(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107589
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】インダクタ部品および回路基板
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240802BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240802BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20240802BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F27/29 F
H01F17/04 F
H01F27/30 101A
H01F27/28 K
H01F27/30 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011595
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】小島 努
(72)【発明者】
【氏名】杉田 信一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 拓弥
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043BA01
5E043FA04
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA03
5E070CA13
5E070DB02
(57)【要約】
【課題】一般的な導体でインダクタ部品を小型化する。
【解決手段】一態様に係るインダクタ部品によれば、磁性基体と、上記磁性基体の一部に対して複数段に亘って巻き付けられた導体から成り、下段の第1導体に対して巻き付けられた上段の第2導体の1周のうち、当該第1導体に並行して巻かれた並行部が、当該第1導体に斜交して当該第1導体を跨ぐ斜交部よりも長い周回導体と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性基体と、
前記磁性基体の一部に対して複数段に亘って巻き付けられた導体から成り、下段の第1導体に対して巻き付けられた上段の第2導体の1周のうち、当該第1導体に並行して巻かれた並行部が、当該第1導体に斜交して当該第1導体を跨ぐ斜交部よりも長く、並行部と斜交部とが直列につながっている周回導体と、を備えることを特徴とするインダクタ部品。
【請求項2】
前記第2導体は、前記並行部が1周のうち4分の3より大きいことを特徴とする請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項3】
前記第2導体は、前記並行部および前記斜交部の一方から他方への移行箇所を1周のうちに2箇所以下有することを特徴とする請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項4】
前記第2導体に対して巻き付けられた更に上段の第3導体は、当該第2導体に並行して巻かれた第2の並行部を有するとともに、当該第2導体の斜交部に斜交して当該第2導体の斜交部を跨ぐ第2の斜交部を有することを特徴とする請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のインダクタ部品と、
前記インダクタ部品が実装された基板と、を備えることを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ部品および回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの機器の電子化が進む中、電子化された機器に用いられる電子部品の用途は様々であり、電子部品の数も多くなっている。このため、電子部品の小型化は不可欠となっている。
インダクタ部品においても小型化は必要であり、小型化の実現のために無駄なスペースの削減が行われている。例えば、巻線と称される導体形成の方法は、内側から順番に導体が重ねられる方法であるが、ここで用いられる導体の隙間の減少が求められる。
【0003】
導体の隙間を減少させる方法として、例えば特許文献1には、断面六角形の線材が互い違いに重ねられて隙間を減少させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、特別な断面形状の導体が必要となり、導体同士の隙間が空かないように導体の固定が必要であると記載されている。また、特許文献1で用いられる導体は対角線の長さが0.6mm以上1.0mm未満であり、特許文献1の技術は最大長が例えば1.0mm以下といった小型のコイル部品を作る技術ではない。
