IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧 ▶ トーカロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複合部材 図1
  • 特開-複合部材 図2
  • 特開-複合部材 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107635
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240802BHJP
【FI】
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011661
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】土生 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 海人
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17C
4F100AA19C
4F100AA21C
4F100AA34C
4F100AB00A
4F100AB10B
4F100AB11B
4F100AB16A
4F100AB31A
4F100AB31B
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100DC11C
4F100EJ34A
4F100GB51
(57)【要約】
【課題】皮膜の剥がれや破壊を低減できる複合部材を提供する。
【解決手段】複合部材は、複合部材は、金属製の基材と、結晶性酸化物を主体とする皮膜と、基材と皮膜との間に介在する中間層と、を備え、皮膜の平均の厚さを中間層の平均の厚さで除した値は1.2以上6.5以下であり、皮膜の気孔率および中間層の気孔率は1.1%以上5.4%以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、結晶性酸化物を主体とする皮膜と、前記基材と前記皮膜との間に介在する中間層と、を備える複合部材であって、
前記皮膜の平均の厚さを前記中間層の平均の厚さで除した値は1.2以上6.5以下であり、
前記皮膜の気孔率および前記中間層の気孔率は1.1%以上5.4%以下である複合部材。
【請求項2】
前記皮膜は、Y及びYbの少なくとも1つとTiとOとが結合した複酸化物を主体とし、Y,Yb及びTiから選ばれる1種の単一元素とOとが結合した単純酸化物を含み、
前記皮膜の断面に現出する前記複酸化物の面積と前記単純酸化物の面積との合計に占める前記単純酸化物の面積の割合は5%以下である請求項1記載の複合部材。
【請求項3】
前記複合部材の断面において、前記基材と前記中間層とが接している第1の界面上の2点間の直線距離に対する前記2点間の前記第1の界面に沿った距離、及び、前記中間層と前記皮膜とが接している第2の界面上の2点間の直線距離に対する前記2点間の前記第2の界面に沿った距離は1.10倍以上1.25倍以下である請求項1又は2に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性酸化物を主体とする皮膜が、金属製の基材に設けられた複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の基材と、結晶性酸化物を主体とする皮膜と、皮膜と基材との間に介在する中間層と、を備える複合部材に係る先行技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-196931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では熱応力などにより皮膜が剥がれたり破壊したりするおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、皮膜の剥がれや破壊を低減できる複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の複合部材は、金属製の基材と、結晶性酸化物を主体とする皮膜と、基材と皮膜との間に介在する中間層と、を備え、皮膜の平均の厚さを中間層の平均の厚さで除した値は1.2以上6.5以下であり、皮膜の気孔率および中間層の気孔率は1.1%以上5.4%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合部材によれば皮膜の剥がれや破壊を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施の形態における複合部材の断面図である。
