(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024107664
(43)【公開日】2024-08-09
(54)【発明の名称】アセプティック容器詰め液体飲食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 3/023 20060101AFI20240802BHJP
A23L 3/3409 20060101ALI20240802BHJP
A23L 2/42 20060101ALI20240802BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240802BHJP
【FI】
A23C3/023
A23L3/3409
A23L2/00 N
A23L5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011703
(22)【出願日】2023-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】山中 理華子
【テーマコード(参考)】
4B001
4B021
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC99
4B001BC99
4B001EC53
4B021LA23
4B021LA33
4B021LW05
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4B035LC05
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4B035LG01
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4B035LP59
4B117LC15
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4B117LK01
4B117LP13
4B117LP17
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】液体飲食品の風味に影響を与えることなく脂肪浮上を抑制できるアセプティック容器詰め液体飲食品の提供。
【解決手段】脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品がアセプティック容器に充填されたアセプティック容器詰め液体飲食品であって、前記液体飲食品の液面と前記アセプティック容器の天面との間にヘッドスペースが設けられている、アセプティック容器詰め液体飲食品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品がアセプティック容器に充填されたアセプティック容器詰め液体飲食品であって、
前記液体飲食品の液面と前記アセプティック容器の天面との間にヘッドスペースが設けられている、アセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項2】
前記液体飲食品が乳又は乳製品である、請求項1に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項3】
前記液体飲食品の無脂乳固形分が8質量%以上である、請求項1又は2に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項4】
前記ヘッドスペースの体積が、前記アセプティック容器の容積に対して0.1~10%である、請求項1又は2に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項5】
前記アセプティック容器が紙基材層を含む、請求項1又は2に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項6】
前記ヘッドスペースが不活性ガスで満たされている、請求項1又は2に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
【請求項7】
脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品を殺菌する工程と、
殺菌された前記液体飲食品に不活性ガスを注入する工程と、
前記不活性ガスが注入された前記液体飲食品をアセプティック容器にアセプティック充填する工程と、
を有する、アセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
【請求項8】
前記液体飲食品が乳又は乳製品である、請求項7に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
【請求項9】