【0006】
特許文献1の技術に対し、コイル部品の一種であるインダクタ部品では、導体の周回数が例えば1.5ターンから100ターンのように幅広い範囲での対応が求められ、さらに、断面形状が円形や楕円形などの一般的な導体で複数段に巻回された場合にも隙間の抑制が求められる。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、一般的な導体でインダクタ部品を小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るインダクタ部品によれば、磁性基体と、上記磁性基体の一部に対して複数段に亘って巻き付けられた導体から成り、下段の第1導体に対して巻き付けられた上段の第2導体の1周のうち、当該第1導体に並行して巻かれた並行部が、当該第1導体に斜交して当該第1導体を跨ぐ斜交部よりも長い周回導体と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係るインダクタ部品によれば、上記並行部が1周のうち4分の3より大きい。
また、本発明の一態様に係るインダクタ部品によれば、上記第2導体は、上記並行部および上記斜交部の一方から他方への移行箇所を1周のうちに2箇所以下有する。
【0010】
また、本発明の一態様に係るインダクタ部品によれば、上記第2導体に対して巻き付けられた更に上段の第3導体は、当該第2導体に並行して巻かれた第2の並行部を有するとともに、当該第2導体の斜交部に斜交して当該第2導体の斜交部を跨ぐ第2の斜交部を有する。
【0011】
また、本発明の一態様に係る回路基板によれば、上述したいずれかのインダクタ部品と、上記インダクタ部品が実装された基板と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一般的な導体でインダクタ部品を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインダクタ部品を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るインダクタ部品の断面および側面を示す図である。
【
図3】インダクタ部品の他の構造例を示す斜視図である
【
図4】
図3のインダクタ部品の断面および側面を示す図である。
【
図5】
図3のインダクタ部品における他の内部構造を示す断面および側面を示す図である。
【
図6】
図5に示す構造のインダクタ部品における磁性基体と導体との関係を示す断面図である。
【
図7】比較例において巻芯に巻き付けられた1段目の導体の展開図である。
【
図8】比較例において巻芯に巻き付けられた2段目の導体の展開図である。
【
図9】比較例において巻芯に巻き付けられた3段目の導体の展開図である。
【
図10】比較例における巻芯の第1、第3稜線における導体の重なり状態を示す断面図である。
【
図11】比較例における巻芯の第2、第4稜線における導体の重なり状態を示す断面図である。
【
図12】巻芯に巻き付けられた1段目の導体の展開図である。
【
図13】巻芯に巻き付けられた2段目の導体の展開図である。
【
図14】巻芯に巻き付けられた3段目の導体の展開図である。
【
図15】並行領域における導体の重なり状態を示す断面図である。
【
図16】巻芯の断面が長円形である第1の変形例を示す図である。
【
図17】巻芯の断面が長円形である第2の変形例を示す図である。
【
図18】ドラムコアの磁性基体に巻かれた導体を示す展開図である。
【
図19】ドラムコアの磁性基体に巻かれた導体の重なり状態を示す断面図である。
【
図20】差分が径Dの±10%を超える場合の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。
【0015】
本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。先に説明した図面に示された構成要素については、後の図面の説明で適宜に参照する場合がある。
【0016】
<インダクタ部品の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタ部品を示す斜視図であり、
図2は、インダクタ部品の断面および側面を示す図である。
図2には、
図1に示すA-A線に沿った断面および側面が示されている。
【0017】
