(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010762
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】光触媒を用いた水素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
C01B3/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112239
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
(57)【要約】
【課題】 光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置にして、水中に光源装置を配置して水を加温し、水素ガスの製造効率とエネルギー効率を向上するよう構成された装置に於いて、光透過表面と水層との界面での光線の全反射を回避し、水素ガスの発生に寄与するエネルギーの利用効率を向上する。
【解決手段】 水素ガス製造装置1は、であって、水Wを受容する容器部2と、水中に配置されて水中へ向けて水の分解反応を惹起する光を発する光源装置3とを含み、光源装置の光の透過する光透過表面6に、該光透過表面の屈折率よりも高い屈折率を有し、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒物質から成る光触媒層7が被覆され、光触媒層が水に接触している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水中に配置されて水中へ向けて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源装置と
を含み、
前記光源装置の光の透過する光透過表面に、該光透過表面の屈折率よりも高い屈折率を有し、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒物質から成る光触媒層が被覆され、前記光触媒層が前記水に接触している装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス製造装置に係り、より詳細には、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
燃焼しても二酸化炭素を生じないクリーンな次世代の燃料としての利用が期待されている水素ガスは、光触媒を用いた光エネルギーによる水の分解反応により生成できるので、光触媒を用いた水素ガスの製造技術が種々提案されている。例えば、特許文献1は、光触媒粒子が分散された水を、受光窓を有する筐体内に循環させて、光による水の分解反応を起こし、水素ガスを発生させる水素発生装置の構造を提案している。本願出願人による特許文献2は、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒を担持する光触媒部材を容器部内の水に浸漬されるように配置し、光源から光触媒部材へ光を照射する装置に於いて、光触媒部材に於いて分解されることとなる容器内の水を光源の排熱により加温して、水温を高めることで、水素ガスの製造効率を向上させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-218103
【特許文献2】特開2022-63186
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Takata,他8名 ネイチャー(Nature),volume 581,411-414頁 2020年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されている如く、水素ガスの製造効率の上昇のための水の加温に光源の排熱を利用すると、水素ガス製造に関わるエネルギーの利用効率も向上される。そのような構成の一つとして、光源装置を水中に配置して水を光源装置の外表面に直接に接触させる構成が考えられる。かかる構成の場合、光源装置の外表面から水の層へ光を透過させることが企図されるところ、光源装置の光が透過する部分の外表面(光透過表面)の屈折率が水の屈折率よりも高いときには、光透過表面と水層との界面にて入射角が臨界角を超える光線が全反射により水層へ透過せず、水素ガスの発生に寄与しないこととなり、その分、エネルギーの利用効率が低下することとなる。この点に関し、光透過表面と水層との界面での全反射を回避するには、光透過表面の屈折率を水よりも低くすれば良いが、光透過表面は、一般に透明で硬質な、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ガラスなどの材料で形成されるので、その屈折率は、水よりも高くなる。従って、光透過表面と水層との界面での全反射の回避のためには、新規な構成が必要である。
【0006】
かくして、本発明の課題は、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置にして、水中に光源装置を配置して水を加温し、水素ガスの製造効率とエネルギー効率を向上するよう構成された装置に於いて、光透過表面と水層との界面での光線の全反射を回避し、水素ガスの発生に寄与するエネルギーの利用効率を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、上記の課題は、水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水中に配置されて水中へ向けて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源装置と
を含み、
前記光源装置の光の透過する光透過表面に、該光透過表面の屈折率よりも高い屈折率を有し、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒物質から成る光触媒層が被覆され、前記光触媒層が前記水に接触している装置
によって達成される。
【0008】