図2図1のIIで示す部分を拡大した複合部材の断面図である。
図3】複合部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における複合部材10の断面図である。本実施形態ではエンジンのシリンダーブロックに組み込まれるピストンからなる複合部材10を例示する。複合部材10は、円盤状のピストンヘッド11と、ピストンヘッド11の外周に結合する円筒状のスカート12と、を備えている。
【0010】
図2図1のIIで示すピストンヘッド11の頂面13の一部を拡大した複合部材10の断面図である。ピストンヘッド11の頂面13(図1参照)は、ピストンが組み込まれたシリンダーブロック(図示せず)が作るエンジンの燃焼室の壁面の一部を構成する。
【0011】
複合部材10は金属製の基材14と、結晶性酸化物を主体とする皮膜18と、基材14と皮膜18との間に介在する中間層16と、を備えている。第1の界面15は基材14と中間層16との間の境界であり、第2の界面17は中間層16と皮膜18との間の境界である。
【0012】
基材14の材料は、Alとその合金、超硬合金、Niとその合金、Coとその合金、Tiとその合金、鋼が例示される。本実施形態では基材14の材料はAl合金である。Al合金はAl-Cu系合金、Al-Si系合金、Al-Mg系合金が例示される。超硬合金は金属および硬質の金属間化合物からなり、硬質相の主成分が炭化タングステンであるものが挙げられる。超硬合金はCr,Ti,Ta,Nb等の炭化物や炭窒化物が硬質相に含まれることがある。Ni合金はNi-Cr-Fe系合金、Ni-Mo-Fe系合金、Ni-Cu系合金、Ni-Fe系合金が例示される。Co合金はCo-Cr系合金が例示される。Ti合金は、α型合金、(α+β)型合金、β型合金、Ti-Pd系合金が例示される。鋼は、炭素量が約0.02%以上2.1%以下の炭素鋼、Si,Mn,Ni,Cr,Mo,V,Nb,Ti等の元素の1種以上を含むステンレス鋼などの合金鋼が例示される。
【0013】
基材14は、炭素繊維などの強化繊維が複合化していても良い。基材14は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば基材14の材料が超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていても良い。基材14の材料が鋼の場合、その表面に浸炭層が形成されていたり、その表面が窒化されていたりしても良い。焼入れ、焼き戻し等の各種の熱処理が施された鋼を基材14の材料に採用することは当然可能である。
【0014】
中間層16は、皮膜18を基材14に接合し基材14と皮膜18との間の熱ひずみを緩衝する機能がある。中間層16の材料は、中間層16の線膨張係数が、基材14の線膨張係数と皮膜18の線膨張係数との間に存在するものが採用される。中間層16の材料は、Ni合金、Al合金、Fe-Mn合金、Cuとその合金、Snとその合金が例示される。Ni合金はNi-Al系合金、Ni-Cr系合金、Ni-Fe系合金、Ni-Ti系合金が例示される。Al合金はAl-Ti系合金、Al-Cu系合金、Al-Zn-Mg系合金が例示される。Cu合金はCu-Zn系合金、Cu-Ni系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Be系合金、Cu-Pb系合金が例示される。Sn合金はSn-Pb-Cu系合金、Sn-Sb-Cu系合金が例示される。
【0015】
皮膜18は結晶性酸化物を主体とする。結晶性酸化物が主体とは、皮膜18のうち結晶性酸化物の割合が50質量%を超えること、好ましくは75質量%以上であること、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。結晶性酸化物はアモルファスではない酸化物である。結晶性酸化物は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム等の単一元素の酸化物である単純酸化物、ムライト、コージェライト、チタン酸イットリウム、チタン酸イッテルビウム等の、2種以上の金属イオンを含む酸化物である複酸化物が例示される。
【0016】
皮膜18には結晶性酸化物の1種以上が含まれる。結晶性酸化物は化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含まれる。結晶性酸化物は、結晶性酸化物の機能を損なわない範囲内で、単純酸化物や複酸化物を構成する元素とは異なる元素が固溶していても良い。
