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  • 特開-消音装置、および作業機械 図1
  • 特開-消音装置、および作業機械 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107621
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】消音装置、および作業機械
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20240802BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20240802BHJP
   F02M 35/12 20060101ALI20240802BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/178 100
F02M35/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011641
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 大輝
(72)【発明者】
【氏名】河野 篤史
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061CC04
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】消音効果を確保しつつ、消音装置の大型化を抑えることができる消音装置、および作業機械を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、騒音源から発される音を伝搬する吸気管と、前記吸気管内に連通するように一端が前記吸気管に接続され、前記一端から他端に向けて前記吸気管の延伸方向と交差する方向に延びるブランチ管と、前記ブランチ管の前記他端を閉塞するように設けられ、前記ブランチ管の前記一端における音響インピーダンスを調整するインピーダンス調整部と、を備える消音装置である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発される音を伝搬する吸気管内に連通するように一端が前記吸気管に接続され、前記一端から他端に向けて前記吸気管の延伸方向と交差する方向に延びるブランチ管と、
前記ブランチ管の前記他端を閉塞するように設けられ、前記ブランチ管の前記一端における比音響インピーダンスを調整するインピーダンス調整部と、
を備える消音装置。
【請求項2】
前記インピーダンス調整部は、
前記ブランチ管の前記他端を塞ぐように設けられ、前記ブランチ管内に向けて音波を発生する音波発生部材と、
前記音波発生部材を駆動するコントローラと、を備える
請求項1に記載の消音装置。
【請求項3】
前記インピーダンス調整部は、
前記吸気管から前記ブランチ管に流れ込み、前記音波発生部材に到達する音波の音圧を検出するセンサを更に備え、
前記コントローラは、前記センサで検出された前記音圧に基づいて、前記音波発生部材の駆動を制御することで、前記ブランチ管の前記一端における比音響インピーダンスを調整する
請求項2に記載の消音装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記音波発生部材の振動速度を調整する
請求項3に記載の消音装置。
【請求項5】
前記騒音源としてのエンジンと、
一端が前記エンジンに接続された前記吸気管と、
請求項1から4のいずれか一項に記載の消音装置と、を備える
作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消音装置、および作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、騒音源から発される騒音を伝搬する筒状の騒音伝搬経路と、騒音伝搬経路に接続されたサイドブランチ用分岐路と、を備えるサイドブランチ型の消音装置が開示されている。サイドブランチ用分岐路の管長を、騒音源から発される音波の波長の1/4に設定することで、サイドブランチ用分岐路に流れ込んだ後に騒音伝播経路に戻る音波は、騒音源から発される音波の逆位相となり、騒音源から発される音を打ち消すことができる。
しかしながら、騒音の周波数が低いほど、音波の波長が長くなるため、サイドブランチ用分岐路の管長も大きくなり、消音装置の大型化に繋がってしまう。
【0003】