インダクタ部品1は、基板2aに実装されている。基板2aには、例えば2つのランド部3が設けられている。インダクタ部品1は、2つの外部電極12のそれぞれと基板2aの対応するランド部3とが実装用はんだで接合されることで基板2aに実装される。本発明の一実施形態による回路基板2は、インダクタ部品1と、このインダクタ部品1が実装された基板2aと、を備える。回路基板2は、様々な電子機器に備えられる。回路基板2を備えた電子機器としては、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ、ボードコンピュータおよびこれら以外の様々な電子機器が想定される。
【0018】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、方向の説明は、
図1の「L軸」方向、「W軸」方向および「H軸」方向を基準に用い、それぞれ、「長さ」方向、「幅」方向および「高さ」方向と称する。また、L軸とW軸により規定される面は、LW面と称し、L軸とH軸により規定される面はLH面と称する。
インダクタ部品1は、高さ方向Hの両端に第1の主面1a(上面1a)および第2の主面1b(底面1b)を有する。インダクタ部品1の上面1aおよび底面1bはいずれも、平坦な平面であってもよいし湾曲した湾曲面であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態におけるインダクタ部品1は、磁性基体11と外部電極12と外装部13とコイル導体14とを有する。インダクタ部品1は、外装部13を設けないものであってもよい。
磁性基体11は、磁性材料又は非磁性材料から成る。磁性基体11用の磁性材料としては、例えば、フェライトおよび軟磁性合金材が用いられ得る。磁性基体11用の非磁性材料としては、アルミナやガラスが用いられ得る。磁性基体11用の磁性材料は、各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料、または結晶質の材料と非晶質の材料とが組合せられた材料であってもよい。
【0020】
磁性基体11用の磁性材料として用いられ得る結晶質の合金磁性材料は、例えば、Feを主成分として50wt%以上、または85wt%以上含み、Si、Al、Cr、Ni、Ti、およびZrから成る群より選択される1以上の元素を含む結晶質の合金材料である。磁性基体11用の磁性材料として用いられ得る非晶質の合金磁性材料は、例えば、Si、Al、Cr、Ni、Ti、Zrのいずれかに加えてB又はCのいずれか一方を含む非晶質の合金材料である。
【0021】
磁性基体11用の磁性材料としては、Feおよび不可避不純物から成る純鉄が用いられ得る。磁性基体11用の磁性材料としては、Feおよび不可避不純物から成る純鉄と各種の結晶質もしくは非晶質の合金磁性材料とが組み合わせられた材料が用いられ得る。磁性基体11の材料は、本明細書で明示されるものに限られず、磁性基体の材料として公知の任意の材料が用いられ得る。
【0022】
基磁性体11は、例えば、上述した磁性材料又は非磁性材料の粉末が潤滑剤と混合された混合材料が成形用の金型のキャビティに充填されてプレス成形されることにより圧粉体が作製され、この圧粉体が熱処理されることにより作製される。また、磁性基体11は、上述した磁性材料又は非磁性材料の粉末が樹脂、ガラス、又は絶縁性酸化物(例えば、Ni-Znフェライトやシリカ)と混合された混合材料が積層成形されて熱処理されることによって作製されてもよい。熱処理としては、用いられる原材料に応じて、200℃以下の温度で熱硬化されても、600℃以上あるいは1000℃以上の温度で焼結されてもよい。
【0023】
コイル導体14は、導電性に優れた金属材料から成る。コイル導体14用の金属材料としては、例えば、Cu、Al、NiおよびAgのうちの1以上の金属、又はこれらの金属のいずれかを含む合金が用いられ得る。コイル導体14の表面には絶縁被膜が設けられ、コイル導体14は磁性基体11の表面あるいは内部に設けられる。コイル導体14は、1つの磁性基体11に対して1つ設けられてもよいし、あるいはコイル導体14は、1つの磁性基体11に対して複数設けられてもよい。
【0024】
図1および
図2に示す例では、磁性基体11はドラムコアと称されるものであり、フランジ11bと巻芯11aを有する。巻芯11aは、導体が周回するために適した任意の形状をとることができ、本実施形態では高さ方向Hに延びる。例えば、巻芯11aは、三角柱形状、五角柱形状、もしくは六角柱形状等の多角柱形状であってもよく、あるいは、巻芯11aは、円柱形状、楕円柱形状、もしくは截頭円錐形状であってもよい。
【0025】