前記液体飲食品の無脂乳固形分が8質量%以上である、請求項7又は8に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセプティック容器詰め液体飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容器詰め牛乳は一般に冷蔵保存されるが、常温保存可能なものも市販されている。常温保存可能な容器詰め牛乳としては、滅菌した牛乳をアセプティック容器に無菌的に充填したものが知られている。
近年、常温保存可能な容器詰め牛乳の重要性は高まり、その保存期間のさらなる延長が求められる。しかし、保存期間が長くなるにつれて脂肪浮上(クリーミング)が発生しやすくなり、この問題が賞味期限を延ばす上でボトルネックの一つとなっている。
【0003】
脂肪浮上は、液体中に分散した脂肪(脂肪球)が液面に浮上する現象で、牛乳のほか、脂肪を含む各種の液体飲食品に見られる。浮上した脂肪球は振動等によって再分散することもあるが、脂肪球同士が合一すると、再分散が困難となる(非特許文献1の第320頁)。
液体飲食品において脂肪浮上を抑制する手法としては、乳化剤を添加する方法(特許文献1)、製造工程での均質圧力を上げて脂肪球を小さくする方法(非特許文献1の第297頁)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ミルクの事典」、朝倉書店、2009年11月20日初版第1刷
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、乳化剤を添加する方法は、適用できる飲食品が限られており、例えば「牛乳」とは乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下、「乳等省令」とも記載する。)において、「直接飲用に供する目的又はこれを原料とした食品の製造若しくは加工の用に供する目的で販売(不特定又は多数の者に対する販売以外の授与を含む。以下同じ。)する牛の乳をいう。」と定義づけられており、牛乳には乳化剤等の他の原料を添加することが許されていない。
製造工程での均質圧力を上げる方法は、乳にも適用可能であるが、均質圧力を上げるにも製造上限界がある上、脂肪球が小さくなるにつれてコクがなくなるといった風味上の問題もある。
【0007】
本発明は、液体飲食品の風味に影響を与えることなく脂肪浮上を抑制できるアセプティック容器詰め液体飲食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品がアセプティック容器に充填されたアセプティック容器詰め液体飲食品であって、
前記液体飲食品の液面と前記アセプティック容器の天面との間にヘッドスペースが設けられている、アセプティック容器詰め液体飲食品。
[2]前記液体飲食品が乳又は乳製品である、[1]に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
[3]前記液体飲食品の無脂乳固形分が8質量%以上である、[1]又は[2]に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
[4]前記ヘッドスペースの体積が、前記アセプティック容器の容積に対して0.1~10%である、[1]~[3]のいずれかに記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
[5]前記アセプティック容器が紙基材層を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
[6]前記ヘッドスペースが不活性ガスで満たされている、[1]~[5]のいずれかに記載のアセプティック容器詰め液体飲食品。
[7]脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品を殺菌する工程と、
殺菌された前記液体飲食品に不活性ガスを注入する工程と、
前記不活性ガスが注入された前記液体飲食品をアセプティック容器にアセプティック充填する工程と、
を有する、アセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
[8]前記液体飲食品が乳又は乳製品である、[7]に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
[9]前記液体飲食品の無脂乳固形分が8質量%以上である、[7]又は[8]に記載のアセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体飲食品の風味に影響を与えることなく脂肪浮上を抑制できるアセプティック容器詰め液体飲食品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るアセプティック容器詰め液体飲食品の模式断面図である。
【
図2】試験例1で用いたアセプティック容器の斜視図である。
【
図3】試験例1での脂肪浮上量の測定において、濾過具上に捕捉された脂肪の様子を示す写真である。
【
