けてもよい。移動用ローラーは、タンク内壁面90に対し当接した状態と離間させた状態とに変更できるよう構成される。そして、スペーサー52や補助ローラー80をタンク内壁面90に対し離間した状態とし、装置100を水平方向に移動させる際、上記移動用ローラーを、タンク内壁面90に対し当接した状態とすることによって、装置100をタンク内壁面90に沿ってスムーズに水平移動させることができる。
装置100は、床面において水平方向に移動させやすいよう底面に複数の車輪82が設けられている。
【0035】
本実施形態では、
図2、
図3において示すとおり、装置100の正面視において、磁石50と遮蔽部60との間に区画部69が設けられている。本実施形態における区画部69は、上下方向に長尺のシート部材であり、可撓性を有するゴムシートまたは樹脂シートであることが好ましい。上記長尺のシート部材である区画部69は、一方の長辺側がフレーム部68に対し固定され、他方の長辺側がタンク内壁面90に対し延在しており、当該他方の長辺側の外縁領域がタンク内壁面90に対し当接している。また区画部69の上下方向の寸法は、磁石50の上下方向の寸法より大きく設計されており、装置100の側面視において、磁石50の上端が区画部69の上端よりも下方に存在し、また磁石50の下端が区画部69の下端よりも上方に存在している。
かかる区画部69が設けられることによって、遮蔽部60から漏れ出たスチール製等の磁性を有する研削材が、磁石50に吸引され吸着されることが抑制される。
【0036】
また本実施形態の装置100は、ランプ66が設けられている。ランプ66は、外部から視認され易い任意の位置に設けることができ、本実施形態では、装置100の最上位に配置されている。ランプ66は、任意の光源により周囲に対し光を放つものであればよく、暗闇でも容易に視認可能であるという観点からは、回転灯、点滅灯、回転点滅灯などが好ましい。またランプ66の光の色味は特に限定されず、たとえば赤色にすることができる。上述するランプ66は、遠隔操作やセンサーによりオンオフが可能であって、たとえば装置100が稼働している間、ランプ66を点灯させてもよく、また装置100をタンク内壁面90に沿って上方または下方に移動させる際、装置100が天井または床面に対し所定の距離まで接近したときにランプ66を点灯させるようセンサーなどで設定してもよい。タンク内において無人で装置100を稼働させるにあたり、上述するランプ66が設けられていることで、遠隔において装置100の移動を把握し易く望ましい。
【0037】
次に、装置100の移動について説明する。装置100の移動手段は、対象となる壁面に沿って移動しつつ研削材により当該壁面を研削することができる範囲において特に限定されない。ただし、放射能で汚染された壁面を研削することから無人で移動させることが望ましい。無人で移動させる手段の一例として、装置100をクレーンで吊り上げて、当該クレーンを操作することによって装置100を所望の方向に移動させるクレーン手段が挙げられる。
本発明に関しクレーンとは、装置100を、動力を用いて上方に吊り上げる操作および下方に降下させる操作が可能であり、かつ装置100を、水平方向に運搬することが可能なものを指し、たとえばクレーン車や天井クレーンなどが例示される。
【0038】
かかるクレーン手段では、対象となるタンクなどの構造物の上面が開口している場合には、当該構造物の外にクレーン車を配置し、構造物の内部にクレーンを導入するとともに、構造物の内部に設置された装置100を、当該クレーンで吊り上げて所望の方向に移動させることができる。所望の方向とは、たとえば上下方向および水平方向である。
またクレーン手段の異なる態様として、対象となるタンクなどの構造物の上面に天井が設けられている場合には、天井クレーンを採用してもよい。具体的には、構造物の壁面上方に沿ってランウェイを設置し、当該ランウェイ上を走行可能なクレーンにより装置100を吊り上げて上下方向および水平方向に移動させることができる。
【0039】
本実施形態では、クレーンによって装置100を吊り下げるための吊り具装着部64が設けられている。本実施形態における吊り具装着部64は、たとえば、クレーンの先端に取り付けられたフックを掛けるためのリング部65を備える。ただし、クレーンで装置100を吊り下げる際のクレーンに装置100を装着させる装着手段はフックとリング部65に限定されるものではなく、クレーンと装置100とを分離可能に結合し、装置100を吊り上げることができる範囲において適宜の手段に変更可能である。
【0040】
上述するクレーン手段は、設置および除染終了後の撤去が比較的簡易であるというメリットがある反面、クレーンで装置100を吊るすため、装置100の安定性が充分でない場合がある。しかしながら本実施形態は、上述するとおり、磁石50およびスペーサー52が設けられており、タンク内壁面90に対する装置100の距離を所定に維持しやすいよう構成されている。そのため、装置100は、クレーン手段による吊り下げられた状態でも安定性がよい。
【0041】
クレーン手段以外の装置100の移動手段としては、たとえば自走手段が挙げられる。自走手段を実施するためには、装置100の昇降装置をタンク内部に設けて、リフトで吊り下げる代わりに装置100自体が上下また横方向に自走しながらタンク内壁面90をブラスト処理することができる。たとえば、自走手段のより具体的な例としては、自走のためのガイドレールを予め壁面(タンク内壁面90)に構築するとともに、当該ガイドレールに沿って自走可能な自走用車輪を装置100に設け、遠隔操作により、装置100を壁面に沿って移動させる手段が挙げられる。かかる自走手段によれば、ガイドレールに沿って装置100を移動させることができるため、タンク内壁面90に対する装置100の距離を所定に維持しやすいというメリットがある。