フランジ11bは巻芯11aの両端に設けられている。本発明の一実施形態では、上面1a側と底面1b側とのそれぞれにフランジ11bが設けられている。フランジ11bは巻芯11aに対して垂直な方向に延伸している。
本明細書において、「垂直」、「直交」、および「平行」という用語を使用するときには、数学的に厳密な意味で使用するものではない。例えば、フランジ11bが巻芯11aと垂直な方向に延伸するという場合、フランジ11bと巻芯11aとが為す角度は、90°であってもよいが概ね90°であればよい。
【0026】
概ね90°の角度の範囲には、70°~110°、75°~105°、80°~100°、又は85°~95°の範囲内の任意の角度が含まれうる。「平行」、「直交」、「直線」、「平面」およびこれら以外の本明細書に含まれる数学的に厳密に解釈し得る用語についても、同様に、本発明の趣旨、文脈、および技術常識を考慮して、厳密な数学の意味よりも幅を持った解釈を取り得る。
【0027】
コイル導体14は、外部電極12と接合される引出部14aと、磁性基体11の巻芯11aの外周に線状の導体が巻き付けられて成る周回部14bとを有する。周回部14bでは、巻芯11aを中心とした内周側から外周側に向かって導体が複数段に亘って巻き付けられている。
図2に示す例において周回部14bは、導体がインダクタ部品1の上面1aおよび底面1bに沿う方向に巻かれた、いわゆる水平巻きとなっている。
【0028】
コイル導体14を成す導体としては、例えば直径が0.05mm以上、または0.1mm以上、更には0.2mm以上といった太さのものが用いられる。導体の断面形状は、円形、楕円形、あるいは長円形などであり、巻芯11aに導体が巻き付けられた後でもアスペクト比が1.1以下、あるいはアスペクト比が1.5以下となっている。
【0029】
外部電極12は、例えばインダクタ部品1の底面1bに設けられる。
インダクタ部品1には外装部13が設けられてもよい。外装部13が設けられる場合、外装部13は、2つのフランジ11bの間に収まるようにコイル導体14を覆う。外装部13は、例えば、2つのフランジ11bの間に樹脂を充填することにより形成される。
【0030】
外装部13は、樹脂又はフィラーを含有する樹脂から構成されてもよい。外装部13の材料としては、巻線タイプのインダクタ部品1において巻線を被覆するために用いられる任意の樹脂材料が用いられ得る。フィラーとしては、磁性材料又は非磁性材料が用いられ得る。外装部13は、樹脂、フィラーなどを含む複合材料がディスペンサーなどによりコイル導体14の外側を覆うように塗布され、樹脂成分が硬化されることで形成される。
【0031】
外装部13は、樹脂以外の材料から形成されてもよい。樹脂以外の外装部13の素材は、金属、セラミックス又はそれ以外の素材である。外装部13は、例えば、金属、セラミックス又はそれ以外の素材から成る箔、板、又はこれらの複合部材が2つのフランジ11bの間に設けられることで形成される。
【0032】
<インダクタ部品の他の構造>
インダクタ部品1を構成する磁性基体11などの形状は
図1、
図2に示された形状に限定されない。
図3は、インダクタ部品の他の構造例を示す斜視図であり、
図4は、
図3のインダクタ部品の断面および側面を示す図である。
図4には、
図3に示すB-B線に沿った断面および側面が示されている。
【0033】
図3および
図4に示すインダクタ部品1も、基体11と外部電極12と外装部13とを有し、内部にコイル導体14を有する。
図3および
図4に示す例の場合、インダクタ部品1は直方体状の外形を有する。但し、インダクタ部品1の外面の一部が湾曲している場合や、インダクタ部品1の角部や稜線部が丸みを有している場合にも、かかる形状を「直方体形状」と称することがある。つまり、本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」を意味するものではない。
【0034】
図3および
図4に示す例における磁性基体11は長さ方向Lに延びる巻芯11aを有し、フランジ11bは、長さ方向Lに延びた巻芯11aの両端に設けられている。また、
図3および
図4に示す例における外部電極12は、2つのフランジ11bそれぞれの底面1b側に設けられている。
【0035】
図4に示す例においてコイル導体14の周回部14bは、導体がインダクタ部品1の上面1aおよび底面1bに交わる方向に巻かれた、いわゆる垂直巻きとなっている。
図3に示す外観のインダクタ部品1は、
図4とは異なる内部構造を有してもよい。
図5は、
図3のインダクタ部品1における他の内部構造を示す断面および側面を示す図である。
【0036】