【0017】
中間層16及び皮膜18は、蒸着や溶射によって基材14に膜を設けた後、加熱して作ることができる。ホットプレスによって基材14に中間層16及び皮膜18を設けることもできる。
【0018】
エンジンの中でピストンヘッド11は冷却媒体で冷やされており、ピストンヘッド11の基材14を構成する金属は熱伝導率および体積比熱が共に大きいため、頂面13に皮膜18が設けられていない場合、4ストローク機関の吸気、圧縮、膨張、排気の行程を通して頂面13の温度は変化が小さい。そうすると膨張行程において燃焼室内のガスの温度と頂面13の温度との差が大きくなり、大きな熱流束が発生し熱損失が大きくなる。その結果、エンジンの熱効率が低下する。
【0019】
これに対し、頂面13に皮膜18が設けられていると、皮膜18の熱伝導率は基材14の熱伝導率より小さく、皮膜18の体積比熱は基材14の体積比熱より小さいので、皮膜18の遮熱性により媒体による冷却が低減され、膨張行程において燃焼室内のガスの温度に追従して皮膜18の温度が高くなる。その結果、燃焼室内のガスの温度と皮膜18の表面19の温度との差を、皮膜18が無い場合の温度差に比べて小さくできる。これにより膨張行程における熱流束を小さくできるので、熱損失を低減しエンジンの熱効率を向上できる。
【0020】
また、体積比熱が小さい皮膜18は排気行程において急速に温度が低下するので、吸気行程における吸気加熱を低減できる。その結果、吸気効率の悪化やNOxの発生を低減できる。
【0021】
皮膜18の主体である結晶性酸化物によって耐食性および耐熱性を確保できるので、皮膜18は、燃焼室内の環境下でも破壊することなく安定している。さらに基材14と皮膜18との間に介在する中間層16は、基材14と皮膜18との間の熱ひずみを緩衝するので、吸気、圧縮、膨張、排気の行程を通して熱応力を低減し、皮膜18の破壊や剥離を低減する。
【0022】
複合部材10は、第1の界面15上の2点20,21間の直線距離D1に対する2点20,21間の第1の界面15に沿った距離(第1の界面15をなぞった2点20,21間の長さ)と、第2の界面17上の2点22,23間の直線距離D2に対する2点22,23間の第2の界面17に沿った距離(第2の界面17をなぞった2点22,23間の長さ)が、いずれも1.10倍以上1.25倍以下であると好ましい。中間層16及び皮膜18の接合強度を確保し、熱応力による皮膜18の剥がれや破壊を低減するためである。
【0023】
2点20,21間の直線距離D1や界面15に沿った距離、2点22,23間の直線距離D2や界面17に沿った距離は、走査電子顕微鏡(SEM)による複合部材10の断面画像の画像解析によって求められる。精度を確保するため、例えば直線距離D1が300μmとなる2点20,21、及び、直線距離D2が300μmとなる2点22,23を選択するのが好ましい。
【0024】
中間層16は、Ni,Al,Mn及びTiから選ばれる1種以上を含む材料からなるのが好ましい。これらの元素を含む中間層16は熱応力の低減に効果が大きいからである。中間層16に含まれる元素は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いた波長分散型X線分光器(WDS)による分析で求められる。
【0025】
中間層16の平均の厚さは22μm以上55μm以下であることが好ましい。中間層16の平均の厚さがこの範囲にあると、熱応力を低減する効果が大きくなるからである。
【0026】
図3は複合部材10の断面図である。中間層16の平均の厚さは、SEMによる複合部材10の断面画像の画像解析によって求められる。図3に示すように断面画像は、断面の縦300μm横300μmの大きさの部分を拡大した矩形24とする。中間層16の厚さは、断面画像に現出する第1の界面15の近似直線25(第1の界面15の傾向を代表する直線)と矩形24の横の辺26とがほぼ平行になるように設定された断面画像における、矩形24の横の辺26に垂直に引かれた直線27が、第1の界面15と第2の界面17とによって切り取られてできる線分28の長さである。中間層16の平均の厚さは、少なくとも10μm間隔で、矩形24の横の辺26に垂直に引かれた直線27(辺26の両端をそれぞれ通る直線27を含む)から得られる複数の線分28の長さの平均値である。
【0027】
皮膜18の平均の厚さを中間層16の平均の厚さで除した値は1.2以上6.5以下であることが好ましい。中間層16や皮膜18の熱応力は、中間層16の厚さと皮膜18の厚さとの間の関係に影響を受けるので、値がこの範囲にあると、熱応力を低減する効果が大きくなるからである。