図4】試験例1において、合一した脂肪の容器内壁上部への付着状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、液体飲食品は、常温で液状の飲料又は食品である。
常温は、10~25℃である。
アセプティック容器は、アセプティック充填用の容器である。
アセプティック充填は、殺菌された内容物を殺菌された容器に無菌環境下で充填することである。
体積は、特に記載がなければ、20℃における値である。
数値範囲に用いられる記号「~」は、その下限値及び上限値を含む。
【0012】
〔アセプティック容器詰め液体飲食品〕
図1は、本発明の一実施形態に係るアセプティック容器詰め液体飲食品1の模式断面図である。
アセプティック容器詰め液体飲食品1は、脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品3がアセプティック容器5に充填されたものである。
液体飲食品3及びアセプティック容器5については後で詳しく説明する。
【0013】
アセプティック容器詰め液体飲食品1においては、液体飲食品3の液面31とアセプティック容器5の天面51との間にヘッドスペースSが設けられている。したがって、アセプティック容器5に充填されている液体飲食品3の体積は、アセプティック容器5の容積よりも少なくなっている。
従来のアセプティック容器詰め液体飲食品においては、液体飲食品がアセプティック容器に満量充填されており、ヘッドスペースが存在しない。
本実施形態においては、液体飲食品3の液面31とアセプティック容器5の天面51との間にヘッドスペースSが設けられていることで、液体飲食品3に脂肪浮上を抑制するための添加剤(乳化剤等)が添加されていなくても、脂肪浮上を抑制できる。また、脂肪球が凝集しても分離しやすく、凝集した脂肪球が壊れ、脂肪球同士が不可逆的に一体となる合一を抑制でき、その結果、脂肪分離を抑制できる。
【0014】
ヘッドスペースSの体積は、アセプティック容器5の容積に対して0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上がよりさらに好ましい。
ヘッドスペースSの体積は、アセプティック容器5の容積に対して10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5%以下がよりさらに好ましい。
ヘッドスペースSの体積は、アセプティック容器5の容積に対して0.1~10%が好ましく、1~8%がより好ましく、2~6%がさらに好ましく、3~5%がよりさらに好ましい。
ヘッドスペースSの体積が上記下限値以上であれば、脂肪浮上の抑制効果、脂肪合一の抑制効果がより優れ、上記上限値以下であれば、流通時の容器の保形性がより優れる。
ヘッドスペースSの体積の算出方法は特に限定されないが、後述の不活性ガス注入工程における不活性ガス注入量により算出することが可能である。
また、ヘッドスペースの体積は、アセプティック容器の容積と液体飲食品の体積の差を算出することにより測定することが可能である。液体飲食品の体積は、アセプティック容器詰め液体飲食品から液体飲食品を取り出して体積を測定することにより求められる。
【0015】
アセプティック容器5の天面51から液体飲食品3の液面31までの距離(mm)をh1、アセプティック容器5の底面53から液体飲食品3の液面31までの距離(mm)をh2としたときに、h1/h2で表される比は、0.005以上が好ましく、0.008以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましく、0.012以上がよりさらに好ましい。
h1/h2で表される比は、0.045以下が好ましく、0.04以下がより好ましく、0.03以下がさらに好ましく、0.02以下がよりさらに好ましい。
h1/h2で表される比は、0.005~0.045が好ましく、0.008~0.04がより好ましく、0.01~0.03がさらに好ましく、0.012~0.02がよりさらに好ましい。
h1/h2が上記下限値以上であれば、脂肪浮上の抑制効果、脂肪合一の抑制効果がより優れ、上記上限値以下であれば、流通時の容器の保形性がより優れる。
なお、アセプティック容器5の天面51が水平面ではない場合(例えば傾斜面である場合)、天面51から液体飲食品3の液面31までの距離は、天面51の最も低い位置から液面31までの距離である。
アセプティック容器5の底面53が水平面ではない場合、底面53から液体飲食品3の液面31までの距離は、底面53の最も高い位置から液面31までの距離である。
【0016】
ヘッドスペースSは、典型的には、気体で満たされている。
ヘッドスペースSを満たす気体としては、空気、不活性ガス等が挙げられる。これらの中でも、不活性ガスが好ましい。ヘッドスペースSを満たす気体が不活性ガスであれば、アセプティック容器詰め液体飲食品1の保存中に液体飲食品3の溶存酸素濃度が上昇することを抑制でき、溶存酸素による液体飲食品3の劣化を抑制できる。
不活性ガスとしては、例えば窒素ガスが挙げられる。
【0017】
(液体飲食品)