図5に示すインダクタ部品1では、磁性基体11はTコアと称されるタイプであり、磁性基体11は高さ方向Hに延びる巻芯11aを有し、フランジ11bは巻芯11aの底面1b側の一端にのみ設けられている。
図5に示すインダクタ部品1において、コイル導体14の周回部14bは、導体がインダクタ部品1の上面1aおよび底面1bに沿って巻かれた水平巻きとなっている。インダクタ部品1の上面1a側は外装部13によって覆われている。
【0037】
<導体の構造>
次にコイル導体14の詳細構造について説明する。
図6は、
図5に示す構造のインダクタ部品1における磁性基体11とコイル導体14との関係を示す断面図である。
図6には、上段に、LH面に平行な面で切断した断面が示され、下段に、LW面に平行な面で切断した断面が示されている。
【0038】
図6に示す例において、磁性基体11は、断面が正方形の四角柱状の巻芯11aを有する。コイル導体14の周回部14bでは、巻芯11aの延びる高さ方向Hに1段目の導体41が並べられ、1段目の導体41の外側に2段目の導体42が重なっている。1段目の導体41は、例えばフランジ11b側から巻き始められ、巻芯11aの先側に向かって巻き進められる。また、2段目の導体42は1段目の端部から1段目の外側に重なり、巻芯11aの先側から巻き始められ、フランジ11b側に向かって巻き進められる。
【0039】
3段目以降についても同様であり、奇数段はフランジ11b側から巻き始められて巻芯11aの先側に向かって巻き進められ、偶数段は巻芯11aの先側から巻き始められ、フランジ11b側に向かって巻き進められる。
図示は省略するが、引出部14aは周回部14bの最内周側と最外周側のそれぞれにおける導体の端部に繋がっている。つまり、本実施形態のコイル導体14は1本の線状の導体によって形成されており、1段目の導体41と2段目の導体42は直列に繋がっている。
【0040】
ここで、比較例について説明する。比較例では、トラバースと称される方法で導体が巻芯11aに巻き付けられる。
図7~
図9は、比較例において巻芯11aに巻き付けられた導体の展開図である。
図7~
図9には、巻芯11aをLW面にほぼ平行に周回した導体が、周回方向に展開されて示されている。また、
図7~
図9には、四角柱状の巻芯11aにおける稜線に相応する箇所が点線で示されている。
図7には1段目の導体401が巻かれた状態が示され、
図8には2段目の導体402が巻かれた状態が示され、
図9には3段目の導体403が巻かれた状態が示されている。
【0041】
図7に示すように、比較例における1段目の導体401は、巻芯11aの1周当たり導体401の太さ分だけ均一に導体401の位置が移動されながらフランジ11b側から巻芯11aの先側に向かって巻芯11aに巻き付けられている。この結果、1段目の導体401は導体401全体がLW面に対して均一に傾く。
【0042】
図8に示すように、比較例では、2段目の導体402も、巻芯11aの1周当たり導体402の太さ分だけ均一に導体402の位置が移動されながら1段目の導体401に重ねて巻き付けられる。
2段目の導体402の場合、導体402の移動方向は巻芯11aの先側からフランジ11b側に向かうので、2段目の導体402は、1段目の導体401とは逆側に、LW面に対して均一に傾く。つまり、2段目の導体402は、1段目の導体401に対し、全体的に交差した状態で重なる。
【0043】
図9に示すように、比較例における3段目の導体403は、1段目の導体401と同様に、1周当たり導体403の太さ分だけ均一に導体403の位置が移動されながらフランジ11b側から巻芯11aの先側に向かって2段目の導体402に対して巻き付けられる。この結果、3段目の導体403は、2段目の導体402に対し、全体的に交差した状態で重なる。
【0044】
1段目から3段目の導体401、402、403がこのように重なることで、比較例では、巻芯11aの第1稜線101および第3稜線103における導体401、402、403の重なり状態と、巻芯11aの第2稜線102および第4稜線104における導体401、402、403の重なり状態とが異なる。
【0045】
図10は、巻芯11aの第1稜線101、第3稜線103における導体401~403の重なり状態を示す断面図であり、
図11は、巻芯11aの第2稜線102、第4稜線104における導体401~403の重なり状態を示す断面図である。
第1稜線101、第3稜線103の箇所では、
図10に示すように、下段の導体401、402に対して上段の導体402、403が真上に重なる。これに対し、