【0028】
皮膜18の平均の厚さは、SEMによる複合部材10の断面画像の画像解析によって求められる。断面画像は、断面の縦300μm横300μmの大きさの部分を拡大した矩形24とする。皮膜18の厚さは、断面画像に現出する第1の界面15の近似直線25と矩形24の横の辺26とがほぼ平行になるように設定された断面画像における、矩形24の横の辺26に垂直に引かれた直線27が、第2の界面17と皮膜18の表面19とによって切り取られてできる線分29の長さである。皮膜18の平均の厚さは、少なくとも10μm間隔で、矩形24の横の辺26に垂直に引かれた直線27(辺26の両端をそれぞれ通る直線27を含む)から得られる複数の線分29の長さの平均値である。
【0029】
皮膜18を構成する結晶性酸化物は、2種以上の金属イオンを含む複酸化物を主体とするのが好ましい。複酸化物はYTiO、YTi等のチタン酸イットリウム、YbTiO、YbTi等のチタン酸イッテルビウム、ムライト、コージェライトが例示される。
【0030】
皮膜18が複酸化物を主体とする場合に、複酸化物に含まれる金属イオンの1種の単一元素の酸化物である単純酸化物の割合は少ない方が好ましい。特に皮膜18の断面に現出する複酸化物の面積と単純酸化物の面積との合計に占める単純酸化物の割合は5%以下であるのが好ましい。単純酸化物の割合を少なくすることで、複酸化物により皮膜18の小さな熱伝導率および体積比熱を確保できるからである。
【0031】
この場合、複酸化物はY及びYbの少なくとも1つとTiとOとが結合した酸化物が好適であり、単純酸化物はY、Yb及びTiから選ばれる1種の単一元素とOとが結合した酸化物が好適である。これらの複酸化物は、結晶性酸化物の中でも熱伝導率および体積比熱が小さい部類に入るので、皮膜18の遮熱性を向上できるからである。
【0032】
皮膜18に複酸化物や単純酸化物が複数種存在する場合には、全ての種類の複酸化物の面積と単純酸化物の面積とを求め、全ての種類の複酸化物の面積と全ての種類の単純酸化物の面積との合計に占める単純酸化物の割合を求める。
【0033】
皮膜18に含まれる複酸化物は、例えばX線回折法(XRD)によって特定できる。皮膜18の断面に現出する複酸化物の面積や単純酸化物の面積は、EPMAを用いたWDSによる分析で求められる。XRDとEPMAとを組み合わせて分析し、皮膜18の断面に現出する複酸化物や単純酸化物の面積を求めることもできる。精度を確保するため、皮膜18の断面は500μm以上の面積を分析するのが好ましい。
【0034】
皮膜18の気孔率、及び、中間層16の気孔率は、1.1%以上5.4%以下であることが好ましい。気孔率が大きくなると皮膜18の断熱性や中間層16の応力の緩和効果は大きくなるが、皮膜18や中間層16の機械的強度が小さくなる傾向がみられる。気孔率がこの範囲にあると、皮膜18の断熱性や中間層16の応力緩和と機械的強度とを両立できるからである。
【0035】
気孔率は、SEMによる複合部材10の断面画像の画像解析によって求められる。皮膜18や中間層16の断面に現出する気孔の面積を、観察した断面画像の面積で除して気孔率(%)が得られる。精度を確保するため、皮膜18や中間層16の断面は500μm以上の面積を分析するのが好ましい。
【実施例0036】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(サンプルの作製)
縦30mm横30mmの矩形の表面を有する厚さ2mmの基材を準備し、ブラスト処理により基材の表面の粗さを調整した。基材の表面に厚さ22-53μmの中間層をホットプレスにより形成し、ブラスト処理により中間層の表面粗さを調整した後、中間層の上に厚さ35-231μmの皮膜をホットプレスにより形成した。種々の基材、中間層および皮膜を用いて表1に示すNo.1-24における複合部材のサンプルを複数ずつ得た。
【0038】
【表1】
【0039】
No.1,3,22,23の基材(Ni合金)の主な化学成分はNi:61質量%、Cr:22質量%、Mo:9質量%、Fe:2.5質量%であった。No.2,24の基材(炭素鋼)の主な化学成分はC:0.10-0.15質量%、Si:0.15-0.35質量%。Mn:0.30-0.60質量%、残部がFeであった。炭素鋼は焼入れ・焼き戻し処理を施した。No.4はSUS410(マルテンサイト系ステンレス鋼)を基材とした。No.5の基材やNo.9の中間層(Ti-Al合金)の主な化学成分はTi:70質量%、Al:30質量%であった。No.6-20はAC8A(普通鋳造用アルミニウム合金)を基材とした。No.21の基材(超硬合金)の主な化学成分はW:72-78質量%、Ti:10-15質量%、Co:5-6質量%、C:7-9質量%であった。