液体飲食品は、脂肪分を含む。
液体飲食品に含まれる脂肪分は、動物由来油脂であってもよく、植物由来油脂であってもよく、それらの両方であってもよい。動物由来油脂としては、例えば乳脂肪、魚油等が挙げられる。植物由来油脂としては、例えば大豆油、菜種油、ひまわり油、ピーナッツ油、パーム果実油、パーム核油、ゴマ油、アマニ油、ひまし油、オリーブ油、トウモロコシ油等が挙げられる。これらの中でも、風味に影響を与えることなく脂肪浮上を抑制できる点から、乳脂肪が好ましい。
【0018】
液体飲食品の脂肪分は、液体飲食品の総質量に対し、1.5質量%以上であり、3質量%以上が好ましく、3.1質量%以上がより好ましく、3.3質量%以上がさらに好ましい。従来、脂肪浮上の問題は、脂肪分が1.5質量%以上になると生じやすい傾向があり、脂肪分が1.5質量%以上の場合に本発明の有用性が高い。
また、液体飲食品の脂肪分は、液体飲食品の総質量に対し、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。脂肪分が前記上限値以下であれば、脂肪浮上の抑制効果がより優れる。
上記上限値及び下限値は適宜組み合わせることができる。
液体飲食品の脂肪分は、ゲルベル法により測定される。
【0019】
液体飲食品は、典型的には、脂肪分のほかに水分を含み、脂肪分が液体飲食品中に脂肪球として分散している。
脂肪球の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。脂肪球の平均粒子径が上記上限値以下であれば、脂肪浮上の抑制効果がより優れる。
また、脂肪球の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。脂肪球の平均粒子径が上記下限値以上であれば、液体飲食品の風味、製造しやすさがより優れる。
脂肪球の平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0020】
液体飲食品の水分は、液体飲食品の総質量に対し、例えば0~98質量%である。液体飲食品が液体食品の場合、液体飲食品の水分は、液体飲食品の総質量に対し、5~95質量%が好ましく、10~93質量%がより好ましく、20~90質量%がより好ましく、30~89質量%がより好ましい。液体飲食品が飲料の場合、液体飲食品の水分は、液体飲食品の総質量に対し、75~98質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましく、83~90質量%がより好ましい。
液体飲食品の水分は、常圧加熱乾燥法(乾燥助剤添加法)により測定される。具体的には、採取した試料1gを乾燥温度100±1℃で乾燥させ、乾燥後の試料の質量を得て、下記式により水分含有量を求める。
(式) 水分含有量(質量%)={(乾燥前の試料の質量-乾燥後の試料の質量)/乾燥
前の試料の質量}×100
液体飲食品の水分は、液体飲食品の総質量から固形分の質量を差し引いて求めることも可能である。
【0021】
液体飲食品は、脂肪分以外の固形分を含んでいてもよい。
脂肪分以外の固形分としては、無脂乳固形分が好ましい。
【0022】
液体飲食品が無脂乳固形分を含む場合、液体飲食品の無脂乳固形分は、液体飲食品の総質量に対し、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。無脂乳固形分が上記下限値以上であれば、乳由来の風味がより優れる傾向がある。
また、液体飲食品の無脂乳固形分は、液体飲食品の総質量に対し、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。無脂乳固形分が前記上限値以下であれば、脂肪分の風味とバランスが良い傾向がある。
上記上限値及び下限値は適宜組み合わせることができる。
液体飲食品の無脂乳固形分は、液体飲食品の総質量から脂肪分の総質量及び水分含有量を差し引くことにより測定される。
【0023】
具体的な液体飲食品としては、1.5質量%以上の脂肪分を含むものであればよいが、例えば乳、乳製品、乳及び乳製品以外の脂肪分含有液体飲食品が挙げられる。
乳としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に定められる乳を用いることができ、例えば牛乳、特別牛乳、成分調整牛乳、加工乳等が挙げられる。
乳製品としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に定められる乳製品を用いることができ、例えばクリーム、バターオイル、濃縮乳、無糖練乳、加糖練乳、調製液状乳、乳酸菌飲料、発酵乳、乳飲料等が挙げられる。
乳及び乳製品以外の脂肪分含有液体飲食品としては、例えば、植物由来油脂を含み、乳脂肪を含まない液状食品(流動食等)、植物由来油脂を含み、乳脂肪を含まない飲料が挙げられる。
液体飲食品としては、風味に影響を与えることなく脂肪浮上が抑制できることの有用性が高い点から、乳又は乳製品が好ましく、乳化剤を添加することなく脂肪浮上が抑制できることの有用性が高い点から、乳がより好ましい。