図11に示すように、第2稜線102、第4稜線104の箇所では、下段の導体401、402同士の間に上段の導体402、403が嵌るように重なる。つまり、比較例における周回部400は、第2稜線102、第4稜線104の箇所で導体401~403の重なった高さが低く、第1稜線101、第3稜線103の箇所で導体401~403の重なった高さが高い。その結果、周回部400全体としては導体401~403の相互間に無駄なスペースが多く、周回部400の体積が大きいので、インダクタ部品の小型化が難しい。
【0046】
図6に戻って説明を続ける。
本実施形態において、周回部14bは、巻芯11aの周囲に並行領域Rpと斜交領域Rcとを有する。1段目の導体41の外側に巻き付けられた2段目の導体42における1周のうち、並行領域Rpに位置する並行部42aは、1段目の導体41に並行に巻き付けられている。また、2段目の導体42における1周のうち、斜交領域Rcに位置する斜交部42bは、1段目の導体41に対して斜交して巻き付けられ、1段目の導体41を跨いでいる。並行部42aは斜交部42bよりも長く、
図6に示す例において並行部42aは、1周の4分の3以上に及ぶ。
【0047】
図12~
図14は、本実施形態において巻芯11aに巻き付けられた導体の展開図である。
図12~
図14には、巻芯11aをLW面にほぼ平行に周回した導体が、周回方向に展開されて示されている。また、
図12~
図14には、四角柱状の巻芯11aにおける稜線に相応する箇所が点線で示されている。
図12には1段目の導体41が巻かれた状態が示され、
図13には2段目の導体42が巻かれた状態が示され、
図14には3段目の導体43が巻かれた状態が示されている。
【0048】
図12に示すように、1段目の導体41は、フランジ11b側に片側寄せするように巻き始められ、LW面に平行に巻芯11aの4分の3周巻き付けられ、次の4分の1周で導体41の太さ分H方向に移動する。これが繰り返されて、1段目の導体41は、フランジ11b側から巻芯11aの先側へと巻き進められ、1段目の各導体41は巻芯11aに沿ってH方向に並ぶことになる。つまり、1段目の導体41は、巻芯11aに垂直な方向に巻き付けられる垂直部分41aと、巻芯11aに対して導体41の太さ分傾斜する傾斜部分41bとを有する。垂直部分41aは、傾斜部分41bより長く設けられている。
【0049】
図13に示すように、2段目の導体42は、1段目の導体41に重ねて、巻芯11aの先側からフランジ11b側へと巻き付けられる。並行領域Rpで2段目の導体42は、1段目の導体41と並行に巻き付けられた並行部42aとなっている。また、斜交領域Rcで2段目の導体42は、1段目の導体41に対して斜交して巻き付けられて1段目の導体41を跨ぐ斜交部42bとなっている。つまり、1段目の垂直部分41aに2段目の導体42が重なって並行部42aとなり、1段目の傾斜部分41bに2段目の導体42が重なって斜交部42bとなる。この並行部42aは、1段目の導体41と2段目の導体42が並行して重なっていることを意味する。斜交部42bは、1段目の導体41と2段目の導体42とが交差して重なっていることを意味する。また、斜交部42bでは、1段目の導体41と2段目の導体42とが、導体41の太さ2本分ずれた角度で交差する。
【0050】
図14に示すように、3段目の導体43は、2段目の導体42に重ねて、フランジ11b側から巻芯11aの先側へと巻き付けられる。並行領域Rpで3段目の導体43は、2段目の導体42と並行に巻き付けられた並行部43aとなっている。また、斜交領域Rcで3段目の導体43は、2段目の導体42に対して斜交して巻き付けられて2段目の導体42跨ぐ斜交部43bとなっている。更に、本実施形態の場合、2段目の導体42における斜交部42aと3段目の導体43における斜交部43bが、いずれも斜交領域Rcに存在し、斜交部42a、43b同士が重なり合っている。
【0051】
本実施形態の周回部14bでは、図示が省略されているが4段目以降も同様に、下段の導体に対して上段の導体が巻き付けられ、各段の導体は互いに直列に繋がっている。また、4段目以降の導体における斜交部も、2段目および3段目の斜交部42b、43bに重なる。
【0052】
図15は、並行領域Rpにおける導体41、42、43の重なり状態を示す断面図である。並行領域Rpでは、どの箇所でも、上段の導体42、43の並行部42a、43aが下段の導体41、42同士の間に重なっている。このため、互いに接しあう3つの導体41、42、43では正三角形状の配置が実現され、導体41、42、43の密度が高い。
【0053】
また、並行部42a、43aが斜交部42b、43bよりも長いため、周回部14bの全体として高い密度で導体41、42、43が重なり合うことになり、インダクタ部品1の小型化に寄与する。つまり、斜交部42b、43bでは、上段の導体42、43が下段の導体41、42を斜めに乗り越えて外側に膨むが、斜交部42b、43bが並行部42a、43aよりも少ないため、周回部14bの全体では体積が抑制され、インダクタ部品1の小型化が可能となる。