【0040】
No.1,4,5の中間層(Al-Si合金)の主な化学成分はAl:80-95質量%、Si:5-20質量%であった。No.6,12-20の中間層(Ni-Al合金)の主な化学成分はNi:90-95質量%、Al:5-10質量%であった。No.7の中間層(Ni-Ti合金)の主な化学成分はNi:52質量%、Ti:42質量%、Cu:6質量%であった。No.8の中間層(Ni-Fe合金)の主な化学成分はNi:42質量%、Fe:58質量%であった。No.10,11の中間層(Fe-Mn合金)の主な化学成分はFe:62質量%、Mn:32質量%、Si:6質量%であった。
【0041】
(中間層および皮膜の厚さ)
各サンプルの基材、第1の界面、中間層、皮膜が一断面に全て現出したSEM画像に、第1の界面の近似直線と矩形の横の辺とがほぼ平行になるように、縦300μm横300μmの大きさの矩形の部分(断面画像)を設定した。断面画像の画像解析により中間層の平均の厚さと皮膜の平均の厚さとを求めた。中間層の平均の厚さは、断面画像の横の辺に垂直な直線を10μm間隔で引き、第1の界面と第2の界面とによってその直線が切り取られてできた複数の線分の長さの平均値とした。皮膜の平均の厚さは、第2の界面と皮膜の表面とによってその直線が切り取られてできた複数の線分の長さの平均値とした。
【0042】
中間層の平均の厚さは、表1の中間層の「厚さ」の欄に記した。皮膜の平均の厚さは、表1の皮膜の「厚さ」の欄に記した。皮膜の平均の厚さを中間層の平均の厚さで除した値は、表1の「厚さ比」の欄に記した。
【0043】
(中間層および皮膜の気孔率)
サンプルNo.1-24の中間層および皮膜の断面の500μmの面積の部分のSEM観察により、中間層および皮膜の気孔率を測定した。気孔率(%)は、中間層や皮膜の断面に現出する気孔の面積を、観察した断面画像の面積で除したものである。これを表1の「気孔率」の欄に記した。気孔率は、ホットプレスの圧力、温度、保持時間の設定により制御した。
【0044】
(界面上の2点間の距離)
各サンプルの基材、第1の界面、中間層、皮膜が全て現出した一断面のSEM画像の画像解析により、第1の界面上の2点間の直線距離D1に対する2点間の第1の界面に沿った距離の割合を求めた。これを表1の中間層の「距離」の欄に記した。直線距離D1は300μmとした。
【0045】
同じ断面のSEM画像の画像解析により、第2の界面上の2点間の直線距離D2に対する2点間の第2の界面に沿った距離の割合を求めた。これを表1の皮膜の「距離」の欄に記した。直線距離D2は300μmとした。
【0046】
(皮膜の中の単純酸化物の割合)
No.3,4,6-20のサンプルについて、EPMAを用いた皮膜の断面のWDS分析およびXRD分析を行い、複酸化物からなる主相の組成と、単純酸化物からなる副相の組成と、皮膜の断面に現出する複酸化物の面積と単純酸化物の面積との合計に占める単純酸化物の割合(%)と、を求めた。これらは表1に記した。単純酸化物の割合は、ホットプレスの圧力、温度、保持時間の設定により制御した。
【0047】
(密着性試験)
サンプルの皮膜に密着させたダイヤモンド製の圧子に加える荷重を徐々に大きくしながらサンプルを一定の速度で移動させ、皮膜の剥離やクラックに起因する破壊音をアコースティック・エミッション(AE)センサーにより検出するスクラッチ試験を行った。圧子の先端の曲率半径は0.2mm、サンプルの移動速度は10mm/分、試験開始時の圧子の荷重は0.3N、試験終了時の圧子の荷重は50N、荷重の増加速度は100N/分とした。試験後のスクラッチ痕と試験中のAE波形の変化とを確認して皮膜の密着性を評価した。
【0048】
10N未満の荷重でAE波形に変化がみられ、スクラッチ痕に中間層が露出していたサンプルはC、10N以上20N未満の荷重でAE波形に変化がみられ、スクラッチ痕に中間層が露出していたサンプルはB、20N以上の荷重でAE波形に変化がみられ、スクラッチ痕に中間層が露出していたサンプルはAと判定した。結果は表1の「密着性」の欄に記した。
【0049】
(熱サイクル試験)
大気中でサンプルの周囲温度を5分間25℃にした後、50℃/分の速度で300℃まで昇温し、5分間300℃にした後、50℃/分の速度で再び25℃まで降温する過程を1サイクルとして、3000サイクルを繰り返す熱サイクル試験を行った。500サイクル終了時、1500サイクル終了時、3000サイクル終了時に皮膜の外観を検査し、クラックの有無、皮膜の剥離の有無を調べた。