【0024】
液体飲食品の溶存酸素濃度は、脂肪浮上抑制の点では特に限定はないが、液体飲食品の溶存酸素による経時劣化を抑制する点では、4.5mg/L以下が好ましく、4.0mg/L以下がより好ましい。
溶存酸素濃度は、溶存酸素計により測定される。
【0025】
(アセプティック容器)
アセプティック容器としては、公知のアセプティック容器を使用できる。
アセプティック容器の形状としては特に限定されないが、例えば、
図1に示すような略直方体形状、円柱形状、多角柱形状等が挙げられる。略直方体形状としては、直方体形状のほか、直方体形状の天面が傾斜した形状、直方体形状の側面の角部に面取り部が設けられた形状、これらを組み合わせた形状等が挙げられる。天面が傾斜している場合、水平面に対する天面の傾斜角度は、1~10°が好ましい。傾斜角度が上記下限値以上であれば、脂肪浮上の抑制効果がより優れ、上記上限値以下であれば、流通時の保形性がより優れる。
アセプティック容器の容量は、例えば、50~2000mLとすることができる。流通時の保形性の点では、100~1500mLが好ましい。
【0026】
アセプティック容器としては、紙基材層を含むもの、ペットボトル等が挙げられる。
紙基材層を含むアセプティック容器としては、紙基材層を含むシート状の包材で構成された容器本体を備えるものが挙げられる。容器本体にキャップ付きスパウトが取り付けられていてもよい。
紙基材層を含むシート状の包材としては、例えば、紙基材層及び酸素バリア層を有する積層シートが挙げられる。酸素バリア層は、保存中におけるアセプティック容器内の液体飲食品の溶存酸素濃度の上昇を抑制する。酸素バリア層としては、例えば、アルミニウム箔層等の金属箔層が挙げられる。
積層シートの層構造の一例として、容器内面側となる側から順に、ポリエチレン層、アルミニウム箔層、ポリエチレン層、紙基材層、ポリエチレン層が積層された構造が挙げられる。
【0027】
(アセプティック容器詰め液体飲食品の製造方法)
本発明のアセプティック容器詰め液体飲食品は、例えば、脂肪分が1.5質量%以上である液体飲食品を殺菌する工程(殺菌工程)と、殺菌された前記液体飲食品に不活性ガスを注入する工程(不活性ガス注入工程)と、前記不活性ガスが注入された前記液体飲食品をアセプティック容器に充填する工程(充填工程)と、を有する製造方法により製造できる。
不活性ガスが注入された液体飲食品をアセプティック容器に充填すると、密閉されたアセプティック容器内で、液体飲食品から不活性ガスが分離し、液体飲食品の体積が減少する。これにより、不活性ガスが注入された液体飲食品が満量充填された場合でも、アセプティック容器内にヘッドスペースが形成される。
なお、本製造方法では、殺菌工程の後、充填工程までの工程は無菌環境下で行われる。
【0028】
<殺菌工程>
液体飲食品の殺菌は、公知の加熱殺菌装置を用いて実施できる。
加熱殺菌装置としては、アセプティック容器詰め液体飲食品の製造に使用可能なものであればよいが、液体飲食品の風味の保持の点から、超高温短時間殺菌法(UHT法)による殺菌装置が好ましい。
加熱殺菌装置は、直接加熱殺菌法による殺菌装置でもよく、間接加熱殺菌法による殺菌装置でもよい。
直接加熱殺菌法による殺菌装置としては、液体飲食品の流れの中に高温蒸気を噴射するスチームインジェクション方式のUHT殺菌装置、高温蒸気の中に液体飲食品を噴射するスチームインフュージョン方式のUHT殺菌装置等が好ましい。
間接加熱殺菌法による殺菌装置としては、プレート式熱交換方式のUHT殺菌装置、チューブラー式熱交換方式のUHT殺菌装置、かき取り式熱交換方式のUHT殺菌装置等が好ましい。
加熱殺菌装置には、必要に応じて、液体飲食品を予備加熱する手段、殺菌の前又は後に均質化処理を行う手段、殺菌後の液体飲食品を冷却する手段が設けられていてもよい。
【0029】
殺菌条件は、殺菌方法に応じて適宜設定できる。
直接加熱殺菌法による殺菌の場合、具体的には、スチームインジェクション方式又はスチームインフュージョン方式により120~160℃で1~6秒程度の加熱殺菌を行うことが好ましく、特にスチームインジェクション方式により148~152℃で2~3秒の条件で加熱殺菌を行うことがより好ましい。
間接加熱殺菌法による殺菌の場合、プレート式熱交換方式、チューブラー式熱交換方式、又はかき取り式熱交換方式により120~140℃で1~5秒程度の加熱殺菌を行うことが好ましい。
【0030】
殺菌工程の前に、液体飲食品の予備加熱を行ってもよい。予備加熱の温度は、例えば70~90℃である。
殺菌工程の前又は後、液体飲食品の均質化処理を行ってもよい。均質化処理の温度は、例えば70~90℃である。均質化処理の圧力は、例えば20~30MPaである。
殺菌工程の後、液体飲食品を冷却してもよい。冷却後の温度は、例えば15~20℃である。
冷却工程の後、冷却された液体飲食品をタンクに貯蔵してもよい。貯蔵期間は、例えば0.5~24時間である。
【0031】