上述する自走手段は、たとえばタンクなどの構造物の上部が開口しておらず、構造物にクレーン車等を横付けして上述するクレーン手段を実施できない場合などに有効である。
尚、上部が開口していない構造物内に装置100を導入する場合には、当該構造物に設けられた狭いハッチを利用することが想定されうる。そのような場合には、装置100は、適度なサイズに分解され、再組立てできるよう構成されることが好ましい。
【0042】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の説明に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜の変更を包含する。たとえば、ローター12から投射された使用済み研削材の装置100内部における循環は、研削材回収部20により回収されて分離部30に導入され、分離部30において分離された小粒子が集塵部40に集塵される範囲において、図示する配管の構造を変更することができる。
また上述する実施形態では分離部30と集塵部40とは、独立したパートとして設けられているが、分離部30および集塵部40は、1つのパートに集約されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ショットブラスト装置を構造物の壁面に沿ってクレーン手段や自走手段等によって移動させるととともに稼働させ、放射能に汚染された当該壁面を、当該構造物を解体することなく除染することができる。また本発明は、従来にない新たな除染方法として、上述する本発明の除染用ショットブラスト装置を用い、放射能により汚染された構造物の壁面に研削材を投射する構造物壁面の除染方法を提供することができる。かかる除染方法は、上述する本発明のショットブラスト装置の優れた点を享受する。
一般的に、ローターの回転により研削材を投射するショットブラスト装置は、エアーブラスト装置などの他のブラスト装置に比べてもエネルギー効率がよく、従来知られるレーザー除染と比べても十分に良好なエネルギー効率を示しうる。
また装置100の稼働により、汚染された壁面に投射された研削材は、放射能に汚染されている可能性があるが、上述するとおり、装置100は、研削材回収部20を有し、また適宜、使用済みの研削材が飛散しないような構成を搭載し得る。そのため、周囲の環境汚染に十分に配慮しながら除染を行うことができる。
【0044】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)ローターと投射口を有する投射部と、
前記投射部から投射された研削材を回収する研削材回収部と、前記研削材回収部において回収された回収研削材を、大径の研削材と前記大径の研削材に対し相対的に小径の小粒子とに分離する分離部と、前記分離部において分離された前記小粒子を集塵する集塵部と、を備え、放射能により汚染された構造物の壁面に研削材を投射することによって当該壁面を除染することを特徴とする除染用ショットブラスト装置。
(2)前記集塵部は、当該集塵部に導入された空気と前記小粒子を分離するためのフィルタと、前記フィルタを通過した空気を外部に排出する排出口を備え、前記フィルタが、粒径0.3μm以下の粒子を捕集可能な高機能フィルタである上記(1)に記載の除染用ショットブラスト装置。
(3)磁性体である前記壁面と前記除染用ショットブラスト装置の正面とを引き寄せるための磁石を備え、前記磁石は、前記壁面に対し非接触な位置に配置されている上記(1)または(2)に記載の除染用ショットブラスト装置。
(4)前記磁石と前記壁面との距離を所定に維持するためのスペーサーを有し、前記スペーサーは、前記除染用ショットブラスト装置の移動方向に対し直交する方向に伸長する回転軸と、前記磁石よりも前記壁面に側に突出し前記回転軸により前記壁面上において軸回転可能なローラーとを有する上記(3)に記載の除染用ショットブラスト装置。
(5)前記ショット投射口より放出された研削材の飛散を防止するための遮蔽部を有し、
前記遮蔽部は、正面視において前記投射口の周りを連続的に囲む第一遮蔽部材と当該第一遮蔽部材の外周に設けられた第二遮蔽部材とを少なくとも有し、前記第一遮蔽部材および前記第二遮蔽部材の間に、空気を排出可能なエアノズルを備える上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の除染用ショットブラスト装置。
(6)クレーンに装着するための吊り具装着部を備える上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の除染用ショットブラスト装置。
(7)前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の除染用ショットブラスト装置を用い、放射能により汚染された構造物の壁面に研削材を投射する構造物壁面の除染方法。
【符号の説明】
【0045】
10・・・投射部
12・・・ローター
14・・・投射口
16・・・投射面
20・・・研削剤回収部
20A・・・第一回収路
20B・・・第二回収路
20C・・・第三回収路
30・・・分離部
40・・・集塵部
42・・・エアーコンプレッサー
44・・・フィルタ
46・・・排出口
50・・・磁石
51・・・台座
52・・・スペーサー
521・・・回転軸
522・・・ローラー
60・・・遮蔽部
60A・・・第一遮蔽部材
60B・・・第二遮蔽部材
601・・・金属板
602・・・ボルト
62・・・エアーブローノズル
64・・・吊り具装着部
65・・・リング部
66・・・ランプ
68・・・フレーム部
69・・・区画部
70、71、72、73、74・・・配管
79・・・コネクタ
80・・・補助ローラー
82・・・車輪
90・・・タンク内壁面
100・・・除染用ショットブラスト装置
d・・・距離