これに対し、特許文献1に開示された構成では、サイドブランチ用分岐路の基端部の開口を閉塞部材で部分的に塞ぎ、開口面積を小さくすることで、開口を閉塞しない場合に比べ、消音効果が最も高い周波数を低周波域にシフトさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-169092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、サイドブランチ用分岐路の基端部の開口を閉塞部材で部分的に塞ぐと、サイドブランチ用分岐路に音波が侵入しにくくなるため、消音効果が低くなってしまうという課題があった。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、消音効果を確保しつつ、消音装置の大型化を抑えることができる消音装置、および作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示の一態様は、騒音源から発される音を伝搬する吸気管と、前記吸気管内に連通するように一端が前記吸気管に接続され、前記一端から他端に向けて前記吸気管の延伸方向と交差する方向に延びるブランチ管と、前記ブランチ管の前記他端を閉塞するように設けられ、前記ブランチ管の前記一端における比音響インピーダンスを調整するインピーダンス調整部と、を備える消音装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の各態様によれば、消音効果を確保しつつ、消音装置の大型化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る作業機械に備えた消音装置の構成を示す概略図である。
図2】実施形態に係る消音装置の断面図である。
図3】実施形態に係る振動板に相当する1自由度振動系のモデル図である。
図4】実施形態に係る消音装置における消音効果の検討例を示す図である。
図5】実施形態に係る消音装置の位置に関する検討例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る作業機械に備えられた消音装置の構成を示す図である。図2は、実施形態に係る消音装置の断面図である。図1に示すように、作業機械1は、騒音源としてのエンジン2と、消音装置10と、を少なくとも備えている。作業機械1は、施工現場にて稼働する、モータグレーダ、油圧ショベル、ブルドーザ、ホイールローダ等である。ここで、作業機械1は、騒音源となるエンジン2を備えるものであれば、いかなる構成、用途であってもよい。
【0012】
エンジン2は、作業機械1の走行、作業機械1が備える、各種の作業を行うための作業機(図示無し)の駆動源等として用いられる。エンジン2には、外部から空気を取り込む吸気管5の基端部が接続されている。吸気管5は、音を伝播する伝播管である。吸気管5で伝播する音は、騒音源となるエンジン2から発される騒音である。吸気管5は、エンジン2から離間する方向に延びている。吸気管5の先端部は、開口端とされている。本実施形態において、吸気管5の先端部には、外部から取り込む空気に混在する異物を除去するエアクリーナー7が接続されている。
【0013】
消音装置10は、吸気管5を通して伝播される、騒音源としてのエンジン2から発せられる音を低減する。消音装置10は、吸気管5に備えられている。本実施形態において、消音装置10は、ブランチ管11と、インピーダンス調整部20と、を備えている。
【0014】
ブランチ管11は、円管状で、吸気管5に接続されている。ブランチ管11は、吸気管5の基端部と先端部との間の中間部で、吸気管5に接続されている。ブランチ管11の一端11aは、吸気管5に連通するように接続されている。ブランチ管11の一端11aは、吸気管5内に連通する開口11hを有している。ブランチ管11は、一端11aから他端11bに向けて、吸気管5の延伸方向に直交する方向に延びている。ブランチ管11は、一端11aと他端11bとを結ぶ方向に、予め設定された所定の管長Lを有している。
【0015】
図2に示すように、インピーダンス調整部20は、ブランチ管11の他端11bに接続されている。インピーダンス調整部20は、他端11bを閉塞するように設けられている。インピーダンス調整部20は、音波発生部材21と、エンクロージャー22と、コントローラ23と、センサ24と、を備えている。
【0016】
音波発生部材21は、いわゆるスピーカーユニットである。音波発生部材21は、いわゆるコーンである振動板21aと、振動板21aを駆動するコイル21bと、を備えている。音波発生部材21は、コイル21bに後述するコントローラ23によって駆動電流が印加されることで、振動板21aが振動し、ブランチ管11内に音波を発生する。振動板21aは、ブランチ管11の延伸方向から見て円形をなしている。ブランチ管11内に向けて音波を効率良く伝播させるため、振動板21aの直径は、ブランチ管11の内径と同等にするのが好ましい。本実施形態において、振動板21aの直径は、ブランチ管11の内径とほぼ同等とされている。
【0017】
エンクロージャー22は、中空箱状をなしている。エンクロージャー22は、例えば直方体状で、その一面に形成された貫通孔22hに、音波発生部材21が装着されている。
センサ24は、ブランチ管11内で、音波発生部材21の近傍に設けられている。センサ24は、吸気管5からブランチ管11に流れ込み、音波発生部材21に到達する音波の音圧を検出する。