<不活性ガス注入工程>
液体飲食品への不活性ガスの注入方法としては、液体飲食品へ直接不活性ガスを封入する方法が挙げられる。
注入時の液体飲食品の温度は、例えば15~20℃である。
不活性ガスの注入量は、形成するヘッドスペースの体積に応じて設定される。
充填工程で、不活性ガスが注入された液体飲食品をアセプティック容器に満量充填する場合は、不活性ガスが注入された液体飲食品の体積(不活性ガスと液体飲食品の合計体積)に対する不活性ガスの体積の割合を、アセプティック容器の容積に対するヘッドスペースの体積の割合とみなすことができる。
液体飲食品に不活性ガスを注入してから充填工程でアセプティック容器に充填するまでの時間は、例えば1~30秒間である。
【0032】
<充填工程>
液体飲食品のアセプティック充填は、公知のアセプティック充填装置を用いて実施できる。
アセプティック充填装置は、典型的には、アセプティック容器を滅菌する手段を備えており、アセプティック容器への充填を無菌的に行うことができる。
また、アセプティック充填装置は、液体飲食品をアセプティック容器に充填する際に、液体飲食品を大気から遮蔽した状態で充填する装置であることが好ましい。本発明でいう「大気」とは、通常の空気の雰囲気を意味し、「大気から遮蔽した状態」とは、このような通常の空気には接触させない状態を意味するものである。このような「大気から遮蔽した状態」としては、例えば、液体飲食品を大気に全く接触させずにアセプティック容器に充填し密封する態様が含まれることはもちろんであるが、通常の大気ではなく、大気よりも酸素濃度を下げた特殊な雰囲気下で充填を行う態様も包含される。
液体飲食品を大気に全く接触させずに充填する例としては、シート状の包材(例えば前記した積層シート)を用いてアセプティック容器を成形しながら液体飲食品を充填するブリックパック式の充填装置が代表例といえる。このブリックパック式の充填装置は、アセプティック容器の材料として長尺シート状の包材を使用し、まず、このシート状の包材の幅方向の両端どうしを連続的に接合して一本の筒状に成形し、この筒を上から下に向けて連続的に縦方向に動かしながら筒中に液体飲食品を充填し、液体飲食品が充満した個所において横方向に断続的に横シールして液体飲食品を封入し、その後、横シールした個所を切断して一個一個をアセプティック容器に充填された製品として取得するように構成されている。
通常の大気よりも酸素濃度を下げた特殊な空気雰囲気下で充填する態様としては、予め成形されたアセプティック容器(折り畳み紙容器を整形したもの、カップ容器、シート状材料を圧迫成形して容器状としたもの等)を逐次搬送手段によって搬送しつつ液体飲食品を充填して密封する充填装置を用いるとともに、液体飲食品の充填から密封するまでの区間を囲繞して区画し、この区画内を不活性ガスによって封入し、区画内の酸素濃度を下げる態様を例示することができる。
【実施例0033】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
<試験例1>
(1)目的
試験例1は、アセプティック容器詰め牛乳におけるヘッドスペースの有無と脂肪浮上量の関係について評価する目的で実施した。
【0035】
(2)試料の調製
<試料1の調製>
原料乳として乳脂肪分3.9%、無脂乳固形分8.7%の生乳を用意し、プレート式熱交換方式の殺菌装置を用いて80℃まで昇温した。次いで、スチームインジェクション式殺菌装置を用いて、148℃にて4秒間の加熱殺菌処理を行った。その後、プレート式熱交換方式の殺菌装置を用いて温度を再度80℃まで下げ、均質機(テトラパック(登録商標)社製)を用いて25MPaにて均質化処理を行い、15~20℃に冷却し、タンクに溶存酸素量が2.0mg/Lとなる時間貯蔵した。タンク内のヘッドスペースは窒素雰囲気とした。
タンク内の牛乳にノズルを用いて窒素ガスを吹き込み、窒素ガスを吹き込んだ牛乳200mL(窒素ガス8mL含有)を、アセプティック充填機(テトラパック社製)を用いて容積200mLのアセプティック容器に充填した。これにより、8mLのヘッドスペースを有するアセプティック容器詰め牛乳(試料1)を得た。
アセプティック容器としては、
図2に示すような、天面が傾斜し、側面の4つの角部それぞれに面取り部が設けられた略直方体形状の容器本体の天面にキャップ付きスパウトが取り付けられたもの(テトラパック社製、Tetra Prisma Aseptic 200Edge)を用いた。容器本体は、容器内面側となる側から順に、ポリエチレン層、アルミニウム箔層、ポリエチレン層、紙基材層、ポリエチレン層が積層された積層シートで構成されたもので、水平面に対する天面の傾斜角度は10°であった。
試料1において、h1/h2(アセプティック容器の天面から液体飲食品の液面までの距離/アセプティック容器の底面から液体飲食品の液面までの距離)は0.015であった。
【0036】
<試料2の調製>