上記の構成に於いて、「光触媒物質」は、上記の如く、光(典型的には、365nm以下の波長の光)を照射されると、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる物質であり、具体的には、チタン酸ストロンチウムなどの、この分野で利用可能な光触媒物質であってよい。「光源装置」は、電力の供給を受けて、光触媒物質に吸収されて水の分解反応を惹起させる光を発する任意の形式のものであってよく、光源としては、LED、有機EL、白熱ランプ、キセノンランプなどであってよい。光源装置に於いて、光源は、基板に担持され、その外周が封止材又は外套部材により覆われて、防水された状態で、その装置ごと水中に配置され、特に、封止材又は外套部材に於ける光源からの光線が通る部分、即ち、光透過表面は、透明で硬質の、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ガラスなどの材料で形成される。また、光源を支持する基板は、熱伝導性の高い材料で形成されるのが好ましく、典型的には、アルミニウムなどの金属材料やガラスエポキシ樹脂などにて形成されてよい。そして、特に、本発明の構成に於いては、光透過表面が、上記の光触媒物質から成る光触媒層により被覆されることとなる。
【0009】
上記の如く、光源装置の光透過表面が光触媒物質から成る光触媒層により被覆される構成によれば、通常、光透過表面を形成する透明で硬質の材料の屈折率(1.4~1.6程度)よりも、光触媒物質の屈折率(例えば、2.4)が高いので、光源からの光線は、光透過表面へ到達した際、そこに於いて全反射することなく、光触媒層に進入し、光触媒物質を励起して、励起電子と正孔を発生させることとなる。そして、光触媒層は、水に接触した状態にあるので、そこで発生した励起電子と正孔と水とが反応して、水の分解反応が生ずることなる。ここに於いて、光源の排熱が水に伝導して水が加温されているので、水素ガスの製造効率が増大されると共に、光透過表面に到達した光線が全反射せずに光触媒へ照射されるので、水素ガスの製造に寄与する光エネルギーが増大し、エネルギーの利用効率も向上されることとなる。
【0010】
上記の構成に於いて、光透過表面への光触媒層の被覆は、任意の態様により達成可能である。例えば、粉末状の光触媒物質を有機溶媒に分散した溶液を光透過表面に適用し、乾燥することで、光触媒物質が光透過表面上に吸着し、光透過表面上が光触媒物質の粉末で被覆されることとなる。また、粉末状の光触媒物質が任意の透明な樹脂溶液に分散されて、かかる樹脂溶液を光透過表面上に適用して、樹脂を硬化させて光触媒層が形成されてもよい。なお、光触媒物質は、一般に、光が照射されて励起電子と正孔を発生する半導体粒子に、励起電子と正孔を受け取って水と反応させる助触媒が付加されて利用される(例えば、非特許文献1参照)。従って、光触媒層に用いられる光触媒物質は、半導体粒子に助触媒を付加したものであってよい。また、別の態様としては、光透過表面上に半導体粒子の層を形成した後に、その半導体粒子層の上に助触媒から成る層が形成されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
かくして、上記の本発明では、光触媒を用いた水の分解反応による水素ガスの製造に於いて、光源装置を水中に沈め、光源の排熱が水中に放出されるようにして、水を昇温して、光触媒効率の向上を図る構成に於いて、光源装置の光透過表面を、それよりも屈折率の高い光触媒層で被覆することで、光源からの光線が光透過表面で全反射することを回避し、これにより、光触媒に照射される光量が増大されることとなる。かかる構成によれば、光源装置内に閉じ込められる光量が低減し、光触媒層にて水素ガスの発生に寄与する光エネルギーが増大するので、エネルギーの利用効率の向上が期待される。また、本発明の装置の光源を太陽光エネルギー由来の電力で作動する態様の場合には、二酸化炭素を排出せずに、効率的に水素エネルギーを得ることが可能となる。
【0012】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態による水素ガス製造装置の一つの模式図であり、
図1(B)、(C)は、その光源装置の模式的な側方断面図である。
【
図2】
図2(A)は、本実施形態による光源装置の光透過表面近傍の光線の進路を模式的に示した図である。
図2(B)は、本実施形態を適用しない場合の光源装置の光透過表面近傍の光線の進路を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、光源から放出される光線の範囲を表わした図であり、本実施形態を適用しなかった場合に光透過表面で全反射する光線の範囲を説明している。
【符号の説明】
【0014】
1…水素ガス製造装置
2…容器部
3…光源装置
4…光源
5…基板
6…プリント基板
7…光触媒層
7a…光触媒(半導体粒子)層
7b…助触媒層
W…水
L…光線
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
水素ガス製造装置の構成
図1(A)を参照して、本実施形態の水素ガス製造装置1は、一つの態様に於いて、水(液体)Wを受容する任意の形態の容器部2と、容器部2内の水中に配置され、光を発する光源装置3と、発生した水素ガスと酸素ガスとを分離器へ送る送気管2aとを有する。
図1(B)を参照して、光源装置3は、詳細には、発光する光源4が基板5上に載置され、光源4の周囲が透光性の封止材又は外套部材6により覆われた構成を有し、更に、透光性の封止材又は外套部材6の外表面が光触媒物質から成る光触媒層7により被覆される。
【0016】