【0054】
本実施形態では並行部42a、43aが1周の4分の3以上に達するため、導体41、42、43の密度は一層高く、小型化への寄与も高い。また、各段の斜交部42b、43bが、巻芯11a周りの1周のうち1箇所のみの斜交領域Rcに集中して存在するため、他の箇所では並行部42a、43aが連続して導体41、42、43の稠密な重なりが効率良く得られる。
【0055】
並行部42a、43aが多く設けられることで、巻乱れと称される不安定な状態の導体形成も抑制される。さらに、並行部42a、43aが活用されることで、導体に強い張力(負荷)が掛けられなくても上段の導体42、43が下段の導体41、42に掛かり易く、細い導体でも容易に巻き付けられる。
【0056】
<変形例>
上記実施形態では、断面が正方形の四角柱状の巻芯11aを有した磁性基体11が一例として示されているが、磁性基体11は断面が例えば長円形や楕円形や円形の巻芯11aを有してもよい。以下の説明では、上記実施形態と同様の要素については同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0057】
図16および
図17は、巻芯11aの断面が長円形である変形例を示す図である。
図16および
図17には、
図6の下段に示された断面図と同様の位置および向きの断面図が示されている。
図16および
図17の例では、巻芯11aの断面が長円形となっている。なお図示の便宜上、
図16と
図17とで異なる向きに長円が示されているが同等の長円であるものとする。
図16の例では巻芯11aを周回する1周のうち、長円の直線部分に相当する1箇所が斜交領域Rcとなり、他の箇所が並行領域Rpとなっている。
図17の例では、長円の円弧部分に相当する1箇所に斜交領域Rcが設けられている。
【0058】
図16の例でも
図17の例でも、並行領域Rpは斜交領域Rcよりも長く、
図16の例では並行領域Rpが1周の4分の3以上に達している。巻芯11aの断面が長円形でも、並行領域Rpでは上段の導体42の並行部42aが下段の導体41に対して稠密に重なるため、導体41、42の重なる密度が高く、インダクタ部品1の小型化に寄与する。
【0059】
上記実施形態では、磁性基体11がTコアである例が示されているが、磁性基体11はドラムコアであってもよい。
図18および
図19は、ドラムコアの磁性基体11に巻かれた導体を示す図であり、
図18には展開図が示され、
図19には断面図が示されている。
【0060】
ドラムコアの磁性基体11は巻芯11aの両端にフランジ11bを有し、周回部14bの導体41、42、43は、2つのフランジ11bの間で巻芯11aの周囲に巻き付けられる。上段の導体42、43が下段の導体41、42に重ねられる際に、特に巻き初めでフランジ11bに支えられるため、上段の導体42、43であっても、フランジ11b間いっぱいに巻き付け可能である。従って、同一の巻き数であっても導体41、42、43の段数が抑制され、インダクタ部品1の小型化に寄与する。
【0061】
ここで、フランジ11bの相互間隔Wfと、絶縁被膜を含む導体41、42、43の直径Dと、1段目の導体41の巻き数N1について、Wf-D×N1と表される差分が径Dの±10%以内となっていることが望ましい。差分が径Dの±10%以内であると、導体42、43の斜交部42b、43bが斜交領域Rcに自ずと集中することになり、安定した周回部14bが得られる。
【0062】
図20は、差分が径Dの±10%を超える場合の状態を示す図である。
図20に示す例では、導体42、43が磁性基体11に巻かれていく際に、例えば2段目の斜交部42bと3段目の斜交部43bの位置が導体42、43の周回方向にずれる。同様に、4段目以降も斜交部が周回方向にずれるため、
図19に示す例に較べると周回部14bの安定度が低い。
【0063】
なお、上記説明では、周回部14bにおける導体の最内周と最外周に引出部14aが繋がっている例が示されているが、2つの引出部14aが両方とも周回部14bの最外周に繋がったいわゆるα巻きでもよいし、あるいは、これらの組み合わせでもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 インダクタ部品
2 回路基板
2a 基板
3 ランド部
11 磁性基体
11a 巻芯
11b フランジ
12 外部電極
14 コイル導体
14a 引出部
14b 周回部
41、42、43 導体
42a、43a 並行部
42b、43b 斜交部