【0018】
コントローラ23は、音波発生部材21を駆動する。コントローラ23は、センサ24で検出された音圧に基づいて、音波発生部材21の駆動を制御することで、音波発生部材21における音響インピーダンスを調整する。具体的には、コントローラ23は、センサ24で検出された音圧に基づいて、音波発生部材21の振動板21aの振動速度を調整することで、音波発生部材21における音響インピーダンスを調整する。例えば、コントローラ23は、センサ24で検出される音圧と、振動板21aの振動速度とが関連付けて記憶されたマップ情報等に基づいて、振動板21aの振動速度を調整する。
【0019】
ここで、ブランチ管11の延伸方向において、ブランチ管11の他端11bを塞ぐように設けられた振動板21aにより、ブランチ管11内の流路の境界が構成されている場合、音波発生部材21の振動板21aは、図3に示すような、1自由度振動系のモデルとして見なすことができる。このような1自由度振動系における機械インピーダンスZmは、次式(1)のように定義される。
【数1】
ここで、Fは、吸気管5からブランチ管11内に流れこんだ音波の音圧により振動板21aに作用する外力(音圧×振動板21aの面積)、Vは振動板21aの振動速度、jは虚数単位、Mは振動板21aの質量、Cは、振動板21aと空気による機械抵抗、Kは振動板21a自体の弾性、及び振動板21aの背面側のエンクロージャー22内の空気による弾性係数、ωは角周波数である。また、振動板21aの共振角周波数ωは、次式(2)のように定義される。
ω=(K/M)0.5 ・・・(2)
【0020】
上式(1)で表される振動板21aの機械インピーダンスZmと、ブランチ管11の他端11bで振動板21aによって形成される境界における比音響インピーダンスZaとの間には、次式(3)のような関係が成り立つ。
【数2】
ここで、Sは振動板21aの面積、pは振動板21a近傍における音圧、Vは振動板21aの振動速度である。
上式(3)から明らかなように、振動板21aによる境界位置における比音響インピーダンスZaは、振動板21a近傍の音圧pと、振動板21aの振動速度Vによって決まる。
【0021】
このような消音装置10では、騒音源としてのエンジン2から発せられる音の周波数に応じて、インピーダンス調整部20に、音を低減する音波の目標周波数を事前に設定する。
この場合、振動板21aによって形成される境界における、目標とする比音響インピーダンスZa′は、次式(4)で表され、振動板21aの目標共振角周波数ω′は、次式(5)のように定義される。ここで、C′は目標周波数での比音響インピーダンスである。
【数3】
【数4】
【0022】
上式(5)において、μ、μが、振動板21aによって形成される境界の共振周波数を変化させるパラメータである。また、共振している状態(ω=ω′)では、Za′=C′となり、C′を調整することで共振周波数において所望の比音響インピーダンスを得ることができる。
【0023】
このように、インピーダンス調整部20では、騒音源としてのエンジン2から発せられる音に基づいて、上記のパラメータ(μ、μ、C′)を変更することで目標とする比音響インピーダンスZa′を事前に設定しておく。そして、コントローラ23で、センサ24で検出された音圧に応じて、コイル21bに印加する電流値を変化させる。これにより、音波発生部材21の振動板21aが、センサ24で検出された音圧に応じた振動速度で振動して音圧を発し、所望の比音響インピーダンスが得られる。
【0024】
このような消音装置10では、吸気管5からブランチ管11内に流れこんだ音波が、管長Lを有したブランチ管11を往復することで、吸気管5内を流れる音波に対して位相差が生じる。さらに、ブランチ管11内で、振動板21aが、センサ24で検出されるブランチ管11内の音圧に対した振動速度で振動することで、ブランチ管11の位置で吸気管5を伝搬する音波に対して消音効果を発揮する。
ブランチ管11の一端11aが吸気管5内に臨む開口11hの位置における比音響インピーダンスZは、次式(6)のように表される。ここで、Zairは、空気の固有音響インピーダンスである。
【数5】
この式(6)において、Z=0となることによって、ブランチ管11内を往復して開口11hから吸気管5内に流入する音波が、吸気管5内を流れる音波と逆位相となり、吸気管5内を流れる音波が打ち消され、消音効果が得られる。
【0025】
したがって、騒音源としてのエンジン2で発せられる音の周波数に応じて、比音響インピーダンスZaを変化させることで、吸気管5の先端部側のエアクリーナー7から外部に漏出する音を低減させることができる。また、インピーダンス調整部20によってブランチ管11の一端における比音響インピーダンスを調整することで、ブランチ管の実行的な長さを伸ばすことができる。
【0026】
(作用・効果)
本実施形態によれば、消音効果を確保しつつ、消音装置10の大型化を抑えることができる。
【0027】
[検討例]
上記したような構成の消音装置10について、その消音効果についての検討を行ったので、以下にその結果を示す。