牛乳をタンクに貯蔵する時間を溶存酸素量が3.8mg/Lとなる時間に変更したこと以外は上記<試料1の調製>と同じ操作を行い、8mLのヘッドスペースを有し、牛乳に含まれる溶存酸素の量が試料1よりも多いアセプティック容器詰め牛乳(試料2)を得た。
<試料3の調製>
牛乳に窒素ガスを吹き込まない以外は上記<試料1の調製>と同様の操作を行い、ヘッドスペースが無いアセプティック容器詰め牛乳(試料3)を得た。
<試料4の調製>
牛乳をタンクに貯蔵する時間を溶存酸素量が4.9mg/Lとなる時間に変更したこと以外は上記<試料3の調製>と同じ操作を行い、ヘッドスペースが無く、牛乳に含まれる溶存酸素の量が試料3よりも多いアセプティック容器詰め牛乳(試料4)を得た。
調製した試料1~4のヘッドスペースの有無及び溶存酸素量を表1に示す。
【0037】
【0038】
(3)官能検査による評価
上記(2)で得られた試料1~4を5℃、10℃、25℃それぞれの温度にて1カ月、2カ月、3カ月、4カ月又は5カ月間静置保存した。
保存試験後の試料1~4それぞれについて、アセプティック容器の容器本体からキャップ付きスパウトを取りはずし、容器本体の天面を開けて内容物を目視で観察し、外観、色調、性状、脂肪浮上を評価した。外観、色調、性状については表2の評価基準に基づき評価した。脂肪浮上については表3の評価基準に基づき評価した。結果を表4に示す。「基準」には、調製後、保存試験前の試料を用いた。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
(4)脂肪浮上量の測定
上記(2)で得られた試料2、4(充填直後品)について、充填直後品の脂肪分及び比重をSMRT6 + Oracleを用いて測定した。また、12個の試料2及び12個の試料4を20℃にて4カ月間静置保存した。
保存後の試料2及び試料4について、以下の手順で脂肪浮上量を測定した。
保存後の試料(試料2又は試料4)3個それぞれのアセプティック容器の容器本体からキャップ付きスパウトを取りはずし、容器本体の天面を開け、内容物を、濾過具(100メッシュ、線径100μm、目開き150μm)を用いて濾過して脂肪を捕捉した。また、容器本体の内壁に付着した脂肪をヘラで掻き出し、濾過具の上に載せた。濾過具上に捕捉された脂肪の様子を
図3に示す。事前に計測しておいた濾過具の質量と、脂肪が付着した濾過具の質量との差を算出し、その値を脂肪浮上量Aとした。使用したヘラについても、事前に計測しておいた質量と、使用後の脂肪が付着したヘラの質量との差を算出し、その値を脂肪浮上量Bとした。脂肪浮上量Aと脂肪浮上量Bとを足し合わせることで、試料3個分の脂肪浮上量を算出した。試料3個分の脂肪浮上量を3で割って試料1個あたりの脂肪浮上量(g)を算出した。
残りの9個の試料についても3個ずつ、上記と同様の操作を繰り返し、試料1個あたりの脂肪浮上量(g)を算出した。合計で4回分の試料1個あたりの脂肪浮上量(g)の平均値を算出し、この脂肪浮上量を質量対体積百分率濃度(w/v%)に換算した。また、試料に含まれる全脂肪分あたりの脂肪浮上量(w/w%)を求めた。結果を表5に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
(5)脂肪合一の評価
上記(2)で得られた試料1~4を20℃にて4カ月間静置保存した。
保存後の試料それぞれのアセプティック容器の容器本体からキャップ付きスパウトを取りはずし、容器本体の天面を開け、容器を傾けて容器内の牛乳を排出した。その後、合一した脂肪の容器内壁上部への付着状況を観察した。結果を
図4に示す。
【0046】
(6)結果
(6-1)官能検査による評価について
表4に示されるように、保存温度5℃及び10℃では、ヘッドスペースの有無、溶存酸素量に関わらず、基準と比較して大きな差異は認められなかった。
また、全ての保存温度、保存期間、試料において、溶存酸素量の違いは脂肪浮上量に影響を与えなかった。
ヘッドスペースの無い試料3、4については保存温度が25℃、保存期間が3カ月間から脂肪浮上が増加し、保存期間4カ月目からは「脂肪浮上が多く、製品として許容できない量である」と評価された。
ヘッドスペースの有る試料1、2については、保存温度25℃において、保存期間に関わらず、「脂肪浮上はない」、又は「僅かに脂肪浮上があるが、製品として問題ない量である」と評価された。
【0047】
(6-2)脂肪浮上量について
表5~6に示されるように、ヘッドスペースの無い試料4の全脂肪あたりの脂肪浮上量は26.0w/w%であったのに対し、ヘッドスペースを有する試料2の全脂肪あたりの脂肪浮上量は9.0w/w%であった。
【0048】
(6-3)脂肪合一の評価について
図3に示されるように、ヘッドスペースの無い試料3、4については、合一した脂肪が容器の上部の内壁に付着していることが目視で確認された。一方、ヘッドスペースを有する試料1、2については、合一した脂肪の内壁への付着は確認されなかった。
【0049】
(6-4)
以上の結果より、アセプティック容器詰め牛乳において、ヘッドスペースを有する場合に、常温長期保存中の脂肪浮上が顕著に抑制されることが明らかとなった。