【0050】
500サイクル終了時にクラックや皮膜の剥離が見つかったサンプルはD、1500サイクル終了時にクラックや皮膜の剥離が見つかったサンプルはC、3000サイクル終了時にクラックや皮膜の剥離が見つかったサンプルはB、3000サイクル終了時にクラックや皮膜の剥離が見つからなかったサンプルはAと判定した。結果は表1の「熱サイクル性」の欄に記した。
【0051】
(熱追従性試験)
2つの熱電対の距離が最小になるように、サンプルの両面(皮膜および基材)にそれぞれ熱電対を取り付けた後、基材に取り付けた熱電対のすぐ近くにレーザー光を照射し、基材の温度に皮膜の温度が一致するまでの時間を測定した。同様にサンプルの両面(皮膜および基材)に取り付けた熱電対を用いて、25℃の冷却液を循環して基材を冷却したときに基材の温度に皮膜の温度が一致するまでの時間を測定した。
【0052】
レーザー光を照射したときに温度が一致するまでの時間と基材を冷やしたときに温度が一致するまでの時間のうち長い方の時間が、0.5秒未満のサンプルはA、0.5秒以上1秒未満のサンプルはB、1秒以上のサンプルはCと判定した。
【0053】
(評価)
サンプルNo.1-20は密着性、熱サイクル性および熱追従性の判定がA又はBであった。一方、サンプルNo.21-24は密着性および熱追従性の判定がCであり、熱サイクル性の判定がDであった。No.21,22は皮膜の平均の厚さを中間層の平均の厚さで除した厚さ比が1.2未満または6.5を超えていた。No.23,24は中間層および皮膜の気孔率が1.1%未満または5.4%を超えていた。一方、No.1-20は厚さ比が1.2以上6.5以下であり、中間層および皮膜の気孔率が1.1%以上5.4%以下であった。これによりNo.1-20は、中間層および皮膜の接合強度と皮膜の機械的強度とを確保できたので密着性試験および熱サイクル性試験において皮膜の剥がれや破壊が低減し、適度な熱伝導率や体積比熱を確保できたので良好な熱追従性を示したと推定する。
【0054】
サンプルNo.12-20は密着性および熱サイクル性の判定がAであった。一方、サンプルNo.1-11は密着性および熱サイクル性の判定がBであった。No.1-11は中間層の距離と皮膜の距離が1.10未満または1.25を超えていた。一方、No.12-20は中間層の距離と皮膜の距離が1.10以上1.25以下であった。これによりNo.12-20は、中間層および皮膜の接合強度と皮膜の機械的強度とを確保できたので、密着性試験(スクラッチ試験)において皮膜の剥がれや破壊が低減し、熱サイクル性試験において熱応力による皮膜の剥がれや破壊が低減したと推定する。
【0055】
サンプルNo.6-20は熱追従性の判定がAであった。一方、サンプル1-5は熱追従性の判定がBであった。No.1,2,5は単純酸化物が皮膜の主体であった。No.3,4は複酸化物が皮膜の主体であったが、皮膜の断面に現出する、複酸化物を構成する元素の一部を含む単純酸化物の面積と複酸化物の面積との合計に占める単純酸化物の割合が5%を超えていた。一方、No.6-20はY及びYbの少なくとも1つとTiとOとが結合した複酸化物が皮膜の主体であり、皮膜の断面に現出する、複酸化物に含まれる金属イオンの一部を含む単純酸化物の面積と複酸化物の面積との合計に占める単純酸化物の割合が5%以下であった。これによりNo.6-20は、No.1-5と比較して皮膜の熱伝導性および体積比熱が小さくなったので、熱追従性が優れていたと推定する。
【0056】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0057】
実施形態では中間層16及び皮膜18が設けられたピストンヘッドの頂面13が平らな場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。エンジンの種類に応じて頂面13に窪みや突起を設けることは当然可能である。
【0058】
実施形態では複合部材10がピストンに用いられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。車両、船舶、航空機、エレベーター等の輸送機器、建設機械、工場施設などを構成する各種部材に複合部材10を適用することは当然可能である。特に遮熱性を要する部材に複合部材10を適用するのが好ましい。例えば基材14の温度が最高で400℃程度まで上昇する部材に複合部材10を適用できる。
【符号の説明】
【0059】
10 複合部材
14 基材
15 第1の界面
16 中間層
17 第2の界面
18 皮膜
図1
図2
図3