上記の構成に於いて、光源4は、後に詳述される光触媒物質に吸収されて水の分解反応を惹起する光を放出する任意の発光体であってよい。光触媒物質の吸光率及び量子収率は、或る波長より短波長側の光が照射されたときに増大する波長特性を有しているので、光源4は、光触媒物質の吸光率及び量子収率が増大する波長帯域の光を発生する発光素子又は発光体が選択される。具体的には、発光素子又は発光体として、インジウム窒化ガリウム(InGaN)、ダイヤモンド(紫外)、窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)(紫外、青)、セレン化亜鉛(青)、酸化亜鉛(近紫外、紫、青)などを用いた種々の発光ダイオード(LED)が採用されてよい。なお、光源4は、水中に配置できる構成であれば、有機EL、白熱ランプ、キセノンランプ、水銀ランプなどであってもよい。光触媒物質として、例えば、SrTiO3が用いられている場合には、照射光の波長が380nmを下回ると、吸光率及び量子収率が増大するので、360~370nmに発光波長のピークを有するInGaN系のLEDが光源装置4の発光体として有利に用いることが可能である。光源4を支持する基板5は、この分野で使用される任意の材料にて形成されてよい。特に、光源からの排熱4が水へ伝導され易くするために、熱伝導性の高い金属材料、ガラスエポキシ樹脂、セラミックなどが用いられてよい。
【0017】
光源装置3に於いて光源4を覆う封止材又は外套部材6は、透光性が硬質の光源を封止するために利用される任意の材料であってよい。封止材又は外套部材6の材料としては、具体的には、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ガラス、石英ガラスなどであってよい。
【0018】
そして、上記の如く、封止材又は外套部材6の外表面には、光を照射されると、光子を吸収して励起電子と正孔とを生成し、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる光触媒物質の層(光触媒層)7が被覆される。光触媒物質としては、例えば、SrTiO
3(チタン酸ストロンチウム)、La
2Ti
2O
7(チタン酸ランタン)、Ga
2O
3(酸化ガリウム)、GaN(窒化ガリウム)、NaTaO
3(タンタル酸ナトリウム)、TiO
2(酸化チタン)、炭化ガリウム、炭化セリウムなどが利用可能である。典型的には、これらの光触媒物質は、粉末状に生成された半導体粒子の表面に助触媒(Rh(ロジウム)、Cr(クロム)、Co(コバルト)など)が付加された状態で調製される(例えば、非特許文献1参照)。また、本発明の発明者等の研究によれば、かかる光触媒物質は、上記の封止材又は外套部材6の表面に吸着して固定される性質を有していることが見出されている。そこで、光触媒層7は、粒子状の光触媒物質を有機溶剤等に分散した後、その溶液を封止材又は外套部材6の表面に適用し、乾燥して、溶剤を除去することにより、形成することが可能である。また、任意の樹脂(ただし、封止材又は外套部材6よりも屈折率が高いものが好ましい)に、光触媒物質を分散したものを封止材又は外套部材6の表面に適用して硬化させることで、光触媒層7が形成されてもよい。なお、
図1(C)の如く、封止材又は外套部材6の表面に光触媒物質となる半導体粒子の層7aを形成し、更に、その上に助触媒の層7bを形成するようになっていてもよい。半導体粒子への助触媒の付加は、例えば、非特許文献1に記載されている如き、光電着による方法が用いられてよい。また、光触媒物質は、水中に分散されていてもよく、これにより、水中まで透過した光線により励起されて、水の分解反応を惹起して、水素ガスを発生できるようになっていてよい。
【0019】
容器部2に貯留される水は、光触媒物質にて発生した励起電子と正孔とが水分子以外の物質と反応することを回避すべく、不純物ができるだけ除去された超純水が好ましい。
【0020】
光透過表面での光線の進路
図2(B)をまず参照して、光源装置3が水中Wに配置される構成に於いて、封止材又は外套部材6に於ける光が水中Wへ透過する表面(光透過表面)に光触媒層がなく、光透過表面が直接に水層と接触している場合、通常、光透過表面(封止材又は外套部材6)の屈折率ne(1.5~1.6程度)は、水の屈折率nw(1.33)よりも大きいので、光透過表面と水層との界面に於いて、入射角θが臨界角より大きい光線Lは、全反射し、水層へ進入せず、光透過表面の内側に閉じ込められ、水素ガスの発生に寄与しないこととなる。即ち、
図2(B)の構成の場合、水素ガスの発生に寄与せずに損失となる光エネルギーが多くなる。
【0021】
そこで、本実施形態に於いては、
図1にて説明された如く、光透過表面が光触媒層7により被覆される。そうすると、光触媒層7に用いられる物質の屈折率ncは、例えば、2.4(チタン酸ストロンチウムの場合)程度であり、通常、光透過表面の内側の屈折率neより高いので、
図2(A)の如く、光源4からの光線Lは、光透過表面と光触媒層7との界面で、光触媒層7側に屈折し、全反射しないので、光触媒層7へ透過する光量が多くなる。そして、光触媒層7は、直接に水層Wに接触しているので、光触媒層7で光線Lの照射により発生した励起電子と正孔とが、水分子と反応して、水素ガスと酸素ガスが発生するところ、上記の如く、光触媒層7に進入した光量が多くなっているので、より多くの水素ガスが発生することが期待される。即ち、本実施形態の構成によれば、光源4の放出した光エネルギーのうちの水素ガスの発生に寄与するエネルギーの割合の増大が期待される。具体的には、
図3を参照して、例えば、光源4から放出される光線の指向角度θdが120°としたとき、光透過表面に水層が接触している場合には、臨界角θcが約55°となるので、θe(=θd-θc-90°)の範囲の光線が全反射により、水層に進入できないが、本実施形態の場合には、かかる全反射していた光線が光触媒層7に進入して水素ガスの発生に寄与することとなり、エネルギーの利用効率が約1割程度にて向上することが見出される。
【0022】
かくして、本実施形態では、光源装置を水中に沈め、光源の排熱が水中に放出されるようにして、水を昇温して、光触媒効率の向上を図る水素ガス製造装置の構成に於いて、光源装置の光透過表面を、それよりも屈折率の高い光触媒層で被覆することで、光源からの光線が光透過表面で全反射することを回避して、光触媒に照射される光量を増大し、水素ガスの発生に寄与する光エネルギーの増大が図られる。
【0023】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。