図1、2に示したような構成において、消音装置10のブランチ管11の内径は、吸気管5の内径と同一の150mmとした。吸気管5の長さは1420mm、ブランチ管11の長さは300mmとした。ブランチ管11は、吸気管5の延伸方向の中央部に配置した。実施例1,2では、このようなブランチ管11の他端11bに、インピーダンス調整部20を備えた。インピーダンス調整部20の音波発生部材21の振動板21aの直径は150mmとした。実施例1では、50Hzを目標周波数とし、比音響インピーダンスZaを設定した。実施例2では、65Hzを目標周波数とし、比音響インピーダンスZaを設定した。
比較のため、インピーダンス調整部20を備えず、長さ300mmのブランチ管11の他端11bを板で閉塞した比較例を用意した。
このような実施例1、2、比較例の各々において、吸気管5の一端に配した騒音源から周波数20~100Hzの音を発した場合に、吸気管5の他端における放射音の音圧レベルを測定した。
【0028】
その結果を図4に示す。
図4に示すように、インピーダンス調整部20を備えない比較例に対し、実施例1、2では、それぞれ目標周波数近辺で、大きな消音効果を有することが確認された。
実施例1、2では、インピーダンス調整部20と、長さ300mmのブランチ管11とを含め、インピーダンス調整部20の全長は570mmであった。インピーダンス調整部20を備えずにブランチ管11のみで、周波数50Hzの音波に対して有効な消音効果を得ようとした場合、ブランチ管11の長さは1720mmとなる。また、インピーダンス調整部20を備えずにブランチ管11のみで、周波数65Hzの音波に対して有効な消音効果を得ようとした場合、ブランチ管11の長さは1300mmとなる。したがって、インピーダンス調整部20とブランチ管11との双方を備えることで、消音効果を確保しつつ、消音装置の大型化を抑えることができることが確認された。
【0029】
さらに、吸気管5の延伸方向における、ブランチ管11の設置位置についての検討を行ったので、その結果を以下に示す。
上記実施例1、2と同様、消音装置10のブランチ管11の内径は、吸気管5の内径と同一の150mmとした。吸気管5の長さは1420mm、ブランチ管11の長さは300mmとした。検討例1として、ブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を、吸気管5の延伸方向の中央部に配置した。検討例2として、ブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を、吸気管5の延伸方向の基端部側(エンジン2側)に配置した。検討例3として、ブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を、吸気管5の延伸方向の先端部側(エアクリーナー7側)に配置した。また、比較のため、ブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を備えない、比較検討例を用意した。
このような検討例1~3、比較検討例の各々において、吸気管5の一端に配した騒音源から周波数20~100Hzの音を発した場合に、吸気管5の他端における放射音圧を、コンピュータによる解析により得た。
【0030】
その結果を図5に示す。
図5に示すように、インピーダンス調整部20を備えない比較検討例では、周波数25Hz近辺で、音波の1次モードの影響により、放射音圧が高く、また、周波数70Hz近辺では、音波の2次モードの影響により、放射音圧が高いことが確認された。
これに対し、吸気管5の延伸方向の中央部にブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を備えている検討例1では、全周波数域で、消音効果が得られていた。一方、吸気管5の延伸方向の基端部側(エンジン2側)にブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を備えている検討例2では、音波の1次モードと連成し、目標周波数を挟んで高周波側で、放射音圧が比較検討例よりも高くなっていることが確認された。また、吸気管5の延伸方向の先端部側(エアクリーナー7側)にブランチ管11、及びインピーダンス調整部20を備えている検討例3では、音波の2次モードと連成し、目標周波数を挟んで低周波側で、放射音圧が比較検討例よりも高くなっていることが確認された。
したがって、ブランチ管11、及びインピーダンス調整部20は、音波の1次モード、2次モードの影響を受けにくい位置に設けるのが好ましいことが確認された。
【0031】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…作業機械 2…エンジン 10…消音装置 11…ブランチ管 11a…一端 11b…他端 20…インピーダンス調整部 21…音波発生部材 23…コントローラ 24…センサ
図1
図2
図3
図4
図5